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この本はタチヨミ版です。
俺の名前は湊大輝。中堅商社サノゾウ商事の営業部で働く27歳だ。
それなりに楽しく働いているのだが、一つだけ難問がある。
「おはようございます」
「・・・」
「おはよう、中谷さん」
「・・・おはようございます」
こんな感じで塩対応な後輩がいる。中谷綾乃である。
彼女はいわゆる営業事務なのだが、物事を頼むとしてもなかなかすんなりいかないのだ。
そんなところに同僚の田邉誠がやってきた。
「おはよう、中谷さん!あの・・・何でもない」と言って去って行った。
誠とは仲がいいので後を追いかけて
「誠!どうかしたのか?」と聞いてみたが、
「いや、昨日の売上聞こうと思ったら覚えてたわ」と返してきた。
「お前寝ぼけてんじゃねーの?」
「そうかもな・・・ハハハ」
そんな感じで一日が始まったのだ。
その夜、俺は父親に話があると言われていた。
俺の家庭は母を小さな時事故で亡くし、そこから男手一つで育ててもらった父子家庭なのである。
(なんの話かな?)と思っていると、
「実はな、この歳でなんなんだが、父さん再婚することになったんだ」
「えっ!そうなの?」
「相手は中谷凛々子さんというんだが、すごくいい人なので大輝も気に入ってもらえると思っている」
「じゃあ、俺は家を出ていった方がよくない?一応、新婚なんだから」
「いや、逆に大輝も一緒に住んでほしい。いずれ大輝も結婚して出ていくんだから、ちょっとの間でも家族で過ごせたらと思っている」
「そういうことならわかったよ」
「では、今週の土曜日に顔合わせだから空けておいてくれな」
「了解」
「あ、そうそう、可愛い妹もできるからな」
「えっ?」
こういう感じで、急に母と妹ができるようになったみたいだ。
そして、顔合わせ当日を迎えた。
凛々子さんが先に来て、娘さんは後から来るらしい。
「大輝、こちらが中谷凛々子さん」と父から紹介された。
確かに凛々子さんはすごくいい人そうに見えた。
「大輝くん、よろしくね。いきなり母として見れなくてもいいからね」
「よろしくお願いします。凛々子さん」
「『凛々子さん』なんて堅苦しいから『凛々子ちゃん』って呼んでちょうだい」
「おいおい、『凛々子ちゃん』は俺の呼び方だろう」と父が話に割ってきた。
そこから父と義母はイチャイチャし始めたのである。
(おいおい、その歳でイチャイチャするのやめてくれよ)と思った瞬間、
「ちょっと、その歳でイチャイチャするのやめてくれない?」と女性の声が聞こえた。
(えっ、俺の心の声が漏れたの?)と思って顔を上げてみると娘さんが到着したようだった。
「遅いわよ、綾乃」と凛々子さんが言った。
(え、綾乃?確か苗字は中谷だったような・・・)
その娘さんを見て俺は驚愕することになる!
