ある春の日、ふたぬいはサバつりにでかけました。
さむさむだったきのうにくらべてぐんとあたたかくなったこんな日は、ピカピカにアブラののったサバがいれぐいなはずなのです。はるぬいじゅんびによねんがありません。ところが……
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ぬいたちは、
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+*◆ 登場人物 ◆*+
まこぬい
ちょっとどじっこなわた。
ふくよかでゆっくりさんでくいしんぼう。
ごでばがすき。
どらやきもすき。
おにくもすき。
でもいちばんすきなのは、はるぬいとかちゃ(かーちゃん)
よくシュールな質問をして場を困惑させる。
ぬいの里大学の市民講座に週3で通っている。
専攻はどんぐり応用学。

はるぬい
サバLoveのちび綿。
まこぬいの兄のつもりでいつもあれこれせわをやいている。
ぬい保護者であるかちゃよりかしこい。(おっちょこちょいのかちゃをたびたび説教することも……)
家族を大事に思っている。
サバだけでなく、いろんなものへのこだわりがつよい。さいきんはおりょうりにもきょうみがある。
サバの日(3月8日)にハルちゃんたちが経営する小料理屋に行くのを心待ちにしている。
ぬいの里大学の市民講座に週3で通っている。
専攻は鯖学と海洋生物学。

かちゃ
たまに登場するぬいたちの保護者。
人間種なのでぬいの里には行けないが、ぬいたちの土産話を毎日楽しみに聞いている。
ぬいたち、おまんじゅうたち、てんごたち、おかしちゃん、フォトプロちゃん、キーホルちゃんたちと暮らしている。
ぬいママであり、マネージャーであり、審神者でもある。
(審神者はぬいたちに代行してもらってる)

綿族
ぬいたちとおなじ、綿に魂を宿らせし種族。
まこぬい、はるぬいのほか、なぎぬい、れいぬい、りんぬいなど。
まれに、ちゅけぬいやきすぬい、にとぬいなどの希少種も存在する。

おまんじゅう族
パウダービーズに魂を宿らせし種族
まるい
はずむ
青→はるまん
緑→まこまん
赤→りんまん
黄→なぎまん
紫→れいまん
など、生息地や色によってその生態は大いに異なる。
例えば、はるまんは書籍に興味を持ちがちであり、まこまんは人なつこい。りんまんは噛む(あまり痛くない)、なぎまんはあまいもの好き、れいまんは理性的、などの傾向があるが、これはあくまでも傾向であり、噛むはるまんもいれば、攻撃的なまこまんも、人好きなりんまんも存在する。
なお、種全体としては、人里離れた森では群れで、都会ではピンで行動する傾向がみられる。
※くどいようだが、こちらもあくまでも傾向のひとつに過ぎない。まんじゅうの世界は奥が深い。
なお、にゃまこ家の青(はるまん)は、ファミリー1の高い知性を持ち、現在ぬいの里大学の鯖学博士前期課程
鯖学と海洋学を得意としているが、恐竜学、天文学、物理学など専門は多岐にわたる
学術雑誌ヌィチャー・バイオロジーに掲載された論文は『海豚と人魚の類型進化におけるヌササウルスの役割』『海洋生物における抗菌キノコノコ遺伝子発現の定量的解析の試み』
緑(まこまん)は、はるまんの助手的なあれこれをこなす一方、ぬいの里チャンネルの人気者ムキまこさんのおっかけをしている
+*◆ ワールド ◆*+
ぬいの里
ちいさきものたちが住まいし楽園
保護者、ぬいママ、おまんじゅうブリーダーなど、人間の立ち入りは許されていない聖域
※詳細はあとがきにて
ぬいの里大学
ぬいの里立大学のひとつ。
文化祭、里農研機構、里民大学など、里民にオープンな地域密着型の大学。
七瀬ちびはるまんじゅう(本名)氏が名誉教授を務める。
【専門】
農業と観光とメカどんぐり開発関連、その他多数。
【著書】
『ぬいと付喪神の民俗学』全12回(2018年前期、七瀬ちびはるまんじゅう名誉教授)
『ぬいの発達と行動』講義録・全15回 初版付録「書き下ろし100ページ:まこぬいお世話日記」
『ぬいじぇん』監修


ぬいの里のおひさまがまんまるにかがやくぬららかな春の日……
