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広大な宇宙には全能の神の愛が満ちている。無数の星々に生きる数多の生命を養うため、光とあらゆるものを構成する元素が用意され、数えきれない世代を重ね、歴史が刻まれていく。
各々の星には、生きる者たちの依り代となる宇宙樹が育つ。宇宙樹は成長して実を結ぶと、新たな星の命の源となるため、種はその星を目指して旅立って行く。
太陽系第三惑星地球には、かつてない脅威が迫っていた。地球にやってきて芽吹き、根を張り、巨樹となって地球の生命の源となっていた宇宙樹。そのエネルギーを奪わんとひそかに大魔王が誕生し、だれも知ることのないまま地球は着々と滅亡へと近づいていた。
「この世界は破滅へと向かっておる。そなたを呼んだのはほかでもない。この災いの根源を突き止め、世界を破滅から救うことじゃ。やってくれるな、オキタよ。そなたの家族にも了解を得ておる。」
ヲニ国の女王ヒミコに呼び出され、商人オキタ・アルガはこのような依頼を受けた。オキタは正直に疑問を呈する。
「そのような重要な使命は、勇者や聖者のような人の役目ではないですか? わたしはただの、というよりそれほど有能でもない商人ですよ。武器商人でもありませんし、扱っているのは日用品やおもちゃですよ。しかも稼ぎの低さが売りでしてね、妻に愛想つかされたばかりです。」
ヒミコは構わず続ける。
「わらわはおぬしが能力や才能、実績もあり、澄んだ心、正直な行いがあると見込んでおる。
さて、この国の三宝の入った玉手箱が何者かによって盗み出された。三宝を手に入れようと目論んでおるのは隣国のクニ国じゃろう。これは悪い前兆じゃ。まずはかの国の野望を防いでくれるか?
何も身一つでやれとは言うておらん。そなたにはこのゴールド・エクスペリエンス・レクイエム・カードを渡しておこう。利用枠1兆円のクレジット・カードじゃ。遠慮なく使うがよい。
信頼のおける仲間を集め、共に世界の破滅を救ってまいれ。頼んだぞよ。」
オキタはしぶしぶ承知した。
「わたしに澄んだ心があれば、妻は逃げたりしないと思うんですがねえ。それに、なんですか? ゴールド・エクペリエンス・レクイエム・カード? そんなもの使ったら一生完済という真実にたどり着けなくなる気がしますが・・・とはいえ、この世界は緊急事態のようです。わたしの力及ぶ限りのことは致します。」
ヒミコはあと二つ贈り物をくれた。
「これはバトル・スカウターじゃ。レンズを通して相手を見ると、HPなどが分かる代物じゃ。上手に使うがよい。もう一つは多目的タブレットじゃ。ネットショッピングはゴールド・エクペリエンス・レクイエム・カード払いになっておる。このカードの特典として、朔の日(月の第一日および新月の日のこと)には全品20パーセント引きになる特典がついておる。使い方はおぬし次第じゃ。」
オキタはスカウターを受け取ると左目に装着した。そしてすぐにヒミコを計測し始めた。
「ピピピピピピピピ・・・・」
「何をしておるのじゃ?」
オキタは古いネタを語り始めた。
「かつて『ウルティマ恐怖のエクソダス』っていうゲームがありましてね。怪物退治を依頼した王様がはっきり言って最強でしてね。『自分で行けよ』ってとこなんですよ。ヒミコ様もそれと同じかな、なんて思ったりして・・・」
ヒミコはやれやれという感じでオキタを送り出す。
「そなたの行く道は困難を極めるじゃろう。じゃが、神のご加護があるぞよ。では、行ってまいれ。」
オキタは一礼してヒミコの前を去ってドアを開けようとした。
「あの、鍵かかってるんですけど?」
「そうじゃった。ドラクエⅠもそうじゃったの。玉座の後ろの宝箱に一回で壊れる鍵が入っておるぞ。」
「壊れる鍵で開けるのはいいですが、閉めるときも一回で壊れたんですか? まあ、いいですけど。」
オキタは卑弥呼の前を辞し、家に帰って身支度をし始めた。一人ぼっちになってしまった自宅はとても寂しかった。
『この使命を家族の者が承諾しただって? 出てったよめさんが? いよいよさようならってことなのかな? 涙が出てくるよ・・・』
オキタには自分より一回り若いが親しい友人がいた。オキタの二人の子供の遊び相手をよくしてもらっていた、気のいい男だ。オキタはその若者を旅に同行させようと考えて、ナツメ・デーツの家を訪問した。
ナツメの家の壁には様々なローン会社の看板が張られ、『30日間無利息』『即日融資』『保証人不要』といった文字の宣伝であふれていた。また黒字のトタン板に黄色の大きな文字で『永遠の神イエス・キリスト』『悔い改めよ』『裁きの日は近い』などの看板も張られていた。その他古い広告看板もあった。ローン会社関係者が勝手に貼ったものと、彼の父が他人の家に張ってあったものをはがして持ってきたものもあった。
そんな妙な見かけの家にナツメは住んでいた。また玄関や彼の部屋には様々なプラモデルが置かれ、アニメやゲームのポスターが張られていた。大半はオキタから買ったもので、ナツメはいわゆるお得意さんだ。オキタの子供たちはそんな彼の家で遊ぶのが好きだった。家の見た
目が周りから浮いていたため、変な家、そして変な家族と思われていた。
ナツメは普段は薪を切って売ったり、木の器などをつくるろくろ職人をしていた。木の買い出しに各地を旅することもあったので、オキタは彼がこの責任にはうってつけだと考えていた。ナツメはオキタが訪問した時に薪割りをしていた。
「やあ、ナツメ君。」
「あれ、オキタじゃん。おはよう。何かお勧めのプラモあるの?」
「今回はプラモの話ではありません。お願いがあって来たのです。」
「何だい?」
「一緒に世界の破滅を救いに旅立ってほしいのです。」
「おお、いいね! 行こうぜ!」
「苦しい旅になると思いますよ。」
「いいじゃないか。何でも来いだ。いつ行くんだい。」
「家族の了解を得てからです。」
「父ちゃん、母ちゃん、ちょっと世界を救いに行って来るぞ。しばらく帰らないから。貯金好きに使っていいよ。」
「ああ、行っといで。女の人には親切にね。」
「っていうわけで、いつでも行けるよ。」
「・・・・・では必要なものを買い揃えに行きましょう。すぐに出発です。」
「どこへ向かうんだい?」
「ヲニ国の山をはさんだ南隣、クニ国に行きます。
現在我々が住んでいるこの列島は、かつてソラミツヤンマトンボ国と呼ばれていました。その中央にある急峻な山塊を『黄泉比良坂』と呼んでいます。何十年も前、黄泉比良坂の南に突如としてヤマビコという者が現れ、クニ国を興しました。
ヤマビコは軍勢を組織して侵略を開始し、全地は大戦争となりました。やがてヤマビコは全国を手中におさめ『我こそは現人神である。我を崇め、服従せよ。されば楽園の栄えを受けん』と宣言し、恐怖と圧政による支配を始めました。
ところが、全国にあらゆる災害や疫病が発生しました。全土は荒廃し、人々の心は折れてしまいました。我慢できなくなった民衆は、各地で反乱を起こしました。
そんな中、父以上の野心を持っていた息子のビャッコは、自らが王になる絶好のチャンスととらえ、ヤマビコから王位を簒奪しました。そして国民の信条や職業の自由を認め、全土の内、北半分をヲニ国とし、ヒミコ様を擁立しました。すると、ようやく災害と疫病と荒廃は沈静化しました。
ビャッコはヲニ国の主権を認め、全国に平和をもたらしました。しかし、最近になり、三宝を盗み出した黒幕と思われることから、何らかの邪悪な計画があるように思われます。ヒミコ様はその調査をわたしに依頼されたのです。
ナツメ君、クニ国へ行く最大の難所であり、国境でもあるのが黄泉比良坂です。そこを通る際、振り向くと死ぬといわれています。」
「え~?! そこってヴァニラ・アイスがいるわけ~? 峠でアイス・クリーム売ってるだけだといいのにな~。それとも犬のふんが落ちてる郵便ポストでもあるの? 誰か振り向いた人いるの? 犬の鳴きまねした殺人鬼は振り向いたかもね。え、ちょっと待って、その道を往復するなら、帰るとき振り向いたことにならない?」
「ビャッコがクニ国の王となった後、黄泉比良坂を通ってクニ国へ行く者は二度と戻ってきません。それが『振り向いた者は死ぬ』もしくは『殺す』ということなのかもしれません。そのため、もう誰もクニ国へ行こうとする者はいません。」
「じゃあ、ボクたちは二度と戻れないかもしれないってこと?」
「それを解決するのが我々の使命というわけです。黄泉比良坂まで歩いて十日ほど、それを越えるとクニ国の領土に入ります。」
二人は故郷をあとにし、クニ国目指して出発した。
オキタとナツメは取り留めのない話をしながら大きな川に沿って旅を続けていた。ナツメはオキタの家族が別居しているのを知っていたので彼の家族のことには触れなかったが、そうすると話のネタが限られてくるので苦労していた。
「そんなに気を遣わなくていいですよ、ナツメ君。わたしとしては別れる気はないのですから。何か改善できることや、歩み寄れることを学ぼうと思います。」
「オキタは浮気とかしてないよね。別に別れなきゃいけないような理由はなさそうだけど。」
「世の中の離婚の原因の大半は『お金』です。うちもそうです。家計はいつも火の車で、妻と子供たちには苦労を掛けてきましたからね。」
「お金ねえ。ボクも結婚したら、今のままではダメだろうな。プラモも買えなくなるな。この旅で嫁さん見つかればいいけど。」
「ナツメ君はどんな人を奥さんにしたいんですか?」
「そうねえ。面白い人がいいな。よく笑う、笑わせてくれる人。同世代の女の子たちはボクのネタ、誰も理解してくれないんだよね。古いからかもしれないし、マニアックだからかもしれないし。多分両方だ。みんなから変な目で見られてるのを感じるよ。」
「ナツメ君の家の見た目も変わってますからね。それの影響はかなりありますよ。まあ、わたしは結構好きですが。わたしの妻も、あなたに良い印象を持ってますよ。年上でよければ紹介しようかなどと言っていたような気もしますし・・・」
「ええ? それってだいぶ上だよね。親子とまではいかないけど。」
「結婚相手に恵まれない人は多いんですよ。なにせクニ国の影響が大きいです。男は女に養ってもらうっていう態度の人が多いんです。女は田んぼ仕事に家事、育児に追われ、男は朝から酒飲んでる人が大勢いるんです。」
「クニ国がそれを流行らせたってわけ?」
「そうですね。ただ、男にそういう願望があったのが問題でしょう。ただ、ヲニ国とクニ国の二国となって以来、クニ国がどうなっているのかの情報はありません。そして今回の玉手箱の件、危険な匂いがしますね。
さて、川を渡るところにやって来ました。あそこに渡しの船がありますの、それに乗りましょう。」
二人は川を渡しの船で渡っていると、上流から何か丸くて黒い物が流れてきた。
「何かな? あれれ!? もしかしてアッガイじゃないか!? 船頭さん、あの黒いものに近寄ってくれないかな。」
近づいてみると、それはアッガイにしか見えない黒い鉢だった。
「不思議だな。なぜ伏せた状態で浮いてるんだろう? 空気が入っているにしても、バランスとって浮かんでいるなんて、あり得ないけど。」
そう言いながらもナツメは鉢に手を掛け、引っぱり上げようとした。
「何かやたら重いな。やっぱりアッガイなのかな。って、あれ、人だ。人が鉢を被って沈んでるよ。生きてるのかな?」
オキタも手を貸して二人で鉢を被った人を引き上げた。どうやら気を失っているらしい。船頭に頼んで岸に着けてもらい、平らな地面にとりあえず寝かせた。鉢が頭をすっぽり覆っているので顔がまったく見えないが、服装からして女性のようだ。ナツメが興味深々で声をかける。
「もしもし、アッガイさん?」
「黙れ! 俗物!」
「かわいい声だね。濡れた服を着替えないと風邪ひくよ。」
「しかし、なんでしょう、このすっぽりかぶさった鉢は?」
「あ、そうだ。ハマーン様だ! この女の人、ハマーン様だよ。髪の毛が引っかかって被り物が取れないんだよ。」
その途端、彼女が突然飛び起きて怒鳴りつけた。
「誰がハマーン様だ! なにが髪の毛がひっかってるだ。よくもズケズケと。恥を知れ、俗物!」
「やっぱりハマーン様だ。その鉢はキュベレイ、じゃなくてアッガイなんだ。」
「アッガイだと! 貴様、無礼を許すわけには行かないな。ってしつこいんだよ。ハマーンじゃねえって言ってんだよ。」
オキタが二人の会話にはいってきた。
「あなたはひょっとして鉢かつぎ姫ですか?」
彼女の返事を待たずにナツメが言う。
「え? 鉢かつぎ姫って、心の優しい娘さんで、真実の愛に触れたときに鉢が取れてジオンを再興するっていう?」
「なんでジオンの再興の話が入るんだ!? いい加減ハマーンから離れろ。」
「う~ん、じゃあ君の名前はなんていうの? ボクはナツメ・デーツ。クワトロ・バジーナと呼んでくれていいよ。こちらはオキタ。」
「じゃあ、貴様は俗物と呼ぼうかな。鉢が取れなくて困っているんだ。硬くてまったく傷もつかない。」
「ガンダリウム鋼板でできているんじゃない?」
「それじゃあ、ちょうどいい。貴様に頭突きを食らわせてやる。キュベレイをなめるなよ!」
『ドゴン!』
「あいたたたた・・・キュベレイを見くびっていたよ。ってやっぱりハマーン様じゃないか。」
「とにかく服を着替えたほうがいいですよ。」
「そうだね。ボク服もってるよ。」
「なんで男のお前の服を着なきゃいけないんだ。」
「女性の服だよ。あ、ボクの着る服じゃないよ。妹に買ってあげた服がサイズが大きすぎて使えなかったんだ。誰か使う人いないかなと思って持って歩いてたんだよ。」
そういってナツメは荷物入れから女物の服を取り出した。黒っぽい服だった。彼女は嫌な予感がしたが、濡れた服が嫌だし、近くに服屋があるとは思えないので、しぶしぶナツメのニコニコした顔に腹を立てながらも受け取ることにした。
二人から離れて彼女は茂みの中で着替えてきたが、かなり腹を立ててナツメのところに走ってきた。
「何だこの服! アクシズぶつけられてえか!」
要するに、ナツメが持っていた服は、妹に買ってあげたハマーン様コスプレ服だった。しかもなぜか『アクシズ』という言葉を発した途端に鉢が割れて、アルファの顔があらわになった。
「あらまあ、アクシズって言葉はバルスと同じ効果があったのかな? よかったね、鉢が割れて。アッガイが壊れちゃって残念だったけど・・・」
「アッガイじゃねえってんだよ。しつこいぞ。・・・あれ、鉢の中に何かはいってる。」
それは黒い生地に鋭角的な金色の飾りの付いた公国服だった。
「どこまでハマーンにこだわってるんだ!」
「ねえ、その服に対して、もしかして怒ってる? でもこれってジオン再興は決定的じゃないの? その気がないのだったら、よかったらこの服くれないかな? これは貴重品だよ!」
ナツメの申し出にイライラしながら彼女は答えた。
「てめえはものの頼み方を知らないようだが、勝手にしろ! わたしはハマーンでもないし、ジオン再興って、なんだそれ。」
ナツメが服を持って自分の荷物入れに入れようとしたところ、服の中からころっと指輪が転がり落ちた。
「ん? 指輪が出てきたよ。これはキミが持っとくべきじゃないかな。」
そう言ってナツメは彼女に指輪を渡した。指輪はいくつか宝石の付いたデザインで、彼女はこれが気に入ったようだ。
「これはなかなかいい感じだよ。指にはめておこうっと。」
オキタが彼女に尋ねる。
「清い心の持ち主に会ったわけでもないのですが、鉢が割れてよかったですね。結婚してめでたしめでたしとはいきませんでしたが。ところで、お名前は?」
「アルファ・イージス。」
「へ~、アルフォンス・エルリックっていうんだ。」
ナツメはそう言いながら両手を合わせてパンと鳴らした。
「そういうてめえは水を怖がる機関車だな。」
「それ、エドワードじゃなくてヘンリーだよ~・・・手を合わせたところを突っ込んでほし
かったのに・・・ねえ、あーちゃんって呼んでいい?」
「てめえ、今なんつった! よくもずけずけと人の心の中に入る。恥を知れ、俗物!」
「そ、そんなに怒らなくても・・・ごめんなさい。」
険悪になりつつある二人の間を取り持とうと、オキタが助け船を出し
た。
「ところで、わたしたちは玉手箱を探して、クニ国を目指して旅をしています。」
「面白そうね・・・付いていってもいい?」
「うおっ! 来てくれるの!嬉しいな! お美しいハマーン様が一緒だ! 見て見て、これボクが作ったお椀だよ。旅のお供にあげるよ。」
「この俗物め。」
アルファがナツメのガンダム(ハマーン)ネタを懲らしめてやりたいと思った途端、ナツメが持っていたお椀が急に重くなった。
「うわっ! 急になんだ!?」
ナツメは重くなったお椀を支えきれず、地面に這いつくばってしまった。
「だれだ~? スリーフリーズなんかかけたの? シアーハートアタックなんか出してないぞ。ってアルファ、なんで靴ひもを固結びするんだよ。」
「めっちゃ親切だろ。」
オキタが二人をなだめる。
「まあまあ、二人とも、仲良くしましょう。アルファさん、その指輪、いろんな能力を使えそうですね。スタンドとか、コスモとか、オートメイルとか。一緒に来てくだされば、心強いです。」
「チャラララララララ、チャラララララララ、チャララララララララーラーラー」
ナツメが「仲間になった」の音楽を口ずさんだ。
三人は川を渡って旅を続けた。オキタは男旅に若い女の子がついてくるのを心配していたが、ナツメは古いネタに御執心で、変な気を起こしてはいないようだ。まあ、何かあればスタンドかコスモか錬金術で懲らしめられるので、ナツメも悪いことはしないだろう。
一行が通りがかった村では、何やら一軒の家に男たちが群がっているのが見えた。アルファがむさくるしい物を見る目で言う。
「何だろ、あれ? 男ばっかりあの家にへばりついてる。穴開けて中覗いている奴もいるぞ。」
近くでそれを見物していた人に聞いてみた。
「何なんですか、あれ?」
「あの家にかぐや姫がおるんじゃよ。なんでも絶世の美女で、見るだけで幸せになるっていうんじゃとよ。男どもは何としても嫁にしたいと思っておるんじゃが、かぐや姫は誰とも会おうとせん。爺さんと婆さんがおっての、最初はみんなを追っ払っておったが、しつこすぎて疲れてしもうたようじゃ。もう家に籠ったきり、出てこようとせん。」
ナツメは興味津々だ。
「会ってみたいな。きっと無理難題を仕掛けて来るから、その謎を解いてみたいな。何とか
周りの連中をどかせないかな? 連中がいなくなったら爺さん婆さん喜ぶだろうし。アルファ、オキタ何かいい知恵ない?」
そこでアルファが言った。
「あいつの能力を真似してみよう。みんなゲラゲラ笑えよ。」
ナツメはがってん承知とばかりに、オキタ何が何やらわからないまま、ゲラゲラ、ウヒョヒョヒョと笑うことにした。アルファは指輪の力でかぐや姫の家の上空に太陽を出現させ、ものすごく気温を上げた。家の周りにいた男どもは暑さのあまり退散した。
続いて家の中からお爺さんとお婆さんが『参った、参った』と汗を拭き拭き出て来た。それから若い女が暑さに文句を言いながら出て来た。十二単を着て汗だくになっている。
「何この暑いの? 誰よこんなことしたの?」
三人は彼女をよく見ようと近づき、アルファがナツメを指して話し始めた。
「こいつがね、北風と太陽の話みたいに、太陽で照らせばあんたの服を脱がせられるかなっていやらしいこと考えたんだよ。」
ナツメはアルファの予想外のジャブに面喰った。
「何言ってるの!? あんまりだよ。そんなことするわけないじゃないか!」
「女のウソは赦すもんだよ。」
「自分でウソって言ってるし!」
「二人ともうるさい! わたしが怒ってるのはこの暑さでチョコレートが溶けてしまったことよ!」
そういって彼女は溶けたチョコレートの入った大袋を見せた。それを見てアルファがあからさまに嫌悪感を見せた。
「なんだ、あいうえおチョコじゃん。クソと同じだから、溶けたそいつは便所に流すのにちょうどいいじゃん。」
「おい! 今てめーなんつった!」
「ああっ、何べんでも言ってやるよ。あいうえおチョコなんざ、犬のクソとおんなじだ。」
彼女はあいうえおチョコを侮辱されて、完全にブチ切れているようだ。その原因となったの
はアルファのはずだが、彼女はナツメを威し始めた。
「てめー、わたしの頭をサザエさんみてーだと言ったな。」
「え~!? なんでこっちに矛先が向くの~?! しかもチョコと関係ないし。」
「確かに聞こえたぞ。」
「言ってないし~!!」
アルファも脅迫に加わる。
「ナツメ、てめー、ハマーンの髪型がミンキー・モモみたいって言ったな!」
「いや、確かにそうだけど・・・言いたくても言えなかった・・・ってなんでこんな展開になるの~?」
かわいそうなナツメをオキタが助けてくれた。
「チョコが溶けたのは申し訳ありません。これ、あいうえおチョコ・プレミアムです。カカオのグレードが上がり、五十音もコンプリートしてます。これに免じて勘弁してやってくれませんか?」
「・・・・・ふん、まあいいわ。あいうえおチョコを侮辱した二人は、いずれ痛い目に遭わせてやるから。」
「え~、なんでそこにボクが入ってるの~?」
ふと気が付くと、一人の男がそばにいた。
「誰? あんた。」
「それがしは藤原不比等だ。」
「そうだ、かぐや姫に求婚した五人のうちの一人だ。ここでは本名で出てるんだ。」
「え、あのかぐや姫を一番苦しめたっていう、藤原不平等のこと?」
「不平等ってなんだよ。不比等だ!」
「ああ、不等式だったか。」
「いや、不等辺三角形だろ。じゃあ、三角でいいや。」
「それで三角、何の用です?」
「三角って原形留めてないじゃないか。」
三人と不比等が言い争ってると、お爺さんとお婆さんが取り巻きたちを追っ払ってくれたと感謝し、三人を家に招いてくれた。ついでに三角もついてきた。先ほどの若い女は奥に引っ込んでしまい、姿を見せなかった。
「本当にありがとうございます。毎日毎晩、あのように家の周りで騒がれていましたので、疲れ切っていたんです。助かりました。何かお礼をして差し上げたいのですが。」
オキタが三人を代表してあいさつする。
「いえいえ、御礼には及びません。わたしどもは旅の者で、たまたま通りがかっただけですから。聞く所によると、先ほどの若い女性を妻にと、大勢の人が言い寄っているそうですが?」
「そうなんです。かぐや、彼女の名前ですが、どうも名前だけが独り歩きして大勢の人を呼寄せたようでして。かぐや姫とは別人だと言っても誰も耳を貸さないんですよ。」
ナツメが話に入って来た。
「へえ、かぐやっていうんだ、彼女。空の太陽消えちゃったから、また男ども来ると思うよ。これじゃ休まらないね。彼女と話を出来ないかな。何か助けがしたいな。」
出しぬけに奥から声がした。
「助けがしたいって言うのね。先ほどの侮辱に対する償いがたんまり残ってまるからね。ということで、言うこと聞いてもらいましょうか。」
十二単を脱いで簡素な服に着替えたかぐやがみんなの前に進み出てきた。オキタがまず自己紹介を始める。
「わたしはオキタ・アルガといいます。」
「わたしはアルファ・イージス。」
「ボクはナツメ・デーツ。」
「いろは・かぐやよ。」
「へ~、いろはちゃんっていうんだ。」
ナツメがヘラヘラしてるので、アルファが叱り飛ばす。
「何デレデレしてるのよ。また何、一緒に旅しませんかって言う気?」
「そうだね、それいいと思うよ。」
いろはが尋ねる。
「旅って何?」
オキタが説明する。
「我々はクニ国を目指して旅をしています。ヲニ国の大切な宝がクニ国に盗まれた疑いがあるものですから。頼りになる仲間を捜しながらの旅なんです。」
いろははナツメに尋ねる。
「あなた、わたしに来てほしいの?」
「そりゃあ、来てくれたら嬉しいよ。」
「その理由はなんなの?」
「世の中、女の人はいろいろ大変で、言いたいことを自由に言うこともままならないよね。でも、キミは言いたいことはっきり言うみたいだから、一緒にいるときっと楽しいし、頼りになると思ってね。」
「・・・・・お爺さん、お婆さん、わたしがここにいてもストーカーがうるさいだけだから、しばらく旅に出てもいいかしら? この人たちの、何か大きな目的の手助けができるかもしれないし。」
「そうかい、そうかい、行っといで。わしらのことは心配せんでもええ。見かけよりは若いんじゃ。世界を見ておいで。」
「ありがとう。」
ナツメが一番喜んでいる。
「いいねえ。またきれいな女の子が増えたよ。こうでなくっちゃね。」
いろはが怪訝そうに言う。
「『また』ってどういうこと? 男二人に獣が一匹でしょう。どこにほかの女がいるっていうの?」
「何だとこらー!! これ見よがしに毒吐いてんじゃねえぞ!」
「とりあえず、言葉はわかるみたいね。」
「ぶっとばすぞ、こらー!」
「まあ、二人とも、仲良くしようよ。いずれボクを取り合ってしまう二人なんだろうけど。」
「「どさくさに紛れてキモイこと言うんじゃねー!!」」
ここは二人とも息が合ったようだ。
いろははオキタにいろいろ尋ねた。
「さっきの太陽は何?」
「あれはアルファさんが持っている指輪の機能の一つです。」
そこでナツメが付け加える。
「彼女の正体はジオンの総帥で、秘密兵器を授けられたんだよ。」
「ここで人生終わりにするか?」
「強い子に出会えてよかったってなる~!!!」
二人が会話の邪魔をするのでいろはが叱り飛ばす。
「うるせえ、うっとおしいぞお前ら! ねえ、オキタ、一緒に旅するのに、アルファが持ってるようなグッズはあるの? 彼女と同じ指輪は嫌だけど。」
「じゃあ、このペンダントはどうですか。形が違っても、性能はみんな同じです。腕輪タイプもブローチタイプもありますよ。」
「ジオンの秘密兵器っていうわりには、バーゲン品みたいね。ペンダントでいいわ。それと、あなたの目に着けてるスカウターもくれないかしら?」
「これですか?・・・まあ、いいでしょう。あなたの方が上手く使えそうですし。わたしの持ってるタブレットと連動していますが、みんなの分もタブレットを用意した方がよさそうですね。」
ここで三角が怒って喚きだした。
「待て待て! 何勝手に話を進めているんだ。それがしはこの
かぐやに結婚を申し込みに来たんだ。邪魔するんじゃない。」
「勝手なことしてるのは三角、あんたでしょうが。わたしは誰とも結婚する気はないわ。帰ってちょうだい。しかも、あんたのいうかぐやは別の人でしょ。わたしじゃないわ。」
「ごまかしても無駄だ。そなたはそれがしの妻になる人。何が何でも妻になってもらう。」
ナツメとアルファも話に加わった。
「名前は三角だけど、三角関係どころか蚊帳の外だね。」
「それがしは三角ではない。不比等だ。失敬な。」
「よく見ると、のび太とも読めるね。」
「じゃあ、妻はジャイ子だね。」
「え? しずかちゃんじゃないの?」
「その歴史は闇に葬られたらしいよ。」
「そんな・・・あのマンガ、ホラーだったんだ。」
「そういや、あの猫型ロボット、ネコドラくんとかいったかな。耳をネズミにかじられたっていうけど、あれってグーグー・ドールズにやられたのかな? 22世紀のロボット製造工場にネズミが入りこむんだもんな。スタンド以外無理だろ。」
「えーい、貴様ら、人の邪魔をするんじゃない。それがしはかぐやに用事があるのだ。貴様らの茶番に付き合ってる暇はないんだ。」
ここでいろはが話を区切った。
「そんなにいうなら三角、一つ課題を出しましょう。それが達成できれば検討の余地はあると言っておきましょう。」
「お、始まった、始まった。課題が出るぞ。なんだろな。」
「三角、蓬莱の珠の枝を持ってきなさい。3分間待ってやる!」
「時間なさすぎ! 絶対無理じゃん!」
「ナツメ、あんたは飛行石だ。時間だ、答えを聞こう。」
「なんでボクに課題が出てるの? ていうか、え~? 持ち時間ゼロ? ラピュタは本当にあるの~?」
「安心してください、ナツメ君、いろはさんに渡したペンダントは飛行石と同じものですから。」
「あら、クリアできるとは思ってなかったわ。というわけで、三角、あんたは退場ね。それに、人違いだから。いい加減にして。」
「まったくいいとこなしだな。ここは引き下がるしかない。」
不比等はすごすごと退散した。
ナツメがまた余計なことを言った。
「それって飛行石なんだ! バルスって言っちゃ駄目なんだよね?」
「あなた今、亡びの言葉を口にしたわね!」
「あ、言っちゃった・・・ど、どうなるの・・・?」
オキタが忠告する。
「ほんとに困ったもんです。安全装置をオンにしておいてよかったですよ。」
「安全装置付けてたら意味なくない?」
いろはは今までの感謝を老夫婦に伝え、みんなは一泊してお爺さんとお婆さんに別れを告げ、クニ国目指して旅立った。
一行は遂に黄泉比良坂に差し掛かろうとしていた。ナツメがみんなの顔色をうかがう。
「いよいよだよ。振り向いたら死ぬって言われてるよ。みんな、どう思う?ヴァニラ・アイスがいるような気がするんだ。」
なんとも気まずいことに、みんな緊張しているようだ。ナツメの投げかけに誰も反応しない。オキタはタブレットを見ながら周辺の道や地形を確認しているが、「ん~」とかはっきりした返事をくれない。
「どうしたんだよ、アルファ、キミが何にも言わないなんて。」
重苦しい時間が過ぎ、坂の頂上までやって来た。かなりの急こう配で、難所のいわれは確かだった。そこでようやくアルファが口を開いた。
「あれ、ポストがあるよ。うわっ、犬のうんこがある。」
ナツメも声を上げて駆け寄った。
「それにこのポスト、口が二つあるけど、かたっぽは真実の口になってる!もしかして、ここから柱の男のとこに通じてるわけ?」
アルファがえんがちょを発した。
「いや~、ナツメ、うんこ踏んじまってるよ~!!」
「あちゃ~、やってしまった!!」
「例のうんこ踏んだのって、ナツメだったんだ~!!」
「え~、ここ杜王町なの~?ポストの横にオーソンないけど。え、もしかして鈴美ちゃんがいるの?会いたいな。」
二人はポストに夢中になっている。オキタが一つ提案をする。
「ここからいよいよクニ国に入ります。最後尾の人が一番怖くなるので、皆さん、横一列で歩きましょうか。」
「お、Gメン75だね。ちゃらら~ちゃらら~って歩いていくんだ。」
道幅があまりないのでみんな肩を寄せ合うように進んだ。アルファといろははナツメが横に、来るのを嫌がってオキタの横の端になるように要求した。もちろんナツメは両手に花を期待していたわけだが、あえなく却下された。
四人が進み始めた途端、何かが後ろにいる気配がした。まずアルファがまくしたてた。
「ちょっと、後ろにいるのナツメなの!?」
「え、ボク横から動いてないよ。」
「やめてよ、よだれをたらさないで!変なこと言わないで!」
「だからボク後ろにいないよ。そいつはなんて言ってるの?」
「このスケベ!一緒にお風呂に入ろうなんて、ぶっ飛ばされたいの!」
「だからボクじゃないって!」
今度はいろはがナツメに怒る。
「もうちょっと、わたしにまでよだれをたらさないで!」
「今度はいろはまで・・・」
「何よ、どういうつもり?耳元でささやかないで!一緒に温泉なんか入んないわよ!」
アルファが再度怒る。
「ナツメ、てめー、わたしがお風呂でなんでいろはが温泉なんだよ!なんだよこの格差は。」
「怒るポイントがよく分かんないんだけど・・・?オキタのところへは誰か来てない?」
「わたしのところにもナツメ君が来てますよ・・・12分の1のグフのプラモが欲しいと言われても、ありませんよ。シャアザクを買ったとこでしょう?」
いろはがナツメを問い詰める。
「あなたのところには誰が来てるのよ?」
ナツメは急に黙り込んでしまった。
アルファが詰め寄る。
「何で急に黙り込むのよ。言いなさいよ。」
「言えば殺される・・・」
「言わないと殺すわよ。」
「そんなのないよ~・・・仕方ない、言うよ・・・アルファといろはが二人とも来てるんだ。」
「「それで。」」
「アルファといろはが一緒にお風呂に行くか、温泉に行くか、どっちか選べって言うんだ。左から後ろを向いたらアルファ、右から後ろを向いたらいろはと行くことになるよ~って、甘い声で誘うんだ。もう、困っちゃうな~。」
「何喜んでやがる。本気で振り向きたくなってるだろ。いいじゃん、振り向けよ。うちらに殺されるか、化け物に殺されるか、さして変わんないから。あ、そうか!指輪の力で強制的に振り向かせればいいんだ。」
「ひどい~!ヘブンズ・ドアーで振り向けないようにしてくれるんじゃないの?振り向くようにするなんて。よし、こうなったらやけくそだ。アルファの声の方に振り向いてしまえ!鈴美ちゃん、そこにいるの~?」
ナツメは好奇心(欲望)に負けて振り向いてしまった!なんとそこにはほんとにアルファがいた!
