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イントロダクション
ヒットした配信ドラマなら『ガンニバル』と『七夕の国』、映画なら今(執筆開始時)ヒット公開中の『近畿地方のある場所について』の共通点は何だろうか?
故郷などの田舎に対する畏れ《おそれ》(※1)から虞《おそれ》(※2)が頭を掠めて、怖れに変わっていく。
それだけ消費の中心である各地の都会と、地方の田園地帯や山岳集落地域や海辺の漁村地域との生活は隔絶している。
そういえば、心霊スポットなどもそういう場所でありつつ、都会から然程《さほど》遠くない場所が多い。農業生産地なども都会から然程遠くない。そういえば、農村地帯に対しても都会の者は怖れをいだく。また、意外に拓《ひら》けているが、大きな都会とあまり交流のない地方にも、都会の者は怖れを持つ。
※1 畏れ:畏敬の念などをいだく気持ち
※2 虞:何か悪いことが起こるのではないかと危惧してしまう心理
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フリーのルポライターをやっていた頃に、近畿のある土地でイジメを苦に中学生が自殺したという事案が発生した。もちろん、新聞やテレビなどで取り沙汰されていた。
ルポライターを『正義の味方』だと思う人が多いだろうが、『世の中の汚い部分』に触れることが多いので、意外に正義の味方とはかけ離れているだろう。何故、この事案は発生したのかを仮説と推理や知っている裏事情から根掘り葉掘りと調べる。テレビのワイドショー番組などと違うのは、記者クラブなどの情報を素に世間の駄目なところをあげつらうのがテレビであり、仮説や推理や知っている裏事情からぶち当たった事実を調べあげたことの積み重ねから、推察していく。テレビには型があるが、ルポライターにはそんなものはない。そういう面では山師《やまし》(※3)といえるかもしれない。
※3 山師:山を歩き回って鉱脈を見つけたり、立木 の売買をしたりする職業の人。またはそのように投機や冒険をする者。または、それらの虚偽の話で金を詐取する詐欺師のこと※3 山師:山を歩き回って鉱脈を見つけたり、立木 の売買をしたりする職業の人。またはそのように投機や冒険をする者。または、それらの虚偽の話で金を詐取する詐欺師のこと
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一般道だけを走って、住んでいる街から車で2時間かかった。すでに昼の2時を少し過ぎている。左手に有名なスポーツウォッチを模倣した時計の針が、てっぺんより右を、長針も短針も指していた。
主要駅前の大きな駐車場に車を駐車を停めた。県庁所在地に隣接しているのに、駅舎は大きいが一階建てで、ホームをつなぐ階段が2階建てに見せるためのように、屋根壁のある階段になっていた。そして、駅前は大きな青空駐車場で、地元と比べると半額の駐車料金だ。
マルボロの髪箱を振って、飛び出してきた一本を咥えた。ジーンズの右のコインポケットからジッポライターを抜き出して、火を着けた。一人暮らしの部屋で頭の中に叩き込んだ地図を思い浮かべて、中学校のある方向に向かって歩きはじめた。歩きながら、ジッポライターをコインポケットにねじ込み、食器屋の方向に体を向けた。あれが、商店街の入り口だったはずだ。近在の郷が陶器で名が知られた町だから、そういう陶器が売られているのだろう。
現場に向かって、駐車場で火を着けた煙草を、咥え煙草で歩いていた。周囲を山に囲まれた県。平日の昼日中に歩いている男の服装としては、ラフな服装だろう。ブルージーンズに白いヘンリーネックの半袖Tシャツにグレーにまで色落ちした薄めのスタジアムジャンパー。体の左後ろ側のベルトに三倍ズームのカメラを固定していた。煙草は紙箱のまま右のジャンパーのポケットに入れている。財布はジーンズの右後ろのポケットにねじり込み、ジャンパーの左ポケットには二箱の新品の36枚撮りのフィルムがフィルムケースごと入っている。
道の両側は商売をしている店が六割、シャッターを閉ざした店が三割、戸建ての古めかしい家が一割といった感じだ。まだまだ、商店が生き残っているほうだろう。地元では、シャッターが閉まった店が増えてきて、固まってシャッターを締めた商店街をシャッター通りと言うようになってきていた。