今日は、はるぬいとまこぬいが、里のはじっこにあるはじっこ海岸につりにいく日です。
「よしゅ! きょはしゃば、いっぱいつるじょ!」
冬の間この日をずっと待ちわびていたはるぬいは、ベッドからとびおきるなり窓辺にかけより、ぜんせかいにむけてけついをひょうめいしました。
「ちゃば いぱいちれれるといいぬ」
ねぼけまなこのまこぬいが、あさのおひさまを背に、キラキラの笑顔でいいました。
「あ、ああ……」
はるぬいは、まこぬいが「ちゃば」というたびに、頭の中でぬいの里ちゃんねるの”ぬ~いおちゃ(ぬい里農大推薦高級茶葉)”CMのジングルが流れてしまうのですが、たちつてとがおぼつかないまこぬいをちょっとだけかわいらしくおもっていたので、ゆるむほっぺをごまかすように、だまってうなづきました。
ちなみにはるぬいは、自分がさしすせそを「しゃしゅしゅしぇしょ」と発音していることには気づいていませんし、じかくがないのでぬいたちの保護者”かちゃ”がそれとなくおしえてあげると「しゅんがいだ(心外だ)」と、ぷんすこします。そのときは、そんなはるぬいをかわいらしくおもっているかちゃのほっぺもゆるみっぱなしです。
「あしゃごはんをたべたらしゅぱつだじょ!」
「ぬいっ!」
まこぬいがはりきっておきがえをしているあいだ、はるぬいはそっとおへやをぬけだして、かちゃのほうちょうの音がするおだいどこ に、としとし向かいました。
昨日の夜、はるぬいはかちゃに、
「あしたはしゅおのおににりだけでいい。たまもやきとからあげはいらないじょ!」
と、ドヤりました。なぜなら、明日のおひるはつったばかりのサバをその場ですみびやきにしておなかいっぱいたべるつもりだからです。だからこそ、塩だけのおにぎりがいいのです。パリョパリョに焼けた香ばしいサバの皮、したたるあぶら……
ぬっくらジューシーなサバの腹に食いついて、すかさず塩むすびをぬぱりとほおばる。想像しただけでもよだれがたれそう……
だって、ひさしぶりのサバつりです。
きたいで綿がふくらまないわけがありません。もちろん、いっぱいつってゆうごはんもサバづくしにしてもらうつもりです。ちびくれよんで描いたゆうごはんメニューのリクエストもかちゃにわたしてあります。ばんじOKってやつです
かちゃは、
「ほんとにおかずはいいの?」
と心配しましたが、はるぬいのけついのこもったまなざしをみてすべてをさとってくれたようです。
今朝、なにも言わずにえがおで木綿にくるんだほかほかの塩むすびをわたしてくれました。
「きをつけてね! ぬいフォンtype_D(※どんぐり通信機)持った? 暗くなる前に帰るんだよ?」
「わかってる」
はるぬいは、わたされたそれが注文どおりの塩むすびであることをたしかめてから、満足そうに、そしてちょっとだけぎょうぎょうしく、おむすびのはいった木綿のぬのをせおいました。
「ぬぬ~ん♪」
まこぬいは、じぶんのあたまのはんぶんくらいもある塩むすびのつつみをせおってじょうきげんです。といっても、まこぬいはどこにいくにもなにをするにも、はるぬいといっしょならいつでもじょうきげんなんですけどね。
はるぬいは、じまんのつりざおとバケツをかかえ、ピンッとしたおかおで
「いてきましゅ!」
と、さけびました。
「いてちまち!」
まこぬいもさけびました。
そして、ふたぬいのちいさな背中はあっというまに森の中に消えてゆきました
かちゃは、心配そうに、そして少しだけうらやましそうにふたぬいを見送りました。
ぬいたちは人間のお店にもぬいの里にも行けるのに、おおきい人間は人間のお店にしか行けず、家からぬいの里には出られないからです。ちょっとせつないですが、これがこの世の理ってやつです。
ぬいたちのおうちはぬいの里の東の森の中にあって、ぬいの里のはじっこの海は、その森をぬけてすぐの崖から一望できます。
「うみだ!」
「ちれぇねえ……」
冬の時期は、森から崖の上に出たしゅんかん、海風がいきおいよくふきあげ、ペチペチッとぬいたちのお肌をかすめるので、いつも もこもコートのフードにもぐりこんで海風からかくれていました。
でも、昨日まで着ていたお気に入りのもこもコートは今日はタンスの奥でおるすばんです。
