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日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

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目次

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 - ハーメルン第1話 国家召喚獣管理官。第2話 初陣。第3話 召喚獣管理省 関東庁本部ツアー 前半ー中編。総合訓練棟。召喚獣操法科棟。ー後半。総合整備開発科棟。関東庁召喚獣総合病院。失言にはご注意をウッシー。築地ドーム。鼻っ柱柔 vs 剛。召喚式クロトラ。タンカクウサギイッカクウサギ若輩の処遇ツキヨノ腹が減っては本間 月葉 10歳。積もる秘密。召喚獣管理法 第24条。揉まれ損。大人の責任。日本国 召喚獣管理省 関東庁 庁官:上坂 貞時。赤いボタン武田フィーバー西東京第三地区スライム配管調査一か八か。注意事項

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日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 - ハーメルン

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 召喚獣。
 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。
 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。
 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。
 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。
 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。
 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。


 ーーーーーーーーーーー
 本作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
 本作品の著作権は作者:wakaba1890にあります。
 作者wakaba1890以外による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

第1話 国家召喚獣管理官。



 召喚獣ーーーそれは、向こう側とされる所から召喚されるモンスターのことである。
 それは、初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)を従えていた事が原初とされている。
 しかし、他方の学説によると、紀元前数万年前の縄文土器からも人が召喚獣と共に生活をしている様子が確認されいるが、公には初代天皇・神武天皇が召喚獣と契約を交わした最初の一人であるとされている。
 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。
 召喚獣召喚において、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると体に刻まれた紋章が光り輝き、任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターが召喚される。
 そして、召喚されたモンスターらは主人である当人や心を許した者に対して忠実であり、死が二人を分つまで共に生を全うする肉体と魂のパートナーといえた。
 そのため、彼ら召喚獣は古来の日本から、農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの安寧と繁栄に寄与し続けてきた。
 神武天皇陛下による日本国建国から今まで、国益の基盤たる数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーー




 ーーーーー国家召喚獣管理官である。






 ーーーー皇紀 2685年 (西暦2025年) 4月7日午前10:50 立川市。
「ーーー・・やぁぁぁぁぁっ!!」
「チュキっ!」
 研修を終え、管理官としての一歩を踏み出した彼女・時雨 千智はチーズに塗れた鞄を背負い、幾重にも分身しているネズミ型の召喚獣に追いかけられていた。
「もぉぉぉぉお!!聞いてないよぉぉぉっ!!」
(ぁぁぁぁぁあもぉぉぉぉ...今頃、いろんな召喚獣ともふもふしながら、のんびり仕事して、お昼には近くのおしゃれなカフェでティーブレイク、先輩は優しくて、定時退勤後には美味しいお店でご飯奢ってもらたりとか...そう、)
「....そうだと....そうだと、思ってたのにぃぃぃぃっ!!」
 叫んでいる中でもネズミ型の召喚獣は通った先の電柱や障害物を消し飛ばして、淡々と加速を重ねていた。
「....チュウ...」
「いやぁぁぁっ!もーーー時よ戻ってっ!専攻を決める時まで巻き戻ってーーっ!!」
 目の端でその憧憬を掠めながら、彼女、時雨 千智(しぐれ ちさと)は甘い憧れと現実の狭間で昔の自分へ届かぬ嘆きを叫んでいた。




 ーーーーー2025年4月7日午前8:20 立川駅。
『ーーーー駅構内での、召喚獣の現出はご遠慮ください。なお、属性タイプの現出を見かけた方は近くの通報ボタンを押して頂き鉄道警備隊へ連絡を願いします。』
「.....うわぁ....ここが、東京。」 
 JR立川駅の改札口から出ると、時雨の前には多種多様な召喚獣が闊歩していた。
 青き空には飛行タイプの召喚獣に乗って遅刻を逃れようとする人が数名、配達員の人が六本の羽を持った鳥に乗って彼らの上を通って荷物を抱えていた。そして、噴水の側では朝飯を共に食い損ねて鮮やかな羽毛の召喚獣にずっと頭を突かれている人がいたり、半分寝ている男が2mくらいの額当てをつけた白クマの背中で二度寝をしようしたのを体を揺らして起こされていた。
「....わぁ....っ」
 ーーーーシュパッ!!
 足を進めつつも、召喚獣と都市が最適化された憧憬を前に時雨は圧倒されていた。すると、視覚外から俊敏で健脚なダチョウっぽい召喚獣が頭上を通って、壁を伝って人混みを避けて、下の召喚獣専用道路の方へと向かっていった。
「...コラーっ!壁を走るなー!」
 首にイタチのようなもふもふの召喚獣をつけた警察官が後を追いかけていた。
「.....っと、一応早めに行かないと、よしっ頑張るぞ!」
 田舎ではなかなか見れないシーンに見せられていた時雨であったが、もう一度機を引き締めて先を急いだ。
「....うーん、同期のみんなとは綺麗にバラバラになっちゃったしなぁ....配属ガチャ外したかなぁ...」
 がしかし、駅の喧騒にかき消されていた不安は段々と職場へと近づく内に、しとしとと心に落ちていた。
「....んなぁー」
 どこに吐くわけでもない不安を呟いていると、かれこれ12年の付き合いになる彼女の召喚獣・コクウネコという一見少し大きめの白い蝶ネクタイをつけた黒猫にしか見えない召喚獣がどこからか現れて肩に乗って擦り寄っていた。
「ははっ...そうですよね。クゥさん、まだ始まってないもんね。」
 励ましてくれたコクウネコことクゥさんを右の項で優しく撫で返すと、これで多少は解れたかと思ったまだ寝足りていないクゥさんはあっさりと姿を消した。
「....わぁーっ!猫ちゃん!...ぁ...」
『...クゥゥン』
 お母さんに手を繋がれている幼稚園に向かう途中の女の子に指差されたが、すぐに消えてしまったため、しょんぼりしてしまい。付き添っていた黒い狼型召喚獣が頬擦りして励ましていた。
「こらー、指ささないの。すみません...」
『....クゥフゥゥン』
「あぁ...いえ、ふふっ....クゥさん」
 お母さんは謝っていたが、付き添っている黒い狼型召喚獣がウルウルとした目で、なんとかぁ....もっかい見せてくれませんかねぇ....と見てきたので、女の子にしゃがみ寄って自身の召喚獣を呼んだ。
『ンァ....』
 大体意図を理解した彼女の召喚獣クゥさんは女の子の指にお鼻を近づけた。
「ぁー...触っていいの?」
「....っ!」
「あーと!うわぁー....ふわふわー」
 彼女がこくりと首肯してから、クゥさんの喉を触ると女の子はその触り心地に感動していた。
「ふふっ...でしょう?」
「おねぇーちゃんもふわふわー」
「わぁー...へへへ...」
 そうこう幼稚園児と人懐っこい黒狼型召喚獣と戯れ平和な時を堪能していると、時間が迫ってしまい全力ダッシュで配属先の関東庁本部へと向かった。
「...はぁ...はぁ....うわぁー...おっきいなぁ....」
 いきなり本部の課に配属された時も、ここに来るまでもはっきり言って実感がなかったが、ペーパーテストと実技の結果か、研修での成績の良さか、持ち前の愛嬌のお陰かわからないが、関東地域を統合管轄する召喚獣管理省関東庁本部の荘厳で歴史を感じさせる城のような建物を前に、出世コースとされる本部への配属を強く実感した。
「.....?」
 圧倒されていると、入り口の警備の方といかにも接近戦闘向けな二足歩行のウルフ召喚獣が挙動不審な時雨をロックオンしていたが、想定される来場者は記憶しているのか、入って良いですよと軽くジェスチャーしてくれた。
「...あ、すみません。」
 少し気が落ち着いた彼女は心臓がバクバクなる音を諌めながら、本棟の受付へと向かった。
「..あ、あのっ....」
「はい、何かご用ですか?」
「ほ、本日からっ!お世話になります、時雨 千智と申しますっ!よろしくお願い致しますっ!!」
「「「........」」」
 朝から元気の良い彼女の挨拶は、本棟のロビーで忙しなく行き交っていた人たちの喧騒を一瞬静けさへと変えた。
「ふふっ...はい、今日配属された方ですね......あなたの課はG棟になります。」
 新人さんだとわかった受付の黒髪セミロングの綺麗な女性は、和やかな微笑みから彼女の名前を検索した結果をみてか、少し眉をひそめて配属先の棟を教えた。
「...は...はいっ!失礼します!」
 初っ端からかました彼女は顔を真っ赤にさせながら、受付の後ろに埋め込まれている関東庁内の地図を一瞥して急いで言われた場所へと向かった。
「.....ん、ここであってる、よね」
 ついた先は敷地内の端っこで本棟よりかは年季を感じたというか、所々ぼろっちい雰囲気を醸しており、若干というか正直汚ならしい建物だったが、それでもGというエンブレムはわかりやすく入り口の横に刻まれていた。
「あのぉ......えぇ...はぁ...」
 意を決して建物に入ると、受付には先のような愛想の良い綺麗な人というか人ですらない、申し訳程度にグッドサインを得意げな感じでポーズしている一頭身のスライムの人形が目に入った。
「たはは....1階は運動室?誰もいないけどなぁ.....2階は資料室で、3階が執務室だから、3階かな」
 そして、その状況も相まって、人形のポーズがグッドラックという意味かと思い渇いた笑いを吐いて、とりあえずスーツケースは受付の前に置いておき、受付の壁にかけられた案内から配属先とされる課があるっぽい3階にへと向かった。
「....ぁ...また.....か」
「....は...ぁ....」
「わた....ぁりき....」
「....ふぅ.....今日配属の時雨です。」
 すると、執務室へと通じる扉越しに話し声が聞こえひとまず安堵し、襟を正し扉をノックした。
「....入れ」
「し、失礼します!」
 よく通る低すぎない男性の声に一応は場所は合っているのだと思い、相槌と共に扉を開いた。
「よし、カウント開始しろ」
「あぁ、5」
 その声の主は金髪のスーツのホストのような男で、分厚い資料を机に置いて腕を鳴らし、開口一番に予想できるわけない事を、側にいた大木のような男にそう言って合図した。
「え、あの....カウント?」
 耳は良い彼女はその言葉の意味を聞き返したが、それは彼らには届いていないようだった。
「...4」
「....またやるんですか?前ほどでしたら、万一でも治せますけど....」
「え、は...何いって...」
「....3」
「あぁ、それありきでもあるな。おい、新人。」
「.....2....1」
 カウントが淡々と減る中で、ふかふかなソファーでくつろいでいた短くセンター分けにした黒髪ロングの長身女性にそう言うと、これまで目線が合わなかった金髪ホストはどこからか槍を取り出し、こちらを真っ直ぐに見つめて声を張った。
「....10秒生き残れ....シッ!!!」
「...なぁっ?!...っ...」
 金髪ホストから放たれた槍の一閃は、足元にあった紙に足を滑らせた時雨の脳天を掠め、今日のために背伸びして美容室でキメてきた髪を僅かに持っていった。
「...ぁ....は、はぁ!?!」
(なんで、え、殺そうとしてきてる?!この人?!いや、この人達っ?!)
 破片すら落ちてこない程の威力で壁を貫通した槍を引き抜こうとしている金髪ホストを見上げながら、その隙に時雨は思考を巡らせる。
「....悪いな」
 間髪入れずに控えていた大男が緑色の鱗のようなモを幾重にも重ねた盾を、尻餅ついた時雨に振り下ろした。
「うわっ?!....っぅ....」
 ーーーーードゴォンっ!
 確かな質量と速度を持ったそれは床にクレーターを作っていたが、ギリギリで壁を蹴って大男の踏み込んだ股を通り抜けていた。
「残り7秒。」
(意味はわからんけど、ともかく残り7秒何としても生き残る。今はそれだけ遂行する)
「...スゥ....クゥさん。」
『んぁー』
 かなり分厚い建物の床をクレーターにした大男から距離を取り、窓際に寄りながら短く整理して小さく息を吐いて自身の召喚獣を呼び肩に乗せた。
「....ほう」
「「.....」」
 いつ出すかと身構えていた彼らであったが、なんの予備動作も無しに、時雨のどこかしらにある紋章が光った素振りも無しに、無音で現れた黒猫の召喚獣を前に金髪ホストは少しはやれそうな雰囲気に感心し、大男と長身女は静かに警戒度を上げていた。
「....ぬんっ!!」
 今一度、距離ができた時雨を見据えて、大男が緑鱗の盾を全面にして突っ込んだ。
(自分の視界を潰してまで、盾に収まるように丸まってる....相当自信があり、こっちからじゃ攻撃は通らない。)
「.......つぅっ!」
「ぬっ...」
 方向転換を度外視した一直進突撃してきた大男をギリギリまで引き寄せて、時雨は背面の壁と窓の間を蹴り体を捻って彼を避け、体勢を固定している大男の背中に乗り、踏み込んで金髪ホストの方へと加速した。
「へぇ...」
「....フンヌっ!!」
 距離をとってカウンター狙いだと踏んでいた金髪ホストであったが、勢いそのままに自力で加速して真正面から向かってきたのを感心しながら、初めの一発を受けた。
「...っ?」
 が、左手で受けたはずの時雨の右ストレートは感触が一切無く、目の前にいるはずの時雨の姿は大男によって破壊された壁の土埃にかき消されていった。
「...ぬんっ!!」
 その生物として避けられない一瞬の理解が遅れる現象によってできた、隙間に時雨は金髪ホストの左脇腹にボディーブローをかました。
「ぐはっ...ツゥ...」
「わいさ"ぁ"っ!あたいんいっばん極まっちょった、髪台無しにしやがっせぇ、わいん金髪、丸刈りにしたろう〟か〟っ!」
 意識外からの容赦なしのボディーブローが効きながら、カウンターを打ち込もうとしたが、彼女はすでに土埃に紛れて距離を取り、初撃の槍に若干削られたサイドヘアーをかくし上げながらバチギレていた。
「...スゥ....まぁ、持った方か」
 方言丸出しでバチギレている目の前の彼女を前にしても、さっきのボディブローのダメージなんてなかったかのように涼しい顔に戻った金髪ホストは仕込んでいた武器をしまい、勝利宣言をした。
「ぁ....な...っ!」
 言い返そうとした彼女であったが、いつの間にか足元に来ていた薄黄緑のスライムに全身を覆われてしまった。
「はぁ、これやめませんか?流石に.....っ?!」
 頑強な筋肉と柔軟性の極致であるスライムで飲み込み、ここから抜け出せたものは一切いなかったため、すでに決着はついた筈であったが、包み込んで無力化したはずの彼女と彼女の黒猫召喚獣クゥさんは一切の痕跡を残さず消えてしまった。
 ーーー残り3秒
 また同時に、淡々と数えられていたカウントはゼロに達していなかった。
「....まさか、消化したんじゃ」
「いや、絶対してないですよ。シゲモチは何も言わずに消化しませんから」
「...じゃあ、どこに.....」
「......うぉぉぉりゃぁっ!!!」
 ーーーーードゴンッ!!!
「...グゥっ?!」」
 居室内にも外にも時雨の気配は全くない中、何もないところからドップラー声と共に金髪ホストの頭上へと時雨のライダーキックがクリティカルヒットした。
「あたいん髪....よくも..スゥ...アルティメットっ....」
「っ......ん」
 完全に金髪ホストの上をとった彼女はライダーキックだけでは髪への恨み晴らしには飽き足らず、必殺技っぽいただの正拳突きをお見舞いしようとしたが、寸前で止められた。
「.....スゥ....満たしましたよね?時間」
 彼女は寸止めした正拳を正体に戻し、小さく息を吐いて勝手に設定された10秒が経ったのを丁度3階に戻ってきていた大男に確認した。
「....あぁ。」
「....ふぅ、新人。見えてたのか?」
 この時金髪ホストは絶対的な隙を与えた上で、カウンターを狙っておりそれを聞いた。
「スゥ......えぇ、まぁ...ムカつきますが、ゴングがなった後の追い討ちは論外ですから、まぁムカつきますが」
 長く息を吐いて一旦心を静止させたが、それでも時雨は髪への怒りを溢しながら武人としての最低限のラインは守った。
 金髪ホストが袖から何かを取り出そうとする気配を察知した彼女は、仮に正拳突きで彼をノックアウトさせなければ、カウンターで初撃の槍以上の攻撃が来るのはわかっていたため、不完全燃焼具合に眉を曲げながらも時間きっかりで寸前で止めるに至った。
「悪いな、ここの科は過酷ゆえ、ああいった事前通知なしのテストが通過儀礼でな」
「テストっていうか、殺し合いですよね....」
 初撃の槍の一閃は確実に脳天をぶち抜くつもりで放たれたものであり、テストとはかけ離れていたものだった。
「まぁ、現場では剥き出しの生存本能と相対するからな、それに一応安全装置はついてる。」
 金髪の男はおもむろに袖に忍ばせていた短い槍を頭に突き刺したが、寸前でスライムのようなものが隙間から現れてクッション材となっていた。
「いや、私の髪いくばくか持ってかれたんですが....」
『...ナァオ』
 金髪ホストにかました左拳をマッサージしている彼女の怒りを癒そうとしているのか、彼女の黒猫召喚獣ことクゥさんは彼女の肩にって持ってかれた部分の髪を頬擦りしていた。
「っ....ん....あれ、私の配属された科って、召喚獣操法科じゃ...」
 そう、配属が決定した際の電話一報やメールでも確かに操法科配属とされており、確かに危険は一切ないとは言えないが、召喚獣の基本的な操法を教える課であり、信頼関係をどのように結ぶかなどを一般市民や、契約したての未成年を指導するなどで、いろんな召喚獣と関われる保護課ほどの競争率は高くない割と穴場なところであった。

 が、ここは決してそのような場所ではなかった。
「いや、ここは関東庁・召喚獣事案即応科だ。」
「.......ん?」
 想像していた召喚獣管理官ライフが一気に瓦解する音が聞こえ、雨漏りが滴る音だけがゆっくりと彼女の時を刻んでいた。


 ーーーー( ^∀^)! 説明しようっ!
 召喚獣管理省 関東庁・召喚獣事案即応科とは、九州、中国四国、関西、関東、東海、上越、東北、北海道と全国の庁に介在する、召喚獣関連事案が生じた際に初動で警察と共に召喚獣事案に情報が最も少ない中で最前線で対処する課であり、事、関東庁の即応科はーーー




 ーーーー全国の召喚獣管理官の中で最も死亡率の高い科である。





 時雨 千智 163cm 55kg 鹿児島出身
 県内の大学で召喚獣の学位を取得後、国家召喚獣管理官選抜試験をパスし、筆記実技、研修時の成績内容共に管理官として高適性と評価された。




 召喚獣:コクウネコ
 中型犬くらいの黒猫っぽい。深淵を使って自在に移動する。








第2話 初陣。

「...まぁ、何はともあれ、よろしくな。時雨。」
 時雨に止めをさされかけた金髪ホストは埃ひとつないスーツを伸ばして立ち上がり、彼女に締めの握手を求めた。
「....そ、そ...即応科....いや、そんなはずじゃ...ほらっ!召喚獣操法科ってなってますよ!」
 しかし、彼女はそれどころではない様子で携帯のメールボックスから、配属先の決定を知らせるメールを金髪ホストに見せた。
 ーーーーーー配属先は、召喚獣管理省 関東庁 召喚獣操ぉ法科になります。
「....あら、本当ですね。」
 丸縁のサングラスをつけているセンター分け黒髪ロングの女は、金髪ホストの後ろからひょこっと顔を出してメール内容を見ると、誤字が混ざっているものの時雨に嘘がないと理解できた。
「まぁ、待て....もしもし、即応科科長の才亮だ。今日配属の時雨 千智は即応科で間違いないか?....あぁ...おん....』
「「.....」」
 吹き抜けになっている壁を補修し水を吹きかけて再生している大男の音をBGMに、敬虔なる信徒のように時雨は目を瞑って真摯に祈っており、センター分け黒髪ロング女はえぇ...ノリノリに戦ってたのに...そんな嫌なん...と傍目で彼女を見ていた。
『...分かった。確かなんだな...失礼する。」
「....やっぱ間違ってましたよねっ!!召喚獣操法科ですよね!!」
 電話が終わったのを確認し、時雨は前のめりに聞いた。
 しかし、女神は微笑んでくれなかった。
「.....あー、書面でもデータベースからも即応科で間違いない。と」
「いやぁぁぁぁ....即応科は無理です!!」
 若干申し訳なさそうに目を逸らしながら金髪ホストがそういうと、膝から崩れ落ちた時雨は頭を抱えながら、全力でその結果を拒否した。
「あら、振られましたね。才亮さん。」
「む....手違いじゃないのか?」
 からかうようにセンター分け黒髪ロング女は金髪ホストこと才亮 勝馬にそう言い、特殊な建築菌糸で出来ているため壁や床の大体を直し終えた大男は断片的な話しか入ってなかった。
「........そうか、なら」
 ひとしきり時雨の拒絶具合を10秒観察したのち、金髪ホストは表情を一切変えずに、何か方策を話そうとしたその時
 ーーーービーっ!ビーっ!ビーっ!ビーっ!
「っ...!」
 即応科棟の室内放送と外のスピーカーから警報音が鳴り、反射的に携帯を確認した大男こと玄道 尽頼はガラス製のため直っていない吹きさらしの窓枠から飛び出て現場へと向かった。
「.....時雨、早速だが、足は早いか?」
 携帯をチラッと確認した才亮は嫌な空気を感じることを聞いてきた。
「....え、まぁ....逃げ足は早い方です。」
 別にそういった部活に入っていたわけではなかったものの、逃げ足に至っては自信を持ってそう言えた。
「....まぁまぁ、険しい道を歩んできたんですね...」
 それを聞いた長身女はサングラス越しに目を細めた。
「汐留はコンビニでチーズを買ってこのバックに詰めろ、時雨。とりあえずこれに着替えろ」
「え、は、はい!」
 研修での気質がまだ新しいため、条件反射で一旦才亮の話に二つ返事し、簡易仕切りの中で着替え始めた。
「今日現場についてくるなら、好きな科への異動の上申をする。来るか?」
「....ぐぬっ」
 着替えている中というのと、何らかの召喚獣事案が発生している中で才亮のその提案は、彼女にとては甘すぎるものであった。


「ーーーー・・てっ!!なんであっさり了承しちゃったんだよぉぉぉぉ!!!わたしぃぃぃぃ!!」
『....チュキっ!!』
 人払いされた大通りの一本道に差し掛かったところで、その召喚獣は道路や標識を接触せずに空間ごと削って、チーズまみれのバックを背負った時雨に迫ってきていた。
「いやぁぁっ!...もう、限界...くぅ..」
『...時雨っ!天敵を認知したら逃げちまう。出すな!』
 イヤホンから商業ビルの屋上を伝って、上から時雨と分身しながら彼女に迫っている、ネズミ型の召喚獣を追いかけている金髪ホストの指示が響く。
「うぅぅ....えぇーえぇー!わかりましたよ!!」
 一応、本当にやばい間合いまで詰められたらクゥさんが勝手に出てくるのは承知の上であったが、それでも、ネズミ型の召喚獣とはいえこんなにもわかりやすくチーズに執着している召喚獣の熱は背筋を嫌に伝っていた。
「...はっ...はっ........ぁ」
 9割程の全力疾走ではあるが体力も乳酸値には余裕があった中、本来ならゴミ一つ落ちていない道路にネズミ型の召喚獣こと量子ネズミからの追撃の余波で飛んできた、様子のおかしい標識の破片が、彼女をつまづかせた。
『....シゲモチがクッションになる。そのまま加速しろ』
 ーーーシュルっ
「...ぐっ....オラァっ!」
 あらかじめバックに仕込まれていた黒髪ロング女の召喚獣、バンヨースライムことシゲモチさんが、前傾姿勢になった時雨の左足に回り体を萎ませて発散し、彼女の体勢を整わせ、前へと押し上げた。
「...チュキィっ!」
 後一歩で仕留められる距離に入れた量子ネズミは、スタート台となったシゲモチを削ろうとするが、数ミリ単位で真っ平になったシゲモチを捉えることはできなかった。
『目の前の十字路を右折。その先、封鎖済み交差点にカバンを投げろ。』
「.....りょう....かいっ!」
 目的の場所へ差し掛かった彼女は十字路に置かれたスタート台となっているシゲモチの分体へ今一度加速し、シゲモチに任せて勢いそのままに右折した。
『よし、そのあたりで良い。封鎖線の前に投げ込め』
「....おっ...ラァァっ!」
「...時雨さん!後ろへ!」
「......は」
 一生チーズくさい忌々しいカバンを投げ込んだ彼女は封鎖線の前で待ち構えている黒髪ロングと、鱗を局所的に纏っている大男の後方へと飛び込もうとした。
「....っ...チュキィ?!」
 封鎖線と、追いかけていた素早しっこいだけの女よりも、明らかに強い雰囲気を持っているデカい女と男を認識した量子ネズミは自身が袋の鼠だとわかり、しどろもどろしていた。
「....スゥ」
 その様子を確認した金髪ホストは携帯型の槍を取り出して、大きく胸を張って下半身のタメをそのままに量子ネズミの方へと投げ込もうとした。
「...っぅ...時雨!!」
 しかし、寸前で投げ込むはずだったエネルギーを握力で握りつぶした金髪ホストは、ビルの建物内から出てきたヘッドホンをつけた女子高生の方を指差し叫んだ。
「.....はぁ...バイト行きたくないなぁ....」
「...チュキッ!」
 彼女が出てきたところから逃げれると思った量子ネズミは、邪魔な彼女を削って逃げようとした。
「....っ!」
 時雨は一時的に黒猫型召喚獣クゥさんの深淵を使って距離をショートカットし、彼女を捕まえて量子ネズミとの間に体をねじ込んだ。
「....時雨っ!!」
 記憶に新しい槍を時雨の方へと放った。
「じっとしててっ!」
「きゃっ...」
 一瞬で意味を理解した彼女は、女子高生を抱きしめて出来るだけ体を丸め、その槍は彼女たちに到達する寸前で透明な薄い黄緑色から赤色に変色したスライムが展開した。
「...チュイっ?!」
「....逃がすかよ」
 ーーーーキュルキュルっ!
「チュ...チュウ...」
 赤色を認識できないネズミ型召喚獣量子ネズミが削る空間の間合いを見誤ったその一瞬で、屋上から一直線に降りてきた金髪ホストは手元から糸を繰り出して目元と体をぐるぐる巻きにして無力化した。
「....対象確保っ!他に同個体はいないかっ?!」
「....反応ないです!!」
「一体とは限らんが....時雨。立てるか?」
 索敵系の召喚獣持ちの警官がそう答える中、金髪ホストは警戒は解かずに女子高生を抱いている時雨に声をかけた。
「....は....はい。」
「う...え、管理官?私何かした?!」
 外に出たら突然視界が暗くなり、体を覆って包んできている人?が離れるとその人は管理官の代名詞である黒スーツを着ていた。
「いえ、もう大丈夫です。怪我はないですか?」
「あ、は...はい。」
「よかった.....っ」
 一杯一杯な表情の時雨に驚きながら女子高生は無事であることを伝えると、それを確認した時雨の意識は事切れてしまった。
 次に目覚めた先は、天国でも地獄でもなく、世界で一番清潔な場所だった。
「ーーー・・..ん.ぅ...っ...あ、あの子は!!」
 意識が途切れる前の記憶の続きを思い出した時雨は病院のベッドから体を起こした。
「...無事だ。尻もちついた程度らしい」
「っ!ぁ...なら良かっ....うぷ...」
 リンゴを切っている金髪ホストと周囲の無機質な空気からここが病院だとわかり、とりあえずは彼女も自分も助かったのだと理解したその瞬間、吐き気と気持ち悪さ、異様な倦怠感を感じた。
「まだ起きるな、量子酔いだ。」
「うぅ....量子、酔い?」
 大学で一般教養の中で聞いたことのある単語ではあったが、それでもあまり原理までは覚えていなかった。
「あぁ、今回の召喚獣はリョウシネズミでな。量子空間を介して、瞬間移動をする召喚獣で、お前が市民を庇った時に、量子波に当てられたんだろう。医者はしばらく安静してれば多分、大丈夫と言っていた。」
「ふぅ....なら...って、多分?え、大丈夫じゃない場合があるんですか?」
「....まぁ、齧った程度の意見になるが、量子と量子空間は分かってないことが多いからな、もしかしたら、量子プールの任意の量子に共鳴して、異世界に飛ばされるかもしれないし、量子パスを通じて召喚獣か、菌が見ている景色を見れて、そいつらと意思疎通ができるようになるかもしれない。」
「わぁー...もうやめてください!怖がらせないでください!」
 ありえた可能性の殆どは死なないにしても、ろくな結末が待っておらず時雨は耳を塞いで金髪ホストから離れた。
「わ...悪い。まぁ、どの道、お前の黒猫と離れ離れになることはない。」
「っ...なら、許します。」
 召喚獣と共に生き、共に死ぬ者が殆どのこの国では、召喚獣との関係性が命と同等に大事であった。
 仮にそのような事態になっても、魂との契約で結ばれている彼女の召喚獣と離れる事態はないと言えた。
「....あと、親父さんに一応連絡を入れたが....強烈な人だな」
「うぇ?!パパと話したんですか?!」
「え、あー....丸二日入院してたからな、決まりでな」
「....ふ、二日?..より、何か言ってましたか?」
「.....まぁ、鍛錬が足らん。とな」
 親子間の伝言を伝えるだけなのだが、その一言で大体の親子関係がわかってしまった金髪ホストは申し訳なさそうに目を逸らしながらそういった。
「....スゥ...あんの...やろう...」
 それを聞いた彼女は金髪ホストから逸らした所で、静かに怒りを吐いた。
「っ...ともかく、頭数が必要だったとはいえ...初っ端新人への負担がデカすぎた。すまない。」
 金髪ホストは時雨の膝の上でありえんくらい体を伸ばしているクゥの方を一瞥し、一瞬目を細めながら、才亮は本来なら配属先は引くて数多だった時雨に謝った。
「....いえ、その、多少は勢いに流されたのはありましたが、即応科がやばい所だってわかった上で、自分で考えて決めた事なので、今のこれも私の責任です。」
 クゥさんの喉を撫でながら、時雨は責任の所在を理路整然と明確にした。
「!....」
 22歳。召喚獣管理官選抜試験での筆記、実技をクリア後、研修期間の最短修了、今回の事案での臨機応変な対応。感情を吐き出すことでメモリに空きを設け、対処すべき問題に注力する。やはり、見込んだだけあると金髪ホストは時雨のポテンシャルを高く評価した。
「.....スゥ...落ち着いたら、希望の科を俺宛にメールで送ってくれ。多少時間はかかってもどこでも押し込める。」
 彼はお皿に可愛いうさぎリンゴを揃えて立ち上がり、彼女を即応科に口説きたい気持ちを抑えながら、約束を反故にしないと明言した。
「ぁ...はい。」
「....あ、そうだ...これっ」
 扉に手をかけた彼であったが、思い出したかのようにポケットから何かを取り出して彼女に投げた。
「わっ...っと...?」
「流石に敷地には入れないからと、あの子から6pチーズの差し入れだ。じゃ」
 彼は最後にそれを伝えて病室から出ていった。
「...え?....チーズ。」
 ーーーー先の状況、金髪の人から聞きました。危ないところ私を助けて頂き心から感謝致します。
 6pチーズの裏には張り紙がはっており、そう綺麗な字で感謝の言葉が書かれていた。
「....スンスン....スンッ....ナァオ」
 時雨の黒猫召喚獣クゥさんはぬるっとベットの上に現れて、興味ありげにその6pチーズをクンクンしていたが、あまりチーズは好みじゃないクゥさんはフンっと顔を逸らして太々しく時雨の太ももの上で体を伸ばした。
 本来なら操法科に配属されて、右も左もわからない中でも先輩方から一つでも多くを吸収して、向いてないのかなぁ...とかぼちぼち自己反省しながら、定時で帰って漫画読みながら晩酌してたんだろう
「....ほんと、どうしましょうね。クゥさん」
 クゥのもちもちのお腹をさすりながら、時雨は胸にじんわりと広がるそれを離せずにいた。





 才亮 勝馬 召喚獣総合事案即応科 科長183cm 83kg






 召喚獣:糸操る系のやつ?

