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【RE:】DIAMOND of BLESS

兼高 貴也

無色出版



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  この本はタチヨミ版です。

 目 次

『【RE:】彼らと共に……』


第一章 第一項
第一章 第二項
第一章 第三項
第一章 第四項
第一章 第五項
第一章 第六項
第一章 第七項
第一章 第八項
第一章 第九項
第一章 第十項
第二章 第一項
第二章 第二項
第二章 第三項
第二章 第四項
第二章 第五項
最終章 第一項

最終章 第二項
最終章 第三項
最終章 第四項
最終章 第五項
最終章 最終項

『【RE:】彼らと共に……』 ―完―

『プロジェクトネーム:カラット』


第一章 第一項
第一章 第二項
第一章 第三項
第一章 第四項
第一章 第五項
第一章 第六項
第一章 第七項
第一章 第八項
第一章 第九項


第一章 第十項
第二章 第一項
第二章 第二項
第二章 第三項
第二章 第四項
第二章 第五項
第二章 第六項
第三章 第一項
第三章 第二項
第三章 第三項
第三章 第四項
第三章 第五項
第三章 第六項
第三章 第七項
第三章 第八項
第三章 第九項

第三章 第十項
第三章 第十一項
最終章 第一項
最終章 第二項
最終章 最終項

『プロジェクトネーム:カラット』 ―完―

『死者の息吹』


第一章 第一項
第一章 第二項
第一章 第三項
第一章 第四項
第一章 第五項
第一章 第六項
第一章 第七項
第一章 第八項
第一章 第九章
第一項 第十項


第二章 第一項
第二章 第二項
第二章 第三項
第二章 第四項
第二章 第五項
第二章 第六項
第二章 第七項
第二章 第八項
第二章 第九項
第二章 第十項
第三章 第一項
第三章 第二項
第三章 第三項
第三章 第四項
第三章 第五項
第三章 第六項

第三章 第七項
第三章 第八項
第三章 第九項
第三章 第十項
最終章 第一項
最終章 第二項
最終章 第三項
最終章 最終項

『死者の息吹』―完―

あとがき

【RE:】DIAMOND of BLESS―完―

『【RE:】彼らと共に……』

第一章 第一項

「ヒロ、お前ももう大きくなった。あっという間に高校生や。お母さんは高校に入る時は大阪ではなく東京にきーやって言って声を大にしてる。大阪を出て行くのは不安か?」
 須崎ヒロは大阪に住むどこにでもいる中学生だ。祖母に育てられ、今まさに高校進学の岐路に立たされていた。祖母に育てられたのには少し理由があった。父親を幼い頃に亡くし、母親は女手一つで彼を育てる自信がなく、祖母に頼むことにしたからだ。母親はヒロを置いてそのまま一人、上京し、養育費と祖母とヒロの生活費という金銭面の問題だけはクリアーにしていた。ヒロは祖母の高校進学に際しての問いかけに少しも考えることなく母親の元へ向かうことに「不安なんてない」と言葉を残した。なぜなら、大阪で友人が多かったわけでもなく、なんの未練もなかったからだ。
「ちょいとは、おばあちゃんの想いも考えて返事をしーや。おばあちゃんだってヒロがいなくなったら寂しいんやで」
「あ、ごめん。でも、オカンの元で暮らせる方がおばあちゃんも負担が少なくてすむやろ?」
 祖母の気持ちを考えたところで負担をかけるのは一緒だと思い、ヒロは言葉を走らせた。
「おばあちゃんはあんたの顔見れるだけで幸せなんやで」
「それはオカンも一緒やろ? どこで暮らしてもみんなの思いは変わらへん。それやったらこれからはオカンの世話になる時期やと俺は思う」
 祖母は寂しさを隠さなかったが、ヒロは寂しさよりも迷惑をかけていないかを心配していた。しかし、肉親である以上、迷惑だなんて祖母は全く思っていなかった。かわいい孫が西の都から東の都まで行ってしまい、もう毎日、顔が見られなくなる。そんなことを考えると、心にポッカリ穴が空いてしまうのを感じられずにはいられなかった。
「わかった。ヒロがしたいようにしたらええ。親に振り回させられて辛い思いをさせてしもてるけどな」
「オトンがおらんのは今に始まったことやないし、オカンもおばあちゃんもみんな大事にしたい家族や。全然、辛い思いなんてしてへんで」
 祖母の辛そうな顔を見るのがヒロにはまた痛みを抱かせそうだったため、無理に笑顔を作って見せた。そんな笑顔に祖母もまた元気づけられていく。
「東京に行っても元気にやっていくんやで。またいつでも戻ってきても良いしね。新幹線ですぐ帰れる時代になったんやから。最悪、バスでも……」
「わかった。わかった。なんかあったらまたすぐ帰ってくるから布団と枕だけは用意しといてや!」
 ヒロはそう言って祖母を笑わせる。祖母もまたニッコリ微笑んで東京に行くヒロを見送ることにしたのだった。
第一章 第一項 ―完―

