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はじめに
これまでに記した口語俳句に関するエッセイを集めたエッセイ集です。
2018年から現在まで、口語俳句の作品をほぼ毎日つくり、そこから得た気づきや学び、様々な方法を文章にまとめブログを中心に投稿してきました。
その結果、多くの作品とともに
『口語俳句のつくりかた』
が自分の中でようやく構築できたように思います。
あくまで「自分なりの方法」ですが、口語俳句の作品づくりの現場で日々機能しています。
今回、エッセイ12編と口語俳句作品集150句、会話体句集100句を1つにまとめてシェアしたいと思います。
よろしければ楽しんでいってください。
*各エッセイについて「内容が重複した部分」が多くありますが、そのまま掲載致します
*ご共感いただけた部分がありましたら、作品づくりにご自由にご活用ください
*ご共感いただけない部分については、ご自身でのご探究をお進めください
*各エッセイに記した内容は、実際に口語俳句の作品をつくり、学んでいく過程で得たものです
*作品をつくるための予備知識などとして活かしていただければ幸いです
「俳句について」
〜文語俳句と口語俳句の特徴と現状〜2023年版
ブログ投稿日:2023年03月09日
俳句は現在、文語俳句と口語俳句の大きく2つの傾向にわかれているようです。
それぞれの特徴と現状について短くご紹介したいと思います。
それぞれの基本的な特徴と例句です。
◯文語俳句
・文語体(古い時代の文体)を基本にして詠む
・古典語を基本使用
・伝統的な切れ字 や・かな・けり 等
・575の定型・季語を活用
・歴史的仮名づかい
◇例句 5句
手にすくふ水やはらかき春ならん
水のなか水わき出づるいづみかな
風鈴売さびしきひとをあつめけり
揚がるたび秋高くなるとんびかな
水仙やあるともしれぬかぜのいろ
◯口語俳句
・口語体(現代語の文体)を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・現代的な切れ字 よ・か・ぞ 等(要検証)
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
・現代の話し言葉そのものの詠み方も可能
◇例句 5句
ちんもくよやがてしずかに春の滝
かもめとぶ沖にまで春およんだか
写生紙をはみ出してこそ富士は夏
月を見て三日こころのしずかさよ
山みちのあしあと凍りついていた
◯俳句における文語・口語の大まかな図
◇文語俳句ー文語体ー古典語ー古い時代の文体
◇口語俳句ー口語体ー現代語ー書き言葉
∟ーー話し言葉
◇仮名遣い 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い
例外はあると思いますが、分類するとすれば主にこうしたふうになるのではないかと思います。
特に口語俳句については、すぐに取り組みをはじめられる状況が以前より整ってきたことが見てとれます。
こうした分類が明確にできるようになってきたことは大切で、文語体・口語体の俳句が入りまじった現状を整理して見ることにも役立つのではないかと思います。
以前まで、俳句は「文語俳句が主流、口語俳句は傍流」といった捉え方が一般的でしたが、
現在では、文語俳句と口語俳句は大きな「2つの傾向」と認識されていることや、そのどちらを投句してもよいとする俳句結社の増加など、大変な進化・進歩に驚かされます。
ただ現状はまだ文語俳句のほうが圧倒的に詠まれていて、同時に口語俳句を詠むという俳人の方が大半のようです(2023年3月現在)。
この先、こうした傾向が加速していくと、
「文語俳句を主として詠む、文語俳人の方々」
ばかりでなく、
「口語俳句を主として詠む、口語俳人の方々」
もさらに増えていく可能性はありそうです。
そうした方々が増えれば、口語俳句の分野内でも「革新的」に詠む方々、「伝統的」に詠む方々など多様な取り組みが生まれ、多くの作品が出そろうといったこともあるかもしれません。
一方、文語俳句の分野内では、時代の流れとともに使いこなすことが難しくなってきた文語体を学び、教え、使うための取り組みがさらに活発になるといったこともあるかもしれません。
文語俳句・口語俳句の両方を主として詠む俳人の方もまた増えていくのだろうと思います。
終わりに、こうした使う言葉の大きく異なる2つの俳句を、無理に1つに合わせよう、まとめようと苦心するよりも、それぞれの特徴や特性を活かし尊重していくことで、
文語俳句・口語俳句の真価は、より発揮されやすくなるのではないかと個人的には感じています。
「俳句について」
〜文語俳句と口語俳句の特徴と現状〜2024年版
ブログ投稿日:2024年10月16日
はじめに
文語俳句と口語俳句の特徴と現状についてわかること、個人的に感じたことを簡単に記しました。
俳句の傾向
俳句は現在、文語俳句と口語俳句の大きく2つの傾向にわかれています。
文語俳句は、古典語を基本にしてつくる俳句、口語俳句は、現代語を基本にしてつくる俳句です。
そして口語俳句のほうは、さらに2つの傾向にわかれそうです。
現代語の書き言葉の流れをくんでつくる俳句、現代語の話し言葉の流れをくんでつくる俳句です。
まずそれらについて、下記に例句とともに簡単にまとめました。
俳句の3つの傾向
◯書き言葉系の俳句
◇古典語が基本の俳句
(文語俳句・伝統俳句)
・古い時代の文体を基本にして詠む
・古典語を基本使用
・伝統的な切れ字 や・かな・けり 等
・575の定型・季語を活用
・歴史的仮名づかい
流星やひと夜ふた夜とうつくしき
秋の鷹かぜにのりてはやすみけり
葉がくれのはなでありけり鳳仙花
ふとそらにみちびかるるや望の月
◇現代語が基本の俳句
(口語俳句・口語体俳句)
・現代語の文体を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・現代的な切れ字 よ・か・ぞ 等
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ
雪嶺がそらにうかんでいることよ
舞い舞ってときをこえるか里神楽
弾き初めようえへしたへと琴の爪
◯話し言葉系の俳句
◇現代語の話し言葉が基本の俳句
(口語俳句・会話体俳句)
・現代語の話し言葉そのものを基本にして詠む
・現代語を基本使用
・切れの語尾 ます・ね・さ等(要検証)
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
五重の塔鳩もすずめものどかです
また来いよそらいちめんを帰る雁
売れのこる新聞クリスマスですね
はつゆきに手とどきますか車椅子
◯俳句における
文語・口語の大まかな図
◇文語俳句ー文語体ー古典語ー古い時代の文体
◇口語俳句ー口語体ー現代語ー書き言葉
∟ーー話し言葉
例外はあると思いますが、主にこうした特徴が挙げられるのではないかと思います。
特に口語俳句については、以前より細かく分類が進んで、取り組みをはじめやすい状況が整ってきたことが見てとれます。
こうした分類が明確にできはじめたことは大切で、3つの傾向の俳句が入りまじった現状を整理して見ることにも役立つのではないかと思います。
以前までは、俳句は「文語俳句が主流、口語俳句は傍流」といった捉え方が一般的でしたが、
現在では、それらは主な「2つの俳句」として認知が広まってきていることや、そのどちらを投句してもよいとする俳句結社などの増加、
また口語句集や、口語俳句を含んだ句集を上梓される俳人の方も増加傾向にあるなど、その進化・進歩に驚かされます。
ただ現状は文語俳句が圧倒的に詠まれていて、口語俳句は様々な詠み方が盛んに試みられるなど進化、進歩、発展の途上にあるようです。
この先、こうした傾向が加速していくと、
「文語俳句を主として詠む、文語俳人の方々」
ばかりでなく、
「口語俳句を主として詠む、口語俳人の方々」
もさらに増えていく可能性はありそうです。
実際に口語俳句の分野内では、より「革新的」な詠み方をされる方々、より「伝統的」な詠み方をされる方々など多様な取り組みが生まれ、作品が以前より出そろってきているようにも見受けます。
一方、文語俳句の分野は、今後も古典文学や伝統文化への関心が強い方々によって支えられ、
伝統的な言葉、仮名遣い、歴史や文化などに根ざした詠み方や、現代的な感覚なども取り入れながら発展しつづけていく可能性はありそうです。
文語口語の両方の俳句を詠んで、句集などに収めていく俳人の方も今後さらに増えていくのかもしれません。
終わりに、前述した使う言葉の大きく異なる3つの傾向の俳句を、無理に1つに合わせよう、まとめようと苦心するよりも、それぞれの特徴や特性を活かし尊重していくことで、
文語俳句、口語俳句、会話体俳句の真価はより発揮されやすくなるのではないかと個人的には感じています。
ブログ投稿日:2022年10月05日
俳句で使う言葉には、文語体と口語体があるとされています。
※俳句では、日常話したり書いたりする現代語を口語、古い時代の言葉を文語と呼ぶ場合が多いです。
文語体で詠む文語俳句は、
「人といふちひさき春のゆく野かな」
のような『古い時代の文体』を用いた俳句になります。
伝統的な良さがありますが、現在ではもう長く日常的に使われていない文体ため、使い方をよく知らなかったり、誤った使われ方をすることも少なくないようです。
特徴としては「や、かな、けり、たる、たり、なる、なり、あり、をり、ぬ、べし、らむ、けむ、てふ、ゐて、ゐし」などの古語や、歴史的仮名遣いが基本として使用されています。
今回のお話しはここからですが、
はじめに、なぜ口語体で俳句を詠むのかについて主な理由を挙げると、
・俳句も言葉も時代とともに前進しているため
・現代を、現代の言葉で詠むため
・俳句表現の新しい可能性が広がるため
・現代以降の人々によく伝わる文体のため
などがありそうです。
口語体で詠む口語俳句は、一般的には、
「蛍の夜だれもさびしいひとでした」
のような「現代の話し言葉」を用いたものとされることが多いです。
しかし、俳句でいう口語体には実際のところ「現代の書き言葉」もふくまれるようです。