なぜなら、今日は朝からモヘアのカーディガンのような温かい風がぬいの里のじょうくうにただよっていて、今このしゅんかんも、ぬいたちの頭の上でくるくるとダンスしているからです。
森から海岸へのちかみちである崖のうえに出たふたぬいは、そのあたたかい春風のカーディガンにくるまれたまま、崖の階段を浜辺までのちのちくだっていきました。
ふたぬいは崖上から砂浜へおりるまでに広がる、しかいいっぱいのうなばらが大好きでした。
「この色はね、あおみどり色っていうんだよ」
「あぉみどりいろ?」
去年のちょうどいまと同じ冬と春のさかいめの日……
はるぬいは、その日行ったサバつりのようすを絵に描いてかちゃに見せてあげていました。
じぶんがぬいの里にいけないのを毎日のようにこぼしているかちゃに、里に行った時には必ず行ったばしょの絵を描いて見せてあげていたのですが、かちゃがはるぬいの描いた海をゆびさしながら、色の名前を教えてくれたのです。
その日描いた絵も今日とおなじくらいなきれいなあおみどりいろでした。そして、その絵にはピカピカのサバがたくさん描かれていました。
はじっこ海岸では、この季節、こんな色の海の日には脂の乗ったさばが大漁に釣れるのです。はるぬいはこれを春のサバまつりとよんで、毎年こころまちにしていました。
「ちょも、いぱいちれるといいねえ」
まんまるほっぺのまこぬいがいいました。
「いれぐいだ」
あおみどりいろの海を背景にしたはるぬいが、じしんまんまんでこたえました。
もう海は目の前です。
ふたぬいは、サバいれぐいのとくとうせきでもある防波堤のはじっこに、かわいいおちりをちょこんとおろしました。
はるぬいはなんだかわくわくしてきました。
「よしゅ!つるじょ!」
はるぬいがいきおいよくおてせいの竹のつりざおをふろうとしたそのときです。
まこぬいのおなかから、
”ぬ゛ぉうぃぉ~~きょるきょるるるうる…”
という、いような音がなりひびきました。
「お、おなたちゅいたぬい~」
まこぬいは、お出かけ前にかちゃが渡してくれた包みををじっと見ています。
切りっぱなしの木綿の包みはまだすこしあたたかく、ほんのりごはんのいいにおいがしています。
「も、もうしゅこしまってろ……」
つりをする前からおなかがなってしまって恥ずかしいのか、まこぬいのほっぺはさくら色です。それでもおなかがなるのをとめられず、じぶんでも気づいていないのかよだれもたらしています。
はるぬいはあせりました。
だって、しんせんなサバをたき火で焼いて、塩むすびといっしょにまこぬいにたべさせてあげたかったからです。もちろん、はるぬい特製あたたかいサバ汁もいっしょにです。
それはさぞかしおいしくてしあわせなおひるごはんになることでしょう。
はるぬいは、水面にしずんだつり糸の先をじっとみつめました。
あおみどりいろは、記憶の中の色より、なぜかすこしだけくらい色に見えました。
「あおみどりてどんないろなんだ?」
色の名前をおしえてもらったとき、はるぬいはこのいろがとてもきになりました。
「あおみどりはあおとみどりどっちのいろなんだ?」
はるぬいはちょっとしたことが気になってしかたないしょうぶんです。
くれよんでよごれたまんまるおててをとめ、青いおめめでかちゃのかおをじっとのぞきこみました。
「あおみどり色はねえ、あおとみどりのまんなかのいろだよ」
かちゃが答えると、はるぬいと、ちかくでおまんじゅうとあそんでいたまこぬいは、どうじに
「まんなかいろ!」
とさけびました。
じっさい、まこぬいは「まにゃたぃろ!」という発音でしたので、音声的にはグダグダでしたが、そんなことどうでもいいくらい、ふたぬいはびっくりしました。
まこぬいのめはきれいなみどりで、はるぬいのめは水のようなあおで、おたがいがおたがいの色を大好きにおもっていましたし、その大好きな色の真ん中の色があるなんて、とってもうれしいおどろきだったからです。
かちゃも、
「あおみどりはぬいたちの色だねえ」
と、にっこりしました。
その日から、あおみどりいろはぬいたちファミリーの大好きな色になりました。
ところが、今日はどうしたことでしょう?
