この本はタチヨミ版です。
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この書籍は、2025年10月11日から13日にかけて開催された出版創作イベント「NovelJam(ノベルジャム)」に参加した28人が、初日に運営から提示されたお題「移住」に基づきゼロから生み出した16作品を合本したものです。
「NovelJam」とは「著者」と「編集者」、そして「デザイナー」が集まってチームを作り、小説の完成・販売までを目指す『短期集中型の出版創作イベント』です。ジャムセッション(即興演奏)のように参加者が互いに刺激を得ながら、その場で作品を創り上げています。
今回は東京・札幌・沖縄の3拠点で同時開催し、創作漬けの濃厚な3日間となりました。そこから生まれた熱い創作の成果をお楽しみください。
この合本の収録に際しては、ページ数などの都合で本文の体裁をオリジナルから編集している作品もあります。
作者のリリースしたオリジナルの版面をお楽しみいただくには、BCCKSおよび各電子書籍サイトにて別途お求めください。
掲載順は、東京会場、札幌会場、沖縄会場の順でチーム記号順となります。
実際に販売されている各書籍および「NovelJam」の詳細につきましては、公式サイトをご覧ください。
https://www.noveljam.org/
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花雲 ユラ 『SPY×BANKER』
一之瀬 楓 『つなぐ手の先に』
浦出 美緒 『寄生移住』
河嶌 太郎 『黒い柚子と青い鬼 シークヮーサーはまだ微かに甘い』
KAIN 『リビング・スピリット』
ネルソラ 『株式会社地獄 移住課』
豆木 新 『まったく、当家のお嬢様は』
谷 亜里砂 『メリカの居場所探し』
澤 俊之 『A CROSSROAD』
チャカノリ 『六弦フェニクス!!』
田丸 久深 『十勝しあわせ工房たなごころ』
仲町 百瀬 『ノボとちぎれたふたつの世界』
最優秀賞
『黒い柚子と青い鬼
シークヮーサーはまだ微かに甘い』
グランプリ
チーム 遠隔共同体
『SPY×BANKER』
『つなぐ手の先に』
嵯峨景子賞
『株式会社地獄 移住課』
高橋文樹賞
『はなればなれ』
内藤みか賞
『十勝しあわせ工房たなごころ』
仲俣暁生賞
『六弦フェニクス!!』
藤井太洋賞
『十勝しあわせ工房たなごころ』
デザイン賞
『七日目の希望』
ナカノ賞
『六弦フェニクス!!』
ナカノ賞
『株式会社地獄 移住課』
特別賞
『ふな一箸二箸』
特別チーム賞
チーム すきまかぜ
『Swing』
『ふな一箸二箸』
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プログラマーって肉体労働の、コミュ力勝負だ。
映画の中でスパイの裏方をする、彼らに憧れて高専で取った資格たち。適当に履歴書に書いたら、いつの間にか巣穴のような職場に馴染んでいた。寝袋のスペックを上げるべきか、エアマットレスを買うべきか悩んでいる先輩の横で今日もレッドブルを煽る。
はーぁ…。映画と一緒なの、エナドリ大量摂取だけじゃん。
スパイ映画の彼らは何でも出来る。システム構築はもちろんの事、ハッキングも電子機器作成も、何なら偽造文書やなりきり詐欺だって何でもこなす。出来ない、なんて言わない。最前線で命を張ってる仲間の裏で「失敗しちゃった☆てへぺろ」なんてしたら仲間は即座に死ぬか、捕まって拷問地獄。きっと一生後悔するから万全を期して臨む。専門外だってなんのその、天才だ。
そりゃそうだ。天才の話じゃないと観客は見る価値を感じない。天才スパイは俺みたいに「そのプログラム言語は習ってないので」なんて言わない。
「……習ってないなら、これから覚えて。明日までに」
渡された本の厚さに息が詰まった。さらにドン、ドンと積まれて行き、最後にはなぜか社長の自叙伝が置かれた。
「がーんばれ☆」
アマゾンでマットレスを、会社宛に発注した先輩。そのままアイマスクをして眠ってしまった。
俺は何となく、社長の本を手に取る。
──動いたやつから勝つ──
──できない奴はできない言い訳がうまい奴──
──誰だって最初は初心者──
どこかで聞いたことがある、耳障りのいい言葉たち。オリジナリティなんかゼロの癖に、今の俺に刺さりまくるのがムカつく。
え、なんだこれ。おれ洗脳、されかけてないか?