「アルファだ!マジですか?」
「ふふふふふふ・・・」
「なんかすごいやばい感じだよ・・・いや、これは、カメオのジャッジメントだ!願いが具現化してるんだ。けど、噛みついてくるんだよな、こいつ。だが、このチャンスを逃すか!」
ナツメは怖がるどころか『しめた』という顔でアルファの偽物らしき相手に飛びついた。
「てめー!ぜってーいやらしいこと考えてるだろ。なんでいろはにしねえんだよ。ふんっ、こういうのって、大抵正体が男ってオチだぜ。ざまあ見ろ!」
偽物アルファは男ではなかったが、何かものすごい硬いもので出来ていた。ナツメは思いっきりその相手に頭をぶつけてしまった。
「いたたたた、ぬりかべか何か?」
アルファの姿をした『何か』は、ニシャーと笑うと、一度溶けたようになって別の形となった。
「あれ、これってスライムだよな。しかも、メタルスライムだ!ラッキー!経験値稼ごうぜ。」
オキタがみんなに声をかける。
「どうやら振り向いても死なないようです。しかも、ボーナスポイントをもらえそうですよ。」
アルファといろはも振り向いた。四人それぞれの後ろにスライムがいたらしい。4匹のメタルスライムが現れた!しかし、いろはがスカウターを見てデータを報告する。
「これはメタルスライムではありません。これはオリハルコンスライムです。倒せば経験値をレベルマックスまで稼げるほどたくさん持ってます。」
ナツメは大喜びで武器を構えた。
「行っくぞー!!魔法剣サンダガ乱れ撃ちっぽい切り方ー!」
『ガッキーン!』
「あいたたたたた・・・」
ナツメの持っていた剣はポキンと折れてしまい、あまりの硬さにナツメは手がしびれてしまった。いろはがデータの詳細を告げる。
「オリハルコンスイムの防御力は天井知らずで、今まで誰もダメージを与えた者はいません。いわゆる伝説の武器の素材で出来ているので、これより強い武器がありません。基本、メタル系スライムはすぐ逃げますが、こいつは決して逃げない上に、素早過ぎてこちらは逃げられないようです。そして、今まで誰も倒したことがないようです。」
「え?決して逃げないとか逃げられないとか、誰も倒したことがないって、どうして分かるの?」
「所持金が半分になって王様の所に帰って来た人の証言です。」
「それって・・・・・絶体死ぬってことじゃあ・・・うぎゃー!!振り向いたら死ぬってこいつに出会うことだったんだ。」
「ナツメー、てめーのよこしまな欲望のせいでこうなったんじゃねえか!どうしてくれる!」
「どっちみちヘブンズ・ドアーで振り向かせるんだったんじゃないの?いろは、オキタ、何か手はないのー?そうだ!パルプンテだよ!『くだけちった』とか『びっくりした』とかでなんとかならない?リムルダール近くでその手で経験値稼いでたよ。」
「『くだけちった』はSFC版以降では経験値もらえないですよ。」
「仕方がないよ。死ぬよりましだ。アルファでもいろはでもいいよ。連発して~!」
「よ~し、パルプンスカ!」
「え?何その呪文?」
『オリハルコンスライムは仲間を呼んだ!オリハルコンスラムはキングオリハルコンスラムになった!』
「ふぎゃー!さらに状況が悪化したー!!こうなったら『くだけちった』が出るまで続けてよ!」
アルファといろははしばらくパルプンテを連発していたが、辺りに花が咲いたり、いろはとアルファに尻尾が生え、笑ったナツメをしばいたり、押しつぶしで攻撃してくるスライムから逃げたりと、現場は大混乱になった。そしてさらに事態は悪化した。
『キングオリハルコンスライムは仲間を呼んだ。アルティメットドラゴンが現れた!』
「またとんでもない敵が来た~!アルティメットドラゴンで何?そんなやつ今までいた?強すぎるんじゃない?」
ここでいろはが歓喜の声を上げる。
「これは!いけるかもしれないわ!」
「え?この詰んだ状態で?」
いろはは混乱呪文をドラゴンに唱えた。
「よし、ドラゴンが混乱したわ。」
『アルティメットドラゴンは混乱している。アルティメットドラゴンは炎を吐いた。キングオリハルコンスライムに50のダメージ!キングオリハルコンスライムを倒した。』
「うわっ!やったぞ!どうなってんだ?」
「攻撃設定基準値の違いです。こちらの攻撃は、相手の防御力で多少変化しますが、攻撃力の半分の値がダメージとなります。会心の一撃は攻撃力数値がそのままダメージとなります。しかし、この手の防御力桁違いモンスターは、基本1しか与えられません。
ところが敵モンスターが混乱して味方を攻撃すると、ステータスによるダメージではなく、モンスターの独自設定ダメージになるので、この場合のように防御力に関係なく所定のダメージを与えるわけです。」
「メタルスライムとスカイドラゴンがセットで現れたら、スカイドラゴンを混乱させ、炎でメタルスライムを倒すのと同じやり方だ。ただ問題は・・・あのアルティメットドラゴンをどうするかだ~!」
「あいつめっちゃくちゃ強そうだよ。混乱してても味方がいなけりゃこっちを攻撃するぞ。」
アルファといろはは攻撃呪文を唱えようとしたが、その時突然青い稲妻が走った。
「秘剣!ブルー・ダイヤモンド!」
青い衣装をまとった剣士が振り下ろした稲妻の剣は、アルティメットドラゴンを一瞬で倒してしまった。
「ふふふふふ、経験値はがっぽりいただきだ。」
そう言ってドラゴンを引きずって去ろうとしていたのは、青い服を着た銀髪の戦士だった。ナツメとアルファが興味深そうに言う。
「ブルー・ダイヤだって、金銀パールがもらえるよ。」
「俺を洗剤と一緒にするな!」
「あれってテリーじゃない?ヘンダーランドの。」
「それはクレヨンしんちゃんの映画だろ!ワンダーランドだ!」
「あの青い服、ぶりぶりざえもんだよね?変だ変だよ、ヘンダーランドー!!」
「歌うな!しつこいんだよ!」
「ねえ、お姉さんへのストーカーは上手く行ってるのかい?」
「貴様に姉さんの何が分かる!」
「あれ、今ボク明治の剣客に思われたかな?じゃあ、あんたは弟のエニグマなんだ!」
「話を脱線させるな!」
「ああ、そうだったね。べらぼうってやつが姉さんをさらったんだよね。」
「ワルぼうだ!尻ふき棒なんぞにさらわれてたまるか。」
「確か相棒はびんぼうって言ったよね?」
「わたぼうだ!わざと間違ってるだろ。というより、ワルぼうもわたぼうも関係ない。誰のことを言ってるんだ。俺の名はテルー。ドラゴンハンターだ。それじゃあな。」
そういってテルーはドラゴンを引きずって行ってしまった。ナツメはひどくがっかりした。
「あ~、なんてこった。経験値はあいつがみんな持ってってしまったよ。せっかくレベルマックスになれたっていうのに。」
経験値が得られず、望んでいたレベルマックスになれなかったのを、ナツメとアルファは悔しく思った。すると、一人の若い女性が声をかけてきた。
「迷ったの?」
ナツメが歓喜の声を上げる。
「わっ!ほんとにいた!鈴美ちゃんだ!ねえ、ポッキーちょうだい!」
「あら、わたしの名前を知ってるんだ。えらいわねえ。いいわよ。じゃあ、そっちの端っこ持って」
「来た来た!」
ナツメは彼女が差し出したポッキーの端っこを持った。
「今からポッキー折るけど、わたしとあなたとどっちが長いと思う?」
「あれ、展開がちょっと違うね。まあ、いいか。そりゃあ、鈴美ちゃんでしょ!」
「じゃあ、折るわよ。ポキッ!あっ、わたしの勝ちね。」
その途端、ナツメの体は霧のようなものに包まれ、次の瞬間にナツメはコインチョコになっていた。アルファがびっくりして彼女に詰め寄る。
「てめえ、今何しやがった!」
「彼は賭けに負けたのよ。わたしの名はレイミ。能力は、賭けに負けた相手をコインチョコに変えてしまうってものよ。」
「なんだその魔人ブウみたいな能力!ナツメを元に戻せ!」
「え、魔人ブウって思われちゃった。いいわよ、あなたたたちの誰かがわたしに掛けで勝てたらね。次のゲームは・・・」
いろはが間に入って来た。
「今度はわたしが受けて立つわ。コインチョコだなんてふざけた能力、打ち砕いてやるわよ。ルールは私が決めてもいいでしょ?このあいうえおチョコを使うわ。」
「いいわ。どんなゲームかしら?」
「この袋から最初に自分の好きなだけチョコを取り出すの。それで言葉を作るゲーム。後はポーカーの要領で文章が出来るまでチョコを交換するの。多くても少なくても難しいわよ。各文字は一文字しかないし、相手が持っている文字も使えないわよ。3回先取勝負でいいわね。
コインチョコになったナツメの意識はあるんでしょ?出来た文章でナツメのコインをより強く光らせた、つまり何か感情に訴えられたほうが勝ち。ただし、NGワードがあるわよ。わたしが負ければチョコは溶けるわ。」
「何それ、ナツメちゃんものすごく危険にさらされてない?とにかく、ナツメちゃんの心に触れればいいのね?」
「何その思わせぶりなセリフ。じゃあ、行くわよ。」
二人は袋から任意の数のチョコを取り出し、何度か交換していく。まずはいろはが先に言葉を見せる。
『りかいしろ』
コインチョコには何の変化もない。次にレイミが見せる。
『なつめちゃんすきよ』
コインチョコが真っ赤になった。レイミが勝利宣言する。
「わたしの勝ちね。とういうより、これ、わたしが一方的に勝つんじゃない?」
「どうかしらね。」
次はレイミが先に出した。
『なつめちゃんて(で)えとしよ』
今回はもっと赤くなった。いろはも次の言葉を見せる。
『とけたいの』
コインチョコは心なしか震えてるようだ。レイミが逆に心配そうに話す。
「あれ~、わたし勝っちゃうけど?いいの?あなたもコインチョコになっちゃうよ?」
「わたしの心配してくれてるの?そうね、あと一回負ければコインチョコは溶けちゃうわね~。鼻の下伸ばしてる人は誰かな~。自分の立場分かってるのかしらね。それと、怒らせると怖いの誰だったかしらね~?」
もはや完全に脅迫だった。ナツメはチョコの姿ながら、調子に乗ってレイミの甘い言葉に浮かれていたのを心底恐怖した。いろはが負けてコインチョコになれば、真っ先に怒りの矛先が向くのはナツメだった。その恐怖、そう、まるでお尻につららを突き刺されているかのように・・・といっても溶けてしまえば何もかもおしまいのような気が・・・
「さあ、次ね。」
レイミが出した言葉はとどめに近いものだった。
『た(だ)きしめて』
ところが、コインチョコは光りたいのを必死に我慢した。冷や汗(ブリード?)をかいているようだ。
「あれ~?何の変化もない?どうしたの?」
「じゃあ、わたしね。」
『わかれは(ば)よい』
コインチョコは安堵の青色になった。
「今度はわたしの言葉の方が大きく変化したようね。」
「むう、愛が恐怖に負けるわけにはいかないよ、ナツメちゃん。」
今度もレイミが先に出した。
『きすして』
コインチョコは爆発寸前、と思いきや、これがNGワードだった。
いろはは無難な言葉を選んだ。
『よかろう』
「次が最後ね。なかなかやるわね。よ~し、ナツメちゃん、わたしが勝ったら言葉通りのプレゼントだよ。恐怖よりも祝福を選ぼうね。」
『た(だ)つ(っ)こして』
コインチョコは誘惑に負けて光ってしまった。
「よ~し、これはわたしの勝ちだね。」
「どうかしらね。今回は文章が長いので手間取ったわ。あなたのチョコ使用が少なくて幸い。」
「いろはかちならひさ(ざ)まくらよ』
コインチョコは光るまいとする努力が要らないのでより強く光った。
「何~?最後にその手使う~?それ本気なの~?」
「とにかく、わたしの勝ちね。」
いろはの勝ちが決まった瞬間、ナツメは元に戻った。顔は満面の笑みだ。
「いろは、ほんとにいいの~?」
「ええ、いいわよ。はいどうぞ。まくらにするならご自由に。」
いろははピザをナツメに渡した。どうやらオキタが超空間デリバリーを頼んでおいたらしい。
「・・・・ひざじゃなくてピザ~?なんてこと・・・」
「あら、いいじゃない、なつめちゃん、一緒に食べてもいい?」
「わ~い、レイミちゃんが一緒に食べてくれるんだなんて、夢みたい。結構大きいから、みんなで食べようよ。ねえ、レイミちゃん、キミが勝ったらほんとに抱っこしてよかったの?」
「ええ、でもコインチョコの解除は勝負と連動してるからねえ。」
「う~ん・・・・」
みんながピザを楽しんだ後、アルファがかなり乗り気になっていた。
「わたしも何か勝負したいぞ。」
「じゃあ、スーパー・パクリ・ヒーローズでどう?そちらは四人。こっちは相棒とCP×2で行くわ。」
「相棒って、アーノルドのことだよね。犬がゲームできんの?」
「おいで、アーノルド!」
すると、筋骨隆々のサングラスをかけた大男が現れた。
「アーノルド違いじゃないか!こんなのがベッドの下にいたわけ?殺人鬼より強そうだけど?とうより、殺人マシーンじゃないか!」
「くっく~ん。アイル・ビー・ドッグ。」
「わ~、なんかやばそうだよ。犬になるって言ってるし。」
「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったわね。わたしはアムロ・レイミ、カタカナだからよろしく。」
「ナツメで~す。こっちはアルファといろはね。ピザ頼んでくれたのがオキタ。仲良くしようね。」
「すみません。わたしは見学者でよろしいでしょうか?」
オキタが棄権を申し出た。
「いいの?参加しなくて。楽しいと思うけど。まあ、いいですよ。さあ、始めましょうか!キャラを選んでね。わたしはベレス先生ね。」
そういうとレイミは光に包まれ始めた。
「え、本人がコスプレしてやるゲームなわけ?うわっ!いきなり来た~!網タイツにヒール履いてヘソ出しだよ。先生がこれじゃ、授業に集中できないよね。ゲームにも集中できなさそう・・・この勝負負けた・・・」
「この変態め。こいつの前でうかつに女性キャラを選べないぞ。」
「じゃあ、ボクは岸部露伴で行くかな。本にしちゃうぞ。」
ナツメの体が光に包まれて変化する。
「なんだ~?トマトとピーマン合体したお化けみたいだぞ。」
「あれ~?パールジャムだ。これってどうやって戦うの?必殺技って何?武器はあるのかな?キッチンに入る人に包丁投げつけるくらいだなあ。」
アルファはハマーンになってしまうのかと警戒したが、なったのはゼルダ姫だった。
「おい、これってナツメの妄想の結果じゃねえのか?てめー、命が惜しかったら脇の下を覗くんじゃねえぞ!」
ナツメは違うことで安心していた。
「よかった~。ボクの勝手な感想だけど、ゲキマユ平成ゼルダじゃなくて。」
「この変態め。」
いろはは頭の上の髪の毛が二重輪っかになった着物姿に変身した。
「竜宮城の乙姫かな。」
「え?キュア・ドリームじゃないの?」
「さてさて、キャラが決まったら、戦闘メカか武器、スタンドを決めてね。ナツメちゃんはすでにそうなってるけど。わたしはポッキーの剣ね。」
ゼルダ・アルファのスタンドは、本人の希望かどうかは不明だがアッガイになった。いろはは何やら箱を持っているが、これが能力のようだ。何が入っているのだろうか?
レイミがCPのキャラを決めようとしたところ、突然誰かが割り込んできた。
「三人目なら、俺がなろう。」
それはテルーだった。
「あっ!さっきのぶりぶりざえもん!」
「またそのネタか!」
「わ~い!やった、やったー!金銀パールが当たったんだ。持ってきてくれたんだ!」
「てめえらいい加減にしつこいぞ。」
レイミが口をとがらせる。
「仲間にしたくないんだけど。」
いろはがなぜかレイミを諭す。
「入れてやってくんない?ちょうどボコボコにしたいと思っていたところだから。」
「ふん、えらく大きな口を叩くじゃないか。さっきのドラゴン退治、憶えてるだろ?」
「ええ、よく憶えているわ。経験値がっぽり稼いだわりにはステータス変わってないし。レベルの変わんないドラクエⅡのお姫様より性質悪そうね。」
「言わせておけば・・・女だからって容赦しないぜ。」
3対3の戦いだが、パールジャム・ナツメとベレス・レイミ、ゼルダ・アルファとターミネーター・アーノルド、プリンセス・いろはとブライ・テルーの戦いになりそうだ。
アルファとテルーが何やら文句を言っている。
「何がプリンセスだよ!玉手箱持ってんだから、男の精気を吸い取るディメンターでいいだろ!」
「ブライってなんだよ。」
「トルネコの方がよかった?」
そんなこんなでバトルが始まった。
まずはナツメが先制攻撃を仕掛けようとしたが、レイミが先手を取った。天帝の剣の一撃!のような、長いポッキーだった。
「どうぞ!」
レイミが差し出したポッキーを手に取り、ナツメは食べ始めた。
「何だこのポッキー?食べ出したらやめられないし止まらない!。ポッキーってかっぱえびせんだっけ?ポリポリポリポリポリポリポリ・・・」
「何やってんだてめー!バトル始まっていきなり菓子食ってんじゃねえ!」
「うわー!これってパールジャムの能力だよ。なんで自分にかかってんの?食べたら何か体にいいことあるのかな?・・・なんか頭がかゆくなってきた・・・」
『ポリポリポリポリポリポリポリ・・・』
「ナツメやめろ~!大量にフケが出てるじゃねえか!汚ねえんだよ!」
そう言ってアルファはアッガイの六連装ミサイルを発射した。
『ドッゴーン!!』
「あれ~!」
ナツメは場外に吹っ飛んで行った。
「早速仲間割れね。まずは一勝!」
レイミがアルファに笑顔を見せる。アルファが毒づく。
「この網タイツめ。とにかくわたしはあの殺人マシーンを何とかしなくちゃね。」
気合を入れたアルファとアッガイの周りを禍々しいオーラが包む。
「アッガイをなめるなよ。」
アルファは頭部のバルカン砲をアーノルドにお見舞いする。
『バリバリバリバリ!』
ところがアーノルドは体を液状化させてこの攻撃を難なくやり過ごした。
「何だこいつ?物理攻撃が効かないんじゃないか?まったく、突っ込みどころのないキャラで嫌だな。こいつの相手はナツメにやらせとけばよかったな。」
アーノルドは手に持っていたマシンガンをアッガイに撃ち込んできた。
「くっく~ん。」
『ダダダダダダダダ・・・』
アーノルドの弾丸はアッガイの装甲にかなりの傷をつけた。
「ええい!落とし所が分からん。」
アルファはアッガイの右手を伸ばし、爪でアーノルドをつかまえようとするが、液状化して逃げられてしまう。
一方いろはとテルーは向かい合い、お互い仕掛けどころを探っていた。
「ドラゴンを一撃で倒した割にはずいぶん慎重ね。思った以上に臆病ね。」
「やかましい。どの道このままこう着状態が続けば、貴様らの負けだ。あのアーノルドとかいう殺人マシーンは冗談が通じねえからな。あの凶暴女とお気楽男では勝てん。」
「そんなこと百も承知よ。初めからわたし一人でやっつけるつもりだから。」
「けっ、口の悪い女が三人も揃いやがって。むかつくんだよ。」
「いいわ。あんたとしゃべっててもつまんないわね。ナツメの方がずっと男として見れるわよ。というわけで、さようなら。」
そう言うといろはは手に持っていた箱を開けた。すると煙が出てきてテルーに向かう。
「ナツメをなめると痛い目に遭うわよ。ブライって名前、知ってるんでしょ。あんたはナツメの妄想に負けちゃうのよね。」
煙にまかれたテルーは爺さんの姿になった。
「なんだこれー!?玉手箱かそれ。俺は自分で開けてないぞ。卑怯だぞ!」
「ふん。あんた、女を見下してるでしょ。この箱はそういう男にてきめんに効くのよ。ナツメは変態かもしれないけど、少なくとも女性を見下してはいないわ。」
テルーは戦闘不能でリタイヤした。
「ま、ここは引き分けにしておいてあげるわ。代わりにナツメを復帰させるわね。」
いろはの代わりにナツメがフィールドに戻ってきた。とりあえずフケは止まったようだ。
「やっほー!いろはありがとう。ハマーン様、御苦戦のようで、代わりますよ。」
「いちいちハマーン言うんじゃねえ。てめえはもう一回レイミの所に行って来い。こっちはやるだけやるぞ。」
しかし、アルファは弾丸を打ち尽くした後、打撃による攻撃を続けたが、アーノルドはすべて回避し、疲れたアルファに向けてハイパー・バズーカを放ってきた。
「こりゃいかん!」
なつめはそう言うと、アルファの前に楯となった。
「何やってる!試合を投げんじゃねえ!」
アルファはアッガイでナツメを投げ飛ばしたが、アッガイはバズーカの直撃を喰らって場外へ吹き飛ばされた。
「アルファ、降参すべきよ。後はナツメに任せればいいわ。」
「くっそー!面白くねえ!」
アルファは仕方なくリタイアした。
「ベイルアウトってか。でもアルファの戦いは確かに面白くなかったかも。このネタすべってない?」
ナツメは相変わらず能天気のようだ。
「あいつ一人で勝てるのか?いろは、なんで交代したんだよ。」
「あの冗談通じないアーノルドに、ナツメがどうやって挑むのか見てみたいかな。」
ナツメがモノマネで叫び、アルファが信じられない合言葉を放った。
「手加減はなしだー!!」
「ダンコンさん、お願いします!」
「女の子がとんでもねえ言い間違いすんじゃねえ!三波春子かー!」
アルファの思っても見ないセリフに冷や汗が出たが、気を取り直してナツメは少し考えた。
「あいつ、液状化するんだよな。なんかそういうヤツ結構いるよな。あの鬼太郎も最終回で水虎っていうのにやられたような。ワンピースでもロギア系ってそんなだよな。どうしようかな、ボク覇王色の覇気なんて使えないしな~。パールジャムの能力でどうしたもんか。なんで岸部露伴にならなかったかな~。ヘブンズ・ドアーで楽勝なのに・・・とりあえず、攻撃したらどうなるか分かんないこのスタンドで攻撃してみるか。メシャァ――!!!」
余裕で構えていたアーノルドにナツメはとりあえずパンチのようなものを繰り出した。アーノルドはそうする必要があると思えなかったが、体を液状化させた。しかし、これが命取りとなった!パールジャムの能力で液体金属は人体の必須ミネラルの形状に変化させられ、ちょうど老化していたテルーに注入された。アーノルドはテルーの体に取り込まれる形でギブアップした。
「なんと!ボク勝っちゃったよ。レイミちゃんに勝てばボクらの勝ちだ!けど、誘惑に負けそう・・・」
「こらー!鼻の下伸ばしてんじゃねえ!」
「うふふ、楽しみね。もうポッキーはいらないかな。じゃあ、お待ちかね、わたしの武器を出すわね。アムロ、行きまーす!」
レイミが出してきたものは、いくつもの何やら大きな貝だった。
「ああー!!クロアワビだ!ありゃー、トニオさんを溺れさせたやつだ。これは分が悪い。」
「あらあら、うろたえてるわね。ヘブンズ・ドアーがないのが痛いわね。タコもいないし。どうするかな?ナツメちゃん。」
と言うか言わないか、クロアワビはすでにナツメの体の各所にびっしり張りついていた。ナツメははがそうとするが、ぴったり貼りついて取れそうもない。
「うわー!この貼りつく力、ものすごいぞ。鼻と口を塞がれたらおしまいだ。ダーク・ブルー・ムーンみたいなんだけど。見つかった間抜けはボクですか?どうしたもんか・・・。ねえ、レイミちゃん、もう一回ポッキーくれないかな?でもいちごポッキーは嫌いなんだよね。」
「何をたくらんでるのかしら?ふふふ、いいわよ。いちごポッキーでいい?」
「え~、うーん・・・いちごのポッキーは好きじゃないんだけどなあ・・・でも今回だけはグッドチョイスだったりして。」
「え?」
一瞬ひるんだレイミはポッキーを引っ込めようとしたが、ナツメは素早く大きないちごポッキーをポキッと折り取り、今回もやめられない止まらないでそれを食べ始めた。
「ポリポリポリポリ・・・・うう~、来た来た、体がかゆくなってきた。」
「うえ~、またあいつ汚ねえことになるんじゃねえか?」
ナツメはかきたくてもかけない苦しみに耐えていたが、不思議なことにクロアワビがポロポロと落ち始めた。
「うわ~、垢と一緒にアワビがはがれてるよ。またこの手のネタかよ。」
「あ~、かゆいかゆい。よ~し。」
ナツメは全身をかきむしって垢を落としながらレイミに向かってにじり寄る。
「いや~ん。参ったよ~。」
「え~?参らないでよ、もっとバトルしようよ。」
「ううん。もういいよ。わたしは満足よ。」
こうしてレイミとのゲーム対決は終わった。ナツメといろはは満足げだが、アルファはひどく落ち込んでいた。
「どうしたの、アルファ?」
「・・・悔しいよ。」
「う~ん。ガチンコバトルやったのアルファだけだったね。それなのに、相手は特殊能力だったからね。ごめんね。ボクが浮かれてレイミちゃんにデレデレしてたから、みんなに迷惑かけちゃった。むしろテルー相手の方がよかったね。」
「うっせーよ、てめえの慰めなんてフケ以下だ。」
ナツメの栄養補給で元に戻ったテルーがアルファに喧嘩を売って来た。
「その女の相手が俺だと勝てたって言うのか、ナツメ。そんなに言うなら相手してやるよ。この女が弱いだけの存在だということを分からせてやる。」
「ほ~、ストレス発散に一役買うってか。ゲームじゃなく、決闘と行こうか!」
アルファもテルーの挑発に乗った。テルーはブルー・ダイヤモンドの剣を発光させ、アルファは指輪の力でオリハルコンスライムの剣を作り出した。
「「ウリャー!」」
お互い雄叫びを揚げ、剣と剣をぶつかり合わせる。撃っては離れ、離れては撃ち込むといった一進一退の攻防が続く。
「ほう、このブルーダイヤの剣を受け留めるとは、なかなかやるではないか。」
「そうかい、ダイヤよりこっちの方が硬いぜ。」
「それが使えりゃ、さっきのアーノルドにも勝てただろうに。そいつは液状化も出来るからな。実体を捉えただろうに。」
「ふん、ルールはルールだ。制限がかかってる中でも勝つのが強者というもんだからな。」
戦いは互角に見えたが、意外なことに快復したはずのテルーがまた弱って来ているようだった。目に見えてアルファがテルーを圧倒し始めた。
「何だ?いろはのやつ、また玉手箱を開けたのか?」
「違うわ。理由は分からないけど、消耗が激しいようね。戦いはここまでのようよ。」
アルファは剣を収めた。テルーは肩で息をしている。
「くっ、不覚。俺がここまで弱いとは・・・」
うなだれるテルーにナツメが声をかける。
「アルファを元気付けてくれてありがとう。テルー、何か無理してない?どんどん弱ってる気がするよ、健康がね。よかったら、一緒に旅しないかい?もうちょっとお笑いを習得すれば、もっと強くなれると思うよ。」
「最後は励ましてるつもりか?何で貴様らの冗談に付き合わねばならぬ。」
ここで、今まで黙っていたオキタがテルーに声をかける。
「テルーさん、このクニ国を旅するのにあなたの力が要るんです。一緒に来てくれませんか?」
「・・・いいだろう。しかし、こいつらのギャグに付き合うのはごめんだぜ。」
「へっへっへ、きっとその素晴らしさに気づくよ。」
こうしてテルーも仲間が仲間になった。
「チャラララララ・・・」
「言わんでいい!」
テルーはナツメの歌を強制的にさえぎった。
「残念・・・」
ナツメは急にハッとしてアルファのもとに駆け寄り、手を合わせて頼みごとをした。
「ねえ、ねえ、アルファ、一生のお願いがあるんだけど。」
「な、何よ。」
「その・・・さ、君の耳、触らせてくんないかな?エルフの耳ってどうなってるのか知りたくて・・・」
「このド変態がー!」
「わ~、お願いだよ~!」
ナツメの願いもむなしく、全員のコスプレが解除されていった。そしてレイミがナツメに向かって笑いかける。ナツメはレイミの顔を見て嬉しくなった。
「うわ~、かわいいなあ。」
「ナツメちゃん、ありがと、すごく楽しかったよ。でも、ここでお別れね。これでわたしは天に帰るから。」
「え~!?何言ってるの?天国行っちゃうの?もうお別れなの?そりゃないよ。デートもしてないのに~。ちゅーしてくれるんじゃなかったっけ?」
「そうね。でも、いつでも会えるわ。・・・ここで振り向いたらね・・・」
「なんで最後だけホラーなの~!?」
黄泉平坂を越え、一行は山深い道を進んでいた。
「早く次の村に着かないかな~。休みたいよ。」
みんなはかなり疲れていたが、ようやく村らしき家並みが目に入って来た。
「よかった~。でもどうかな、クニ国にはボクらは初めて来たわけだし、こっちの国の人は歓迎してくれるかな?」
一行は恐る恐る村の入り口に近づいて行った。ところが、何やら騒がしい。村人たちが通りでいくつものグループになって話し込んでいる。
「一体なんでしょうね?何か問題があるようだわ。」
村人たちの会話はこのようなものであった。
「やれやれ、山の神様がお怒りのようじゃ。」
「今年の作物の出来が心配じゃ。」
「幼子の生贄を用意するそうじゃ。」
「若者が減っておる。祭も人が集まらん。これでは村も弱って行く一方じゃ。」
「いやいや、もう山を降りて暮らそうぞ。山の神様なんぞおらんのだ。」
「いや、山の神はいらっしゃるぞ。大人には見えんがな。わしは子供のころに見たことがある。」
「そうじゃ。ボストトーロ様はこの山を守り、我らを栄えさせてくださる。」
「しかし、村の衰退ぶりはいかがなものか。何か手を打たないといけないのは本当じゃ。」
要約すると、この村は山の神を信じており、その名をボストトーロという。子どもには見えるが大人には見えず、村を守り、栄えさせてくださっていたということであった。しかし、村は衰えつつあり、生贄をささげるべきかどうかを決めかねているとのことであった。
「でも、子供の生贄をささげるなんて、そりゃよくないね。それを計画してる人に詳しく話を聞けないかな。」
