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これには深い理由がある。

七賀ごふん

巴栄出版



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  この本はタチヨミ版です。

初日と初心
余暇と祭日
猜疑と調整
再起と克服

初日と初心





 嘘だ。そんな馬鹿な、と全力で叫びたい。
 まさか受験目前で転校することになるなんて、昨日の俺は夢にも思わなかっただろう。
「何で今なの、あと一年で卒業なのに! 気が早すぎるけどこの前皆で卒業旅行行く約束しちゃったよ……うわああぁ……気まずっっ。行きたかったっていうか、断るのがしんどい!」
「佑昴、本っ……当にごめんね。私も仕事辞めなきゃいけないし、できれば引っ越したくないんだけど……お父さんの転勤が決まっちゃったから」

 学校が終わって家に帰るなり、母から大事な話があると言われてソファに腰かけた。しかしその内容は非常にショッキングなもの。八年近く過ごしたこの街を離れ、遠い県外に引越そうと言うのだ。
 今の高校だって必死の思いで勉強して入ったのに酷すぎる。もうショックで美味いものしか喉を通らない。
 あ~……つらい……。
 そりゃ高校三年なんて進路のことばかりで青春する暇はない。でも、だからこそ、大切な時期なんだ。気の置けない友人と悩みを共有するから、不安な未来に向かって歩いていける。それが突然知らない人、知らない学校の中に放り投げられるなんて……担任が冷たい人だったらもれなく即死ルートだ。
「来月の頭には引っ越す予定だから」と言われてしまったら、もう自分ではどうすることもできない。転校とは酷なもので、経済力ゼロの子どもに権限はない。それはよく分かっている。
 深いため息をついてソファにスライディング転倒すると、見兼ねた母が眉を下げて言った。
「元気出して。きっと向こうでも友達できるわよ。それに引越し先は御香山町よ。覚えてるでしょ? アンタが小学……ええと、四年生までいたところよ」
「え、ほんと?」
「そう。前に住んでた所とはちょっと離れてるけど、最寄り駅は一緒だし懐かしくなるんじゃないかしら」
 なるほど……。未知の街へ行くよりは、都会の田舎と呼ぶべきあの故郷の方が親しみやすい。親父も考えるじゃないか。たまたまだろうけど……。

 ただ、仲の良い友人達と別れることは悲しかった。転校すると打ち明けた時の皆の顔も忘れられない。普通に泣いてくれる奴もいたから、俺ももらい泣きしそうになった。
 だけどそんな悲しみも色褪せるほど引越し作業は大変で、あっという間に一ヶ月が経ち、幼い頃に過ごした都会の田舎へ移った。
 引越しを経験したのは初めてじゃない。むしろ幼少期は父の仕事の事情で転々としていた。昔は海外勤務が多かった為、俺はアメリカで生まれて三歳まで過ごした(でも友達に生まれどこ? って訊かれてアメリカと答えるとジョークと思われ肩パンされる理不尽)。
だが八年前の俺は子どもだった。そしていかに引越しの手伝いをせず遊び呆けていたのか痛感した……。
 めっちゃくっちゃ大変。疲れる。片付けても片付けてもなくならない荷物、高く聳えるダンボール、部屋を埋め尽くすゴミ袋!
 親父は仕事だから肉体労働は全て俺がやった。願わくばもう二度と引越したくないと思った。

