spine
jacket

───────────────────────



竹藤夫人

藤原洋

モリタ出版



───────────────────────

竹藤夫人は
近中世 戦国の世 武家に 嫁ぎました。
息子 娘を 見事に 育てます。
是非 ご覧ください。





登場人物

竹藤夫人(たけとう)
旧姓名 桂
竹藤仁堅(たけとう じんけん)
 魁(かい)の国の統領
竹藤寄克
 仁堅の子
松海弦信(まつうみ げんしん)
 謁(えつ)の国の統領
松海克行
 弦信の子

茅姫(かやひめ)
  仁堅の長女

笠姫(かさひめ)
  仁堅の次女

竹藤清延(きよのぶ)
 仁堅の 長男 
ほか
困多門太

竹藤夫人は どのような タイプか 考えてみてください。
その為 実話から ご案内します。
それでは 現代の会社勤務の 人たちの会話から いたしましょう。

藤原の日記34年前のある日のページ

竹藤の魁の国に 転勤して入りました。竹藤夫人から450年経っています。
この年新人を5名採用しました。全員可愛い女の子です。
中でも2名は 20才で 他は18才でした。
ある時慰安旅行が有りました。仕事を離れると、性格などがわかりやすいのでございます。
20歳組の2名が気になります。
二人は仲良しです。そして適齢期の男性が5名には全員彼氏がいますよ。
予防線を張っていた、何か考えていたのだろう。

M子は堅実型。K子はあっけらかんと言えばいいのでしょうか。
男性の目はK子に注がれています。K子はオキャンですよ。と言う男もいる。
当時のオキャンはお転婆に近かったのかも知れません。不思議な魅力は顔だけでは無いものを
持っていました。
「日本酒初めて飲んでみよう。」
冗談が好きそうだった。足は投げ出しているような感じで、他の子はだれも伸ばしていなかった。
宴会の席で隣の子の肩に手を掛けたりしている。嫌味はなく相手の女の子も笑って気にしていない。
結婚前に付き合う子、家庭に入る子 と割り切って付き合っている男性がいた。
K子とM子は そんな違いが有ったのだろうか。このK子は 相当な引力を持っていることは確かだった。

さて竹藤夫人はどちらに近いか また別のタイプかお考えを頂きたいものです。




1 輿入れ

竹藤夫人 後の桂御寮人は いよいよ 住み慣れた実家を 出発する。
竹藤仁堅に 輿入れするのである。
横笛川の支流で 一旦行列は 停止した。夫人に独身最後の郷里とのお別れをするためだった。
仁堅の志で 輿は 人から馬車に乗り替えるよう指示していた。
竹藤夫人は 名前は桂であった。
御嫁入りに際し、自分の子供の頃から現在までを 頭に描いていた。
実家を離れるに際して、今更ながら親に育てて貰ったことを 感謝していた。

最も思い出深いのは 夕食だった。
朝はそれぞれ 仕事があったので 別々にしていた。しかし夕食は 揃うことが多かった。
それでも戦の前後は また別々で有った。
その夕食を 結婚したあと 家族が増えても 実施したかった。勿論御屋形様に
相談することも 様子を確認してからでないと 出来ない。まして 戦の兼ね合いは
妻と言えども口出しは 出来ない。

そして もう一つ お願いが有ったのは 戦のあとの出迎えだった。
夫人は 戦の見送りは しない方が良いと 個人的に考えていた。
それは 戦に向かう兵士に 未練を残させないためだった。
迎えるのは どんな姿でも 例え厳しい状態でも 覚悟して 出迎える
気持であった。
竹藤家も 戦国武将の習わしから 男女は別棟で過ごした。まして仁堅の妻ともなれば
親方の言い分を 聞かなければならない。
桂姫は 本妻では無いし 無理だろうと 輿の上で 考えていた。
実にそうで 仁堅は 妻を何人か持つこととなっていく。
湖の国からの 姫を最も大事にした。

その中で 桂は見事に 子供を育てたのである。
輿は何時しか 馬車に 切り替えられていた。仁堅が 体をいたわるための 配慮をしたのである。輿は 桂の来た道から 大きく右折した。竹藤館方向に。
その時 魁駒ケ岳が見えた。
夫人は それから 屡々見上げる事となるのだった。
いよいよ館が 近くなる頃 父親が話した 戦国の世と 仁堅の いう 「人は石垣」
そして 「城」である。この話を 繰り返し思い出した。
嫁ぐ以上は もう 実家は 遠い話と感じて うっすらと涙が 頬を伝った。