大好きなあおみどり色の海にもぐった釣り針が、うんともぬんとも言いません。
堤防のはしっこのとくとうせきです。こんな天気のよい、海がこんな色の日は、つりばりはサバをいれぐいしておおはしゃぎのはずなのです。
それなにのに、しずかな波の音にのってきこえるのは、
”ぎょるるるるるろええええ~~”
という、さっきよりいようさに拍車のかかったまこぬいのおなかの音ばかり……
なんだかはるぬいはじぶんでもきがつかないうちに、いつもよりむくちになっていました。
「はぅちゃ……あのね……」
ふと、まこぬいが海の底をのぞきこみながら問いかけました。
「なんだ?」
「ちゅりっておにくもつれる?」
あまりにも唐突な投げかけでした。まこぬいのおめめはキラキラです。つっこみづらいことこのうえありません。
「に、にくはつれない……じょ……?」
「そっかぁ……」
またちょっとだけほっぺを染めたまこぬいはざんねんそうに笑いました。
まこぬいはわるい綿ではないのですが、ときおり空気を読まないシュールな質問をしては、はるぬいをこまらせることがありました。
「じゃぁ、ごでば……」
「ごでばもつれないっ!」
おなかが空いているからなのか、たいくつしているからなのか、今食べたいものを脳直でしつもんしてくるまこぬいにあつを感じたはるぬいの答えが、ちょっとだけ食い気味になってしまいました。
まこぬいは、しょも……っとまゆげをさげて、うなだれています。
はるぬいは、ないしんとってもどうようしましたが、こんなときどうしていいかわかりません。
なんだか、あせる気持ちだけがぱんぱんにふくらんで、逆に楽しみにしていたつりへの気持ちは砂浜に打ちあげられたクラゲみたいにショワショワにしぼんでしまったようでした。
はるぬいは、しょんもりおちこんだまこぬいをみながら、じぶんのなかにふくらむあせる気持ちをひっしにけそうとがんばりましたが、がんばればがんばるほどかえってふきげんに無口になってしまうのでした。
10分くらいたったころでしょうか、ずっとだまっていたまこぬいは、おもむろにサーモスタット竹筒水筒をつかむと、
「おみぢゅちゅんでちゅるね……」
と、森の方にてててっとはしりだしました。
「まこ……」
はるぬいの声がきこえているのかいないのか、まこぬいのせなかはどんどんちいさくなっていきます。
はるぬいはとたんにまこぬいがかわいそうになり、じぶんのたいどがまこぬいをきずつけてしまったとおもって悲しくなりました。
さばにこだわらなくても、かちゃの塩むすびはとてもおいしいのです。
まこぬいにおいしいものをたべさせてあげたかったとはいえ、自分のせいでおなかがすいたまこぬいにがまんさせてしまったと思うと、綿がくるしくなりました。
はるぬいのほおをトンビのような強い風がしゅるりとかすめました。
さっきのふわふわな風とはうってかわった綿肌寒い風でした。
はるぬいは、防波堤にふりそそぐきんいろの日ざしの中、もう見えなくなったまこぬい背中を追って、いつまでも森の暗がりをみつめつづけていました。
森の中に入ったまこぬいは、みずをくもうと ちとちと と滝にむかいました。
