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この本はタチヨミ版です。
学校一~のシリーズ化。
主人公視点を高杉晋平に変えてみたらどうなるかをやってみたという企画です。
あらすじ
高杉晋平が通う高校はちょっとばかり特殊で、セレブは筆記試験はパスできて、一般でも成績優秀な生徒は試験に合格すると入学可能というシステムを導入している。
高杉はというと、もちろん試験パスで入学。
高杉の親が理事長と関係者だからというのもある。
高杉は集団生活が苦手なので、高校へは席を置いているものの出席率はかなりやばい。
一年くらいは真面目に出席していたけれど、二年生になった頃からさぼり始めて、三年生になった今年は、とうとうやらかしてしまい、本来なら退学処分レベルなのだが、結局は親が積んだお金で学校側も目をつむってくれた結果、停学処分程度で許されたのだ。
そんな高杉に、しょうも懲りずに古風なやり方で、彼の気を引こうと頑張っている武市加奈。
最初は、高杉はそんなお節介なんて御免被るとか思っていたのに、だんだん気になり始めてきて、隣のクラスの坂本がそのクラスメイトに想いを寄せている事を知りながらも、彼も自分の気持ちには嘘はつけなくなって、高校最後の行事で大胆な行動に出た。
武市は、驚いた顔をしていたけれど、高杉の趣旨がわかったのか心からお礼を言ってきた。
男の性というのか、本能でそうしたのか自分でもわからないけど、好きになった相手を守りたい気持ちが芽生えていた。
就活だのなんだの慌ただしく過ごすうちに、卒業する前に後悔だけはしたくない高杉は、2月の世に言うチョコ作戦を逆手に使って、相手へ告白。
坂本にも笑顔で祝福してもらえたのはよかったのかもしれない。
高校生活も悪くはないと思える高杉だった。
高校卒業後に、一緒に暮らさないかという事を遠回しに武市加奈に伝える。
武市は高杉に快くその提案を承諾したのだった。
俺は、制服のワイシャツのボタンは胸元くらいまで開けて、ネクタイは緩めてズボンも規定外のものを着ている。
こういう格好をしている生徒を教師たちは不良だとかそういうレッテルを貼って呼ぶ。
教師だけでなく真面目な生徒もヤンキーだとか不良だとかと恐れる。
そんなの知った事か。
俺は、久しぶりの登校で憂うつだ。
もっとも、学校という集団生活が苦手な俺は、3年になってから早々に問題を起こして長期間停学を食らっていた。
反省文を書いて提出はしていた。
そうしないと親にももっと迷惑がかかると思ったからだ。
ため息交じりで歩いていると、家が隣の桂耕助が小走りで寄ってきて挨拶をしてきた。
「おはよう、晋平。今日からだったな。また一緒に登校ができるとはな」
「ああ、そうだな。集団生活苦手なのに、謹慎が解けたから仕方なく」
俺の足取りは耕助と違って重たい。
「おはよー」
やたら元気がいい挨拶が聞こえてきた。
だけど、俺は正直、挨拶をしてきた女子を知らない。
それでも、隣で歩いている耕助が挨拶を返しているので、同じクラスなんだろうなと察した。
「武市さん、おはよう。もしかして、ギリギリの時間か?」
「ううん、そうじゃないの。わたしがちょっと寝坊しちゃってさ。じゃ、学校でね」
そう言うと女子は、朝から慌ただしく友人でも見かけたのか足早に誰かの傍へと駆けつけていった。
「今の誰?」
「晋平は知らないのか。同じクラスの武市加奈さんだ。謹慎中、お前は何をしていたのだ?」
「猛烈反省をしていたんだけど? それが何か?」
口で言うほどの反省はしていないし、時間がたくさんあるからと言って、わざわざクラス名簿を眺めてクラスメイトの名前を覚えるなんて事はしてなかった。
「まぁ、よい。それにしてもそろそろ走らないと間に合わんかもしれんぞ」
耕助がそう言って走り出したので、俺まで走らないといけない雰囲気になってしまった。
玄関にたどり着き慌ただしく上靴へ履き替えると、俺は教室ではなくて誰も使われていない部屋へ向かって急いだ。
背中越しに耕助にたまには教室へ顔を出すよう言われたが、それを無視した。
単位が足りていない事は、俺がよくわかっている。
教室へ行かない代わりに、俺は放課後にはきちんと補習を受けてそれで単位を補ってきている。