仁堅は 出迎えた。
桂は 竹藤夫人となった。
夫人は 仁堅に会った途端に 上手くいくと実感した。そのようになっていった。
子供を 手元で育てたい。これも 仁堅はすぐ考えて 許した。ただ、男の子は自分で
考えてから、許可したいし条件を付けたいと 言った。仁堅は戦には強い心構えがいる事を
話したかった。それは無理からぬ事だった。
仁堅は 桂に女の子を手元で育てる事を 了承していく。そして戦国の厳しい現実を それとなく教えていくよう 諭した。
戦の世の中 勝たねばならぬ 負けては一族郎党が さまようことになる。
仁堅は家族に 桂を紹介した。部屋を案内して 回った。その他大勢の部下は 大広間に
一同招き 桂の姿を見せた。
代表で展弓が 歓迎の口上を述べた。最後に言った。

「おめでとうございまする。」
桂は 嬉しかった。と同時に 竹藤家の一員で やって行く強い決心が出来ていた。

仁堅は 松海弦信の事は 詳しく話した。既に数回 激しい闘いをやっている。
謁の国の統領で 手ごわい相手と表現した。雌雄を決しないといけない。それも
国の為と諭した。詳しく話す余裕は無かったが、概略を話した。男の子が欲しい事も
付け加えた。そして中の島川の戦は、攻略が難しいが強い決心を 伝えた。
現に攻めの仁堅小道には 触れていた。
何時、のろしが上がるか分からない。その時、電撃的に出陣するので心構えを、話したのである。小道は 最短の時間で 中の島川近くまで 行けるのだった。
夫人は嫁ぐ前に父親から聞いた話の、強いゴシック体を感じたのである。

仁堅は 近国の様子を 詳しくでは無いが 掻い摘んで 話した。


早上(さがみ)は 方城 寸富(すんぷ) は 居間川 が 治めていた。この居間川が 得川に変わった。
仁堅はこの 両国を 頭に確り描いて 北の雄 松海弦信と 戦うのであった。
勿論 戦国は 京が 本国中心であって 尾田氏が 頭角を現して行った。
尾田は 横暴な所が あって、帝から 仁堅に 上洛し成敗するよう連絡をしてきた。
仁堅は 京に上る決心をした のであった。
尾田も心得ていて 仁堅に贈り物は 盛んにしていた。敬意と懇意を 体現していた。
勿論それが どうのこうの という段階では無かった。しかし、後に桂の長女茅姫を許嫁で
出すなど ずっと先の 話しだった。
尾田は 得川を 大事にした。尾田得川連合軍は 後に 仁堅の子 寄克を 襲う。

桂は 京の姫を訪ねた。
会うと いかにも優しい 雰囲気が 感じられた。
遠路から 嫁いでいた姫は 大変だし 少しは暗い様子でも不思議ではなかった。

「桂でございます。以後宜しゅうお願いします。」
「どう 館は」
「はい。これから慣れて行くものと思います。」
「そうね、焦らないことね。」
「はい。」
話しの様子で 京を あまり意識させなかった。が、どこか京訛りが あるのだろう。
それが かえって 珍しく 嬉しかった。帝を擁する 京は そこだけにしかない独特の
ものがある。桂は 徐々に 知っていきたい気がしていた。

「初めてお会い出来まして、改めてお礼申し上げます。
 ところで 京はどんなところでしょうか。」
「春の桜から 夏の風物そして 秋のモミジ 冬の景色
 とてもいいわよ。」
 桂は もう京の姫が 好きでいつも一緒に居たい御寮人になっていた。

「そうね、一緒に行けるといいわね。でも そうもいかないわね。」
京の言葉は 優しすぎる との認識は桂にあった。
それは 権力の集中する所 余裕から優しくなる事を 推察し見抜いて
いた。
別れて 廊下に出た。遠く 右手に 魁駒ケ岳が 少し見えた。
何故か 日本一の不二の山 より駒ケ岳の方が 見る回数は 多くなって行った。
他にも八ヶ岳 北岳も有ったのだが

