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父、ザーギンの元で剣の技術を磨くハザードとその幼馴染カインは、女神リュージェのご加護の下、旅立ちの時を迎える。
二人に待ち受ける幾多の試練とその先に待つ伝説の物語。
あなたに伝説の行く末をご覧に入れましょう――。




  この本はタチヨミ版です。

 目 次

第一章 旅立ちの時

第二章 新たな出会い

第三章 旅の仲間

第四章 さらに強く

第五章 七色の力

第六章 それぞれの過去

第七章 伝説の行く末

最終章 その後

あとがき

第一章 旅立ちの時

 時は一八XX年。小さな村の教会には子供たちが集まり、神父の下で今日も安心して一日が過ごせるようにと祈りを捧げていた。神父が祈りを捧げる先の女神像には、月に向かって剣を持つ一人の女性が佇む姿がある。
「リュージェ様、今日も一日、このコルコット村にご加護を」
 神父はその女神をリュージェと呼び、胸に持っていたロザリオで十字を切った。その場にいた参列者たちも一緒に十字を切る。
「ハザード、カイン。剣道場までダッシュだ! 行くぞ!」
 祈りの時間が終わると同時に服を脱ぎ、さらし姿を見せるとその、体中に傷を負った男が背中に剣を携えて、教会から駆け出す。
「待ってよ! 父さん! まだリュージェ様に祈りが届いていないよ」
 赤い服を着て背中には体より少し大きい剣を差した子供が先ほどの男に弱音を吐く。
「ハザード、先に行くぞ。俺はリュージェ様のご加護は頂いた」
 赤い服の剣士をハザードと呼んだ青い服に身を包みピンクの柄の剣を腰に据えたハザードと同い年くらいの剣士が彼の横を駆け抜ける。
「待ってよ! カイン! 二人して置いてかないでー!」
 ハザードの嘆きの声に二人は見向きもせず剣道場へと向かう。ハザードもそれを必死で追いかけた。
――剣道場。
「おはようございます! ザーギン師範!」
 ハザードとカインを引き連れて走っていたさらし姿の男はザーギン師範と呼ばれ慕われている。
「頑張っているな。感心なことだ。皆、これより実践形式での稽古を行え! 配置につき、始め!」
 ザーギンの一声で訓練生は隣にいる訓練生同士で剣を交え始める。
「さて、ハザード。俺たちもやるか」
「カイン。お手柔らかにね」
 ハザードとカインも剣を引き抜く。
「ちょっと待て! 二人とも!」
「え?」
 不意にかかった大きな声にハザードとカインの交わろうとしていた剣が止まる。その大声に他の訓練生の剣も一瞬にして止まり、剣道場は硬直状態になった。
「ハザードとカイン。お前たちはもうお互いのレベルを知り尽くしているだろう。今、何戦何勝だ?」
 ザーギンはハザードに問いかける。
「七〇勝七〇敗です」
「それは五分五分ということだな」
 ハザードは「はい」と頭をかいた。カインは剣を一度、鞘にしまう。
「今日、勝って五分じゃないようにします」
「まぁまぁ。そういうな。カイン。俺が二人に聞いたのには理由がちゃんとある。みんなにも聞いて欲しい!」
 ザーギンの言葉に、素足で面と胴着を身につけ、竹刀を手にした訓練生がザーギンたちの周りに集まる。
「今、この剣道場で一番、力があるのは誰か分かる者はいるか?」
 ザーギンの問いかけに剣道場の訓練生がざわざわとし始める。「カインさんだろ?」「いや、ハザードさんじゃないか?」色々な言葉が飛び交う。
「そうか。みんなの意見も割れているか。それなら誰が一番強いか決めてみようじゃないか!」
 ザーギンの言葉に訓練生のざわめきはさらにヒートアップする。
「俺、カインさんとは戦いたくないぜ」
「俺だって」
 そんな声が飛び交うとカインとハザードは剣を抜き、「臨むところだ」と声を揃えた。訓練生たちは「棄権します」と誰一人、二人と戦おうとはしなかった。結局、ハザードとカインの二人が残った。これでは誰が一番かなんて決めようがない。そう思ってしまうのも無理はなかった。
「そうか。カインとハザードは五分の実力だ。それなら、二人で私にかかってこい。一度でも私に傷をつければ二人共に栄誉として、この剣道場の宝物庫にあるコルコット村に伝承されるコンコルドソードを授けよう」
「なっ!」
「コンコルドソードを?」
 ザーギンの言葉にさすがの二人もビックリせざるをえなかった。「コンコルドソード」これはコルコット村に伝わる神様リュージェが携えていたとされる剣だった。誰も触れることは許されない剣で、剣道場の奥深くに眠っていると言われていた。その剣を授かれるというのだ。嘘のような話でにわかに信じがたかった。
「おいおい、もうもらった気でいるのか? 俺も見くびられたものだな。俺に傷をつけれると?」
 そうだ。ザーギンに剣を当てればの話だ。剣を交えるだけで、いっぱいいっぱいで、おそらく身体には当たらないだろう。それでも「コンコルドソード」は拝みたい。こんないい話はもう二度とないかもしれない。
「カイン!」
「ハザード!」
「やってやろうじゃないか!」
 二人の声が呼応した瞬間だった。剣を引き抜くと、ザーギンも剣を構える。カインはザーギンの左から、ハザードは右から攻撃を仕掛ける。ザーギンは剣が自分の近くにやってくるのを見計らって後ろに身を引く。すると、カインの剣とハザードの剣が当たり、金属音が剣道場に鳴り響く。
「うっ」
「くそっ!」
 初歩的なやりとりでザーギンは攻撃をかわす。ザーギンはすぐさまカインの後ろに回り込むと、頭に剣を当てた。
「カイン、お前の命はもらった」
「カイン!」
 ハザードはカインを援護しようとザーギンの方へ剣を持って一直線に走り込む。ザーギンはカインの身体でハザードの剣を回避し、自分の剣をハザードの頭の上に置いた。
「ハザード、お前の命ももらった」
 こうして、ザーギンは二人の命をいともたやすく頂いてしまった。剣道場は訓練生からの拍手と歓声で大いに盛り上がった。

