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多忙なあなたへ、日々の楽しみを

木公島 まあ由々 よぎぼ 大町揺 北雲みなみ 十時間睡眠

二松学舎大学



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 目 次

Z世代との話題作り、サブカルを知る

木公島

シュミのテビキ!〜音楽編〜

まあ由々

ゲームを好きになるために

よぎぼ

キャラクターのゲームコラボはどのような形であるべきか

大町揺

貴方の移動時間に彩を

北雲みなみ

最強の推しが、私にくれたもの

十時間睡眠

Z世代との話題作り、サブカルを知る

木公島

Z世代との話題作り、サブカルを知る

木公島

サブカルの知り方、始め方

はじめに

 本稿では、自称、多趣味なオタク(ゲーム、マンガ、楽器、書道等)である私が、これまでどのようにサブカルチャーに触れてきたのかについて、経験と友人達に聞いた話から、他のことにも時間を割きつつサブカルチャーを楽しむ方法を提案、紹介します。
 これまでサブカルチャーにあまり触れてこなかったような人でも、Z世代を始めとする若者との話題をつくる入り口になれれば幸いに思います。

サブカルチャーとは

 サブカルチャー(以降サブカル)とは、メインカルチャー(マスカルチャー)の対義語にあたる言葉で、主流文化とはことなり、一部の集団に支持される文化の事を指します。
 簡単な例を挙げると、テレビやピクニックといった誰もが親しむような文化をメインカルチャ―。アニメやマンガ、ゲームといった、一部の人々に好まれていたような文化をサブカルチャーと呼びます。
 また、サブカルチャーは、ハイカルチャーとの区別で表されることもあります。
 ハイカルチャーとは、オーケストラや絵画など、かつて上流階級が嗜んでいたような、歴史的にみても高い完成度を誇る文化です。ハイカルチャーが、楽しむために教養や素養を必要とする一方で、サブカルチャーは誰もが楽しめる大衆娯楽、という点で区別、対比されています。
 近年はアニメやマンガといった、もとは少数に好まれているような文化が大衆にも認められ、メインカルチャ―とサブカルチャーの境界が曖昧になっています。
 本稿ではこれらアニメ・マンガ・ゲームなどサブカルチャーのなかでも大衆性が高く、代表的なものについて扱っていきますが、かつて少数に愛されていたオカルトやヘヴィメタ、大衆娯楽であった芸能人や映画に関してもサブカルチャーとして扱われる事があります。

サブカルの情報はどこから?

 サブカルの情報はどこから仕入れれば良いのでしょうか? もちろん、そのコンテンツを提供する出版社や製作者といった、公式サイトや公式のX(旧Twitter)などを尋ねれば現在どんな作品が公開あるいは販売されているかがわかります。
 しかし、毎回時間をかけてそういった情報源にアクセスするのは手間ですし、自分の知らない公式から面白い作品が出てこないとも限りません。私は、そういった情報源に自らアクセスする事は少ないですし、私の友人達も同様でした。むしろ、情報が向こうから流れてくるようになっています。
 サブカルといわれる作品は、基本的には商業作品です。制作サイドとしても、多くの人に作品を楽しんでもらいたいし、楽しんでもらわないと採算が取れないといったことになります。ですから、さまざまな広報活動を行なって、各所に情報が流れるようにします。サブカルにおけるその最大手が、SNSです。今や、どんなジャンルの作品でもX(旧Twitter)やTikTokを利用し人の目に留まろうとしますし、その情報をYouTubeなどで二次的に拡散する事により、収益を集めたり、自己承認欲求を満たす人々もいます。情報自体は、インターネットにたくさん流れているのです。
 けれども、自分の所には流れてこない。それはなぜなのでしょう。
 X(旧Twitter)を始め各種SNSでは、アルゴリズムによって情報の偏りが発生します。SNSでは各利用者の好みを判断し、その傾向に合わせたものだけがその人のタイムラインに流れるようになっているのです。
 例えば、猫の動画ばかりを見て、いいねや拡散をしていれば、その利用者は猫の動画が好きなのだとアルゴリズムが判断し、猫の動画ばかりが流れてくるようになります。これを利用し、アニメやゲームといった、自身の関心のあるサブカルに関する情報を多く閲覧すると、それらの最新情報が向こうからやってくるようになるのです。
 いくつもアカウントを所持し、それらを興味関心ごとに使い分ける人が多く存在するのには、このような背景もあります。
 YouTubeやTikTokといった、一見情報収集向けではないプラットフォームでも、常に情報が流れてくるからこそ最新の情報を手に入れられているといえます。

趣味に関連したサブカルチャー

 この文章を読む多くの人が、おそらくすでに何かしらの趣味をお持ちになっている事でしょう。それが楽器演奏、またはYouTubeの閲覧であろうと、何かしらの余暇時間の過ごし方をお持ちのはずです。その趣味の延長として、サブカルに触れていくことができれば比較的触れやすいでしょう。
 例えば、『ウマ娘 プリティーダービー』という作品があります。原作はCygamesのスマートフォン向けゲームですが、マンガやアニメにもなった人気作品です。この作品は競馬がモチーフとなっており、美少女キャラクターになった競走馬のトレーナーとしてレースでの勝利を目指します。
 この作品では実在の競走馬がモチーフとなったキャラクターが出てきますので、競馬が好きだった人や、競走馬について知っていたような人が、美少女キャラクターに触れるきっかけとなったり、逆に、この作品がきっかけで競馬に興味を持つようになった人もいます。つまり、この作品を好きな相手であれば、ある程度は競馬の話が通じることになりますし、こういった既存の趣味と共通するサブカルであれば、新しい用語などを理解するのに割く労力をかなりなくすことができます。
 もちろん、競馬が好きだからこそ美少女化された競走馬が受け入れられない、という方も一定数おられるとは思いますが、あくまで既存の趣味と共通するサブカルの一例として紹介しました。
 題材として用いられているパターンの他にも、アニメにはオープニングとエンディングがありますから、好きなミュージシャンが楽曲を提供していないか、コラボの有無や、作品の舞台の地など、作品を取り巻く何かしらに結びつけることはおそらくどんな趣味でも可能です。貴金属制作をコンテンツ化しているVtuber、という存在もいるほど、サブカルの裾野は広がり続けています。

時と場を選ばないサブカルチャー

 サブカルチャーが想定するターゲットは、何も比較的時間のある学生だけではありません。むしろ、自由に使える大人をターゲットとした作品、工夫が多く存在します。
 現在、多くの作品やコンテンツが、いつでもどこでも楽しめる環境へと移り変わりつつあります。昔は一つのテレビを大勢で見てチャンネル争いをしていたそうですが、いまは各個人がそれぞれの携帯可能な端末で好きなものを楽しめる時代です。
 場所を選ばないサブカルですと、スマホでも見れるようになっているマンガや、移動中でも聞ける音楽は容易に想像できますよね。さらにはSwitchのような携帯ゲーム機の存在など、多くの物が小型化、軽量化された結果、場所に縛られる事はすくなくなっています。
 ゲームやマンガの構成も、腰を据えてじっくりと楽しむものも存在する一方、『ちいかわ』に代表されるような短いマンガ作品や、スマートフォン向けソーシャルゲームに多く見られるオート戦闘機能など、現代人向けに少ない時間でたのしめる工夫がなされています。ほんの少し空いた時間に、ちょっとした娯楽を挟んでみるのも、刺激になってよいかもしれません。

