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この本はタチヨミ版です。
はじめに
今年は東日本大震災から十年目である。未だに大震災の影響は残り、地震が起こっている。大震災は忘れべきもないが、今日、新型コロナ禍で、自然からの猛威は息つく暇がない位、列島を襲っている。まさに、災害列島である。
さて、震災時、ボランテイアで塩釜、亘理町に行き、フクイチの放射能の影響を視察する韓国人と一緒のバスツァー、それに、カトリック教会のカリタス・ジャパンの支援する被災地のベースが企画した学習会に参加し、それまで、ためた短歌を十年をひと区切りにまとめたものが、「3・11を詠むー震災短歌百首」である。震災を忘れないささやかな一助になればと自分の為にも編んだ。尚、被災地でお世話になった全ての人人にお礼と共に感謝申し上げる。
漸次ゆれ仏壇押さえこらえ切れず丁度その刻揺れ止まる
三/十一
海水に囲まれ病院孤立して人影見える屋上にHELP
屋根すっと飛び骨組みむき出す格納容器辛うじて破壊免れ安堵
はっきりと説明しない保安院TVみていて苛立ち募る
陸前の高田の爪痕信じられず津波の破壊その惨さ知る
肩たたき子どらの知恵避難所でお年寄り回り笑顔こぼれる
間一髪津波に飲まれ生還す被災者の口言葉少なし
コンビニは米もミルクもすぐ消える抜け目無いのは庶民の貪欲
( 震災に関する教会人の反応に関して――)
常套で済ます範囲は非常時に通用せずを分からずやから
日常を守り余りを助けにとさもしい心相も変わらず 三/二一
神不在信徒の議論世俗臭クリスチャンの香りどこにある 三/二一
情報をあれこれ収集頭疲れ昼間の高揚寝床でしぼむ 三/二三
電話の向こう落ち着いた声の応答に我の懸念は吹っ飛びぬ
緊急時落ち着いた応対値千金どんなにかひと安心させる
潜水夫遺体の捜索に泥の海潜るも釘や金属片阻む
現実をこの目で見たし震災の写真も撮りたし被災地の記録
青年僧瓦礫の家に立たづみて静かに祈る裸足の行脚
連日の震災報道食傷気味スイッチ切って素通りさせる 四/一七
(四・一九ー二一 仙台市、名取、亘理へ視察をした)
逃げ切れず津波が襲うヒヨドリは瓦礫のゴミに屍さらす
紙一重いのちびろいの海の散歩その日たまたまチャリンコに乗る 四/二二
ボランティア働く人は痛み知るひどく優しく接っしてくれる
震災時頼みの綱は近隣の普段のつき合いおのずと助ける
コンクリの土台を残し昼晒す市民の憩い鳥の海無残
諦めた折に投稿掲載されようやく義務を果たした思い 四/二
船と漁具組合長は奔走し無償で配る漁師の喜び 五/七
涙枯れ母の眼差し沖合へ子の面影を佇みて追う
被災地のこれで決着なかりけりメディアの報道ほんの一部や
復興を声高く叫ぶ一方で未だ身内の見つからぬ人あり 五/十二
荒れ果てた町を眼下に見た子らはその眼に何を刻み込むのか
五/一二
防災庁舎ロゴのみ残る鉄骨に夫の好むカステラ供う 五/十三
婦人らは霊感豊か男より不思議な現象よく体験する
塩竃は万葉以来の塩づくり津波に負けず造り屋に煙 五/十八
国の許可待ずに仮設建設す町の先見住民の総意 二/六
流された母を語るに生徒らは照れ笑いなのか先生泣きぬ
二/六・二〇一二
みるみると海になりぬ田畑は変わり果てたる故郷の町 五/二七
黒い蛇が無数に襲う態の如く逃げる間もなく家流されぬ
日がな潮満ちる所に生活し水びたしの家逃げたいと言う
友達の来訪迎えに長靴を抱えて出向く浸水の町民
原発の玄人任せは間違いをフクイチ事故が教えてくれた
遠慮がちばっちゃんの手を握りしめ地元シェフの宅配便
被災せし女みつけた幼児写真丁寧に洗い家に持ち帰る 六/二五
堤防の土手に咲いてるアザミの花津波の襲いしうそのごとくや
荒浜の汚泥のなかに鳥の死骸逃げる間もなく津波の襲いし
一抹の希望を抱き家の様子眼で確かめて諦めがつく
作業終え戻ったセンタ―炊き出しの声高の歓待うれしく食す
荒浜の樹木は茶色に枯れている津波の高さ自ずと知れる
堤防のゲート前からまっすぐに瓦礫を残す津波道 八/三一
死亡診断書出さずば埋葬やれないに盂蘭盆会近づき迷う被災者 八・十一
タチヨミ版はここまでとなります。
2021年3月23日 発行 初版
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1946年、生まれ。明治大学文学部卒、業界紙・誌に勤める。今は無職。