「にしても、ザーギンさんの剣術はさすがだったな。ハザード」
 カインは服を拳法着から普段着に着替えながら、自分の剣を磨く。このコルコット村で剣を扱えるのは、カインとハザードのみだ。剣術ランク星五にならないと竹刀から持ち替えることは出来ないからだ。そして、それを扱える場所も剣道場のみとされている。カインに話しかけられたハザードは、「うん。父さんは一体、どこであんな技術を身につけたんだろうか?」とカインと話していた。
 ハザードはザーギンのことを父と呼んだ。

「ザーギンさん、どうして二人にリュージェ様の伝承の剣であるコンコルドソードのこと話したのですか?」
 剣道場の騒ぎの後、ザーギンは二人に力を見せつけてから教会へと向かっていた。神父はザーギンに問いかけた。
「リュージェ様の存在が本当だったということを二人に知って欲しかったのです。リュージェ様の伝説と共に」
 ザーギンは神父とリュージェ様の伝説について、振り返り始める。
「リュージェ様は荒野を一人で月を目指して旅立った。彼女はルリジオンという宗教を信じて、女神デーア様のご加護のもとコンコルドソード一つを携えて。そして、リュージェ様はこのコルコット村の地に降り立ったとき、デーア様に出会い、コンコルドソードと引き換えに女神の座を交代したとされているのですよね」
 神父はそこまでザーギンに話すと、ザーギンはリュージェ様に祈りを捧げる。
「リュージェ様は女神デーア様と何を話したのでしょうかね? コンコルドソードを授かって女神を交代するとは」
 ザーギンは神父に疑問を投げかけるが、神父は「そうですね。なぜですかね?」と首をかしげた。
「まぁ、現代ではデーア様ではなく、リュージェ様がこのコルコット村の女神様です。信仰宗教は昔と変わらずルリジオンですしね」
 神父はそう言って、ステンドグラスの上で大きく佇んでいるリュージェの女神像に目を向ける。
「ルリジオンの発祥について聞いても良いですか?」
 ザーギンは神父にここぞとばかりに質問していく。
「ルリジオンの発祥は、デーア様が恋人カエサル様と共に訪れたこのコルコット村の泉にあると言われています」
「泉? あの小さな泉ですか?」
 確かにこのコルコット村の中心には小さな泉が位置している。子供たちが遊び場にすることが多いため、ルリジオン発祥の地とはなかなか考えがたい。
「そうです。あの泉は元々ルリジオンという名称でした。今でもその名残を受けてジオニクスと呼ばれているのはザーギンさんも知っておられるでしょう?」
「確かに。しかし、ルリジオンの名残とは初耳です」
 ザーギンはあの小さな泉、ジオニクスが宗教ルリジオン発祥の地だとは考えもつかないと思えて仕方なかった。
「あのジオニクス、いや、ルリジオンの泉からデーア様とカエサル様の愛が生まれたと言われているのです。そうして、その愛の伝説からルリジオンがこのコルコット村の信仰する宗教となったのです」
 神父はステンドグラスの光が入る位置から燭台に火を灯し、女神リュージェの後ろ姿に灯りを点けた。
「ありがとうございます。神父様。色々なお話ためになりました」
 ザーギンは神父にお礼を言うと、剣道場へ戻ることにする。コンコルドソードはまだザーギンでも扱うのは困難であると思っているのだ。さすがはリュージェ。あの荒野を一人、コンコルドソードを携え、突き進んだのから。