一方で 京の姫は 仁堅が 京に上りたいと 思って居る事を 少し察知している様だった。
桂は 次第に現実が 身に迫ってくるのだと 改めて 実感していた。

つぎの日 湖の姫を尋ねた

「よく来たわね。」
「はい これから宜しく お願いします。」
「気楽にしてね。」
「はい。姫様は如何 お過ごしでいらっしゃいましたか。」

湖の姫は 日々の暮らし 長男のことを楽しそうに話した。

「湖は大きいのでしょうね。」
「大きいわよ。」
桂は不二の5湖は 聞いていたが 違う湖に とても興味が湧いた。
一度は 姫の里の湖も見たかった。しかし、次の話で更に 見たくなっていた。

「冬になるとね、湖に氷の壁ができるのよ。」
「氷の壁ですか。」
「そうなの、年によって違うんだけどね、大きな音がするの、怖いくらいよ。」
その後 神の渡りと言われるものであった。
「何時か 二人で行きましょうね。」

湖の姫にも 別れがたい雰囲気のままで 別れた。

楽しさもここまでだった。
仁堅小道から のろしが上がった。
弦信に 何かの動きが有ったのか

館には 次々と 兵が集まった。この集合こそ仁堅が 誇る 竹藤軍団の 持ち味だった。
竹藤夫人は 初めてみる 軍団の集結に 気持ちを強く 引き締めた。
のろしは 火の不始末で あった。弦信の 襲来でなくてよかった。
しかし、これが本当の 攻撃だったらどうなるのか 夫人は心が痛んだ。
竹藤に来て 周囲の山々を見た時 そのどこかで 敵が一つの山を超えて来たらどうなるのだろう。
じっと考え込んでしまった。しかし、子供の前では絶対に出来ない 表情であった。

竹藤夫人は 子宝に恵まれた。
長女は茅姫と言った。早い機会に、尾田から縁組の話が来た。許嫁となった。
実際に魁から 嫁にでることは無かった。
仁堅は 弦信との決着を急いだ。竹藤夫人にも 過去3度 中の島川で 戦ったことを
話した。

「何れ 決着をつける。」
この言葉に 竹藤夫人は 京へ上る意味だと理解した。
弦信は あと腐れのない決着を望んでいた。しかし、思うように行かないのが戦国の常だった。

第4回目の中の島川の戦は 凄惨を極めた。有力な武将、軍師、我子を失った。
それでも 仁堅にチャンスがあった。作戦は半分は成功していた。しかし弦信を
追うことはしなかった。この事は 二人の関係に 変化を示した。
勿論 弦信を 追いかけて 謁の国に入ったら とても追い打ちどころでは無かったろう。
仁堅は 経緯を弦信に理解してほしかった。そして 思いは弦信に届いていた。
館に帰り

「必ず弦信は5回目の戦に来る。」
この戦いは 最終決戦だった。弦信の旗には その思いが詰まっていた。
仁堅対弦信は 対岸に構えた。

「BI]と「HURIN]の 幟旗は それぞれ対岸の川風に棚引いた。
魁・かい 謁・えつ いずれも 譲るわけには行かなかった。
仁堅は京に行ったことは無かった。弦信は 上京していた。川を挟んで 二人は
京への 想いが交叉していた。

帝も この二人に違う対応を 示していた。尾田が 暴れて困る という考えはあった。
しかし、二人が連合を組んで 上京して呉れないかな との思いは無かった。
時期は ずれたし この二人の連合は強力過ぎると 考えた。そうでなければ 或いは必死なら
戦をまず やめないかと 話したはずだった。いずれかが勝って 京に来てくれ。
そう願っていた。
その間に尾田は 得川と 強い結束を持って行った。作戦は尾田の有利だった。
尾田は地の利があるとはいえ 仁堅と寄克の親子に勝って行ったことになる。

弦信は 京に仁堅を 上らせても良いと思った。しかしドウゾという訳には行かない。
弦信は 自分の領地から 京は 何かの時 駆けつけられない と考えていた。
特に冬は 決定的だった。その点仁堅は まだ良いと思った。それが 弦信の心に
あった。尾田の横暴を仁堅が 先ず押さえてくれればいい。それが無理で 駄目だったら
自分が 乗り込む方法は 有ると考えた。
帝も 仁堅と弦信で 尾田得川を 東西から挟み撃ちにする 構想も持っていた。