村人は排他的ではなく、一行を暖かく迎えてくれた。ただ、ここのところあまり作物の出来がよくなく、大したもてなしは出来ないとのことだった。親切にも、宿屋の主人が村の神官に目通ししてくれた。一行は神官のいる聖殿に入り、話を聞くことにした。オキタが話を切り出した。
「我々を迎え入れてくださり、ありがとうございます。わたしの仲間はとても有能で、きっとこの村でも役に立ってくれます。現状を説明願えますか。きっと道が開けると約束します。それと、生贄のことを聞きました。なんでも幼子をささげるとか。もしよければ、そうする前に我々にこの問題の解決を託していただければ幸いです。」
オキタの申し出に対し、神官は畏れと悲しみの混ざった声で語り始めた。
「我らの山の神ボストトーロ様は子供好きでいらっしゃる。しかし、昨今の若者は山を降り、年寄りが増えてめっきり子供が少なくなってしもうた。きっと誰も遊んでくれないと、嘆いていらっしゃるのだ。そこでじゃ、ボストトーロ様の遊び相手として、幼子を山に贈ろうと思うておるのじゃ。ボストトーロ様の機嫌が治れば、村を衰退から救ってくださるに違いない。」
「生贄の予定は何時です?」
「それがじゃ。子供を生贄にしようという者は誰もおらぬ。一体どうしたものかと思案しておる。くじで決めるか、お金を積むか・・・」
「我々がその生贄になりましょう。」
「申し出は嬉しいが、そなたたちは子供ではない。生贄にはなれんのじゃ。」
「しかし、今のところ生贄の候補者は見つからないのでしょう。さらに、今後も見つかるとは思えません。ここはどうか我々に任せてもらえないでしょうか。」
「そうまで言うのなら、やってみるがよい。ボストトーロ様は大人には見えん。声も聞こえん。心を通い合わすのは無理なのじゃ。それでも何か方法があるというのかの。まあ、期待せずにおるわいの。」
「では、許可していただいたと思っていいのですね。早速取り掛りましょう。」
「山の奥に祠がある。そこにボストトーロ様は遊びに来ると言われておる。わしら、つまり大人が言えるのはそこまでじゃ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
一行は神官の前を辞した。
「オキタ、引き受けてよかったの?子供でないと見えないらしいよ。どうするつもりなんだい?」
「ナツメは精神年齢低いと言っても見えないだろうしな。」
「どうやらそういうのじゃ通用しないみたいだよ。映画館の年齢ごまかしのような姑息な手を受け入れるような神様じゃないみたいだね。」
「いえいえ、手は考えてあります。ようやくわたしにこの責任が与えられた理由が見えて来たようですよ。道々計画をお話しします。」
一行が山の祠へ向かう途中、オキタはびんに入った商品を取り出した。
「これは一粒食べれば年齢が10歳成長する青い飴と、10歳若返る赤い飴です。祠に行って赤い飴を食べ、ボストトーロを待ちましょう。子供は七つまでは神のうちといいます。七歳になるように大きさを調整しましょう。それで、誰が食べますか?」
アルファといろはは「絶対嫌」とのことだった。お約束で服のサイズはそのままなので、体が縮む瞬間にナツメが大喜びしそうなのを避けるためだった。
「じゃあ、ボクが食べるね。オキタが食べたら司令塔がいなくなるのでみんなが困る。それで何をすればいいかな?」
「想像でしかありませんが、ボストトーロに会って話すことが出来たら、村の窮状を救うにはどうすればいいか聞くことですね。ああ、それよりも、ボストトーロの要求を先に聞いた方がいいかもしれません。」
しばらくして一行は古びた祠に到着した。
「ここだね。それじゃあ、その飴をちょうだい。」
ナツメは赤い飴を一粒もらい、口に入れた。すると体が縮んで行き、七歳当時と思われる姿となった。
「服がダブダブで動きにくいけどしょうがないな。それじゃ、行って来るね。」
ナツメはズルズルと服を引きずりながら祠の中へ入って行った。しかし、ずいぶん時間がたったが、何の変化もない。オキタが少し考えて、「しまった」という顔をした。
「ナツメ君、戻ってきてください。」
言われて戻ってきたナツメにオキタは青い飴を渡し、ナツメは元の姿に戻った。オキタがみんなに説明を始める。
「この赤い飴、体は子供になりますが、心までは子供になりません。それでボストトーロに会えないのでしょう。」
「え~見た目は子供、おつむは同じではダメなんだ~。見た目は子供、おつむも子供でないといけないんだね。アポトキシンでも同じだよね。」
「そういうことです。」
「ほかに何か方法は?」
「う~ん。かなり危険ですが、なくはないです。」
「どんな方法?」
オキタは今度は斧にしか見えない物を取り出した。
「何それ?」
「アレッシーの斧といいます。」
「それって・・・」
「そうです。これでぶっ叩かれた相手は子供になって、精神年齢も体相応になります。ただ力加減が難しいです。」
「これしかないの?」
「体が縮んでも精神は同じっていうネタは多いんですが、心も子供になるっていうのがなくてですね・・・しかも、この斧で子供になると、元に戻るにはオラオラのラッシュで壊すことが必要で、そして二度と使えなくなります。」
「とにかく、ボクで試してよ。失敗したら次はテルーで、それも失敗したらアルファといろはにお願いするしかないね。オラオラのラッシュはアルファかいろはの能力で出来そうだね。」
斧で叩くなんて、傍から見れば残酷な殺戮シーンなのでモザイクを掛けることになった。オキタは恐る恐るナツメを叩いてみた。
「痛かったらごめんなさいナツメ君!」
『コツン!』
とりあえず軽く叩いてみたが、何の変化もないのでちょっと力を入れてみた。
『ゴツン!!』
「うぎゃっ!」
悲鳴を上げたナツメの体はみるみる縮んで行き、二歳児くらいになってしまった。
「すみません。強すぎたようです。これでは幼すぎる。」
「じゃあ、俺にやってくれ。もう力加減は分かったんじゃないか?」
「はい、じゃあ行きますよ。」
『ゴツン!』
テルーの体は縮んで七歳くらいになった。
「よし、今回は成功です。テルー君、あそこの家に入りますよ。」
「やだー、怖い。ヤダヤダヤダー!!!」
子供テルーは地面に這いつくばってジタバタし、何としても祠の中に入ろうとしなかった。無理矢理祠の中に入れれば、幼児虐待で捕まってしまうだろう。
「すみません。アルファさん、いろはさん、お願いできますか?」
「じゃあ、わたしからやってみて。」
いろはが先に子供になることになった。
「あ、祠の中に入ってから子供になってはどうかしら?テルーのようにならないとも限らないし。テルーは一人で怖かったら祠の中に入って来なさい。」
いろはの進言に從い、一行はテルーを除いて祠の中に入った。
「じゃあ、行きます!」
『ゴツン!』
いろはも七歳の子供になった。それから祠の中をキョロキョロした。
「あ~!!お化け見ーっけ!!」
オキタとアルファには見えなかったが、いろはとナツメには見えている存在があった。いろはは喜んでいたが、ナツメはアルファにしがみついていた。顔には「やったね」と書いてあるようだった。オキタがいろはに尋ねる。
「いろはちゃん。ボストトーロが見えるんだね。話が出来るかな?」
ところがいろははオキタの問いかけには答えず、いきなり走り出して彼女には見えている存在に飛びついた。そこでアルファが反応した。
「いろは、ずる~い!!」
「え?」
「オキタ、わたしも斧で叩いてよ!」
「し、しかし・・・」
「早くしてよ!!」
オキタが躊躇していると、アルファはオキタから斧を奪い取ろうとし始めた。
「わ、分かりました。叩けばいいんでしょ。自分で叩いたら胎児まで行ってしまうかもしれませんよ。」
『ゴツン!』
アルファもまた七歳児になり、いろはがしがみついているボストトーロに飛びついた。
「うわ~い!空飛んでよ~!!」
その呼びかけに、ボストトーロは祠から飛び出し(見た目は二人の女の子が手を繋いで飛んでいるように見える)、はるか彼方へ飛んでいってしまった。
「わ~!!どうしましょう!!」
オキタは二歳のナツメと七歳のテルーとともに、茫然としてしまった。
「とにかく、彼女たちを探さないと。いろはさんのペンダントなら、タブレットで追跡できますね。」
オキタはタブレットを取出し、いろはの位置情報を確認した。しばらく移動していたが、やがて止まった。
「ここより更に山奥に行ったようですね。大人なら問題ない距離ですが、この二人はどうしましょう・・・精神年齢は変わりませんが、テルー君は青い飴で体を大きくして歩ける力を付けましょう。ナツメ君は二歳児で大きくなったら暴走しかねませんからやめときましょう。さ、テルー君、この飴をなめてくれるかな。ナツメ君は背負っていきましょう。」
テルーは量を調整した飴で中学生くらいの体になり、オキタの後について歩くことになった。ナツメはオキタに背負われ、三人は一度村へ戻った。
そして神官に事の次第を告げ、ボストトーロと共に旅立ったことで、期せずして二人の生贄をささげる形になったことを話した。彼女たちの居場所は分かるため、もう一度山へ入ることを告げた。神官大いに感謝し、再び山を登るための食べ物などを用意してくれた。
宿に泊まって体を休め、翌日オキタたち三人はタブレットの示すポイントへと歩き始めた。厳しい道のりだったが、三人は確実に指定するポイントへと近づいて行った。意外なことにその道は山を越え、反対側に出て下り坂となった。山裾には町も見える。
「正直、山の神の住まう場所として、人跡未踏の原生林に向かうのかと思いましたが・・・これは一体・・・」
ナツメを背負い、テルーを連れながらも夕方になる前にタブレットのポイントまで到着できた。
「この付近ですね。すごく近い。」
と近くの茂みがガサガサし始めた。
「アルファさん、いろはさん、そこにいますか?」
そして現れたのはアッガイだった。
「なんでこんなところにアッガイが?これがボストトーロの正体!?」
よく見ると、アッガイの顔には綱が結び付けられてあり、後ろに伸びていた。アッガイに手綱が着けられているのだった。
「誰かいるの?」
間違いない、それはいろはの声だった。アッガイが更に前に進むと、アッガイの背中には市女笠のいろはが乗っていた。手綱でアッガイを操縦しているらしい。彼女は飛び去った時は七歳児だったが、年頃の少女のようになっていた。
「いろはさん!」
「ここに何しに来た?」
答えたのはいろはではなくアッガイの方だった。
「あなたの背中に乗っている人を捜しに来ました。」
「それでは願い事を一つだけ叶えてやろう。」
「あの~・・・そういうつもりで来たのでは・・・」
「早くしないと消えてしまうぞ。」
「なんですか~?アッガイボール?まあ、よく分からないけど、この際なんでもいいか。この斧を壊せますか?」
オキタはアレッシーの斧をアッガイに見せた。
「無理だ。」
「え~?じゃあ、何だったら出来るんです?」
「時間を元に戻すとかならできるぞ。」
「明らかにそっちの方が難しいんじゃ?まあ、いいです。ではわたしの背にいるナツメ君を元に戻してください。」
「よかろう。」
するとアッガイの眼からナツメに向かって光線が放射され、ナツメは元の姿に戻った。ナツメはアッガイを見るなり叫んだ。
「連邦の化け物はモビルスーツか!」
「とにかくよかった。ナツメ君が元に戻ってくれました。」
「なんだか長い夢を見てたみたいだよ。あ、そうだ、あれからどうなったの?」
オキタはいろはとアルファが七歳児になってボストトーロと共にここに来たことなどを簡単に説明した。
「お~い、いろは、迎えに来たよ。」
「わたしは父が人間に戻るまで帰らない。」
「何言ってんだよ。君のお父さん、ディオの肉の芽でも植えつけられてるの?」
「父は悪霊に憑りつかれて、刑務所でラジオを聴いたりジャンプを読んでたりしてる。」
「それ、悪霊じゃなくてスタンドじゃないの?君のお父さん、承太郎なの?しかもスター・プラチナだよ。成長性『完成』の最強のスタンドだ!ああ、そうだ。君の着けてるペンダントも発信機がついてるよ。」
「誰のこと言ってるの?父は動く刑務所にいるのよ。水族館じゃないわ。」
「いろはの動くムショ?何それ。」
「ナツメ君、君は元に戻りましたが、アレッシーの斧はまだ壊れてないのでいろはさんは元に戻らないのです。どうしたものか・・・」
「そういえば、アルファはどこかな?」
すると茂みがガサガサしてアルファが姿を現した。アルファも年頃の少女のようだが、両頬に丸く色を塗っていて、口の周りには血のようなものがべっとりと付いていた。
「アルファ、なんだいそのマッドメンのような恰好?女なのでマッドウーメンかな。」
アルファはおもむろに懐から一口チョコを取出し、包みの端を歯で噛んで指で引っぱり、ねじってほどこうとした。すると途中でブチっと切れてしまい、歯で噛んでいた方の包みを「ペッ」と吐き出した。口の周りの血のようなものはチョコだった。
「おいい~、山でゴミすんじゃねえよ。」
そう言ってナツメはアルファが捨てた包みを拾い上げた。アルファがナツメに告げる。
「猿!」
「いや、『去れ』だろ?ていうか、アルファ、鬼になんかなっちゃだめだ。しかも君の名は不寝子みたいに画数多くないよ。というより一筆書き出来るじゃないか。」
「黙れ!わたしはラーテルだ!」
「いや、それは否定しないけど・・・」
「なんだと!」
「ヨン、生きろ、そなたはまぎらわしい。」
「ヨンってなんだ!サンだ!それから『美しい』だろ、何が『まぎらわしい』だ。てめえの帽子はもっとまぎらわしいだろうが。」
ナツメはチェック模様のシルクハットをかぶっていた。
「ああ、これね、鬼殺隊の帽子だよ。座ったままの姿勢でジャンプ出来そうなんだ。」
「なめてんのか!鬼殺隊にツェペリっていないだろうが。さっきから色々混ぜやがって。」
「とりあえず、アルファ、こういう会話、もっと続けようよ。」
「うるさい!どっかいけ!」
ナツメはアルファが元に戻らないのを見て、ボストトーロにお願いしてみようと問い掛けた。
「アルファはラーテルだ。彼女をどうする気だ?」
「黙れ小僧!」
アッガイ姿のボストトーロが怒っている。
「さっさとこの二人を連れて帰れ!」
「いや、嫌われてるよ、二人とも。山の神様に思いっきり嫌われてるよ。確かに山でゴミしちゃいけないよな。」
そう言うとナツメは自分の周りに大量のごみが捨てられているのに気がついた。
「こりゃひどいな。山の神様怒るわけだ。ってゴミ関係なく二人に怒ってるのかな?まあいいや、せっかくだし、みんな、ごみを拾って帰ろうよ。」
気が付くと、アルファもいろはもメークと服以外は元に戻っていた。ボストトーロが二人にうんざりして元に戻したらしい。結局一つではなく三つも願いをかなえてくれたようだ。
「その前にアレッシーの斧を壊すわ。オラオラオラオラオラオラオラオラー!」
いろはがオラオラのラッシュを繰り出し、斧をボコボコに破壊した。ようやくテルーは元に戻れた。
「細かいゴミはこいつで集めよう。」
アルファはハーヴェストを呼び出して小さなゴミを集め始めた。あっという間に小山のようになった。
「ありがとう、アルファ。次は大きいのを集めよう。」
みんなは手分けしてゴミ拾いをした。
「いろんな物が落ちてるなあ。わざわざ山の中まで持ってくることないのに。」
「やい、ナツメ、てめーだろこのビニール人形捨てたの!このド変態が!」
「え~??ボクじゃないよ~。」
「てめー以外誰が捨てるんだよ。ちゃんと供養しろよ。」
「そんな~・・・誤解だよ。」
ナツメをからかっていたアルファだが、急に神妙な顔つきになってナツメに問い掛けた。こんなことを聞けるのはこいつくらいかなと勇気(?)を奮ってみたのである。
「なあ、ナツメ・・・、南極一号ってなんだ?」
アルファはナツメが笑うか突っ込んで来るか警戒していたが、以外にも真面目に答えてくれたので驚いた。
「ああ、ベンテンさんのことね。」
「・・・?ベンテンさん?」
「両足を切ったマネキン人形を南極に持って行ったんだよ。」
「なんだ~?男ってのはジオング見てもムラムラすんのかよ!」
「そう言うけど、女の子だって鉄格子見てムラムラして、マ・・・」
「それ以上言うんじゃねえ!」
「ことはついで聞くんだけど、便器のスイッチに『ビデ』ってあるよね?あれって何?」
「それをわたしに答えろと?」
「うん。」
「じゃあ教えてやるよ。知っていると言いたくなってしまう嫌な癖があるのさ。外国のホテルには便器の横にビデっていう専用のものが置いてあるんだ。日本人はよくそれでうがいしてるんだよ。だから、うがいするためのボタンだ。」
「・・・ボク試しにそのビデのボタン押してみたんだよ。そしたらお尻じゃなくてもっと前の・・・」
「それ以上言うんじゃねえ!とにかく、さっさとゴミ拾うぞ。」
「う、うん。」
五人とボストトーロ(アッガイ)の尽力で、山のゴミはすっかりきれいになった。
一行はゴミをオート三輪に載せ、荷台にアルファといろはを乗せ、ボストトーロに別れを告げて山を降りた。道を走っていると、前方に自転車に乗る人影が見えた。いろはがアルファに耳打ちする。
「あ、アルファ、隠れて。」
自転車に乗る人を追いこすと、ベレー帽をかぶり、ライフルを持っている人物だと分かった。
「お巡りさんじゃなくてFBIだった。お~い!」
オート三輪は村に入って空き地を探し、そこでゴミの分別をすることにしたが、拾ったはいいが、分別はその何倍も大変だった。
「ナツメ、てめーがてんがとか捨てるから気持ち悪いし分別がややこしいんだ。全部てめーが責任もって処分しろ。」
「わたしはてんがとは関係ない。わたしはいつも独りの男だった。」
「てんがとザビ家を同列にしてやがる。」
「いくつになっても、そういう事に気付かずに、人を傷つけるものさ。」
「第二のてんがになろうとしているのがわからないのか。」
「もう、二人ともまじめにやってよ。いつまで経っても終わらないでしょ。わたしは早く体を洗いたいし着替えたいの。」
いろはは未だに市女笠の恰好だったので、動きにくい上に暑そうだった。
「いろははその恰好、似合ってるね。」
「やかましいぞ。かきたくもねえ汗をかいてるんだぜ。」
燃えるごみや缶やびんなどを別々の袋に入れ、アルファといろはがナツメに押し付けた、おとなのおもちゃ系の粗大ごみをひとまとめにして、処分場に持って行った。
「みんなでやったから、早目に終わったね。今日はこの村で泊まろうか。宿を探そう。」
オキタがいろいろ聞きまわったところ、自分ちの隣の空き家を貸してくれる人を見つけた。
「こったらことなら、片付けとくんだったわい。」
その親切なおばあさんは、気兼ねなく使ってくれと空き家へ案内してくれた。いろはとアルファが家の前の橋の上から川をのぞき込む。
「リュウグウノツカイ!また光った。」
「どうだい、気に入ったかい?」
「オキタ、すてきね。ハイウェイ・スターのトンネル。」
オキタがいろはとアルファに換気をお願いする。
「二階の窓を開けましょう。」
「え、二階があるの。」
二人は裏口の戸を開けたが、何やら黒いものが『ズザザザザザー』と逃げて行った。
「何かな?久米島の海岸で、こういうカニの群がいたけど。」
「でもあれ、一匹一匹グラサンかけてたように見えたけど。」
気にはなったがすぐに忘れて、二人は喜んで家の中の各部屋を見て回り、階段を見つけた。
階段の奥は真っ暗で何も見えない。
「とりあえず登って窓を開けよう。アルファ、あんた行ってよ。」
「何よ、怖いの?」
「違うわよ。この服で上り下りが大変なの。」
「しょうがないな。」
アルファは階段を上って窓を探した。暗闇に目が慣れるまで少しかかったが、窓や机などがあるのが見えてきた。部屋の奥にあった窓を開け始めると同時に、そばの机の上に植木鉢があり、何かの植物が植わっていたのに気がついた。と同時に、その植物は動き出していきなり攻撃してきた。
「なんだこいつ!うわ、動けないぞ。」
アルファは目には見えない空気の輪っかに空中で固定されてしまった。
「なんでこんなところにストレイキャッツがいるんだよ。なんだこの家。さっきからリュウグウノツカイとか、変な黒いのとか、一体どうなってんだ。」
アルファはとりあえずゴルフボールを転がしてストレイキャッツの注意をそらせ、鉛筆の先で空気の輪っかに穴を開けて脱出した。
「ふ~、近くにサボテンがなくて助かったよ。ナツメがいたら、『サボテンが花を、つけている』なんて言うだろうがな。まったく。」
と、そこにフラフラと黒い塊が落ちてきた。アルファは両手を『パチン』と閉じてそいつを捕まえた。
「取った~!」
アルファは急いで階段を下りると、いろはに見せに行った。すると空き家の持ち主のおばあさんが手伝いに来ていたのに出会った。
「おんやまあ、噛みつきそうな子だよ。」
「『賢そうな』だろうが!」
「いろはに、ラーテルのアルファです。こんにちは。」
「ラーテル言うな!」
「アルファ、手、真っ黒じゃないの。あれ、足の裏も。」
「ほおほお、いやいやいや、こりゃススワタリテツヤが出たの。」
「何そのススワタリテツヤって。黒くてモコモコしてグラサンをかけてるもの?」
「んだ、誰もいない廃屋や工場に爆弾しかけて、最後に爆破しちゃうのよ。今頃天井裏で引越しの相談でもぶってんのかの。」
「アルファ、みんなフェアレディZで出て行くってさ。」
「でもわたしが捕まえたのはススワタモリっていうみたいだよ。ブラブラしてたからね。」
「さあさ、掃除しよ。ガチャコンポンプの呼び水汲みに川に行って来ておくんな。」
いろはとアルファはバケツを持って川に行った。
「リュウグウノツカイ取れた?」
二人はガチャコンポンプを動かして水を汲んで家に持って行った。
「今日は掃除ばっかりしてるな。」
「まあ、綺麗にしてからぐっすり寝たいわ。」
「今日の夕食はおいしいぞ。」
夕方になり、ようやく掃除が終わって女性陣は念願の入浴となった。いろははようやく窮屈な着物から解放され、アルファは顔の模様を落としていつもの姿となった。
みんなの入浴が終わったところで、お婆さんの孫がおはぎを持って来た。彼は帰り際にいろはをからかった。
「やーい、おまえんち、やっしきお~ばけ!」
「よしかげー!」
お婆さんの怒声を聞いて、吉影は一目散に逃げて行った。
「あの子吉影って言うのか。ストレイキャッツ飼ってたのもあいつだな。屋敷お化けって、この家自体がお化けなの?」
夕ご飯はお婆さんが川にいた魚を料理してくれた。魚を食べていたナツメは骨で舌を突いてしまった。
「いたたたた、川魚は骨が硬いな。」
「川なのにリュウグウノツカイがいたよ。」
「ああ、川にいる場合もあるみたいだよ。メコン川にいるメコンナーガの正体みたいだし。ジンベイザメも川に上がることあるみたいだよ。」
そんなことを話している内、ナツメは骨で突いた舌が痛くなってきた。
「な、何この痛いの・・・」
「大丈夫かの?ナツメ君。」
いろはが怪訝な表情でお婆さんに聞く。
「ねえ、お婆さん、なぜ彼のことを『ナツメ』って知ってるの?」
「へ?そちらのラーテルお嬢さんが呼んどったよ。」
「ラーテル言うな。」
「なあ、答えてくれ。刑事コロンボが好きなせいか、細かいところが気になると夜も眠れねえ。」
「嫌ですよ、お嬢ちゃん、ゴミ処理場のマニフェストに名前けえてもらったでよ。」
「え、なぜそんなところの書類の話になるわけ?」
ナツメには構わず、いろははゴミ処理場で受け取ったマニフェストの控えを見せた。
「これがそのときのマニフェストの控えだ。」
そこにはナツメのサインがあった。
『オバケのJO太郎』
「こったらこんなふざけたサインしやがって。」
「とぼけるんじゃねえ、もうばれてんだよ。さあ、どうした、あんたのスタンド見せて来ないのか?」
「もう見せとるよ、ケケケケ、我がジャスティス・ビーバーのスタンドの術中にはまったな。わしのスタンドは魚の骨で怪我した奴を操るスタンドじゃ、ど~れ、ナツメ・デーツ、その舌で便所掃除でもしてもらおうかの。なめるように便器をきれいにするんじゃ!ぬアアアめるよォオオオオにィィィィ。」
ナツメはズルズルと引きずられて便所に近づいていく。
「それだけは、ヒイィィィィィ。助けてー!」
「あの便所にはビデが付いてる。なめた後にうがいは出来るぞ、ナツメ。」
「うわ~ん、アルファが言ってたうがいする人、ジャスティス・ビーバーの攻撃受けて、ポルナレフと同じ目に遭ってただけじゃないの~?」
「ふぉふぉふぉふぉ、この便所の便槽には豚も飼っておるぞ。おぬしの名前は今日からジャン・ピエール・ポルナツメじゃ。髪の毛を入れると193メートルになるぞい。」
「単位間違ってない~?リサリサの波紋パワーはザクの軽く三倍、みたいな単位~?」
「愛は勝ーつ!」
「普通、『正義は勝つ』と間違わないだろ。」
「こんなに苦しいのやら、悲しいのやら、愛などいらぬ!」
「いつの間にてめえは聖帝になったんだよ。」
「退かぬ、媚びぬ、顧みぬ。」
「ふおっふおっふほっ、愛は人を狂わせる!」
「大人になった聖帝はあの後ホーリーナイトメア社に行ったんだっけ?」
「なんでも鑑定団もだよ。あ、そうだ、ダービー兄もだ。」
ナツメのピンチにいろはが知恵力を発動する。
「この屋敷、あんたの孫の吉影が屋敷お化けって言ってたわ。そのお化けに出て来てもらいましょうか。」
すると、先ほど現れたススワタリテツヤとススワタモリがモコモコと現れた。
「この二つに歴史を再現してもらいましょう。」
ススワタリテツヤはヘリコプターに乗って家のはるか上空に飛んでいった。ススワタモリは世にも奇妙なストーリー・テラーになって案内し始める。するとストレイキャッツが家全体を空気の袋で包み始め、吉影がその袋を爆弾に変えてしまった。
「屋敷お化けはこんな歴史を記憶していたのね。」
「吉影ー、ボタンを押してはダメじゃー!」
「いーや、押すね!」
「このクソカスどもがー!」
屋敷お化けはヘリコプターに乗るススワタリテツヤの大門に見守られながら、なぜか高い煙突が倒れながら爆発した。
「まあ、歴史上の出来事を記憶している屋敷だから、映像だけなんだけどね。」
爆発の閃光が消えると、辺りは暗闇の夜だった。すべてはジャスティス・ビーバーの幻覚だったらしいが、おんぼろの家は残っていた。これが現在の姿だったのだ。入ったはずの風呂も幻覚で、服もアルファの顔も昼間のままだった。
「疲れたよー。ビデはもうたくさんだよ。風呂入りたいよー。」
それは女性陣の方が熱望していた。おんぼろではあったが井戸もあり、風呂も使えそうだったので、暗がりの中作業してアルファといろはだけでも風呂に入ってもらうことにした。
「どうだい、湯加減は?」
「ええ、ちょうどいいわよ。あなたたちも後で入ってね。」
「風呂上りに風呂焚きするつもりかい?いいよ。二人は先に上がって寝ててね。寝床は寝袋になっちゃったけど。僕らは残り湯で体拭くだけでいいから。」
「優しいのね。」
「常にそうありたいと思ってるんだけどね。今日は楽しかったね。気持ち悪いもの結構見ちゃったけど。」
「やることあるなら、遠慮なく言ってね。」
「うん、ありがとう。」
疲れ果てたみんなはその夜、泥のように眠った。テルーはセリフが全くなかったのを悲しみながら眠った。
一行はついにクニ国の首府へ足を踏み入れようとしていた。
「お前ら速いぞ、待てよ。」
情けない声を出して一行から遅れているのはテルーだ。仲間になって以降、すっかりヘタレになってしまい、ドラゴンを倒したことなどみんな夢だったのだと思うほどであった。
「ブライでもこんなに弱くねえぞ。」
アルファが毒を吐くが、テルーは疲れて反論もしてこない。彼女は自分のセリフが空砲のようになってしまうのが嫌になっていた。ナツメはテルーを励まそうと考え、会話を弾ませようとした。
「ねえ、テルー、お姉さんを探してるんだったよね?」
「それはテリーの話だろ。俺は姉さん命のテルーだ。姉さんが俺のことを『好き』って言ってくれるように、世界の覇者を目指して旅をしているんだ。」
「いわゆるシスコンっていうやつだ。」
「シスコンじゃない!姉さん命だ!」
「同じじゃないの?まあいいや、それで、テルーの姉さんってどんな人?」
「強く、美しく、聡明でまさに地上に降りた天使、いやまさに女神だ。」
「会ってみたいもんだね。どこにいるの?」
「はるかかなたの高みだ。俺はその高みを超え、最強を目指す。そして姉さんを迎えに行く。」
「それでも姉さんは姉さんだよ。好きっていうのは大事だと思うけど、恋愛とか結婚はできないよ。ボクも妹がいてとってもかわいいけど、恋愛の対象じゃないな~。」
「俺にとって女性は姉さんだけだ。恋愛などという軽い括りで言わないでくれ。俺は真実の愛に生きる男だ。」
「アルファ、君も話に加わらないかい?危ない話だよ。」
「わたしは自分のセリフが空回りするのに疲れたよ。」
意外なことに、いろはがナツメに話を振って来た。
「ねえ、ナツメ、わたしとおしゃべりしない?」
「わあ、嬉しいな!何の話題がいいかな?」
テルーがナツメから解放されたことにホッとして言う。
「ああ、めんどくさい奴だ。あのつまらんギャグ男には参る。」
いろはは旅の間、ナツメの古いギャグをタブレットで検索して一通り学んでみた。どうやらナツメは親の世代のネタが好きらしく、その当時を生きていなければ分からないものが多いようだった。
ふっかつのじゅもんの書き間違いやセーブデータが消えた時の悲劇、PC能力のゆえのバグなどはコンピューター・ゲームのなつかしネタだった。