「えっ!中谷さん!?」と思わず叫んでしまった。
「!!!!!」
中谷さんは驚いているものの、俺には話しかけてこなかった。
そして父親に対しては、
「中谷綾乃といいます。よろしくお願いします」と言って頭を下げた。
(挨拶はちゃんとできるんじゃん。家族としては問題なさそうかな)と思っていたのだが・・・
中谷家の引っ越しが終わって、改めて中谷さんと話そうと思い、
「あの、中谷さん・・・」というと、キッと俺を睨んで自分の部屋に入っていったのである。
「大輝くん、綾乃がゴメンね。会社でもいつもあんな感じなの?」と凛々子さんが心配してやって来た。
「そうですね・・・」と苦笑いをしながら答えた。
「あの子、昔からそうなの。父親を早くに亡くして、その上ずっと女子校だったから・・・その上、最初の彼氏さんといろいろあったって聞いたわ」
「そうなんですね」
「すぐには無理かもしれないけど、仲良くしてあげてね」
「わかりました」と答えて、俺も自分の部屋へと戻った。
(俺も中谷さんとは仲良くしたいもんな)
そして、両親は新婚旅行に行くことになり、俺と中谷さんの二人で過ごすことになった。
その初日は土曜日だったので、俺は誠と飲みに行く約束をしていた。
リビングでのんびりしてると、フラフラの中谷さんが部屋に入ってきたのだ。
そして倒れそうになったので、間一髪で支えることができた。
計らなくてもわかるぐらいの高熱でかなりしんどそうな表情であった。
俺は迷わず彼女をベッドに運び、濡れタオルで熱を取ってあげた。
しばらくすると中谷さんが目を覚ました。
「えっ、湊さんがベッドまで運んでくれたんですか?」
「そうだよ。急に気を失ったからね」
「今日は約束があったんじゃ・・・」
「あぁ、約束はドタキャンくらっちゃったよ」
「そうなんだ・・・」
「じゃあ、俺がいると安静にできないだろうから出ていくね」
と言って出ていこうとしたところ
「ここにいて・・・」
と言われドキッとしたのである。
(病気で心細いんだろうなぁ)
その後、中谷さんは再び眠りにつき、俺は一生懸命に看病するのだった。
そうしているうちに俺は疲れていたのか、そのまま眠ってしまったのだ。
その後、再び中谷さんが目を覚まし、寝ている俺に気づいた。
俺も中谷さんが起きたのに気づき目を覚ました。
「湊さん、ずっと看病していてくれたんですか?」
「女の子が病気なら、男はみんなそうするさ」
「そんなことないです!私の昔の彼氏なんて私がスキンシップが苦手なのを知ってて、こういう寝込んでいる時を狙って触ってきたんですよ。そして、『彼女なのに触らせてくれないヤツはいらない』ってフラれました」
「そうなんだ・・・」
「だから、男性に優しくされて、今すごく嬉しいんです」
(ちょっとは距離が縮まったかな・・・)
「中谷さん、もう熱は大丈夫?」と俺が聞くと、
「・・・その、中谷さんってやめません?」と恥ずかしそうに言ってきた。
「わかった。あ、あ、あ、綾乃・・・」
「嬉しい!お兄ちゃん!」
こうやって、綾乃と仲良くなれたのだった。
翌日、綾乃が既に会社に来ていたので挨拶しようとすると、誠が来て
「おい!お父さんの病気は大丈夫か!家族の病気があったって昨日聞いた時は心配したぞ!」
(ヤバい、綾乃に嘘がバレる)
「誠、ちょっとこっちに来てくれる?」と言って廊下まで誠を引っ張り出した。
そこで、父親が再婚したこと。義母と義妹ができたこと。義妹が中谷さんであることを話したのだが・・・
「中谷さんが妹って、噓をつくならもうちょっとマシな嘘をつけよ!」
と笑って信じてくれなかったのだ。
そんな一日が終わり風呂に入ろうとすると、綾乃が着替えていたのだ!
「ゴメン!」
「大丈夫だよ!ちょっと待ってて!」と言ってきたので、
(服でも来ているのかな)と思っていると
「お兄ちゃん入っていいよ」と綾乃が言ってきた。
入るとタオル一枚姿の綾乃がいて
「一緒に入ろ♡」と言ってきたのだ!
俺は焦って逃げだし、風呂に入らないようにしたのだが・・・
「なんで逃げるの?お兄ちゃん、妹と一緒にお風呂入るぐらい普通でしょ?」と言われてしまった。
(そんな兄妹普通いないから!)と心で叫びながらも反論できずにいると、綾乃は俺の服を脱がそうとしたのだ!
俺は必死に抵抗したのだが、綾乃に力負けしてしまい・・・一緒にお風呂に入ることになってしまった。
俺は女の子と一緒にお風呂に入るなんて初めての経験である。
もうドキドキして大変なのである。でも妹なんだよな。
綾乃は色々と話しかけてきたのだが、俺はそれどころではなく
「あ、うん」とか「そうだね」ぐらいしか返せなかった。
でも、一つだけ確認したいことがあって、
「今日の誠の話って聞いてた?」と聞くと、
「うん。ドタキャンって嘘だったんだね。お兄ちゃん優しいね」
と言ってピタッとくっついてきたのである!
そしてお風呂から出ると、俺の部屋に一緒についてきて・・・
「お兄ちゃん一緒に寝よ♡」と言うのだ!
