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「そうよね、キモいよねー。うん、うん……」
六月下旬、京都市西京区の大原野神社の参道の前で、一人の女子高生が携帯電話で通話をしていた。
「本当、綾子ってさ、何考えてるのかわからない、いつもいい子ぶりっ子してさ、点数を稼いで、調子に乗ってるんじゃないの」
彼女は大原野神社の参道の前を通り過ぎた。
「あ……、電話してたら、変なところまで歩いて着ちゃったよ……、ごめん、もう切るね」
彼女は携帯電話のボタンを押してそれをしまった。
(私はいい子ぶりっ子する子が嫌い……本当は、みんな、心の底では人のことなんか気にしてないんだ……それなのに表面だけいい子の振りなんかして……バレない程度に、自分のことだけ考えてりゃいいんだ。私の周囲の子たちもみんなそうなんだ……、本当の友達なんてものは最初から存在しない、だから、私も、表に出ない程度に、自分のことだけしか考えない……)
そう思った瞬間、彼女の胸元に黒い霧が発生した。
(……あれ? 電話してたら、随分遠くまで着ちゃった)
彼女は立ち止まると道路を見渡した。そこに勝持寺(しょうじじ)の山門があった。
「これは末鏡の鬼玉……こんなところにも出現するのか……、よかろう、私が喰らい、もって時空間を破壊して進ぜよう」
そのとき、山門に面した道路の方から、萌黄色の法衣に、黄金色の袈裟を着用した一人の若い僧侶が出現し、彼女に近づいた。
「え……お坊さん……?」
そしてその僧侶は彼女に向かって神幹を放った。それは彼女の頬を掠った。
「……!」
彼女は少しの間唖然とした後、恐怖に囚われ始めた。
*
「珠洲ちゃん……『かもつ』ってどう書くんだっけ……」
同じ頃、耐の家の机で勉強会をしていた耐が珠洲に聞いた。
「え、『貨物』……?」
「あ、そう、それそれ……」
「もう……、耐ちゃん、もっと自分で調べないとだめだよ」
同じ机の前にいた司が耐に言った。
「あ……へへ、ごめんなさい、次からは、なるべく辞典も使うようにするよ」
耐は舌を少し出しながら司に謝った。
「なんか……司くんと耐ちゃんって、お互いだと結構打ち解ける……?」
弘明が呟いた。
「え、え?」
「そ、そんなことないよ?」
二人は慌てて否定した。
「え、あ、あはは」
その様子を見た弘明は冷や汗をかきながら苦笑した。
「でも……雨が降っても晴れると思ってると、降りっぱなしになっちゃうこともあるよ、気をつけてね」
唯が言った。
「あ……」
「そうだね、うん、唯ちゃんありがとう」
司と耐は頷いた。
「あの、皆さん……」
「あ、新蘭さん……」
勉強会に同席していた美濃が新蘭の姿を見て呟いた。
「また、末鏡が発動したのですか……?」
司が彼女に尋ねた。
「長田さんの仰る通りです……、今度は、西京区の辺りです」
新蘭は申し訳なさそうに言った。
「じゃあ……行かないといけないですね」
珠洲が言った。
「そうですね……お勉強中のところ、本当に申し訳ありません」
新蘭は八人に詫びた。
「大丈夫ですよ……、続きは、帰ってからやればいいんですから」
美濃が新蘭に言った。
「そうだね……、必ず、帰ってこよう」
「うん……」
耐と珠洲も頷き合った。
*
「ちょっと……何なのよ、あの人は……! 私に何の恨みがあるのよ!」
先ほど勝持寺の前にいた女子高生は勝持寺の境内に逃げ込んだ。
「鬼玉を我によこせ……」
彼女の後を件の僧侶が追ってきた。勝持寺の境内には本堂があったが、その奥は行き止まりになっていた。
「ちょっと……!」
その女子高生は憔悴した。
「鬼玉を我に……」
僧侶は右手から神幹を出した。
「……!」
彼女はさらに憔悴した。
「ええい!」
その僧侶は神幹を彼女に向けて放った。
「――!」
彼女は目を瞑った。
「待って……!」
そのとき、美濃の声がした。そして、彼女の背後から美濃が光筆による攻撃をし、二つの光は境内の中で互いに衝突し合うと爆発した。
「え……これは……?」
女子高生は不思議に思って自分の背後を振り返った。そこに、美濃の他に珠洲、耐、ッ司、雲雀、唯と新蘭の姿があった。