 長く過ごした街を離れる時は夕焼けが眩しくて目が痛かった。特徴がないのが特徴……俺みたいな街だった。
 新しい高校は授業の進み具合も偏差値も違うし。一応編入試験は受かったけど、不安しかない。マジで不安。
「マジで不安って顔してるわね。大丈夫よ、アンタ誰とでもすぐ仲良くなれることだけが唯一の取り柄じゃない」
 転校初日の朝、ソワソワして天井のシミを数えていると見兼ねた母が牛乳を持ってやってきた。フォローしてるんだろうけど、地味にディスってることにお気づきだろうか。
「だけど、そうねー……。昔友達だった子が入学してると良いわね!」
「居たとしてもお互い覚えてないよ。俺、昔の記憶は端っこから消えてってるもん」
 母に手を振り、まだ違和感のある制服を着て家を出た。燦々と大地を照りつける太陽。坂の上にある家の為、遠方に山の稜線が見える。
 行きは良いけど、坂を登らなきゃいけないから帰りが地獄なんだよな。ぷりぷりしながら電車に乗り、二つ隣の駅に下りた。そこから徒歩七分がこれから通う共学の高校だ。
 運動部が結構強いらしいんだけど、元写真部の僕には何の関係もございません。
 担任は定年間近の、優しいおじいちゃん先生だった。こんな時期に転校で不安だろう、分からないことがあれば何でも訊いてきなさい、と肩を叩いてくれた。そこはマジでホッとして有難かった。
 ……でも俺は決めたんだ。この学校では、今までとは違う仮面を被る。
「……望佑昴まどかたすくです。……宜しくお願いします……」
 わざとぼそぼそ喋って、根暗そうな奴を演出した。良いんだ。俺はここでは誰とも関わらない。誰にも心を開かない。ナイフのような心を持って一匹狼を演じよう。
 そう思ったのには理由がある。編入前に軽く学校を案内された時、俺がいる教室で何か良くないものを見てしまったんだ。
『おい、このゴミ片付けとけよー。あ、お前もゴミ箱入っていいけど』
『あっはっは! ウケる!』
 数人の男子生徒が、ある少年の机に自分が食べたパンの袋やペットボトルを投げつけたのだ。
 衝撃。
 なんてこった。この教室ではイジメが起きている……。
 数ヶ月ぶりに受けた衝撃だった。高三にもなってイジメとか精神年齢いくつだよ、と腸が煮えくり返り、家に帰るまでむしゃくしゃした。受験が目前なのに他人に構う余裕があるなんて立派だな。さぞお勉強できるんでしょうねー……。
 その場で主犯を引っぱたく度胸があればいいが、生憎そこまではりきりボーイじゃない。なので別の作戦を決行することにした。
 転校生が変な奴なら、いじめっ子の関心が俺に向いて彼がいじめられずに済むんじゃないかと。
 挨拶も適当にして、暗いくせにツンツンしためんどくさい奴を演じよう。名前も知らないけどあの大人しい子がこれ以上矢面に立たないよう……。
 君の席はあそこね、と言われたので、そこの机の上に鞄を放り投げた。先生が「あれ、あんな子だっけ」みたいな顔をしていたけど華麗にスルーする。隣の男子生徒が宜しくと言ってくれたのを「あー」、と適当に返事した。態度悪くて申し訳なかったけど、全ては彼の為だ。隣の子は案の定、それ以降話し掛けてくれなくなった。
 ぼっちの幕開け也。関ヶ原の戦いとかを思い出しながら脚を組んで、窓の外を眺めた。授業の内容が全然分からなくて笑え……笑えない。