弦信は 京ではなく東に興味を持っていた。それは単に 農作物を得るためでなく
広く将来を睨んでいた。
京が続くのか 或いは他に新天地が あるのではないのか。それが東国だった。

そしてそれを 実現したのが得川だった。

帝も余りにも 仁堅対弦信の戦が 続いてしまうので 次の手を打てなかった。
これは二人を 戦わしては ならないのではないか。早くしないと 仁堅も年を取ってしまう。
弦信も 進んで京に来てくれる 気配はない。

帝は 手紙を認めるよう 指示した。

「戦を一旦 収めよ。」
これが 願いだった。と同時により京に来てくれそうな 仁堅を優先した。
極秘に 弦信には 仁堅に全て任せるのではない 旨 書いてもいた。
帝は 仁堅を上京させる。それは尾田を抑える事だった。
そして得川は 弦信が 東に回ることを 考えていた。
尾田得川の連合は、簡単には破れないものとなっていった。特に得川が強くなるのは、これまでの
成長に会った。安家は人質の経験も持っていた。強靭な忍耐力を持っている。
尾田の先見性、行動力、垂範性は高く評価したが、どこかやり過ぎの心配は尽きなかった。
それに対して得川の落ち着きは 、将来天下を取る者と考えていた。事実そうなっていくのだった。
帝はもし、仁堅が上京し、言う事を聞かない場合、弦信を保管しておけば、またカードの出し直しが効くと判断した。弦信には、直接会っているので話は早かった。むしろ、弦信の為の
大戦略だった。しかも弦信、仁堅とも京から離れた場所が、郷里なのは都合が良かった。
例え仁堅から、弦信に移った所で、北の海を越える弦信には、弱みの雪があった。
帝は5回 戦ったがもう10回目までは無いだろう。諭した、そして両雄は帝の真の気持ちは
判らずとも現下の戦は、もういい 次に進みたいところだった。

尾田はパニックになっていた。
仁堅と弦信の和睦は その話し合いがどのようかで、全く違う作戦が必要だった。
どうも仁堅が 上京するらしい。しかも以前の居間川の比較ではない。先には奇襲で成功したが
今度は 全く違う闘いが 必要だった。
そして西国の制覇が上手くいっていない。帝も不審な動きをしている。
兎も角 何と言っても西の制覇だ。此れから片づけよう。尾田の悩みは尽きなかった。

仁堅は 中の島川から 陣を引いた。
弦信も 引いた。
尾田は自分に向かってくることは 充分知っていた。早く西国を押さえておかねば と考え焦った。
一方 得川は、弦信が 東に向かうことは察知し対策は 抜かりが無かった。東国を抑えるのは 弦信はいつでも
出来る。東から弦信がくる。得川の作戦会議は いつもまっ先にこの危険性を 論じた。
東の中心 方丈はどの国とも結んでしまう、心配が有った。
まだ尾田との連合で動いている間は、方丈対策どころでは無かった。

確かに尾田に大事件が 起きる、前触れだった。

その前に 尾田は大敵 仁堅対策だった。

仁堅は 川から引き上げると 尾田征伐に 乗り出した。

道中、仁堅は大失敗をする。魁から 出陣し山を越え、得川領に入る。得川を
無視して通過した。
これは大失敗だった。得川は尾田を征伐する前に 味方にしなければならなかった。
一旦城攻めをして、証文を取っておけばよかった。
しかも 無視された得川は 仁堅の後を 追ったのである。好機だった。
これを ただ追い返した。安家は 負けて 自分の自画像を描いた。それを見て、終生
励みにして頑張るのだった。
仁堅も尾田得川の連合軍は 尾田を破ることで簡単に攻略できると考えていた。
甘かった。
潰さずとも 中立或いは 味方にどうしてしなかったのか 悔やまれるところである。

何れにしろ 仁堅は向かう敵は尾田のみとなった。

「ウーム きつい。」
仁堅は わが身が もう駄目と察知した。

息子 寄克を呼び 諭した。
「わが死は 7年隠匿せよ。死後は弦信殿を 頼れ。」

寄克も驚いた 弦信を頼れとは どういうことか。
詳しく聞くと 帝の意向も 判った。それでは錦の御旗ではないか。
考え過ぎだったが 逸る気持ちは 徐々に 父の死とは 裏腹に
激しく強くなっていった。
重苦しい雰囲気の中 一軍は 帰って来た。

