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脚本で選ぶ!!私だけの「推し作品」

あつ丸/John./はるくら/ウユニ塩湖/遠藤彩乃

二松学舎大学



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 目 次

「君の名は。」の魅力

お伽話へのアンチテーゼ的アニメ映画『シュレック』シリーズ

「Angel Beats!」の脚本

『黒執事』‐伏線の美学‐

『リーガルハイ』の面白さ

「君の名は。」の魅力

あつ丸

「君の名は。」の魅力

あつ丸

はじめに

 普段、映像作品を見る際、脚本のことまで考えることはあまり無いので、難しい企画であると感じました。ですが、単純に驚かされたストーリーという点で考えると「君の名は。」です。

「君の名は。」とは

 「君の名は。」とは、2016年に公開された長編アニメーションで、監督は「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」などを手掛けた新海誠です。
 彼の作品の特徴は登場人物の心情の機微を実写と見紛うほど美しい風景描写とともに描くといったもので、それは「君の名は。」でも表れていました。
 東京に住む男子高校生の立花瀧と、岐阜・飛騨の山奥に住む宮水三葉の精神が入れ替わってしまうという、不思議な現象を通じて、二人が惹かれ合っていく様子を、彗星による大災害に絡めて描いた作品です。

「君の名は。」のここがスゴい!

①都会と田舎の対比描写が素晴らしい。

 東京と岐阜・飛騨。作品の序盤は瀧と三葉の入れ替わりを通じて、都会と田舎の描写が繰り返し描かれます。
 賑やかさや華やかさがある反面、雑多で息苦しい様子もある都会。ゆったりとして、解放感にあふれているが、古い慣習にとらわれていたり、狭いコミュニティ故の閉塞感がある田舎。都会と田舎の対比を美麗な背景と、新鮮な気持ちで互いの生活を経験する二人の様子から描かれます。

②二人の入れ替わりの真相

 本作品で一番驚いたのは、物語の中盤、二人の入れ替わりの真相が明らかになる部分です。主人公の瀧がこの入れ替わりの真実に気が付くタイミングで視聴者にも知らされることとなります。私が初見の時は驚きのあまり開いた口が塞がりませんでした。

③最後はハッピーエンド!

 私は「秒速5センチメートル」のトラウマを忘れたことはありません。
 「鬱アニメ」と調べれば確実にヒットする「秒速5センチメートル」ですが、この作品を始めとして、新海誠作品というのは、なにかモヤモヤとした形で終わることが多いのです。
 そのため、「君の名は。」も覚悟して視聴していたのですが、最後は完全無欠のハッピーエンド! ……とは言えないかもしれませんが、明るい未来を予感させる終わり方でした。
 最後にすれ違ったまま終わるのが以前の新海誠作品。今回はお互いが振り返りお互いを認識する。
 個人的に、現実世界は辛いことだらけだから、物語の中ぐらいはハッピーエンドが良いなという気持ちがあるので、この終わり方は非常に感動しました。

終わりに

 メインテーマはボーイ・ミーツ・ガールというありふれたものでありながら、この作品が社会現象と言われるまでに至ったのは、紹介した魅力含め様々な要素が合わさったためだと言えます。
 私はもうすでに3回以上視聴していますが、その度新たな気づきがあり感動し毎度号泣しています。それほどに映像や「RADWINPS」の曲が魅力的で、何よりストーリー構成、脚本といったところが秀逸だなと感じます。

お伽話へのアンチテーゼ的アニメ映画『シュレック』シリーズ

John.

お伽話へのアンチテーゼ的アニメ映画『シュレック』シリーズ

John.

矛盾だらけの『美女と野獣』

 皆さん、『美女と野獣』というお伽話はご存じでしょうか。知らない人のためにざっくり説明しますと、美しく若い娘が、妖精によって醜い野獣に変えられた王子と恋をして、最終的に王子の呪いが解け美しい見た目に戻ったのち、娘と結ばれるという物語です。

この物語の一番言いたいことは「大切なのは見た目の美しさではなく心の美しさ」らしいのですが、矛盾していると思いませんか。見た目は大事じゃないよと言いながら、結局王子は美しいし、王子が恋に落ちた相手は美しく若い娘。そもそも、野獣のもとを訪れたのが美女でなかったら、この物語は始まらなかったかもしれないのです。表面上はすごくロマンチックなお伽話ですが、突っ込まずにはいられません。

