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この本はタチヨミ版です。
狂う民
北京では、リカが火の翼イーグニスと土の魔導書の二つの封印を解いていた。
「これで、サタナキア様の目的に近づくのね」
自分が役に立てることに喜びを感じるリカ。
「いいえ、正しくはルシファーの目的です。リカ様」
イーグニスが笑顔で訂正する。
「え?」
確かにルシファーを目覚めさせるということはそうとも言えるが、堕天使の言葉に不吉な印象を持つリカ。
「さあ、場所を変えて土の魔導書を解読しましょう」
土の翼ソイルが急かす。更にリカの中で不安が増大した。
(なんだろう、何かやってはいけないような気がする)
しかし、命令されたことを実行しなくてはならない。ソイルに従い、バルバトスの待つウランバートルを目指す。
「ウガアアアッ!」
突然、咆哮を上げながら悪魔達が襲い掛かってきた。
「今度は何!?」
驚いたが、大した動きではない。攻撃をひらりと躱して敵を観察すると、先程まで日常の生活を営んでいた領民であることが分かった。
「これは一体……」
倒すわけにもいかないので走って逃げると、すぐに追いかけるのを止めた領民は互いを攻撃し始めた。不気味だったが、ひとまず相手せずに出発するリカだった。
◇◆◇
「アヤナ、眠らせてくれ」
外の惨状を見た正就が、すぐに隣にいたアヤナに頼む。
「うん、任せて!」
アヤナが術を行使する。
【夢の世界】
上海で殺し合いをしていた領民達が、次々とその場に倒れ寝息を立て始めた。
「あら、良い術。私も使わせて頂くわね」
それを見ていたアスモデウスが、そう言って飛び立つ。
「手分けして領民を鎮めよう。行動不能にする術なら皆何かしら使えるだろう?
先ずはそれぞれの領地からだ。自分の領地を鎮めたら情報を共有したいので一旦北京に集まれ。文句は無いな?」
ベレトが集まった領主達に口早に指示を出す。特に異論は無いので全員頷き、自分の領地へと向かった。
「私の領民は暗示にかかっていないので、朝鮮方面へ向かおう。正就は日本へ向かってくれ」
オロバスがそう告げて出発した。
「うーん、ベレトって思ってたのと違うなぁ」
日本に向かって飛びながら、正就が呟く。聞いていた話の印象では暴君気質の領主というイメージだったが、実際に会って話をしてみると、発言には筋が通っており情を無視することもない。
「領主は基本的に生贄にされてここに来た仲間だからね」
梢を背に乗せたカトリーヌが近づいてきて、言う。以前梢に言われた言葉の受け売りである。
「ああ、そうだな。単なる競争相手で敵じゃないんだよな」
正就も、ずっとそう思ってきた。だが、それが自分の目的を見失わせている原因の一つだとも解る。自分が皇帝にならなくてもいいのではないか。オロバスでも、ベレトでも上手くこの世界を治められるだろう。そういう気持ちが、新たな領主に出会うたびに心の中で鎌首をもたげてきた。
(今は、そんなことを考えてる場合じゃない)
首を振り、心の迷いを吹き飛ばして日本に向かう正就だった。
◇◆◇
イギリス・ロンドン。
「ついにこの時が来たわ」
ルシファーが呟く。部屋の外では、ルキフグスが情報収集に走り回っていた。
「何が起こっているんだ!」
地獄中が混乱していた。領主達の争う東アジア地区だけでなく、世界中で悪魔達が狂ったように殺し合いを始めたのだ。
「ザガンだよ。動画配信の裏で暗示の術をばら撒いていた。まあ、影響があるのは下級悪魔だけだがね」
司令官アガリアレプトが、ルキフグスに教える。
「ザガンめ、なんということを! アガリアレプト、知っていたなら何故止めなかった?」
事態を把握していた様子の司令官に詰め寄る宰相。
「この間の会議でも言ったが、私は悪魔が悪魔として行動することに賛成なのだよ。君はこの地獄に天界のような秩序と安定をもたらそうとしているが、地獄は地獄だ。悪魔が神に反逆する気概を失わないためにも、地獄は混沌と闘争の世界であるべきだろう。人間的に言えば、臥薪嘗胆と言ったところか」