第3話 召喚獣管理省 関東庁本部ツアー 前半

 初っ端新人に無理をさせてたリョウシネズミ事案から数日経った頃、即応科の門戸を叩いたのは、件の彼女だった。
「ーーー・・えー..改めまして、時雨 千智です。不束者ですが、これからよろしくお願い致します。」
「よろしくー、やっと女の子が来ましたよー」
「....うむ」
 お見舞いに来ていた黒髪ロング長身女は時雨の意志を聞いていたのと、大男はあれだけの適性がある中で来ないのはないとわかっていたのか、そこまで予想外なことではなかった。
「.....」
 ただ、健気に希望の科のメールを待っていた金髪ホストは普通に驚いており、温かいお茶を飲みかけたまま止まっていた。
「ふふ、予想外でしたか?才亮さん」
「あー....まぁ、五分だとは思ってた。」
 黒髪ロングに気付かされた金髪ホストこと才亮は飲みかけたお茶を飲み始めた。
「俺は玄道 尽頼(ゲンドウ ジンライ)。召喚獣はウロコノムシ。半寄生型だ。よろしく頼む。」
 窓枠に窓を取り付け終えた大男は手を拭いて、自身の両腕に装着された緑色の小手を指差しながら軽く紹介して握手を求めた。
「あ、はい!よろしくお願いします!」
 ファーストインプレッションは鱗盾の縁で頭をペシャンコにしようとしてきたのを鮮明に覚えているが、今は彼のおっきな手の温かさから、無骨な優しさを感じた。
「ふふっ、改めてになるけど、私は汐留 美玲(シオドメ ミレイ)。召喚獣はバンヨースライムのシゲモチさん。回復、防御、打撃、一通りできるから、困ったらおねぇさんに任せてね」
「は、はい!お願いします!汐留さん。ははっ、シゲモチさんもよろしくお願いします」
 センター分け黒髪ロング長身女こと汐留はサングラスをおでこにかけて、グットサインしながら自己紹介し、また新人が可愛いのか、前回要所で頼られて少し仲良くなっているシゲモチがほっぺをツンツンして、受付にあったスライムぬいぐるみのようなグッドサインを作っていた。
「....あー、そういえば俺もしてなかったか....俺は即応科科長の才亮 勝馬(サイリョウ ショウマ)。召喚獣はイッタンモンメン。糸で捕獲、貫通、情報収集、諸々できるが、基本は対召喚獣装備で打開していくスタイルだ。」
 ちゃんとした自己紹介がまだだった金髪ホストこと才亮は、袖から妖怪アニメなどでよく見る縮小したイッタンモンメンが出てきて、彼女に手を振っていた。また、才亮は一方の袖に仕込んでいた携帯型の槍を手品のように取り出し、展開して大体のスタイルを話した。
「!....ほへぇー...これが対召喚獣装備。」
「持ってみるか?」
「...はい!」
 研修で捕縛用のは触ったことはあるが、シンプルな戦闘が肌に合っている彼女は早々に別カリキュラムに飛ばされ、彼が持っている殺傷用のものは見たことがなかった。
「っと...」
 槍の持ち手は彼用に調整されていると思ったが、センサーが内蔵されているためか持つ人によって持ち手の円周が調整された。
「....結構、重いですね。」
「あぁ、これは特注だからな...正規品はもっと重心も扱いやすいように設計されてる。」
「...っと、返します。得物系は良い思い出ないので...」
「そ、そうか...」
 逃げ足には自信があったり、親父に安否連絡をした際も開口一番に『鍛錬が足らん。』と言われていたりなど、初っ端あれだけの動きが出来る証左はちょくちょく滲み出ており、才亮は目を細めた。
「....ところで、武田さんには会いましたか?」
「?....いえ、会ってないです。即応科の人ですか?」
 一瞬、受付に置かれているスライム人形の事かと思ったが、そのイメージをかき消した。
「あぁ、一階にいるから....会ってみるか?」
「え、まぁ...一応挨拶くらいは...」
 若干、目を逸らしながら才亮がそう言ったのを不思議に思いながら、同じ科の同僚のため挨拶は早めに済ますかと才亮の後をついていった。
(...どんな人なのかな、渋い感じの匂いがするけど...)
 武田という名前から、勝手に勇ましい感じの昭和俳優の男前な風貌を想像していた。
 しかし、まるっきり期待していたのとは異なっていた。
「....ぐがぁぁ....スゥ....ぐがぁぁぁ...スゥ...ぐがぁぁぁ...スゥゥ....」
「えぇ.....」
「こいつは武田 武蔵。召喚獣は...まぁ、滅多に使わねぇし暇な時に当人に聞いてくれ。戦闘スタイルは刀と弓で万力ゴリ押し制圧するスタイルだ。」
 いつも通りの光景に特に何も思ってない才亮と汐留は淡々と、道場の角隅で怪獣みたいな寝方をしている、のばっしぱなしの髭と長い髪で顔が隠れて目隠しになっている男の紹介をした。
「ん、それならリョウシネズミの時、武田さん?に囮役してもらえばよかったのでは....」
「あー....武田さんは、その....戦い甲斐がある召喚獣にしか興味ないですから....」
 聞いている限りでは素早さもかなりのものであると言えたため、もっともなことを聞いたが、汐留は芳しくない様子で気分で出動に応じるかを判断している男であるとマイルドにそう補足した。
「えぇ....なんですか、それ....」
 即応科自体、必然的に現場責任者の裁量が大きい一方で、その棟が関東庁本部敷地内の端っこの隅に追いやられている点からも、情報が少ない中で鉄砲玉として最前線で出張らないといけないという責務から、血税で賄われている中でメンバー内でも自由な特権を持っているとはいえ、それが許されるのはいかがなものかと思った。
「一応、あの時も出動ブザーで起きたには起きたでしょうが...」
「あらかた、ネズミなんざで出張らん。って具合でふて寝しただろうな。」
「「うんうん」」
 才亮の物真似のクオリティが高いのもあって、武田の心情は実際と近似しているようで汐留と玄道は揃って首肯していた。
「えぇ...そんなの許されるんですか」
「あぁ、大体の事案は警察が処理するが、前回の特異なケースと、管理官からの協力が必要と判断された場合は即応科が出動するが、その時全員行くわけにはいかない。その時、武田がいると都合が良い。」
「あー、そういえばそんなの聞きましたね。消防士みたいですよね」
 学期テスト限定の記憶領域の底で、消防士とほぼ同じ勤務体制で一勤一休が採用されているというのを研修中の講義でさらっとそんなのをやったのをぼんやり思い出していた。
「.....そこまで規則的じゃぁないな、一週間警察で対応できるなら、即応科棟か関東庁の敷地内で待機してるだけで終わる週もあれば、2、3週間昼夜問わず毎日出動というのもある。」
 道場上の畳に呼吸をさせるために、才亮は窓を開けながらそう補足した。
「確か、強目の召喚獣が続いた時は、この人ほとんど寝ずに最高12連勤とかしてましたから、」
「色々、無茶苦茶ですね....」
 誰かがやらなくてはならない仕事とは言え、過酷な勤務体制とそれをこなせてしまう超人がいるのも含め、即応科はネジがぶっ飛んでいた。
「あー、あん時は事務方のお局に怒られたなぁ....手当どんだけ払えばええねんって具合で」
 即応という特性上現場の者の権限が強く、関東庁長官ですら現場介入する権限は持っていない。それゆえ、無茶な方策や作戦が通ってしまうものであるが、一応公務員という立場上、手当が加算され続けるのは民意が納得しているにしてもやり過ぎはよろしゅうなく、特例手当として処理をするための書類整理と作業量は総合事務部は悲鳴を上げていた。
 ーーーードバッ!!
「ぐがっ.....っ!出動か?」
「いや、違う。」
「そか....スゥ....ぐがぁぁ...スゥゥ...」
 何に気付かされたのか、わけわからんタイミングで起きた武田はちょうど良いところにいた才亮にそう聞くが、そうではないとわかった途端、すぐに眠りについてしまった。
(あーこういう行ききったマイペースな人が即応科に向いてるんだなぁ....)
 と納得してると、才亮は新人へまず初めにする必要のある事を思い出した。
「あ、そういや関東庁内は案内してなかったな、玄道。タケ見張っといてくれ」
「了解。」
「え、離れて大丈夫なんですか?」
「ん、あぁ...庁内ならがプラプトルが迎えにくるから、問題ない。」
 リョウシネズミの時も陸路移動用召喚獣・プラプトルが即応科棟に迎えに来ており、てっきり即応科棟に向かうように訓練されているかと思えば、才亮が手に持っている携帯ストラップの中に入っている枯れ木みたいなのが、プラプトルのトリガーの匂いとなっているらしかった。
「原則は即応科棟内にいないとですけど、形骸化してますし」
 一応は原則、即応科棟に待機している必要らしいが即応科棟に絶対いないといけないそうではないらしい。
「ほへぇー...」
「初めに行くのは...研究棟は俺らも入れないから、それ以外からになるな....本棟は行ったことあるか?」
 時雨は現場でしかわからない実情を聞いて面白いなーと思っていると、才亮は実は初めてな新人への案内を進めようとした。
「はい、一応。受付ロビーくらいでしたが...」
「あそこは....俺が厳重注意される時くらいだから、飛ばすとして....」
 場所も関東庁の正門を通って目の前にあるというのと、大体は科長である才亮が一身に責任とか始末とかをつけに行く所であったため、副科長の玄道でも滅多に行くことのない場所だった。
 そして、何より、即応科棟から遠いため庁内を縦断してまで行くのが面倒だった。
「えぇ....」
「とりあえず、B棟から回ってくか...」
 そうして、才亮についていくと、母校の大学図書館よりも立派というか、建築菌糸とは別外の頑丈めの素材で作られている資料館へと、あらかじめ登録されている顔認証システムで入った。
「.....わぁー...これは....」
 中に入ると、壁面だけでなく天井にまで本が敷き詰められており、一人用のゴンドラに付随されているアナログボタンにコードを打ち込むと目当ての本まで連れて行ってくれるような仕組みで、白衣を着た人や移動用の召喚獣を管理している繋ぎを着た人など、関東庁の敷地内で働く管理官の人らが調べ物に耽っていた。
「一応、ここは管理官であればいつでも使えるので、待機中、暇な時はここにくると良いですよ。」
「んっ...は、はい...」
 小声で耳元で囁いてくるの汐留のフェロモンが鼻腔に通じ、色気のある低い掠れ声もあってか、時雨は若干変な気分になりかけていた。
「ここでは、管理官に使用が限定されてる故、召喚獣の歴史、生態、特性、権能など、召喚獣に関する知識体系は最新研究まで追える。」
 一方で、才亮は簡潔にここの施設について説明していた。
「ん、管理官だけってことは貸し出しはやってないんですか?」
「あぁ、電子機器もこの中じゃ物理的に使えない。」
 この資料館で得られる情報は、西側諸国が喉から血眼のマリア様が手を伸ばす程欲する代物であり、小中高大での成績と蓄積された個人情報、管理官選抜試験、合格後の研修期間と幾重にも検証された結果、確白を日本国から保証された者しか関東庁本部に配属されないのであった。
「その...神格関連も読めるんですか?」
 先から小声で話していたが、さらに小声で汐留に寄って宮内庁案件のそれについて聞いた。
「!....私もちょっと...それは...」
「....権限パスのランクと後は司書からの許可次第だな。」
 汐留は正確に答えられないと思い才亮に目配せすると、地獄耳の彼には全部聞こえていたようで、一考した上でこの資料館内の人であればおおよそ知っている答えられる範囲での事を話した。
「...ん、即応科って....いや、流石に、それには関わりませんよね?
 神格召喚獣に関連する情報は宮内庁が管理、保全した上適宜運用しており、宮内庁が創設された建国当初から介在する召喚獣管理省は、今現在はその辺りの事案については一切関わらないというのが通常のスタンスであった。
「...ん?んんー??」
 そう、その筈だが、心臓を後ろから逆撫でされるかのような感覚を覚えた時雨は金髪と黒髪ロングの先輩方に小声で詰め寄った。
「「......」」
 聞こえているはずの金髪野郎と黒髪ロングデカ女は...スンとした澄ました表情で先へ急いだ。







 汐留 美玲(シオドメ ミレイ)180cm 70kg
 趣味:音楽を聴いたり、弾くこと






 召喚獣:バンヨースライム、ことシゲモチさん。
 透明の黄緑色のスライム。
 回復、近接攻撃、防御ともにオールラウンダー。
 あらゆる状況に柔軟に打開できる能力を持っている
 玄道 尽頼(ゲンドウ ジンライ)195cm 120kg
 趣味:トレーニング、料理






 召喚獣:ウロコノムシ
 緑色の鱗を纏ったミノムシ。
 熱や寒さにも強く、ウミノヘビに丸呑みにされてそのまま排泄される程あらゆる耐性を持っている。
 半寄生型。


 移動用召喚獣
 プラプトル
 操法科が管理している召喚獣
 機動力、素早さ・体力特化しているため防御力は低い。






ー中編。総合訓練棟。召喚獣操法科棟。

 お昼前、朝食で得たカロリーが目減りする中、雲一つ無い青空のもと初春の穏やかな風が、芝生の上で小休憩する三人の管理官を温めていた。
「ーーー・・うぅーん、美味しいぃかもー」
「あぁ、操法科が加工を改良したらしい。うん、うまいな」
「へぇーそうなんですか、時雨さん。一口食べます?」
「はぃー!...って...誤魔化されませんよ!」
 急に天気の話をし始めた才亮と汐留だったが、途中通った食堂横のアイス売り場で操法科発のアイスクリームで時雨を見事に宥めていた。
「....まぁ、どんな状況になっても、誰も死なせねぇから安心しろ。」
 春風に薄い金色の髪を靡かせながら、コーンを齧っている才亮は時雨に伝う不安をマシにさせる事を呟いた。
「「......」」
 それを聞いた彼女らは時雨のみならず、才亮との関わりがある汐留さえもキツネに摘まれたような顔をしていた。
「....ん、なんだよ」
「...いえ、今の言葉、信じます。」
「ふふっ....」
「?....とにかく、食ったら...C棟行くぞ」
 ーーーー関東庁本部 C棟 訓練場Bブロック。
「ーーー・・ユビナシっ!峰打ち叩き込めっ!」
『チュイッ!!』
「俺はいい!避けろ!シノノメっ!!」
 サッカーのハーフコート程のフィールド内において、いかつい顔をしたでっぶりしたビーバーよりのネズミっぽい召喚獣ユビナシが、懐から鋭利な刃物を出して峰の方で、相手の東雲色の額当てをつけた亀召喚獣の額当てを突き抜いた。
 ーーーーズドンっ!!
『...ぐ..ガァ....』
 主を守るためつかれた衝撃を額当てに一身に受けたシノノメは、ダメージの余波に耐えきれずその場で倒れた。
「....勝者。ユビナシっ!!」
 主が気絶したシノノメに回復薬が流し込まれ、少し欠けた額当てが再生していくのを見て、一安心していた時雨は目の前で行われた召喚獣バトルに舌を巻いていた。
「うわー...これは、賭けたくなりますね。」
「あら、悪い子ですね。その辺りに行ったことがあるのですか?」
 通常の召喚獣免許証とは別に、召喚獣バトルプロライセンスを取得した者たちによる召喚獣バトルは公営ギャンブルとして運営されているが、汐留が言っているのは公営よりもより高レート帯で行われる地下での召喚獣バトルのギャンブルの方であった。
 が、時雨にとってそういうのは生理的な関係で遠いようだった。
「..なっ、ないですよ!21時には眠くなっちゃうので、行きたくとも行けないですし!」
「...ふふっ...偉いですねー、ヨシヨシしましょう」
 もう一人の方とは違って諸々可愛い後輩と言うのもあり、どうしても時雨を愛でてしまいたくなっていた。
「あっ..ちょ...えへへ...」
「?....見ての通り、ここは、各々の召喚獣の能力を実践を通して訓練する場だ。」
 ない尻尾をフリフリさせながら満更でもない感じで、頭を撫でられている時雨を訝しげに一瞥しながら、才亮は一応の説明を挟んだ。
「おっと....あー大体は、よそのバトル場と同じ感じですかね」
 彼女にとっては、学校で通常修了必須の10歳からの高校卒業までの召喚獣操法カリキュラムだけでなく、実践的に自衛する力を養うための管理官管轄下のバトル場との比較の方がしっくりきていた。
「あぁ、てか...時雨はバトル場は行くのか?」
 時雨の召喚獣は"深淵"と勝手に呼んでいる黒い粒か円を通して、移動したり、姿を消して意識外から当人がぶん殴るスタイルである。
 それを踏まえ、時雨の場合、フィールドに人が立つ条件の召喚獣バトルにおいても、基本は召喚獣同士の戦いになるなかで、スタイル的に決着がどのようにつくイメージが明確でなかった。
「あー、一回だけですが...その時は時間切れまでクゥさんが深淵に入っちゃって、試合になりませんでした....あんま戦いたく無いもんねークゥさん。」
『...ンナァー』
 さっきのバトルにも一切興味を示さず、クゥさんは汐留と時雨の膝に陣取りながら、欠伸ついでに
 返事した。
「.....バトル場以外は、外のグラウンドで訓練か、後は水泳施設で対海洋召喚獣への訓練くらいだな。」
 この棟では管理官の研修を受けた彼女であれば大体知っているような機能ばかりであったため、才亮は立ち上がって次の棟へ移動しながらサラッと紹介したが、時雨は最後に早口で捲し立てられたその単語を聞き逃さなかった。
「....ん、海洋系は海上保安庁の領域じゃ....」
「「.....」」
「ん、いや、即応科は陸だけですよね?え、そうですよね!」
 時雨の必死の詰問とバトル場の熱気を背に、汐留と才亮は髪を靡かせて次の召喚獣一時管理棟へと向かったが、他の棟とはガラッと雰囲気が変わった建物で、警備の数も他の数倍はいてピリピリした空気が漂っていた。
「・・ここが召喚獣管理科棟だ。捕獲した召喚獣を移送する前に一旦管理保管する場所だ。ここも、許可がねぇと入れないな。多分、リョウシネズミもここにいる、はず。」
「え、なんでその辺ふんわりしてるんですか?」
 時雨からしたら基本質問したら何でも答えてくれる才亮だったが、最近の事でかつがっつり捕獲に関わっていた彼が捕まえた召喚獣の所在を知らないと言うのは引っかかった。
「...どこに何の召喚獣がいるかを管理してるのもこの科の機能ですからね、そういう漏洩したらまずい情報はクラウドにも保存されずにアナログに管理してるとか、してないとか」
「あー、なるほど...」
 汐留がそう補足すると、データベースのローカル化でアナログな認証方法を介してのみアクセスできるというシステムは、効率性を抜きにすれば情報の保全に合理的だと納得していた。
「....ちなみに、才亮さんが最近で一番やばい召喚獣はどんなのですか?」
 一時管理棟のピリついた空気から離れた所で、時雨は一度聞いてみたかった事を彼に投げかけた。
「そうだな....目を合わせた、あるいは存在を認知した時点で洗脳してくるやつだな。まぁ、タケが目を瞑って対処したから何とかなったが..」
「....えぇ...やばすぎますよ...それ....」
「その時は、私と玄道さんが居ませんでしたから、絡め手も使えかったそうで...」
 攻撃や捕獲をするしようとする気配というのは召喚獣からしたら、かなり感知されやすいものであるが、もってスライムにおいてはあらゆる動きに予備動作と付随する雑念がなく、かつシゲモチさんに関しては操作系、洗脳系への耐性も備わっているためまさにそういった事態に適していた。
「あぁ...まぁ、次は大丈夫だろうな。」
 顔だけ半分こちらに向けて話ていた才亮は、進行方向へとフイっと顔を向き直して、ぼそっとそう呟いた。
 そして、彼ら一行は召喚獣操法科へ到着した。
「ーーーー・・にゃお....」
「「「にゃーぉ、にゃにゃ」」」
 ここは時雨が元々希望していた科であり、説明しなくとも大体全部知っているだろうと、科棟の場所を確認する程度に収めたかったが、ちょうどその時、操法科の管理官が多種多様の色をした子猫たちと戯れながら、飼育室に行進しているのを目撃したのが不味かった。
「あぁぁー!!!やっぱこっちにします!やっぱこっちにしますぅぅぅぅーー!」
「おい....おま....朝サインしたばっかだろ、流石に今更覆せねぇって」
「はいはい...いい子ですから、いきましょうねー」
 時雨は目を真っ赤にさせて血の涙を流し、シゲモチにがんじがらめにされながら、召喚獣総合装備整備科へと強制的に連れられた。
「...シマエネコに、シシネコ、ジャバラネコ...ウミハラネコ、コラネコ、サツキネコ.....うぅ....」
「お前、あの一瞬で全部わかったのか」
「ほら、猫さんならここにもいますから」
『....んなぁ?』
 すっかり心を許した汐留に抱えられながら、クゥさんの肉球を時雨の肩にツンツンした。
「....うぅ...ありがとうございます。やっぱり、クゥさんしか勝ちませんよ」
『.....(^ΦωΦ^)』
「ははっ....シゲモチさんもですね。」
 気を持ち直した彼女に、シゲモチさんも耳を生やして形を猫に寄せて頬ずりし、彼女のHPは6割くらい回復した。

ー後半。総合整備開発科棟。関東庁召喚獣総合病院。



 そして、そこから少し歩くと対召喚獣装備 総合整備開発科棟へと到着した。
「....ここだ」
「...本当に、ここであってます?なんの音もしないですけど....」
 棟に増設させられる形でどでかいガレージの前に来て雑に敷設されたピンポンを押した才亮だったが、作業場であるのはわかっていながらも、それらしい音もしない不気味な空気の中、時雨は不安そうにしていた。
「あぁ、ここは完全防音だからな」
「ん、騒音対策ですか?」
 関東庁の周囲には航空自衛隊の基地や、通信施設、貨物列車の中継基地、陸自の駐屯基地など行政施設しかないため、騒音対策が特別必要なようには思えなかった。
「召喚獣関係なく、中には素で機械の音だけ聞いて何作ってるか大体わかる人もいますからね。」
「うわー....」
「まぁ、ここはそういう奴の集まりになるな」
 汐留の補足に、時雨はその変態具合に若干引いていたが、その変態共と今から会うことになっている。
『....どちらさん?』
「....才亮だ。開けてくれ」
 すると、ガレージの扉が左右に開くと、オイルの匂いと鉄、そしてなんか全体的に男臭い匂いが全身に向かってきた。
「うっ...鉄の匂い...」
「はぁ....私はお外で待ってます。」
 匂いに敏感な汐留は敷地外へと行ってしまい、扉の向こうからは油や汗まみれになっているエンジンのエンブレム刺繍ついた帽子をかぶっている作業服の青年だった。
「才亮さんっ!お疲れ様っす!」
「おざっす!まだ頼まれてたのはできてないんすけど...」
「いや、今回は新人の見学でな」
「新人?誰っすか...」
「っ...は、初めまして、時雨 千智です。」
「「「......」」」
 各々、鍵盤を削ったり、平版を叩いて整形していたり、ドリルで穴を開けていたりなどの作業をしていた彼らであったが、先の血の涙で少々塩らしくなっている時雨の声が作業所内を透過した途端、作業の音が一斉に止んだ。
「....??」
 何かしちゃったかと思った彼女であったが、それはどちらかといえば良い方向であった。
「「「うぉぉー!可愛いっ!」」」
「明るい感じの女子じゃん!」
「ちょっと朝ドラ女優に似てね?!」
「え、いや....えへへ...そう、ですか?」
 結構満更でもない彼女のそういうウブなところがさらに彼らを加熱させた。
「うぉぉーっ!恥ずかしそうな表情も可愛いーー!」
「時雨さんっ!彼氏はいるんでしょうか!?」
「おいっ!抜け駆けすんな!」
「....はぁ、お前らなぁ...そろそろ...」
 見かねた才亮が鎮めようとしたが、その必要はなくなっった。
「....ん、なんだ...客人か?」
「「「........」」」
 初老の白髪ジィさんがガレージの裏口から入ってくると、先までの熱は初めからなかったかのように各々作業に戻った。
「えぇ.....」
 急激な冷め具合に気を落としていると、初老の白髪ジィさんがゆっくりと才亮の方へと歩いてきた。
「...よっ!勝馬。」
 渋い顔をしていた彼であったが、才亮 勝馬とは親しいのかラフな感じで挨拶を投げかけた。
「おざっす。体調悪いって聞いてたんですが...」
「あーなんのっ...てぇした事ぁねぇよ。古傷が疼いただけじゃ。ところで、そいの嬢ちゃんは、隠妹か?」
「ち、違います!!即応科へ配属されました。時雨 千智です!!よろしくお願いします!」
「かかっ、元気が良いのぉ、新人け。わしゃ、整備科長の豊川 安彦だ。よろしゅうの」
「は、はい!お願いします....っ」
 整備科長と聞き長年の蓄積でてっきり岩のように硬い手かと思えば、シワは年相応にあれども赤ちゃんみたいな柔らかい手に驚いた。
「かかっ....時雨さん。勝馬は無茶させるだろ!かかっ!」
「おい、いてぇよ」
 孫の顔が見れたかのようなご機嫌な豊川は才亮の背中を叩きながらそう聞いた。
「えぇ...まぁ、ただ、任されるのは嫌いじゃないので」
「っ....かははっ!活きがええ新人だな!必要な装備あったら、いつでも来い!」
「は、はい!その時はよろしくお願いします!」
「おうっ!任せろぉい!」
「.....なんか、相性いいですね。彼ら」
「あぁ、これは予想してなかった。」
 人を選ぶ整備科長と時雨が大丈夫かやっぱりちょっと心配で、見にきた汐留は彼らの意気投合を微笑ましく眺めており、才亮は時雨のスルッと懐に入る素直さに感心していた。
 そして、最後に向かったのはH棟 召喚獣総合病院であり、病院の本棟も許可ないと受付ロビーまでしか入れないため、召喚獣管理官用の召喚獣病院の別棟へ行った。
「・・わぁー....」
 高い天井に幅も広い廊下にて、体長五メートルはあるであろうクマ系の召喚獣がバブルスライムに乗せられ安静室へと運ばれている側で、二頭身くらいの子グマ召喚獣が管理官と手を繋いで後をゆっくり追っていた。また、病み上がりで元気なアライグマっぽい召喚獣が手すりを伝って逃げていた。そして、炎を纏っている召喚獣がアルミホイルに巻かれて無力化されながら運ばれてるのを、横に並んで不思議そうに見ている白い豹柄のチーター召喚獣など、多種多様な召喚獣がホスピタル召喚獣と主の管理官に付き添われて、行き交っていた。
「...ここの突き当たり、右の部屋だ。」
「あ、はい!」 
 人口密集地でのこういった光景に慣れていなかった時雨だったが、管理官としてこの光景を守る立場であると少しずつそれが日常へと変わっていくのを感じた。
「....あの、院長ってどんな人なんですか?」
 頭の中では勝手に医療ドラマで出てくるような妖怪みたいなオジィちゃんを想像しており、恐る恐る汐留にそう聞いた。
「....うーん。強烈な人?」
「え、どういった方向で...」
 ーーーーコンコン
「即応科科長 才亮。入るぞ」
「.....はーい」
 少なくとも妖怪ではない女性の声がすると、いったん胸を下ろした時雨であったが、扉に入った途端に柔い二つの山に包まれた。
「....わぁー!あなたが千智ちゃんね。かわぁいいー!」
「...っう...んぅぅー!!」(おっきいぃ!色々全部おっきい!!)
 香水でも柔軟剤でもないエロい匂いプンプンの胸に埋まっている時雨は、とにかく大きいことしか理解できなかった。
「.....こらこら、驚いてるてか、なに起きてるかわかってませんよ。」
 見かねた汐留が時雨を猫みたいに取り上げた。
「ぷはっ....はぁ...はぁ....一体何が...」
「.....」
 独特の調子について行く気がない才亮は、隅っこで彼女らを眺めていた。
「あらー、しょうちゃんもハグしないとだよねー」
「....やめろ。変な匂いがうつる」
「むぅー、バイキンみたいに言わないでよー、あ、自己紹介がまだだったわね。私は召喚獣管理省召喚獣総合病院局関東庁支部 院長の西条 麻衣。22歳でーす!よろしくねー」
「え、同い年ですか?!」
 そういうノリかと思って汐留の方を見るが、普通に首肯していた。
「うん!14歳に博士取った感じー」
「すごい....」
 大学で召喚獣科を修了した彼女はあの膨大なカリキュラムを余裕で突破して尚且つ、ドクターをとるレベルの知識体系を持っている彼女にただただ脱帽していた。
 が、それよりも先に言わなければならないことがあった。
「あっ....西条先生。リョウシネズミの時、治療していただき有難うございました。」
「!....あぁー良いのよ。あれくらいなら、何度でもビンビンに直してあげるからぁ..」
「アヒャっ...ツゥ....あの、そこは....ちょっとぉ...」
 色んな召喚獣を手籠にしているせいか、妙に触り方が上手い西条に御されそうになっている時雨だったが、時刻は16時40分を回っていたため、才亮が号令をかけた。
「そろそろ、時間だ。帰るぞ。」
「....あっ、はいー!西条先生。お時間とってすみませんでした。」
 猫のように体を液体にさせて色々大きい体からすり抜けた彼女は、短く挨拶をして彼の後を追った。
「あら....続きはまた今度ね。」
 部屋から出る時に、彼女の妖艶なそのつぶやきが背中を伝い、時雨のみならず他二人にも悪寒を感じさせた。
 そうして、夜は非番のため寮に帰った彼女は、夕食は寮飯の作り置きのご飯で済ませて、シャワーとスキンケアをして寝巻きに着替えた。
 そして、もう後何もすることが残ってない事を確かめて、奮発して買ったベッドに沈んだ。
「ーーーー・・くっ...ふぅ....疲れたー」
『....んなっ』
 深淵からぬるっと現れたクゥは彼女の腕に頬擦りした。
「....ふぅ、クゥさんもお疲れ様です。」
『ナァー...』
 体を伸ばして香箱座りをしながら、時雨の布団の中に入り込む。
「.....これからも一緒に、頑張りましょう。」
『....ナァオ....』
 クゥもつられて眠くなっているのか、珍しく今日は一緒に寝れるタイミングになった。
「....おやすみなさい、クゥさん...」
『.....ナ......おやすみ。ちさと。』
 召喚獣管理官としての二日目の出勤。無事に終える事ができた彼女は、クゥさんの体温といつもと変わらない触り心地の良いお腹を撫でながら、数日ぶりに深い眠りについた。







 対召喚獣総合装備整備開発科 科長。
 豊川 安彦 79歳
 召喚獣:???
 西条 麻衣。22歳
 14歳で召喚獣博士号を取得後、北海道国立召喚獣研究局に長らく在籍していたが、一年前に関東庁召喚獣病院に移籍し院長をやっている。




 召喚獣:???




