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パワハラ:モラハラ:何でもござれ!

404號

四零四映像舎出版



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]パワハラ:モラハラ:何でもござれ!

《はじめに》
全てが衝撃の実体験!! 人生は山あり谷あり‥ ふとした事から超絶ブラック企業に入社!そこはパワハラ、モラハラ、恐喝、自殺、横領、殺人‥何でもありの修羅の国‥。そんな会社にどっぷり浸かる中、結婚↔離婚に裁判沙汰などなど‥。 自分が19歳から経験した事を blog風に153話+α、まとめました。                        誇張一切無し!!                        是非、ご覧ください🙇              ※登場人物、会社は仮名にしてます

           作者〜404號〜


Chapter 1
〜19歳の夏〜
出席日数が足りず、二度目の留年が決まった医療系専門学校を退学し、実家に戻って1ヶ月が経った…。
仕送りしてもらっていた口座にはパチンコで作ったマイナス20万が恨めしく記載されてる‥。
これを直ぐにでも"チャラ"にしなければいけないのは理解できるのだが、学生気分が抜けきらない俺…。
これからどうするのか?
どうなるのか??
更にはどうすればいいのか???
全くわからない‥。
ただただ毎日ブラブラ出歩き、ツレと遊んでは夜中に帰ってきて昼過ぎまで寝てる…。
そんな自堕落な毎日。
親父は自身も若い頃 経験があるらしく、ヤイノやいの言わないが、東北生まれの真面目な母親は そうはいかない。そりゃそうだ 親戚からお金をカンパしてもらい、
俺:『俺をあの学校に行かしてくれよ!』とまで言い放った愚息なのだから。
それなのに1回も進級せずに教科書の最初、ほんの一部を開いただけでクビになって帰ってきたんだから、怒れて、呆れて、やるせなくて仕方ないと思う…。そんなある日、ちょっとしたことから母親と口論になり、堪忍袋の緒が切れた母親に泣きながら、平手打ちをされた…。
あ~こりゃイカン イカンよ!!!
どうなるの?俺、これからさ…((泣))


Chapter 2
〜七海興業〜
母親に平手打ちされてから数日後、新聞の中に入っていた地元企業の従業員募集広告に目が留まる。文面には『期間社員募集、6ヶ月勤めあげたら36万円慰労金支給!』とある。
これなら口座のマイナスも一気にチャラになるし、家からも近い!!早速電話してみることにした。
電話対応は若い女性、そこから部長と呼ばれる方へと代わると言われ保留状態へ。
"キンコンキンコン"保留音が鳴る間、俺は頭の中で
俺:~んっ?女部長って?この会社は女性が多いのか?~
そんな事に頭を巡らせていた。
暫くすると、
「はいっ、もしもし」と
品の良さそうな声で、女部長なる方が応答に出た。
俺はオドオドしながらも先程見た求人の件を伝えた。
するとトントン拍子に話が進み、この後すぐに面接してくれることになった。
俺はいつもの格好、茶髪にTシャツ、ジーパン、サンダルでチラシの会社へと向かう事にした。
家から車で10分程でホント近い。
会社の名前は ¨七海興業¨。
大手 自動車メーカーの下請けらしい。崖の傾斜を利用して作られたモダンな社屋、横には工場も併設しているし、駐車場も広い。
なかなかの会社なようだ。
一階から階段を上がり、二階の事務所フロアへ向かう。
そこには学生時代に使っていた机よりも少し大きい、デスクと呼ばれる業務用の机が20基~30基ほど並んでいて、全てがこちら側、階段から上がってくる訪問者を監視する様に配置された空間が広がっていた。
俺の足音に気付いた従業員が一斉に顔をこちらに向ける。一瞬、威圧感で「うっ…」と俺の足が止まる。
すると、一番手前に座っていた従業員と目が合った。
俺:『先程お電話をした者です…。』
と伝えると、同じフロアにあるガラス張り、12畳ほどの会議室へ通された。しばらく待つと腰の曲がった年の頃70過ぎくらいのお婆ちゃんが入ってきた。
俺:~なんだ?このばあちゃん?~
と思ったのも束の間、この方が部長だという。
俺:~こんなおばあちゃんが部長…?~心のなかで呟く。
先程電話で話した方はこの人だったんだな…と気付く。
持参した履歴書をもとに、いくつか質問される。
見た目はお婆ちゃんだが、言葉もハキハキし、時折、鋭い目付きにもなる。やっぱり部長といわれるだけあって、そこいらのお婆ちゃんとは違った。
そして無事、入社する事となった。
俺:~以外と会社って簡単に入れるんだな。ああ、俺もこれで社会人か…明日から朝早く起きて毎日毎日単調な日々になるんだろうな〜
と不安のようなホッとしたような複雑な気持ちになった。


Chapter 3
〜配属〜
女部長…いや、お婆ちゃん部長が誰かに連絡している。
5分程して メガネをかけた男が来た。
名前は君沢(キミサワ)と言うらしい、役職は課長。
どうやら俺はこの君沢課長なる者の下で働くことになるようだ。
君沢なる男:『じゃあ…』
と言うので お婆ちゃん部長に会釈をし、この男の後ろに金魚の糞みたく、くっついていく。
後ろを歩きながら、この"君沢課長"なる者を観察してみた。
片足を若干引き摺りながらも早足。
その足の悪いせいでだろうか‥バランス悪そうに肩を大きく揺らして歩いている。
俺:~怪我でなったのか?事故でなったのか??~
身長170センチ 体重60キロ くらい、痩せていて神経質そうな感じ。
歩いている最中は全く何も話さず
足早に俺の前を歩く君沢課長なる者…。なぜか無性に不安になる…。
どこまでお婆ちゃん部長から俺の情報が回っているかわからないが、初めて社会人になる者に対して、もう少し世間話的なものも あってもいいと思うのだが…後ろを歩く俺に対し一度も振り返らす、黙々と進んでいった。
なんか…何かわからないが これからの生活が本当に無性に不安になった。


Chapter 4
〜鶯鳴く工場〜
気難しそうで、無口な君沢課長なる人の後ろについて暫く歩くと、小さな工場が見えてきた。
面接を行ったモダンな事務所に比べ、小さく古くさい工場。道路を隔てた向かいにある森からは…ホーホケキョ! ウグイスの鳴き声が聞こえる。
こじんまりとし、そんなに人も居ない様で、ここで仕事が出来るなら初めての社会人生活、イケるんじゃないかと感じた。
君沢課長に続き、この古びた工場の事務所らしき部屋へ入った。
そこには年齢50代くらいと思われる女性事務員が一人と、休憩中なのか?
咥え煙草の、紫の色が入った金縁メガネをかけた気の強そうなお婆ちゃんが一人、あと眠たそうな顔をした中年太りの男二人と外国人風の男が居た。
全部で5人だ。
俺:~これが ここの従業員全部か?~と心の中で呟く。
すると君沢課長が眠たそうな顔をした中年太りの男1人に何か指示を出している。
名前は前野と言うらしい。
役職は他の4人とは違う柄の帽子で"班長"だそうだ。
この前野班長なる者、ちょっと言葉が聞き取り辛い モゴモゴした喋り方。
俺:「これから宜しくお願いします。」
と挨拶すると、もう一人の眠たそうな中年も紹介された。
2人とも眼鏡をかけているのだが、
名前は前述の者と同じ前野…。
ん?また前野??
そう先の前野班長と後の前野は兄弟らしい。
班長の方が兄で、もう一方が弟。
お互いメガネで中年太りだが、弟は兄と違って声も大きくハキハキ喋り、おおきな口を開けてガハハハハと笑う 話の節々に新社会人の俺を気遣う様な言葉があり、兄よりも印象は良い。
俺:〜この人なら一緒に仕事できそうな感じ‥〜
好印象だった。