今回の迎えは 過去と全く違った。寄克は 仁堅が生きている形 だったし
それでいて 悲しみは伏しに伏して 館に入ったのだ。
竹藤夫人 京の姫 湖の姫も 静かに出迎えた。

竹藤夫人は 仁堅の出陣よりずっと前に 次女笠姫 長男 清延 を 生んでいた。
長女 茅姫の 尾田との許嫁は 解消していた。

仁堅の死の後 後を追うように 弦信も死んだ。

寄克は弦信の子 克行とは 改めて 連合を確かめたかった。その為
笠姫を 嫁がせる話を 持ち込んだ。
松海克行と 笠姫は 無事に結ばれた。しかし 事は 簡単では無かった。
大問題が 待ち受けていたのである。
そして それは このエッセイの最大 テーマとなるのである。

そのまえに 世間はどうなっていたのか。

仁堅の動静を見ていた 尾田は 動きが無い事を 察知した。喇叭を出し 調べると
どうも 死んでいるようだ。
そこで 尾田得川連合軍を 結成出陣した。
寄克の 防戦も難しく 竹藤家は 最後を迎えてしまう。
せめてもの 慰みに茅姫が 落ち延びるのだった。
茅は 隣国へ 得川の力の及ぶ 王子八へ 逃げ延びるのである。
笠姫は 松海家に嫁いで行っていたし、清延も 落ち延びる。
これらは 一種の奇跡だった。

寄克の最後を 見届けた清延は 高夜山へ行く。
僧侶の姿でも とても難しかった。


その2 大事件

尾田の部下の謀反・・・ 大事件である

 京で 大変な事件が持ち上がった。
尾田が 襲われたのである。それも自分の部下にであった。
此の時 得川は 京に上っていた。

明日は 尾田と安家とで お茶を飲もう その約束の前日 夜の事だった。
京の お寺は 無防備だった。尾田も まさか自分の部下が 襲うとは
全く予想していなかった。このお寺で尾田は死んでしまう。

得川は 坂井見物を 前日済ませた。その夜の異変である。
しかも不思議なのは 得川を出迎えるはずの 尾田の息子も 来なかった。
息子は 父親を助けることも出来なかった。得川の 出迎えの姿勢も無く
 じっとしていたのは、何かが有ったのだろう。
 誰かから じっと待っているよう連絡が 有ったなら 歴史の大展開 の可能性がある。

尾田の子も我が身で 大変だったのだろう。
得川は 謀反の京に近づいていた。近くなるにつれ 謀反人は 自分にどう 向かって来るのか
判らない。兎も角 一刻も早く国に帰らなければならない。
 尾田を急襲した 犯人は 何故か 得川の向かって来る 南方向を見ていたのである。

得川は この事件に実は 深く 関与していたのではないか。
客観的に 事件を解明される時が 来るかもしれない。

事件後 後に笠姫は 克行の元から 京に人質で出される羽目にあった。

不思議な話は 此れから始まった。
一家滅亡の 家の子たちが それぞれで 活躍するのである。
長女 茅は 王子八で 一生を過ごす。仏門に入った。そして織物を残した。

次女 笠姫は 謁から京に上ったが 無事に生活を送るも 生涯をここで全うした。

弦信の子 克行は 笠を 見舞う。克行は 戦国のはかなさを 辛く感じた。
笠は 幸せに思った。
それは 弟清延の 来訪だった。清延は 克行と 共に上京した。
体も 弱っていた笠は とても喜んだ。

「清 よく来てくれたわね。」
「姉上こそ お元気で何よりです。」
「親方さま 清をありがとうぞんじまする。」
「よいよい。それよりも そなた体は 如何かな。」
「はい。宜しゅうございます。」笠は答えた。

笠は 最も気になる竹藤家の状況を聞いた。

「お母さまは 如何お過ごしですか。」
清延は 答えに窮した。
「お別れしたままになった。」
「そうですか。」
「かなり戦況が苦しいので 或いは郷里に辿り着かれたかもしれない。」
「そうですか。」

