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「海赩」

「糸」

群青出版



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自販機の当たりに惑わされないで。煙草の煙で君の名前を描く。このまま世界が終われば、きっと、幸せ。口の中だけで零れる愚痴も、窓の外でしか鳴かない鳥も、君には何ら関係は無い。産まれたばかりのアイデンティティを踏み潰して、寿命の気怠さに気付いてしまう。骨を食われても人間らしさを叫びたい、流れる血液の色くらい、君が選べばいい。子供のまんまでいい。そのまんま、生まれ変わり。今日死んでいた時間は、来世で清純な大人になる為の睡眠時間。
夢の中で吸った煙草の名前は。



詩「煙草を吸う」


言葉なんて、セックスの付録だよ。恋愛なんてものは、ドアの閉まる音で、死んでしまった。
君はもういない、誰もいない島、誰も聴かない音楽、誰のことでもない悪口、そこにあるのは私だけが死なない話。ねえ、今から声を聞かせて。そうしたら私、すこしはまっすぐ歩けるはずだよ。
天国地獄の中間地点、手が触れるのは体半分下のほう。
セーブデータを消した夜に命の流れは始まった。
夢を持つのが義務なんだって。君もそうなの。
終われば全部救われる、人間の終わりを、鳥や花は、待ち侘びている。
時間なんてモノは消耗品にすらならないね。
最後の言葉が濡れる夜、私の化粧水だけが綺麗だった。


詩「化粧」

自殺志願者の名演技。世界同時上映の名映画。
主役は電車で君は脇役の物語。
感動のラストを見逃した後、灯りの前、
眼球は罪のよう。
靴底がすり減る分だけ現実を語れ。
他に何も代償にできない人間。
ロマンティックの文字列に恥ずかしさを感じてからが、恋の始まり。
思春期。の中に在る春。交わりだけを愛して。
愛の裏側は愛じゃないから、君はあの子に愛されない。
電飾をばらまいて、あわよくば身体に巻き付けて。
どうせ、人生なら、せめて輝いてみせて。
ほら、脇役なりの輝きを。
きっと、あっちの世界でも息は、
しにくいよ。
でも、きっと、死ににくいよ。
だから棺桶の中でボタンを探す。


詩「映画」

あと何度今日を繰り返せば抜けられる、
後悔の渦の中。
私はずっと、夜の海を見てる。
魚が跳ねたら少しだけ、笑ってみる。
口元に海が反射する、夜。
感情だけを置き去りに、その手で掴んだものが優しさ以外なら切り落とす。
人を殺すゲームで幸せを感じる善良な市民たち。
「足元注意」の張り紙に気を取られて死なないで。
息の仕方に気をつけて。
すべての時間は命を消費する。
次に来るバスに乗れば、私の人生は変わる。
優しいだなんて悪口は言わないで。

八千回目の今日を愛して。


詩「〇千回目の」

警察の鳴き声、罪の音。
私が生きれる時間帯に死んでしまう透明たちよ。
幻に名前を付ける朝。
蛇口の水は上を向いて、夏の思い出を逆さまに、太陽だって下を向く。
体育館の反響音で隠れた悪口も、四年目には誰かの笑い話に生まれ変わる。
日付が変わる前に玄関を潜れ。
答案用紙に名前を書く当たり前、それが私の存在証明。
サイレンから逃れる少年、憧れの煙は命を燃やす。
袖が伸びる手前、私はひとりで、スカートの裾で夏を切る。



     詩「サイレン」

炭酸の泡の一つみたいな愛情が消えるさまを横目で見る仕事。
ねえ、君が思ってるより空は広いよ。
幽霊のスケッチ。誰も理解できない夢の話。
踏切の音とフラッシュバック。ほら、最後くらい笑いなよ。
コンクリートから咲いた花、名前なんて知らないままで。
私より価値がある命の数をひとつ、ひとつ、消す仕事。
神様のうわさ話。子供の頃の声明文、書き切れなかった反省文。
私の生命分の対価を教えて。お金以外で例えて。
夏の空、夏の嘘、今日だけは瞳をレンズに変えて、
私以外を綺麗に見せて。隅っこで私、
炭酸の泡の一つみたいな感情を飲み込んだ。
今日だけは私、サイダーガール。