アガリアレプトの態度に、議論しても平行線のままであるだろうことを悟り、ルキフグスは追及を諦める。
「バエル、アガレス、マルバス! 民を鎮めに行くぞ!」
部下を伴ってルキフグスは政府を後にした。
香川・高松。
留守番のティアラは、主の戦いぶりを見せてくれるネットに夢中だった。同じく留守番のマツと共に、家事の合間にザガンの配信する戦争中継を見続けていた。
「皆さん本当に大変な戦いをしているんですね」
「帰ってきたらゆっくり休んで貰えるように支度をしましょうね」
そんな会話をしながら、観戦する二人。
だが、その日は何かが違っていた。
ベレトがフォルネウス軍を蹴散らす様子を見ているうちに、心の底から形容し難い感情が湧いてくる。
(何かしら……心がざわざわする)
それは激しい戦いを見ることによって生まれる高揚感とはまた違う、怒りや憎しみに近い感情。
「ねえ、マツさん」
異常を感じ、同僚に声を掛ける。
「……」
返事はなく、マツに目を向けるとその手には短剣が握られていた。ゆっくりと、ティアラの方に顔を向けるマツ。その目には明確な敵意が見て取れた。
真っ直ぐに急所を狙ってくる短剣の一撃を辛うじて躱し、再度呼びかけるティアラ。
「マツさん、マツさん!」
追撃をするマツ。その剣筋は鋭く、ティアラでは躱しきれない。
――殺せ。
ティアラの頭に何者かの声が響く。いつの間にか、自分も手にナイフを持っていた。
次の瞬間、二人は互いの胸部を刺し、共にその場に崩れ落ちた。
床には夥しい量の血が流れ、二人の救命が絶望的であることを示している。
遠のく意識の中、ティアラは自分の不幸な人生を思い出していた。
奴隷として生まれ、親からも疎まれ、生贄となってやってきた地獄でも盗賊に襲われ、バルバトスの奴隷となり、実に二百年もの間迫害され続けてきた。
だが、最後にこの地に来て、幸せな日々を過ごせた。
優しく手を差し伸べてくれた補佐官。肌の色も気にせず、他の者と変わらない態度で接してくれた少女。そして、いつも労ってくれる人格者の領主……薄れゆく意識の中にも、温かい気持ちが湧き上がる。幸せをくれた皆のことを思い、最後の力を振り絞って言葉を発した。
「領主様……みな、さま……あり、が……とう」
何処の地域も、地獄絵図だった。
「これは術による暗示ですね。私は暗示を解くことが出来ます。眠らせた後のことはお任せ下さい」
ククルカンがそう言うので、とにかく暴れている領民をどんどん眠らせていく正就軍。既に半数以上の民は死亡している。皆顔を顰め、術で生存者を眠らせていった。
「なんでこんなことに……」
テネブラエが涙を流しながら術を使う。正就は悲しむ仲間を気遣いながら、未対応の地域を指示していく。オロバスが対応しているが、元朝鮮領主のステラには朝鮮方面へ行くように言った。
全ての地域を鎮め、高松に戻った正就達は、ティアラとマツも含んだ多くの死者を簡易的に弔い、すぐに北京へと向かった。
「術を掛けた奴を、絶対に許さない」
サヤカが、怒りを押し殺した声で言った。
モンゴル・ウランバートル。
「この混乱はザガンが引き起こしたようだ。やろうとしていることは想像がつくが、今やるのは悪手としか言えないな」
サタナキアが部下達に状況を伝える。リカは土の魔導書に書かれた召喚の儀式を準備している。
「でもそのおかげで領主達が集まってくれました。私にとっては望ましい展開ですね」
イーグニスが薄く笑みを浮かべながら言った。
「それは、陛下のお言葉と受け取ってよろしいのですかな?」
サタナキアは、翼達が意識を共有していることを知っていた。
「知っていましたか。ええ、私はルキフグスと違って民を大切になんて思っていませんから」
平然と放たれる非情な言葉に、バルバトスやリカは違和感を覚えた。
「ザガンの企みは失敗するでしょう。ですが、彼の行いがもたらす結果は私やアスタロトにとって好都合でもあります」
「一緒にしないで欲しいものだ」
遥か遠く、アメリカの地でルシファーの言葉を聞いていた大公爵は、苦笑しながら独り言を呟いた。
最強の同盟
