spine
jacket

───────────────────────



A・I

宮本誠一

夢ブックス



───────────────────────

         A・I
   
     一
 七月初め、梅雨明け早々の朝日は眩しく、女のアパートから急いで着替えて出てきたばかりの伊矢木昭の網膜を容赦なく刺激した。開け放った運転席の窓から風が頬や腕を掠め、どことなくこそばゆい。車は中央線のない宅地内の道を郊外へ向け走っていた。両側に並ぶ建売りの家々の屋根瓦に一斉に光が当たり、白い粒をばら撒いている。市街地とを結ぶ近道のため、通勤を急ぐ対向車が次々とやってきた。ボンネットに光が乱反射し、ガラス片のようにチカチカ点滅しては通学途中の児童や自転車を見えにくくする。軽く瞬きした伊矢木は、サンバイザーを下そうとフロントガラスの方へ折り曲げた。走行距離が十万になろうという軽の箱バンは、そこから錆びくれたネジのような軋んだ音を吐息のように漏らした。
 ようやく宅地を抜け白い中央線の道路へ出た。
 二十八歳の誕生日を迎えた三日前、伊矢木はこの道を反対にハウスへ向かっているとき、速度違反のネズミ捕りに引っかかった。
 あれは思い出すだについていない一日だった。
 後部座席には今迎えに行っている利用者の石野アユムがいて、小雨の中、伊矢木が外で渋々違反切符を切られている最中調子を崩し、排便してしまった。防水シートを敷いているとは言え、処置のためハウスへ急ぐと今度は突然、一旦停止もせず、もみじマークの車が飛びしてき、あわや追突しそうになった。急ブレーキで難を凌いだが、車はそのまま左折し、何と伊矢木と同じ方向へ右車線を逆走し始めたのだ。対向車が次々と道路際に停止し、次の信号で気づいたのかどうにか左車線へ戻った。伊矢木は事故に巻き込まれまいと必死に速度を落とし距離を取るのが精一杯だった。
 最近よくテレビで流れるハンドルから手を離したまま、余裕ありげに笑顔で話しかけるタレントのコマーシャルが浮かんできた。コンピューターによる完璧な自動運転機能が一般化すれば、スピード違反や高齢者の危険運転もなくなるだろうか。しかしすぐに頭を振った。メンバーを乗せていては、とてもではないが機械任せにはできない。車が大丈夫でも肝心のあいつらが何をしでかすかわからない。
 公営住宅の駐車場に来た伊矢木は、後部座席の扉がスロープの上り口に来るよう近づけた。長さ十メートほどのなだらかなコンクリの傾斜には人工芝のような緑色の滑り止めの吹きつけ塗装がされ、小さな凹凸が靴底にも感じ取れるようになっている。伊矢木はその上を小走りで駆け上がり、アユムの部屋のプッシュホンを鳴らした。
「おはようございます」
「おはようございます。どうぞ」
 母親の洋子の気さくな声が返って来た。パイプ型の把手を回すと鍵はかかっていなく、扉はすんなり横に開いた。
─こんなもの、どうしようもないんだ。いっそのこと壊れちまえ。 
 伊矢木はギョッとした。突然聞き慣れぬ声が耳にしたからだ。今のは一体、誰だ。かなり怒っている様子で、部屋の壁に反響しながら伊矢木の鼓膜に一語一語、はっきりと届いた。伊矢木は震え、慄けづいた。半歩後ずさり、もう一度首を突っ込み目を凝らして部屋の中を見た。1LDKの玄関から奥のリビングまでほぼ見渡せる造りだ。親子二人の姿が奥にはっきり見えた。気を取り直すように冷静に一度深呼吸し、いつものようにアユムの着替えを手伝うため部屋へと上がり込んだ。
「おっ、アユムくん、ご機嫌斜めのようですね」
 エアコンは動いておらず、ねっとりとした空気が肌にまとわりついてくるようだ。
「そうなんですよ。さっきからまた頭ぶつけだして」
 アユムはお決まりの自傷行為で、鏡台の横壁に額を打ち付けていた。部屋は他にも柱やタンスの至るところに保護のためのタオルが四方をガムテープで貼られていた。
 雰囲気でも変えようと洋子が気を利かし、縁側に歩み寄ると日除けのレースのカーテンと一緒にガラガラッと大きな音を立てサッシ戸を開けた。避難路を兼ねた狭いバルコニーから光が差し、しゃがみ込んだアユムに影をつくる。するとその影が一瞬、伊矢木には二つに分離したように見えた。慌てて目を凝らしてもう一度確かめた。いつもと同じ小柄なアユムがそこにちょこんといるだけだった。気のせいだ。伊矢木は胸を撫で下し、母親に動揺を感づかれないよう澄まし顔で「さっ、着換えようね」シャツの両袖に腕を通すためアユムを抱き寄せようとしたときだった。
─へっへっへ、見てただろう、俺の頭突きの威力。鏡台は新婚の記念品なんだけど、こんなものいつまで持ってたってしょうがないんだ。
 やっぱりアユムか。
 だが今年二十歳になり、これまで言語を発したことのない知的と身体の障害者であるアユムが急に話しだすことなど考えられない。
─お前はまだ知らないんだな。離婚してても、ハウスが休みの日、自分が仕事や用事でいないときは、ちょくちょく俺の面倒を見てもらうため父親に来てもらってんだ。
 伊矢木も初耳のことについ狼狽した。
─あのおっさん、そんなときは親父面して偉そうにしてんだ。できないことはわかってるのにスプーン持たせたり、何か片言でも話してみろって催促したり、いまだに諦めがつかずにいるんだからな、うるさいったらありゃしない。それで俺もこうして頭をぶつける回数も増えるってわけよ。
 赤裸々な家庭事情に伊矢木は戸惑いつつ、その声が本当にアユムのものか疑わずにはいられなかった。
 幻聴だろうか。
 ここ最近イベントやパンの即売会も増え、疲労が嵩んだせいかもしれない。
声の主に確信が持てぬまま、どうにか着替えもすませ車に乗り込み、バックミラーを覗くとアユムがまるで歓喜に打ち震えるように両方の握り拳を突き上げ、上機嫌な笑みを浮かべていた。
 駐車場についた。ハウスは道を挟んだ向かい側にある。商店街の脇道で人通りは少ないが、昼近くになると総菜などを求めた高齢者がわりと多く通る。表のシャッターは閉められており、裏の勝手口から千鳥足のようにふらつく足取りのアユムの手を引いて入った。床板を軋ませるような地響きがした。稲波新太が天井に頭のてっぺんが着くくらいのジャンプをしていた。
─イエーイ、イエーイ、伊矢木さん、僕の跳躍力、なかなかでしょう。
 それはアユム同様、初めて聞く新太の声だった。日頃はウー、ウーと声帯から絞り出すような呻き声しか上げない新太の声が伊矢木にシャワーのように降りかかってきたのだ。縦も横も伊矢木を充分に上回るいかつい体のわりに細く尖ったその声は、まるで伊矢木の感覚すべてが聴覚に占拠されてしまったようにビンビン突き刺さってきた。朝からアユムに度肝を抜かされていた伊矢木ではあったが、つづく新太の異変に一層戦慄を覚えずにはいられなかった。
 一人と言わず二人まで信じがたいことが起こったということは、もしや自分の方に異常が生じたのではないか。そんな恐怖が襲ってきた。 
 新太は直立の姿勢で両腕を腰から太腿にまっすぐ伸ばし、フローリングの床を軋ませながら飛び上がっていたかと思うと突然、肘を上げ両掌をピシャッピッシャッと胸元で叩き、口角を引き上げながら目を爛々と輝かせていた。伊矢木はトランポリンのように小気味よく飛び跳ねる新太の全躯をじっと見つめていた。
─伊矢木さん、またそうやっていろいろ考えてるでしょう。僕がどうしてこんなにジャンプが好きかって。同類のやつが書いた本、昨日書店に平積みされてたから立ち読みしてきたけど、ありゃあ、まやかしだね。少なくとも僕にとってのジャンプは、誓ってあんなコミニケーションの一つとかじゃないから。だいたい気持ちよさを言葉に直せるってのが怪しいよ。意識なんてそもそも、まるっきり関係ないっすから。ただ飛びたいだけ。神経回路の先端がスパークして火花が飛び散った瞬間、パーッと体が熱くなんの。そしたら気づいたときには飛んでんだよ。
 新太の最近同じ障害種の当事者が書きベストセラーになった本の熱心な解説も、声自体の出所に自信が持てない伊矢木には、ほとんど上部だけを聞き流すだけだった。
 ハウスには常勤職員は伊矢木の他、九年前NPOを立ち上げ運営母体をつくった施設長の坂崎美和の二人だけで、非常勤に穴井六郎と吉村純子がいる。美和は伊矢木より三歳年上で、伊矢木の大学の先輩、六郎と純子はそれぞれ別の大学だがボランティア活動で知り合い、そこに一度講師として招いた美和を慕って卒後、週に三日来るようになった。勤続二年になるがゆくゆくはハウスが利用者を増やし、安定した事業体になったとき正職員として採用される予定だ。
「おはよう、アユムくん。伊矢木くんどうかしたの。なんだか顔色わるいみたいだけど」
 アユムの手を携えパン工房の隣のリビングへ連れてきた伊矢木を、メンバーがやってくる前の機材のチェックをしていた美和が衛生キャップとマスク姿で訝しげに尋ねた。
「えっ、俺、何ともないよ。どうして」
「そう、だったらいいけど」
 美和は気を取り直したように再び工房へ戻っていった。