ですので、口語俳句とは「現代の話し言葉」「現代の書き言葉」をふくんだ、
『現代語の文体』を用いた俳句ということになりそうです。
「つかのまのへいわながらも花の宴」
「家建ててそれからながい春のゆめ」
「えんそくの子を海がよぶ山がよぶ」
口語体が『現代語の文体』をさすのであれば、それを基本にして「切れ字」とともに俳句を読むことも可能になります。
そうした俳句は、
「口語体」+「季語」+「切れ字」
といったものになりそうです。
例としては、
「平およぎ海をひらいてゆくことよ」 切れ字 よ
「一日をまっしろにしてしぐれるか」 切れ字 か
「八重桜世がながながとあかるいぞ」 切れ字 ぞ
「このほしもほしぞらのなか蛙鳴く」 体言切れ
などの詠み方になりますが、これの良い点は、口語俳句でも「切れ字」や「切れ」を使って「詠嘆」したり「間」を活かすことができることです。
切れ字については、「や・かな・けり」などの文語体の俳句の切れ字を、そのまま口語体の俳句の切れ字として使うにはムリがある場合もあります。
古来の切れ字は多くありますので、どの語ならひきつづき口語俳句で使い活かしていくことができるのか、
また口語俳句だからこそ使える新たな切れ字はないのかについて、1つ1つ検証していくことも大切になりそうです。
ここまで口語俳句の3つの詠み方をみてきました。
①「現代の話し言葉」そのものの口語俳句
②『現代語の文体』の口語俳句
③『現代語の文体』+「切れ字」の口語俳句
他にも詠み方はいくつかあるかもしれません。
口語俳句を詠む場合には、文語体がまじるなど純粋に口語体だけで詠むことが難しい場合もあります。
ですので口語俳句とは、
「口語体(現代語の文体)を基本にして詠む俳句」
ということになりそうです。
その逆に、文語俳句とは、
「文語体(古い時代の文体)を基本にして詠む俳句」
ということになるのかもしれません。
仮名づかいについては、現在一般的に使われている「現代仮名遣い」を使うことで、より口語体が活きてくるように思います。
ムリに「歴史的仮名遣い」にする理由はないように感じます。
俳句で使う言葉を口語体にすることで、詠むものごとが豊富になるのかどうかという問題もあります。
口語俳句で何が新鮮に詠めるようになるのか、何が詠みやすくなって、何が詠みにくくなるのかを見さだめていくことも必要になりそうです。
また口語体で詠むと表現・内容が稚拙になるという指摘もありますが、文語体でも稚拙になることはありますので、それについては詠む人次第ということができそうです。
◯口語俳句の基本的な特徴
・口語体(現代語の文体)を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・現代的な切れ字 よ・か・ぞ 等 (要検証)
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
・現代の話し言葉そのものの詠み方も可能
◯文語俳句の基本的な特徴
・文語体(古い時代の文体)を基本にして詠む
・古典語を基本使用
・伝統的な切れ字 や・かな・けり 等
・575の定型・季語を活用
・歴史的仮名づかい
例外もあると思いますが、主にこうした特徴が挙げられそうです。
ここからは、まとめになりますが、
文語俳句と口語俳句は結局なにが違うのかというと「基本使用する言葉が違う」ということのようです。
文語俳句:文語体(古い時代の文体) が基本
口語俳句:口語体(現代語の文体) が基本
という違いです。
それ以外は俳句として大きく違いませんし、ムリにまったく違うものにしていく必要はないのかもしれません。
口語俳句として、俳句の基本である「575のリズム」「四季折々の季語」「切れ字」をはじめ、切れ、間、格調、機知、余情などを大きく失うことなく詠んでいくことは可能です。
むしろそれらを必要以上に崩しつづけていくと、口語俳句が、俳句とは別の何かになっていく恐れが出てきます。
それは、今日までの俳句の歴史でいえば「自由律化」や「無季化」、一行の「散文化」といったことです。
俳句の重要な基本や型、決まりごとを基本的に引きつぎ土台としながら、新しい俳句表現の可能性を探っていくことでそれは避けられるのではないかとも思います。
口語俳句もまた「俳句」ですので、できることなら文語俳句に肩を並べるほどの「俳句」になっていくことが一方で必要なのかもしれないとも感じました。
ブログ投稿日:2024年5月17日
口語俳句の解説です。
できるだけ簡潔にわかりやすく記しました。
まずはじめに、口語俳句の「口語」とはなにかという疑問をもたれる方は多いと思います。
下記は俳句における
文語・口語の大まかな図です。
◇文語俳句ー文語ー古典語ー古い時代の文体
◇口語俳句ー口語体ー現代語ー書き言葉
∟ーー話し言葉
◇仮名づかい 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い
より詳しく細かいことは、書籍等でしらべてみてください。
次に、現代の言葉でどう俳句をつくるのかを見ていきます。
俳句をつくるためにはその基礎として、
「575の型」「季語」「切れ字」
の三つがそろうことが必要です。
575の型、季語はこれまで俳句で使われていたものをほぼそのまま引き継げます。
ただ切れ字については「や、かな、けり」などあきらかに古典語の切れ字について、そのまま引き継ぐことはむずかしそうです。
ですので現代的な切れ字をあらたに探る必要があります。
下記は口語俳句で使う
現代的な切れ字の候補です。
「現代切れ字 十八字(推奨)」
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ
*詳しくはこのエッセイ集の「エッセイ⑥」「エッセイ⑦」をご覧ください
上記の切れ字を使うことで口語俳句では、
『現代語・現代仮名遣い・現代的切れ字』
の言葉を基本にして俳句をつくることができるようになります。
ちなみに文語俳句の場合はどうかというと、
『古典語・歴史的仮名遣い・古典的切れ字』
の言葉を基本にして俳句をつくります。
それぞれ基本にする言葉が違うだけで、「575の型」「季語」「切れ字」の俳句の基礎はほぼ同じです。
また口語俳句ではもう一つのつくり方として、現代の「話し言葉」そのものを使う方法もあるようです。
「575の型」「季語」
さらに「切れ」までを活かして、ふだん話すような言葉でよりかろやかに作品をつくることができます
文語・口語俳句の主な特徴と参考句です。
◯書き言葉系の俳句
◇文語俳句
・古い時代の文体を基本にして詠む
・古典語を基本使用
・伝統的な切れ字 や・かな・けり 等
・575の定型・季語を活用
・歴史的仮名づかい
流星やひと夜ふた夜とうつくしき
秋の鷹かぜにのりてはやすみけり
葉がくれのはなでありけり鳳仙花
千々にとぶ一かたまりの帰燕かな
ふとそらにみちびかるるや望の月
◇口語俳句
・現代語の文体を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・現代的な切れ字 よ・か・ぞ 等
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ
雪嶺がそらにうかんでいることよ
舞い舞ってときをこえるか里神楽
弾き初めようえへしたへと琴の爪
凍て鶴に星がまたたきはじめたか
◯話し言葉系の俳句
◇口語俳句
・現代の話し言葉を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・切れの語尾 です・ね・さ 等
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
五重の塔鳩もすずめものどかです
来る傘はあなたでしたか春しぐれ
また来いよそらいちめんを帰る雁
売れのこる新聞クリスマスですね
はつゆきに手とどきますか車椅子
例外もあると思いますが主にこうした特徴が挙げられそうです。
次に、口語俳句では、
記号、句読点、カタカナ
外国文字、アラビア数字、分ち書き
なども活かして作品をつくることができるようです。
それらを使うことによって口語俳句の作品の表現の幅はひろがりそうです。
必要な場合にのみ使うことでその威力はさらに増すと思います。
下記は参考句です。
▽記号
旗たててニ文字はためく〖 椿餅 〗
▽句読点
スキーヤー銀嶺の風、風、風、風
▽カタカナ
ジャムナイフパンに撫でつけ春暁
▽外国文字
BARという文字灯りによ春の雪
▽アラビア数字
はば跳びよ8メートルのさきに春
▽分ち書き
初しののめ 初明り いま初日の出
*詳しくはこのエッセイ集の「エッセイ⑧」をご覧ください
次に、俳句は「俳句理念」という基本方針に基づいてつくられることが多いです。
どのような「考え方、美意識、心の境地」を基本にするのかということです。
はじめはむずかしく感じられるため、歴史上有名な「写生」「花鳥諷詠」などをご活用されると、
しだいに俳句理念やそれに基づいた作品のつくり方が掴めるのではないかと思います。
*詳しくはこのエッセイ集の
『エッセイ⑩』『エッセイ⑪』をご覧ください
次に、口語俳句は現代語を基本にしているため、文語俳句にくらべて、言葉の問題でつまづくことは少ないのではないかと思います。
ふだん書いたり話したりする言葉で、内容や表現の工夫に集中して作品をつくることができます。
大まかな部分はすでに記しましたので、細かい部分についてはご自身で実際に作品をつくりながらご体験してみてください。
それがより楽しい口語俳句のつくり方、取り組み方の一つではないかと思います。
『口語俳句作品集 〜150句〜』
『会話体句集 〜100句〜』を
巻末に収めてありますのでご覧ください。
次に、作品ができたらそれを読者の方々に読んでもらえます。
口語俳句は一般読者の方々にも作品の内容が伝わりやすく、より楽しんでもらえます。
ブログやSNS、俳句投稿サイトなどに投稿して社会にむけた外向きの活動を行うこともできます。
ただ口語俳句の作品を、各俳句大会、各俳句賞、各俳句投稿欄などにご投句される場合は、大きなチャレンジになることが多そうです。
現状では、
・文語俳句が圧倒的に支持されていること
