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春の病名。

「糸」

群青出版



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何色でもない空に溺れた日、

わたし、この星が壊れたとしても、

もうきみを愛さなくていいのです。





詩「地球最後の告白を」


わたし、身体の一部をあげるから、

きみは、浮いたままでいて。

季節の変わり目から一番遠くで、

ずうっと浮いていて。





詩「ハローグッバイ」


愛は、愛として唄えないから、かわいそう。

誰かの口から漏れ出した

果実の味に酔ってしまって、

代わりにわたしが愛を唄って、





詩「愛の味」


八月の背中に乗って、

きみは竜の夢を見る。

かき氷を一粒、 食べながら。





詩「溶けて、夏」


夜の、傷口に吸い込まれてしまいそう、

だからわたし、

ひとりで迎える朝の、匂いすらも、

愛してしまうのでしょう。





詩「愛してしまう」


命の味すら知らない生命が、

ビルの明かりにすら劣る生命が、

愛でしか息のできない生命が、

わたしは、愛おしく思ってしまうのです。





詩「愛しい」


だって、あなたは人間なんだもの。

抜け殻を脱いだって、

羽根だって生えやしないし、

星から一番遠くで光るの、

だって、あなたは。





詩「人/間」


青は、

空のちょうど真ん中くらいで

死んでしまうので、

雲は行き場を失ってわたしの隣。





詩「となり」


きみの好きな色が

この世から亡くなってしまって、

かわいそうな絵の具ときみの瞳と。





詩「あお」


きみの、涙に触れて、

わたし、

初めて夜を知りました。





詩「涙夜」


夜のはなしをしよう、

きみが傷付いていても、いなくても、

ずっと、夜のはなしをしよう。





詩「夜のはなし」


きみに好きだと言ってしまえば、

明けてしまう夜の脆さに

寂しくなって。





詩「夜は脆く」


わたし、まだ夢の続きを知らなくて、

どこまでも飛べそうな青の中、

初めに触れた色で、恋を話して。





詩「ゆめの色」


「きみ」と呼ばれる一欠片が

この世から散ってしまって、

それでもわたし、

まだきみの名前を呼べるでしょうか。





詩「きみ」


春が動いて、

きみは置いていかれてしまって、

それでも愛は。





詩「春の病名」


真夜中に浮かんでいました、

わたしだけが知らない星の名前が、

きみの夜に、浮かんでいました。





詩「夜に浮いて」


水色の声は、届かないでしょう、

命は朝を乗り越えて、

今日も生きてしまう系の塊には

どうせ届かないでしょう。





詩「水色の声」


白と黒だけで音を鳴らす、

わたしの左手を通り抜けて、

誰の為でも無い命なんて、

襟足靡く程度の風のよう。





詩「襟足と風」


電波に首を絞められているみたい、

寿命はずっと青色のまま、

きみは、片手サイズの電波に、

殺されてしまう。





詩「電波少女」


透明なゼリーの中で溺れてしまう、

誰も幸せにならない映画のエンドロールに、

きみの名前を探す夜。





詩「エンドロール」


わたし、空と同じ色のドレスを着て、

夜の街を走り抜けてきみに、

きみ以外の夜空に会いに行く。





詩「星とドレス」


神様、ねえ神様、

青空には飽きてしまったので、

わたしの頭上で鳴る愛を教えてください。





詩「アイラブユー」


夜にだけ浮かぶ泡に、

消えてしまいそうな想い出を詰めて、

いつか弾けてしまう様に恋をして。





詩「泡に恋」


きみの命が動く姿も、

この星の回転数も、

すべてが可愛いと思えた朝のこと。





詩「朝のこと」


ねえ、

月の裏側に

愛を書いておいたから。





詩「ムーンライト」


愛がなんだ、

きみを悲しませる程度の、

愛がなんだ。





詩「悲愛」


きみはきっと、

隣の星に忘れ物をして、

ほんのすこし、

帰っているだけだから。





詩「忘れ物」


春より先に溶けてしまって、

もう、きみを好きだとしか言えない心は、

夏が来る前に弾けてしまって。





詩「サイダーガール」


きみを好きになる季節、

薄い桃色は視界を遮って

すこし意地悪な恋をする。





詩「恋の季語」


春が少し溶けた空を吸い込んで、

大切なものを数えては

ひとりで明ける夜。





詩「春吸。」

春の病名。

2022年1月19日 発行 初版

著  者:「糸」
発  行:群青出版
イラスト:ウエダツバサ
デザイン:rond 吉村淳

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「糸」

詩。いのちのこと。Twitter:@ningen_ito

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