     詩「サイダーガール」

名前を呼べる権利、愛のメリットはそれくらい。
便利なものは百円ショップで揃う時代、あと十円が足りない。
好きだよの対義語が足首に巻き付いて、妄想の中で寿命を減らす。
横に揺れるためのミュージック。夜に沈むためにトリップ。
あえて見破られるためのトリック。
とりあえず、生きて、いられたらそれでいいよ。
嘘つきのために頷く頭を切り落とせ。
命短しそれでも恋は慎重に。成長の現れは身長に。
無資格未経験の一度目の人生。海外のお菓子。胃袋は旅に出る。
正義は、いつも、愛の隣にあって、


     詩「百円」

明日の私に嫌われないように背筋を伸ばして。
不謹慎の真っ最中、完璧な祝日を。毎日が生前葬。
息を引き取って、明日からは二度目の人生。
コンビニエンスストアに引き寄せられる、春。
生暖かいコーヒーの中、愛と哀をかき混ぜて。
生前、君が、言ったこと。忘れっぽいのは季節のせい。
遺影の中から名前を呼んで。振り向けば空。足りない言葉で歩いていく。
ビニール傘から見える空の色、私以外が見ている心模様。
天国からは見えないモノなんて、
この青空くらいでしょう。


     詩「コンビニエンスストアと春」

揚げ足取りのスキルを磨けば君は政治家。睡眠時間は労働時間。
笑顔の裏側を見せないように。上手に騙せば君は政治家。
不幸話のバーゲンセール、安売りされるアイドル。
過去だけで語られる未来予想図。世界滅亡から百年後、
君が立っているそこはどこ。労働基準法から片足を出して、金銭感覚は生贄に。
生きやすいでしょうこんな世の中。屋上からスーツが落ちる日。
靴底は、地面を離れて、空の一部になる。流れ星を知らない。
流れ星に耳は無い。花の咲く瞬間を見れないままで死んでゆく。
それでも、この世界の真ん中で、
私は生きてた。


     詩「年収とマウント」

ことばになる前の情景。口から出たら賞味期限の始まり。
ずっと新鮮さは続かない。酸素が毒に変わる朝、
鳥の合唱から数センチ隣の独り言。ため息を吐く前の数秒間、
それは、きみが息を吸った証明。レントゲンには写らない恋心。
桃色に似た色で溢れる季節、感情のくだらなさに溺れる季節。
だから、こぼれ落ちないように口を閉じて。
私、この先の何十年、鼻呼吸で生きてゆく。
白い、少しだけ曇って霞む。人の命を大切に。
舞えば季節のはじまりに立つ。
そういえば、桜の花びらは、ことばの死骸みたいだ。


     詩「はなびら」

あなたの世界で、あなただけが可哀想な理由を教えて。
正義の鋭利な部分で血が滲む。法律に従え、常識に抗え、
いくら見返したって空の色は赤一色だから。多数決は集団リンチ。
酸素から花が咲く。地面の裏側には家がある。
少年少女、踊れや歌え、今日はこの世界の最終回。
あいつの血液はアルコール。口から出るのは花びら以外。
夏のはじめに、
わたし、前髪を切った。
もしも地球から青が消えたら、
空の色を何と呼ぶ。


     詩「何色」

命のフリをしたまま死んでゆく、君は亡骸、私は亡霊。
電信柱の裏側は家。遺書の文字数を超える。命のマウント。
瞼の振動、瞬きの生まれ変わり。人の目が見れない生命。
信用なんてされない生命。人の痛みに名前を付けて、額縁にでも収めてあげる。
心の中は展示会場。明日、知らない君と待ち合わせをする。
ネガティブを呪え、再会を祝え。
今日は誰かの誕生日。人類最下位最底辺の視界から見える景色。
鼻歌を唄えば夏が来る。呼吸をして、息の吸い方を覚えていて。
集合場所は、私の死体の右側で。



