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緑(朱自清)

多田敏宏訳

duotianminhong出版



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本文

 二度目に仙岩に行ったとき、梅雨潭の緑に驚いた。

 梅雨潭は滝つぼだ。三つある滝の中で、一番低いところにある。山道を歩いていると、ざあざあという音が聞こえた。頭を上げると、湿った黒い岩の中に、白く輝く水の流れが目の前に現れた。先に梅雨亭に行った。梅雨亭は滝の向かいにある。そこに座っていると、頭を上げなくても、全体が見えるのである。この建物の下、深いところに梅雨潭がある。突き出た岩の一角に建てられ、上も下も「空」だ。鷹が翼を広げ、天を舞っているようだ。三面が山で、人は井戸の底にいるような気がする。秋の薄曇りの日だった。かすかな雲が上空を流れ、岩肌と草むらは水にぬれてつやつやしていた。滝の響きは格別だった。上から下に落ちた水がいくつかの大小の流れに分かれている。一筋の滑らかな流れではない。急流が岩角に当たるたびに、砕けた玉のようなしぶきが飛び散る。きらきらと輝き、遠くから眺めると、小さな白梅が小雨のように舞う姿に見える。ここから梅雨潭という名前が付いたそうだ。だが、柳の綿にたとえるほうがいい。そよ風に任せて、一つ一つ飛び散る。まさに柳の綿ではないか。この時、たまたまいくつかが私たちの暖かな懐に跳び込み、もぐっていった。そのままにしておいた。
 梅雨潭のきらめく緑は私たちを惹きつけた。離れたりくっついたりする有様をとらえようと思った。草をつかみ、岩に沿って、注意深く下り、アーチ形の石門をくぐると、緑水をたたえる滝つぼにたどり着いた。

滝のすぐ近くだ。だが、私の心の中には滝はもうなかった。私の心は滝つぼの緑とともにゆらゆらしていたのだ。人を酔わせる緑よ!とても大きなハスの葉を広げたような、尋常でない緑だ。両腕を広げて抱擁したい。なんという妄想だろう。水辺に立って眺めると、少し遠い感じがした!その広がった、厚みのある緑は、確かにいとしい。絹でできた模様入りの若い女性のスカートの裾のようだ。初恋の乙女のときめく心のように、軽やかに舞っている。油を塗ったかのようにつややかに輝き、卵白のように柔らかくてみずみずしい。今まで触れた最も柔らかい皮膚を思わせる。穢れに染まらず、恩潤な碧玉のように清らかだ。だが、そのすべてを見通すことはできない!かつて北京の什刹海で地をはらうような緑の柳を見たが、淡い黄色もちらつき、薄味な感じがした。杭州の虎跑寺の近くで高くて深い「緑の壁」も見た。緑の草と葉が尽きせぬほど重なり合っていたが、これは濃すぎる気がした。西湖の波は明るすぎるし、淮河は暗すぎる。いとしきものよ、僕は君を何にたとえればいい?君をたとえることなどできようか?滝つぼがあまりに深いので、これほどの尋常ならざる緑を中に抱いているのだろう。紺碧の空を溶かし込んだからこそ、このように鮮やかでみずみずしい色合いになったのだろう。人を酔わせる緑よ!もし君を帯にできたなら、僕はそれを軽やかに舞う乙女に贈ろう。風にたなびく姿が見られるだろう。君を掬い上げて目にできたなら、僕はそれを歌の上手な盲目の乙女に贈ろう。美しいまなざしでほほ笑むだろう。僕は君から離れられない。どうして離れられるだろうか。君に触れ、君を撫でたい。十二、三歳の少女のように。君を掬い上げて口に入れれば、キスをしたことになる。君に「女の子の緑」という名前を贈ろう。どうだい?

 二度目に仙岩に行ったとき、梅雨潭の緑に驚かざるを得なかったのである。
(1924年2月)



緑(朱自清)

2022年1月27日 発行 初版

著  者:多田敏宏訳
発  行:duotianminhong出版

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