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この本はタチヨミ版です。
小説家気分(1)
連載誌
フェースブックグループ
「小説家気分でみんなに読んでもらおう」
創始者 雑賀さんに捧ぐ
目次
成田桂子 トゲになった母の言葉
梅野修 ばあちゃんのお導き
猿渡鉄男 わが母の記
月曜日のユカ
ただ 貴方の優しさがこわかった
〜見立てショート(神田川)
のりこグレース
実話 ロンドン、人生はじめます
いしくらひらき
僕のノルウェイの森
安井かずみ 見立てショート
「空にいちばん近い悲しみ」
【トゲになった母の言葉】
成田桂子
72年前の小学1年生の頃
絵を描くのが大好きだった私は、
国語のノートに漢字を書くより、絵を
いっぱい描いていた。
それを見た母は
『桂子ちゃん❗️国語のノートになんで
そんな漫画の絵ばかり描いてるの❓
何度言ったら分かるの❓』
「…………ごめんなさい………」
『あなたは多摩川の橋の下で泣いていた
のを拾ってきて育ててあげてるのに本当
に聞き分けが無いんだから、上野のお山
には、もっといい子がいっぱいいるから
取り替えたいわ』
(拾われたの?ほんとのお母さんは……
だから何時も私ばかり叱られるんだ。)
『聞いてるの?あなたみたいに聞き分け
が無い子いらないから出て行ってちょう
だい』
(ほんとのお母さん、見つけなくっちゃ)
私は、ランドセルに大事なマリをぶる下
げてノートに
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ながいことおせわになりました。
ありがとうございました。けいこ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と書いて家を出た。
(家を出てどのくらい歩いただろうか。
親戚の家に寄ったけど、置いて貰えなか
ったし、疲れたからちょっと休もう)
石段に座っていたら、男の人がやってき
た
「おじさん、ここの家の人?」
《そうだよ》
「私、今日泊まるところがないから一晩
泊めてくれますか?」
《どうしたの?話聞くから入りなさい。
ちょっと、小さいお客さんだよ》
話をしようとしていると母が血相変えて
飛び込んで来て、私は家に帰る事になっ
た。
母が『あれは口から出まかせで、嘘だ』
と言ったけど、しばらくの間トゲとして
私の心に刺さっていた。
『ばあちゃんのお導き』
梅野修
その日はうちのばあちゃんの命日だった。
クリーニング店を継ぐ為に自衛隊を除隊して2年目の夏、クリーニング師の免許の試験を受ける事にした。
保健所に受験の手続きに行くと、担当の職員から試験前に行われる講習を受講する事を強くすめられた。
『講習を受けて受験するとほぼ合格されますが自分で勉強しただけでは合格するのはまず難しいですよ。』
後で知ったのだが、試験の問題は講習で配布される予想問題からほぼほぼ出題されているらしい。
講習の受講料は3万円。
3万円をケチった俺は職員のすすめを断った。
試験当日、JRの最後列の車両に乗り込んで座席に座った。
車両内の禁煙のマークを見て、当時タバコを吸っていた俺は最前列の車両まで行ってみたが、全車両が禁煙である事を知った。
諦めて最前列の車両の座席に座って試験の勉強をしていると、途中の駅で5~6人の集団が乗り込んで来て俺の隣の座席と周辺の座席に座った。
俺の隣に座った俺より10くらい年上の男性が俺が読んでいる本を見て『おたくもクリーニング師の試験受けるの?』と聞いて来た。
話を聞くと、大手のクリーニング会社の職員でみんなで俺と同じ試験を受けに行くとこらしい。
『そんなの読んでないで、これを見るといいよ。』と、講習で配布される予想問題と同じプリントを貸してくれた。
『競争率がある試験なら貸さないけどね。』と笑って言う男性に『ありがとうございます!』と言って、下りる駅に着くまで、10数枚ほどのプリントの問題と答えを必死に覚えた。
駅に着いて男性に礼を言ってプリントを返すと、『お互い合格しようね。』と言ってくれた。
結果は見事合格。
合格発表後に保健所に免許を受け取りに行くと、受験の手続きの時に俺に応対した職員が『何でこいつ合格したんだろう?』みたいな微妙な顔をしていた。
列車の中で見ず知らずの俺に予想問題を貸してくれた人がもしこの投稿を見る事が出来たなら、もう一度礼を言いたい。
『あの時はありがとうございました。あなたの
おかげで無事に合格する事が出来ました。』
そして、喫煙車両を求めて列車の最後列から移動して最前列のあの座席に座らなかったら、予想問題を貸してくれた人とは出会わなかったはずだ。
何らかの見えないチカラが働いた気がしてならない。
その日はうちのばあちゃんの命日だった。
「わが母の記」
猿渡鉄男
ノーベル文学賞候補だった井上靖は
母に捨てられたと恨んでいた。
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井上は父の容体が悪いと実家へ帰った。
父は井上の手を握ったと思ったら、つきはなした。
しぐさが気になったが、容体が良くなったので家に帰る。
母が井上を呼び止めて、意味不明の言葉を発した。
井上は母とは疎遠で、無視した。
家に帰ると、執筆で家族全員が
てんやわんやで作業をしていた。
反抗期の三女だけは手伝いをしない。
父が死んだ。
葬儀に親戚一同が集まった。
母は外で一人でポツンと座りこみ、
奇妙な行動を取り始めた。
葬儀が終わって、母が井上宅を訪ねた。
母は痴ほう症が進んでいた。
書斎にきて二人で話しをしても会話が全く成り立たない。
母は何かを言いたげだったが、井上は聞こうとしない。
井上は昔母に捨てられたと思っていた。
伊豆の曽祖父の妾に育てられたのだ。
母に捨てられたのではと疑念を抱く
井上は母を問い詰めたかった。
父が曽祖父の妾と暮らしていた事実を
知った三女は不潔と言った。
母の痴ほう症はかなり進んだ。
面倒を見ていた志賀子の夫が怪我してしまい
母の面倒をみられなくなった。
井上が母を介護する。
井上は母を迎えに行くが、
母は頑なに姨捨山に連れて行かれると
思い込んでいて抵抗した。
なんとか連れ出し、面倒をみるが、
痴呆はかなり進んでいた。
井上の仕事にも影響が出始めてると悟った三女は、
伊豆の別荘で三女が介護すると言った。
三女は父の井上に言う。
父さんは作家としては祖母に優しいが、
息子としては恨んでいる。
三女は別荘で介護するが
痴ほう症はますます進み、失敗に終わる。
再び、家族総出で母の面倒を見る。
母は夜になると家を出て徘徊をするようになる。
母が行方不明になった。
母はトラック運転手のたまり場を訪れ、
タチヨミ版はここまでとなります。
2024年7月17日 発行 初版
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