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コブ道

宮川幸也

カミキリ情報館出版



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  この本はタチヨミ版です。

はじめに

ざっくりとした話だけれどこんな計算式がある。人生を90年と過程して単純に考えた場合時間換算にして788,400時間。その内訳。睡眠が31%、仕事が11%、学業が4%。そしてそれ以外の部分、例えば風呂やトイレ、食事、趣味、友人etc・・・には思うより多く54%の時間を費やすらしい。
例えば年間約30日から40日、それを20年通算すると単純計算で600日から800日。おおよそ1日当たりの採集活動時間をかなり多めに見て7時間(移動等含まない)で考えると4200時間から5600時間。これを前述の54%の配分、時間にして422,465時間から割合を計算すると約1%・・・。実際問題としてこんなパーセンテージであなただけよと見染められた相手からムシされたり怒られたり挙句の果てには捨てられたりの1%を巡る攻防・・・、実に酷い話だと思いませんか?(仮に家庭で趣味の時間を問い詰められたら前述の屁理屈で対抗してみて下さい。もし状況が悪化しても責任持てませんけど)まあ嫁さんも家庭も持っていない私からすれば案外と他人事なのだけれどもそれにつけても実際問題人生で趣味に充てられる時間と言うのはほんの僅か。単純な日数で考えたら私なんぞ採集を始めてまだ3年にも満たないピヨピヨな超ビギナーな訳です。
唐突に関係ない話から入ったのだけれど以上が採れない採集者の採れない言い訳。これからコブヤハズ族フトカミキリ亜科の話を書かせて頂きますが新知見なんてものはありませんし細部の違いやDNAがどうとか難しい話は一切ありません、というか文系出身者なので生物学の事とかさっぱり分かりませんから書くのとか無理。要約するとただ単にコブの好きな独身貴族のおっさんが全国で必死にコブを目当てに陸路や空路や海路を駆り成功やら失敗やらして現在に至るしょうもないお話です。あ、因みに私事ですが20年はやっていませんよ。昨今は自分年齢なんて言う言葉もあるくらいですので採集に関しても自分採集暦でよいと思っています。
では何故コブが好きなのか?これはなかなか返答しづらい問い掛けだと思う。まず、何で昆虫採集なんてやっているの?と問われた場合、そりゃ好きだから、としか返答しようがない。おおよそどのような趣味であってもこれは愚問。でもまぁ数多いるカミキリムシの中でカミキリらしいカミキリ、例えばトラカミキリ族やトホシ族、アオカミキリ族、そして王道とも言えるホソコバネカミキリ科を差し置いてコブ、渋いっちゃ渋いけれど
採集対象に別段渋さは求めていません、トラやらアオやらネキやらトホシやら普通に好きですし。けれどネキやトラ、トホシなんかを求めて遠征に向かう原動力になったか?と問われれば答えはNo、なんとかコブを採りたいと心底願い空路や海路、バスや地元タクシー、そして徒歩やらありとあらゆる移動手段を総動員、最初は関東近郊から始まり果ては離島までこの熱量はいったい何なのか自身でも分からない。ただ一時期高校からの同級生と採集していた時期があってその時初めて友人にイワワキセダカやフジコブを見せた時言われた一言が心に残っている、「これ戦車みたいだね」と。あ!そうそう、子供の頃から航空機系の玩具も好きだったけれど心がよりときめいたのは戦車の方。多分コブが好きと言う深層心理の一端はこんな単純なものなのかもしれない。一端はそれとしてそれ以外は?未だにはっきろとした理由が分からないのだけれど夏までの昆虫の盛況がひと段落して朝晩の風や空気が涼しく変わる季節、落ち葉にひっそりと鎮座するコブの仙人のような趣、あるいは図書館でひとり静かに本を読んでいるような雰囲気に一抹の寂しさを感じる時がある。所謂わびさびというものをコブヤハズに感じているのかもしれない。

コブヤハズの章(コブヤハズカミキリ→名義タイプ亜種の採集例)

