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エッセイ集・ほっとクリスマス

クリスマスエッセイ集制作委員会

TUMUG出版



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【目次】

大きすぎるセーター          作・一ノ瀬音

サンタのこないクリスマス       作・吉本絵美

ひとりポッチのクリスマス       作・へるるん

SILENT NIGHT       作・たてのれいこ

父さんはサンタ             作・橘祐介

プレゼント               作・ひろみつえいじ

楽シミマス 苦シミマス        作・たてのれいこ
ーメリークリスマスー

12月のファン感謝デーの出来事    作・Tohru Hsegawa

本当のクリスマス           作・平安名楽真

大きなツリーを見下ろして       作:松田詩依 シナスタジアデザイン

大正15年のクリスマス        作・名島也惟

イブの初雪               作・橘祐介




大きすぎるセーター

「おおでかいな」
「えっ」
「ほらっ」僕は自分の身体にセーターをあわせて見せる。
「んん、確かに…」
クリスマスに手編みのセーターをプレゼントしてくれた彼女は
照れくさそうにしてた。
そして、少し顔が曇った。

ないしょで僕に渡そうと、採寸をせずに勘でサイズを決めたようだ、
そりゃ、違って当然だろ。
濃いグレーと淡いグレーの2トーン、
イニシャルまで入っている。
サイズさえ合ってればかなりいい。
でも、ところどころ糸がほつれていたりして、
一生懸命に編んでくれたのが分かる。
気軽にサイズ聞けば良かったのに、もう少し上手く編めただろうに…、

彼女はすべてにおいて不器用すぎたのだ、
そんな彼女が愛しくて、愛しかった。

「ありがとう」僕は小さな声で言った。
「うん、ちょと大きかったね」
「いや、かなり」
「バカッ」彼女はちょとふくれ面になる。

窓の外の遠くからジングルベルが聞こえてくる。
はじめて一緒に過ごすクリスマスイブ。
出会った時はこんな夜がくるとは思っていなかった。
春、映画研究会での出会いだった。

彼女は僕と別の大学。
地区の映研の会合ではじめて彼女と出会った。
その時はあまり話をしないで、
彼女もそっけなかった。
そして、彼女の映研と僕の映研が作品を共同で制作することになる。
僕は助監督。
彼女はささやかな脇役。
出番もほとんどない。

でも僕は見た。
だれも見ていないところで、セリフを500回、繰り返し、繰り返し練習しているのを。
それも毎日、毎日…。
まっすぐに前だけを見て。
その時不覚にも恋に落ちた。
はじめての体験だった。
これまでもつきあった娘はいた。
でも、今回はなんだか違う。
こんな気持ちになったのはじめて…。

それから、普通に話せてたのが、急にぎくしゃくしはじめた。
よく作品制作の打ち合わせをした。
何だか変なカンジになった。

想いを伝える勇気など0%。
せつなさはつのるばかり、
親友の浩輝に相談した。
「話は分かった、その惚れ方はお前らしくないな、まっいいか、作戦はこうだ…」
「ああ…」
深夜まで、作戦会議は続く。
映画に誘うというたわいのない作戦だが、ポイントは一緒に観る作品、
これが良かった。

そして数日後、彼女と僕はいつもの打ち合わせが終わったあと。
唐突に彼女に告げた。
「映画行こうか?」
「エッ」
「ダ・カ・ラ映画」
「何て映画?」
「ひまわり」
「知らないよ」
「たぶんそうだろ、古いフランス映画。ソフィアローレンが主演なんだ、音楽がすごくいい」
「へー、何かピントこない、けど、フランス映画っていいかも」
「だろ」
「どんなストーリー」
「それが、実は僕もはじめて観る」
「いいかげんね、でもわかった…」

それから彼女との日々が始まった。
梅雨が過ぎ、雨が上がり、空が晴わたり、笑って、はしゃいで、ケンカして、秋になって、
栗ひろいなんかしたりして、
二人の日々を重ね、そしてクリスマスイブ。


「ねえ、サンタって信じてる?」
「いや」
「だよね、じゃ幼かった頃は」
「それなら信じてたかも」
「私はね、最初から信じてなかったの、醒めてた娘だったの」
「そう」
「うん、でもね、今は信じることにしたの」
「どうして?」
「言わないっ」

僕は彼女が編んでくれたダボダボのセーターを着て、
彼女と小さなクリスマスケーキを食べた…。
しあわせだった

10年後のクリスマスイブ。
特大の靴下を枕もとにおいて、娘がすやすやと寝てる。
隣には妻。
それは彼女と違う名字の人。

寝静まった彼女たちの隣の部屋で、
妻に見つからないように、ダンボールにしまっておいた、あのセーターを
そっと取りだしてみた。
妻に申し訳ない、ホントは捨てなくちゃいけなかった。
でも、わかっていてても、捨てられなかった、

彼女は僕の青春という季節のすべてだったから…。

【作・一ノ瀬音】

サンタの来ないクリスマスの話

私の家にはサンタさんがいらっしゃったことがありません。
我が家がキリスト教ではないからでしょうか?
それとも私がいい子にしていなかったからでしょうか?

あ!我が家には煙突がないからサンタさんがお家に入る方法が分からなかったのでしょうか?
なんでも知ってるWikipedia先生によると、サンタクロースとはキリスト教圏における伝説の人物
だそう。なんかこう書いてあると強そう!!からのちょっぴり遠い存在に感じますね。
同サイトにはこのようにも記載してあります。サンタクロースはニコラウスという実在する人物
がモデルになっています。ニコラウスは、貧しさのあまり三人の娘を身売りしなければならなくなる家族の存在を知り、真夜中にその家を訪れます。窓から金貨を投げ入れ、
このとき暖炉には靴下が下げられていており、金貨はその靴下の中に入ったのです。(Wikipedia引用)
つまり、見返りを求めない愛を他人に捧げられる人はきっとみんなサンタクロースと同じように
伝説上の人物(笑)として語り継がれてもいいということですね。