─おいおい、俺や新太の声が聞こえることどうして言わないだ。
「さあ、アユムくん、今日はこのソファをずっと使っていいからね」
─ふん、惚けやがって。無視する戦法か。だいたいお前と美和ができてることくらいこっちはお見通しなんだからな。毎朝、お前の服からぷんぷん美和の匂いがしてくるんだぜ。まったく呆れちまう。あっちのアパートにいりびたって、さっきまで同じ布団の中にいたくせに。
 図星を突かれた伊矢木は、衝動的にアユムを睨みつけた。
─ああおっかねえ。あんまりそんな目で見ないでくれよ。本当のことを言ってるだけなんだから。
「そうだ、お母さんが言ってたけど今朝はおしっこがまだらしいね。念のため行っとこうか」
 トイレはリビングと工房を挟んだ廊下の奥の突き当たりで、事務所の隣にあった。
 アユムの手を取り、転ばないよう気をつけながら便器の前に立たせ、ズボンと紙パンツを脱がせた。アユムは窮屈な格好が嫌いで、ひざ元へ下ろしても蹴って足から抜き取ってしまう。
紙パンツは少し湿って重くなっていた。しばらく便器に座らせ残っていた分を排出し、伊矢木がトイレ内の棚に置いてある新しい紙パンツに替えようとしたときだ。
─まだそれは使えるだろう。俺の一回の平均は百五十ccないんだぜ。この紙パンツは四五十ccまでいいはずじゃないか。経費で落とすからって、無駄は禁物だろ。
 わりとせこいことまで注意してくる始末だ。
─あっ、そうか。今日は助成で当たった会話ロボットがくるんだったな。ということはいつものように形ばかりの贈呈式もやるわけか。大事なセレモニーの最中に漏らしちまったら台無しだもんな。それにしても妙なもん当てたもんだぜ。
「くじみたいに軽々しく言うんじゃない」
 それにはつい伊矢木も声を荒げてしまい、ハッとなった。幸いトイレだったため他の職員には気づかれなかったが、さすがに自分が必死にハウスの現状を訴え、運営のプラスになればと応募した助成だけに頭に来たのだ。ところが相当大きな声だったにもかかわらず、目の前のアユムは知らぬ存ぜぬの顔だった。
「おい、アユム、聞こえないのか」
 伊矢木は、この際とばかり小声で話しかけてみたが反応はなかった。
やはりこれまでのものは幻聴なんだろうか。一抹の疑念が湧いた。
─聞こえてんだったら、返事くらいするはずだもんな。
 声に出さず、ぽつりとそう思ったときだった。
─なんだよ。うるせえな。
 すかさずアユムの返事がかえってきた。 
─もしかして、心で思えば聞こえるのか。
─そんなことこっちの知ったことか。ただ聞かれたから答えただけのことさ。
 どうやらアユムには意識の内も外もないらしい。つまりはこちらが心の奥底で思えば新太の言っていたように神経回路の先端がスパークし火花が飛び散り、反射的に言葉が飛び出してくるようだった。
 ひとまずアユムとの会話の方法をつかんだ伊矢木は、朝からの動揺もどうにか落ち着き、改めてアユムと話したくなった。
─財団からの助成ってのはな、応募用紙に書かれた中身で選ばれるれっきとした審査なんだ。会話ロボットはパンを買いに来たお客や訪問客の相手にもなるだろうし、何よりお前たちの退屈しのぎをしてくれるだろうて思っていろいろ書類をそろえ、採用されたことくらいは知っといてくれよな。
─今度は説教か。なまじ話しが通じるようになるとすぐこれだ。まあ、お前の努力は認めてやるから怒るなって。
 アユムの方が先輩風を吹かし、宥める始末だ。伊矢木もそれ以上はやめ、いつもの仕事に専念することにした。
 ハウスの中でもアユム、新太、亜紀の三人は担当をはっきりとは決めず、職員全員で食事やトイレなど要所要所を臨機応変に分担しながら介護に当たっていた。特にアユムは自傷行為が多く、安全面も考え、普段忙しくてなかなか目がゆきとどかないときは事務所の隅に敷居を立て、そこに低反発のクッションを床から壁にかけ全面敷き詰めた特別なスペースをつくり過ごさせているが、今日はアユムが言ったとおり会話ロボットの贈呈式で電気会社から担当者が来るため、リビングで一緒に過ごす計画になっていた。
 伊矢木が南側のシャッターを開け店舗の準備にとりかかったとき、勝手口のサッシ戸が勢いよく開いた。
 穴井が飯田亜紀の手をつかみ、気色ばんだ顔で入って来た。
「とうとう見つけましたよ。やっぱり亜紀さんの仕業だったんです。プレハブ倉庫に隠してました」
 上気した額に汗の粒を光らせる穴井のもう片方の手にはずいぶん前になくなったハウスの備品のフォークが握られていた。亜紀はさもバツが悪そうに口をへの字に結んでいた。
「今日、ずっと観察してた甲斐がありました。洗濯物から三角布を持ち出してこっそり外に出ていったから付けてったんですよ」
「あなた、そんなことしてたの。一言も言わないんだから」
 ただならぬ騒動に聞き耳でも立てていたのか、美和につづいて純子も工房から出てき、穴井に声をかけた。
「敵を欺くには味方からって言うだろう」
 純子はそれでも不服そうだ。
「そりゃあでかしたな、穴井くん」
 伊矢木は年は四つ下でも顎にうっすら濃い髭を蓄え、貫禄充分な穴井を労った。
「じゃあ、僕たちはさっそく亜紀さんと一緒に現場を見にいってくから、穴井くんはアユムたちを頼むよ」
 純子と美和が亜紀を真ん中に、伊矢木の後ろをついてきた。
 裏口から出ると外は快晴の空に覆われ、昨日まで泥濘のように覆っていた重い雨空が嘘のようだ。陽光が満遍なく降り注ぎ、隣接する空き店舗の壁から黒のフェンス越しに幻惑するような日差しが跳ね返ってきた。
 倉庫はフェンスを右へ回った一番奥にあった。建付けの悪い襖を動かすように伊矢木が二度ほど上下にガタガタ揺らし開けた。
 薄暗い内部に光が届くと、壁に取り付けられたスチール棚にシャベルやスコップなどプランターや花壇を手入れする道具が置かれ、その下に袋詰めされた堆肥や腐葉土が積まれているのが目に入った。黴臭い匂いが立ち昇っていた。最初、伊矢木は普段と変わらぬ整然とした情景に、穴井の情報は間違いではなかったかと疑った。だが、ゆっくり足を踏み入れ、さらに奥隅を覗き見たときその思いは一蹴された。
 ひんやりとした角のコーナーに袋から取り出したらしい腐葉土が直径五十センチほどの円型に盛られ、その上に二重の円の模様がつくられていた。一番外周りは等間隔でぐるりと割り箸が刺され、次にスプーンやフォーク、箸が十本近く真ん中辺りまで深く突き刺してあった。中央には小さく畳まれた三角巾が敷かれ、その上に計量器が台座のように置かれている。
 伊矢木は映画のシーンを思い出した。
 戦災孤児の幼女と牛追いの少年がひそかに水車小屋に動物たちを埋葬してつくった墓だ。ただ決定的に違うのは、墓地や霊柩車から盗んできた十字架はなく、代わりにハウスから持ち出した品々が置かれていた。
「よくこれだけ揃えたものね」
 美和が溜息をつきながら言った。純子も黙っているのを見ると同感のようだ。伊矢木は内心、もっと早くに本気で見つけるべきだったと悔やみながら、それは表に出さずにいた。
─とにかく、お客が来る前にここを片づけなきゃな。
 そう思ったときだ。
─ねえ、ねえ、ヤギちゃん、お願いだからこのままにしておいてくれない。ここはいつか来てくれる私の守護神様のための御殿なの。とってもデリケートで、料理も自分でつくったものじゃないと召しあがらないから道具もこつこつ集めてたのよ。必ずここに住んでいただいて皆を守ってほしいって思ってんの。ね、だから、お願い。
─亜紀、まさかお前も……。
─えっ、どういうこと。私はただヤギちゃんが片付けようって言ったから心配で。
 伊矢木は混乱しそうになる自分をどうにか抑えていた。アユム、新太、亜紀とハウスのメンバーでは言葉の発声と理解が困難な者だけが聞こえてくる。しかもアユムの母親を始め、ハウスの職員には聞こえていないようだし、もしすべてが幻覚だとすれば右脳と左脳をつなぐ回路になにか支障が生じたのだろうか。だが今の状態で何を手掛かりにどうやって原因を確かめたらいいのか。伊矢木はあまりに突然に我が身に起きた現実に暗澹となった。それでも自分自身を励ますように亜紀に言った
─次の花壇づくりのときまでだからね。それと俺はヤギじゃなくてイヤギだよ。
─あら、ヤギの方が可愛くていいじゃない。ねっ、ヤギちゃん。
「坂崎さん、片付けるのは簡単だけど、そうすれば彼女すぐに自分のやったことを忘れるかもしれないし、注意するにも証拠があった方がやりやすいから、量り以外はしばらく残しておくのも手かなと思うんですけど、どうです」
 伊矢木は職場では美和をそう呼び、口調も畏まった言い方をしていた。
「そうね。その心配もあるわね。その辺はあなたに任せるからお願いね。吉村さんもそれでいいでしょう」
「ええ、私もその方がいいと思います」
─わあ、やっぱりヤギちゃんだ、話わかる。
─でも、これと周りに迷惑をかけたことは別だよ。亜紀さん、もうぜったいやらないって約束してくれるね。
─わかったわよ。守護神様に誓って。
      