第一章 第二項

「先生。俺は東京に引っ越すことにするわ。向こうの高校の事情なんて一つも分からんけど、オカンと一緒に住むことを決めた」
 ヒロは担任の先生に全てのことを話すと、担任の先生は少し涙ぐんだ。
「須崎くん。あなたは私の大事な生徒や。いつでも顔を見せにきーや」
「顔見せにくんのは良いけど、先生もこの中学校にずっと居るわけちゃうやろ? 無責任なこと言うなよな。別に怒っとるわけやないけど」
 担任の先生は少し楽しそうな笑顔を作って見せた。それはヒロが優しいと言うことを満面の笑みで示してくれたことに違いはなかった。
 大阪で過ごす最後の冬は祖母と共に豚汁を食べた。ヒロにとってのおふくろの味だ。ヒロは心のこもった豚汁に少し目頭が熱くなる。
「もうこの味にもあわれへんなるんか。なんかちょっと寂しいな」
「なにいうてるんや。帰ってきたらいつでも作ったるよ。まるでおばあちゃんが死ぬみたいな言い方よしーや」
 祖母は「変な言い方はやめろ」といってはきかなかった。その翌日、ヒロは母親の待つ東京へ向かった。ヒロの心はどこかウキウキしながらどこかモヤモヤしていた。そんな心境で上京するのだった。
「オカン!」
「ヒロ! 会いたかったよ!」
 母親の姿を見るとすぐに、ヒロは大きく手を振った。母親に全く会ったことがないわけではなく、仕事を終わらせて大阪に来ることも少なからずあった。ただ、ヒロにはもう一つ大きな古傷があったことをこの時、母親と祖母以外の人物は知らなかった。
「ヒロ、あんたまた背が伸びたんじゃない?」
「もう、オカンを抜いたな。チビや」
 そういうヒロの顔はいたずらッ子になっていた。言われた母親も黙ってはいない。
「誰がチビよ。まだまだ負けてないわ」
 そう言うと背伸びをして見せた。でも、思春期の男性とはさすがに負けてしまっているのは誰の目から見ても明らかだった。
「ヒロ、よくお母さんのところに来るって決断してくれたわね。あんなにおばあちゃんッ子だったのに」
「俺だって、オカンとの時間を大切にしたいと思ったんや。いつまでもおばあちゃんのそばで育つのより、オカンが東京で頑張って稼いでくれていることも知ってたしな。オトンには親孝行らしいこと何も出来てないし、てか、オトンの思い出なんてほとんどないしな」
 ヒロの「親孝行」という言葉に母親は何もしてあげられなかった今日までの日々に不甲斐なさどころか後悔の念さえ覚えていた。それでもヒロの前では気丈に振る舞うため、母親らしくいたいと思えた瞬間だった。
「お母さんもヒロにはこれから愛情注ぐからね!」
 母親はヒロを抱きしめると、「やめてくれや。恥ずかしい」と小さくこぼす我が子により一層、愛を感じるのだった。
第一章 第二項 ―完―

第一章 第三項

「ところでヒロ、こっちの高校の入試を受けることになると思うけど、ちゃんと勉強はしてきた?」
「なに言うてんねん。俺は中学で成績トップやったんやで」
 ヒロは母親の顔を見てニヤッと笑みを浮かべる。
「じゃあ、この区域のトップの垣山高校の入学試験を受ける予定?」
「いや、一つランクを落として折内高校へ行こうと思う」
 そう言葉を残すヒロに母親は黙ってはいなかった。
「成績トップなら問題なく受かると思うのにどうして?」
「難関校より、一つ下のランクの折内高校なら成績を上位にしたまま高校生活を満喫出来そうやからな」
 ヒロはそんなことを思い、折内高校への入学を考えていたのだった。大阪からやってきて友達もいないし、頼れるのは母親だけの彼にはどこの高校がいいのかさえも分からない中、大阪で勉強と運動を人一倍頑張ってきたことがここに来てヒロを優位に立たせることとなった。
「中学校の友達とは連絡は取っているの?」
「友達なんておらんかったで。俺が上京しようが、何しようが上の空やったしな。せやから、どこの高校に行っても構わへん」
 中学の時の友達がいないということに母親は気がかりだった。しかし、当の本人であるヒロはなんてことないという顔を見せる。
「イジメを受けてたわけじゃないの?」
「イジメをするやつは俺より遙かに幼稚な奴やったと思てるよ。成績が良すぎて気にくわない顔をしている奴も山ほどおったしな。それはただの妬みやっちゅうこともなんもせんでもわかっとった。だから、俺は自分自身との戦いをしてたんや」
 我が子がイジメを受けていたことに強く傷付いていた母親とうって代わってケロッとしていたヒロに驚きとどこか芯の強さを持っていたことに母親はすごく感動していた。
「三年間、仲良くしていた人もいなかったの?」
「うーん、俺は友達と呼べる人はおらんかった気がするな。でも、孤独やなかったで。帰ったらおばあちゃんおったしな」
 祖母のそばですくすく育ってくれたことがなによりも嬉しかったが、自分がそばにいれればこんな辛い思いなんてさせなかったのにと思う故、心を痛めてしまう。
「大変やったね。お母さん代わってあげられなくてごめんね」
「なにをそんな辛気くさい顔をしてんねんな。なんとも思ってへんから気にしなや。別にしんどいとか思ったこともなかったで。オカンのとこにもこれて良かったし」
 ヒロは悲しそうな顔をする母親の心情を気にかけた。でも、本当にしんどい日々を送ってきたわけではないということがヒロの表情を察するに彼の本当の気持ちであるように見て取れた。
第一章 第三項 ―完―