・口語俳句を主としてつくっている俳句選者、俳句指導者の方はまだ少数なこと
などもご考慮の上、行ってみてください。
ここまで口語俳句の基礎基本、つくり方について簡単に見てきました。
口語俳句でも俳句の基礎である「575の型」「季語」「切れ字」をはじめ、
格調、切れ、間、機知、余情、深み、重厚さなどを大きく失うことなく詠んでいくことは可能です。
またつくり方の「基本」が定まることで、はじめて「応用」がきくようになるのではないかとも思います。
俳句においても伝統を守り受けついでいくことは重要なことの一つだと思います。
俳句の口語化(現代語化)とは、俳句の基礎・基本など「大事な部分」はしっかりと守り受けつぎながら、今の時代に即さなくなった特に古典語などの「古い部分」だけを「新しいもの」へと動かしていく試みだと個人的には受けとめています。
一部の方々が危惧されているような、むやみに「俳句を破壊する活動」とは本来まったく違うことをご理解いただけるのではないかと思います。
最後に、いま現在口語俳句をつくっている俳人の方は増加傾向にあるようですが、大変少ないようです。(2024年10月現在)
人数が少ないということは、俳句活動をしていくうえで不利な場面、状況にでくわすことも多いです。
ただ反面、競争相手が少なく、新鮮な作品の数々やその先駆者としての立場に恵まれる可能性があることもまた事実だと思います。
口語俳句にご興味のある方、ご興味をもたれた方がおられましたら、楽しむことからぜひはじめてみてください。
ブログ投稿日:2019年10月7日
現代語の俳句と古語の俳句をならべて
読みくらべてみようという記事です。
楽しんでいただけたら幸いです。
春夏秋冬・新年の句を
それぞれならべてくらべていきます。
古語俳句は
古語・歴史的仮名づかい・古典的切れ字を
基本にして、
現代語俳句は
現代語・現代仮名づかい・現代的切れ字を
基本にして、
それぞれ詠んでいます。
読みくらべ
~古語俳句と現代語俳句~
◇ 春の句 ◇
「梅の花」
古語俳句
いちりんの梅匂ひたつ日なたかな
現代語俳句
にっぽんのかおりの梅の花ひらく
「春」
古語俳句
人といふちひさき春のゆく野かな
現代語俳句
伊勢神宮おおきな春の日だまりに
「花見」
古語俳句
ほほ笑んで花となりたる花見かな
現代語俳句
花見してはるばると時こえゆくか
「花ふぶき」
古語俳句
そのなかに人うつくしき花ふぶき
現代語俳句
どの人も花とふぶいていることよ
◇ 夏の句 ◇
「風鈴」
古語俳句
散りふぶくごとく風鈴鳴りにけり
現代語俳句
おおぞらをとおくきよめて風鈴よ
「街」
古語俳句
噴水やまだ見ぬひとを待つこころ
現代語俳句
一人一人孤独でアイスコーヒーで
「香り」
古語俳句
手にとりし人にもつとも薔薇匂ふ
現代語俳句
そのなかに揺れるみらいよ香水瓶
「昼」
古語俳句
むぎわら帽子珊瑚の島を愛しけり
現代語俳句
寝ころんでうちゅうに一人夏座敷
◇ 秋の句 ◇
「桐一葉」
古語俳句
こころへと落ちてくるなり桐一葉
現代語俳句
バス発って落ちてきたのは桐一葉
「月」
古語俳句
花鳥風月こよひは月をあふぎけり
現代語俳句
たかだかとこころがのぼる名月よ
「虫」
古語俳句
すず虫のはるかなこゑやかごの中
現代語俳句
にわにすむこおろぎも子々孫々と
「しみじみと」
古語俳句
十月が身にしみてくる湯ぶねかな
現代語俳句
生きること死ぬこと天の河のした
◇ 冬の句 ◇
「雪」
古語俳句
結晶のおもたさのゆきふりにけり
現代語俳句
あおぎみるひとりひとりが雪の花
「あたたかさ」
古語俳句
入りてより時のとまりし炬燵かな
現代語俳句
母というひかりがそこに日向ぼこ
「火」
古語俳句
くべくべてすべて忘るる焚火かな
現代語俳句
一日がぼっとはじまるストーブよ
「くじら」
古語俳句
大いなる海のちひさきくぢらかな
現代語俳句
くじらゆくはてない海の淋しさよ
「寒」
古語俳句
大寒と言ふだけのことありにけり
現代語俳句
寒がらす人の世もっとさびしいぞ
◇ 新年の句 ◇
「雑煮」
古語俳句
年ねんにかぞくふえゆく雑煮かな
現代語俳句
一人住むひとりながらも雑煮の香
「正月」
古語俳句
正月凧ひつぱるたびに揚がりけり
現代語俳句
てっぺんに富士あるそらよ正月凧
現代語俳句と古語俳句、
それぞれ優れた点、そうでない点があると思います。
古語俳句では、「や・かな・けり」の伝統的な切れ字の威力をぞんぶんに活かすことができます。それが強みの一つです。
ですが、古語をベースにしているため、古語・歴史的仮名づかいを使う必要があります。それが読みづらさ・伝わりづらさを読者の方に感じさせることになり、弱みになっています。
現代語俳句では、「よ・か・ぞ」など現代の語としても通用する切れ字を使いますが、これらはあまりなじみがなく、切れ字としてまだ成熟していません。それが弱みの一つです。
ですが、現代語をベースにしているため、現代語・現代仮名づかいが使えます。その読みやすさ・伝わりやすさは、強みとして活かしていくことができます。
一長一短ありますが、
どちらにご興味を持たれたでしょうか。
言葉は時代とともに変わっていくものです。
それは進化でもあり、退化でもありますがとめようがありません。
たとえば平安時代の言葉で文章を書いている作家の方は、現代ではおそらくいないと思います。
現代の俳人の方々が言葉の変化・移り変わりにこの先どう対処されていくのか、見つめつづけていたいと思っています。
ブログ投稿日:2023年10月2日
口語俳句とは、口語体で詠む俳句のことです。
まず下記は、
俳句における文語・口語の大まかな図です。
◇文語俳句ー文語体ー古典語ー古い時代の文体
◇口語俳句ー口語体ー現代語ー書き言葉
∟ーー話し言葉
◇仮名遣い 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い
より詳しく細かいことは、書籍等でしらべてみてください。
口語俳句には現在大きく2つの詠み方があるようです。
現代語の「話し言葉」への流れをくんで、ふだんしゃべるような言葉で、より革新的に詠んでいく方法、
現代語の「書き言葉」への流れをくんで、「575」「季語」「切れ字」までを活かして、より伝統的に詠んでいく方法、
双方がそれぞれに口語体の俳句を探究していくことができるようになっています。
ふだんしゃべるような言葉で詠む口語俳句はすでに多くの方が取り組んでいて、この先も詠む方は増えつづけるのではないかと思います。
ですので、ここでは割愛させていただきます。
しゃべるような言葉で詠まれた作品が印象的な句集は少なからず出版されていて、ネットなどでも調べることができます。
ここからは、現代語の文体を基本に「575」「季語」「切れ字」までを活かして詠む口語俳句について記したいと思います。
まずそれに取りくむ意義は何かというと、現在の(文語)俳句の基本・詠み方などを可能なかぎり引き継いでおくことで、口語俳句でもより確実に作品をうみだしていけること、
またこの先、俳句を口語体で詠むことが主流になった場合でもその伝統などを未来につなぎ、のこし、活かしていくことができることです。
もし口語俳句がふだんしゃべるような言葉・型式でしか詠めない俳句になってしまえば、それはもう不可能になってしまいます。
では現在、口語俳句が「俳句」としてどの程度まで詠めるようになっているのかですが、
これまで長く文語俳句を詠んでこられた方が試しに口語俳句を詠んでみようとされるとき、俳句の基本である「575」「季語」「切れ字」をすべて活かして詠む方法がまだ確立されていない事実に突き当たると思います。
特に「切れ字」がたしかに定まっていないことが口語俳句の「切れ」を甘くしていて、
そのために1句に「間」「余韻」「深み」「重厚さ」「格調」などを充分に持たせることが出来ず、また句の「型」の種類を限定的なものにもしています。
ベテラン俳人の方であれば、すぐにそれにお気づきになるのではないかと思います。
数句ならよいのですが50句100句をならべる、もしくは句集にまとめることになったとき、そうした平たい単調さがより浮き彫りになってしまうように感じます。
この問題への対処法としていま応急処置的に行われているのが、
文語俳句で現在使われている「や」「かな」「けり」などの切れ字を、口語俳句の作品群のなかでもそのまま使用するといった方法です。
句はよくないですが、
「メッセージ飛ばすや窓におぼろ月」
「コーヒーのカップの中も朧かな」
「大ガラス窓に初雪ふりにけり」
などの作品をぽつぽつと混ぜこむのですが、現代的な句の内容・言葉と古典的な切れ字が全体的にかみ合わないことが多いようです。
こうした方法をこの先も継続していけるのかどうかについて現状では何ともいえないようです。
ただ、特に「や」「かな」「けり」は現代語として現在一般的に使用されておらず、古典語の部類に入る語です。
そうしたあきらかに古典的な切れ字について、記号的な切れ字として使いつづけていくことができるのかどうか、検証は必要になりそうです。
この問題へのもう1つの対処法として、これから先取り組んでいけそうなのが、
口語俳句で使用することができる現代的な切れ字を1つ1つあらたに定めていくといった方法です。
そうした切れ字候補の語は、古来の俳句の切れ字のなかにもすでにいくつかありそうです。
よ・か・ぞ・に・せ・ず・れ・け・は・こそ
などは、現代語としても現在一般的に使用されつづけていて、口語俳句の切れ字となっていく可能性がある語です。
「流星群ゆびさしてよりつぎつぎよ」
「駅の空とんぼばかりのゆうぐれか」
「観潮船うずのあたりがあかるいぞ」
「そうぞうがそのまま都市に春の月」
「町じゅうがすがたあらわせ祇園祭」
などの使い方です。
そもそも切れ字とは何なのかについて辞書を調べてみると、
『俳句の句中、句末で使う。句を特別に言い切る働きをする語。終助詞、用言の終止形、命令形などに多い。』
といった意味のことが書かれてあります。
つまり現代語の終助詞、用言の終止形・命令形などに上記のような働きをするものがあれば、それらもまた切れ字候補の語であり、
口語俳句の切れ字となっていく可能性があるということになるのではないかと思います。