「おい。カイン! これが見えるか!」
「ハザード! よせ! お前の剣では俺には敵わないさ!」
 剣道場では二人の大きな声が響いていた。ザーギンはやれやれと剣道場の扉を開ける。
「二人とも! まだ着替え終えて帰っていなかったのか! さっさと帰らないか!」
「うわっ! 父さん!」
「ザーギンさん!」
 ハザードは急に現れた父の姿に、カインは先ほど命を奪われてしまったザーギンの顔を見て、ビックリしてしまう。
「何を遊んでいるんだ?」
 ザーギンは剣道場の面ピットや竹刀を片付け終えていない二人の様子を見て、深いため息をつく。
「いや、自主練です」
「う、うん。そうそう。練習は大事!」
 二人はそう言いながら、剣道場の出入り口に向かってじりじりと下がってゆく。
「二人とも練習は大事だが、剣道場を汚したままにするのはどうかと思うのだが……」
 ザーギンの目がギラリと光り、にらみつけられるのを確認すると、二人は一目散にその場から逃げるように剣道場を後にする。
「ごめんなさい!」
 二人は「はぁはぁ」と、息を切らしながら、小さな泉「ジオニクス」の前で少し休憩する。水を頭からかぶると、泉の水をごくごくと飲んだ。
「ヤバかったな。ハザード」
「カイン。僕たちの腕もまだまだ上達してないのかな?」
 カインは顔を洗うと、「プハー」と声を出した。
「バカ言うなよ。力はついてるさ。ただ、ザーギンさんは強すぎる。まぁ俺らの師範だし、ハザードの父さんだ。強くて当然! 認めてもらうまで頑張るだけだ!」
 カインの言葉を聞いたハザードはまだ認めてもらえない自分の剣術の実力に少し不安というよりも嫌気がさしていた。

「で、ザーギンさん。二人を連れて村を出て行く予定ですか?」
 ザーギンは再びリュージェの女神像の前で佇んでいた。それを見た神父は声をかける。
「あいつらも剣術がそれなりに上達したと私も先日のやりとりで感じ取りました。村を出て行くには、あいつらにとっても、ちょうどいい年頃だと思いますからね」
 神父は胸のロザリオを持ってリュージェ像に向かい、十字を切った。
「神父様、コンコルドソードのこと、よろしくお願いします」
「わかりました。リュージェ様のご加護がありますように」
 ザーギンは神父にそう言うと、共にリュージェ像に向かって、祈りを捧げた。
「うわー!」
 突然聞こえた悲鳴に二人は驚く。
「何事!?
 神父は教会の外に走り出そうとする。それを見たザーギンは、とっさに言葉を発する。
「神父様はこの場に! 悲鳴は村の奥の方。私とハザードの家の方です。向かいます!」
 ザーギンの言葉に神父はその場に留まり、ザーギンは教会を後にする。
「ハザード。カイン。二人はまだ剣道場か? 無事でいてくれ」
 ザーギンは悲鳴があった自宅の方へその足を速めた。

 ハザードは自分の家に帰ろうと、カインと二人で歩いていた。
「カイン。俺たちは父さんと一緒にこの村を出て行くことがあるのかな?」
 ハザードは自分の腕に自信はまだまだないものの父ザーギンと幼なじみのカインと共にこの村を出て、冒険に旅立つ日のことを夢に見ていた。
「そうだな。だけど、俺はザーギンさんの力なしで、お前と二人で……」
 次の瞬間、ザーギンが聞いた悲鳴を二人も聞くことになった。
「今の悲鳴!」
「うん。うちの方角からだ! 急ごう! カイン」
 二人はハザードの家に向かって走り出す。

