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  日本の山野跋渉 
三大カルストの景

文・写真 清水正弘

深呼吸出版



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 目 次


カルスト地形の魅力とは

平尾台 (福岡県)

 青龍窟
 最高峰・貫山

秋吉台 (山口県)

 秋芳洞
 トトロの森(長者ヶ森)
 龍護峰

四国カルスト (高知県・愛媛県)

 天狗高原・森林セラピー道


カルスト地形の魅力とは


カルストという語は、旧東欧の国・スロベニアのクラス地方に語源があるとされている。この地方には、中生代白亜紀から新生代第三紀初頭にかけて堆積した石灰岩が厚く分布し、溶食による地形が広く見られる。

地政的にスロベニア語でKras、ドイツ語でKarst、イタリア語ではCarsoと呼ばれてきた。とくに一八九三年のヨヴァン・ツヴィイッチによるドイツ語論文「Das Karstphänomen」によって、同種の地形を表す呼び名として「カルスト」がヨーロッパで広く使われるようになり、世界的に定着したのである。

カルスト地形とは、石灰岩などの水に溶解しやすい岩石で構成された大地が雨水、地表水、土壌水、地下水などによって侵食(主として溶食)されてできた地形(鍾乳洞などの地下地形を含む)のことを指す。化学的には、空気中の二酸化炭素を消費する自然現象とも言われている。

広義的には、旧東欧の国・クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園や中国の九寨溝、トルコのパムッカレ、アメリカのイエローストーン国立公園などの、大量の石灰分を溶解した地下水や温・熱水から石灰華が大規模に再沈殿して作り出される地形も、カルスト地形に含まれる。これらの場合、基盤地質が石灰岩であるとは限らず、化学的には空気中に二酸化炭素を放出する。

また、石灰岩やチョーク(白亜)、泥灰岩、白雲岩(ドロマイト)などの炭酸塩岩以外にも、蒸発岩類(石膏岩、岩塩など)には溶食性の地形が大規模に形成されることがあり、カルスト地形に含められる。空気中の二酸化炭素量の増減には関係しない。

そもそも、石灰岩とは大体において石灰質の殻をもつ生物の遺骸が海底に厚く堆積して生じたものである。鉱物学的には主として方解石(炭酸カルシウムCaCO3)からなり、他の岩石に比べて酸性水に対する溶解性が非常に高いのである。

地表流によって削り取られる侵食が作用することももちろんあるが、そのような侵食作用が働かない所でも、炭酸の作用による溶食で石灰岩が少しずつ水に溶け、地表にはドリーネが、地下には鍾乳洞が発達する特異な地形が生じていく。こうして生じた地形をカルスト地形と呼んでいる。

日本では、特に山口県の秋吉台、福岡県の平尾台、そして、四国カルストと呼ばれる尾根筋の場所が『日本三大カルスト』と呼ばれており、注目を集めている。

平尾台 (福岡県)


平尾台は福岡県北東部に位置する、北九州市小倉南区、行橋市、田川郡香春町、京都郡苅田町、同みやこ町に跨る標高三七〇~七一〇m、台上面積約十二キロ平方のカルスト台地である。東北部の一部はカルスト地帯ではなく花崗閃緑岩からなる。最高峰は北九州市小倉南区の貫山(七一二ⅿ)でその周辺には四〇〇m~六〇〇ⅿ級の山が点在する。

目白洞、千仏洞、牡鹿洞などの鍾乳洞が点在し、大平原が広がっている。日本三大カルストと呼ばれ、北九州国定公園に指定されている。景観が良く、北九州市下曽根地区、苅田町の工業地帯、行橋市中心部、中津市、山口県が一望でき、国東半島や姫島も見えることがある。半自然の草原景観を守るために、毎年三月頃に野焼きが行われる。