話題づくりとしてのサブカルチャー

若者とて、しっかり作品を理解しているわけではない

 若者同士がアニメやゲーム等、最近の文化について話す場合、何も各々の作品解釈について話しているわけではありません。「最近こんなアニメを見た」、「今度こんなゲームが出るらしい」、「あのマンガがアニメ化される」などなど、内容について話すことは、会話に加わっている二人以上がその作品に大きく感動したような場合をのぞいて、ほとんど無いと言ってよいでしょう。もしくは、相手が自分の好きな作品やキャラクターについて、その良さや面白さを伝えたい、といった場合が大半でしょう。
 なので、別にサブカルを話題の一つとして用いたい場合には、その作品を見る必要すらないのです。最低限、相手が何について話しているかを理解できれば、話し手は自分の話に対する批評を求めているわけでもないのです。これは一般的な会話全般にもいえることかもしれません。
 では、具体的にどのレベルの理解度で会話をしているのか、実体験に基づいて考えてみます。
 例えば、『fate』という作品が好きな友人がいて、その作品について、今度続編が公開される、という会話を振ってきました。当時の私の作品に対する理解は、作品としてのジャンルと有名なキャラクターを数人知っているレベルでした。そのレベルの理解度でも、「その作品ってこのキャラで出てくる作品だよね?」といった共感の会話や、ではそのキャラクターの声優は誰なのか、や続編の何が期待されているのか、といった話題を広げるような疑問を投げかけることが可能です。
 もちろん、多少は他の作品を見ているからこそできる会話や、自分もその作品が好きだからこそ話せる会話も存在はしますが、コアなファン同士の会話というものは、おうおうにして意見が食い違います。ですから、話題として挙げるからにはその作品をしっかり見る必要など本来はなく、重要なのは自分の好きがあることと、広く浅い理解があることといえます。

作品の一部だけを見る

 実際に話す内容として、作品全体にまたがるテーマよりも、有名なシーンやセリフについて話す場合が(私の観測範囲では)多いです。では何故そんなことが頻繁に起こるのかといえば、インターネット、主にSNSでは、各種戦闘シーンや名シーンの切り抜きが多く流通している事が理由として挙げられます。
 その切り抜かれたシーンをみて、そのシーンに関する感想や作品についての会話が生まれます。作品の一部だけをみて、あるいはそれについて色々な人と会話をすることで、おすすめされたり、自分の知らない作品の良さを知り、その作品全体を見てみたいと思うようになるわけです。
 このような会話の形は、映画や商品の広告、CMと似ています。映画で興味を惹くようなワンシーンを見せて人々の関心を集めたり、実際に商品を使用した様子を表現して、自分もそんな体験をしてみたいと思う構造と非常によく似ています。
 こうして考えると、多くの場合、サブカルについての会話は、より良い商品を得るための情報交換、という側面が強いのかもしれません。サブカルチャーといえども膨大な作品数がありますし、メジャーカルチャーと違い一定のクオリティが担保されていないものも存在するジャンル、というのが影響していることも考えられます。

ゲーム実況という時短装置

 アニメやマンガといった、受け手側が作品に介入することのないコンテンツと違い、ゲームは個人による体験の差が大きいと考えられます。中には、ゲームになれていないから物語を最後まで進められなかったり、操作に集中しすぎて作品を楽しむことができてない人も多く存在します。
 また、時間のきっかり決まっているアニメや、ページ数の決まっているマンガなどに比べて、所要時間が人によって大きく違ったり、長くなる傾向にあります。これはゲームという体験を重視したコンテンツの宿命ともいえるのですが、それを解決するのが、ゲーム実況です。
 ゲーム実況はご存じでしょうか。YouTubeやニコニコ動画といったプラットフォームで、ゲームのプレイ映像に実況という形の語りを加えたもので、映像がカット編集されている場合がほとんどで、ゲームの内容をテンポよく視聴することに長けています。また、感想を共有する相手が常に存在する、自分が分からなくてもゲームを実況する人間が感想を代弁してくれる、という点で、誰でも楽にゲームを楽しむことができるようになっているといえます。
 また、時間に関しても、実際にプレイする場合よりもかなり短縮されており、自分でプレイしなくても、効率よくかつ手軽にゲームをプレイすることに近い体験が得られます。
 実況している人物そのものがコンテンツとしてなりたっているものも多ければ、独自の楽しみ方をしている場合もあり、ゲームに関する話題の獲得、という面では非常に優れたメディアだといえます。
 この時短装置は他のコンテンツにも同様のことが言え、マンガやアニメといった諸作品をまとめた動画や、各種流行っているコンテンツを実際に体験している様子を、多くの人が映像として投稿しています。しかしながら、これらはあくまでゲームや映画などの著作権者が認めた作品にのみ許された行為であり、中には違法なものも存在します。同様のケースで著作権侵害により逮捕される事例もあるため、視聴の際には気に留めておく必要があるでしょう。
 それでも、若者がこぞって隙間時間にスマホで動画を見ているのは、こういった理由やメリットがあるからだ、とも考えられます。

まとめ

 サブカルチャー、主にアニメ、マンガ、ゲームに関する入門知識ともいえる内容を、主に実体験をもとに紹介させていただきました。ここまで話題の獲得を目的として説明を行いましたが、個人的な意見を申し上げれば、このサブカルチャーに触れていく過程こそコミュニケーションの題材となる大きな話題だと考えます。サブカルチャーを巡ったインターネットとコンテンツとの付き合い方について、世代を跨いだコミュニケーションの一助となれたことを願います。

シュミのテビキ!

〜音楽編〜

まあ由々

シュミのテビキ!~音楽編~

まあ由々

プロローグ

 趣味が細分化している現代。国外のコンテンツにも容易に触れられるようになり、選択肢が広がった。しかし、選択肢が多すぎて何が良いか分からず、趣味を決めにくいのが現状である。私は正直、多趣味である。また、ハマってしまうと没頭し、自分がハマっている話題を誰かと共有したいと思う節がある。そこで、迷える皆さんのために「趣味、その先の沼を見つけるお手伝いをしたい。」という思いで「手引き」としてこの本を執筆するに至った。今回は、「音楽編」と題して、音楽にまつわるコンテンツに絞った内容となっている。これは、ラヴァー達による趣味愛溢れる本。私達の色々な「好き」が伝わっていたら幸いである。

ミュージカルへのテビキ!~劇団四季『美女と野獣』~

劇団四季とは

 私が今回紹介するのは、ミュージカルの世界。中でも劇団四季が手掛ける作品である。「劇団四季」と言うと、CMや電車内の広告で一度は見聞きしたことがある知名度の高い劇団である。まずは劇団四季について説明しよう。以下が公式サイトに書かれた概要である。

劇団四季は、俳優・技術スタッフ・経営スタッフ約1,700名で組織された、世界的に見ても最大規模の演劇集団です。日本国内に専用劇場を持ち、ストレートプレイ(芝居)、オリジナルミュージカル、海外ミュージカル、ファミリーミュージカルなど幅広いレパートリーを上演しています。(※1)

劇団四季では東京、大阪、名古屋に専用劇場を持ち、さらに札幌、仙台、静岡、広島、福岡にオフィスを設置し、日本全国で公演をしています。(※2)

 そんな彼らは、ディズニー映画のミュージカル作品を多く上演している。

・『ライオンキング』(有明四季劇場、ロングラン上演)
・『アラジン』(電通四季劇場[海]、ロングラン上演)
・『アナと雪の女王』(JR東日本四季劇場[春]、ロングラン上演)
・『美女と野獣』(舞浜アンフィアシアター、ロングラン上演)
・『ノートルダムの鐘』(現在、公演予定なし)
・『リトルマーメイド』(現在、公演予定なし)(※3)

 他にも最近、実写映画版にアリアナ・グランデが出演したことで話題になった『ウィキッド ふたりの魔女』や『オペラ座の怪人』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など多くの作品を上演しており、ストレートプレイやコンサート公演とミュージカル以外にも幅広く展開している。劇場によって上演している作品が異なるため、席の予約が完了した際には、時間や席の番号だけでなく、劇場の場所も確認して行くことを大いにおすすめする。

ミュージカル『美女と野獣』とは

 劇団四季について何となく分かっていただけたところで、今回取り上げる『美女と野獣』について公式サイトを元に説明をしておく。(※4)

東京ディズニーリゾート(R)内に位置する舞浜アンフィシアター(千葉・舞浜)にて、2022年10月よりロングラン上演中のディズニーミュージカル『美女と野獣』。

『美女と野獣』は、エンターテインメントの雄・ディズニーが、演劇ビジネスに初進出した作品です。ディズニー・シアトリカル・プロダクションズの手により1994年にアメリカ・ブロードウェイで初演されて以来、世界中で大ヒットを記録しました。
劇団四季では、翌1995年に「東京・大阪同時ロングラン」という前代未聞の上演方式で初演。
(中略)
オリジナルバージョンの芯の部分はそのままに、おとぎ話でありながらも今を生きる人々がより共感できる、モダンな舞台へと生まれ変わりました。