自分が生まれる前の漫画やアニメ作品もナツメはよく知っている。それにしても、アルファもそのネタを知っているのが意外だった。少しかじった程度だが、今まで学習した内容を元に、ナツメと会話してみようと思ったのである。
「ねえ、ナツメはプラモ好きだっていうけど、何がお気に入りなの?」
「へっへ~、よく聞いてくれました。やはりプラモといえばザクだね。グフもいいけどね。ボクの一番のお気に入りはシャアザクだよ。今のHGモデルじゃなくて、初期の1/100がいいね。弟が時々遊んで壊すから、何度か新しく作っているよ。でも初期のものは出回ってる数が少なくて、いつもオキタに探してもらっているんだ。そうだ、いろははあいうえおチョコが好きなんだね。味が好みなの?」
「味はブラックがいいわ。それから、わたしはあいうえおチョコで完全パングラムを作ってから食べるのを趣味にしているの。いろは歌って知ってるでしょ。四十八文字すべてを一度だけ使った文章になってるの。それと同じように、自分で文章を作ってるの。頭の体操にちょうどいいわよ。ただ、商品の中身は基本、ひらがながランダムに入っているからね。何袋か買わないと五十音が集まらないわ。」
「すげーな!君のいろはって名前もそう考えるとかっこいいね。ぴったりの名前だ。」
「名前の話題が出たついでにわたしも聞こうかな。あなたの名前ってナツメ・デーツっていうんでしょ。それって名前も苗字も意味同じじゃない?」
「おお、よく気がついたね。バカボンパパの息子はバカボンバカボンっていうし、それよりなにより、イエス・キリストだって訳せば救い主救い主ってなるからね。そういうことだよ。」
「なんか、説明になってないけど。」
「ねえ、いろはってアルファのこと、好き?」
「突然何よ。好きってどういうこと?」
「いろはは彼女と仲良く話し込んだことあるかなと思って。いろはと会う前の話だけど、彼女に『あーちゃん』て呼びかけたら激怒したんだ。もう、びっくりしたよ。髪の毛をけなされて切れる人と同じような怒り方だったよ。二人で話してる時に、そのことについて何か聞いてないかなと思って。」
「まあ、わたしたち必要以外の時は離さないからね。何も知らないわ。」
「彼女、あいうえおチョコのことひどく嫌いみたいだけど、かといってヒエログリフチョコが好きってわけでもなさそうなんだよね。食べてるとこ見たことないし。」
「チョコの話なんかしたら、それこそ殺し合いになっちゃうわ。」
「ボクとしては、二人に仲良くしてほしいなって思うから。そしたら旅ももっと楽しくなるし。二人が一緒に笑ってるとこ見たいなって。」
「ふ~、そんな日が来るのかしらね。」
「きっと来るよ。」
一行は、特にナツメは上機嫌で歩き続け、ついにクニ国首府の領内に入った。急峻な山々とそこから流れ出る大きな河川が作り出す段丘にクニ国は首府を築いていた。ここにビャッコ王がいるのだろう。そして玉手箱の謎は解けるのだろうか。
こういう時は、食事するところでそれとなく聞くのがいいということになり、一行は食堂で食事休憩することにした。ナツメは何やらアルファに頼んでいる。
「ねえ、アルファ、君の指輪、ちょっと貸してくんないかな?」
「・・・まあ、いいわ。何となく察しが付くから。」
「おお、話が分かるね。さすがアルファ。」
みんなは空いているテーブルに座り、御約束通りスパゲティを注文した。ナツメはお約束とばかり指輪を眺めている。しばらくして料理が運ばれてきた。
「お待たせ。」
「お~、うまそう。」
「ずいぶん熱心ね。何見てるの?」
「いや~、震い指輪を拾ったもんでね。」
「あ~、それって、ジオンの紋章ね!ピ―――!!!ジオンの残党発見!!」
ウエイトレスは持っていた警笛を力いっぱい吹くと、警備兵を招集した。
「わ~!!どうなってんだ!?何が起こったんだ?スパゲティはもしかしてお預け?波紋でキザなイタリア人にパスタを飛ばすことできないの?」
「要するに、ドジ踏んだってことね。指輪は返してもらうわよ。まったく。」
ウエイトレスが呼んだ警備兵に、全員が取り囲まれてしまった。ところがテルーは警備兵に対し、食って掛かった。
「おい、俺を誰だと思っている!ドラゴンハンター、ブルーダイヤモンドだ。命が惜しくば無礼な真似はやめるんだな。」
一行はこのヘタレがボコボコにされるものだと思っていたら、驚いたことに、警備兵はテルーに手を出さず、それ以外のメンバー全員を逮捕した。
「さあ、どうしましょう?」
オキタが牢屋の中でナツメに問い掛けた。女性陣は別の牢屋にいるので、ここにいるのはナツメとオキタだけだった。
「う~ん。なんでジオンの残党なんて思われたんだろう。これってプラモの世界じゃなかったの?ジオンは実在しているの?ここは連邦政府なわけ?」
「なにせこちらの国のことはまるで分かりませんからね。まずは情報を仕入れないと。タブレットは取り上げられてしまいましたし、誰かに聞ければいいですが。」
「誰か来ないかな。面白いことをすれば脱出できるかも。」
二人が答えの出ない会話を続けていたところ、役人らしき連中がやって来た。
「裁判の用意ができた。二人とも出廷しろ。」
二人は鎖でつながれて法廷へ連れて行かれた。そこにはアルファといろはも連れて来られていた。
「これより、ジオン残党に対する公開裁判を行う。被告人前へ。名前は?」
「キャスバル・レム・ダイクン。」
「何言ってんだおめーは!」
「静粛に!別の被告人は口を慎むように。」
「住所は?」
「スペースコロニーのサイド3です。」
「それでは、被告人の密入国について審理を行う。検察官は起訴状を読め。」
「被告人は同行のキシリアの操縦するアッガイと共に黄泉平坂で戦闘を行い、風紀を乱したものである。」
「誰がキシリアだ!あんな紫ばばあといっしょにすんじゃねえ!」
「被告人キシリアは静粛に。」
「しつこいぞ!」
怒りが収まらないアルファだったが、いろはになだめられて何とか静まった。
「裁判を続ける。検察官が朗読した内容を被告人は認めるか?」
「一部否認します。キシリア・ザビではなく、ハマーン・カーンです。」
「てめえ、後で憶えてろよ。」
「弁護人前へ。意見を述べよ」
「黄泉平坂での戦闘では、ナツメ氏とハマーン氏と共にサイコミュを使用していました。つまり、この二人はニュータイプということです。」
「被告人は席に戻れ。検察官は証拠を提示せよ。」
「証人としてテルーの訊問を請求します。」
「ではテルー、証言台へ。」
「ああ、俺もその戦闘に参加し、こいつらと戦ったよ。そこのいろはって女とアルファ、ここではハマーンというらしいが、そいつとも戦った。いろはが使ったのは、今から思えばミノフスキー粒子だったな。ハマーンはファンネルを使っていたか。」
「別の証人として、隣国ヲニ国の船頭の訊問を請求します。」
「では船頭、証言台へ。」
「わしゃ聞きましただ。そこのキャスバルって男が川に浮かんでいた黒い鉢を『アッガイだ』って言うのをね。また鉢の中には黒い服が入っておりましただ。その服を見て男は、ジオンの服だって言っておりましたし、自分はクワトロ・バジーナだとも言っておりましただ。」
「終わります。」
「弁護人。」
「船頭、あなたは他に何か聞きませんでしたか。」
「そういや、ジオン再興がどうのこうのと・・・」
「終わります。」
「あの弁護人、何も弁護してねえぞ。」
「それでは、判決を言い渡す。被告人たちを強制労働に処する。」
「ナツメ、てめー、どうなるか分かってんだろうーなー。」
裁判が終わり、テルーを除く四人は一部屋に集められていた。割によい部屋ではあったものの、扉に鍵がかかっているので軟禁といったところか。アルファの怒りに対し、ナツメは涼しい顔をして言う。
「認めたくないものだな。自分自身の若さ故の過ちというものを。」
「いつまで夢見てやがる!」
アルファが飛びかかろうとしたところ、突然扉が開き、役人たちが部屋に入ってきた。
「全員ここから出るんだ。ビャッコ王は現在不在であるが、宰相の武内力じゃない宿祢様が話をされたいそうだ。ドラゴンハンターのテルー様が執り成してくださったのだ。皆の者、感謝するがよい。」
「なんだ、テルーのやつ、この国じゃあVIP扱いかよ。」
一行は王の宮殿に案内され、クニ国の宰相武内力じゃない宿祢と会談した。
「武内力じゃない宿祢だって。ちょっと突っ込みどころが難しいキャラだね。歴史を知ってないとついて行けないぞ。一円札のモデルらしい。」
「一円札って、スイッチとかPS5買いに行くときジュラルミンケースがいるぞ。ソ連かよ。」
「やっぱり突っ込みどころが難しいね。」
ナツメとアルファはどうでもいいことで悩みながら、武内力じゃない宿祢の前に通された。
「わしは武内力じゃない宿祢じゃ。ビャッコ王から全権を委任されておる。つまり、わしは王と同格の偉いやつなのじゃ。」
「なんか自分で偉いやつとか言ってるよ。こけても泣かないメイちゃんを真似してんのかな?」
「ぬしらがヲ二国から、玉手箱とビャッコ王の調査のためにやって来たことは分かっておる。しかし、残念じゃったのう。玉手箱があろうがなかろうが、ぬしらの運命は定まっておる。
わしは興味深いことを聞いたのでな。クワトロ・バジーナと名乗る者がおると聞いた。ダカールで演説した男だろう。その大陸の地理に詳しいと見える。そこは大魔王バラモスの城がある大陸なのは知っておるな。」
『そのとき、きずついたへいしがクニこくのしろにたどりつきました。「おうさま、ざくとはちがうのだ、ざくとは」』
「最後『ぐふ』って言いたかったわけ。しかも何も説明してないんだけど。」
「ていうか、これⅡのオープニングだろ。バラモスってⅢじゃないか。」
「話は聞いたな、囚人どもよ。そなたらの強制労働はその大魔王を倒すことじゃ。これが地図じゃ。ではいってまいれ。」
「なにそれ、銅の剣もくれないのかよ。ていうか、銅の剣もケチだよな。ロトの血を引く王様なら最初からロトの剣持ってろよな。あ、剣神ドラクエなら最初からロトの剣だぞ。」
「そんな地球の反対側、どうやって行くんだよ。」
「ふふふふ、おぬしら、こやつのことを知っているのではなかったかの?」
武内力じゃない宿祢が紹介したのはネコドラくんだった。
「あ~!ほんとにいたんだ。」
「お~い、ネコドラくん、どこでもドアを出してよ。なんか、大魔王倒せって言われてるんだよ。」
ネコドラくんはおなかのポケットからドアの形をしたものを出した。
「ちっせ!あのポケットに入るサイズのものしか出せないのかよ。なだぎのドラえもんの時計並みのパチモンキャラだぜ。」
「いいじゃないか。突っ込みどころのない時間を和ませようと、わざわざ出てきてくれたんだ。」
「武内力じゃない宿祢、何かほかに移動手段考えてくれよ。」
「そこの女二人、ちゅー言葉で答えてくれたら考えてやるぞ。」
「なんだてめー、要するにグーグードールズの能力を持ってるってわけかよ。それであの小さいドアから行けってことかよ。」
「アルファ、何のためにあなた指輪があるのよ。」
「なんだと、偉そうに言いやがって。分かったよ、リトル・フィート!」
アルファの能力で全員がドアを通れる小ささになった。それでみんなドアをくぐろうとしたのだが、鍵がかかっているのか開かない。
「ネコドラくん、このドアの鍵開けてくれよ。」
「このドアは行き先から開けないと開かないんだよ。」
「何それ?誰かあっちにいなきゃいけないのかよ。まったく使えねえじゃねえか。」
「これ、どこでもドアじゃないんだよ。どこからでもドアって言って、行きたいところの誰かが開けてくれるのを待つんだよ。」
「じゃあ、大魔王に開けてもらうわけ?このドア、めっちゃ小さいから、踏まれておしまいじゃない?」
「どこでもドアって、SF考証難しいよ。ドアを開けた瞬間の裏側は向こう側なんだよね。開ける前に裏側に立って開けるとこ見たらどう見えるわけ?」
「このドアを開ける前の裏側は絶対たどり着けない場所なんだ。ディオの骨でできてるからね。」
「ディオの骨?よーし。らせん階段、カブト虫、廃墟の街、イチジクのタルト、カブト虫、ドロローサへの道、カブト虫、特異点、ジョット、エンジェル、紫陽花、カブト虫、特異点、秘密の皇帝。どうだ!突撃!あれれ、近づこうとするとなんだが体が更に縮んでいくぞ。くー、どうしてもドアの後ろにたどり着けない。あのドアの後ろには緑色の赤ちゃんがいるんだな。」
そうこうしているうちに、ドアが突然ぐしゃっと潰れてしまい、ナツメは勢い余ってドアのあった場所の上を吹っ飛んで行った。
「うわー!」
「大魔王が踏んだらしいわ。」
「やれやれ、すごく疲れちゃったよ。でもどうするかな。ネコドラくん、ほかに何かないの?空飛ぶやつとか。」
「じゃあ、タケヘリコプター!竹でできたヘリコプターだよ。」
「これもちっせ!まったく夏休みの工作と変わんないよ。」
それを見て武内力じゃない宿祢が言った。
「ああ、そのヘリでこの国では田畑に枯葉剤、いや農薬を撒いておる。」
「今確かに枯葉剤って言ったぞ。おめえどこの人間だよ。」
「ふ、貴様らに国民の楽な暮らしを妨害できるかの?何なら、強制労働を全農地の草刈りにしてやってもよいのじゃぞ。」
「この悪党め。」
「枯葉剤撒かないと約束するなら、草刈りやってもいいかも。」
「ナツメ、正気?こういうのを罠って言うのよ。」
「いろはは賢いな。そしてボクはきっとこう言うんだ。これで私は自由を失った。」
「もう、とにかく今は大魔王のところへ行く方法を考えなきゃ。わたしの飛行石なら何か乗り物があったら飛べるわよ。このヘリコプターは小さすぎるわね。自分たちが小さくなって乗っても、飛行速度が出ないわ。」
「じゃあ、わたしの能力で鳥を作るね。大魔王の城に飛んで行くには、やっぱりラーミアでしょ。」
アルファはザ・フールの能力で砂の大きな鳥を作った。
「何かラーミアじゃなくてラミアみたいな妙なデザインだけど、まあいいわ。わたしの飛行石でこれを浮かすから、空を飛んでいきましょう。」
一行はアルファの作り出した鳥っぽいものに乗ってクニ国を後にした。テルーもみんなについてきた。
「ねえ、アルファ、この鳥っぽいもの、屁が漏れたりしない?」
「うっさいぞてめー!髪の毛むしるぞ!」
鳥はソラミツヤンマトンボの国をはるか離れ、大きな大陸を通り抜け(全部割愛されてない?)、イシスに到着した。
「地図を見ると、砂漠の真ん中に大魔王はいるみたいね。もうこのエピソード、ネタが少ないんで雑過ぎない?」
いろはが疑問を呈したところ、『プスン、プスン』と屁のような音がして鳥が高度を下げ始めた。
「操縦してるのジョセフ・ジョースターじゃないのに、墜落しちゃうの~?アルファ、おなら我慢しなくていいから目的地まで飛ぼうよ。いろは、地面を蹴ってよ。」
みんなの願いもむなしく、鳥は砂漠の真ん中で墜落してしまった。
「みんな、怪我は無いかい?とりあえず、悪夢にうなされて操縦桿蹴飛ばすデス・サーティーンの墜落ネタはなかったみたいだね。夢の中でゴロゴロしたかったけど。あと、出席簿絶対最後になるンドゥールの攻撃もないといいんだけど。」
「仕方ありません。目的地まで徒歩で進みましょう。あの遠くに見えている黒い点が大魔王の城のようですよ。」
オキタの号令で一行は砂漠の遙か彼方を目指して出発した。
一行は果てしない砂漠を何日も進み続けた。砂の地平線の遠い先に見えていた黒い点が大魔王の城だった。昼の暑さと夜の寒さに耐え、飲み水と食料を切り詰め、ひたすらその点を目指した。近づくにつれ大魔王の城が見えてきたが、蜃気楼のように佇んでいた。
その日の旅路の夕刻近くとなったが、一行は城の前に来た。巨大な城門は開け放たれており、一行を飲み込もうと待ち構えているようであった。中は霧がかかっていてはっきりしない。ナツメがみんなに言う。
「ここが大魔王の城だな。みんな疲れていると思うが、ここで一泊するほどのんきにもしてられない。覚悟はいいな。よしっ、行くぞ!!どこに敵がいるかわからない。気を抜かずに行こう。」
全員が武器を構え、油断なく城門をくぐって入った。周りを見回し、上空に警戒し、はたまた地面からモンスターが湧き出てこないか確かめながら進んでいった。ところが予想に反した中の有様に、みんな驚きの声を上げた。
「あれ、夕方だったのに明るいぞ。しかも緑がいっぱいだ。小鳥も鳴いてるし、いい香りがする。きれいで素敵なところだ・・・・。変だな。敵もいないし、その気配すらなさそうだぞ。」
城の中は緑の園のようだった。平和でのどかな風景が広がっていた。ポカポカ陽気でみんな木陰でのんびりしたくなってきた。
いろはが言う。
「これは幻覚魔法がかけられているのでは?」
ナツメが答える。
「だとすればこのままでは危険だ。いろは、解除できるか?」
オキタが声を上げる。
「ちょっと待ってください。これはチャンスじゃないでしょうか。」
ナツメが聞き返す。
「どういうこと?」
オキタがなにやら取り出した。
「破壊の剣と般若の面です。」
ナツメが問い詰める。
「なんだよそれ、呪いの武具じゃないか。」
オキタは話を続ける。
「そうですよ、破壊の剣は猛烈な攻撃力の代わりに自分の命が削られます。般若の面は、かぶると錯乱して味方に会心の一撃をお見舞いします。」
みんなが叫ぶ。
「みんな死んじまうだろうが!!」
オキタは再び話を続ける。
「いえいえ、よく聞いてください。我々は幻の中にいます。呪いの武具を装備してから幻を解除すれば、攻撃力そのままで普段の武器の効果を使うことができるのです。ナツメ君はこのピコピコハンマーを持ってください。破壊の剣の攻撃力でそのおもちゃの高速攻撃ができますよ。さらに平常心で毎回会心の一撃を出すことができます。」
テルーは疑いと期待の混ざった声で聞く。
「ほんとかよ。だとすれば超スゲーぜ。嘘じゃないだろうな。命かかってんだからな。」
オキタは落ち着き払って言う。
「わたしを信じてください。」
「よし、試してみよう。いろは、やばそうだったら即行呪い解除してくれよな。剣の方は使わなかったらダメージはないからいいとして、危険なのは般若の面だな。まずボクを縛ってから面をかぶらせてくれるかい?」
テルーはオキタから破壊の剣と般若の面を受け取り、ナツメを縛った。
「ナツメ、いいか、・・・よし、縛ったぞ。」
ナツメは破壊の剣を握りしめ、テルーがにナツメに般若の面を着けた。あたりに邪悪な空気が満ちる。ナツメは硬直し、そして錯乱した。テルーが叫ぶ。
「いろは、幻を解除してくれー!!」
「フッフッフッ、ホハハハ、フフフフ、ヘハハハハ、フホホアハハハ。」
「おい、いろは、どうした?」
「フハハ、クックックッ、ヒヒヒヒヒ、ケケケケケ、ノォホホノォホ、ヘラヘラヘラヘラ、アヘアヘアヘアヘ。」
「おい、なんの冗談だ?」
そうこうしているうち、みんなが爆笑し始めた。
「ヒヒヒヒッ、ギャハハハハー!!」
「みんな頭がいかれちまったのか~?」
いろはがテルーに説明する。
「よく見ろよ、あそこ。なんか車みたいのに乗ってこっちに背中向けてるやつがいるわ。たぶん、前方は鏡かスクリーンになっていて、隠れてるつもりなんだわ。ちょっと、そこのあんた、石がいい?オラオラがいい?」
「え!?ばれてる!お助け~!!」
変な車に乗っていた男が逃げると同時に幻は掻き消えた。ナツメはピコピコハンマーを持ち、錯乱も硬直もしていなかった。呪いにはかかっていないようだ。ほどなくして、どこからかあざけるような笑い声とともに、砂の中から巨大な影が現れた。
「ほっほっほっほ。よくここまで来ましたね。愚か者諸君。ふむふむ、煩悩小僧に、腐魔女が二人、ドラゴン引換券にパチモン商人ですか。」
現れたのは大魔王だった。真っ先にテルーがうなる。
「誰がドラゴン引換券だっ。」
大魔王が答える。
「おやおや自覚しておられるようですね、初めの頃はドラゴンハンターなどと大口をたたいていたのに、そのパーティーに加わったとたん、ヘタレになったことを嘆いているのではないですか。」
いろはが口をはさむ。
「まあ、馬車が指定席でしたからね。ドラゴン引換券という表現もありましたか。」
テルーがうめく。
「お前までなんだよ。馬車なんて乗ってなかったじゃないか。」
オキタが大魔王に抗議する。
「パチモン商人とは言いがかりもいいところです。私は正直に商売してますよ。」
大魔王があざ笑う。
「ほっほっほっほっほ。威勢がよろしいようですな。」
ナツメが啖呵を切る。
「大魔王、お前の野望は遂げさせない。」
大魔王が告げる。
「おや、そうですか。締切日が今日の日没までなのに、カウントダウンぎりぎりで我が許に来たのに、なんともおかしい。朔の日になればわが肉体は不死の大樹となり、全人類を肥やしとして栄光の生命体となるのですよ。まず初めに肥やしとなるあなたたちはとても幸運なのですよ。」
ナツメが叫ぶ。
「そんなことさせるものか。みんな、用意はいいか!!」
大魔王がさらに言う。
「皆さんレベルアップしてそこそこ強くなっておられるようですね。HP400前後というところでしょうか。ちなみに私のHPは53万です。」
ナツメが目を見開き、うめく。
「冗談だろ。」
いろはが左目に装着しているスカウターの数字を報告する。
「いえ、私のスカウターにもその通りの数値が出ています。」
ナツメが感心する。
「なんだって、どうやって左目だけでそんな巨大数字を数えてるんだ。ボクなんか指で一、十、百、千、万って数えないと無理だぜ。背後にいるアスワンツェツェバエが見えて、おまけにスケッチまでできるんじゃないか?」
アルファが呆れる。
「どこに感心してるんだよ。」
大魔王が諭すように言う。
「あきらめたほうがよろしいですよ。ついでに言いますと、私は後二度パワーアップします。また、ラスボスにふさわしく、全回復魔法を使いますよ。」
ナツメがわめく。
「ふさわしく全回復ってなんだよ。反則だぜ。ラスボスの回復はふつう薬草程度だろうが。シドーだってリメイク版はベホマ使わねえぞ。」
大魔王が更に諭す。
「私の肥やしとなれば、永遠のまどろみが手に入りますよ。悪い話ではないでしょう。人は惰眠が大好きです。それを提供しようというのです。私のHPをほんの少し削っただけで惨めな思いをしながら痛い目にあって死ぬより、今楽に死ぬ、いや、心地よい眠りにつく方が賢明でしょう。」
ナツメがまた叫ぶ。
「俺たちは決してあきらめない。たとえ結果死ぬとしても、信念を捨てなかった証を立てるんだ。」
大魔王がまた諭す。
「そうそう、それを自己満足というのですよ。我々は全力を尽くした、あきらめなかった、悪に立ち向かったという自己陶酔です。ですが、だれがそれが何になるのです。あなた方が死んだ後、全人類もまた眠りにつくのです。無駄死にというものです。」
ナツメはへこたれない。
「それがなんだ。俺たちは貴様を倒すためにここに来たんだ。貴様のスピーチを聞くためじゃねえし、肥やしになどなるものか。」
大魔王が語気を強めて言う。
「よろしい。ではかかってきなさい。しばらく遊んであげましょう。あなたがたの攻撃では休まず続けて1000ターンが必要でしょうか。こちらが全回復すれば、そのたびに同じ回数が必要となりますがね。それもこちらが全く何もしないという条件付きですがね。」
ナツメはその言葉に耳を貸さず、腰を屈め、戦闘態勢に入る。持っているのがピコピコハンマーなので何ともしまらない。
「ごちゃごちゃと御託を並べやがって、行くぞ!!」
ナツメが大魔王に打ちかかる。オキタの言った通り、ナツメのピコピコハンマーは破壊の剣の攻撃力でさらに会心の一撃を見舞うことができた。
『ピコン!!!』
大魔王はたった一撃ではるかかなたに吹っ飛んで行った。ナツメはそれを追いかけてボコボコとハンマーを振り下ろす。
「コリャスゲー!!夢みたいな強さだぜ。ビルの解体もこれ一本でOKだぜ。土建屋さんが欲しがるぞ。」
いろはが解析して報告する。
「今の攻撃で大魔王へのダメージは1秒ごとに100行ってますよ。」
ナツメが更に気合を入れる。
「よしみんなもかかれ!アルファ、無駄無駄でもボラボラでもアリアリでもいいから見舞ってやれ。いろはもオラオラやってくれ。テルー、君も攻撃しろ。」
アルファはキュベレイを呼び出してオールレンジ攻撃をし始めた。
「このキュベレイ、なめてもらっては困る!」
大魔王は余裕でつぶやく。
「なかなかやるではないか。今ので5000くらいはダメージがあったかのう。」
いろはもまた術式を展開する。
「マジックバリアー展開。」
いろはは自分たちに反射魔法をかけると同時に大魔王にも同じ魔法をかけた。アルファが怒る。
「何してんだおめえは、攻撃がこっちに跳ね返るだろうが。世界中のあいうえおチョコ溶かしてやろうか。」
いろはが解説する。
「バグ攻撃です。魔法が無限反射して敵に大ダメージを与えます。FSC版では修正されているようですが。しかしアルファ、あなた今またあいうえおチョコレートを侮辱しましたね。HP1まで削りますよ。」
テルーはみんなの雄姿に気を取り直し、また引換券と言われたことを思い出し、戦闘に加わろうとした。そこでまたオキタが進言する。
「テルーさん、このビームサーベルを使ってください。」
テルーが筒状のものを手に持ってぼやく。
「おいおい、これ不良品だぜ。ボタン押しても何も起こらないぞ。」
オキタがその棒を確認する。
「そんなことはないはず・・・。テルーさん、バッテリー用の絶縁シートを外してないですよ。ほらっ。」
オキタがシートを引き抜き、スイッチを入れると光の刃が伸び出した。
テルーがそれを呆れながら受け取り、攻撃に参加する。
「これ、最新式の武器だろ。なんでこんなアナログ仕様なの。まあいい、こいつで勝負だ。」
ナツメが歌う。
「デデデン、デデデデン、シュウ!」
「いちいち歌わんでいい!」
テルーの武器は会心の一撃並みのダメージを与えることが出来た。ところが、テルーがやる気全開になったところで突然ビームサーベルの光が消えてしまった。テルーがわめく。
「何これ、消えてしまったぞ。」
オキタが説明する。
「ああ、それ試験用のバッテリーですね。すぐ切れます。実はこれ、専用バッテリーが品切れなんですよね。」
アルファがテルーに向かって叫ぶ。
「まったく使えねえ奴だ。引換券どころか、いかがわしいサイトの請求書以下だな、てめえ。」
テルーが泣きながら言い返す。
「俺が悪いの~?」
ここで大魔王が笑い出し、全回復魔法を唱えた。
「ベホマ!はい。ご苦労様。これでまた53万です。そうそう、これを言うのを忘れていましたよ。皆さん、もし我が仲間となれば、世界の半分をそなたらに授けましょう。」
意外なことに、ここでテルーがこの問いかけに挑戦した。
「大魔王、世界の半分と言ったな。じゃあ、上下に分けることが出来るかよ。」
大魔王が感心する。
「ほほう、レイトン教授から学んだか。いや、テルーの本性が垣間見えたかの。画面が真っ赤になりたくはなさそうですな。」
ナツメがテルーの回答に感心する。
「とんちで大魔王をやり込めるとは、なかなかやるじゃないか。」
いろはがひとりつぶやく。
「このやり取りって、ソラミツヤンマトンボの国の未来にかかわることなのよね・・・テルーって男、危険ね。」
かなり自信を取り戻したテルーはオキタに尋ねる。
「オキタ、他にも何か使えそうなものはないのか?」
するとオキタがテルーに言った。
「テルーさん、ここで使うはポイズンニードルです。」
テルーが聞き返す。
「ああ、あれ?役に立つの?53万だぜ。」
オキタが答える。
「あれは攻撃100回につき1回、敵を一撃で倒すことが出来るギャンブルアイテムです。それ以外は1ダメージですが、100回くらいすぐ突けますよ。」
テルーが答える。
「なるほど、やってやろうじゃねえか。大魔王は俺たちをなめきって攻撃せずにせせら笑ってやがる。今の内だ。」
テルーが大魔王めがけて再び攻撃を仕掛ける。そして手に持ったポイズンニードルでチクチク大魔王を突き始めた。アルファが怒って叫ぶ。
「何やってんだてめえ。大魔王に鍼治療かあ。」
大魔王も大笑いしている。
「うあはっはっはっはっは。こりゃあ傑作だ。53万回突くつもりかな?そなたの寿命の方が先に尽きるんじゃないか?」
まわりで怒声と嘲笑が渦巻く中、出し抜けに「カス―」と音がし、大魔王が突然倒れた。テルーが歓声を上げる。
「やったぞ。ポイズンニードルが決まったぞ。俺はやったぞ。ばんざ~い。」
いろはが言う。
「引換券にしては上出来です。」
テルーが叫ぶ。
「いちいち引換券言うんじゃねえ。」
すぐにいろはが指摘する。
「次の変身が始まります。みなさん攻撃を続けてください。」
そうこうするうち、大魔王は第二形態に変化しつつあった。全員の攻撃は続いているが、大魔王の肉体は攻撃による損壊よりも速く生成している。ナツメが叫ぶ。
「予想通りというか、かなり巨大化したぞ。」
いろはがスカウターの解析を再び報告する。
「今回の変身でHPは95万パワーまで上昇しました。」
みんなが怪訝そうにつぶやく。
「今なんでパワーって言ったんだ?」
さらにナツメがテルーに言う。
「おい、もう一回あの針を刺してくるんだ。」
テルーは自分の両手を見つめてか細く答えた。
「ごめん、ばんざいしてどっかいっちまったみたいだ。」
全員が叫ぶ。
「何やってんだ!!」
しょげるテルーにオキタがここでまた提案する。
「テルーさん、モノマネの実です。大魔王に変身することができます。これは姿だけ変わるものとは違い、ステータスも同じになります。」
テルーがオキタに駆け寄る。
「おお、それって最強ってことじゃねえか。くれ、くれ。」
オキタが取り出した実はメロンくらいの大きさがあった。