北京には、ベレト・オロバス・フォルネウス・正就とそれぞれの軍幹部が集まっていた。
「この事態はザガンが引き起こしたことなんだな?」
ベレトがオロバスに念を押す。オロバスは動画に暗示が隠されていたこと、配信していたのがザガンであったことを話した。
「アクアに術の妨害をしてもらっていたが、予想以上に術の完成が早かった。申し訳ない、やはり無理矢理にでも配信を中止させるべきだった」
各地の被害状況を聞いて、オロバスは後悔していた。
「オロバス様は悪くないですよ。私がそれを制止したのですから」
アクアがオロバスを慰める。
「……アクア」
テネブラエが、水の翼に疑わし気な視線を送り、小さな声で名を呼んだ。しかし、それで口を噤んでしまう。何か悩んでいるようだと正就は推察した。
「しかし、ザガンも領主だろ? なんで領民を虐殺するんだ」
正就はザガンの行動が理解できないといった様子で疑問を口にする。
「恐らく、今回のことはザガンにとって目的ではなく手段に過ぎないんだと思う。あいつは魔術師だ。この混乱した状況を利用して更に大それたことをしようとしているんだろう」
フォルネウスが正就の疑問に答える。
「これ以上大それたことって、一体何をするつもりなんだ」
非常に嫌な予感のする正就であった。
「我はザガンを討つ。お前達はどうする?」
ベレトが、きっぱりと言い放つ。それに対し、三人の領主達は顔を見合わせ頷き合う。
「言うまでもないでしょ」
正就はそう言って拳を前に突き出す。無言でオロバスが拳を合わせる。頷き、後の二人も拳を合わせた。
「よし、ザガンを仕留めるまではこの四人で同盟を組む。フォルネウスも自軍を率いろ、我が軍への編入はザガン打倒後でいい」
ベレトが仕切る。それに異を唱える者はいない。
(やっぱりリーダーシップを取るのも強さが大事だって分かるな)
こうして地獄史上最大にして最強の同盟軍が結成されたのだった。
「ザガンの一派に強力な転移能力を持つ女がいるみたいだが、誰か心当たりは無いか?」
続けて、オロバスがモンゴルで起こったことを話した。
「それは多分、ザガンの妻リリスだ」
サルガタナスがここで口を挟んだ。
「リリス?」
正就にとっては実に聞き覚えのある名前だ。ゲームや漫画で幾度となく目にしたその名前。思わず、マステマに顔を向けた。
「正就はよく知ってるね~。そう、おとーさんが作った娘だよ」
マステマは正就の言いたいことを察して答える。
「どれほどの力を持っているのだ?」
ベレトがサルガタナスとマステマに順番に視線を送り尋ねた。
「地球に行ける。それも大公爵よりずっと長い時間、パートナーも連れてな」
サルガタナスの言葉に、動揺が広がる。
「厄介だな。オロバスの軍を丸ごと転移させたように、突然地獄ですらない場所に飛ばされる危険があるということだ」
次元の狭間にでも飛ばされたら即全滅である。
「どうにかする方法はない?」
正就が尋ねると、マステマも分からないといったジェスチャーを取る。
「……多分だが、ザガンがやろうとしていることにはリリスの能力が必要だと思う。だから、奴が次のアクションを起こした時に攻めればリリスは対処できないのではないかな?」
サルガタナスの提案にオロバスが質問をする。
「もしやサルガタナス様はザガンが何をしようとしているのかご存知なのですか?」
その言葉に少し躊躇ってから答えるサルガタナス。
「かつて俺は大公爵と共に『脱獄』を目指した。それは地獄と地球を繋いで自由に行き来できる道を作ることだった。その時は天使の軍勢に阻まれて、同僚も戦死してしまったがね」
「つまり、ザガンは脱獄を目指している?」
正就の言葉に、一同考え込む。それぞれに思う所があるようだった。
◇◆◇
ルシフェルは、頭を抱えていた。ラファエルとガブリエルが喧嘩を始めたのだ。
「ラファエルったら、本当に融通か利かないんですよ!」
そして何故かルシフェルに相手の愚痴を聞かせてくるのである。融通が利かないのは、概ね天使に共通する特徴だ。ガブリエルやマステマのように柔軟な考え方をする天使のほうが稀なのだ。しかし、その中でもラファエルとミカエルは特に頭が固い。