提携25周年を超えるディズニー・シアトリカル・プロダクションズと劇団四季のパートナーシップは、この『美女と野獣』が原点。

 また、以下が公式サイトに記載されたストーリーからの抜粋である。(※4)

昔、ある国の光り輝く城に、若くて美しい王子が住んでいました。
(中略)
ある寒い夜、城にみすぼらしい老婆がやってきて、一輪のバラの花と引き換えに宿を乞いますが、王子は老婆のみにくい姿を嫌って追い払います。
「外見で人を判断してはいけない」と説く老婆を、王子が再び追い払おうとしたとたん、 彼女は魔法使いに変身し、王子をみにくい野獣に、召使いたちを「もの」に変えてしまいました。
魔法使いはいいます。「バラの花が散る前に王子が人を愛し、 愛されなければ魔法は解けず、永遠に人間に戻ることはできない、――と。

ある日、近くの村に住む美しくて聡明な娘ベルが、城に迷い込んできました。
召使いたちは魔法を解くチャンスだとベルをもてなします。
一方、野獣は次第にベルに思いを寄せますが、愛を伝える術を知らず悩み、また自分のみにくい姿を恥じて苦しむのでした。
(中略)
お互いの優しさに気づき、少しずつ心が通いはじめた二人。
しかし、バラの花は日に日に散ってゆき、野獣の身にも危険が迫ります。
二人が愛し愛され、魔法が解ける日は来るのでしょうか……。

 『美女と野獣』は、ディズニーの中でもクラシックに分類される作品で「外見に捕らわれない真実の愛」がテーマである。巨匠アラン・メンケン作の楽曲や個性あふれるキャラクター達により人気を博し、今もなお愛され続けている普及の名作の一つである。実写映画も2作品公開されている。ディズニーが原作のものと、フランスに昔から伝わるおとぎ話に準じて作られたものである。後者の作品は、現在広く知られる物語の元となっている。ディズニー実写版『美女と野獣』では『ハリー・ポッターシリーズ』でハーマイオニーを務めたエマ・ワトソンがベル役だったことも話題になった。また、シーンやビジュアルの再現度には注目が集まった。有名なあのダンスシーンを待ちわびたファンは少なくなかっただろう。そして、2022年、舞浜アンフィシアターにてミュージカルとして『美女と野獣』の世界観を体験できることになる。私は公演2年目の冬に観に行き、今でも初めて観た時のことを覚えている。

魅力①原作が「ディズニー映画」

 いよいよここから、劇団四季ミュージカル『美女と野獣』へのテビキをしていく。「最初は歌唱力やパフォーマンス力などを挙げてくるんだろ?」と思っていただろう。もちろん、そこも触れるが、第一の魅力として「原作がディズニー映画」と挙げた理由は私が観劇にハマるきっかけになったからである。ミュージカル、舞台の類いはどうしても「内容が難しいし、ハードルが高いから私なんか到底行けない。」と思いがちである。私も同意見であった。しかし、原作が有名なディズニー作品であることでストーリーがイメージしやすく、劇中で歌唱する楽曲に訳の違いが多少あるが、自分が知っている内容とほぼ同じで映画を観ているような安心感がある。私からすればその微細な違いも楽しさの一つである。ディズニー映画ではなく本来の原作を重視している作品も中にはあるので比較して観るのはおすすめである。『美女と野獣』でも僅かながら違いがあるので探してみてほしい。そして、世界的に大人気コンテンツであるディズニー原作のミュージカルは劇団四季でしか味わえないのである。この特異性とディズニーブランドの人気、それと安心感によりハードルの高さが幾分か解消されるのである。
 立地的にも行きたくなる理由がある。『美女と野獣』を上演している劇場の最寄りが東京ディズニーリゾートと同じ舞浜駅だからである。東京ディズニーリゾートは午後五時から入園できるウィークナイトパスポートやミュージカルのチケット代込みのチケットプランを提供している。事前に購入しておけば、観劇が終わった数時間後には魔法の国で写真を撮ったり、ついさっき観劇した作品のアトラクションに乗ったりとミュージカルの余韻を楽しめる。また、丸一日満喫できてお出かけプランとしても良質なものと言えるのではないだろうか。

魅力②ハンパないパフォーマンス力

 劇団四季の歌唱力・演技力・ダンススキルの高さ。ここは絶対に抑えておきたい点である。ここまでレベルの高いパフォーマンスができるのは、劇団四季のかねてからのポリシーとそれに基づいた練習や採用形式に秘訣がある。以下は、会社概要に記載されているパフォーマンスにおける内容である(※1)。

またその一例が、四季の舞台に貫かれている厳格な実力主義です。テレビや映画などで有名なスターを、その知名度を生かしてキャスティングすることはありません。舞台俳優にとって重要なのは、知名度よりも観客を感動させる技術と能力です。俳優は作品を輝かせるために存在するのであって、その逆ではありません。

四季は全ての実力ある俳優たちに門戸を開き、公平なオーディションを通してキャストを決定します。日本の四季以外の劇団や興行会社では、これとは逆の「スター主義」を採るところも少なくありません。しかし四季が、一劇団としては日本最大の観客動員を実現しているのは、作品のクオリティを最優先に考える舞台造りに、多くのお客様が共感してくださっているからに違いありません。(※1)

 さらに、キャストの層の厚さが質の高い公演を維持する要因である。『美女と野獣』はロングラン、二部制なので、シフト制になっている。一役あたり2〜3人配役される。この層の厚さが毎年のロングラン公演を支えている。ファンとしては、各キャラクターのキャストの組み合わせが異なるので同じ作品で色々なベル、色々な野獣やガストンを楽しめるのも醍醐味である。推しのキャスト、組み合わせが出来たならそれ目当てに行くのもまた楽しい。それに加え、大人気ナンバーを歌うのだから大号泣である。超有名曲『Beauty and Beast』のダンスシーンでは幸福感と甘く愛しい雰囲気に包まれる。この楽曲は『美女と野獣』のメインソングと言っても過言ではない。しかし、主役である王子とプリンセスが歌唱せずダンスと表情で魅せるという構図が珍しく、観客が没入できるポイントである。曲自体を歌うのはポット夫人だが、「あくまで私は語り部。しかし、王子が本当の愛を見つけたことが嬉しくてたまらない。」といった面持ちと歌声が何とも印象的なのである。
 ディズニーには世界中のファンがいる。国内だけでも相当だろう。そのため、期待値やプレッシャーのかかり方が尋常ではない。それでも、毎回その期待すら優に超えてくるのが劇団四季である。どうしても何度も観たくなってしまうのは必然である。

魅力③豪華絢爛なセットと衣装

 セットと衣装も触れなければならない魅力の一つである。世界観を作るには、背景、小道具、衣装のそれぞれが緻密で再現性の高いものでなければならない。その点において劇団四季のセットや衣装は本当に良く作りこまれている。そのため、美女と野獣の世界観に没入することは容易である。劇場に入って一番最初に思うことは「幕のデザインすげえ。」これに尽きる。金と赤でバラ模様がデザインされており、ベルが作中で進む茨道を彷彿とさせる。ストーリー上、王子に仕える者達が「もの」になっている。歌唱シーンがあるため、小道具で代用することはできない。人間が務めるしかなく「ものらしさ」が無くなりそうなところだが、衣装の形や色彩でクリアしている。むしろ、人間味があり等身大であることから、自分も「もの」になったような気持ちになる。私が印象的だったのは、野獣の姿の王子である。実写映画では、獣感を出すためにモーションキャプチャーを駆使しているのに対して、ミュージカルはメイクと小道具でどうにかしている。顔の部分は人間のもの。体の部分は着ぐるみチックに見える。胸板の厚さやシルエット、ベルと並んだ時の身長差で再現性の高さが伺える。キャストが日本人で構成されているため、国外の作品と比べるとサイズ感は小さいと言えるが、出演者全体のサイズバランスが良いのでさほど気にならない。
 初めて観劇する、とセットまで目がいかないだろうが、実は感心することばかりである。ステージは半円型になっており、床が回転する仕組みである。お城のシーンは高低差を上手く利用し城の広大さを表現している。また、冒頭のベルが住む村のシーンでは、暖かな色合いでおとぎ話感が強い。これからベルに起こる壮絶な出来事とのコントラストを表現しているとも取れる。セットや衣装をじっくり見たいのであれば前列を「キャンセル拾い」をしてゲットすると良い。前列でなくても、中央列であれば演出が分かりやすいだろう。

