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セレブな男子を好きになっちゃった!

実優

実優出版



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  この本はタチヨミ版です。

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わたしは朝早くから起きてお弁当を作っている。

「加奈、そんなにたくさん作ってどうするの?」
「友達に頼まれて作ってるの。一人でこんなたくさんは食べないから大丈夫だよ!」
 わたしは、母親に心配されるけれどちょっとだけ誤魔化したら、それ以上の詮索はされずに済んだ。

 まさか、好きな人に作っているなんて言えないよ。

 わたしには、好きな人がいるんだ。

 それも学年一どころか、学校一のセレブな男子に! 

 身分差もいいとこだよね。

 でもね、その男子はなかなか教室へ顔を出さないんだ。

 だけど、わたしはある情報を手に入れて、彼が普段から利用する部屋を突き止める事ができたので、わたしは毎日、そこへお弁当を届けに行っているの。

 最初は相手にされてなかったけれど、毎日顔を出すようになったらとりあえずは、部屋の中へ入って一緒にお昼ご飯を食べる事は許されるようになったんだよね。

「加奈、そろそろご飯食べて学校に行きなさい」
「あ、はーい。もうそんな時間? お母さん、もう少しだけ早く教えてくれないかなぁ」
「何言っているんだか。お母さんは、さっきから声をかけてるのにちっとも返事がないんだから。遅刻したってお母さんは知りません」
 シレっとした顔でわたしに言うなんて、意地悪な母親だよね。

 父親もすでに朝食済みなようで、行ってきますといって玄関へ向かってしまった。
 わたしには一切見向きもしないで……。
 高校生になってから、わたしと父親との間にはちょっとした溝ができちゃったんだ。

 それはさておき。

「加奈、お行儀が悪いよ。ちょっと、もういいの?」
「だって、本当に遅刻しちゃう! 行ってきます!」
 わたしは、おかずはすべて平らげて、ご飯をほんのちょっと残して急いで玄関へ向かう。

「ほら、お弁当の忘れ物。行ってらっしゃい」
 母親から作った二人分のお弁当箱が入ったカバンも持つと、急いで玄関から出ていく。

 きょうは朝からバタバタしているから、走っていると脇腹に鈍い痛みが走ってくる。

 食後に走ると痛むってわかっているけど、これはキツイかも。

 前方には同じ色の制服を着た男子が二人、わたしよりものんびり歩いている姿を発見。

 って事は、別に遅刻するような時間でもないのかな。

 しかも、何やら楽しそうに(そう見えるのは一人だけで、もう一人は黙って頷くかたまに何か話すくらい)二人の会話が、風に乗って微かではあるけれど聞こえてくる。

 晋平とか耕助という単語から、同じクラスの生徒だという事がわかったので、わたしはふたりの傍へと駆け寄って挨拶をした。

「おっはよー」
「おはよう、武市さん。きょうはこんな時間に会うとは珍しいな。ん? もしかして、遅刻しそうな時間なのか?」
「たぶん、あまりゆっくりはできないかと。じゃ、あとでね」
 もう一人はわたしへ挨拶を返してはくれなかったけれど、たぶん、わたしの事をはじめて見たから名前を覚えていないだけかもしれないな。

 それにしても、おはようくらいは返そうよ、高校生なんだから。

 あまり食べていないおかげで、走って学校へ向かっても気持ち悪くならずにすんでよきとしよう。

「はぁ、間に合ったぁ」
「加奈が珍しいね。あ、桂君も到着のようだよ。でも、高杉君はきょうも教室へは来ないみたい」
 親友の大平知佳は、わたしの気持ちを知っているので反応見たさにこんな事を言ってくる。
「でも、学校へ来る途中に二人にあって挨拶はしてきたんだよ。彼は黙ってたけどね。でも、いいんだ。お昼に遊びに行っちゃうから」
「きょうも懲りないで作ってきたの?」
 知佳は少しあきれ顔でわたしに聞いてきた。
「まぁね。いつかは食べてくれるでしょ」
「うわぁ、道のり遠そう……あ、先生が来た」
 知佳は慌てて自分の席に戻ったところで、朝のホームルームが始まった。


