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【全ルビ小説】地獄(じごく)を征服(せいふく)せよ 第五巻

寿甘(すあま)

すあま書房



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  この本はタチヨミ版です。

最終巻 皇帝の妄執

狂う民
最強の同盟
ザガンの計画
ルシファーの誕生
リカと土の鍵
強引な集合
神の行い
ルシファー陥落
偽神
皇位継承戦終了
サタナキアの望み
最後の戦い
ルシファーの涙
憤怒のサタン
エピローグ

おまけ
あとがき

くるたみ

 北京ペキンでは、リカがつばさイーグニスとつち魔導書まどうしょふたつの封印ふういんいていた。
「これで、サタナキアさま目的もくてきちかづくのね」
 自分じぶんやくてることによろこびをかんじるリカ。
「いいえ、ただしくはルシファーの目的もくてきです。リカさま
 イーグニスが笑顔えがお訂正ていせいする。
「え?」
 たしかにルシファーを目覚めざめさせるということはそうともえるが、堕天使だてんし言葉ことば不吉ふきつ印象いんしょうつリカ。
「さあ、場所ばしょえてつち魔導書まどうしょ解読かいどくしましょう」
 つちつばさソイルがかす。さらにリカのなか不安ふあん増大ぞうだいした。
(なんだろう、なんかやってはいけないようながする)
 しかし、命令めいれいされたことを実行じっこうしなくてはならない。ソイルにしたがい、バルバトスのつウランバートルを目指めざす。
「ウガアアアッ!」
 突然とつぜん咆哮ほうこうげながら悪魔達あくまたちおそかってきた。
今度こんどなに!?
 おどろいたが、たいしたうごきではない。攻撃こうげきをひらりとかわしててき観察かんさつすると、先程さきほどまで日常にちじょう生活せいかついとなんでいた領民りょうみんであることがかった。
「これは一体いったい……」
 たおすわけにもいかないのではしってげると、すぐにいかけるのをめた領民りょうみんたがいを攻撃こうげきはじめた。不気味ぶきみだったが、ひとまず相手あいてせずに出発しゅっぱつするリカだった。

◇◆◇

「アヤナ、ねむらせてくれ」
 そと惨状さんじょう正就まさつぐが、すぐにとなりにいたアヤナにたのむ。
「うん、まかせて!」
 アヤナがじゅつ行使こうしする。
【夢の世界】ドリームワールド
 上海シャンハイころいをしていた領民達りょうみんたちが、次々つぎつぎとそのたお寝息ねいきはじめた。
「あら、じゅつわたくし使つかわせていただくわね」
 それをていたアスモデウスが、そうってつ。
手分てわけして領民りょうみんしずめよう。行動不能こうどうふのうにするじゅつならみななにかしら使つかえるだろう?
 ずはそれぞれの領地りょうちからだ。自分じぶん領地りょうちしずめたら情報じょうほう共有きょうゆうしたいので一旦いったん北京ペキンあつまれ。文句もんくいな?」
 ベレトがあつまった領主達りょうしゅたち口早くちばや指示しじす。とく異論いろんいので全員ぜんいんうなずき、自分じぶん領地りょうちへとかった。
わたし領民りょうみん暗示あんじにかかっていないので、朝鮮方面ちょうせんほうめんかおう。正就まさつぐ日本にほんかってくれ」
 オロバスがそうげて出発しゅっぱつした。

「うーん、ベレトっておもってたのとちがうなぁ」
 日本にほんかってびながら、正就まさつぐつぶやく。いていたはなし印象いんしょうでは暴君気質ぼうくんきしつ領主りょうしゅというイメージだったが、実際じっさいってはなしをしてみると、発言はつげんにはすじとおっておりじょう無視むしすることもない。
領主りょうしゅ基本的きほんてき生贄いけにえにされてここに仲間なかまだからね」
 こずえせたカトリーヌがちかづいてきて、う。以前いぜんこずえわれた言葉ことばりである。
「ああ、そうだな。たんなる競争相手きょうそうあいててきじゃないんだよな」
 正就まさつぐも、ずっとそうおもってきた。だが、それが自分じぶん目的もくてき見失みうしなわせている原因げんいんひとつだともわかる。自分じぶん皇帝こうていにならなくてもいいのではないか。オロバスでも、ベレトでも上手うまくこの世界せかいおさめられるだろう。そういう気持きもちが、あらたな領主りょうしゅ出会であうたびにこころなか鎌首かまくびをもたげてきた。
いまは、そんなことをかんがえてる場合ばあいじゃない)
 くびり、こころまよいをばして日本にほんかう正就まさつぐだった。