魅力④こだわった内外装と絶対欲しくなる劇団四季グッズ

 劇団四季は、観客が通る導線にさえ力を入れている。まず、アンフィアシアターの入口前に『美女と野獣』のポスターが大きく掲示されている。そこで一緒に写真を撮る人は多い。パンフレットなどを買って一緒に撮るのも良いかもしれない。ポスター掲示は複数あるので回転率も速い。また、シアター内にはTULLY’S COFFEEがあり施設内で飲食が可能である。
 グッズショップは、そこでしか売っていないアイテムばかりで必見である。個人的に小物系がめちゃくちゃ可愛い。私のお気に入りは、バラバッグチャームとチケットフォルダである。バラバッグチャームは大きなバラが特徴的で皮生地になっている。粗めの縫い目が余計に可愛いハート型の金属チャームは向かい合った王子とベルの横顔がデザインされている。加えてリングが二つ付いているのでストラップとしての機能性も高い。続いてチケットフォルダだが、ミュージカルでなくても紙媒体のチケットを保存する際に大変便利である。デザインはメインポスターと同様のものでゴージャスな配色がより特別感を演出している。コスパが良く、お財布に優しい点もおすすめの理由である。

画像出典:劇団四季オフィシャルウェブサイト バラバッグチャーム https://shop.shiki.jp/%e7%be%8e%e5%a5%b3%e3%81%a8%e9%87%8e%e7%8d%a3/category/0/621/?dpcnt=15&img=2&sort=04&udns=0&fpfl=0&pno=1
画像出典:劇団四季オフィシャルウェブサイト チケットフォルダ https://shop.shiki.jp/%e7%be%8e%e5%a5%b3%e3%81%a8%e9%87%8e%e7%8d%a3+%e3%83%81%e3%82%b1%e3%83%83%e3%83%88%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%ab%e3%83%80/product/0/04256-00/?cat=621


 最後に、施設内の写真スポットを紹介しこの節を終えようと思う。劇場を出て施設内右側トイレ付近に設置されているフォトスポットがある。そこには、作品と関わる重要なアイテムオブジェがガラスケースに入っている。今回は、あえて写真を出さない。ぜひ足を劇場に足を運んで確認してみてほしい。そのフォトスポットの背景パネルには日付が掲示されており自分がいつ観に来たのか分かる。記念写真としてうってつけである。別日の公演を観てまた写真を撮る。すると、コレクションが出来上がっていく。きっとその写真を見返してニマニマしてしまうことは間違いない。好きなものを「集める」作業は趣味化への第一歩である。

終わりに

 いかがだっただろうか。劇団四季、ミュージカル『美女と野獣』への「好き」を熱く語ってきた。これを読んで「観に行きたい!」、「少し劇団四季のサイトを開いてみようかな。」と思っていただけたら嬉しい限りである。あとは、劇団四季および『美女と野獣』の魅力の数々が沼へと引きずり込んでくれるので心配は無用である。YouTubeやXにPR動画や稽古場の映像があり、ミュージカルを観に行く前日にはこれらを観てモチベーションを高めておくと良いだろう。また、後方からでもキャストの表情が見えるので、席がステージから遠い場合は双眼鏡やオペラグラスを購入もしくは持参すると良い。
 趣味とは、たとえ歴が短く、流行ではなくてもそのコンテンツへの愛さえあれば、いくらでもハマることはできる。もっと言うと、教えられて好きになる場合もあるが、大体は偶然見つけて気づいたらハマってたことがほとんどである。しかし、「好き」を共有することで友人と行く場所が増えたり、バイト先の子と仲良くできるきっかけになるのではないだろうか。

参考文献

(※1)劇団四季会社概要 劇団四季とは
https://www.shiki.jp/group/company/about.html
(※2)劇団四季会社概要 事業所一覧
https://www.shiki.jp/group/company/office.html
(※3)劇団四季会社概要 上演作品リスト
https://www.shiki.jp/group/company/performances.html
(※4)劇団四季 『美女と野獣』作品紹介
https://www.shiki.jp/applause/bb/#section_2

ゲームを好きになるために

よぎぼ

ゲームを好きになるために

よぎぼ

冒険のすべてがここにある――ファイナルファンタジーの世界へ

「ファイナルファンタジー(FF)」という名前には、なぜか不思議な魔力がある。ゲームに詳しくない人でも、その響きにはどこかロマンを感じるのではないだろうか。しかし同時に、「シリーズが多すぎて、どこから始めていいか分からない」「なんとなくハードルが高そう」と感じている人も少なくない。実際、1987年の第1作から始まり、30年以上にわたって続いているこのシリーズは、ナンバリングタイトルだけでも15作以上、派生作品を含めればその数は膨大だ。
 だが、だからこそ、どこかひとつでも「自分に合った作品」に出会えたとき、その感動は何倍にもなる。そして、ファイナルファンタジーという作品群には、必ずどこかに〝あなたが冒険を始めたくなる入口〟がある。

感情で動く冒険者たちと、ともに旅をする

 たとえば『ファイナルファンタジーX』。この作品は、シリーズの中でも特に物語性が高く、「プレイヤー自身が映画の主人公になる」ような体験ができる。主人公ティーダは、スポーツを愛する現代の少年。彼が突如、異世界「スピラ」に放り込まれたところから物語は始まる。
 そこは、巨大な災厄「シン」に脅かされる世界。人々は、祈りと信仰によって生きながらえている。ティーダは召喚士ユウナと出会い、彼女の〝シンを倒す旅〟に同行することになる。この旅の中で、彼らが交わす言葉、直面する別れ、そして明らかになっていく運命の真相は、あまりにも切なく、そして美しい。
 この作品の魅力は、ただストーリーが感動的というだけでなく、「その世界に生きている人々の感情」に触れることができる点にある。登場人物たちは悩み、迷い、ときに立ち止まりながらも進んでいく。まるで自分もその一員として、旅の空気を吸い、心を震わせているような感覚になる。

ひとりでなく、みんなでつくる物語もある

 もうひとつ紹介したいのは、『ファイナルファンタジーⅩⅣ』。これはオンラインRPG、つまりインターネットを介して他のプレイヤーと一緒に冒険するタイプのゲームだ。
「知らない人と遊ぶなんて不安」と思うかもしれない。けれど、FFⅩⅣは驚くほど〝やさしい世界〟でもある。プレイヤーたちは自分のアバター(キャラクター)を作り、壮大な世界「エオルゼア」で生活を始める。戦士になって魔物を倒したり、料理人として素材を集めたり、裁縫師として服を作ったり。まるでひとつの世界がそこに存在していて、自分もその一員として生きていくことができる。
 特に感動的なのは、ストーリーが今も続いているということだ。サービス開始から10年以上が経つ今も、定期的に新しい物語が追加されている。あなたがプレイを始めたとき、他の誰かも同じように新しい物語に出会っているかもしれない。そして、ともに困難を乗り越える中で、気づけば「ゲームの中に、本物の仲間ができていた」なんてこともある。

音楽とグラフィックの融合が創り出す〝記憶に残る瞬間〟

 FFシリーズのもう一つの強みは、「視覚と聴覚」に強く訴えかけてくるところだ。植松伸夫や祖堅正慶など、ゲーム音楽界の巨匠たちが手がけた楽曲の数々は、どれもただのBGMではない。ストーリーの転換点や別れの場面で流れる音楽は、まるで映画のように感動を増幅させる。画面の向こうでキャラクターが涙を流すとき、自分の心も震えている。そんな経験を、FFはごく自然にプレイヤーに与えてくれる。

