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レピュニット

黒谷第九

FPLF自由出版解放戦線



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 目 次

レピュニット





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 朝起きると、頭の上に数字が見えるようになっていた。鏡では見えない。
 起こしにきた母親の頭に2の数字が見えたのがはじまりだ。アラビア数字の2が薄オレンジにぼんやりとして、それでいてくっきりと光って見えている。しばらく見ていたが、見える理由がわからないし、そもそも実際にその数字が浮かんでいるのか、それともおれに見えるだけなのかいまひとつ判然とせず、かといって2に聞いても、いよいよおかしくなったのかとまた医者に連れて行かれるのではないかと心配になり、結局何も聞かないまま、2の用意した朝食を平らげ、ネクタイを締めた。ニュースではショッピングモールで起きた銃撃事件をずっと現地からレポートしていた。テレビの中の人間に数字はない。テレビの時計が定刻になったので家を出た。

 子どもの集団が前方からやってきた。臙脂色の学帽の上には、0の数字が浮かんでいた。誰も彼も同じ数字だった。通学時間のせいかその後も子どもがやってきたが、みな数字は0だった。横断歩道に当番のPTAがいたが、数字は1だった。対岸のPTAも1。なんの数字なのか、いくつかの憶測はできるが、いずれも明確な根拠はなかった。産んだ子どもの人数だろうか。母は2、PTAが1で、子どもが0ならその可能性はある。おれにはきょうだいはいない。だが、おれが生まれる直前に事故で亡くなった姉がいたと聞いたことがある。その事故では父も亡くなっていて、うちはいわゆる母子家庭だった。母も来年80になる。俺もアラフィフなので、典型的な8050問題(EFP)を抱えた家庭だ。そして子どもたちが子どもを産むはずがないのだから、やはり数字は子どもを産んだ数なのではないかと思った。

 駅前で見える数字は、0が多かった。稀に1か2。遠くのほうで7や2桁の数字も見えたが、これだけ多いといちいち考察していられない。数字が大きいのはだいたい男のように見える。子どもを産んだ数、あるいは産ませた数、ということなのだろうか。いずれにしても、明確な解が得られることはない。おれは無駄なことを考えることをやめた。それよりも考えるべきことがある。今日は社長デーだ。いわゆる朝礼で、社長自らわざわざ朝から社員ひとりひとりに仕事の進捗やら新しい企画やらについて質問をするのだ。どのみち何を聞いても社長自身のアイディアにしかゴーサインを出さないのだからまったく無意味である。とどのつまりは、自分の意見を通したいがために、体裁のためにおれたちに無駄に意見を求めているだけなのだ。




 出社すると、おれのデスク島の端にいる御局様の頭上に0があった。確か既婚者だと聞いていたが、子どもはいないのだろう。産休に入る社員にやたら態度が悪いのはそのせいか。気の毒、と思うのもお門違いか。女性に子どもがいない理由など星の数ほどある。だが、子どもがいる理由は単純だ。やることをやったらできたというだけのことだ。営業のHとIが帰ってきた。この二人は以前から、付き合っているのではないかと御局様がおれに下卑た笑いを添えて陰口を叩くので、おれもきっとそうなのだろう、と思っていた。実際コンビでの直行直帰は多い。そんなやつらの頭上には仲良く3の数字が浮かび上がっていた。え、3人も産んでた? いやそんなことはないな。となると産んだ子どもの人数ではなさそうだ。もしかしたら、直近のセックスの回数だろうか? つまり営業の2人は昨夜から今朝にかけて3回。しかし、母の2回はいくらなんでもおかしい。あるいは経験人数か? 子どもは0だし。いや待て。御局様も0だ。これがバージンというのは、少々無理がある。社長の愛人という説もあるぐらいだ。一体なんの数字なんだろう。いや、そもそも数字に意味はあるのか? 実際に空間に数字が浮かんでいるわけはないのだろうが、おれの脳のバグなだけだとしたら、母親に連れて行かれるまでもなく医者に見てもらったほうがいい。御局様の顔色が華やいだと思ったら俺のうしろのドアから社長がご出勤なさった。頭上の数字は316。ちょっと桁がデカすぎる。セックスの回数? どうだろう? じっと見ていたせいか、社長がおれの顔を見て怪訝な表情を浮かべた。慌てて目をそらす。社長はまっすぐ御局様のところへ立ち寄ってなにか手渡している。渡されたほうははしゃぐような嬌声をあげた。まあ、やはり肉体関係にはあるのだろう。となると2人の数字が316と0では話がおかしいので、これはセックスの回数ではない。




 窓際の社員がビルの下を覗き込んでいる。他の社員も窓際に駆け寄り下を見る。何かの破裂音が聞こえて若手の事務員が悲鳴を上げた。おれも窓まで走って、下を見ると古めかしい軍用コートを来た若者がアサルトライフルを構えて通行人に射撃をしているのが見えた。上に向けて撃つ輩もいるのですぐに窓の下に身を隠した。最近銃撃事件が増えていると聞いていたがこんな身近で起こるとは考えてもいなかった。出入り口の方で悲鳴がして、3の女が走ってきた。ドラムの音が聞こえると3は転がるように倒れてデスクに勢いよく突っ伏して、数字は消えた。入口には覆面の6が立っていた。3の男が3だった女に駆け寄るとまたドラムロールがして、3は消え、6は7になった。3と3が消えて0様が叫びながら立ち上がると、7の撃った弾丸がその脂肪を引き裂いて0を消し7は8になった。316はやたら頑丈な社長専用デスクに身を伏せて、引き出しから拳銃を取り出していた。おれの方を見て、指でしつこくハンドサインを出している。どうやら8の前に飛び出して注意を引き、隙を作れと言っているようだ。316の命令では仕方がない。おれは全部諦めて8の前に飛び出した。それが9になってすぐに頭を撃たれて消え、社長の数字が増えるのまでは見えた。おれは満足だ。

レピュニット

2024年11月6日 発行 初版

著  者:黒谷第九
発  行:FPLF自由出版解放戦線

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