Chapter 5
〜J:BOY〜
今日から このウグイス鳴く工場で働くことになった。
眠い目を擦りながら朝6*30に、録音してある国民健康体操のテーマ曲に合わせたラジオ体操からはじまる。
その後、前野(兄)班長の何しゃべっているか、聞きとり辛い朝礼を受けた後、7*00から作業となる。
作業内容は前野(弟)とコンビを組み、台車に載せられた油まみれの車のドア枠を4束1つにセットして機械で結束、再び台車に戻し搬出する作業。
この作業、鉄でできたドア枠4束を一度に待ち、結束機械に崩さずセットするのは なかなかコツがいる。
油まみれの車のドア枠、手袋を2重にしても暫くすれば 地肌に防腐油が付着し、作業着も直ぐにベトベトとなる。
また、鋭利になってる部分もあるため、持つところを注意しないと手袋は直ぐボロボロに…。
汚くて危険、決して良い仕事ではないとゲンナリした。
そんな中、前野(弟)が世間話を挟み、慌てないで良いとリラックスさせてくれる。
スピードも新人の俺にあわせてくれ、気を遣ってくれる。
お陰で、三時間程で作業には慣れた。程なくして、けたたましい音が鳴り響く、12時の昼食のベルだ。
これを合図に工場2階の10畳ほどの食堂で、弁当屋が配達してきた日替わりを食べる。
45分後の12時45分から午後の作業が再開となり15時45分で再びベルが鳴る。これが定時の合図。
通常はここで終わりなのだが、仕事が残る様なら、そこからが残業となるのだ。
今日は定時で終わり。
いままで自由気ままな生活を送ってきたので、なんか変な感じ。
頭のなかでは学生時代に聞いていた浜田省吾の『J:Boy』が流れていた。


Chapter 6
〜カネゴン(前野:弟)〜
七海興業に入社して一年半が経った。学生時代に作った借金20万もオフクロに完済し、毎月3万を家に入れる様になれた。
期間社員から正社員へとなり、欲しかった車も買ってスッカリ社会人となった俺。
仕事にも慣れ、会社にも慣れ、一般的な社会人になれたと思う今日この頃なのだが…俺は我慢できなくなっていた。それは、仕事を一緒にやっている前野(弟)にだ。
最初の印象は良かったが、3ヶ月を過ぎた頃からたびたび遅刻し、休むようになった前野(弟)。
一般的に↑このようなことは新入社員がやるような事だと思うが前野(弟)は違った。
当初、格好良いこと言って好印象を与え、結局は忙しかろうが何だろうが関係なく休む糞野郎。
具体的には、先日 遅刻→結局休み…になった時はこうだった。〜回想〜
事務員が1人で作業している俺に、前野(弟)が会社の駐車場まで来たけど、体調不良で仕事できないって言ってる…と俺に伝えてきた。今日は仕事が沢山、このままでは残業3時間コース…。俺:~おいおい!頼むよ…(怒)~ 
身を案じて駐車場へ行き、前野(弟)の様子を見に行くと、車内には真っ赤な顔をした奴が横たわっていた。
俺に気付いた奴は窓を開け、
前野(弟):『ゴメン、熱があるみたいだから 暫く車内で休んでる…』
と言った。俺:〜…!!!!!!!??〜
何も言わず、きびすを返すように俺は仕事に戻った。
なぜかと言うと、奴が開けた窓からはキツイ酒の臭いがプンプンしたからだった。
顔が赤いのは熱ではなく酒が残ってるの!二日酔い!!(怒)
パチンコ大好き、
お祭り大好き、
旅行大好き
…腹が出て、カネゴンみたい
な体型してるのに目立ちたい、
モテたい  
変態中年…。
それが前野(弟)。
最近は奥さんが勤める幼稚園の同僚、横山めぐみ似の独身女性を何とかオトそうと一生懸命らしい…。
本人が自慢気に話すから 知りたくもないのに知ってしまう。
更に、奴の女をオトす手口はこうなんだって。
保母さんをする奥さんと、その幼稚園に通う一人娘、奥さんの勤める幼稚園の催し物に¨旦那であり○○ちゃんのパパ"という肩書きを利用して侵入。
同僚の保母さんが、 前野奥さんの旦那さんということで 優しく接してくれる事を良いことに、更に深く入り込み、いつの間にか保母さん達の飲み会を開催する側に‥。
そして幹事になって 狙いをつけた保母さんにどんどん近づく手法。
奴は 〜奥さんがより働きやすい環境にすべく一生懸命 立ち回ってますよ!〜…というアピールでカモフラージュをする。
廻りは表面上『気の利く良い旦那さんだね♥』となり、狙われた保母さんも同僚の旦那なので強く言えない…。
これが奴の常套手段。
結局は仕事の進め方も同じ。
相手が言えないギリギリラインを巧みに利用し、ズケズケ心中深くに入ってくる…非常にゲスなやり方をする男だった前野(弟)。
文句を言えるor言えない、ギリギリラインを攻めて自分が楽をする糞。
これに気付いた俺は、もうやってられない。
仕事中に居眠りしてる前野(兄)班長に言っても何かするはずも無く、俺はとうとう限界を迎えたのだった💢


Chapter 7
〜転属〜
俺は君沢課長に、前野(弟)に対する不満を洗いざらいぶつけた。
俺:「前野(弟)さんとは一緒に仕事したくないです!!」
と語気を荒げて言ってやった。
君沢さんは黙って聞き、こう返した。君沢さん:「前野(弟)が仕事を休む事で日給月給の奴は給料が減り、お前は働いただけ貰える…これでいいじゃないか?」️と。
俺:~はぁ???済むわけないじゃん!!~
心の中で怒鳴った。
なぜなら歩合制じゃないから。
朝、タイムカード打って、帰る時にまたタイムカード打つ…つまり、この間の中身は関係ない💢 二人作業を一人でやる俺は一人分の給料なだけ!!会社はいいよ、人件費半分で儲けはそのままだから。
俺はもう、あいつと組みたくないし、話もしたくない! 駄目なら辞める!! 
そんな気迫で言ってやった。
君沢さんは、真っ赤になってしかめっ面した俺の顔を見て↑気持ちを察してくれた様子。
最終的に他の職場へ転属する手筈をとってくれることになった。
俺:〜わはははは、やったぜ(*´∀`)。〜俺の主張が通った。俺は必要な人間だ!やったぜ!前野(弟)と前野兄貴のバカ兄弟と別れられるのは嬉しいぜ。
わはははは!!こう思った。
来週の月曜日から七海興業内の別部署へと移籍することになった。
短い間だったが、世話になったおばあちゃん従業員とおばさん事務員に別れを告げる。
おばさん事務員は
事務:『頑張ってきなよ。負けちゃ駄目よ!』
と言ってくれた。
俺の事を息子の様に思ってくれてたようだ。
そんなとき、君沢課長から封筒を渡された。中を開けると『頑張れ』とだけ、真っ白な便箋の真ん中に書いてあった。


