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ぼんやりしながら

たいいちろう

ANUENUEBOOKS



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  この本はタチヨミ版です。

目 次

 ぼんやりしながら

 京の都と雨の雫

 1999

 ため息を残して

ぼんやりしながら




 ぼんやりと。
 ぼんやり。
 ぼんやりしながら。
 ありのままの自分でいることを受け入れてくれる空間に身を置いて。
 そんな部屋のなかの居心地のよい、ちょうど真ん中あたりで。
 その真ん中あたりのどっしりとした場所で、ぼんやりしながら。
 魔法のような、ひらがなの四文字の言葉。
 ぼんやり。
 ぼんやりと珈琲を淹れて。
 ぼんやりとテレビをつけて。
 ぼんやりと映画を見たりして、その物語を追わずに、別のことを考えてみたりもして。
 あたまのなかはぼんやりだらけなのだけれど、なにかとてもリラックスの色で溢れている。
 ぼんやりは決して、ぼうっとして、なにも考えていなかったり、そんなふうにしているわけではなくて。
 ぼんやりは心のなかに余裕が生まれて、その余裕と呼べるものは決して大きなものではないのだけれど。
 うまくは言えないのだけれど、それは小さなゆとりのようなものな気もして。
 今の時間のなかにある、自分が自分なんだとそう思える瞬間が重なっていくかのような、ゆっくりとした時間の流れ。
 一日を終えて、疲れた自分を愛でて、なにかをするわけでもなく、なにかをしていたり。
 好きなものだけを選んで、栄養なんて考えないで、美味しいと思うものだけを食べていたり。
 お腹がいっぱいになって、床に仰向けに寝て、脚をぶらりと上げながら深呼吸をしたり。
 一口のお酒にほろ酔いになって、ふと見つけたりもする小さなゆとり。
 その小さなゆとりのなかにある、日々のなかで見逃しがちな時間の隙間にあるような、見方を変えると気がつく豊かさのようなもの。
 そういったものが心に栄養を与えてくれたりもして、心がカサカサに乾いてしまったりすることを防いでくれたりもする。
 ぼんやりとした幸せ。
 しあわせ。
 シアワセ。
 ハッピー。
 幸せということ。
 夜道を歩いていたら、野良猫が誇らしげに得意な様子で、目の前を横切っていく。
 昼間の街で小犬が笑いかけてくれて。
 繁華街で知らない子供が知ってる人と間違えて手を振って、挨拶をしてきて。
 雨が降って、傘を忘れて、濡れて、雨が雪に変わったり。
 顔が引き締まる、冬の冷たい風が吹いて。
 前日の天気が嘘みたいに、翌日は快晴で、外の空気に癒やされたり。
 しょぼしょぼとした心の瞳であっても、ぼんやりと必要なものだけが視界に入ってきて、日常のなかに煌めくものを、煌めくことを感じる瞬間。
 四角ではなくて、尖ってもいなくて、それは柔らかくて、ぼんやりとはきっとまるい形をしているのだろう。
 虚しさ、苛立ち、焦り、怒りのなかにはぼんやりというものは姿をなかなか見せてはくれない。
 バスを逃して、電車を逃して、タクシーを逃したり、なにか自分だけが遅れている気がしたり、こうありたいと思う行動がとれなくて、そんな自分にものすごく後悔をしていたら、空から綺麗な雨が降ってきて、風に流されてきたその雨の感触を頬に感じるその瞬間に、雨空と手を繋ぐようにしてぼんやりは姿を現す。
 ぼんやりしながら歩いている、冬の帰り道。
 凍えるような冬の寒さに、左足の薬指と小指の赤くなったしもやけ。
 靴のなかで感じるその痒さ。
 左足の薬指と小指がいつもは見せないその存在感をここぞとばかりにまるで伝えてくれているかのよう。
 おまえさんのために、しっかりといつも大地を踏みしめているからなって。
 冬の寒さだけじゃなくて、様々な人間関係で体が強張(こわば)ってしまっていても。
 その強張りもほんとうのところは弱さなんかではなくて、いつだっておまえさんは大丈夫だからなって、体がここぞとばかりに伝えてくれているのかもしれない。
 涙が流れて。
 涙が引いて。
 涙がまた流れて。
 そんな涙の痕は新しくできていく、これからの光の道筋のようで。



  タチヨミ版はここまでとなります。


ぼんやりしながら

2026年2月15日 発行 初版

著  者:たいいちろう
発  行:ANUENUEBOOKS
表 紙 絵:たいいちろう

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たいいちろう

巡り会えた皆様に、
幸せが訪れますように…。

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