        二
 店舗へ戻ると天本良夫と山谷真梨がエプロンをつけて待っていた。二人の家はハウスの近くで、いつも歩いてやってくる。
「おはよう。ヨシオちゃんもマリさんもよろしくね」
 伊矢木が励ますように声かけをした。
「ハイ、今日も~みんなで~ガンバリ~ましょ~う」
 良夫は気分が盛り上がっているのか、演歌とも民謡ともつかぬ独特の節回しにこぶしを効かせ答えてくる。
「ありがとうございます」真梨も喜色満面の笑顔だ。言葉の対応が難しい彼女には、取り敢えず「ありがとうございます」と言うように教えていた。
 パン工房の製造を受け持つ職員は美和と純子で、そこへ比較的軽度な良夫と真梨、そこへたまに亜紀が加わることになっている。
 工房ではそれぞれ形成前の台拭きなど、あれこれ準備を始めた。ハウスの機材はほとんど家庭用ばかりで、捏ね器も一キロまでが可能なものを四台置いていた。そんな中、唯一異彩を放つのが大人が立ったまますっぽり入れそうな冷凍庫のような機材だ。
「発酵させるホイロなの。開所して三年目に民間助成でやっと手に入れたのよ」
 穴井と純子が研修で初めてやってきた二年前の春、美和が懐かしそうに話した。美和は、その機材が来るまでの工房自体をストーブで四十度近くに温めていた苦労話に移り「でもやっぱり中古だから、ぼちぼちガタがき始めたのよね」隣で腕組みしていた伊矢木にバトンを預けた。
 ホイロは動力で温風を出す一方、水が小さな容器に流れ込む仕組みで、容器内の握り拳大のアルミ製の浮き輪が浮上すると磁石でスイッチが引き寄せられ沸騰するようになっていた。噴霧で水がなくなれば再び浮き輪は沈みスイッチは切れるが、百度以上の電流に耐えられるヒューズが必要で、それが焼き切れる故障が頻発しだしたのだ。途中の導線か吸水用の小型モーターが老朽化し、過度な熱の負荷が原因と考えられたが、故障のたびに水の元栓を閉め、注水口と排水口をスパナで外し配線ソケットを抜いた後ハンダ付けせねばならず、頻度が増すばかりの状況に、それまでどうにか自力で修理していた伊矢木もついに根を上げてしまったのだ。
「あれこれ悩んだ末、待てよ、枠は大型冷蔵庫並みのステンレスだし、いっそ噴霧をつくりだす部品や配線をすべて除去しすっからかんにして、新品の加湿器を入れてみたらどうだろうって思いついたんだ」 
 最初小型のミント式でやったが加温の勢いにあっけなく負け発酵に必要な湿度をつくれず、次に一か八かで二十畳まで可能なスチーム式の強力なものを設置するとうまくいった。
「扉を開けて中を覗き込んだとき、眼鏡が一瞬で曇ったあの感動は今でも忘れられないよ」
 そんないわくつきのホイロにスイッチが入れられたのを皮切りに、いよいよ工房は活気に満ちてきた。
 良夫と真梨が粉を量り、捏ね器にセットしたのを手始めに、亜紀は食パンの焼型を作業台下の木箱から取り出し、内側にショートニングを塗っては天板に並べだした。新太とアユムはパンづくりには加わらず、相変わらずジャンプとソファでの屈伸運動に余念がなかった。
 あらかじめ解凍しておいた餡子やカスタードクリームをゴムベラでビニール袋から小さなボールへ移し替え、捏ね器にも水が加えられ、強力粉が塩や砂糖、スキムミルクなどと一緒に混ざり小気味よく回りだしている。パンを並べる編み籠やお客が使うトングやトレーの準備をしていた伊矢木がアユムをちらっと見ると、まるでそれらの作業や音に合わせるかのように体を曲げ伸ばし、頭を叩いては響きを楽しんでいるようだ。
 伊矢木はそれらの情景と材料の香りに包まれながら、今日聞いた三人の声のこともひとまず忘れ、どうかこのまま贈呈式までうまくいってくれることを願った。
  穴井はやがて亜紀を連れ台所へ移動し、昼食の準備に取りかかった。今日は定番のカレーライスだ。亜紀は慣れた手つきでピーラーを使い、ジャガイモの皮を剥いていく。
 生地が出来上がった工房では、純子がスケッパーで切り落とし量りに載せ調整していった。良夫と真梨が、指を軽く立て掌を丸めた状態で生地を包み八回ほど回すとピンポン玉よりやや大きめに出来上がっていく。
 一次形成を終えしばらくねかせた生地で今度はバターロールをつくっていった。生地の端を左手で摘み上げ、右手で軽く伸ばしてからのし台へ置き、上から下へめん棒で三角になるよう引き伸ばす。細長い二等辺三角形で両辺が内側へ反った形が理想形だ。後は先端に重し代わりにめん棒を置き、底角の表面に指四本、その裏に親指を当てがい一回転させつくった芯を頼りにくるくると掌をあてがい巻き上げていくのだ。研修の際、穴井と純子もやらせてもらったが全然うまくいかず、二人が、正確にこの作業を何度も繰り返せることに驚嘆した。ハウスの方針として入所して最初はすべての作業をやってもらうが、それから本人と話し合い、ある程度、適応できるところを納得の上で担当してもらっていた。
 一回目の仕込みの形成が終わった良夫はリビングへ、真梨はトイレへ立った。美和が事務所で贈呈式の式次第を用意していた伊矢木へ歩み寄った。
「皆、よくやってるわね」
「訪問客もあるからハリキッてるみたいだな」
「予定通り行ってくれるといいんだけど」
 それから工房へ再び立ち去るかに見えた美和だが、何か勘繰るように伊矢木の顔を横目で見ると「ねえ、あなたも穴井くんと同じように私に何か隠してない」小声で訊いてきた。
「なっ、なんだよ、藪から棒に」
「どこか朝出ていったときとは違うなって思って」
「おい、一緒に住んでることは、まだ皆には内緒にしとく約束だろ」
 伊矢木はつい周りを見回した。
「顔色も悪いし……とにかくあんまり無理しないでね」
「ああ、ありがとう」
 伊矢木は美和に〝声〟のことを話すべきか一瞬迷った。だが、パンづくりが開始され、ハウスのいつもと変わらぬ活動が始まるとどこか気も紛れ、打ち明ける気が削がれてしまった。
 開店時間の十一時にやがてなろうとする頃、大小様々のカゴには十種類ほどのパンが並んでいた。贈呈式はお客が多い昼時は避け、二時が予定されていた。
─おい、アラタ、どうした、大丈夫かよ。
 アユムの尋常でない声に、パンを並べ終わった伊矢木は振り向いた。見ると新太がアユムのいるソファの陰で倒れ込み全身、特に手足の先を引き攣らせていた。発作だった。
「穴井くん、急いでベッド用意して」
 穴井はてきぱきとリビングの隅から緊急用の折り畳み式の簡易ベッドを持ち出し、新太が倒れている真横に広げ、伊矢木と頭と足を抱え上げ、静かに仰向けた。美和と純子も心配げに新太の腕や足を摩り始めた。ズボンを見ると排尿はしていない。重い発作の場合失禁することもあり、取り敢えずはホッとした。新太は相変わらず白目を剥き、息を強く吸うたびに唇が捲れたように開き、涎が線を引き口元からこぼれ落ちた。
─アユム、知らせてくれてありがとうな。
─見るに見かねただけさ。
─新太も新しい薬がまだうまく合わないみたいなんだよ。
─だとしたら一体、なんのための薬かね。
─それってどういうことだ。
 どうせ何もかも相手に筒抜けなことは承知の上でしれっと訊ねた。
─決まってんだろ、とどのつまり金儲けか、さもなきゃ管理しやすくするためだけじゃないかってことさ。
─それは違うぞ。誰だってできるだけ服薬なんかさせたくないさ。だけど思春期になって発作もひどくなって、これまで通り家族と暮らしていくにはやむを得ない選択なんだ。医者とも相談して、極力副作用の少ないやつを選んでもらってるし。それはお前だって同じだろう。
─それが管理だって言うんだよ。俺はそんなことしてまであんな嘘っぱちの親と暮らしたくない。夫婦仲がこじれた理由まで俺のせいにしやがって。それが今じゃどうだ、年金が来始めた途端ころっと態度を変えやがって、皆、言葉が話せないことをいいことに好き放題なことばかりしやがる。お前だってそうだろ。都合のいいときだけこうやって見世物みたいにリビングに引っぱり出してるじゃないか。
 アユムの言う通り、今日に限って言えば早々と奥の個室スペースから訪問客があるという理由でここに連れてきた以上、理屈は正しく返す言葉がなかった。
 ただ、普段の活動に関してなら伊矢木にも言い分がないわけではなかった。限られた人員でメンバーたちの不慮の事故や怪我を防ぐため、服薬同様やむを得ない選択でないわけではなかったからだ。アユムを始め、メンバーに誰かが一人付きっ切りでいることは難しく、特に開店からの多忙な時間帯はほぼ不可能に近い。スタッフたちも、メンバーの中でも特に重いアユムの自傷行為の対策にはこれまでも手を焼いてきたし、何度も話し合ってきた。そして苦肉の策として浮かんできたのが安全なスペース確保とそこへの隔離だった。もちろんその案が実行されてからも平常心でいられたわけではない。ハウスが設立当初から抱いていた〝共生〟の思いとのズレとジレンマに無力さを噛みしめる日々がつづいているのだ。
─そうか、つまりはそういうことなんだよな。
─えっ。
─もういいよ。わるかったな、わずらわせちまって。
 苛立ちを押し殺したようなアユムの声だった。
 今、自分自身の微妙な感情さえアユムにはわかってしまうのか。後悔しても遅かった。伊矢木はそれ以上突っ込まず、できるだけ考えずに新太の回復を見守ることにした。
 開店後、エプロン姿の良夫は店舗から歩道へ出ると、俄然張り切りだした。
「いらっしゃ~い、いらっしゃ~い、パンは、いかがですか~」
 左の手と足が不自由な良夫は、軸をやや右に傾けながら柏手を叩き、相変わらず自作の節に合わせ気持ちよさそうに呼び込みを始める。パン作りよりこちらの方が性に合っているようだ。店舗前に飾られたプランターのマリーゴールドまで一層鮮やかに照り輝きだしていた。
「あら、ヨシオちゃん、今日も元気そうね」
 キャスター付きの買い物籠を引いてやってきた顔なじみの年配の女性が足を止めた。
「おばちゃ~ん、買ってって~」
「はいはい、ヨシオちゃんにはかなわないわね」
「マリちゃ~ん、お客様っ」
 真梨もショウウインドウとパンの置かれた棚の間の通路で笑顔で待っている。
「マリさんもがんばってるわね」
「ありがとうございます」
 新太とアユムの姿も奥に見える。
「今日は、にぎやかね」客も覗き込むようにしながら、いかにも嬉しそうだ。
「ありがとうございます」
 スタッフで話し合い、ロボットは会計のカウンターの上に置くことになっていた。画像や音声認識もある程度できるらしいので客の興味を引くだろうし、接待を補ってくれればと考えてのことだ。伊矢木はやがて来る情景を想像し、ついニンマリなった。
 女性はさっそくトングでトレーにお気に入りのメロンパンとアンパンを載せ、レジへ持ってきた。純子が手際よく会計をすませる。
「ありがとうございます」
「あり~が~と~おばちゃ~ん、またきて~ね~」
 真梨につづき良夫も例の節回しでお礼を言った。
「あっ、またお客様、お一人~」
 少しずつ忙しさが増してきた。リビングにいた伊矢木と穴井も大きな事故や客への失態がないよう気を引き締めた。
 パン販売もようやく一段落着き、今週の昼食担当の穴井と亜紀がつくったカレーライスを全員で食べ始めたのは一時を回った頃だった。その間も、店番はスタッフが順番にやっていく。ただしアユムだけは伊矢木がずっと付きっ切りで食事介助を行っていた。
─あんまりそばにいられると暑苦しいんだけどよ。
─文句言うな、お互い様さ。
 エアコンは旧式のもので、かろうじて弱めの冷風がカタカタとファンの振動音とともに吹き出してくる。
 皿からスプーンでカレーとご飯を適度に混ぜ口へ運ぶと、アユムはほとんど噛まずに飲み込み平らげていく。
─俺の好きなカレーにしたのも今日の作戦か。
─そうなんでも勘繰るなよ。喜んでほしいってそれだけさ。
─まっ、そういうことにしておいてやろう。
 アユムも朝と比べれば随分素直にこちらの気持ちを聞き入れてくれるようになり、伊矢木もどこか安心した。
 そのときハウスの電話が鳴り、ちょうど水を汲むため立っていた真梨が出た。
「ありがとうございます」
「あっ、ちょっと変わって」
 伊矢木がうろたえながら手を伸ばした。
「もしもし、伊矢木ですが……、すぐそこに来られてるんですね。了解しました。えっ、副社長さんもご一緒ですか。わかりました。十分後ということで」 
 助成基金担当者からだった。
「今聞いてわかったかもしれないけど、副社長さんも来られてるみたいだから。そろそろ片付けにかかろうか」
 それぞれ使った食器類をアユム以外は自分で流しへ持っていく。良夫が鼻歌交じりにスポンジで泡をつけて洗い、水で落とすのは亜紀の役目だ。それを真梨が拭き、純子が棚へ直していく。 
 伊矢木は念のためアユムをトイレに連れていった。新太も食後調子が戻り、台拭きを始めた。
 写真とビデオ撮影を任せられた穴井はカメラのチェックを怠らず、店舗の方では美和が通路を箒で掃き、床と擦れ合う小気味いい音が贈呈式が間近に迫ったことを否応なく全員に知らせているようだった。