第一章 第四項

 いよいよ折内高校の入学試験日がやってきた。ヒロはなんの心配も不安も抱えていなかった。一限目は彼の得意分野である数学。
「初っぱなから得意分野って俺なんかもってんちゃうか?」
 そんな気持ちで入試をむしろ楽しんでいた。午後からは英語のテストが待っている。お昼ご飯を食べ終えると、保冷剤の下から小さな包装紙を見つける。
「なんや、これ?」
 手に取ってみると、それは受験生応援のチョコレート菓子だった。
「オカン。ありがとう。気合い入れていこ!」
 彼はさらに集中して入試問題に取りかかった。終始、難しい問題に出会うこともなく、無事に入試当日を過ごしていく。
 数日後、入試結果がヒロの元へ郵送されてきた。封を切るとそこには合格証書と学費納入手続きなどの書類が一式揃っていた。すると、ヒラヒラと封筒から一枚の紙切れが落ちる。
「なんや、これ?」
 その書類には「特待生」の文字。単に合格したわけではなく、学費と入学金を免除してもらえるシステムに合格したのだ。これにはヒロも驚く。なによりも一番驚いたのは母親だった。
「ヒロ、あなたすごいわよ」
「せやから言うたやろ? 勉強にはちょっと自信があるって、でも、特待生まで取れるとは思ってへんかたけど」
 ヒロはまだ目を疑っていた。しかし、この特待生が母親の足かせを一つ無くしていくのではないのかな、と思うと嬉しさと「さすが俺!」という気持ちもこみ上げてきてヒロは小さくガッツポーズを作った。
 新しい高校生活で何かが変わる。どこか楽観的にヒロは考えてた。大阪では友達なんて作れなかった。こっちにきたら再出発だと意気込む。
 ところが、高校へ進学をしたところで環境や人間関係の変化で何か変わるということもこれといってなかった。友達と呼べる親密な関係の人ができるわけでもなく、学校で少し話をする人がいる程度で、外では全く話すこともなく友達と遊ぶことなんてもってのほかだった。変わっていないのは勉学に真面目に励んでクラスでも数本の指に入っていること。そんな状態のまま高校の時間もいつの間にか二年間が過ぎていった。しかし、そんな中にも二年間共に過ごし続けた友人とは呼べないが知り合い程度の人間も少なからずいたのも確かだった。
「須崎! たまには遊びに行かないか?」
「俺はあんまり外で遊ぶタイプやないから、また気が向いたらな」
「なんでだよ。大阪弁教えて欲しいのにな」
 わざわざそんな風に声をかけてくれたクラスメイトの小杉宗典の言葉を投げ捨ててしまうかのように言葉を返してしまった。特別小杉のことが嫌いとか好きといった感情で振り切ったわけではなく、誰かと共に遊ぶということに慣れていないだけだった。そのため、友人関係でどう接したらいいのかが分からず、友人が出来る前の段階で足を止めていたのだ。
 真面目でクラスの中でも比較的大人しいヒロにとってどんな試験よりも難しいのがこうした人間関係だった。このような状況である以上、友人が出来ず前に進めないのが一番の今の課題であることが誰の目から見ても明らかだった。
第一章 第四項 ―完―