◇◆◇

 イギリス・ロンドン。
「ついにこのときたわ」
 ルシファーがつぶやく。部屋へやそとでは、ルキフグスが情報収集じょうほうしゅうしゅうはしまわっていた。
なにこっているんだ!」
 地獄中じごくじゅう混乱こんらんしていた。領主達りょうしゅたちあらそひがしアジア地区ちくだけでなく、世界中せかいじゅう悪魔達あくまたちくるったようにころいをはじめたのだ。
「ザガンだよ。動画配信どうがはいしんうら暗示あんじじゅつをばらいていた。まあ、影響えいきょうがあるのは下級悪魔かきゅうあくまだけだがね」
 司令官しれいかんアガリアレプトが、ルキフグスにおしえる。
「ザガンめ、なんということを! アガリアレプト、っていたなら何故なぜめなかった?」
 事態じたい把握はあくしていた様子ようす司令官しれいかん宰相さいしょう
「このあいだ会議かいぎでもったが、わたし悪魔あくま悪魔あくまとして行動こうどうすることに賛成さんせいなのだよ。きみはこの地獄じごく天界てんかいのような秩序ちつじょ安定あんていをもたらそうとしているが、地獄じごく地獄じごくだ。悪魔あくまかみ反逆はんぎゃくする気概きがいうしなわないためにも、地獄じごく混沌こんとん闘争とうそう世界せかいであるべきだろう。人間的にんげんてきえば、臥薪嘗胆がしんしょうたんったところか」
 アガリアレプトの態度たいどに、議論ぎろんしても平行線へいこうせんのままであるだろうことをさとり、ルキフグスは追及ついきゅうあきらめる。
「バエル、アガレス、マルバス! たみしずめにくぞ!」
 部下ぶかともなってルキフグスは政府せいふあとにした。

 香川かがわ高松たかまつ
 留守番るすばんのティアラは、あるじたたかいぶりをせてくれるネットに夢中むちゅうだった。おなじく留守番るすばんのマツとともに、家事かじ合間あいまにザガンの配信はいしんする戦争中継せんそうちゅうけい見続みつづけていた。
みなさん本当ほんとう大変たいへんたたかいをしているんですね」
かえってきたらゆっくりやすんでもらえるように支度したくをしましょうね」
 そんな会話かいわをしながら、観戦かんせんする二人ふたり
 だが、そのなにかがちがっていた。
 ベレトがフォルネウスぐん蹴散けちらす様子ようすているうちに、こころそこから形容けいようがた感情かんじょういてくる。
なにかしら……こころがざわざわする)
 それははげしいたたかいをることによってまれる高揚感こうようかんとはまたちがう、いかりやにくしみにちか感情かんじょう
「ねえ、マツさん」
 異常いじょうかんじ、同僚どうりょうこえける。
「……」
 返事へんじはなく、マツにけるとそのには短剣たんけんにぎられていた。ゆっくりと、ティアラのほうかおけるマツ。そのには明確めいかく敵意てきいれた。
 ぐに急所きゅうしょねらってくる短剣たんけん一撃いちげきかろうじてかわし、再度さいどびかけるティアラ。
「マツさん、マツさん!」
 追撃ついげきをするマツ。その剣筋けんすじするどく、ティアラではかわしきれない。
――ころせ。
 ティアラのあたま何者なにものかのこえひびく。いつのにか、自分じぶんにナイフをっていた。
 つぎ瞬間しゅんかん二人ふたりたがいの胸部ふくぶし、ともにそのくずちた。
 ゆかにはおびただしいりょうながれ、二人ふたり救命きゅうめい絶望的ぜつぼうてきであることをしめしている。
 とおのく意識いしきなか、ティアラは自分じぶん不幸ふこう人生じんせいおもしていた。
 奴隷どれいとしてまれ、おやからもうとまれ、生贄いけにえとなってやってきた地獄じごくでも盗賊とうぞくおそわれ、バルバトスの奴隷どれいとなり、じつ二百年にひゃくねんものあいだ迫害はくがいされつづけてきた。
 だが、最後さいごにこのて、しあわせな日々ひびごせた。
 やさしくべてくれた補佐官ほさかんはだいろにせず、ものわらない態度たいどせっしてくれた少女しょうじょ。そして、いつもねぎらってくれる人格者じんかくしゃ領主りょうしゅ……うすれゆく意識いしきなかにも、あたたかい気持きもちががる。しあわせをくれたみなのことをおもい、最後さいごちからしぼって言葉ことばはっした。
領主様りょうしゅさま……みな、さま……あり、が……とう」