笠には 本当の経緯を話せなかった。

寄克は 姫達には 茅と共に 落ち延びるように 諭した。
それを 京の姫 湖の姫 桂姫 全員 聞いていた。
しかし 誰一人 茅と行くとは言わない。しかも 茅姫すら 共に最後まで・・
と言って 言う事を聞かないのだった。
寄克は 叱った。茅は 絶対だめだ、来るな。他の姫も 同様である。

どの姫も 仁堅の事が 頭に有った。仁堅を 思うそして 息子寄克を 思った。

「殿の お傍を最後まで離れませぬ。」
これが 真相だった。

「ただ御屋形様 先代も今も、恐らく亡くなられているだろうから、・・」
言葉に 窮した。清は笠に やっと声に出した。

「分かっているのは 寄克兄が HURINの旗は 峰雲寺に預けてくれ
判らないよう 将来も保管して欲しい旨 伝えてほしい。」
この話を 清は笠に説明した。

そして 旗は 数本現在に残っている。

「それで。」
「茅姫とは 途中で別れた。もう峠が 目の前だったから落ち延びて
居られよう。」
「良かったです。」
「勿論 まだ先が 有るからね。」
「無事であればいいのですが。」
「王子八まで たどり着けば 何とかなると思う。」
いつか 王子八は 訪れようと思っている。

「清 あなたはどうしたの。」
「父上から お寺に行かされたが、兄寄克が 環俗させた。そして
 笠の婚礼になったよね そうだよね。」
「有難う存じまする。」

笠は 今京にいるが 一人ではない事を 感謝していた。克行の母と 一緒だった。


 寄克は 「兎も角生きてくれと。」 と清に諭した。
そして 竹藤を 後世に伝えてくれ。
茅が 王子八で 生き延びて呉れたら 清延は 何処かで生きてほしい。

「清延よ お主は 克行殿に 参れ。」
これは 寄克が ちち仁堅から 言われたことと相似形だった。

 「はい。」清は 答えた。

 寄克は 父親仁堅に 言われたことと同じ松海を頼れ ということを言うのだ。
 今 清延に そう言いつつ
 不思議な感覚になっていた。


笠に清は言った。
「高夜山には 兎も角入った。」
「そして。」
「克行さまは 一部始終が判ったようで私に 使者を出された。」
清は 高夜山で ご使者と会えて、京まで 帰って来ることが出来た ことを話した。
傍で 克行は じっと聞いていた。克行は 兄弟の話も あろう そして席を外した。



 時代は動いた。清延は 克行に 従うこととなった。高夜山には 僧侶で登ったものの
帰りは 武士になる事を 考えていた。
克行は 知行を改められて 減っていったものの 辛うじて面目を 保った。

そして 東奥に 国を定め 長く家系を 繋いで行ったのである。
克行が 領国経営に 力を入れて行くときの 全国の覇者は 得川であった。

笠は 京で終焉をむかえたが 竹藤夫人の愛は 強く感じていた。
「清 母上の教えも 大事にね。」
これが 最後の言葉だった。

茅は無事に 王子八で 一生を過ごしたし 清も松海家で 大事に藩政を助けた。
それは 弦信 仁堅の 生き様を繋げたものだった。

清延の活躍も あの中の島川で 戦った相手側に 入るとは前代未聞である。
しかも 笠姫も 戦う相手に 嫁いだのだし 茅姫も 得川の庇護にはいる。

歴史上も このような例は無い。それは 仁堅と 弦信の 闘いが 高いハイレベルの ものであったことを 示していた。


その3 笠姫事件


笠は 無事に克行に嫁いだのではなかった。
もし 次の話が 悪い方に行っていたら 最悪の事態になっていたのである。

魁と謁が 結んで困るのは 尾田と得川だった。
特に 得川は 魁謁の結束は 大変な脅威となるのであった。
安家は 軍議を開いた。得川はどう 動くべきか。

「今の状況を どう思うか。」

どうしたら 良いと考えるか部下に聞いた。皆黙っている。
確かに 答が有りそうになかった。
「次の軍議までに 何か考えてまいれ。」

軍議とは別に 魁と謁の中を 割こうとする 考え方が出現していた。
親方の得川の 意向だったが 隠密に実行することとなっていった。
それを 請け負ったのは 残麻と困多だった。
仲間は 魁領内に入るので 精鋭を選んだ。

