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この本はタチヨミ版です。
主な登場人物
アンドレイ・コズロフ 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士。宇宙弾丸の犠牲者となる。
長嶋啓太郎 警視庁海外犯罪局宇宙犯罪対策課課長。(元・同庁生命工学捜査課刑事)今回の宇宙弾丸衛星事件でザ・チームのリーダーとなり、国際犯罪集団「F(フォーリー)」と対峙する。
川藤タケル 警視庁からニューヨーク日本総領事館に出向する刑事。ザ・チームとして「F」と対峙する。突然死した刑事の父は他殺だと信じ、密かに犯人を探し、復讐を願っている。
吉田直人 警視庁海外犯罪局局長。(元・同庁生命工学捜査課課長) 長嶋啓太郎と上司。前職では、「クチクラ事件」(拙書「左手で、焼けた薬莢を握り締め」参照)で総指揮を担当し「F」を追い詰める。
「F」 国際犯罪集団。通称「エフ」。フォーリーとも呼ばれる。その起源は戦前のナチスともそれ以前だとも考えられている。各国政府の政治家や行政機関、様々な企業に食指を伸ばし、脅しをかけ利権を貪っている。
マクダーモット教授 ロンドン生命科学研究所の教授。元英国秘密情報部の担当官。吉田や長嶋等と「クチクラ事件」でザ・チームのメンバーとして「F」と対峙する。若かりし頃は、ジェームスと呼称されていた。
メル・ギャラハー EU外郭組織・国際犯罪捜査局の捜査員。宇宙弾丸衛星事件担当者
リー・ブオヘン EU外郭組織・国際犯罪捜査局の捜査員。宇宙弾丸衛星事件担当者
ジョー(ジョナサン・チュン) 通称「バンブー・ジョー」。毒矢を得意とする暗殺者。表向きはシンガポール在住のフリーの格闘技インストラクター。
レイコ(中濱麗子) 香水を調合するように噴霧液体を得意とする暗殺者。表向きはパリ在住のフリーの調香師。
ファリフ・バシャール 自然エネルギー・プラント開発社の社長。海洋に浮かぶ自然エネルギー発電プレート(ハックルベリー・プレート)を開発し、太陽光発電、波動発電や風力発電により大型商船等に供給するビジネスを展開する。しかし、その背景には「F」の存在が見え隠れする人物。
リンダ・クロフォード 有料インターネット・マガジン「ザ・ジャーナリスツ」の記者。宇宙の軍事利用を追い、ザ・チームのメンバーとなる。
エディ・ローランド 有料インターネット・マガジン「ザ・ジャーナリスツ」の編集長。リンダ・クロフォードの良き理解者である。前職は科学専門誌「ワールド・ライフ・サイエンス」編集長で、リンダと共に、「クチクラ事件」に関わる。
二宮槐太 警視庁海外犯罪局宇宙犯罪対策課宇宙犯罪対策チームの捜査官。長嶋啓太郎の部下。リンダ・クロフォードと組みながら、ザ・チームのメンバーとして活躍する。
香取明子 本籍は吉田直人の警視庁海外犯罪局だが、今は経済産業省海洋探査室に出向している捜査官。トリ・アイランドで開催中の「ハックルベリー・プレート」お披露目パーティーに出張を命ぜられるが…失踪する。空手道場を開く祖父や父から教えられた空手はオリンピック出場レベル。
タイオ・イブラヒム ファリフ・バシャールの警護役であり殺し屋。
ケヒンデ・イブラヒム タイオと一卵性双生児で、同じくファリフ・バシャールの警護役であり殺し屋。
葛西慎之介 航空宇宙高額大学(ワシントンDC)の元教授。ある日、自然エネルギー・プラント開発社に引き抜かれ上級技術顧問となる。その広い人脈を通じ、衛星技術関係の技術者を数多くリクルートし、自然エネルギー・プラント開発社に引き抜く。
ルイス村長 トリ・アイランドにあるゲットー化した漁村リコ・エル・プエルト村の村長。逃亡者となった香取明子とジョーを匿い逃す、老いた村の長老。
テオ ジョーの独立系暗殺ビジネスのエイジェント。
ミホ レイコの独立系暗殺ビジネスのエイジェント。
ダーニャ 元KGB職員で現在はロシア政府高官の手下。テオとミホを通じ、ジョーとレイコにファリフ・バシャール殺害を依頼する。
影の男 ワシントンDCに入った二宮槐太とリンダ・クロフォードに接触してきた謎の男だが、槐太とリンダに機密情報を与え、手助けしてくれる。
コンラッド大尉 国務省宇宙防衛局局長。ワシントンDC入りした槐太とリンダをサポートする重要人物。
ポート・クルス島の白髪の老女と銀髪の男 アラビア海に浮かぶ小さな島、ポート・クルス島に居る人物。国際犯罪集団「F」の中心人物なのだろうか。
◆ アンドレイ・コズロフの宇宙死
その死に、音はなかった。
真空の闇から一本の針が現れた。
およそ四十センチのその針は、秒速十キロ(時速三万六千キロ)で意思ある生き物のようにどこからともなくやって来て、アンドレイ・コズロフを貫通し、その肉体を一瞬で破壊した。零下二百七十度の真空に晒された「彼」という有機物は分子が存在せぬ真空に体温を奪われることなく、宇宙空間に漂う星屑へと転生した。
船外活動中の一宇宙飛行士の死は呆気なく訪れ、宇宙を漂う元素となり、やがて母なる宇宙へと帰って行った。
彼の故郷の地方紙で小さな囲み記事が掲載されたが、その死の理由は伏せられ深く問う者も皆無だった。
SNSで謀略オタクが騒ごうとしたが、荒唐無稽な与太話だと無視されクラウドの底へと崩れ落ち、食べ物と健康と旅行の話、そして国家が手綱を握るガス抜き用に仕掛けられた無数の反政府話にかき消された。奇声を上げ溜飲を下げさせる伝統的な政策に、人は目線を外された。
