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夜が勝手に光るから、

「糸」

群青出版



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少し、浮いて、鳥は、少し浮いて、

わたし、

行きたい場所まで足が足りなくて羽を願う朝。





詩「朝の唄」


頭の先から宇宙は、咲いて、
きみのことをもう少しだけ好きになりそうな夜、
喉の奥では雪が舞ってしまって、
愛情の溶けていく様子を撫でて、
これは、恋の予感でしょうか、
あの丸い星は、命でしょうか。
指の隙間から覗いて、今度は必ず死なないように、
甘いケーキを眺めながらわたし、
必ず、死なないように。



詩 「ケーキの味」


雨が天井を跳ねる音、

あなたを好きになる回数と、

同じ、数。





詩「雨宿り」


かわいそうな重力に、キスをして、
肺の中で絵を描こう。
襟足が風に触れて、風が触れて、
きみが好きな夕陽を早口で語ろう。
そうして、生きていこう。
ひとりぼっちな空、わたしみたいだ、
軽くなった小指にはせめて、
綺麗な色を塗ってあげる。
きみは、わたしに、キスをして。



詩 「その、色、を。」


意味の無い赤色は、
ちゃんと、わたしの中では生きていました。
それを誰にも渡さないまま、
ずっと、生きていました。
あなたは今もそこにいますか、
海の見える高い場所に立っていますか、
意味の無い色は、胸の奥にあるままですか。
赤色は、ちゃんと、
わたしの中では生きているまま。




詩「赩の唄」


溶けきらない心は、いじわるで、

どうかこれを恋と呼ばせて。

春を待つわたし、ひとり。






詩「春を待つ」


響いたのは、青、だけだったのできみは、
自転車のベルを鳴らして
生きていることを知らせて。
ここはとっても静かで、
誰も口を開かないのはやさしさ、
この星を天国という名前で呼んで、
明日の神様はもうすぐ起きる時間だね。
散った光がはらはらと舞って、
まだそこで待っていて、青。
春を別の名前で呼んで。




詩 「ベルと青」


夕焼けのやさしさに死んでしまいそうな、
夜の手前のわたし。街はキラキラしていて、
光の裏側、夜の手前とわたし。
針をそっと、落として、
きみの知らない音楽を鳴らすよ、
まだ今日も光り続ける命に混ざって、
音を鳴らすよ。
ここは孤独です、とっても孤独です、
夜の手前は、ずっと孤独です。




詩「沈む。」


やさしさと、それ以外を挟んで、層にして、
きっと、誰かが食べてくれるまでの命を生きて。
少しだけ背中が重い日に限って夜空は美しく、
足は軽く、羽が生えてしまうように真夜中。
黒色だけを嫌う彼女が、
どうか呑み込まれませんように、
わたしを通過する時、手を振って。
きっと、誰かが食べてくれるまでの命を、生きて。




詩 「ケーキの夜」


喉の奥で声が聞こえて、
鳴呼、きっときみは独りだ。
棘が赤く染ったら、人を傷付けるふりをして、
痛みよりも先に季節は色付いて、
左手で掴んだ希望は粉を吹いて
消えてしまいました。
喉の奥ではパレードが揺れて、
歩き慣れた交差点の絵を描いた。
永遠なんて、永遠に来ないのなら、
精一杯のラブソングを。




詩 「ラブソング」


少し透けたキスに、傘をさして、
「空」が空から降った日に、
わたし運命のような恋をした。
灯りは穏やかに浮いていて、そこまで歩けば、
人間になれるような気がしたのです。
吸い込んだ春は、ずっと、
口の中で空を待っていました。
指先、少し透けながら、きみの色の傘をさして。




詩「傘、」


瞼の裏に宇宙を塗って、わたし、
まだ愛を知らなくてもいい。
このまま生きていても、いい、
の理由をきみが叫んでくれたのなら、
海は、一瞬で舞う花びらのように。
わたし、まだ愛を知らないまま、
きみの命に一度も触れないまま、
朝の光に頬を触れられないまま、
永遠の雫と早口言葉。たった一度の声を枯らして、




詩「海。は舞って、」


あの子は、空に、落ちていく。
白線の内側でキスをしよう、
古いバス停には少年と花束、まだ消えないで、
ぜんぶ、まだそこから消えていかないで。
喉の中で咲いた花で叫んで、
囁く運命と鈍感な風景に欠伸をしてる、
ありきたりな恋を語って。
屋上から一番近い光の射す方へ。




詩「日々、欠伸、飛行、」


色が目に見えた瞬間、

花は咲きました、

とても綺麗な、花は、

わたしを「かわいい」と呼びました。





詩「わたし、咲いて、」


生きている、程度の日常と神様は
今日も鼻声なのでやっぱりわたし、
幸せにはなりたいと思うんです。
小銭入れから溢れてしまう程度の愛なんて、
愛なんて、きみには勿体無いと思うんです。
海と欠伸、伸びた襟足と遠のいた夏、
この世のぜんぶ、甘い味がするんだよ。
って、魔法使いのあの子は笑っていたからわたし、



詩「命、程度の、」

生活を、吸って、ここは宇宙の外側だからもう、
きみには会えそうにもないからね、好き。
薬指の周りをぐるぐる、まわって、まわって、
やさしさは惑星のフリをして三週目。
白い昼にだけ夢を見るわたし、
とってもかわいい夢を見る、
きみのいない生活を、吸って、
ここは宇宙の一番柔らかい部分、
電車に乗って少し眠って、生活を、吸って。