我が家には一度もサンタさんがお見えになったことはありませんが、その代わりプレゼントを
買ってもらってお父さんに感謝する日でした。
我が家では隠すこともなく、当たり前にサンタさんイコールお父さんでした。ていうか、
サンタさんなんてこの世にいませんと、母親からずばり言われてました。そんなよく分からないものに期待するより、目の前で良くしてくれた方へのお礼を忘れてはいけませんよ、
そして家族といえど感謝の気持ちをわすれてはいけませんといいたかったのでしょうが、
そこは昭和世代の我が母親。
その辺をダイナミック・インクルージョンして「サンタなんかいません。」の
一行になったようです。

その教育方針が良かったのかはどうかはよくわかりませんが、わたしはどちらかといえばよく
ありがとうと口にする大人になったと思います。

【作・吉本絵美】

ひとりポッチのクリスマス

これは昔大学の先輩から聞いた話なんだけどさ。
こんなドラマみたいなことが本当に起きたのか今となってはわからないけど、クリスマスって不思議なことが起こるのかもしれないね。

「ありがとうございました、良いクリスマスを」
オレは今年もまた他人のクリスマスを祝っている。
大学4年生にもなってアルバイトの毎日、すべてオレが悪いんだけど。
友達はみんな就職を決めてインターンに勤しんでいる。
オレはというと都会の片隅で休む時間もないくらい忙しくクリスマスケーキを売っているというのに。

「いらっしゃいませ、クリスマスケーキはいかがですか?」
「あら、今年のケーキは一段と豪華ね」
「今年のコンセプトは盛々盛り上げ! クリームも3割増しです!」
「うふふ、相変わらずあなた面白いわね。1個いただくわ」

この奥様は毎年オレがバイトしている店でケーキを買ってくれる。
まあ、たしかにケーキの味は美味しいのだが、コンセプトがダサいのが困ったものだ。

「お疲れ様、今日はもう上がっていいよ。あとケーキ1個持っていきな」
「えー、このカロリーの塊みたいなケーキなんでいらないスよ」
「俺の作った作品を食えないってのか? いい度胸だ」
「あーはいはい、わかってますって。店長の愛のこもった作品ありがたくいただきます!」
「ところで、就職の件考えてくれた?」
「あー、そうですね、もうちょっと考えさせてください」
「君が来てくれたらウチも助かるんだよね、前向きに考えてくれ」
こうしてクリーム3割増しのケーキを持ち帰ることになった。
店長は顔に似合わずケーキだけは旨いんだよな、謎だ。それにしてもこのケーキどうするかな、一人で食べるには大きすぎるし。
自宅への帰り道、かわいいケーキの箱を持った独り身の大学生が歩いている。こんな姿友達に見られたら笑われるだろうなあ。

「……オレ、何してんだろう」
あるきながら将来のことをふと考えてしまった途端、悲しくなってくる。涙こそ見せないが胸の奥からモヤモヤとこみ上げてくるものを感じていた。
来年はどうするかな、このままあの店に就職して毎年クリスマスケーキを売るってのも悪くない。
売上だって悪くないし、馴染みの客も増えた。いい加減夢を諦めるのも必要なのかな。
足取りは重く、なかなか前に進まない。それに一年のうちで一番忙しい日だ、流石に疲れた。
公園のベンチで少し休もう、クリスマスの夜、ひとりぼっち公園のベンチに座りケーキを抱えている滑稽な男が完成するが。
オレが向かった公園、そこには先客がいた。少女だ。
時間はすでに22時を回っている。最近の子どもは夜遅くまで出歩くんだよな、これだから最近の若いもんは。
しかし何やら様子がおかしい。うつむいてピクリとも動かない。
足元には大きな旅行かばん、汚れたスニーカー。わかりやすい家出だな。
こんな時間にこんな男が声をかけたら犯罪者扱いされるかもしれんが、放ってはおけない。

「あのー、君どうしたの? 家出?」
「ひぇっ! ごめんなさいごめんなさい……」
「いやいや、別に何もしないって。どこから来たの? こんな時間似一人じゃ危ないって」
「良いんです、行くところもないし。帰る場所もないし」
うーん、親の虐待が原因なのか、それにしても怪我はしてなさそうだし。
警察に保護してもらった方が良さそうだ、外は寒いし。
スマートフォンを取り出そうとした時、少女がこちらを向いた。

「お兄さん、これからクリスマスパーティでしょ? 早く行きなよ」
「私のことはいいからさ、バイバイ」
大人の男がクリスマスケーキを持ってこんな時間に歩いている。そりゃそう思うよな。
「あはは、アルバイトの帰りでさ。これはバイト先の余り物なんだ」
「お兄さんもしかしてぼっちなの?」
「うわー、見ず知らずの人に対してキッツイなあ……あってるけど」
「クリスマスにアルバイトなんて、悲しくならない? 私ならそんな仕事絶対やりたくないわ」
なかなか生意気な少女だ。怒ってもいいところだぞ。
「オレだって好きでやってるんじゃないさ、仕事だからね」
「それに、ケーキを買ってくれる人はみんな笑顔で帰っていくんだ。その笑顔を作る手助けをしてると思ったら案外たのしいよ」
少女は悲しみの中に嫌悪の表情を見せる。明らかに引かれているようだ。
「いるよね、そういう偽善者っぽい人」
一体何なんだ、初対面でバカにされる覚えはこれっぽっちもないぞ。
「そういう君はここで何してるのさ、家出なら警察に保護してもらおう」
「通報したいならすれば? もう歩き疲れちゃったから警察なんでタクシー代わりよ」
「この税金ドロボーめ。まあいい腹減ってるだろ。ケーキでも食え」
オレは店長から押し付けられたケーキの箱を開封する。
「はあ? 何いってんの。そんなもんいらな……」
箱から取り出したケーキを見て少女の表情が変わる。明らかに興味津津の表情だ。
「すげえだろ、これを全然かわいくない店長が作るんだからな。どこにこんな想像力があるのか謎なんだ」
「あ、フォークはこれな。お手拭きもあるぞ」
少女のお腹がグーと鳴る。こんな寒い屋外じゃなければ特別なご馳走なんだろうけど、そこは大目に見てくれ。
「仕方ないわね、そんなに食べてほしいなら頂くわ」
オレが差し出したケーキを素直に受け取る。
「いやー助かったわ、オレ一人じゃ毎年余して捨ててしまうから」
「お兄さん、毎年ボッチなのね。可愛そうに」
「お前に言われたくないわ!」
ケーキを一口頬張った少女は、突然涙を流す。
「え、ちょっと、オレ何かした? 大きな声でツッコミ入れたのは悪かったって」
「違うの、とっても美味しいから……」
パクパクとケーキを食べ、あっという間になくなってしまった。
「おかわり」
まったく、何がしたいんだかわからんが、腹がふくれれば正気になるだろう。
「ほら、全部食ってもいいぞ。オレは食べ空きたからな」
あれほど大きなケーキがどんどん無くなっていく。10分もしないうちにペロッと完食してしまった。
「お前すげえな、全部食ったのか」
「あー、お腹いっぱい。満足満足」
そりゃ満足だろう、見てるだけでお腹いっぱいだ。
「さて、腹が膨れたんなら家に帰りな。そろそろクリスマスも終わるぞ。