自殺した中学生は中学2年の男子生徒だった。隣の府内に技術者兼研究者として仕事をもつ父親が、通勤出来るこの地方の町に家を建てて、一家三人で引越していた。その自殺した中学生が小学校を卒業して引越したので、中学1年生からこの町で学校に通っていた。
これくらいのことなら大手メディアならすぐ調べ上げる。なんと言えばよいのか、もっとこの自殺事件の裏を知りたかった。裏の情報を獲《と》るなら捜査に役立つ情報をそっと売った刑事にリークさせるのが手っ取り早い。だが、ここの県警にもこの市の所轄警察にもそんな伝手はなかった。
何か違和感がある自殺だった。自殺現場には自殺した少年も含めて少年が4人いた。警察の事情聴取では、二人が、ふざけていたら転落したと言い、一人が、飛び降りたと証言している。そして、ふざけていたと証言しているうちの一人の証言が、最初は飛び降りたと証言している少年の所為だという証言から、ふざけていたら転落したという証言に変わった。中学2年生にもなって、エレベーターがある12階建てマンションの10階で誤って一人が転落するようなふざけ合いなどをするのだろうか。
二本目の煙草に火を着けるために周りを見渡したら、商店街の一角のようだ。これから行く方角に十字路があって、その交差している道にも商店街がありそうな雰囲気がった。そして、十字路の向かいの右手側にたばこ屋があった。最近ではコンビニエンスストアよりもたばこ屋が珍しくなっている。それなのに、さびれた雰囲気が無い。
十字路を亘る時に両脇を見たが、やはり豆腐屋や八百屋が見えた。駅から延びた歩いてきた道より、横に延びた商店街が賑わっている。
かなり古い町の小京都といわれるような土地でこういう状態を見たことがあるが、宿場町だったり、参勤交代の本陣を避けたりするためだったり、城割からの成り行きだったりする。だが、この町みたいに、宿場でも本陣でも無かった町でははじめてみた。しかも、この辺りは室町時代から織豊時代まで城ではなかったはずだ。
たばこ屋に近付いていった。駐車場で煙草を振り出した時に、あと数本しか残ってない感じだった。
たばこ屋のショーケースの窓ガラスをこつこつとノックした。ノックに応えてテレビでも観ていたのか、意外にスッと立ち上がってやってきたのは、老人だが腰が真っ直ぐ伸びていて、長袖の格子柄のポロシャツに紺色のスラックスを履いている男だった。
「はい、なんにしましょう?」
「まだ、チェリーあるかな?」
「いやぁ、さすがにもうないんですわ。今年の春前に大きな地震が東北であったでしょ。あれから、止まってしもたんですわ」
そんなことは知っていた。フリーランスのルポライターを名乗っていて、あの被災地に行けなかった。ただ、被災地の映像を観てあ然としていただけだった。そんな自分に腹が立った。その分だけ腹が立ったが、逆に店主の老人には笑顔をみせて、首を横に振った。
「まだチェリーが在庫にあるなら買うって意味なんだ」
笑顔を作ったつもりだが、この老店主には笑顔に見えているだろうか?チェリーが入手困難になったことと、あの大震災の繋がりは知らない。だが、無関係という訳でもないだろう。そして、なんとなくチェリーの紙箱と味が好きだった。
ラッキーストライクも売っていることに気付いた。
「んじゃ、ラッキーストライクを2つ」
千円札と五百円硬貨を置いた。ラッキーストライクと釣り銭が返ってきた。釣り銭の硬貨を右のポケットに放り込んだ。財布には紙幣しか入れていない。マルボロ二箱は左の内ポケットに放り込んだ。まだ、現像に出すフィルムケースがまだ入っていないから、意外にすんなりと内ポケットに収まった。
煙草に火が着いていて、咥えタバコのまま訊いた。
「その中学校の生徒が自殺したやん。あれに対してなんか思うことないかな?」
「さぁ、私の子供も大きなって、都会で働いてて、まだあれくらいの子供もおらんから、あんまり考えんですわ。あの子が可哀想やなって思うくらいで」
「あの子って、自殺した中学生の事かな?」
「すんませんけど、儂の嫁が癌なんですわ。ガラス窓閉めさせて下さいな」
迷惑そうな顔をして、店の主人がガラス窓を閉めて、腰を上げた。
