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この本はタチヨミ版です。
学生から社会人になった時に、最初にぶつかる壁が「ビジネス用語」である。ビジネス用語は業界によって異なる。そして、必ずしもアカデミックな用語ではなく、様々な外来語、略語、隠語、造語等が混ざっている。これらの用語は、その業界に所属し、働いた経験がないと分からない。そのため、大学や専門学校で教えることは困難である。
また、ビジネス用語は時代と共に変化する。30年前にビジネス会話で使われていた用語は既に死語となっているものも多い。逆に言えば、その時代のビジネス用語を常に理解することが、自分の知識のバージョンアップにもつながるのである。
ファッション業界、アパレル業界で働く人が全てファッションを好きなわけではない。したがって、業界人でも用語の分からない人は多い。しかし、ファッションが好きな顧客はマニアックな用語を理解している。「プロフェッショナルたる者、最低でもこの程度の用語を理解してほしい」という考えでまとめたのが本書である。
暗記するというより、読み物として楽しんでいただければ幸いである。
尚、本書は一般社団法人ファッション産業技術継承協会の「ビジネス能力検定ファッションビジネス用語初級」の教科書でもある。興味のある人は、ぜひ、検定にもチャレンジしていただければと思う。
日本語では「服装規定」。
西欧社会の礼装については、正礼装(ホワイトタイ)、準礼装(ブラックタイ)、略礼装、平服等の段階があり、また、その集会の時間帯(昼間or夜間)によって昼会服(モーニングドレス、アフタヌーンドレスなど)・夜会服(イブニングドレス、ディナードレスなど)と区分される。
正礼装の昼間の男性の服装は「モーニングコート」。剣衿(ピークド・ラペル)、シングル前、一つボタンにテール(後部のたれ)のついた黒のジャケットと共地のベスト、黒とグレーの縞のスラックスからなっている。スラックスの裾はシングル、後ろを長く前を短くするモーニングカットになっている。
シャツは白無地のレギュラーカラーかウイングカラーで、シングルかダブルカフス。
タイは、シルバーグレーや白黒の結び下げかアスコットタイが一般的。
チーフは、白の麻素材のものをスリーピークスにして旨ポケットにさす。
手袋は正式にはグレーの鹿革だが、白手袋でも可。
カフスボタンは、ゴールドかシルバーの台の白蝶貝か真珠などの白い石を合わせたもの。
ソックスは、白黒の縞柄、または黒無地。
靴は、キッドかカーフ革の黒のストレートチップ、またはプレーントゥのフォーマルシューズ。
帽子を着用する場合は、黒かグレーのシルクハット。
日本では、格式の高い結婚式や披露宴でモーニングコートを着用するのは、新郎、主賓、新郎新婦の父親。学校の入学式や卒業式では、教職員が着用する。
皇室主催の園遊会や叙勲の授賞式に出席する人は、モーニングコートを着用するのが一般的。葬儀や告別式での喪主や近親者、規模が大きい告別式の参列者もモーニングコートを着用する。
正礼装の夜の男性の服装は、イブニングコート、あるいは燕尾服と呼ばれる。
夜間の正式なパーティー、観劇等に着用される最も本格的な礼装で、生地は黒やミッドナイト・ブルーのドレス・ウーステッドやバラシャなどの無地織物が使用される。
衿は稀にショールカラーもあるが、ほとんどは剣衿(ピークド・ラペル)で、縁まで拝絹(はいけん)をかぶせ、前はウエスト位置で燕尾型にカットして、後ろの丈は膝よりやや上の位置までたれ、裾で二つに分かれている。前ボタンはかけずに着用するのが基本。
ベストと蝶タイは、白の共布地か白のピケ、絹地等を使う。
スラックスは上着と共生地でで側章として絹縁を左右に2本ずつつける。
手袋は白のキッド、靴はエナメル、帽子はシルクハットかオペラハットを用いるのが正式。
招待状に「ホワイトタイ」と指定のある場合は、燕尾服を着用しなければならない。
燕尾服を着用するシーンは、夕方から夜にかけての格式の高い結婚式や披露宴。晩餐会や観劇、舞踏会、音楽会などに出席する場合も、燕尾服を着用する。演奏者や指揮者も、燕尾服を着用する。
シルクハットは、正礼装の時に男性が被る、クラウンが高く、頂きが平らなシルク製の帽子。
オペラハットは、観劇、特にオペラ見物の時に用いるプリムが細く、クラウンが高い、シルクハットに似た観劇用の紳士帽。クラウンの部分が折り畳める構造を持つ。