「家かあ、あればいいんだけどなあ」
家でどころかホームレス? 一体この子は何なんだ?
やっぱり警察に届けるべきか。

「お前、本当に家がないのか?」
「さあて、どうかな」

「さて、お腹もいっぱいになったし帰ろっかな」
「え、やっぱり家があるんじゃないか」
「こんな楽しいクリスマスは初めてよ、お腹いっぱい美味しいケーキも食べれたし」
「見ず知らずの少女にケーキを与えて食べさせたって、なんか犯罪の匂いがするわね」
そんな話をしていると遠くから一台のタクシーがやってきた。
「あ、そろそろタイムアップね」
少女の身内が迎えに来たようだ。母親らしき人が降りてきた。
母親はオレのことを少し警戒しつつ、少女の話す経緯を聞いて深々と頭を下げてくれた。
タクシーに乗るまで何度もこちらを振り向いて頭を下げている。
そして少女は行ってしまった。

翌朝。
昨日の出来事が頭から離れず眠れなかった。
あの少女は一体何だったんだろうか。
もしかしたら、いつの日か自分の足でケーキを買いに来るかもしれない。
その姿を見届けないとこの謎は一生オレを付きまとうに違いない。
来年のクリスマスまでこの謎は残しておこう。

【作・へるるん】

SILENT NIGHT

今日はクリスマスイブ。
朝から降り始めた雪は、辺り一面を真っ白に染め、しんしんと静かに降り続けている。外はまるで冷凍庫のような寒さ。

大きな煙突のある洋風の家に、親子三人が暮らしている。

この家の暖炉は現役で活躍中。
オレンジ色の暖かで優しい炎がパチパチとはぜ、その音が心地よい。
リビングは、過ごしやすく快適な温度に保たれている。
その恵まれたリビングでくつろいでいたパパの元へ、パジャマ姿の少年聖君(小学一年生)がやってきた。

「パパ、サンタさん、こんなに寒いと風邪引かないかな?」
「聖君、眠れなかったの?」 

パパはマスクをして、聖君を優しく抱き寄せた。

「サンタさんはね、この日の為に、日夜朝暮に怠らず体を鍛えているから大丈夫なんです」
「だってでも、サンタさんはおじいさんでしょ? 新型コロナも流行っているし」
「サンタさんはね、一年に一度のこの一大イベントに命をかけているんだから」
「本当に? ボクの所へ来てくれるかな」

それでも、心配を拭えない聖君。パパは聖君を根気よく諭す。

「もちろん。よいこの所へ必ず来てくれます。聖君は良い子ですか?」

聖君は元気よく手を挙げて、

「はい!!」
「それなら安心して今夜はもうおやすみ。サンタさんのお仕事を早く終わらせてあげようね」

聖君は、ようやく納得したのか自分の部屋へ戻って行った。
パパは、暖炉の火を消した。
サンタさんが火傷をしないようにするため。
エアコンをつけ、リビングを暖める。

しばらくして、パパが子供部屋の様子を見に行くと、聖君は小さな寝息を立てぐっすりと眠っている様子。
パパは、ほっとしてリビングへ戻った。

するとリビングの暖炉につながる煙突で物音がした。

やがて真っ白いお髭に、赤い例の服を着たおじいさんが姿を現した。


「サンタさん。お待たせして申し訳ありません。息子はようやく寝ました」

パパがすまなそうに言うと、

「ふぉっふぉっふぉっ。他の子共の所を回ってきたから問題ないですぞ」

白い大きな袋を肩に掛け、ゆっくりとした足取りで聖君の部屋へと入って行く。

「良い子はここかな? メリークリスマス」

本物のサンタさんが、聖君のぶら下げた靴下へプレゼントを入れた。


リビングに戻ってきたサンタさんに、パパが使い捨てカイロと暖かい飲み物を渡す。

「サンタさん、今年もありがとうございます」
「パパさん毎年、お気遣いありがとう。外でトナカイを待たせてるから、また来年、ふぉっふぉっふぉっ」

「ありがとうございました。気をつけて」

大らかな笑顔を残し、サンタさんは帰って行った。
翌日の朝、靴下からはみ出たプレゼントを発見した聖君。
興奮しておもちゃを抱えリビングに走ってきた。

「パパ、ありがとう。これ、欲しかったの! パパが入れてくれたんでしょ?」

聖君の言葉にパパは驚いて目を見開いた。

「聖君、サンタさんの血と汗と涙の結晶である、このプレゼントを君は信じてないのかい?」
「だって、友達のあっ君が言ってたんだもん・・・」
「聖君、きみは昨日サンタさんの体を心配をしていたよね? あれは嘘だったの?」