今後、切れ字が実作とともに1つ1つ定まっていくたびに口語俳句の俳句としての基本はより整っていくのではないかとも思います。
またもう1つ、季語についての問題もいくつかのこっています。
歳時記などをよく読むと、文語体であらわされている季語が少なくないことに気がつきます。
「春深し」「暑し」「秋高し」「寒し」などですが、
「春寒く」「暑さ」「秋高く」「寒さ」などに置きかえることができるのかなど、
口語体の俳句でどう使用して詠んでいくのかについても実作と検証をかさねていく必要はありそうです。
こうした問題を解決して、口語俳句が将来的に「575」「季語」「切れ字」などの俳句の基本を本格的に有したとき、
文語俳句やその伝統を直に引き継ぐ次世代の俳句にもなり得るのではないかと、個人的には感じています。
さいごに、言葉の移り変わりとともに口語体の俳句を詠んだり、取り組んだりする方々は今後もすこしずつ増加していくのではないかと思います。
これから口語俳句に取り組まれる方は、
ふだんしゃべるような言葉で、より革新的に詠んでいきたいのか
「575」「季語」「切れ字」までを活かして、より伝統的に詠んでいきたいのか
もしくは、その両方をバランスよく取りこんで詠んでいきたいのか
といったことについても一度考えてみられる必要があるのではないかとも感じました。
「古来の切れ字18字・切れ字22字」
切れ字 十八字
鎌倉~室町時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・に・へ・せ・
ず・れ・け・ぬ・つ・し・じ・らむ・もがな
切れ字 ニ十ニ字
安土桃山時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・は・こそ・
し・ぬ・じ・む・を・さぞ・いさ・いつ・
いく・いかで・いづれ・もなし・もがな・げぢ
等々
ブログ投稿日:2019年10月10日
現代の言葉で俳句を詠みたいときに
使える切れ字をまとめてみました。
◇現代切れ字 十八字(推奨)
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ
次のことを重視して集めました。
①現代の言葉で俳句を詠むときに使えること
②現代の語として一般に通用すること
③切れ字として現代で機能すること
次のように使えます。
「遠くからながめる富士の涼しさよ」
「ひきがえるどっしり命そのものか」
「寒がらす人の世もっとさびしいぞ」
「切れ字」とは、俳句の中で区切りをつけるためにつかわれる字や言葉のことです。
区切りをつけることによって、1句に間が生まれ、大きな余韻が生まれます。
俳句で使われる切れ字でよく知られているのは「や」「かな」「けり」の3つだと思います。
「水仙やあるともしれぬかぜのいろ」
「年ねんにかぞくふえゆく雑煮かな」
「正月凧ひつぱるたびに揚がりけり」
うまく使うことができれば、余韻が深い俳句を、格調高く詠みあげることもできます。
ですが、あたらしく俳句をはじめる方々は、これらの切れ字を使うことに最初は強い抵抗があるようです。
それは何が原因かというと、やはり「言葉の古さ」ではないかと思います。
や・かな・けりは、現代の一般の人々にとっては、古典のなかで使われている言葉でしかありません。
現代の俳人の方の多くは、古典的作品をいまでも熱心につくりつづけているという見方もできそうです。
現代語で俳句を詠む俳人の方もいらっしゃいますが、切れ字をあまり使わない方がほとんどのように感じていました。
現代でも違和感なく使える切れ字(推奨)を
今回まとめてみました。
さいごに「切れ字」についてもう少し。
や・かな・けりの三大切れ字のほかにも、切れ字はたくさんあります。
遠く和歌の時代から使われていて、連歌・俳諧・俳句でも使われるようになったそうです。
代表的な切れ字は、時代にあわせてすこしずつ増やされながら現代に至っているようです。
◇切れ字 十八字
鎌倉~室町時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・に・へ・せ・
ず・れ・け・ぬ・つ・し・じ・らむ・もがな
◇切れ字 二十二字
安土桃山時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・こそ・ぬ・し・
じ・む・を・は(ば)・さぞ・いさ・いつ・
いかで・いづれ・いく・もなし・もがな・げぢ
等々
松尾芭蕉は、「使うときは、いろは四十八字すべてが切れ字」という究極の言葉をのこしています。
ここまでご覧いただき
ありがとうございました。
*これらの切れ字についてはひとつひとつ十分な使用と検証が行われる必要があります
ブログ投稿日:2023年9月17日
現代語俳句を詠むときに使うことができる「切れ字候補」の語を18字集めてみました。
それぞれの大まかな使い方・説明・参考句を下記に短くまとめました。ご参考になれば幸いです。
詠む型のバリエーションを増やすためなどにもご活用ください。
▽現代語俳句の「切れ字候補」▽
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ
次のような悩みがある方は、試しにいちどご使用になってみてください。
・現代語の俳句でも切れ字・切れを活かしたい
・切れ字がないとどれも似た句型になってしまう
・や・かな・けりの切れ字を使うことに抵抗がある
など。
現代語俳句の「切れ字候補」
〜使い方・説明・参考句〜
◯俳句の切れ字【よ】
切れ字【よ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも終助詞・間投助詞などとして一般に広く用いられている語です。切れ字として、呼びかけ・肯定・強調・断定・詠嘆をふくませて幅広く使うことができそうです。
◇参考句◇
上五切れ
船旅よみなとみなとのはるかもめ
えどがわよぱらぱらしだれ大花火
再会よだまっていてもほしづき夜
中七切れ
無になってながめる花よ花のなか
空ほどにひろがる海よヨットの帆
明けるまで銀河の島よなみのおと
下五切れ
新幹線富士過ぎてゆくすずしさよ
さまざまななやみのこたえ朝顔よ
秋風鈴かぜになりつつあることよ
ヘッドフォン雪舞う空の静かさよ
◯俳句の切れ字【か】
切れ字【か】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも疑問・反語・命令・感動などをあらわす語として一般に広く用いられています。語気がつよく、疑問・肯定・断定の3つを同時にまた複雑にふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
上五切れ
若草か野はらから立ちあがるひと
たがやすか夕日のなかに影ひとつ
中七切れ
ふんえんのあれが浅間か朝ざくら
かげ落とし牛はあゆむか花すみれ
踏切りのおともしずかか秋のくれ
下五切れ
コンビニの一灯ふゆにまむかうか
この星をあたたかくするしら息か
冬かもめ花咲くように飛び立つか
いにしえの奈良のみやこの鐘か春
◯俳句の切れ字【ぞ】
どっしりとなるようになる年末ぞ
寒がらす人の世もっとさびしいぞ
切れ字【ぞ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。上記の2句ように2通りの使い方がありそうです。1つは特に名詞などに添えて強調・断定する使い方。もう1つは特に動詞などに添えて肯定・断定する使い方。より現代的なのは後者の方になりそうです。
◇参考句◇
上五切れ
とうといぞそだった家の花ふぶき
中七切れ
子どもらもだまってないぞ百千鳥
紫陽花に雨はげしいぞコーヒー店
部屋猫にまどあかるいぞふゆの月
下五切れ
八重桜世がながながとあかるいぞ
わらわらと五百羅漢がかげろうぞ
寒がらす人の世もっとさびしいぞ
◯俳句の切れ字候補【と】
切れ字候補【と】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。「切れ字」とは句を切る、終止の働きをする助詞・ 助動詞などの語のこと。強調・省略・詠嘆などのために使われます。【と】で留める、切る使い方は現代語で一般に広く用いられています。
◇参考句◇
生きてゆくふる里じゅうの春灯と
月あかりあすには道後去りゆくと
盆用意かぞくいつかはあつまると
にわにすむこおろぎも子々孫々と
◯俳句の切れ字【に】
切れ字【に】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。本来は「いかに」だそうです。現代語では「〜ならよいのに」「そこをまっすぐに」「すこししずかに」など軽く切る使い方もされています。切れが甘くなりがちで、どう使えばより明確に切れるのか実作と検証は必要になりそうです。
◇参考句◇
中七切れ
そうぞうがそのまま都市に春の月
神だなはいつも頭じょうに豊の秋
じぶんへのいのりしずかに星月夜
下五切れ
伊勢神宮おおきな春の日だまりに
自動運転木の芽の道をまっすぐに
海女ひとりふたり歴史の波の間に
◯俳句の切れ字【へ】
切れ字【へ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。過去には動詞の命令形語尾として用いられていたようです。現代ではもう1つの用い方の、動作の方向・場所などを表す助詞として強調・断定をふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
中七切れ
擦る墨はすずりのうみへ雪降る夜
電線は路地から路地へあきのくれ
露踏んで西へひがしへじんるい史
下五切れ
群燕おおさかへまたとうきょうへ
アイスコーヒー氷残してまた街へ
パスポートひとりのこらず初空へ
◯俳句の切れ字【せ】
切れ字【せ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも動詞の命令形語尾として「飛ばせ」「話せ」「出せ」など一般に広く用いられています。命令のほか強調・断定をふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
中七切れ
町じゅうがすがたあらわせ祇園祭