Chapter 8
〜第二工場〜
とうとう月曜日になった。
いざ 実際にそうなってしまうと実に不安なものだ。
先週の金曜日に君沢課長へ前野(弟)に対する溜まりに溜まった不満をぶつけ、転属が決定。
晴れ晴れとした土曜日を過ごし、
翌、日曜日は酷いサザエさん症候群になる…。
そして週明けの今日、新しい職場に出社。
自分から言い出したのは良いけど、やはり不安で足が重い…。
新しい職場は、七海興業の親会社である大手自動車メーカーの中にある"第二工場"というとこらしい。
そこはとても大きく、大勢の人が働く場所。
七海興業としても会社の軸となる職場のひとつだそうだ。
そして、日本人、ブラジル人、ペルー人、中国人、ニュージーランド人など、多くの人種が働いていると君沢課長が言っていた。
また、一週間毎に昼夜逆転する交代勤務にもなり、俺は夜勤スタートとなった。
仕事内容は、自動車の生産ライン一部エリアを親会社の代わりに七海興業が作業させてもらっているそうだ。
親会社側のメリットとすると人件費の節約で、七海興業側は設備や工具等、作業に必要なものは全て親会社のモノを使い、人を入れるだけでOK‥という立場となる。
これだけ聞くと派遣会社のようだが、安全:品質:生産性の3要素も七海興業側でやるという"構内請負業種"という部類になるらしい。
以前の職場とは人の多さ、工場の広さ、作業中の音が圧倒的に違い、敷地内にはバス停、銀行、病院まであって まるで小さな町の様相。
先週までのウグイス鳴く、あの寂れた小さな工場が何だったのかと思える。ホント不安で一杯になった…。


Chapter 9
〜黒下なる者〜
新しい職場、指定された駐車場から15分ほど歩いてやっと到着。タイムカードを打ち、初日の俺は、ここのボスとの面談になった。
暫く待たされた後、黒下という男が現れた、現場の責任者で" 組長"という役職らしい。
俺が以前に居た職場では班長(前野:兄)→課長(君沢さん)しか居なかったが、さすがは巨大工場、作業者が多いために組長なる役職者が存在する様だ。
さて、この黒下組長、鋭い眼光で名前、生年月日などが書かれた七海興業内の書類¨履歴カード¨を見て、幾つか質問してきた。
質問:
「現場の経験はあるのか?」
「工具は使ったことあるか?」
「家族は?」
「結婚はしてる?」
「休みは何してる?」
などなど…。
身長は180センチ程?
体重は100キロくらい??
だろうか‥。
とても大きく見え威圧感がある。
肥満体に童顔、鋭い眼光でじっと見られたかと思うと、大きな声で無邪気に笑う。
ついつい心を許してしまいそうになる。
ひと通り俺の尋問→現状把握が済むと、黒下組長のポケットに入ったPHSが鳴った。
作業場(現場)で問題が起き、呼ばれたようだ。
俺に、このまま待つよう指示を出し黒下組長はどこかへ行ってしまった。
それから数分待つも、いまだにボスは来ない。
座ったまま辺りを見渡すと、七海興業の作業服を来た者達が忙しく動き回って、あっちこっちで様々な音が鳴り響き、以前の職場とは天と地くらいの違いと改めて感じる。 
工場の端から端まで200メートル程はあるだろうか…。
とても大きく、広く、出勤時に立ち寄ったトイレは、便器が10も20もあるし、至るところに〜踏めば冷たい水が出る"冷水器"〜も設置されている。
沢山の作業者が居るためにこの数になる様だ。
俺:〜はぁ‥俺、大丈夫かなぁ…〜
と思ったとき、奴が現れた。


Chapter 10
〜勅使河原という男〜
それは、ここ第二工場、七海興業側 最高責任者 ¨勅使河原(てしがわら)¨ 課長だった。
身長150cmくらい、若干、腹が出ている 、体重は60キロ位?
時折 子供っぽく笑う先ほどの黒下組長とは真逆で、身体の大きさも内面も全然違う印象…。
一切 笑みを見せず、髪型はリーゼントにし、目がつり上がっていて、その眼光奥底はギラついて尖っている。
身体は小さいが隙が無い、相手を全身で威圧する…そんな感じの人だ。
例えて言うならパチスロ"北斗の拳"のレア役成立時、オーラ色¨紫¨といった感じか… 。
そう、この人がここのボスなのだ。
ほどなくし、先程現場に行った黒下組長が戻ってきた。
二人の間では、俺に関する話が既に済んでいるようで、勅使河原課長からの質問は一切無く、一方的に こう言い放った。
勅使河原課長:『とにかく!休むな、不良を出すな、ラインを止めるな、この3つを守れ、以上。』
そう言って小さなリーゼント頭は現場に消えていった。
そして俺は設備担当になった。

Chapter 11
〜シンジラレナイ‥〜
毎日、
決まった時間に起きて、
決まった時間にタイムカードを押し、決まった時間に工程に入り、
決まった作業をして、
決まった時間に昼飯を食べて、
決まった時間に再び工程に入り、
決まった作業をして、
決まった時間にタイムカードを押し、決まった時間に帰る、
こんなことをずっとやってる。
毎日毎日同じこと…。
工場に入れば太陽の光は届かなく
朝か夜かもわからない…。
ホントに社会人はこんなこと毎日やってるの?
考えられない…。
そりゃ病気にもなるよ…。
本当に機械仕掛けの人生。
歯車の一部。
同じことの繰り返し。
シンジラレナイ…。
嗚呼、学生時代が懐かしい…。


Chapter 12
〜配置転換〜
暫くして俺は設備担当から同、第二工場内の他のエリアへ配置転換となった。
ウグイス鳴く工場では この様な配置転換なんて全く無かったが、作業者が沢山いる大きい課では 移動は度々あることらしい。
俺の新しい担当場所は"試作(しさく)"というとこ。
この"試作"とは、親会社がこれから販売しようとする新型車両を量産する前に、設計部門主導の元、生産ラインとは別の場所で実際に組み上げてみて 狙った通りの構造、機能を果たしているか?組み上げ時、簡単且つスピーディーに部品を取り付けれるか?などを確認する部署。
更に、上記で決められた部品の正しく素早い組み付け方法を確認し、書面に表して標準化する重要な業務をする部署なのだ。
もう1つの特徴として親会社、構内請負い、両方から人員を出して一定期間チームとして所属し、量産前の車を決められた作業内容で徹底的に作り込む事で、必然的に現場よりも先に技術を習得する事となる為、工場で流すときには熟練作業者として現場を先導、フォローする者となる。
それは、自ずと一般作業者を指導する立場なのだから、人事昇格するステップ部門である…という事を聞いた。
この課に転属されて間もない俺が"試作"に行くのは日本人が少ない職場故の問題があるようだが、「工具も全く使えない奴がなぜ…?」と誰もが首を捻った…。
丁度その頃、七海興業の事務所ではお婆ちゃん部長が高齢のため勇退となり、君沢課長が部長へと昇格したのだった。