 何処どこ地域ちいきも、地獄絵図じごくえずだった。
「これはじゅつによる暗示あんじですね。わたし暗示あんじくことが出来できます。ねむらせたあとのことはおまかください」
 ククルカンがそううので、とにかくあばれている領民りょうみんをどんどんねむらせていく正就軍まさつぐぐんすで半数以上はんすういじょうたみ死亡しぼうしている。みなかおしかめ、じゅつ生存者せいぞんしゃねむらせていった。
「なんでこんなことに……」
 テネブラエがなみだながしながらじゅつ使つかう。正就まさつぐかなしむ仲間なかま気遣きづかいながら、未対応みたいおう地域ちいき指示しじしていく。オロバスが対応たいおうしているが、元朝鮮領主もとちょうせんりょうしゅのステラには朝鮮方面ちょうせんほうめんくようにった。
 すべての地域ちいきしずめ、高松たかまつもどった正就達まさつぐたちは、ティアラとマツもふくんだおおくの死者ししゃ簡易的かんいてきとむらい、すぐに北京ペキンへとかった。
じゅつけたやつを、絶対ぜったいゆるさない」
 サヤカが、いかりをころしたこえった。

 モンゴル・ウランバートル。
「この混乱こんらんはザガンがこしたようだ。やろうとしていることは想像そうぞうがつくが、いまやるのは悪手あくしゅとしかえないな」
 サタナキアが部下達ぶかたち状況じょうきょうつたえる。リカはつち魔導書まどうしょかれた召喚しょうかん儀式ぎしき準備じゅんびしている。
「でもそのおかげで領主達りょうしゅたちあつまってくれました。わたしにとってはのぞましい展開てんかいですね」
 イーグニスがうすみをかべながらった。
「それは、陛下へいかのお言葉ことばってよろしいのですかな?」
 サタナキアは、翼達つばさたち意識いしき共有きょうゆうしていることをっていた。
っていましたか。ええ、わたしはルキフグスとちがってたみ大切たいせつになんておもっていませんから」
 平然へいぜんはなたれる非情ひじょう言葉ことばに、バルバトスやリカは違和感いわかんおぼえた。
「ザガンのたくらみは失敗しっぱいするでしょう。ですが、かれおこないがもたらす結果けっかわたしやアスタロトにとって好都合こうつごうでもあります」