 お昼休み、わたしは彼とは少し時間をずらして例の部屋へ行く事にしてる。

 だって、あとをついてこられたと思われるのって何となく嫌だもん。

(えへへ、きょうも作って来ちゃったよー)
 わたしは部屋のドアを勢いよく開けたら、学校一のセレブな男子、その名も高杉晋平と目が合った。
 彼以外の生徒からも注目されてしまったんだけどね。

 ちなみに、高杉君以外に部屋へたむろしに来ているのは、隣のクラスの坂本君。

「武市さん、きょうこそわしに作ってきたがや?」
「残念でした。きょうも高杉君に作って来たんです」
 わたしはとびっきりの笑顔で言うと、高杉君はちょっと戸惑った表情を浮かべる。
「……食べていけば?」
 彼の手には、すでにコンビニかどこかで買ったであろう出来合いの総菜弁当があった。

「え……、一人で二人分は無理なんだけど」
「作ったって誰に? 坂本は見ての通り何も持ってきていないから、余ったほうは坂本にあげれば?」
 いや、あなたね、そうは言いましても、わたしは高杉君、あなたに作ってきたのであって、坂本君には作ってきてないんだけどな。

「俺は、学校へ来る前に耕助とコンビニによってコレ買ってきたから、とてもじゃないけれど食べられそうにないだろ。坂本、うちのクラスの武市からおすそ分けしてもらえるかもな?」
 悪そびれる気はないだろうけど、今までのわたしの苦労はなんだったのだろう? 

「高杉君、全然わかってないよ! わたしがどれだけ早く起きて作ってると思ってるの?」
 わたしは堪忍袋の緒が切れて、ほとんど八つ当たりに近い形で怒りをぶつけた。
「わかるわけねェだろうが。そもそも、俺は頼んだか? 頼んでねェよな? 勝手に作ってきて何を勝手にわめき散らしてんだ?」
 バンッと机をたたいて高杉君は睨んで来た。

 ひえぇ、怖い……。

「お前(おまん)も言いすぎぜよ。すまんの、武市さん。ちぃと割愛するが、今は、高杉には話しかけないほうがよさそうじゃき。よかったら、一つわしがもろうてええ?」
「あ、どうぞ。わたし一人で二つも食べられないので。せかっくだし食べてくれた方がお弁当も喜ぶと思うし。それに食品ロスにならずに済むもん」
 わたしはカバンから一つお弁当箱を取り出すと、坂本君の前へ差し出した。

「ありがとう。いつかお礼ばするぜよ。いただきます」
 そう言って坂本君は、おいしそうにわたしが作って来たお弁当を食べ始めた。
 わたしはというと、静かに部屋から出て屋上へと向かう。
 この時期はまだ暖かいから、上着なしでもきょうなら天気もいいし寒くはないだろうから、わたしは屋上でボッチ飯を食べる事にした。

「ひっく……、ひっく……ひど……てか、わたし……何やってんだろ……」
 わたしは涙でぐずぐずしながら、今朝懸命に作った弁当を食べる。

 心の中、ぴえん。

確かに、高杉君の言うように彼に頼まれたわけでもない。

 だからって、あんな言い方ってひどくない? 

 涙流しながらお昼ご飯を食べるって、どうしてこんな事になっちゃったんだろ。

 坂本君は、高杉君が機嫌悪いところにわたしが来たのはバットタイミングだったって言っていたけれど、そんなのわたしには関係ないじゃん。

 学校だって、彼に対しては対応が甘すぎるところがあるって、誰かが言っていたっけ。

 かなりの金持ちの家庭で育って暴力沙汰を起こしたって、結局は彼の場合は親がお金でどうにかできちゃうんだ。

 そんな彼に目をつけられたら学校へ来れなくなるなんてことないよね? 