Chapter 13
〜灯り灯る(アカリトモル)〜
新型車両は、安全、品質、生産性、全てに大きな問題も無く 無事に量産へ入ることができた。親会社側も、七海興業側も皆、胸を撫で下ろす。
我々試作チームは暫くの間、現場のフォローや試作場所の後片付け等をした。
そして、こちらもスムーズに終われた。それから間もなく、俺は班長になった、この俺がだ…(驚)。
日本人が少ないというのもあるが、君沢部長が勅使河原課長に指示を出し、そうなる様にしてくれたのかもしれない。
また、七海興業 第二工場試作チームの責任者である黒下組長も1つ箔(実績)をつけた格好になった。
親に無理言って行かせてもらった専門学校。
パチンコ三昧でクビになり、プラプラ遊んで母親に殴られた。
学歴も経験も、何もない俺が家から近い…という理由でたまたま入社した七海興業。
俺:〜俺が役職者? 人を指導する??えぇぇ???ホントに????〜
日々、事は進み 動いていく。
真っ暗闇に一筋の明かりが灯り。
少しだけ…ほんのすこしだけ、歩くべきところが見えた気がした。


Chapter 14
〜俺の班〜
俺の班は内装専門部署となった。
黒下組長や勅使河原課長の狙いとしては『内装専門部署は、主たる生産ラインでは無く補佐的な部署なので、初めての役職者でも管理しやすい所』との考えらしい。
だが、事はそう旨くいかなかった…。
折角覚えた新型車両は、5台に1台のペースでしか流れてこない‥つまり残り5台中4台には、俺は全く手が出ない状況というコト‥。
おまけに班員は日本人、ペルー人、中国人、ブラジル人、ニュージーランド人と様々。
コミュニケーションも取れないし、文化も考え方も全く違う。
日本人的な
〜まだ新人役職者だから出来なくても仕方無い〜
なんて一切通用しない。
俺は作業者に舐められ、結果、作業は遅れに遅れラインは停止。
これにより部品欠品でメインラインにも度々迷惑を掛けてしまう始末。
更に、緩んだ班内風紀により秩序は乱れに乱れ、組み付け間違い品を量産する事に‥。
売り物にならない車を後工程に垂れ流し、俺の班の品質は課内ワーストワンとなる‥。
当然、ポケットに入ってる作業用PHSはひっきりなしに鳴りまくり、構内放送でも呼ばれっぱなし。
毎日毎日 あっちこっちで怒鳴られて走り回る日々…。
不良の手直しと謝罪行脚が主な仕事になってしまい、対策書類も一向に減らない。
〜アイツは出来ない。このままでは生産計画に支障をきたす、早く外せ!!〜
と親会社からも声が上がりはじめる始末となった…。
俺:〜こ、コンナハズデハ…(⁠ ⁠≧⁠Д⁠≦⁠)〜日々頭痛が酷くなっていき、家に帰っても眠れず、笑うことも無くなっていった‥。


Chapter 15
〜泣き入れ〜
俺は今日、限界を迎えた…。
誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残って業務をこなしても何ひとつ良くならない。
毎日毎日、新たな問題が起きて増え続けていく。
課内でもダントツ1位の組み付け間違いを記録し、何百人もの作業を止めてしまう班の責任者である俺…。
親会社の中でも 酷い役職者として名前が知られてしまい、毎日が針のムシロだ…。
体力も気力も"emptyマーク"点滅しっ放し…。
目つきも変わり、自分でも常にイライラしているのが判る…。
俺:〜なぜ俺は駄目なのか?〜
自問自答する。
俺:~外国語が喋れないから?~
   〜専門学校辞めたから?~
      ~パチンコばっかやってるから?~         ~右利きだから?
                   (黒下組長は左利き)~
        ~箸の使い方が下手だから?~
全てが俺は駄目…。
そんな気がしてきた…。
担当するエリアの作業をイチから覚え、全ての場所が出来るようになってから指導する側に廻り、様々な異常対応を経験した後、そのエリアの役職者になるのが適切な流れ…?
いや、そんな事はない。
第二工場では勅使河原課長、黒下組長は絶対的で、御二人が「やれ!」と言った事は何が何でも!完遂しなければいけない!!!
他の役職者は全員そうしているし、やりきっている。
やっぱり俺だけが出来ない、そう、オレが悪いんだ…。
誰でも入れる高校しか出ていない人間が…。
パチンコにド嵌まりして専門学校クビになった人間が…。
中国人もニュージーランド人もペルー人もブラジル人も様々な国の言葉を超越し、あっという間に物事を解決できなければいけない。
でも、出来なかった…。
俺はそんな能力無いよ…。
もう疲れた…。
もう、どうも出来ない…。
俺は黒下組長に泣きを入れた。
俺:『…もうできません、僕には無理です…。辞めさせてください…うぅぅぅ(泣)…。』
黒下組長: 『お前は一緒に試作を頑張った、俺はそれをずっと見ていた。勅使河原課長に相談するから心配するな、辞める必要はない。』
そう言ってくれた。
この温かい言葉に俺は周りを気にせず声を出して泣いた。


Chapter 16
〜新たな仕事〜
俺が黒下組長に泣きをいれた翌日、新たな仕事を受けもつことになった。
本来ならば班長から一般作業者に戻り、作業工程に入ってイチから出直しなのだが、役職も班長のままでの再出発となる様だ。
その新たな仕事とは…
黒下組長の『カバン持ち』だった。
『カバン持ち』と言っても本当にそんな業務があるわけではない。
職名は"品質担当"という黒下組長が考案したポジションだ。
それは、役職者ながら部下も居ない、実質、黒下組長の手となり足となり、指示されたことは何でもやる…というやつだ。
黒下組長の指示通り動けば、黒下さんは他の業務も手広く出来る様になり、現場の実績もあがることになる。
結果的には最高責任者:大ボスである勅使河原課長の成績をあげることになる…こういった流れだ。
その業務内容は多種多様。
黒下組長の指示は全てなのである。
例えば、
:作業標準類の作成
:朝礼の原稿作成
:現場の監視
などなどetc…。
俺は〜黒下組長に助けてもらった〜という恩義を感じていた為、言われたことは直ぐに!何でも!!とにかくやる!!!!と強く自分に言い聞かせた。


Chapter 17
〜黒下組長の凄さ〜
ここで改めて黒下組長という人物を説明したい。
身長180cmくらい、体重100キロ程。
両親とも純血の日本人だが、ブラジルからの出稼ぎ者出身。
組長が幼い頃、仕事を求めて家族で南米に移住した為、国籍のみが違うことになる。
やがて、黒下さんが成長するにつれ、その実父と反りが会わなくなり、度々衝突する様になったらしい。
この為、黒下さんは20代前半で勘当同然で日本に単身来日、七海興業に日系期間社員として入社したそうだ。
日本に来た当初は、言葉も喋れないし日本語も書けなかったが、毎夜毎夜 勉学に励み、今ではそこらの日本人より漢字も書けるようになった。
そんな中、徐々に現場で頭角を表し正社員に昇格、班長→組長を経て、今では七海興業の稼ぎ頭である第二工場の現場責任者まで出世した。
同工場の最高責任者である勅使河原課長からの信頼も厚く、常に側で行動を共にしている。
よく喋り、よく動き、人によって顔、喋り方を使い分け、その人の強み、弱味、希望、要望などを全て把握。
それを加味した采配をする事が出来、人を使って与えられた目標を必ず遂行する力を持つ。
この事から、管理者として七海興業経営陣からの評価も高い。
ちなみに、日本人がやらないことも平気でやってしまう、「豪腕&身体がデカイ」ことから一部の人間からは通称『ビッグ』と呼ばれていた。
そんな凄い人なのだ黒下組長は。