「難しそう」と感じる人へ――まずは〝どこか〟から始めてみてほしい

 もしあなたが「ゲームは苦手」と思っているなら、FFはむしろ最適な選択肢だ。なぜなら、シリーズごとにテーマや操作性が大きく異なるからだ。アクション性を重視したいなら『FFⅦリメイク』、ストーリー重視なら『FFⅩ』、みんなと一緒に進めたいなら『FFⅩⅣ』。自分に合った一本から、ゆっくり始めることができる。
 ゲームを通して涙を流したことがない人にこそ、FFをやってみてほしい。感動は、画面の向こうではなく、自分の中に起こる。そしてその一歩を踏み出したとき、あなたもきっとこう思うはずだ。

「こんなにも深く、美しい世界があったなんて」と。

メグが泣けば世界が滅びる――『メグとばけもの』

「こんなにもやさしいゲームがあっていいのか」
『メグとばけもの』をプレイしたあと、最初に思ったのはそのことだった。

 この作品は、グラフィックも操作もシンプルなノベルゲームである。選択肢を選んで物語を進める一本道のストーリー。戦闘らしきものはあるが、一般的なゲームにあるような複雑な戦略性はない。だがそれにもかかわらず、あるいはそれだからこそ、このゲームは、プレイヤーの「感情」に深く触れてくる。

小さな女の子とばけものが、心を通わせるまでの物語

 物語は、母親を探している幼い少女・メグが、ふとした拍子に地底世界へと落ちてしまうところから始まる。そこで出会うのが、二体のばけもの――ロイとゴラン。彼らは最初、メグを「食料」として認識し、襲いかかろうとする。だが、メグが泣き出した瞬間、世界に異変が起きる。
 〝ドクン〟と脈打つ音と共に、空間が軋み、すべてが崩れそうになる。ばけものたちは、その原因がメグの「涙」にあることを悟る。

「この子を泣かせてはいけない」

 世界を壊すほどの涙を持つ少女。その日から、ロイとゴランは〝メグを泣かせない〟ために行動をともにするようになる。そして始まるのは、心と心の距離を縮めていく、小さな三人の旅路だ。

感情で進む〝バトル〟――プレイヤーの心を問われるゲームシステム

 このゲームの独特な点は、感情とバトルが密接に結びついていることだ。
 ロイは圧倒的な戦闘能力を誇るばけもので、敵を一撃で粉砕するほどの力を持っている。しかし、彼が傷つくと、そばにいるメグも同時に苦しむ。そしてメグが一定以上のストレスを受けて泣き出してしまうと、ゲームは〝世界の終わり〟として強制終了する。つまり、プレイヤーはただ敵を倒せばいいのではなく、「いかにしてメグを安心させ続けるか」に頭を使う必要がある。
 メグをあやす、話しかける、遊んであげる――そうした行動が〝戦術〟になる。通常のゲームでは軽視されがちな「感情のケア」が、ここでは物語を進める上で最も重要な要素となっている。だからこそ、プレイヤーはロイと共に、〝誰かの気持ちを守る〟という新しい戦いに挑むことになる。

メグの心を通して描かれる、「誰かを理解する」ということ

 ゲームを進めていくと、メグがなぜここにいるのか、母を探す理由は何なのか、ばけものたちはなぜ人間を食べるのか、といった背景が少しずつ明かされていく。その過程で、ロイやゴランの感情も変化していく。とくにロイは、「感情を持たないばけもの」だった自分に、〝心〟が宿っていく過程をプレイヤーとともに体験していく。
 メグはただの「少女」ではなく、愛されること、優しくされることに飢えていた子どもであり、ロイはそれに気づきながら、何も言葉にせず、ただそばにいることを選ぶ。ここには、説明や正義を超えた「共感」がある。
 ゲームというより、一編の童話のようだ。セリフのひとつひとつがやわらかく、だが確かに胸を突いてくる。

このゲームの魅力とは何か

『メグとばけもの』の魅力は、ひとことで言えば「寄り添いの物語」であるということだ。
 誰かを守ること、理解しようとすること、それでもすれ違ってしまうこと。そうした人間の根源的な営みが、あえて〝ばけもの〟と〝少女〟という距離感のある存在を通して描かれている。それが逆に、普遍的な感情をむきだしで伝えてくる。
 さらに、このゲームは「死」や「喪失」といったテーマにも静かに触れている。だが、決して重くはない。なぜなら、そこには必ず〝希望〟があるからだ。プレイヤーが最後にたどりつくのは、「泣くことは、終わりではない」という優しい真実だ。

はじめてゲームをやる人にこそ、やってほしい

 難しい操作もない。時間もさほどかからない。だけど、深く心をえぐってくる。それが『メグとばけもの』である。
 ゲームに苦手意識を持っている人にこそ、むしろこの作品を手に取ってほしい。そこには〝戦い〟ではなく〝つながり〟がある。そしてそのつながりの中で、プレイヤーは〝泣いてはいけない少女〟のために、ただそっと手を差し伸べることになるだろう。
「守りたい」という気持ちが、ゲームのすべてを動かしていく。そんな体験が、ここにはある。

VALORANTで知る〝戦う〟ということ

「自分にこのゲームは無理かもしれない」
 そう思ったことがある人は、きっと少なくないだろう。とくに「FPS(ファースト・パーソン・シューティング)」と呼ばれるジャンルのゲームを前にしたとき、その不安は強くなる。

「反射神経がないとダメなんでしょ」
「画面がぐるぐるして酔ってしまう」
「一瞬でやられて、全然面白くなかった」

 たしかに、FPSは〝人を選ぶ〟ジャンルかもしれない。だが、『VALORANT(ヴァロラント)』は、そうした先入観を覆す、極めて〝誠実なゲーム〟でもある。もしあなたが「苦手意識があるから」と避けていたとしたら、それは本当に惜しいことだ。

 VALORANTは、ただの撃ち合いではない。そこにあるのは、〝戦うこと〟を通して人間性を磨くような、緻密で奥深い世界だ。

一瞬の判断がすべてを変える世界

 VALORANTは、ライアットゲームズが開発した5対5のチーム型FPSである。攻撃側と防御側に分かれ、ラウンドごとに爆弾を設置する/阻止するという目標をめぐって戦う。
 だがこのゲームの真髄は、「撃つこと」だけにあるのではない。
 試合が始まると、プレイヤーは自分のエージェント(キャラクター)を選び、特性の異なるスキルを駆使しながらマップを進む。音を聞き、足音を殺し、視線を交わし、相手の〝心〟を読む。たった一歩の動き、一発の射撃、一度のスキル使用が、勝敗を大きく分ける。
 緊張感は、常に張りつめている。だがそれが、堪らなくおもしろい。
 このゲームでは、「自分の判断で仲間を勝たせた」と感じられる瞬間がある。逆に、「自分の判断ミスで負けた」と強く責任を感じることもある。その積み重ねが、プレイヤーを〝成長させるゲーム〟へと変えていく。

〝才能〟ではなく〝工夫〟で勝つ

 VALORANTは、一見すると「反射神経が命」のように見えるが、実はそれだけでは通用しない。なぜなら、このゲームでは「知識」と「予測」がとても重要だからだ。
 敵の動き、武器の選択、マップの構造、スキルの組み合わせ。情報を集め、それをもとに「次にどう動くか」を考えることが、勝利への鍵となる。
 たとえば、あるラウンドで仲間が敵の位置を報告してくれたとする。その情報から、「敵はこのルートから来る可能性が高い」「あの角にスモークを投げておけば進行を止められる」と予測し、準備して待つ。そうやって作戦を立てて〝相手を出し抜く〟ことができた瞬間、このゲームの面白さが爆発する。
「センスがないから無理」と感じていた人こそ、VALORANTに触れてみてほしい。必要なのはセンスではなく、〝考える力〟なのだから。