大人になった今こそ『シュレック』を

 そこで、私が紹介するのがドリームワークス・アニメーション製作の『シュレック』シリーズです。この作品、ネットのおもちゃにされているのが悲しいくらい、素晴らしい作品なのですよ。

『シュレック』シリーズは、主人公のシュレックが生まれつき町で恐れられている怪物で、彼が恋をするフィオナもまた怪物という、『美女と野獣』とは真逆の設定です。製作しているドリームワークス・アニメーションは創業者が「フライシャー・スタジオの様な大人と、子供の中にある大人心に向けてつくる」と掲げているだけあって、『シュレック』にはお伽話へのするどいツッコミを脚本にふんだんに盛り込んでいます。例えば、先にも挙げたシュレックとフィオナですが、一作目では人は見た目じゃないというメッセージを強化するような、醜いものどうしの恋愛が中心ですが、二作品目以降では二人は生まれつき怪物であることを誇りに思っており、醜さを否定しないというストーリーになっています。

それから、お伽話のプリンセスたちもただ王子を待つような〝か弱い乙女〟というより、仲間と協力して闘う、身体的にも精神的にも強い女性として描かれているのもポイントです。お伽話をいくつか読んで、純粋すぎない大人になったからこそ楽しめる物語なので、ぜひ一度、皆さんには『シュレック』シリーズを鑑賞してほしいです。

「Angel Beats!」の脚本

はるくら

「Angel Beats!」の脚本

はるくら


 私の好きな脚本は「Angel Beats!」というアニメの脚本です。「Angel Beats!」という作品は、死後の世界の学園を舞台にした青春ドラマです。このアニメの面白いところは、平穏な学園生活である日常と、重火器を用いて天使と呼ばれている生徒会長と戦う非日常が存在しているところです。

日常の学園生活

 まずアニメの前半では一般的な学園生活を送っていきます。球技大会などの行事があり、部活動があり、テストがありとごく普通の学園生活です。主人公は死後一部記憶喪失の状態でこの学園に来てしまいますが、仲間と出会いこの学園になじんでいきます。

非日常

 アニメの中盤では、そんな日常が銃器を使って生徒会長と戦うという非日常へと変わっていきます。主人公側は生徒会長を倒すことを目的としていますが、生徒会長側は自身の防衛のみを行っていて主人公側を倒そうとする意志が感じられません。主人公が気になって調べていると、生徒会長はみんなを死後の世界から卒業させることを目的としていて、自己防衛をしていただけでした。ここから展開がいきなり変わり、この死後の世界の学園は死ぬ前に未練を残した人が死後行き着く学園なのだということが明かされます。そこで、真相を知った主人公は生徒会長と協力して仲間をこの学園から卒業させてあげようと画策していきます。

脚本の魅力

 日常から非日常への移り変わりと、そこに生前の未練が関わってくるところがこの脚本の魅力です。生前の未練が非常に生々しく、平穏でほのぼのとした学園生活からの落差で引き込まれていきます。さらに生前の未練には悲しい要素が多く、辛くなる場面もありますが、ラストの卒業式からのオチにはこみあげてくるものがあり感動します。最終的にもう一度見たくなる作品となっています。

 脚本の話ではありませんが、「Angel Beats!」の作中には部活動として軽音楽部がでてくるのですが、作中の曲はほとんどをその軽音楽部が担当しています。かなり素晴らしい音楽なのでぜひ聞いてみてください。

『黒執事』‐伏線の美学‐

ウユニ塩湖

『黒執事』‐伏線の美学‐

ウユニ塩湖


 『黒執事』は枢やな原作の漫画作品で、十九世紀末の英国貴族の優雅さと悪魔や死神といったダークファンタジー要素が兼ね備わった作品です。三期にわたるアニメ化や実写ドラマ化、舞台化がされており、漫画も重版が決まるなど大人気となっています。この作品の魅力はなんといっても煌びやかな英国貴族の暮らしの中、悪魔と契約した主人公シエルが悪魔で執事のセバスチャンとともに、英国裏社会の秩序を守る「悪の貴族」として時には許されざる方法で事件を解決していくというひとえに勧善懲悪とは言えないストーリーです。この作品の魅力をアニメと漫画の両方の脚本から紹介していきたいと思います。

