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紗袷を着て往く

三築 未衣子



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  この本はタチヨミ版です。

彼岸で待つ持ち主へ


【二〇二二年五月二十二日 曇時々晴】
 最高気温 二十六・四度
 最低気温 十四・九度


【二〇二〇年一月二日 晴】
 最高気温 十三・二度
 最低気温 一・五度


【二〇二一年七月十七日 晴】
 最高気温 三四・五度
 最低気温 二一・八度


【二〇二一年九月十八日 雨時々曇】
 最高気温 二十五・一度
 最低気温 十九・二度


【二〇二二年一月二十五日 曇時々晴】
 最高気温 八・二度
 最低気温 零下二・五度


【二〇二二年二月六日 曇時々晴】
 最高気温 六・九度
 最低気温 零下三・三度


【二〇二二年四月九日 晴】
 最高気温 二四・四度
 最低気温 八・二度

【二〇二二年五月二十二日 曇時々晴】

 最高気温 二十六・四度
 最低気温 十四・九度

 水が張られて間もない田圃に面した田舎道を、着物の人がひとり、墓地を目指して歩いていく。流水の絵羽模様が透ける薄鈍色の紗袷に、沢瀉の葉陰からささやかな白い花がのぞく夏帯。訪問着で墓地へ行くのは、洋装に例えればパーティードレスで墓参りをするようなもので、不可解に思い眉をひそめる人もいるかもしれない。だが、ひと気のない田園で遠目に見るその着姿は、どこかほの暗さがあり、静かな風景によく馴染んだ。汗ばみかけた腕を袖口から抜ける風が静める。向こうの畑で腰を曲げて作業していた農家が顔を上げて、それからすぐに仕事へ戻った。高架を通る上越新幹線の低音が、果てしない平地を這うように轟く。ブロック塀で囲われた小さな墓地にはたった十数基の墓が並んでいる。誰もいない畦道に続いて、そこにもほかに人の姿はない。墓はいずれも古くから地域で暮らす家のもので、同じ苗字が刻まれた墓石が目立つ。

 美乃里は手を合わせると、深々と頭を垂れた。



  タチヨミ版はここまでとなります。


紗袷を着て往く

2022年11月16日 発行 初版

著  者:三築 未衣子
発  行:着物の本、いかが?by未衣子

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三築 未衣子

一九九一年、埼玉県行田市生まれ。早稲田大学文化構想学部文化構想学科文芸ジャーナリズム論系卒業。着物を題材にした小説やエッセーを執筆。315meow.com

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