 さすがに授業態度を悪くしたら内申に関わるので、教師の前では背筋ぴーんを心掛けた。元気な女子が何人も、「まどかって苗字珍しいねー」と話し掛けてきたが、全て「あー」とか「あっ」で済ませた。おかげで俺のあだ名はカオナシになった。
 ていうかおかしいぞ。近寄り難いレッテルは確実に貼れたと思うのに、肝心のいじめっ子が俺に喧嘩を売りに来ない。それどころか「おはよーカオナシ!」「カオナシ大丈夫? 授業の進み具合分かる?」と笑顔で肩を組んでくる。何だこいつら……俺にはかなり優しいじゃないか。
 こんなはずじゃなかった。ちょっと計画を見直す必要があるな……。
 うんうん唸って考え事をして歩いていたせいで、誰かの机にぶつかってしまった。その衝撃で上に乗っていたペンケースが床に落ち、中身が散乱してしまう。
「あ、ごめ……っ」
 ペンを一本拾ったところで、そういえばまだこのキャラを続けるべきか微妙だったと逡巡する。謎の硬直に違和感を覚えたのか、席に座る少年は怪訝な瞳で見てきた。
 でも、ただ驚いている様子じゃない。俺の顔をじっと見つめて、話すのを待っているようだ。
 そこで初めて気付いた。めっちゃイケメンだ……。
「あっ……」
 謝らないと、と思うのに、体は意思に反して教室の外へ向かってしまった。
 やってしまった……! さすがにペンケース落として無視は駄目だろー!
 廊下でひとり頭を抱え、心の中で大絶叫する。その時頭になにか固いものが当たった。
 やってしまった……! 焦り過ぎて、彼のペンを握り締めたまま立ち去ってしまった。これはいかん、返さなきゃ!
 しかしちょうど昼休みの時間。腹が減っては戦はできない。売店に行って、飯食いながら良い謝罪を考えよう。
 今は五月。でも、ウチの学校は進路の為もうすぐ午前授業に切り替わる。昼が食べられるのもあとちょっとだ。爆弾みたいなおにぎりを頬張りながら、あの少年のことを考えた。たらこが美味い。そして彼の名前は何て言うんだろう。
 中庭にはベンチがあったので、そこで昼休みを過ごすことにした。春でも夏でもない、涼しいのにぬるい風が吹く。おにぎりに視線を移した時、大きな影がかかった。
「ひとり?」
 反射的に声のする方へ向き直る。そこにはさっきのイケメンがいた。
「うわっ!」
驚いて仰け反った拍子に、膝に乗せてた未開封のおにぎりが転がった。けど地面に落ちる寸前で、彼が素早く受け止めてくれた。
「あー、危なかった」
「……っ!」
 反射神経良い……じゃない。お礼、いやまずさっきのことを謝らないと……ええと……!(最近まともなコミュニケーションを取ってないので言葉が出てこない)
 口を開いたまま固まる俺の手に、彼はおにぎりを乗せてくれた。
「ペン返して」
「えっ。あ、ポ、ポケットに……」
 今返すという意味で言ったのに、何と彼は俺のポケットに手を突っ込んできた。しかも何故か尻ポケット!
「いやっ……ちょ、くすぐった……」
「ないじゃん」と、彼は俺のもうひとつの尻ポケットにも手を突っ込んできた。そこにペンなんか入れるわけねーだろ! と一喝しそうになった時、とうとう前のポケットに手が伸びる。目的のペンは出てきたが、何故かもう片方の手は腰から離れない。