社長の本を置いて、今度は『一からのプログラム言語コトリン』の本をめくる。すでに4つ操っているので、それらを応用できそうだった。
困った。何とかなりそうだ⋯⋯。
ふん、ふんと読みふけるうちに、こんなコードはどうだろう、が浮かんでくる。走らせてみると、案外美しい。
はい⋯⋯。ここに社畜が誕生しました。記念すべき瞬間です。
目の下のクマをさすりながら、自撮りでもしてやろうかとスマホに手を伸ばす。
カメラを起動する前に通知に目が留まった。
先月、マッチングアプリで会っていい感じになった女の人からライン。
──前言ってた映画、ロードショーが始まったね♪──
うへへへ。仮病を使ってまで、会ってみて良かった。彼女の名前は愛香。
銀行で受付けをしている。一度アポなしで口座開設に行ったら、ちょっと怒った顔をして対応してくれた。預け金はアイカということで126円。暫く金額を眺めていた愛香さんは、アイウエオ順だと察し、肩を震わせて笑いを堪えている様子が堪らなかった。
先輩。俺、来週も腹が痛くなる予定なんで。それまでにコトリン使いこなします!
***
待ち合わせ場所の映画館では、愛香さんがすでにポップコーンを片手に持っていた。
「ねー、これコーンポタージュ味だって」
挨拶もそこそこに、コンポタ味のポップコーンを差し出す愛香さん。右手の人差し指と親指にコンポタ色の黄色い粉が付いている。
「あ、あざまっす」
(コーン、嫌いなんだけど)
一つ摘まんでみるが、なんだか間の抜けた味がした。
これなら、うまい棒のコンポタ味のがマシかも…。
「うん! 美味しいですね。食べたことない味!」
そう笑って見せると愛香さんは「ええー?」と腕を組んだ。
「谷橋くんはそうなんだねえ?」
「愛香さんにはイマイチでしたか」
「うーん、もう少しパンチが欲しかった」
「⋯⋯実は、俺も」
そういうと、前を歩いていた愛香さんがくるっとこちらを向きなおす。
「え? そうだよね? これ、イマイチだよねえ?」
売店の店員が首を伸ばしてこちらを向いてくる。俺は急いで話を逸らした。
「ネットでチケット⋯⋯取ってあります」
「あーりがとう! お金⋯⋯」
「いいです! ここは奢らせてください!」
そう、胸を張った俺の顔をじっと覗き込む愛香さん。きれいにメイクされた目元。耳元のイヤリングは品があるが、高そうな輝きがある。
誰かからのプレゼントだろうか? 自分で買ったんだろうか? もしかして俺のこと、みすぼらしいとか思ってる?
服はユニクロの卸したて。髪は一応ブローしてワックスを付けてきたが、伸びすぎているかもしれない。
チケット代如きを奢るとか、わざわざ気を遣わせるようなこと言うなよ……とか思われたか?
俺が唇をぎゅっと結ぶと、愛香さんが微笑んだ。
「えええー? いいのお? じゃあ甘えちゃおう♪」
そういうと、これから見る映画タイトルの話題に移る。
(あれ、さっき愛香さん、何考えてたんだろう)
タチヨミ版はここまでとなります。
2026年3月29日 発行 第2版
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(旧:日本独立作家同盟)