パパが聖君を見つめる真剣な眼差しに、聖君はとうとう泣き出してしまった。

「あなた、聖を泣かせないでちょうだい」

泣き声を聞きつけたママがリビングに入って来ると、聖君はママにわぁっと抱きついた。泣き声がリビングに響く。


窓の外、雪は止み、明るいお日様が顔を出している。雪は溶けるだろう。

「サンタさんを信じない子は、サンタさんからのプレゼントを貰えないんだ」

窓の外を見ながら、パパはとても悲しそうに呟く。

「来年はもうサンタさん、我が家へは来てくれない・・・」

パパは、サンタさんを子供の頃からずっと信じていたので大人になって、本物のサンタさんに会えていたのだった。


END
(この物語はフィクションです) 

【作・たてのれいこ】
    

父さんはサンタ


クリスマスイブ。

「さっきサンタに会ってな、これ慎二に渡してくれと、あずかってきた」。
父が、僕にそう言いながら、おもちゃのライフルを渡してくれた。
僕は大喜び。
パーン、パーンと弾を打つ真似をする。
ヒーローになったような、いい気分。
まるで西部劇の主人公。

そして、クリスマスケーキをみんなで食べて、
キャンドルを、ふーと、消して、みんなで笑って、
下手くそなクリスマスソングを歌って
テレビを見て、
しあわせな気持ちで眠りについた。

どんな夢を見たんだろう。
プレゼントをもらったとき父に聞いた
「ねえ、どこでサンタさんに会ったの?」
「ああ、大呉の前だ」(大呉は当時、地元で一番大きかった百貨店)
「へえー」
「悪いけど、忙しくて慎二くんの家に行けないんで、これを渡して…と預かった」
「そうか!」

今は事情がよく分かる、よくぞそんなうそを考えた。
まだ、サンタを信じていて、家の煙突が細いので、
これじゃサンタさんが入れないと、
真剣に考えていた。(当時は五右衛門風呂で細い煙突があった)
そんなこんなで、クリスマスも終わり、お年玉がもらえるお正月に。
あのころは、コンビニとか当然なくて、お正月は店も閉まっていて、
母さんはお正月の準備で大忙し。
「正月なんかこなきゃいいのに」とぼやいていたのを思い出す。

無邪気に、いろいろなことを信じられてた幼い頃。
もちろん、戻ることは出来ないし、戻りたいとも思わない。
あれから、幾つかの恋をして、いろんな人に出会って、裏切られたりもして、
仕事をして、結婚して、子供が出来て、少し年老いて、またクリスマスを迎える。
今、あの時の父親の気持ちが痛いほどわかる。

ただ僕を喜ばせたかったんだと。
それは、何の見返りも期待しないで、
こうして欲しいという思いもなくて、
僕の笑顔をみたかっただけなんだろう、と。

小さな写真になった父に、てれくさいけど、無言でつぶやく。

ありがとう…。

【作・橘祐介】

プレゼント

学生時代に母からチェックのシャツをクリスマスにプレゼントしてもらいました。
当時、僕はあまり嬉しく思いませんでした。なので、返品をしてもらおうと思いました。
その日、悲しい気持ちになる夢を見ました。夢の内容にはあまり触れないのですが、
プレゼントされたチェックのシャツがそこにあり母の姿もありました。

翌日、僕は考えを改めてチェックのシャツを洋服棚しまいました。
学生時代、あまり着ることがなかったのですが、大学を卒業した頃から、時々、
着るようになりました。

いまでも時折着ています。
クリスマスは貰ってばかりだったのですが、プレゼントをする事も増えました。
色々なお店行き、選ぶ時には時間が思いの外掛かるものです。
母がどの様な気持ちでチェックのシャツを選んだのか、少しわかるようになりました。

今年はコロナで外出を控えるようにしていますが、クリスマスプレゼントは買いに
出かけたいのです。

貰うのも嬉しい、渡すのも嬉しいプレゼント。
母には地元のお店でシャツを買い、届けようかと思います。

サンタは母であったり、父であったり、時々、僕であったりそんな感じです。

【作・ひろみつえいじ】

楽シミマス 苦シミマス
ーメリークリスマスー


今から十年程前、私はとあるデパ地下の洋菓子店で働いていた。
生ケーキは扱っていなかったものの、可愛らしいオーナメントや日持ちのする
クリスマス菓子があった。
デパ地下の進物売り場といえば、お歳暮商戦がある。
十一月初めから繁忙期はスタートし、名を変え品を変えホワイトデーが終わるまでの四ヶ月半、
私は毎年落ち着かない気分で過ごしていた。

私の勤務する洋菓子店は、年末に恐怖の全員出勤なるものがあり、
それはメンバーが順番に休みを取り、あとは元旦の百貨店の休日まで、
ひたすら働くというもの。
毎日忙しく、業務が終わらず残業に明け暮れる。
帰宅が深夜になることも度々だった。
布団に入り目を閉じると一瞬で朝を迎える。
通勤時間がもったいないと感じていたあの頃。
クリスマス当日から、その全員出勤が始まる。

だから、私の大好きな姪っ子と楽しむクリスマス会が、私の年内最後の休みになっていた。
私にとって、クリスマス会は一年に一度のビッグなイベントで、姪っ子の自宅で開催される。
私はチキンとケーキを携え、プレゼントを抱え嬉々として集う。
姪っ子とその母二人で、会場となるリビングをクリスマスの飾りつけがなされ、

サイドボードの上に置かれた、オルゴールが内臓のサンタとトナカイのぬいぐるみが
クリスマス会を盛り上げてくれる。
姪っ子の伴奏により皆で、きよしこの夜を歌った。

「うちは仏教だから、クリスマスはしない」
そう両親に言われて育った私たち姉妹。
子供の頃、クリスマスケーキを食べない家だった。
もちろんクリスマスプレゼントもなかった。

だから、秘かに憧れていたのだ。
飲んで食べて、歌って姪っ子とゲームして、また飲み、食べる。
それは、端から見れば忘年会の酒盛りのような。
実の所、私は、翌日から始まる地獄の連勤を忘れたかったのかもしれない。
プレゼン交換の楽しさやゲームの景品をもらい、気づかぬうちに心がほっこりと温まる。

今考えると、翌日からの連勤を乗り越えるため、皆から鋭気をもらっていたのだと思う。
ああ、懐かしい思い出たち。
退職後もクリスマス会は開かれていた。
持参するクリスマスケーキは、お刺身といくら、とびっこ錦糸卵で飾られた寿司ケーキに
変わったけれど。
今年はコロナ禍でその日を迎える。