仲間と戦うということ

 もう一つ、VALORANTの大きな特徴は、チームワークの重要性である。
 このゲームでは、自分がどれだけ強くても、チームで連携しなければ勝てない。逆に言えば、「自分が仲間のために動くことで、勝利をつかめる」喜びがある。仲間が設置したスキルに合わせて攻める。自分が盾となって時間を稼ぐ。そうやって、バラバラだったプレイヤーがひとつの意思で動き出す瞬間――そこには、まるで〝スポーツ〟のような感動がある。
 チャットやボイスチャット(VC)を通じて知らない人と連携するのが不安な人もいるかもしれない。だが、VCを使わなくてもピン機能や簡単なチャットで十分に協力は可能だ。そして何より、味方との〝無言の呼吸〟が合ったときの快感は、一度味わったらやみつきになる。
 勝っても、負けても、そこには常に学びがある。VALORANTは、単なる勝敗のゲームではない。「自分を磨く場」でもあるのだ。

FPS未経験者にこそ伝えたい、「VALORANTはやさしい」ということ

「FPSは怖い」「うまい人に迷惑をかけたくない」
 そんな不安を持っている人にこそ、VALORANTはおすすめできる。
 なぜなら、VALORANTのプレイヤーの多くは「味方に対してやさしい」からだ。もちろん例外もあるが、VCをつけてナイス! 惜しいナイストライ! という言葉が交わされたりもする。
 そして何より、「練習すれば、必ず上手くなる」ゲームだからだ。スキルの使い方の練習、マップを覚える努力、エイム(照準)を合わせる感覚……すべて、少しずつ積み上げることができる。
 気がつけば、敵に勝てるようになっている。気がつけば、仲間に「ナイス!」と褒められている。そんな瞬間が、確かにやってくる。

最初の一歩が、きっと人生を変える

 VALORANTは、他のゲームと違って、プレイヤーの〝内面〟と深く向き合うゲームだ。自分の弱さ、焦り、怖さ、そして成長。そういった感情のすべてが、このひとつのマッチの中に凝縮されている。
 だからこそ、やってみてほしい。ほんの少しでも興味があるなら、その一歩を踏み出してほしい。撃つことが怖くても、うまくいかなくても、それでもいい。あなたのその一歩が、チームの勝利に、そして自分の成長につながっていくから。
 VALORANTの世界には、あなたの挑戦を待っている場所が、きっとある。

参考文献

ファイナルファンタジーポータルサイト(SQUARE ENIX)
https://jp.finalfantasy.com/
メグとばけもの(Odencatoden cat)
https://odencat.com/bakemono/ja.html
VALORANT(RIOT games)
https://playvalorant.com/ja-jp/

キャラクターのゲームコラボはどのような形であるべきか

大町揺

キャラクターのゲームコラボはどのような形であるべきか

大町揺

はじめに

 テレビで放映されているアニメ、または原作マンガなどがもとになり制作されたアニメは、大きなヒットをすると既存のソーシャルゲームに新キャラクターとして実装されることが珍しくない。代表例としては『パズル&ドラゴンズ』、通称『パズドラ』が挙げられるだろう。『名探偵コナン』・『ONE PIECE』・『SPY×FAMILY』など名だたる作品がコラボしている。しかしあまりにも他作品とのコラボが多くなると、オムニバス作品のようになり、ゲーム本来の良さを損なう可能性があるのではないか。本稿では実際に筆者がプレイしたゲームも例に挙げ、論じる。

『UNION ARENA』

 デジタルゲームとは少し外れるが、『UNION ARENA』というトレーディングカードゲームを紹介したい。『UNION ARENA』の公式ホームページによると、「『UNION ARENA』は、1つのルールを覚えるだけで、大好きなキャラクター達のカードゲームを遊ぶことができる「ルール共通型トレーディングカードゲーム」です。」(※1)とある。例えば『HUNTER×HUNER』・『学園アイドルマスター』・『呪術廻戦』といった作品を同じカードゲームのルールの中で遊ぶことができるということであり、ゲームのコンセプトそのものがオムニバス形式なのである。

『妖怪ウォッチ ぷにぷに』コラボの事例

 次に『妖怪ウォッチ ぷにぷに』というゲームを紹介する。このゲームは2013年にLEVEL5から発売された『妖怪ウォッチ』(※2)から派生し、2015年にリリースされたソーシャルゲームだ。『妖怪ウォッチ』シリーズに登場した妖怪たちが一頭身にデフォルメされ、それらをつないで消していくシンプルなパズルゲームだ。
 このゲームも『パズドラ』と同じように他社作品とのコラボを何度かしている。5月1日~16日にはVtuberグループ『にじさんじ』とのコラボがあり、筆者はこのコラボのために『妖怪ウォッチ ぷにぷに』をインストールした。今回のコラボは『にじさんじ』に所属するライバーたちが『妖怪ウォッチ』キャラクターと同じようにデフォルメされ、ゲーム内ガチャや強敵を倒すことによってゲットし、ゲームで使うことができる。このコラボでの『にじさんじ』からの参加人数は非常に多く、ゲーム側のパーティ編成の最大人数が5人なのに対し、コラボキャラクターは11人参加となっており、『にじさんじ』のライバーだけでパーティ編成を行うことができる。これは『にじさんじ』ファンにとっては喜ばしいことである一方で、『妖怪ウォッチ ぷにぷに』のゲームシステムのみを体験し、『妖怪ウォッチ』側の要素を体験せずに終わるプレイヤーも多くいたのではないかと感じた。多少『妖怪ウォッチ』の既存キャラクターと『にじさんじ』ライバーとの会話イベントはあるが、今回のコラボで初めて『妖怪ウォッチ』に触れたプレイヤーは、『妖怪ウォッチ』という作品はどのようなものかを知らないままなのではないだろうか。こういったコラボはおそらく双方のユーザーにコンテンツの認知(今回であれば『妖怪ウォッチ ぷにぷに』および『妖怪ウォッチ』と『にじさんじ』)をさせることが最大の目的だと推測できる。『UNION ARENA』であればゲームシステムそのものが受け継がれていればそれでよいものの、『妖怪ウォッチ ぷにぷに』の場合、もともと原作がある上で、それを上塗りしかねない形でのコラボは果たして最大限の意味を成すことができるのだろうか。

望ましいゲームコラボの形とは

 では望ましいゲームコラボとはどのようなものか。次は『ポケコロツイン』というゲームを紹介する。このゲームは双子のキャラクターを思い思いに着せ替えたり、着せ替えたキャラクターを通じて他のプレイヤーとコミュニケーションがとれる、ソーシャルゲームである。『ポケコロツイン』も定期的に様々なキャラクターとのコラボをしている。2024年12月12日から約1カ月間、さきほどと同じ『にじさんじ』に所属する『ChroNoiR』というライバーのユニットとのコラボがあった。『ChroNoiR』は二人組のユニットであるため、双子の着せ替えをコンセプトとする『ポケコロツイン』と相性が良いため、コラボに抜擢されたのだろう。そしてこのコラボは、『ChroNoiR』の二人をイメージしたガチャの他に、他プレイヤーのココリウム(各プレイヤーが模様替えできるフィールド)に赴き、一定回数水やり(ココリウム内にある木へ各プレイヤーは水やりができる)をすることによって、コラボ限定アイテムを手に入れられることができるゲーム内ミッションも用意された。これによりコラボの要素以外の既存のガチャやコーディネートを見ることができ、継続プレイヤーの獲得につなげることができると感じた。そもそも『ポケコロツイン』内ではもともと、他社キャラクターをゲーム内のアイテムを使って再現するというユーザー発信の文化もあり、そことも結びついてコラボ後も遊ぶプレイヤーも見かけることができた。しかし『ポケコロツイン』は原作があるゲームではないため、『妖怪ウォッチ ぷにぷに』とは別種の事例として捉えなければならない。

まとめ

 『ポケコロツイン』のように原作が存在しないオリジナリティの高いゲームはコラボに求める要素が少ないため、他社の既存キャラクターとのコラボを自然な形で行うことができる。しかし『妖怪ウォッチ』といった原作があり、原作キャラクターが登場するゲームはゲームシステムの認知に加え、原作キャラクターの認知についても考える必要があるためバランスが難しい。原作キャラクターとコラボキャラクターの共存を図るのならば、原作キャラクターと親和性のある既存キャラクターとのコラボをしたり、コラボをする人数を絞ることでバランスをある程度保つことはできるのではないか。

