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この本はタチヨミ版です。
夏の世界。
懐かしい夏の香り。
この身を通り抜けていくかのような、爽やかな夏の透明の濁りのない清らかな風。
ラムネの色を思わせる、心を弾ませる、大きな夏雲が静かに、優しく、その形を変化させていく。
モクモクとシュワシュワと、夏の空からそんな音が聞こえてくる。
路地で見掛けた夏草たちが、堂々と胸を張って微笑んでいる。
どんなにいつもと違う日々であっても、夏はなにか、なにもかもが、いつもキラキラと眩しいくらいに煌めいていて、輝いて見えて。
部屋の窓をなんとなく開けると、心のなかがどんな状態でいたって、すべてを忘れさせてくれて、笑顔が自然に溢れてくる、そんな夏の世界へと連れていってくれる気がするんだ。
時間は人の生活に変化をもたらすけれども、あなた自身がなくなることは決してないから。
愉快で陽気な旅人のように、歩んでいこうよ。
心は自分のものであり、大切なものはなくなることはないし、人との繋がりだって尊いものは永遠に繋がっていく。
ふと、瞳に映る。
それは懐かしくって、どこまでも気持ちがよい、とてもそれは暑い日の夏のあの海の静かな波。
その波にゆらゆらと、この身を任せるようにしていた時間。
潮風が瞼を濡らして、しょっぱさが瞳から溢れてくるんだ。
その瞳から感じる、しょっぱい感触はとっても気持ちがいい。
夏のなかに力を抜いてこの身を任せると、すべての心の澱みなんてものは消えていってしまって、心が笑顔だけになるんだ。
追いかけてくる影も、目のまえのつま先から伸びる影も、実は素晴らしいものであることに気づかされる。
吹き荒れる嵐なんて、束の間のものだ。
心配するなよ。
そう言ってあげるよ。
実はね。その嵐はとても意味のあるものであって、噛み締めて大切にしないといけない。
ほとんどは、嵐が過ぎ去ってから、その嵐がとても尊いものであったと気づいてしまう。
それでは勿体ないんだ。
でも、それが人間の弱さだから仕方がないのだけれど、そんなときは優しく自分を許してあげようよ。そう。許してあげてね。
次に繋げよう。誰かにこのことを伝えてあげてもいい。
ビルの屋上から見上げた空の風景が、不意に頭のなかに思い浮かんだ。
こんなどうでもよい光景も含めて、意味のないものなんてない。
翼はいつもしなやかに自分の背にあって、その翼のことは誰にも気づかれなくてもいいんだ。
むしろ、隠しておいたっていい。
黙って、そっとその翼を広げよう。
大きく翼を広げて羽ばたくと、空が深い蒼に染まっていく。
寂しいような、なにかが欠けていた深い蒼かと思ったら、それは違うことに気がつくよ。
そのことに気がついたら、心の隙間がうまっていく。
そして、どこまでも飛んでいけるんだ。
心の翼は果てしなく自由だから。
急に降り注ぐ、ドシャ降りの夏のなかの急な雨。
その雨は肌に温かくって、素肌が喜んでいるのがわかる。
どこかの広場の隅っこで、世界に取り残されたように座り込んでいても、そこから永遠を感じるだろう。
移りゆく哀しいものにも意味があって、それが必ずよいものなのだと理解していくんだ。
それが、どれほどの哀しみであろうとも。
最後まで。最後まで。
最後まで生きていくこと。そうだよ。生きていくんだ。
遥かなる先のことなんて、それはそれとして、どうでも実はよくて、とにかく今日という尊い今を噛み締めるんだ。
きっとそれが大切なことなのだろう。
この瞬間を。
この瞬間をただ噛み締めて、少しでも楽しく生きてやるんだ。楽しんで生きるんだ。
ねぇ、そうしようよ。
少しばかり難しいかもしれないけれど、そんな気持ちでいたほうがきっとよいと思うんだよね。
人生は複雑だけれど、哀しいこともあるだろうけれど、でも、少しでもそんな感じで。ね。
夏の雨粒たちの綺麗で純粋で、人を喜ばせて、幸せにする、そんな夏の妖精たちが見えてくる。
彼ら、彼女らのその声に耳を傾けよう。
すると、頬が夏の色に染まっていくよ。
それは夏の幸せの色。
静かに心が穏やかになっていくのがわかる。
溜息さえも心地のよいものに変わっていくんだ。その呼吸のすべてが愛しい。
遠い時代の子供のころに戻るかのように、心を自由にさせよう。
空の下で優しいあのころと、あのころの自分と手を繋いで。
いつか見たとても落ち着いて、涼しくて、優しい気持ちになる不思議な夏の木陰に腰をおろそうか。
心がキュンとなる、瑞々しい夏草の香りに包まれながら。
いつの間にか、夏に咲く花の小さな花びらになって、この夏のなかで、この夏の風に身を任せて、その身を眩しい黄金の色の光で輝かせるのだ。
あなたも僕も。
その輝きは誰にも奪うことのできない、奪われることのないもの。
夏のなかで。
あの夏も、この夏も素晴らしい夏。
タチヨミ版はここまでとなります。
2024年7月20日 発行 初版
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巡り会えた皆様に、
幸せが訪れますように…。