最近は、スーツ下に着るワイシャツもドレスシャツと呼ばれるが、本来のドレスシャツは、礼装用シャツを指し、モーニング、燕尾服、タキシードと合わせる。
カラーは、レギュラーカラーかウイングカラー。
胸部はU字、またはV字に切り換えられ、その部分を固く糊付けし、プリーツやタックが取られている。
また、柔らかい生地を使ってフリル、レース、ピンタックを挟んだものもある。
普通は、カラーとカフスには、スタッド(取り外しのできるカラーボタン、カフスボタン)を用いることが多い。
正式には、モーニングと燕尾服にはシングルカラー、タキシードにはダブルカラー(取り外しのできるカラー)を用いる。
モーニング、燕尾服が正礼装(ホワイトタイ)タキシードが準礼装(ブラックタイ)とされているが、現在はブラックタイが実質的な正礼装であり、ホワイトタイの指定はほとんどない。実質的には、タキシードが夜の正礼装となっている。
タキシードという名称は、ニューヨークのタキシード公園のクラブ員達が制服としたことに由来する。イギリスでは「ディナージャケット」、フランスでは「スモーキングジャケット」と呼ばれている。
タキシードは、夕方から夜にかけての結婚式や披露宴、記念行事、晩餐会などで着用する。招待状に「ブラックタイ」と指定がある場合は、タキシードを着用しなければならない。
基本的にシングル前のテーラードジャケットで、衿はショールカラー(へちま衿)か、ピークドラペル(剣衿)で、腰の高さで返り、拝絹(はいけん)で覆われている。(一部ではダブル前のものも見られる)
胸ポケットは箱ポケット、腰ポケットはフラップを付けず、玉縁ポケットが多い。(飾りだけのポケットもある)
生地は燕尾服と同じで黒が基本だが、ミッドナイトブルーもある。一方で、舞台用、婚礼用等のタキシードでは様々な色が使われている。
ベストも元は、上着と共地か黒の紋絹などの衿明きの大きいドレスベストを用いたが、現在はカマーバンドを用いることが一般的になっている。ベストと合わせる場合は、カマーバンドはしない。
カマーバンドの色は黒が基本だが、ミッドナイトブルーもある。衿の色とカマーバンドの色を合わせるのが一般的である。
シャツは正式なドレスシャツで、襞胸(ひだむね=フリルの装飾がついたもの)か硬胸(かたむね=胸ヨーク部分が固く糊づけされているもの)で、黒の蝶タイを合わせる。
スラックスは、絹縁の側章(そくしょう)が1本ずつ入る。また、スラックスベルト、ベルトループはつけない。着用する時には、ベルトは使わず、サスペンダー(ブレイシ-ズ)を用いる。サスペンダーは、スラックスを挟むタイプとサスペンダーボタンに留めるタイプがある。
ソックスは黒の絹、靴はエナメルが正式。帽子を被る場合は、オペラハットか、黒のホンブルグと呼ばれるフェルト帽が正式とされる。
タキシードを着用する場合、立っている時にはジャケットのボタンを留め、座る時にはボタンを外すのが国際的なマナーである。
ベストを着用している場合は、立っている時もボタンを留める必要はない。
食事会に出席するようなとき、ベストを着用していればジャケットを脱いでもマナー違反にはならないが、カマーバンドスタイルの場合は、ジャケットを脱ぐのはマナー違反となる。
ドレスコードの平服、招待状に「平服(へいふく)」とある場合は、基本的にビジネススーツを着用する。
女性の場合は、ジャケットとスカートのスーツ、ジャケットとワンピースの組合せなど。カジュアルになりすぎず、フォーマルほど堅苦しくないスタイルが望ましい。
スーツとは、トップス(ジャケット、ベスト等)とボトムス(パンツ、スカート)が共生地で作られた一揃いの服を指す。スーツの本来の意味は「一揃い」。
テーラードとは、4紳士服のテーラー(tailor,仕立て人)が作ったような」という意味。「男物ふうな」、「男仕立ての」とも訳される。
テーラードジャケットは、いわゆるビジネススーツのジャケット。日本語では「背広(せびろ)」と呼ぶ。
テーラードカラーが基本。ノッチド・ラペルとピークド・ラペル(剣衿)に分かれる。「ノッチ」とは「きざみ」の意味で、「ラペル」は「折り返り」の意味。
「ピーク」は「先の尖った」という意味で、「ピークド・ラペル」ラペルの先が鋭角になったもの。日本語では「剣衿」とよぶ。