失言にはご注意を



 時雨 千智です。
 本日はお日柄もよく、召喚獣管理官として三日目の出勤日としては良い幕開きでした。
 朝の寮食のベーグルがまぁー美味しくて、三個も食べた後、丁度追加で出来上がった彩り鮮やかなベーグルの焼きたての匂いに誘われ、もう六つ程頬袋に詰めるかのように持ち寄ってしまいました。
 そして、即応科棟にて、寮住みでない玄道さんと汐留さんにお裾分けしたら、喜んで食べて頂きました。
 今日の午前中は、警察が処理できる範囲での小さい事案がちょくちょくと発生したくらいで、即応科が出動する事案は起きずに済み、まったりとした時間を過ごしました。
 正直、こういったまったり時間の中でも、召喚獣操法科への転属は何回かチラつきます。というかつい今日の夢で操法科で多様なね召喚獣と一生戯れていて、今でも首元に巻き付いてすりすりしてくるウミノネコや、お膝の上で甘えた顔で見上げながら甘え声でゴロンとするハメスコネコを撫でるあの感触は今でも残っています。
 それでも、即応科での管理官としての仕事はそこまで肌に合わないわけでないです。
 初日、甘い言葉に乗せられて、というかまぁ、自分で選んだ事ですが....最悪の場合異世界に飛ばされる可能性もあったそうです。
 クゥさんと一緒に異世界をぶっ壊して、魔王とか勇者とかを配下にして引き連れて、才亮さんを張り倒したっても良かったですね。
 ははっ....( ^∀^)...
 ....('◉⌓◉’)
「ーーー・・時雨っ!ギリギリまでそこから動くなよ!」
 いやー今日まで一応心身ともに健康にここまでこれて、そんな中、いやはや人生というのは何が起きるか、誰にも分かりませんね。
「....えぇ!えぇー!!やったりますよ!!もぅぉぉぉぉー!」
『ウモォぉぉぅーーーっ!!!』
 ほんと、何はともあれ、なんで私、全身になんかくっさぁい真っ赤な液体を被って踊りながら、ハイテンションになってる筋骨隆々の召喚獣を待ち構えてるんですかね。
 時は遡ること数時間前。
 お昼にドテツマグロの刺身定食を食べた時雨は、才亮が即応科に配属されたその日に私費で整えた仮眠室に居た。
「ーーー・・スゥ.....ふぅ.....スゥ.....ふぅ」
『.....ン....ナァ.....』
 フカフカのソファーベットに寝そべりながら、クゥさんとモフモッフという飛騨山脈に生息する召喚獣からあしらわれた毛布に包まっていた。
 そして、寝始めてから20分辺りで、優しく頭を撫でられている感覚からぼんやりと目をあけると
「....っ...んぅ...え?」
 少しはだけたワイシャツから、黒い下着とそれに包まれている控えめな胸が見えており、顔を挙げるとその正体は汐留さんだった。
「ふふっ...もう少しねむねむしますか?」
 低音の掠れ声の甘い言葉が毛布に反射して、心臓のドキドキを早まらせた。
「っ..ぁ...え」
 汐留の艶かしい血色の良い赤い唇が目に入り、彼女の呼気の暖かさが頬を伝う。
『...ンナァ?』
 ベッドを揺らすその振動で目が冴えてしまったクゥさんは枕元に移動して、彼女らの様子を見下ろしてコテンッと顔を傾けていた。
「....だ....だ...大丈夫ですっー!!」
 それで雰囲氣に飲み込まれずに済んだ彼女は、浮気男が本夫から逃げるかの如く速さで仮眠室を後にした。
「あら...つれないですね...」
 年下キラーの刺激が強すぎる汐留さんは唇をペロリと舐めて、起きる前にはだけさせたシャツのボタンを閉じながら、彼女の逃げる背中を見送った。
 頼んでいないお陰様ですっきりした目覚めの時雨は、さっきの情事未遂を忘れるために警察が対応できる範囲で収まっている頻発している召喚獣事案の資料を精査しながら、ホワイトボードの首都圏の地図に件数と、種類を書き記していた。
「やっぱり、春は事案が多いですね...」
「あぁ、人間も活発になるからな」
 ホワイトボードに貼られた召喚獣の種類の幅は見事にばらけており、その要因の一つとして人が発端となった事案も多数見受けられた。
「....というか、この下着を盗むためにスケレオンを使ったって....なんなんですか..」
 それは、八王子市の住宅地にて、40代男性がカメレオン型の召喚獣の透明化の能力を使って、3階に住む目当ての女性のベランダまでよじ登り、下着を数枚常習的に盗んでいた事件であった。
「マンションの赤外線センサーを掻い潜って、隣室のベランダで日光浴をしていたササクラにみつかって捕まった。と、人間側がただの変態じゃなかったら、不味かったかもな」
「ん、たとえばどんなのですか?」
「スケレオンに触れている間は透明化の能力を受けられ、透明化の時間制限も最長4時間でクールダウンに20時間。他の召喚獣と組み合わせれば、諸々隠蔽できる。」
「....うわぁ....ん、まぁでも...国内外でのヒトとモノの密入とかは突破できないですかね?」
「まずないな。4重5重の人と召喚獣検知システム、電子システムを突破しないとならない。」
「やっぱそうですよね....台湾修学旅行の時も亜空間持ちの召喚獣で台湾に召喚獣持って行こうとした人いましたけど、普通に検知されて一年間召喚獣没収されてましたし...」
 本来であれば、10年以下か場合によってはそれ以上の懲役が課せられてそれまでの間召喚獣は没収される事になるが、未成年という事でその程度の処罰で済んでいた。
「....うん、筋は良いな」
「えぇ、褒めるところですか...そこ」
 召喚獣管理官という立場にありながら、その発言はいかがなものかとついばんだ。
「あぁ、とっくに潰されてる方法だが、そういう悪知恵を考えれる奴がシステムアップデートに関われば、より洗練される。」
 実際、そういった知能犯が徹底的に骨抜きにされ制限家の上でシステム修正の立案に間接的に関わる事は少なくなかった。
「ほへぇー....」
 が、寮食から常習的に持ち帰っているシナモンベーグルを齧りながら聞いている、時雨さんには一生関係のない領域だった。
 その後、長めの仮眠を終えた汐留が合流し少し早いおやつタイムが始まった。
「やっぱり、このベーグル...冷めてもふんわりしてますね。」
「ですです!なんか発酵させる時の菌を日によって調節してるとかいってましたー」
「ほぉ、湿度とか気温?」
「どうなんでしょうね...菌の比率とかもですかね」
「とにかく、何があっても関東庁に引き留めないと...」
「え、異動とかあるんですか!?」
「あー....多分ないんじゃないかな...管理官は多いですけど...」
 汐留とはさっきの件で気まずさを感じていたが、おやつタイムのお陰で普通に話せるくらいには払拭されていた。
「......っ..モグッ...」
 一方、才亮は机に山積みとなっている召喚獣の資料をペラペラとめくって、ながらでベーグルを腹に入れていた。
「...才亮さんは管理官は長いんですか?」
 話の流れに身を任せて、時雨は謎多き才亮にそれから聞いてみた。
「まぁまぁ」
 資料に意識を持ってかれているのか、返答は淡白だった。
「...あ、お茶入れますね。」
 するとタイミングが良いことケトルが沸いた音が鳴り、汐留はパックのお茶を取ってキッチンへ向かった。
「ぁ、ありがとうございます!」
「.....」
「.....」
 カップにお湯が注がれる音を背に、いつの間にかベーグルを平らげ顎に手を添えながら、真剣な面持ちで資料を眺めている才亮の横顔を、時雨の澄み切った真っ直ぐの瞳が離して止まない。
 ふと、何かしらでできた才亮の右人差し指のタコが視線が通る。
「.....ぁ」
「はーい、どうぞーお熱いので、お気をつけて」
 何かわかりそうだった時雨は、もう一歩踏み出して見ようとするが汐留のお茶にかき消された。
「あ、ありがとうございます。」
「....あんがと」
「...?」
 相変わらず資料にのめり込んでいる才亮はよしとして、どこか気が抜けている時雨を不思議に思いながら、開かれた窓から吹き抜かれる春風はお茶の湯気を冷ますのには丁度よかった。
 ベーグルを平らげ、温かいお茶でチルに浸っていた時雨と汐留は、嫌な成功者みたいな姿勢でソファーにふんぞり返っていた。
 そして、管理官随一の過酷さをこなしている即応科にて、束の間の珍しい休息時間とはいえども、国民の血税で生かされている彼女らのその態度は、バチ当たりな発言を誘発させた。
「....あぁー、こんなのでお金貰って良いのかなぁ」
「....あ」
「時雨...お前....」
 ボソッといったその時、その確定フラグは才亮の資料漁りを中断させ、汐留のオフモードをオンにするには十分すぎていた。
 ーーーーーウォォォォォーンっ!
 即応科内の出動サイレンが鳴り、携帯に今回の対象召喚獣が送られた。
「...ふぅ.....ん?」
 一旦息を吐いて、オフモードからオンに立ち上げた汐留は今回の対象召喚獣の様体に一瞬誤報を疑った。

ウッシー。

 そして、迎えの飛行特化の移動用召喚獣、体長三メートル以上のテラツバメが即応科長の屋上へと到着し、立川駅徒歩15分の所にある関東庁即応科から、千葉の幕張貨物専IC中継地点へと向かった。
 そして、中継地点上空へと到達した時点で、テラツバメのモフモフの胸毛に包まれていた即応科の管理官たち一行は、シートベルト兼クッション材になっていた胸毛から離され、上空数百メートルから自由落下した。
「ーーーー・・わあぁぁぁぁぁーー!......っ、うぅ....え、生きてますか?!私生きてますか?!」
「はい、大丈夫ですよー」 
「.....っ...む」
 一番最初に落ちて、シゲモチさんでクッション材を展開していた汐留は髪の毛が逆立って猫耳をたてている時雨を持ち上げ、回収し一拍した後、若干緑鱗で無い衝撃を吸収した玄道が落っこちてきた。
「あら、玄道さん。信用なりませんか?」
「....念にはなんとやら」
 シンプルに高い所が苦手なだけだったのだが、汐留への信頼がないみたいになっていた。
「......っ、スゥ....で、状況は?」
 最後に落ちてきた才亮は慣れた感じでシゲモチの上で受け身をとって、そのまま事案を初動認知した警察官の方へと向かった。
「木更津署の佐藤です!牧場から家畜の召喚獣が突然逃げ出して、今現在、無人貨物道路にて、ここ幕張へと北上してます。」
「生け取りの方針か」
 対召喚獣武器で脳天を撃てばそれで済む話であるが、そうはせずに幕張中継地点で先回りしている辺り、待ち構えて捕獲するようだった。
「はい!原因究明のため、生け取りで行きます。」
「....妥当であるな」
 水を飲んで落ち着いた玄道は、日本国の輸出産業の大きな柱の一つでもある家畜召喚獣の生産体制に、ヒビを入れる原因が顕在化しているため、天秤計算は正確だと理解した。
「作戦は?」
「....貨物道路の封鎖を上申してるのですが、国交省からの許可が滞ってまして...」
「時間は、持って数十分か...」
 携帯画面に映る地図上で、加速しながら北上して来ている召喚獣の到着時間は24分であり、予測時刻はもっと早まりそうだった。
「...ここから責任は俺が取る....ん...ふっ...今から他の戦略へ舵を取るぞ」
「っ...了解しました!」
 携帯から今一度、今回の召喚獣の風貌を一瞥し、髪型を整えながら汐留と話している時雨を見据え、才亮はニヤリと口角を上げた。
 ーーーー京葉総合貨物運搬専用道路。
 元来、ここは陸上での貨物運搬を担っていた貨物用召喚獣リクウビ(蛇型で全長数百メートルに及ぶ個体もいる、背中の逆鱗が線のように連なっている)専用の道路であり、貨物列車のような運用がされていた。
 しかし、タービンとピストンの登場から、化石燃料を燃やしたエネルギーで稼働する自動紡績機などが登場する中で、大型貨物の運搬を担っていたリクウビは仕分け作業の短縮や、稼働時間の短さからそれらに置き換えられ、現在ではエネルギー導体を変化させ、道路から供給される電気で24時間365日稼働し続ける全自動貨物車専用の道路となっていた。
「よし..佐藤っ!分岐線をシャットアウトしろ!」
「はいっ!」
 佐藤は才亮からの指示から猛進している召喚獣が通ったのを確認し、本線からの幕張中継地点まで分岐点を閉じた。
『...モォォヒヒィィィー!!!』
「...いやぁぁぁーっ!!」
 どちらも前へ進むしかない中、完全に性欲に一途になっているウッシーは、赤いフェロモン液でビシャビシャになりながら踊り狂っている時雨に数メートルまで迫っていた。
 そして、完璧なタイミングで才亮は合図を出した。
「....やれ、玄道。」
「了解.....ぬんっ!!!」
 彼の合図を信じて、赤いフェロモン液でビシャビシャになりながら踊り狂っている時雨の前の地面に擬態し、緑鱗を全身に纏ったフルアーマー玄道は、ウッシーの重心に鱗の盾を据えて空へとぶちあげた。
『...ムヒィィっ?!』
 フェロモンだくだくの番に後一歩で会えそうだったウッシーの視界は黄昏初めている空に切り替わった。
 生まれてこの方、だだっ広い牧場でのんびり牧草食べたり、たまにミネラルたっぷりのおやつを食べて、だいたいその数日後に雌牛と交尾する平和な日常を過ごしていた、ウッシーは経験したことのないこの浮遊感に困惑していた。
『...む...ムォ...』
『.....自由になりたいか?』
 ただ、それでも、突然牛舎に現れたあの人間から変な注射を打たれ、何十世代にもわたって押さえつけられてきた本能のままに、牧場の芝生よりも硬くとも真っ直ぐな道を思うのままに走った。
 その爽快感は、いいものだったなぁ....
 本来なら言葉にして考えられる筈のないウッシーは、走馬灯のように今日の自由を振り返り終えた、その時ウッシーのの位置エネルギーが頂点に達し、空中で静止した。
「.....捉えた。」
 ーーーー.....シュンっ!
 その針の穴を通すように瞬速の槍がウッシーの腹部に接着し、展開される糸に巻きつかれながら薄黄緑色のクッション材の元へと自由落下した。
 そうして、ウッシーを捕獲した後、建設召喚獣と建設作業員による無人貨物道路の復旧整備が開始され、才亮と玄道は念の為、佐藤とともに牧場への事情聴取と調査の同行した。
 また、汐留と武田だけになっている即応科棟へと戻る事となったのだが、主に一人だけが捕獲成功の代償を負い、そのせいで迎えに来たテラツバメさんは踵を返して帰ってしまった。
 そのため、公共機関で立川まで帰らないといけなくなったため幕張駅へと行く道中、汐留が4回ほどシャワーを浴びた時雨の首元を匂っていた。
「....スンスン...全然変な匂いしますね」
 汐留は顔色ひとつ変えずに、ありのまま嗅いで得た事実を伝えた。
「いやぁぁぁぁー!」
 作戦成功後の現場収拾に手一杯だった作戦立案者である才亮は、時雨と汐留に帰還令を行って牧場へと向かってしまったため、彼女の悲痛の叫びは明日まで届く事はなかった。
「クゥさんも、そのせいで呼んでも出てきてくれませんしぃ!!モォォォー!」
「あら....少し、ウッシーさんが感染してますね。」
「いやぁぁーー!!」
(((...一体、なんの話をしてるんだ...)))
 時刻は19時30分を回ったところで、時雨の取り乱し具合と汐留の会話内容から、周囲の人たちは変に興味を持っていた。
「まぁまぁ....お詫びかわかりませんが、私たちは明日全休ですし、才亮さんから焼肉優待券もらったので、美味しいお肉食べ行きましょ」
「っ....お肉...牛...やぁぁぁー!」
 才亮から詫び品として貰い受けたアメは、時としてムチになるのであった。










 玄道フルアーマーver








 ドテツマグロ。
 茨城沖でよくとれる鉄の強度を持つ鱗に覆われたマグロ。
 進路上の対象がなんであれ貫通してでも通る。ただ、真っ直ぐにしか進めないため、放置罠の網で簡単に獲れる。ただ、群集化してると網ごと突破する


 ウッシー(オス)
 赤身が多く、筋肉質。しかし、家畜化されているため大人しい個体が殆ど。
 ブランド化された家畜召喚獣であり、病気に強く餌もなんでも食べるため量産しやすく、古くから人々や召喚獣の腹を満たしていた。
 ウッシー(メス)
 体高はウッシーよりも大きく、尺度的には成人男性から見た八尺様くらいの高さ。
 ただ、実際は首が上に少し伸びているためオスと体長はそこまで変わらないが、オスから見たら大きく見えている。
 赤い液体について
 雌牛のフェロモン、時雨をメス牛としてみて彼女のダンスを求愛行動だと思った雄牛は、バチばちに興奮して直進してきた。


築地ドーム。

 彼女らが系列店の寿司屋へ向かい、日本酒を数本開けて飲み明けて二日酔いでグロッキーになっている中、築地跡地に建てられたドーム球場にて、伸ばしっぱなしの金髪の髪を全部後ろに結って、くたびれた水道橋産の帽子を被り贔屓チームのユニフォームを羽織った彼は列に並びながらをホットスナックのメニュー表を眺めていた。
(....何にすっかな。タコスは確定として、ホットドックも良いな....どっちに....すっかなぁ...)
 基本は関東庁内の食堂が空いている間に質の高い食いもんを食えるだけ食う、1日一食の才亮のため、ドーム球場でのジャンキーな食い物に胸を躍らせていた。
「....次の方どうぞー!」
「....牛肉のタコス9個とマスタード抜きのホットドックを三つ、飲み物は烏龍茶LLサイズで」
「は、はい!わかりました!隣の受け取り口にて、少々お待ちください。」
 それにしても食べ盛りすぎる才亮はキッチンが大慌てになっているのを申し訳なく思いながら、モニターに映る試合映像を眺めていた。
 無事にホットスナックを買えた才亮は一階一塁側内野席へと向かい、チケットの番号と合致しているのを確認し早速タコスを食い始めながら、席に座った彼は黄色いハッピをきた隣の男に話しかけた。
「モグッ....そっちはどう見てる」
「あぁ、耳がはやい省は、情報保全もそうだが、どこも厳戒態勢を取り始めている。ソレが誰であっても良いようにな、おぉーいっ!今のは入ってるだろ!!」
 普段の彼からは想像できないほど派手な格好をしている中、才亮からの質問に答えた。
「そういや、ロメロはキューバ帰ったんだっけか...」
「っ....あぁービザが滞ったらしくての......ほんま、帰ってくれてたら、Bクラスなっとらんわ!かはははっ」
 サングラス越しにつり目を見開いた男は一瞬言葉に詰まったが、先までの調子に戻った。
「.....ふぅ...それも、そうだな。」
 直接的ではないにしても宮内庁を指すそのワードを出すのは、才亮でも緊張を要し息を吐いた。
「.....なんか、今日櫻井調子いいな」
 鬼気迫る表情でど真ん中スローカーブを叩き込む、今日の先発ピッチャーは5回まで無失点と、いつもよりもエンジンがかかっているように見えた。
「抜かせ、顔だけ覚悟決まっとるだけだろ、お前はどうやん?」
「ゾーン内に外角スライダーはないな、レベルスイングだとファールで粘られる。」
「.....根拠を示せぇい、コンキョヲ」
 調子のおかしい黄色いはっぴを着たファンという体勢をとりつつ、メガホンを叩きながら聞いた。
「.....なんとなく?」
 くたびれた帽子を被り直し、伸びた前髪も襟足も全て後ろに結った金髪を少し整えてから、今回の件が西側諸国からの工作ではない事をほのめかした。
 ーーーーーそーんな、あなたにっ!これっ!ユンカルっ!99種類の生薬と有効成分が入った...
 三振に抑えた守備側の関西のチームはベンチへと下がり、攻撃と守備が切り替わる間のCMが、スコアボートを写していたビジョンに流れる。
「....そっちのが厄介やなぁ」
 黄色いサングラス越しに目を瞑り、考えられるこれからの状況を一考した彼はこれまでと同じように彼の直感を信じた。
「....あ、そうそう...これ、コミコンのおみあげとオマケ」
 その線で取るべき方策を考え始めている時、本来の目的を思い出し、基本平和な科である召喚獣操法科が出したカワウソのゆるキャラのクリアファイルと、腕を十字にして変身ポーズをとっているフィギュアを渡した。
「お前....これちょっと、可愛すぎないか....」
「すまん....これしかなくてな...」
「娘の?」
「.....お前なぁ」
 なるべくそういうプライベート領域は立ち入らない仲ではあるが、キャラの画風的と対象年代的にそれしか考えられなかった。
「いや、うちの娘もこれ好きだから、てっきりお前も...」
「え、お前、娘いんのかよ....」
「お、みるか?声、このまえの遊戯会でんなー」
 立ち入らない仲としても、知ったところでという所から、黄色いハッピの男はノリノリで娘の動画を見せようとしてきた。
「....おい、やめろ、見たら欲しくなる。」
「っ.....はははっ!お前にも人間らしいところあるんだな。」
 そこそこの付き合いにはなるが、こういった面は初めて見た嬉しさから黄色いハッピを靡かせていた。
「失敬な野郎だ....とかく、それは長く持つなよ。」
「あぁ、わかってる....おおーっ!回れまわれっ!」
「...あちゃー」
「おぉーいっ!!よぉ〜しっ!六甲〜お〜ろしぃ〜」
 ぼんやりとしか見てなかった試合は、6回2死満塁で8番セカンド糸原田のホームランであっという間にリードを広げられてしまった。
「....ワンサイドゲームじゃねえか。....ぁあー」
「..つつましぃくぅぅぅーー...あ!....ちょ、おまっ!」
 本当にそういうの展開はスポーツだけに収まって欲しいと思った才亮は腹いせに、気持ちよくなっている隣の黄色いハッピの男からポップコーンを取って全部食ってやった。












「.....才亮 勝馬。」
 そして、東京ドームVIPルームの一室から、濃紺のスーツを着たオールバックヘアの男が一階1塁側内野席に座るくたびれた巨人の帽子を被った男を見据えていた。


鼻っ柱

 月曜日。
 若干二日酔いの残りが残っている時雨は、朝の寮食でしじみ三杯程飲み、正門から遠すぎる即応科棟へと向かう最中、これまでの時雨管理官日和を思い返していた。
「....はぁ...新人への負担大き過ぎますわぁ....」
 彼女の言い分はごもっともであった。
 初日。異世界か異分帯に送られるかもしれんかったネズミ型召喚獣リョウシネズミ相手に、最前線で囮させられ、未だに完治してるかも、大丈夫かもわからない量子波による量子酔いと、今後顕在するかもしれない後遺症を負った。
 そして、数日間の入院を経て、関東庁内ツアーで管理官としてのやる気を感化させられた次の日。赤い雌牛フェロモン液ビショビショになりながら求愛ダンス踊ったりした。
 てか、庁内を案内してもらった時の海洋召喚獣のケースとか、神格と相対するケースとか色々ほのめかされたりして、今のところはなんとかなってるけど、正直、これ以上のケースが来たら持つのだろうか....
 わかっててはいても、これからの即応科任務への不安は拭えなかったが、日光でさらに輝いている金色の髪を風に靡かせて言った彼の言葉が想起される。
『ーーー・・まぁ、どんな状況になっても、誰も死なせねぇから安心しろ。』
 まぁ、私だけじゃないってのはわかってます。
 即応科のみならず、初動で駆けつけて即応科が来るまで必ず持ち堪える警察官、即応科が対応できなかった場合に、いつでも駆けつけられるように訓練し、今もなおアジアの平和を守っている自衛隊員達、などどの仕事も、相手がどんな召喚獣や人であれ、誰かがやらないといけない仕事である。
 これまで何があろうとも身をもって責務の完遂に務めていた人がいたからこそ、この日本にしかない特異な召喚獣社会にて、私自身もここまで何不自由なく生きてこられた。
 そうですよね。汐留さんも、玄道さんも、才亮さんだって、みんな頑張ってますし....
「ん...あれ、武田さんは....」
 今一度、覚悟を締め直し、目の前の事に尽力しようと決意を固めようとした彼女は未だに聞き伝手から知らない、彼の実態に疑問符を浮かべていた。
「武田さんって、本当に稼働してるのかなぁ....ちょっと、見てみよ...」
 そうこうしていると即応科棟の前に着き、一回しか行った事のない一階の道場へと行ってみる事にした。
 別に武田さんを批判したいわけじゃなかった。
 夜の駐勤も殆ど彼がこなしているらしいし、流石に自分一人しかいない時に別事案が生じたら、小物大物関わらず向かうらしいけど....
 ただ、すこーし武田さんもみんなも、ついでに私も含め、即応科自体の負担がちぃと大きすぎやしませんかねぇ?と思いますし。
 それもあるので、初めに見た電源オフの武田さんを比較して、負担分散のために経験豊富な他の科ないしは、警察とか他の公的組織から人を移籍させることが出来ないか才亮さんに相談してみたかった。
 慣れ親しんだあの畳の匂いが近づき、道場を覗き込むとそんな見込みは一瞬にして崩れた。
「......っ....5558...5559....5560...」
 電源オフの時とはまるっきり別人かのように、髪を一つに結って後ろに下げ、白い繋ぎを着た上裸の武田は小指一本で逆立ち腕立てをしていた。
「....っ!」
 なぜ他から人を引き抜いてこないのか、才亮さんに直接聞いた訳ではない。
 けど、おそらく、強力な召喚獣を持っているよりも、実績があることよりも、召喚獣との連携が取れることよりも、何よりも第一に、どんな状況に置かれようとも、生き残り役割を果たせる貫徹力が必要なのだと直感的に理解した。
「さ、さいや人....」
 そして、それとともにその見覚えのある鍛錬法にとあるキャラを呟いた。
「....ん、なんか用か?...5561...5562..」
「いえ!失礼します!」
 止める事はなくとも、彼はどっかで見たような女を事務方と思い、また手当の処理でのクレームの件かと対応しようとしたが、即答どっか行ってしまった。
「.....?....5563...5564...5565....」
 特に気に留めず、彼の体幹は隆起し脈動し続けていた。