さっきは、いっしょうけんめいつりをしているはるぬいのとなりでいような音を発してしまいました。その音におどろいたサバが逃げてしまったのかもしれません。
いつもはいれぐい状態のはるぬいのつりばりがむはんのうだったのは、きっとそのせいです。
さっきまこぬいは、防波堤のはじっこでおちこみながらも、ぬっくりぬっくり かんがえて、そのけつろんにいたったのでした。
おなかはすいたし、ひと綿であるく森の中はすこしだけこわいけど、きっとはるぬいがおいしいさばりょうりをつくってくれるはずです。
そのためにもきれいなお水をいっぱいくんでかえろうと、まこぬいは勇気をふりしぼってくらい森のなかをすすんでゆきました。
「あたぬい」
森に入ってちょっとのところに、きれいな滝があります。
いくつかの苔むした岩の間から、キラキラ光るとうめいなおみずがサワサワと落ち続けています。
「かしゃのたきだ」
まえにきたときにはるぬいがこの滝になまえをつけました。
この滝のまわりにはみっしりと枝をのばした木々がまるで滝をまもる傘のように、交互に葉っぱの手をかざしているからです。
そのときここでどんぐりをひろったことを思い出して、まこぬいはぬょろぬょろとあたりをみまわしました。
どんぐりはおちていますが、つやつやとした緑色でとてもかたそうです。
そういえば、まえにどんぐりをひろったときは、まわりがまっかな葉っぱでいっぱいだったことを思い出しました。
チョコレート色のどんぐりをひろったら、はうちゃがたきびで焼いてむいてくれたし、持って帰った分はかちゃとふたりでクッキーをつくってくれました。
どんぐりみたいなおめめのまこぬいのおかおのクッキーでした。
不思議なことに、おいしかったという記憶はあるのに、おもいだすのはその味よりも、はうちゃのつくってくれた自分のおかおの絵ほうでした。
だって、かがみをみるたびにじぶんのおかおがクッキーのおかおに見えるくらいに、にてたんです。
「特徴をよくとらえてるよね」
かちゃはわらいました。
はるぬいは
「まこのおかおはオレがいちばんよくみてるんだじょ」
と、言いました。そのときのはるぬいのおみみは秋のはっぱみたいにまっかでした。
まこはなんだか突然、ここにかちゃとはるぬいがいないことが、とてもとてもさみしくなりました。
まこぬいは、いそいでサーモスタット竹筒を滝の水でまんたんにして両うででかかえると、海へ戻ろうとはしりだしました。
そのとたん……
ガロ…………ゴロロロ……
とおくのお空から、おもちゃばこをひっくりかえしたような音が聞こえたような気がしました。
まこぬいの心綿がどきんとしました。
どんぐりみたいなまんまるのおめめにおおつぶのみだがみるみるふくらんでいきます。だけど、まこぬいはなくのをひっしにこらえました。
だって、ないたらうごけなくなってしまいそうだったからです。
そのときです。
「……まことーっ……」
遠くからはうちゃが自分を呼ぶ声がきこえました。
「はるちゃ……」
まこぬいがとおくのはるぬいの呼びかけに答えようとした瞬間……
ガロゴロ!ズンドコッバリーンッ!