前身頃の打ち合わせには、一列のボタンで留める「シングル・ブレステッド」と、二列のボタンで留める「ダブル・ブレステッド」がある。「シングル前」、ダブル前」、あるいは単に「シングル」「ダブル」と呼ばれる。
袖は二枚袖でカフスボタンがついている。胸ポケット(箱ポケット)と腰ポケット(フラップポケット)、内ポケットがついているのが一般的である。
通常はシャツの上、ジャケットの下に着る中衣で、袖がなく、身体に沿った形で、ウエスト丈、あるいは、後がウエスト丈で、前はウエストより少し長い丈の服。日本語では「胴着」「チョッキ」。フランス語では「ジレ」と呼ぶ。
紳士服の三つ揃い(スリーピース)では、ジャケット、ベスト、スラックスが共生地で作られる。
いわゆるズボンのこと。
元々、スーツ下に合わせる共生地のズボンを「トラウザーズ」と呼び、「スラックス」は単品の替えズボンを意味していた。
「パンツ」は、米語のズボン。昔は、下着のブリーフを「パンツ」と呼んでいたが、現在はズボン全般をパンツと呼び、下着はトランクス、ブリーフ、ショーツ等と呼ばれている。
現在は、スーツ下に合わせるズボンのように、折り目がつき、ファスナー明き部分の持ち出しにボタンホールとベルト裏のボタンで留め、更に、前カン(カギホック)でウエスト部分を固定するものをスラックスと呼ぶことが多い。
スラックスとパンツを分ける場合は、カジュアルなズボン、米国由来のズボンを「パンツ」と呼ぶ。あるいは、スラックスを含め、全てのズボンをパンツと呼ぶ。
現在の日本では「トラウザーズ」は死語となっている。
男女共に、ジャケットの下、肌着の上に着る中衣が基本だが、ジャケットを着ないで、上着として着用することもある。
歴史的には、男性の下着として18世紀には様々なデザインのシャツが作られ、それを見せるためにジャケットのボタンをかけないで着ることが流行った。シャツは、ジャケットの下に着るものとして発達したが、次第に上着として用いられるようになった。
「ホワイト・シャツ」がなまったもので、基本的には白のシャツを指すが、ビジネススーツの下に着るドレスシャツ全般をワイシャツと呼ぶことが多い。
ワイシャツのデザイン変化は、カラー(衿)の変化とカフスの変化が主だが、全体のシルエット、肩ヨークの変化、背ヨーク下の後ろ身頃のタック、前立てのデザイン等がある。
カラーは、レギュラーカラー、ショートポイント、ロングポイント、ワイドスプレッド、ホリゾンタルワイドカラー(カッタウェイカラー)、ボタンダウン、タブカラー、ピンホールカラー、ラウンドカラー等がある。
アロハシャツ (Aloha shirt) は、パイナップルやフラを踊る女性などのトロピカルなモチーフや、金魚、虎などの和柄を華やかでカラフルな色彩で染め上げた開襟シャツ。
1930年から40年代はシルク、1950年代まではレーヨンが主流だったが、1960年代に入ってポリエステルが登場し、シルクやレーヨンに取って代わった。
アロハシャツ用の生地はアメリカ本土あるいは日本から輸入された。日本には京都を中心に高度な技術を持った染工所が数多く、安価で品質の良い生地を小ロットで大量に供給することができたので、第二次世界大戦前後を通して、多くのアロハシャツの生地が日本から輸出された。
アロハシャツのボタンは、ヤシの木、ヤシの実(ココナッツ)製のボタンを用いたものが正式とされる。
ハワイでは、アロハシャツはオフィスやレストランなどで着用されるだけでなく、式典や冠婚葬祭でも着用が許される「ハワイにおける男性の正装」として認知されている。
ウエスタンシャツとは、アメリカ西部のカウボーイが着ていたシャツ。デニムやシャンブレー、ダンガリー生地などで作られる長袖シャツで、カーブしたヨークや両胸のフラップポケット、金属製のスナップボタンなどが特徴となっている。
クレリックシャツとは、胴の部分がストライプで襟やカフスが白無地になっているシャツのこと。海外ではホワイトカラーシャツやコントラストカラーシャツとも呼ばれている。
クレリックは「牧師」の意味で、牧師が着ていた白い立ち衿の僧服に由来する。
ポロシャツは、1927年、「LACOSTE」の創業者であるルネ・ラコステ氏によって考案された。当時のテニス選手は、ワイシャツのような襟つきの長袖を着てプレーしていたが、ラコステ氏は動きやすさを追求し、ポロ選手が着用していたジャージー素材に着目し、テニスのユニフォームに必要な要素として衿をつけて、現在のポロシャツのスタイルを確立した。