     詩「待ち合わせ」


青と光さえあれば青春ごっこは出来るから。
自転車で太陽を越えられる。きみはまだそこにいる。
教科書の右端。折れたのは心。
差し伸べる手の先に在るのは、自分の話。
いつだって自分が一番可愛いよ。
ロックスターは死なない。音楽だけが死んでいく。
きっと、朝になったら、死んでるのは私のほうだ。
くだらない歩幅と思い出、回る車輪は世界の縮図。
もういいかいの合図で私は消える。
今日はまだイントロの中。
約束を思い出したら大人の合図。



詩「春とイントロ」


風の強さに耐えるだけが人生だ。
それならいっそ飛ばしてほしい。
大人の真似事で幼稚を晒す、君だけは用心していて。
傷口はすぐそこだよ。
鍵を閉めた記憶が消える電車の中。
心配性が服を着る。吊革で首を吊るサラリーマン、
有名なブランドで着飾った無名のあの子。
二千年前の作り話。
味のしないガムを大切にする少年。
煙突が無くてもサンタは来るよ。
枕元は幸せで敷き詰めて。
子供の一日は三時間。
夢から覚めても夢のまま。
大人になってもサンタは来るよ。


詩「クリスマス」


水溜まりは思い出への最短ルート。
あのカラフルなガムの味。
よく晴れた日に傘を突き刺せ。
針の無いコンパス、先端恐怖症でも描ける世界地図。
水を弾くキャンパス。ぜんぶただの飾りになれば、
本当のことなんていらないのにね。死んだ目をしたサラリーマン。スーツだけは頑丈で。肩がぶつかったら、それは、きっと私の死因。すれ違う感情は街灯の端っこ。他人の声を絞る魔法がほしい。イヤホンからの音漏れは、心の声。靴を脱いだら羽根を生やして、君はどこまでも飛んでゆく。傘の内側。弾く音は綺麗だった。手のひらで時間を隠せば、
ここだって、優しい世界。


詩「雨の日」


夕焼けに飛べ。
せめて暖かい光の中で眠りについて。
君はちゃんと優しかったよ。
雪を降らせる仕事がしたい。白の上。
神様の求人サイト。正社員の募集は無いよ。
あの雲なら乗れそうな気がした、
だって私は人間だから。
間違い探し、出題者の人生の中から間違いを探せ。
過去は消えない、だからこの言葉も消えない。
この国の中。場違いを愛せ。夕刊と通学路、
君の横顔から恋が咲く。このまま止まれ。
空が落ちたら車輪を回す。
だから、私、タイムカプセルに夕日を詰めた。


詩「夕日を止めて」


心臓より高い位置に手を伸ばす。
もう少しで触れられる。流れる証明を邪魔しないように生きていく。私の声がなんにも影響しないこと、私が一番知ってるよ。住民票はこの世の隅っこの三番地。音楽の中に人生を照らして。眩暈がする。人間は都合のいい生き物です。だから、ごめんね、きみは愛に殺される。心臓より低い位置で鳴る鼓動。それが本物なんて言わないで。ヒビの入った陶器みたいだ。もう少しで砕け落ちる。鼓膜は生け贄に、愛の言葉を手に入れる。幸せの現在地、私や君からはずいぶん遠くのほう。人間は飛べる生き物です。空と雲の戦争。息をするモノだけのサーカス。音が鳴り止んだ。
人は、青色に殺される。