滑走路そらへとともせほしづき夜
下五切れ
応援団長天よりたかいこえをだせ
すすきはら夕空じゅうに絮飛ばせ
餅つきの臼出せ杵出せちから出せ
◯俳句の切れ字候補【で】
切れ字候補【で】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「もっとよく噛んで」「またあとで」「では東京で」など言い切って断定する使い方もされています。断定のほかに強調・省略・詠嘆をふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
たんぽぽ吹く表も裏もある路地で
虫のこえ星ぞらほどににぎやかで
盆踊りいまの世でまたのちの世で
平和デモ路じょうに残る雪踏んで
◯俳句の切れ字候補【まで】
切れ字候補【まで】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「言ってみたまで」「読みきるまで」「時間まで」など言い切って断定する使い方もされています。断定のほかに強調・省略・詠嘆をふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
中七切れ
この国の平和いつまでなつのうみ
渓流のおと夢にまでキャンプの夜
下五切れ
東京タワー灯が朝焼にかわるまで
秋夕焼町じゅうに灯がともるまで
水澄むということとおい湖国まで
◯俳句の切れ字【ず】
切れ字【ず】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。厳密には古語のあつかいですが、現代でも一般に広く用いられていて、詠む場合にも違和感なく使えます。打ち消しの切れ字として強調・断定をふくませて引きつづき使うことができそうです。
◇参考句◇
中七切れ
アフリカ象アフリカ知らず春の雪
来る河のながれは絶えず鮎がとぶ
なにおもうなにもおもわず大夕焼
下五切れ
花虻につねにいちりん揺れやまず
登山杖いっ歩いっ歩をはやまらず
あきの雲旅はなににもこだわらず
◯俳句の切れ字【れ】
切れ字【れ】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。元は係り結びの「こそ〜なれ」、命令形の「〜ことなかれ」などの使われ方です。現代では動詞の命令形の語尾として「去れ」「光れ」「〜になれ」などと使うことができそうです。
◇参考句◇
上五切れ
風になれひとりでに飛ぶ草のわた
中七切れ
くるくると西瓜ころがれ水のうえ
あるだけの星を見て去れスキー場
下五切れ
花すみれ雲ぐんぐんととおくなれ
よさこいの踊子としてひるがえれ
大根煮湯気はふはふとあたたまれ
けさの雪ひとひらずつが幸になれ
◯俳句の切れ字【け】
切れ字【け】は、古来の俳句の「切れ字18字」の1つです。現代でも動詞の命令形の語尾として強調・断定に使えそうです。「行け」「聞け」「向け」や「つらぬけ」「たたけ」「つまびけ」、また「〜ておけ」など、様々な使い方がありそうです。
◇参考句◇
上五切れ
乗ってゆけ乗ったくるまの隙間風
沖をむけ風にふくらむヨットの帆
中七切れ
ストーブに手かざしてゆけ北の駅
ねむらせておけねこの子と浅間山
水のうえにころがしておけ大西瓜
◯俳句の切れ字候補【た】
切れ字候補【た】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「来た」「見た」「聞いた」などの動作の完了をはじめとして幅広く用いられています。断定・強調とともに詠嘆もわずかにふくませて使うことができそうです。
◇参考句◇
山みちのあしあと凍りついていた
旅の能登はじめての雪降ってきた
花見して平和をしんじきっていた
◯俳句の切れ字候補【が】
切れ字候補【が】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「〜ならいいが」「〜のはずだが」「あいつめが」など終助詞としても一般に広く用いられています。句末において断定・強調に使うことができそうです。
◇参考句◇
世をつつむ春夕焼けのあんしんが
ハンモックわかる地球の大きさが
とおくなる街をわたってゆく鳥が
ひややかに満ちゆく明けの明星が
◯俳句の切れ字候補【て】
切れ字候補【て】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では文末にあって断定をしたり、ずばりと言い切る使い方もされています。強調・断定・省略をするかたちで使うことができそうです。
◇参考句◇
嶺に雪死ぬも生きるも身をもって
寒つばき島とひとつに日あたって
だれも行くマスクの白を盾として
銀天街灯のすずしさのきわまって
◯俳句の切れ字【は(ば)】
切れ字【は】は、古来の俳句の「切れ字22字」の1つです。古文でも文末にあって詠嘆をあらわす使い方はあったようです。「〜ありけるは」「〜とは」など。文末などで詠嘆をあらわす語として現代でも活かしていくことはできそうです。
◇参考句◇
夜明け空咳がこんなにひびくとは
大夕焼け西果てしなく染めるとは
わたり鳥眺めるところふるさとは
さるすべり馬鹿にせず花赤ければ
◯俳句の切れ字候補【な】
切れ字候補【な】は、現代語俳句のために取りいれてみた語です。現代語では「〜するな」「うれしいな」「〜だな」「〜しなさいな」など終助詞・間投助詞などとして一般に広く用いられています。強調・命令・詠嘆をするかたちで使うことができそうです。
◇参考句◇
上五切れ
灯向けるなりりりりりりと虫の闇
中七切れ
あおぐ空何も変わるなしゃぼん玉
さきをゆく雲遠のくなすすきはら
下五切れ
今年酒酔えばこんなにあたたかな
那智の滝夜も白じろと見えそうな
遍路杖じぶんじしんにおくれるな
◯俳句の切れ字【こそ】
切れ字【こそ】は、古来の俳句の「切れ字22字」の1つです。元は係り結びの係りとして「こそ〜なれ」、強調の意を表す「〜こそ」などと使われていたようです。現代では後者の使い方で強調・断定ができそうです。
◇参考句◇
上五切れ
生きてこそかずかぎりない冬の星
中七切れ
写生紙をはみ出してこそ富士は夏
都市たかく灯ともってこそ流星群
下五切れ
スカイツリーふぶく桜の上にこそ
腹わたにとどろく滝であってこそ
白菊がまっしろに咲く日なたこそ
いちりんの冬のすみれの一途こそ
全編、短くわかりやすくを重視してまとめました。
これらの他にも現代語の俳句の「切れ字候補」となる語は少なからずあるのではないかと思います。
それぞれの語について、より細かいこと・詳しいことは、今ではネット辞書などでも調べられますのでご興味のある方はそちらもご覧になってみてください。
今回書いたり調べたりして感じたことは、文法は必ずしも絶対ではないということです。
文法は基本であり、それを土台として言葉は時代とともに生き生きと変化しつづけていくもののようです。
そうした変化が、後に文法にあらたに書き加えられるということも多々あったようです。
さいごに、古来の和歌や連歌・俳諧の切れ字が実作とともに長い年月をかけて1つ1つ生まれ、定まり、変化してきたことを思えば、
現在の現代語の俳句の切れ字もまたこれから長い年月をかけて1つ1つ生まれ、定まっていく可能性もあるのではないかと、おぼろげながら感じました。
「古来の切れ字18字・切れ字22字」
切れ字 十八字
鎌倉~室町時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・に・へ・せ・
ず・れ・け・ぬ・つ・し・じ・らむ・もがな
切れ字 ニ十ニ字
安土桃山時代
や・かな・けり・よ・か・ぞ・は・こそ・
し・ぬ・じ・む・を・さぞ・いさ・いつ・
いく・いかで・いづれ・もなし・もがな・げぢ
等々
*これらの切れ字候補の語についてはひとつひとつ十分な使用と検証が行われる必要があります
ブログ投稿日:2023年12月12日
◇口語俳句◇
〜記号などを使った句〜
たくさんの顔、たくさんの花、吹雪
春ぞらの雪 (ふりながらきえるのが)
目にうかぶ「平成」「昭和」朧月
旗たててニ文字はためく〖椿餅〗
もぎられるチケット、春季美術展
AIの句にもこころよぼたんの芽
6階よどこからとなくしゃぼん玉
『隠者』出てタロットカード朧月
日陰るか…日当るか…寝て野に遊ぶ
たんぽぽに空──老人に揺り椅子よ
『いつかまた』あれから今も咲く桜
うぐいすのこえ 谷中に響くこえ
BARという文字灯りによ春の雪
1号艇以下みななつのなみしぶき
前半身海光のなか──白日傘
初しののめ 初明り いま初日の出
初鳩か──あおぐ人らは空のした
я все ще живий葉書にも冬日さす
握る「爪」までありありと龍の玉
マンションのB棟ほのと冬夕映え
スキーヤー銀嶺の風、風、風、風
航海よ──夕映えの空──冬銀河
いちりんよちいさい名札【寒紅梅】
はば跳びよ8メートルのさきに春
口語俳句では、記号、句読点、カタカナ、外国文字、アラビア数字、分かち書きなどを織りまぜて詠むことも違和感少なく行えるようです。
すでにそうした詠み方や取り組みをされている方々も少なからずおられて勉強や参考になります。
個人的に詠んでみて、とても難しかったです。
ここぞというとき、またどうしても必要な場合に限ってですが、こうした記号などを使用することも今後試してみたいと思います。
俳句で大事なのは1句の内容ですが、さまざまな詠み方が試みられることも大切なことだと感じました。
俳句で記号などを用いる場合、ただ感覚的にあいまいに用いるばかりでなく、その1つ1つに意味を持たせて使用することも必要なことかもしれません。
下記はそうした意味づけの一例です。
◇この記事の俳句作品で使用した記号等の意味
、 文・語の間を明確に一拍置きたい場合
・ 文・語の間をより明確に一拍置きたい場合
。 文・語の間を一拍置いて区切りたい場合
「」 その中の語を強調したい場合
人が話す言葉を表現する場合など
『』 その中の語をより強調したい場合
人が話す言葉を回想として表現する場合など
《》 その中の語をさらに強調したい場合
人が心のなかで話す言葉を表現する場合など
() 人の心のなかの思いや考え
また内面的なものごとを表現したい場合
【】 特定の名称などを強調したい場合