始まらない第一話とテーマの回収

 この作品の第一話は少年伯爵シエルと執事のセバスチャン、他の役立たずな使用人たちの日常的な場面で始まります。執事のセバスチャンは執事としての心得、知識、料理、武術と全てにおいて異常なまでに完璧で、他の使用人たちの失敗を華麗にフォローしするなど「人間離れ」した様子が描かれ、「あくまで、執事ですから」と言うセリフが印象的です。この時点では、視聴者の目を惹く事件などはなく、この先どんな物語展開になるのか予想がつきません。その中で「あまりにも完璧な執事」「あまりに役に立たない他の使用人」「少年が伯爵家の当主である」といった一見スルーしそうな「異常さ」こそが、この物語の鍵であり、視聴者の期待を煽ります。
 そして、第四話で伯爵家を憎む人間に襲われたシエルを助けようとした執事セバスチャンが、本来人間なら死んでいるはずの状況で起き上がり、「悪魔で執事ですから」と言ったことにより、視聴者はセバスチャンが悪魔であることを知ります。この「あくまで」と「悪魔で」の表現は作中にたびたび登場しますが、音では同じセリフでここまで華麗に伏線となっていたこの作品のテーマを回収していく様子は、冒頭に大きなインパクトを与え、この先の展開を期待させます。

敵?味方? 正体不明のキーパーソン

 作品中には個性豊かで掘り下げがいのあるキャラクターがたくさん登場し、作品を盛り上げ、彩っていきます。しかしこのキャラクターたちは主人公シエルたちの敵、味方と容易に分類することができません。例えば、神と人間の間の存在である「死神」が何人も登場しますが、序盤ではシエルたちと敵対し、中盤では一緒に戦います。この作品において悪魔と死神は相容れない嫌い合う存在ですが、赤髪でオネエの死神グレルはセバスチャンに付きまとうなど、関係性は交錯していきます。序盤は情報屋として活躍していたキャラクターが、中編でシエルと敵対し、失踪したので黒幕と視聴者に想像させたのち、キャラクター個人は敵ではないなど、一筋縄では行かない関係性を描くのです。そのキーパーソンたちの素性や過去がわかるにつれて、真の黒幕が明らかになっていくという人物描写を軸とした伏線回収の構成はとても鮮やかで視聴者を飽きさせません。

一体何が正しいのか! あまたの伏線とその回収

 アニメ版ではまだ完結していませんが、単行本最新刊を読んだとき、その伏線の壮大さに脱帽し、改めて何度も最初から読み返しました。物語序盤からとりたてて伏線と感じない些細な違和感が全て伏線になっていたのでです。八つの大きな事件を解決していくシエルたちは、シエルがセバスチャンと契約することになったきっかけの伯爵家の襲撃事件の真相を明らかにし、復讐をするという信念のもと動いていますが、アニメ視聴者はおろか、漫画読者も気づかなかった「事実」がそこにはあったのです。確かに、そこに関わる違和感はなくはないストーリー進行でしたが、今まで描写されていない真実が本人の口から明らかになるシーンはその小さな違和感たちを端から回収し、鳥肌が立つほど美しい伏線回収となりました。そうなると今までスルーしていたまだ解決されていない小さな違和感が気になるもので、この先の展開を期待させます。これらがどのようにアニメ化していくのか、今からとても楽しみです。

 『黒執事』は連載中の作品であるので、この先どのように伏線が張られ、回収されていくのかとても気になります。また今回はこれを紹介するにあたって、極力ネタバレを避けることで伏線回収の鮮やかさをぜひとも体感してほしいと思っています。この作品の美しすぎる伏線回収は、シエルの暮らしぶりやこの時代の英国貴族の華やかさを体現しているようで、ダークファンタジーの世界観ともマッチしています。ぜひ時間のある時夏休みにでも見たり読んだりしてみて下さい。『黒執事』の緻密な世界に引き込まれることでしょう。

『リーガルハイ』の面白さ

遠藤彩乃

『リーガルハイ』の面白さ

遠藤彩乃

弁護士の話ってよくあるけど…

 私が今回紹介したい作品は『リーガルハイ』というドラマです。このドラマは放送当時とても話題になり、続編もいくつか作られた為知っている方も多いのではないでしょうか。ではここで簡単にこのドラマの概要を説明します。
 『リーガルハイ』とは一言で言うと「コメディタッチな弁護士ドラマ」であり、毎回依頼者から大金を巻き上げ、勝つためにはどんな手段をも厭わない弁護士・古美門研介(堺雅人)と、真面目で正義感が強く、古美門から朝ドラヒロインとも揶揄される黛真知子(新垣結衣)を中心に毎回様々なドタバタ劇を繰り広げます。「弁護士ドラマ史上、最も笑える」という謳い文句の通り、笑って笑って笑いまくって、でもたまにハッとさせられる、そんな『リーガルハイ』の脚本の良さを紹介します。

