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この本はタチヨミ版です。
俺の名前は森正規。現在25歳で大手広告代理店のサノゾウに勤めている。
大手広告代理店と言ってもイメージ通りの華やかさは全くない。
むしろ制作側なので、陰キャ臭が漂う部署である。
金曜の夜、いわゆる“華金”ではあるが、早々に家に帰り寛いでいる最中なのである。
ちなみに父親は海外転勤で海外暮らしをしており、母も父について行っている。
かといって一人暮らしではない。麻美という2歳離れた妹がいるのだ。
この麻美は陽キャの代表かと思うほど、行動力、そしてコミュニケーション力に長けている。
麻美は美人の部類に入るのだが、シスコンではない俺はどうでもいいのだ。
深夜になり、そろそろ寝ようかと思った時、俺のスマホが鳴った。
麻美からだったので、何かあったのかと思い電話に出た。
「麻美、どうしたんだこんな時間に」
「おにい~、友達が帰れなくなったから家に連れて行っていい~?」
相当酔っているようだ。
「ダメって言っても、連れてくるしか方法ないんだろ?」
「そうなんだけどね~、ぎゃはははは」
「うるせえ!近所迷惑にならないように帰ってくるんだぞ」
「へ~い」
そう言って電話は切れた。
「はぁ・・・」とため息をまずついた。
(そういえば、友達って聞いただけで男か女か聞いてないぞ!)
俺は焦った。もし男を連れてきたらどうしようと。
ただ、心配は杞憂に終わった。
麻美が連れてきたのは可愛い女性だったからだ。いや、超可愛い。
「おにい~!帰ったぞ!水ちょうだい!水!」
その横で申し訳なさそうに
「すいません・・・お邪魔します・・・」
と女性は遠慮がちに言ってきた。
「おにい!この子は優羽ちゃん!可愛いからって手を出しちゃだめだぞ!っておにいにそんな勇気ないか、ぎゃはははは!」
「麻美!静かに!!」
「さて、飲み直すとするかね~」
と麻美はチューハイのいっぱい入ったビニール袋を出したのだった。
「まだ飲むの?もう止めたら?」
「だって今日は華金だよ!ここで止めたらもったいないじゃん!」
と麻美は飲む気満々だ。
「優羽ちゃんだっけ?お酒大丈夫なの?」
と念の為に友達にも聞いてみた。
「私はお酒がすごく強いので、全く問題ないんですけど・・・」
と、優羽ちゃんも麻美のことを気にしていた。
「おにいも飲むよ!はいお酒持って!カンパーイ!」
渋々、その中に混ざりお酒を飲むのであった。
案の定、麻美は30分もたたないうちに寝息を立てだした。
俺と優羽ちゃんの気まずい空気が流れる。
「麻美のやつ・・・ごめんね」と俺は優羽ちゃんに謝った。
「いえいえ、楽しく飲ませてもらって、私の方こそすいません」
「今は麻美と一緒の会社なの?」
「いえ、会社は別々です」
「じゃあ、もしかして麻美とは大学一緒だったりした?」
この気まずい空気に耐えきれず俺は質問を繰り返した。
「そうですね~、3回ぐらいしか一緒に講義は受けてないですけど・・・」
やっぱり俺の知らない友達だったみたいだ。
「そういえば、俺の名前まだ言ってなかったね。正規って言います」
「森正規さんですか・・・どこかで聞いたことがあるような・・・」
「まぁ、よくある名前ですから」
「そうですかね~。あ!すいません、私も自己紹介まだでしたよね。私、吉岡優羽って言います」
「吉岡さんですか。逆に、どこかでお会いしたことあります?」
「いえ、多分ないと思いますが・・・」
「そうですか。俺の勘違いかもですね」
(何でだろう・・・会ったことがある気がするんだよな~)
そんなやり取りをしていたら、麻美が目を覚ましたようだ。
「う~ん・・・おはよう~!」
まだ飲み足りないようで寝ぼけているのだろうか?
