この本はタチヨミ版です。
はじめに
Ⅰ 政府が本気になってやること
一、叙勲制度と評価のあり方 二、「氷河期世代」を採用する兵庫県宝塚市 三、一極集中解消へ、大胆な予算を 四、一極集中の是正に正面から取り組め 五、差別のない国にする 六、教育委員会がするべきこと 七、交通事故を防止するために 八、地方の国立大学に必要なこと 九、ITを活用した授業の地域差是正を 一〇、「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」 一一、悲劇の国アフガニスタン 一二、深刻な日本の少子化
Ⅱ 観光行政の推進のために
一、美人と道路も観光資源 二、民泊新法を生かすには 三、プラスチックごみをなくすために 四、誕生三〇年、「道の駅」を考える 五、スポーツで町おこしに取り組む自治体 六、日本の自然布を見直そう 七、人々は新しい観光を模索している 八、「バイ・山の洲」広域経済圏 九、古人の遺産「石垣」を再評価しよう
Ⅲ国民の健康維持と増進を考える
一、地方で深刻な医師不足 二、「孤独担当課」を設置すべし 三、子宮勁ガン予防のワクチンを接種すべし 四、ゲームと依存症を巡る議論 五、日本版「ズルハネ」を各地に 六、途上国の汚水処理に多くの自治体が貢献 七、「人生一〇〇年時代」をアピールすべきだ 八、スポーツクラブに自治体の支援を 九、職員の「駆け込み寺」が必要だ
一〇、「尾道方式」が膵臓ガン患者を救う 一一、原発にガン病院併設を 一二、深刻化する「八〇五〇問題」
Ⅳ エネルギー行政と問題を探る
一、地熱利用の先進国アイスランド 二、日本の地熱発電を考える 三、太陽光パネルをめぐるトラブル 四、世界の潮流、エネルギーの脱炭素化 五、「ウインドファーム」を作る時代
Ⅴ 災害防止の対策を練る
一、無電柱化をレガシーに 二、国民の生命、財産を守るために 三、減災、防災へできることから 四、災害から人命、財産を守るために 五、防災と災害対応に必要な地域の力 六、水害を防ぐ陸上競技場 七、自治体に求められるもの 八、ため池決壊対策は道半ば 九、『災害の日本史』を読んで 一〇、危険な「第四種踏切」 一一、「災害弱者」をいかにサポートするか 一二、「所有者不明土地」を増やしてはならない 一三、「田んぼダム」で水害対策を
Ⅵ 外国人の人材対応について
一、人手不足解消へ移民容認を 二、在留外国人への日本語教育 三、外国人労働者受け入れに私案 四、「特定技能」制度の活用を 五、外国人材と共生する社会へ 六、外国籍の子どもにも就学義務を 七、役所内に「外国人課」の設置を 八、外国人材の支援組織「NAGOMI」 九、外国籍の子どもへの日本語教育
Ⅶ 教育委員会に元気を出させる
一、全ての学校にクーラーを 二、ネット・ゲーム依存症対策条例 三、文化人の掘り起しと活用 四、「読書コンクール」を開催しよう 五、聴覚障がい者に「夢」を 六、美術館、博物館の価値を認識すべきだ 七、学校の危機管理について 八、小学校に囲碁、将棋の授業を 九、運動部部活の民間委託 一〇、小学校で歯磨き指導を 一一、人権教育を徹底すべし 一二、「夜間中学」の設置を望む
Ⅷ 農業と自然を重視する
一、畜産振興へ「特区」指定を 二、ヒアリ対策を本気で考えよ 三、棚田をいかに保存、活用するか 四、キーワードは「新結合」 五、農業被害を減少させるために 六、わが町の料理、食材を見直そう 七、公園、公道の樹木を害虫から守れ
Ⅸ 社会の変化に乗り遅れない
一、地方の大学が消える時代 二、大学の不正入試に思う 三、「ランドバンク」で復活したデトロイト 四、「ふるさと納税」に復帰した泉佐野市 五、「少子化対策プロジェクト」立ち上げを 六、誹謗中傷なき社会へ 七、プラ新法で増える自治体の負担 八、「公務員の学会」が必要だ 九、多様性を認め合う社会の実現へ 一〇、部活が民営化の方向に 一一、海外青年協力隊の帰国隊員を活用せよ 一二、情報のバリアフリー 一三、若い息吹が地方を変える
