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一
人生の夏を迎える時、人は喜びに溢れる。人生の夏の日ざしは、肌に刻印を付ける。それは夏の徴である。証拠のような、思い出のような徴。それは人生の夏が輝いた証明であるのだ。
真夏の空の下、大学生の六人組が、ひとつの部屋に集まっていた。鈴木十五の家のクーラーで涼んでいるのは、バラバラな大学に通う、六人の男女だった。
「暑いな」一秋が呟いた。
「当たり前だろ、夏なんだから。この暑さが果物を甘くするんだ」智弘はそうさとすように語りかける。
「だったら、エジプト辺りは、すごくうまい果物が獲れるんだろうな」一秋がひとりごちた。
「大昔はね」その問いに、紅一点の智子が答えた。智子は智弘の妹で、大学一年生だった。
「おいしい梨とか、早く食べたいなぁ」
一秋が零した。
「みずみずしい梨ね」智子が受けて答えた。
その時だった。突然、鈴木十五が口を開いた。
「みんなに話がある」
「何? かしこまっちゃって」智子が少しおそるおそる尋ねた。
「うん。みんなでゲームを作ろうと思う。コンピュータ・ゲームを」
一同は沈黙した。
「……兄なら出来るよ」
しばらくしてそう答えたのは、十五の弟の賢二だった。
「まあ、そうだな」と一秋。
「ゲームを作るっていったって……」サトシが泡を吹いたように呟いた。
「ゲームの企画書なら、出来るんじゃないかな」と十五。
「……企画書か。まぁ、それならね」智弘が応じた。
「兄なら出来るよ」もう一度、賢二が力強く言う。
「でもさ、どうしてそんなコトを思いついたの?」智弘の妹の智子が十五に尋ねた。
「今のゲームってさ、大体モンスターをカツアゲするよね」
「まぁ、確かに……」と、サトシ。
「ゲームの中で、お金を稼いでも、一円にもならないのにね」と十五。
「それはそうだけど、ねぇ」智子は言葉に詰まった。
「ゲームの中までも、走って移動しなくても、いいじゃない」十五は噛むように皆に語りかけた。
「そうだよね」と智子が頷いた。
「もっと自由になりたいんだ、僕は。既存のゲームでは無いゲームを、創りたいんだ」
十五は語気荒く、そう皆に告げた。
「面白い」一秋が一言、受けて答える。
「やってみようよ」サトシが上気した顔で発言した。
人生の夏。青くはにかみを残す夏。面映ゆい言葉やキザな台詞。それを言ってみることだけに、全てを賭けても良いと思っている人も居る。それは、夏の眩しい煌めきだった。
それからしばらくの間、六人は十五の部屋に集まるようになった。ゲームづくりをするためである。少しずつ、誰が何を担当するのかが決まっていった。鈴木十五はゲームプランナーとゲーム画面のデザインを担当することになった。十五は芸術大学に通う大学二年生で、グラフィック・デザインの心得があった。
プログラムは、智弘の担当だ。智弘は工業系の大学校に通う二年生で、プログラム言語に馴染みがあった。理詰めで考えるクセがあり、それ故人とぶつかる事も時々あった。
その妹が、智子である。智子は人文学部に通う一年生で、ゲーム好きで通っていた。何より人と話すことが好きで、友達も多かった。兄の智弘と一緒に行動することが多く、よくなついていた。ゲームづくりでは、ゲームのシナリオの担当となった。
一秋もまたプログラマーである。東京の大学に通う大学二年生で、数学が得意だった。音楽も好きで、バンドを組んでいると言っていた。ゲームづくりでは、プログラムと、サウンドを手がけることになった。
サトシは、とにかくゲームが好きだった。大学には余り行かず、もっぱらゲームに興じていた。ゲームづくりでの担当は、テストゲーム・プレーヤーとなった。
十五の弟の賢二は、ゲームクリエイターであった。高専に通っており、プログラムも出来た。ゲームクリエイターとは、ゲームの世界設定を創ったり、登場人物の設定を考えたりする役割である。
チームメンバーは、かなり揃っていた。
――だが、しかし。
グラフィッカーが足らなかったのだ。
「ゲームのグラフィックやキャラデザはどうしようか……」と一秋。
「私、心当たりがあります」
智子が声をあげた。
「友達に、イラストの好きな子がいるの。板川さんという子よ。今度、話してみるね」
「何年生?」智弘が訊いた
「私と同じ、大学一年生よ」
「そうか、宜しく頼むよ」十五が重ねて告げた。
「了解――」
二
「……すると、その人は、立体造形なんかもするの?」
夏は盛りを迎えていた。十五と智子は、鈴木家の近くのカフェへ来ていた。智子の友人の「板川さん」と会う為である。
「そうらしいの。あ、ユミ。こっちよ」
智子が席を立って、声を上げた。カフェの入り口で、板川さんらしい人が、此方に気づいた。
「どうも」
板川さんは割に背が低く、笑顔が優しい女性だった。
「はじめまして。ゲームづくりのリーダーをしている鈴木十五と申します」
十五が立ち上がって、一礼した。智子もそれに倣う。
「こちらこそ。宜しくお願いしますね」
「ユミ、今日はわざわざ来てくれて、どうもありがとう」
「いいの、割と近いし」
「ご注文はお決まりですか」ウェイトレスが、声を掛けてきた。
「アイスコーヒーでいい? わかった。じゃあ、アイスコーヒーを三つお願いします」