「おはようじゃないよ。早く部屋に帰って寝な」と麻美に言ったが、また寝てしまったようだ。
「麻美って、いつもこんな感じなんですか?」と優羽ちゃんが聞いてきた。
「まあね。麻美は友達と一緒にいるときはこんな感じだね」
「そうなんですか・・・」
「ごめんね。こんな奴で」
「いえ、そんなことないです」
そんなやりとりをしていたら、麻美が急に起き上がり、
「ねえ、おにい!お酒ないの?お酒~!」と言い出した。
「もうないよ」
「えええ~、もっと飲みたいよ~!」と麻美は駄々をこね始めたので、俺は仕方なしにコンビニに買いに行くことにした。
「優羽ちゃんも一緒にどう?」
「私ですか?」と驚いた様子だったが、
「じゃあ、行きます」と素直に付いて来てくれることになった。
「おにい~!手を出すなよ~!」と玄関先で麻美が大声で言うものだから近所迷惑だと注意し、俺と優羽ちゃんはコンビニに向かった。
「なんか、お兄さん大変ですね」
「そんなことないよ。俺はそんなに行動的で明るくないから、妹がこんな感じでちょうどいいのかもよ」
「そうなんですね~」
「優羽ちゃんは麻美と仲良しなの?」
「そうですね~、お互い遊んだりする仲ではありますね」
「そうなんだ。俺、全然麻美のこと知らないからビックリしたよ」
「それは私も同じです」
「そういえば、麻美とは同い年なの?」
「そうですよ」
「じゃあ、社会人1年目だね。大変だ」
「そうですね・・・」
そんなやりとりをしているとコンビニに着いた。
「お酒は何がいい?」と優羽ちゃんに聞いてみる。
「私は何でもいいですよ」
「じゃあ、ちょっと多いけどスパークリングワインでいいかな?」
「はい。むしろ助かります」
それを聞いて俺はスパークリングワインと自分用に缶ビール2本、麻美用にチューハイを2本買い、店を出た。
「お待たせ。じゃあ帰ろうか」
そう言って、俺と優羽ちゃんはマンションに戻るのであった。
「おにい~!遅いよ~!」と玄関先で麻美が大声で言うものだから近所迷惑だと注意し、
「早く部屋に帰って寝な」と麻美に言ったが、またリビングで寝てしまったようだ。
「麻美のやつ・・・ごめんね」
「いえいえ、楽しく飲ませてもらって、私の方こそすいません」
「とりあえずスパークリングワインを飲もうか」
「そうですね」
「じゃあ、カンパーイ!」
と言って、買ってきたお酒を優羽ちゃんと飲み始めた。
「今日は麻美が迷惑かけたね」
「いえいえ、私も楽しかったですから」
「いつもこんなんだよ。麻美は」
「そうなんですか・・・ちょっと羨ましいですね・・・」
「優羽ちゃん、兄弟とかいるの?」
「妹が一人いますよ」
「そうなんだ。だからしっかりしてるのかな?」
「どうですかね?私もそんなにしっかりしてないと思いますよ」
「いやいや、麻美を任せられるのは優羽ちゃんしかいないと思うよ」
「そんなことないですよ。妹の方がしっかりしてますからね」
「そうなんだ」
そんなやりとりをしていると、麻美が急に起き上がり、
「ねえ、おにい!お酒ないの?お酒~!」と言い出した。
「はい、これ」とチューハイを渡すと、チューハイを抱いたまま眠ってしまった。
「また寝ちゃったね・・・そろそろ部屋に運ぶか」
「その方が良さそうですね」
そう言って麻美をおぶって麻美の部屋に入り、ベッドに投げた。
「お兄さん、荒い・・・」と言って優羽さんは笑っていた。
「こんなんで麻美は起きないよ」
「そうなんですね」
「それと、ベッドの横に客用の布団を敷くから、そこで寝るといいよ」
「ありがとうございます。本当にすいません」
「麻美が暴れるかもしれないけど」と笑っておいた。
全ての準備が終わったので、
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
といって就寝するのであった。
翌日、目を覚ますと美味しそうな匂いがしていた。
(ん?麻美は料理ができないはずなんだが・・・)
と思いリビングへ行くと優羽ちゃんが朝食の準備をしていたのだった。
「あ!おはようございます」
「おはよう。朝ごはん作ってくれてるの?」
「はい、簡単なものしか作れないんですけど・・・」
「いやいや、助かります。ありがとう」
そんなやりとりをしていた時、麻美も起きてきて優羽ちゃんに文句を言っていたが、適当に受け流していた。
(いつもの麻美に戻ったな・・・)
そんな2人の姿を見て俺はほっとしていた。
朝食を食べ終えて一段落したころ、急に麻美が切り出したのだ。
「おにい!今日は暇でしょ?」
「特に予定はないけど」
「じゃあ、優羽ちゃんの引っ越しの手伝いしてくれない?」
「いいけど」
「ありがとうございます。お願いします」
そんなやりとりをしていると、優羽ちゃんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「正規さん・・・すいません・・・」と謝っていた。
俺は不思議に思ったので聞いてみたのだ。
「いや、全然いいんだけど・・・どうしたの?」
「あの~・・・私が住んでるマンションってエレベーターがないんですよ・・・」
(え?まじで?)