 ハザードとカインはザーギンよりも早く悲鳴がした場所へ着いた。
「ハザードさん! カインさん!」
 悲鳴を出していたのは、ハザードの家の向かいに住むエドワードだった。
「エドワードさん、大丈夫ですか?」
 エドワードは竹刀しか武器を持っていない。その武器では太刀打ち出来ないことが見て取れた。
「あぁ。でも、あいつ。僕たちを襲ってきたあいつはとてもじゃないけど、普通じゃなかったよ」
「そいつはどこへ?」
 エドワードの言葉にカインが問いかける。
「剣道場の方へ向かったよ。だけど……」
「急ごう! カイン!」
「あぁ!」
 二人はエドワードの言葉を最後まで聞く前に剣道場に向かって走り始める。
「あ、二人とも!」
「大丈夫! このために今まで修行してきたんだから」
 エドワードの言葉にハザードは大きく声を上げて返事をした。
「気をつけるんだよ」
 エドワードは小さく言葉を漏らすだけに留まってしまう。
「カイン。相手はどんなやつか分からない。油断しないでいこう」
 ハザードはカインに慎重な面持ちで語りかける。
「あぁ。でも、ようやく俺らの力を出すいい見せ場がきたんだ。ワクワクしないか? ハザード」
「今、油断しないでいこうって言ったばかりだろう! でも、カイン。君の言うとおりだ。父さんには負けたけど、この村じゃ負けなしの僕たちの力試しにはちょうどいいかもね!」
 ハザードもカインも大変な状況だというのに、どこか余裕を見せていた。それは今まで剣道場で自分たちより強いものと戦ったことがなかったことと、得体の知れない何かと戦うことへの好奇心が優位になっていたことの証拠だった。
「ハザード、剣道場はもうすぐそこだ!」
 カインは剣道場が見えかかったところでハザードに声をかける。
「よう!」
「え!?
 ハザードはふいに声がした方角へ顔を向ける。カインもハザードが歩みを止めたのを確認すると同時に声の主が木の上に座っているのを確認した。声の主はギザギザの髪型に特徴的な八重歯。そして、鞭のように曲がっている剣を手にしていた。
「よっと!」
 木の上から降りてくると、二人の前に立ちはだかる。
「お前、何者だ?」
 カインは慎重に言葉を選ぶ。
「おやおや、その鞘はもしかして、一丁前に剣を持っているのか。ガキのくせに生意気だな」
「な、なんだと!」
 ハザードは少しムキになる。この村では言わずとしれた剣士なのだ。それなのにどこの誰かも分からないやつに「ガキ」などと言われ、その上、「生意気」だと言われたのだ。黙っているわけにはいかない。
「待て、ハザード。こいつの挑発に簡単に乗るな。相手の思うツボだ」
 カインは少し冷静さを取り戻すようにハザードをなだめる。
「だけど、カイン!」
「グダグダ言ってねーで! その剣を俺様に振るってみやがれ!」
 二人が構える前に鞭のように研ぎ澄まされた剣が二人に襲いかかってくる。二人はとっさに剣を鞘から引き抜くがタイミング的に間に合わない。
「おりゃー!」
「くっ!」
 二人はここまでかと思った次の瞬間、剣と剣が合わさる金属音が鳴り響く。
「無事か? 二人とも」
 そこに現れたのはザーギンだった。
「父さん!」
「ザーギンさん!」
 ハザードもカインもホッと胸をなで下ろした。それを見ていた鞭の男は剣を自分の手元に戻す。
「ザーギン! 探したぞ。やはり村に帰っていたんだな。それにその二人は……」
 ザーギンは男が全て話し終える前に言葉を遮る。
「アラン! 貴様、何の用だ! 二人は私の大事な息子とその相棒だ。二人に手を出すというなら私が相手をしてやる! どこからでもかかってこい!」
 ザーギンの剣は七色の光を帯び始める。アランと呼ばれた男は鞭を地面に叩きつけると、ザーギンに対する言葉が荒ぶる。
「何が大事な子供だ! そいつらはお前の……」
「問答無用!」
 アランの言葉に対応する前にザーギンはその剣をアランに向かって振りかざす。
「くっ! そういうことなら、やってやるよ! そして、あの二人をあんたから解放してやる!」
 アランはそう言って鞭を再び叩きつけると七色に発色させる。
「ハザード、ザーギンさんもあのアランってやつも剣が光ってる。何か術でも使ってるのか?」
「いや、分からない。あんなの初めて見るし、父さんが本気でやりあっているのを見るのも初めてだ」
 ハザードとカインは物陰に隠れて、その様子を見ていたため二人の会話は聞こえていなかった。それでも剣が発色して二人がやりあっているのは、はっきりと見えていた。
「やるな。アラン。会わないうちに剣の腕を上げたか?」
 ザーギンはアランの剣術に少し驚いていた。
「バカを言うな。貴様の腕が落ちただけじゃないか! 一つ聞きたいことがあったぜ。貴様に会ってな」
「なんだ? あの二人のことなら話すことはない」
 アランは少し剣を下げて、ザーギンと距離を置く。
「フッ。そんなことではない。コンコルドソードのあり場所だ。この村にあるんだろう? お前がここにいること。そして、あの二人がここにいるってことは」
 ザーギンは、再びアランに向かって剣を振り抜く。とっさにアランはそれを避けるので精一杯になる。
「コンコルドソードについても教えるつもりはない。去れ。ここは貴様が来る村ではない」
 ザーギンはそう言って一振り。「マーレンフィッシャー!」とアランに言い放った。
「ふぅ。去ったか。アランがここまで来るとはな。しかも、コンコルドソードを狙いにとは。うかうかしていられないな」
 ザーギンの心には、少しこのコルコット村に予期せぬ事態が起こるかもしれないと不安がよぎっていた。

