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つじばやし けい 朗読用詩集

つじばやし けい

keituji出版



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月面旅行

象に乗って
流れ星を観測する。

行手を遮るのは満月のクレーター。
長く伸びた星の影。

星の影を辿って
クレーターの急な斜面を
羊の群れが降りてくる。

忘れられない青空
星屑も忘れない。

川はいつも

川の波紋は○ではなくV。
小石が水の流れを変える。
川底は浅く
ぼくは小魚を探すけれど。

たまにノビタキが偵察がてら水を飲みにくる。
時間とともに川面の緑色は濃くなって
マガモが二羽流されていく。

一眼レフカメラを持った若い男が川の中を覗き込む。
川はいつも誰かに覗かれる。
やがて男は青空と雲を撮り始めた。

川はますます濃い緑色をおびていく。

星くずカフェ

粉雪がふってきて夕空がますます暗くなった。
寒くなってきたので、近所の星くずカフェへ行くことにしたんだ。
店に近づくと、屋根の上に付いている看板のあかりが消えていた。

古びたドアを押して一歩入ると、薄暗い店内に北極星コーヒーの香りが漂っていた。
お客は一人もいない。
マスターは暖炉のそばでうつらうつらしていた。

看板のあかりまたつけ忘れてるよ、とぼくが言ったらようやく気づいたらしく、
マスターは照れくさそうに笑いながら壁のスイッチを押した。

それでようやく屋根の上の北極星にあかりがついた 。

世界のバランス

なにもかも行き詰まってワインを飲む。
波打ち際にミニテーブルをおいて。

片手で食べるためのパン。
本のページをめくる。

珊瑚は栄える。
クリスタルの波が
テーブルの上に塩を運ぶ。

これから来る夏を
新しいバッテリーに交換する
世界のバランス。

海の紙片

白い壁に 寄りかかったまま
目を閉じて

魚群を 思い浮かべる。

傾いた地軸を
アジサシが かすめ飛ぶ。

サンゴの腕に 蝶がとまる。

満ち潮に合わせて
卵塊が いっせいに
海へ 流れ出る。

海岸通りの雲

ドアを開く前に
窓辺に立って。

注意深く観察すると
わからないことだらけで。

結論は出ないが 歩きつづける。
海岸通りの雲の 微速度撮影。

宮廷音楽

青空を
はこぶ列車の

たった一人の
車掌が

猫背の姿勢で歩くたび

身体中から
星が

こぼれ落ちていく。

生まれたばかりの
星々は

幼い子特有の
意味不明なうたを

歌いながら

次々と
青空へ
吸い込まれていく 。

行き着くところは

時空宮殿の

小さな
オーケストラ。

他界の島

他界の島 。

飲みかけの

大陽の
ジュース。

アジサシの
繁殖地 。

ビーチパラソルの
ふち飾りが
風に
揺れている。

水浴びを
ためらう
女の子は

父親の手を
離そうと
しない。

ソーダ水の
泡のような

透き通った
小魚の群れ。

父親は

子供を抱いて

珊瑚のすなで

お城をつくる。

眼のための処方箋

目の疲労をとる為には


はっかと
ギター。

子猫の足跡。

冬のあいだの
夢想。

花火見物。

線香のけむり。

本の挿し絵。

縁側の 
赤とんぼ。


すべての
カーテンが降りた窓。

夏を添える

ピアノが
小さな家を作り、

ギターが
そこに

夏を
添える。

海辺の駅で見た
女のひとは、

美しいほおを
していた。


プラットホームで
電車を
待っている時

そのほおを
夏空に向けて、

小さく

息を

吐いた。

オリオンの腕の中で

どこかに
島の気配を
感じる

コンクリートの
照り返しを
浴びながら

読んでいた

本を閉じると
雪崩が起きて

その下から

青く澄み切った

環礁が

現れる

セレナード

月を見ながら
ギターを弾くと

タマシイがジャンプする。
星に近い空間で
回転木馬の残骸が
一人遊びをしている。

奇妙なくちばしの小鳥たちと
黒曜石に彩られたビーチ。

さびたイグアナの目から
光の波紋が広がる。

コンコン、という
着メロの 音がして、

世界は
ひとつになる。

天体嗜好症

天体望遠鏡を
覗きこむ人。

その足はわずかに
宙に浮いている。

天体望遠鏡の中に
棲みついた
一匹の蛾。

ルミアの星座。

ここに5本
線を引いて下さい。

月がすてきな
音符になるように。

つじばやし けい 朗読用詩集

2020年5月6日 発行 初版

著  者:つじばやし けい
発  行:keituji出版

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