そして
目を付けたのは 笠姫の婚儀だった。
得川は 残麻に指示した。残麻は 困多を呼んだ。
笠姫の婚儀を崩す。これが 大方針になった。

困多と数名の者を 魁に送り込む。
魁の幹部に どう近づくか 何回も打ち合わせた。
残麻は 寸富から 早上 そして魁に入った 「寒介」のことを思い出した。
困多を このルートで 書状を付けて送り込もう。
困多は 寒介の遠い親戚にした。書状には 3国の同盟を 今後復活させようと書いた。
得川としては 尾田との連合は忘れる筈は無いものだった。
それを隠して、作戦を練るに練った。

策略的に 困多を入国させるための手段だった。

寄克に 書状は届いた。
文は 新しく 同盟を結びたい そう言った。
当然心を 直ぐ許す寄克では無かった。

しかし 悪運は強い。
ある日 大雨が発生した。川の堤が 崩れる心配が有った。困多は 土木に興味と経験を持っていた。
川は横笛川だった。竹藤夫人も 気にしていた。困多は直行した。
土手の 崩れを見事に防いだ。それは 大いに評価された。
館に帰った 困多は 寄克に褒められる。
ただ竹藤夫人には 会っていない。
夫人は垣間見た 困多にどこか 不安な面を見た。それが何かは 判らなかったが
後に はっきりしてくる。

笠姫の婚儀が 近づいた。その為 先遣隊が 克行に 挨拶に行く。
婚礼の お祝いを持参する。克行に 届け物を 届けるのである。これは困多には
絶好のチャンスだった。婚儀が 崩れれば 困多は成功である。
そうすれば 直ちに魁を 抜け出して 寸富に帰って行けばいい。
先遣隊に入るよう 画策した。それには 今回の水害対策の 成功が多いに役立った。


 竹藤夫人と 清延は 困多が来た時から 相談していた。困多の人格だった。
それが困多の隊の疑問に 移っていった。
出発の前夜 5台の荷駄隊の 保管倉庫に 清延と 夫人の姿が有った。
警備の人間を 用事がある旨 話し持ち場を 夫人が連れ 離れさせた。
清延は 素早く調べなければならなかった。荷駄の中身を 確認するのである。
ところが なかなか蓋が開かない。
そうだろう、困る物が入っているのだ。四苦八苦するうちに 倉庫の外に人の気配が
近づいてくる。
寸でのところで 中身が 石ころだらけと 確認した。素早く戸を閉め 現場を離れた。
そこに 来ていたのは 心配だったのだろう困多だった。
危なかった。
困多は 警備人が居ないことに気が付き 急いで探した。竹藤夫人館で休憩している
部下を見つけ 叱った。
夫人は 「直ぐ返しますよ。」

 清延は 夫人と早速 極秘の打ち合わせに入った。
同時に 荷駄隊を 別途 結成し始めた。困多には決して 判らないよう
夜を徹して 準備した。これは至難の業だった。

寄克には 清延が走った。
「お館様 実は・・」
そして 犯人を捕まえるには 手下だけ掴んでも 大元を掴まねばならぬ
その為 と 話した。
竹藤夫人と清延は 一旦困多を 出発させてはどうかと 提案したのだった。
提案でなく 決定にするよう 懇願した。

困多を 場外で捕獲し 自白させる。その為には 出発後適当な所で捕獲する。
城中に 判らぬ場所で 告白させると言う ものだった。
そうしないと 黒幕は逃げてしまうのだった。

 そして 竹藤館 で犯人を 割り出した場合、婚姻先の
克行には 竹藤家が 全員で 仕組んだと 思われる心配があった。
そこで もし具合が悪い場合にも 犯人は捕まえても お祝いは届くことを
計画した。
例え 何も無くても もともとだったがやはり 仕組まれていた。 推測は見事に 当たっていた。
後は いかに 差し替えるか どうやって 困多に縄を掛けるかその場所だった。

困多の捕獲は 魁の峠と 決めた。
先ずは 捕獲隊を 出発させた。判らないように 別動 正規荷駄隊を 出した。
 いずれも 困多の道とは違う 小道を 峠へ急行させた。
困多も策略を持っていた。
それは2泊で 克行の 謁に行く計画を 1泊にして 急行しようとしていた。