      三
 駐車場で美和と伊矢木が待っていると間もなくして黒塗りのセダンがやってきた。まずは運転手とほぼ同時に助手席からダークグレーの背広にブルーのネクタイの男が自分で扉を開け、低姿勢で近づいてきた。名刺を差し出し、助成基金担当の中本と名乗った。つづいて運転手に扉を開けてもらった黒の三つ揃いに赤いネクタイをしたやや小太りの男が、後部座席から降りてきた。すかさず中本が丁重に手招きし慇懃な声色で紹介した。相手は名刺を出しながら柔和な笑みを口元に浮かべた。
「レゾンデートルエレクトリック社で副社長をしております園田と申します」
 声は低く、落ち着き払っていた。
 美和と伊矢木もそれぞれ自己紹介し、向かいのハウスへ案内した。中本が御助成品と記された熨斗のついた一抱え程ある段ボール箱をトランクから持ってきてテーブルに置くと、またもや祝いの言葉を言い、「やはり本体を出してからの方が式はいいかと思いますので」と美和をやんわり促した。彼女も納得し、外装を剥ぐとハッポースチロールでカバーされたロボットが姿を見せた。縦五十センチ、横二十センチほどのもので、それほど大きくはない。
「私は、元々エンジニアでして、この『フィリアシリーズ』の開発に長く携わっておりました」
 まるでこのタイミングを待っていたかのように園田が愛着を込めた眼差しでロボットを見つめ、自ら背中の液晶パネルを操作し、初期起動のセットを始めた。その表情には技術者らしい自信と神経の細やかさが感じられた。亜紀が神妙な顔で一部始終を見ていた。伊矢木はアユム、新太、亜紀の三人が何かしでかしやしないかと気が気ではなかった。
『僕の名前はウェルニッケ、これからはウェルって呼んでね』
 いよいよロボットが動き出すとハウスはどよめきと歓声に包まれた。十人までは顔の識別やニックネーム、趣味、職業といった情報を記憶し、アレンジした会話をすることが可能らしく、全員、代わるがわる挨拶をしていった。そのたびにウェルはそれらの情報を消化しながら見事に返事をした。
 ところが伊矢木は一人だけ取り残されたような気分で愕然となった。ウェルの声がまったく聞こえなかったのだ。動作や皆の反応だけが視界を満たし、発せられているはずのウェルの言葉がまったく耳に入ってこなかった。
 そんな伊矢木をお構いなしに、式が始まる前からウェルを取り囲んだ者たちのボルテージは上がる一方だった。
「パン屋さんをしてます」と純子が言えば『僕もパン食べたいなあ』と甘え声で答え、「年は三十一です」と美和が紹介すれば『まだまだお若いですね』とお世辞まで返した。
「やだあ、この子、うれしいこと言うじゃない」美和は、そこに園田や中本がいることも忘れたように小躍りしてはしゃいだ。
「ねえねえ、伊矢木くんもやってみたら」
 渋々、「初めまして。ハウスへようこそ」と挨拶してみた。ウェルは腕を動かし、首を縦に振った。しばらく間があった。周囲は拍手している。穴井が煽るように手を動かし、次の会話を催促した。純子も目を輝かせた。伊矢木は咄嗟に頷き、「皆と仲良くなってね」と短めに言った。ウェルは今度は横揺れして、愛嬌を振りまくように腰を捻った。再び数秒の間があった。皆が拍手した。
 やっぱりそうだ。俺には全然、ロボットの言葉が聞こえていない。どういうことだ。
 伊矢木は何とか聞こえたふりをし、その場を誤魔化すので精一杯だった。
 メンバーたちは飽きることなくまた一人ずつ交代していった。良夫が「こんば~んは~」と真面目な顔で言い、ウェルは『まだ午後二時半だよ』と訂正した。「ありがとうございます」真梨の丁重な言葉に『こちらこそ、ありがとうございます』ウェルも張りのある声で返し、再び真梨が「ありがとうございます」と言えばまた『ありがとうございます』と両者譲らず、何度も繰り返しそうだったので純子が割って入り、真梨に説明してやめさせた。
─一体、何が面白いのかね。あんたは何も聞こえなかったみたいだな。
 アユムの図星の一言に伊矢木の心臓はドキリとした。
─隠さなくったっていいんだよ。俺たちもだから。
─いや、僕は何となくは……。
─へっ、何がなんとなくだ。無理すんなって。あんたはまともだよ。俺たちとは仲間なんだから、気にすんな。
 伊矢木は〝仲間〟と言う言葉が気に食わず、言い返したかったが黙っていた。
─なんだ、ジャンプできないの。叫ぶこともできないの、ウォー、ウォー。
 新太は勝ち誇ったように両手を叩き、雄たけびを上げた。
 そんな三人の心理を読み取ったように園田は「実は、とっておきの機能があるんですよ」とテーブルを激しく揺らした。
『地震、地震、机の下に逃げて下さい。地震、地震、机の下に逃げて下さい』
 ウェルはその場に勢いよく倒れ、首を半回転させながら連呼した。それは我がままを通そうとする駄々っ子のようでもあった。 
「防災機能をつけさせていただきました。地震多発国では必須のアイテムかと」
 するとアユムはむしろイラッとしたように急に両手で激しく頭を打ちだし、新太も勝負でも挑むようにウォーと一層大きな叫び声を上げ、力のこもった跳躍を始めた。
園田はあたふたとウェルを抱え、「大変失礼しました。思いの外刺激が大き過ぎたみたいですね。微調整がまだ難しいもので」いかにも取ってつけたように弁解しいしいパネルに指を当て制止させた。
「皆さん、元気がよろしくていいですね」
 中本が場を繕うようにお世辞を言い、「それではそろそろ贈呈式に移っていただいてよろしいでしょうか」仕切り直すように導いた。
 会はお客の邪魔にならないようにリビングで行われた。
 ウェルはこのときのために前の中央に用意された白布のかかった小テーブルに仰々しく置かれ、壁に張られた式次第に沿って進められた。園田の挨拶から始まった。
「今回、なかよしハウス様に決定させていただいた一番の理由は、担当の中本も既に結果報告の際、お電話で申し上げているかとは思いますが、どこの応募団体も人工知能のことを詳しく調べられ、専門的な言葉を織り込みながらかなり緻密に現場への必要性を訴えておられたところが多い中、こちらの書類にはまったくそのような衒った面がなく、素朴にむしろ人間的な面を強調され、会話ロボットが現在のメンバーの皆さんにとっての良きパートナーとなり、お客様の癒しになればという切なる願いを込めて申請されておられた点が高く評価されたかと思います。まさしくそれは私どもの願うフィリアの精神そのものでして、本当に貴重なお申し出に対し、こちらの方が感謝したいほどです。まことにありがとうございました」
 皆が拍手しても相変わらずアユムはソファでの屈伸運動、新太は少し離れた場所でジャンプに勤しみ、亜紀は椅子に座ったまま一心にウェルを見つめていた。伊矢木にはむしろこのとき、三人のタメ口が聞こえてこないことが不思議で、どこか不安だった。
「今回、福祉助成として贈呈させていただくのはシリーズ第二段でウェルニッケくんです。そもそも第一弾はブローカくんと言いまして、ご存知とは思いますがどちらも人間の大脳の部位の名前を頂戴しております」
 式が終ってからも園田は、現役の頃でも思い出したのか、プレゼンでもするように要所要所に力を入れ得々と話すことをやめなかった。 
「フィリアは『友愛』の意味がありまして、一人暮らしの顧客をターゲットに子犬型のブローカーくんを発売したのが五年前のことです。それが予想外に幅広い年齢層から支持を得まして去年、外形は三歳児をイメージしたヒューマノイド型のウェルニッケくんを出すことになったのです」
「ブローカーくんなら友達が持ってて知ってるわ。外形は着ぐるみみたいでお座りもできるし、首や尻尾も振るんですよね」
 美和がロボットを覗き込みながら嬉々として言った。
「ええ、そうです。ブローカくんは言語の運動的機能を意識して発語の方に力が入れられました。それに対しウェルニッケくんは知覚面を充実させ、対話者の言葉を多く理解できるよう開発されています。単語は二千語近く覚えられ、時刻とカレンダーが組み込まれていますので、時間や季節に応じた挨拶やいくつかの歌も歌えるんです。歩行や立ち座りはできないもののスイングしながら腕を左右に動かしたり、首を傾げたりできる優れモノですよ。ただブローカーくんとは違い、ご覧のとおり髪や皮膚はなく四頭身の体に大きな黒眼と口の線の入ったどちらかと言うと剽軽な顔立ちをしていますけど」
 園田の話によれば、計画では第三弾まで考えられていて、名前はシルヴィウスでいこうかと言うことだ。
「それも脳のどこかですか」
「ええ、前頭葉と頭頂葉、それに側頭葉を分ける外側溝と言う人間特有のミゾです。我が社としては、これまで開発してきたウェルニッケとブローカのパーツを個々に自立させ、そこにより次の時代のニーズに合った機能を備えさせることで、さらに優れたA・Iの能力に近づけることを目標にしています。おっとこれは企業秘密でしたかな」
 余裕ありげにニヤリと口の端を緩めた。
 どこまでが解説でどこからが宣伝かわからないそつのない話に皆、深く頷き感心しきりだった。
─こいつがお前さんが苦労して頂戴したロボットか。
 アユムがソファからふらっと立ち上がり、ウェルを一瞥した。
─わあ、僕みたいにジャンプもできるかな。やってやって。
 新太も興味ありげに背を屈め、遠目から窺っていた。
 その後、ウェルは店舗のカウンターに移され、お客様への初披露となった。さっそくやって来た男性客が、おっ、なんだいこれっと興味を示した。
「どうぞ、何か話しかけてみてください」
 純子がお願いすると少し緊張した面持ちで「こ、ん、に、ち、は」と一語一語を切るような口調で言った。するとウェルの方は反対に『こんにちは、僕の名前はウェル、よろしくね』と流暢に返し、相手を驚嘆させた。
「さようなら」
『さようなら。また来てね』
 ウェルとのやりとりに目を細め上機嫌で帰っていく姿を目の当たりに、伊矢木たちもまずは一安心し、園田と中本もいかにも満足げだった。
 一通り施設を見学し、お礼に用意していたパンの土産を手渡された二人は、今日中にもう一件、どうしてもすまさなければならない用があるということで三時半に帰っていった。
 皆総出で駐車場に出て見送っていたときだった。アユムの手を引いていた伊矢木がふと周りを見渡すと亜紀がいないのに気がついた。穴井は新太に付いているし、純子も他のメンバーを見ている。伊矢木は園田たちへの挨拶もそこそこにアユムを美和に任せ、すぐにハウスへ戻った。
カウンターからウェルが消えている。すぐに倉庫へ走った。引き戸が十センチほど隙間をつくり空いていた。ゆっくり開けて中へ入ると声がした。
─ようやく守護神様にお会いできました。そちらからやってきてくださったんですね。ありがとうございます。守護神様の御殿をつくっておいてよかったです。お料理もできるようにしてありますから。どうぞご自由にお使いください。
─ダメじゃないか、約束やぶっちゃ。
 伊矢木がたまりかねたように後ろから歩み寄り、叱りつけた。
─あっ、ヤギちゃん、ごめん。でも私、守護神様が来てくださったから嬉しくて。
─これは守護神様なんかじゃない。ただのロボットだよ。
 ウェルは箸やフォークに囲まれた三角巾の上で足をめり込ませ仁王立っていた。オフ状態のため今は何の反応もしていなかった。
 亜紀は疑り深い表情になり、ウェルと伊矢木を交互に見つめ、きっぱり否定するように言った。
─でも私は守護神だ。お前のためにやってきた。早く連れて行けって、さっきちゃんと私に指差して教えてくれたよ。
 亜紀もウェルの言葉が聞こえていないようだった。ただ彼女は、ウェルの体の動きを自分に都合のいいように解釈しているふうで、アユムや新太よりむしろ厄介なものを感じた。取り敢えず待っている者たちのことも考え、早く場を治めるしかないとウェルの括れた胴体をつかみ上げた。改めて手にすると二キロ近いとは聞いていたがさほど重く感じず、両腕両足をだらりと下げ いかにも安っぽい玩具のような気がした。アユムがしきりと揶揄する気持ちもわからないでもなく、伊矢木はそんな自分の心情に驚きながら、お祈りするように跪き手を合わせる亜紀を引っ張り上げ、ハウスへ戻った。
「ああ、ウェル、大丈夫だったみたいですね。よかったよかった」
 穴井が生き別れていた身内との対面のように急ぎ足でやってきた。彼にはウェル以外、視界に入っていないようだ。伊矢木から両手で恭しく受け取りカウンターに置くと、憤懣やるかたない口ぶりで言った。
「例の場所へ持ってってたんでしょう。伊矢木さん、早くあそこどうにかしないと亜紀さん、またやりますよ。あっそうだ、とりあえず鍵をかけといたらどうですか」
─また管理か。そうやってこっちの楽しみを奪うことしかしねえんだからな、それにどうだい、もう俺たちよりよっぽどこのロボットの方が気に入ったみたいだぜ。まったく虫の好かない野郎だ。
「さっき見に行った時、すぐに片付けてしまうのはむしろ亜紀さんにとってよくないんじゃないかって、施設長や吉村さんとも話したばかりなんだ。彼女がどうしてあんなものをつくったのかも、もう少し考えたいし、それに今のところ道具を取り出すのに邪魔にならないからしばらくそのままにしておこうと思うんだが。穴井くん、それでいいかな」
 穴井は一瞬、キョトンとした顔をし、「えっ、そうなんですか」と間の抜けた返事で美和を見た。
「ええ、皆でもう一度、どうして亜紀さんの物隠しが始まったのか、じっくり考えてみるヒントにはなると思うの」
「三人がそう言うんだったら、俺はどちらでもかまいませんけど」
─へえ、ここもたまにはまともなことをするんだな。
 アユムは運動に熱を入れた。
─ああ、助かった。これで守護神様もお喜びになるわ。それから、あんまり変なことを言っていじめないでね。
─亜紀さん、神様のこと本に書いてみたら。きっと面白いと思うけどな。ウォー、ウォー、それー、ジャンプ、ジャンプ。
 伊矢木はせめて美和だけには、モニュメントが何の目的で作られたのか話すべきか迷った。だが例えうまく説明できたとしても、こちらの勝手な憶測で片付けられるかもしれない不安もある。だとすれば、結局は正直に三人の考えていることが伝わっていることから告白しなければならないが、そのことも冗談に聞かれ、鼻にもかけられないかもしれないのだ。その上、もしも自分の体調や病癖と関係しているととられれば、ますます事態は深刻となり、余計に相手を困らせることになってしまう。美和と真剣に付き合いだして既に三年になろうとしていた。彼女が自分のことを心配してくれていることは重々わかっていながら、伊矢木はすべてに自信がもてなくなっていた。どうすべきかわからないまま、しばらく様子を見るしかない、そう心に決め始めていた。
 穴井は不満ながらも、それを紛らわそうとでもするかのようにパネルにタッチし、作動させた。
『穴井さん、お久しぶりです。お元気ですか。趣味のオートバイ、いつかウェルも乗せてね』
「わあ、園田さんが言ってた通りだ。段々会話力がレベルアップしてきてるぞ」一人、興奮気味に声を上げた。
一通りメンバーやスタッフの紹介の台詞をインプットし終えたウェルは、再起動したときにそれらの単語を組み合わせ、より複雑な内容を返せるようになったようだ。スイッチをオン・オフするたびに自動的に更新され、いわば人間に例えれば睡眠療法のようだと園田は自慢げに話して帰っていた。
 伊矢木は穴井の高揚をよそにただじっとウェルを見ていた。
 肝心の声が聞こえない以上、彼にとって、ウェルは同じ動きを繰り返す何の変哲もないロボットに過ぎない。だが、もしかするとこの安っぽく見せているのも実はウェルの凝った演出で、本当はひそかに周囲を油断させながら、ウェルなりのニューロンを点滅させ次の目覚めのタイミングを待っているのかもしれない。伊矢木は、ウェルのいかにもぎこちない身振りと手振りを見ながら、なんだか不気味に思えた。
『六郎さん、またお会いできてうれしいです』
「とにかく無事でよかったよ」
『樸も六郎さんに会えてうれしいです』
「ウェルちゃ~ん、元気で~す~か」
『良夫さん、その声が素敵です』
 ただ亜紀だけは、ウェルに気軽に話しかけるメンバーやスタッフを険しい表情で見つめていた。