 おい、いつまで触ってんだ。いい加減不審に思った時、耳元でそっと囁かれた。
「チャック、ちょっと開いてる」
 嘘っ。恐る恐る視線を下げる。すると確かにズボンのチャックがちょっと開いていた。ちょっと……いや、ちょっとじゃない。オブラートに言ってくれたけど、けっこうな幅だ。
「うわああああっ!」
 慌てて彼から背を向け、チャックを閉める。恥ずかし過ぎて頭がおかしくなりそうだ。
「さっき下から見上げた時に見えたんだよね。パンツ、青でしょ」
 半泣きで振り返る。彼は口元を手で隠しているが、笑いを堪えていることは明白だ。
「顔真っ赤。そんな風になるんだ。かわいー」
 かわ……っ?
 一瞬、言葉の意味が分からなかった。だから尚さらパニックになって、「あっ……」としか言えない。これじゃ本当にカオナシだ。
「ごめん、って謝って拾おうとしたのに、急に逃げ出してさ。意味分からないから追ってきた。このペンここら辺じゃあんま売ってないから持ち逃げされたら困るし」
「ごめっ……いや、そんなの俺には関係ないし! 机が邪魔だったんだからしょうがないだろ! 本当にごめんなさい」
「何そのキャラ……」
 情緒不安定な対応に彼はますます怪訝な顔をしたが、それを気にする余裕もない。不適切な時間と場所で、初対面に下着を見られた。そのことで頭がいっぱいだ。
 いたたまれなくて逃げようとしたが、腕を掴まれ簡単に引き寄せられてしまった。身長はそれほど変わらないのに、俺よりずっと力が強い。
「何ですぐ逃げんの? 教室じゃあんな堂々としてるのにさ」
 ぬれた視線が交わる。彼の瞳は興味と、獲物を見つけた猛禽のような鋭さが含まれていた。
 一体何が目的なんだ。教室で浮いてる人間に近付いてくることも変わってる気がするし、彼の人柄も知らないからただただ恐ろしい。とりあえず、今は計画通り突き放そう。
「もう、関係ないだろ! 離せよ!」
まどか
 え。聞き間違いかと思い、と目を見張った。
 久しぶりに呼ばれた名前だった。思わず振り返ると、彼は目を細めて笑っていた。
 初めて会った人間に向ける表情じゃない……太陽のような眩さ。それに懐かしい景色がフラッシュバックした。放課後になるといつも駆けていたグラウンド……しかし記憶の逆流はそこで途絶え、先ほどの中庭に戻ってしまった。
 呆然と立ち尽くしていると、また腰に手が回ってきた。うん、やっぱりこれセクハラだよな。さりげないセクハラ……!
「……離せ!」
 腕を振り上げた際、強い力で突き飛ばしてしまう。それが最悪だった。彼の真後ろには段差があり、バランスを崩して倒れてしまったのだ。
 ひええええぇっ!
「ご、ごめん! 大丈夫⁉」
 怪我だけは絶対にさせたくないと思ったのに、確認すると彼の手のひらは擦りむいてしまっていた。
「ほ、保健室!」
 コードブルーと叫びそうな勢いで立ち上がると、彼は「これぐらい平気だよ」と素っ気なく答えた。でも怪我をしたのは俺のせいだ。彼の腕を掴み、校内へ誘導する。
「保健室! 保健室!」
「分かった分かった……」
 情けないが、保健室の場所が分からないので保健室を連呼するしかない。彼は呆れつつも案内してくれた。
 向かうと、保険医の先生がちょうど部屋に居てくれた為助かった。少年の後ろに立ち、そわそわしながらやり取りを見守る。擦り傷だけで手首を捻ったりはしてないだろうと言われた。でも六時間目が体育だから、あまり無理はしないでほしい。
 先生は「授業が始まる前に戻りなさいね」と部屋を出ていった。
「本当にごめん……」
「大丈夫だって。何で望がそんな泣きそうになってんの」
 またさりげなく名前を呼ばれたけど、今はどうでもいい。それより申し訳なくて倒れそうだった。ベッドに腰掛ける彼の前へ移動し、小さく屈む。
「ごめん、怪我させるつもりはなかったんだ。ただ色々パニックんなって……」
「わかってるよ。恥ずかしいよなー、チャック開いてるとか」
 わかってんなら大声で言うな。瞬時に殺意が湧いてめつけたが、こちらの視線に気付く様子はない。逆に安心し、脱力した。教室に戻ろうか、と言おうとした時、何故か彼はベッドの囲いとなるカーテンを全て閉めた。途端に薄暗く、心許ない密室が生まれる。
 何だ……?
 不思議に思ってると引き寄せられ、薄いシーツの中に連れ込まれた。
「うわうわうわ! 何事⁉」
「こういう遊びしたことない?」
 ない。ていうかどういう遊びだ。
「あれ、今さら手のひら痛くなってきた」
「えっ! 大丈夫?」
 前へ乗り出して確認しようとすると、洗練された動きでベルトを外された。やば、と思った直後、ズボンを下ろされる。
「わああああ! 何すんだよ!」
「良いじゃん、既に見られてるんだし」
 いやいや、そういう問題じゃない。人為的なものは訳が違う!
 全力で抗議しようとしたものの、強引に組み伏せられてズボンを引き抜かれてしまった。
「俺さ、下着フェチなんだ。って言っても人が履いてた下着限定だけど」
 何を言ってるんだ。
 お巡りさん……ここにやばい奴がいます!
 イケメンだと思ってたらとんでもない。近付いちゃいけないタイプの変態だった! 社会に出したら間違いなく犯罪で報道されるような奴だ!
「ちょっ……あ、やだ……!」
 黒い影が覆い被さる。混乱したまま下着を引っ張られ、一度も本番に使ったことがない、くたっとした性器が顔を出した。
 悲しいことにまだ一度も使ったことがない俺の相棒。正真正銘童貞……それには理由があるけど、誰にも話すことができない。反射的に涙が出そうだったけど、そこは唇を噛んで何とか耐えた。
「かわい」
「やっ、見んな……!」
 慌てて手で隠そうとしたけど、それも封じられる。
「何考えてんだよお前……頭おかしいんじゃねえの⁉」
「まぁね。それより君、さっきから普通に喋れるじゃん。何でカオナシの真似してんの? 教えてくれたらやめてあげる」
「お前には関係ないだろ!」
 通算三回目の台詞。それは、彼を怒らせるには充分だった。