参考文献

(※1)UNION ARENA はじめての方へ
https://www.unionarena-tcg.com/jp/beginners/

(※2)ゲーム妖怪ウォッチヒストリー|妖怪ウォッチ10周年記念特設サイト
https://www.youkai-watch.jp/10th-anniversary/history/

貴方の移動時間に彩を

北雲みなみ

貴方の移動時間に彩を

北雲みなみ

はじめに

 まず、はじめて本稿を読み始めてくださった貴方には、特大の感謝を申し上げたく思います。たくさんある本の中から、この作品を手に取っていただきまして、誠にありがとうございます。
 それでは、遅ればせながら、本稿の紹介をさせていただきます。本稿は皆様が普段過ごしている通学・通勤時間の使い方に疑問を付すものになっています。コンセプトは「普段の移動時間に付加価値を」。もちろん、皆様がしたいことが最優先であることには変わりありません。ですが、本稿をご覧の皆様がもしも普段とは違った特別な時間の使い方に少しでも興味を持たれるようでしたら、お役に立てるかもしれません。

読書の提案とおすすめ

 さて、本稿では読書を用いた時間の使い方を提案させていただきます。そうと言いましても、ひとえに読書と言っても様々な媒体があります。そのため、今回は学生時代に教科書で掲載されていた作品を再度読んでみるという取り組みをご提案させていただきます。具体的には、小学校、中学校、高等学校の3段階で、文学的文章というジャンルに絞って、紹介していきたいと思います。また文庫本など、書籍として入手しやすいことも、判断材料の一つとさせていただきます。

小学校編

・『少年の日の思い出』(ヘルマン・ヘッセ)
 さてはじめに紹介させていただくのは、ヘルマン・ヘッセ作『少年の日の思い出』という作品になります。このタイトルに覚えがない方々も、「エーミール」または「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」というフレーズには覚えがあるのではないでしょうか。この作品のあらすじを簡単に説明いたしますと、かつて蝶や蛾の収集に熱中していた少年であった「私」が少年時代の思い出として、近所に住んでいる「エーミール」とのやり取りを懐古するお話です。
 初めにこの作品を持ってきた理由といたしましては、先ほど申し上げたフレーズがとても強く、印象に残っているということもあります。ですが、それ以上に、岡田朝雄氏の翻訳がとても秀逸で、読みやすいことが理由になります。また、教科書で読んでいると該当作品しか読むことができませんが、電車の中で読みたい場合、文庫本などを購入する必要があります。その場合、この作品が掲載されている草思社の文庫本は短編集となっているため、同作者の他の作品に触れやすいというのも理由の一つになります。
 ヘルマン・ヘッセの世界観は純朴な日常生活を基盤としながらも人間の根本的な心理に触れているものが多く、大人が読んでも十分読み物として耐えうる完成度を誇っています。もしご興味があれば手に取っていただけると幸いです。またヘルマン・ヘッセの他の作品として、最も著名な『車輪の下』や『デミアン』などがあります。私個人としては、少しマイナーですが『シッダールタ』という作品もおすすめです。

中学校偏

・『夏の葬列』(山川方夫)
 さて、次に紹介させていただくのは山川方夫作『夏の葬列』という作品になります。正直に申し上げますと、本稿を読んでくださっている皆様方の中でこの作品をご存知の方はあまりいらっしゃらないかもしれません。それというのも、現在この作品を採録しているのは教育出版株式会社のみであり、内容も戦争に関わるデリケートなものであるため、最近はあまり教材として利用されていないと聞いています。それでも、この作品を紹介させていただきたい理由は、この作品はすでにパブリックドメインになっており、とても読みやすい状態になっていることと、その内容があまりにも衝撃的だからです。
 正直に打ち明けてしまいますと、私が本稿のテーマを教科書に掲載された作品にしようと思ったのはこの作品が根本にあります。少しでもこの作品の魅力を知ってくださる方が増えれば嬉しいと思い、今回採用させていただきました。
 さてあまりネタバレにならない程度にあらすじをご紹介いたしますと、出張帰りのサラリーマンだった主人公は、気まぐれから十数年前の小学校時代の自分が疎開していた農村に行くことにします。ですが、その気まぐれが彼に一生消えない傷を思い出させることになるというものです。
 この作品のインパクトはその結末にありますが、個人的にはそれ以上に主人公の心の揺れ動く様がとても美しく、そこに作品の魅力が詰まっていると思っています。忘れ去ろうとした過去から逃避し、それでも逃げ切ることができず自分の罪に正面から向き合わなければならなくなった主人公の諦観の笑みが簡単に脳裏に浮かぶ作品です。私は初めて読んだ時、作品自体の衝撃もさることながら、それ以上にこの作品が中学校の教科書に採用されているということ自体に凄まじい衝撃を受けました。
 本作品の紹介は以上となります。もしご興味を持たれた方は、この作品はパブリックドメインになっているため、青空文庫で読むことができます。ぜひご覧になってください。また「少女レイ」という曲を読んだ後に聞いていただけるとまた格別の味わいになると思いますので、もしご興味がありましたらお楽しみください。

高等学校

・『こころ』(夏目漱石)
 さて、最後にご紹介させていただくのは夏目漱石作『こころ』になります。この作品はほとんどの教科書で採用されており、その知名度も論じるまでもありません。ですが、きちんと最初から最後まで読んだことがある人となると、思いのほか多くないことに驚かされます。実際教科書に採用されている部分は本文における10パーセントほどしかありません。それではあまりにもったいないと思い、改めてこの場をお借りして紹介したいと思います。
 また移動時間にこの作品を読むことについて、この作品はもともと新聞に毎週掲載されていたこともあり、短い章がいくつも連なって構成されています。そのため、ストーリーを追いやすく、理解しやすいという点も今回紹介させていただく一因となりました。
 あらすじとして、1人鎌倉を旅行していた「私」は「先生」という人物と親しくなり、「先生」の家に通うようになります。しかし「先生」には暗い過去があり、「私」は手紙による独白の形でその過去を追体験していくというものになります。
 この作品の一番の魅力は何と言っても、先生の過去になります。親友のKと想い人のどちらを選択するのか。先生はその判断を一生悔やみ、死ぬまで過去にとらわれることとなってしまいます。そのどうしようもない普遍的な人間性の発露が、この作品が近代小説の中で最高峰とされる理由であり、今なお教科書で採用され続ける理由となるのかもしれません。
 意外に知られていないこの作品のポイントとしては、一番初め、「上 先生と私 一」の冒頭部分に『こころ』という作品全体に関わるキーワードが詰め込まれていることです。それは友人や家族、結婚やお金などのように、のちのち明らかになる先生の過去との類似性が見て取れます。そして、これはもちろん意図的なものであり、夏目漱石の構成力に改めて驚かされます。
 また、もし小説が読みづらいという方には漫画版も出版されていますので、そちらの方をご覧いただけると幸いでございます。また、最近はAudibleなど耳を使って楽しむ媒体も発達してきているので、そちらで楽しむということも素敵な選択肢だと思います。

おわりに

 ここまで読んでくださった皆様、誠にありがとうございました。こうして改めて振り返ってみると、「電車の中で読書をおすすめする本」というよりも「皆様に改めて読んで欲しい教科書の掲載作品ランキング」という方が近いものになってしまいました。ですが、本稿をご覧になり、もし電車内で読書することに対し、少しでも興味を持っていただく方がいらっしゃいましたら、それは何より喜ばしいことであります。
 昨今のコストパフォーマンスを求める風潮のためか、空いた時間の使い方について、とにかく自分を高めることに使うべきであるという論調をよく目にします。実際、そうして少ない時間でも前に進むことは有意義なことであり、大変素晴らしいことでしょう。ですが、本当にたまにで構いませんので、昔読んだ本をもう一度開いてみるのも一興なのかもしれません。
 改めて、ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。
 最後になりますが、皆様が健やかな時間を過ごされることをお祈り申し上げ、本稿の締めとさせていただきます。