「かしこまりました」
ウェイトレスが帰ると、板川さんは少し表情を和らげた。緊張しているようだった。
「それで、私は何をすれば良いのですか」
「うん。メインのグラフィックスと、キャラクターデザインをお願いしたいんだ」
「私に、出来るかしら」
板川さんは少しためらいながら呟いた。
「どんな感じのゲームなんですか」
板川さんはためらいながら十五に問うた。
「みんなにはまだ言ってないんだけど……。『モジャル』っていうゲームなんだ」
「変な名前」
智子が思わず吹き出した。
板川さんも笑みを零した。
「なんかこう、『もじゃっと感』があるでしょ」
「確かに」智子が笑いながら頷いた。
「面白そうね」板川さんが、十五の瞳を見た。
「ありがと。戦うゲームではないんだ。旅をするゲームなんだ」十五は熱っぽく語った。
「やってみましょう」
板川さんは、満面の笑みでそう答えた。
「良かった」智子が一言呟いた。
「本当にありがとう。宜しくお願いします」十五が頭を下げた。
「こちらこそ」
それから、板川さんを交えてのゲームづくりが始まった。
十五は企画書を書いていた。夏のうだる暑さは下火になり、朝晩は涼しい風が入ってきた。その時間帯には、もうクーラーは要らなかった。
「メインのキャラクターはどうしようか」
十五は、智子と板川さんと話していた。
「女の子の姉妹がいいんじゃない?」智子はアイディアを出すことが多かった。
「そうだね」と十五。
「でも、やっぱり、冒険の旅なら、男の子がいいんじゃないかしら」板川さんがおずおずと口を開いた。
「そうだね。やっぱり男の子にしよう。名前は『ウフィ』はどうだろうか」
「『ウフィ』……、良いんじゃない?」
十五の言葉を智子が受けた。
「女の子の姉妹はサブキャラにして、名前はそうね……。『かこちゃん』と『なこちゃん』というのはどうかな」
智子は女の子の名前をボールペンでメモしながら皆に問うた。
「いいと思う」
「これで主役が揃ったな」十五は独り頷いた。
三
大学の夏休みが終わる九月には、ゲームの企画仕様書が完成していた。十五と智子が「モジャル」の企画仕様書を仕上げたのだ。それに、コンセプトアートと呼ばれる、メインビジュアルを板川さんが付けた。飛行船に乗る姉妹と、野を駆けるウフィの姿だ。それにゲーム画面のデザインが付いた。企画仕様書は百枚になっていた。
「コレ、どうするの?」サトシが書き上がった企画書を見ながら、十五に聞いた。
「ゲーム会社に送ってみようと思うんだ」十五が力強く答える。
「採用してもらえるかしら」板川さんが心配そうに呟いた。
「大丈夫よ、きっと。上手く書けているもの」智子は優しかった。
「どこの会社に送ろうか」
その時、智弘が口を開いた。
「僕の知り合いに、ゲーム会社で働いている人がいるんだ。そこに送ってみたらどうだろうか」
「それがいい」一秋が相槌を打った。
「どんなゲーム会社?」と賢二。
「アクションゲームをメインで出している会社なんだ」と智弘。
「そうか。じゃあ、智弘に持ち込んで貰おうか」
皆でそう決め、その日の集まりは解散した。智弘は皆が帰った後、その企画仕様書を郵送したのである。
一週間程した頃だった。一本の電話が、十五に掛かってきたのだ。
「はい、もしもし……」
「私、アース・エンターテイメントの佐々木と申します。あなた方の企画書を拝見しました」
「はい」
胸の鼓動を抑えながら、十五はそうとだけ返事をした。
「つきましては、弊社でコンピュータ・ゲーム化したいのです」
――やった!
嬉しさで気が動転しつつも、十五は夢うつつで話を聞いていた。
一か月後、ゲーム会社から、ゲームの契約書が届いた。ゲームの総売上げの五パーセントを十五たちに支払うという文面の契約書だった。十五は慎重に契約書にサインをして返送した。
それから数か月して、ゲーム会社から、ディスクに入った、ゲームのベータ版が届いたのである。
「僕たちのゲームか……」一秋が万感の思いを込めて、言葉を発した。
ゲームが始まった。皆、食い入るように画面に見入る。
「あ、ここ。モンスターが出てくるよ」
「ココね。ホントだ」
テストプレイは約一時間に及んだ。
「これをレポートするんだね」
サトシがノートパソコンを立ち上げながら、十五に聞いた。
「うん。宜しくね」
「分かった」
サトシが、ゲームの感想を書きはじめた。小気味良いタイプ音が、辺りに響いた。三十分程経っただろうか。
「出来た」とサトシ。
「どれどれ。……うん、良く書けてるよ」
「この調子で、あともう一ページ位、書いてもいいな」サトシが得意満面の笑みで呟いた。
「モチロン」
その後、十五も感想を書き、二人分のレポートをゲーム会社に郵送した。
結局、余り出番のなかった一秋は、サウンドの指示書を送り、賢二はゲームシステムについて提案するに留まった。
そうして、僕らの夏は、二年目を迎えていた。
「遂に出来たんだ」
十五が離れてくらす皆に、宅急便で出来上がったゲームを送った。
そして僕らは、七名で起業した。
それが「チーム十五」の旅立ちだった。
(結)
2020年5月20日 発行 初版
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