 ***






 管理官になってからも、欠かさず素振りや基本型の修練を続けていた。
 市民を守るために最善の行動をしたとはいえ、リョウシネズミに隙を見せて量子波を喰らってしまったのは事実であった。
 そして、何より...
 ーーーー鍛錬が足らん。
 才亮からの事伝手とはいえ、目覚めて早々の親父からのその一言にピキッと来た事から、上京する前程全てを費やすとまではいかなくとも、濃密な鍛錬をこなしてきた。
 才亮、玄道、汐留と真正面で戦った場合、仕切り直しくらいまでは持っていける自信はあったし、実際、初めの通過儀礼というか死合において少なくとも負けに至る事はなかった。
 それに、初めから処罰も法律も通じない死合であれば、クゥさんと私に敵なしであった。
 ーーー召喚獣は滅多に使わない
 ーーー最高12連勤。
 聞く限りでは、通過儀礼に参加してなかった彼は召喚獣相手に自力で12連戦し、彼は五体満足で今もなお鍛錬を積めている。
(...至近距離で見なくとも、実際に手合わせせずとも彼は強い。)
 少し遠目で彼の鍛錬を見ていた彼女はただ一つ、それだけは理解していた。
(...武の道が違くとも、私はあのレベルまで達していない。)
 そして、同時に、彼の姿に時雨は師匠や親父に鼻っ柱を折られ続けていたあの日々と同じように久々に喰らっていた。
「...よしっ...おはようございます!!」
 彼女は今一度気を引き締め、即応科隊員たちの声が聞こえる扉を開けた。
 そして、彼女は才亮に許可をもらい、総合訓練棟へと向かい研修時以来の久しく来ていなかった道場で汗を流した。
 熱が入りすぎていた彼女は時間の経過を忘れ、気づけば時刻は午前10:30を迎えていた。
「....スゥ....ちょっと物足りないなぁ」
 そこそこのカロリーを使った彼女はスポーツドリンクを飲んで、補給食を食べたが空腹は治らなかった。
「えぇ?!まだやるのか?!...はぁ..はぁ...」
 召喚獣操法科の時雨より2回りは大きい彼、高橋 善治は、スーパールーキーに2時間みっちり組み手をし、午前中で既に体力を使い果たしていた。
「あ、いえ...まぁ、組み手ももっとしたいですけど」
「ウッソだろ....流石、即応科....武田さん以来だぜぇ..ふぅ...」
「え、武田さんも来てたんですか?」
 即応科棟の道場自体、どこか武田専用に一階フロアを改造していた様に見え、自己完結していそうなため、わざわざ総合訓練棟に来るのは意外だった。
「あぁ....まぁ...指南役の外部指導員を叩きのめして、出禁になったけど...」
「おぅふ....成程...」
 彼女は納得の経緯を聞いて、流石と舌を巻いていた。
「スゥ...時雨さん。あんたはもう、後一枚でレッドカードだ。」
 彼は自販機後方の休憩所にて、既にバテている彼女に蹂躙された管理官達を指差した。
「す....すみません...」
 無意識に自分よりも強い人に会った後に、自分が更なる強さを得るために何が必要が考えているうちに、やりすぎてしまう事は今回だけではなかった。






 高橋 善治 190cm 109kg 召喚獣操法科所属。警備科から異動してきた。
 召喚獣免許センターでの教員として、召喚獣のトレーニングを指南している。 

柔 vs 剛。

 そして、退場を言い渡され即応科棟へと戻る最中、基本平和な操法科に意図せず気も体も締め直してしまった彼女は、そんなことよりもお昼までの間に何かエネルギーを補給できるものを何にしようか考えていた。
 この時間、お昼の仕込みと調理をしている食堂は開いておらず、購買も正門近くにあり遠く、コンビニも敷地から出ないとなかったため、お昼まで満足バーで我慢するか考えていた。
「...あっ!」
『....この棟にある食い物や飲み物は好きに食っていい。カップ麺系やレトルト系は給湯室にある。あぁー...ただ...』
 前にした才亮との会話を思い出し即応科棟へ駆け足で行き、常備している完全栄養食カップ麺でエネルギー補給しようと給湯室へと向かった。
「何にしよーかなぁー....焼きそばにしよっと!」
 焼きそばやカップラーメン冷蔵庫には冷凍食などがあり迷ったが、結局最初の選択肢になった。
「ん...この布なんだろ...まぁ丁度いいか」
 そして、ケトルからお湯を注ぎルンルンで3分待っていた時雨は、近くに置いてあった黒い布で洗面台を綺麗にしていた。
 すると、彼女の前に廊下を挟んで向かい側のシャワー室から、湯上がりの全裸の男が現れた。
「....ん、お前...」
「....っ....わぁぁぁぁ....す、すみませんぅ!!」
 出てきた男のキリッとした顔と、バキバキに仕上がっている肉体、そして歴戦の競走馬が如くしなやかでムキムキの足の間にぶら下がっているチン...ともかく、時雨好みの全裸男をひとしきり見た上で、彼女は黒い布を持ってその場を走り去った。
「.....お、おい!」
「....付いてこないで下さい!!」
 好みというかめっちゃタイプの男とはいえ、面識のない全裸男に追いかけられている彼女は逃げるしかなかった。
「....新人の女ー!おーい待てーっ!」
「え...って..なんで私のこと知ってるんですカァぁぁ?!」
 タイプの男が自分のことを知っているのに少しキュンとした彼女であったが、一瞬で正気に戻ってその事実はより意味のわからない怖さを増加させていた。
「....あ!助けてくださぁぁぃ!!」
「....ん?....んん??」
 資料室から出てきた汐留は、廊下を闊歩する時雨と彼女を追う全裸の男に一瞬目を疑ったが、サングラスをとってそれが幻覚でないことを理解した。
「助けてください!汐留さん!」資料室から出た汐留の後ろに隠れた。
「.....あら、セクハラですか...武田さん」
「え、た、武田さん?」
 つい朝見た武田は髭ももじゃもじゃで髪も伸ばしっぱなしなのを、適当に後ろに結っていたいただけの、YAMA帰りの武人そのものだったが、汐留越しのその全裸男は髪はグレている時の三井くらいで髭はなく、目つきはキリッとりしており精悍な顔つきをした正直結構タイプの男前だった。めちゃめちゃ全裸で、色々すごいけど
「...はぁ...なんで逃げるんだよ。新人女」
 追いついた彼はナニを隠そうともせずに、息を吐いてデカ女の後ろに隠れている彼女に落ち着いた様子で聞いた。
「だから!なんで!....私のこと知ってるんですか?」
 声圧でその気持ちを抑えようとしたが、時雨は水が滴っているドストライク男に塩らしくなっていた。
「誰でも逃げますよ。それじゃあ」
 彼と面識がある汐留は怯えているのか惚気ているのかわからない時雨の頭を撫でながら、常識を説いた。
「ったく.....いいから...」
 水に濡れた髪を後ろに束ねながら、全裸男は最後にいらん通称をつけてしまった。
「...そこを....退け、スライム女」
 ーーーーカッチーンっ
「....そういえば、前の決着はついてませんでしたか...」
「あぁ?あれは...お前が逃げただけだろ」
 汐留は時雨を後ろに下がらせ、武田は煽る気一切なしにあの時率直に感じた残念な気持ちを呟いた。
 ーーーーピキリ
 普段は温厚で優しいお姉さんの汐留であったが、唯一の地雷を二つ踏み抜き、戦いの火蓋は切られた。
「.....ッシ!!!」
「...っ」
 ーーーー....どずんっ!!
 汐留の踏み込み振り切った上段蹴りが、全裸武田の顔面に向かうが、彼はそのまま向かって額で受け切り、密度を持った鈍い音が即応科棟に鳴り響く。
「...っぅ....相変わらず....なんつぅ.....石頭"ぁ〟っ!!」
 衝撃に耐えかねて距離をとった汐留はキレながら片足立ちで返された衝撃を、一点に受けた右足を振って逃げようのない痛みを散らした。
「かかかっ!脳みそりょうさん詰まっとるからなぁ!!」
 全裸武田はフルチンをフルフル揺らしながら、仁王立ちで意味わからん理論を展開しながら勝ち誇っていた。
「ちょ...あの...」
 時雨がなんとか仲裁しようとするが、互いに全然平和じゃない歩み寄りで、間合いを詰めている彼らには届きそうなかった。
「そろそろ....一発効かせないと、ですね...」
「かかっ!スライム有りでもいいけ、かかってこ〟い〟っ!!」
「いやっ....やめてくださいーっ!!」
『....んぁー』
 もう1ラウンド始まりそうになった所で、時雨が叫ぶと寝起きのクゥさんがそれに呼応して、彼ら二人は即応科棟の外に放り出した。
「・・....ん」
「・・....ぬ?」
 フルチンで真っ逆さまに落下している武田と、スライムを展開して本気で武田をぶっ倒そうとしていた汐留は何が起こったかはわからずとも、見知った庁内に居て、即応科棟の外側にワープした目の前の結果を理解した。
「.....武田さんの能力ですか?」
「いや、わしゃ知らん....あ」
「ん、なんです.....あ」
 熱が冷めた彼らは落下しながら原因を考え始めていたが、買い出しに行っていた金髪男の開き切った茶色の瞳孔が、落ちてくる自分たちを静かに見ているのに気づいてしまった。
「・・怪我人は居ねぇから、良かったものの...」
 その後、才亮が事の顛末を聞き大体わかった所であったが、そんなピタゴラ的に色々重なるものなのかと頭を抱えていた。
「武田。汐留が嫌がる事わざわざ言わんでいい。汐留も言われたら言われたで、いつも通り適当に流せるだろ、お前ら二人が真剣で殴り合ったらどっちか死ぬまで終わらないだろ。即応科内で殺し合いとか、勘弁だぞ。俺。」
「....す、すみません。」
「ぐぅ...」
 汐留は少々熱が入りすぎたのを内省し、武田はそんな長期戦にならんとグゥの音を吐いた。
「ともかく、今回は不問だ。次やりたきゃ、実践試合内で、玄道とか俺が止められる範囲内で好きにやってくれ。」
「は、はい。」
「わかった。」
「じゃ、廊下の床直してこい。」
「はい。」
「.....おん。」
 床も建築菌糸でできているため、霧吹きと片手板トンボを渡されて事件現場へと向かった。
「...時雨。」
「っ...はい!」
 彼らを見送った才亮は時雨の方へ向き直り呼ぶと、彼女は勝手に怒られるものだと思い身構えたが、彼は真剣な面持ちで顔を近寄って小声でそう呟いた。
「....お前の召喚獣。能力詳細は、必要とあらば俺らにも言うな。わかったな?」
「っ...は、はい。」
 今回は目撃者も今のところ即応科のメンバーだけだったため、実践訓練の延長という事で内々で処理出来た。
 それよりも時雨の召喚獣クゥさんの能力拡張現象が見られていた場合、色々と不味く、その深刻さを伝えるには十分な忠告であり、それは才亮が彼女の味方であることの証左であった。
『....んなぁ?』
 が、さっきのを褒めて欲しくてぬるっと現れているクゥさんは、真剣な面持ちの彼女を見てコテンっと首を傾げていた。
「ーーー・・おっ昼寝、おっ昼寝っ!」
『んなっ!...んなぁっ!』
 そうして、時雨がお昼を食べてハミガミをして、クゥさんとスキップしてるんるんで仮眠室へ向かっていると、即応科内で出動のサイレンが鳴り響いた。
「..おっ仕事ぉー!!おっ仕事っー!」
 無理やり仕事モードに切り替えさせるために、そのままの勢いでスキップして出動した。
 ーーーーウォォォォンっ!!
「.....っ」
 一方、同じ時刻にして、昼食と昼寝を済ました武田は座禅中に出動サイレンを聴き、ゆっくりと目を開き携帯を確認した。
「......っ!」
 画面上に映る、事案発生時に取られた見るからに強めの召喚獣を目にして、自然と口角が上がった。

召喚式

 日本国憲法 第3条
 第1項 何人も、自己の精神の具現たる召喚獣を保有し、及びこれを帯同する自由は、侵されない。
 第2項 前項の自由は、公共の福祉に反しない限り、最大限に尊重されなければならない。
 召喚獣管理法 第3条(保有の制限及び許可の取消し)
 1. 前条の規定にかかわらず、召喚獣が他者の生命、身体又は財産に著しい害を加えるおそれがあると認められる場合、又は著しく公共の安全を害する場合においては、その保有及び帯同を制限することができる。
 2. 召喚獣管理大臣は、召喚獣を保有する者が、精神的又は身体的な障害により、その召喚獣を十全に制御する能力を欠くと認めるべき相当な理由があるときは、政令で定めるところにより、指定行政機関による鑑定を経て、当該召喚獣の保有許可を取り消し、又は一時的にその身体を拘束することができる。
 なお、その補填として召喚主は政府が管理している召喚獣から相性の良い召喚獣を選び契約する権利を行使できる。



 ーーー召喚式。
 それは齢10歳を迎え召喚印が発言した子供が、通っている学校のグラウンドもしくは同様施設において行われる初召喚の儀式である。
 体制としては、学校に常駐している召喚獣との関係構築や操法指南のカリキュラムを仕切っている召喚獣管理官6人のうち3人に加え、所轄地域の警察官が数名が立会い実施される。
 グラウンドの中央に敷かれた召喚された召喚獣の混乱を防ぐための鎮静効果のあるマットを囲うように、デバフと捕縛に長けた召喚獣管理官と、近接格闘で押さえつける警察官が待機している。
 召喚された召喚獣と召喚した者との契約を完了させるための、触れ合い程度の軽いコミュニケーションを無事に終えた後は、一旦、召喚獣は元の世界に戻される。
 また、その際、コミュニケーションが上手くいかず、相性が良くなかった場合は待機している管理官などが捕縛し保護施設へと移送され、後日、保護施設内での監督下で関係構築のためのトレーニングカリキュラムを行う。
 また、召喚印による召喚獣の召喚と光戻をマスターした後に、通っている学校での小学4年生から高校3年生までの8年程の召喚獣訓練カリキュラムが始まる。
 8年程のカリキュラムの最中、基礎過程を修了した高校生相当の者は召喚獣免許センターでの筆記試験と実技試験をクリアして初めて、召喚獣帯同免許証を得て、監督者なしでの召喚と帯同を許可される。
 それまでは両親及び、召喚獣帯同免許証を保持している大人の監督下において、召喚獣の召喚と帯同が許可される。
 なお、喫急の事態に相当しない限り、監督者なしでの高校生未満の子供が召喚獣を召喚するのは原則禁止となっている。
 と、召喚式から召喚獣帯同許可証を得るまでの道のりは長くが、補助講習や追試制度が充実しているため、20歳以上80歳以下の日本国民の召喚獣帯同免許証保有率は90%以上を記録している。
 古くは村や街の行事の一つとして、行われていた召喚式であったが、当初から発足された召喚獣管理省と全寮学区制が浸透していくにつれて、召喚式での事故は今日に至るまで最小限に抑えられていた。
 それは一重に、偉大な先人たちが血まみれになりながらアップデートし続けてきた召喚獣の管理システムと、召喚獣との良好な関係性構築の教育体系の確立が寄与していた。
 そのため、召喚式で相性が良くなかった場合でも、保護施設内でのトレーニングカリキュラムを終えれば、9割以上の確率で良い関係性を構築できる。
 ただ、その1割未満になってしまった場合は、たとえ主が召喚獣と離れる意志がなくとも、保護区への更迭もしくは召喚禁止令が発令され、主の召喚印の上に数年で消えるシールを貼られて召喚自体が禁止になる。
 その場合、政府からの補償として代わりの召喚獣との契約出来、他召喚獣からの脅威に対抗する権利を補填するとされている。




 ーーーパパの召喚獣シバタニちゃんとママの召喚獣フルホースとは、お庭でいつもくっついて日向ごっこをしながら一緒にお昼寝してくれる。
「ーーー・・へへへ...くすぐったいよぉ..」
『グルゥ...ゥゥゥ』
『...フルっふぅー』


 シバタニちゃんは体がおっきいせいか怖がられる事もしばしばあったけど、公園で体調悪そうな召喚獣がいたら、その子に近づいて助けを呼ぼうとしたり、迷子の子や困ってそうな人を見つけては、その解決法を知ってそうな大人に助けを求めたり、どこまでも優しい子。
 フルホースはフクロウ型っていうのもあって普段は夜の方が元気だけど、眠れない夜とかずっと枕元か、お布団の側で私が寝付けるまで近くにいてくれる良い子。
「...どんな召喚獣が私に来るのかなぁー」
「ふふっ、それは当日になってみないとわからないわね。」
「はははっ、また家が賑やかになるねぇ」
 どんな子がお家に来るのか、私の一生のパートナーになるのか10歳の誕生日を迎える前からずっと楽しみにしていた。
 同級生の衣笠ちゃんはお空も飛べて、お陸でも生きれる両生類のお魚召喚獣だったし、堀内ちゃんはぬいぐるみみたいなオレンジのうさぎさんの召喚獣で、毎日一緒に寝てるらしく、召喚式の日が来るまで楽しみで仕方なかった。
 そして、シバタニちゃんとフルホースと一緒に寝ながらどんな子が召喚されるか夢想する夜は明け
 、召喚式の日が訪れた。
 その日は10数人ちょっとが召喚式に参加し、グラウンドに集まった。
 2人程、召喚した召喚獣が召喚酔いで混乱して管理官の人に捕縛されて移送されていたが、それ以外の子達は問題なく召喚獣とのファーストインプレッションを終えて、召喚印が光って戻されていた。
 戻っていく様子は、光の粒子となって消えていくような様で、同級生の子達は泣いてしまう子もいた。
「...確かに君らが思ったように、次に召喚される保証はない。が、基本的に私たちの体に刻まれている召喚印が消えない限り、召喚されない事はない。」
 そこで、管理官のおじさんが喉仏に刻まれている砂時計のような印を指差しながら、召喚と光戻を繰り返してそのように見せてくれた。
「はい!...印が消える時ってどんな時ですか?」
「良い質問だ。数ヶ月、数年、期間は明確ではないが、長期間召喚しないと、印が薄くなって最終的には消える。」
 額と目元に傷を持つ壮年の召喚獣管理官は彼らを子供扱いせずに、これから召喚獣を扱う一人の日本人として対等に説明していた。
「はい!じゃあ、召喚させたままにするとどうなるんですか?」
「うむ、個体差はされども、対人関係でも同じように一緒にいる時間が増えるにつれて、良い関係性を維持できる。こんな風にな」
「「「うぉぉぉー!」」」
 またもや鋭い質問に対し、壮年の管理官は肩に乗っけている甲殻類召喚獣に目配せして、バスケ選手のボール回しのように召喚獣が彼のリズムに合わせて腕から腕へとジャンプして見せた。
「はい、最後の人だね。じゃ、白いマットの前に立ってね。」
「は、はい!」
 そして、残り数人を無事に終わった後、名前順で一番最後だった私の番が来た。
「じゃ、いつでもどうぞ」
「はい!........っ!!」
 何度も練習した10歳になったあの日に出来た腕の紋章に召喚の念を込めて、目を瞑ると向こうの世界なのか草原にポツンと生えている木々の上で、木の幹を抱き枕にしながら寝ているおっきい黒い猫ちゃんが見えた。
(...あの子が、私の召喚獣っ!!)
 視点がどんどん黒ねこちゃんに近づき、触れられそうなところまで近づく。
(あ....虎ちゃん?でも、おっきい猫ちゃんみたい..)
 近づくと体長3メートル程の虎型の召喚獣であったが、その子の寝顔は猫ちゃんにしか見えなかった。
(...よろしくね。)
(....!!)
「....はっ!」
 軽い挨拶を呟くと虎型召喚獣は目を見開き彼女と目が合い、彼女の意識はこっちの世界へと戻された。
 すると、召喚陣が現れ光の輪に包まれながら、目の前にはさっきまで間近で見ていた念願の召喚獣が召喚された。
「わぁ.....」
 太陽の光を反射しないほど、真っ黒の漆黒の蒸気か何かを纏った黒い虎型の召喚獣に目を奪われた。
「っ!....おいっ!下がれ!!」
 召喚陣を囲っていた雨とんぼのような管理官の召喚獣が、召喚主の彼女に近づこうとした黒虎の動きをスローモーションにした。
『グラゥゥゥ...』
「スゥ...」
 黒虎を覆う蒸気が増す中、召喚主の彼女と黒虎の間に入った壮年の管理官は喉元の印にカニ型召喚獣を当てて甲殻類のアーマーを展開させた。
「....伊倉っ!この子を」
「はい!」
「....シッ!!」
 まだ召喚陣の中で動きを抑えられている間に、壮年の管理官は他の管理官に彼女を任せて、黒虎と相対し黒虎の首元にそのはさみを突き刺した。
「っ!...どこへ..」
 が、黒い蒸気を通って空を切り、体長三メートルはあるであろうそいつを探すが気配ごと空に消えてしまった。
『...グルゥ...』
「....え」
 他管理官に連れられたはずの召喚主の彼女は黒虎の懐に呼び寄せられ、彼女の背を囲うように歩いている黒虎は、黒い蒸気を渦巻き加速してその管理官に突進した。
 ーーーー..ズゴックッ!!
「が...っはぁっ!!」
 旗を掲げる鉄塔に背中を打ち付けた彼は肺の空気を全部吐き出した。
『ガルぅぅぅ..』
「ツゥ...ふぅ...こいよ、猫公」
 肉食獣特有の重低の唸り声を前にして、首元に埋め込まれた召喚獣を何度かタップして、半端な装甲になっていたアーマーをフルに起動し展開された両手ハサミを研ぎながら、おそらく言葉が通じている黒虎にそう言い放った。
「みんなっ!建物に!!」
 その間に、他の管理官と警官が彼女と生徒達を滅多なことでは決して壊れない学校内に避難させていた。
「...ぁ....」
 管理官のおばさんに抱えられながら、甲殻類の召喚獣を身に纏ってアーマー化した壮年の管理官と相対している召喚獣を見つめ、背に触れた黒毛の触り心地と体温を忘れられずにいた。






 赤縫 里美(アカヌイ サトミ)10歳
 召喚獣:クロトラ




クロトラ。

「ーーー・・多摩第二学校にて召喚式時に、召喚された虎型召喚獣が管理官と交戦、管理官一人重傷。現在、西南西へと逃走中。」
 才亮は眉間に皺を寄せながら事案発生時の聴書を共有していた。
「いや...召喚式でこんなのって...ここ数年なかったんじゃ...」
 首都圏は、全国でハイペースで召喚式を行わないと捌けない事もある点から、事故件数も相関的に増えるとされるが、その分日本国内でも選りすぐりの強力な召喚獣管理官、警察、機動隊、自衛隊などが配備されているため、もって召喚式においては実績と実力が伴った管理官と警察官が立ち会うため、学校外へ逃げられるような事案はここ数年一件もなかった。
「途中、召喚獣用の食糧庫があったような?そこには、見向きしなかったのですか?」
「あぁ、一直線に向かってる。」
 スマートウォッチから投影されているホログラムには、今もなお追跡ドローンからの情報が反映されたマップと、そのマップ上を俊敏に動く対象召喚獣が写されていた。
「早いですね...着いて、猶予は5分くらいですか」
「あぁ、相模野原田カントリークラブで罠を張って、そこで叩く。」
 すでに警察官や管理官は協力して、一直線に向かっている黒い虎型召喚獣が通るであろう開けた所にて捕縛作戦を遂行しようとしていた。
「空中警備隊は近づけないんですか?」
「空警は空から牽制してはいるが、纏ってる黒い蒸気が邪魔して、デバフが通らないらしい。」
 時雨は安全圏からの捕縛や対処可能な空中警備隊について聞くが、捕縛にまでは進めるには手札不足であった。
「....耐性持ちに、常駐の管理官を倒した...か。」
 静かに聞いていた武田は今回の事案の期待度にエンジンをかけていた。
「あぁ...だから、今回は殺しも視野だ。」
 召喚式では経験豊富な召喚獣管理官が必ず立ち会う。東京の学校に常駐している管理官であれば尚更、今回のような事態は起こるのはかなり稀であり、捕縛を一手としてそれが頓挫すれば殺処分も厭わない事態であった。
「ほぉ、良いのか?科長。」
「あぁ、タケ。お前の判断でやっていい。」
「御意。」
「ぁ....」
 淡々と慣れた言質を取った武田であったが、その様子をプラプトルに一緒に乗っている汐留の背中越しにみていた時雨は言いたげだった何かを飲み込んだ。
 そして、黒い虎型召喚獣、通称クロトラが相模野原田カントリークラブに来るまで5分を切ったところで到着した。
「お待ちしてました。神奈川県警の小野です....あ、武田さん!」
「ん、知り合いか?」
「いや、知らんのぉ」
「いやー、この前の事案も助かりましたよー!武田さんがいるならなんとかなりますねぇー!」
「あー、罠と捕縛が失敗したら、武田とクロトラがサシでやれるように調整したい。良いか?」
「了解しました!!」
 武田の即応科での働きぶりを知っていた現場責任者であった小野と話が早々についた。
「えぇ....ん、子供?あの子が、召喚主ですか?」
 トントン拍子さに感嘆していると、張られた網網の物理罠を泣きそうな顔で見ている場違いな子供がいた。
「あー...一応、捕縛名目ですからね」
「そう...ですか...」
 汐留がそう答えると、時雨の顔も同じくらい曇ってしまった。
 そして、アテ通りにクロトラは出発した学校から一直線に駆け、このカントリークラブへと現れた。
『...グルゥゥ』
「....来たか...」
「あれが....クロトラ」
 諸撃の網網の罠は無事に起動したが、纏っている黒い蒸気に阻まれて簡単に抜け出されていた。
「....」
『ガルゥ...』
 着いてクロトラが到着するまで5分もない状況であったが、西南西に向かおうとしていることから、罠の先に武田が待ち構えるだけで十分であり、万が一のために離れた位置で他の管理官や警察官が控える形となった。
「よく見ておけ、安全圏でタケの動きを観れるのは、なかなかない。」
「は、はい」
 武田が向かった現場では、近接戦闘は彼に一任され才亮が遠距離攻撃でアシストし、汐留がサポートに回るといった体制であった。
 そのため、管理官や警察官たちが万全の態勢で控えている中で、この距離で見れるのは貴重な機会であった。
 両者、睨み合い。距離感を保ちながらも、円形に回ってジリジリと距離を詰めていた。
 そして、誰が合図したわけでもなしに、戦いの火蓋は切って落とされた。
「.....ーーーっシ!」
『...ッ....!』
 居合から放たれた一線は、纏っている黒い蒸気を貫通し後ろへ飛び下がったはずのクロトラの頬に傷を与えた。
『...グル...?!』
 異質な黒い蒸気を纏うことで肉体への衝撃を最小限にし、ほとんどのデバフや先の甲殻を纏ったヒトの毒も自身には効果をもたらさなかった。
 しかし、それらとは違うヒトは自らに血を流させた事に驚き、そして同時にクロトラは激しく怒り、蒸気をより濃くそして自身の体に鋭利に纏わせ、加速しながら彼に突進した。
『.....グラァァァウ!!』
「....スゥ(...あの、黒いのは耐性の補助と衝撃の吸収あたりか、汎用性は高いな。)」
 一方で、武田は不気味なほど静かにクロトラの黒い蒸気について分析しながら、突進してきたクロトラを寸前に受け流した。
 ーーーズゴォン!!
 転回し損ねたクロトラは後ろの大木を倒し、先よりも蒸気が薄まった状態で向き直り、土煙の中爪型の斬撃を飛ばした。
「...っ!..ほぅ」
 が、彼の刀剣の前ではその斬撃は届かず、一振りで地面に振り下ろされた。
『....グルウゥゥ!!』
『...スゥ...!』
 そして、またも姿勢を低くして、加速しながら突進してきたクロトラが直前に来た所で、飛び上がってガラ空きになっている背中をぶった斬ろうとした。
『...っ!』
『....ッ...グガァウ!!』
 その時、土煙内で空に飛ばしてた爪の斬撃が彼の頭上へと降り注ぎ、同時にクロトラは低くした姿勢をそのまま地面にめり込ませて加速した速度を殆どのロスなく、彼の方へと向かわせ咬筋を広げて彼を食おうとした。
『...シッ』
 背には爪の斬撃、横目にはクロトラと挟まれた彼はその場で回転し全てを斬り倒した。
『グガぁぁ?!...ッ...ゥ』
 おそらくこの攻撃方法は向こうの世界では破られたことがないのであろう、加速に使った蒸気を吐き出したクロトラは彼の斬撃をモロに受け、地面に伏せてしまった。
「....スゥ」
『....グッルゥ』
 刀剣を天へと突き立てる武田を前にして、目は死んでいないが、クロトラは確かに『やるなら、
 さっさと殺せ』と鳴いた。
「...!」
 久しぶりのサシでの勝負に満足した武田は、刀を振り下ろそうとした。
「....待ってぇっ!!!」
 その時、配置的に、時雨の横に居た召喚主の女の子は彼とクロトラとの間に入った。
 本来なら右隣にいた才亮が彼女を止めるべきであったのだが、時雨のなんの曇りもない横顔に直感的に行かせてしまった。
「....なんだ?」
「っ...」
 生々しい殺意を浴びた女の子は気圧されるが、それでも言わなくてはならないことがあった。
「この子は、寝起きが悪いだけなの!私が起こしちゃったから、それで機嫌悪くなってただけなの!!」
「......」
 切り殺そうとした武田であったが、彼女の言い分に構えそのままに一考した。
「.....お前は、そいつを扱い切れるのか?」
 後ろのクロトラも息絶え絶えで戦闘継続の意思も見えなかったことから、答え次第では女の子をどかして斬り殺すことも厭わないプレッシャーをかけてそう聞いた。
「っ....出来なくても....出来ます!!」
「......かかっ、そうけ。悪さするなよ。」
 剣呑な空気は一転して、彼女の不器用な意志を気に入ったのか納刀して、女の子の頭をポンポンして踵を返した。
「ぁ....は、はい!!」
「....ボス。スラ...汐留。あとは頼んだけぇ」
「...あぁ、わかった。」
「....はい。」
 言葉を多く交わさずとも、彼女の権利保護と学校のカリキュラムとは別の強力な召喚獣との関係性を構築するプログラムの選定など、諸々を才亮に任せた。
 また、出血多量で死にかけているクロトラの処置を、汐留とシゲモチさんに任せた。
 その後、現場での後処理や一時保管の手続きなどは才亮が担い、応急処置を終えて病院への引き継ぎを終えた汐留、女の子を行かせた事でみっちり詰められた時雨、スッキリした様子の武田ら面々は直帰を命じられた。
 その帰り道、時雨は先まで詰められていた事はなんのそのと、武田の剣術を目の当たりにしたふわふわとした気持ちを振り返っていた。
(一手一手と、着実にクロトラを削り、衝撃や攻撃を避けて、流す...あれはまるで空中を泳いでいるよう。いや、祭事の前に踊る、演舞に近いかなぁ...)
「観客になってしまっていた私たちにも非がありますが、あの女の子が飛び出した時...なぜ止めなかったんですか?」
 円になって囲うように武田とクロトラとの戦いを見て、尚且つ手出ししないようにと前もって通達されていたというのもあってコロシアムの観客のようになってしまった他管理官、警察官にも責任があったが、汐留はどこか気というか心ここに在らずという時雨に気になっていた事を聞いた。
「まぁ...その、私にはクロトラさんはおっきい黒猫さんにしか見えなかったので....」
「!....」
「...っ!」
 静かに目を瞑って内省していた武田と汐留はそれを聞いて目を見開いた。
「...っ..かかかかっ!おもっしぃのぉ、新人!かかっかかっ!」
 実際に相対していた彼なら多少は批判してはいいものの、彼女のその見方はまさに召喚獣管理官でありその事を愉快そうに笑った。
「確かに、そう見えますか...?」
 時雨がつけているキーホルダーをおもちゃ代わりにして叩いて跳ねさせて遊んでいるクゥさんを見るが、思い出しても汐留にはクロトラは肉食のちゃんと凶暴な召喚獣に見えていた。
「あ!一応、飛び出した彼女に深淵のキーを乗せたので、いつでも助けれましたよ」
「....今日は、どこか美味しいお店いきましょうか」
「えぇ!いいんですか?!」
「はい、ついでに武田さんもきますか?」
「うむ....わしゃ、寝る!」
 その辺はちゃんと抜かりない時雨に感心した彼女は、ついでに武田にも誘いを出すが彼のマイペースはとどまることを知らなかった。
 そして、時は同じくして、引き上げ作業が完了した相模野原田カントリークラブにて
「ーーー・・....」
 才亮は方位磁石とクロトラが向かっていた方角、そしてマップを照らし合わせていた。
 その先にあったのはーーーー






