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再生する星

雨音多一

遊勇舎



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 街は眠っていた。朝になっても、ほとんど誰も現れなかった。ゴースト・タウンの東京。街の人々は自宅へと籠り、伝染病を避けていたのだ。

 僕、清川治(きよかわ おさむ)もその一人だった。仕事は、グラフィック・デザイナーをしている。このデザインの仕事に就いて、五カ年目となる。今、三十才を迎え、世界を揺るがす伝染病、新型コロナウィルスと戦っているのは、他の人と一緒だった。

 ――皆に共通する答え、マニュアルなど、この病には存在しない。

 それが清川治の兄、清川サトシの口癖だった。

 ――世界は新しいステージに入ったのだ。皆、自分自身で考え、行動するステージに。

 兄のサトシは、そう言ってはばからない。
 兄は田舎町の外れに住んでいる。森の傍にちいさな山小屋のような住まいを建てて、そこに隠棲しているのだ。
「森の賢者」と云う人も居る。「世捨て人」だと云う人も居る。兄はその言葉に表れているように、余り人と話す事は無い。気を許しているのは、多分、僕にだけだろう。僕は時々、パソコンのTV電話で、兄と話すことが有り、その時は、くつろいだ表情を見せてくれる。話は時に二時間に及ぶ。「その時だけが、全てから解放される時間なのだ」と言ってくれた時があった。昨晩もパソコンのTV電話を使って、長話しをしてしまった。

 ――明日のことを考える必要がある。
 ――明日とは、今日の翌日のことではない。未来のことである。
 ――十カ年先を読め。十カ年後を考えて行動するんだ。

 兄がよく言う台詞である。十カ年後を考えて行動せよ、というのが兄の持論である。その話を聞く度に、僕はよく夢想するのだ。電子と自然が融合した世界を。
 兄と話したことがある。電子技術――コンピューターや様々なテクノロジー―は電気エネルギーを必要とする。そこで、太陽光発電の機器を住宅に取り付け、大型バッテリーを備えれば、それで大概のことは出来るだろう、と。太陽光の電気エネルギーは無尽蔵にある。

 ――それが新世紀の隠者の暮らしなのだ。
 兄はそう言って笑い声をあげたのだった。

 新しい世界が生まれた。新型コロナウィルスが前の世界を破壊した結果、新しいライフスタイルが登場したのだ。

 リモートワーク・テレワークもその一つである。遠隔に居ながら、デザインやプログラムの作業が出来ていたのは、もう二十数年前からだった。それはSOHOスタイルと呼ばれていた。その形態が、新しいライフスタイルとして定着したのだった。

 兄は云う。「この世界は新しく生まれ変わったのだ」と。死の病を経て、新しい世界へと生まれ変わったのだ、と。それがテクノロジーと自然が融合した、新しい世界なのだろう。僕はそう考えている。

 死の病を超えてはじめて判ることがある。新世界は、もうはじまっているのだ。空を駆ける鳥のように、めまぐるしいスピードで、世界は変わってゆくのだ。

(結)

再生する星

2020年8月22日 発行 初版

著  者:雨音多一
発  行:遊勇舎

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雨音多一

ポエムと小説、ときどきピアノ。

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