そんなやり取りをしていたとき麻美が口を挟んできた。
「おにい!どうせ暇でしょ?手伝ってあげなよ!」
「はあ・・・わかったよ。手伝えばいいんでしょ」と渋々了承したのだった。
「ありがとうございます!助かります!」
「おにい!ちゃんと優羽ちゃんを手伝わないとダメだよ!でも手を出しちゃあダメだよ!」
「わかってるよ」
こうして、俺は優羽ちゃんの引っ越しの手伝いをすることになったのだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」と元気よく優羽ちゃんは返事をした。
「じゃあ、麻美は留守番よろしくな」
「ええ~、私も行きたいよ~」と駄々をこね始めたのだ。
(おいおい・・・まじか・・・)
「また今度連れていってあげるから」
と言うと納得した様子で、
「おにいの奢りだからね!」と言ったので了承したのだった。
そんなやりとりをして俺と優羽ちゃんは出発したのだ。
そしてマンションに着いたときエレベーターがないと聞いて驚いたのだった・・・。
3階建ての「オートロック・セキュリティ万全です! 新築ですよ!」
というマンションの3階に優羽ちゃんの部屋はあった。
3階のフロアー全てが優羽ちゃんの家らしいのだ。
(どんだけ金持ちなんだよ・・・)と内心思っていた。
「おじゃましまーす」そう言って部屋に入ったが、想像以上に広い部屋だった。
「どうぞ、散らかっててすいません・・・」と恥ずかしそうに言ったが、俺の部屋とは大違いだった。
(くそ!いいなぁ・・・俺もこんな部屋に住みたいよ!)
「これぐらいの広さなら、俺1人で十分だよ」
「すいません。よろしくお願いします!」と頭を下げられたので、
「いやいや、気にしないで。じゃあやろうか?」と声をかけたが、優羽ちゃんはまた申し訳なさそうに口を挟んだのだ。
「あの~・・・」
「どうしたの?」
「実はですね・・・私の荷物がまだ整理できてないんですよ・・・」
(まじか・・・)
確かに見てみると段ボールの山で足らない状態だった。
(これは本当に今日中に引っ越しが終わるのかな?)
そんな不安を抱えつつ
「じゃあ、頑張ろうか!」と言って優羽ちゃんに笑顔が戻ったのを見て安心したのだった。
「そういえば、優羽ちゃんって次は何階なの?」と聞いてみたところ7階とのこと。
(俺なんか6階だぞ・・・)
そんな格差を感じながら、作業を進めるのであった。
「えっと、段ボールは食器類と衣類で分ければいいのかな?」
「はい!そうです」
(整理するだけでも結構時間かかりそうだな・・・)
と思いつつも作業を開始するのであった。
1時間後・・・。
「優羽ちゃん、ここ下着のコーナーなんだけど・・・」
「すいません。間違えちゃいました・・・」
「まあ、気にしないで」
そう言って作業を再開したのだが、またも下着のコーナーが出てきたのだ。
(もうこれわざとやってるんじゃないか?)と思い、優羽ちゃんを見ると申し訳なさそうな雰囲気を出していた。
(まじかよ・・・)
さすがに2度も間違えるなんて普通ありえないと思うのだが・・・。
「優羽ちゃん・・・もしかしてわざとやってる?」と聞いてみると顔を横にブンブン振って否定するのでどうやら本当に間違えたらしいのだが・・・。
2回同じことがあったので、俺は思い切って聞いてみたのだ
「もしかして優羽ちゃん、下着にこだわりがある?」と。
「え!どうしてわかったんですか?恥ずかしいです・・・」
(ええ~・・・)
「あの~、そんなにジロジロ見ないでください!」
「いや、ごめん。そんなつもりは・・・」
(まじかよ!恥ずかしがってるのそこなのかよ!)