話を聞かなくても大体どのような内容で喧嘩になったのか想像がつく。ガブリエルが任務外で誰かを助けようとし、ラファエルが任務を優先して止めたのだろう。
「ちょっとぐらい寄り道したって任務に影響ないのに!」
イスラフェルとミカエルの件でもそうだが、天使達はよくこのように意見が対立する。人を救う慈悲深さと、神罰を与える厳しさを共に求められる天使という立場がそうさせるのだ。どちらの言い分も一理あるので、仲裁が難しい。
天使長として天使達を導いていた頃、ルシフェルは日々このような問題と向き合っていた。
◇◆◇
「ガブリエルはフォルネウスに協力して、ラファエルはオロバスに鍵を渡すだけって、性格が表れてますね」
一通り怪我人の治療を終えて休憩しているガブリエルを見て、テネブラエが懐かしそうに語る。
「天使も随分と個性があるんだね」
そんなテネブラエの様子に少し安心して、正就が相槌を打つ。アクアを見ていた時の態度が気になっていたのだ。
「ええ、みんなとても自己主張が強いのでよく喧嘩していました」
そう答えた後、俯いて暫し考え込み、また顔を上げて正就の目を真っ直ぐに見つめてくる。
「マスター、お話ししたいことがあります。どこか二人きりになれる場所へ行きましょう」
テネブラエに促され、場所を変えた。
「水の翼のことか?」
正就の問いに、首を振るテネブラエ。
「それだけではなく、翼とルシファーの関係についてです。ルシフェルは地獄に堕とされた時、本体を地の底に封印され、翼をもぎ取られて六個に分けられました。その時、ルシフェルの意識部分は闇の翼である私に受け継がれたのです。
マスターが以前から疑っていらした通り、私の姿は神が私に精神的な苦痛を与えるために醜く変えられました。そして他の翼には魔力のみが受け継がれたため、分離した後に自我を持つようになったのです。
今皇帝として君臨しているルシファーはその光の翼で、最初に封印を解かれました。封印を解いたのは、かつてベルゼビュートによって地獄へと誘われた人間です」
一気に話して、一息つく堕天使。正就は頭の中で情報を整理する。
(なるほど。では皇帝の自我は本来のルシフェルのものではないということか)
「後に救世主と呼ばれるその男は、光の翼と光の魔導書の封印を解きました。これにより翼の中で光だけが強大な力を持つに至ったことで、翼の自我は統一されたのです。つまり、あのアクアは皇帝ルシファーとも、サタナキアと共にいるソイル・イーグニスとも、そしてザガンと共にいるヴェントゥスとも意識を共有していることになります」
「ザガンと共にいる……まさか!」
アクアはザガンの企みを知っていたということになる。そして、皇帝も。
「はい。彼女はオロバスさんが対処するのを止めたと言います。当時の言い分を聞く限りでは筋が通っていますが、ザガンの企みを知っていたという前提で考えると彼女は、いえ、皇帝ルシファーは積極的にザガンの策を成功に導いたと考えられます」
それは、皇帝が自分の支配する民に危害を加える意志を持っているということである。とても常識では考えられない思考だった。
「私には彼女の考えまで読み取ることは出来ません。少なくとも翼達は味方ではないということを肝に銘じておいてください」
(これまた厄介な……)
正就は、どうしたものかと思案し溜息をついた。
ザガンの計画
「領主様、成都に動きがありました!」
ザガンの領地を監視していたブエルが、ベレトに報告した。すぐに領主達に伝えられ、全員で成都の様子を確認する。
「何だあれは」
思わず口から言葉が洩れてしまう。それは、誰もが今まで見たことの無い光景だった。成都を中心として赤黒い竜巻のような渦巻く〝何か〟の柱が立ち昇っていた。
「あれが地球へ繋がる道なのか?」
正就はサルガタナスに聞く。
「分からん。だが、ザガンが引き起こしているのは間違いないだろう」
サルガタナスは、口に手を当てながらそう答えた。
「よし、全軍攻撃準備だ。あの竜巻の近くまで進み、より詳細な観測を行おう。罠の可能性もある。焦って突撃するなよ」