姪っ子が受験生ということもあり、開催中止になるだろう。
それは、私にとって、とても悲しい事だ。
だから、家でささやかなクリスマス会を催し、
合格祈願と世界平和を祈ろうと思っている、今日この頃。

【作・たてのれいこ】


12月のファン感謝デーでの出来事

ちょうど今から5年位前の12月・・・
うちのプロレス団体はいつも来ていただいているお客様に対して「ファン感謝デー」を開催していました。
100人も入れば満員の会場には大勢のお客様が詰めかけ、一通りお客様も入場し終えて”さあ、そろそろ試合を開始しようと会場のドアを閉めようとしたところ・・・
小学2年位の男の子がドアの隙間から会場内を覗いていました。
「ん?ボク、プロレス好きかい?」
自分が男の子に尋ねると、男の子は無言で会場の外にいたお母さんらしき人に駆け寄り、後ろに隠れます。
うちの団体は高校生以下入場無料、そしてこの日はファン感謝デーという事で入場料も半額だったので・・・
「ボク、プロレス観たいんだろ?いいよ。入って観ていきな」
それでもお母さんの後ろから離れようとしません。
「あの・・・よろしいんでしょうか?」
お母さんが申し訳なさそうに自分に問いかけます。
「ええ、うちは子供に関しては入場無料なので全然構わないですよ」
「でしたら、この子だけいいですか?私はいいですから」
お母さんに促され、男の子は会場内に入ります。
そしてお母さんはというと、会場からちょっと離れたところで待っていると言った状態。
そんな光景を見ていた会場を管理している担当の人が自分に近づいてきた
「ああ、あの人はちょっと複雑な事情があってねぇ・・・でもこれは有料興行だろ?あの人を入れてタダで見せるというのは他のお客さんに失礼だと思うよ」
確かに・・・
試合は白熱し、お客様も熱狂状態。で、男の子はというと・・・
後ろのほうで人の隙間から覗き込んでいるように見ていました。
自分もお母さんの事が気になって仕事に集中できないし・・・
よし、代表に相談しよう・・・
入場料を精算している代表にここまでの経緯を話します。
「ふーん」
代表は素っ気ない返事で返します。

前半の試合が終わって休憩時間になると代表は外で待ってるお母さんのところに向かいます。
「もう、後半なんで見て行ってください。子供さんも何か遠慮しちゃって後ろで申し訳なさそうに見ているみたいだし。それで申し訳ないっていうなら、大会終了後に靴袋の回収をお願いできますか?お金は出せないけど、それでよろしければ」
「いや、それじゃ申し訳ないですし」
「大丈夫です。俺、代表ですから。それに外寒いですし、風邪ひかれたらこっちも困るし、うちのスタッフも気になって仕方ないって言ってますから。むしろ入ってくれたほうがこちらとしてもありがたいんですよ」
ほぼ、半強制的に会場内に連れ込む代表。
会場にお母さんが入ってくるなり、男の子の顔がパァっと明るくなる。
「悪いけど、子供さんの場所、作ってあげてね~」
代表が他のプロレスファンに声をかける。
基本的にプロレスファンは優しい人が多いので、すぐさま最前列にスペースを作って親子を座らせてくれました。
「坊や、これ食べる?」
「ボク、プロレス観るの初めてか?」
男の子大人気、もはや主役状態です。
後半戦は前半以上の熱戦となり、お母さんの膝の上で男の子は目をキラキラさせながら試合に見入ってます。

その光景を見て、代表が自分に話しかけてきました。
「確かにルール違反だけどさ、いいんじゃないのたまには(笑)あのままだったら大会終了後の酒も不味かっただろうしね」
あ、そこですか。
やっぱ、酒ですか(笑)

大会終了後、靴袋の回収をしてくれたお母さん。その後ろで選手とじゃれ合う男の子。
全てが終わった後、お母さんが代表に深々と頭を下げて
「今日は本当にありがとうございました」
「いやいや、今度ここでやる時も是非靴袋の回収をお願いしていいですかね?本当に助かるんですよ」
会場から出て見送る自分らに振り向いてはお辞儀をする親子。そんな自分達を見ながら会場の管理担当が呆れながら・・・
「お前さん達本当にバカだね。銭勘定ができないというか、でもいいもの見させてもらったけどね(笑)」
「いやいや、全ては美味い酒を飲みたいが為ですよ(笑)」

