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カサブランカで朝食を(愛理物語)

三浦愛理

リックの書店



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  この本はタチヨミ版です。

「カサブランカで朝食を」 第2版
「ティファニーで朝食を」のホリーと
「カサブランカ」のリックのモデルは日本人だった。
目次
栄次郎
リック
パリへ
リック・カフェ・アメリカン
世界に星の数ほど
ホリー
早川雪洲
銃声
手紙
侵攻
銀座
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解説
『カサブランカ』の制作秘話
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栄次郎
リヒャルト・ニコラウス・エイジロ・クーデンホーフ=カレルギーと言う。
父はオーストリアの伯爵。
母は青山光子で、父が日本で大使をしていたとき、出会って二週間で同棲。兄と東京でうまれた。
僕はヨーロッパはひとつになるべきというヨーロッパ共同体を提唱した。
タイミングが悪くヒトラーを批判してしまった。
ヒトラーがあっという間にドイツの総統になってしまった。
ドイツがオーストリアを併合する直前の日に、ユダヤ組織「カイト」によって
開いていたパーティーを急きょ終りにして、
僕は妻のイダとともにスイス大使夫妻が貸してくれた
自動車に最小限の荷物を積み込み、
ナチスのデモ隊であふれる街から脱出した。
デモ隊に囲まれて危険な思いもしたけど、
自動車がスイスの外交官ナンバーであったので紙一重で危機を逃れ、
隣国のチェコスロバキアのブラティスラヴァに逃れた。
翌日、ハンガリーの首都ブダペストに向けて夜中だけを
選んで全速力で走った。
昼間は森の中に潜む毎日だった。
ユーゴスラヴィアからイタリアに入ると、
連絡を受けていた反ナチスのイタリアの将校が出迎え、
スイスまで護衛付きで送ってくれた。
ナチスの宣伝相ゲッペルスが僕を逮捕し公開裁判に付すと宣言した新聞記事が流れた。
僕は、スイスを本拠地にしながら欧州各地を奔走し、
反ヒトラー運動をすすめ、パリには滞在することが多くなった。

三浦利久(リック)
俺とサムはカリフォルニア生まれの日系人だ。
サムは寒川という名字で、父は黒人のピアニストだった。
俺らは大分県から移住した牧師の息子・衛藤健と家出した。
アメリカ西部は反日地域で、俺らはいじめられていた。
ニューヨークにいる叔父を訪ねてアメリカ大陸を横断した。
国吉叔父はニューヨーク大学で美術の教授をしていて、
国吉ハウスというアパートを経営していた。
部屋を借りていたのがホリーだった。
堀井ことホリーは日系人で、国吉の描く絵や写真のモデルをしていた。
ホリーは常に旅行中で、部屋にいることはなかった。

俺ら三名は叔父のアパートの一室を借りた。
そのうちニューヨークのリトルイタリー街の賭博場で働くことになり、リトルイタリー街に引っ越した。
衛藤健は牧師の息子だが、カードのジョーと言われた。カードさばきが鮮やかで、カードのすり替えは忍者のようだった。
衛藤ことジョーはニューイングランドのマフィア・レイモンド・パトリアルカの賭博パーティーで、ディーラーの依頼を受けた。
ジョーのカードさばきがあざやかで、マフィアのボスを魅了した。
日本人の得意な器用さを持っていたのだ。
すばやいごまかしができた。
ジョーはマフィアのボスになっていく。

俺ら日系人はニューヨークのイタリア人にも嫌われていた。とうとう事件が起こった。
ジョーを殺そうと、マフィアのコロシオーネ一家が殺し屋を放った。
俺はジョーを守るためにサムと、親分のコロシオーネを殺してしまった。
サムと俺はマフィアから追われることになった。
国吉叔父がホリーを連れてアフリカ撮影旅行に行くことになっていて、俺とサムは国吉に同行した。
国外逃亡したのだ。
国吉は早川雪洲に相談した。
アメリカから追われた早川雪洲はパリに住んでいた。
国吉は絵の師匠だった。
早川はバロン薩摩に相談して
最初は南フランスに店を作ってくれた。
ナチの迫害が始まり、難民の亡命を助ければユダヤ教会が身の保証をしてくれるというので、モロッコのカサブランカに拠点を移したのだ。
だから俺は酒場の店主以外にアメリカへのユダヤ難民の亡命を助けていた。ホリーも仲間だった。

