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手首から、花束を咲かせて。

「糸」

群青出版



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きみは、

手首から花束を咲かせて、

いつか、

ひとつの花になってしまうのでしょう。





詩「きみと花束」




屋上から金魚を見下ろして、

ひとつ、ひとつ、

色を探して。

きみが、八月に飲み込まれてしまう前に。






詩 「屋上と金魚」




海を溺れて、

わたしは無色透明のまま、

泳ぎ方を忘れた命で、 海を溺れて。






詩「溺れ。」




早口言葉できみを語って、

もう夜明けには戻れないし、

命の形では無くなったやさしさを

そっと撫でて。






詩「命を撫でて。」




命の味を忘れてしまって、

きみは、人の形を忘れてしまって、

そんな夜明けをただ、

愛することしか出来ない、わたし。






詩「夜明けをただ」




きみは、透明で、

ほんとうに、透明で。

そうして幾つ命を潰せば、

わたしはわたしになれるのでしょうか。





詩 「きみは、 わたしは、 」




この両手いっぱいの空を抱き締めて、

愛してる、 なんて呟いて、

少女は、人魚の夢を見る。





詩「人魚の夢」




生きているような顔をして、

街は夜の中、

わたし以外が光る夜の中。





詩 「夜の中へ」




綺麗な花が咲いて、

わたし、もう死んでしまっても、

誰も気付かないでしょう。

綺麗な、花は、咲いた。





詩「綺麗な命」




夜が勝手に光るように、

花が勝手に咲くように、

命は呼吸を続けて、 きみは、

今日まで生きていたのでしょう。





詩「誕生日」




歪んでしまった、

命のかたちが、 歪んでしまって、

それでもきみを好きだと言って、

空気の味をわたし、知りました。





詩「愛歪」




きみの耳の穴から夜を覗いて、

遂に目が合ってしまったね、

声は枯れたまま、

わたし、愛をなぞって。






詩 「ピアスと夏」




わたしの、単語と、単語の、

ほんのすこしの、

隙間を愛して。





詩 「隙間」




壊れるくらいに愛してしまったら、

かわいそう、愛が、 かわいそう。

手のひらはあなたを探して、

迷子になってしまって、かわいそう。





詩「哀想」




レジ袋の中に大人を詰め込んで、

夜だけの化粧で白線の外側、

引いた口紅だけが色付いて、

相変わらず夜の中。





詩「夜化粧」




わたし、 夢の中でだけ、 空を飛べるの。

人の命は一度きりだから、

だからわたし、

夢の中でだけ、





詩「夢宙」




青くなければ、死んでしまえ、

一瞬の埃の煌めきのように、

どうか衝動的に死んでしまえ。

せーの、で青くなれない命なら。





詩「青く死んで」




白色が好きなあの子は言いました、

恋から一番遠い場所で、

流れるひこうき雲に揺らぎながら、

わたしの好きなあの子は。





詩 「ひこうき雲」




ただ、ただ、命で、

どこまで飛んでいってしまうのでしょう。

脱ぎ捨てた羽根を置いて、

ただの命はどこまで飛べるのでしょう。





詩「脱皮」




わたし、

口の中で腐ってしまった

言葉たちを繋げて、

星を作るの。





詩「部屋と星座」




漏れ出したのは色色、

色とりどりの神様の涎に塗れて、

ひとりきりの孤独にも慣れて。





詩「神様色々」




指先から言葉を放って、

春の先端に触れて、

どうかきみの幸せが浮かぶ夜。





詩「旋律」




涙は空を浮いて、

誰も悲しみませんように、

願っては

左手の寂しさを想う雨の中。





詩「願ってる」




きみが生きているこの世界が、

いつか、きっとバラバラになってしまって、

その時手のひらに残った一欠片に

「空」 という名前を付けましょう。





詩「空」




わたしだけが消える街。

知らない星の言葉で語られる愛は、

とってもかわいくて、

やっぱり、わたしだけが消える街。





詩 「わたしと街」




等間隔で離れた幾つかの命に、

誰かが名前を付けて、

愛したふりをするのです。

そうしてきみは息をするのです。





詩「きみが息をして」




わたし、月のはじまりに立って、

指先から星は飛んで、

遠く、遠く離れたきみのもとへ。





詩 「月ときみ」




きみが気付くまで

叫び続けた喉の寂しさに触れて、

隠せない花束いっぱいの深夜に溺れて。





詩 「花束と夜」




きみの聴いていた音楽が、

ちょうど空の真ん中で

バラバラに散ってしまって、

夏の嘘に殺されてしまわないように

きみとわたしは、




詩「夏の嘘」




月の裏側にはわたしの名前を書いて、

一生、 もう誰も忘れませんように、

願っては消える八月の雨のようで。





詩「月の裏」

手首から、花束を咲かせて。

2021年8月10日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版
表  紙:吉村淳

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「糸」

詩。いのちのこと。Twitter:@ningen_ito

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