「月刊群雛」は、独立系作家の作品をパッケージにして提供する有料の電子雑誌です。NPO法人日本独立作家同盟(現・HON,jp)が編集・発行し、電子書店やオンデマンド印刷版で配信されています。毎号、一般公募で掲載作品をジャンル不問で、巧拙問わず、早い者勝ちという編集方針で募集して掲載し、新しいプラットフォームとしても一部で注目されていました。2014年1月28日に創刊し、多くの自主出版系作家が執筆してきましたが、発展的に新たなステージに向かうために2016年08月号をもって、惜しまれながら休刊することとなりました。
この「リバイバル群雛10th」は10周年を記念し、その当時の執筆陣を中心としながらその未来を担うと思われたNovelJam系の作家などで群雛OBOG有志を結成し、責任編集・米田淳一によって群雛本誌をリバイバルする特別号です。
「群雛」が10年の時を経て、発展的にステージアップした姿をぜひお手にとってご覧いただければ幸いです。
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この本はタチヨミ版です。
「この列車は『リバイバル群雛』号です。終点まで途中停車駅はございません。また全席指定席のため座席指定券をお持ちでない方はご乗車になれません。あと3分ほどで発車します。お見送りの方はホームに出てお見送りをお願いします」
というわけでこの本は『リバイバル群雛』群雛10周年記念誌であります。
電子書籍黎明期に「巧拙問わず・先着順」という過激な編集方針を掲げた電子雑誌『群雛』。それに集ったもの、その次の世代となるはずだったもの、さらには『群雛』に興味あっても参加できなかったもの、と『群雛』のまわりにいた有志で10周年を機にリバイバル号を作りました。
そうそう、鉄道だと廃止された列車をあとで「リバイバルなんとか号」という名前で復活運転したりするんですよ。そのイメージです。何分にも昔の列車をそのまま走らせることは普通はできないので(だから廃止になったわけで)、それで往時の古めかしいヘッドマークとかつけるけど車両はピカピカの最新鋭なんです。それがどこか面白い。
この本もそういうイメージです。往時の『群雛』と同じところを再現しようというけど新しいもので再現しちゃう。だから当時の『群雛』にいなかった人もいます。そしてその代わりに当時の『群雛』の書き手の殆どを残念なことにこれに収録できませんでした。構成上無理だったのもあり、お願いしても連絡が取れなかったり、なかには病のため参加できないとお返事くださった人もいました。10年という年月はそういうものなのだと思います。その中で私・米田が独断と偏見で選ばせていただきました。選の責任はすべて私にあります。すまない……。でもただの同窓会に終わらせたくないのもあったので、こうしました。お叱りは謹んでお受けします。
それでも楽しい本にできたと今は思います。『群雛』はもともと巧拙問わず先着順掲載だったのですが、今回はその中の選りすぐりを並べたのです。これでつまんなかったら……編集が悪いってことですからね。って、私編集としてはなんの力もなかったんだよねひいい。
あと巻末に企画記事も載せました。お楽しみいただければ幸いです。
「リバイバル群雛号、まもなく発車いたします。お乗り遅れのないよう、お手持ちの指定券の指定のお席についてお待ちください。まもなく発車です。
当列車、北急電鉄山際乗務区車掌・米田淳一が終点までご案内します」
HON・jp理事長 鷹野凌
「インディーズ作家よ、集え!」
最初はそんな呼びかけからのスタートだった。いまにして思えば、それで人が大勢集まってきてくれたのが不思議でもある。日本でKindleストアが始まってからまだ1年弱のころ。こんどの〝電子書籍元年〟はどうやら本物だという期待感の高まりや、セルフパブリッシングで成功する事例がいくつも出ていたこともあるだろう。情報交換できるような場が必要ではないか? という想定も、そこそこ的を射ていたに違いない。
せっかく人が集まってくれたのだから、なにか旗印となるものがあるとよいのでは? と考えた。一羽の雛はちっぽけな存在だが、集まると存在感が大きくなる。そこで創刊したのが電子雑誌「月刊群雛」だ。著作者とその作品を紹介し、知名度向上の一助となればよいと思った。インターネット上では、黙って見ているだけでは存在を認識されない。だから発信し続けること、定期的に出し続けることが重要だと考えた。月刊としたのはそのためだ。