ごう音とともに、きゅうに目の前がまっしろになりました。
まこぬいは目をまわしたうえに腰がぬけてしまい、おなかがすいていたこともあって、とうとうほんとうにうごけなくなってしまいました。
「まことーっどこだー!」
力強いはるぬいの声がまこぬいに力をあたええました。
しかし、その声は降り出したスコールの音にかき消されそうです。
「は……るぅちゃ~~~ぁっ」
まこぬいは、あたまと胴体の間(のど?)から必死に声をしぼりだしました。
でも、かなしいことに声はかすれてまったくとどかず、逆におっきなタレ目からは涙がこぼれ、じょわってしまったのでお気に入りのおずぼんはびしょびしょに、そしてとどめにおなかからは、”ぎゅぎょるうるるるるるッッ~~”というとくだいのいような音が鳴りひびきました。
「はっ!この音は!」
その異音を聞きつけたはるぬいは、滝の前でこしをぬかしているまこぬいをはっけんしました。そのむねには大事そうにかかえられたサーモスタット竹筒がありました。
苔むした岩からとびこんでいきたはるぬいのおかおにも、おなじくらい葉っぱや木の枝をくっついていました。じまんのサバTシャツも砂まみれでしたし、もみあげもほっぺにはりついていました。
「だいじょうぶかまこと!」
「はるぢゃ~~~~だいぢょぶよ~~」
なみだとハナ(どこ?)ミズとドロにまみれたぜんぜん大丈夫じゃないなきわらいのお顔で、まこぬいははるぬいにぎゅ~っとくっつきました。
「だいじょうぶだじょまこと。かみなりしゃま、あっちいってくれたじょ」
はるぬいは、しらたまみたいなまんまるおててで、まこぬいのどらやきあたまをヨシヨシしました。
それからしばらく雷はなり続けましたが、その音はすぐに遠くに移動し、春の嵐はあっけなく去っていきました。
今は春と言うには暑すぎるくらいにお天道様が輝いています。
爽やかな風が、木の枝に干したふたぬいのパーカーをふわふわとゆらしています。
「よ、よしゅ、おべんとうのじゅかんだ!」
「きゃ~♡」
まこぬいはおおよろこびで、ちかくでひろった星貝を鍋にほうりこみました。
はるぬいもつづいて、ちょっとだけ悲しそうなかおで、森でつんできたアサツキをハサミで切って鍋にいれました。まこぬいにおいしいサバをたべさせてやれないことを、まだ少し気にしていたのです。
まこぬいは、はるぬいに続いてガラス瓶にはいった味噌を木のスプーンですくって鍋にいれました。ドボンといきおいよくかたまりを放り込んだので、汁がはね、ふたりはあちちとにげました。
しばらくすると、貝の出汁と味噌の香りがぬんわりとただよいはじめました。
この味噌や鍋は、このはじっこ海岸にくる里民のために、ハルまんじゅう財団が常備してくれているキャンプ用品です。里の民なら誰でもむりょうで利用できるものです。
みんなはそこを「おまんじゅうの宝箱」とか、「まんじゅう小屋」とか、あるいはただの「小屋」とか呼んでいました。
正式な名前はあったのですが、「御饅頭財団緊急食糧備蓄庫」という経文のように難しい名まえのため、正式名称で呼ぶ綿はほとんどいませんでした。
「かいのおみちょちるいいによいねえ」
おおきなおなべを、木のおたまでくるくるかきまぜながら、まこぬいがいいました。
そこではるぬいはふと気づきました。
「しゃばの干物なかったのか?」
そうなんです。
そのキャンプ用品が置かれている小屋には、いつも里民のお礼代わりの岩のりや昆布、魚の干物が所狭しと並んでいます。
とうぜん、鯖の干物も、缶詰(近くのフィグ漁連で製造)すらあったはずです。
まこぬいは、ぬっくりとぎれとぎれにこたえました。
「きょはね、まこはね、おまんぢゅとや(小屋)のちゃばはいらぬいの。はうちゃは? とやちゃばたべる? もてちる?」
はるぬいのめをじっとみながらまこぬいがききまいた。
「オレも……きょおはこやのしゃばはいい……」
はるぬいは照れたようにそっぽをむきました。そっぽをむいたちっちゃなおみみはほんのりさくら色でした。
ふたぬいの心綿のおくに、ぬんわりとあたたかな春風がふきました。
だって、はるぬいはまこぬいとかちゃに、じぶんがつったサバをたべさせてあげたかったし、まこぬいははうちゃがつってくれるサバがこの世で一番おいしいサバだと知っているからです。
そしてなによりこのあとふたぬいがまたサバつりの時間をいっしょにすごせることが、とても幸せなことだとさっきあらためてわかったからです。
だからいまは、サバなしの塩むすびと味噌汁だけのおひるごはんを、とてもとても大事に思えたのでした。
「ごはんをたべたらね、ちょとだてねむつなちゃたね」
「ああ、しょうだな、少しひるねしてからつりにいこう……」
砂はあたたかく、風はここちよく、波の音はやさしくおおきなてのひらのようにふたぬいをつつみます。
はるぬいはこのあとサバがつれてもつれなくてもどうでもよくなってきました。こんなことはるぬいにはとてもめずらしいことです。
ゆったりときもちのよい風がまぶたをおもたくします。
おてんとうさまはキラキラと金色にかがやいています。
ちっちゃな赤ちゃんガニがまこぬいのおなかをよちよちよこぎり、まこぬいはくすぐったくてたまらずわらいだしました。
それと見たはるぬいもつられてわらいだし、ふたぬいのわらい声は綿気もまばらなあおみどりいろの海岸にいつまでもこだまするのでした。
おちまい
綿よ!