パリへ
リックは、ユダヤ組織・カイトの命令で栄次郎の亡命のためにパリに向かった。彼の任務は極めて重要であり、一刻の猶予も許されなかった。

パリに到着したリックは、まず早川雪洲に会うことにした。彼はカイトの重要な情報源であり、栄次郎の行方について何か知っているはずだった。リックが指定されたカフェに入ると、奥の席に座っていた雪洲が手を振って彼を呼び寄せた。

「栄次郎はナチに捕まってしまったらしい。まだ定かじゃないが」雪洲は低い声で言った。

リックの心臓が一瞬止まりそうになった。だが、彼は感情を抑え、冷静にうなずいた。情報収集が急務だと悟ったリックは、カイトのメンバーが集まる別のカフェへと足を運んだ。

店の外にある空いている席に座ったリックは、隣に座っていた女性に目を留めた。彼女の顔には深い悲しみが刻まれていた。ふと見ると、彼女は新聞を握りしめており、その内容に呆然としている様子だった。新聞が突風にあおられて、リックのテーブルに落ちた。

リックは新聞を拾い上げ、優しく言った。「これはあんたのものじゃありませんか?」

女性は驚いたように顔を上げた。リックが英語で話しかけたため、彼がアメリカ人だと思ったのだろう。彼女はかすかにうなずき、新聞を受け取った。その仕草から、彼女が栄次郎の妻イダであることをリックは察した。

リックは勝手にイダのテーブルに座り、「こちらの方がずっと景色がいいですね」と言って、聞いたこともないくらいお粗末なフランス語で、コーヒーを二杯注文した。

その姿にイダは思わず笑ってしまった。「どっちのほうが面白いのかな。俺の訛りと顔と?」

リックも微笑んだ。「おそらく両方だろうね。でも、今日は少しでもあなたの心を軽くしたかったんだ。」

イダの笑顔は一瞬の慰めであり、リックは彼女に寄り添う決意を新たにした。彼らは互いの痛みを共有しながら、リックは任務を遂行するための情報を集め続けた。そして、二人は次第に信頼を築き、共に栄次郎の救出に向けた計画を練り始めたのだった。

リック・カフェ・アメリカン

リックはトレンチコートを着込み、閉店した酒場の椅子に腰を下ろした。店内は静まり返り、僅かに残る酒の香りが漂う。リックの目は、ドアの方をじっと見つめていた。サムが栄次郎を迎えに行ったのだ。リックは待っているのだが、いつでも外に出られるように準備は整っていた。

「俺は、サムとニューヨークから逃げてきた」とリックはつぶやいた。「今はモロッコのカサブランカで酒場をやっている。名前は『リックカフェ・アメリカン』。店に名前はなかったが、周囲が勝手にそう呼び始めたんだ。俺の名前を使ってな。」

リックは過去を思い返した。彼は日系人であったが、外見からは日本人だと見られることは少なかった。カサブランカに店を構えたのは、バロン薩摩のポケットマネーのおかげだった。バロンはパリに住む日本人で、祖父の莫大な蓄財を湯水のように使っていた。モロッコにも別荘を持っていたのだ。彼の支援のおかげで、リックの店には立派な看板も掲げられていた。

リックは椅子に深く座り直し、過去の出来事に思いを馳せた。ニューヨークでの喧騒と、逃亡のスリル、そしてカサブランカでの新しい生活。全てが混ざり合い、今の自分を形作っていた。静かな店内には、リックのつぶやきが虚空に吸い込まれるように消えていった。





サムが栄次郎を案内して店に現れた。
サム「ボス、連れてきました」
リックは栄次郎に言った。
「ようこそ。リックと申します。
二階に部屋を用意しました」
「ありがとう、妻は大丈夫か?」
「ホリーが、別のホテルで一緒です。
安心してください」
栄次郎が尋ねた。「ホリーさんも日系なの?。
リックさん、あなたも?」
リック「はい。日本人には見えないようですが、私たちは、カリフォルニア生まれの日系人です。サムは父が黒人で、母は日本人です」
聞いていたサムが付け加えた。
「寒川という苗字ですが、みんながサムと呼んでます」

リックは言った。
「お疲れでしょう。ゆっくりお休みください」
「久々にベッドで眠れるだけでもありがたい。



  タチヨミ版はここまでとなります。


カサブランカで朝食を(愛理物語)

2021年10月28日 発行 初版

著  者:三浦愛理
発  行:リックの書店

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