魁の峠は 避けて 大回りするのである。それでは 清たちは 捕獲が出来ないのだった。
峠は 別動隊が 潜んでいた。迂回した困多は 待っても やってこないのだった。
「失敗したか。」
誰もが そう思った。

ところが 天候の急変である。
空が 真っ黒になり いきなり 豪雨である。
困多の道は 山からの俄か急流の 川で 進行を妨げられた。
仕方なく ずぶ濡れの荷駄隊は 峠まで引き返してきた。

待っていたのは 清延達の本体だった。
困多は 峠で待っている人間を察知すると もう逃げる手筈を考えていた。
それでも
「何ごとで ございましょうぞ。」と困多は聞いた。

「そなたの ご用向きは何でござるか。」敢て清延は聞く。

「これは 笠姫の 婚礼の印を 松海様に 届けるのでございます。」

「そうか 改めるぞ。」

「これは 何か。」
遂に 清延は 困多の証拠を 掴んだ。
「どうかいたしましたか。」

「中身が 石ころではないか。」

「存じませぬ。言われた通りに してございます。」

 そう言いながら 困多は観念していた。
「実は・・」
「まて 寄克様に 直接申すのだ。」

 困多は 補足された。

別動本体は 無事出発していた。
清延も  竹藤館に帰ろうとした時
思いがけない事が 起きた。

困多は 外から来た人間とは言え 立場が 高った。
その為 困多よりの 部下もいた。
困多は そこに目を付け 自分の縄を緩める様 指示した。
緩めた途端 困多は 坂道を転がるように 逃げた。
逃亡である。

しまった。しかし 遅かった。
素早く山の中に 入ってしまった。

その4 追跡

清延は 兎も角 竹藤館に戻った。
部下は 困多を追って行った。

寄克に話す前に 竹藤夫人に会った。

「申し訳ない事を しでかしました。」
目には涙が 一杯だった。

「清延 このような事も有ると心配していました。そして・・」
と 繋いだ

「えっ。」
「そうよ、お祝いは 出たのだし 困多を 捉える事ね。」


竹藤夫人は 困多の逃げ道を 想定していた。
それは このような推理だった。困多は寸富に帰るだろう。
不二の山を 東か西を 通過する。東は早上(さがみ)方丈である。

方丈の紹介で入って来たが、得川の人間であることを 見抜いていた。
従って 方丈は魂胆を見抜いているだるから 帰り道にはならない。
そこで夫人は 不二の西に 兵士を配置させていた。

清延は 直ちに出発した。

走りながら 清延は お笠の婚礼を 台無しにする困多は 許せないのだった。
竹藤夫人は 穏やかであったが 心の中は 烈火のごとく 怒っていたのである。
魁謁の中を 昔に戻して 得川尾田の連合を強固にしようとする 魂胆が許せなかった。
卑怯な 方法は 果たして得川の意向なのか 審議が必要だった。

清延の一行は 困多らしき1名の人物の 通過した跡が 判った。
魁から寸富へは 距離は有るが 山岳を通過する訳でないし、険しい谷を通過するわけでも無い。
清延は不二の山を 西から見あげた。ぼつぼつ 捕まえないと 手が届かなくなる。

その時、情報が入った。
川に沿って 登って行ったという。

「困多を 見つけたぞ。」
声が聞こえた。
そして更に 追っかけた。
困多は 山に入って行った。川に沿って 登っている。
このままいくと 滝に出る。
よもや と思うが 何が起きるか分からない。清延は焦った。

困多が一人 遂に 見えた。背中は 疲れて 大きく左右に揺れている。
もう逃げ場は 無かった。
その後 残間も 捕まることとなっていった。

後は 滝だけだった。
困多が 滝の上に見えた。
清延は 目を瞬間足元に落とした瞬間があった。
清延が 目を上げた時 困多の姿は もうそこになかった。
  

滝の水は 何事も無かったように 流れて行った。

そこは
黒糸の滝だった。





















竹藤夫人

2022年3月31日 発行 初版

著  者:藤原洋
発  行:モリタ出版

bb_B_00173237
bcck: http://bccks.jp/bcck/00173237/info
user: http://bccks.jp/user/151416
format:#002y

Powered by BCCKS

株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp

jacket