(さすがにそれはまずいでしょ)
と思っていたのだが・・・ 気づいたら同じベッドで寝てしまっていたのだった。
そんな楽しい毎日を過ごしていたのだが、ある日誠に相談されたのだった。
「俺、中谷さんが気になってて、付き合いたいんだよね」
「だから、中谷さんは俺の義妹だって!」
「えっ?それって本当だったの?じゃあ協力してくれない?」
(綾乃もちゃんとした男と付き合った方がいいもんな)
「わかった。協力するよ」
と誠と約束するのだった。
家に帰ると
「おかえり、お兄ちゃん」
と綾乃が迎えてくれたので、
「ただいま、綾乃。今ちょっといい?」
「何?」
「田邉誠はわかるよな?」
「同じ営業部なんだから当たり前じゃない」
「彼が綾乃のことを気に入っていて・・・一度話をしてみて、よかったら付き合ってほしいんだ。誠はイケメンだし、誠実だし、コミュ力もあるし、優良物件だと思うんだよ」
「お兄ちゃんはそれでもいいの?」
「いいよ」
「・・・わかった。一度話してみるね」
と言って了承してくれた。
しかし、俺の胸にモヤモヤがあるのが気になったのだ。
次の日、誠が俺の所にやって来て、
「今日、中谷さんと話をすることになったよ。大輝が早速話してくれたんだな」
「・・・あぁ、頑張れよ」
そう言ったものの、胸のモヤモヤはどんどん大きくなっていった。
それと同時に楽しかった綾乃との思い出も蘇る。
その日一日、綾乃のことでいっぱいだった。
なので、綾乃に頼みごとをすることもできなかったのである。
定時になって綾乃は上がったようだ。
そこで、俺は誠を呼び出して、
「スマン、やっぱり協力できない。俺、中谷さんのこと好きなんだ」と告げた。
すると誠は、
「悪い、今から居酒屋に行くんだわ」と言って去って行った。
(俺は何をやってるんだ・・・間に合わなかったじゃねーか・・・)
そう落胆し、会社を出た。
「あっ、お兄ちゃん。一緒に帰ろう!」
と綾乃が後ろからやって来たのだ!
「えっ?誠と飲むんじゃなかったの?」
「そんな予定ないよ?」
と聞いて、ホッとした。
そして俺は決断した。
「綾乃、俺は綾乃が好きだ!付き合ってほしい!」
「いいよ!私もお兄ちゃんが大好き♡」
(よかった・・・)
その後、綾乃から聞いたのだが、誠には「好きな人がいる」と言って断ったとのことだった。
そして、誠から聞いたのだが、フラれた誠を慰めようと有志が飲み会をセッティングしてくれたのとか。
俺と綾乃は付き合うということを両親に話すことにした。
すると二人とも乗り気で、なぜか同棲することになった。
(どうしてこうなった)
「しょうがないじゃない。お母さんが物件を抑えちゃったんだから」
「じゃあ、楽しんで同棲生活していきますか」
「ところで、付き合って『お兄ちゃん』は変だよね。大輝さんでいい?」
「なんか恥ずかしいけどいいよ」
「フフ・・・よろしくね、大輝さん♡」
「あ、あぁ・・・こちらこそよろしくな」
こうして、俺たちの同棲生活が幕を開けたのだった。
「おはよう、大輝さん」と言って俺のほっぺにキスをしてきたのだ。
「あ、綾乃!何をやってるの?」
「え?おはようのキスだよ♡」
と平然と言うのである!
(いや、おかしいでしょ。まだ同棲1日目でこんなことになるの?)と頭がパニックになっていると・・・
「早く朝ごはん食べようよ」と言いリビングに行ったのだ。
俺も慌ててリビングに行き朝食をとった。
「はい、大輝さん。あ~ん♡」
「え?」
(何が起こってるんだ?)と思っていると、綾乃が箸でつまんだご飯を俺の口に運んできた。
そして俺はそれを口に入れたのだ!