「あの……、鬼玉を喰らうのはやめてください……! あなたはどこの神霊ですか?」
新蘭が彼に聞いた。
「我はここ、勝持寺の神霊である……、白鳳八年こと六八〇年の創建であるが、応仁の乱によって荒廃し、現在の建物は乱後に再建されたものである。春は桜、秋には紅葉の名所として知られることから『花の寺』とも呼ばれている……」
勝持寺の神霊と名乗ったその僧侶は淡々と説明した。
「そのような雅やかな寺院の神霊が何故鬼玉を……」
新蘭が尋ねた。
「それは……もちろん我も末鏡の影響を受けたからだ!」
そう言うと勝持寺の神霊は右手を上に翳した。すると耐、雲雀の足元から植物の細い茎が複数出現した。
「え……ええっ……!」
その植物はすぐに二人の胴を縛った。そして先端に三枚の細い葉をつけた。
「こ……これは……?」
新蘭も慌てて二人に近づいた。
「七十二候の三十番目には『半夏(はんげ)生ず』とある……、半夏とはカラスビシャクのことで、丁度今の時期に生える毒草である……。半夏生、半夏雨とはともに夏の季語である。この時期の神能として採用するには丁度よい」
勝持寺の神霊は自信ありげに説明した。
「雲雀ちゃん……動ける……?」
「駄目……茎が絡まっちゃって……」
耐と雲雀は自分に絡まった半夏の茎を解こうと必死になった。
「お二人とも……!」
「耐ちゃん……! 雲雀ちゃん……!」
新蘭たちも二人に近づこうとした。
「い……息が詰まる……」
「苦しい……」
しかし二人はその茎に縛られたままやがて気を失った。
「おっと……動いてもらっては困るな」
そのとき、勝持寺の神霊が珠洲、美濃、唯に向かって右腕を掲げ、神幹をいつでも放てる状態で言った。
「――」
それを見た子どもたちの動きが止まった。珠洲や美濃たちの額から冷や汗が流れ出した。
「天路の従者よ……我の行く手を阻ませはせぬ」
そう言うと勝持寺の神霊は右腕を振り下ろそうとした。
そのとき、二人の背後から別の神幹が一本、勝持寺の神霊に目がけて飛来した。
「な……?」
神幹は勝持寺の神霊に衝突すると煙を発した。
「これは……?」
子どもたちと新蘭らもその神幹が飛来してきた背後を振り返った。
「あ……」
そこに一人の、そこに、黒の法衣に、黄金の輪袈裟を纏った若い僧侶が一人立っていた。
「貴様は……何者か……?」
「今の神幹は私が放ったものです……。はじめまして、天路の従者さん」
彼は珠洲たちに軽く会釈した。
「あの、あなたは……?」
新蘭が彼に名を尋ねた。
「私はここよりおよそ五キロ南の山中に建立されている、西国三十三ヵ所二十番札所、善峯寺(よしみねでら)の神霊です。この度末鏡の発動を受け、惑わされた神霊の鎮魂の手助けになればと思い、ここに参上したまでのことです」
その黒法衣の男性は淡々と述べた。
「天路の従者殿……、ここは、私と一緒に、末鏡に惑わされた神霊を鎮魂いたしませぬか……?」
善峯寺の神霊と名乗った僧侶は珠洲たちに言った。
「え……」
珠洲たちが返答をするまでもなく、善峯寺の神霊は右手を上に翳した。
「善峯寺、待たれよ……!」
そのとき、彼の背後から男性の声がすると共に、一筋の神幹が飛翔した。それは唯の脇を通り過ぎた。また、善峯寺の神霊はさっとそれをかわした。
「あっ……しまっ……」
「え……」
「誰……?」
珠洲、美濃らは訝しみながらその神幹が来た方を見た。そこで一人の、浅葱色の束帯を纏った若い男性が焦っていた。
「天路の従者殿……神幹を放つとは、どうやらあの者も末鏡に惑わされた神霊のようです。勝持寺の神霊と共に鎮魂いたしましょう」
善峯寺の神霊は珠洲たちに言った。
「あ……」
「はい……」
珠洲たちもそれに頷いた。善峯寺の神霊はそれを見ると、やや俯き、ニヤリと笑った。
「それでは……」
善峯寺の神霊は右手をさっと上げた。すると、珠洲、唯の足もとから朝顔の蔓が出現した。
「え……?」
「これは……」
その蔓はすぐに二人の体を縛り付けた。
「え……珠洲ちゃん……動けない……」
「私も……」
二人はその蔓に塗れながらもがいたが、蔓はきりきりと二人の体を締め付けた。
「う……」