「....富士の山。」







 壮年の管理官ー亀田 虎助。170cm 70kg 
 後もうちょいで定年だったが、今回の事案で満額定年退職に
 召喚獣:スベマン。
 半寄生型で召喚主の印に添えると、甲殻が展開してアーマー化する。










 ちょこっと一間
 後日、病室にて、片腕を持ってかれた定年間近の管理官は泣きながら謝る女の子にただ一言。
「ははっ、これくらい数ヶ月で治る。」
「....でも....」
 治るから..とかそう言う問題ではなかった。心臓付近にまで行っていたら百戦錬磨の彼であっても死んでいたその責任が彼女にのしかかっていた。
「おまえさんの召喚獣は、弱い召喚獣を守る強さを持っている。それを忘れるな」
「っ....ぅ....はい。」
 彼女は顔を上げ、歯を食いしばりながら涙を抑え頷いた。

タンカクウサギ

「ーーー・・なぁ...やめようぜ...」
「お前にも分け前やるから安心しろよ」
「いや、そういうのじゃなくてな....」
「かはぁ...ふぅ、さっさと終わらそうぜ」
 時刻は夜中の12時を過ぎており、声変わりが終わりたての高校生たちが地下の隠し通路を通ってどこかへ向かっていた。
「てか、どうやってこんな道....」
「ほんとな、普通すぐ塞がれそうだけどな。」
 前髪長めのすらっとした彼こと向井 仁は、本来なら隙間が無い配管横に大人二人程通れる空間ができていることを疑問に思っており、ほぼ無理矢理連れてこられた黒縁メガネの坊主こと前田 俊介はそれ同調した。
「あー、親父がこの配管点検してる時に、出来た通路でな。今週中には塞がれる」
 すると、発端人のガッチリ目の体をした彼こと郷田泰示がそれに答えた。
「配管工だっけか、にしてもこの配管まじでスライム出てきてるんだな..」
 大体の経緯は分かったものの、本来なら配管工と技術者しか立ち入れない空間にて、大蛇のようにどこまでも続いている配管はわずかな光を発しているスライムで出来ており、少し触ると押し返してきた。
「おい!あんま触るなよ、外敵だと思われたらそのまま飲み込んで消化するらしいからな...」
「「?!」」
 郷田が焦ったようにそういうと、他二人の顔は血の気を引いていた。
「お前、そういうのはもっと早く言えよ。」
「危ねぇ、俺たちまで経験値にされるとこだった....」
 向井がそういうと前田はミイラ取りがミイラになる所だったと肝を冷やしていた。
「...お、着いたぞ。」
 工事の関係で特設で作られた地上へと続くはしごの前についた郷田らは、順々にハシゴを登って地上のパネルに暗証番号を押して開け、地上へと出た。
「....おぉ」
「ん....おー」
「....ぁ」
 地上に最初についた郷田は夜空を見上げており、次に上がってきた向井は彼が見ている先を見て、同じく感嘆を吐いていた。
 夜空には真っ白な満月が浮かび、その月下には夜行性の召喚獣たちが活発に木々を伝い、フクロウ
 型召喚獣が夜空を群れで闊歩していた。
 彼らがリスクを冒してまで来たこの場所の名はーーー


 ーーー西八王子第一レベルアップ場である。


「....っし、4体目!」
『ジュウっ!』
 郷田は召喚した力士っぽい見た目をした三頭身程の体長一メートル程の熊型召喚獣ジュウリョウと、ウサギ型やカエル型などをテンポよく狩っていた。
「そこだ!よしっ...ナイス」
『...ブロゥ!』
 前髪長めのすらっとした向井はパンクチックのブルドックの見た目をした召喚獣ブルブロウと共に、池の中で待ち伏せしていた亀型召喚獣を噛み砕いていた。
「.....」
「どうした、お前はやらねぇのか?」
「なんか....昼間とは違くないか?」
 坊主メガネのインテリだかスポーツマンだかわからない見た目をしている前田は、右肩に二頭身ほどの索敵特化のコウモリ型召喚獣を乗せながら、初めから乗り気じゃなかったのを抜きにして、これまでのレベルアップ用の放逐されている召喚獣たちの挙動に違和感を感じていた。
「ん、それは夜行性のやつが...」
「いや、郷田が倒したそのウサギ型は、昼間も活動してた。」
「.....」
 向井は学校のカリキュラムで初めに出てくる実践訓練用でも起用されているウサギ型が、このレベルアップ場で初めに戦った相手であったため色濃く覚えており、前田の違和感が伝染した。
「おいっなんだよ....せっかく上がってきた所なのによぉ」
『ジュジュウ!!』
 さらに飛びかかってきたウサギ型召喚獣通称タンカクウサギを数体地面に叩き潰した、力士っぽい見た目をした熊型召喚獣ジュウリョウと郷田は共に彼らの会話に不満げだった。
「てか、お前のコウモリ型も夜行性のくせして、眠ってんじゃねぇか」
 郷田は夜行性のはずの前田の肩に乗って彼の首元を枕にして穏やかな表情で寝ていたコウモリ型召喚獣エコーバットの方を指差した。
「....エコは暇だから寝てるだけだ。いつもはこの時間は寝てない。」
「おまっ....そんなんで索敵役務まるんかぁ?!」
「あぁ、ただエコのセンサーは独特でな....ん?この辺わかってて連れてきたんだろ?」
「おい!向井!話しがちゲェじゃねぇか!」
「まぁまぁ...人間探知には効くんだろ?」
 前田を初めに誘ってきた向井の方に矛先が行くが、向井は今回の場合はレベルアップ場の警備員にさえ見つからなければよかったため、再度誘った時に確認したことを前田に聞いた。
「あぁ、人間は基本的には誤魔化しきかないからな。問題ない。」
 スライム持ちや特異な寄生型、または完全に音も気配も熱も消し去るような装備は支給されていない限りは、召喚獣よりも融通が効かない人間の索敵は寝てても可能だった。
「けっ...」
「それより、郷田。ジュウリョウがウサギ型を倒した時、なんか...変な所なかったか?」
「お前もかよ?ビビってんのか?」
「いいから」
「んーそうだな......あっ、ボーナスステージ発見!」
 彼も何回も倒している中で、夜のウサギ型の違和感について思い当たる節を思案していたが、その途中でとあるものに目移りした。
「あ?」
「.....!」
 向井や前田が彼が向かった方へ行くと、そこには木の根っこあたりに出来たほら穴で、その中にはウサギの子供たちがスヤスヤと寝ていた。
「お前..まじかよ...」
「....そんなのしたら、これから一生安眠できなくなる。いいのか?」
 たまたま今学期同じクラスになっただけの前田はドン引きしており、そこそこ付き合いの長い向井は郷田に整然と諭した。
「っ...ウルセェ、ここでやんなきゃリスクに見合わねぇだろ!」
「おいっ!よせっ!!」
 向井は召喚獣と郷田を止めようと間に入るが、彼も彼の召喚獣も聞く耳を持たなかった。
「...ジュウリョウっ!ブッ潰っ....っ?!」
『ジュウぅ!....カッ..ゥ』
 ジュウリョウが振り下ろそうとしたその時、月の光に照らされた別個体のウサギ型召喚獣タンカクウサギが音もなくジュウリョウの脇腹にめりこんだ。
「ジュウっ...」
 ジュウリョウに駆け寄ろうとした郷田だったが、そんな間も無く、タンカクウサギは地面を蹴り上げて開き切ったジュウリョウのみぞおちに、去勢されたオスのように品種改良された短く殺傷性のない先端を折られたツノでガン突した。
『グァっ...ッ....ゥ...』
 弱点のみぞおちにモロに一発貰ったジュウリョウはカウントを待たずにその場に倒れた。
「お、おいっ!...立て!ジュウリョウ!」
『ッ....ゥ...ス....ゥ』
 倒れたところを初めてみた郷田はジュウリョウに駆け寄ったが、息はあるものの完全に意識を失っていた。
 そんな中、前田は先の違和感の元凶の方を向いていた。
「...なんか、あいつ....違くね..」
 昼で見たタンカクウサギはぼちぼち向かってくる程度のアクティブさであったが、枯れ木の上で月の光を浴びながら、こちらを見下ろしているそれは、これまでのタンカクウサギと同個体であれども確かに月の光を纏っていた。
「おい!話しがちゲェじゃねぇか!索敵はお前に任せただろ!!」
 気絶しているジュウリョウを担ごうとしながら、前田のエコの索敵に引っ掛からなかったことを責めていた。
「やば....俺、抜けるわ....っ!」
 遅れてコウモリがビビっているのを肌に感じた前田は、そんな彼の追求を無視してその場から逃げた。
「ちょ、おいっ!!」
「....スゥ....こいつら倒してから、ジュウリョウを担いで逃げるぞ。」
 残った向井は、ワークマァン製の頑丈なジャケットを脱いでブルブロウと共に戦闘態勢になった。
 電子機器を持ち込むとすぐに侵入したのがバレるため助けを呼ぶにも呼べないのを承知の上、向井は次々と同個体が集まっているのを前にして、使うとは思わなかった鉄を仕込ませた木刀を抜き郷田にも渡した。
「っ....あ、あぁ!!」
 ちっちゃいマンモスくらいの体重のジュウリョウを運ぶには全員が動ける状態で生き残る必要があるため、動転していた郷田は気を持ち直して木刀を金属バットの要領で持ち替えた。
「....っシ!!」
『...ゥキィ?!』
 枯れ木の下で待機していたウサギがファーストペンギンで彼に突進するが、向井は手前で木刀を振り下ろして地面に叩きつけた。
『『『キキィー!!』』』
「....ツゥ...ハァ!!」
『ブロウッ!!ブルゥ...』
 今度は側の茂みから1体、真正面から2体彼らに突進してきたが、ブルブロウが正面の二匹を食い殺し、茂みの一体は向井に頭をかち割られ体を震わせながら命尽きていた。
 少し強くなっているとはいえ、ウサギ型召喚獣タンカクウサギ(バフ増し?)は召喚獣帯同免許証を取った初心者が簡単に倒せるレベルの召喚獣であったため、初めは人間の彼らとブルブロウでもなんとかジュウリョウを守りながら牽制できていた。
 しかし、徹底抗戦を決心した時点で、彼らは枯れ木の上で佇むタンカクウサギの術中にハマっていた。
 地下のほら穴などから次々と彼らを囲うタンカクウサギが集まってきており、倒したウサギ以上のウサギたちが増えてきていた。
「はぁ...はぁ...何体目だ...」
「スゥ...はぁ....さっきよりも増えてる...な」
『ブロゥ....ブ...ゥ....』
 時刻は3時を過ぎ、すでに1時間以上戦いっぱなしの彼らは立っているだけでやっとの状態だった。
 そして、そんなのは彼らには関係がなかった。
『...キイ!!』
「ブッ....か"はぁ!?」
 地中に穴を掘り進めていたタンカクウサギが地中から向井の右脇腹に突進し、彼はその場に倒れた。
『...クキィ!』
「向井っ!...っぅ?!」
 向井のフォローへ行こうとした郷田であったが、近くの木の上でずっと待機していたタンカクウサギは枯れ木の上の長ウサギから合図を受けて、彼の背中に突進しようとした。
「...オラァ!!....っぅ..」
 が寸前で、気合いで立ち上がった向井が郷田に向かってきたウサギを叩き潰したが、そこで力尽きてしまった。
「向井っ!」
「...悪い、お前だけでも....逃げろ...」
「っ....」
 血反吐を吐きながら郷田だけでも逃がそうとする向井を前にして、郷田は彼との記憶がフラッシュバックする。
『....また、やらかしたのかよ。しゃーねぇな』
『強くなる方法?....うーん、どうだろうな』
『レベルアップ場か、いいね。行こう』
『管理官か警察、自衛隊か....お前が行かない方に行くかな』
 何度バカなことをやっても、向井は俺の嫌な部分を全部知っても、それでも俺を見捨てないでくれた。
 そんな友をここで見捨てて、生き残るくらいなら....
「置いてけるかよ...」
 持っていた木刀を握り直し、ジュウリョウと向井を背にタンカクウサギ達の群れの前に立つ。
「っ!....すまない...」
 自然に慈悲などはなく、月光を纏っている群れの長であるタンカクウサギを中心にバフを受けた10体以上のタンカクウサギが一斉に彼らに飛びかかった。
(多分死ぬのだろう、格下だと思っていた初級のタンカクウサギに食い殺されるなんて思ってなかった。)
 スローモーションでコマ送りのようにタンカクウサギらが視界を埋め尽くす。
(弱点のみぞおちさえ抜かれなければ、肉弾戦において負けた事がなかったが、その驕りがこいつをこんな死に目にさせてしまった。)
(次があるのなら、また....お前らと....)
 3人の友を背に、最後にウサギ共に一発喰らわせようとしたその時、視界に埋め尽くされたウサギらは空中で静止した。
「.....え」
 頬を伝う風からも、目の前の光景はスローモーションではなく、時間が止まったわけでもなかった。








 ーーーーーー....ったく、砂利ボーイ共。お前らを捕まえに来たわけじゃぁねぇんだが....
 低い割にはよく通るその声の方を向くと、月下、満ちた月光に輝く金髪を靡かせ、黒いスーツを纏いし男が白い布で覆われている右手をそいつらに伸ばしていた。








 タンカクウサギ






 郷田の召喚獣:ジュウリョウ






 向井の召喚獣:ブルブロウ






 前田の召喚獣:エコーバット




イッカクウサギ

 時は遡ること、12時間前。
 時間通りに出勤した才亮は即応科棟へと向かうと、時雨や汐留、玄道らが何やら携帯に映された映像を見て盛り上がっていた。
「・・ほら、これフェイクじゃないですよー!」
「うーん....新種ですかね...」
「ウサギ型は種類が多いからな。」
「ん...何見てるんだ?」
 時雨の後輩的な可愛さもあり、すっかり即応科の一員となったのを微笑ましく思いつつ、才亮は彼らが見ている映像を見ると、そこには学校の屋上の貯水塔の上で歪に成長した一角を持ったウサギ型召喚獣が月光浴をしている様子だった。
「ん....これと、これは同じ個体なのか?」
 SNSでの比較動画へスワイプすると、才亮はツノの部分に違和感を覚えた。
「そうですね....これが撮られた場所は同じ八王子市ですし...どうなんでしょう」
「ソロ行動ですかね.....普通、草食系、それもウサギさんは群れで動くはずなんですが....変ですね。」
「レンズの問題もあるが....あるいは....っ...悪い、電話だ。」
 それぞれの考察を交えていると、才亮のもとにタイムリーな電話が来た。
 廊下へ出て電話にでると、相手は八王子市警察署からでSNSで話題になっているウサギ型召喚獣に関する調査協力要請を受けた。
 その後、調査資料とSNSからの情報と件のウサギ型召喚獣の出所から考えるに、西八王子第一レベルアップ場に目星をつけた。
 そして、玄道と武田は熊谷での事案処理に向かった事から、汐留と時雨どちらかを連れて行こうとしたが、汐留は夜の駐勤に、時雨は定時で帰らされる事となった。
「・・ウサギさん見たいですー!」
『んんぁー』
「一年目は夜勤だめなんですよ。」
「うぅ...わかりました。今回は引きます。」
「いや、来年度まで原則ダメですから....」
 時雨とよくわからず一緒に講義しているクゥさんは汐留に帰らされてしまった。
「.....あら、才亮さん。」
 プンスカしながら帰る時雨を見送った汐留は、丁度出発の準備ができた才亮に向き合った。
「おぅ、夜の駐勤いつもすまないな」
 いつも鋭い目つきで捕縛対象の召喚獣や、容疑者に向かっているが、こういった時間の即応科のメンバーへ向ける労いの言葉は優しい声音をしていた。
「っ...いえ、まぁ...そこは、ありがとうでいいんですよ。」
 管理官の服を着ていなければ派手な人と見られやすいが、こういった気配りや心の隙間を優しく埋める彼のこういった所はドキッとする事が多く、汐留は気恥ずかしそうにしながらも笑顔で応対した。
「ふっ....そうだな。ありがとな。」
 そして、なんかいい雰囲気になりそうな所だったが、汐留は早々に仮眠室へと行き、才亮がレベルアップ場へと行こうとしたその時、整備科の方から白い繋ぎをきた青年が走ってきた。
「才亮さぁぁぁん!...はぁ...はぁ...よかったぁ.....」
「ん、どうした?定時過ぎてるぞ」
 整備科も男しかいないという点以外ではホワイトな職場であり、定時過ぎての仕事の話は珍しかった。
「その、修理頼まれた携帯槍今週一杯かかりそうで....それを伝えに」
「ん、わかった。向かわないとだから、じゃ...」
「ちょっ...その、代わりのもので科長が作ったものなんですが...試作品で...副作....っ」
『....プラプゥー!』
「おう、サンキュ。じゃあな」
「あっ...ちょ....」
 駆け足で受け取った才亮は、時間通りに迎えに来てくれた陸上移動用のラプトル型召喚獣に乗って颯爽と駆けてしまった。
「あぁ...行っちゃった....まぁ...才亮さんなら大丈夫か...」
 諸々説明する必要があったが、これまで科長が作った装備を真っ先に試用してきた彼なら...と要らぬ心配を喉に飲み込んだ。
 八王子警察署へと寄り、西八王子第一レベルアップ場の責任者と改めて話をしてパスキーを取得した頃には、時刻は10時を回っており、目撃時間がピーク時に設定した予定通りの12時にレベルアップ場に到着した。
 初めの1時間は大した変化はなく、ただの夜の散歩みたいになっていた。
(なんか、変態みたいだな....)
 などと、深夜の空気に揺らされていると、一直線にこっちに向かってくる足音が聞こえた。
「....ん....あ?」
「はぁ...はぁ...っ..」
 腕に巻き付いたイッタンモンメンを少し緩めて戦闘体制を取ったが、その正体は学生くらいの歳のスポーツマンだかインテリだかわからないメガネ坊主だった。
「おい...お前...」
「北東に...やばいウサギが!!」
「...っ!」
 互いに不審者であるのはともかくとして、坊主から出た単語は目当てのものだった。
 そして、即座に坊主はレベルアップ場の警備員の方へと向かわせ、彼の証言を信じて北東へ向かうと一角のツノを持ったタンカクウサギが、他の個体らを一斉に学生二人とダウンした召喚獣らへ熱殺蜂球が如く突撃させようとしている場面だった。
 センサーとして張らせていた糸をそこへ展開させて、突撃したタンカクウサギらを糸でぐるぐる巻きにして無力化した。
『ーーーーーっ!』
 枯れ木の上で、その様子を見下ろしているウサギは人間には聞こえない鳴き声を出して、茂みに待機していた他の個体を呼び出した。
「っ...やろう...コロニー化してたか....」
 一人のイッカクの角を持った長の号令で、上下左右と各々攻撃が被らない立ち位置で整列したその光景は、群れという枠から外れ文明の黎明に迫っていた。
「....とりあえず、これそいつらに飲ませとけ」
「...は、はい!」
 持っていた回復薬をまだ動けそうな木刀を持ったガタイの良い学生へ渡した。
「っし...お前らは俺の後ろに、そいつらは意識を取り戻しても、寝かせてろ」
 才亮はポケットから出した黒いグローブをハメながら、ジリジリと間合いを詰めてきているウサギどもを見据え、短く指示を出した。
「はい!」
「....スゥ...」
 ガタイの良い学生がとりあえず応対は出来るくらいは正気なのを確認した才亮は10体以上のウサギ型召喚獣タンカクウサギを前にして、ボクサーのファイティングポーズを取った。
『『『....キィィ!!』』』
「....ツゥ!」
 先手に走った三体のウサギを最小限の動きで両手で向かって掴み、残った一体をサンドイッチにして、糸を巻いた。
『『....シィー!!』』
「...っ!...スゥ...」
 茂みの木の上から加速して不意打ち狙ったウサギ2体を手でキャッチし、糸で巻いて無力化した。
『『『....ッ!』』』
「.....」
『....ンイィ!!』
 そして、地面から飛び出てきた3体のウサギは才亮らをスルーして空中に舞い、後ろ足を斜めにこちらに向け、位置エネルギーがピークになったところで枯れ木の頂上で鎮座していた長のウサギは彼らの間を縫うように突進を始めた。
 他のウサギたちの後ろ足で長のウサギの後ろ足の踏み込みをサポートし、さらに加速する。
 その反作用で、サポートしたウサギたちの後ろ足は大臀筋あたりにめり込み、場外へと吹き飛ばされた。
「.....シッ!」
『.......ンイィィ!!』
 ーーーーーーー.....
 替えのきくウサギたちを犠牲に加速した長のウサギは、最も自信のあるそのイッカク角を一点に、才亮の右拳と衝突した。
『....ッ?!』
 しかし、衝突音は聞こえず、長ウサギはどちらにもダメージが入っていないのに困惑している中、才亮は優しく糸で包んで無力化した。
「....スゥ...副作用なんざ、ないじゃねぇか...」
 長を捕まえられて恐れおののいた他のタンカクウサギらは後退りして散っていく中、才亮は携帯槍の代用として渡された試作品らしい黒グローブをワシワシさせて、謎に脅かされたのを愚痴っていると、グローブの色が白黒に点滅しながら電池が切れる前の音が鳴り始めた。
 ーーーー....ぴぴっ...ぴ...ぴーっ
「....ん....っ!?」
 ーーーーーーーバァァァぁんっ!!!
 寸前で脱いで空の上に投げた黒グローブは、月が綺麗に浮かぶ夜空に花火を灯し、才亮の夜のお散歩は終わりを告げた。
「....ま、マジかよ...」






若輩の処遇

 数時間後、夜はすっかり明けて、あんなに満ちていた月は太陽に成り代わった頃、八王子市召喚獣病院にて、最後まで友を見捨てなかった男は目を覚ました。
「ーーー・・んっ....ぅ...ここは...」
「...起きたか?!つぅ.....すまない。すまない...向井...」
 ベッドの脇で目が覚めるのを待っていた郷田は彼に縋りながら謝る。
「っ....ぅ....いてぇよ」
「あっ...悪い....本当、俺のせいで...」
 致命傷はなく順調に回復している向井であったが、筋肉痛に近い回復薬の治り痛に響いた。
「....」
「はぁ....別に泰示が無理に連れてきたわけじゃないだろ....」
 向井は真面目なんだか、不真面目なんだかわからない郷田泰示を一瞥しベッドに寝直し、天井を見つめながら、ただ事実を話した。
「....ん?...ぁ、てか、前田は?」
 その中で、なんで自分が助かっているのかというのと、客観的に見て早々に賢い判断をした前田について聞いた。
 すると、病室の扉が開いた。
「....起きたか」
「?」
「才亮さん!」
 現れたのは郷田は面識があるようだが、向井とは面識のない金髪の管理官?だった。
「...っ!よかった...無事だったか...」
 そして、彼の後ろからピッカピカの無傷の前田が現れ、向井はホッと胸を撫で下ろした。
「あぁ、こっちは何ともないが、そっちは大丈夫そうではない...な」
「まぁ、自業自得だ...ん、前田が助けを?」
「っ...あぁ、エコで警備員を探して、たまたまいた才亮さんを見つけたらしい。」
「....才亮さん。前田。助かった、ありがとう」
「いや、才亮さんが...」
 前田が才亮にありがとうをパスしようとしたが、それよりも話すべきことに入った。
「それより、レベルアップ場に不法侵入したお前ら3人。1年間のレベルアップ場への入場禁止と24週間の講習だ。」
 正式な通告書を持ってきた才亮は3人のその紙を配って、処罰をあてた。
「っ....ん...免許は?!」
 重めの処罰を言い渡された彼らであったが、通告書内には召喚獣帯同免許の停止は記載されていなかった。
「今回の事件は免許停止、剥奪の要件は満たそうと思えば満たせるな。」
「「っ....」」
 召喚獣帯同免許の永年停止、剥奪はこの日本国に生きるにおいて、特別な事情を除いて、自分の召喚獣すら扱いきれない、または召喚獣で他へ危害を加える危険性があると見なされたと同義であり、それらは前科一犯に相当するもので社会的に死んだも同じであった。
「ただ、その前になぜ、こんなリスクまで取った?」
「それは...」
 答えを迷っているようには見えないが、郷田は何が自分をそうさせたのか熟考していた。
「.....」
 才亮は15歳の青年の答えを待った。
「もっと、強くなりたくて...」
「なんのため?」
「それは....」
 頭と胴体に包帯を巻いている10年来の友と目が合う。
 病室の窓を見ると、自分たちは死にかけていたというのに、変わらず朝日が上り、近くの学校から朝練で早くからスポーツに励んでいる学生たちの元気な声が聞こえる。
「....」
 やり方や、犯した罪は決して無視できない。
 許す許されないに関係なく、一生背負って生きていくしかない。
 そうしようとする、朝日へ向かう15歳の青年の答えは確かに先人たちと通じていた。
「今より、もっと強くなって....皆を守りたいからです。」
『ーーーー・・お前の勝手な判断で、何人死んだ?!』
『ーーーー・・遺族に何と言うつもりなんだ....』
『ーーーー・・次私の前に現れたら、私はあなたを殺さずにいられない。』
 胸に伝う高い湿気と、腐りきった磯、焼ける木々の匂いが目の奥にフラッシュバックする。
 目を開けると、3人の青年たちが澄み切った目でこちらを見つめている。
 彼らへの処遇は初めから決めていた。
「.....そうか、お前らなら近道しなくとも強くなれる。期待してるぞ。」
「...っ....はい!!」
 おそらく彼らは、これから何があっても、病室を立ち去る金髪の召喚獣管理官の背中を忘れないであろう。

ツキヨノ

「ーーー・・スゥ.....スゥ....スゥ....」
 夜中の即応科棟の一室にて、駐勤の汐留は燻茶色の絶妙な硬さのソファーにて、毛布にくるまりシゲモチさんを枕にしながら、スヤスヤと仮眠していた。
 本来であれば、水曜日は才亮も駐勤する予定であった。だが、彼は他に仕事があるらしく即応科棟内には瞑想中の武田くらいしかおらず、静かな時が流れていた。
 そして、彼女はモフモフの獣人たちに囲われ、モフモフ天国の夢の中にいた。
『ーーー・・もふもふさんですね』
『わふぅー!』
『フルふぅっ...』
 そして、うち一人、常日頃から、後輩気質もあってか犬っぽい感じに見られている時雨は、彼女の夢の中では犬っぽい獣人として汐留に抱きついていた。
『ふふっ....やっぱりこっちの方が良いですよ...』
『わっふぅ...っ?』
 汐留に頭に生えたピンっと立った耳を触られ、ほへぇ..という緩んだ顔で尻尾を振っていたが、何かに気づいたケモ時雨は首を上に伸ばしてある一点を見つめ始めた。
『..?...どうしたのです....』
『.....んなー』
『...か?』
 ケモ時雨が見つめている方を見ると、才亮以外にはいつも撫でさせてくれる時雨の召喚獣クゥさんがこちらをじっと見つめていた。
 ーーーーウォォォォン!!
「っ!...っ?!」
 即応科棟内に出動のサイレンが鳴り響き、汐留は夢から覚めて飛び起き、右手首につけているウェアラブル端末に映るホログラムにまたもや驚かされた。
「....汐留っ!!」
 万全体制の武田が屋上から汐留の名を呼ぶと、汐留はジャケットを持って窓から屋上へショートカットした。
「っ.....はい、でも...これは....」
「あぁーーーー」
 それは数々の伝承や歴史上の人物が召喚したとされ、実際にこの日本に存在しているてはいるが、その実態や生態が公に公開されていない。
 ここ100年で、召喚された回数は数える程度。
 時に、神に成る可能性を成就させるだけの、歴史、信仰、憧れからなる神格への挑戦権を持った。
 召喚獣はーーー
「ーーーーー龍型だっ!!」
 月夜に明るい夜空を、武田はその先に何があろうか胸を膨らませている子供のように無邪気に見上げて、ホログラム越しに見たそれを想起しながら武者震いした。