俺しか利用してないはずのこの部屋に、たまに来客がくることがある。
「高杉、ここにおったがや」
「なんだ? 俺だけの部屋にしようと思っているのに、どうしてお前もここに来るんだ?」
俺は不愛想に対応する。
「連れないやっちゃの。わし、坂本龍っちゅー名前があるぜよ」
「知っている。坂本は、どうして俺がここにいる事を突き止めたんだ?」
「んー、わしも教室でワイワイってのがちと苦手での。どこかで時間つぶしできる場所がないか探しとったら、偶然見つけたっちゃ。まぁ、心境はどうあれ似たもん同士仲ようしとうせ」
「標準語は話せないのか?」
「話せる。だが、わしは土佐弁に誇りを思ちゅうがよ。だからできるだけ土佐弁を使ってるき。いつか聞きなれると思うぜよ」
そう言って、俺のとなりにドカリと腰を下ろす。
時計を見やり、俺は読みかけの本を長机に伏せて置くと、椅子から立ち上がり部屋から出ようとドアに手をかけた後ろで、坂本に呼び止められた。
「どこに行くがや?」
「トイレと昼ご飯を買いに購買へ寄るけど。お前も?」
「わしも」
「連れションとか小学生かよ」
俺は苦笑いをした。
トイレを済ませてから購買へ寄ると、すっかり顔なじみになってしまったようで、購買部のお姉さんから、きょうのおススメのパンを教えてもらった。
「カレーパンなんていいよ。野菜も摂れて一石二鳥だしね。育ち盛りの男子にしては、あまり食べようとしないね」
「うっせぇな。とりあえずおススメのパンとコーヒーちょうだい」
俺はズボンのポケットから財布を取り出してお金を渡すのと引き換えにパンとコーヒーの入ったビニール袋を受け取る。
「わしは、幕の内弁当にしようかの」
「ふふ、君はその訛りがいいね。はい、どうぞ」
スムーズなやり取りをしながら笑顔で購買のお姉さんは坂本に言った。
俺は、この時はまさか、クラスメイトの女子が弁当を持参してくるとは予想もしていなかった。
部屋へ戻るなりスマートフォンが鳴ったので取り出すと、着信は母親からだった。
「もしもし……、うん……今、まだ学校だから。あとでちゃんと話聞く」
一方的に俺は通話を終えて機内モードにしてスマートフォンをポケットへ突っ込んだ。
「どうかしたのか?」
「まぁ、ちょっとな。ったく、学校へ来ている時に電話してくんなよな」
俺は長机に両足を乗せて、読みかけの本を読むことにした。
「悩みあるなら聞くぜよ。まぁ、無理にとは言わんき安心しとおせ」
「ん、ありがと」
それ以上、坂本は聞いて来ようとはせずに、俺と斜め向かいに座って漫画を読み始めた。
「そういえば、そろそろ昼になるの。さて、午後からちぃと教室へ顔を出しに行こうかな」
俺は目線を本へ向けたままで耳だけを傾けて話を聞いていた。
「そうか。俺は……、あした気が向いたら教室に行く」
自分でも単位が足りないくらいわかっている。
だから、誰もいなくなった教室へ行って補習をする事もある。
午前から教室へ行く気にはなれないだけの話だ。
購買で買ってきたパンでも食べようかとした時、部屋のドアがノックする音がするのと同時に、誰かが部屋へ入って来た。
「高杉君、ここに来てたんだね。これ、高杉君に作って来たんだ」
「なんで? てか、よくここがわかったな。えーと、名前なんて言ったっけ?」
勢いよく途中まで言っていて名前わからず、なんだか中途半端。
「わたし、武市加奈っていうの。偶然、入っていくところ見かけたんだよねぇ。で、なんとなくだけど、お昼はろくに食べてなさそうだなって思って、勝手に作って来ちゃったの」
「購買でパン買ってきたからどうしようかな」
「そうなんだ。ごめんね、なんか。どうしよ、一人で二人分は食べられないしな」
「なんなら、ここにいるコイツにあげたら?」
俺のとんでもない提案に、武市がキレてきた。
「わたしがどんな気持ちで作って来たと思ってるの?」
「知らねーよ、そんな事! だいいち、俺は頼んでねェだろうが!」
「え、ちょ、おまん(おまえ)ら喧嘩はやめとおせ。うん、確かに事情は知らなかったとしても、その行為を踏みにじる事はないき。わしでよければ食べるぜよ?」
坂本が慌てて二人の間に割って入って来た。