 皆さんにお知らせがあります。
 俺は生まれて初めて……校内をノーパンで歩いております。
「ああああっ! うわああああっ!」
 心を殺していたもののふと我に返り、頭を抱えて絶叫した。
 遡ること五分前。保健室でクラスメイトの変態に下着を強奪されるという目に合ってしまった。
『あと二時間だけだし、頑張って過ごしてね』
 そう言い残し、奴は俺の下着をポケットに突っ込んで部屋を出ていった。数分放心状態(下半身丸出し)で宙を見つめていたが、ズボンだけ履き、ベルトを締めて廊下へ飛び出した次第だ。
 涙が出そうだし、両親に申し訳ない。これじゃ控えめな露出狂だ。まさか高三にもなってノーパンで校内を駆け巡るとか! 一体誰が思いましたか?
 殺す!
 あいつを殺す……それしか俺に平穏は訪れない。
 本当は皆に言いふらしたい。気をつけろ! あいつは(人が履いてる)下着を狙う変態なんだぞ!と。でも。
「俺あいつの名前知らないわあああ!」
 再びその場で頭を抱える。名前覚えてるクラスメイトなんてあのいじめっ子達だけだ。いじめられっ子はまだいびられてるし。
 何もかも最悪過ぎる! ていうか悪いけど、今イジメのことは考えられない……。
 仕方なく教室へ戻ったけど、ズボンの中がすごくスースーする。心細くて、普段行かない街で迷子になった時のことを思い出してしまった。歩く度にズボンのへりが擦れるし、ちんこにチャックが当たる。
 早退するという手もあるが、下着を奴の手元に置いて帰りたくない。それはそれで危険かもしれない。
 奴を視界に入れ、ロックオンする。拳を握り締めて駆け出そうとしたが、直前で授業開始のチャイムが鳴った。「カオナシ、次数学だそー」と通りすがりのクラスメイトに肩を叩かれる。
 んぎぎぎぎ……。
 三つ前の席に座るクソ野郎の背中。コンパスを突き刺したい。しかし先生が教壇に立って授業が始まってしまった為、心頭滅却した。
 そして待ちに待った六時間目の手前、小走りで彼の元へ向かった。相変わらずめっちゃスースーする。
「オイッ!」
「何?」
 彼の机を強い力で叩く。一瞬近くに居るクラスメイトの視線を感じたが、構ってられない。今すぐ下着返せ、とは言えないので、小声で表出ろと呟く。
「言われなくても。この後体育だろ? ここは女子が着替えに使うから、俺らは別室で着替えるんだよ」
 少年はさっと立ち上がり、一緒に行こ、と手を引いた。でも。
「まっ……ふざけんな! できるわけないだろ⁉」
 他の生徒がたくさんいる所で一緒に着替えるなんて。下着履いてないのに!
 平和な昼下がり、ズボン下ろしたらちんちん公開なんて陳謝しかない。体育は具合悪いってことで休むか……。

 項垂れていると彼は距離を詰めて、股間をズボンの上から膝で押してきた。
「ひゃっ!」
「どう、下着なしで過ごす感想は」
 良いわけない。分かってるくせに、彼は意地悪な笑顔でぐりぐり押してくる。
 皆が好き勝手騒いでるのが幸いだ。気付かれたら大変なことになるのに、なんと彼は直接手を這わせてきた。服の上から握り込まれる。その刺激に小さな悲鳴を上げ、前傾に倒れてしまった。



  タチヨミ版はここまでとなります。


これには深い理由がある。

2020年3日20日 発行 初版

著  者 イラスト:七賀ごふん
発  行:巴栄出版

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