テルーが驚く。
「でっけえな。とりあえず食うぜ。・・・うげっ、まずぃー。なんだこれ。」
オキタが続ける。
「テルーさん、全部食べないと変身できません。」
テルーは悲鳴とも絶望ともつかない声を上げた。
「しっ、死ぬ―。」
テルーが吐きそうになりながら食べ続ける。ほかの者たちは攻撃を続けているが、大魔王の変化は止まらない。そうこうするうちに大魔王は変身を完了し、ナツメたちに宣言した。
「さあ、第二ステージです。日没までもう時間がありませんよ。しかも第三ステージが残っています。今度はこっちからも攻撃しますかな。」
大魔王は焼けつく波動を放った。これには特殊効果をすべて消す効果があり、ナツメたちの呪いの攻撃力やいろはの魔法バグも消えた上に指輪もペンダントも破壊されてしまった。ただし、テルーはモノマネの実をぐずぐず食べていたので、この効果を免れることが出来た。大魔王はドラゴンが放つようなプラズマ火球を両手のひらで作り始めた。
「さあ、これは弾けるかな。カウンターマジックはもう展開できまいて。」
大魔王がプラズマ火球を作り終える前に、テルーが必死でモノマネの実を食べ終えた。
「うげげげげ、何とか食べたぞ。よし、大魔王に変身だ。」
テルーが大魔王に姿を変えた。大魔王が初めて驚きの表情を見せる。
「何と、これは面白くなってきましたね。」
テルーが大魔王のプラズマ攻撃が来る前に先に殴り掛かった。
「俺とお前はステータスが全く同じ。だから先に攻撃した方の勝ちだ。そしてこっちには仲間がいる。みんな一斉攻撃だ。」
テルー大魔王プラス仲間たち対大魔王の戦いは激しさを増し、壮絶な殴り合いとなった。大魔王は魔法や火炎などのタメ攻撃と回復を行う隙がないが、相手が大魔王なので容赦なしと、めいめいの武器を持ってルール無用で全面から攻撃する。
いろはがスカウターの数字を確認しながら言う。
「もう少しで大魔王第二形態のパワー切れとなります。第三形態に備えてください。」
ナツメがみんなに気合を入れる。
「物凄い相手だが、ここまでやれたぞ。倒すぜ。」
テルー大魔王は大魔王を抱え上げてジャンプし、フィニッシュホールドの体勢になる。
「テルーバスター!!!」
テルーの必殺技が決まり、大魔王はついにダウンした。
「グオオオオオォォォォォ・・・」
二度目のダウンを喫した大魔王であったが、また肉体が再生し始めた。今回は大きさが変わらない。テルーを中心に倒れた大魔王に攻撃を続けていたが、肉体のダメージよりも変身速度が上回った。
「私を第三形態まで進ませるとは、あっぱれではないか。褒めてつかわす。だが、もはやここまで。スカウターを見てみるがよい。」
いろはがスカウターの数値を報告する。
「大魔王のHPは7000万パワーまで上昇しました。」
テルーが呆れる。
「もはやお笑いの世界だぜ。」
ナツメがまた感心する。
「いろはの左目スゲーな。というより、あのレンズ、ゼロいくつ表示できるんだろう?」
突然倒れたままの大魔王が、テルーをブリッジで跳ね上げて技の宣言をする。
「まずは大魔王リベンジャーだ。」
続いて大魔王は頭突きでテルーをさらに上昇させる。そして、上空でテルーの両手を自身の両手でつかみ、右脚で首をロックする。それから体を背中合わせにして腕で腕を、足で足をロックし、テルーを下にして地面めがけて急降下する。
「喰らえ、7000万パワー大魔王スパーク!!」
「うわ―――!!!」
テルーがロックを解除できず、叫び声を上げて落下していき、大魔王スパークがもろにさく裂してしまった。みんなが叫ぶ。
「テル―――!!」
いろはがスカウターを見て言う。
「テルーのHPが99.99%減少しました。数字上即死ですが、残り100ですので単なるテルーに戻りました。」
みんなが口々に言う。
「もともとがそんなもんかよ。キングオリハルコンスライム倒した意味まったくねえな。」
元に戻ってみんなの所に退散してきたテルーが苦情を言う。
「そんなもんとはひどいじゃないか。活躍したのに。」
すると、突然あたりを引裂くような笑い声が上がった。
「わあっはっはっはっはっ!!!時間切れだ。」
大魔王の体は急速に伸びあがり、巨大樹の姿となっていった。
オキタがはっとしてつぶやき、タブレットを繰る。
「日没、ということは朔の日が始まったということ。つまり一日セールの日。・・・今日は20%引きだ!!。もしかして・・・よ~し、買えるぞ。なんとかゴールド・エクスペリエンス・レクイエム・カードの利用枠内でこれが買える。よし、えーと、配達先変更大魔王の砂漠、瞬時テレポート配達、配達時即使用可能で納品、送料は無料ですね。よし、確定!!みんな、集まってください。すぐに最終兵器が配達されます。」
みんなはオキタの方を見て何事かと思い、集まって来た。するとそばに、閃光と共にとてつもなく巨大な岩の塊が現れた。
「たしかあのとがった岩の上の方に艦橋があります。急いで中に入りましょう。アルファさんもいろはさんも魔法力を」
全員岩肌に削られた階段を上り、岩山に開いた穴に入って行った。中には長い階段があった。
「長ー!ティナー・サックスの幻じゃなくて現実の階段?」
「とにかく登りましょう。」
みんなその階段を走って登り、みんなへとへとになってしまったが、操縦席と思しき部屋に到着した。丸い計器が壁一面に並び、座席が多数配置されていた。
「あ、これ、レイジメーターっていうアニメーター泣かせのデザインだ。」
ナツメは赤い服を着て戦斗隊長席に座り、計器類を確認する。
「アフターバーナー点火、シリンダーへの閉鎖弁オープン、エネルギー充填80%、100%、120%、ターゲット・スコープオープン!!電影クロスゲージ明度20、目標、敵大魔王、距離50メートル。発射十秒前、対ショック対閃光防御、七、六、五、四、三、二、一、波動砲発射!!」
大岩の一辺を突き破ってまぶしい火球が飛び出し、炎の大柱となって大魔王に炸裂する。巨大樹と化していた大魔王は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「やったぞ!!世界は永遠のまどろみから救われたー!!」
みんなは歓声を上げた。艦橋内でめいめいが喜び合う。しばらくさわいでいたが、戦いの疲れがひどかった。オキタがみんなをねぎらいながら言う。
「みんな、本当によくやった。でも疲れただろう。まずは休もうではないか。」
それを聞いてナツメとテルーは倒れるように床に寝ころんだ。いろはとアルファは座席をリクライニングして眠ることにした。オキタは艦長席からシートエレベーターで艦長室に昇り、リクライニングシートに横になった。
「ルートベア様。アドミサイルの発射準備が整いました。ご命令を。」
地球への帰還を目指すガニラス星からやって来た宇宙艦隊は、地球の静止衛星軌道上でミサイルの発射準備を整えていた。艦隊旗艦の宇宙空母に乗る総統ルートベアは、側近のカオルからの報告を受け、地上へ向けてアドミサイルの発射命令を下した。
「アドミサイル、発射!」
突然の警告音を聞き、いろはがびっくりして目を覚まし、レーダーを確認する。続いて天井スクリーンに映像を映し出し、状況を説明する。
「宇宙空間より、巨大かつ高速の物体が接近中。ミサイルかと思われます。」
オキタがレクイエムを静かに歌い出した。
「さらばー地球よー 旅立ーつ船はー 宇宙ー戦艦ーヤーマートー。」
オキタが号令をかけ、クルーが作業を始める。
「補助エンジンスタート!」
「補助エンジンスタート、100、200、300、500、1200、2000、2500、2900、3000、波動エンジン回路接続。」
「波動エンジン始動!接続!出力パワーアップ!発進準備!主砲発射準備!ヤマト発進!!」
「ヤマト、発進します!」
宇宙戦艦を包んでいた梱包用岩石にビキビキとひびが入っていく。と同時に勇壮な前奏曲が流れ始め、天井スクリーンにカラオケの画面が映し出る。艦首が岩の中から姿を見せ始め、岩石と船体の間に敷かれていた棕櫚の葉がこぼれ落ちた。艦橋前面の岩がガラガラと崩れ、視界が開けていく。そして超巨大戦艦が崩れた岩の上に姿を表した。
オキタが熱を込めて歌い出す。残りは男性パートと女性パートのコーラスを歌う。
♪さらば地球よ 旅立つ船は 宇宙戦艦ヤマト
宇宙の彼方 イスカンダルへ 運命背負い 今飛び立つ
必ずここへ 帰ってくると 手を振る人に笑顔でこたえ
銀河を離れ イスカンダルへ はるばる望む
宇宙戦艦ヤマト
さらば地球よ 愛する人よ 宇宙戦艦ヤマト
地球を救う 使命を帯びて 戦う男 燃えるロマン
誰かがこれを やらねばならぬ 期待の人が俺たちならば
銀河を離れ イスカンダルへ はるばる望む
宇宙戦艦ヤマト
再びクルーが操艦を始める。
「右15度、転換!」
「ショックガン動力連動。測敵完了!」
「自動追尾装置完了!」
「誤差修正!右1度、上下角3度!」
「目標、ヤマトの軸線上に乗りましたっ!」
「発射!」
「発射!」
「・・・・・って発射しないぞ・・・」
戦斗隊長席で主砲のトリガーを引いたナツメが呆然とする。それを受けてオキタが告げる。
「主砲の弾丸は手作業での装填になっている。砲塔と砲身の操作も右に同じ。ナツメ、一番砲塔へ行ってくれ。エレベーターの操作も手動だ。タブレットを持って行け。いろはに指示を送ってもらう。40秒で支度しな。」
ナツメが怪訝そうに言う。
「なんか口調が艦長になってるよ。最後だけなんか違ったけど。」
オキタが訂正する。
「艦長ではない、オキタ船長だ。」
ナツメがつっこむ。
「なんでそこだけノーチラス号になってんだよ。」
アルファがさらにつっこむ。
「え、タイガーモス号じゃないの?」
アルファも後についてきた。彼女もタブレットを受け取った。
「わたしも行くよ。いろはのやつが美少女専用席だと言ってレーダー主の席をどかないんだ。おまけにわたしのポジションはキャタピラ足だとか言いやがる。腹立つー!」
ナツメが聞き返す。
「おかしいな。ガンタンクが乗るのはこの船じゃない。ホワイトベースだ。」
アルファがキレる。
「ガンタンクじゃねえ、アナライザーだ。てめえ、わざと間違っただろ。」
ナツメとアルファは艦橋のドアを出てエレベーターに乗り込んだ。ナツメがわめく。
「艦橋から出たら300年ほどタイムスリップしたって感じ。そんなこと言っても始まらんか。まず甲板の階まで降りよう。10階建てのビル位の高さだけど、さっきよく足で登って来たもんだなあ。」
レバーを下降方向へ倒すと、エレベーターは高速で下がり始めた。アルファがびっくりして叫ぶ。
「は、速いー。フリーフォールかよ。ブ、ブレーキ!」
ナツメがレバーを操作して減速させたが、ガシャーンとなった上に何か黒い奴がぶつかって来た。二人はひっくり返ってしまい、アルファが文句を言う。
「何だよ、なんでエレベーターだけラピュタと千と千尋なんだよ。」
二人はブツブツ言いながらドアから出た。アルファが近くのドアの奇妙なプレートを見ていぶかしがる。
「 ムネ喫茶室?何これ?いかがわしいことする部屋かな?この戦艦男ばっか乗ってたからかね~。」
ナツメが先を急ぎながら説明する。
「ああ、あのプレート、最初のラの文字が取れてるんだ。ラムネだよ。火災消火のための炭酸ガスを二次利用してラムネを作ってたんだ。大和では一日5000本も作ったらしいよ。」
アルファが嬉しそうに答える。
「後で飲みに来ようよ。しっかし5000本も作ってどうすんだよ。」
ナツメがまた説明する。
「なにせ大和は3000人も乗ってたんだ。5000本といっても一日分もないくらいだよ。」
アルファが少し嫌な顔をして言う。
「男だけで3000人!叶姉妹の船かよ。」
ナツメが説明を加える。
「案外その指摘は当たってるかも。大和は女性なんだよ。女が乗ったら嫉妬するんだ。奥さんのこと『うちのかみさん』なんて言うだろ。あれは山の神様が女だからそう言うんだ。大和も山と同じなんだ。」
アルファがちょっとしらけ気味に言う。
「ナツメ、今のひょっとしてダジャレ?」
ナツメが照れ気味に言う。
「ええっ、た、たまたまだよ・・・。よし、甲板に出たぞ。暑いー。焼けるー。ラムネ飲みてー!って、さあ、急ごう。あれ、自転車があるぞ。これに乗って行こうぜ。アルファは後ろに乗ってくれるかい?」
ナツメは眼鏡をかけてアルファを乗せ、ペダルをこぎ始めた。ナツメは後ろにアルファがいて嬉しくてたまらない。こんな素敵なチャンスは二度とないと思った。それで思い切って言ったみた。
「嗚呼~、こんな時だけど、すごい嬉しいな。アルファが後ろに乗ってて・・・。なあ、アルファ・・・、この戦いが終わったら。君のパンツ洗わせてくれないか?」
「このくそド変態がー!!どこまでてめえの頭は暴走してるんだ!」
「あれ~?ムッシュ・ナカノ~、ボクなんか間違えました~?あ、あの、アルファ、これはね、ボクと結婚してくれないかっていう意味なんだよ。」
アルファが即答した。
「ごめん。無理。」
ナツメががっかりした声で言う。
「あらら・・・瞬殺かぁ・・・。ポイズンニードルに当たったらこんな感じかも・・・。」
「あはははっはー。うまいこと言うね。それ面白いよ!それより、ペダルしっかりこいでよね。」
アルファが大うけしたので、ナツメはさらに落ち込んでしまったが、気を取り直してペダルをこぐ。
「とにかく今はミサイルの破壊だ。」
二人は九十四式45口径46サンチ三連装主砲の一番砲塔に到着した。ナツメが指示を飛ばす。
「砲塔は弾頭準備、供給、装填と持ち場があるんだ。ボクが薬嚢準備をやる。アルファは弾丸の供給を、赤いやつを使ってくれ。装填はその後上に登ってやってくれ。人数が全然足りないな。弾丸装填後、すぐに旋回と砲身の仰角操作をしなきゃなんない。」
それぞれナツメは基部の給薬室に、アルファが真ん中の給弾室に行った。その間にいろははヨウツベにあったヤマトの主砲発射手順を二人のタブレットに送信しておいた。アルファがそれを見ながら、自分より大きい46サンチ三式弾を砲室へ送る。重量は1.5トンもある。そして伝声管でナツメに聞いてきた。
「弾丸を送ったぞ。主砲発射ってやりたいぞ。トリガーはどこにある?」
ナツメが薬囊をよっこらせと一つ送薬盤に置いてから伝声管で話しに行く。
「もう送ったの?初めてなのに大したもんだ。基本一年以上訓練が必要なのに。引き金は本来なら鐘楼のてっぺんにあるんだけど、このヤマトは波動砲と同じで戦斗隊長の席にあるんだ。さっきボクが引いた奴。照準はニコンの測距義ではなくて、超次元レーダーだろうな。いろはが座標を計算して針の位置を指定して来るから、その指針の位置に旋回砲塔と仰角の現在位置の針を合せると、発射準備OKの信号がこちらから戦斗隊長といろはの席に送信されるんだ。」
アルファは砲室に移って弾丸に信管を取り付けて弾丸装填機に載せ、砲身にセットし、ナツメに伝える。
「ナツメ、弾丸は砲身に入れたぞ。」
ナツメは急いで薬嚢を送薬盤にさらに5個載せて全部で6個とした。なにせ一つ50キロ以上あるので骨が折れる。薬嚢はいろいろな装填機材を通して砲室へ揚げられる。待ち構えていたアルファが弾丸の後ろに薬嚢を装薬装填機で押し込み、尾栓を閉めてロックする。ナツメが伝声管で艦橋に伝える。
「よし、弾丸装填完了だ。三式弾使用、薬嚢は6個使用。」
いろはがミサイルの軌道計算をしているが、大和を上空へ移動させ、主砲の仰角を45°で固定するポイントを探っている。本来なら航海班長の仕事を、いろはが情報を席に送って操作している。また、命中失敗を考慮して、誰もいない砂漠に落下させる位置を確認している。作業中、彼女がいろいろぼやいている。
「相手は船でも陸上の基地でもない、マッハ25で宇宙空間から突入して来るミサイルでしょ。時代にあった武器というものがあるよね。相手がミサイルなら対弾道ミサイルなどで対処するのに。イージス・アショアなんていう、あの女と同じむかつく名前のミサイルもあったわね。主砲でミサイルを撃つなんて、戦国自衛隊じゃないの。まったく。」
本来の宇宙戦艦には迎撃ミサイルがあるのだが、この艦にはなかった。
いろはが二人に指示を出す。
「ミサイルはすぐ来るけど、その前に試射したいの。こちらが指定する座標に砲塔と砲身を動かして。」
シャチは砲塔を90°回頭して船体に対して直角にし、アルファは装填した砲身を45°の位置にそれぞれ動かした。オキタがテルーに指示を出す。
「テルー、戦斗隊長席に着くんだ。」
テルーが壁際の席からブーブー言う。
「ええー?俺青い服だから真田さんの席だろ。ここがいいよ。」
いろはがどなりつける。
「うるさい!さっさと赤い服に着替えろ!わたしなんか似合わない黄色い服着てるんだから。」
テルーは「ヤッター」とか言いながら青い服を脱いで上に投げ、服が反転して赤い服になったのをまた着た。いろはもオキタも完全無視した。テルーはぼそっとつぶやいた。
「またつまらぬことをしてしまった・・・」
テルーが発射を知らせる信号を送り、警告音が砲塔内に響き渡る。ナツメがみんなに警告する。
「主砲発射だ。みんな、耳あてをつけてふせて。」
二人は備え付けの耳あてを着け、アルファは近くにあった毛布もかぶった。
テルーが引き金を引く。
「主砲発射ー!!」
「ドッゴーン!!!!」
凄まじい爆音が響き渡り、大地震のように砲塔内が揺れた。ヤマト船体と同じほどの長さの火炎が砲身の先から噴出し、三式弾がマッハ2.5のスピードで飛び出して行った。真っ赤に焼けた砲身が弾丸装填角度まで下がって来た。ヤマト自身は位置・姿勢維持システムで空中に固定されている。アルファがうめく。
「何これ!攻撃してんの、されてんの?」
ナツメが説明する。
「主砲の爆音と衝撃波は、甲板にいると死ぬほど、というか死んでしまうんだ。あの警告音は、総員艦内退避の合図なんだよ。機関砲にいる人なんかは毛布をかぶってやり過ごし、銃撃を続けたっていうよ。アルファもそうしたよね。主砲の弾丸装填時間つまり発射間隔は熟練者で40秒と言われてる。」
アルファが感想を漏らす。
「えー、『40秒で支度しな』ってこっから来てんの~?」
ナツメが説明を続ける。
「案外そうかもしれないよ。」
アルファがとりあえず確認する。
「今、糸井さんの真似した?」
ナツメがちょっと恥ずかしそうにしてからうんちくを続ける。
「戦争の戦術は数年で大きく変化したんだ。大口径の主砲が決戦兵器だったのが、戦艦建造中に空母と爆撃機の戦術にシフトしたんだ。大和とペアになる予定だった空母信濃は戦線投入の前に沈没してしまった。・・・そうだ、急いで次の装填をしないと。」
三人は再び先ほどと同じ作業をし始めた。いろはの通信が入る。
「先ほどの試射で弾丸の軌道を確認しました。3発共装填してください。薬嚢の数は同じく6です。砲身を指定された角度に合わせて。後はヤマトの位置で調整するから。」
単純な三次元座標に加え、PCが超次元座標系で計算したデータを砲塔に送信する。時々刻々と変わる細かい座標修正はヤマトの移動で補う。砲塔から通信が入る。
「発射準備完了。」
テルーが発射警報を鳴らし、引き金に指を掛ける。いろはが発射用にカウントダウン標示をテルーの席にあるディスプレイに表示して説明する。
「カウントゼロに合わせて引いてください。気合入れろや!!ブルーダイヤ!!!」
テルーが雄叫びを上げ、引き金を引く。
「主砲発射――!、カープ、カープ、カープ―――ッ!!!」
再び主砲が爆音と共に長大な炎を放出し、弾丸を3本の砲身から撃ち出す。超高速でまっすぐに向かってくるミサイルに対し、主砲の弾丸は上空に大きな弧を描き、いろはが計算した座標に向かって弾丸が飛んで行く。見事命中!!ミサイルは花火のように爆発し、白い破片のようなものを大量にまき散らした。
試射の砲弾は生き物一匹いない砂漠に落ちて爆発し、煙柱とクレーターを作った後、何事もなかったように元の砂漠に戻っていた。
オキタがみんなをねぎらう。
「みんな、よくやった。大魔王に続いて宇宙からの侵略者まで防いだ。偉大な勇者たち、さあ、地球へ帰ろう。」
大和はかつて大魔王だった木の切り株のそばに着陸した。砲塔から出て来た三人は、グシャグシャになった自転車を見て唖然とした。アルファがつぶやく。
「すごい威力。衝撃波だけでこれかよ。」
ナツメがまたうんちくを語る。
「この衝撃と火力で、砲身は100発くらい撃つと使い物にならなくなって、交換になるみたいだよ。訓練は必要なのに、経費が掛かり過ぎてままならなかったみたいだね。ああ、そうだ。アルファの名前はイージスだったよね。イージス艦ていうのもあるよ。」
アルファがやだやだという感じで答える。
「知ってるよ。あの醤油さしみたいな砲塔のやつでしょ。好きじゃない。やっぱ三連砲塔がいいね。」
ナツメが苦笑いして言う。
「寺尾聰さんが聞いたら激怒しそうだ。」
アルファが思い出して言う。
「テルーの奴、カープとか言ってたけど、どういう意味かな?」
ナツメが苦笑いして言う。
「トラ・トラ・トラっていうところを、大和が造られた広島にちなんだのかもね。」
話している間にほかの三人が艦橋から降りてきた。いつもの服に着替えていたオキタが二人に話しかけた。
「お二人ともお疲れさん。」
アルファがつっこむ。
「もう船長は終わり?」
オキタがやれやれといった感じで答える。
「私の心の中は支払いの事でいっぱいですよ。高い買い物でしたからね。」
ナツメが聞いてみた。
「一体この船いくらしたんだい?」
オキタが説明する。
「1兆円の20%引きで8000億円です。」
みんなが驚きの声を上げる。
「は、8000億円!!!???」
オキタがすまして答える。
「これでも安いんですよ。この船ジェネリックですからね。本物なら3兆円です。」
ナツメがつっこむ。
「何それ?ジェネリック・ヤマト?」
オキタが続けて説明する。
「高度で高価な特許技術も、特許切れや生産設備の整備で年数が経てば格安になります。横井軍平さんの『枯れた技術の水平思考』という言葉を知りませんか?ファミコンやゲームボーイ作った人です。格安の技術を使って物凄いものを作る。ジェネリック・ヤマトもその産物です。ジェネリック薬品やジェネリック家電は有名ですね。
あのFF6やクロノ・トリガーは1万円以上しましたが、中古で今は数百円で買えますね。ブランド・エックスという言い方もあります。ABCチョコのパクリの、あいうえおチョコやヒエログリフチョコがありますね。似てるけど有名じゃないので宣伝費用とかかけてなくて安いという・・・」
アルファといろはがオキタを殺気に満ちた目でにらみつける。
「おい、てめえ今なんつった。」
「あいうえおチョコをパクリなどと侮辱したな、貴様。」
「ヒエログリフチョコをABCチョコのパクリ扱いした上に、あいうえおチョコと同列に扱ったな。」
「貴様もあいうえおチョコを侮辱したな。」
「あんなものは食べ物ですらねえや。」
今度はアルファといろはがにらみ合いを始めた。と突然アルファがうつむいて背中を向け、とぼとぼと歩いてみんなから離れて行った。いろはが怪訝そうにつぶやく。
「何、あいつ・・・」
自分への殺意が尻すぼみになって、オキタはホッとした。
「口は災いのもとですね。それにしても、アルファさんはどうしたんでしょうか?」
そんなとき、空からひらひらと白く四角い物が大量に降ってきた。
「何だこれ?」
みんながその四角い物を拾ってみた。画用紙のようだった。ビリビリに破けた物も多かったが、無事な物もあった。
『ガニラス星のルートベア総統は良い人です。言うこと聞いてください。』
『地球はガニラス星人がいただきます。』
『地球人のみなさん、どうか降伏してください。』
など、いろいろな絵入りのメッセージが書かれた紙だった。大半が子供の描いたものらしい。どうやら先ほどのミサイルの中に入っていたもののようだ。オキタが自分の考えを述べる。
「先ほどのミサイルはこれをばら撒くための物だったようですね。攻撃というほどのものではなかったかもしれません。みなさんには御足労でしたが・・・」
すると、突然というよりもみんなが気付かなかったのだが、巨大な2隻の船影が地上に降下してきた。その巨大な船は高度を下げ、ヤマトの隣に着陸しようとしている。ヤマトよりも100メートルほど大きい。ヤマトが265メートルなので、350メートル以上あると思われた。それは戦艦ではなく空母であった。その隣にもう一隻降りてきた。これは大和とそっくりな戦艦で、長さもほぼ同じであった。
2隻が降りてくるのを見ていると、空母の底部、船首のバルバス・バウの部分が外れて潜水艦が姿を現した。それが大和の甲板に近づき、潜水艦のハッチの部分が甲板と同じ高さとなって艦に横づけとなった。潜水艦のハッチが開き、一人の女性が出て来た。なかなかに凛々しい顔立ちだ。
ナツメが歓喜の声を上げる。
「マチルダさ~ん!」
「違います!わたしはガニラス星の総統ルートベア総統の側近で、カオルという者です。ヤマトの乗組員の諸君、そなたたちの勇敢なる行動に敬意を表します。代表者は誰でしょう?話がしたいのですが。」
みんながオキタの方を見る。オキタが小さく答える。
「普段着でいいですか。船長の役は疲れますし暑い上に、軍靴は水虫がかゆいので、草履で失礼します。」
一行はカオルをラムネ喫茶室に案内した。オキタがラムネを勧め、要件を聞き始めた。ついでにテルーは違う席に陣取り、ラムネをおいしそうに飲み始めた。ナツメはアルファがいないので、彼女を探しに喫茶室から出て行った。カオルが話を切り出した。
「オキタ船長、我々はガニラス星という、地球から遠く離れた星から来たガニラス星人です。しかし、遠い昔、地球から移住した民なので、実際は地球人ということになります。地球が大破壊に見舞われたとき、脱出してガニラス星に移住したのです。我々はガニラス星で大いなる文明社会を築きましたが、寿命は短くなる一方でした。
水が合わないなどの問題が少しずつ積み重なり、体が弱くなっていると予想されました。そこで人体を精査したところ、我々の先祖が地球の水や塩から摂取していた、必須のミネラルや栄養素が足りていないことがわかりました。それらはガニラス星の水では不十分だったのです。
我々は自分たちの命を救うため、地球へ帰還することにしました。ところが現在の地球はひどく環境が汚染され、我々が求める水はごくわずかしか検出できませんでした。それを我々が入手するとなると、地球人と水や土地の奪い合いになる事が明白でした。
地球はかつて大破壊に見舞われました。しかし、それがタイムカプセルとなり、そのときの環境が閉じ込められている場所がないか、地球の各地をレーダーで探索しました。すると、この砂漠の地下深くに太古から眠る膨大な地下水を見つけました。そこには我々の先祖が地球に住んでいた当時の水があったのです。我々が必要としている命の水がこの地下にあるのです。
この砂漠は人を寄せ付けない過酷な環境であるため、地球人は住まないことから、我々が移住するのに支障はないと考えていました。ところが、何やら巨大なパワーを持つ者がおり、それが地下に根を伸ばそうとしており、また宇宙戦艦までそこにあったわけです。我々はまず降伏を勧告するため、前もって準備しておいたアドミサイル、すなわち宣伝を充填したくすだまをここにめがけて発射しました。」
テルーがうめく。
「あれ、くすだまですか~?『地球人よ、これが最終兵器だっ』ていうミサイル攻撃じゃなかったの?」
カオルが話を続ける。
「我々の目的、もっと言えば希望は、ここに移住し、この水で生き返ることです。あなたがたはいったい何者ですか。ここで何をしていたのです?ここの所有者であれば、交渉をお願いしたい。」
オキタが自分たちの説明を始める。
「わたしたちは砂漠の地下水については知りませんでしたが、あなたの話で合点がいきました。あなたがたがここで検出した巨大なパワーは大魔王のものです。この者は巨大樹となって全人類を自らの栄養素として吸収するつもりだったのです。その代償として、全人類は永遠のまどろみに入ると大魔王は言っていました。
なぜこんな砂漠の真ん中に大魔王がいたのか、それはこの地下水を利用するためだったのですね。このミネラル豊富な命の水を吸い、その力でさらに人類をも吸い尽くそうとしていた・・・。大魔王の正体ははっきりとはわかりませんが・・・。」
カオルがそれに答える。
「おそらくそれは宇宙樹ではないでしょうか。本来ならその星や人類を育む神の樹であるのが、なぜかここでは邪悪な意思をもって人類を滅ぼそうとした。もしかしたら、地球人は自ら滅びの道を歩むようなことをしていなかったでしょうか?大魔王が言ったという『永遠のまどろみ』、この望みを人類の大多数が望んでいたということも考えられます。原因は人類の心にあるのかもしれないのです。」
オキタが同意する。
「そうかもしれません。生活が保障された快適な惰眠と、無益で過酷な重労働のどちらかを自由に選んでもよいと言われたら、大方の人が前者を選んでしまうかもしれませんね。その心が生み出した化け物があの大魔王だったのかもしれません。
カオルさん、あの宇宙戦艦は大魔王を倒すために私が購入したものです。その目的を達成したので、誰かを攻撃するようなことはもうありません。第一、動かすのは大変な代物です。もともと3000人で動かしていましたからね。そしてこの土地ですが、あなたたちがここに住みたいというのでしたら、好きになさったらどうでしょう。
