───────────────────────
───────────────────────
この本はタチヨミ版です。
夏の道を汗だくになって自転車に乗って、気がつけば街の外れにいたのさ。
同じ都市なのに、少し外れにくるだけでまるで違う街にいるみたいでね。
世界が相槌(あいづち)を打ってくれるみたいに心が肯定されるのは、見たことがあるような見たことがないような、そんな夕方の景色に自分の身を置いて、長く住んでいる場所なのに生まれて初めて通る道だったり、実は忘れているだけでそうではないのかもしれないけれど、新鮮な空気が心に充満してくるみたいに、でも、少しの寂しさもどこかにあったりもしてさ。
でも、それでもここにきてよかった。
そう思える力をどうしてか、貰えたんだよね。
合わない靴を履いて、ずっとこの世界を突き進むことは難しいけれど、それでも多くの人たちはそれでも前を向いて歩いていて。
すっごく偉いなって思うし、あたいもそうなりたいと思うけれど、そうでもなくて。
昨夜はすごく雨が降って、今日も雨だとばかり思っていたら、昼から大きな青空が目の前に開けた。
足元の芝生には雨水が溜まっていて、あたいが自転車を降りて、ぎゅうって足の指先に力を入れると、靴の先っぽから雨水があたいの指先に染みてくる。
それはなにか、がんばってきたことが足の指先から、まるで滲み出た涙みたいだと思ったんだ。
なんかさ。そしたら、なんだか自分の体がすっごく健気に思えて、この体にさ。
ものすごく感謝をしないといけないんだと気がついたんだよね。
街の外れの丘の公園。
近くに川があるのか、水が流れる音が聞こえてくるよ。
聴力が超人並みに今だけ上がっているのかな。
そこで小鳥たちが水遊びをして奏でている音色までもが聞こえてくる。
さらさらと風が吹いて、緑が揺れている。そんなのを見ていたら、心がよい方向に揺れ始めた。
ドキドキしたり、余計なことを考えたり、成功したり、失敗したりさ。
色んな選択があって、でもでも、みんなよかったとそう思うことが大切で。でもでも、やっぱり、そう思うことはなかなか難しかったり。
これからも選んでいくこの道のなかで、考えてもわからないことは沢山あって。
よく考えたら、今しかなくて、でも過去は尊くて大事にもしたいんだ。
なるようにしかならないなんて、そう思うことも大切だけどさ。なるようにしていくことも大切だよね。
とにかく、楽しかったねって人に言えてさ。
自分にもいつもそう言えるように生きていられたら、生きていれたら、すごくそれはなんでもないようなことだとしても、大きな成功だと思うんだ。
そんな成功の積み重ね。
楽しかったね。
うん。今日も楽しかった。
あたいは今日も楽しかったよ。
夏のあたいの緑の部屋の窓からは海が見えて、外の世界はずっと夜なんだ。
大きな部屋の木の扉を開けると、その静かな海の上には細かくて綺麗な黄色い水晶玉みたいな星が何万も見えて、眩しいくらいに輝いているのさ。
その光が、あたいの頬を温めてくれている。
白くて清潔でしわ一つない、そんなベッドの片隅にお気に入りの大好きな本をさ。
何冊か置いて、夢のなかで物語のなかを旅をする。
ランタンの小さなオレンジ色の灯りがあたいの足元まで優しく遊びにきてくれるの。
素足でそれに触れて、淹れたての珈琲を片手に観葉植物に微笑みかけると、次の日の朝には心が満たされる笑顔で太陽が優しい夜の灯りをくれるの。
あぁ、不思議だな。
あぁ、今とっても気持ちがいいのよね。
お気に入りの絵を棚にかけて、その絵があたいにいつもよい夢を与えてくれる。
夜の海を光の色をした海鳥たちがさ。
どこまでも、どこまでも、気持ちよさそうに羽を伸ばして飛んでいくんだ。
それがね。一緒に遊びにいこうよって言ってくれてるみたいでさ。
なんだか、すっごく嬉しくなっちゃう。
だから、あたいの心はいつも一緒に遊びにいっちゃうの。
タチヨミ版はここまでとなります。
2024年9月16日 発行 初版
bb_B_00179195
bcck: http://bccks.jp/bcck/00179195/info
user: http://bccks.jp/user/150337
format:#002t
Powered by BCCKS
株式会社BCCKS
〒141-0021
東京都品川区上大崎 1-5-5 201
contact@bccks.jp
http://bccks.jp
巡り会えた皆様に、
幸せが訪れますように…。