アンドレイ・コズロフの死。
彼の信仰神だけがその死を悼んでくれたが、母なる青い地球では蟻の死でさえなかった。
◆ 「宇宙弾丸」
タンニン強い赤ワインがグラスの中で揺らいでいた。
ワイン・グラスにキース・ジャレットのピアノが踊り、赤ワインが震えていた。
「長嶋さん。今日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます。川藤さんこそ今日は色々とお疲れになったかと…とりあえず、乾杯ですね」
精神的な疲労感からか、二人に沈黙が訪れ、ワイン・グラスの音に続く次の言葉を、二人は探していた。
国連で開催された宇宙法分科会・宇宙犯罪協議会は、その日の夕暮れに閉会した。
数十カ国から集まった専門家との人脈作りが主な目的のような会議で、一九六六年に発効された宇宙条約から最新の国際条約の再確認、各国の宇宙関連法の状況、ビジネス面では二十一世紀中頃には宇宙ビジネス市場は数百兆円規模になる。そして、軍事面では主要各国の宇宙軍創設の全体状況などが二日間の日程で話され、最終日の三日目は、宇宙空間を利用した犯罪について研究者が何人か登壇し、具体例に乏しい統計資料を使い総括のような講演が行われた。
表面上は当たり障りのないセミナーのようだったが、コーヒー・タイムで談笑する主要各国からの出席者は、笑顔の裏で丁々発止のゲームが始まっていた。
「長嶋課長」
警視庁からニューヨークの日本総領事館に出向している川藤タケルが耳元で囁いた。
「今、あそこでアメリカと中国の連中が話していますが…背後にゆっくり近づいているのがロシアの友好国の諜報担当者です」
「…つまり、話を聞こうと?」
「そのとおりです。なんでもない話でも知っておきたいんですよ、ロシア側は」
「なんでもない話でも?」
「はい…先日、ロシアの宇宙飛行士が宇宙空間で亡くなりました。名前はアンドレイ・コズロフ。死因は謎のままです。国際宇宙ステーションは、アメリカ、ロシア、日本、カナダとヨーロッパの宇宙機関が共同運用していますから、ロシアは中国が怪しいと思っているフシがあります…あの隅で、ロシアの代表が中国の代表と話をしていますね」
長嶋の視線の先で、強い瞳の中国系の女が背の高いブロンドの男を見上げ、何かを囁いていた。
「…和やかなふりをしていますが、丁々発止です」
川藤が、長嶋の視線に言葉を重ねた。
川藤の話に、和やかな団欒の場がプラスチックで覆われた修羅の場に見えてくる。日本の外務省の女は、アメリカの国務省の男と親しげに、クッキーを頬張り談笑している。「コーヒー・タイムの会場でこうなら、国連ビルを出たあとは大変だろうな」と他人事のように会場を傍観する長嶋だった。数年前、長嶋の元上司、吉田直人が生命工学捜査課課長から海外犯罪局の局長ポストに異動したとき、長嶋はその下部組織、宇宙犯罪対策課課長に任命され、宇宙法を中心に、宇宙での軍事戦略や宇宙ビジネスを学んできた。今回のような国連での定期的な会議にも、外務省や防衛省の担当者と共に参加し、実情を体感するのが長嶋の重要な仕事の一つだった。
「しかし…三日間お疲れ様でした。あと少しですが…」
「ようやくですが…この後、領事館での話がありますからね」
「そうです。よろしくお願いします」
長嶋は、今朝、川藤から口頭で伝えられた会議予定を頭の中で反復した。
〈今夕、午後5時。日本総領事館別館の川藤のオフィスで〉
「和やかな」コーヒー・タイムの後、宇宙犯罪協議会会長の締めのスピーチが終わるや、長嶋は川藤の車で午後5時の打ち合わせに向かった。
タチヨミ版はここまでとなります。
2021年5月1日 発行 初版
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Qilin Family Company(チィーリン・ファミリー・カンパニー)は、大人の為の物語を紡いでいきたいという願いを込めて設立しました。時代に振り回され、喜怒哀楽を重ねながらも、日々力強く生きる大人たちに、少しでも安らぎを感じてもらえれば幸いです。 主要ライターに、雷文氏を迎え、2020年を超えて、日本および世界に向けて、「大人の為の物語」を拡げていきたいと考えています。見たい映画や演劇、そしてテレビ・ドラマを、物語という形で描き出し、織り紡ぎ出してゆければと願うばかりです。(代表:中嶋雷太) Qilin Family Company was established for weaving stories for adult people. For them, who are always struggling daily lives, we hope they enjoy the stories. Welcoming Mr. Ray Bun as a main writer (story teller), we would like to expand our stories over the world as well as in Japan, over 2020. Also, we would like to weave the stories for future theatrical films, theatrical play or TV dramas. (Rep: Raita Nakashima)