大魔王は変わり者だったのでしょうか。彼はこの土地を購入していたようです。権利書は電子文書で残っていると思います。それを入手されて名義変更されたらどうですか?今ははんこいりませんから。それで万事解決ではないですか?」
カオルが驚きを隠せない。
「それはありがたい話だ。早速総統に伝えに行こう。ああ、オキタ船長、このラムネ、何本か貰えるだろうか?」
オキタが微笑んで答える。
「一日の製造本数は最大5000本です。あの2隻の巨大船にそれぞれ3000人ずつ乗っておられるのなら、今日の分はちょっと足りないかもしれませんね。それから、びんは再利用しますので、返却をお願いします。割ってビー玉を取り出すのも出来ればおやめいただきたい。びんの中にタバコの吸い殻も入れないでくださいね。」
テルーが付け加える。
「ラムネもおんなじか~。ボストトーロの山でゴミ拾いしたとき、缶に吸い殻入ってたの取り出すの、死ぬほどうっとうしかったもんな~。」
カオルが嬉しそうに答える。
「ありがとう。総統にお土産としてもらっていきます。クルーには1隻ずつ順番に飲んでもらうことにしましょう。」
オキタが不思議そうに尋ねる。
「というか、そちらの船にも炭酸ガス消火設備があると思いますが。大和とよく似た戦艦なんて、それを利用した同じラムネ製造設備がありそうですけど?」
カオルが回答する。
「ラムネは作っていませんが、レモネードの設備はあります。」
オキタが笑いながら話す。
「ラムネはレモネードがなまったものですよ。わざわざ持って帰ることもないのでは?」
カオルが力説する。
「このびんがなんともいいんですよ。うちのはペットボトル詰めですから、無機質なんです。ラムネの方がおいしいんですよ。ガラス玉をコロコロやるのがなんとも。飲み物は形も音も重要です。割ってはいけないのが残念ですが。うちのクルーの誰かはやってしまうかもしれませんが・・・」
カオルの話しぶりは、最初は外交官風だったのに、だんだん世俗的になってきた。オキタはこの会話にナツメとアルファが参加していないことを残念に思っていた。
「ナツメ君とアルファさんがいたら、もっと盛り上がっていたかも・・・。」
カオルは再び潜水艦に乗り込み、潜水艦は空母のバルバス・バウに戻った。それから空母は大和に横付けし、甲板同士で橋げたを渡した。ラムネを取りに大勢のクルーが降りてきた。隣の戦艦からはブーイングが起こっている。それを見ながらテルーがつぶやく。
「最初からなぜこうしなかったんだ?わざわざ潜水艦で来る必要あった?」
オキタがまた残念そうに言う。
「やはりここにもナツメ君とアルファさんがいないことが悔やまれますね。彼らなら何か的確な面白いことを言ってくれただろうに・・・。二人で早速あの空母に乗っていたでしょうに。」
潜水艦の収容が終わると、カオルはルートベアの許に駆けつけ、事の次第を報告した。
「総統、あの宇宙戦艦もそのクルーも敵意や戦意は全くありませんでした。戦艦の武器の使用は、宇宙樹の暴走を食い止めるためと、アドミサイルを最終兵器と勘違いしたものでした。また、この土地は電子文書の名義変更で入手できるとのことです。驚くほど簡単に事が済んでしまいそうですよ。それから、これ、お土産にもらってきました。ラムネといいます。私も飲みましたので成分は問題ありません。おいしいですよ。びんのデザインも好きです。」
ルートベアが顔をほころばせる。
「そうか、ご苦労だった。だが気は抜けぬぞ。我々がここを占有したとなると、他の地球人が黙ってはおらぬだろうからな。あの宇宙戦艦も地球人が購入可能なものだったわけだからな。ほかの者たちが購入して、こんなのが大勢で攻めて来れば宇宙戦争になってしまう。ともあれ、一休みしよう。ラムネといったか。いただこうじゃないか。どうやって栓を開けるんだ?それに、どうやって密閉したんだ?なんだこの容器。」
カオルがはっとする。
「あっ、どうでしたか・・・。彼らはどうやって開けていたんでしょう。」
ルートベアはラムネが飲みたくてたまらなくなり、ふたの開け方を聞きに行くことにした。カオルが呆気にとられる。
「ラムネ飲むの、そんなに大事なことですか?」
ルートベアはかなりじれていた。
「ラムネ!飲まずにはいられない。あの顔が汚れて力が出ない男のように自分は荒れている。さらなる高みがあるなら私はそこへ行くのだ。」
カオルが呆れる。
「ラムネにあんことサボテン混ぜたようなこと言わないでください。何者ですか。」
ルートベアはさらに続ける。
「私だけの世界!この戦いだけは退くわけにはいかないのだ。」
カオルがつっこむ。
「今、スイートビーンズブレッドマンのセリフ、思いつかなかったんですか?」
ルートベアはうろたえた。
「こ、この我が世界に入門して来るとは・・・。」
ルートベアは急いで滑走路へ出た。オート三輪でラムネが配られているのを、大勢のクルーが受け取っているのが見えた。ルートベアがその前に立ちふさがる。カオルがつっこみ役として急いで後を追う。
「止まれ―。」
運転手が叫ぶ。
「あぶねえじゃねえか。って総統、何やってるんですか?」
ルートベアが懇願する。
「女の子を見かけ・・・、いや、このふたが開かないんだ。」
一緒に乗っていた女性のクルーがびんの開け方の説明をしてくれた。
「これ、玉押しっていうそうです。こうやって使ってください。」
女性は荷台の枠にラムネのびんを置いて玉押しを手のひらでポンッと叩いた。ルートベアはあわてて軍刀に手を掛ける。
「銃声!!」
カオルがやっぱりという感じでつっこむ。
「黒船に乗った江戸幕府の役人ですか。わざとやってません?」
ルートベアは玉押しを受取り、びんを甲板に置いてポンッとやった。走って来たので振られた上に、すっかりぬるくなっていたラムネはブシューと吹き出して服が濡れた。ルートベアはわめく。
「やっちまったぜ。エリナばあちゃんに叱られるー。」
と言ってびんを逆さまに向けて飲もうとしたが、ビー玉が引っ掛かってラムネは出て来なかった。
「オー、ノー!」
カオルが呆れ果てて言う。
「ヤレヤレ。」
「アルファのやつ、どこへ行ったんだ?おーい、アルファ、どこにいるんだ~。ラムネ飲みたいんじゃなかったか~。」
ナツメは大和の艦内を探し回った。
「こんなとこでかくれんぼやったら面白そうだけど大変だな。メタルギアソリッド大和なんてのが出たりして。アルファは迷子になってんじゃないだろうな。」
ナツメはアルファを呼びながら、時々ブツブツ言いながら歩いたが、アルファは見つからなかった。甲板は暑いのでクーラーが効いている艦内にいると思うのだが、広過ぎてどうしたものか。
「ボストトーロに頼んでイヌバス呼んでもらいたいよ。」
ナツメはアルファといろはが、ボストトーロと一緒に飛んでいった後、マッドウーメンと市女笠になっていた時のことを思い返していた。
「あれはあれでなかなかかわいかったな・・・。照れくさくてふざけて『紛らわしい』なんてつい言っちゃったけど、素直に『かわいい』とか『美しい』って言えばよかったな。アルファは古いネタでも食いついてくれるし、一緒にいて楽しいな。振られたけど、そんな会話をずっとしていたいな。」
何やら外が騒がしいので、ナツメは一旦甲板に出た。宇宙空母が大和に横付けになり、空母の甲板では大勢の人が配られたラムネを飲んでいた。隣の戦艦から『ずるいぞ、ずるいぞ』の文句が飛んでいた。しかし、ナツメの目を惹いたのは別の物だった。
「わあ、すげー!甲板にとんでもないものが置いてある。アルファと一緒に見たいなー。早く探さないと。アルファもこれ見るためにきっと甲板にいるぞ。というか、あっちに行ってるかも。」
しかし、アルファは甲板に出て来てはおらず、空母にもいないようだった。空母が横付けになったことで、仲間のみんなも見学に行ったが、いろはは大和に残っていた。彼女もアルファの様子がおかしいので探すことにしたのだった。
「まったく、世話が焼ける。地蔵さんのとこにでも座ってるのかしら?ああ、そうだ、彼女の持ってるタブレットの位置を見ればいいんだわ。」
アルファは艦橋にいた。そして、戦斗隊長席に座って物思いに沈んでいた。
「 ムネ喫茶・・・ラムネ喫茶・・・先頭の文字が欠けて・・・」
アルファは幼な友達とのやり取りを思い出していた。
『あーちゃん、ぼくたちずーと仲良しだよねー。』
『うん、定春君もわたしのだーいじなおともだち。』
アルファは近所の定春君といつも遊んでいた。楽しかった思い出。
『あ、あのさ、あーちゃん、君、あいうえおチョコレート好きだったよね。ぼく、君にチョコのプレゼントしたいんだ。お手紙も書いたよ。いいかな?・・・』
『あいうえおチョコ!!!うれしい、うれしい、ありがとう!』
アルファは早速袋を開けようとするが、定春君があわてて止める。
『まってまって、うちに帰ってからにしてよ。実はチョコでメッセージ作ったんだ。恥ずかしくて口ではちょっと言えないかなー、なんて。一つだけ小さい字になるからね。読んでみてね。ぼくの将来の夢だよ。』
そう言って定春君は走って帰っていった。アルファも早くチョコが食べたくて急いで家に帰った。
『チョコ、チョコっと。』
アルファは袋に手を入れてチョコを一つつまみ出し、歯で包み紙をくわえて引っぱって開き、そのまま口に放り込んだ。
『あ、メッセージになってたんだっけ。一つくらいなら大丈夫よね。』
アルファは袋から手紙を取り出し、残りのチョコも机に置いた。それから座って手紙を読んでみた。
『あーちゃんへ。いつもあそんでくれてありがとう。あーちゃんといっしょにいると、とてもたのしいです。ぼくにはゆめがあります。おおきくなったらふたりで「○○○○○○○」さだはるより。』
『わたしも楽しいよ。この最後の〇にチョコを並べるんだね。ひとつだけ小さい字になるって言ってたかな。』
『こ、し、う、つ、ん、よ、????ん~~。』
アルファはいろいろ並べてみた。
『こ、う、し、つ、よ。子牛が強くても意味ないな。まてよ、一つ食べちゃったんだ。もう一つは「す」かな。す、こ、し、う、つ、よ、ん。将来の夢が二人でうつなんておかしいね。小さい字にならないし。小さい字は「つ」しかないよね。食べちゃったのは「ね」かな。ね、こ、よ、う、し、っ、ん、変だね。あ、「ど」かな。てんてんつかないから「と」だけど。こ、し、つ、よ、う、ど、ん。わたし蕎麦派なんだけど。これもちがうな。まって、恥ずかしくて言えないって言ってたね。あれ、もしかして、これ・・・う、ん、こ、し、よ、っ。これー!?』
次の日、アルファは激怒して定春君を怒鳴りつけた。
『何あのメッセージ。「何が恥ずかしくて言えない」よ。ほんとに恥ずかしいわ。二度と口きいてやんないから。』
『ご、ごめん・・・』
それ以来アルファは定春君と絶交してしまった。そしてあいうえおチョコレートが大嫌いになり、あれから二度と食べていない。
「・・・あの一つだけ食べちゃったチョコ・・・。きっと・・・」
アルファは悲しい思いにとらわれていた。ラムネの先頭の文字が欠けているのを見てから、定春君のことが頭に浮かんでいた。
「定春君にひどいこと言っちゃったな。定春君、あんなこと言うはずないもんね・・・。」
「こんなところにいたの。」
いろはがアルファを見つけて声をかけてきた。
「あいうえおチョコを侮辱したことは赦してあげるわ。あなたらしくもない。何があったの?」
アルファがか細く聞いてきた。
「・・・ね、ねえ、あいうえおチョコ持ってる?」
いろはが怪訝そうに尋ねる。
「もちろん持ってるわ。プレミアムのですけど。あなた、大嫌いじゃなくて?」
アルファがうつむきながら話す。
「そうだったんだけど・・・。もしよかったら、ちょっと分けてくんないかな?」
いろはがさらに怪訝そうに答える。
「・・・どういう風の吹き回しか知らないけど、深刻そうね。・・・いいわ。どれだけ欲しいの?」
「7個欲しいんだ。」
いろはが答える。
「ナツメにはそれで通じるの?」
今度はアルファがびっくりして聞き返す。
「なんでナツメって・・・?」
いろはが説明する。
「全部聞いてたわよ。あなたたちに渡したタブレットはずっと通話中にしておいたの。指示を出しやすいようにね。あなた、ナツメを秒殺したからどうでもいいのかと思ってたけど。なんか落ち込んでるから、関係あるのかなと思ってね。」
いろははチョコの袋をアルファに渡し、アルファは袋から7個のチョコを選び出した。
「それじゃあ、わたしは行くわね。」
いろはは艦橋を出て行った。
「まったく、世話が焼けるわね。階段の上り下り、大変なんだから。この長い階段何往復させるのよ。ナツメはどこにいるのかしら。メトロイドとか言ってるかしら。」
いろはは艦橋を出ると、ナツメのタブレットに電話した。
ナツメはアルファが行きそうだと思った戦闘機の格納庫にいた。そこにはブラックタイガーと書かれた冷凍えびの空き箱がたくさん積んであった。そんなときにいろはから電話がかかって来た。
「今すぐ艦橋へ急行せよ。」
「え、なんだって。艦橋へ?とにかく行くか。」
ナツメは艦橋へ走って行った。
「やっとついた。は~は~。」
ナツメは100メートル以上の距離を、階段やらなにやらを通って全力で走って来た。中を覗くと戦斗隊長席にアルファが一人座っていた。彼女はまだ物思いに沈んでいた。
「あれ、こんなところにいたんだ。」
「・・・・・・」
アルファはうつむいたまま返事をしない。
「どうしたんだよ。っとそうだ、アルファ、空母の甲板見たか。すごいぞ!モビルスーツやらバルキリーやらレギオスまで載ってるんだ。見に行こうぜ!ガンタンクはなかったけどね。」
ナツメはアルファがここで思い切りつっこんで来ると思ったが、何もリアクションせずうつむいたままで黙っているので拍子抜けしてしまった。
「何か悩み事かい?」
そう言ってアルファの隣の航海長席に座る。彼女の前には何か包みが置いてあった。
ようやくアルファが口を開いた。
「・・・ねえ、これナツメに渡したいんだけど・・・。」
アルファが話してくれたので、ナツメは少しほっとした。
「なんだい?」
アルファが小さな声で話した。
「プレゼント。あいうえおチョコが入ってる。」
ナツメは驚く。
「え、いいの。嬉しいな。・・・え、今あいうえおチョコって言った?なんで?嫌いじゃなかったっけ?」
アルファが言葉を濁す。
「う、うん。そうだったけど・・・。・・・チョコがメッセージになってるの。組み替えて読んでくれないかな。一つ小さい字になるよ。一人で見てね。後で返事ちょうだいね。」
ナツメが答える。
「ああ、わかったよ。ありがとう。・・・空母に行かないかい?きっと気に入るよ。」
アルファはやはり乗り気でない。
「ううん。今はいい・・・。」
ナツメはアルファが来ないのでひどく残念だった。一人で行ってもつまらないなと思いながら部屋を出た。みんな自分たちのことを探しているかもしれないと思い、声掛けに行くことにした。
「ますます暑いな。それにしてもすごい人の数だ。みんなどこにいるかな?」
ナツメは機関砲の上に登って大和と空母の甲板を見回した。オキタとテルーは空母クルーの制服と違うのですぐわかる。
「ああ、あそこだ。お~い。」
ナツメが声をかけて、機関砲から降りてオキタとテルーのところに走っていった。めいめいが尋ねる。
「アルファは見つかったかい?」
ナツメは心配そうに答える。
「ああ、見つかったよ。でもなんか落ち込んでるんだ。この空母や甲板のメカのこと話しても乗って来ないし。」
テルーが同意する。
「そりゃ深刻だな。」
オキタが先刻の出来事を話した。
「アルファさんがいなくなる前、いろはさんと口論になりそうだったのですが、なぜか急にふさぎ込んで行ってしまったのです。」
ナツメが聞き返す。
「何について口論してたんだ?」
オキタが続ける。
「わたしが思わずヒエログリフチョコとあいうえおチョコを二流品扱いしたら、烈火のごとく二人は怒ったんです。怒りの矛先は最初はわたしだったんですが。直後に二人でけんかになるところで急にアルファさんがいなくなって・・・。」
ナツメが疑問を口にする。
「チョコがらみなのかな・・・彼女があいうえおチョコをくれたんだ。何か関係あるかも。」
テルーがあわてて口をはさむ。
「え、もしかしてチョコってその袋に入ってるのか?おいおい、この暑い中溶けちまうぞ。って溶けてるだろ、すでに。」
ナツメがしまったという顔をした。
「まずい!いや、味がまずいっていろはに勘違いされなかったか?大丈夫だな、彼女はいない。タブレットも通話中じゃないな。とにかく、大和の艦内に戻るよ。」
ナツメはあわてて大和に戻っていった。
「どこで袋を開けようか。う~ん。食堂に行ってみようかな。お腹もすいたから、ついでに何かないか見てみよう。」
ナツメは食堂に向かった。食堂に着いたとき、オムライスやカレーライスの表示札に気がついた。
「わ~。みんなで食べに来よう。って自分で作んなきゃなんないか。みんなもしかして、すきっ腹にラムネ飲んでるのかな?そりゃきついな。」
ナツメは食堂の席に座り机の上にチョコを出してみた。
「し、しまった~。溶けてる~!!!どうしよう、これ、彼女落ち込んでるってのに、こんなの知ったらとどめ刺しちゃうよ~。いや、刺されちゃうよ~。」
「何してるの、まったく。」
いろはがとがめながら食堂に入って来た。
「あいうえおチョコレートプレミアムに対するひどい侮辱よ。」
いろははナツメが暑い甲板に行く可能性があると思い、タブレットのGPSで行き先を見ていた。そしてチョコが溶けているだろうと見に来たのだった。
ナツメが泣きながらいろはに謝り、懇願する。
「ごめんよ。どうすればいい?これメッセージなんだよ。助けてくれよ。アルファが傷つくと思うと、気が変になりそうだよ。」
いろはがため息をつきながらチョコの大袋を取り出してきた。
「これ、あいうえおチョコレートプレミアムよ。彼女はここから七つの大罪、いやチョコを持っていったわ。」
ナツメがつっこむ。
「え、七武海がどうかした?」
いろはがやりとりがめんどくさくなってさっさと話を続ける。
「プレミアムはひらがなを一文字ずつコンプリートしているの。順番に並べて欠けているのが彼女が持っていったチョコになるわ。」
ナツメが大喜びしていろはに感謝を述べる。
「いろはは賢いな。」
「相変わらずシャアの真似?」
「いやいや、これは本音。とにかくありがとう。いろはは名探偵だよ。そのスカウター、追跡メガネじゃないの?気配りも抜群だね。君がすごいのは知ってたけど、改めて実感したよ。一緒に並べない?」
いろはは何か嫌な予感がするので、しばらくナツメの作業を見守ることにした。
「はいはい。さっさとアルファのメッセージを見つけなさいよ。」
二人は机の上にチョコを出し、五十音順に揃え始めた。ナツメはいろはと一緒に作業をすることになって、嬉しくてたまらなかった。アルファもいいけどいろはもいいなと勝手なことを考えた。それから、黙って作業をするのがもったいないと思ったので、いろいろ質問してみようと思った。
「なあ、いろは、好きな人っている?まあ、旅してたから、身近な独身の男はボクとシスコンのテルー以外はいなかったわけだけど。」
いろははジロリとナツメを見て答える。
「好きなのは『あなた』だと言ったら?」
ナツメは腰を抜かすほどびっくりした。
「え?そ、そうなの?そ、そ、それって・・・」
いろははまっすぐナツメを見つめている。
「あなたはどうなの?」
ナツメはいろはが何を考えているのか汲み取れず、焦り始めた。
『彼女はボクのことが好き?本当に?なんて返事したらいいんだろう。ボクが好きなのはアルファって答えたらいいんだろうか?でも思いっきり振られたし。なんかいろは優しいから吸い寄せられそうだし、どうしたもんかな・・・。いろはが好きって言ったらどうなるんだろう?二人とも好きとか言ったらだめだよなあ。あ~、こんな悩みって贅沢だな~。ボクは幸せ者だ~。ってアルファはメッセージをくれたんだ。まずはそれだよな~。いろはへの返事はそれから、なんて言ったら軽蔑されるよな~。』
いろはが厳しく言ってきた。
「何をニヤニヤしてるのよ。最初に質問してきたのはあなたで、わたしはそれに答えたでしょ。自分で吹っかけてきておいて、どういうつもりなのよ。」
ナツメはまた悩み始めた。
『そういえば黄泉平坂でのチョコバトルを思い出すな~。となると、これは心理戦。参ったな~。ボクの名前はデーツだよ。ダービーじゃないよ~。コールって言うの怖いよ~。おまけに溶けたチョコまであるじゃないか。ヒィィィィィィ、コインチョコになりたくないよ~。』
いろははかなり怒っている。
「答えろよ、質問はすでに・・・拷問に変わっているんだぜ!」
ナツメは思わず叫んでしまった。
「ボクをコインチョコにしないで~!助けて~!でもほっぺたはなめていいよ。」
いろはは呆れている。
「何わけのわからないこと言ってるの!困った人ね。会話にならないんだから。もういいわ。とにかくアルファのメッセージを確認してちょうだい。」
チョコを五十音順に並べたので、欠けている部分を見てみた。いろはがメモ用紙と鉛筆をくれたのでナツメはそこに書き出してみる。
「『う、け、こ、し、つ、よ、ん』だね。ん~、何かな~?一つ小さい字と言ってたから、それは『つ』か『よ』だよな。・・・・『けんこうよしっ』!これだね!完璧だ!」
いろはは呆れかえる。
「あのねえ、ナツメ、彼女これ渡すとき、どんな感じだった?」
ナツメは思い返してみる。
「ひどく落ち込んでるみたいだったよ。だからこれでいいんじゃない!」
いろはは正直放って置こうかと思った。
『こいつ人生で一番大事な機会を自分で潰してやがる。それとも、振られたのがショック過ぎて壊れてるのか。あ~、こいつを乗せるにはまた何かネタ振らなきゃならないのか~。』
「貴様、コインチョコになりてえようだな!」
ナツメは目を剥いた。
「イヤァァァァァ!なんで?これおかしいの?分かった、分かった、ごめんなさい。」
ナツメは焦りに焦った。焦ってあろうことかNGワードを作ってしまった。
「え~と、え~と、よし、これしかない。『うんこしよっけ』これだ!」
もちろんいろははブチ切れた。
「たった一つのシンプルな答えだ。てめえは俺を怒らせた!HP1まで削ってやる!!」
ナツメは椅子を跳ね飛ばして飛び上がり、部屋中を逃げ回る。
「わ~、ごめんなさい~。うひぃぃぃぃー!え~、何がいけないの~。これって結構嬉しいんだけど。」
この言葉がいろはの怒りを倍加させた。
「もしこれが正解なら、二人ともライフゲージを一生赤いままにしてやる。鼻毛抜いただけで死ぬぞ。」
ナツメは懇願する。
「ごめんなさいぃ~。赦して~。助けて~。分かんないよ。もう一つ、一番嬉しい言葉が出来るけど、それはあり得ないよ~。」
いろははその言葉で追いかけるのを止めた。
「じゃあ、それを書きなさいよ。」
ナツメはしぶしぶその言葉を書き出していろはに見せた。
「けっこんしよう」
いろははその紙を見つめて言った。
「それを持ってさっさと彼女に会いに行きなさいよ。」
ナツメはまだぐずっている。
「あ、あの~、さっき彼女に断られたとこなんだけど。これはやっぱりあり得ないと思うよ。」
いろはは月並みなことを言いたくないなと思いつつ、結局言うことにした。
「一度上手く行かなかったから、それで『はい、さようなら』というわけ?彼女は簡単に諦めていいような程度の女性だったのかな?『それでも好き!』って気持ちはあるの?背中を蹴飛ばす必要があるの?」
気持ちが落ち着いてきたナツメは、いろはに感謝しようと思った。
「いろはは優しいね。ありがとう。甘えたくなるよ。ゴロゴロしたくなる。でも依存しちゃ駄目だよね。アルファのところへ行ってくるよ。」
ナツメはそう言うと食堂を出て行った。『けっこんしよう』もしこれが本当なら天にも昇る気持ちなのだが、瞬殺の返事が尾を引いて勇気が出ない。でも行かなきゃと思い、艦橋へ向かった。
ナツメが悪戦苦闘していたころ、アルファは歎願していた。
「神様、もし出来るなら、人生やり直させてください。わたしは答えを間違ったけど、ナツメが正解してくれますように。定春君にも謝ります。トイレ掃除もちゃんとしますから。」
アルファは結局席から動けずにいた。
期待と不安が入り混じったナツメは、恐る恐る艦橋のドアに近づいた。
「アルファいるかな~。」
ナツメはそろ~っと艦橋を覗いた。アルファはじっと座っている。勇気を振り絞って隣に座る。
「あの~、アルファ、君がくれたメッセージってこれで合ってるかな?もしそうなら、ボクは嬉しくって天にも昇る気持ちだよ。」
ナツメはこわごわとメッセージを書いた紙をアルファに見せた。アルファはじっと一点を見つめている、と思ったら、彼女は眠っていた。定春君との楽しい日々の夢を見続けていた。
「ありゃりゃりゃ?!」
「なんだか眠いな・・・」
オキタは眠気を感じ始めた。彼だけでなく、ガニラス星人のみんなも同じくひどい眠気を催し始めたようだ。テルーはその場で倒れるように眠りこんでしまった。いろはは眠気と同時に極度の不安にかられた。
「こ、これは、まさか!」
いろははふらふらしながら食堂を出て甲板に向かった。甲板に出てその原因と思われるのを目にし、彼女は激しい恐怖に駆られた。大和の横にみるみる大きくなっていく木があった。
「あれはまさか、大魔王の木!この眠気は永遠のまどろみの始まりなの?」
いろははスカウターの数値を確認し、絶望的な気持ちになった。
「1億パワー!邪悪の神じゃない!なんてこと!空母のみんなは眠り始めてる。艦橋まではとても行けそうにないし。ここはナツメしかいないか。」
いろはナツメをタブレットでを呼び出すと、すぐに出てくれた。
「こちらはムスカ大佐だ。」
アルファはナツメがふざけて応対したのでかなり呆れた。
「大変よ!大魔王の木が生きてるのよ。みんな眠り始めてる。」
ナツメはようやく事の深刻さに気付いた。
「アルファが寝てるのはそういうことか!レクイエムが静かに奏でられてるのか!」
バタッと倒れる音がした。
「もしもし~、・・・お~い、お~い、いろは~・・・ごめんよ、また変なこと言ってしまった。これはいかんぞ。波動砲を撃つにも人が外に出てるし。一人でやるのも無理だよな。・・・そうだ!オキタのあの道具なら・・・。彼の所に行かなきゃ。」
ナツメは艦橋から空母の甲板を見て先ほどの所にオキタがいるのを確認した。艦橋から出るとエレベーターはなぜかちょうどこの階に上がって来て止まった。と思ったら、巨大な大根のお化けが乗っていた。
「大根だけど千両役者だぜ、あんた!」
ナツメは急いでエレベーターの大根の横に体を押し込み、レバーを操作してフリーフォールで落下させた。と大根が言った。
「エレベーターを急停止させるつもりだな、こんな風に。」
大根はブレーキレバーを蹴倒して急停止させた。
「なんだー。ワムウダイコンですかー?柱の男ですかー!?大黒柱ならぬ大根柱ですかー?」
ナツメはドアから転げ出て、大和の甲板から桟橋を渡って空母に乗り移る。オキタはすでに体を横たえている。
「オキタ。大変だ。」
「あ、ナツメ君・・・」
オキタはまだ眠りこんではいなかった。
「オキタ、起きた?」
オキタはがっくりとこうべを垂れた。
「ごめ~ん。つまんないこと言った。目を覚ましてくれ~!!」
「危ない真似をしないでくださいよ。」
オキタが体を起こし、レモネードのペットボトルを渡しながらナツメに告げる。
「よかった、ナツメ君は眠っていない。あなたが最後の希望のようです。あなたが眠らないのは、あなたの内なる非常に強い望みが永遠のまどろみに勝っているのでしょう。このペットボトルには赤い飴が溶かしてあります。これをあの木の根元に注ぎ、吸い取らせてください。」
そう言うとオキタもまた眠りに落ちてしまった。ナツメはペットボトルを受け取ると、再び大和の甲板に戻った。そして救助用の浮き輪の付いたロープを巨大樹のそばに垂らし、下に降りていった。
ナツメは巨大樹の根元に立つと、赤い液体を降り注いだ。
「ベルリンの赤い飴ー!!」
木に表情があったら、今の言葉で苦悶の表情を浮かべたに違いない。やがて大魔王の木はみるみる縮み始めた。地下奥深くに到達していた根も丸ごとなくなった。すると、どうやら船のみんなも目を覚ましたようだ。空母から大和の甲板に移動し、ナツメが見える場所まで来た。いろはもアルファもやって来た。
「お~い!」
ナツメはみんなに手を振った。しかし、みんなの顔は恐怖に引きつり、大声でナツメに呼び掛けている。
「早く逃げるんだ!大和に登るんだ!急げ!」
ナツメは怪訝そうにしたが、地面が沈み始めていることに気づいた。
「いかん!ロープのところに行かなきゃ。」
しかし、沈んでいく砂に足が取られてうまく進めない。おまけに巨大樹の根があった穴から水が噴き出し始めている。
「まずい、こりゃまずいぞ!南斗水鳥拳が封じられてしまった!ユダめー!!ってそんなこと言ってる場合じゃないか。」
船の上のクルーが別の浮き輪を投げてくれたが、届かない。助けに行こうにも今度は大和まで揺れ始めた。水の吹き出す速度は急激に増していき、ナツメは悲鳴をあげながら水に飲み込まれてしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁ・・・」
「ナツメ――――!!!!」
みんなの悲鳴とも絶叫ともいえる声が響いた。水かさは更に増し、同時に地面は急激に陥没し、3隻の船は沈み行く地面でグラグラしていたが、ついに水の上に浮き始めた。アルファが水面を見ながら泣き叫ぶ。