一緒いっしょにしないでしいものだ」
 はるとおく、アメリカのでルシファーの言葉ことばいていた大公爵だいこうしゃくは、苦笑くしょうしながらひとごとつぶやいた。

最強さいきょう同盟どうめい

 北京ペキンには、ベレト・オロバス・フォルネウス・正就まさつぐとそれぞれの軍幹部ぐんかんぶあつまっていた。
「この事態じたいはザガンがこしたことなんだな?」
 ベレトがオロバスにねんす。オロバスは動画どうが暗示あんじかくされていたこと、配信はいしんしていたのがザガンであったことをはなした。
「アクアにじゅつ妨害ぼうがいをしてもらっていたが、予想以上よそういじょうじゅつ完成かんせいはやかった。もうわけない、やはり無理矢理むりやりにでも配信はいしん中止ちゅうしさせるべきだった」
 各地かくち被害状況ひがいじょうきょういて、オロバスは後悔こうかいしていた。
「オロバスさまわるくないですよ。わたしがそれを制止せいししたのですから」
 アクアがオロバスをなぐさめる。
「……アクア」
 テネブラエが、みずつばさうたがわし視線しせんおくり、ちいさなこえんだ。しかし、それでくちつぐんでしまう。なになやんでいるようだと正就まさつぐ推察すいさつした。
「しかし、ザガンも領主りょうしゅだろ? なんで領民りょうみん虐殺ぎゃくさつするんだ」
 正就まさつぐはザガンの行動こうどう理解りかいできないといった様子ようす疑問ぎもんくちにする。
おそらく、今回こんかいのことはザガンにとって目的もくてきではなく手段しゅだんぎないんだとおもう。あいつは魔術師まじゅつしだ。この混乱こんらんした状況じょうきょう利用りようしてさらだいそれたことをしようとしているんだろう」
 フォルネウスが正就まさつぐ疑問ぎもんこたえる。
「これ以上いじょうだいそれたことって、一体いったいなにをするつもりなんだ」
 非常ひじょういや予感よかんのする正就まさつぐであった。

われはザガンをつ。お前達まえたちはどうする?」
 ベレトが、きっぱりとはなつ。それにたいし、三人さんにん領主達りょうしゅたちかお見合みあわせうなずう。
うまでもないでしょ」
 正就まさつぐはそうってこぶしまえす。無言むごんでオロバスがこぶしわせる。うなずき、あと二人ふたりこぶしわせた。
「よし、ザガンを仕留しとめるまではこの四人よにん同盟どうめいむ。フォルネウスも自軍じぐんひきいろ、ぐんへの編入へんにゅうはザガン打倒後だとうごでいい」
 ベレトが仕切しきる。それにとなえるものはいない。
(やっぱりリーダーシップをるのもつよさが大事だいじだって分かるな)
 こうして地獄史上最大じごくしじょうさいだいにして最強さいきょう同盟軍どうめいぐん結成けっせいされたのだった。

「ザガンの一派いっぱ強力きょうりょく転移能力てんいのうりょくおんながいるみたいだが、だれ心当こころあたりはいか?」
 つづけて、オロバスがモンゴルでこったことをはなした。
「それは多分たぶん、ザガンのつまリリスだ」
 サルガタナスがここでくちはさんだ。
「リリス?」
 正就まさつぐにとってはじつおぼえのある名前なまえだ。ゲームや漫画まんが幾度いくどとなくにしたその名前なまえおもわず、マステマにかおけた。
正就まさつぐはよくってるね~。そう、おとーさんがつくっただよ」
 マステマは正就まさつぐいたいことをさっしてこたえる。
「どれほどのちからっているのだ?」
 ベレトがサルガタナスとマステマに順番じゅんばん視線しせんおくたずねた。
地球ちきゅうける。それも大公爵だいこうしゃくよりずっとなが時間じかん、パートナーもれてな」
 サルガタナスの言葉ことばに、動揺どうようひろがる。
厄介やっかいだな。オロバスのぐんまるごと転移てんいさせたように、突然とつぜん地獄じごくですらない場所ばしょばされる危険きけんがあるということだ」
 次元じげん狭間はざまにでもばされたら即全滅そくぜんめつである。
「どうにかする方法ほうほうはない?」
 正就まさつぐたずねると、マステマもからないといったジェスチャーをる。
「……多分たぶんだが、ザガンがやろうとしていることにはリリスの能力のうりょく必要ひつようだとおもう。だから、やつつぎのアクションをこしたときめればリリスは対処たいしょできないのではないかな?」
 サルガタナスの提案ていあんにオロバスが質問しつもんをする。
「もしやサルガタナスさまはザガンがなにをしようとしているのかご存知ぞんじなのですか?」
 その言葉ことばすこ躊躇ためらってからこたえるサルガタナス。
「かつておれ大公爵だいこうしゃくともに『脱獄だつごく』を目指めざした。それは地獄じごく地球ちきゅうつないで自由じゆうできるみちつくることだった。そのとき天使てんし軍勢ぐんぜいはばまれて、同僚どうりょう戦死せんししてしまったがね」
「つまり、ザガンは脱獄だつごく目指めざしている?」
 正就まさつぐ言葉ことばに、一同いちどうかんがむ。それぞれにおもところがあるようだった。