商店街は先程横切った左右への道が食料品や生活雑貨などを販売している商店や小規模なスーパーマーケットなどがあるのだろう。中学校に通じるこの道は、着物屋や手芸店などのそれほどだいたいの家庭が頻繁に行かない店が並んでいる。
さらに道を進んでいくと、変わった長屋が両脇に立っていた。玄関ドアがみっちりと並んでいる。地元にも似た建て方の長屋があった。どうなっているかは親と住んでいる一時期に住んでいたから知っていた。2軒が一組になっていて、片方が一階に住んでいて、もう片方が急な階段を上った2階に住んでいる。だから、玄関がすぐに隣り合っていても住める。ここも似たような建て方なのだろう。玄関扉の幅の部屋など住みにくくて仕方がないだろう。
駅から、自殺した生徒と自殺に関わっている疑いのある生徒達の通学している中学校の正門の前までは、だいたい12分くらいかかった。その気で歩けば、7分くらいで駅から中学校まで着ける。
いつもよりは、中学校の正門から離れていた。いつもの取材で見る数の警官よりも、ずっと警察官の数が多いのだ。いや、多過ぎる。
何らかの疑惑があったり、奇妙な自殺の案件で、その自殺者や関わりがあるとみられる通っていた学校には何度か行ったことがあるが、異様な光景だった。
正門前に脚立の上に座ったカメラマンやテレビ番組の制作の者がいたり、他の門に張り付くアナウンサーや記者が、近隣の交通を邪魔するくらいの取材現場は何度も見た。正門や各門をガードしたり、学生に取材することをなるべく抑止するために警察官が配されるのは毎度見ていた。あとは、取材陣による交通阻害を軽減するために、交通課の警官が配置されていたりする。
このような現場の光景は、初めてだった。正門を機動隊が持っている様な盾を警らが持って、横に並んでいる。たまにこういうことがあるし、大きな刑事事件の現場の通行止めのために機動隊が配される。だが、それよりも人数が多くて、まるで機動隊そのもののような数だし、もしかしたら警官の密度は今日のほうが多いかもしれない。
あとは、学校の周りを巡回している警官の数もだが、二人組や四人組になって、かなりの数と警官の組数がひどく多い。もしかしたら、取材陣より警察官の数のほうが多いかもしれない。
タバコがフィルターまで灰になって、灰がぽとっと落ちた。いつもとの違いに戸惑って、少しの間を立ち尽くしていた。消えかけているタバコをアスファルトの上に吐き捨てるように、吹き飛ばして、舌打ちをしながら踏んだ。
「なんだ、この警官の数は」
思わず口にしてしまってから、顔見知りのフリーランス・ルポライターがいないかと、周りを見渡してみたが、見当たらないので、中学校の周りを一周してみようと思いついた。まあ、今までの取材でも、現場などを遠巻きに一周することを当たり前にしていた。そうすると、新聞やテレビで観させられている風景とは違うものが見えてくる。
以前に地方で白バイを巻き込む交通事故があった。被疑者は有罪になってしまったが、事故があった現場が道路の見通しは良いが、道路脇の町からは見えにくくなっていることが分かった。だから、目撃証言が少なかったことがよく分かる。そこから、白バイの速度超過か余所見運転が判った。だが、目撃証言が無かったことから、事故現場検証の資料が重要視されていた。そんな資料は警察署に侵入したりなどするしかなく、フリーランスのルポライター達はこぞって記事にしたが、マイナーな雑誌くらいしか、ルポライター達の記事に値段を付けなかった。新参者だった俺の記事などは売れずに、同調するテレビ番組に売ろうと考えて、ディレクターに接触したが、もうとうに他のルポライターの記事が買われていて、赤字取材に終わった。
正門辺りは、あまり奥行きはない庭園に、植木が植樹されたり、花が咲いている。ということは、正門正面あたりが学校事務所などがあって、その上階が理科室や音楽質や美術室だろう。三階建て。両脇は各教室だろう。
正門から左に向かって、中学校を時計回りに歩きはじめた。警官とマスコミを躱しながら歩いていき、右に曲がった。思った通りのコの字型校舎のようだ。空から見てコの字型に校舎が建てられて、教室の窓が南向きになっていることがだいたいの学校校舎の基本だが、住宅街が先に拡がった地域に新築で校舎を建てる時に、運動場や体育館の敷地を確保するために、L字になる場合がある。校舎分の用地の買収が出来ても運動場が、ウレタンやゴムチップになっていることがある。主に東京や都市部でウレタンやゴムチップになって、クレイ舗装と呼ばれる土がむき出しに見える舗装に出来る運動場面積が確保出来ないことがある。だから、なんとなくは学校校舎の形状で、学校が出来るまでの経緯が分かる。