ネットを見ていて軽く衝撃を受けた。秋に新成虫が出現し・・・この時点で意味が分からなかった。何せ幼少期の昆虫との出会いと言えばもっぱらデパート屋上のテントで疑似的にカブトムシやクワガタ、たまーに紛れて一緒になっているシロスジカミキリなんかを手掴みで捕まえてお会計を済ませる、そんな本物の自然とは縁の無い都会の子供でした。
このような展示販売が開催されるのは7月の夏休み頃。そこから何らムシに対して成長もせずいきなりルリボシカミキリ捕まえたい、から始まりネットでどっぷりとカミキリの写真やら解説を見て、「え、ムシって夏(7月とか8月)じゃねえの?」と思い込んでいたものだからセンセーショナルな事この上ない。純粋に不思議に感じた所が興味の発端となった訳である。とは言えネット上ではピンポイントで採れる情報が掲載されているような話もなくネットをくまなく探し回るととりあえず新潟の昆虫写真を撮影されているサイトが目につきそこから新潟県の燕温泉が良さそうだな、と感じこれもまた間抜けな話だが8月の終わりに出掛けたのである。何故8月なのか?馬鹿な話ではあるのだけれど要はこの時点で秋にムシが出てくるなどと言う話を今一つ信頼していなかったのである。
確かJR関山駅からバスで妙高市市営バスに乗車し燕温泉バス停を下
車、そこから徒歩で燕ハイランドホテル(現在は燕ハイランドロッジに名称変更)に向かったと記憶している。当時はストリートビューのような便利な機能もないものだから訪れて出たとこ勝負、蔦みたいなものが絡まっているのが良いのだろうと事前学習していた為ルッキングに終始したがなかなか見つからない。別にルッキングに自信や拘りがあった訳ではなく単にビーティングネットを買っていなかっただけ、と言うよりもビーティングネットの存在自体知らなかったと思う。
当時は採集3か月目だったかな?。不審者の如くフラフラと来た事もない土地で真剣な眼差しでゴチャゴチャした低木を眺めていたものだがふと道路を見たら車に轢かれた無残なコブの轢死体。残念だったのだけれどこれで当地でのコブの存在を確信。必死に探して回ってようやく枝先について日向ぼっこしていたコブヤハズカミキリを発見、これが私のコブヤハズ族とのファーストコンタクトであった。これで勢いがついて二つ三つと採れればよかったのだけれどこの日はこれっきり。夜も出歩けば良かったのだけれどコブがそもそも夜に活動が活発になる事など露知らずおまけに節約の為素泊まり。持ち込んだスナック菓子だけを食べてお腹を満たしていたのでそんな元気は湧かなかった。
翌日は燕温泉スキー場まで移動して採集を試みたが全くの鳴かず飛ばず、恐らく探し方や採集方法そのものが的を射てなかった結果。ここでやめときゃ良かったんですけれど何故か燕温泉からバスで下りもはや何処だか忘れてしまったが低地の人の多い公園でコブを探そうとか意味不明な事をしていた記憶がある。恐らく地図だけ見て水場があるからとかその程度の理由で場所を選択したのだと思うけれど知らないってつくづく怖い。当然コブはおらずただ何故かビロウドカミキリだけ見つけられた。かなり人の多い公園だった。ビロウドと言えどいる方がどうかしている。
このように必死に探したコブヤズカミキリ=通称タダコブではあったのだが狙ったのは後にも先にもこの一回だけ。後は訪れた先で偶然見掛けたケースが多い。①福島県南会津舘岩村の製材所の薪置き場(2006年6月上旬)。