      四
 陽は西に傾き、日差しにもどこかやわらいだものが含まれだした。南向きの店舗のサッシ戸からカウンター辺りまでオレンジ色に染まった光が届き、ウェルの足元をちらちら舐めるように揺らめいていた。四時を回り、どこか幻惑的で長閑な時間帯だった。いよいよ今日一日の活動も終わりを迎えようとしていた。
リビングではアユムが相変わらず、ソファに両手を突き前後に体を曲げ伸ばす運動を繰り返している。事務所で書類整理に一段落ついた伊矢木がその前を通りかかった。
─咽喉が乾いたからなんかくれよ。
 アユムがさも当然のように催促した。
─ああ、わかった。
 伊矢木もそのまま冷蔵庫の中を覗きに行った。
─麦茶なんかケチなもん出すなよ。あっそうだ、贈呈式のオレンジジュースがまだ少し残ってただろう。あれがいいな。
 アユムにはすべてお見通しのようだ。
─お前だけにやるわけにはいかないよ。皆で均等に分けて飲むのがここでのやり方だからな。
─嘘つけ。昨日、お前らスタッフだけで工房でクッキー食ってたの知ってんだぞ。
それは本当だった。ただそれは穴井の大学時代からの友人が訪ねてきた際、彼個人がもらったものを御裾分けしてくれたのだった。
─これだけは言っておくけどな、皆に関係あるものは必ず分けてるぞ。
─ふん、それもどうだかな。なにせ決定権はすべてそっちにあるんだから。何をどうするか、俺たちを生かすも殺すもお前らの勝手にできるのかもしんねえな、ああおっかねえ。
 そこまで言われては伊矢木には返す言葉がなかった。
─まあ、仕方ないさ。今日は祝いの日だしジュースを上げるよ。
 伊矢木はストローを差したコップをアユムの方へ持っていき、自分もソファに座ると体を接触させ、口へ咥えさせた。アユムは咽喉を大きく二度ほど鳴らして飲んだ。
─ああ、うめえなあ。
 減らず口を叩くアユムではあったが、こうして満足そうな顔を見ていると伊矢木も鬱陶しい感情がどこへやらか行ってしまう気がした。
 穴井が溢れんばかりの笑顔でウェルを胸に抱っこして、新太を筆頭に他のメンバーを従えやってきた。
「聴いて下さいよ。ウェル、歌もうまいんですよ」・
 リビングのテーブルに置かれたウェルは腰を捻り、両手は軽く前後に動かしツイストでも踊る仕草をした。
「ほら、どうですか」
 良夫と真梨はすぐに動きを真似し、歌い始めた。
「ハウス~は~、天国、楽しい~パラダイス」
「歌モードで適当に単語を覚えさせると、あとはリズムやメロディはかってにつけてくれるんです」
 歌声の聞こえない伊矢木は、じっとウェルを見つめていた。腰をくねらす動きは、特に外へ体重がかかったときぎこちなさが増し、膝を曲げて負担を散らすことで何とか持ちこたえているようだった。
─ハウスは地獄、世間も地獄、俺たちにゃ地獄、苦しい、苦しい、苦しいよ。
 伊矢木にアユムの声と節が聞こえてきた。
「あれ、アユムさんも歌いだしたぞ。ノリノリだ」
 アユムは、今日一番の高音で雄鶏が鬨を知らせるような張りのある声で絶叫し始めた。口を大きく開き、瞳は光の加減かどこか潤んだように輝いている。見ようによっては吹っ切ったような晴れやかでにこやかな表情を浮かべているふうでもある。伊矢木には歌と踊りの両者が重なり、まるでウェルがアユムの声で歌い踊っているように思えた。
─ハウスは地獄、世間も地獄、俺たちにゃ地獄、苦しい、苦しい、苦しいよ。
─イェーイ、イェーイ、スパーク、スパーク。
 新太もそれに合わせ掌を叩いてはジャンプを繰り返し、亜紀も両手を胸の前で組んで、祈るような仕草になった。
─守護神様、どうか私たちをお守りください。
「そうか、皆嬉しいんだな。友達が一人増えて」
 穴井もその場で、軽くステップを踏み、興を盛り上げた。
─ハウスは地獄、世間も地獄、俺たちにゃ地獄、苦しい、苦しい、苦しいよ。
「あら、にぎやかね」
 工房で洗い物をしていた美和と純子もさっそく加わった。
ウェルが首をゆっくり回し、決め台詞のようにつぶやいた。
『僕らは皆仲間だよ。仲良くやろうよ』
 それぞれに歌や踊りに興じているうちに、閉店時間がやってきた。
 細かな後片づけはスタッフがすることになっていて、まず帰るのは徒歩組の真梨と良夫だ。
「ヨシオちゃん、お母さん待ってるよ」
なかなかウェルから離れようとしない良夫の肩を純子が二度ほど揺すった。老母と二人暮らしの生活を気遣ってのことだ。
「じゃ~あ~ウェルちゃん、バイバ~イ、みなさ~ん、失礼しま~す」
「ありがとうございます」 
 真梨がスタスタとマイペースで歩き出すと、良夫は名残惜しそうにウェルに手を振り、足を引きずり引きずりついて行った。残るはアユムと新太、亜紀だが、アユムは母親の勤めるスーパーがバーゲンの大売出しのため今日は帰宅するのが遅く、あらかじめ送迎時間を遅らせてほしいとの知らせを受けていた。新太と亜紀はそれぞれ父親と母親が少し離れた職場からほぼ三十分して迎えにくることになっている。
 三人には、しばらくリビングで時間を過ごしてもらうことにした。
─なんだか、嫌な予感がするぜ。
 アユムが頭を前後に振りながら上体を捻り、淡くなっていく陽光へちらりと視線を投げた。伊矢木は穴井と二人で空になったトレーや編み籠を重ね、片付けていた。
─嫌な予感て。
 伊矢木が聞くのとほぼ同時だった。
 部屋の壁や床がゆっくりと動き、体もそれに合わせ横揺れし始めた。
『地震、地震、机の下に逃げて下さい。地震、地震、机の下に逃げて下さい』
 早くもテーブルに大の字に倒れたウェルが叫びだした。
─じたばたうるせえな。お前より先にこちとらわかってんだからな。
 見ると何度もソファの背凭れに頭をぶつけながらも、アユムは意外に落ち着いた表情でビブラートの効いた声を上げていた。アユムにとって、地震以上にウェルの机上を叩く不規則な音の方が相変わらず苛々させるようだった。
「いつも訓練してた場所へ早く逃げて」
 亜紀の手を引き一番大きなパンの陳列棚へ身を隠そうとする美和が必死の形相で叫んだ。純子はカウンターへ、伊矢木と穴井が新太をリビングのテーブル下へ押し込んだ。
「あとは頼む」
 その場を預けた伊矢木はすぐさま出るとソファにいるアユムを抱き上げた。
─遅いじゃないか。
─まあ、そう言うな。お前は一番タフそうだからほっといても大丈夫かと思ってな。
足元を見ると、穴井が這いながらウェルに手を伸ばし、救助しようとしていた。
 訓練のとき意識して体を小さくし詰めていたときとは違い、既にテーブル下は一杯だった。迷う時間はない。
 アユムが叫んだ。
─工房へ行くんだ。
─何言うんだ。あそこは、いろんなものが落ちてくるから一番、危ないだろう。
─つべこべ言わず行け。
 伊矢木が両脇を抱えているとは言え、まるで一心一体のように息の合った足の運びだった。
─あそこだ。
 アユムが鋭い目線で示した。
─なるほど、そういうことか。
 それは微動だせず堂々と立っていた。重々しく扉が開き、アユムから先に入ってもらった。いい具合に加湿器が椅子代わりになって腰かけることができた。次に伊矢木が隣りに来ると、二人ぎゅうぎゅうながら充分にいられるスペースだった。
 揺れはつづいていた。スマホから緊急地震警報の甲高いブザー音とあらかじめ入録されたアナウンスの音声で危険を知らせる連呼が始まっていた。扉越しに床や壁が軋む音や棚に置いていた道具類が落ちていく音がした。
 三分ほどたっただろうか。揺れがようやく静まった。
 伊矢木がそろりと扉を開け、外を覗こうとしたときだ。
─違う。
─何が違うんだ。
 横目でちらりとアユムに視線をやると、僅かに開いた扉の隙間から漏れてくる光を受け、その顔はどこか殺気立っているように見えた。外の散乱した様子が目に入った。伊矢木は気持ちを切り替え、思い切って扉を開けようとした。
─嫌な予感だよ、嫌な。
 外からの微かな明かりを頼りに、伊矢木はもう一度アユムを振り返った。向こうもこちらを見ていて、目を合わす形になった。珍しく頬の辺りがひくひく引き攣り、怯えた顔をしていた。不思議と頭を叩く自傷行為はしていなかった。
─気をつけろ。何かが動きだしたぞ。