 コンコルドソードの在処。アランの襲来。これから起きることの予兆にしては出来すぎていた。ザーギンはこの場所を離れることは出来ないと思っていたが、アランの目的はコンコルドソードだけではないような気さえもしていた。ハザードとカイン。この二人に隠された秘密さえも知っているアランだからこそザーギンの元へやってきた。それは考えすぎている気もしていたが、二人の存在を知られた今、再び襲来してくるのは時間の問題なように思えた。
「ハザード、カイン! 出てこい!」
 隠れて見ていることを感じ取っていたザーギンは二人に声をかける。
「父さん。アランは?」
「撒いたようだ。それより、大丈夫か?」
 ハザードとカインに怪我がないことを確認してホッと胸をなで下ろす。
「あいつ、なんなんですか?」
 カインがザーギンの顔を見て、質問をする。
「あいつは俺の悪友だ」
 ザーギンは刃こぼれした剣をスッと撫でる。
「悪友?」
 今度はハザードがクエスチョンマークを投げる。
「そうだ。それよりもあいつがまたいつこの村を襲ってくるか分からない。その前に二人にやってもらいたいことがある」
 ザーギンは悪友という言葉の真相を語らずに二人にお願いしたいことを先に告げようとする。二人も「悪友」に引っ張られそうになったのだが、ザーギンからのお願い事に胸を踊らされる。
「アランの襲来があった以上、私はこの村から離れることは出来なくなった。そこで、二人にはアランがまた来た際に私に加勢をして欲しい」
「俺たちが、ザーギンさんの力に……」
 カインは嬉しさよりも戸惑いすら感じてしまう。
「カイン。俺たちも父さんの力になれるんだ! 父さんの言うことをここは静かに聞こう」
 ハザードはザーギンの指示に従うことを薦める。
「あぁ。ザーギンさん。俺らはどうすれば?」
「ありがとう。二人とも」
 ザーギンは再びホッとする。
「俺はコンコルドソードやこの村を守るため動くことは出来ない。二人はこれから旅に出て欲しい」
 コルコット村にある宝物「コンコルドソード」、そして、アランの襲来から村を守るためにザーギンの力はもう借りられない。ザーギンに加勢するためにも二人は自分たちの剣術の腕を上げる必要があると認識したのだ。



  タチヨミ版はここまでとなります。


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2021年11月18日 発行 初版

著  者:兼高 貴也
発  行:無色出版

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兼高 貴也

1988年12月14日大阪府門真市生まれ。
高校時代にケータイ小説ブームの中、執筆活動を開始。
関西外国語大学スペイン語学科を卒業。
受賞歴:
2013年12月文芸社主催
『闘病記Ⅳ~日々是好日~』
2019年 9月文芸社主催
『第二回人生十人十色大賞』
主な著書:
長編小説
『突然変異~mutation~』、『ホカホカ物語』、『LSCO~大規模犯罪組織~』、『魅惑のコンタクトレンズ』、『【RE:】DIAMOND of BLESS』
中編小説
『スタート~始まりはここから~』
短編小説
『ショートショート傑作選~ココロ揺さぶる物語~』、『月刊無色 創刊号~六月号』
エッセイ集
『エッセイ集~ココロ揺さぶるコトバ達~』

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