別に大した事ではないけれど、その日の酒は一段と美味しかったのは言うまでもありません。

【作・Tohru Hsasegawa】

本当のクリスマス

 あれは俺が小学校の低学年だったころの話だ。いまから五十年くらい前のことに
なるだろうね。
 当時の沖縄は本土復帰目前だった米軍統治下の時代。車は左ハンドルで右側通行、道路標識はマイル表示、他府県に行くときはパスポートが必要で、通貨は米ドルだった。しかもモノのない時代だから物価が安かった。現在のレートは一ドル百円ほどだが、当時は一ドル三六〇円くらい。公衆電話は五セント硬貨を入れればかけ放題。物価安の時代だから一ドルで数千円くらいの価値があるような感覚だった。ヤナワラバー(沖縄方言で悪ガキ)だった俺と悪友たちは、お年玉で一ドルもらえれば大喜びをした。それだけあればバスで映画館まで行ってスティーブ・マックィーンの『栄光のル・マン』を観た帰りに沖縄そばを食べることができた。
 ベトナムへ出撃するため、空軍基地からは連日のように巨大な黒い爆撃機が飛び立ち、反戦デモが頻発し、米軍人の事故や犯罪は相変わらず無罪だらけ。怒ったおじさんたちが米軍人の車を、かたっぱしからひっくり返して燃やすという騒動を起こした。夜八時になればドリフを見て笑い転げ、ラジオからはモンキーズの『デイドリーム・ビリーバー』やブルーコメッツの『ブルー・シャトー』が流れていた。
 当時の沖縄は貧しくて、見渡す限り赤瓦屋根の木造住宅ばかり。幹線道路しか舗装されておらず、あっちこっちにある空地や洞窟では沖縄戦当時の空薬莢や白骨がゴロゴロしていた。たまに不発弾を見つけて、なんとか爆発させようとして信管らしきところをハンマーで叩いたりしている危ないヤナワラバーもいた。それが俺だよ。よく暴発せず、無事だったと思っている。
 その頃の俺は、イタズラすることが大好き。火鉢を見ればひっくり返し、仏壇の香炉を家中にぶちまけ、ブリキのおもちゃをハンマーで叩いて潰した。大人から「やるな」と注意されたら必ずやらかす子どもだった。人をからかったりして困った顔を見るのが、とてもおもしろかったのだ。
 俺の住んでいた界隈は、那覇市の外れにある港町。小学校も中学校も米軍住宅地とは金網で仕切られていた。つまり、フェンスの向こう側は治外法権の効いた外国というわけ。たとえ子どもであっても勝手に侵入すると犯罪者となるのだ。どこまで本当か知らないが、向こう側の住所はカリフォルニア州だといわれていた。フェンスの中に一歩でも入ってしまったらMP(米軍の憲兵隊)に通報されたり、軍用犬をけしかけられたりした。とはいっても、そこは子どものやることで、結構金網を破いては探検をしに行った。戦後間もない頃は不法侵入をして米軍基地内の物資を盗んで横流しをすることを『戦果アギヤー』と呼んでいたそうだが、それは俺たちよりずいぶん上の世代の話。俺が物心ついたときには沖縄もそれなりに豊かになっており、危険を冒してまで法を破る者はいなかった。
 とはいえ、フェンスの側に立って向こう側を見ると緑の芝生がのびのびと広がり、白いマッチ箱のような瀟洒な住宅がたっぷり間隔を空けて建っている別世界だった。
 米軍住宅地には米軍人の家族はもちろん、軍に関連する様々な産業に従事する、いわゆる軍属と呼ばれる家族も入居していた。
 そんな米軍住宅地の中には数軒だが、フェンスの外に住む家族がいた。言葉の通じない沖縄の中だけど、住宅の造りはフェンスの中と同じだし、敷地もゆったりしていた。
 町中の米軍住宅の中に、幼い子どもがいる家族がいた。俺たちとは言葉の通じないアメリカの子どもたちだが、近所だし毎日のように顔をあわせるので、よく一緒に遊んだ。子ども同士って言葉があまり通じなくても結構いっしょに遊べるしな。なかでも、ある小さなかわいい女の子が俺によく懐いていた。名前はもう忘れてしまったけど、仮にメアリーとしておこう。メアリーは金髪、青い目で、いつもニコニコ笑っていて、なにかと俺についてまわっていた。
 そんなある日、いつものようにメアリーの家の周辺で遊んでいたときのことだ。家の前にいたメアリーが最近買ってもらったお気に入りの黄色いボールで遊んでいた。メアリーはそのとき一人だった。本当は俺たちと遊びたかったんだろうけど、面倒くさくて相手にしなかった。だって、そのとき我がヤナラワバーたちは、大声で叫びながらサッカーをしていた。だから、まだ小さいメアリーは足手まといだったわけよ。
 ゲームに負けてむしゃくしゃしていた俺の近くに、黄色いボールが転がってきた。俺はそのボールと、向こうに立っているメアリーを見た。よせばいいのにイタズラ心がむらむらして、走り込んで思い切り黄色いボールをキックした。もちろんメアリーに返すつもりだったのだが、あろうことか自分でも驚くほどのスーパーキック。ボールはメアリーの家のはるか上空を飛んでいく。
(しまった、やりすぎ)
(やった、すごいキック)
 この二つのことを俺はほぼ同時に思ったのだが、そこはヤナワラバー。ついガッツポーズで「やったぁ」と言っちまった。
 メアリーは飛んで行ったボールを見て大泣き。しかも悪いことに、いつのまにかメアリーのママがすぐ後ろに立っていた。
 やばいと思ったが後の祭り。俺はダッシュしてボールを探しに行った。視界の隅で、ママがメアリーを慰めつつ家の中に入って行くのが見えた。
(まぁ、いいや。ボールひろってかえすときにあやまればいいさ)
 俺は走りながら言い訳みたいにそんなことを考えていた。ところが、やっぱり案の定、ボールは見つからなかった。それどころかボールを探している途中で、やっていることを忘れて、ほかの友だちの誘いにのってしまい、気がついたら野球をやっていた。
 その後もメアリーやメアリーママにちゃんと謝らないといけないなぁと思いつつ、ついつい忘れて遊びほうけていた。

 そんなある年のクリスマスの日だった。当時はクリスマスを祝うという文化がまだ沖縄にはあまり定着しておらず、せいぜい寝ている間に親がソックス型のお菓子セットを用意しているくらいなものだった。
 いつものようにメアリーの家の近くで遊んでいると、メアリーママが手招きをしていた。なんだろうと思って近づくと、家の中にどうぞどうぞと案内するではないか。そんなことは初めてのことだった。そのころの俺は遠慮という脳機能が未発達だったので、ずんずん中に入った。
 すると、そこは見たことのない別世界。家全体にアイスクリームみたいな甘い香りがいっぱいで、壁ぎわには高い天井にくっつきそうなくらいの、でかくてキラキラしたクリスマスツリーがあった。壁もテーブルもいたるところ、ピカピカ光っていた。いまにして思えばイルミネーションやデコレーションだったのだろうが、初めて見るものばかりで驚きの連続だ。当時の日本の文化では、クリスマスを祝うということはメジャーではなかったもんね。テーブルの上には、チキンやピザなどのごちそうが山盛り。たっぷりいただいたあとのお土産として、めちゃくちゃ甘くてカラフルなお菓子をたくさん持たされた。
 普段迷惑ばかりかけているヤナワラバーに、なぜこんなにも親切にしてくれるのか不思議だった。当時のアメリカの一般家庭から当時の俺を見たら言葉も誠意も通じにくい未開の地のサル小僧に見えたのではないだろうか、などと大人になってから思った。