 ーーーー皇歴2685年 (西暦2025年) 4月30日 1時20分。西東京市








 月が浮かぶ夜空にて、空の深い夜と同化した体表の鱗に月光に共鳴して葉の紋様が光る。
 光が木の幹のように伸びた角に流れ、月の光と共に後頭部に豊かに生えた青いつぼみが花開く。
「...あれが....龍。」
 龍型召喚獣を600m先に捉えた汐留は古事記からそのものを見せられているような、それこそ神格と同じ空間にいる時の、あの全てを許し、許されてしまうような感覚をさえ覚えた。
「...っ!!」
 我慢できない武田はそのまま月が浮かぶ夜空を舞う龍型召喚獣の方へと駆けて行った。
「あっ...ちょ....スゥ」
『....?』
 いつも通りの彼の調子はともかくとして、一旦一呼吸すると『行かないんか?』といった目できょとんとしているプラプトルと目があった。
「...追いかけますか」
『プラぁー!』
 走り足りないプラプトルの首元を撫でて、20馬身差くらい先の彼を追いかけた。
「....高さが足りんな。」
 プラプトルに乗りながら、武田は高さ50から100mを空泳している龍へどう詰めるかを考えていた。
「うむ、まず堕とすか....」
 一手思いついた武田は持ってきていた大弓を背から取り出し、構え、風向きから対象から右斜上へ標準を合わせ、装備科から支給された矢を絞った。
「......スゥ.....ゥ....!」
 放たれた矢は僅かに風に影響されながらも、運動量を減らす事なく龍の元へと射られた。
『......ッ?!』
 途中まで一切の気配を感じなかった矢が、寸前で現れ龍型は即座に体をうねってかわした。
「ほほぅ...」
 武田は無音加工に加え、射手の殺意や意志を極限まで隠匿されるように加工されている矢が久々に外れた事に唸る。
『.....ッー!』
 月光浴を楽しんでいた龍型は射られた方向を向く。そこには飼い慣らされた召喚獣に乗った小さな人間がおり、彼ら以外から同等の召喚獣の気配を感じなかった龍型は、うねり加速しながら武田の元へ向かった。
「うむ!そうこなくては!」
 直感的に好戦的な空気を持っていないとは思ってはいたが、目論見通り向かってきたのに心躍らせた。
「....ラプ、あの塔のてっぺんまで行けるか?」
『プラァ!!』
 任せろ!と言ったプラプトルは、龍型召喚獣が武田の方に向かって加速してきている中、一直線に20m程の鉄塔へ走り抜けた。
 頑強な足爪の筋力と特異な鱗の配列から、とっかかりのない円柱の鉄塔を登り行き、彼らは頂上に到達した。
「.....。」
 武田はプラプトルから降りて円柱の鉄塔の頂点に立ち、夜空の海に一点の雫が落ちるが如く、目を閉じる。
「....スゥゥゥ......。」
 静かにゆっくりと息を吐いて全身を脱力し切った地点で、居合の構えを取り龍型を待ち構えた。
 頬を伝う風と、螺旋状に旋回する風が飽和する。
『ーーーカァッ!!』
 龍型は空中から滑空して位置エネルギーを運動エネルギーに変換加速しながら、噛筋を大きく開けた。
 間合いは十分。何千何万と磨き上げられた居合を抜くーーー
『.....カハッ?!』
 ーーーというのはブラフで、寸前までその気配だけ出して、黒鉄塔の頂点から僅かに後ろに下がり龍型を鉄塔に噛ませた。
『....ッ...クゥ..』
 噛み砕けないものなど無かった龍型であったが、その黒い円柱の鉄塔は別であった。
 噛み殺そうとした力はその鉄塔の反作用によって、全て龍型の顎に返されたと同時に頭蓋が揺れて飛行が不安定になり、鉄塔に沿ってズルズルと落下していった。
「....うむ、属性持ちの割には...か」
 してやったりの武田は鉄塔の頂点に登り、ゆっくりと落下していく龍型の明らかに光か草の属性を持っていそうな見た目で、光線やらなんやらで上空から遠距離で攻撃してこなかった点を考察していた。
『...ッ....!』
 地面につきそうな所で飛行の安定性を取り戻した龍型が武田が居る上を見上げると、武田は悪役のようなニヤケ面でこちらを見下ろしており、それが龍型の逆鱗を触れた。
『....カァーっ!!』
 鉄塔を中心に渦を巻くように昇り、加速する龍型。
「ほっほぅ...もってくれよ、龍型。」
 武田は向かってくる龍型を前に昂る調子を止水し、静かに目を閉じ本望の居合を構えた。
 意識が空になるその間で、昔の記憶が流れる。
 奈良南部の夏はくそ暑くて、冬もクソ寒い。あの山々での鍛錬の日々にて、育ての親であり、師匠であるジジィとの会話だったか...
 全国から武術家やその門下生たちが集まる合同鍛錬で、氷風呂に入りながらクールダウンしてる最中、ジジィの兄弟子から聞いた話を当人に確かめた事があった。
『ーーー・・ジジィ、龍と戦ったことあんのか?』
『あー...まぁ、ええか....』
 らしくもなく答えるか同化逡巡したジジィは、おもむろに話した。
『とある所でな、扱いきれなくなった龍型召喚獣を封印する要件で、討伐可能の捕縛隊が組まれ、ワシが指揮をした。』
『ほぉーん、で?』
『お...お前な...まぁ、詳細ともかくとして、結果としては....』
 耳に入った水をほじりながら続きを短く促した武田の態度に、意を決して話そうとした面持ちが崩れそうになったが結論だけ話した。
『....ワシ以外今じゃあ全滅じゃ、もう二度とやりたくないわい。』
 ジジィの言葉を紐解くのであれば、おそらくジジィと一人か二人かは生き残ったのだろうが、支払いきれないデバフか、あるいは重度の後遺症で一年持たずに死んで、真の意味で生きて帰ってこれたのはジジィだけということだろう。
 それからであろう、全盛期のジジィをそう言わしめた龍型と戦いたいと思ったのは...
 どんな結果であれ、その代償も恩恵もひっくるめて全て受け入れる。
 そう、その括った覚悟はその思いに決着をつけてくれると確信した途端、己が無くなる。
 鉄塔から降りて、昇り龍を迎う。
 初めからそうなるのが決まっていたかのように、界在に溶け切った武が居合を抜き、最速の刀剣が龍をーーー












 その時、思ってもない所から気付けられてしまった。
 ーーーー武田ぁ"ーっ!!子どもーーーーっ!!
「!!....何っ」
 己と魂が空に至るギリギリの所、汐留のその声に気付かされた武田が目を開ける。
「...っ?!」
 すると、そこには確かに龍型後頭部に生えている花々の中に、10歳程の少女が龍型にしがみついて目を瞑っていた。
「....っぬ!!」
 寸前で、円柱の鉄塔の側面を踏み込み、龍の噛撃から退避した。
『....カッ...ツゥ...』
 またもや噛撃がスカし、鉄塔の反作用が残っている龍は萎えてそのまま、雲に塗りつぶされた空へと向かった。
「.....っ」
 空中で大の字で自由落下しながら、地面を背にして空へと昇る龍を見送る。
 一回目は初めからブラフとして考えていたが、二回目は一刀で決めるはずだった。
 管理官という立場から、可能であれば捕縛する必要性はあったが、それでも龍を倒し、さらなる高みへと挑戦権を得たく鍛錬を重ねてきた。
 手を伸ばしても、翼を持たない俺では空を昇っていく龍へは届かない。
 様々な思いが焦燥し、混濁している。
 それでも、雲を割って月光を浴び、体表の葉の紋様や白き角に光を取り戻したその姿を目にした、彼はただひたすらにその景色に心奪われていた。
「....綺麗だ。」
 







 ツキヨノ
 龍型召喚獣。
 月光浴が好き。月光合成でも栄養補給ができ、後頭部から尾まで青白い花や葉っぱが連なっている。






 黒い円柱鉄塔について
 野生の召喚獣が市街地に入ってこれない結界の楔の一つ。
 宮内庁が開発製作しており、中には数千年楔として機能している鉄塔もある。




 ちょこっと一間。


「おぉ...ラプトル。」
 待機していたプラプトルが近くのビルの屋上から飛び上がり、空中で武田を背中でキャッチした。
「...助かった感謝する。」
 無事にビルの屋上に着地した武田は、MVPであるプラプトルの首筋をさすって褒めた。
『ッ...プラァ』
 気持ちよさそうな顔をしながら、もっと撫でてとフサフサの頬毛を彼に擦りつける。
「かかっ....次も、頼んだぞ。プラプトル。」
『プラぁー!』


腹が減っては

 33 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:01
 うわぁ....龍って本当にいるんだ
 34 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:02
 家康の召喚獣が生き返ったんじゃね?
 35 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:04
 〉〉 34 なわけあるか
 36 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:08
 てか、この人前に召喚獣園から脱走したエネシス鎮圧した人じゃん!
 37 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:10
 この召喚獣....動くぞ...
 38 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:12
 サムライの人、なんで寸前で止まったんだろ...心理操作か、威嚇持ちなのかなー
 39 名前:名無しの感想マン 2025年4月30日 2:15
 〉〉37 草
 次の日、地上波では報道規制が張られたが、ネットでは昨日の管理官と龍とのバトル映像が話題になっていた。
「....本当に、子供なんて見たんですか?全然映ってないというか....光が反射してよく見えないですが...」
 丁度、月光浴後の龍由来の変質した光のためか、携帯の光学センサーでは正確にその姿を捉える事は困難であった。また、他高層マンションから撮影された映像からも、龍型後頭部の光り輝く花々に隠れて、肝心の10歳前後の少女も確認できなかった。
「....あぁ、間違いない。」
「私も、ギリギリで視認できました。」
「うむ、しかしなぁ...」
 当人たちはともかくとして、掃除途中だった布巾を被った玄道はフェイク映像技術の割の合わなさからもやはり何かしらで発生した召喚獣だとしても、それが龍とまでは思えず、ゴム手袋を外しながら渋い顔をしていた。
「....まぁ、祭事でもない日に龍が出歩くわけねぇから、大体目星ついてるんだけどな。」
「「.....え?」」
 廊下を歩いている時から、その話し声が聞こえていた才亮はひょこっと内務室のドアによっかりながら、ソース元がはっきりしていそうな事を呟いた。




 ーーーーー( ^ω^ ) 〈 それからどしたの


 目撃情報から次も夜に現れるだろうと、即応科棟の屋上にて、才亮は飛行用召喚獣テラツバメを待機させながら、出動サイレンを待っていた。
 ーーーーグゥゥ...
「......うむ」
 昨日の夜から今まで結局不眠不休で他任務に出ていた中で、ようやく体は一息ついたため気づいたかのように腹が空いた。
「まだタイミング的にも余裕があるし....飯食うか」
『っ!....フェン?』
 モフモフの胸毛をゆっくり収縮させながら、目を閉じて静かに休息していたテラツバメは彼が呟いた単語から、飯の時間だと勘違いしていた。
『....フェンゥーウ』
「!...あぁ、お前も一緒に食うか」
 いつもはキリッとした仕事人気質のテラツバメであったが、多分世話している管理官に見せているような甘えた顔でふもっふの首毛を才亮の顔に擦り付けていた。
 召喚獣用の食糧庫から、ドテツマグロのフレークとウッシーの大腿肉を持って来て、自分は3分でできる焼きそばのカップ麺を持っていった。
 BBQ用で屋上の倉庫に備えられている赤外線の肉焼き機を組み立て、軽くホースで洗って大腿肉へ塩と胡椒をふりかけてしばらく焼いた。
『...フェンっ!フェルゥゥ...』
「おい...まだ....まぁ...いいか...」
 もう少し焼いた方が旨みが熟すが、テラツバメは才亮の首元をすりすりとし香ばしい匂いに我慢できない様子だったため、半円柱のコンロを開けてレアな焼き加減のウッシー肉を提供した。
『...カルル...フェンゥ...』
「ふっ....っ...うん。うまいな」
 テラツバメはうまぁいと呟きながら貪っており、才亮は夜に外で食べる焼きそばのうまさに体力ゲージの回復音を響かせていた。
「...ふぅ....もう一個食べちゃおうかなぁ....」
 一口が大きい彼はおかわりをしようと屋上の出口へ向かおうとしたその時。
「.....ん?」
「.....あ」
『.....ァ』
 屋上の出口上に浮かぶ、映像で見たまんまの夜空の色をした涎を垂らしている龍型召喚獣と、それに乗った柔道着のような繋ぎを着た女の子と目が合った。
『...フェンゥ...フェンフェン。』
 そして、テラツバメはウッシー肉に夢中であった。
 その後、何か一悶着が起こる前に、才亮は食糧庫から大盛焼きそばとウッシーの大腿肉を持ってきて、彼らに提供した。
「っ....はくっ...あいつら、うざいから...っ...ツキヨノと飛び出しただけ...うっ...く」
 事情を聞くには、彼女は目星の召喚式後の行方不明事案の当人であり、諸事情でその場から離れたらしい。
「ほら、水のめ」
「っ...ごくっ...ごくっ....はぁ...どうも」
「あぁ.....」
 一気に空になった2Lペットボトルを返された才亮は、その良い飲みっぷりに父性をくすぐられていた。
「...月葉は昨日の夜。侍っぽい男と戦わなかったか?」
「あー、あの人.....って、人間?」
 ツキヨノの首に捕まりながら、見ていた彼の動きを思い返していた彼女は、もっともな疑問を投げかけた。
「.....一応、俺が知る限りでは」
 鼻垂れ小僧だった時から知っている武田は、才亮が観測してきた範囲内では武田は自力であの武力を得てきたと言えた。
「ふぅーん....まぁ、私が殺さない程度にって...言ったにしろ、おかしいよあの人。」
 寺内で、たまに武術家とあって、体育の一環として組み手を見してもらった事はあった。彼女から見て、侍の男からはその時、いつもは偉そうにふんぞり返っている親父がペコペコと頭を下げていたあの人とはまた別の匂いを感じていた。
「それには同感だ。」
 才亮は妙に軽くなってきた口を缶コーヒーで塞ぐように飲んだ。
『...フェェェ!!』
 一方、テラツバメは持ってきたウッシー大腿肉が焼けるまで待てなかったツキヨノに飯をとられてブンスカ怒っていた。
『ガァ....』
『フェンっ!?.....っ....』
 ツキヨノが凄むと一目散に才亮の後ろへと隠れた。
「ツキヨノ。ちょっと大人しくしてて」
『.....ッ』
 ここに居るのがバレたらまずいのを分かってるのか、ツキヨノはこくりと首肯して獲った肉にかぶりついた。
「....召喚されたばっかなんだよな?」
「うん。」
「まぁ....相性良すぎる奴もいるか...」
 目を通した調書からは、彼女の龍は数日前に召喚したばかりであり、その召喚獣を二つ返事で意思疎通をできている点に彼は感嘆した。が、召喚獣との契約の性質上そういうパターンも珍しい話ではなかった。
「うん。ツキヨノとは初めてな感じしない。もっと昔から知ってるみたいな...」
 彼女は肉にがっついているツキヨノの方を見ながら、知るはずのない遥か遠き陽を思う。
「.....」
 10歳とは思えない程の何かを感じた才亮は、月の光が差し込む月葉の横顔に意識を吸われていた。
「勝馬は、どうなの仲良いの?」
 彼女は顔はツキヨノの方を見ながら、目線だけ才亮に向けて聞く。
「...まぁ、ぼちぼち」
「嘘つき」
 右腕に巻いているイッタンモンメンを一瞥するが、一瞬の思考の巡りがあったのは彼女には色々お見通しだった。
「.....」
「勝馬のは....眠ってるでしょ?ずっと....」
 静かに右腕からゆっくりと視線を彼女へと向け言葉を選んでいると、彼女は構わず見たものの感想を続ける。
「.....」
 適当にはぐらかすことも、いくらでもできた。
 けれど、龍泉寺で受けた洗礼がフラッシュバックする。
 ーーーー如何なる者も、龍の眼前では真のみ残る。
 彼女の目を見ていると、初めて龍に会い、対面したあの日。
 自分すら知らない己の全てが丸裸にされて、別の何かに生まれ変わるのを強制されるような、器を逆撫でされるようなあの感覚を思い出す。
「...それに...」
「それは....!」
「むぐぅ....っ!」
 全て言い当てられて、無差別に散らかったおもちゃ箱にされないために、先手で何かを言おうとした才亮は階段の登る音を聞き、反射的に彼女の口を塞いだ。
「才亮さーん。コーヒーいりますか?....ん」
「「......」」
 内務室で待機していた汐留は屋上で凍えていないかと思い、差し入れをしに行くと、10歳くらいの女の子を押さえつけていた才亮と目があった。
「...その子.....まさか...」
「いや...これは....」
 ーーーーーバゴォォォンっ!!
 絵面がやばいのをなんとか弁明しようとした才亮であったが、反射的に彼はシゲモチさんの塊撃によって夜が更ける空へと吹き飛ばされた。

本間 月葉 10歳。

 生まれた時から、私の周りはムカつくことばかりだった。
『....我々は守られている。それに報いるため...』
『....強大な召喚獣から民を守るために...』
『...数百年と続く、寺院の存続のため』
 くだらない説法に、教えやらなやら、どれも自分たちにとって都合の良いものばかり並べて、それを信じた人たちが寺にお布施をする。
 それがたまらなく気に入らなかった。
 物心つくまでは、それらに強制的に付き合わされていたけど、そのアコギな商売を辞めさせる方法があったわけでもなく、そのイラつきを発散するのには私が生まれた寺は小さすぎた。
 あぐら座りしている仏様のあぐらの中でお昼寝したり、高いらしい壺を的にして石を投げたり、葬式中に付人のシゲシゲの召喚獣にのって、縦横無尽に駆け回ったりして好き放題、ひろくとも狭い寺を掻き回していた。
 そして、学校へ通える年になった時に、その代償を支払う事となった。
『ーー・・お前は、寺内のホームスクールで学べ。』
 寺は隠し事が多い事は知っていた。
 けど、付人シゲシゲの子供は普通に小学校に通えていたから、自分も学校に通わせてくれると思っていた。
 後から付人のシゲシゲを問い詰めると、召喚獣を扱える小学4年生以上の生徒たちとも同じ所にいる中で、これまでの諸行を起こすような人は保護者の判断でホームスクールに変更できるという事であった。
『ーー・・蒔いた種は自分に返ってくる。』
 耳にタコができるくらい聞いた教義の一文が、自分に降りかかった。何かが壊れる音がして、この寺ごと焼き尽くしてやりたかった。
 が、その辺を見かねたシゲシゲは普通に外面だけでも良くすれば、召喚式あたりで学校に通えるかもしれないよ。と彼女に言い何とか踏み止まった。
 その日から、私は心を入れ替えたふりをして、朝から寺内の掃除や、意味があるかわからない修行をこなした。
 勉強はシゲシゲが付きっきりで教えてくれ、ついでに体育や美術、工作なども行ってくれた。
 また、生まれてからずっと共に生きてきたシゲシゲの狼型の召喚獣シバンスキーに協力してもらい、召喚獣に関する操法、関係構築方法、知識体系も学んだ。
 毎日新しい知識や経験を積めて、契約していなくともシバンスキーや寺内の従業員のいろんな召喚獣とも仲良くなり、心身ともに充実していた日々を送っていた。
 けれど、たまに外に出かけるときに、普通の学校に通って、友達と楽しそうに話しながら下校している子を見ると、どうしても心が空いた。
 反抗して、親父の意向を覆したい気持ちは大いにあったが、グッと抑えて心身の研鑽に注力した。
 そして、10歳になった私は召喚式の日を迎えた。
 やっとのこと、この寺から一時でも離れて学校に通えると思い、何やら諸々の説明を受けて、よく聞かずに首肯し続け、召喚印が刻まれた左手首の裏をさすりながら、寺の敷地内での召喚式へ向かった。
 召喚獣管理官と警察官数人が待機しており、物々しい空気が流れている中、管理官の人に促され、召喚陣のマットが敷かれた所の前に立つ。
 寝る前も、起きた後も徹底的にシュミレーションしたように、静かに目を閉じて左手首に刻まれた二つの葉っぱを添え、満天の花々が咲く召喚印に召喚の念を込める。
『ーーーーー・・.....ッー』
 意識が肉体から解脱し空へと向かった先には、雲の上で綺麗な青白いお花を後頭部に蓄え、青白く光る鹿のような角が2本生やした、夜空の色をした龍が優雅に月光浴をしていた。
『.....ぁ』
 その光景を前にして、抗えず感嘆の息を吐く。
『?....ッ.....』
 こちらに気づいた夜空の龍はゆったり体をしならせながら、こちらに向かってきた。
『...あっ...っ......』 
 一瞬逃げようとしたが、ゆっくりと龍が近づくにつれてその必要はないと何故か理解した。
『......クゥ』
 鼻先まで近づいてきた夜空の龍は、目を瞑って第三の目の位置に光を放つ自らの額を差し出してきた。
『....っ』
 それに呼応して、考える余地などなく初めからそうなる事が決まっていたかのように、私は龍の額に自らの額で優しく添えた。
 毛細血管一本一本が融和するように、全身が龍と神経接続したような感覚に身を委ねた。


「ーーーー・・...っ?!」
 意識はこの世界へと戻り、優しいお花の匂いが残る中、目を開けると先まで目の前にいた夜空の龍が召喚された。
「...あ、あなたが...」
 もう一度近づいて、手で触れて、本当に私の召喚獣なのか確認しようと近づくと、汚い大人たちの声でかき消される。
「おぉっーーー!!」
「念願の...ですな」
「よしよしよしっ!!...これで、ワシの寺は一生安泰じゃぁ」
「...っ??」
 大人たちの不快な歓声を浴びた彼女は困惑した。
(え、何...これ、私....これから...)
 ただ一つ分かったのは、また同じように確証のない褒美を吊るされて、一生カス坊主どもに隷属する未来しか見えなかった事であった。
『....ッ』
「....っ!」
 初めからただ一点に自分を見つめていた龍と目が合い、その方向へと駆け出した。
「....ぁ...ちょっと!」
 彼女に気づいた管理官は彼女を呼び止めるが、彼女はすでに龍の首後ろに乗っていた。
「...行こう!」
『....ッ!!』
 彼女の掛け声に龍はこくりと頷き、彼らは空へと昇った。
 龍の角にしがみ上昇加速が落ち着いたところで、下を見ると私を閉じ込めていた寺はミジンコみたいに小さくなっており、街が一望できる高さまできた。
「っ....もっともっとーっ!!」
『....!』
 ずっと感じ背負い続けていた閉塞感と、勝手に課せられた重荷は上昇風と共に霧散し、彼女はどこまでも行けるだろうと龍に促し、龍は仕方ないなぁと言った様子で雲を突っ切った。
「わぁ...っ...」
 初めて経験した雲の水滴でびしょびしょになりながら目を開けると、そこには一面太陽の光に照らされた雲の海が広がっていた。
「...っ!りゅ...」
 私を連れ出してくれた感謝の前に、まだ名前が決まっていなかったのを思い出した。
「うん。ツキヨノ!!私は本間 月葉。よろしくね!」
『...クゥー!』
 一考する間もなく、ずっと前から知っていたかのようにその名を呼ぶと、ツキヨノは角や花々を煌めかせて喜んでいた。




 そこから、飛べるだけ空泳し、月が昇る頃には、龍の背中で夜を明けた。
 夜の空は寒いはずなのだが、ツキヨノのお花がお布団代わりになって、その寒さを忘れるほど熟睡できた。
 そのあとは、結構腹持ちの良いツキヨノのお花を食べたり、ツキヨノ自身は月光浴をして、栄養を補完している様だった。けど、YES・NOで答えられる質問をいくつか聞いていると、出来れば月光浴以外でも栄養を補給する必要があるらしい。
 やはり流石に、ずっと飛んでいるためか、流石に互いにお腹が空いてきてしまい、雲に隠れなが
 ら、近くの山で休憩することにした。
 その道中、ソースの美味しい匂いと召喚獣用のお肉が焼ける匂いに連れられて、空腹と疲労に富んだ私たちはその方向に導かれた。

積もる秘密。

「ーーー・・つまり、ツキヨノさんを本間寺の権威付けに利用させないために、飛び出したと...」
「大体そうだ。」
「...うん。」
 即応科内務室へと戻り、茹でたうどんを皆で食べながら、諸々の事情を共有してから話の続きを始めた。
「てか....お前は一回見たことあるから、誰か分かってただろ....」
「まぁ、絵面がまずかったので...つい。」
 才亮、汐留両者の言い分はどちらももっともであった。
「経緯は良しとして、月葉ちゃんたちはどうします?」
 そして、これからどのような流れで進むのかというものあるが、初めに未成年である彼女の扱いについて明確にする必要があった。
 ーーー召喚獣関連法 一部抜粋。
 ....当該事案において、関係者が未成年かつ身元引受人が即座に参上できない場合は、召喚獣管理省は召喚獣と共に召喚主を保護できる。
「兎角、朝になったら月葉とツキノヨを管理省が引き受け手続きをしたとして、次は...」
「どれくらい居れるの?」
「そうだな....長くて二週間だな。」
 正確には身元引受期限は定められていないが、彼女の懸念へ対処するのにそれくらいまでは粘ることができた。
「見つからなかったら?」
「本間寺は親戚が多いから、いるだろ大勢。」
「居なくなったら?」
 段々と彼女の瞳が曇っていき、極端な方策へと舵をとる。
「こらこら、落ち着きましょう。」
「っ....でも...」
 もうあの限られた自由しか与えられない閉塞した庭に戻りたくない一心で、のめり込んでいた彼女は、後ろから汐留に抱擁されて剣呑な空気が弛緩した。
「これでも、月葉の置かれている状況は理解している。それに本間寺は叩けば埃しかでてこないだろ?」
 茶菓子の包装紙や釜揚げやらで散らかっているテーブルを片しながら、月葉に少なくともお前の目の前にいる大人たちは味方であると示した。
「そうですね。本家もガッツリマークされてますし」
 汐留は才亮がいつも座っているソファーの前に置かれた関連調書からも、その情報の密度から寺や宗教、関連企業への監視は常々行われていた。
「まぁ....一番は、龍泉寺に身元引き受けしてもらう方がいいんだが....」
「あーっ!私もそれが一番いいー!」
「え、才亮さん。龍泉寺にコネがあるんですか?!」
 片付けを手伝っていた彼女と汐留は、才亮がいったその発言に耳をぴょんと立てて彼に駆け寄った。
 ーーー龍泉寺。
 ネットにも文献にもそのお寺の存在は周知されている。しかし、そのあまりの鎖国具合と徹底した情報保全から、各省庁内でも限られた人しか概要を知らないお寺であった。
 事実、事務次官や大臣でさえ敷地内に入ることは困難であり、彼らでさえも龍泉寺についてはぼんやりと龍型か、龍っぽい召喚獣を管理保護している程度しか知らない。
「....ん...まぁ....あったな。」
 純粋無垢のダイヤモンドみたいな瞳を煌めかせている彼女たちを前に、才亮は申し訳なさそうに目を逸らした。
「ん?」
「何故、過去形...」
 雲行きが怪しくなり、彼女たちの煌めく表情は萎んでいった。
「前に色々あって....永年出禁になってる。」
「「......」」
 物理的かメタ的に龍の尾を踏んでしまったか、それと同等の事をした事は想像に難くなく、彼女たちは完全に押し黙ってしまった。
「一体何を....」
「....ともかく、本間寺から月葉の引き受け責任を取っ払うため、喫急かそれと同等の事情での理由が必要になるんだが....なんかあるか?」
 汐留は怖いもの見たさというのもあって、恐る恐る聞こうとしたが、彼は完全にその話の線を断ち切って話を修正した。
「....うーん。多分お金関係はないかな、あいつは金勘定だけはできるから」
「....そうか。」
 世界最強の日本国国税務局が持ってしても、現在まで本間寺が存続できている時点でその線はない様だった。
 その後、他、週刊誌視点での不祥事やスキャンダルがないか聞いてみても、生まれてからずっと本間寺の大体を知っている月葉ですらそれらに該当するような実態はなかった。
 そうこうしていると、夜が明けてしまい即応科棟の内務室に朝陽が差し込む。
「.....?」
 才亮がいつも座っている燻茶色の革張りソファーで毛布に包まりながら、完全にくつろいでいる月葉の澄み切った青い目と目が合った彼は目を細めた。
「...お前、眠くないのか?」
「ん、まぁ...ツキヨノが寝てるから大丈夫。」
 当たり前のように彼女がそういうと、大人二人は理解するのに時間を要した。
「.....は?」
「ん?」






 ーーーー( ^ω^ )〈それからどしたの






「おっはようございまーす!」
 いつも通りの朝、即応科棟に着いた彼女は内務室の扉を開けて元気よく挨拶をした。
「おはよう。」
「おはようさん。」
「おはよー」
「昨日は出動サイレン鳴らなかったんですよね、いやーやっぱり龍型の召喚獣なんて管理官といえど...」
 荷物をデスクに下ろしながら、時雨は昨日の武田たちの接敵情報や一応目を通した該当調書からも、その存在の確度の訝しみを呟いていると、内務室の窓の外を夜空の色をした龍が通り、時雨と目があった。
『....クゥ?』
「.....ははは...またまたぁ....シゲモチさんが変化したんで...」
 あーこのパターンね。と汐留からちょくちょくと変化させたシゲモチさんでイタズラされていたのと同じ事象と思い、窓を開けてそれに触る。
「...しょ....う..?」
『....クゥゥ』
 時雨は確かめるようにペタペタとそれの鱗や鼻の側面を触ると、龍にみえるその召喚獣は気持ちいところをさすられて龍の声で甘撫で声を漏らしていた。
「...へぇー、この人には触らせてあげるんだ...」
「...ん?え...っと...どなたでしょうか?」
 固まっていると時雨の隣には、10歳くらいの女の子が立ってその召喚獣に少し膨れていた。
「私は本間 月葉。よろしくね。」
「あ、はい。どうも、私は即応科の時雨 千智です....って...ん...んんん??」
 朝から情報量が多すぎて、時雨の頭は沸騰寸前だった。