今現在の南会津地方のカミキリ状況は知りませんが私が採集を始めたこの辺りの年はカミキリ採集地のメッカであった。確かクロヒラタカミキリが採りたくて薪置き場を物色し何となく地面に目を向けたらノコノコと歩いていた。何処から出て来たのかさっぱり分からないが有り難く採集した。また、この薪置き場でクロヒラタも採れたが本年は不作で得辛いと他採集者の方から伺った記憶が印象に残っている。
②山形県小国町温身平(2008年8月上旬)。
この頃は何を採りたいではなく行った先で何が採れるか?と言う事にも興味があった。結果としては漠然とし過ぎていたので成果はさっぱりだったのだけれど近隣の国民宿舎に泊まってそこから歩いて温身平まで訪れ途中の道で枯れ葉にくっついて食事していたコブを採集した記憶がある。今見ると宿から温身平までは結構な距離、若いって素敵ですね。
③長野県飯山市斑尾高原(2008年8月上旬)
何処を訪れても新鮮で刺激的で採れるものが例え普通種であっても行く事自体に満足していたこの頃、ほぼ記憶にないのだけれどトレッキングコースにもタダコブは居てくれた。このように挙げるとキリが無くなるのだけれど折角だからついでにこれ以降は簡単に書いておこうと思う。
④積雪で毎年槍玉に上がる酸ヶ湯温泉(2009年7月下旬、次期が良ければタダコブ共々アカガネカミキリも叩き網で普通に落ちるらしい)
⑤ミチノクケマダラカミキリでお世話になった岩手県区界高原(2013年7月中旬、ミチノクケマダラポイントの手前のフキの葉っぱの上に居た)
⑥栃木県日光市光徳沼から戦場ケ原方面の遊歩道(2015年7月上旬、のんびりと散歩していて踏みつぶされそうだったので保護)
⑦群馬県利根郡片品村丸沼高原(2013年9月下旬頃、何故かシラフヒゲナガカミキリの写真が猛烈に撮りたくなりそれは上手く撮れたのだけれどついでにフラフラと歩いていた所、道路から小道が続いておりそこにやたらとタダコブの姿を見る事が出来た)。過去のマイ記録をざっと見た限りこんな所ではあるものの恐らく書き漏れていると思う。また過去を振り返るにつけ、山地に近く自然度の高い東北地方一帯を訪ねればほぼ間違いなくオールシーズン(初夏から秋まで)タダコブは見つける事が出来ると思う。今となっては私ですらフツーと感じるタダコブ達ではあるのだけれど見つけたら見つけたで何となく嬉しくなる、ここら辺もコブ全般の魅力なのかも知れない。
タダコブに関して気になっている点が二つ。ネット徘徊で見つけたものだけれど秋田の乳頭温泉にて黒いタダコブの写真が掲載されているブログがあった。矮小型、色彩変異で片付けられる話ではあると思うのだけれど私自身、種類は違えど群馬県高崎市倉渕町でオオアオカミキリの矮小型で且つ色味が紫に近いものを採集している。自然のいたずらの一つだとは思うがこんなものが採れるとつくづく自然とは不思議なものだと感じる。
もう一点は単純、何で北海道にコブが分布していないのか?西限の長野県及び関東北部より北の地域で北限は青森県だと思うが北海道の気候を考
えたら居ても何の不思議もない。ところが北海道で似たようなムシだとアカガネカミキリのみ。学の無い私には到底解答が出て来ない訳ですが2万年前の地図だと大陸、北海道、サハリンは地続きで津軽海峡が分断していたようだ。ここら辺が理由なのかなぁ、とは思うのですが同様に対馬海峡も大陸と地続きではないのに大陸系の昆虫が見られる。つくづく不思議に感じる次第です。