「どう?おいしいでしょ」
と聞いてくるのだが、まだ頭が追いついていない。
そんな俺を見て綾乃は・・・
「じゃあ、もう一回ね。あ~ん♡」と言ってまたご飯を運んだのである! そしてまたそれを食べてしまった。
(なんでこんなことになってんだ?)
「どう?おいしいでしょ♡」と聞いてくる綾乃の顔が赤くなっていて、なぜか俺の方も恥ずかしくなってきた。
「お、おいしくいただきました」
「大輝さん、どうして赤くなってるの?」
「そ、それは・・・」
(それは綾乃が・・・)と思っていると、
「フフ・・・可愛い♡あっ、先に行くね」
「俺も行くよ」
「もう一緒に行っちゃう?」
「そうだね」
と二人で出勤することにしたのだ。
会社に着くと、
「おい!大輝!結局どうだった?」と誠が声をかけてきたのである。
(まだ気持ちの整理がついてないんだけどなぁ)と思いながらも、
「聞いて驚け!俺と綾乃は付き合うことになったんだ!」とドヤ顔で言ったのだ。すると誠も嬉しそうにして、
「よかったじゃねーか!でも仕事中は浮かれすぎんなよ!」
と言ったのである。
(確かにそうだ!俺も浮かれてる場合じゃない)と気持ちを引き締めるのだった。
「それにしても、今日はずっとご機嫌だったな、大輝」
「まあな」
(だって綾乃と付き合えたんだもん!しょうがないじゃん)と思いながらも冷静を装うのであった。
そして家に帰ると、綾乃が先に帰っていたのである。
「おかえり~」と言って出迎えてくれたのだ。
「ただいま!」
「もう、新婚さんごっこしてるの?」と言って綾乃は笑ったのだ。
(あ、そうか。俺は綾乃と付き合ったんだもんな)
改めて「ただいま」と照れながら言うと、綾乃が抱きしめてきて・・・
「おかえりのキス♡」と口にキスをしてきたのだ!
(恥ずかしい!)と思いつつも受け入れてしまったのである!
そして夕食を食べる時も、いつものように俺の左側に密着して座ったりしてきたのである。
「綾乃、くっつきすぎじゃない?」
「え~そんなことないよ。私たちは付き合ってるんだもん」
と言ってくっついてくるのだ。
(まぁ、綾乃がいいならいいけどね)
そしてお風呂でも・・・
(もう何も言うまい!)と思う俺なのであった。
そして寝る時は・・・当然一緒に寝ることになったのである!
「おやすみ、大輝さん」と言って俺の頬にキスをしてきたのだ!
(こんなに幸せでいいんだろうか?)と満足しつつ眠りにつくのだった。
「おはようございます、大輝さん」
「おはようございます、綾乃」
「どうして敬語なの?もう付き合ってるんだからタメ口でいいのに」
と言ってキスをしてきたのだ。
(俺の理性が・・・)と思いつつもまた綾乃にキスされるのだった。
(もうこんな生活が1か月続いてるんだよな)としみじみ思っていると・・・
「今日も大輝さんはカッコいいね♡」と言いながら抱き着いてきたのだ!
もう既に心臓はバクバクで顔は真っ赤になっているだろう。
そんな俺に気づいたのか、綾乃が
「もう、大輝さんったら照れてるの?可愛い」とまたキスをしてきたのだ!
(朝からこんな状態って・・・これからどうなるんだろう?)と不安に思っていると・・・
「フフ・・・大輝さんのここ硬いね♡」
と言ってズボンの上から触ってきたのだ!
(ヤバい、このままじゃ理性が飛ぶ!)と思って綾乃を無理やり引き離したのである。
「あ~ん♡もっと触りたかったのに~」
(朝からハードすぎるよ)と思いつつも会社に行ったのだった。
会社では
「おい、大輝!朝からイチャイチャするな!」
と誠から苦情が入ったのである。
「なんで?別にイチャイチャしてないじゃん」
「お前の顔がデレデレになってるんだよ!顔ぐらいシャキッとしろ!」
(しょうがないだろ。綾乃があんなに積極的だったんだから)
と思いながら仕事に集中するのだった。
仕事が終わって帰る時も、綾乃が抱き着いてきたりしてきて・・・
タチヨミ版はここまでとなります。
2024年3月16日 発行 初版
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