召喚獣管理法 第24条。

「...のぉ...当主との夜はどうやった?のぉ?」
「はは...それは、秘密です。」
「のぉのぉ...ワシだけに話してみぃ、それかひんむきながら話すか?」
「はははは....ツゥ..ったく....マジで勘弁してくれ....)
 物置部屋近くで、才亮は口臭が死んでる親指みたいなおっさんに諸々揉まれながら迫られていた。


 時は、少し遡り、龍型召喚獣とその召喚主の一時保護の許可と手続きを終わらせた才亮は
「...とりあえず、持って2週間になるが月葉は召喚獣管理省関東庁が一時保護することになった。」
「あら、早いですね。もっとかかると思いましたが」
「な...え?どうやったんですか?」
 いくら裁量のある即応科科長といえども、龍型召喚獣とその召喚主の一時保護を取り付けたのはいくらなんでも早すぎであった。
「あぁ、庁官と話をつけた。」
「!....えぇ...一体どんな手を...」
 関東庁庁官からの許可を得たというのは、そうひょうひょうと答えられるようなものではないと、時雨は何かコネかゆすりでもしたのかと懸案した。
「...知りたいか?」
 恐る恐る聞く時雨を揶揄うように、才亮は悪人ヅラでニヤリを笑いながらそう言った。
「いえっ!結構です!」
「こら、あんまり脅かしちゃダメですよ。才亮さん。」
「あぁ....悪い悪い。で、多少の猶予は出来たとして、本間寺を決定的に崩すにはどうするか...だが...」
 これまでは想定通りとして、本間寺を崩せなければ、今度こそ徹底的に月葉たちの自由が奪われ厄介な寺のネットワークがより強力になってしまう。
「「「うーん....」」」
 チクタクと時計の針が進み、会議はステップ始めた。
「...シゲシゲさんという人から、情報を全てとまではなくとも、いくつか瓦解できるものは持っているでしょう?」
「シゲシゲは特に知らされてないと思う。私との関係性が長いから」
 汐留は月葉の生い立ちを聞いた中から登場した彼女の付き人から情報を得ようと提案したが、寺内で、問題児であった彼女とまともな関係性を構築していた彼は初めから寺の幹部らには信用されていないようだった。
「シゲシゲは今何してるんだ?」
「...わからない。けど、多分....シゲシゲが私を逃すようにしたか、とかは聞かれてはいると思う。」
 シゲシゲとは良い関係性だったのだろうと唯一の心残りとして彼を置いてきてしまった事を後ろめたさを覚えていた。
「....そうですか」
 時雨は落ち着いて大人びではいるものの、まだまだ小さな背中を優しくさすった。
「...時雨ならどうする?」
 その様子を見ていた才亮は彼女が今回の件に関してどういった案を出すのか気になった。
「んぅ....そうですね....偽情報を流して、内部崩壊させる...とか?」
「っ...結構な事考えますね...」
 汐留はカエサルみたいな方策が時雨の可愛い口から出てきたのにショックを受けていた。
「筋がいいな。だが、二週間では厳しい。」
 普通に有効な方策で感心していた才亮であったが、情報を流すにはその情報の質を担保するために、タイミングと流入方法を精査し何より時間をかける必要があったため、今回はそれは採用されなかった。
「うーん、そうですよね。」
「2週間に叩き潰さないと、月葉さんたちが他の勢力に持ってかれる余地ができますからね。そこがネックですね...」
「やっぱ、寺ごと焦土に....」
「「っ!」」
 大人たちが考えあぐねているのを感じた月葉は短絡的な方法を呟き、屋上でお昼寝しているツキヨノのエンジンの起動圧が内務室にまで及んだ。
「こらこら」
「っ....」
 汐留が彼女の頭を撫でて宥めると、月葉は不満げにフイッと顔を逸らした。
(....やはり、2週間が期限か...まぁ、落ち着け。仮に2週間超過してもなんとかする。」
 ただ純粋になんとかしたいという思いが見透かされている汐留と時雨には、月葉は心を許し始めていたため、才亮は少なくとも関東庁で引き受けを延長させれば彼女らの暴走を抑えられると考えていた。
「....また、一体どんな手を..」
 異様に説得力のある彼の言葉に、時雨は嫌に背筋が冷えた。
「まぁ...色々だ」
「あまりその辺は聞かない方が良いですよ。」
 目を伏せて顔を逸らしながらそういう才亮に加え、今回は汐留も何か知っているような口ぶりだった。
「えっ...汐留さんまで...」
「っ....っはははは、時雨。ビビりすぎ」
 時雨はいつの間にか自分が共犯者にされていないかと頭を抱えていると、裏表のない彼女の反応を見た月葉に笑顔が灯った。
 その後はやはり会議は踊り、日当たりの良い内務室に差し込んでいた日光は、雲によって阻まれ即応科内務室の室温が下がり始めていたた。
『...んなぁ..』
「ん...寒いですか?クゥさん。」
 室温変化に敏感なほぼ黒猫のクゥさんは暖を取ろうと時雨のジャケットの懐に入り込み、それをほんわかと見ていた汐留にひらめきが降りた。
「なら一度、寺に潜入してみますか」
「ん」
「え....いやいやいや...私たちにそんな権限ないですよ?!」
 彼女の提案に才亮の眉がぴくりと動き、時雨は研修内でやった記憶に新しい召喚獣管理官の裁量と権限の条文から索引して速攻否定したが、才亮は乗り気であった。
「....いや、アリだな。」
「ちょっと!才亮さん...管理官は警察からの要請がない場合は、あくまで召喚獣に関するものでの該当召喚獣の保護....」
 ーーー召喚獣管理法 一部抜粋
 第四編 調査および権限
 第二十四条(立入調査権と令状の特例) 召喚獣管理官は、違法な召喚および使役が行われている疑いがある場所、または召喚獣の生命・尊厳が著しく損なわれているおそれがある場所について、必要と認める場合は、裁判官の発する令状を待たずに立ち入り、調査を行うことができる。
 からして、一応は召喚獣管理官という立場から、令状なしでの潜入調査の正当性を満たすことは可能であった。
「...って...え、そんなのありですか?」
「えぇ...月葉さん。寺内で、寺の関係者が召喚獣に暴力を振るったのを見た事がありますか?」
「ん...あーでも、あれはドラエモが勝手に突っ...」
 定期検診が義務化されている時点で日本国内でバレずにそういった事が難しく、その際にが不可解な傷跡がついていた場合、事故に近いものであっても説明義務が生じるため、より困難であった。
「....あったかも?」
 彼女は自身に求められているのは事案を成立させるだけの証拠ではなく、そこそこの疑惑が必要であると察した。
「なら、決まりですね。」
 この日本において、召喚獣と関わってないモノやヒト、組織などなく、いくらでも付け入りようはあってしまった。
「そうですね....あ」
「...ん?」
 玄道が居たとしても彼のガタイでは目立ち過ぎており、武田は一応のツキヨノの目付け役になっているため今回は厳しい、だからと言って潜入経験が浅い時雨も適任ではなく、自動的に才亮へとバトンが渡ってしまった。
 とりあえず、潜入して調べようという方針に決まり、汐留が変装スライムのこしらえに腕を鳴らしていた。
「ふふっ...たまには、女の子になってみますか....そうですね....この子とか」
「っぅ...俺って、こう見られてるのか?」
 本間寺の資料をホワイトボード一面に貼り付け、汐留はその中から茶髪のきつめの女を指さしてきた。
「おー良いですね。」
 才亮の後ろから顔を出してその写真を見た時雨はおおむね汐留と解釈一致であった。
「あー...その子は最近辞めた子。」
「えー、そうなんですか....」
「なんで残念そうなんだよ...」
「うーん、そうですね。まぁ少し弄れば背も誤魔化せますけど....」
 身長的にも他で才亮が変装できそうなのと、汐留好みの変装対象の女は絞られてきていた。
「ん....あ、この人とかどうです?」
 左から下へ順々にじっくりと見ていた時雨はとある女性に目が止まり、そこを指差した。
「..っぅ....どうだろうな...」
 一転して清楚な感じの黒髪ロングの女こと瀬戸 椎奈で身長的にも問題ない対象だったが、嫌に知人と雰囲気が似過ぎており才亮は微妙な顔をしていた。
「えー嫌ですか?良いと思いますが...」
「いや、何が良いんだよ」
 どうしても知人の顔がチラつく中で、良いやつではあるが性格が悪いそいつのどこが良いのかと反射的に返してしまった。
「うむぅ...月葉ちゃんはどうです?」
「....あー、いいね。せっちゃんはいつでも触らせてくれるから、好き。」
 不服そうな時雨はクゥさんと遊んでいる月葉にも聞いてみると、どういう関係性なのかわからない返ししてきた。
「....どういう事だよ...瀬戸。」
 なんか勝手に話が進んでいる中、月葉の知るぼんきゅっぽんの目に悪いその女の正体を思案した。
(..ん?....いや、寺だしな...一応仏教徒だから、ないだろ....うん。)
 もしやとわかってしまった瀬戸という女の立ち位置を、頭の端っこに追いやったがすぐに目の前に現れるのであった。















 召喚獣管理法 一部抜粋。
 第一編 総則
 第三条(警察庁との関係および優越) 召喚獣に起因する事案、または召喚獣が関与する蓋然性が高い事案において、召喚獣管理省およびその職員は、警察官に対し技術的助言および捜査協力を行うものとする。 2 前項の規定にかかわらず、召喚獣の保護および管理の根幹に関わる事態においては、召喚獣管理官の判断が警察権の行使に優先する。これは召喚獣管理省が警察組織の歴史的背景からなる元母体であり、召喚獣に関する祭祀・管理の全権を建国時より委任されていることに由来する。
 第四編 調査および権限
 第二十四条(立入調査権と令状の特例) 召喚獣管理官は、違法な召喚および使役が行われている疑いがある場所、または召喚獣の生命・尊厳が著しく損なわれているおそれがある場所について、必要と認める場合は、裁判官の発する令状を待たずに立ち入り、調査を行うことができる。
 第二十五条(潜伏調査および身分秘匿) 前条の調査において、証拠の隠滅、召喚獣の隠匿、または暴走による甚大な被害が予測される場合、召喚獣管理官はその身分を秘匿し、一般市民または関係者を装い、対象組織および施設内部における情報収集活動(通称:生態観測任務)を行うことができる。 2 本条に基づく活動は、警察職務執行法におけるおとり捜査とは区別され、あくまで「召喚獣の生態保護」を目的とした措置とみなす。

揉まれ損。

 規制ラインは裕に超えていそうな過去一のシゲモチさんによる、才亮の瀬戸 椎奈の変装は、寺に入り頭に入っている地図を頼りに散策している途中、何度従業員とすれ違っても決してバレる事は一切なかった。
 というか、声も完璧に近かったため、何度か話しかけられては食事に誘われたりなど、どうしても異性を惹きつけてしまう女というのはこんなに面倒なものなのかと、久しぶりに感じていた。
 それはともかくとして、何より潜入している最中に、正体がバレないというのも目の前の情事に限り、色々考えものだった。
「...スゥゥゥ...ハァァ...しぃなちゃん。シャンプー変えた?前より良くなってるよ」
「ははは...それは、どうも...」
 資料室へ向かおうとした途中、幹部っぽい親指みたいなおっさんが話しかけてきて、こちらは丁寧に話を切ろうとしても振り切れずに、絶賛親指おっさんは才亮の首元に顔を埋めながら、ガッツリ彼のスライム製のケツを揉みしだいていた。
「そぉんな当主に媚びてる格好しちゃったらさぁ....男が多い寺内じゃ、危ないよぉ」
「はは...すみません....は?これが私服って聞いたから着たんだが....汐留...あいつ....)
 ーーーーこの服が瀬戸さんの私服と同じらしいので、シゲモチさんが馴染んだらこれを着てください。
 そう言って、なんの疑いもなく着た服装は薄い黒ニットワンピースで、自分のタイプのファッションではなかったため実際にこうなるまでは汐留を信じていたが、明らかにあいつ好みの格好であったのは間違いなかった。
「フゥゥ...我慢できないよぉ....しぃなちゃぁん...」
「...それは..ちょっと...こいつ、男のケツ触ってらぁな、スライムドールが流行るわけだ...)
 ケツを親指みたいな男にもみしだかれながら、心内で世を憂いていた。
「..当主もいないしさ...ね、良いでしょ?」
 変装している女の立場的にも対処をあぐねていると、それにそそられた親指おっさんは空き部屋へ連れて行こうとしてきた。
「っ...や...ば..これ以上は...ちっ...やるか)
 流石に、スライム越しに親指おっさんと初めてをするわけにはいかないため、空き部屋に入ったら気絶させようとした。
「....む、瀬戸。お前、外遊中では?」
 その時、ちょうど良いところに現れた男が彼らに話しかけた。
「ちっ...」
 そこそこ権力のある男なのか、そいつの顔を見た親指おっさんは中腰で屈みながらその男の横を通り、舌打ちしてその場から離れていった。
「えぇ...こいつは...確か、本家の人間じゃ...)
 ただでさえ短い黒ニットワンピの丈が揉みしだかれていた尻に沿って上がっており、それを直しながらその男へのプロファイルを想起しながら応対する。
「ん、当主も帰ってるのか?」
(当主?この女は他の幹部とオーストラリアに行ったんじゃ.....それはちょっとわかりかねます。」
 前情報とは異なる情報に疑問を持っているのを勘付かれる事なく無難に流せた。
「....そうか」
「...はい。」
 一切目を逸らす事なく、淡々と質問をしてくる男に才亮は一応空き部屋に連れて制圧できる間合いに入った。
「すみません。私はこれで...」
 そも彼は目当ての人間ではないため、才亮は先を急ごうと彼の隣を通って渡り廊下へと向かった。
 その時、嫌に通る声が才亮を呼び止める。
「....待て、初めの質問に答えてないだろう。」
「...はい、すみません。その...旦那様の機嫌を損ねてしまいまして....」
「!....」
 この女の立場と親指おっさんからの扱いから、最もそうな言い訳を答えるとその男は目を見開いてた。
「?...っ...しくじったか?)
 きょとんとした顔を貼り付けながら、才亮はとちったのを確信したが、彼の反応はより意味がわからなかった。
「はははははっ....ふぅ...」
「?..えぇ..っと...いかが...」
「...っ!」
 とりあえず体面は崩さずに聞こうとした、その一瞬で彼の右手が才亮の顔を覆った。
「....っぅ....野郎...」
 一切の音も立つ事なく、男によって空き部屋へ持ってかれた才亮は、変装が崩れていないのを確かめるように顔を抑え、背の漆喰が崩れる音を聞きながら立ち上がった。
「他寺からか?変装は上手いが...それにリソースを持ってかれてる...か..」
 男は考えられる正体を挙げてみるが、変装が崩れていない点から変装特化へ発展した召喚獣と踏んでいた。
「.....っ...」
「っぅ!!」
 どれも当たっておらず勝手に考え散らかしているのを聞き、才亮は顔や背中、首のダメージが後引いているように振る舞っていると、男はまんまと追撃に踏み込んできた。
「....っ?!」
 が、男は張られていた才亮のイッタンモンメンの糸に完全に制圧された。
「スゥ...悪いが...少し、寝ててもらう...」
「っ....身をもって...」
 男の口元に糸を当てて、気絶のツボを押そうとした才亮であったが、絞り出すような声でつぶやかれた男の声で手が止まった。
「責務の完遂に努める。」
 共に汗を流し今の自分の基礎を形成したあの日々の、初日の宣誓文を呟かれ、才亮は続きを返し、糸を解いた。
「...ふぅ....何してんだよ...ショウ。」
 すると、白い煙がぽんっと男を包みそれが晴れると、今回はハッピを着ていない狐顔の顔馴染みの男が現れた。
「お前こそ...」
「「.....」」
 気まずい空気が流れ、狐顔の男は今一度じっくり才亮の瀬戸 椎奈に完璧に変装した姿を見た。
「っ...なんだよ...」
 才亮はもう4時間近くこの格好でいるせいか、女みたいに丈を直して身を捩る。
「そっちが、お前の本当の...」
「ちげぇよっ!」
 こいつが遮音の結界か何かをしているのを承知で、目をキラキラさせながらそうきくこいつに才亮は反射的に否定した。
 その後、事情を聞くと、警視庁は本間月葉の召喚式における調査と龍型召喚獣に関する調査として、本間寺に家宅捜査へ踏み切ろうとしたかったが、次は自分の方に来るかもと懸念した他の寺派閥が自組織の内部調査が完了するまでの時間稼ぎとして妨害されていたため、踏み切れず。
 特異ケースでの令状発行手続きや証拠集めに注力するため、何人かで潜入調査に入っていたらしい。
 一応、才亮は本間寺に公安の潜入捜査官あたりはいるだろうとは頭の片隅では思っていたが、このような形でバッティングするとは思ってなかった。
『ーーー・・こっちも龍の処遇までは決まってない判断材料も少ないからな...だがとりあえずは向かっている方向は同じだ。ともかく、お前は帰れ。これ以上ややこしくするな。』
 久々の潜入捜査で張り切っていた才亮であったが、変に勘付かれないために狐顔の公安捜査官こと伏見や他組織の知人から情報を聞かなかったとはいえ、少し焦り過ぎていたのを内省した。
 体調不良ということで寺を早退しセーフハウスへ向かう道中、今日の濃い1日を振り返ってみるが、親指おっさんから諸々もみしだかれたことしか思い出せなかった。
「...おぉ」
 セーフハウスで変装を解く前に、鏡の前でスライム製の胸や尻を触ってみると、確かに親指おっさんを騙せただけのクオリティであると感心していた。
「...揉まれ損じゃねぇか」
 このクラスのスライム変装であれば金で計れない代物であり、それを好きにされたのがどうにも釈然としなかった。







 ちょこっと一間。
 音は立たないように施していたが、散らかった空き部屋の前を通った従業員が彼らに駆け寄る。
「っ?!ど、どうかしましたか?!」
「ん...いえ...」
「まぁ...その....楽しみ過ぎてしまってな....」
 変装が一切解けていない中、才亮はそれっぽく体を捩らせながら彼の袖をつまみ、彼は後頭部を押さえて恥ずかしそうにそういった。
「っ!...し、失礼しました!...一体っ...どんなプレイを...)
 大体を察した従業員の若い男は、その日の夜は悶々としていたとか




大人の責任。



「美玲ちゃん、糸フロス取って」
「...はい。」
 すっかり、即応科棟に住み慣れてしまった月葉は夜の駐勤を終えた汐留と一緒に歯ブラシをしていた。
 歯ブラシを終えて顔を洗い、月葉の綺麗な黒髪をくしで優しくときながら、今日の朝食の話になった。
「..朝、何食べます?」
「うーん、昨日の豚汁でいいや」
「はーい....できました。今日はうまく行きました。」
 時雨が昨日三つ編みで来た事から、月葉は汐留に三つ編みにしてもらった。
「...うん、上出来。」
「ふふっ...ほら行きましょ」
 汐留は鏡を見ながら頭をフリフリとさせてご機嫌な月葉を撫でて、朝食の準備へと向かった。
 そして、彼女らが朝食を食べ終わった所で、通勤してきた時雨は豚汁の残り香にそそられて朝食後の一杯を堪能していた。
「...うぅ〜ん...汐留さんの豚汁は生き返りますぅ...」
 寮住みの時雨は寮の朝食を食べた筈なのだが、具沢山の豚汁を美味しく食べれていた。
「朝食後なのに、よく入りますね...」
「あー....昨日寝酒してしまって、朝食のお味噌汁じゃ足りなかったんですー」
「飲み過ぎると、お肌に良くないですよ」
 ウッシー事案後に大酒を飲んでダル絡みしてくる時雨が脳裏に過り、汐留は色々と心配になっていた。
「うっ...気をつけます。」
 クリティカルな指摘を受けた彼女が内省していると、即応科棟の階段を素早く昇る音が聞こえ、その足音は内務室の扉を前に止まった。
「....っ!」
 扉が開かれると、それは才亮であり分厚めの資料を片手に持ちながら、皆にグッドサインを決めた。
 彼が持ってきた報告書からは、警視庁による一連の調査から、本間寺と幹部および、本家へと潜入捜査が行われた結果、財務記録はクリーンであり召喚獣への侵害は確認されなかった。
 しかし、それ以外において、特、本間寺及び本家にて幹部らによる立場を利用した信者への性的搾取の疑い、また、こと本間寺における少女Aの召喚式における度外召喚獣召喚の際の通報義務の遅延容疑など多数の容疑で本間寺とその関連寺院は検挙に伴い、政府機関からの監査を受ける事となり、監査が終わり監査結果が決定するまで活動停止命令が命じられた。
「....ちょっと、こじつけすぎません?」
 汐留の率直な感想はその通りではあった。性的搾取の場合は寺というよりもそれに関わった者らが個別で検挙される者で、民意からの印象を下げさせて、召喚式における通報義務の遅延の容疑という一応は条文にも明記されている点を決定打として組織ごと監査するといった流れはなんとしても寺の力を削ぎたい一心が込められていた。
「手続的には...そうだな。」
 その辺には同調していた才亮であったが、一応は明記されている遅延の"容疑"で検挙できる経緯を知っていた。
「?」
「....どういう事です?」
 言い方に違和感を感じた時雨と汐留は疑問符を才亮へと向けていた。
「まぁ、お前らなら言ってもいいか....少なくとも、寺の権威を高めれば、寄付金も増えるというのはあるだろう。」
 月葉がヨーグルトを食べながら一応は聴いているのを一瞥し、今更かと思い話を始めた。
「.....はい、多分ですけど...龍泉寺だけしか龍型召喚獣を持ってはならないとかはなさそうですし....別に問題なさそうな、」
 時雨の推察は最もで、本間寺が龍型を管理する事自体は法的にも問題ないように見えた。
「そこが大有りでな.....神話でもあるように、神格にもなりうる龍が、そういった不純なモノに触れ続けると、悪性に変容する可能性が高くなる。」
 才亮は右手で左耳をかきながら、そうなった時の様子がフラッシュバックし苦い顔をした。
「...っ」
 やはり神格関連は管理官になったとはいえ、彼からの確度の高い話は初耳な事ばかりで時雨は背筋が冷えた。
「...だから、すぐ呼ばなかった時点でアウトなんだよ。それに、それが龍型に関わらず、その時点でこれまで寺内で行われた召喚式への徹底的な調査が必要になる。」
 強力な召喚獣及び、龍型の召喚は寺関係者であればそれを目撃した時点で身内でさえ通報するレベルであり、今回も潜入していた者からの内々での通報も早く初動は決して遅れてなかった。
 また、寺への令状も直ぐにおりるため、直ぐにでも寺への家宅捜索へ踏み切るべきであった。
「潜入していた人がいたなら....なんで...」
 なら、なぜ直ぐにでも強行的に寺自体を差し押さえることをしなかったのかが引っ掛かった。
「こっからは龍型とは別個の話になるが、本願寺の時も...寺院は立地と扱っているモノから、奥の手を持ってる可能性があるからな...」
「え、あの事件て...信長が山が吹き飛ぶまで焼き討ちにしたんじゃ...」
 神格関連が関わった歴史的な事件において、一般の人でも知り得る媒体である教科書や歴史本等では....などで領主が鎮圧した。....風に助けられ、毛利陣営の勝利となった。と過程をごっそり省略するか、ふんわりしている記述が多く、本願寺、および比叡山焼き討ちに関しても、教科書では本願寺に兵糧攻めを仕掛けたが、困難を極めたが力を行使し解決した。と簡潔に書かれていることからも、ネットや書籍での考察を誘発し色々混ざって正確に知られていない事が多く、彼女もその一人であった。
「いや、あれは....・・」
 ーーー日本国政府 宮内庁 神格記録保全科、皇紀2230 (西暦 1570年) 本願寺事案記録。資料一部抜粋
 召喚獣がパラダイムシフトとなっているこの世界の日本の教科書では、戦国時代。強力な召喚獣を多数保有していた本願寺に攻めあぐねていた、信長は本願寺の関所を抜きにした大量貨物運搬、飛海両用の召喚獣ソラフネクジラを用いた空輸網を構築し運用していた。
 燃費も良くローテーション体制も整い始め、海運に依存しない輸送が回り始めた頃に、本願寺が上空を通過したソラフネクジラをを撃ち落とした事が発端となり、即時開戦となった。
 制空系と陸路、河川へのアクセスも全て遮断し、兵糧攻めに舵を取ったが、テレポート能力に準ずる召喚獣を所有しているせいか、持って一ヶ月との見込みを越えて二ヶ月経ったところでも、本願寺内の人々に餓死者は確認されなかった。
 それでもテレポートで持って来れる物量は限られているだろうと、10日ほど待ったところで寺内にとある動きが見られた。
「・・....おい、あれ.....食ってないか?」
「何っ...善住坊!見せろ!!」
 空中を索敵している召喚獣と視界を共有している森のそれを聞いた、殿は望遠鏡を持ってその地点を確認した。
 人だけならなんとかなっただろう、しかし、リーサルウェポンである召喚獣の餌が尽きてしまったのか、弱り始めて使い道がなくなった使用人を、見るからに燃費が悪そうな刺々しい鱗を持って光を放っているエンジ色の猿型召喚獣に食わせていた。
「っ!!!....カス坊主どもが...」
 召喚獣は人との魂のパートナーであり、輪廻転生を介して、次の生でも同じ召喚獣と契約が結ばれるケースはそう少なくない。
 そんな両者の中で、越えてはならないラインとして挙げられるのは、召喚獣との交尾と、人を食うことである。
「....空から光線ありったけ落とせ。」
 確かにそれを視認した彼は、テラツバメの連隊を上空へ向かわせ、胸に埋め込まれている黒曜石のような鳩尾石から比叡山に飽和光線を浴びせた。
 数時間、テラツバメの活動限界まで徹底的にやった殿は生命反応が無くなったのを確認し、富士の麓での東の四柱会談へ向かった。
 そして、事後処理として部下を焦土となった比叡山があった場所に向かわせた。
 信長がテラツバメに乗って富士へ向かっているその最中、最後の最後に時限式の奥の手を隠していたクソ坊主どもは、すでに焦土となったその地にキノコ雲を灯した。
 その後、宮内庁が影響地域全体を10年以上かけて浄化するまで、その爆心地半径数キロ圏内は瘴気と呪いに塗れた地となってしまった。
 両者多大な代償を被り、本願寺が一体何を使ったのは公表されてはいないが、おそらく神格か自爆する事で瞬間だけ神格に迫ったソレは、寺が祀っていた、もしくは象徴としていた召喚獣の強大さを象徴していた。
 ーーー以上、日本国政府 宮内庁 神格記録保全科 本願寺事案記録から参考。
「ーーーー・・とまぁ、寺院は奥の手を持ってる可能性が高いから、慎重に動かざるおえなかった。」
「えー...てっきり、信長と本願寺との戦争が長期化したから、やむ得ず信長が力づくで決着をつけたかと」
「....厄介な人たちですね」
「嫌な奴らっ!」
 初出の情報から、皆かなり聴き入っていた。
「と、まぁ...この辺はともかくとして、月葉。」
「ん?」
 すでに済んだ話の補足よりも、才亮は本題である渋い顔をしていた彼女へ話を移す。
「龍泉寺行きたいか?」
「っ!行けるの?!」
 彼の一言にぐるぐると足を回して喜びをあらわに才亮の前に駆けた。
「....一体、どんな手を....」
 前聞いた時は永年出禁と聞きその線はないと思っていたが、一転してその線が復活したのは意味不明であった。
「ふっ...」
 時雨の呟きに呼応して、月葉にしがみつかれながら不敵な笑顔を浮かべた。
「ひっ....」
「まぁ、才亮さん以外が掛け合って、龍泉寺も龍型を迎えられるならって感じでしょう。」
「大体当たり」
「やったぁー、ツキヨノの友達が増えるー!」
『....クゥー』
 外から内務室の窓に頭を出したツキヨノは月葉の抱擁に答えた。
「ただ、一つ言っておくが...龍泉寺だと、お前がいた所よりも閉鎖的だぞ。義務教育はマンツーマンでやってくれるだろうが...」
「っ....」
 才亮の補足から、月葉は本間寺での押さえつけられてきた日々がフラッシュバックし、胸が苦しくなった。
「月葉ちゃんは寺院内のホームスクールじゃなくて、学校に通いたんでしょう?」
『ーーー・・また、あそぼー!月葉ちゃん!』
 しゃがんで目線が同じ高さになった時雨の言葉に、お寺に遊びに来ていた太寄付者の同い年の子と遊んだあの時の楽しい時間が香る。
「っ....う、うん。でも....ツキヨノは龍泉寺じゃないと...」
 あの寺から逃がしてくれたツキヨノとこれからの長い人生を一緒に歩みたいのが一番であったが、第二に月葉は普通の学校にも通いたかったようだった。
 龍型召喚獣を引き受けられるのは龍泉寺くらいで、それ以外だとツキヨノは消去法で召喚獣管理省か特定の国の期間が管理する事になる。
 その時、月葉が管理責任者が才亮や汐留たちと同じような関係性を築ければ、普通の学校で友達もできる中で、ツキヨノと別々に住むにしても会える時間は多くなる。けれど、そうでなければ会う時間は制限されてしまう。
「....っ」
 ツキヨノが強力な召喚獣である事と、自分たちが難しい立場にいることを理解した上で、どの方がツキヨノのためになるか、月葉は唇を噛みながら眉間に皺を寄せ頭を悩ます。
(どうしよう...どうしよう...)
『...クゥ?』
 ツキヨノが月葉の頬を鼻先でさするが、考えが判断がまとまらない。
 その時、悩み続け、熱暴走しそうな頭を大きく、温かい手が優しく包む。
「...っ」
 手の主の方を向くと、あの日、どこへ行ったらいいのかわからなず夜の寒空を飛んでいる時、お腹が空いて、心も体も疲れた私たちに、温かい食いかけの焼きそばとお肉をくれた金髪の彼が優しく微笑む。
「....あとは大人がなんとかするから、安心しろ。」
「っ....うん。」
 肉親でも、前から知ってるわけでもないのに、なんでこんなに優しくしてくれるのだろう
 その訳は、子供でいられる私ではまだわからない。
 けど、金髪の彼と髪を結んでくれた美玲、笑わせてくれる時雨、彼ら大人たちの優しさは嘘偽りないのはわかった。
 