特定の言葉を強調したい場合など
! 語・文のあとに付けて強調したい場合
" " 語・文を囲ってかるく強調したい場合
特定の言葉を軽く強調したい場合など
── 文と文のつながりをのこしたまま、
間(ま)を大きくとりたい場合
……… 語・文のあとに付けて
心情的な間(ま)を大きくとりたい場合
分かち書き 文・語を明確に区切りたい場合
外国文字 それを使用したほうが効果的な場合
アラビア数字 数字をより強調したい場合
それを使用したほうが効果的な場合
*個人的に行った意味づけです
*俳句で使用される記号等には、現在明確な意味づけはされていません
ブログ投稿日:2024年5月14日
俳句は現在、文語俳句と口語俳句に大きくわけることができるようです。
文語俳句とは「古典語を基本にしてつくる伝統的な俳句」です。
口語俳句とは「現代語を基本にしてつくる現代的な俳句」です。
古典語でつくるか、現代語でつくるか、基本使用をする言葉が違うだけでどちらも『俳句』です。
ただシンプルに「使う言葉が違うだけ」です。
*575の型・季語・切れ字使用など基礎・基本はほぼ同じです
ですので文語俳句・口語俳句ともに、それぞれの言葉を使って、これからも『俳句』をつくっていけば良いだけなのだと思います。
そうした基本的なことを積み上げていくことができずに、特に口語俳句の分野では、
・崩す必要のない「俳句の基礎・基本」まで崩す
・斬新、奇抜な作品やそのつくり方を追求
・古典語、歴史的仮名遣いとの混用
・しゃべり言葉で作品をつくることが流行
など様々な事象が、過去から現在にかけて起こりつづけてもきたようです。
俳句とその基礎・基本を活かさず、むしろそれを崩す方向に向かいつづけた結果、
口語俳句では『現代語で《俳句》をつくる』というごく当たり前の方法が十分に探求されず、確立されてこなかった経緯があります。
口語俳句をつくる気運・運動が現在まで、高まっては消え、高まっては消えつづけてきたのはおそらくそのためです。
文語・口語俳句の違いをより詳しく見ると、下記のようになりそうです。
◯文語俳句
・文語体(古い時代の文体)を基本にして詠む
・古典語を基本使用
・古典的な切れ字 や・かな・けり 等
・575の定型・季語を活用
・歴史的仮名づかい
◇例句 5句
手にすくふ水やはらかき春ならん
水のなか水わき出づるいづみかな
風鈴売さびしきひとをあつめけり
揚がるたび秋高くなるとんびかな
水仙やあるともしれぬかぜのいろ
◯口語俳句
・口語体(現代語の文体)を基本にして詠む
・現代語を基本使用
・現代的な切れ字 よ・か・ぞ 等(要検証)
・575の定型・季語を活用
・現代仮名づかい
・現代の話し言葉そのものの詠み方も可能
◇例句 5句
ちんもくよやがてしずかに春の滝
かもめとぶ沖にまで春およんだか
写生紙をはみ出してこそ富士は夏
月を見て三日こころのしずかさよ
山みちのあしあと凍りついていた
下記は、俳句における
文語・口語の大まかな図です
◇文語俳句ー文語体ー古典語ー古い時代の文体
◇口語俳句ー口語体ー現代語ー書き言葉
∟ーー話し言葉
◇仮名づかい 歴史的仮名遣い 現代仮名遣い
より詳しく細かいことは、書籍等でしらべてみてください。
下記は、口語俳句で使う
現代的な切れ字の候補です
「現代切れ字 18字( 推奨 )」
よ・か・ぞ・と・に・へ・せ・で・まで
ず・れ・け・た・が・て・は・な・こそ
*詳しくはこのエッセイ集の
「エッセイ⑥」「エッセイ⑦」をご覧ください
これらの分類や例句から、文語俳句だけでなく口語俳句も『俳句』だということが、より明確に感じられるのではないかと思います。
また口語俳句をつくる場合、斬新・奇抜な作品ばかりでなく、『俳句』をつくることも一方で重要だということが見てとれます。
『俳句』としての基盤を確立することがまず第1の目標だということも、過去から学べるように感じました。
最後に、
文語俳句と口語俳句は「使う言葉が違うだけ」
文語俳句は、古典語が基本
口語俳句は、現代語が基本
575の型・季語・各々の切れ字を使うなど、
俳句としての基礎・基本はほぼ同じ
こうした考えにたどり着き、シンプルにそう記すことができるようになるまでに、個人的に約5年の月日がかかりました。
ブログ投稿日:2021年2月16日
日本古来の美意識・心の境地というものは数多いです。
雅・無常・もののあわれ・をかし・幽玄・風流・わび・さび・軽み・粋・自然美・めでたさ、等々。
時代ごとに細かくみていけば、さらに増えると思います。
和歌・能・茶・画・書・俳諧などから直に生まれたものもあれば、それらに取り入れられたもの、洗練されたものなど様々のようです。
芸道では、こうした美意識・心の境地を見出すこと・取り入れることと、それらを実際の芸や作品として具現化することが本来一対だったようです。
現代の俳句でいうと「俳句理念とその作品」にあたるでしょうか。
現在でも、俳句結社の多くが様々な俳句理念を掲げていて、その理念に基づいて日々作品が詠みつづけられています。
noteで個人的な俳句活動をしていくなかで、下記のことを作品にあらわす取り組みを少しずつ進めてみようと考えています。
「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」
【ものごとの花】を詠む
「花」は、能楽の世阿弥が説いた「花」の概念を俳句に取り入れ、活かしていこうという試みです。
1つ1つのものごとの「花」を詠むといったことです。
「花」とは、人が心で観じる花、春夏秋冬それぞれのものごとの花、花と咲いた姿、めずらしさ、おもしろさ、新鮮さ、もっとも大切な見せ所・勘所など。
【沈黙の美】を詠む
「沈黙の美」は、作品内であれこれ語らず、むしろ黙ることによって生まれる美を探っていこうという試みです。
もの言わない文芸である俳句本来の「沈黙」を活かしきるといったことです。
「沈黙の美」とは、作者が一歩引いて黙すこと、作品内でものを言わずにもので示すこと、言わずに伝え、語らずに伝えること、そこからにじみ出てくる美、など。
【内的宇宙】を詠む
「内的宇宙」は、人間とその暮らしや自然の内にふと感じる宇宙を探っていこうという試みです。
外的な宇宙空間ばかりでなく、万象のなかに感じる宇宙を詠むといったことです。
「内的宇宙」を詠むとは、この世界との直覚の対話、容易に言語化できない、言葉にならない感覚を作品の内に込めること、など。
3つとも目新しいものではありませんが、現代語を基本にした現代俳句で、まずはこれらから順々に探っていきたいと考えています。
俳句において「美意識・心の境地」と「作品」は車の両輪だということ、また現代でもそれらの探求に真剣に取り組まれている方々が少なくないということに、遅まきながら気づけたことは個人的に大きなことでした。
ブログ投稿日:2024年3月23日
はじめに
「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」
上記のことを俳句作品にあらわす取り組みを、2021年からつづけてきました。
その取り組みで生まれた作品は、「現代俳句作品集〜700句〜」に主におさめました。
BCCKSで「俳句」と検索するとそこからご覧になれます。
今回の記事は、その続きになります。
現代俳句
〜次の美意識と境地へ〜
日本古来の美意識・心の境地は数多いです。
雅・無常・もののあわれ・をかし・幽玄・風流・わび・さび・軽み・粋・自然美・めでたさ、等々。
時代ごとに細かくみていけばさらに増えると思います。
それらは現代の俳句でいうと「俳句理念」にあたるようです。
「どういう美意識、心の境地、考え方を基本にして俳句を詠むのか」といったことです。
現在でも、俳句結社の多くが様々な俳句理念を掲げていて、それに基づいて日々作品が詠みつづけられています。
noteで個人的な活動をしていくなかで、
俳句の目標として、下記のことを作品に詠みあらわす取り組みを少しずつ進めていければと思っています。
「表現の新と万象の真」「驚きと感動の詩」
「一新一真」「都市詠の探求」「一句新世界」
「ものごとの花」「沈黙の美」「内的宇宙」
「三物一句」「風情の継承」「平明深遠の詩」
【表現の新と万象の真】
「表現の新と万象の真」は、新しい表現の仕方で、万象の真理を一つ一つ詠みあわらしていこうという試みです。
「表現の新」は、新鮮な俳句表現や、表現の仕方をたえずさぐっていくこと、
「万象の真」は、万象のなかに秘められた真理を一つ一つ見いだしていくこと、など。
【驚きと感動の詩】
「驚きと感動の詩」は、優れた俳句作品には新鮮な驚きと深い感動が同時に秘められていることが多いといったことです。
驚きとは読んではっとする機知のこと、感動とは読んだあとのしみじみとした余情のこと、
俳句の基本として、作品のなかにそれらを秘める努力をしていくこと、など。
【一新一真】
「表現の新と万象の真」を一語に集約したものです。
目標とする内容なども同じです。
【都市詠の探求】
「都市詠」は、都市を詠むことです。
四季折々の都市の美、またそこでの暮らしの真を俳句に詠みあらわすこと。
「都市詠の探求」は、個人的にこれまであまり取り組んでこなかった都市詠を、「美」と「真」を基本にして探求していこうという試みです。
【一句新世界】
「一句新世界」は、俳句一句で新しい世界を切りひらいていこうという試みです。
それは日々の小さな目標でもあり、長年の大きな目標にもなりそうです。
日々の目標として、新鮮な表現・真理を基に、より新しみのある作品を追究すること、
長年の目標として、一句で俳句の新世界、心の新境地を切りひらくこと、など。
【ものごとの花】
「ものごとの花」は、古来からある「花」の概念を俳句に取り入れ、活かしていこうという試みです。
一つ一つのものごとの花を詠むといったことです。
「花」とは、人が心で観じる花、春夏秋冬すべてのものごとの花、花と咲いた姿、めずらしさ、おもしろさ、もっとも大切な見せ所など。
【沈黙の美】
「沈黙の美」は、作品内であれこれ語らず、むしろ黙ることで生まれる美を探っていこうという試みです。
もの言わない文芸である俳句本来の「沈黙」を活かしきるといったことです。