第一章 第五項

「毎日が平凡すぎて嫌になるで。無理もないか。学校に来れば勉強に明け暮れて、帰ったらまた予習、復習の毎日なわけやしな。小杉の誘いも断ってばかりで悪いんやけど。せっかくの友情物語も語られへんってわけか。フッ、誰がどう見ても八方塞がりやな」
 そんなことを考えて、教室の一番隅っこの座席で授業に身が入っていないのが、丸わかりになっていたのを忘れていた。そこに差し込む化学担当の神楽坂から声が飛び込む。
「おい! 須崎! なにをボーッとしてるんだ!」
 我に帰ると神楽坂の方を見る。まるでケンカを始めるかのようなバチバチとした視線のつばぜり合いは神楽坂の質問で発展する。
「この問題の答えは? 分かっているんだろうな?」
 神楽坂の攻撃に負けじと応戦する。
「当然や。水の化学式と二酸化炭素の化学式の配合やんな」
 ヒロの言葉に神楽坂は少し苦しそうな表情へと変わっていくのが見て取れた。ここまでくると、ヒロに軍配が上がる。
「何か間違いあるんか?」
 さらに神楽坂に畳み掛ける。すると、神楽坂はもうお手上げの表情をして、一言返す。
「……正解だ」
 神楽坂はヒロの席の近くから移動して、教卓へと戻る。
「ったく。勝てもしない勝負を挑んでくるなて。神楽坂のやつも」
 やっかんでくる神楽坂に対して、そんな感情を抱きながら、今度は窓の外へと視線を向ける。雲一つない青空にヒロの心は少し穏やかさを取り戻していく。
「こんなに綺麗な空があるのに俺は一体なにしてるんやろか?」
 曇りがかった自分の心を清めるように青空を見上げていた。すると、授業終了のチャイムが鳴り響く。神楽坂は「今日はここまで」と声を上げて、起立、礼の挨拶を済ませると足早に教室を後にした。
 神楽坂は中年の小太りで生徒たちは皆、彼のことを陰で「肉まん」と呼んでいた。
「須崎!」
 今度声をかけてきたのは小杉と行動していることが多い、森浩介だった。
「なんや、森」
 いきなり声をかけられたのに焦って、森にぶっきらぼうな言葉しか返せない。
「そう、ピリピリするなって。肉まんのヤツお前に噛みつくなんてバカげてるよな。この学年でお前以上に勉強できるヤツなんて、いやしないのにさ」
 森は鼻の頭を少し掻きながら言葉を紡いでいく。
「別にそんなことどうでもええわ。肉まんは俺とケンカがしたくてたまらないみたいやったしな。それより、何か用か? 俺は早めに帰りたいんやけど」
 ヒロは部活には所属しておらず、授業が終わったらすぐに帰るのが日常だった。友人もいないに等しかったので、そのルーティンを崩されるのがそもそも嫌いだった。
第一章 第五項 ―完―

第一章 第六項

「だから、ピリピリするなって。お前にちょっと用事があって話しかけてるんだから」
 森のまるで用事がなかったら話す必要性がないと言わんばかりの言葉のチョイスにヒロはさらに腹が立ち始める。
「せやから、なんやねん。用事って。俺、帰りたい言うてるやろ」
 嫌味を入れながら早く内容を伝えろと催促する。
「まぁ、待てって。明日、日曜日で休みだろ。俺と小杉でカラオケに行くんだけど、一緒に行かないかな? と、思ってさ。どうだ?」
 森の言葉に今日が土曜日だったことを思い出す。折内高校では進学コースのみ、土曜日も授業を行なっていた。しかし、内容としてはそんなことどうでもよかった。
「カラオケ……」
 友達と遊ぶことにすら慣れていないのに、よりによってカラオケなんて口が裂けても行きたいなんて言えない状態だった。
「森、こいつはこないって。いつも俺の誘い、断るし。な? 須崎」



  タチヨミ版はここまでとなります。


【RE:】DIAMOND of BLESS

2020年12月9日 発行 初版

著  者:兼高 貴也
発  行:無色出版

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兼高 貴也

1988年12月14日大阪府門真市生まれ。高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。関西外国語大学スペイン語学科を卒業。大学一年時、著書である長編小説『突然変異~mutation~』を執筆。同時期において精神疾患である「双極性障害Ⅱ型」を発病。大学卒業後、自宅療養の傍ら作品を数多く執筆。インターネットを介して作品を公表し続け、連載時には小説サイトのランキング上位を獲得するなどの経歴を持つ。その他、小説のみならずオーディオドラマの脚本・監督・マンガ原案の作成・ボーカロイド曲の作詞など様々な分野でマルチに活動。
闘病生活を送りながら、執筆をし続けることで同じように苦しむ読者に「勇気」と「希望」を与えることを目標にしながら、「出来ないことはない」と語り続けることが最大の夢である。

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