生徒や教師が通る通用門は東側にあった。そして、校舎の端まできて、運動場が見えた。クレイ舗装だがそれほど広さがない。ということは、住宅街が先にあって、広い運動場を土地買収面積が不足気味だったのか、計画段階で大きい運動場にするようにはなっていなかったということだ。校舎の東側に隣接していたのは、理容室と美容室をひらいていた戸建て住宅以外も戸建てが多めで、三階建てのマンションが二棟あった。そして、東側にも多めの警察官が巡回していた。
また、右に曲がって中学校の運動場側に出て、まず目についたのは、また巡回している警官が多かった。通常はこういう学校南方向の側は巡回より、立って警官が並んでいるので、一体何なんだ、という思いが頭をかすると同時に、中学校の南にこれほどの警官が配置されていた事に驚いた。
驚いた自分に腹が立ち、舌打ちをしてジャンパーの右ポケットからタバコの紙箱を取り出した。紙箱を押さえ気味にして、タバコを振り出す。くわえる時に、あと二本残っていることを確認出来た。タバコの紙箱をジャンパーの右ポケットに入れた流れで、コインポケットからジッポライターを引き出し、カチンという音をたててカバーの蓋を開いてすぐにホイールを回して火を着けた。煙を最初に吐き出す前に、ジッポライターをコインポケットにねじ込んだ。
左手の人差し指と中指でタバコを挟み、煙を大きく吐き出す。
煙越しに警官達を見ていた。なぜこんなに多いんだ?まだ、理由も目的も分からない。中学校の敷地内に入ったり、明らかな違法行為をしないかぎりはなんともないだろうが、こんな地方の中学校で起きた自殺か事故かよく分からない現場に異常だ。大手メディアはこの警官の多さはニュースにしているのだろうか?いくらなんでも、この警察官の人数はやり過ぎだ。
くわえタバコしながら、首を真っ直ぐにして、前を見ながら、警官の会話が聞こえないか、耳をそばだてた。警官は私語を話していない。その雰囲気に背中が薄ら寒い気がしてきた。
警官の群れの多さと、警官の話していることに集中して歩いていたら、南の運動場側はすぐに歩いていた。ただ、中学校の南側は一戸建て住宅が建ち並んでいただけだった。
また、中学校沿いに右に曲がろうとしたら、急なかけ下がりの低地が西側に見えた。まるで、中学校や住宅街からの目を逃れるかのような低地になっている。曲がった道は南北に長くつながる普通の片側一車線の二車線道路だ。その道路は住宅街と中学校と同じ高さにあって、まるで中学校が川かのように土手のようになっていて、西側が一段低地になっている。変わった造りだ。右手の東側から、中学校、片側一車線の二車線道路、中学校が川かのような堤状になっていて土手が西へと下っている。そのさらに西側には、中学校に来るまでに見た同じような、扉がびっしりと並んだ二階建ての長屋が妙な不規則さでいくつも立っている。そして、今まで以上の警察官の多さだ。この辺りの警察官が総動員でもされているのか?それほど、警察官がこの中学校の周りにいる。こんな配置は、今までの取材してきた事件・事件・事案よりも多い。東日本での大きな地震災害は取材に行かなかったので、どのような配置になっていたのか知らない。
西の低地に降りて行く道は階段と階段に添えられた斜面が南と北に一つ、その間に幅のあるS字スロープが作られている。土手もただの土手ではなく芝生張りで階段やスロープの間に、花が植えられている花壇があった。それを、道路を歩きながら見ておいた。警察官の数を見たら、西側の低地に降りて行く気にはならなかった。
中学校の西側の道路を直進した先に、見知った顔があった。目立つ赤のスイングトップは3L以上はあるだろうか、ストレートジーンズの足の生地がゆったりするほどの恰幅、トップスは白いTシャツ、レイバン型のサングラス、たぶん靴はサイドゴアブーツだろう。
俺が何人かの先輩フリーランス・ルポライターに同行してまだ荷物運びなどをしながら、見習いみたいなことをしていたことがあった。付いていた先輩フリーランス・ルポライターが山陰地方の女子高生失踪事件を追った時に先輩と組んでいた要だった。たしか、名前は『かず』が付いていたはずだが、忘れてしまった。