 その声が頭に響いた瞬間だった。突然、外との隙間から伊矢木の視界全体に閃光が煌くと鮮やかな画像のようなものが射るように映し出された。その途端、足元に強い圧迫が走り、地中に落ち込むような衝撃が走った。体のバランスが一度に崩れたような、これまで経験したことのない感覚だった。すぐに突き上げてくる反動とともに宙に浮いた気がし、怒涛のような激しい視界の揺れがやってきた。
─早く閉めろ。
 大慌てでホイロへ戻り、扉を閉めようとしたときだった。足元が滑って内壁で頭を強打した。意識が朦朧となり、外部の音がすべて聞こえなくなった。
─おい、しっかりしろよ。
 アユムの声だけが木霊のように遠くから届いた。
 伊矢木たちがホイロの中で葛藤していたとき、テーブルに身を潜めていた穴井も、まだ高鳴る鼓動を抑えきれなかった。右腕が痺れるように痛んだ。一度目の地震のときウェルを助けようと這い出ながら伸ばした腕の上に向こうの方から先に落ちてきたのだった。肘関節の軟骨辺りへ頭部から直撃した。見ると赤く腫れあがり力を入れられない状態だった。ウェルの方は突発的に力んでこちらが腕を跳ね上げたせいで床を滑って流しの方へ押しやられ、今はリビングや工房が広角に見渡せる辺りで両足を投げだした格好で、全体の様子をあまさず見ているふうだった。落ちた拍子に故障したのか電源が入ったままの状態になっているようだ。黒眼の奥の白い瞳孔の光が青紫と赤紫へと変わり、左右交互に点滅しながら不気味な光を発していた。
 一旦揺れが治まり外へ出た穴井は、工房へ視線を送った。伊矢木たちはどこか確かめたく、前へ一歩進もうとしたとき突然、目の前がパッと明るくなり、輻輳した光線に彩られたように輝き始め、激しく視界が波打ち始めた。同時に足元がぐらつき、その場に立っていられなくなった。無我夢中でしゃがみ込むと急いでテーブル下へ舞い戻っていた。
 眩い光や揺れが去ってから穴井は這った状態でスマホを見た。一回目の地震の数値だけが詳細に載っていた。震源は数キロ西へ行った海岸の入り江で深さは十二キロ、マグネチュード六、震度五強となっていた。ハウスのある地区はやや小さく五だった。ということは二度目はそれ以上だったはずだ。まさか余震の方が大きいとは予想もしていなかった。気象庁もデータ収集に手間取っているのか、そちらの方の情報はまだなかった。新太はテーブルの下奥で腕や膝を折り曲げ、頭を抱え込むようにして外の光や音を一切シャットアウトしようとしているようだった。ただ時折り、我慢の限界がくるのか腕の間から顔を上げ不安げに様子を窺っているようだ。穴井は、またいつ揺れが来るかもしれぬ中、思いきってテーブルの外へ出てみた。
 美和や純子も亜紀を残し、怯えた顔つきでやってきた。
「穴井くん、腕どうかしたの」
 だらりと下げた右腕を心配そうに見ながら純子が言った。穴井は手短に説明した。
「だったらすぐに冷やさなきゃ」
 幸い水道や冷蔵庫も正常で、すぐにビニール袋に入った氷を手渡され、礼を言い当てがった。
「伊矢木くんとアユムくんは」
 美和が不安そうに穴井に聞いた。
「工房へ逃げました」
「穴井さーん」
 端にあったはずのパン捏ね機の台が真ん中よりに移動し、その周囲にボールや焼き型など小物の道具類が無残に散らばり、強力粉が袋から扇形にこぼれて広がっていた。
─おい、お前を呼んでるぜ。
─無理だ。今は答えられない。どこか神経が麻痺したみたいで声が出ないんだ。
─まったくしょうがない野郎だぜ。じゃあたっぷりと貸しをつくってやることにするか。
 アユムは狭い空間にめげずできるだけ体を動かし、雄たけびを上げた。
「アユムくんの声が聞こえるわ、ホイロの中よ」
 美和が外枠に耳を当てた。南側にあったホイロはぐるりと半回転し、扉が壁でふさがった状態になっていた。頬がひしゃげるくらいにくっつけた美和が中に向かって叫んだ。 
「アユムくん大丈夫。伊矢木くんもいるんでしょう」
 アユムはもう一度あらん限りの叫びで答えた。
 まずはアユムの声で安堵した美和だったが、伊矢木の返事がないことで次第に焦りのようなものが滲みだし、顔色がどことなく青褪めてきた。
「きっと何かあったんだわ。急いで助け出さなきゃ」 
 三人はすぐにホイロの周りに集まり力を合わせ動かしてみたが、頼みの穴井が右手が効かず、びくともしなかった。
「亜紀さんと新太くんにも手伝ってもらいましょう」
─ヤギちゃん、アユムくんがんばって。今出してあげるね。
 亜紀は眉間に皺を寄せ、ホイロの壁を両手で力一杯押した。
─伊矢木さん、今度、このこと本にしたらきっとベストセラーになること間違いなしだよ、がんばってー。
 新太もヒーヒーと息を吸い込むようにし、胸が苦しくなると動作をやめ掌を叩き、仕切り直しのように何度もホイロへ全身でかかっていった。だが、ホイロの重さと五人の力の差は歴然とし、疲労がつのるばかりだった。
「もう一人誰かいたら動きそうなんだけどな」穴井の一言に「私、見つけてくる」言うが早いか、純子が店舗へ飛び出していった。
 彼女が散乱したパンやトレーをよけながら出口へ向かうと、Tシャツに裾のよれたジャケットを着た中年の男が歩道から首を伸ばすようにして中を覗き込んでいた。純子のただならぬ表情に喫緊なものを感じたのかすかさず声をかけてきた。
「あの、アユムの父ですが。大丈夫でしたか」
「お父さん、いいところに来られました」
 純子が取り急ぎ事情を話すと、最初黙って聞いていた父親もすぐに血相を変え工房へと向かった。
「アユム、聞こえるか。父さん助けに来たぞ。今すぐ出してやるからな」
 ─けっ、よりによって嫌な野郎がきたもんだぜ。
「アユムくん、またしっかり揺すってるみたいですよ。やっぱりお父さんが来てくれて喜んでるんだわ」
 美和が、いかにも悦に入った口調になった。
「伊矢木くんもしっかりね。もう少しだから頑張って」
 父親が加わるとホイロは少しずつ移動し始めた。
─おい、動き出してるぜ。お前、まだ声は出ねえのか。俺、そろそろ疲れたんだけどな。
─ちょっと待てよ。少し痛みも薄らいだみたいだから試してみる。
「う、うう~ん」
 伊矢木は、咽喉奥から息を絞り上げ口蓋へ押し上げてみた。声帯が微かに震え反応したようだ。精一杯小さな声を上げてみた。
「こ、ここーに、い、いるよ」
「今、伊矢木くんの声がしたわ」美和の瞳は輝いた。
「伊矢木くん、もう大丈夫よ。動いてるから待ってて」
 聞き覚えのある伊矢木の声に力を得た六人はそれぞれに気合を上げ、全身で押していった。ホイロは床にずるずると円形の傷を入れながら一センチ、二センチと壁から離れ、やがて扉を開けるに充分な真ん中地点まで移動できた。
 まずは伊矢木が美和の手をかり、ふらふらとした足取りで出てきた。
「アユム、大丈夫だったか」
 すかさず父親もホイロの中へ入り、アユムを抱えるようにして連れ出した。ホイロはその後、再び全員で残り半分を移動させ元の位置まで戻した。
「二人とも無事でよかったわ」
 純子が用意していたペットボトルを美和と父親に手渡した。
 それぞれ伊矢木とアユムの口に持っていき水分補給をさせ、しばらくしてからだった。
「私はこれで失礼します。後は母親がやってくれるでしょうから」ソファにアユムと隣同士で座っていた父親が言った。
「お母さんが来られるまで待っていてもらえませんか」
 頭の痛みもほぼ消え回復しかけた伊矢木が、事情を知りつつ掠れ声で敢えて頼んでみた。父親は木きく首を振り、「とんでもありません。勝手に会っちゃいけないことになってんですから。大目玉を食らいますよ」まごつきながら断り、アユムの肩へ腕を伸ばすと、いかにも名残惜しい気持ちを抑えるかのようにギュッと抱擁した。
─な、なにすんだよ、この馬鹿。かっこつけやがって。
─まあ、そう言うな。ここはお父さんに花を持たせてやれよ。
 そう伊矢木が思った瞬間、アユムは一際大きな雄たけびを上げた。
「せめてお前が片言でも話せたらなあ」
 父親は悔しげに唇を噛み、また強く抱きしめた。
 ─ふん、またそのことか。どうせ話せたら話せたで煩がるに決まってるくせに。
 伊矢木は黙って親子を見ていた。
「じゃあ、お父さんが様子を見に来られたこともお母さんには言わない方がいいんですね」
 帰り際、美和が確認するとはっきり頷き、去っていった。