毎月出し続けるチャレンジは、31回で潰えた。3回で休刊する3号雑誌は避けたいと思っていたのだが、たくさんの人に支えられ、存外に長く飛び続けることができた。せっかくやってきたことを違う形で活かしてみてはどうか? というアイデアから「NovelJam」という出版創作イベントも生まれた。
ただ、実は私がひそかにうれしかったのは、「月刊群雛」に参加していた方々が休刊を機に、自ら雑誌を始める、あるいは、自ら本を出版する、という行動に出たことだ。こつこつと蒔いていた種が、いくつも芽生えたかのようだった。もう雛なんて呼ぶのは失礼だろう。自らの羽で自由に飛べばよい。そこに目指していた青い大空があるのだから。
『マスカレード・マインド』
【我思う、故に我在り】 ~ デカルト『方法序説』より。
今日の事件をここに書き残しておきます。
あ、テキストの作成者は私。YB学園中等部二年生、小鳥遊ミイ・ダッシュです。念のため。
ダッシュ、つまり私はバックアップ意識体ってやつです。
現実世界をそっくりそのままコピーしたこの仮想世界で、リアル・みいと同じモノを見て、さわって、おなじように感じるココロのことです。当たり前だけど、これも念のため。
現実の世界とバーチャル世界はまったくいっしょ。おんなじ机はおんなじように、おんなじところにあるし、窓も、窓から見える外の景色もぜんぶおんなじ。
違いは全然ないのです。
だから、私も、私といっしょに育ったリアル・みいも、見たり聞いたり感じたりすることは全部いっしょで、考えていることだっていっしょです。
そうやって双子のように、いえ、双子よりそっくり、ほんとにそのままなコピー人格の私たちです。
で、事件が起きたのはお昼休み。
校庭では男子たちがサッカーボールに群がっていました。ちょっと気になっている黒川ユウタ君と、女子もひとり、親友の桐山サユリさんもいっしょになって駆けていて急接近!
「あっ! あぶない!」
現実世界のみいと仮想世界の私、ミイ・ダッシュはもちろん同時に叫びました。
サユリが、ユウタと激突!
二人ともグラウンドに倒れてしまったのです。
あわてて現場に駆けつけてみると、サユリの姿が二重にブレています。
ほんとうのサユリ、つまりバーチャルじゃない現実世界のさゆりは倒れたまま。だけれど、バーチャルな、サユリ・ダッシュは起き上がろうとして、でも、現実のさゆりに引っ張られてまた地面にくっつくように、点滅を繰り返しています。
〈あちゃー、ウチ、気絶しちゃってる?〉
と、サユリがバーチャル・フィードにつぶやきました。
〈うん、点滅してる〉と私。
「いてて、ちゃんと前見て走れよな!」と黒川君が身を起こしながら言います。こっちは現実とブレてません。彼の方は気絶しなかったのでしょう。
そうこうしているうちに先生たちが担架を持ってやってきました。みい&ミイも同行して、保健室へ向かいます。
〈ねえ、ウチ死んじゃってないよね〉と、移動する担架の上で心配そうに点滅しながらサユリが聞いてきます。
「鼻血でてるよ」と私(たち。リアルみいとダッシュの私です)。
〈気を付けてくださいね、現実の肉体は衝撃に弱いのだから〉と先生もフィードで話しかけてきました。フィードはバーチャル世界でのやりとりです。リアルには伝わりません。
〈ウチは平気なのに!〉サユリ・ダッシュは、自分ではなく現実の自分が勝手にぶつかったのだと言いたいようです。
〈ダメですよ、そうやって考えのズレが大きくなると補正が効かなくなります。今だって表示がブレてしまっているでしょう。分離してしまわないようにおとなしくしていなさい〉
私たち、ダッシュとリアルは、おんなじことを考えて、おんなじように行動しなきゃいけません。肉体とバーチャルで立場はちがうけれど、おんなじ意識なんですから。
〈はぁい~〉と不満そうにサユリ・ダッシュが答え、おとなしく担架に横になって目を閉じました。こんどこそ現実と表示がちゃんと重なりました。
◇
バーチャルの意識は、現実のバックアップです。バックアップをしっかりしてあったら、もし現実の世界で肉体が死んじゃっても大丈夫。そのヒトの考えや、死んじゃう前にやりたかったことも永遠に残るので安心です。
ただ、あまり現実からズレがあってはバックアップの意味がなくなってしまうのでダメなんです。
この学園は、社会に出る前に、バーチャルと現実の同期をしっかりとれるように、私たちバーチャル側の意識の調整と訓練の場でもあるのです。