「ナツメが、ナツメが死んじゃう――・・・」
みんなはどうすることも出来ず、甲板で茫然とするしかなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。水の湧出は止まり、波も治まり、鏡のような湖面となった。澄んだ美しい水が白い砂浜を伴って、夢のオアシスのような景観を作りだしている。湖の大きさは1キロ四方にまで広がっていた。
テルーがアルファやいろはを慰めようと、話を切り出す。
「こういう時って、ヒーローは砂浜に倒れてて、美女の呼びかけに目を覚ますんじゃないかな。」
いろははそれに返事をせず、タブレットでナツメの位置を確認し始めた。
「10分以内に見つけられたら、蘇生術でなんとかなるでしょう。アルファ、あなた人工呼吸できるの?」
しかし、すぐにいろははタブレットの反応をいぶかしがった。
「動いているわ。そんなに遠くない。」
その時、アルファが湖面に何かを見つけた。
「何あれ?何か泳いでるよ。」
いろはが続ける。
「ナツメの位置を示す点は、あの泳いでいるものと同じです。どういうこと?」
アルファが素っ頓狂な声を上げる。
「カエルだ!巨大なカエルだよ!巨大な黒いカエル。あ、あれ!大和のエレベーターにぶつかって来た黒い奴だ!」
見ていると、その黒いカエルはこちらにやって来て大和の舷側に張りついた後、よじ登って来た。アルファが警戒する。
「あいつ、登って来るよ。何する気かな?でも、ナツメのタブレットをあいつが持ってるってことだよね?」
いろはが同意する。
「確かにそう。あの黒いのがナツメのタブレットを持っているのは確かよ。」
そうこうするうち、黒いカエルは甲板に到達し、アルファを見ると彼女に近づいてきた。
「アルファほしい~。アルファほしい~。」
「ナツメの声だ。」
ナツメの声でしゃべるカエルだが、アルファは気持ち悪くて後ずさりした。カエルはなおも接近する。
「アルファ、食いもんほしい~。」
テルーがみんなに尋ねる。
「誰か、苦い団子とか持ってないのか~?オキタ、どうなんだよ。」
オキタが申し訳なさそうに言う。
「今すぐには無理です。」
アルファがカエルに懇願する。
「わたしが欲しいって食べ物ほしいって・・・わたし何も持ってないよ・・・、あ、これ、どうかな・・・定春君にもらったあいうえおチョコ、まだ持ってたんだ。古いけどまだ食べれるかな?ていうか食べちゃ駄目だろうけど・・・」
アルファはブリードして変色した古いチョコをカエルの口の中にポイッと放った。チョコが放物線を描いて『う』『ん』『こ』の文字をアピールしながらカエルの口に吸いこまれる。
「うげげげげえぇぇぇぇぇ!!!!何食わしやがった!!!カエルのしょんべんよりもゲスなチョコか~!!!」
カエルはもがき苦しんで反吐を吐き出し始めた。すると『プッツーン』という音がした。
「おい、貴様今なんつった。何吐き出してやがる!覚悟はできてんだろうな、ナツメガエル!!大魔王が見せた最終奥義はあと一つ残っているんだ。そいつを喰らわしてやる。喰らえ、かぐやインフェルノ!!」
いろははブチ切れてカエルを放り投げたあと、カエルの背に乗ってサーフィンのように操り、煙突に激突させた。
「メメタァー。ぐあぁぁぁぁぁぁ。げぇぇぇぇぇぇ。」
カエルは苦悶の様子を見せて口からナツメを吐き出した後、何事も無かったかのように艦内へピョンピョン飛んでいった。アルファがナツメに駆けよる。
「ナツメ、怪我は無い?」
ナツメはフラフラしながらも立ち上がった。
「怪我は・・・これからするかも・・・、もしかしてオラオラですか――!!!」
ナツメの視線の先にはいろはがいた。彼女の目は怒りに燃えていた。
「あいうえおチョコへの侮辱、こんなもんじゃ怒りたりねえぜ!」
アルファがナツメの前に立っていろはに歎願する。
「ごめん。悪いのはわたしだから。袋のまま口に入れたし、古かったし、ほんとにごめん。」
いろはの怒りは収まりそうもない。
「もうてめーには何も言うことはねぇ、とても哀れすぎて何も言えねぇ。」
オキタが間に入ってくれた。
「いろはさん!アイウエオチョコのカタカナプレミアムを差し上げます。ここはこれに免じて・・・」
いろははなんとか怒りを鎮めてくれたようだ。
「ふんっ。ナツメ、アルファと話はすんだの?手間かかるんだから。」
そう言っていろはは二人に背を向けて去り、艦内に入っていった。オキタとテルーが彼女の後を追う。テルーが伝言する。
「俺たちは食堂にいるから、後で来なよ。ご飯を炊いておくよ。腹減ってたまらんから。」
ナツメはアルファの方をじっと見て話し始めた。
「あ、あの、艦橋にメッセージを置いてきてしまったんだけど、読んでくれたかな?あれで正解かな・・・?それと、一体何を悩んでたの?」
アルファはうつむき加減に聞いてきた。
「子供の頃のこと、考えてたんだ。わたし、チョコのメッセージもらったんだけど、間違っちゃって・・・。ひどく友達を傷つけちゃったんだ。ひどいことしたなって、後悔して・・・。でも、ナツメがわたしの間違いに気づかせてくれたんだ。ラムネの部屋ね。その間違いをカエルに変身して飲み込んでくれた気がして・・・。ナツメが助けてくれたんだって・・・。あのさ、ナツメが出した答え、こ、声に出して言ってくれるかな・・・」
ナツメは自転車で言った言葉をもう一度告げた。
「・・・・・君のパンツ・・・じゃなくて、けっこんしよう!」
アルファは笑顔で答えてくれた。
「うん。いいよ!」
ナツメは嬉しくて嬉しくて飛び回った。
「嬉しいな。嬉しいな。早く一緒に家に帰りたいな。早く一緒に住もうよ。後で空母のメカ見に行こうよ。お腹すいたから何か食べてからね。食堂に行こうか。食堂にもラムネが冷えてると思うよ。ああそうだ、エレベーターで大根のお化けに会ったよ。あの艦の中、いろんな奴がいるみたいだね。ステテコザウルスとかいるかもね。あの黒い奴は犯人役ではなかったみたいだね。あいつのおかげで助かったよ。食堂のメニューにオムライスとかカレーライスとかあったよ。」
ナツメはいつになく饒舌でバラバラな話をし続けたが、何か食べたいという欲求が勝って二人は食堂へ向かった。食堂へ着いて、ナツメは冷蔵庫の中を確認した。
「よしよし、結構な食材だ。みんな、何食べたい?カレーとオムライスは出来るよ。」
アルファが早速注文した。
「わたしカレーね。」
いろはも注文した。
「わたしオムカレー。」
アルファが注文しなおした。
「じゃ、わたしもそれ!」
ナツメが余計なことを言う。
「めずらしく意見が合うね。」
いろはがナツメの傍に来て耳打ちする。
「さっきの溶けたチョコ、カレーに入れたら。ちょうどいい隠し味になるんじゃない?」
ナツメは感心して言う。
「うまいこと言うね~。」
いろはが付け加える。
「ただし、カレーにイチゴチョコだけは入れないでね。カレーとイチゴがけんかしてひどい味になるから。」
ナツメがまた余計なことを言う。
「君たち二人みたいに、かな。」
いろはとアルファにすごい顔で睨まれて、ナツメはこそこそと厨房へ引っ込んだ。
「口が滑りました~。」
ご飯は炊飯中だったので、ナツメはみんなと談笑しながらカレーを作り始めた。テルーが疑問を投げかける。
「俺なんか速攻眠ってしまったのに、ナツメは何で寝なかったんだい?おかげで助かったわけだけど。」
オキタが解説する。
「みなさん、今を謳歌していますか。実際そうではない人が多いでしょう。多くの人はかつての日々を懐かしみます。『昔はよかった』や『あのころに戻りたい』など、思い出に浸ります。そしてその日が永遠に続くことを願います。その夢を永遠に見続けさせるのが、あの大魔王の魔術といえますね。
テルーさんはお姉さんと過ごした日々でしょうか。私なんかは結婚したてのころの楽しい日々でしょうか。アルファさんは子供の頃の思い出でしょうか。いろはさんはこの旅がずっと続いてくれれば、なんて思っていたでしょうか?幸福の思い出、栄光の思い出、充実の思い出など人によって様々です。人はそのような永遠のまどろみを欲しているのかもしれません。
ゲームのラスボスを倒してしまったら、推理ゲームで犯人を捕まえてしまったら、そのゲームを始めたときのワクワクしたモチベーションは無くなってしまうでしょう。ゲームを始めたときの気持ちが永遠に続けば、そのゲームを永遠にし続けられたら、つまり、ラスボスなどの目標がずっと存在し続けてくれたらと、人は願う者なのかもしれません。それが大魔王の言う『永遠のまどろみ』なのかもしれません。
それがナツメ君にかぎっては、勝手が違ったのですね。」
ナツメが自分の考えを述べる。
「永遠の望みねえ。子どもの姿になって名探偵を四半世紀続けたり、猫型ロボットと何十年も一緒に暮らしたり、幼稚園児を何十年も続けるっていうアレだよね。」
オキタが苦笑いを浮かべる。
「たとえにものすごい皮肉を感じますが・・・」
ナツメが続ける。
「でもねえ。この人たち、自分の願いを口にしてるんだよ。『早く元の姿に戻りたい』『歴史を捻じ曲げて別の人と結婚したい』『きれいなオネイサンとお付き合いしたい』って言ってるよ。でもみんながその日が来るのを願っているようで願ってなさそうだね。それが叶うって気がしないよ。」
テルーが大丈夫かよって顔をしている。
「皮肉がさらにひどくなったな。ナツメの心を占めてる願いってなんなんだよ。」
ナツメがギョッとなって言う。
「え、ちょ、ちょっと恥ずかしくて教えられないかな。」
みんなが口々に言う。
「なんだよそれ、教えられないってどういうことだよ。」
ナツメが恥ずかしそうに答える。
「小学校のころからの夢だよ。その時は意味がよく分からなくて深く考えてなかったけど、それがどんな望みよりも大きくなったよ。でも言うのは本当に恥ずかしいな。エンディングで教えてあげるよ。単にその文章が恥ずかしいんだ。簡単にいえば、ボクの願いというのは『結婚したい』『子供が欲しい』っていうことだよ。これは子供のままじゃ無理だし相手がいなかったら無理だし、結婚してないからその思い出もないし、今までのどんな楽しい思い出よりも、結婚してる未来の自分が楽しみなんだ。」
いろはが感心したように言う。
「結婚に二の足踏んだり、不安に駆られる人がいるのに、大した度胸ね。恐れがみじんもないわけ?まあ、結婚していろいろ問題起こすタイプでしょうけど。」
ナツメは自身を持って語っている。
「そうだね。ゾクゾクすっぞ!」
テルーがつっこむ。
「ワクワクじゃないのかよ?」
ナツメがしれっと答える。
「そうとも言うかな。でもゾクゾクでいいんだ。胸のあたりがゾワゾワするから。」
オキタがナツメに感謝を述べる。
「その願いによって世界は救われたんですね。真の勇者ですね。」
意外なことに、ナツメはそれに反論した。
「勇者って、実はボク、全然尊敬してないんだ。なりたくもないぞ。お姫様の棺桶引きずってオカマにぱふぱふしてもらったり、父親に蘇生呪文かけてあげなかったり、その父親をモンスターカジノで戦わせたりしてるし、人の家に勝手に入って物色したりしてるからね。猫型ロボットに結婚相手変更させた黒歴史と同じくらい面喰ってるんだ。」
アルファが呆れてつっこむ。
「ナツメの皮肉の方が面喰うぞ。」
「お楽しみのところ、失礼するよ。」
ルートベアとカオルがやって来た。
「いいにおいがするもので、引き寄せられてしまったよ。」
ナツメが作業しながら言う。
「あなたたちの分も用意しますよ。ここの炊飯器、六斗炊きだよ。こんなの初めて見たよ。カレーライス、オムライス、オムカレーができます。麦ご飯にお味噌汁と漬物という純和食もありますよ。」
やがて調理が終わり、めいめいが好きなものを食べた。ナツメはカレーライスを食べたが、アルファに問いただされた。
「ナツメはオムカレーにしないの?」
ナツメは持論を展開する。
「カレーに卵って合わないよ。同じくカツカレーも好きじゃない。カツはカツ、カレーはカレーで食べるべき。バナナケーキもそう。バナナはバナナ、ケーキはケーキで食べるべき。パンにご飯はさんで食べないだろ。それと同じ。でも焼きそばにご飯は合うね。ボクはばっかり食べが好きなんだ。三角食べが嫌い。給食でおかずを口に入れてご飯を食べ、牛乳を飲むっていうの、幕の内にミルクティーみたいに気持ち悪いど。ああ、そうだ、カレー味のラムネもあるらしいよ。」
ナツメの支離滅裂ぶりにみんな呆れている。しかし、アルファはナツメが非常に元気なのを不思議に思って聞いてみた。
「ナツメ、なんかバリバリ元気だね。」
ナツメはもちろんとばかりに言う。
「当たり前じゃないか。アルファと一緒になれるんだ。これ以上ゾクゾクすること無いぞ。」
アルファはそれだけじゃないと感じていた。
「そうかな?顔色もいいよ。疲れてるはずだし、水に沈んだし、インフェルノも喰らったし。」
ここでカオルが話に入って来た。
「それはきっとこの水のおかげですよ。太古の清らかな水が体を活性化させたのでしょう。みなさんもいただいたらいいと思います。」
アルファがいいアイデアを思いついた。
「じゃあ、この水でラムネ作ったらいいね。すっごい売れるよ。『大和ラムネ』ってね。」
オキタが残念そうに言う。
「大和ラムネってすでに売ってるんですよね。でもこの水で作ったラムネは絶品でしょうね。いいアイデアです。これで商売できそうですよ。設備も既にありますし。」
オキタは食事しながら、ルートベアとカオルを交えて話し合いを始めた。ルートベアが提案する。
「我々はここに移住しようと思う。この水があれば、砂漠も緑化できそうだ。しかし、緑化したらしたで、それを奪いにくる者共がいるだろう。防衛力の強化が必要だ。そこでだ。君たちのこの船を買い取らせてくれないか。」
オキタは助かったという顔で答える。
「それはありがたい。どうやって支払いをしようかと思っていたので。ラムネの販売と大和ホテルを始めようかと思っていたところです。」
カオルが聞いてきた。
「どこからいくらで購入したのですか?」
「これが明細書です。」
オキタはタブレットの明細書をカオルに見せた。
「あら、これ、ガニラス星からの購入ですね。」
ルートベアが驚きの声を上げる。
「そうなのか。それなら話は早いではないか。カオル君、ジェネリック・ヤマトのカード払いを国庫から支払い済みに出来るかな?」
「はい。すぐに。」
カオルはタブレットでオキタのカード払いを済みにしておいた。オキタが感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます。ローン地獄は大魔王より恐ろしいものですからね。8000億円のローンなんて、30年ローンの元本だけで1か月22億円以上ですよ。ラムネ1日100万本売っても足りないでしょうね。イチローがヒャクローくらいにならないと払えませんよ。助かります。」
カオルが更に提案する。
「ほかにも支払いがあるようでしたら合算してしまいますし、多少割増してもらっても構いませんよ。」
オキタが自分の考えを述べる。
「それには及びません。それって粉飾決算みたいなものですからね。ズルをしたらその分支払いは必ず別の形でやってきますよ。私は雲助ではありませんから。」
アルファが尋ねる。
「雲助って何?」
オキタが説明する。
「昔、川に橋がなかった時代、人を台に乗せたり背におぶったりして川を渡らせる仕事がありました。近所の人なら相場も知っているのですが、遠くから来た人はそれが分かりませんので、法外な金額を要求されてしまいます。服が濡れるのを避けたい女性も高い金銭を要求されました。
遠くから来た人を見分ける方法は、履いている草履のすり減り具合です。そこから人の弱みを利用する卑怯さを示す言葉として、『人の足元を見る』という言葉が生まれ、その者たちを雲助といいました。女性は女性であるというだけで足元を見られたわけですね。
遠くから聖地巡礼に来る人、つまり履物がすり減っている人は、聖地で流通する金銭を持っておらず、言葉も分からない人が多いです。彼らの所持金を不当なレートで両替する両替商や、儀式で必須のささげ物を高額で売りつける商売人が、更に古いルーツとなります。
私はそのようなことはしません。断じて。まあ、その結果、商人として三流と言われますがね。おかげで妻は『理想論はいいけど、どうやって生活していくのよ』って出て行かれたわけですが。」
ナツメがオキタを気遣う。
「オキタも大変だね。世界を救った商人なのに。とっとと国へ帰ろうよ。もう一回奥さんとやり直せたらいいね。ボクも早く帰ってアルファと籍入れたいし。頭の中それでいっぱいだよ。ああ、そうだ忘れてた。水に沈んでいる間、こんなの握ってたんだ。」
ナツメはポケットから、棗のようなしわのある楕円形のものを取り出した。カオルが驚きの声を上げる。
「これ、宇宙樹の種ですよ。ナツメさん、これ、ここに植えさせていただけませんか?ここの水ならきっと素晴らしい木になりますわ。その実はとってもおいしいですよ。実が生ったらぜひ食べに来てください。」
ナツメは少し種を観察してからカオルに渡した。
「じゃあ、お願いしますよ。悪意に染まらない世の中にして行かないとね。実が生るのが楽しみだ。」
「この宇宙空母は信濃改ブルーノア、あちらの宇宙戦艦は武蔵改アラハバキです。」
食事も終わり、ガニラス人の艦船を見学することになり、カオルが案内してくれる。ナツメが一人で盛り上がる。
「おお~!!ジェネリック・ヤマトを加えて連合艦隊集結だ~!!!あのオート三輪は自転車からレベルアップしたんだなあ。武蔵屋旅館にも泊まってみたいね。門客人なんていうね。それぞれ何か妖怪がいるのかな?大和は大根のお化けがいたから大黒様かな?ビックリマンチョコのジョーダンシールの『だいこんくうさま』なんてね。そういやあのシール、『児童販売機』や『茹でた孫』なんていう、炎上必至のやつもあったなあ。信濃はものぐさ太郎かな?あ、これ妖怪じゃないや。山に登った河童の山童だな。武蔵は手長足長だね。どれもこれも座敷童っぽいね。すごい悩んでる時なんかに、大根や黒い奴みたいに、いろいろしゃれた助けをしてくれるんだろうな。黒いのは海坊主かもね。アルファも元気になってくれたし。結婚してくれるし。オキタ、ブルーノアの歌、歌ってよ。ガニラス人は楽団あるからばっちりだよ。」
ナツメは盛り上がってはいたものの、頭の中はアルファとベタベタすることばかりが占めている。目の前のスーパーメカよりも、どんな夢物語よりも、アルファと一緒になることを楽しみにしていた。
オキタがいろはと静かに話している。
「いろはさん、いいんですか?キューピッド役なんか引き受けて。」
いろはが聞きなおす。
「何のこと?」
オキタが突っ込んで聞いてきた。
「ナツメ君に好意をいだいてたんじゃないんですか?アルファさんが元気になったのも、あなたのヘルプがあったんでしょう?ナツメ君にかけたあのインフェルノって技、かけられてる相手の協力がなければ決められなかったはずです。いうなれば、ナツメ君はわざと煙突にぶつかったわけで。ナツメ君、あなたを好きになることも、いや、彼の言い方にならえば奥さんにしたがることもあり得たと思うんですけど。」
いろははナツメが女性とまともな会話が出来そうにないことや、コートシップという概念がなさそうなことに、合わせるのがめんどくさいというあきらめがあった。
「まず好きとか付き合ってって言わずに、いきなりパンツ洗ってなんて、そんな変態ちょっとってなるわよ。言ってみたのよ、『あなたが好き』みたいなこと。『じゃあ、パンツ洗わして』なんて言われたらどうしようかと思ったわ。でも、何か勘違いして『コインチョコにしないで~』ってわめくし、おまけにアルファがくれたメッセージに最悪の回答出してたし。付き合いきれないって思ったわ。アルファはそれで構わない性格なんでしょうけど。」
「ナツメ君はあなたに感謝してるでしょうね。結婚したくなるくらいに。また黒いお化けや大根のお化けにも感謝してるでしょうね。」
「わたしをお化けと同列にしないでよ。・・・お化けといえば、クニ国へ旅する間、夜中に『ショキショキ』って川の方から音が聞こえてきたのよ。小豆洗いって妖怪がいるんだろうかと思ったわ。小豆洗いは姿を見たものを殺すなんて聞いてたけど、旅先でいつも同じ音がするから変だなと思って、ある晩音がする方へ行ってみたの。」
「・・・それで何か見たんですか?」
「ええ、ナツメが川で何か洗ってるような音だった。暗くてよく見えなかったけど、夜中に一体何をしてたのかしら。」
「本人に聞いてみたのですか?」
「いいえ、何か見られたら困るなって感じだったから、まだ聞けてないわ。」
オキタにしてはめずらしく、いたずら顔でいろはに提案する。
「アルファさんに聞いてもらいましょうか。ちょっと二人の反応を見てみたいです。ナツメ君は『小豆洗いの真似』なんて言うかもしれませんよ。ナツメ君がお化けネタで焦る姿は見ものでしょうに。」
「お化けは偉いんだぞ。」
ナツメが話に入って来た。いろはが焦る。
「どこから聞いてたの!」
「え?お化けってとこから。あの大魔王なんかは人の悪意が作りだしたものだろうね。けど、お化けは神様だからね。いろはも神様みたいな人だね。同列でいいんじゃない?ボストトーロとも遊んでたし。」
いろははこの旅が楽しかった。ずっと続いてほしいと思っていた。ナツメのへんてこな会話に合わせていろいろ調べものもしてみた。何が面白いんだろうと思いつつも、ナツメとアルファが笑っているのを見て、自分も楽しんでいた。
二人はこれからも楽しく過ごすんだろうか。自分にはそういう楽しいパートナーがいてくれるのだろうか。ナツメがもし『結婚して』と言ってきたら、自分は『はい』と言っただろうか。断っても断っても、ナツメが『いいえ』で無限ループするネタを披露する情景が浮かんできた。
ガニラス人がオーケストラを用意してくれたので、オキタはブルーノアの歌を唄った。
♪青く輝く海原越えて 旅立ちの時は来た ブルーノア
巨大な波を蹴立てて 海底(うなぞこ)深く進んで
遙かに望む 大いなる海
ブルーノア 俺たちの使命は重い
ブルーノア お前の力を信じる
この地球に 再び 安らぎを ブルーノア
緑豊かな地球をきっと 取り戻す俺たちは ブルーノア
待ってて欲しいみんなよ 静かな夜明け必ず
迎える時を 約束しよう
ブルーノア 俺たちの命は燃える
ブルーノア お前の力を信じる
この地球に 再び 安らぎを ブルーノア
ブルーノア 俺たちの使命は重い
ブルーノア お前の力を信じる
この地球に 再び 安らぎを ブルーノア
一行は休息を楽しんだ後、ヲニ国に帰ることにした。宇宙空母であっという間にヲノ国の近海まで飛び、着水した。そこから小舟で岸に着いたが、空母よりも小舟に乗っている時間の方が長かった。それから陸上を歩いて1か月で女王の待つ城へ到着する。オキタが笑いながら言う。
「画面の上じゃ、山を一歩で越えてますがね。その一歩が一日ってところでしょうか。正直、スライムだけでレベルアップしようと右左にちょこちょこカニ歩きしてれば、何万年も経っていることになりそうですね。
ああそうです。人類は月に行くより隣の家をノックしに行く方が難しい場合がありますね。」
ナツメが答える。
「一歩が一日なら、伝説の勇者の鎧ってけちだよな。一日でHP1しか回復しない計算になるよ。でもあの国ですごい奴がいるぞ。鍵作ってる人だ。その鍵、一回使うと壊れてしまうんだよ。そんなのどうやって作るんだ?とんでもない技術力だよ。波動砲も真っ青だ。
そうだ、年が経つっていう設定、ウィザードリィにはあるぞ。宿に泊まると日付が進むんだよ。桃太郎伝説も年取るぞ。
そういやモンスターを倒せばお金が手に入るっていう設定、すげえよな。モンスターは買い物するんだろうか。そうじゃなきゃお金持ってる説明つかないよな。そのお金ってラスボスが給料で払ってんだろうか?だとすると、モンスターってサラリーマンだよな。給料は手渡しだよな。銀行振り込みってわけにいかないし。スライムなんか財布持ってるようには見えないね。
そもそもラスボスは造幣局とつながりありそうだな。モンスター持ってるお金をそのまま店で使えるもんな。財務省はラスボスと持ちつ持たれつっていうわけだ。ていうか、ラスボスは財務省そのものだよな。」
みんなはナツメのきままな妄想に付き合いながらヲニ国の首府を目指した。アルファはナツメがベタベタくっついてくるので一緒に歩くのを嫌がり、『離れて』と言ってもナツメが言うことを聞かないのでうんざりしていた。
「もう、うっとうしいな。またカエルになっていろはに技かけられればいいのに!」
と怒鳴りつけると、あの黒いのが現れた。そしてナツメをパクッと飲み込んでしまった。
「あんがと、しばらくそれでついて来てくれる?」
アルファはいろはと連れ立って歩くことにした。ナツメを飲み込んで再びカエルになった黒いのは、いろはの射程距離に入らないように気をつけながら同行した。
「ふう、助かった。みんなの前だってのに、デレデレベタベタしていやんなっちゃう。」
いろはが少し不思議がる。
「このカエル、何かこの前と少し違うわ。」
するとカエルになったナツメがうんちくを混ぜて語り始めた。
「前のはモリアオガエルタイプだよ。吸盤があるから船体をよじ登れたんだ。これはヒキガエルタイプだよ。ガマって言うけどね。カエルはフロッグ、ヒキガエルはトードだから、意味合いが変わるね。カエルは水を泳いでピョンピョン飛ぶけど、ガマはあまり飛ばずに歩くし水にも入らないんだ。ガマが水に入るのは卵を産む時だね。ちなみにカエルやガマの産卵は交尾じゃなくて包接っていうんだよ。」
言われて気がついたが、ガマは確かに飛ばずに歩いている。ガマが提言してきた。
「ボクが荷物を持とうか?それともアルファ、君を乗せてあげようか?いろはでもいいよ。」
アルファはイボイボのガマの背中に乗りたいと思わなかったが、いろははピョンっとガマの上に飛び乗った。
「揺れるけど、まあ、しばらく休ませてもらおっと。」
ガマは結構タフなようだ。嬉しそうに、といってもガマなので表情はないのだが、喜んでいろはを運んでいる。結局アルファも乗りたくなってきた。
「後で代わってね。」
ガマは喜んでアルファも乗せて歩いた。
「疲れないの?重くないの?」
ガマはのんきに答えている。
「楽しいよ。女の子乗せてるからね。男はそんなもんだ。」
いろはが疑問を呈した。
「しかし、なんでカエルなんかに変わるわけ?」
ガマは白黒のチェック模様のシルクハットを頭に乗せて語りだした。
「カエルは座ったままの姿勢でジャンプが出来るからね。」
アルファがまたかという顔をする。
「それが言いたかっただけってこと?」
ガマは二人を代わる代わる乗せて三日間歩いた。しかし、ガマのままで何も食べずにいたので弱ってあえなくつぶれてしまい、ガマはナツメを吐き出した。黒いのはまたどこかへ去って行った。アルファが這いつくばったナツメをのぞき込む。
「もう、ちょっと大丈夫なの?」
「え、ボクっていい男なの?」
顔をあげてナツメが妙なことを聞いてきた。アルファが変な顔をして聞いた。
「体は何ともないかって聞いてるの。いい男って何よ。」
「大丈夫っていい男って意味だというよ。」
「ややこしいから中国語の講座はしなくていいよ。歩けるの?」
「ああ、いい男だからね。」
「だからややこしいっての。」
「はい、どうぞ。」
ナツメがアルファの前で兩手を差し出す。
「何?」
「抱っこしてあげるよ。」
「・・・・・」
アルファはガマに乗っていたので、ナツメの抱っこがまともなものに思えた。黙って躊躇しているといろはが名乗り出た。
「あなたが嫌ならわたしがしてもらうかな。」
「う~・・・何この展開。分かったわよ。はい。抱っこしてちょうだい。」
アルファはしぶしぶナツメにお姫様抱っこをしてもらった。ナツメは大喜びで歩いていく。ナツメの元気さにテルーが感心する。
「しかしナツメはタフだな~。ガマの間の何も食べてなかったぞ。その分食料が節約できてよかったけど。」
オキタがテルーに聞いてみる。
「テルーさんはいろはさんを抱っこしたらどうですか?」
テルーが参ったを言う。
「体力的に無理だよ~。こっちが手を貸してほしいくらい。ガマに乗りたかったよ~。」
アルファは首と腕がしんどくなってきた。
『ローラ姫はこれで毒の沼とか進んだんだよな~。しかもあの勇者、鎧とか着てたよね。ごつごつして痛くなかったのかねえ。そういや牢屋の前にドラゴンがいたよな~。糞とか息とか臭かっただろうな~。彼女モンスター並みに強いんじゃないかな。
しかも「王女の愛」で勇者の経験値や現在位置まで把握してたぞ。いろはみたいにスカウターでも着けてたのかな。それとも浮気防止のGPSなんか付けてたかも。スカウターじゃなくてストーカーだよ。あの女一体何者なんだよ。
抱っこされたまま竜王のとこまで行く場合、あのピシッ、ピシッていうバリアどうしたんだ?そのまま竜王倒して王様のところに帰ったら、階段のところに瞬間移動したよな。ローラ姫はヤードラット星人かな?それともザ・ハンドでも使えるのかな?そしたら王様、ローラ姫が連れてかれた時、「オロロ~ン」って泣くんだろうな。
そういやローラ姫、自分を連れてってくれってせがんで、「いいえ」を無限拒否して強制的に勇者に「はい」って言わすんだよな。究極の諦めない女だよ。レジェンドとかキング・ローラと言おうか。男はそういう女でも、美人とかかわいかったら嬉しいんだろか?