また、カルスト地形の東部側には、修験者が籠っていた洞窟がある。平尾台はその昔、修験者(山伏)の修行の道でもあったのだ。平尾台と等覚寺という山伏の末裔の方々が興した集落を結ぶ『山伏古道』が平尾台を通過していたのである。

特に青龍窟は、延長二㌔以上もあり、平尾台では最大の洞窟である。内部は、迷路状で、無数の支洞があり、ナウマンゾウやオオツノジカなど絶滅した動物化石が発見されてもいる。青龍窟は隣接の苅田町等覚寺の奥の院となっており、祭神は豊玉姫。御神体は、洞窟入口祭壇の中央にある岩である。 そのほか、景行天皇伝説や土蜘蛛伝説など謂れの多い洞窟なのである。

また、観光洞窟としては千佛鍾乳洞がある。入り口から九百mまでが観光洞となっており、一部地下河川となってい洞内への探索が可能である。大正十年に、地元の元・村長が私財を投げうって、五年の歳月をかけて整備を行ったのである。

平尾台・青龍窟

昭和三十七年(一九六二年)一月に国の天然記念物に指定された、全長約三㌔におよぶ北九州国定公園(平尾台)最大規模の鍾乳洞である。内部は複雑な迷路状になっており、平安時代以降、豊玉姫を祭神とする等覚寺の修験者の奥の院として修験道の霊場であった。

現在も祭壇や石仏が残り、荘厳な雰囲気が漂っている。また、内部の支洞からは、一九七六年にナウマンゾウの頭蓋骨化石が出土している。また洞窟内に住んでいた土蜘蛛を景行天皇が退治したという伝説や、豊玉姫の伝説が伝わっている。洞口ホールには、豊玉姫を祀る祭壇が残っている。

平尾台の最高峰・貫山

福岡県北九州市小倉南区にある標高七一二mの山である。国内有数のカルスト台地である北九州国定公園の平尾台の北端にあり、貫山地の主峰である。山腹には羊の群れのような白い石灰岩が無数に広がっている。山頂からは周防灘を見渡すことができる。北九州市街地に比べると寒冷であり、年に数回冠雪する。

代表的な登山口として、吹上峠、平尾台自然観察センター、茶ヶ床園地などがある。いずれも駐車場は完備されている。平尾台エリア内は探索路が多いため、分岐点・分岐ルートが多いので、ルートを迷いやすいのを注意することである。

秋吉台(山口県)

秋吉台は、山口県の西部・美祢市に広がる日本最大級のカルスト台地である。一九五五年に国定公園(秋吉台国定公園)に、一九六四年に特別天然記念物に指定されている。この秋吉台の雄大な景観を作っている石灰石は、およそ三億五千万年前に南方の海でサンゴ礁として誕生し、それから長い年月を経て現在のようなカルスト台地を形成したのである。

このように、もともとは秋吉台は海だったのである。サンゴ礁は時間が経つと石灰岩という岩になる。サンゴ礁が出来ては石灰岩になり、それを繰り返してきたのである。そして、約三億五千万年という長い年月の中で蓄積した石灰岩の厚みは、五〇〇m~一〇〇〇ⅿにも及んでいる。そこに雨水が流れ、長い時間を掛けて石灰岩が溶け、現在の景観が形成されたのである。

秋吉台・秋芳洞

秋吉台の地下一〇〇~二〇〇mにある鍾乳洞で、約一㌔の観光路をもって公開されている。鍾乳洞としては日本最大規模。洞奥の琴ヶ淵より洞口まで、約一㌔にわたって地下川が流れ下っている。一九九〇年前後の洞窟探検家による琴ヶ淵から奥への潜水調査の結果、東方約二・五㌔にある葛ヶ穴まで連結し、総延長は八八五〇ⅿに達している。

二〇一六年七月からの山口大学洞穴研究会と秋吉台科学博物館でつくる「秋吉台カルスト洞窟学術調査隊」の測量調査によって総延長は一万三百mに伸び、現在日本第三位にランクされている。一九二六年以前は滝穴(瀧洞)とも呼ばれていた。国の特別天然記念物になっている。