「沈黙の美」とは、作者が一歩引いて黙すこと、作品内でものを言わずにもので示すこと、語らずに伝えること、そこからにじみ出てくる美、など。
【内的宇宙】
「内的宇宙」は、人間とその暮らしや自然の内にふと感じる宇宙を探っていこうという試みです。
外的な宇宙空間ばかりでなく、万象のなかに感じる宇宙を詠むといったことです。
「内的宇宙」を詠むとは、この世界との直覚の対話、容易に言語化できない、言葉にならない感覚を作品の内に込めること、など。
【三物一句】
「三物一句」とは、三つの物で一句を構成して俳句を詠んでいく試みです。
一つ二つの物で一句を構成するより少し難易度が上がります。
その作品には、深みとともに、より描写が効いて型が安定したものが多い傾向もありそうです。
古池や蛙飛びこむ水の音 古池・蛙・水
荒海や佐渡に横たふ天の川 荒海・佐渡・天の川
暑き日を海に入れたり最上川 日・海・最上川
【風情の継承】
「風情の継承」は、古来の風情をよく解して、それを現代の俳句に活かしていく試みです。
物事の風情をよく味わい、それらを月並ではなくより新鮮に俳句に詠みあらわしていくこと。
時代とともに少しずつ心から忘れさられつつある風情を、現在の自然やふだんの暮らしのなかに再発見していくこと。
【平明深遠の詩】
「平明」は、わかりやすくはっきりしているさま
「深遠」は、内容が奥深くはかりしれないさま
言葉が平明でわかりやすく、内容が奥深い作品が、より読者の心に伝わりやすく響きやすいということ。
俳句は言葉。言葉はよく伝わってこそのもの。そのうえで何を詠み伝えたいのかということ。
これらは個々別々の目標でもあり、ときに連携連動する目標ともなりそうです。
11項目は大変多く、大きすぎる目標も一部ふくまれていますが、現代語を基本にした現代俳句でこれらを順々にさぐっていきたいと考えています。
俳句において「美意識・心の境地」と「作品」は車の両輪だということ、また俳人がつくる俳句としてそれに取り組むことが、AIなどの技術が普及していくこれからの時代でより重要になる可能性があることも感じました。
ブログ投稿日:2024年12月12日
はじめに
俳句をつくる方々にとって言葉はもっとも重要な表現の手段であり、生命です。
どの言葉を選ぶかで作品に大きな違いが生じます。
現在、俳句で使う言葉の選択肢は増え、作品に新しい可能性をもたらしています。
それらについてわかる範囲で短くまとめました。
1、俳句で使われる言葉
現在、俳句で使われる言葉には大まかに
「古典的な言葉」「現代的な言葉」「現代の話し言葉」
があるようです。
また仮名遣いには
「歴史的仮名遣い」「現代仮名遣い」
があります。
古典的な言葉とは、古典語、文語体です。
現代的な言葉とは、現代語、口語体です。
現代の話し言葉とは、ふだん話す言葉です。
また、
歴史的仮名遣いとは古典的な仮名遣いです。
・言ふ、けふ、ゐた、てふてふなど
現代仮名遣いとは現代的な仮名遣いです。
・言う、きょう、いた、ちょうちょなど
さらに「外国語」などを使った俳句づくりも行われているようです。
これらの言葉を使った参考句を挙げます
①古典的な言葉の俳句
ことごとくかぜのかたちや秋の雲
秋神輿すなはちみのりゆたかなり
羽ちらしてたたかひにけり羽抜鶏
雲きれてかほあらはるる月見かな
②現代的な言葉の俳句
白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ
写生紙をはみだしてこそ富士は夏
地も天もうごいているか冬ぎんが
弾き初めようえへしたへと琴の爪
③現代の話し言葉の俳句
伝統がすすみ行きます阿波おどり
だまるほどおおきい月を旅に見た
天の川いまだ詩でしかありません
けものらも水を飲みますもみじ川
こうした作品はそれぞれにつくられ発表されつづけているようです。
書籍やネット記事などでも読むことができます。そちらもご覧になってみてください。
2、長所、短所 箇条書き
ここからは、前述の3つの言葉とそれを使った俳句について、長所と短所を「箇条書き」で短く記します。
俳人としての視点、一般読者としての視点などをまじえた解説を付けました。
ご興味がありましたらご覧になってみてください。
◇俳句で使われる言葉◇
① 『古典的な言葉』
古典語、文語体 ▷▷文語体俳句
参考句:池の面をゆらさず鶴のあゆみけり
◎長所
・俳句で長く使われてきた伝統的な言葉
・伝統的な言葉の美しさ、格調がある
・や、かな、けりなどの切れ字を有する
・多くの俳人の方が使用
◯短所
・古い時代の言葉で現代感覚に欠ける
・理解しづらい古典的な語、言い回しが多い
・言葉を学びなおす必要があり、上級者が優位
◇特徴
・むかしの日本の書き言葉
・歴史的仮名遣いを使うのが一般的
俳句で使われる言葉といえばまず古典的な言葉が思いうかぶのではないかと思います。
多くの俳人の方が現在も使用している言葉です。
ただ現在の一般の方々は、ふだんの生活の中で古典語も歴史的仮名遣いもほぼ使用していません。
そうした方々が、作品や句集などの読者になることを理解しておく必要はありそうです。
②『現代的な言葉』
現代語、口語体 ▷▷口語体俳句
参考句:ゆきだるまつくるにほんの風景よ
◎長所
・現代人がふだん使っている現代的な言葉
・俳句表現の新しい可能性を広げる
・よ、か、ぞなどの多数の切れ字候補
・一部の俳人の方が使用
◯短所
・俳句で使う言葉として成熟が必要
・稚拙さ、俗っぽさが出やすい
・前例となる作品、参考文献が少ない
◇特徴
・現代の日本の主に書き言葉
・現代仮名遣いを使うのが一般的
より現在的に俳句を詠むことができるのが現代的な言葉ではないかと思います。
一部の方々が新しい俳句とその表現を求めて使用しているようです。
作品をつくるとき言葉の問題でつまずくことが少ないのも特徴の一つです。
ただ俳句をつくるための基礎基本や、一行詩、一行の散文との形式的な違いについて、より理解を深めておくことが大切かもしれません。
③ 『現代の話し言葉』
話し言葉、会話体 ▷▷話し言葉俳句
参考句:不幸さえしみじみします日向ぼこ
◎長所
・現代人が話すときに使っている話し言葉
・俳句表現の可能性をさらに広げる
・幅広い読者層にアプローチが可能
・一部の俳人の方が使用
◯短所
・「俳句」をつくることが逆に難しくなる
・稚拙さ、俗っぽさが大変出やすい
・前例となる作品、参考文献が少ない
◇特徴
・現代の日本の話し言葉
・現代仮名遣いを使うのが一般的
平明で親しみやすい作品をつくることができるのが「現代の話し言葉」ではないかと思います。
一部の方がより新しい作品とその表現を求めて使用しているようです。
ただ俳句、川柳、一行詩の特徴を兼ねそなえやすい傾向があるようです。
先人をはじめとして作品は少なからずつくられていて、今後広く取り組まれていく可能性はありそうです。
最後に、これら三つの言葉はどれも俳句の表現の幅を大きく広げる可能性を秘めているように思います。
どの言葉にも俳句をつくるうえで優れた点、そうでない点があり、完璧というわけにはいかないようです。
俳句に取りくむ方々が、めざす俳句、そのスタイルなどによって選びわけることができるようにも感じました。
口語俳句作品集 150句
〜2024年 冬・春〜
2024年 冬・春 の俳句集です
現代語・現代仮名づかい・現代的切れ字を基本にして詠んだ句を集めました
ふだんの話し言葉・記号・句読点・カタカナ・外国文字・アラビア数字・分かち書き
なども活かして必要最小限使用しています
下記の古典語や歴史的仮名づかい・古典的切れ字を使っていないこともご確認ください
や・かな・けり・たる・たり・なる・なり・あり・をり・ぬ・べし・にて・らむ・けむ・とや・てふ・ゐて・ゐし・等々
また、現代語で俳句を詠むと俗・稚拙になるのかについても検証など行ってみてください
口語俳句作品集150句
〜2024年 冬・春〜
◇春の部◇
春の富士羯鼓がひびきだすように
来る春よ蛇口を落ちるみずのおと
いちりんよ水面揺れやむうめの花
人生をとおくながめて野にあそぶ
そよかぜよ天地吹きまぜ花すみれ
航跡は消えのこるみちかぜひかる
かもめらよ知り得もせずに春の海
畑を打つ故郷を打つということか
大空をひっくりかえしつばめとぶ
つばめの巣ふえゆく声を見守るか
かおどれもぼんぼりいろよ雛人形
ジャムナイフパンに撫でつけ春暁
そつぎょうの自転車かごに花束よ
はば跳びよ8メートルのさきに春
もぎられるチケット、春季美術展
あゆみ出てぐるり大かげろうの街
まどに立つうしろすがたと春愁と
6階よどこからとなくしゃぼん玉
街空にきえてもとぶかしゃぼん玉
おやが来て喜喜叫喚のつばめの巣
旗たててニ文字はためく〖 椿餅 〗
生きるとは後ろすがたか利休の忌
来る傘はあなたでしたか春しぐれ
空透けていちばん星かはるまつり
そよかぜよ空ふるわせて初ざくら
一輪よこころほころぶはつざくら
ちかづけば紅のうすれて山ざくら
ほそみちよ奥かくされて山がすみ
ちんもくよやがてしずかに春の滝
夜ざくらよ月とも違うほのあかり
うみからのかぜにふぶくか島花見
てのひらを波があらえばさくら貝
遍路杖いまいまいまを行くおとよ
あらわれる彼岸ざくらの咲く村が
しめ縄か十歩はなれておおざくら
咲きみちて花舞いちって灯の宴よ
おぼろづきふるさとともす二三軒
まちのなかさくらのなかよ大阪城
いけの面よ桜のかげのありどころ
交番よかたわらに舞うあさざくら
つばめ飛ぶピッコロ独奏のように
あしもとをさらさらながれちる桜
エイプリルフールコーヒー店の朝
ショーウィンドウ街を映すか夕桜
木の下よちってもちってもちる桜
住宅街夜ざくらほどのあかるさよ
目にうかぶ「平成」「昭和」朧月
あけぼののベッドタウンに囀りよ
みつばちよぶらさがり飛ぶ羽の音
花吹雪エスカレーター地下を出て
とぶ虻よいのちぶつけて窓ガラス
離陸機よ下はいちめんさくらどき
木のかげに来てあかるさよ花に雨
あかるみにみなあつまって夕花見
すこしずつ都会も老いておぼろ月
BARという文字灯りによ春の雪
家じゅうのまどがひかる夜春の雷
パレットよ青絵の具溶く春の富士
若草よやがてみどりの北アルプス
もじゃもじゃと大きく一つ鴉の巣
雪とけて日がふりそそぐ海になれ
げきりゅうを鮎のぼりゆく夕山よ
にわとりが跳び闘うぞかぜひかる