「く、苦しい……」
二人はやがて意識を失った。
「善峯寺さん……これは一体……?」
新蘭も驚いて善峯寺の神霊を詰問した。
「知れたこと……それは私も、末鏡に惑わされているからです……!」
善峯寺の神霊は言い放った。
「え……」
「そんな……」
美濃と司は憔悴した。
「ふ……お主たちもすぐに幽世に送ってくれよう……!」
そう言うと善峯寺の神霊は美濃を睨み、右手を上げようとした。
「善峯寺、待て……!」
そのとき、先ほどの浅葱色の束帯の男性が叫ぶと共に、右手から神幹を発した。
「な……?」
善峯寺の神霊はさっとそれをかわした。
「あ、あなたは……?」
新蘭がその男性に尋ねた。
「私はこの勝持寺に隣接している神社、大原野神社の神霊です。春日大社からの勧請を受けたもので、京春日の別称を持ち、藤原氏の氏神を祭る春日大社に準ずる扱いを受け、明神二十二社の第八位に位置しています」
「あ……大原野神社さんですか……」
美濃が頷いた。
「大原野神社は明神二十二社の第八位に列しておられますね……、末鏡の発動には、やはり明神二十二社と近い社寺が関わっているようですね」
新蘭が言った。
「そのようですね……、私もその噂は聞いておりましたので気にしていたのですが……やはり、私の神社に近い勝持寺の神霊が惑わされてしまいました……」
大原野神社の神霊と名乗った男性は残念そうに言った。
「しかし……私も明神社の一つ……、今回の騒動には、私も加勢させていただく所存です……!」
大原野神社の神霊はそう言うと、右手を上げた。
「おっと……遅いですね……」
しかしそのときすでに善峯寺の神霊は大原野神社の神霊に向けて神幹を発していた。
「な……!」
大原野神社の神霊はそれを見て焦った。その神幹はすぐに彼に直撃し、彼を転倒させた。
「大原野神社さん……!」
それを見た美濃と司は慌てた。
「おっと……人の心配をしている暇があるのかな……?」
一方勝持寺の神霊が右手を上げ、司を睨んでいた。
「え……あ……」
それを見た司は怯えた。
「勝持寺さん……待って……!」
そのとき、境内の別の方角から光筒の光が勝持寺の神霊めがけて飛んできた。
「……?」
勝持寺の神霊はさっとそれをかわした。その先に淡水と弘明がいた。
「な……新たな天路の従者ですか……!」
善峯寺の神霊はその姿を見て憤った。
「美濃くん、みんな、大丈夫……?」
「今、治癒を……」
淡水たちは慌てて他の子どもたちの元に駆け寄ってきた。
「あ、弘くん……淡水ちゃん……」
その姿を見た美濃と司に笑顔が戻った。淡水と弘明は蔓に絡まれている珠洲と耐の元に
寄った。
「おのれ天路の従者……、なおも我らの目論見を阻止しようとするか……」
勝持寺の神霊はさっと右手を上げた。
「え……」
そこから神幹が弘明、淡水の二人に向かって飛翔した。
「あ……」
二人は逃げる間もなく、肩と腹部にそれぞれその神幹の直撃を喰らい、その場に倒れた。
「あ……ああ……」
「弘くん……! 淡水ちゃん……!」
美濃と司は慌てて二人の元に寄ろうとした。
「おっと……あなた達もです……!」
善峯寺の神霊が二人に告げた。彼もまた神幹を翳していた。
「え……」
「あ……」
善峯寺の神霊は美濃に向けて神幹を放った。それは美濃の足を直撃し、彼は出血してその場に倒れた。
「美濃くん……く……」
司は善峯寺の神霊を睨み、光筒を上げようとした。
「おや……貴様一人で何ができると言うのかな?」
勝持寺の神霊も既に右手を上げて司を睨んでいた。
「え……」
司があらためて周囲を見渡すと、大原野神社の神霊と、光筒を使える子どもたち全員は既に意識を失うか倒れていた。
「あ……」
その様子を見た司は怯えた。
「く……」
そのとき、新蘭が袖に入れていた移板を取りだした。
「これは……いけそうです……」
新蘭はそれを見てはっとした。
「これで全て終わりだ、天路の従者。後でゆっくりと鬼玉をいただくとしよう」
勝持寺の神霊がさっと右手を上げた。
「長田さん……、皆さん、能源が満ちています、移板を使います……!」