詩 「生活と、」


夜を叩く、青の濃い部分に触れて。
空いた穴に白い糸を落して、
あなたによく似た春が鳴る。
眠りまでの間、わたしは、きみは、
死なないように作られています。
瞼は染って、目を覚ますまでの間、
わたしは、きみは、生きていた夢を見るのです。
夜を叩く、青の、濃い部分と目が合って。




詩 「濃い」


冬の死骸は、きらきら、していました。
だから、わたし、
きみが死んでしまいそうな季節を
生きていました。
喉の奥で煙が溜まって、吐き、
出してしまうまでは愛情。
最後の言葉だけは優しく、してください。
冬の、死骸は、きらきら死んで。




詩 「結晶」


小指に繋いだ線を辿って、
きみに、会いに行くための電車を辿って、
これが運命じゃないのなら、
ぜんぶ溶けてしまって、
瞼に浮かんだハッピーエンドを愛すでしょう。
少し骨に触れてしまうくらい、心に触れて、
もしも明日世界が終わるなら
わたしは誰に愛されてしまおうか、
夕暮れに溶けだした
ハッピーエンドの味を知らない、
わたしは、まだ。知らない。




詩「チョコレート」


回る、まわる、心の外側を回り続けて、
わたしのそれは、感情のフリをした。
題名の無い絵みたいな人生、
つまらない色は少女の喉を刺してしまって、
死んでしまって、
目を瞑れば死骸のような季節がふわふわ、
まって、まわって、感情のフリをした。




詩 「わたしと死骸」


ここから飛び降りて、
きみは鳥になりましたって
来世ではもう少しお話をしよう。
その点滴から流れるぜんぶが、ぜんぶ、
やさしさだけで作られていたら、
きみはもう死なない。
つま先が届く高さから飛んで、
きみは、鳥になりました。
わたしの左手は、空を、
何にも無い空を、選びました。




詩「点滴と春」


白線の内側からすこしはみ出した命、
夜明けに、発車のベルは鳴り響いて、
これから起きる悲しさをすべて、通過してしまえ。
各駅停車の恋は、やさしい横顔をしていました、
だからわたし、ずっと、
白線の内側であなたを待っています。




詩 「白命」


空気と指だけで音を聴かせて。
きみの命が屋上で鳴り続けている間は、
きみは、わたしは、誰も、死なない。
きっと、非日常に少しずつ食べられながら、
みんな生きている、
もう死んでしまった命が
嘘ではないことを証明するために、
日常に、生きている。




詩「日常証明」


美しい、の先に何も無かったとしても、
きっと、何も無かったとしても、
綺麗な花が咲いたら帰っておいで、
春は、ポストの中に入れておくから、
帰っておいで。
美しい、の後ろに何も無かったとしても、
きみの半径1mは綺麗なまま、
世界の半分を否定して、
きみの前髪だって、美しい、





詩 「美的前線」


きみの寝顔は、海みたいだ、
なんて寝惚けた声で起こされてわたし、
もう一度撫でられて、どうか、
このまま永遠の眠りに落ちて。
魚のような、手足、が歌を唄いました、
そうして春は、空の中に隠れてしまいました。
きみの横顔は、海みたいだから、
どうかこのまま、ふたり夢の中。





詩 「魚のかたち」


光が、バラバラになってしまう脳味噌の中の話、
ひとつ呼吸をしてみれば
口元から赤は飛び出して、
きみは知らない踊りをみせて。
宇宙と同じ形をしたわたしの頭の中、
また、光がバラバラになってしまって、
左手を握ったままで死んでしまう夜。




詩「硝子に割れて」


宇宙と同じ香りの唾を飲み込んだ瞬間、
ここは、無人の星だと知って、
だんだんと磨り減っていく
身体の一部に愛情を伝えて、
遂に誰もいなくなった星の色は黒だと教えて。
変わる信号機の色だけが正しい、星で。





詩 「例えば、星が、」


夜は渇ききってしまって、
かわいそう、とってもかわいそう、
だから布を被せてあげるの、
喉の乾きと同じ夜、愛そうとすれば、
光は消えてしまうなら、
いっそわたしの命を液体として
貸してあげるから、
生きて、どうか生きて、





詩「渇き、」


ぜんぶ、消えてしまえ、消えてしまえ、
わたし、だけでもいいから消えてしまえ、
と叫ぶ夜にはきっと、
命の価値なんてほんとうにきっと、
必要ないのです、
そうして、今わたしの頬をすり抜けた命に、
名前はありますか。
きみの心に、名前はありますか、
また今度、話をしよう、
終わらない夜の話をしよう、
だからそれ以外ぜんぶ、消えてしまえ。





詩 「夜のおわりに」


広がれ、青はどこまでも広がって、
きみも包んで、地面から羽を生やして
飛んで行ってしまうので、
海の匂いも知らないのでしょう、包まれ、
青に身体の一部を預けて、
包まれてしまえば朝を迎えて、
治らない掠り傷も正しかったんだよって、
きっと優しさに触れるでしょう。
わたしの身体を貫いて、
青、どこまでも広がれ、




詩 「青はどこまでも」


夜が勝手に光るから、
命のぜんぶ、美しく見えてしまうのです。

夜が勝手に光るから、
愛だって、綺麗に見えてしまうのです。


今日も、夜が、勝手に光るのです。




詩 「夜が勝手に、」

夜が勝手に光るから、

2021年6月18日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版
表  紙:吉村淳

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「糸」

詩。いのちのこと。Twitter:@ningen_ito

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