要が立っている所に向かって、車の通りは少なそうで、この騒ぎで迂回しているのか、車が通らない道路を渡った。真っ直ぐ、向かっていく。要が俺に気付いているのかは、サングラスで分からない。そのサングラスを外すと愛嬌のある笑顔をしたりしていた。あの時は、失踪したのが、女子高生なので取材で聴き込みする相手が高校生だった。要は自分より背が低い相手に聴き込みする時は、必ず腰を曲げたりして、視線の高さを合わせて話していたのを覚えている。タバコは、なんとかいう名前の甘い匂いのする紙巻きシガーで、要がいる時は路上でタバコを吸う時には、端に寄って吸わされた。
「無理していいタバコを吸ってんだから味わないとな。あと、煙が嫌な人もいるしな」そう言っていた。そうやってタバコを吸いながら、煙を吐き出す時に話して、先輩と会話していた。要には聞かれない隙に先輩に、時間の無駄遣いじゃないのかと聞いた。その返事は、「いいやぁ、あいつの読みは一つ先に飛んでるんだ。でも、たまに自分の危険とかを見過ごす奴なんだよ。あいつの読みと自分の身辺警戒の意見交換なんか誰にも聞かれたくたいだろ。少し離れたら、自分達はタバコを吸ってたむろしているもんにしか見えないんだよ」と言われた。未だにあの先輩と要のように意見や情報交換が上手く出来ない俺は、居酒屋などで意見と情報の交換をしている。それに、俺は一人が好きだった。
要の横に立った。
「おつかれさま。周りを歩いて、何か感じましたか?」
俺のほうを向かずに要が言った。そして、手のひらを指を揃えて、中学校から北西の方向につながる道へと案内するようにして、行こうと言った。
前回の続き
中学校の北西側の建物は戸建てばかりで、今風の洒落たという感じの家が並んでいた。まだ、ぱらぱらとまばらに二人一組で警官がいる。
要は先を進んで真っ直ぐ歩いている。視線がどこを見ているのか分からない。細い車がなんとか自転車とすれ違える道幅で続いている。2分くらい洒落た戸建てが並んだ道を歩くと、同じような太さの道と十字路になっていた。その十字路を渡って歩き始めると、警官がいなくなった。この洒落た戸建て住宅が建ち並ぶ方向に配置されている警官は、十字路までで三組いた。そして、十字路から先に警官が今のところは見当たらない。
「周りを歩いて感じたことはないんですか?」
要がまた訊いてきた。要の横に並ぶと、要が帆布の紺色なのだろうか、いや黒色なのだろうか、硬そうな布の小さめのバックパックを持っていることに気付いた。
「そうですねぇ。警官が沢山いました」
要がサングラスでも分かるくらいに、右から俺を強く見上げた。
「それだけなのか・・・」
「いや、西側の低くなった町のことには気付きましたよ。でも、あの町がどういう町なのかは見に行ってないっす。あんなに警官がいるところに突っ込みたくなかったんで」
要が軽くうなずいてから、右手で案内するように指を揃えて指し示した先には、小さな児童公園があった。
俺は児童公園に入ってタバコに火を着けた。どこで吸ってるんだよと要に言われて振り返ると、要は児童公園の外側で、バックパックのポケットからタバコを取り出そうとしているところだった。
舌打ちをしそうになったのを堪えて、タバコをくわえたままで、要に合わせて児童公園の外側のメッシュフェンスにもたれ掛かった。要はやっとタバコに火を点けた。こげ茶色をしたタバコだった。甘い香りが漂ってくる。いや、煙草の匂いじゃないと思った。
「吸ってるの、それ煙草じゃないですよね。葉巻?」
「紙巻き葉巻。キャプテンブラックのスイートチェリーっていいます」
「おいしいですか?」
「俺はね。」
要が葉巻らしく、もわっと煙を吐いた。
「前に矢立に付いて取材に来てたよね?」
うなづきながら、はいと返事をして要を見た。1メートルも離れていないからか、光の関係なのか要の真っ直ぐに俺を見ている目と視線が分かった。
「矢立さんと取材に来ていた頃から、他にも色々な取材に行きましたか?」
「東の震災になった地震には行けなかったんですよ。他は“あれ?”っと感じた事件や事故っていわれているところに 行きましたね」
「そうですか。やはり、フリーのルポライターになってしまいましたか。いや、フリールポライターに興味があったから矢立さんに付いていたのだから、まあ当然の成り行きですかね」