秋吉台・トトロの森(長者ヶ森)

秋吉台道路を展望台から北に少し走ると 左手に小さな神社の森のような一部だけ木のはえた所が見えてくる。右手にある無料駐車場に車を止めて歩いていくことができる。ここは、あまり訪れる人も少ない場所なのである。

周りの一面の草原ではなく、この一画だけが『不思議な空間』なのである。ここだけ樹木が生い茂り、またその小さな森の中に入ると、別世界が展開しているのである。森の中の空気は絶えずひんやりとしており、静寂さが漂っているのである。ここならトトロが出てきてもおかしくないと思う人も多いだろう。


秋吉台・龍護峰

カルスト地形の中での最高峰である。秋吉台の中には数多くの散策トレイルが設定されている。その中でも、この峰へのアプローチ道は変化に富んでいる。家族村からスタートし、最初は森の中をセラピーしながら歩くのである。

そして、唐突に森の出口が現れ、そこからはまるでスコットランドのような風景が眼前に展開するのである。カルスト地形特有のドリーネなども間近に見ながら草原を歩いていくのである。夏には高山植物、秋には壮大なススキ原が展開してくれるのである。

四国カルスト (高知県・愛媛県)

複数の自治体にまたがる、壮大な『天空のカルスト空間』である。愛媛県では、西予市、上浮穴郡久万高原町、喜多郡内子町に接する。そして、高知県では高岡郡檮原町、高岡郡津野町である。西から大野ヶ原、姫鶴平(めづるだいら)、五段高原、天狗高原まで、なだらかな山肌には、夏は緑の草原、秋はススキが一面に広がり、一年を通して四季を楽しむことができる。

一帯には、浸食作用で地表に露出した石灰岩が点在している。乳牛の放牧地帯としても有名で、多くの牛が放牧され、カルスト特有の風景をさらに牧歌的にし、多くの人々が訪れる観光地となっており、愛媛県では一九六四年(昭和三九年)三月に四国カルスト県立自然公園として指定されている。天狗高原は、地元高知県では雲海や星空の名所として、「天空の爽回廊」とも呼ばれている。

天狗高原・森林セラピー道

全国に六〇数か所ある森林セラピー基地の中で、最も高い標高一三〇〇mに位置しているのが、高知県津野町にある「天空の爽回廊・四国カルスト天狗高原自然休養林」である。標高は高いが、遊歩道はなだらかになっており、約一kmに渡ってヒノキのチップを敷き詰めているので足への負担を和らげてくれる。

「星ふるヴィレッジTENGU」から延びるセラピーロードは、往復約一時間ほどの距離である。森林セラピーロードの目的は、「五感」を使って森からパワーをもらうことにある。森を歩くと、新鮮な空気を体に取り込むとともに、小鳥のさえずりや虫の鳴き声など心地良い音を耳にするのである。

日本の山野跋渉 三大カルストの景

2023年8月23日 発行 初版

著  者:清水正弘
発  行:深呼吸出版

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清水正弘

二十歳の時にダライ・ラマ十四世と個人的に出会った事が、世界の山岳・辺境・秘境・極地へのエスノグラフィック・フィールドワークへのゲートウェイだった。その後国内外の「辺(ほとり)」の情景を求めて、国内外各地を探査する。 三十歳代にて鍼灸師と山岳ガイドの資格を取得した後は、日本初のフリーランス・トラベルセラピストとして活動を始める。そのフィールドは、国内の里地・里山から歴史的、文化的、自然的に普遍価値を有する世界各地のエリアである。 また、健康ツーリズム研究所の代表として、大学非常勤講師を務めながら、地方自治体における地域振興のアドバイザーとしても活躍している。 日本トラベルセラピー協会の共同創設者でもある。

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