Ⅹ 役所は住民のために工夫する
一、新税に知恵を絞る時代 二、「無国籍者」をなくす努力を 三、一人暮らしの高齢者に親切な手助けを 四、動物愛護法が改正される 五、「副業人材」の募集を始めた神戸市 六、自衛隊の隊員募集に協力を 七、挑戦する自治体 八、きめ細かい子育て対応が必要 九、自治体も「幸福度」を調査すべき 一〇、一人暮らしの高齢者のために
私たちのニッポンは大変である。大きな課題があり過ぎる。政界から離れて現状を心配するばかりだが、はたして解決策があるのだろうか。コロナ禍問題は小さく、国を揺るがす大問題が横たわる。
①一〇〇〇兆円を超す借金、②急速に進む少子高齢化、③原発再開とエネルギー、④疲弊する地方、⑤破綻する社会保障。この五大問題を解決するには、国民の理解が求められる。一〇〇兆円を超す国家予算は、六〇兆円しかない収入では借金をするしかない。ロシアのウクライナ軍事侵攻は、日本の安全保障にも大きな影響を与え、私たちも危機意識を強くもたねばならなくなった。支出がふくらむばかりで、収入策が浮上してこない。
地方再生担当大臣、少子化担当大臣は、歴代の大臣を含めて名ばかりで、これといった手を打てないでいる。拉致問題担当大臣も同様で国民の期待に応える活躍をしているとはいいがたい。策を練っている様子も伝えられず、棚上げしているかの印象を受ける。少子化で毎年、五〇万人以上の人口が減少している現状をどのように考えればいいのだろうか。労働人口の減少は、経済のみならず社会保障にも影響する。つまり、大胆な発想、ダイナミックな政策への転換が求められているのだが、政治家には声を上げる勇気がないのだ。
人口の都市集中も問題である。地方生活にも魅力がある宣伝が十分でないようだ。国土の全体の発展がないと、さらに人口が都市部に集中する。気候の変動で、防災も大問題となり、国土強靭化が焦眉の急となっている。どこに住んでも安心できる国でなければならず、多様な仕事が地方にもあるようにしなければならない。仕事はあるが、手が足りない、これが現状である。技能実習生を諸外国から受け入れるだけでは不十分で、本気になって移民政策を考慮せねばならなくなっている。だが、声を上げると想像以上の反感を買う。
なぜ、これほど長い間、我が国は諸課題を解決できなかったのだろうか。少子化を脱した国は多数あるが、日本だけが改善の方向にない。コロナ禍もあろうが、本気になって対応策を講じるべきである。各自治体が特徴ある方法で取り組めば、全国に波及する可能性がある。もはや国まかせでは、諸課題は前進しない。
原発の再利用をどうするのか、じっくり地方と国が話し合い、電力不足を正面から議論してほしい。地方自治体が力を持っているのである。安全な原子力、これを国民に納得させてほしい。電力の安定供給は、この国の生命線である。そのために地方を大切にすべきだ。
労働者人口減少は、農、漁、工場、観光面だけにとどまらない。年金、医療、介護にまで心配が及ぶ。技能実習生のパワーだけではどうにもならない。我が国は、かつて国民を移民として諸外国へ送り込んだ。で、現在では逆に送り込んでもらわねば、国が立ち行かなくなってしまい、地方の過疎化が進むばかりだ。
『観光経済新聞』という週刊専門紙に「地方再生・創生論」を連載させていただいて六年が経つ。まさかこんなに長期にわたって連載するなんて考えもしなかった。地方が元気でなければ、ニッポンの勢いが失速する。地方を元気にするための新聞社の方針で、私に執筆する機会を与えていただいた。