にわとりがついばむ蕊よ落つばき
スズメバチ死んでちぢまる土の上
いるところどころへいわよ春の鳩
チューリップ見わたす大地七色よ
また来いよそらいちめんを帰る雁
遅い日よ瀬戸に灯ともる島いくつ
朝はみなだまっていますしじみ汁
花遍路日々をふぶくということか
わかめ干す島をぐるりと隠岐の海
陶芸よ手振ってはらうはるのどろ
ゆびで割るなかみどりいろ草の餅
しゃぼん玉そらいちめんの現実よ
生老病死やがてまた生しゃぼん玉
鳥雲に入るまで日ざしいしづち山
みずからを羽にうずめてのこる雁
植生を読み解きつつよ野にあそぶ
菜のはなよすえひろがりに筑波山
一列に燃えかかるのが野焼きの火
春炬燵ひとをおもえということか
はるゆうやけやがて灯の島星の島
ねこの子よちいさな丸になって夜
みなちがうふるさと聞くか蛙の夜
◇冬の部◇
白鳥よ日の揺れうつるみずのうえ
いちまいのそらどの家も布団干す
げきどうの時代ときおりふゆの虹
そのあしであるいてゆくか七五三
いっせいよ鳩もかけだす初しぐれ
茶をたてて直の背すじよ冬つばき
いちにちを掃きあつめてよ落葉焚
雪嶺がそらにうかんでいることよ
まっしろなせかいにこえよ雪合戦
詩のなかに住んでいるかに雪国よ
スキーヤー銀嶺の風、風、風、風
重力のどれもみごとよつらら折る
生ききれず死にきれず手に冬胡桃
つき過ぎずはなれ過ぎずよ浮寝鳥
地も天もうごいているか冬ぎんが
水仙よどれを剪ってもかぜのおと
来てまるでこころのなかよ大枯野
おどろいて水さわぎだす浮き寝鳥
寒つばきひと花ごとに散りごころ
鬼がわら目をみひらいて霜の屋根
いちまいのそらごとふゆの空港か
このさきもせんそうへいわ粉雪よ
町おこししてもしてもよ雪が降る
熱燗よことばなくてもあたたまり
去るひとは風とともによおでん酒
はたらいてよい日があたる蜜柑山
このさきはかもめのそらよ冬の崖
舞い舞ってときをこえるか里神楽
まるまるとくびをすくめて冬の鳩
交番よ灯ひとつともるとしのくれ
あおぎ見てはてに何ある聖樹の灯
いきいきとれきしの果ての聖夜劇
ねむる子にときながれだす風邪薬
雪おんなふぶく夜の山そのものが
明けがたよ僧たちの大すすはらい
空ひろく仕事おさめということか
湯豆腐よ二人には間があるばかり
手かかげて姿またたくオリオン座
寒菊のかすかにかおる日なたこそ
やおよろずの神々の土地注連飾る
来る年をあきらかにしてこよみ売
めくる手よ文字目を覚ます古日記
いちねんがここにおちつく落葉焚
撞く僧よ間をたっぷりと除夜の鐘
初しののめ 初明り いま初日の出
初鳩か──あおぐ人らは空のした
とおぞらよへいわのように正月凧
弾き初めようえへしたへと琴の爪
ずっしりとおもく初星出そろって
よろこびを知る人たちよ若菜摘む
わたしもかかたいつぼみの福寿草
てんねんのしおひとつまみ七草粥
撒きまいてしおの花咲く正月場所
もち伸びていつまでとなくお正月
つぎつぎに家掻きだされ今朝の雪
凍て鶴に星がまたたきはじめたか
おおきさよいやちいささよ冬銀河
岩にいてまた波にいてふゆかもめ
にんげんがまっさきに暮れ浜焚火
いっぽんの松迫りくる絵ぶすまよ
寒すずめ日のさす土をついばむか
あかん坊つかまり立ちで春を待つ
日向ぼこ家郷お変わりないですか
枕もとの灯りをけしてふゆ終わる
跳びとんでかるいすずめよ雪の上
*2023年末の作品も一部収録しています
会話体句集 100句
〜2024年〜
はじめに
ふだんのしゃべり言葉を基本にして詠んだ口語句集です。春夏秋冬の作品100句を集めました。
ふだんしゃべるような言葉で俳句を詠むこと、また川柳との違いについて次のことを意識して取り組みました。
・季語、切れの活用
・四季折々の自然とその暮らしを詠む
・風情、格調、俳句理念など
・俗に片寄りすぎない
・詠嘆をして余情、余韻を生む、等々
どう詠めば俳句で、どう詠めば川柳なのか、また俳句と川柳が融合した形はあり得るのかなど、
創作を楽しみながら、試験的に行った取り組みをまとめたものです。
会話体句集 100句
花見して平和をしんじきっていた
じぶんまでふぶきだしたか花見酒
ちる桜真向かうほかにありません
しめ縄か十歩はなれておおざくら
そらをゆく春雲として立っていた
五重の塔鳩もすずめものどかです
来る傘はあなたでしたか春しぐれ
春炬燵ひとをおもえということか
朝はみなだまっていますしじみ汁
うみからのかぜにふぶくか島花見
また来いよそらいちめんを帰る雁
春満月そうつぶやいてしまうほど
ひこうき雲夏の行方を見るような
蛍の夜だれもさびしいひとでした
遠く鳴く山そのもののかっこうが
ただあおぐ生きかただった百日紅
沿いあるく波打ちぎわは秋でした
季節またかわりゆきます赤とんぼ
なみおとが暮れのこったか秋の浜
ただうみを見る八月となりました
伝統がすすみ行きます阿波おどり
盆の月この地もわるくありません
いつか又出かけましょうか遠花火
じんせいの旅大すすきはらでした
自転車がちりんと秋日暮れました
息子ひとりゆるされに来た秋の墓
出会うひとみらいにいます星月夜
吸いつくよひとさしゆびに露の玉
すずめ来て突つきのこすな大刈田
コーヒーでふりかえります美術展
星と都市ともりだしたか秋のくれ
秋の蝶しの字のかぜに舞いあがれ
草絮吹く海がゆうばえだしたから
瀬戸大橋海を照らすかほしづき夜
あきのくもつまり人生ではないか
戦争もにぎりこぶしも身にしみた
さいがいのまっただなかの朝顔だ
ちんもくのはじまり秋の傘さした
葉落ちますぱちんぱちんと松手入
だまるほどおおきい月を旅に見た
ちんもくのながさです野の天の川
流れ星きっといつかのじぶんです
露の原ゆめからさめたようでした
秋の暮日がさびしくてなりません
かみさまを揺りおこします秋神輿
かしわ手が千も万もよはつもうで
かえりますかたくむすんで初御籤
わたしもかかたいつぼみの福寿草
冬の虹ゆるされたかのようでした
かおりますおなじ日なたの寒紅梅
見るうみがはためかせます秋日傘
草絮吹く旅はいっぽんみちでした
生さびし死さびし月がさしていた
鳴きだしてすずむしいろの星空だ
ただむねを撞かれています鐘の秋
天の川しんととどろきやみません
案山子です今日も明日も明後日も
方言のように案山子は立っていた
ただそらを欲しているか曼珠沙華
ゆうばえの果ての色です焼秋刀魚
朝顔一輪じぶんはなにを努力した
蜻蛉まで赤いきせつとなりました
はずみますかぜのたかさを秋神輿
秋の蟻もうかげでしかありません
手のひらにえだ伸ばしくる白萩だ
あきの鳶見上げつづけています風
葛の花ひとの暮らしが咲いていた
天の川いまだ詩でしかありません
葡萄狩だれも日ざしを摘んでいた
鳶翔ってひゅるると高くなる秋だ
わたりどり田越えゆきます筑波山
ほしぞらがきいていました残る虫
野菊摘むうつむき癖のあるひとだ
ゆうひへとゆれやみません吾亦紅
掃くおとが濡れはじめたか露の寺
陽になるか孤影になるか秋のくれ
秋の蚊をぱんとたたけば白でした
灯の駅のひとりのこらず霧だった
雁の列たびにかたちはありません
野良ねこが伸びをしました秋日和
釣りびともちいさな秋の暮でした
橋あるく夜明けとともに霧が来た
けものらも水を飲みますもみじ川
秋神輿うなばらはかがやいていた
壜に陽がささっていますあきの浜
のこるのはえだまめでした送別会
赤い羽根誰はばたかすのだろうか
冬支度なが生きしたくなりました
これですかおとこもかがむ思い草
せかいまた燃えはじめたか秋の暮
渡り鳥こころなかなか老いません
みな暮れにゆきつく秋の野遊びだ
木洩日が散るのでしょうか銀杏坂
わたつけて芒なかなか暮れません
目がなれていきます千々の星月夜
秋の酒世のありさまのなかに居た
並み木みち暮れるまでです文化祭
包丁音ひとりぐらしが身にしみた
林檎噛む冬がちかいということだ
ものがたりまんてんにです流れ星
〜終〜
◇俳句と川柳それぞれの特徴
川柳は平句。季語、切れ字、切れは常用せず、人情や滑稽さ、機知、風刺などをより突き詰めて「吐く」傾向があるそうです。
俳句は発句。季語、切れ字、切れを常用して、四季折々の自然とその暮らし、風雅さ、余情、感動などをより突き詰めて「詠む」傾向があるそうです。
どちらも俳諧連歌から派生したものだそうですが、祖となる人やたどってきた歴史はそれぞれに異なるようです。
口語俳句の作品・特徴・現状・基礎基本・つくり方・切れ字・美意識について記したエッセイと作品集を収めました。
口語俳句について個人的に取り組みをはじめた2018年を思い返すと、当時はまだ「口語俳句の口語とは何か」ということもあやふやだったように思います。
文語俳句とは古典語の「書き言葉」で詠む俳句
口語俳句とは現代語の「話し言葉」で詠む俳句
といった考え方が主流で、現代語の「話し言葉」そのものを使った作品がさかんにつくられ、それこそが口語俳句だとされていたのを覚えています。
ただここまで記してきたように、口語俳句は必ずしも現代語の「話し言葉」そのもの、つまりしゃべり言葉を使ってつくる必要はなく、
「現代語・現代仮名遣い・現代的切れ字」の言葉を使って、俳句の基礎である「575の型・季語・切れ字」を大きく崩すことなくつくっていくことが可能だと、学んでいくにつれて個人的に少しずつわかってきました。
これまでに口語俳句を約2500句、ブログに投稿・発表してきましたがそれらはほぼ俳句の基礎基本にもとづいた作品になっていると思います。
そうしたつくり方は、あくまで「自分なりの方法」ですが、口語俳句の作品づくりの現場で日々十分に機能しています。
ただこのエッセイ集でご紹介したつくり方がすべてとは限らないとも思います。
あくまで1例としてご参考になれば幸いです。
今あるいくつかの口語俳句のつくり方がその作品とともに様々な角度から検証され、1つに統合され、最終的に「確立」するまで、まだ長い年月がかかることは確かなのではないかと思います。
2024年6月19日
2024年6月19日 発行 初版
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◇筆者の活動内容
口語俳句で、俳句の基本である「575の型」「四季折々の季語」「切れ字」をはじめ、切れ、間、格調、機知、余情、深み、重厚さなどを大きく失うことなく詠んでいくための工夫や挑戦をつづけています。