【参考】

・ヘルマン・ヘッセ著、岡田朝雄訳『少年の日の思い出』(草思社、2016年2月8日)
・山川方夫『夏の葬列』
https://www.aozora.gr.jp/cards/001801/card59532.html
・『少女レイ』
https://www.youtube.com/watch?v=JW3N-HvU0MA
・夏目漱石『こころ』
https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card773.html

最強の推しが、私にくれたもの

十時間睡眠

最強の推しが、私にくれたもの

十時間睡眠

1.推しは世界最強馬、イクイノックス。

 私の推しは、競馬ファンから天才少年・世界最強馬と称されるイクイノックスです。
 戦績は10戦8勝(うちG1・6連勝)。主な勝ち鞍としては天皇賞・秋を2連覇、有馬記念、ドバイシーマクラッシック、宝塚記念、ジャパンカップなどが挙げられます。これらの実績により2022年にはJRA賞最優秀3歳牡馬および年度代表馬、2023年にはJRA賞最優秀4歳以上牡馬および年度代表馬に選出されました。また、2023年にはロンジン・ワールド・ベスト・レースホース・ランキングにおいて、日本の競走馬として史上最高記録の135ポンドを獲得し世界ランキング1位に輝き世界的名馬として知られています。
 加えて、種牡馬としては初年度の種付け料としてディープインパクト・コントレイルの1200万円を大きく上回る史上最高の2000万円に設定されました。

撮影:十時間睡眠(筆者)

2.イクイノックスとの出会い。

 私とイクイノックスの出会いは、2021年8月28日、新潟競馬場の芝1800mで行われた彼のデビュー戦でした。レースでは特に注目している馬がいたわけでもなく、ただ漠然とレースを眺めていた私の目に鮮烈な光景が飛び込んできました。それが、イクイノックスでした。
 各々の騎手に鞭を打たれながら他の馬が懸命に走る中、ただイクイノックスだけが鞭をほとんど使われることなく、まるで鼻歌でも歌っているかのように馬なりのままに後続を置き去りにしていき、結果的に6馬身差の圧勝でした。他馬と比べてもまだ若駒であることを象徴するような線が細く厚みのない薄い青鹿毛の馬体からは、想像もつかないほどの力強く美しいストライドでターフを駆け抜ける圧倒的な走りに目が釘付けになっていました。このデビュー戦で私は間違いなく、ターフで輝く彼に心を奪われました。

3.イクイノックスが映す、私の感情のジェットコースター。

 イクイノックスがターフを駆け抜けた全10戦を観戦する中で、私の感情はまさにジェットコースターのように激しく上下しました。彼の存在が、私自身の感情の振れ幅を最大限に引き出したといっても過言ではありません。
 デビュー戦の衝撃的な勝利後、イクイノックスはGⅡ東京スポーツ杯2歳ステークスを勝利牡馬クラシックレースの最有力候補の評価を得ました。しかし、その後の皐月賞で初の敗戦となる2着。続く日本ダービーも2着という結果に終わりました。生涯1度きりのクラシックレースであと1歩届かなかった頂点に、まるで自分事のように悔しかったです。しかし、同時に彼への誇らしさも覚えました。当時のイクイノックスの馬体は未熟で厚みが一切なく、虚弱体質から調教も満足に積むことができないと耳にしていました。さらに、2戦連続で大外枠である18番枠という不運まで背負っており、これほどのハンデと未完成さがありながらポテンシャルだけで2着になったイクイノックスを私は誇らしく思いました。
 夏を経て、イクイノックスは身体的にも大きく成長しました。虚弱体質も改善され、調教も積むことができるようになった彼は、まるで本領を発揮するかのように躍動していきました。2022年の天皇賞・秋での勝利は、彼の才能がついにG1制覇という形で証明された瞬間であり、私は心の底から喜びました。続く有馬記念も制し、イクイノックスは最優秀3歳牡馬と年度代表馬に輝きました。翌年のドバイシーマクラシックでは、前年の覇者シャフリヤールなど強力なライバルを相手に終始馬なりで鞭を使われることなく3馬身差で圧勝。コースレコードを更新し、世界レーティング1位を獲得しました。
 私は、世界一となったイクイノックスに喜びと誇らしさを感じる一方で、「負ける姿を絶対に見たくない。もし負けてしまったら……」と、イクイノックスがレースに負けることに対し極端に恐れていました。特に、帰国初戦となった宝塚記念では出走が発表された直後から私は不安で仕方ありませんでした。コンディションがあまり良くはないという陣営の発言、初の関西輸送、初の阪神競馬場、前走逃げの形をうったことで抑えがきかないのではないかというSNSの意見。なにより、父であるキタサンブラックが2017年の宝塚記念において単勝1・4倍の圧倒的な支持を集めながら大敗したことが頭をよぎり、当日ゲートが開くまで私は毎日ふとした時にイクイノックスのことを考えるたびに不安に襲われました。しかし、イクイノックスはそんな私の不安をよそに、宝塚記念、天皇賞・秋、ジャパンカップとG1を6連勝し現役生活を終えました。
 彼の走りを通じて、私は喜び、誇り、そして不安という様々な感情を経験しそのたびに心が大きく揺さぶられました。
 そうした感情の中でも、宝塚記念の頃から特に顕著になった「負ける姿を見たくない」という強い不安は、私自身の内面を見つめなおすきっかけとなりました。イクイノックスの勝利が続けば続くほど、私は無意識のうちに彼に完璧を求めていました。それは、イクイノックスの成功がまるで自分自身の成功であるかのように感じられ、彼の輝かしい功績が、私自身の自己肯定感や幸福感に繋がっていたからかもしれません。彼の存在は、単なる「推し」としての応援対象を超え、私の感情や心の安定に強く影響を与えていたことを痛感しました。

4.イクイノックス応援記。

 イクイノックスとの距離感が、私独自の「推し活」スタイルを築き上げました。彼のデビュー戦以降、ドバイを除く全てのレースと引退式に足を運びパドックでその美しい馬体を目に焼き付けました。
 SNS、特にX(旧Twitter)では、毎日イクイノックスと検索することが習慣となり常に新しい情報を追いかけました。レース後には、ファンが撮影した彼の写真を眺めるたびに私は充足感を得ていました。また、グッズ収集にも熱中しアイドルホースぬいぐるみをはじめ、サラブレットコレクションシリーズ、引退を記念したブルーレイ、写真集などイクイノックスの関連グッズなどを集めています。こうした1つ1つの「推し活」は単なる趣味を超え、私にとってかけがえのない心の支えとなっています。
 イクイノックスが引退した現在もX(旧Twitter)やYouTubeで彼の近況を追い、種牡馬として管理されている社台スタリオンステーションでの写真や初年度産駒の姿を見ることで日々癒されています。

撮影:十時間睡眠(筆者)

5.イクイノックスこそが、私を映す鏡。

 イクイノックスが私の人生にもたらしてくれたものは、計り知れません。彼の勝利は私に最高の喜びと高揚感を与え、彼の存在そのものが日々のモチベーションとなりました。競馬場に足を運び、SNSで情報を追いかけ、グッズを集める。こうした「推し活」を通じて私の毎日は彩られ、自己肯定感も高まっていったように思います。
 イクイノックスは現役を引退し、現役時代以上の大きな期待を背負いながら種牡馬として第2の道を歩んでいます。ターフで彼の走りを見ることは2度とありません。しかし、それは決して終わりではなく2027年には彼の遺伝子を受け継いだ初年度産駒達がターフを駆け始めていきます。彼の紡ぐ血統の物語を追い、その子供たちを応援できることは、私に尽きることのない喜びを与えてくれます。
 イクイノックスとは、私にとって、終わりのない夢と希望を見せてくれる存在です。

多忙なあなたへ、日々の楽しみを

2025年7月25日 発行 初版

著  者:木公島 まあ由々 よぎぼ 大町揺 北雲みなみ 十時間睡眠
発  行:二松学舎大学

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遠くから見た筆者
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木公島

2003年千葉県産。好きな言葉は、『道に迷う事こそ、道を知る事』。

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