そのとき、新蘭が叫んだ。すると同時に司と、倒れていた子どもたち全員と、大原野神社の神霊と、一人の女子高生らが薄い緑色の光に包まれ、そしてすぐにその光ごとその場から消滅した。
「な……何事……?」
勝持寺と善峯寺の神霊は突然起こったその出来事に驚かされた。
「なに……心配はいらない……」
そのとき、二人の神霊の背後に突然黒い霧が現れ、その中から男性の声がした。
「何奴……?」
「我は嵯峨野化野念仏寺の神霊……、末鏡の意思と一体化した者だ……」
男性の声は答えた。
「何……」
「末鏡の意思と一体だと……」
二人の神霊は驚いた。
「天路の従者たちが使ったのは移板だ……。一度に多数の人数を移動させることができる……。しかし移板には霊気の跡が残る……、その跡をつけていけばいずれ再び天路の従者たちの元に着くだろう」
化野の神霊は二人に告げた。
「何……」
「それはまことか……」
それを聞いた二人の神霊はほくそ笑んだ。
*
地面から高さ一メートル五十センチほどの高さの空中の一点が薄い緑色に光り始めた。
すぐにその光は拡大し、やがて十一名の人の形になった。そしてその光の中から八人の子どもたちと新蘭、大原野神社の神霊と件の女子高生の姿が現れた。子どもたちのうち司以外は依然として意識を失っていた。
「え……ここってどこ……?」
彼らは周囲をきょろきょろと見渡した。するとその背後に高さ三十メートルほどの巨大なお堂があった。
「寺院……?」
司はそれを見て呟いた。
「新蘭さん、ここがどこかわかりませんか……?」
彼は新蘭に尋ねた。
「申し訳ありません、着地点を指定していなかったのでわからないです……。ですが、勝持寺からはある程度離れていると思うので、惑わされた神霊たちからは逃れられたと思います。長田さん……、今のうちに、治癒を……」
新蘭は司に言った。
「あ、わかりました……」
新蘭に呼ばれた司は美濃の傍に行った。
「……天路の従者よ、その鬼玉を我によこせ……!」
そのとき、寺院の総門の方から勝持寺の神霊の声がした。
「え……」
「嘘……」
司は憔悴した。
「天路の従者もこれまでです……我の神幹を喰らい、時空から消えるがいい」
勝持寺の神霊はそう言うと、掲げていた右腕を下ろした。すると、そこから神幹が発せられ司に目掛けて飛翔した。
「これは天路の従者に……危ない……!」
そのとき、二人がいた背後から若い女性の声がするとともに、神幹と思われる白い光が飛来し、二人に目掛けて飛翔していた神幹に衝突した。
「え……?」
司は自分に神幹の衝撃が来ないことに気づき、恐る恐る目を開け、神幹が飛んできた方を見た。
そこに、黒の法衣に、焦げ茶色の袈裟を着用した、頭髪のない尼僧が立っていた。
「え……」
新蘭も彼女の姿を見て驚いた。
「あ、あの、あなたは……?」
司が彼女の名前を尋ねた。
「あ……申し遅れて失礼しました……、私はここ、西山浄土宗(せいざんじょうどしゅう) 総本山、報国山光明寺の神霊です。法然の弟子、蓮生こと熊谷直実が、建久九年こと一一九八年に、この地に念仏三昧堂を建立したのが当寺院の始まりです……。後に、法然の遺骸も茶毘に付され、廟堂が建てられました。光明寺という名は、法然の石棺から光が発せられたとの伝承を聞いた四条天皇から与えられた勅額です。勝持寺と善峯寺の神霊が末鏡に惑わされ、鬼玉を喰らおうとしているとお見受けしました……、よろしければ、私も惑わされた神霊の鎮魂に加わろうかと存じますが……」
その尼僧は光明寺の神霊と名乗った。
光明寺の神霊は新蘭たちに申し出た。
「あ……それは願ってもないことです。お願いいたします……」
「わかりました、では……」
光明寺の神霊はそう言うと、勝持寺、善峯寺の神霊と対峙した。
「光明寺が出てきたか……しかし我らの意思は変わらぬ」
「鬼玉を喰らい、もって時空を破壊するのみ」
勝持寺の神霊と善峯寺の神霊はそう言い合うと、光明寺の神霊を睨み付け、それぞれほぼ同時に右腕を上から一気に下ろした。すると、二人の手から白い光、神幹が発せられ、彼女に向かって飛んだ。
「な……」
勝持寺の神霊と善峯寺の神霊が腕を下ろす直前に、光明寺の神霊も腕を下ろし、神幹を放った。すると、二方向から来た神幹はぶつかり合い、濃い煙を発した。