当時の商品名は「シュミーズ・ラコステ(ラコステ・シャツ)」だったが、テニス選手に加えてポロ選手もプレー時に着るようになり、いつしか「ポロシャツ」と呼ばれるようになったと言われている。
正式には男女の夜会服をさすが、ほとんどの場合は正礼装の女性のドレスを意味する。
イブニングドレスの特徴は、豪華な印象であり、レース、サテン、ベルベット等の豪華な素材が用いられる。
ドレスの丈はフルレングスが基本。裾を引きずる長い丈、ヒールを履いた状態で床にふれるくらいの長さ、足の甲やくるぶしくらいの長さのもの等がある。
また、腕、胸もと、背中等を大胆に露出するデザインが多い。
「ローブ・デコルテ」は、衿明きを大きくくり、首筋や胸元、背中を露出の総称で、イブニングドレスの中でも、より正式なものとされる。
「デコルテ」とは、「衿を取り去った」という語であり、衿を大きくあけたという意味。
夕食前に飲まれるカクテルを主体としたカクテルパーティーに着用する服をカクテルドレスと総称する。カクテルは元来、アメリカの飲み物だったが、現在は国際的なものになっている。
夕食に客を招くディナーパーティーよりも、アルコールと軽食、スナック等を整えるカクテルパーティーの方が好まれるようになった。
カクテルパーティーは夕方から夜の間に行われるので、ドレスもアフタヌーンとイブニングの中間にあたるもので、豪華さよりも、粋でお洒落な感じのものが好まれる。
現在のパーティードレスといえば、カクテルドレスであり、日本では、結婚式・披露宴、二次会、ホテルでのパーティーやディナーなど、フォーマルな席で着用されるドレスを指す。したがって、アフタヌーンドレスとカクテルドレスの区別はほとんどない。
ドレスコードとしては、「準礼装(セミフォーマル)」となる。
日本でイブニングドレス、カクテルドレスのようなフォーマルドレスが普及しなかったのは、フォーマルな場では「きもの」が着用されていたからである。
女性のきものには、既婚者と未婚者の区別がある。
既婚者の正礼装は、黒留袖(くろとめそで)、「色留袖(いろとめそで)」である。 黒留袖とは、黒の地色に五つ紋が染め抜かれており、裾模様がつけられている。
帯は、金・銀の錦織、唐織、綴(つづれ)織、佐賀錦等の袋帯。帯締め、帯揚げは、白が基本。白の綸子(りんず)や白地絞り。白地に金・銀。
色留袖は、黒地以外で紋が染め抜かれたもの。帯、帯締め、帯揚げは黒留袖に準ずる。、
未婚者の正礼装は、振袖(ふりそで)。振袖とは、長い袂 (たもと) のある袖をつけたきものを指す。振袖には袖の長さにより、「大振袖(袖丈110cm前後/身長の約7割位、ふくらはぎぐらいまで)」「中振袖(袖丈90cm前後/膝ぐらいまで)」「小振袖(袖丈75cm前後/着る人の身長の半分位)」があり、「大振袖」がもっとも格が高い。
正礼装に準ずる「準礼装」は、既婚、未婚を問わず、「色留袖(三つ紋、一つ紋)」、「訪問着(訪問着は色留袖とは違い、上半身に柄が入っている)」「色無地(色無地とは、白生地に黒以外の色で一色で染まったきもの。三つ紋、一つ紋)」とされている。
ドレスコードで「平服」とされる「略礼装」のきものとしては、「付け下げ(つけさげ)(付け下げは着物の形にする前の反物の状態で模様付をするため、訪問着のような繋がり模様(絵羽模様)はない)」「江戸小紋(遠目には無地に見えるほどのごく小さな柄を、一色のみの型染めで染め上げた小紋で、武士の裃(かみしも)に使われた格の高いもの)」があげられる。
タチヨミ版はここまでとなります。
2021年5月11日 発行 初版
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1957年東京生まれ。文化服装学院ファッションデザイン専攻科卒業後、株式会社ニコル、株式会社スクープ等、アパレル数社の商品企画、ブランド開発業務を担当後、独立。1990年有限会社シナジープランニング設立同社代表取締役就任、現在に至る。
専門は、テキスタイル(織物、ニット)からアパレル、流通にいたるまでのトータルな企画コンセプト立案及びコンサルティング。
最近は、ファッションブランディング、ファッションビジネス人材育成、きものや伝統産業振興など幅広く活躍中。
著書に、「脱・トレンド主義」商業界、「ポストDC時代のファッション産業」日本経済新聞社、「次世代百貨店構築のシナリオ」ストアーズ社(共著)等がある。