◇
その夜、寮の個室のベッドの上。横になって目を閉じます。
最初ひんやりして、それから私の体温でだんだんに暖かくなってくるお布団に触れている身体の感触がリアルに感じられます。
ふだん意識しない自分の呼吸の音も聞こえてきて、バーチャルとかリアルとか、やっぱりまったく差はなくて、どっちでもいいじゃんって感じになってきます。
リアルなみいに心の中で話しかけてみようかなと思うけれど、リアル側も今この瞬間におんなじことを考えている筈だから、自分で自分に話しかけてるだけで意味がないのよね。
なんて、ぼんやり考えていると、サユリがフィードで話しかけてきました。
〈ウチ、やっぱダメみたい。身体のほう気失ったまま、もう目覚めないみたいなんだ〉 SAD絵文字が発言にくっついています。
〈えっ! マジ?〉と、ショック絵文字つきで私。
〈うん、たぶん、巻き戻っちゃう……〉
脳って、夜に夢をみるでしょう? そうやって情報を整理しているらしいのだけれど、私たちバーチャルな意識は、その脳が夢を見ている時に現実の記憶と合わせる同期作業を行うのです。
今日のような事故が起こると、現実の意識とズレが広がって、いつか別人格になってしまいます。なので、それを防ぐため、バーチャル側はズレる手前のデータにまで巻き戻されちゃって上書きされて、その間のサユリ・ダッシュは消えてなくなっちゃうのです。
一日程度でも、記憶がなくなってしまうのは悲しいことです。少しだけ私たちも死ぬのです。
あれ、でも、目覚めない肉体の情報を上書きしたらサユリ・ダッシュも目覚めなくなっちゃうんじゃないかな? それってヤバくない?
こんな時こそバックアップが重要なんじゃなかったっけ?
肉体の方が死んじゃった時のデータの扱いってどうなるのかな?
一日だけ情報が死ぬんじゃなくて、ずっと死んじゃうってこと? そんなことはないハズだけれど。
肉体の人間の方は死んだらそれっきりなんだよね。そんなの怖くないのかなあ。
なんて、リアル側の人たちのことを考えてゾッとしていると、突然黒川……ユウタ・ダッシュが話しかけてきました。
〈先輩と同じかもしれないな。ミイ、何でもいいからサユリの名前が解るもの持ってないか? リアルで〉
〈え? なに? どういうこと?〉
〈『先輩』ってリアルの俺が呼んでるヤツが、おそらくサッカーで大けがをして、入院しているらしいんだ〉
〈入院かあ。そっか、学園の中じゃ治せなくて外の病院にいっているってことね。さゆりも外の病院に入院することになるかもね〉
〈そう単純な事じゃないぞ。問題は、その『先輩』のこと、俺たちダッシュは誰も覚えてないんだ〉
〈Ω<な、なんだってー!!〉私とサユリは先頭にΩ記号を付けて叫びます。(何故だか知らないけれどこういう伝統なのです)
〈俺の部屋にリアルな色紙があって、先輩が書いたらしい『プロ選手王に俺はなる!』っていう威勢のいい言葉が書いてあるんだ。言葉はどうでもいいんだけどな、リアル側の雄太はその先輩のことを明らかに知っていて、それを他の友達とも話しているようなんだ。でも、バーチャルの俺たちはその先輩の名前が上手く聞き取れないんだよ!〉
〈なにそれ、そんなことあるの?〉
〈名前が解ればログを探したりできるとおもうんだけど、そういう情報がどうしても見つからない〉
〈色紙でしょ? サイン入ってるんじゃないの?〉
〈字が汚くて読み取れないんだよ!〉と、フィードに画像が添付されてきました。
これは……、たしかに読めないかも。
〈うわあ〉私とサユリは同時に汗マークを付けて返します。
どうやら崩した字をカッコいいと思う性格の方のようです。先輩さん、読めませんよこれ。
〈なので、なんでもいい、リアルな手書きの、物理的な文字で、サユリのことを書いた手紙やなにか、ないか?〉
〈えええー? リアルなやり取りなんて私わかんないよー〉
〈なんでもいい、探すんだ。親友なんだろう? 忘れちまうぞ?〉
〈このフィードとかじゃダメなの?〉
タチヨミ版はここまでとなります。
2023年9月23日 発行 初版
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群雛10周年を期に集まった『群雛』OBOGとそのほか腕に覚えアリの作家たちによる有志連合。そのそれぞれの10年の思いを込めてこの本を送り出します。
一つの歴史は終わり、また新しい歴史が始まる。ありがとうGoogle+、ありがとう群雛。さらば、少年の日々よ。