「頼まれてないのわかってるよ! だけど、放っておけなかったから……。わたしが悪かったんだもんね。いいよ、捨てるから!」
「だあああああ、ちょいとストップ、ストップ! わしは何も持ってきていないからもろうてええ?」
坂本は購買で先ほど買ってきたパンを隠して、今目の前にある弁当をもらいたいと武市に伝える。
「え? あ、どうぞ。どこぞの坊ちゃんは食べないっていうし。わたしがお節介やいていただけだったんで。でも、無駄にしないですむならどうぞ食べてください」
そう言って坂本へ渡すと勢いよく飛び出していった。
「あとから謝ったらどうかの」
「なんで?」
購買で買ってきたパンを頬張る。
「なんでって、たぶん、あの子、今頃泣いているような気がするき。それにしても、高杉の言い方はきつかったと思う」
坂本に言われ、俺は暫く考えていた。
指摘されて気が付くなんてのは子どもと同じだ。
確かに彼女に対してあの態度はひどいなと思った。
「ご飯食べ終えたら謝ってくる」
「それがええ。早いほうがええぜよ。余計なお世話かもしれんけど、女の子を泣かせるのはカッコ悪い男のやり方ぜよ」
「……姉がいる奴が言うと説得力あるな」
最後の一口を頬張りジュースで流し込んだら、俺は部屋から出ていく事にした。
なぜか坂本もついて来る。
「おまん、どこに行くがや?」
「屋上で、ちょっとだけ頭冷やしてから教室に行こうと思ってる。って、お前までついてこなくてもよかったんじゃないか?」
「そうだけど、ちくとおまんが気になっての」
「気になる? また、あの子を泣かせるんじゃないかって?」
「まぁ、そんなとこ。あの子に悪気はない事はおまんだってようわかっちょるんじゃろ?」
屋上へ向かう階段をのぼりながら話をする。
「わかってる。坂本はしゃしゃり出てこなくていいんだからな?」
ドアへ手をかけて後ろをついてきた坂本へ念を押すように聞いたら、わかっていると言わんばかりに首を縦にふった。
ドアを開けた瞬間、屋上から入り込んだ空気が新鮮な感じがした。
金網フェンスに背を預けるように寄り掛かる。
いざ、謝ろうとすると言葉が思い浮かばない。
「あと少しで昼休み時間が終わってしまうぜよ」
「ああ、わかっている。もう少ししたら教室に行ってみる」
坂本とそんな話をしていると、どこかで何かがぶつかった音がしたので、そっちへ歩いて行ってみると、にゃぁと猫の鳴き声が聞こえた。
こんなところに猫? とか思いながらも、深くは考えずに物音がしたところへ来たとこで引き返すことにした。
俺はこの時はまだ武市がここで弁当を食べていて、慌てて俺たちが来たから身を潜めて隠れていたなんてことを微塵も知らなかった。
俺たちは何かを話すこともなく屋上から出ていく。
教室へ行かなければ、武市に会うことができない。
時間が経つとともに、俺は少々気まずさも感じてきた。
こんな事なら言わなければよかったという後悔。
午後の授業が終わる頃を見計らって、改めて教室へ行く事に決めた。
坂本からは、なぜに昼休み時間終わってすぐに教室へ顔を出さなかったのかと突っ込まれたが、なんとなく気が変わったとだけ伝えた。
坂本に猫みたいな奴だと言われた。
自分でもそう思うので苦笑いをしてしまった。
午後の授業が終わっただろうと思い、俺は教室へと向かった。
ちらほらと帰って行く生徒と、部活へ向かう生徒とバラバラな時間帯。
俺はどうせ補習を受ける事になるからと、教室へ顔を出すとまだ武市が残っていた。
「あのさ……、武市……」
「高杉君、あのね……」
二人して同時に話し始めたので、俺は武市からどうぞと譲ったが、先にどうぞと言われたので、深呼吸を一つしてから言葉を紡いだ。
「武市、さっきは言い過ぎたな。悪かった」
「高杉君、わたしこそごめんね。あしたからはきょうみたいな事しないから」
そう言って教室から出ようとする武市を呼び止めた。
「なぁに?」
背が低い武市が小首を傾げる仕草は可愛らしいとさえ思ってしまう。
「気が向いたらでいいんだけど……、坂本が美味しかったって言っていたから俺にも作ってもらえないかと思って……」
タチヨミ版はここまでとなります。
2021年5月10日 発行 初版
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