ベレトの言葉に各領主が頷き、補佐官に準備を指示する。
「うちは一番南からだ。三軍並列で進軍する。カトリーヌは俺の軍の後ろについてくれ」
正就の指示で各軍が準備を始めた。正就はオロバスに翼のことで注意を促そうとしたが、当のアクアがオロバスの傍から離れようとしないので、伝える機会が得られなかった。
(大丈夫かな? さすがにオロバス本人に何かしたりはしないか)
不安はあるが、翼が領主にまで危害を加えるとは考えにくい。先ずはザガンを討伐するのが先決である。
◇◆◇
ザガンは、次元の扉を開こうとしていた。妻のリリスは意識を集中しているが、その儀式のためではない。
「餌に食いついたわ。全ての領主がこちらに向かってる」
リリスの報告に笑みを浮かべるザガン。
「よし、次の段階に進むぞ。ヴェントゥス、グシオン、上手くやれよ?」
名指しされた風の翼と補佐官が頷き、持ち場へと向かう。
「ククク、俺が無計画に扉を開くと思ったか? ……問題はサタナキアだな。あいつから水の鍵を奪わなくてはいかん。あいつが正就を誘導してフォルネウスを助けたせいで面倒なことになった」
ザガンの最終的な目的は地球と地獄を繋ぐことだが、その前に全ての翼と鍵を集めて、甦ったルシファーを手駒に加えるつもりだった。予想される天使の妨害に対抗するためだ。
(悪くない計画だけど、ザガンは一つ勘違いをしている。翼を全て集めて正しい手順でルシフェルの封印を解けば、『ルシファー』は消えてしまうのよ)
ヴェントゥスは、ザガンを利用してルシフェルではなくルシファーとして復活することを目論んでいた。そのために途中までザガンの計画通りに事を進め、最後の段階でサタナキアと協力してザガンの計画を頓挫させるつもりだった。
「うまく行きますように」
そう言い残して、ヴェントゥスはその場を離れた。
◇◆◇
「ザガンが儀式を始めたか」
サタナキアはウランバートルに滞在していた。リカが土の魔導書に記されたイスラフェルの召喚を行うためである。
(イスラフェルか……リカに呼ばせるのは少々リスクが高いが)
イスラフェルはとても慈悲深い天使である。だからこそ、リカの境遇を知れば余計な行動を起こす可能性が高かった。
「イスラフェルはお前を奴隷の立場から救おうとするかもしれない。お前が望むのなら、正式に私の側近として迎え入れよう」
サタナキアに提案されたリカは、返事に困った。
「え……そのようなこと、考えたこともありませんでした」
困惑するリカに続けて言葉を掛ける。
「天使はお前の心の底まで見透かす。その時になったら、自分の心に従うといい」
(私の……心?)
突然の選択を迫られ、混乱するリカだった。
◇◆◇
召喚されたイスラフェルはリカの心を読んだ。
「……分かりました。私もご一緒します」
何が分かったのか、同行を申し出る大天使。
(コイツに限って裏があるとは思えないが、何が目的だ?)
サタナキアは彼女の真意を測りかねたので、相手の性格を踏まえて素直に質問してみた。
「私はルシファー様の封印を解こうとしている。お前達天使にとっては好ましくないのではないか?」
すると、イスラフェルは笑顔で答えた。
「ルシフェル様が封印された時、主はこのように復活の手段もお創りになられました。もとより誰かが彼女の封印を解くことは決まっていたのです」
これも神の意志だと言う。そして、イスラフェルはリカに耳打ちする。
「私は貴女の味方ですよ。頑張って恋を成就させましょう」
「へ?」
あまりにも予想外のことを言われたので一瞬思考が止まるリカ。要するに、イスラフェルはリカとバルバトスをくっつけるために同行すると言うのだった。
「え、ええええーー!?」
少し間を開けて驚きの叫びを上げるリカに、サタナキアとバルバトスが注目する。
「どうした? 何か秘密でも知らされたのか?」
タチヨミ版はここまでとなります。
2022年1月2日 発行 初版
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