◇◆◇

 ルシフェルは、あたまかかえていた。ラファエルとガブリエルが喧嘩けんかはじめたのだ。
「ラファエルったら、本当ほんとう融通ゆうづうかないんですよ!」
 そして何故なぜかルシフェルに相手あいて愚痴ぐちかせてくるのである。融通ゆうづうかないのは、おおむ天使てんし共通きょうつうする特徴とくちょうだ。ガブリエルやマステマのように柔軟じゅうなんかんがかたをする天使てんしのほうがまれなのだ。しかし、そのなかでもラファエルとミカエルはとくあたまかたい。
 はなしかなくても大体だいたいどのような内容ないよう喧嘩けんかになったのか想像そうぞうがつく。ガブリエルが任務外にんむがいだれかをたすけようとし、ラファエルが任務にんむ優先ゆうせんしてめたのだろう。
「ちょっとぐらいみちしたって任務にんむ影響えいきょうないのに!」
 イスラフェルとミカエルのけんでもそうだが、天使達てんしたちはよくこのように意見いけん対立たいりつする。ひとすく慈悲深じひぶかさと、神罰しんばつあたえるきびしさをとももとめられる天使てんしという立場たちばがそうさせるのだ。どちらのぶん一理いちりあるので、仲裁ちゅうさいむずかしい。
 天使長てんしちょうとして天使達てんしたちみちびいていたころ、ルシフェルは日々ひびこのような問題もんだいっていた。

◇◆◇

「ガブリエルはフォルネウスに協力きょうりょくして、ラファエルはオロバスにかぎわたすだけって、性格せいかくあらわれてますね」
 一通ひととお怪我人けがにん治療ちりょうえて休憩きゅうけいしているガブリエルをて、テネブラエがなつかかしそうにかたる。
天使てんし随分ずいぶん個性こせいがあるんだね」
 そんなテネブラエの様子ようすすこ安心あんしんして、正就まさつぐ相槌あいづちつ。アクアをていたとき態度たいどになっていたのだ。
「ええ、みんなとても自己主張じこしゅちょうつよいのでよく喧嘩けんかしていました」
 そうこたえたあとうつむいてしばかんがみ、またかおげて正就まさつぐぐにつめてくる。
「マスター、おはなししたいことがあります。どこか二人ふたりきりになれる場所ばしょきましょう」
 テネブラエにうながされ、場所ばしょえた。