 それから二十年後のことだ。
 社会人になり、つきあっている恋人と結婚することになった。式の日取りが決まり、会場の下見をするためにキリスト教会を訪問した。すると初めて訪問したその教会の牧師が「教会で式を挙げるなら聖書で結婚を学んでみませんか」と提案してきた。結婚とは何かを学ぶということに魅力を感じた俺は、聖書の勉強会も参加した。難しい内容なら途中でやめようと気軽に参加した勉強会は案外おもしろくて、ついにコースの最後まで通った。最後は教会の礼拝に参加するというものだった。その日はクリスマス礼拝の日だった。
 賑やかなパーティーを連想して出かけた俺だったが意外にも質素で静かで厳かだった。賛美歌を歌い、牧師の話を聞いて、最後にコーヒーを飲んだ。印象的だったのは、牧師の話だった。
「クリスマスを日本語に翻訳すると救い主の礼拝です。この世界に救い主がやってきたことをお祝いすることがその始まりで、パーティーすることが目的ではありません」などと言う。しかも「救い主のイエス・キリストはたくさんの人の身代わりとなって死にました」とのこと。
 それまでの俺は、てっきり世界中でどんちゃん騒ぎをするのがクリスマスの習わしだと思っていた。そのとき急にわかった。メアリーのママたちがわざわざ不便で居心地が良くないベースの外に住んでいたり、近所のヤナワラバーにクリスマスの日に親切にしていたのは救い主のお祝いにちなんでいたのだと。どうやらそれを聖書では隣人愛と呼ぶらしい。
 いまは日本も沖縄も豊かになったが、困っている人はたくさん周りにいる。私もメアリーの親のように、子どもたちへなにかをプレゼントしたいと思う。特に家族への最高の贈り物は「時間」だ。毎月四、五回ある日曜日の中の一日は、クリスマスだということにしてみてはどうだろう。その休日には家族か、あるいは誰かのそばにいてあげたい。本当のクリスマスには物より思い出がよく似合うのだから。
                   了

【作・平安名楽真】

大きなツリーを見下ろして

僕は今日、想いを寄せている同じクラスの佐伯さんと二人で出掛ける。
 場所はサッポロファクトリー。レストラン、ショップ、映画館、ゲームセンター、色々なものが取り揃っている複合商業施設だ。
「中田くん!今日はよろしくね!」
「うん。こちらこそ、よろしく」
 大通駅で待ち合わせてそこから「二百メートル美術館」という長い距離に渡って様々なアート作品が展示してある地下道を歩いて目的地へと向かう。
 晴れてたり暖かい日は外を歩いてもいいのだが、冬になり寒さが増してくると道民は地下道を活用することが多い。
「この間、学校でね——」
 佐伯さんは楽しそうにいろいろな話をしてくれる。
 大通駅からファクトリーまでは少し離れているけれど、彼女と二人で並んで歩けるのが楽しくてあっという間にたどり着いてしまった。
「中田くん、キャラメルポップコーン好き? よかったら一緒に食べない?」
 映画館といえばポップコーン。佐伯さんと同じように僕もキャラメルポップコーンが大好きだ。
 共通点が見つかるたびに僕はついにやけたくなるのをぐっと堪えて、一緒に売店に並んでポップコーンと飲み物を買った。
 見る映画は人気のアニメ映画。
 僕が佐伯さんにこの原作漫画を貸したところかぐっと距離が縮まったのだ。
 二人で出掛ける緊張感は何処へやら。映画が始まると僕たちは夢中になってそれを見た。だけど時々僕は隣に佐伯さんがいることを思い出してしまう。すぐ隣に感じる佐伯さんの気配にドギマギして、所々映画の内容が飛んでしまった。

「映画面白かったね!」
「うん。見にきてよかったよ」
 映画が終わり、アトリウムという吹き抜けの大きなホールに出てきた。
 そこには冬になると十五メートルもある大きなクリスマスツリーのイルミネーションが点灯されるのだ。
 上から見下ろすと、幻想的に輝くツリーがとても美しく見えた。
「イルミネーション、きれいだね」
 柵に持たれながら、佐伯さんはとても楽しそうにツリーを眺めている。
「中田くん、今日はありがとうね。最近家に引きこもってばかりだったから……いい気分転換になったよ」
 僕の方を見て佐伯さんは目を細めた。
 マスク越しで彼女の表情まではわからないけれど、笑ってくれているのなら嬉しい。
「こんな時期だから……誘うの迷ったんだけど、声かけてみてよかった」
 僕も照れ臭そうに笑う。
 二人で声を出して笑い合う。和やかな空気。
「あの……さ、佐伯さん」
「ん?」
 クリスマスツリーが青く輝く、薄暗い場所。
 そこに立つ佐伯さんはお世辞なんかではなく本当に可愛かった。
 この幻想的な雰囲気が僕の背中を押す。今なら勇気を振り絞っていい出せると思う。
「僕……佐伯さんが好きです。よかったら、僕と、付き合って、くれませんか」
 勢いに任せて出た言葉は緊張で震えていた。
 恥ずかしくて怖くて、佐伯さんの顔を見られずにいると僕の手に触れた暖かくて柔らかい感触。
「はい。よろしく、お願いします」
 佐伯さんは僕の手をぎゅっと握る。
 その瞬間、クリスマスの音楽が流れ始め一時間に一度のクリスマスツリーのショーが始まった。
 美しい光景は、僕らを祝福しているようにもみえた。

【作:松田詩依 シナスタジアデザイン】

大正15年のクリスマス

「クリスマス? 何だそりゃ。食えるのか? 
 ほら……あれだ、一緒に街に出て食べたヤツがあっただろ──」

 栗子餅じゃないか、それ。何ボケてんだい、あんたは!  