日本国 召喚獣管理省 関東庁 庁官:上坂 貞時。

 ーーーー...コンコン
「....入りたまえ」
 関東庁本棟最上階、庁官室の扉をノックして一拍した後、扉の向こうから通る中低音の声が通る。
「....失礼します。召喚獣総合事案即応科 科長 才亮 勝馬です。」
 いつもとは異なり、ジャケットの前ボタンを閉じてワイシャツもネクタイも上まで締めた才亮は通礼をこなした。
「うん...」
 積み上がった書類に隠れた彼は大量の書類を捌きながら、ジェスチャーで才亮へ着席するよう促した。
 が、才亮はいつも通り立ったまま、彼を待つ。
「.....よし。5分...で済まないか。」
 一旦キリの良いところで作業を中断した彼は立ち上がって、才亮の表情から話の重要度を測った。
「はい。今回は本間寺での召喚式の召喚主、少女Aとその召喚獣の身元引き受けの件で、上申したく参りました。」
「その件は龍泉寺へ決まるという話では?」
 才亮の独自の情報網と今朝上がった報告書からも、その線で事が運ぶようになっていた。
「いえ、信用と権威性に問題があるかと」
「....何?才亮科長が適切な関係性を築けなかった事からか?」
 空気がピリつく、貞時庁官の召喚獣が才亮を見つめる。
「それも関連します。」
「スゥ......権威性に関しては?」
「これからも龍泉寺へ龍型が集中し続ければ、日本国が彼らを扱いきれなくなります。」
「......君もどうせ知っているだろうが、龍泉寺は本間寺などとは全く異なる。公でなくとも宮内庁からの認可も降りている。その代価とは言わんが、龍泉寺が蓄積している龍への知識体系も知るべき者は知っている。その関係性と同一視して良いか?」
 才亮の個人的な関係性と非公式での日本国と龍泉寺との関係性が同じく、危うい関係性であるか明文化して聞いた。
「場合によっては」
 かなり慎重に選んだ言葉だったが、この金髪の男はひょうひょうとそう答える。
「......スゥゥゥ、少し屋上で話そう。ここでは必要な酸素が足りん。」
 張り詰めた空気で胃がキリキリと軋む中、貞時庁官は長い長い息を吐いて立ち上がり、屋上へと向かった。
 10階建ての本棟の屋上には、強く風が吹きやれる。
 風向きへ顔を向けると、彼の金色の髪は陽の光に当てられながら前髪オールバックになり、これからする話の重要度など何のそのと心地良さそうに目を閉じて、風に身を任せる。
「.....スゥゥ....他に案があるんだろう?」
 強風のせいでライターに火がつかない貞時庁官はタバコを咥えながら、彼へ箱からタバコを差し出す。
「...どうも...っ」
「ん.....おっ...君のは調子が良いね。」
 タバコを受け取り自分のライターで火をつけ、手で風を避けて貞時庁官にも火をつける
「スゥゥ...ふぅ...庁官。やめたのでは?」
「スゥ...吸ってから聞くかね。それ」
「吸う前にクラっとくるのが、至高でしょう?」
「かはははっ....そうだったね。」
「「.....」」
 ヤニかす同士の会話が弾み一旦は互いに黙ってタバコを堪能した後に、貞時庁官から切り出される。
「.....他に案があるんだろう?」
「えぇ、龍型召喚獣ツキヨノは関東庁が引き受けましょう」
「ブハッ....ゴホッ....はぁ.....龍を公にするつもりか?」
 むせた彼は呼吸を整えながら、金髪の男に当然起こる事態を確認する。
「はい。出回っている映像や警視庁の公式発表からも、市民は興味を辞めない。」
「......」
 貞時は押し黙った。
 事実、独立系のSNSは公共の福祉に反しない限り検閲はされない。そして、人が持つ興味や関心自体は決してそれらに準じない。
「今回の本間寺も、龍への知識不足から通報遅延の余地を産ませてしまいました。なれば、あらかじめ龍への基礎知識を知らせ、正しく恐れさせるべきかと。」
「......関東庁のみならず、召喚獣管理省がそれを率先すると....」
 いつだって開拓者は矢面に立たされる。才亮はその最前線に貞時庁官と召喚獣管理省の大臣、事務次官を立たせるつもりであり、そうとなれば彼らがその時だけでなく良くも悪くも一生歴史に名を残す事となるのは確定していた。
「はい。」
「っ....勘弁してほしいね。」
「「......」」
 強風は次第にその勢いを減退させ、屋上に吹く風は鳴りをひそめる。
「.....龍型召喚獣を公表して、次は神格を公表する気か?その時は、龍泉寺どころではない。宮内庁と相対する事になる。さすれば、日本国が割れ、西側諸国がそこに付け入る。」
「......」
 最悪の中の最悪の事態へ繋がる可能性がある行為と改めて理解した才亮は、アジア連盟が確立される前、西側諸国によって行われた植民地の凄惨な惨状が日本国で起きる世界線が見え、噛筋が筋張る。
 そして、才亮は一度ゆっくりと瞬きをして、かねてからの考えを言う。
「....元来、日本人は自然と召喚獣を同一視し信仰してきました。先人たちが克服してきた地震や津波、噴火などの天災に恨みを持つのは神格への恨みとなり、払いきれない代償が降りかかるのを直感的に理解している。」
 神道の原始である自然信仰は、神格のみならず日本国とアジアの繁栄に寄与し続けてきた召喚獣と同じであり、日本人はそのボーダーラインを理解していると才亮は言う。
「...神格と龍は別かね」
「えぇ、人はまだその領域に行ってない。かと」
「人は召喚獣よりも未熟である点は賛成しよう。事実、召喚獣の進化速度は人を遥かに上回る....まぁ、君は別か。」
 才亮の腕に巻きつく寄生型召喚獣イッタンモンメンを見つめる。
「......」
「.....まぁ良い。検査はパスしているなら、それは私の仕事ではない。」
 彼は表情を変えずにただ黙り、それに見かねた貞時庁官は目線を切り、肉眼では見えない関東庁から東に行った先にある居を見据える。
「「.....」」
 再び強風が吹きやられ、金髪オールバックの彼は静かに、風吹きとは比例しない雲ひとつない青空を見上げる。
「....誰しもが神格になり得ます。」
 そして、その下で陽の光を一身に受けた金髪の男は古事記から引用した言葉を空へと呟く。
「....知り過ぎだよ。君は、本当・・ーーーーー」
 貞時庁官は彼の方を振り返らずに、陽の暖かさを帯びた金色の風へ呟いた。










 ーーーーー( ^ω^ ) 〈 それからどしたの








 決着が着き、屋上から下り庁官室前の待合場を通ると、関東庁召喚獣総合病院 院長の西条が足を組んで座っていた。
「やぁやぁ....奇遇だね。」
 こちらの姿が目に入り、陽気な感じで手を振ってきた。
「....あぁ」
「勝馬くーん....庁官となーに話てたのっ?」
 軽く相槌をしてそのまま通り過ぎようと彼女に背を向けたが、彼女は彼を呼び止めた。
「話?俺は屋上でタバコ休憩してただけだぜ。じゃあな、西条。」
「ふーん....」
 体を軽く半身にして顔だけそっちに向けて、それだけいってその場から離れようとするとまたも、彼女の声が彼の背中を艶かしく伝う。
「そういうことにし・て・あ・げ・る。」
「っ.....,,西条 麻衣)
 今度は振り返らずそのまま立ち去り、才亮は彼女の名前を心中に呟いた。
 そして、数日後、約束の二週間という期限を数日余した頃、日本国が運営する全寮制一貫学校への転入が決まり、月葉が即応科棟から巣立つ時が来た。
「ふふっ...似合ってますよ」
「っ....ありがと」 
 新品のランドセルと汐留にやってもらった三つ編みを褒められた彼女は、年相応に気恥ずかしそうにしていた。
「ツキヨノは関東庁に来ればいつでも会える。召喚獣カリキュラムの時はここで学ベるよう手配しておく。」
「.....っ」
 見送りくらいはと才亮は一応の確認として月葉にそういうと、彼女は彼に駆け寄ってしゃがむように指示する。
「...?」
「....チュ..その、勝馬も色々ありがと」
「!...ふっ、あぁ...何でもない時でも遊びに来い。」
 頬にチューをされた才亮は優しい顔でそう言って月葉の頭を撫でた。
「う...うんっ!....」
 彼の優しさに嬉しさと暖かさを滲ませながら、月葉は笑顔で頷いた。
「今度美味しいスイーツ食べ行きましょう。汐留さんたちも一緒に、才亮さんの奢りで」
「!....ふっ...」
 時雨は彼女の目線の高さにしゃがんでそう言うと、才亮は微笑んで首肯した。
「っ...うん。楽しみにしてる。みんな.....行ってきます!」
「....おう」
『クゥー』
「うぅ...いつの間にこんな大きくなって....」
「....会ってから一週間経ってないですよ」
 関東庁から飛び立った月葉は、今生の別れでもないのに感傷的になっている彼女らを背に、阻めるものは何もない真っさらな道へ進んだ。




赤いボタン

 ーーーー本間寺事案報告書ーーーーー
 件名:本間寺における「龍召喚」事案に関わる特定未成年者の保護措置について
 日付:皇歴2685年 (西暦2025年) 5月7日 宛先: 内閣府 特務召喚獣対策局長 殿 発信: 関東管区警察局 公共安全保障部
 標記の件について、以下の通り措置を執行いたしましたので報告します。
 記
 1. 事案概要 本間寺において執行された「龍召喚」儀式において、召喚獣取締法および多岐にわたる関連法規への抵触が確認された。また、儀式の過程において、対象未成年者(以下、対象者という)の生命・身体を利用した恣意的な利益追求など著しい危険性が認められたため、緊急保護を実行した。
 2. 対象者
 氏名:少女A(仮称・本間家長女)
 年齢:10歳
 3. 法的根拠および処分内容 本件における本家(親権者)の行為は、未成年者人権保護法第1条に基づく「著しい人権侵害」および「監護権の濫用」に該当すると認定。 よって、本家が有する親権を即時停止し、日本国政府が親権および監護権を代執行する。
 4. 処遇および収容先 対象者の身柄については、以下の国立特別養護教育機関へ移送し、厳重な保護下に置くものとする。
 施設名: 西東京第二学校
 住環境: 全寮制個室管理(生活必需品および全食事完備)
 教育課程: 小中高一貫教育課程への編入
 特記事項: 旧親族との接触遮断、および心身ケアプログラムの適用。
 なお、現在逃走中の本間寺当主への捜索は現在も継続中。
 以上
 ーーーーーーーーーーーー
(....今回は穏便に済んだ方か。)
 通勤中、ゴツメの携帯から報告書を流し見していた彼は心内で今回事案の整理をしていた。
 ーーーー....カランっ
「...っ....と」
 ジャケットの内ポケットに携帯をしまおうとした彼は、ポケット内に入っていたボタンが地面に落ちてしまい、コロコロと路地裏の方へと転がっていた。
「.....ん....ん?」
 片膝をついて地面に鎮座しているボタンを取ると、妙に引っかかるところを感じていた。
 そして、彼の右肩を中心にボタンの形に沿って、彼の右上半身は空間ごと削り取られた。
「....っ?!」
 行き場を失った削られた動脈から血潮が溢れ、声を出す間もなく才亮はその場に倒れた。
「.....」
 朝日が差し込まない路地裏にて、真っ黒なフードの男が暗闇から現れ、金髪の管理官は頬から側頭へと金髪の髪は血溜まりに染まる。
「....」
 フードの男は静かにゆっくりと才亮の方へと歩き、彼が再び落としたボタンを異様な形をした指で拾い上げて自らのポッケの中へと入れる。
「....っ....ッ..クゥ..」
「....」
 そして、フードの男は金髪の男の頭を軽く蹴り、生体反応がないのを確認し小さく息を吐いた。
「....介入しすぎじゃよ...管理官ごときが...」
 袖から伝書鳩のような召喚獣を出して朝香る空へと飛ばし、フードの男は動かぬ彼へ捨て台詞を吐き、路地裏のさらに奥へと向かう。
 30年弱の才亮 勝馬の人生は終わりを告げ、兼ねてから育成してきた後輩達へとバトンは既に託され....








「......いってぇな」
 ...る筈であった。
「っ?!!...っ..ムゥ...ふ...」
 確実に心臓を貫き、内臓を霧散したはずの金髪の管理官によって、黒いフードの男は真っ黒な糸でがんじがらめにされた。
「...ほぅほぅ、これはこれは....探してたぜ、当主殿。」
 以前逃走中であったフードの男こと本間寺当主をがんじがらめにしながら、才亮は自ら体を糸で修復していた。
(なぜ...なぜ生きておるんじゃ....)
 糸で口を塞がれた男はかすかに見える、吹き飛ばした筈の内臓や右肩を悠然と糸で代替させている金髪の男に困惑した。
「寄生型か....多くなっ.....!...お前....」
 ほぼ全快している才亮は当主の長い袖丈から異様な体の一部を目で捉え、自分の同じタイプだと推測したが、その正体に彼は言葉を失い空を見上げた。
「......最後の太陽に挨拶しろ。やはり...お前らはやり過ぎた。」
(...こんな...筈では...)
 本間寺当主が見た地上での最後の景色は、金髪の男が諦観満ちた顔でコチラを見下ろしている顔だった。


武田フィーバー

 いつも通りの時間に通勤してきた時雨は即応科棟前で掃除をしていた玄道に挨拶し、内務室の扉を開いて皆へ挨拶をした。
「ーー・・おはようございまーす!」
「おはようさん。」
 が、いつもの出来る女感ムンムンの汐留のコーヒーの匂いがなく、内務室に居たのは大量の資料を読み込んでいる才亮ただ一人であった。
「あれ...汐留さんは...」
 コーヒーを飲んでいる姿に見惚れているのを、汐留は欲しがっていると思って習慣的に紅茶を淹れてくれていたため、今日はそれがないのかと少しがっかりしていた。
「汐留は朝方から横須賀に応援に行ってる。武田はフィーバータイム中だ」
「そうですか....って、フィーバータイムって何ですか?」
 才亮は資料から目線を切る事なく淡々と伝えたが、彼女は最後の単語に引っかかっていた。
「あー....武田は群馬でオニダルマ、ジブラシット、ヒナミズキと連日戦って、フロー状態になってる。」
「わぁお...どれも近接系ばっかですね....」
 時雨がまだ数ヶ月も経ってないと失念していた彼は改めて説明すると、彼から出た召喚獣たちの名はどれも強力かつ属性持ちの召喚獣ばかりで感嘆と呆気に取られていた。
「....うーん、今更ですけど流石に武田さん一人で対応しきれるんでしょうか」
 クロトラの時、完全に相手の動きも、召喚主の少女が近づく気配も把握していた彼の実力を疑っているわけではないが、連日勤務をフォローするために応援が必要か才亮に問うた。
「あーなったら、あいつ一人でやらせた方が良い。一応、警察が事後処理とか補助してるだろう」
 才亮は楽しんでやっている武田をそこまで心配しておらず、いつもの事だと水を飲みながらそういった。
「うーん...武田さんって、寄生型なんですか?」
「違う。まぁ俺が知る範囲にはなるが」
 基本武田は一階か給湯室くらいしか行かないため、そういえばと彼の召喚獣について聞くタイミングがなく、モラル的には良くないのを承知の上才亮に聞くと、資料から目線を外してきっかりと否定した。
「え、じゃあ....やっぱり、武田さんは素なんですか?」
 寄生型召喚獣イッタンモンメンと契約している才亮から見て、自分の同じ型ではないといった事から、寄生型の線は消え自力で渡り合っているのが有力となった。
「....議論の余地はあるな」
 付き合いは多少あれども、彼の強さが自力であるかそうでないかははっきりしていなかったため、彼は資料を机に置いて顎に手を当てた。
「...どうなんでしょう...私たちも召喚獣由来の食べ物やスライム配管を通して水を摂取してますけど、食べた日と食べてない日では体力が多少は付きやすくて疲れにくいって言うのは感じますが....」
「継続的に召喚獣由来の食べ物を食べて、その召喚獣の因子を継承する可能性...か、その辺は何度も否定されてる」
「私も大学時代結構その辺の研究を読み漁ってましたけど、全部の研究結果を総合するなら、ただ現状はその可能性は低いというだけで、ないとは断定できてないんですよね。」
 寝起きのクゥさん眠い目を細めながら、難しそうな話をしている彼女と才亮との顔を交互に見ていた。
「市販のもの以外にまで範囲を広げるのであれば、確率的に言えば無いとは限らんのは事実だな。食べた召喚獣の性質自体が捕食者に能力や属性を継承するという可能性はある。」
「何か、それらに準ずる植物型かあるいは菌類型の召喚獣をたまたま食して、無茶な鍛錬に耐えきれるような肉体が形成されやすくなった...とかですかね。」
「いい線言ってるかもな、あいつYAMA育ちだし山菜とかキノコを雑煮にして食ってとか言ってたしな」
「あー...なんか納得します。したら...武田さんが育った山自体が御神体として祀られていたのなら...」
 師匠らと同じ匂いがしたためその辺は解釈一致しており、考察進めた彼女であった。
「「.....」」
(武田さんが...)
(タケが....)
 ーーーかかかっ!一斉にかかってごい"っ"!!
 ーーードラドラァっ!
 ーーーフンヌっ!!
 しかし、彼女も才亮も神格とまではいかなくとも神性を持った武田の風貌はいつも見るような猪突猛進の特急列車の彼からは想像出来ず、同じような感想を心の内に呟いた。
((いやいや、無い無い。))
 一方、その頃、クールダウンも兼ねて入っていた水風呂から出た武田は癖の強いくしゃみをしながら、タオルを股に跳ね返した。
「ーー・・ぶらっぼぉうっ!ズズっ...山間は冷えるのぉ」

西東京第三地区スライム配管調査



『グヒャァァァァァァ!!!』
「いやぁぁぁぁぁぁあぁーー!!!!」
「ボス!何か策は?!」
「目当てのやつだが、とにかく逃げるぞ!!」
 退化して目が無くなった大型の蛇型召喚獣の慟哭で揺れる半透明の弾性のある配管内にて、防護服に身に纏った時雨、玄道、才亮らはサンドワームのようなソレから全力逃げていた。
 時は少し遡りお昼頃、いつもより静かな即応科棟の屋上にて、仮眠室のシーツや布団、スリッパなどが陽の光と風に浮かび波を打っていた。
「.....うむ」
 朝から即応科周りの掃除と水回りの掃除、洗濯をしていた玄道は波打つ白いシーツに靡いている陽の光を見て満足気にしていた。
 が、その余韻は長くは味わえなかった。
「玄道、出動だ」
「うむ」
 彼は屋上に迎えにきた才亮に二つ返事で切り上げて向かった。
「ーーー・・スライム配管?!え、入って大丈夫なんですか?!」
 ーーーースライム配管。
 スライムで形成された配管の事で、光ファイバーも付随しておりその他インフラ機能を担っている。
「あぁ、どうも何かに食い破られたらしくてな、修繕は終わったらしいが、その調査を要請されてな」
「え...ドローンとかで良くないですか?」
「それは物理的に使えない。特殊な防護服を着て生身で行くしかない。」
「っ....」
 プラプトルの快速に前髪を持ってかれている時雨は限られた物しか入れないところへの調査というのに尻込みしていた。
「時雨....」
 才亮は何かそういうトラウマでもあるのか、いつものイヤイヤ期とは違う険しい顔をしている彼女の名を呼ぶ。
「また...私....フェロモン液とかでびしょびしょにされて囮にされませんよね?」
「...ふっ...今回はびしょった時点で全員溶けるだけだ。」
「ファッ?!」
 思ったよりも大した心配をしていなかった時雨で、才亮はふっと息を吐いてそれをゆうに飛び越えた。
 場所は総合水道局の支部内に入り、地下へ向かった所でウィンドシャワーを済ませてスライム配管へと続く扉に併設された一室で防護服に着替えることになった。
「....わっ、ピッタリです。」
 着ぐるみくらいの大きさの防護服だったが、手首のボタンを押すと勝手に自身のスタイルに密着する形だった。
「これの耐久性は折り紙付きだから、スライム配管内で溶ける事もない。」
「うむ。」
「いや、今回がこれを溶かせる召喚獣だったら....」
「まぁ、なんとかなるだろ」
「うむ!」
 才亮に絶大な信頼を寄せている玄道は小気味良く彼に同調していた。
「..すみません、私はここまでになります。数時間して帰って来ない場合は救出連絡を入れます。」
 そして、一通りのレクチャーと防護服の着用確認を終えた水道局の女性はそう言って彼らを頑強な扉へと案内し、扉の前の中間室に彼らを残した。
『...10秒後に開きます。少し離れててください。』
 扉近くの制御室へと入った女性はスピーカー越しにそういうと、ゼンマイ仕掛けになっている頑強な扉は一切の音も立てずにゆっくりと回転しながら開いた。
「っ...」
 それは薄く透明な水色の腸壁のようなものが奥まで続いており、光ファイバーや他の機能もになっているためか数メートル先くらいは見通せるくらいの明るさであり、静かに胎動しながら光が配管ないを通っていく様は神秘的であった。
「時雨。入るぞ」
「あ...はい!」
 校外学習でスライム配管の一部を見たことはあったが、まさかこんなものが通っていたとは知らず感動していた彼女は才亮に気付かされて、彼の後を追った。
「...あんまり詳しいわけじゃないですけど、召喚獣といえどもスライム配管に侵入なんてできるんですか?」
 しばらく前へ進み30分程経ったところで、時雨は今回の事案について気になっている点を才亮に聞いた。
「侵入自体はそう難しくない。」
「え、そうなんですか?」
「あぁ、玄道くらいの召喚獣持ちなら人間2、3人分は配管に風穴を開けれる。」
「えー...それって不味くないですか?」
 玄道のウロコノムシは即応科で最前線を張れるほど強力ではあるが、一個人でそれができてしまう程度の配管の耐久度へ懸念を抱いた。
「うむ、入るまでに地下を掘り進めた時点で必ず警察か水道局、鉄道機関が感知する。スライム配管に入ったとしても、防護服かこれに準ずるものを装備しなければ出る間にそのまま消化吸収され、開けられた穴を補填するエネルギーとなる。」
「.....」
 玄道がその辺りを補足すると、時雨はスライム配管に人が立ち入ることへの紙一重具合に沈黙した。
「その代わり、スライムが逐次代謝すると共にメンテナンスはほぼ完了し、耐久年数もシステム的に半永久だから、アジアと日本は果てしない恩恵を享受している。」
「....なんとか、スライム配管と共生する召喚獣とかに、今回の事案代行させられませんかね」
 システム的にも完璧な上下水道とゴミ収集、回線などの機能を一緒くたに完結しているスライム配管に、一つだけ批判するのであれば自分らが行かなくとも配管内の外敵とかを倒してくれる白血球みたいな召喚獣が共生してくれればと憂いた。
「「......」」
「え、まずいです?」
 足を止めて静かに少し一考した彼らに、また...自分何かしちゃいました?と思った彼女は焦り気味にそう聞いた。
「....あー、一応はいるなそれ」
「うむ。」
 才亮も玄道も前提知識なしでの彼女からの案には感心していた。
「ただ...まぁ....その辺は考え尽くしてそうではありますが...」
 彼女自身もそこそこ有効な案だとは思っていたが、日本のトップインテリジェンスの極致であるスライム総合工学でその辺りは過去の議論になっていそうであった。
「.....一応、スライム配管への点検特化スライムはいるが、侵入した外敵へ攻撃するとかは...俺もそこまでは知らない。」
「え、才亮さんでも知らない事があるんですか?!」
「うむ、それには同意する。」
 時雨はいつもは一部の人しか知らないような情報でもやんわり教えてくれる才亮が答えにあぐねている姿に驚いており、玄道も同じ感想を持っていた。
「....お前ら...俺は何でもは知らない。まぁ....知らない事は知ってるせいでわかっちまうが...」
「...???」
 明確なようではっきりしない彼の反応に時雨はそれを消化しきれずにいた。


一か八か。



 そうして、ちょくちょく話ていた点検用のスライムとすれ違いながら数十分ほど歩いた所で、少し環境に慣れて先頭をライトを照らしながら歩いていた時雨は突然立ち止まった。
「.....ん?」
「どうした時雨」
「...あれ、ここ、行き止まりですね」
 才亮がそう聞くと、時雨は進行方向の壁に手を当ててながら彼らの方を向いた。
「ん....っ!時雨!逃げるぞ!!」
「うわっ?!...え、なんで....」
 才亮は玄道が照らした壁の上方を見て、時雨の首根っこを掴んで来た道を逆走した。
「いいから!耳塞げ!!」
「うぇ?!...はい」
 ーーーーーズザァァァァーー!!!!
 スライム配管内で、戦闘機の通過音に似た逃れようのない叫び声が鳴り響く。
「わぁぁぁぁっ!なんですか!なんなんですか?!あれーっ!!!」
 瞑っていた目をすぐに開くと、目の前にはサンドワームのような丸呑み食い気の蛇がうねりながら、こちらに向かってきた。


「ボス!何か策は?!」
「目当てのやつだが、とにかく逃げるぞ!!」
「はぃぃぃ!!」
 首根っこを掴んでいた時雨を前へ進行方向に投げて、とにかくガンガン逃げる事に集中した。
「これじゃねぇ、いや、これでもねぇっ....あったぁぁっ!!」
 防護服の関係でろくな道具を持って来れなかった彼は、防護服の腕部分を解除して懐内の道具から唯一使えそうな道具を取り出し投げた。
『グガぁぁぁ....』
 赤い閃光が配管内に煌めくとそれをモロに食らった蛇型召喚獣は一瞬怯みを見せた。
「ん...止まった?」
「あー、ピット器官までは麻痺らねぇやつだった...」
 走りつつ見返す時雨であったが、蛇特攻の道具には十分でなかった。
『ギュガァぁぁぁぁ!!!』
「ヤァぁぁぁ、怒っちゃいましたよ!」
「面目ねぇ..」
 バチキレた蛇型召喚獣は、さらに速度を上げてこちらに向かってきた。
 その後、10分ほど他の道具も蛇型召喚獣に投げてはみるが、特殊な発信機を付けれた以外は効果は見えずに、怒りは衰えるところを知らずに蛇型召喚獣は加速し続けて彼らのケツに迫りつつあった。
「...スライムはなぜアレを吸収しない?」
「奴の表面は削れてる...が、すぐに再生してるせいだな」
 玄道が才亮にそう聞くと、チラチラと蛇型召喚獣を観察していた彼は再生持ちであると断定した。
「勝手口はまだ先か...」
「あと10分か...それまで逃げ切るしか....っ!」
 防護服の関係で思うように反撃できない彼らは打開しあぐねていると、才亮は何かに気づいたようだった。
「才亮さんっ!何か策があるんですか!」
「あぁ....」
 切羽詰まっている空気の中から光を感じ取った時雨にそう聞かれながら、才亮はうる覚えの記憶を頼りに頭を回す。
 スピードは落とせない。
 落とした時点で、すぐに奴の腹の中に入ってしまう。
 スライム配管を削って外に出るにも地中のため余った空間がなく、土を掘るにしても時間が足りない。
 扉に着くまで、10分は要する....
 .....10分...
 ....っ!!
「玄道っ!一瞬で良い!鱗で配管せき止めろ!!」
「了解した。」
 玄道は脊髄反射で了承し、拳を突き合わせ、腕先から防護服を突き破ってウロコノムシの鱗を展開した。
『....グギィ?!』
 突如目の前に現れた緑鱗の薄壁に勢いそのままに突っ込んだ蛇型召喚獣は体をのけぞらせて反動を分散させる。
「...っ....ぐっ」
 防護服を突き破り、足元に緑鱗を纏い踏ん張る玄道はその衝撃をモロに受け、足元の鱗は既に溶け始めている。
「っ...玄道さっ...」
「時雨っ!ここを深淵で削れ!」
 明らかに無茶している玄道に思わず声を上げそうになるが、才亮が彼女を呼び彼がいる数歩前の地点を指差す。
「っ...りょう、かいっ!!クゥさん!」
「..スン...プサァ」
 保護服の中でも耐え難い匂いに耐えながら、阿吽の呼吸で才亮が指差した地点を深淵で削り取った。
「...一か八か」
「玄道さん!こっちです!」
「...っ...あぁ!!」
 他部位の防護服が衝撃ではち切れる中、玄道は彼女の掛け声と共に鱗のバリケードを据え置きして出来た数秒で彼女の方へと走り、深淵で削られた穴の中へと滑り込んだ。


注意事項

 このEPUBファイルは「ハーメルン」で掲載中の作品を自動的にEPUB化したものです。
 小説の作者・「ハーメルン」の運営者に無断でEPUBファイル及び作品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。

【タイトル】 日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。 【作者】 wakaba1890 【作品ID】 397155 【作品URL】 https://syosetu.org/novel/397155/ 【生成日】 2026年01月27日 23時08分05秒

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

2026年1月29日 発行 初版

著  者:wakaba1890
発  行:wakaba1890

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