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春愁やダナエの髪に振る雨も『改訂版』

鏡 冬子

niyachan出版



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春愁やダナエの髪に降る雨も

春愁やダナエの髪に降る雨も

猫の恋焦がれ焦がれて春を病む

指先に絡めとられて山笑ふ

春光や君がくちづけ欲しかりき

化粧ふれば目覚めゆくもの春朧

春霖や肩先濡るるそぞろ神

かき混ぜて夢も現も涅槃西風

セミダブル広すぎもせず半夏生

衣通の姫の渡りや青田波

唇の記憶辿れば梅雨兆す

眼瞑れば魂透けるまで夏の雨

蝉時雨指に絡まるもつれ髪

秋蝉や燃え尽きるまで滅ぶまで

枯れ葉散るあばよ新宿神の留守

教えませ君のありったけ神迎え

盲ひれば寂しからむか猫の恋

躊躇ひてふっと散りそむ桜かな

そこはかと華やぐ街は花の宴

頬寄せて凭れていたり山桜

春闌けて猫のしんがり仕る

佐保姫も酒を一献所望せり

篝守眩暈一転花吹雪

ニケ羽搏つ春一瞬の眩みかな

鞦韆やあなたはいけないことが好き

逃げ水は追えば失せゆくレテの河

花筏帰る場所などありもせで

金雀枝や聖者が来ない街に住み

春愁や吾の黒髪に触れもせで

理を説けば迷子にならむ春の夢

混沌に生れ虚無に去ぬ山桜

咲きたまへ賽の河原の姫辛夷

たまゆらの髪の黒さよ白桜忌

山羊鳴くやドミネ・クオ・ヴァディス麦の秋

半夏生崩れ落ちなば既視感かな

かろきもの街の噂と夏帽子

手の砂は夢の数なる啄木忌

振り向かば下北沢に雨の降る

新宿はいつか切ない街になり

射干玉の闇に掬える秋蛍

色鳥やその慟哭の屠り歌

散華せる黄泉比良坂曼珠沙華

誰が為に焔喰らふや火喰ひ鳥

見あげれば見返しており天狼生

羨しむや樹液冷き月桂樹

なにを得てなに喪はむ冬の月

ときめきは刻みつけられ冬終わる

戯れに背中つつけば寒あける

踏み越えていく今ひとたびの春の泥

恋しかば我を娶らせ山桜花

春愁やダナエの髪に振る雨も『改訂版』

2020年4月11日 発行 初版

著  者:鏡 冬子
発  行:niyachan出版

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