みずつばさのことか?」
 正就まさつぐいに、くびるテネブラエ。
「それだけではなく、つばさとルシファーの関係かんけいについてです。ルシフェルは地獄じごくとされたとき本体ほんたいそこ封印ふういんされ、つばさをもぎられて六個ろっこけられました。そのとき、ルシフェルの意識部分いしきぶぶんやみつばさであるわたしがれたのです。
 マスターが以前いぜんからうたがっていらしたとおり、わたし姿すがたかみわたし精神的せいしんてき苦痛くつうあたえるためにみにくえられました。そしてほかつばさには魔力まりょくのみががれたため、分離ぶんりしたあと自我じがつようになったのです。
 いま皇帝こうていとして君臨くんりんしているルシファーはそのひかりつばさで、最初さいしょ封印ふういんかれました。封印ふういんいたのは、かつてベルゼビュートによって地獄じごくへといざなわれた人間にんげんです」
 一気いっきはなして、一息ひといきつく堕天使だてんし正就まさつぐあたまなか情報じょうほう整理せいりする。
(なるほど。では皇帝こうてい自我じが本来ほんらいのルシフェルのものではないということか)
のち救世主メシアばれるそのおとこは、ひかりつばさひかり魔導書まどうしょ封印ふういんきました。これによりつばさなかひかりだけが強大きょうだいちからつにいたったことで、つばさ自我じが統一とういつされたのです。つまり、あのアクアは皇帝こうていルシファーとも、サタナキアとともにいるソイル・イーグニスとも、そしてザガンとともにいるヴェントゥスとも意識いしき共有きょうゆうしていることになります」
「ザガンとともにいる……まさか!」
 アクアはザガンのたくらみをっていたということになる。そして、皇帝こうていも。
「はい。彼女かのじょはオロバスさんが対処たいしょするのをめたといます。当時とうじぶんかぎりではすじとおっていますが、ザガンのたくらみをっていたという前提ぜんていかんがえると彼女かのじょは、いえ、皇帝こうていルシファーは積極的せっきょくてきにザガンのさく成功せいこうみちびいたとかんがえられます」
 それは、皇帝こうてい自分じぶん支配しはいするたみ危害きがいくわえる意志いしっているということである。とても常識じょうしきではかんがえられない思考しこうだった。
わたしには彼女かのじょかんがえまでることは出来できません。すくなくとも翼達つばさたち味方みかたではないということをきもめいじておいてください」
(これまた厄介やっかいな……)
 正就まさつぐは、どうしたものかと思案しあん溜息ためいきをついた。 

ザガンの計画けいかく

領主様りょうしゅさま成都チェンドゥうごきがありました!」
 ザガンの領地りょうち監視かんししていたブエルが、ベレトに報告ほうこくした。すぐに領主達りょうしゅたちつたえられ、全員ぜんいん成都チェンドゥ様子ようす確認かくにんする。
なんだあれは」
 おもわずくちから言葉ことばれてしまう。それは、だれもがいままでたことの光景こうけいだった。成都チェンドゥ中心ちゅうしんとして赤黒あかぐろ竜巻たつまきのような渦巻うずまく〝なにか〟のはしらのぼっていた。
「あれが地球ちきゅうつながるみちなのか?」
 正就まさつぐはサルガタナスにく。
からん。だが、ザガンがこしているのは間違まちがいないだろう」
 サルガタナスは、くちてながらそうこたえた。
「よし、全軍攻撃準備ぜんぐんこうげきじゅんびだ。あの竜巻たつまきちかくまですすみ、より詳細しょうさい観測かんそくおこなおう。わな可能性かのうせいもある。あせって突撃とつげきするなよ」
 ベレトの言葉ことば各領主かくりょうしゅうなずき、補佐官ほさかん準備じゅんび指示しじする。
「うちは一番いちばんみなみからだ。三軍並列さんぐんへいれつ進軍しんぐんする。カトリーヌはおれぐんうしろろについてくれ」
 正就まさつぐ指示しじ各軍かくぐん準備じゅんびはじめた。正就まさつぐはオロバスにつばさのことで注意ちゅういうながそうとしたが、とうのアクアがオロバスのそばからはなれようとしないので、つたえる機会きかいられなかった。
大丈夫だいじょうぶかな? さすがにオロバス本人ほんにんなにかしたりはしないか)
 不安ふあんはあるが、つばさ領主りょうしゅにまで危害きがいくわえるとはかんがえにくい。ずはザガンを討伐とうばつするのが先決せんけつである。