コメディとシリアスの融和性

 『リーガルハイ』の脚本の特徴は、大きく分けて二つあります。それは「コメディパートの吹っ切れ方のひどさ」と「現代社会に対する強烈すぎる皮肉」です。
 一つ目の「コメディパートの吹っ切れ方のひどさ」について注目してみると、まず裁判の内容が所々尖っていてかなり面白いです。 純美人な嫁が欲しかった夫による妻の整形疑惑における離婚調停、(恋愛関係において)ファンを騙したアイドルへの慰謝料請求、方言のクセがあまりにも強すぎる田舎での住民訴訟など、思わず視聴者の口が開きっぱなしになってしまうような裁判が随所に散りばめられています。
 そして特に注目すべきなのがパロディの多さです。かなり大々的に分かりやすくやっています。例えば『金八先生』『北の国から』『水戸黄門』『白い巨塔』など! そしてその中でも一番話題になったのが『半沢直樹』パロディです。当時、『リーガルハイ』第二シーズンが始まる前にやっていたのがあの大ヒットドラマ『半沢直樹』でした。その後すぐに、第一話でなんと古美門研介(堺雅人)が半沢直樹(堺雅人)の有名な台詞に寄せた発言をします。以下がかなり話題になったその台詞です。
「やられたやり返す、倍返しだ!」(半沢直樹)→「やられてなくてもやり返す、身に覚えのないやつにもやり返す、誰彼構わず八つ当たりだ!」(古美門研介)
 そもそも古美門研介自身が偏屈で毒舌、長ゼリフを早口でまくしたてるというかなり強烈なキャラクターな設定にしてあるため、コメディもその分かなり強烈に脚本で描いています。

 二つ目の「現代社会に対する強烈すぎる皮肉」についてですが、コメディパートとは打って変わり、かなりシリアスで凝った古美門の台詞が脚本で描かれています。実際、先ほど述べた整形やアイドルを取り上げた裁判は実際にニュースになっていたことを参考にしています。それ以外にもいじめ問題や世論という同調圧力問題などを古美門の長台詞に乗せて痛烈に皮肉る脚本になっています。印象的な台詞をいくつか紹介します。
①「いじめの正体とは一体何でしょう?(中略)多数派は常に正義であり、異を唱える者は排除される。いじめの正体とは空気です。」
②「民意なら正しい。皆が賛成していることなら全て正しい。ならば、皆で暴力を振るったことだって正しいわけだ。(中略)本当の悪魔とは巨大に膨れ上がったときの民意だよ!」
 これらはごくごく一部であり、まだまだ聞くべき名台詞がたくさんあるのでぜひ自分自身で確かめてみて下さい。
 このように、『リーガルハイ』は尖り過ぎたコメディと尖り過ぎたシリアス両方を上手に混ぜ合わせ、融和させているかなり完成度の高いドラマになっています。もちろん出演者の方々の演技が上手だということもありますが、クオリティの高い脚本があるからこそ、ここまで人気が出た伝説のドラマになったのでしょう。

脚本の凄さ

 『リーガルハイ』の魅力についてごく簡単に説明しましたが、まだまだ注目すべきポイントはたくさんあります。そして何より、誰が見ても必ず面白いと思わせてくれる脚本の凄さは、実際にご自身で見て実感してほしいです。
 ちなみに、今回紹介した『リーガルハイ』を書いた脚本家、古沢良太は『ALWAYS 三丁目の夕日』『コンフィデスマンJP』『デート~恋とはどんなものかしら~』など、話題作を続々生み出している話題の人です。気になった方は、ぜひ他の作品も手に取って見てみて下さい。

参考
①Media Box ドラマ『リーガルハイ』の本質を突く名セリフ・名言集          https://www.media-boxs.com/archives/337
②テレビから学ぶ格言がある☆ 大逆転!民意とは?本当に恐ろしいものとは?リーガルハ イPert9
https://kakugentv.hateblo.jp/entry/2018/10/06/120000

脚本で選ぶ!!私だけの「推し作品」

2021年7月9日 発行 初版

著  者:あつ丸/John./はるくら/ウユニ塩湖/遠藤彩乃
発  行:二松学舎大学

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本田

二松学舎大学文学部国文学科

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