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ケルビム

Y

LAY-RON出版



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  この本はタチヨミ版です。

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神の姿を見れる俺に6つの翼がある。ふつうは2つの翼が与えられるから特別視されがちだけれど、きちんと理由があってそれは別に特別に神に愛されていたわけではない。だれしも役割に必要な才能が与えられるだけであってそのどれもが特別ではない。
俺の場合、飛ぶための翼がふたつ、神の御前にいつもいるから足を見せないように翼がふたつ、そして神の御顔を直接見ると天使でさえも目がつぶれてしまうから目を覆うために翼がふたつ。ね?きちんと体のつくりには理屈があるんだ。しかも優しい理屈が。
俺が人間として地球に誕生した時、平均的な男性の身長よりも低かった。顔はまあふつうに良かったし、音楽の才能もあったからロックバンドを組んでいた。人気も出たし、女性にもモテた。それがある日ご神託を受けて、人間ではなくセラフィムだってことを思い知らされたんだ。力を込めれば肩甲骨から翼が飛び出してきた。変容する自分の体に抗ったんだけど、そしたら死んじゃった。そんなことってあるかよ!!ってかなりキレた。幽体離脱みたいに、世の中の動きを空の上から眺めていると、世間はまあ好き勝手なことを言った。死人に口なしとはこのことだと思った。死んだ俺はケルビムの姿に戻って、多くの天使たちが既に俺に仕えていたから、もう何も言う気のうせてしまったけれど。
そんなわけで、俺は神の御前に来た時に、まず文句を言ってやろうと思ったんだ。でも言えなかった。神々しいっていう言葉以外に言葉がみつからずに戸惑うほどに感動した。温かくすべてを凌駕する愛に俺はすぐにすべてを捨てられたことを感謝したくらいだ。
転生という言葉もあるけれど、俺はまさに転生した。見た目も役割もまるで別人になってまた地上に落とされた。指令があった。ケルビムを探して天上に上げろっていうね。

顔写真ではなく言葉による案内だから俺は困った。ケルビムは顔が四つ、翼が四つ手はある。モンタージュ写真のひとつもなんでないんだと聞いてみると、神は言であると言われたからそれ以上文句も言えなかった。
人間に顔が4つあるのは理解ができた。喜怒哀楽だ。たぶん気性の激しい人なのだろう。翼が4つというのはどういうことか測りかねた。だから死ぬ前の俺にどんな6つの翼があったかを考えた。神の顔を直視しないよう、足を隠すよう、空を飛べるよう、そうやって俺には6つの翼があった。神の顔を見ないよう俺は色網を患い、足を隠すために足にのみ斑点が出現した、そして空が飛べるために芸術の才能を授かった。なるほど。
4つ翼は何のためにあるのだろうかと聖書から答えを求めた。創世記だけ読めばいいかとたかをくくっていたものの、そういうわけにもいかなかった。きまぐれに開くページにもケルビムは散見した。聖書は44巻からなるが全部読破して、自分の頭の中に一言一句忘れないように叩き込んだほうがこの先仕事が早いと感じた。

地上に落とされて四十日四十夜俺はひたすら聖書を読みこんだ。来る日も来る日も暗唱するように、音楽にのせて。讃美歌を歌うことも有効だった。お経のようにリズムを作って暗唱したりもした。
すると不思議なことに四十夜目に聖霊がくだり、すべて暗記できたことを気づかされたのだ。三十九夜目の明け方に神にすがり祈ったことが功を奏したことは、ケルビムを探しはじめて2年目の冬に気が付くことができた。俺の2回目の誕生日はが過ぎて、4か月目のことだった。
二回目の地上ではあらゆる数字がヒントになることを実感した。4という数字が俺の身の回りを取り巻けばそれは変革の時期だったし、1という数字が取り巻けば、新しい章へのいざないの時期だった。数字は神の言葉である、そう聞いたことがあるからまた聖書を見直してみると不思議な一致にまみれていて、今度は面白くなって自分から規則性を探そうと読む耽っていた。規則性は3の倍数であることが多かった。三位一体の神を考えるようになって、原点の創世期に舞い戻ってみると、そこにいたケルビムがアダムとエバを見送るように厳しい視線を向けていることに気づかされた。
俺は理解した。
ケルビムはカップルのそばに必ずいる。喜怒哀楽が激しい存在。男か女かわからないけれど、嫉妬を共にしているかどうかわからないが、とにかくカップルに対して厳しい視線を向けている存在の中にケルビムが潜んでいると確信した。



  タチヨミ版はここまでとなります。


ケルビム

2021年11月30日 発行 初版

著  者:Y
発  行:LAY-RON出版

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