詩「呼吸のサーカス」



口の中にある凶器。銀色と赤色の中間地点。隣人の愛情を選んだ子供。そういえばあの日と同じ今日だった。きみはそこから動けない。地面から少し浮く、きみの話。明日は、せかいのおわり。死因は勇者の剣のせいにして、青春の成分は青酸カリと寝る前の夢。春夏秋冬、手を叩けば逆回り。あの子だって、口の中で化物を飼ってる。今日は、夏休みの最終日。絵本の最後のページ。脳内からどこかへ消えてゆく。心臓からの手紙に返事を書かなくちゃ。便箋は真っ赤で奇麗だね。アイスクリームと憂鬱。どちらが先に溶けるでしょう。今日は眠って。いつかそのうち笑えるよ。


詩「憂鬱とアイスクリーム」

現実から逃げた先は少しだけ色の違う現実。行き止まり。堂々巡りの一方通行。
君は逃げられない。だから私も逃げられない。逃避行。搭乗券はキャンセル待ちで、ヨダレを垂らしたバケモノは私の生まれ変わりを待っている。君が君として生きられないなら君以外ぜんぶ死ねばいい。だから私も死ねばいい。平行線。
世界戦争の三秒前、愛に気付いた。今日までがすべて夢だったのならハッピーエンド。なんて考えている間も一秒ごとにバッドエンドを迎える簡単な仕事。人生。地獄から地獄へ。最近は死後の世界でも自殺が流行ってるらしいよ。死んだ後に見るニュース。私だけが地球の心臓の位置を知ってる。
自殺志願者の呼吸を笑う人間が呼吸を失う呪いを教えて。
世界 対 私。君が君として死ぬために、とどめを刺して。


     詩「とどめ」

夜を唄う、私は、赤子のよう。世界が誰かの手の形をしていたから、
正義が誰かの声によく似ていたから、地面の裏側が私の居場所だ。
夕暮れ溶ける。朝はまだ先で、夜はいつだって私の頭上。
じゃなくて脳内。夜の色はもう忘れてしまって、横断歩道は私のために在る。
信号の色に飽きてきたから、そろそろ世界を変えてしまおう。
君はもういない、もういない。
「両の眼を塞ぐこと、自殺と変わらない気がするよ。」
世界、夜、面白い話で私を殺して。
「死んでもいいよ」
の言葉と一緒に生きてみるよ。


     詩「夜に自殺」

それならきみは生き続けるんだろう。何もかもの終わり、交差点の終着点、
ずっとわたしは笑わないままでいるよ。
命って言葉から始まる音楽。
息を飲んだら白を吐くのが人間ならば、もうなにも見なくて済むのに。
ここは誰かの現在地。永遠、冤罪、救済は無い。
幾つ目の誕生日を殺して生まれた最年少の花が咲く。
青色を否定して見て見ぬふりをするのが大人なら、
部屋の隅で涙を流すだけの命でいいよ。だから最期に唄を歌って、
頭上の青は呪いのよう。いつだって色の中。
抜け出せやしないよ。
わたしはここで、花を燃やして、夜を照らして。


     詩「燃ゆる花」

教科書の右上。どうせ見返さない三年間。
意味の無いことに名前をつけるのは私の役目じゃない。
零れる、流れる、命の始まり。
罵声の中から優しさだけ名乗り出て。
透明人間が着るドレスの色。
君が死ぬ物語の主演は、君以外でいい。
季節の流れは、一話完結のドラマのよう。
嘘つきは絶望の始まり、死ぬ前に食べたいご飯を食べた後の物語。
生き甲斐なんて、
花が咲くことくらいでいいよ。
私は生きてる。



     詩「ドラマ」

海の底には愛があって、
わたし以外が泳いでる。
例えば空に色が無かったら、命に名前は無いでしょう。
赤色の反対側から手を伸ばす。
生命、色とりどりの彩りの中。
流れる音に方舟を乗せてきみはどこまでも行ける。
じゃあ、きみは、誰かを愛せる。
彩能の才能。飛び立てば空。
きみは、色の、中で生きてる。

海の底には、青色があって。‬


     詩「彩脳」

「海赩」

2020年5月20日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版
表  紙:JR korma

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「糸」

詩集。いのちのこと。Twitter:@ningen_ito

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