Chapter 18
〜黒下流掌握術〜
黒下組長の傍に就くカバン持ちをやることになって改めて、黒下さんの人身掌握術の凄さを知った。
俺:~もし、この人が市長選に出馬したらホントに当選してしまうのではないか?~と思うほど。
手法は前話で書いた通り、基本、現状把握と気遣い&行動力。
満面の笑みで近づき、誉めて、笑わせて、食事をして、タバコを吸って、悩みを聞いてあげて、時には一緒に泣きもする…。
そんな事をしてる間に、いつの間にか互いを名前で呼び会うような関係になり、自分の世界に取り込んでしまう。情熱と行動力に溢れ、最近の日本人が忘れていた気配りが出来る日系人なのだ。
指導方法に関しては相手に応じて使い分けをする。
自身の感情を表に出さず、また左右されない。
仮に叱られたとしても最終的には『自分のために指導してくれた…。』と思わせてしまうやり方が出来る。
叱りに対して、実際に俺自身がこんな経験をした。〜回想〜
ある日、俺が凡ミスをした。
安全にも、品質にも生産性にも影響しない、ホントの凡ミスだ。
だがこの時、俺は酷く叱られたのだった。
なぜなら、俺は保身の為の小さな嘘をついていたからだ。
だから少しだけ後ろめたさがある。
黒下組長はそれを見抜き、強く叱ったのだった。
だが、
俺:~もう一言言ったら俺は爆発するぞ…~
と腹の中で思っていたら、その直前で叱るのをやめた。
俺は拍子抜けとなり、
俺:~なんで?もう突っ込まないの?~と思った。
それ以上は一切叱らない…。
紙一重のところで意図的に逃げ道を残してくれている。
これに気付いた時、
俺:~この人はホントにスゲーな(汗)~と心底思った。
また、食事の時には、こんなことがあった。
会社の食堂で黒下組長の隣で食事をしていた時、小さな声で 俺はこう言われた。
黒下組長:『誰かと一緒に食事をしている時は、相手のスピードに合わせなければ駄目だ…。』
オレは驚いた…。
そんなこと、今まで親にも言われた事無かったから本当に驚いた。
そう言えば、誰かと食事をしてるとき、黒下組長は相手を見て、時に聞き手に廻り、時に喋り手に廻り、相手とほぼ同時に食事を終わらせている。
先に食べ終わって待ってる姿は見たこと無い!あれは意図的だったんだ…。
この人は、そんなとこまで気を使える人なのだ。
人、物、環境に対して常に現状把握し、目的を達成するためにはどうしたらいいか考え、いくつもの顔を使い分け 立ち回る。
この人は本当にすごい人…。
そして、そんな人の傍に入れることに誇りと喜びを俺は感じ始めていた。


Chapter 19
〜役職者会〜
蒸し暑い夜になるであろう週末の夕暮れ時、近郊の飲食街にある"しゃぶしゃぶ屋"の前には、ゴツイ外国人達と日本人が数名、煙草をフカしながら立ち話をしている。
今夜は黒下組長主催の職場役職者会なのだ。
会費は不要、なぜなら第二工場の役職者は毎月5000円、黒下組長に納めている。
この徴収された金を使い、定期的に役職者会(食事会)が開かれているのだ。
今夜の役職者会は、先日会社から支給された夏季賞与(ボーナス)の御礼を職場のトップである勅使河原課長にする為の会だ。
俺は初めての参加だが、恒例行事の様で皆、慣れたもの、よく段取りを理解している。
時間になり、全員遅刻もなく集合、しゃぶしゃぶ屋の二階、20畳ほどの個室に通された。
上座に勅使河原課長が座り、横を黒下組長が固める。そして下座に向かって 全役職者がキャリア順に座った。
俺:~やっぱ社会に出ても一緒なんだな…~
それは明確な縦社会。
俺は中学時代、かなり厳しい柔道部に3年間所属していたので、こういった世界は当たり前。
体育会系の経験があって良かった…そんなことを考えていると、黒下組長が挨拶をはじめた。
黒下組長:『えー今回、会社から無事に賞与が出ました。これも一重に私たちの親方である勅使河原課長のお陰です。 課長、本当にありがとうございました!』
これを追って全員で
参加者:『ありがとうございました!!!』
と続く。
そして再び黒下組長…
黒下組長:『今後も私たちを指導していただくと共に 、私を筆頭に部下一同、一生懸命 、精一杯やらせていただきます!では、下座から順番に勅使河原課長への御礼と今後の目標を言っていけ。』
上座の勅使河原はドッシリと座り、ウンウン頷いている。
すると、
役職者A:『勅使河原課長、ボーナスありがとうございました、これからは○○頑張りますので宜しくお願い致します!』
参加者:~(*’ω’ノノ゙☆パチパチ~
役職者B:『勅使河原課長、賞与ありがとうございました、これからは○○頑張りますので宜しくお願い致します。』参加者:~(*’ω’ノノ゙☆パチパチ~
役職者C:『テシガワラカチョ、ボーナスアリガトゴザイマシタ、コレカラハモットモットガンバリマス ヨロシクオネガイシマス!』※日系人班長
参加者:~(*’ω’ノノ゙☆パチパチ~
正直、俺は身の引き締まる思いだった…。
俺:~ここまで勅使河原課長は第二工場では絶対的なんだなぁ…。あの黒下組長が、ここまで敬う人なんだなぁ勅使河原さんは。超、超、凄い人なんだ…~と。
最後に俺もたどたどしく、勅使河原課長様に御礼を言い、頑張る事を約束した。