(フジコブヤハズカミキリの採集例)

2004年タダコブ初採集の翌年、シーズン終了の冬場になる頃にはコブの魅力にどっぷりとはまりつつあった。筆頭として狙っていたのはイワワキセダカコブヤハズであったのだけれどその当時のネットでのいわゆる採集記を拝読し、そこに掲載されている景観等から判断して静岡県富士宮市西臼塚であろうと感じた。そのようなまどろっこしい事などせずとっととお伺いすればいいのだけれど正直未だにどこか憚る部分がある。人様が必死に集めた情報な訳だから簡単に聞けないよなあ、みたいな。
でも結局は少し以前からこの採集記のサイト主さんとはメールをやり取りさせて頂いており、今度西臼塚に行きます、と言う事をメールすると快くアドバイスを頂けた。なんだよ、聞いてんじゃねえかって話ですけど聞くのも勇気がいるものです。
2005年は8月中旬に下見の下見(飲み会の下見の下見と称して結局気飲んじゃうってのと同じ)と称して西臼塚に出向いていたが本番は9月中下旬。まず9月中旬、富士宮駅から富士五合目まで向かうバスに乗車し西臼塚駐車場で下車、そこから遊歩道に入りひたすらルッキング開始。西臼塚で採れる、との話は伺っているもののどの採集地でもそうですけれど実際現地で探すとなるとそれなりに労力が必要になる。
この頃の私は何故かルッキングに終始する採集で手にした新兵器、ビーティングネットはただ展開せずに持っているだけだった。この当時からメガネっ子ではあったものの若い頃はまだまだ動体視力や視力そのものの衰えがないのでルッキングすれば見つけられるだろうと考えていた。ところがそうは問屋が卸さない、なかなかに苦戦した記憶があったがブッシュのルッキングやササに引っかかった良さそうな枯れ葉を捲ると何とかフジコブヤハズカミキリの姿を拝む事が出来た。朝から夕刻まで西臼塚で飯も食わずに必死に探して6exs、この成果が良いのか悪いのか皆
目分からないのだけれどコブとのすてごろ対決がとてつもなく面白くて集中するあまり時間を忘れて採集に集中していた。
そして採集の余韻冷めやらぬ翌週の9月下旬、同様の経路で今度は満を持してビーティングを取り入れた。天気は前週よりも曇りがちであったもののコブ採集には好都合。雨降りの方が良いと言う話も聞くのだけれど私の経験では採集するこちらがしんどい、寒いしメガネのレンズは雨の雫で濡れるし。曇り気味で朝露のしっとり感が林全体を包んでくれている方が結果が良いように思う。結果、ビーティングに関しては下手くそでほぼ落ちてくれなかったのだが前週の倍近く11exsのフジコブを採集する事が出来た。この時は下手くそな叩き網より天候という条件に偉大さを感じました。
今度は翌2006年10月初旬時間があったので三度西臼塚に出向いた。当日は風が強く林内の湿度と共に枯れ葉も、風と共に去りぬ。触る枯れ葉がパリパリとまるでポテトチップスのように崩れる始末。ただ結構な強風でもササに引っ掛かった枯れ葉は健在、このしっかりとしたササの枯れ葉の保有力には素直に感心した。そして枯れ葉からは頭隠して尻隠さず、ならぬ身体隠して触角隠さず、のフジコブ達。条件は悪かったもののこの日も4exsのフジコブを採集。ただ何となくなのだけれど当時の現地の全体的な乾燥具合が少しだけ気になっていた。
この翌年辺りからコブの別件で他県へ遠征していた関係で西臼塚からは遠ざかっていたのだけれどなんの拍子か唐突に訪れたくなったのが2010年の9月中頃。フジとセダカの混生地でもある当地は有名で毎回何組かの採集者とお会いする。この日もわざわざ青森県から遠征に来られた3名の方がビーティングされていた。お話を伺ってびっくり、最近の西臼塚は不作でこの日もフジコブを3名で3頭!冗談かと思ったが顔色をお見受けするに落胆の色合いが強かった。実際私もこの方々とお話するまでは0だったので不作と言う話にも説得力があった。
そこから比較的良く採れていたマイポイントに移動したのだが枝先をよちよち歩くフジコブの姿や枝先に鎮座するセダカの姿はもはや過去の遺物と化していた。低木の位置関係は変わらないものの地面の下草がやたらと減っており地面が露出して乾燥している。鹿害だろうか?それにしても採れない場所に居ても致し方ないので場所を移動。
今度は針葉樹中心の樹林内ではそれなりの倒木があり間伐も行われているような場所。伐採して集められた粗朶を見てみると針葉樹プラス広葉樹の枝も混じっておりようやくそこでフジコブが一つ。その周辺にも似たような形で粗朶が積まれておりそこを見て回るとようやく目が慣れ姿を視認出
来た(この粗朶群では8exsの結果)。この日の最終的な結果は終了間際にようやくセダカを一つとフジコブの粗朶での採集を含めると11exs。まだまだ健在と言える数字かも知れませんけれど今回は従前の採集スタイルを変えなければ太刀打ち出来なかったのも事実。そしてこの不作と言われている年からもう10年以上の歳月が流れている。10年ひと昔とは言うが、西臼塚でコブを堪能した身の上としては乾燥化と言う当地の変化が今どのような状況なのか非常に気になっています。私は訪れた事はないのですがかつて富士林道などでは道の落ちた枝を振っただけでフジコブヤハズがバラバラ落ちて来たそうだ。私は関東に住んでいる割にはフジコブ採集歴が少ないがその存在が過去の栄華となる前に別地での採集例も挙げておこうと思う。
①山梨県笛吹市芦川町上芦川すずらん群生地(2008年7下旬)。
完全な真夏の時期で平地の気温は35度程度あった。JR韮崎駅から路線バスに乗車し上芦川バス停で下車、その後結構な距離を歩いてすずらん畑に辿り着いた。この時期という事もありコブの存在自体頭に無くかと言って何を狙っていた訳でもなかった。実は前週も当地を訪れておりフタコブルリハナカミキリの黒化個体などが採れ結構面白かったので再来訪。すずらん畑の遊歩道に入ってすぐ道脇に長さ50センチ程度のスギの丸太が無造作に置かれていたのだがその丸太と地面の隙間から明らかにカミキリムシの触角が覘いていた。興味本位で丸太をひっくり返した所、なんとフジコブヤハズだったので驚いた。スギの丸太の下、真夏、何故居るの?
この日は不思議とツイておりハナカミキリを追いかけていたら細い立ち枯れが目に付いた。当地はイワワキセダカの産地でもある為ひょっとしたらとルッキング、するとトガリバホソコバネカミキリが取り付いていた。その細い立ち枯れがタンナサワフタギだったのだからラッキーこの上ない日であった。また、すずらん畑に行く手前に車両一台分程度の広さの舗装された恐らくは農道があるのだがその道路沿いでも得た経験がある。
(マヤサンコブヤハズカミキリ→マヤサンコブヤハズカミキリ中部地方亜種の採集例)