昨年、『自治体元気印のレシピ』(体育とポーツ出版社)として出版させていただき、多くの人たちに読んでいただいた。その続編が本著である。こうして一冊にまとめてみると、よくぞ書いたものだと我ながら感心する。積田朋子社長をはじめ編集局の皆さんのご理解の賜物である。感謝するしかないが、このテーマを私に与えて下さったのは平塚真喜雄氏で、私の政治家経験や教育の場に身を置いた体験を評価して下さった。心から感謝するしかない。刊行するに当たっては、私の著作を一〇冊も編集して下さった渡辺義一郎氏にお世話になった。お礼を申し上げたい。
毎日、毎日、私は原稿用紙のマス目を埋めている。ボケ防止でもあるが、書くことが好きなのである。記述するネタを得た喜びは大きく、すぐにペンを走らせた。新聞各紙、週刊誌、様々な雑誌等が役立ったが、自分の意見や体験を混ぜて書き、読みやすくする工夫を楽しんだ。地方再生、創生に少しでも役立てば光栄だし、筆者の願うところである。
記述内容は、新聞連載の紙面そのままにしていて、少し変化している面もあると思われるが、そのままで手を加えていない。タイトルは平塚真喜雄氏の手によるものである。見出しを上手につけていただき、内容を的確にとらえていただいた。一編一編、読み切りなので、興味あるページから読んでいただければと思う。私の五〇冊目の著書、ご笑読下さい。
最後に弟の私のために様々な指導と協力をしてくれた兄の啓一が、今春、鬼籍に入った。この兄の存在なくして、現在の私はいない。この最愛の兄の霊前に本著を捧げる。
二〇二二年爽秋 吉日
松浪健四郎
正月ゆえ、まず、おめでたい話を書く。
ありがたいことに七〇歳に達して、すぐに叙勲の栄誉にあずかることとなった。内閣府から連絡あり。「受章される意志がありますか」と問われた。突然の電話にビックリ。
「あと数年待てば、上位の叙勲に昇格しますか」と質問すれば、「ありません」という。ならば元気な今、いただこうと決断した。
「もう選挙に出馬することはありませんね」とダメ押し。「すでに国政選挙を五回も見送ったゆえ、ありません」と回答する。人生スゴロクの「上がり」でなければならないらしい。俗世間でナマグサイ活躍をするようでは困るのだろう。
日本国憲法第一四条に基づく顕彰だから、叙勲を前面に出して活動されたのでは、天皇陛下の威信を利用することにつながる。私は、叙勲の受章対象者とは現役を引退した際の「人生の褒美」をいただける人たちなのだと感じ入った。これで、私も「上がり」と、観念するしかない。淋しい気分と嬉しい気分が複雑に交錯し、胸に手を当てて、鬼籍に入っている両親に報告。「少しは国の役に立ったようです」。
そして、「交通違反をはじめ警察沙汰を起こさないように願います」とクギを刺された。家内は伝達されるまで車の運転禁止とのたまう。聖人君子の仲間入りである。憲法第七条の天皇の国事行為による勲章、模範的国民に変身すべし、か。えらく窮屈な感じ。
一一月三日、文化の日の朝刊で発表するという。なのに、発表前から与野党問わず、国会議員から祝電の嵐、たちまちダンボール満杯。祝電にも多様な種類のあることを知る。
家内は皇居への着物の準備に、グジャグジャ言いながら入る。男はモーニング。ちなみに燕尾服でなければならない勲章もある。海部俊樹元総理が、「困ったなぁ」とぐちっていたのを想起した。家内は留袖、久し振りの皇居ゆえ楽しみな様子。勲章は家内にかけた苦労の総決算のようなもの。
新聞発表後、すぐに友人たちが祝賀会を企画してくれる。早くしないとホテルの予約がおぼつかない。わんさと祝電が来る、どんどん花が届く。また、あちこちで祝賀会を開催してくれるとの連絡あり。記念品代だけでも破産するのではないかと本当に心配する。