ふと、周りを見渡した。日が沈みはじめる前の午後の洒落た戸建ての家々は、子供の声がしてきそうな雰囲気だが、まだ子供の声は聞こえない。中学校の授業がまだ続いているのだから、小学生もそうなのだろう。だが、未就学年齢でも保育所や幼稚園に通い始める前の年齢の子供が遊んでいないのが気になった。
「要さん。小さい子供達はこの辺りにいないんてわすかね?」
「気付いたんですね。まだまだ頑是無い子供が遊んでいない。どこかの家に上がり込んでゲームをしているのかもしれないけれども、少しくらいは外で遊んだりするだろうし、補助輪が取れて少しくらいの自転車がどこかの家の前に何台か置かれてもいない。そういうことには早くに気付けるようになったほうが良いのですよ。それに、あの中学校の周りの立地や集落のことはなんとなくでも分かっておいたほうが良いと私は思う。西側の低地になっている集落のこととか、なぜこんなに警察官が配置されているか、そういうことも読んで動いたほうが良いんだよ。分かりますか?」
諭すような要の言い方に少しムッとしながらも、うなずいていた。
要は横を向き、紙巻き葉巻を一口吸い込んで、煙を吐き、右手に紙巻き葉巻を持ち、左手でサングラスの位置を直した。
「その意味を知ってからよく考えないと、ひどい目に遭ってから後悔しても遅いんですよ」
「あの西側の低地の集落に何かあるんですか?」
「まぁ、あるといえばあると思うよ。でも、今はゆっくりとタバコを味わおうじゃないか」
うなづいて、短くなったタバコを路上に捨てようとしたら、筒状になった金属の胴を革で持ち手になるように包んだ高そうな携帯灰皿を突き出された。その携帯灰皿を受け取って、丁寧に消して、また一本を取り出して火を点けた。要の名前をもう忘れた紙巻き葉巻はまだ半ばまで残っていた。
俺がなぜ矢立に付いてルポライターをやり始めたのかを訊かれた。この社会にはひび割れがあって、そのひびが大きくなって割れてしまった物事があったり、人間にもひび割れがあったり、割れてしまった者もいる。なんとなく感じていたことだが、それは話しをしなかった。あまりに抽象的だったからだ。それと、俺には会社勤めは合っていないこどが、何故か理解出来ていた。そして、進路に行き詰まった時に矢立が俺の地元の事件の取材に来ていたのだ。『ひび』を感じているからこそ、フリーのルポライターになるのが向いているだろうと、矢立に付いて色々教えてもらっていたのだ。
要が時計を見て、15時だと言った。要が金属製の携帯灰皿で紙巻き葉巻を消しながら、三時だよと言った。俺も要の携帯灰皿を借りてタバコを消していたら、要が歩き始めた。付いて行く。タバコを消し終わり、要に携帯灰皿を差し出した。受け取りながら、目はサングラスで見えないが、俺を要がはっきりと見た。二人で並んで中学校の方に歩き始めた。
児童公園でタバコを吸うために通ってきた十字路を過ぎた。30メートルほどで中学校の横を通っている道。警官がこの戸建て住宅への集落への道を塞ぐように並んでいた。メディアのテレビカメラマンと警官が話している。カメラマンは怒っているようだ。何人かの人が右手から左手に走っていった。一人が転倒した。それを警官が荒々しく起こして、引きづっていった。
何が起きている?
もし、あれだけ沢山いて一気に襲いかかるように警官達がメディアを規制や抑え込みにかかるなんて、昔の左翼学生運動以来じゃないのか。
俺は、背中を向けている警官の間を無理矢理抜け出て、西側の通りを見た。テレビカメラや集音マイクやハンディーマイクを持っている人と警察官がもめている。逮捕するように捕まえられているのは、雑誌記者かルポライターだろう。
警官が動いた。学校の警備ではなく、取材陣を排除している。
「なんだ、おい、これ・・・」
思わず口から言葉が出ていた。
1はまだ続く
次回の更新は2に突入します。
この物語はモキュメンタリーであり、実在の人物・団 体とは一切関係ありません
次の更新は11月14日 金曜日の予定です。
更新作業が遅くなった際は、お許し下さい。休載になりそうな際は出来る限り早めにお伝えしますので、ご理解ご了承下さいますようお願い致します。
2025年8月19日 発行 初版
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