     五
「最初のが五ってことは、次のは絶対六はあったわよね」
 純子はパンの埃を息と掌で払いながら、編み籠に入れていた。
「だとしたら七なんて想像もつかないわ。吉村さん、それよければ適当に持って帰っていいから」美和が言った。
「わあ、助かります。ハウスのパン、自画自賛じゃないけど、添加物も入ってなくてとってもヘルシーでおいしいんですよ」
 ちょうど一本だけ残ったバケットを拾ったところだった。
「それにしても変ですよね」
 純子がパンを持ったまま首を傾げた。
「どうかしたの」美和がすかさず訊ねた。
「さっきネットを見たんですが、穴井くんが言ってたように地震は一回しか来てないみたいなんです。ツイッターやフェイスブックでも二回目のこと書いてる人は私の見た限り一人もいないし」
「まさか。あれだけ凄い揺れだったのに」 
 美和は目をキョトンとさせ、相手の顔をまじまじと見つめた。
「観測地点の機材でも壊れちゃったんですかね」
 眦の迫力にたじたじとなった純子は、惚けた口調で濁すのが精一杯だった。
 二人があれこれ話しているところへコンビニにスタッフの夕飯の弁当を買いに行っていた穴井が戻って来た。レジ袋をテーブルに置きながら「店の人に聞いても、やっぱり一回だったって」疲れたように肩を落とした。
 ほぼ同時に工房から出てきた伊矢木も、どこか浮かぬ顔をしている。
「どうかしましたか」穴井が聞くと「こっちも解せないことがあってね」重たげに口を開いた。
「パン捏ね器とホイロのスイッチを入れてみたんだけど、どれも正常で明日からでもやれそうなんだ」
「なんだ、それってめちゃくちゃいいことじゃないですか」
「そうだけど地震のことを考えるとどうもな。被害が小さすぎやしないかな」
「運がよかっただけですよ」
「それに」と伊矢木は、こちらの方が本題だとでも言うように工房へ目をやり「穴井君たちが話してたホイロを動かすときついた床の疵だけど全然残ってないよ」
「そんなはずないですよ。確かに俺、この目で見ましたし」
 穴井は返事もそこそこに工房へ行ってみたが、伊矢木の言った通り跡一つなかった。
「変だなあ」穴井はいよいよ首を捻りながら「俺、外の様子もう一回見てきます」我が目で確かめなければ気がすまないというように勝手口から姿を消し、五分ほどで戻って来た。
「周りも大きな損害はないみたいですね」
─ねえねえ、ヤギちゃん、御殿は壊れてないかな。
─早く行ってやれ。
─伊矢木さーん、僕の方はそろそろジャンプ始めていい? 体がうずうずしてスパークしそうなんで。
「穴井くん、倉庫はどうだった」
「あっ、外は普通でしたけど中までは」
「じゃあ、今度は僕が見てくるよ」
「亜紀さんのですか。伊矢木さん、熱心ですね。あれはさすがにめちゃくちゃに崩れてますって」
─失礼ね。なんてこと言うの。そんな暇があったら、さっさと守護神様を介抱しなさいよ。可哀そうに、さっきから青や赤の涙流しながらお苦しみになってるわ。
 穴井の呆れた視線も気にせず、伊矢木は日が翳りだしたこともあって、念のため懐中電灯を握りしめ倉庫へ急いだ。引き戸は相変わらず固かったが、手と足でこじ開け何とか開けることができた。奥を灯すと確かに穴井が言ったようにスプーンやフォーク類は倒れ、丸く盛られていた腐葉土も無残に崩れてしまっていた。その場にしゃがみこんだ伊矢木は両手で土を拾い集め、できるだけ前の形に近い感じに修復してから箸やフォークを突き刺し、何気ない顔でリビングへ帰った。
─奇跡だよ。御殿も無事だったよ。
─やっぱり。私もそう思ってたんだ。ねえ見に行っていい。
─ああ、少しだけなら。また余震が来ないとも限らないからね。
「亜紀さんのモニュメント、何ともなかったから本人に見せてくるよ」
「えっえー、ほ、ほんとですか」
 穴井は完全に疑っているふうで、伊矢木の体のあちこちへ視線をやり、嘘の証拠がどこかにないか見つけだそうとしているようだった。伊矢木はさっと背中を向けさりげなく躱し、亜紀を連れて行った。
 モニュメントを見るや最初、亜紀の喜びようは尋常でなく、外にまで響く声を上げるほどだったが、盛られた御殿を見ながらしばらくすると急にしくしくと涙を流し始めた。そして伊矢木の方を振り返った。
─ありがとう、ヤギちゃん。
─どうしたの急に。
─うん、いいの。ただ言ってみたかっただけ。
 もしかすると亜紀は、最初からすべてがわかっていたのかもしれなかった。それでも伊矢木は最後まで素知らぬ顔で通した。
 二人が店舗へ戻ったときだった。表に見覚えのある黒塗りのセダンがやってきた。
 中本と園田がせかせかと降り、腰を曲げ、かなりへりくだった物腰で近づいてきた。伊矢木たちはきっと地震のことが心配でわざわざ引き返してきてくれたのだろうとその律義さに頭が下がった。
「ありがとうございます。様子を見にきてくださったんでしょう。皆、何とか無事でしたから。そちらこそ大丈夫でしたか。特に二回目のがひどかったですものね」
「二回目」
 園田は驚いたように反芻し、中本と顔を見合わせた。
「ウェルはどこにいますか」
「ここです」
 穴井がテーブルに寝かせている場所へ素早く歩み寄った。「最初の地震で床に落っこっちゃって、スイッチが切れなくなったんです。目も変な色になってますし。せっかくいただいたのになんてお詫びしたらいいか」
 今にも泣きだしそうな悲しみようだった。
 園田はそんな穴井を横目に「ちょっと失礼します」とすぐにウェルを手に取るとパネルを開け、指で操作し始めた。しばらく様子を窺い、何かを判断したようにおもむろに耳の後部を中指と親指で指圧するように抑え、二度ほど揺すってからすっぽり外した。内部は思ったほど複雑ではなく、両目のレンズを中心に何本かの配線やチップと薄っぺらい金属片が両脇に固定された基盤が見えた。
「やっぱりか…」
 園田はつぶやきながらそのうちの一本の配線の根元にあるスイッチを切った。するとようやく両目の点灯が消え、白い発光が灯った。
「なにせまだ研究段階なもので、この機能を解除する方法は、今のところこれしかないんです」
『僕の名前はウェルニッケ、これからはウェルって呼んでね』
 頭を被せると聞き覚えのある台詞も出てきた。
 園田はそっとウェルをテーブルに置き、再び中本と二人、深々と頭を下げた。
「このたびは、まことに申しわけありませんでした」
 伊矢木たちは何のことかピンとこず、むしろ謝るべきはこちらのような気がし、つられるように頭を下げた。
「実は皆さんが経験した二回目の地震は、すべてこのウェル、せっかくですのでこの際お教えしときますと、現在、当社で開発しております次世代ロボット、シルヴィウスが仮想現実でつくりだしたものなんです」
「まさか、嘘でしょう」美和が素っ頓狂な声を上げた。
「いえ、本当です」
 園田はハンカチで汗を拭きながら説明を始めた。
「この中本が」と隣りを横目で睨み、「次の研究所へもっていくはずだった3D画像をつくりだすシルと間違えてしまいまして」
「3Dって、あの飛び出してくるやつ」
 穴井が信じられないと言った顔をした。
「いずれは実用化を目指しているものの、まだ実験を積み重ねての研究過程にありまして、型番までしっかりチェックすればよかったのですが、背中の操作パネルなど外形はまったく変わりませんもので、私も気づかず」とまた頭を下げた。
 園田が言うには最初の地震による落下の際、想定外の振動で内部のスイッチがオンになり作動が始まったらしい。ひとたび動きだすと、それから三分間の画像を記憶し、3Dに変換し、特殊なフィルターと反響板を通して同じく三分間、画像と音を流していくそうだ。
「そもそも立体画像は、見る側の左右の視覚の感じ方の違いを利用し奥行きを持たせることから出発しましたが、このシルは記憶した画像データを元に自分の両目でその違いを人工的につくりだし立体化するんです」
 俄に信じがたいことだったが、伊矢木は二回目の地震を振り返っていた。
 確かに揺れが始まる瞬間、小さな隙間から目の前に光の混じった画像のようなものがあらわれた気がしないでもない。ホイロも、既に一回目の揺れで相当動いていて、それをシルが記憶し、次の照射で壁際まで移動した画像を映し出したとなれば理屈は成り立つが、美和から、アユムの父親が加わるまでびくとも動かなかったと聞いているし、たかだかただの立体映像がそんな重みまでリアルに与えることができるのだろうか。しかも消えた床の疵のことはどう説明がつくのか。伊矢木には体に伝わっていた微妙な揺れも含め、この小さなロボットがすべてを再現したとは到底考えられなかった。
「仮想現実は恐ろしいものです。実際は映像と音だけなのに、受け手の心理状態によっては、匂いや質量、あるいはそこにはない画像まで感じさせ、ある種の錯覚を生み出させてしまうのです」
「つまりは〝思い込み〟ってやつですか」
 穴井がぽつりと言った。
「ええそうです。思い込むことによって仮想の上にまた仮想が上乗せされ、実際にそこにないものまで見えたり聞こえたりもしてきます。例えばこのロボットですが、まるで感情があるかのように思われる方もいるかもしれませんが、残念ながら現段階で相手の心情を思いやるといった高度なレベルのものはできていません。ただ言葉や相手の表情をより単純に記号化することによって反応のパターンを増やしていっているだけなのです。それがうまくこちらの心情と合致したときあたかも相手が思いを受け止めてくれたような気になってきます。おそらく皆さんは地震と言う緊迫した状況の中で特殊な心理状態に陥っていたはずです。そこへ3Dによる画像と音が闇雲にあらわれ緊張は倍加し、予想以上の効果があらわれたのかもしれません」
 もうしそうだとすれば、アユムの父親がやってきたのとのっぴきならない状況がちょうど重なり、ホイロやその周辺の残像や残響を存在させ、必死に作業させたと言えなくもない。
伊矢木は、心の中で反問していた。
─果たしてそんなことがあり得るだろうか。例え幻想だったとしても、けっしてロボットが映し出したものでなく、既に一回目の時点でホイロで足を滑らし、頭を強打したゆえの虚ろな意識が生み出したものではないか。
─おい、大丈夫かよ。またいつものお前の習性が出てきたな。あんまり考え過ぎんなって。このおっさんの言っていることが正しいとすりゃな、この俺の声ももしかして仮想現実の果てにお前さんが勝手につくりだしている一人よがりな妄想かもしれないよな。それに親父だって、お前たちが手伝ってほしいって望んで出てきた幻だったかもしれねえぞ。正直言えばあのとき、俺だって少しは親父のことを思ってたんだからな。だけどさ、それがどうしたって言うんだよ。どっちだっていいじゃねえか。所詮、誰だって自分の幻想の中で生きてんだし、確かな実体のあるものなんてこの世にないんだからよ。本人がいなくなりゃ、すべては消えてしまうって寸法さ。気楽にいこうぜ兄弟、だって俺たちはよ、正真正銘のA・Iなんだからよ。
─そうだよ。伊矢木さん、ジャンプジャンプ、スパーク、スパーク。火花、火花だよ。今度は伊矢木さんがベストセラー書く番だよ。そして飛ぶんだ、垂直にね。なんてったってイタリアのヤギなんだから伊矢木さんは。アルプス・アイベックス、アハハハ、こっちもちゃんとA・Iじゃん。どんな断崖だって蹄に引っかければへっちゃらでしょう。紙を食べるのもお手の物だし。僕、伊矢木さんの本が出たら、絶対、立ち読みしてやるからさ。ジャンプ、ジャンプ、スパーク、スパーク。さあ、僕と一緒に真っすぐ上に向かって飛んで行こうよ。
─守護神様。今日も皆が無事だったことを心から感謝します。テーブルに御一人でさぞおさみしいでしょうけど、きっとまたご用意した御殿へお連れしますから。それまではどうか我慢してください。そしてまた明日から皆が元気でいれますようお守りください。
 