「お前さん、何バカな事言ってんだい。
東京で今流行ってる西洋のお祭りの事じゃないか。あちらの神様が産まれた日をお祝いしましょうって。銀座のホテルでも賑やかに騒いでサァ! 」
 最近、俺の妻は西洋かぶれしてしまってどうもいけない。この村にも西洋文化が入ってくる昨今、どうも異国被れが酷くなって良くない兆候だ。

「ただいまぁ」小学校に通っている息子が帰ってきた。
「父ちゃん、これ先生から父ちゃんにって」
 俺が息子から貰った紙。学校から親に向けた案内だった。そこに書いてあるものは、
「なんだコリャ。クリスマス会の案内だってぇ? おい、義作、こんな西洋被れのお祭りなんて見せるんじゃねえよ」
 そこに書いてあったものは、この村の小学校で初めてクリスマスのお祝いというヤツを始めるから、父兄の方もお越し下さい、との案内だった。
 こんなヤソ教みたいな西洋被れみたいな祭りなんて必要無い。
俺は仏教徒だ。〝なんまんだぶ〟だ、〝はんにゃはらみいたあ〟だ。
踏み絵だ、踏み絵だ。

 利作さぁ────ん。
 土間の向こうから、俺の名前を呼ぶ声がした。
はあい。妻がいつもの顔に戻り玄関に出た。しばらくして。
「あんた、ち、ちょっと」
 俺を呼ぶ妻の声。仕方ねえ、と思い俺も玄関に出てみる。
 おう、利作さん。一番の知識人である銀さんだった。
「今度行われるクリスマス会なんだがね……利作さんも来るだろ? 」
なんだよ、銀さんあんたも西洋被れか? 
「おい銀さん、あんたの所に子供さんいないんじゃなかったのかい? 」 
 慌てた俺の言葉に、銀さんは苦笑しながら、
「おいおい利作さん、わしはもう孫くらいいてもおかしくない年だよ。ほれ、二つ田んぼの向こうに平屋根が一軒あるだろう。あそこの息子さんが一年じゃないか。クリスマスだから祝ってやろうかと思ってね」

「あらぁ、平太郎の所の息子さん? もう小学生かい、早いねぇ」
 それなら俺も聞いたことがある。あそこの家の平太郎は体が弱く子供に恵まれなかったが、なんとか子供を授かったとか。
 お爺さんに成り下がった銀さんが笑みに崩れながら、
「いやね、あの子がおじいちゃん、サンタさんが来るんだよって、聞かないんだよ。弱ってねえ。聞けば、お宅の所の義作ちゃんと年が近いというじゃないか。
 是非、どうだろうねえ……? 」
 こうして、俺もまた西洋被れになっていくのか?

 十二月二十四日の夜。
俺は、妻と子供と一緒にクリスマス会を行う小学校に来ていた。
その日、この山に囲まれている村は、昨日からの雪に覆われて周り一面が真っ白になっていた。西洋の夜の祭りだというのに、俺達は神事の時に来た、一張羅の綺麗な和服に、雪の中を歩く為に藁靴を履いている。
全く、ヤソ教の神様のお祝いもあったものではない。
 息子達が通う教室の中では、子供達や先生によって行われたのだろう、赤や白、金色の飾りつけをしていた。
 目を引いたのが、大人の背丈より高いくらいの樅の木に、同じような色の派手な飾り付けに色々なおもちゃを飾っていた事だ。西洋人形を小さくしたような木彫りが多かったが、こけしらしきものもあった。
「だからあれがクリスマスツリーなんだって。西洋の祭りで樅の木に色々な飾り付けをして、祝うんだってさ」
「そんな事をして何が楽しいんだい」
「あたしが知るもんかい」

 夜が更けて、次の日に差し掛かる頃。深夜。
 いつの間にか子供たちが集まる教室には、この村の大人たちが集まっていた。
クリスマス会の様子もそのままで、行われているのは夜もたけなわバカ騒ぎ。
 そんな時だ。銀さんの声だった。
てえへんだ! 天皇さんが崩御された! 
「ええっ⁉ 」
「えらいこっちゃ! 」
「次の天皇さんはどうすんだ⁉ 」
「分かるもんかぁ! 」
部屋で大騒ぎした連中は、銀さんが持ってきたラジオの肉声を聞くや……。
皆大慌てして、教室を後にしてまるで逃げるように出て行ってしまった。
──残ったのは、教室いっぱいに広がったクリスマスの飾り付けだけ…………。
荒れ果てたクリスマス会の会場のみ。人っ子一人も残さなかった。
お祝いは後回しにされた。

1925年、12月25日の午前1時25分。
以前から体調が優れなかった大正天皇が崩御。当時の宮内省を通してラジオで全国に報道された。
崩御から九分後の事だった。
以降、大正天皇が崩御した日を大正天皇祭として、祭日として制定される。
折しも、クリスマスの習慣が庶民に定着した頃で、宗教上のお祝いだったクリスマスが全国的に拡大していく結果となった。

因みに、利作達家族のいる村は山奥にあって、この頃はまだクリスマスのお祝いが定着していなかったが、崩御のニュースを期に浸透していく。
この村のクリスマスも、昭和に入ってからは当日が祭日もあって、やはりお祝いとして受け留められていた。
ただ当時は今とは違って、冬に行われるバカ騒ぎと変わりがなかった。
宗教なんか関係ない人達のお祭りだったのだ。

そのお祭りも、昭和の始めだけだった…………。
 恐慌、物騒な事件、そして戦争とドタバタと時は流れて、
いつの間にかお祭りは廃れていく……。

 以後、クリスマスを祝うようになったのは、結局その頃より六十年後の事である。
 大正十五年に利作とその家族が楽しんだ時のお祭りと、本質的には殆ど変わってはいなかったのである。

【作・名島也惟】

イブの初雪

雪のひとひらを手のひらに重ねて

君にそっとわたす

生まれたばかりの雪の精は

君の手の上で踊っている


すこし冷たいと君は微笑む

もっと降れ

もっと降れと

空を見上げる


やがて降り積もる雪は

二人をやさしくつつむ

ふれあう手のひらは温かい


このままでずっといたい

二人で願ったあの初雪の夜は

もう二度と帰らない

エッセイ集・ほっとクリスマス

2020年12月14日 発行 初版

著  者:クリスマスエッセイ集制作委員会
発  行:TUMUG出版

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