叙勲制度は、まちがいなく経済効果がある。とりわけ地方にあっては、名士の祝賀会となるだろうから都会よりも派手な行事。が、地方在住の方々が叙勲の栄誉にあずかるのは限られる。政治、行政、商工会議所、農協、警察、消防、各種団体等、公共的な功績者たちだ。
町の親切なオバさんや交通安全のオジさんたちには無縁な制度、もっと民間人を評価するべきではないか。とくに地方に住む人たちを優遇してはどうだろうか。地方での活躍こそ、この国を支えてくれる原動力ではないか。
皇居で勲章をいただき、陛下に拝謁し「おめでとう」のお言葉を賜る光栄、瞬時に喜びが湧き、やっと家内への慰労式を終えた。 (二〇一七・一・一四)
福沢諭吉は、慶応の塾生たちに「役人になるより起業家になれ」と言ったそうだ。国の経済を盛んにするため、多くの人たちに職を与えるためであったに違いない。だが、慶応大の卒業生の多くが役人になっている。公的な仕事に従事して、社会に貢献したいと考える若者が増加したに加え、役人は安定した職業だと考える安定志向の者も多い。
兵庫県宝塚市(中川智子市長)は、「就職氷河期世代」と呼ばれる三〇歳代半ばから四〇歳代半ばの人たちを対象に、正規職員の採用試験を実施した。昨年七月、大きな話題となり、全国の自治体にも波及した。中川市長をよく知る者として、この大胆なアイデアに敬服するしかないが、福沢諭吉がこの現実をどう評価するだろうか。驚いたことに三人採用のところへ全国から一八一六人が応募(朝日新聞)したという。公務員、どうも魅力があるらしい。
四人の合格者が発表され、テレビで合格者のインタビューを見た。使命感に燃えていてヤル気満々と映っていた。今までの人生経験を、市の職員として生かしていただきたいものである。ただ、組織の一員になるということは、自由を束縛されるばかりかチームの一人として、好きでもない仕事をせねばならない。組織に属さず、好き勝手に生きてきた人にとっては、集団の不自由は耐えがたいものであるかもしれないが、頑張ってほしい。
私の息子も「就職氷河期世代」であったが、家に信じがたいほどの企業からの多くの資料が送られてきた。だから就職戦線が厳しいと感じていなかったが、本当は正規雇用の数が少なく、現在でも非正規で働く者が多いという。もちろん、行政機関にも応募者は殺到し狭き門となっていた。
一九九〇年代半ばごろ、バブル経済崩壊後は景気が冷え込んだ。当時、私は専修大の教壇に立っていて就職難だと耳にしても、眼前の体育会所属の学生たちは飛ぶように売れた。この特殊例は横に置いても、「フリーター」なる存在、「派遣社員」なる非正規労働者の存在が定着した時代だったと述懐する。
政府は二〇一九年六月、就職氷河期世代について、三年間で正規雇用者を三〇万人増やす支援プログラムを発表した。宝塚市が先陣を切った印象を受けるが、倍率が四五〇倍に達した。挫折や諸々の苦労の経験を生かしたいと考える就職氷河期の人たちの多さに驚くしかないが、宝塚市に続いて三田市、加西市、赤穂市というように兵庫県下で、この種の人材を登用しようとする傾向にある。また、和歌山県も同様に五人程度の採用を行うという。
けれども応募者が殺到して、高い倍率となって難関になることが予想されるが、宝塚市の波が全国へ波及することを期待したい。たとえ一人の採用であっても、各自治体は検討すべきである。異色の人事こそが現場を刺激する。政府の支援プログラムに準じて、地域の役に立ちたいと本気になって考える人材を自治体は求めるべきである。
それにしても、なぜ公務員に人気があるのだろうか。狭き門に挑戦し、公務員に憧れる氷河期世代の人たち。ぼちぼち安定した職場に魅力を感じる年齢なのだろうか。大学院に入ってキャリアをアップさせる人たちも多い。資格を手中にして、新しい仕事を始める人も多いのが氷河期世代の特徴でもあるらしい。