我に力を与えし無量の綿よ!
其の純白の世界に我を導かん
中綿病の句
※あとがき内の赤字はすべてTwitterやYou Tube、noteなどの外部リンクとなります。
【ぬいの里】
ちいさきものたちだけでなく、ぬいママあこがれの聖地でもある「ぬいの里」
綿まんが日々たのしく暮らす様子を発信してくれる公式アカウントツイートを見かけるたびに、彼らの日常がイキイキと頭に浮かびます。
ただし、ぬいの里は人間不可侵の綿のサンクチュアリですので、実際にぬいママが立ち入ることは難しく、当然人間である私のロケハンも不可。
ですので、挿絵は主にはるぬいに依頼したスケッチをもとに、私が想像でおぎなって描いております。
◆ 本作のロケ地について
ぬいの里には、数々の名所があり、今回登場したはじっこ海岸は、ぬいの里の地図には乗っていない、ちっちゃなちっちゃな海岸です。
今回はこのちっちゃな海岸が舞台のお話でしたが、次回ははぅちゃの小料理屋さんやムキまこさんの畑などの名所、また、まこぬいちゃんとりんぬいちゃんが発見した温泉やぬいの里ちゃんねるなど、おなじみのエピソードをもとにしたお話も書ければなあと思っています。(腕に覚えがあれば……)
とはいえ実は、ぬいの里はほんわかやわらかというだけの里ではありません。
里に住む綿たちのほとんどは、おうちがなくなってしまった迷子たちなんです。
うちのぬいたちのように人間界から里の大学に通う綿もいますが、そういったレアケースを除いては、行き場のない子たちはハルちゃんのお屋敷で保護されるか、里のどこかでで野生綿として暮らしているのです。
◆ まこぬい業界では有名なイワノリ事件について
空前のまこぬいフィーバー(楽天一位)が巻き起こった2014年ごろ……
フィーバーに乗じて海外産のパチモノ兄まこぬい(通称:イワノリちゃん)が大量につくられ、その後行方知れずとなった痛ましい事件がありました。
綿新参者の私は風のうわさにしか聞いたことはないのですが、リアルタイムでなかった私ですら、そんな事件があったと想像するだけで、心の綿が針金でガチガチに巻かれたように苦しくなります。
綿を愛せしぬい保護者であれば、この気持を共有していただけると思いますが、ちっちゃな綿が見知らぬ遠い地で途方にくれていると考えただけで……うっ頭と心が……
だからこそ、よけいぬいの里が救いとなりました。
遠い海外で行方知れずとなったイワノリちゃんたちや、なんらかの事情でおうちをなくしてしまったぬいちゃんたちが、きっとぬいの里で楽しく暮らしているのだろうと思うと、心の綿がぬんわりほどけていく気がします。
行き場のない綿魂だけでなく、その綿を想うぬい保護者たちの気持ちをすくい上げで下さったぬいの里。その聖地を創造してくださり、なおかつその世界をお貸しくださった神宮寺ピンズさんには感謝しかありません!
本当にありがとうございました。
人生いろいろありますが、ぬいたちとお茶をしながらぬいの里の土産話を聞かせてもらうひとときが宝石よりも大事な私の幸せな時間です。
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2022年3月13日 発行 初版
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