(どうしよう。もし、彼と接触しようものなら、誰かの許可がないとできなくなるとか? 好きになるってつらいな)

 一人で食べているせいか、ろくな考えが浮かんでこない。

 一人だと味気ないんだね。

 わたしがそろそろ教室へ戻ろうとして昇降口から出ようとしたら、階段をあがってくる足音が聞こえてきた。

 しかも、同時に話声もしている。

 やばい、見つかったらどうしよう? 

 わたしはとっさにドア越しに身をひそめる事にした。

「さっきのあれはないぜよ。お前(おまん)、家で何があったか知らんけど、八つ当たりはないっちゃ」
「わかってる。彼女に会ったら謝ればいいんだろ」
 どうやら、高杉君と坂本君が屋上へ来て先ほどの事で話し合っているみたい。

 そのためにわざわざこんな屋上まで来ることないのに。

「それにしても、武市さんのお弁当まっことうまかったのう。おんしも食べてみぃ。もう、たまるか!」
「それ、お前が彼奴の事が好きだからそう思うんじゃねェのか?」
 高杉君の発言に、ここで身を潜めているわたしが言えることではないけれど、ちょっと待って。
 坂本君がわたしに気があるって事なんだよね? 

「な、何を言うがよ。わしはそんなんじゃないき。やめとおせ、そんな事言うのは。あの子はお前(おまん)の事が好きぜよ」
「そう、なのか?」
 高杉君、意外と鈍いんですネ。

 坂本君がいうように、わたしはあなたが好きなんですけど。

 ええ、お弁当を作ってもっていって、ボロクソ言われた挙句に、あなた以外の人に食べてもらうという悲しい少女が、ここにいるんですが。

 どうしよう、出ていくタイミングを逃した。
 足もだいぶしびれてきて動くのも動けないくらい。
 体制を整えなおそうとした時、ゴツッとどこかへぶつけてしまったみたい。

「誰かいるのか?」
 高杉君が歩いてくる足音が近づいてきたので、わたしはとっさにベタだけど猫の鳴きまねをした。

「なんだ、猫か」
 どうやらわたしの猫の鳴きまねで高杉君は、本物の猫がいると思い込んだらしくて、わたしの近くまで来ていた足音が少しずつ遠くなっていく。
二人が屋上から出ていったのを確認してから、わたしも駆け足で屋上から出ていく。

 うっかりしてたけれど、次の授業って確か体育だったはず。

 男女共学だから着替えも別々になるので昼食後の体育はやめてほしい。

 わたしが屋上でお弁当なんて食べたりしたから、こうなったわけで時間割のせいじゃない。

 息を切らせながら教室へ戻ると、急いで体操着を持って隣のクラスへ移動する。

 男女総入れ替えで、二クラスで着替えて体育授業なんだよね、この学校って。

 共学ってどこも体育は着替えの時は苦労しているのだろうか。


「加奈ったら、すごい息切らせて戻って来たけど、どこでお昼食べてたの?」
「屋上でね。へへ、きょうもまた高杉君には振られちゃったよ」
「大変だね、あんたも。それにしても、よくふられてもお弁当を作って来るよね。いつか食べてもらえるといいね」
「うん。彼は迷惑がってるから、これ以上しつこくするのも本当に嫌われちゃうね」
 着替えながらの会話も結構忙しい。

 着替え終わるとそのまま体育館へ移動。



  タチヨミ版はここまでとなります。


セレブな男子を好きになっちゃった!

2021年3月9日 発行 初版

著  者:実優
発  行:実優出版

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実優

初めまして。 NOVELDAYS、リゼなど個人小説サイトと掛け持ちながらも、本を出してみたいと思い、今回は登録してみました。 面白い、読みやすいを心掛けて小説を書いていきます。 遅筆なので待たせるかもしれないけど、気長に待ってくれると嬉しいです。

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