     六
 伊矢木は今、アユムを車に乗せハウスへ向かっていた。眩しい朝日が昨日と同様、伊矢木の網膜を刺激した。地震は幸い一回目の震度五だけだったため、近辺の道路や建物に大きなダメージはなった。伊矢木は制限時速を超えることを覚悟でアクセルを吹かした。すでに窓をすべて全開したにもかかわらず逃げきれない異臭が鼻をつき、嘔吐のような酸っぱさを運んできた。アユムがさっそく車内で排泄してしまったのだった。洋子の話によればアユムは昨夜、当然ながらよく眠れず睡眠不足らしく、そのため調子は今一つということだった。それでもアユムは何食わぬ顔でいつものように後部座席で屈伸運動を繰り返していた。
─アユム、やるときはちゃんと教えてくれよな。
 返事はない。昨日あれほど聞こえていた声が今朝は迎えに行った時からまったくしなくなった。どうしてか。最初、伊矢木は驚き、しばらくあれこれ考えていたが、やらねばならない現実に次々と追われているうちにそれどころではなくなっていた。ハウスまで後五分ほどだ。すでに紙パンツのギャザーの隙間から、動けば動くほど中身は染みだし、座席の防水シートを汚しているはずだ。
 ハウスにつくや、穴井と一緒にシートごと抱え上げ、トイレへ連れて行った。空いたスペースでズボンや紙パンツを脱がせ便器に座らせる。
 ハウスにシャワー設備はなく、ウォシュレットや濡れティッシュか便器の溜まり水で臀部や股間を洗っていく。幸い今は暖かいが、冬場の水は冷たく、飛沫がかかるたびにアユムは呼吸を荒げ震え上がってしまう。伊矢木たちも、以前は一々介護用の使い捨て手袋を着用していたが、手首とビニールの隙間から水は侵入してくるし、嵌める間にアユムがどんな動きをするかも知れず、今は素手でやっている。もちろん処理後はしっかり石鹸で洗いパンづくりなど他の作業に移るのだが、衛生面からも、資金を何とかやりくりし早急に設備改善をやらねばならないと思っている。
「でも、よかったですよね。昨日、贈呈式のときにこんなことがなくて」
 泡立ったスポンジで手を何度も擦る穴井の言葉にも、伊矢木は生返事をするだけだった。
 着替えを済ませ、アユムをソファに座らせた。
 真梨が徒歩でやってきた。入って早々、カウンターのウェルに挨拶していた。
「ありがとうございます」
『ありがとう、真梨さん』
 ウェルは、昨日園田たちが平謝りした後、取り換えて行ったものだ。
 これがウェルの声だったのか。
 伊矢木は初めて聞くウェルの声に思わず耳を欹てた。もっとキンキンした電子的なものを想像していたが滑らかで親しみやすい声質とキーだ。良夫もやってきた。昨日の地震もすっかり忘れたように鼻歌を歌っている。
「ハウスは~天国、楽し~い~パラダ~イ~ス。ウェルちゃ~ん、おはよ~う」
『おはようございます。良夫さん』
「ウェルちゃ~ん、さあ、今日も歌いま~しょ~う」
 良夫は左足を引きずりながらステップを踏み始めた。頭を撫ぜてやろうと屈託のない笑顔で右手を差し出す。
 相手も腰を捻って踊りだした。
『ハウスは天国、楽しいパラダイス』
「これってハウスの名前の部分だけ、いろんな名前に替わるだけなんでしょうね」
 昨日、あれほどのぼせ上がっていた穴井が、今日はどこか冷めたようにウェルをじろりと見た。そしてぽつりと「伊矢木さんは信じますか。園田さんの言ってたこと。俺、絶対信じませんから」思いつめたような口ぶりだった。
「信じるも信じないも、二回目の地震がなかったことだけは確かだしな」
 伊矢木ができるだけ感情を込めずさらりと言うと「いいや、あの地震は間違いなくあったんですよ。俺たちには」園田はつづけた。
「きっと何だって感じた人には存在するんだと思うんですけどね。だから俺、絶対に信じないって決めたんです」
 穴井にはもしかするとウェルの存在が感じとれなくなってしまっているのかもしれない。伊矢木はふとそう思った。だとすればもうじきウェルの声が消え、アユムたちの声が聞こえてくるのはこの男かもしれないな。だが、と伊矢木は自嘲気味に笑った。もしそうだとしても、俺にはもうどうでもいいことだ。
 出すものを出し、スッキリしたアユムはソファでいつもの運動を始めている。
 伊矢木は、昨日アユムたちが歌っていた歌詞を思い出していた。
─ハウスは地獄、世間も地獄、俺たちにゃ地獄、苦しい、苦しい、苦しいよ。
 今もアユムはこの歌を、俺には聞こえなくなった声で歌っているのだろうか。伊矢木はアユムに視線をやり、軽く溜息をついた。
 ソファは伊矢木が以前、腰の治療に行っていた整骨院から待合室で使っていたものを譲ってもらったものだ。古い上、アユムの激しい運動のため相当擦り切れ、座面は既に二度張り替えている。特に両腕で体重をかけるところは裂け方がひどく、最初、布テープで塞いでみたが簡単に剥がれるため、次に全面変えないと繋ぎ目からの破損が食い止められないと判断し、同じ色合いのシートをネットで購入してからソファの木枠の部分に押しピンで留めてみた。ところがアユムの動きは様々な角度から負荷がかかってしまうためかどうしても外れてしまう。それで考えに考えた末、今は、座面と背面の隙間にねじ込んでいる状態だ。ある程度の緩みがあるのが大事なようで、朝のうちにぎゅうぎゅうに挟み込んでおけば多少ずれても充分に一日持ち堪え、完全に固定するよりかえって効率的だ。
「皆、亜紀さんにも注意しといてね」
 地震で散らばった小さなごみを拾い集めながら、美和が誰にともなく呼びかけた。
 こんな隙にも何かを倉庫へ持って行かないとは限らない。
 亜紀の声も伊矢木には聞こえなくなった。
 彼女の物隠しは、まず割り箸から始まり、フォーク、スプーン、量りへとエスカレートしていったのだが、気になりつつ伊矢木たちが日頃の忙しさにかまけそのままにしていた隙に対象が広がり、穴井の探偵まがいの捜査となってしまった。結局、皆に守護神様の話をする前に、亜紀の声はきれいさっぱり届かなくなってしまったことになる。
 新太もそうだ。相変わらず体全体をバネのように弾ませて跳躍しているが、その声は伊矢木にはまったく閉ざされてしまった。声がしないということは三人にも自分自身の声やこちらの声も聞こえなくなってしまったのだろうか。すべての声が風や光と混ざり溶けてしまったのかもしれない。伊矢木は初めて静けさの中に自分がいることに身悶えのようなものを感じた。
 新太は何度かジャンプした後テーブルに戻ると、所定の場所に置いてあるペンと紙を取り、息も整えぬままこれまで自分が立ち読みしてきた本の題名と出版社をぎっしり書き始めた。と言って文章が読めるわけでも発声できるわけでもなく、ただ形で覚えているだけだ。短い鉛筆を人差し指と親指で器用につかみ、紙面に鼻先が付くくらいにくっつけ、両目をビー玉のように見開きながら図柄を描くようにやっていく。
 新太にとって立ち読みする本には、どんな意味があるのだろう。
 ベストセラーか…。
 伊矢木は照れたように苦笑した。
 真梨は相変わらずマイペースだ。箒で通路を一通り掃いた後、棚や台を丁寧に拭いていく。汚れていようがいまいが、その順番に変わりはなく、表情もいつも通り坦々としている。ウェルのいるテーブルを拭くとき、そこまで近づかなくてもいいのにと思うほど生真面目に顔を寄せ話かけた。
「ありがとうございます」
『ありがとう。真梨さん』
 そのときだ。さっきまで熱心に紙に向かっていた新太の瞳から力がぬけ、テーブルから鉛筆がコロコロと転がり落ちた。瞬間、呼吸が荒々しくなったかと思うと瞬く間に全身が硬直し、椅子から腰を浮かせ杭のように伸び切らせたまま、ガタガタ小刻みに震えだしたのだ。白眼を剥き、唾液が襟元へ垂れ始め、伊矢木はすぐさま抱きとめ、大丈夫だぞ、大丈夫だからなと背中を何度も撫で始めた。新太はそれに答えるようにウーと呻き声を上げ、万歳したような格好で咆哮に似た叫び声を出した。その様子に、伊矢木は用心のためスタッフ全員を呼んだ。
 美和と純子で部屋隅から折り畳みベッドを持ってきてもらい、穴井と二人、両足と上半身を持ち上げた。新太は全身の痙攣が止まらず、叫びは今度は低い呻き声に変わっていた。
亜紀は、今どこで何をしているだろうか。ふと伊矢木の脳裏に不安が過った。
 良夫が叫んだ。
「アユムく~んが、おしっ~こし~て~る」
 さっき排便のさい、まだ残っていたらしい。しかも新太の迫力ある発作の形相をソファからつぶさに見た驚きで、一層許容量を越してしまったらしい。
「吉村さん、紙パンツと着替えもってきて」
「伊矢木さん、新太くんも」
 鸚鵡返しのように純子の憐れむような声がし、新太の下半身へ目をやると、ズボンの下からベッドがびしょ濡れで、滴が床に垂れていた。
「紙パンツと着替え、私取って来るね」美和が機転を利かして言う。
「じゃあ、吉村さんと真梨さんは雑巾だよ」
「ありがとうございます」
「ありゃ~、ダブルおしっこ~だ~」
 良夫が調子に乗って笑う。
「笑っている場合じゃないだろう、こんな時に」
 穴井が良夫を注意しな、亜紀がいかにも生き生きと眼を輝かせ、興奮気味に体を揺すり勝手口からあらわれた。
 上ずった美和の声もつづく。
「トイレの棚を見たけど紙パンツがないの」
 亜紀は、あれを守護神様に穿かせるつもりだろうか。伊矢木は、もうどうにでもなれと言った開き直りたい衝動をすんでのところで押しとどめ、『一つずつ、一つずつ』と徐々に鼻孔を刺す臭いが立ち昇ってくる中、こんなとき、いつのまにか呪文のように繰り返すようになった台詞を心の中でつぶやいた。
 伊矢木は、初めて新太の家を訪れたときのことを思い出していた。
新太の家は祖父と両親の四人暮らしだ。ハウスへ来ることが決まって数日後、挨拶も兼ね家での様子を見に行くと、両親は工務店をしており、開業主で今は引退している祖父が相手をしてくれた。
 その日も朝から発作がひどく、祖父はそんなとき新太の面倒をよく見てきたらしい。祖父の前で新太は言葉こそないが、表情や仕草でかなりのコミュニケーションがとれているようだった。大体の連絡事項も終わり帰ろうとすると、ちょっと見せたいものがあると引き留められた。連れて行かれたのは母屋から少し離れた見晴らしのいい丘だった。コンクリの杭と鉄線で囲まれた五メートル四方の中に御影石の立派な墓石があり、供物も置いてあった。鉄線は野良猫や犬にやられないよう通電してあるそうだ。
 囲いの隣には、地下鉄入口のような地面から斜めに突き出したコンクリの屋根があり、正面に鉄扉が覗いていた。南京錠で留めた所々錆びた鎖を耳障りな音を立て抜き取り扉を開けると、薄暗い先からスーッと肌を撫でるように冷気が流れてきた。肩幅よりやや広い十段ほどの階段がある。
「この奥にあるんですよ。新太、行くぞ」
 普段はあちこち動き回り、激しく飛び上がることの多い新太が、祖父に促されるとすんなりその後ろを長身の背を折り曲げ、壁に手を当てがい下りていった。伊矢木も最後尾をついていった。やがて通路は平行になり、しゃがんで通らねばならぬ高さになったため四つん這いになった。不思議な感覚だった。三人が今、秘密の地下道をタイムスリップのように通り抜け、切り離された別次元の世界へと旅立っているようだった。
 そこも過ぎると空気の流れを考えてか、木製の鎧戸の扉があって隙間から光が漏れていた。祖父が開けると四畳半ほどの部屋に、三人の到来を待っていたかのように蛍光灯が仄かな光を放っていた。外のどこかにあるスイッチを前もって入れておいたようだ。部屋にはパイプベッドが一つ置いてあるだけで他に家具はない。新太はシーツに頬寄せ慈しむように撫でながら、慣れた動作で横になった。
「週に一度は一緒にここに来るもんで、この子の部屋みたいなもんですよ」
 深い皺がいたるところに刻まれた日焼けした顔で、祖父はにこやかに笑った。伊矢木が部屋全体を黙って見渡していると、祖父はいつ核戦争になっても大丈夫なように家業から身を引いてから一人で拵えたのだと真剣な顔で話した。確かに世界状況からすれば無理からぬことではないが、随分前からのあまりの用意周到さに伊矢木は一瞬、この老人は正気なのだろうかとその目の奥を見定めようとしたが眼窩に当たった光が充分でなくできなかった。ただこちらの不安を悟られぬように心配しいしい、できるだけ平静を保ち、感心したように大袈裟に頷いた。
 祖父はそんな伊矢木の心理を察したかのように語りだした。
「私は戦争中、地獄を見てきましてね、そのことはまたゆっくりお話したいが、その経験がこんなものをつくらせたんです」
 冷んやりとしたコンクリ壁を皺の刻まれた瞼の奥の目で、じっと見据えていた。
「何かことが起きたとき、新太を連れては娘夫婦も逃げることは難しいでしょう。だからこれはいわば私のあの子らへの置き土産のようなものです」
それから最後にこう言ったのだった。
「伊矢木さん、何ごとも一つずつですな。まさか最初に小さなシャベルカーで一堀りしたとき、一人でここまでやれるとは思いませんでしたが、お陰様で立派なものができましたよ」
 ハウスの地震の片づけも、次に備えての準備も一つずつやっていかなければならない。横たわった新太を前にして老人の顔を思い浮かべながら伊矢木はもう一度冷静に、備品はどこにどんなものがどれくらいあったかを思い出していた。    
 アユムの紙パンツは、リュックに常備してある外出用で間に合った。新太も発作が治まってから穴井が着替えさせてくれ、純子が水洗いした汚れものを洗濯機にかけている間、美和がメンバーらと一緒に床を雑巾掛けしていった。
 一つずつ一つずつ。伊矢木は手足を動かしながら自分に言い聞かせた。
 ウェルの歌がどこからか聴こえてきた。
─ハウスは天国、楽しいパラダイス  
 アユムの歌も耳元でしたような気がした。
─ハウスは地獄、世間も地獄、俺たちにゃ地獄、苦しい、苦しい、苦しいよ。
 祖父の体験した地獄もアユムの歌う地獄も、いつかまたはっきりと声が届くようになったとき本人からじっくり聞ければいい、伊矢木はそう思った。
「さあ、これがすんだらそろそろパン作りの方も始めましょうか」
 美和が全員に呼びかけ、それに答えるように一人一人が動き出した。                      


 
       

A・I

2020年4月29日 発行 初版

著  者:宮本誠一
発  行:夢ブックス

bb_B_00163693
bcck: http://bccks.jp/bcck/00163693/info
user: http://bccks.jp/user/147880
format:#002t

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

宮本誠一

1961年熊本県荒尾市生まれ。北九州大学文学部国文科卒業後、学習塾講師、大検(高卒認定)専門予備校職員などを経て、熊本県小学校教諭に採用。二校目の赴任地(阿蘇市立宮地小学校)で、卒業生である発達障害の青年との出会いをきっかけに33歳で退職し、当時阿蘇郡市では初めての民間での小規模作業所「夢屋」を立ち上げました。その後、自立支援法施行に伴い、「NPO夢屋プラネットワークス(http://www.asoyumeya.org/)」を設立し、地域活動支援センター(Ⅲ型)代表兼支援員として阿蘇市から委託を受けながら現在に至っています。 運営の傍ら、小説、ノンフィクション、児童文学、書評などを発表してきました。部落解放文学賞に5回入選、九州芸術祭文学賞熊本県地区優秀賞2回、熊本県民文芸賞、家の光童話賞優秀賞などを受賞させていただいています。

jacket