内閣官房の就職氷河期世代支援推進室によると、九三年から〇四年に大学を卒業後、就職活動をしたが希望する職に就けないなど、不安定な仕事をしている人たちは、三〇代半ばから四〇代半ばを中心に約一〇〇万人いると見込まれている(朝日新聞)。こんな報道に接すると、この人たちが「フリーター」「派遣社員」として、日本の企業を支えてくれたのだと知る。
政府も取り組み、各自治体も取り組んで、氷河期世代の救援策を考えてほしい。正規職員として、数名の事務職採用にとどまらず、特別の資格を保持する人たちの採用についても考慮してほしいものだ。自治体の活性化の一助となるに違いない。 (二〇二〇・二・一)
文部科学省は、東京特別二三区にある大学に対し、平成三〇年から厳しいルールを定めた。小池百合子都知事は猛烈に抗議したけれど、文科省には馬耳東風、どうにもならなかった。大学に新学部、新学科の設置を認めないばかりか、定員増も認めないというルールだ。もちろん、新大学の設置も一〇年間は認可されない。東京一極集中を避ける方策、学生をこれ以上東京二三区には集めないルールである。
しかも、今まで定員よりも多めに入学させても文科省はうるさくなかったが、入学者数まで制限を加え、厳密となった。もしオーバーすれば、補助金カットという強烈な制裁を準備した。これらは、全て地方の大学を活性化させるための政策。この効果はあった。定員割れの地方にある大学は、入学者数を増加させ、経営状態も少しは改善したという。
地方創生、再生は、やはり強烈な政策によって、東京一極集中を避けねばならないようだ。そのための政策を政府がいかに準備できるかが問われる。例えば、二〇一九年四月から始まった「移住支援金制度」は、見た目にはいい制度だが、移住しようとする人からすれば、この制度を利用するのは難しいのだ。制度設計が、官僚の作文になってしまったからであろう。東京から地方へ移り住んだ人に一〇〇万円を支給するという制度だが、昨年、この制度を利用したのは全国でわずかに五一人でしかない。条件が厳しすぎるのである。
「東京二三区に五年以上の在住者」「移住地での就職先が大企業でないこと」など、ミスマッチが影響したのか利用者が予想外の人数、制度として機能していないのだ。東京一極集中だけが問題ではない。広く首都圏の人たちに地方へ移住していただく、勤務先が大中小を問わず、地方にある職場ならどこでもいいのではないか。制度を策定する際、大企業の転勤に利用されないように心配したのだろうか。ちょっと考えすぎた印象を受ける。
文科省の大学の例は、補助金という大きなエサで釣るため、容易に制度を徹底することができた。が、さまざまな条件を付けないことには悪用されると内閣府が案じたに違いない。この制度は、二〇一八年に政府が設置した「わくわく地方生活実現会議」からの提案でできた。しかしメンバーたちの多くは知事や知事経験者、細部は官僚任せとなったらしい。アイデアはいいが、使い勝手の悪い制度というしかないのは、利用者数が物語る。
先日、家内と中国地方を旅行した。岩国市や柳井市を回り、安芸の宮島に行ってきた。柳井市の先輩が、「五〇〇万円も出せば、それなりの住宅が手に入るぞ」と教えてくれる。家内も「地方の生活も楽しそうね。海の幸、山の幸も豊富で面白いかもしれない」という。定年を迎えた人たちにも、この制度が利用できれば活用されるのではないか。
ともかく、この制度を導入した道府県は四二、広島県などは独自の支援制度を持つ(中国新聞)。最初から導入しないと五都府県が決めていて、移住支援金だけでは東京都民は動かないと見透かしているようだ。まさにその通りであり、「移住支援金制度」の見直しが必要だ。東京一極集中の緩和は、まず一〇〇万円では都民が動くとは思えない。それも同居家族がいる場合で一〇〇万円、単身者なら六〇万円の支給、引っ越し費用にもならないのではないか。費用の半分は国が負担し、残りは県と市町村の自治体が負担する。国が本気なら一〇〇%負担すべきで、地方創生を掲げるわりにはケチくさい。