カミキリムシ情報館、館長の池修さんには常日頃お世話になっております。当時このカミキリムシ情報館に「道標のある採集地」と銘打った味のあるミニコーナーが存在していた。確か屋久島などの採集地近くの道標を撮影されておられたと記憶しているがそのコーナーの中にチュウブマヤ
サンコブヤハズカミキリの産地付近の道標があった。その道標は木製で近くの湖の形が案外精密に描かれていた。しかしながらその看板に名前は無い。ここでまた無駄な努力、描かれた湖の形状から場所を割り出してみようと考えた。結論、白樺湖じゃないの?・・・無知って恐ろしい。当然白樺湖では散策に終始し一日を終えた。
で、結局はまたメールで伺う。すると長野県北安曇郡小谷村の鎌池との事、何処そこ?とにかく多産地であり行けば採れるとの事だった。期待に胸を膨らませて2004年の秋に訪れたのだがこれが大失敗、と言うよりも大失態。なんと1匹しか採れなかった。と言うのも鎌池はレジャーシートを広げた家族連れが大勢おりかなりの人出、完全に臆してしまった。一応池修さんにはご報告させていただいたものの色々心配された事は言うまでもない。そう、躊躇なんぞしている場合ではないのだ。
糧にもならないような失敗の翌2005年の9月下旬、実はこの前日には前述の西臼塚でコブ採集をしており静岡の富士宮駅から長野の南小谷駅方面まで移動している。確か白馬のペンションで一泊した記憶がある。その翌朝JR大糸線に乗車し南小谷下車、そこからは路線バス。当時は雨飾荘まではバスが出ておりそこからは徒歩。とにかく道沿いを叩いて回っていたが鎌池に近づくにつれて道路沿いのブッシュからポロポロとコブが落ち始めて来た。ひと叩きで2頭、多産地の偉大さには敬服する。ビーティングをし始めたばかりでおぼつかない私でも落ちるのだから相当なものである。と、ここで採集者にお会いした。ぎこちないビーティングを端から見ていたのかも知れない、ビーティングのコツや当地のコブの状況をお伺いした。もう少し下部を叩いた方が良いとのアドバイスとひと昔前はここで普通に3桁採れたとの事。3桁!カミキリでつくだ煮が出来る。それはともかくとしてもアドバイス通り低い位置で叩いていくとやはり相当数落ちる。落ち始めから1時間程度だろうか?気が付けば24exsのチュウブマヤサンコブヤハズカミキリが持参したケースに入っていた。チュウブマヤサンコブヤハズの思い出はここだけなのですが、一度に沢山とれる多産地はお腹がいっぱいの状態が長続きするものです。悪く言うと一度で満足して二度は行かない。
2016年6月中旬、久々に別件狙いで再び当地を訪れた。JR南小谷駅から雨飾荘まで出ていたバス、現在は2014年11月24日に発生した長野県神城断層地震の影響で雨飾荘までの道路の一部が崩落したままでバスは途中までになっていた。別件はさっぱりだったのですが途中の倒木で久し振りにチュウブマヤサンの元気な姿を目にする事が出来た。道路崩落はショックではあったがその本種の元気に動き回る姿を見て少
しだけ旧友に会えたような気分になった。



  タチヨミ版はここまでとなります。


コブ道

2023年9月9日 発行 初版

著  者:宮川幸也
発  行:カミキリ情報館出版

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