「天路の従者さん……今です……!」
光明寺の神霊は司に向かって叫んだ。
「あ……はい!」
司はそう言うと、勝持寺の神霊と善峯寺の神霊を見つめ、そして光筒を持つ手を上げた。
「な……光筒か……!」
「しまっ……」
二人の神霊は慌てた。
司は『撃て』と念じた。するとその光筒に『Nt』という文字が浮かび上がり、二人の神霊にめがけて飛翔し、直撃した。
「間に合わぬ……!」
「うわぁぁぁ!」
土埃が消えた後、光筒の光の直撃を受けた二人の神霊の姿は消えていた。
「終わった……?」
司が呟いた。
「はい……」
新蘭が頷いた。
「あ……、みんなと、大原野神社さんの治癒をしないと……!」
司ははっと気づいて美濃の元に駆け寄った。
「あの……皆さん……」
そのとき、司の背後から先ほどの女子高生が声をかけた。
「あの……今回の怖い騒動は私の良くない意思が原因だと、そちらの巫女さんから聞きました……実は、私はさっき、携帯で友人の悪口を言っていたんです……、私自身も、いい子を、ぶりっ子だと思って嫌悪していました……でもいい子の方が正しいんです……そのことを無視して、私は……、私はいい子を嫌悪してしまって……」
その女子高生は肩を震わせながらか細い声で述べた。
「なるほど……悪口ですか……。それは確かに、鬼玉の発生する要因と成り得ますね……」
新蘭はやれやれといった表情で彼女の話を聞いた。
「美濃くん……治癒はまだ必要……? 治った……?」
一方、司が美濃に尋ねた。
「あ……平気……、血も止まったし……もう大丈夫だよ、ありがとう、他のみんなも治癒しないと……」
美濃は笑顔で司に返事をした。
「あ、うん……」
司も美濃に返事をした。そして、二人で子どもたちと大原野神社の神霊を治癒していった。
やがて、全員の治癒が終わったとき、新蘭が口を開いた。
「あの……皆さん、鬼玉を喰らおうとする神霊たちの鎮魂は何とかなっていますが……肝心の末鏡の本体の方が、すぐに逃げてしまい、封印は簡単にはいかないようです……。末鏡さえ封印できれば、この戦いも、私の役目も終わるのですが……引き続き皆さんには怖い思いをさせてしまうかもしれません……、本当に申し訳ありません……」
「そんな……こんなことが、これからもしばらく続くのですか……?」
耐は表情を強張らせた。
「あ、あの……」
そのとき、珠洲が口を開いた。
「珠洲ちゃん……?」
耐がそれを見て不思議に思った。
「私だったら、大丈夫です……。確かに怖いのは怖いけど……、でも、末鏡による鬼玉の発動が、人の心に基づくものだとしたら……、それは、人の世が続く限り、起こりえることだと思います……。過去にも、沢山の人たちが、この状況をどうにかしようと必死で戦ってきました……、でも、その戦いは、人の世が終わるまで、続くものです……。私はかつて、霊力に導かれて、現代中国の一部で、クラスのみんなと一緒に国を作ったことがありました……。そのとき、私は感じました……。どれだけ戦ったって、決して変えることはできず、偉大な思想家だっ、小さな私だって、どちらにしろ、全力でやったって、大小を問わず、有限という意味では同じで、その一部を変えることしかできず、その一隅を照らすことしかできないのかもしれません……。それは、けっして開かない扉を叩き続ける、無駄な行為かもしれない……。でも、はっきりと言えるんです、それは無駄な行いであってもいい、私は、人々の心を変えたい、そんな、決して叶わない願いを唱え続けたまま、志半ばでその道が途絶えてしまうことがあっても、それはそれで、凄く怖いことかもしれないけど、別に構わないって……。新蘭さん……、こんな敗北主義的でごめんなさい、でも……こんな私でも、光筒を使い続けたいんです。だめでしょうか……」
珠洲は淡々と新蘭に嘆願した。
「あ……いえ……とんでもありません……。朝霧さん……、本当にありがとうございます……」
新蘭は少し涙目になりながら珠洲に言った。
2021年1月17日 発行 初版
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