Chapter 20
〜勅使河原課長とは〜 
ここで七海興業が請けもつ第二工場のトップ¨勅使河原課長¨について書こうと思う。
身長150cm無い?、体重60キロくらい。
腹が出たオヤジだが、眼光鋭く、髪型はリーゼント…これは先にも述べた外見について。
ここからは七海興業に長年勤め、勅使河原さんと同じ年、若い頃から一緒に遊んでいたと言う者から、後に聞いた話も含めて書くことにする。
課長は、兄弟が沢山いる家族の長男で家庭の事情により早くから家を出された為、大変苦労されたらしい。
この為、幼少期から素行が悪く、暴走族に入り 仲間と暴れ回っていたらしい。
格闘技経験があり、七海興業に入社し班長に昇格したときには、指示に従わない作業者をトイレに連れていって力ずくでしつけたとか…(怖)。
体が小さいので、大きなモノを欲しがる傾向がある。
アメ車やクルーザー(船)、部屋が沢山ある豪邸を所有していた。
しかし、身の丈に合わない買い物を平気でガンガンしてしまうので借金まみれ…。
その為、折角買ったモノも直ぐに手放す事が度々…(苦笑)。
勝ち気で、"超"がつく程の見栄っ張り。早くに実家を出されたので、母親の愛情不足で女性に惚れやすい 「英雄色を好む」を地で行く御方…。
仕事の進め方は超豪腕、上司から指示されたことは何が何でも完遂する。
そういう人だと聞いた。


chapter 21
〜他課混乱〜
七海興業が親会社から請け負っている主力級工場は3つある。
一番歴史のある第一工場、
俺が居る第二工場、
そして最近、生産能力UPのため親会社が立ち上げた第三工場だ。
この第三工場、第一、第二から作業者と監督者を移籍させ立ち上がったのだが、七海興業側の生産・品質上の問題がなかなか良くならず、親会社に睨まれ始めていた。
そんな折り、第三工場の七海興業側 最高責任者が体調不良を理由に辞任したらしい。
七海興業は本社も含めて大混乱、親会社側からは
親会社:『どうなってるんだ!責任者がケツまくるなんて!!早急に新しい頭を据え、現場を安定させろ!!(怒)』と本社事務所に怒鳴りこんで来る始末。
七海としても主力級の工場が駄目になれば只では済まない… 。
そこで、急遽 実績もあり 、現場が安定していて移籍しても問題なさそうな¨勅使河原課長¨に白羽の矢がたった。
正直、勅使河原課長としては乗り気ではない。
このまま第二工場に居れば黒下組長が全てをキッチリ管理しているため、自分はトップとして座布団に座ってるだけで実績が手に入る。
親会社にも七海にも信頼されているし、何もしなくて良いから楽なのだ。これがバタバタの第三工場へ移籍となれば、毎日が問題だらけで苦労するのは目に見えてる。
あえて火中の栗を拾うことはないだろう…。
しかし七海興業全体…更には親会社にも多大な迷惑をかけている今、本社事務所の君沢部長が社命として移籍を命じたのだった。
この移籍から事は大きく動いていく。


Chapte 22
〜帝国誕生〜
勅使河原課長が混乱の第三工場へ移籍となった。
これにより第二工場の課長が居なくなってしまったので、七海興業本社事務所が新たに課長を選出する動きがあると耳にした。
まぁ、当然の流れだろう。
そこで新たに課長に抜擢されたのが…
黒下組長だった。
順当と言えば順当。
第二工場のナンバー2だからトップが居なくなった今、そこの席に昇格するのは当然の事。
勅使河原課長が第三工場へ移籍出来たのも、黒下組長が次期課長でやっていけるだろうと本社事務所も判断したからだった。
だが、この人事には他課の古参課長が猛反対したらしい。
それは黒下組長が日本人ではないからだ。
先に言ったように黒下組長は日系人、七海興業は多くの外国人を雇用しているが、〜日本の会社なのだから日本人がトップでなければいけない〜
と古参課長達が反対したようだった。
しかし今までの実績と本人の意欲、更には勅使河原課長の推薦もあって黒下課長体制が誕生したのだった。
この時のカバン持ちである俺は、とても嬉しかったのを覚えている。
なにせ自分の親方が課のトップに昇格したのだから。
自分自身も益々、 黒下さんの手となり足となり、ゆくゆくは七海本社事務所の親方にまでなって欲しいと望んだ。この人事結果が、正式に黒下組長本人へ通達されたときの事を俺はハッキリ覚えている。
作業も終わり、皆、帰ったあとの薄暗い現場休憩所で一人でいらっしゃった黒下さん。
それを見つけた俺は、頼まれたコーヒーを買って、
俺:『お疲れ様です ‥。』
と手渡し、隣に座った。
すると黒下さんはタバコを深~く吸い込み、
黒下"新"課長『俺もここまで来たな…』と呟いた。
黒下帝国が誕生した瞬間だった。


Chapte 23
〜課長の指示〜
俺は誇らしく感じていた。
自分が手となり足となり動く直属の上司が主力工場のトップに昇格したのだから。
例えて言うなら議員秘書の様な感覚?自分が就いた人間が当選し、これからより多くの権限を持つようになる。
それに伴って自分もより一層、業務内容が増えスキルアップでき、今まで見たこともない様な世界を共に経験できる…こんな感覚だろうか。
実際、俺は益々カバン持ち業務に磨きをかけていった。
黒下課長の表情、仕草でその時の希望・要望をいち早く感じとり、気分良く、より早く、より正確に、課長が立ち回れるよう努めた。
それに答えるかの様に、黒下課長からの指示は更に細部まで及ぶようになっていった。
あるとき、こういうことがあった。
就業中、黒下課長からTELが入り¨すぐ来い¨と言った。
俺は直ちに課長のもとへ向かった。
すると珍しく黒下課長は少し動揺した様子で俺にこう言った…。
黒下課長:『さっき、ある外国人作業者が俺のとこへ来て暴言を吐いていった。どうも日本人役職者の法華津(ほうけつ)が、その作業者に対して指導態度が悪かったらしい。酷く怒っていて¨ コロス!!!¨ と言い捨てて帰って行った。あれはクスリをやってる顔。普通ではない…ヤバイ…』
と…。
状況は飲み込めた、で、俺は何をすれば?と指示を待っていると、
黒下課長:『おまえ、今から夜勤やれ。それで法華津の傍に居ろ!常にだぞ!!』
と言う。
そして、こう続けた
黒下組長:『いいか、飯食うときも駐車場へいくときも、いつも一緒だぞ!絶対に1人にするなよ!!』
と。
俺:『はい、わかりました、今から夜勤やります。そして法華津さんの傍に常に居ます。』
黒下課長:『おう!👍』
俺:『あの‥課長、ちょっと質問なんですけど、もしその作業者が本当に法華津さんを襲って来たら僕はどうしたらいいですか?』
黒下課長:『殺れ!!(⁠ʘ⁠言⁠ʘ⁠╬⁠)』
俺:『えっ?!そんなことしたら僕、逮捕されちゃうじゃないですか?!』
黒下課長:『大丈夫だ、心配するな、ワシが面倒みたる!!』
俺:『………はい、わかりました…(⁠*⁠﹏⁠*⁠;⁠)』
結局、その日からまるまる一週間、俺は法華津さんの傍についた。
裏でそんなことがあって、黒下課長から指示が出ている事を知らない法華津さんは常に側に居る俺を、
法華津さん:『なんだお前?なんでずっとついてくるんだよ、うっとうしいなぁ…💢』
と言った。
さいわい本当に襲ってこなかったので俺は殺人犯にならずに済んだ。
でも、もし本当に襲われていたら……?
間違いなく実行していただろう‥。
それは黒下課長の指示なのだから…。