◇◆◇

 ザガンは、次元じげんとびらひらこうとしていた。つまのリリスは意識いしき集中しゅうちゅうしているが、その儀式ぎしきのためではない。
えさいついたわ。すべての領主りょうしゅがこちらにかってる」
 リリスの報告ほうこくみをかべるザガン。
「よし、つぎ段階だんかいすすむぞ。ヴェントゥス、グシオン、上手うまくやれよ?」
 名指なざしされたかぜつばさ補佐官ほさかんうなずき、へとかう。
「ククク、おれ無計画むけいかくとびらひらくとおもったか? ……問題もんだいはサタナキアだな。あいつからみずかぎうばわなくてはいかん。あいつが正就まさつぐ誘導ゆうどうしてフォルネウスをたすけたせいで面倒めんどうなことになった」
 ザガンの最終的さいしゅうてき目的もくてき地球ちきゅう地獄じごくつなぐことだが、そのまえすべてのつばさかぎあつめて、よみがえったルシファーを手駒てごまくわえるつもりだった。予想よそうされる天使てんし妨害ぼうがい対抗たいこうするためだ。
わるくない計画けいかくだけど、ザガンはひと勘違かんちがいをしている。つばさすべあつめてただしい手順てじゅんでルシフェルの封印ふういんけば、『ルシファー』はえてしまうのよ)
 ヴェントゥスは、ザガンを利用りようしてルシフェルではなくルシファーとして復活ふっかつすることを目論もくろんでいた。そのために途中とちゅうまでザガンの計画通けいかくどおりにことすすめ、最後さいご段階だんかいでサタナキアと協力きょうりょくしてザガンの計画けいかく頓挫とんざさせるつもりだった。
「うまくきますように」
 そうのこして、ヴェントゥスはそのはなれた。

◇◆◇

「ザガンが儀式ぎしきはじめたか」
 サタナキアはウランバートルに滞在たいざいしていた。リカがつち魔導書まどうしょしるされたイスラフェルの召喚しょうかんおこなうためである。
(イスラフェルか……リカにばせるのは少々しょうしょうリスクがたかいが)
 イスラフェルはとても慈悲深じひぶか天使てんしである。だからこそ、リカの境遇きょうぐうれば余計よけい行動こうどうこす可能性かのうせいたかかった。
「イスラフェルはおまえ奴隷どれい立場たちばからすくおうとするかもしれない。おまえのぞむのなら、正式せいしきわたし側近そっきんとしてむかれよう」
 サタナキアに提案ていあんされたリカは、返事へんじこまった。
「え……そのようなこと、かんがえたこともありませんでした」
 困惑こんわくするリカにつづけて言葉ことばける。
天使てんしはおまえこころそこまで見透みすかす。そのときになったら、自分じぶんこころしたがうといい」
わたしの……こころ?)
 突然とつぜん選択せんたくせまられ、混乱こんらんするリカだった。

◇◆◇

 召喚しょうかんされたイスラフェルはリカのこころんだ。
「……かりました。わたしもご一緒いっしょします」
 なにかったのか、同行どうこうもう大天使だいてんし
(コイツにかぎってうらがあるとはおもえないが、なに目的もくてきだ?)
 サタナキアは彼女かのじょ真意しんいはかりかねたので、相手あいて性格せいかくまえて素直すなお質問しつもんしてみた。
わたしはルシファーさま封印ふういんこうとしている。お前達まえたち天使てんしにとってはこのましくないのではないか?」
 すると、イスラフェルは笑顔えがおこたえた。
「ルシフェルさま封印ふういんされたときしゅはこのように復活ふっかつ手段しゅだんもおつくりになられました。もとよりだれかが彼女かのじょ封印ふういんくことはまっていたのです」
 これもかみ意志いしだとう。そして、イスラフェルはリカに耳打みみうちする。
わたし貴女あなた味方みかたですよ。頑張がんばってこい成就じょうじゅさせましょう」
「へ?」
 あまりにも予想外よそうがいのことをわれたので一瞬いっしゅん思考しこうまるリカ。ようするに、イスラフェルはリカとバルバトスをくっつけるために同行どうこうするとうのだった。
「え、ええええーー!?
 すこけておどろきのさけびをげるリカに、サタナキアとバルバトスが注目ちゅうもくする。
「どうした? なに秘密ひみつでもらされたのか?」



  タチヨミ版はここまでとなります。


【全ルビ小説】地獄(じごく)を征服(せいふく)せよ 第五巻

2022年1月2日 発行 初版

著  者:寿甘(すあま)
発  行:すあま書房

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寿甘(すあま)

投稿サイト等で活動しているネット作家です。自分が面白いと思うものを、読者に分かりやすく書くがモットー。流行に乗った作品はありませんが、読者様からは読みやすいとの評判を頂いております。

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