そんなやりとりをしながらも作業を続けたが、その後も下着を連発するのだった・・・。
結局、すべての荷物の整理が終わるころには夕方になっていた。
優羽ちゃんを見ると今にも寝そうな表情だったので俺は声をかけた。
「優羽ちゃん疲れただろうから寝てもいいよ」
「いや~・・・まだ大丈夫です」と口では言っているのだが
「いやいや、寝そうだから」と念を押して言うのだが
「本当に大丈夫です!」と言ったので俺は優羽ちゃんをソファーに寝かせたのだった。
俺はその間に部屋の掃除を終わらせておこうと思ったのだ。
(優羽ちゃんは疲れてるみたいだから、このまま眠らせてあげよう)
掃除が終わったのは夜中の2時であった・・・。
「やばい・・・さすがに優羽ちゃん起こしたほうがいいかな?」
そう思ったのだが、気持ちよさそうに寝ているので起こすのがかわいそうに思えてしまって俺は起こさなかった。
「まあ、明日謝ろう」
と俺はソファーの横に布団を敷き、眠りについたのだった。
翌朝、目を覚ますと優羽ちゃんの声が聞こえたのだ。
「正規さん!おはよう!」
「おはよう」と言って体を起こすと優羽ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
(近いな・・・)
そんなことを考えていると今度は急に飛びかかってきたのだ!
「うわっ!」と驚いている俺を尻目に優羽ちゃんはとても嬉しそうだった。
「どうしたの?」俺が聞いても笑顔で「内緒」と言うだけで教えてくれなかった。
「朝ごはんできてるよ」と優羽ちゃんが言い、ダイニングに向かうと朝食の準備がされていた。
「いや~、こんなちゃんとした食事なんて久しぶりだよ」
「そうなの?」
「なんか、いつも食パンと牛乳だから」
「う~ん・・・今度私が作りましょうか?」
「本当?嬉しいよ!ありがとう」
そんな会話をしながら俺は優羽ちゃんの手料理を食べるのであった。
朝食を食べ終えて食器を片づけていると優羽ちゃんが話しかけてきた。
「あの~、私の引っ越し準備ってどれくらい終わりました?」
そう言われたので昨日までに俺がやった作業を振り返ってみたのだ。
(昨日1日かけて作業したけど、結構まだ残ってるよな・・・)
「う~ん、2人でやったら半日で終わるかな?」
「そうなんですか!じゃあ、またお願いしてもいいですか?」
そんな会話があったあと、俺たちは準備を始めたのだ。
そして夕方になってやっと引っ越しの準備が終わったのだ。
(昨日1日作業したから疲れたな・・・)
俺はそんなことを考えていると優羽ちゃんが話しかけてきた。
「本当にありがとうございました!」
「いやいや、気にしないで」
(俺も引っ越しの準備を手伝ってもらって助かったからな)
そんなことを思っていると優羽ちゃんが何か言いたそうにしていることに気づいた。
「どうしたの?」と聞いてみたところ、何やら恥ずかしそうに話し始めたのだ。
「あの~、昨日の下着の件は忘れてください・・・」
そんなお願いをされたので俺は即答で答えたのだ。
「わかった」と・・・。
そして俺たちは引っ越し業者が来るのを待つことになったのであった。
1時間後・・・業者が来て優羽ちゃんの「お願いします」という声と共に引っ越し作業は始まるのであった。
「本当にありがとうございました」と嬉しそうに言うので俺も嬉しくなって、
「ちなみに次の引越し先はどの辺なの?」と聞くと
「新橋の近くですよ」と答えてくれた。
(勤務先の近所なんだよな・・・)
そんなことを考えていると業者が最後の荷物を運び終わった。そして料金を支払い、俺は家に帰る為に玄関まで来た。
(それにしても今日は疲れたな・・・)
タチヨミ版はここまでとなります。
2024年3月16日 発行 初版
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