Chapte 24
〜伝統の特務〜
七海興業内では以前からこんな噂があった。
噂:〜第二工場では、七海本社事務所が現場に来ない、何も言わない、何も調べないのを良いことに悪い事をしている。それを内部告発しようとすれば、勅使河原、黒下に会社を辞めさせられる…〜
といったモノ。
黒下課長のカバン持ちとして他課にお邪魔するようになると、その噂について度々聞かれるようになった。
〜本当なのか?あの噂は?!〜って‥。
その度に俺は、
俺:「ホントにそんな事あるんすかね?よく聞かれるんですけど…。出来るんですか?そんな事‥。僕は知らないですよ‥。(⁠´⁠-⁠﹏⁠-⁠`⁠;⁠)」
と答える。
そんな折、黒下課長から特別な指示が来た。それは………。
タイムカードの空打ち!!!!!
だった………(⁠‘⁠◉⁠⌓⁠◉⁠’⁠)‥。
やり方はこうだ。
俺 自身のタイムカードの水増し打刻をする。
平日の場合は、終業し帰るときも敢えて刻印せず、黒下課長の息がかかった外国人作業者に深夜の適当な時刻を見計らって俺のカードを代打ちしてもらう様にする。
休日の場合は、2日あったら1日。
作業標準類の書類手直し等、適当な理由をつけ出勤した形にし、朝だけ刻印しに出社、だが 直ぐさま帰宅し、夕方程良い時間に刻印するためだけに再び出社するというものだ。
これによって俺の勤務時間は大幅に伸び、月の給料が増額↑その増えた分を黒下課長の必要経費に廻す…という流れだ。
そう、噂は本当だったのだ…。
俺は耳を疑った‥。
本当に黒下課長は悪さをしていた…。
足が震える…(⁠(⁠(⁠;⁠ꏿ⁠_⁠ꏿ⁠;⁠)⁠)⁠)。
俺はもちろん、これが業務上横領という犯罪行為だと判ってる‥が、断れるはずもなく指示に従うしか無い‥。
そして、指示された通り実行した‥。
ある時、ひと癖も ふた癖もある騎士塚(きしづか)組長にこう言われた‥。
騎士塚組長:『おまえは会社に居なくても、いつも居ることになってるなぁ…。ニヤニヤ』
‥(⁠ʘ⁠ᗩ⁠ʘ⁠’⁠)  汗‥ 
この事を黒下課長に伝えると、
黒下課長:『気にするな、無視しとけばいい。また何か言われたら報告しろ…。』
と言われた。
俺がカバン持ちをするずっ〜と前から実行されていたのだろう。
一連の流れが出来あがってる。
噂の真相を目の当たりにした。
俺の業務とは一体何なのか?
七海興業では、これは当たり前なのか??
こんなことをして大丈夫なのか???
自分に問う。
しかし黒下課長の指示は絶対、ここで生きていく為にはやるしかない。
俺は指示されるままに日々水増し打刻した。


Chapte 25
〜課内旅行〜
今日は黒下課長が第二工場のトップになってから、始めての役職者課内旅行だ。
七海興業の場合、社内旅行が数年前に消滅し、その後、各課で行われる様になっていた。
この時、俺は数ヵ月前から黒下課長より多めにタイムカード、水増し打刻しておくよう指示受けていたので、およそ10万ほどの裏金が出来ていた。
さて当日、現場の組長衆が自家用車を出し、部下の班長衆を数台に分乗させ高速道路を利用、3時間ほど走った温泉地を目指した。
途中、サービスエリアで昼食。黒下課長が皆に言う。
黒下課長:『お前ら、好きなものを頼め!』
そして俺に目で合図する。
俺は食券販売機に次々とお金(裏金)を入れた。
組長&班長衆:『黒下課長!御馳走様です!!』
金の出所など知る由もない役職者衆、
揚げ物に刺身、ラーメンに丼物と値段を気にせず各々好きなものを選んだ。
黒下課長はこの様なイベント事を非常に大切にしている。
こういう集まりの時、皆に大いに振る舞い、語らい、悩みを聞いて、相手との距離をグッと近づける。
俺は、その事を分かっていたから言われる前に惜しみなく紙幣を入れ課長をサポートした。
その後、温泉地に着き、黒下課長が上座へ座って第二工場特有の¨反社風¨宴会が始まった。
普段の緊張から解放された役職者たちは大いに楽しんだ…が、俺はそうはいかない…。
黒下課長が意図する様に、廻りに気を配り、盛り上げ、段取りを遂行する。
宴が終盤を迎えた頃、お決まりの夜の街へ…となる。
しこたま呑んで、騒いで、部下と語らって、真っ赤になった顔の黒下課長。
ふいに俺に近づいてきたかと思ったら、廻りに聞こえない様、耳元で
黒下組長:『ワシは行かんから、お前らだけで行ってこい。』
と言った。
俺:〜えっ?⊙⁠.⁠☉〜
と課長の方を振り向くと、そこには全くの真顔があった。
俺:〜????酔ってないのか?〜
いや、たしかに酔っている様だが…
俺~…驚いた、この人はどこまで…。~
そして、こう続けた。
黒下課長:『いくら残ってる?』
俺:『はい…8万ほどは…』
黒下課長:『それを明日、俺に渡せ…。』
翌朝、残ったお金を指示通り黒下課長に渡し、俺は当時付き合っていた¨きよみ¨と結納する為、新幹線で先に失礼した。
このころから黒下課長が要望する金額が増えていったのだった。


Chapter 26
〜宝くじ〜
日々、黒下課長からの要求は増えている。
通常の業務に加え
・毎朝、お気に入りコーヒー準備
・週始め、神棚の榊、購入と交換
・毎週月曜日朝、いつもの煙草1箱渡す
・不定期開催イベント時の開催費捻出
などなど…。
もちろん、これにかかる費用は俺のタイムカード水増し打ちから出さなければいけない。
だから、黒下課長は頻繁に、
黒下課長:『金は足りているか?計算出来てるか?足りなければキチンと計算して水増せよ。』
と言ってくる。
そんなとき、黒下課長のお姉さんが旦那さんと共に出稼ぎで七海興業へ入社した。
もちろん、事務所に口利きし、通常ではあり得ない50代後半の夫婦を入社させたのだ。
この来日に、黒下課長は勘当同然で家を飛び出した自分が、日本で成功した姿を見せたかったのだろう、お姉さん夫婦のアパートの世話から、足となる車の購入など、来日直後の面倒全て見たのだ。
と言っても、俺や、他の息が掛かった外国人作業者を使い 業務として遂行させたのだが…。
その引っ越し時、俺と一緒に手伝った作業者の中に¨下橋(しもはし)¨という日系のおじいちゃんがいた。
この人、黒下課長が組長時代、 黒下さんの部下として現場を管理していた方で 「高齢と能力の限界」を理由に一般作業者まで降格となった人。
その後、教育担当という形で 細々と現場に残っていた人物なのだが、この下橋さんにはある特技があった。
それは「宝くじ高額当選を度々当てる」という事だった。
これは現場で噂になっており、下橋さんはある種の有名人だった。
それを知っていた俺は、下橋さんに
俺:『下橋さんは宝くじ良く当たるそうですね。』
下橋:『はっはっは、たまにだけどね』
俺:『凄いなぁ、もう相当儲かってるんじゃないですか?』
下橋:『…それがそうはいかんのよ…。』
俺:『???…』
下橋:『……』
俺:『もしかして…?!』
下橋さんは怪訝そうな顔をして押し黙ってしまった。
そう、当たった宝くじは黒下課長に巻き上げられていたのだった。
当たった事が噂になったら、すぐに金をせびりに来るらしい。
それからは常に、抽選日になると結果を確認しに来て逃げられない状態に。
最近では課長自身も買い始め、結構な枚数、毎回つっこんでいるようだ…。
結果、もう幾ら金を貸したか判らない位だ…と下橋さんは言う。
ここで俺はピンっときた。
俺:~そうか…だから能力無し!と評価され役職者から一気に一般にまで降格されても、まだ教育者という形で退社せずに第二工場に残っているんだ~
黒下課長が、いまだにこの人を自分の下に残す理由は金ズルだったのだ…。
下橋:『わしは恐ろしいよ…』
と下橋さんは呟いた。