そういや、「王女の愛」使ったとき、「おしたいしていますわ、ぽっ」なんて言ってたかな?正直「ぽっ」じゃなくて「ゴゴゴゴゴゴ」とか「ドドドドドド」それとも「ドッギャーン」だよな。』
ローラ姫のことを考えていて、アルファは嫌な予感がした。
『ナツメの奴、まさか・・・』
アルファにとっては救いのタイミングで、オキタがみんなに声をかけた。
「みなさん休憩しましょう。これが最後の休憩です。王宮はすぐそこですから、もうひと踏ん張りです。」
残りの食糧をふんだんに食べ、みんな十分に満たされた。ナツメも満足そうだ。
「いや~。ずっと断食だったし、アルファやいろはを運んで体が心地よく疲れているから、食べ物がおいしいねえ。今から行けば、日が高いうちにゴールできそうだね。いい天気で良かった。みんなお疲れさんだ。」
アルファは抱っこはもう嫌だとナツメに言った。
「もう自分で歩くからね。首が痛くなったよ。」
ナツメは心底残念そうにした。
「え~!?もうちょっとなのに~。」
アルファは頑なに拒んだ。
「嫌なものは嫌なの。その手には乗らないんだから・・・」
アルファはいろはに小豆洗いの話を聞いていたので、かまをかけてみた。
「じゃあ、わたしの質問に答えたらおんぶでもだっこでもさせてあげるわよ。あのさ、あなた、夜中に川で何か洗ってたよね?何洗ってたの?」
「え!?見てたの!いや~、妖怪小豆洗いの真似してたかな~・・・幽霊の正体見たりナツメ君、なんてね。」
「・・・ほんとに小豆洗いって答えやがった・・・じゃあ、その小豆洗いになる前に、どんな夢見てたか言ってみろ。」
「派手なおかっぱ頭と、チョコ好きの髪の長い女のお化けが出て来る怖いくらい○○な夢かな・・・」
「それでどうなったの。」
「お漏らししちゃったかな・・・」
「放送コードギリギリのごまかししやがって・・・」
そこでいろはが質問を加えた。
「それはそうと、気が付いたことがある。夜中にパンツ洗った奴は、鼻の頭に血管が浮き出る。」
「うそだろ、いろは。」
「ああ、嘘だぜ、だが、間抜けは見つかったようだな。って男三人みんな触ってるのかよ!アルファまで触ってるじゃない!」
「ああ、そうか!クニ国の牢屋だ!あそこには鉄格子があったもんな。」
「てめーは黙ってろ!」
一行は耕作地を通り、街並みを眺めながら王宮へたどり着いた。門番がオキタの姿を確認する。
「みなさん、おかえりなさいませ。ヒミコ様にお伝えしてまいります。待合室でしばらくお休みください。」
そう言って門番は各所へ報告へ行った。ヒミコはすぐに会うとのことで、一行は体を浄めて身なりを整えた。そんなこんなでヲニ国のヒミコの王宮までの旅が終わった。
一行はヒミコの前に横一列に並んだ。
「皆の者、ご苦労であった。礼を言うぞ。まずはオキタ、そなたから報告を聞こうか。」
ヒミコの問いかけにオキタが今までの経緯を説明した。
「大魔王の正体は人間の悪意と怠惰が生み出した、狂気の宇宙樹でした。この巨大樹は人々を永遠のまどろみに陥らせ、養分を吸い取って全人類を死滅させようとしていました。我々というよりナツメ君がですが、これを粉砕することに成功しました。
しかし、人々の悪意が満ちる時、またこの大魔王は姿を現すかもしれません。」
ヒミコは満足そうにほほえみを浮かべた。オキタは続けてヒミコに尋ねる。
「ところで、ヒミコ様、あなた神龍ですね。」
みんなが驚愕する。
「どういうこと?!」
いろはがスカウターの数値を述べる。
「スカウターの上限値は1億(99999999)ですが、FF2のように『あ9999999』となっているので、1億は軽く超えています。」
オキタが納得する。
「やはりスカウターの故障ではなかったのですね。私が初めてヒミコ様を見たとき、その数値はあり得ないと思いましたからね。」
ナツメが騒ぎ立てる。
「それってラスボス後の裏ボスってこと?!ヒミコ様の正体はヤマタノオロチじゃなかったっけ?ヤマタといいながら5本しか首ない奴。カンダタ仮面倒した奴。」
アルファが訂正を入れる。
「カンダタ仮面って言わないであげてよ。たまにオルテガが勝つこともあるみたいだよ。オルテガ倒したのはヤマタノオロチじゃなくてキング・クリムゾン。オープニングの妙な心理テストなんかにメモリ使わずに、オルテガのビジュアル何とかするべきだったとは思うけどね。」
ナツメが再度つっこむ。
「今キング・クリムゾンって言った?カンダタ仮面の正体はポルナレフってわけ?」
ヒミコが笑う。
「おっほっほっほっほ。元気なお仲間です事。そうですよ。わらわは神龍です。ただし、ラスボスでも裏ボスでもありませんよ。」
オキタが尋ねる。
「世界は滅びかけました。こんな危ない任務、なぜあなたご自身で行われなかったのですか?そのほうが確実に世界を救えたのではないですか?我々のような非力な人間に任せるのは危険ではないですか。」
ヒミコはほほえみながら話を続ける。
「ふふふふ。わらわが何もかもやってよかったのかの?確かにわらわがやれば事は簡単に済んだじゃろうの。いくつかたとえを出そうかの。わらわがやれば物事はすべて過去形で語られることになるぞよ。何もかも済んでしまっているのじゃからの。誰かわらわの問いに答えよ。まず一つ目。『海賊王に俺はなった。』」
ナツメが早速反応する。
「わ~い。ワンピース第一話が最終回だ!初回拡大最終回スペシャルになっちゃうな~。」
「では、二つ目。『このジョルノ・ジョバァーナには正しいと信じる夢があった。』」
アルファが答える。
「なにそれ、そんな諦めた奴、ブチャラティ仲間にしないぜ。ほんとに何言ってんだおめーだよ。」
「三つ目。『クリリンのことだった。』」
ナツメがつっこむ。
「それでスーパーサイヤ人になれるんなら、ベジータも苦労しないぜ。」
「まだまだ行きますよ。『禰豆子、鬼になっちゃった』」
アルファが同じつっこみを入れる。
「また第一話最終回だよ。しかもまったく救いがない~。ラーテルになった方がましだ。」
「『だが、断った。』」
「え~、ハイウェイ・スターはどこ行ったの?もしかして岸部露伴、トンネルの部屋でずっと待ちぼうけ?」
「『この岸部露伴をなめたな。』」
「なめたのきっとブチャラティだよ。『岸部露伴、お前は嘘をついていた』何これ?」
「『ボールはトモダチだった』」
「うっそ~、翼第一話で引退~?」
「『逃げちゃダメだった。逃げちゃダメだった。逃げちゃダメだった。』」
「逃げちゃったんだ・・・。」
「『一匹残らず駆逐してやった。』」
「エレン初めから無双じゃねえか。」
「『俺は火影になったてばよ。』」
「ナルトって読み切りだっけ?ダイダラ追いかけるだけで地球一周してたように思うけど。長い谷だったな~」
「『穴があったから入った。』」
「え~?煉獄さん壊れた~。」
「『この空条承太郎はいわゆる不良のレッテルを貼られていた。』」
「え?なんか承太郎さん、人間丸くなってない?」
「『夢は終わった』」
「え~、ワンピース最終回二回目?。伏線回収せずに終了~?!」
「いい加減終わろうかの。『てめーは俺を怒らせた!』」
「あの~、それはそのままでいいんですけど・・・」
ヒミコが締めくくる。
「どうじゃ?何もかも、誰かが、つまり神が人のやることを先にやってしまったら、楽しいかの?神が災禍をすべて取除いた方がいいかの。人の間違った行いを強制終了させる、あるいは初めからさせないことがよいかの。そういうシステムを構想する人間は後を絶たぬ。人が罪を犯す前に、間違う前に、精神的に物理的に介入して止めさせる装置を思いつくのじゃ。
人は失敗することを恐れる。失敗したくないために、始めから何もせず、成功した夢だけを見ようとするのじゃろう。
そして世の中平穏無事で問題や争いが全くなくなるのじゃ。最終的には空想の世界のみの『永遠のまどろみ』に至るのじゃ。
そこまでではなくとも、世界を自分の思い通りの形にしようとしたのは、テルー、いや照彦、そなたじゃの。」
みんながテルーの方を見る。
「何~?どういうこと?」
テルーが身の上話を始める。
「俺はいつも姉の話をしてただろ。その姉ってのはヒミコなんだよ。俺は姉を超えて自分を認めてもらおうと思っていた。そこでまずはクニ国を乗っ取り、打ち出の小づち、浮鯛抄、十六花弁菊花紋木札を使い、この国すべてを支配しようと考えたんだ。民がみんな平等で生きられるようにな。平等と言っても配給制みたいなもので、自由は全くないんだがな。結局大魔王の影響を受けて堕落してしまったが。そして姉をも自分の手中に収めようとした。
それでも、自分の中のヘタレがそれにブレーキをかけていたんだ。ヘタレはいつも俺の野望を邪魔していた。キングオリハルコンスライムを倒したドラゴンは俺自身、ドラゴンを倒したのも俺、藤原不比等も俺、そもそもクニ国の王ビャッコは俺。残ったヘタレが本物の俺。」
アルファがこき下ろす。
「なんだ、ヘタレの前はくそったれかよ。」
ナツメが変に納得する。
「そうか!うんこした後やたら屁が出るのはテルーがルーツだったんだ!」
テルーが嘆く。
「あんまりだ~・・・」
オキタが理解を深めた表情で話す。
「なるほど、クニ国の王はあなただったのですね。あの国は男が犬で女が人だという言い伝えがあります。雄犬は子犬を作るだけで後は知らんぷりするように、あの国の男は外面がよく、欲深で狡猾ですが、家族を全く大事にしない性癖があります。危ない真似をしましたね。この世はヘタレに救われたわけです。」
ナツメが尋ねる。
「テルーの名前、照彦って言った?」
テルーが答えた。
「俺の名はアマテルクニテルヒコヒコホアカリクシミカダマニギハヤヒ、略して照彦、テルーだ。」
アルファが驚く。
「何それ、どっかの女の子がはまった川の名前ですか~?」
ナツメが別の意味で驚いた。
「それって浦島太郎じゃん。髪の毛白いのはそういうわけ?もしかしてヒミコ様の名前も長いわけ?」
ヒミコが自分の名を名乗った。
「わらわの名はアマテルヲニテルトトヒモモソヒメヒメホアカリクシミカダマナガスネトミヤスタチバナオトヒメ、略してヒミコじゃ。」
一同驚く。
「もっと長くなった上に無理矢理縮めてる~!」
ナツメが付け加える。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなんてのもあるぞ。」
アルファがそれは言わないでという感じだ。
「わざわざ言わんでいい。」
テルーが説明を続ける。
「姉さんは乙姫でもあるんだ。さっきの三つの宝物は玉手箱に入っていて、それを持ち出したんだ。姉さん、これ返すよ。ほんとにごめん。」
ヒミコはテルーから玉手箱を受け取ると、ナツメに向かって語りかけた。
「ナツメよ、今回の働き、心から礼を言うぞ。どうじゃ、ナツメ、わらわはそなたを好きじゃ。わらわを忘れないために、この玉手箱を授けるぞ。」
ナツメは蒼白になった。
「ふぎゃ~!!また心理戦ですか~!?だからボクはダービーじゃないよ。玉手箱って開けたら煙が出て爺さんになるんでしょ。箱の中身はザ・グレイトフル・デッドですか~!ヒミコ様はプロシュートの姉貴だったんだ。だからさっき過去形のたとえばかりしゃべってたんだ。テルーはマンモーニだったんだ。浦島太郎が釣竿持ってるのそういうこと~?最後は『ぶっ殺した』で終わるの~?!助けて~!誰か氷持ってきて~!!」
ヒミコは笑っている。
「面白い男よのう。とまあ、玉手箱はオキタ、そなたが受け取ってくれるのう?」
いろはが質問する。
「あの、玉手箱の中に入ってる打ち出の小づちと浮鯛抄に十六花弁菊花紋木札って何?打ち出の小づちって、背が伸びたり、お米が出て来る宝物でしょ?」
オキタが説明する。
「打ち出の小づちはお米が無限に出て来るものではなくて、百姓にお米を作らせて好きなだけ受け取ることの出来る権利証です。浮鯛抄は全国のどこの海や河川で漁をしてもよいという権利証です。十六花弁菊花紋木札は全国のどこの山でも木を切ってもよいという権利証です。これらは農林水産業すべての利権を手にするものなのです。イコールこの国の支配権です。
すみません。私は大事なことを忘れていました。あなたに借りていたゴールド・エクスペリエンス・レクイエム・カードをお返しします。おかげでこの任務を完了することが出来ました。」
ヒミコがオキタに改めて確認する。
「そうか、これは役に立ったようじゃな。ある意味大魔王よりも恐ろしい悪魔のカードにもなりかねなかったが、うまく使ってくれたのじゃな。」
オキタはヤレヤレといった感じで話す。。
「そうですね。まさに悪魔のカードです。利用枠1兆円なんて、政令指定都市の年間予算ですよ。それを人一人に託すなんて、正気じゃないです。『宇宙戦争するほどの買い物しましたし・・・』」
ヒミコがオキタを諭す。
「オキタ、今回の働きに対し、そなたへの褒美は何がよいかの?何でも言うがよい。」
オキタは別に嬉しくもないようだ。
「今私が望むのは、家族とよりを戻したいことだけです。お心遣いは嬉しいですが、たとえこの国をもらえるとしても、何の魅力も感じません。」
ヒミコは嬉しそうだ。
「そうか。玉手箱はそなたのような正直者が持つにふさわしいの。引き受けてくれるかの?」
オキタがしぶる。
「私は政治家になるつもりなんかなかったんですがね。仕事もほどほどにしたいんです。たとえ世界を救っても、家庭での失敗は取り戻せませんから。」
その時、女性が声をかけてきた。
「あなた、引き受けたら。」
オキタは心底びっくりした。
「え、よめさん?!なぜここに?」
オキタの妻が笑っている。
「これまで以上に大変な仕事になりそうでしょ。助けがいるんじゃないかしら?ヒミコ様が、わたしの許可がなければこの仕事は頼まないっておっしゃってるわ。」
オキタは申し訳なさそうに話した。
「今までいろいろすまなかったよ。もっと君や子供たちのことを大事にするよ。戻って来てくれないかい?」
オキタの妻はさっと背を向けて去って行き、もう一度振り向いて言った。
「子供たちと家で待ってますから。」
「ありがとう。」
ナツメも嬉しそうだ。
「よかったじゃないか、オキタ。ボクも嬉しいぞ。けど、玉手箱は開けちゃだめだよ。ザ・グレイトフル・デッドだよ。コインチョコより怖いぞ。さて、ボクも順番は変わっちゃったけど、アルファと早く籍入れたいな。ボクの頭の中はそれだけだ。」
アルファが怪訝そうに聞く。
「順番って何?」
ナツメはとぼける。
「え、なんでもない、なんでもない。全くなんでもない。気にしない~、気にしない~、気にしない~。」
アルファがしらける。
「名にそのまぜこぜ歌。ほんとにも~。」
ヒミコは再びナツメに提案する。
「そなたへの贈り物はこれじゃ。小さい葛籠と大きい葛籠、どちらか好きな方を選ぶがよい。」
「なんですか~?今度は雀のお宿ですか~?それ知ってるよ。大きい方はお化けが入ってるんでしょ。」
「どうかの。」
「え?また心理戦ですか。小さい方が正解というセオリーを知っているのを承知で、これを用意したわけ~。」
「一つルールを追加してあげるぞよ。選んだ方ではない葛籠も後で中身を見てよいぞよ。」
「まあ、大きい方はボクがすごく欲しいものにしては小さいんだよな。だから小さい方。」
ナツメは、小さいと言っても本当に小さい。手のひらに載るくらいの小さい葛籠を開けた。
「わあ!こんなアイテムあるんだ。ネコドラくんも真っ青だよ。」
いろはが一番興味を持ったようだ。
「それって何?」
「どんなプラスチックでも、くっつけられる接着剤だよ。しかも強度は完璧。プラモデルって、部品が折れちゃったら、くっつけても強度はないし、おまけにくっつかない素材もあるんだ。子供の頃は何度も泣かされたよ。これは素晴らしい。世紀の大発明品だ。
あれ?まだもう一つ入ってる。何だろ?ありゃ~、ボウリングのピンの形した爪切りだ!よーし、これでアルファの爪切りしてあげようっと。」
「気味悪いこと言うんじゃねえ!」
実はアルファは大きい葛籠が気になって仕方がない。
「ナツメ、大きい方を開けて見てよ。」
「どれどれ。」
大きい方の葛籠にはガンダムの100分の1プラモデルが入っていた。
「よかったあ~!こっちを選んだら、ヘソ出しガンダムをもらうとこだったよ。セーフ、セーフ。ん?ほかにも何かある・・・ぎゃ~!!!」
葛籠の中から出て来たのはメトロイドだった!!メトロイドはナツメに憑りついて精気を吸い取り始めた。
「ふぎゃ~!!!結局グレイトフル・デッドが入ってた~!そうだ、アイスビームだ。って結局氷だよ。でもアイスビームもミサイルもないよ。まるまり爆弾もないよ。スイッチのネット配信メトロイドはGCコントローラーで遊ぶと、セレクトボタンがないからミサイル打てないんだよな~。って意識が遠のいていく~・・・」
いろはが何度目かのヤレヤレを出している。
「仕方ないわね。こういう恰好は好きじゃないのよね。」
いろははゼロスーツサムスのコスプレをしてメトロイドをてなづけてしまった。
「アルファ、ナツメがいやらしいことをしたら、この子使ってね。」
「やったあ!」
「やだー!やっぱり大きい方開けるとろくなことないんだ~。」
ヒミコがみんなに尋ねる。
「どうじゃ、皆の者、何か望みのものはあるかの?」
いろはがなにやら深刻そうな顔をして言った。
「銀河鉄道ターン・トリプル・ナインの切符って手に入りません?」
ナツメが驚く。
「え、あの666の悪魔の汽車のことかい?」
いろはが訂正する。
「トリプル・シックスじゃない。ターン・トリプル・ナインよ。」
「え~?どう見ても666だよ、あれ。何?ターン・エー・ガンダムっぽい名前なわけ?」
「よく見なきゃね。アンダーバーが付いてるでしょ。アンダーバーがある方が下になるの。」
「それに乗りたいってわけ?」
「そう。」
「なんで?」
「旅に出たいの。」
「・・・今旅から帰って来たのに?」
「そうね。」
「じゃあ、ボクも乗りたいのあるよ。ドクター・サンライト・イエロー・オーバー・ドライブっていう黄色い新幹線。略してオーバー・ドライブだよ。走る時、『キュン、キュン、ボアァ、ドバドバドバー』っていうぞ。」
「素直にドクター・イエローって言えよ。」
ヒミコが話をまとめようとしている。
「みんな乗りたい列車があるようじゃの。いろはの乗りたい汽車の切符はわらわが手配してやるぞ。ナツメの乗りたいのはブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンだったな?」
「どうやったらそこまで名前変わるの~?ていうか、そういう列車もあるの?だったらそれもいいな。バルバルバル、ドッギャーンって音するのかな?」
アルファも自分の望みを話した。
「わたしは回転木馬がいい。」
ナツメが不思議がる。
「回転木馬?ずいぶん古風だね。」
アルファが反論する。
「ナツメ、発音が違うぞ。ナツメの発音は『奥歯』と同じ。それ違うよ。この場合は『職場』と同じ発音。要するにシャアが言う時の発音。」
ナツメが目を見開く。
「え、メリーゴーラウンドみたいに回るホワイトベースがあるの?いいね!それ乗りたいね。」
オキタが提案する。
「ヲニ国の東、海の果てのニライ・カナイには、なにやら楽しそうな遊園地があるそうです。そこにアルファさんの言う回転木馬もあるそうです。ナツメ君の乗りたいレッド・ホット・チリ・ペッパーに乗って行けるそうです。」
「なんかいろいろあるね。YEAHって音するんだろうな。それよりボクはまずアルファに乗り・・・いや、何でもない。その遊園地、面白そうだね。みんなで行こうよ。ヒミコ様、ご褒美はニライ・カナイの旅行がいいな!」
ヒミコがほほえんで答える。
「そうか。楽しんで来るといいぞよ。みんなの家族も連れて行くがよい。」
「ヒミコ様、ありがとうございます。」
一行はこれで解散となった。
「エンディングの音楽何かな~。オッ前奏が流れ始めたぞ!」
これまでの旅の場面が映し出される。
「この曲使っていいの~?」
「ドラクエしたぜ!!あ、これヤムチャの声だったっけ?」
♪いくつの街を 越えてゆくのだろう
明日へと続く この道は
行くあてもない 迷い子のようさ
人ごみにたたずむ 君は今
恋することさえ 恐れてた昨日に
なくした涙を 探してる
夢を信じて 生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 敗れた翼を
胸に抱きしめて
自分の空を 越えてゆくのだろう
さよならに怯えず 君は今
傷ついたことに 疲れ果てた胸を
凍える両手に 温めて
心のままに 生きてゆけばいいさと
君は笑っただろう
明日へ走れ 敗れた翼を
胸に抱きしめて
夢を信じて 生きてゆけばいいさと
君は叫んだだろう
明日へ走れ 敗れた翼を
胸に抱きしめて
(作詞、作曲、歌:徳永英明)
「それと、こっちもいいなあ。」
♪ひとりひとり誰もが イマジネイションという
星屑をちりばめた 宇宙を持ってる
秒読み開始 突然のときめき
恋をしたのさ HooHooHooHoo
SHOW ME YOUR SPACE HooHoo
君の宇宙は
SHOW ME YOUR SPACE
RAINBOW COLOR
SHOW ME YOUR SPACE
めまいするほどきれいさ
君の瞳の中に キラキラ光る宇宙は
マジカルな引力で 僕を引きつける
このまま行けば 大気圏突入
燃え尽きるかも HooHooHooHoo
SHOW ME YOUR SPACE HooHoo
君の宇宙を
SHOW ME YOUR SPACE
彷徨えるなら
SHOW ME YOUR SPACE
燃え尽きるのもいいさ
1秒だって離れていたくない
許されるなら HooHooHooHoo
SHOW ME YOUR SPACE HooHoo
君の宇宙で
SHOW ME YOUR SPACE
光り続ける
SHOW ME YOUR SPACE
星になりたい僕は
SHOW ME YOUR SPACE
SHOW ME YOUR SPACE
SHOW ME YOUR SPACE
(作詞・作曲:吉田喜昭、歌:ポプラ)
『将来の夢』六年一組ナツメ・デーツ
ボクの将来の夢は、勇者にならなくてもいいからドラゴンにつかまってるお姫様を助け出して、すぐにお城へ帰らずに宿屋へ泊まって宿屋の主人に「ゆうべはおたのしみでしたね」と言われることです。
「こんなはずかしい夢に世界は救われたのかよ~(怒!・怒!・怒!!!)」
定晴君へ
『ごめんね。突然手紙なんか書いたりして。ただ一言、「ごめんなさい」って言いたくて。子供のころ、手紙とあいうえおチョコをもらって、わたし、そのメッセージ、とんでもない言葉に勘違いしちゃって、恥ずかしくて言えないんだけど、ただ間違ったのはわたしなのに、定晴君にひどいこと言っちゃって、ほんとにごめんなさい。「うんこしよっ」なんて並べたなんて、恥ずかしくてとても言えないんだ』アルファより。
「なにこれ!思いっきり言っちゃってるよ~(泣・泣・泣・・・)」
ドラクエⅠのラストシーンが流れる。勇者はローラ姫を抱っこしたまま竜王を倒し、ラダトーム城に帰り、王様に会ったところでローラ姫が階段下まで瞬間移動する。勇者はローラ姫の「連れて行ってくださいますね」の申し出に対し、しばらく「いいえ」を連発した後、「はい」を選択し、ローラ姫を抱っこして勇者は城から旅立つ。
二人の姿がアップになると、ナツメとアルファだった。二人が笑顔で手を振る。
「バイバ~イ!!!またね~!!!」
おしまい
2021年3月25日 発行 初版
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昭和48年(1973年)1月22日生まれ。 会社員。 旋盤工。 自称妖怪研究家。 古代日本最大の謎、邪馬台国と卑弥呼の正体に迫ります。