対象地域を首都圏全域に拡大し、在住期間を三年まで引き下げ、短大・四大のUターンにも活用できる制度に見直し、一極集中を避ける必要がある。勤務先にしても、農業や漁業、林業等の仕事もあり、自治体にそれらのあっせん義務も付けるがいい。仕事がなければ移住なんてできるわけがない。
政府の「地方創生・再生」の本気度が問われている。東京二三区の一極集中、この解消のために大胆な予算措置が強く求められている。 (二〇二〇・三・二八)
「首都機能移転」「地方分権」「道州制」「国土強靱(きょうじん)化」等々、折々の国会で議題となり、委員会が設置されたり、プロジェクトチーム(PT)が作られたりしてきた。しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるごとく、実現させるためには巨額な費用が必要として財政的に困難、と断定して議論のための議論で終わった。
文部科学省の所管する文化庁を京都へ移転させる問題も実現していない。東京一極集中の是正を考えた場合、政府は「新たな国づくり」を視野に入れ、さまざまな施策を急がねばならない。首都圏直下型地震は、三〇年以内に七〇%の確率で発生すると予測されているのである。都内(二三特別区)の大学定員を凍結、新たな学部・学科の設置も認めない卑小(ひしょう)な手法で、上京する学生数を減少させているが、東京圏への人口集中は止まらない。
コロナ禍を逆に利用する発想は、地方再生、地方創生に通じる。大手企業を中心にテレワークが普及、都市部と地域の二居住が可能となり、豊かな個性的な人生を過ごしながら働くことも可能だ。多様性に富んだライフスタイルの支援を国や地方自治体が積極的に行い、一極集中の是正の一助とすべきであろう。
東京圏での人口集中は、大きなリスクを背負う。とりわけ災害リスクは想像できぬくらい大きい。直下型地震をはじめ、毎年のように豪雨被害に見舞われる中で、東京のゼロメートル地帯で大規模な水害、洪水が発生する。二五〇万人を超す人々の避難が求められるのだ。かかるリスクを見据え、首都機能の移転が議論されてきた。地方に首都機能を分散させ、政府の機能をマヒさせない方法を論じてきた。
平成一一年、国会等移転審議会が、「栃木・福島」「三重・畿央」などを移転候補地とする答申をまとめた。私たちは「三重・畿央」を視察したが、広大な地域の造成、インフラ整備、なによりも土地買収などに多難を感じざるを得なかった。が、国家が本気になって取り組めば、実現したかもしれないばかりか、相当、地方創生に寄与していただろうと思う。
安倍晋三政府は、東京の一極集中の是正に取り組んできた。首都圏への人口流入と流出を均衡させる工夫をしたが、結局、流入が上回った。明確になったのは、小手先の施策では人口集中、一極集中の是正は難しいということだ。「骨太の方針二〇二〇」では、新型コロナの感染拡大に対応し、行政のデジタル化と平行して東京一極集中の是正を目標に掲げている。「思い切った社会改革を果敢に実行する」という首相の心意気に期待したい。
行政のデジタル化は急がねばならない。国や各自治体の行政システムの効率化によって、国民の利便性を高めることができる。あらゆる生産能力を高めることができるだろうし、都市と地方の隔たりをなくする。コロナ禍の影響をチャンスとすべき一方法であるばかりか、地方再生の最大ツールでもあろうか。
タチヨミ版はここまでとなります。
2022年11月15日 発行 初版
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