Chapter 27
〜300円の判子〜
ある日の午後、俺は現場を廻り必要書類を回収していた。
するとポケットに入れてある業務用PHSが鳴った。
黒下課長からだ。
黒下課長:『直ぐ来い…。』
俺は声のトーンが普段より低いことに何か嫌な予感を感じた。
直ちに課長の元へ向かう。
すると、工場の外でエンジンかけたままの車に、自らがハンドルを握り停車している課長が居た。
そして俺に助手席に座れと言う。
やはり、今日はいつもと様子が違う…。
俺:〜…???…なんで?…。いつも俺が運転するのに…しかも急いでるみたい…。〜
すると、会社で決められている通行禁止区域を無視して爆走、ものの15分ほどで最近購入した黒下課長自慢の自宅に着いた。
黒下課長:『おう、家に上がれやっ!』
俺は真新しい畳の匂いがする和室に通された。
ここは数週間前、課内の役職者を全員呼んで新築披露パーティーを派手に行った部屋だ。
市場で買ってきた魚を捌き、多いに飲み、多いに食べ、課長を祝ったあの部屋だ。※もちろん経費は全て俺のタイムカードから捻出した裏金。
すると、そこには見たこともないスーツ姿の男が座っていた。
そして課長は俺にこう言った。
黒下課長:『すまんな、保証人になってくれ』
俺 :『!!??』
黒下課長:『もう勅使河原さんに迷惑かけれんから、悪いがお前が保証人になってくれ。どうしても庭を綺麗にしたい。200万かかる…。』 
俺 :『…勘弁してください、(そうだ!!)判子無いですもん!』
黒下課長:『そこのホームセンターで買ってこいや。』
俺 :『……わかりました…。』
俺は指示された通りホームセンターへ行き、300円出して安い判子を買って戻って来た。
そして言われるがまま、用意されていたローンの保証人欄へ判子を押した‥。
誰もがあの状況では仕方ないと思う…。仕事中に通行禁止区域を通って営業マンの目の前に座らされ、判子押すだけの紙を用意されて上司に『頼む!』…と言われたら誰だってそうするだろう。
しかし、『もう勅使河原さんには迷惑かけれん』ってどんだけこんなこと二人でやってたの!!?
そして、なぜ通行禁止区域を走ったんだ…?
そうか、業務中だから他の七海興業社員に見つからない様にするためだったんだ…。
更に、黒下課長の要望はエスカレートしていく…。


Chapter 28
〜ORIXのカード〜
この頃、七海興業全体で作業者の退社が止まらなくなっていた。
七海興業の従業員は、ほとんどが日系人期間社員。
その為、他社で時給が良いところがあると 直ぐにそちらへ流れてしまう傾向がある。
特に長期休暇となる盆と正月、GWは日給月給の期間社員にとって稼げない時期の為、休み明けは作業者が居なくて親会社の生産ラインを停止させてしまう現象が起こる。
こういう時は、いつも役職者が一時的に作業工程に入り、本社から新しい作業者が配属されるまで辛抱するのが七海興業の常となっていた。
今はその時期で、俺も以前担当していた部組班に応援として入る様、黒下課長から指示されていた。
仕事は辛いが、黒下課長からのキツい要望から一時的に逃れられるので正直ホッとしている。
だが、今回は違った。
ある日、満面の笑みで黒下課長が俺の工程を巡回しに来て、こう言った。
黒下課長:『ORIXカードって知ってるか?』
俺:『はいっ???』
俺はパチンコにのめり込んで金銭感覚がおかしくなった過去があるのでカードは持たないことにしている。
俺 :『いえ、知りません…。』
そうを伝えると、
黒下課長:『今、一番金利が安いのがORIXカードなんだ。でな、ソレ、作って俺に渡せ。』
俺:『えっ?!(゚⁠ο゚⁠人⁠)⁠) す、すいません、それは勘弁してください!!!』
一瞬耳を疑った。
俺はそう言い、現場の応援に振り回されてるフリをし、そそくさと作業に戻った。
すると黒下課長は他所へ行ってしまった。
冗談だったか、なんだったのか?判らない…俺の心臓は感じたことない程バクバクいっていた…。


Chapter 29
〜腐る〜
ここは嘘と金と妬みに溢れた場所。
人種など関係なく、どうやって従わせるか、どうやって辞めさせるかを役職者は常に考えている。
人は使い捨てが当たり前。
人が足りなければ事務所に補充の依頼をすればいいだけ。
どんなに悪さをしても本社からの追及と調査は無く、能力が無くても高給で美味しい思いができる。
弱味を見せたら漬け込まれ、用が無くなればあっという間にお払い箱…。
世間一般で言う「良い人」は、ここでは"格好のカモ"となる。
安全、品質、なんて関係ない。
生産性第一!スピード命!!
怪我でもしようものなら、全て自分が悪いように捏造され、公になる前に闇へ葬られる。
‥‥それが七海興業。
そして、ここ第二工場では勅使河原課長の欲望に答え、自分を出世させて貰う為の黒下式悪しき手法が当たり前。
腐りきった職場…。
朝、暗いうちに工場に入って、夕方、暗くなってから外に出る。
太陽の光を浴びることなく一日が終わる閉鎖的な職場。
人間て何のために仕事するのだろう…
一生懸命って何だろう…
そう思った。


Chapter 30
〜決心〜
翌日も現場は人が足りずにバタバタだった。
俺は昨日同様 応援に入った。
暫くして、混乱した現場を黒下課長がいつもの様に巡回しに来た。
そして、俺にこう言った。
黒下課長:『おい、ORIXカードいつ持ってきてくれるんだ?♥』
‥て。
俺は改めて黒下課長の顔を見た。
少し照れながら、満面の笑みで、愛嬌ある顔で俺を見てる課長…。
時間が止まった様だった。
俺は(これは本気だ…)そう思った。
そして決心した。


Chapter 31
〜悪戯っぽく笑う〜
その日、俺は人が足らない現場の応援をした後、通常の自己業務をしに事務所へ戻った…。
腹をくくって…。
ここ数日、黒下課長からの依頼されている「ORIXカードを渡せ」は流石に出来ない。
今までタイムカードの水増し打ちによる裏金作り、現場役職者の用心棒、コーヒー、タバコ、神棚の榊購入、現場用携帯の契約と引き渡し、黒下家の身内の世話から保証人などなど etc…。
指示されたことは全てやってきたが、これだけはっ!ここからはっっ!!
もう出来ない…。
もう逃げるしかない…!!!
と決めていた。
それには黒下課長に気付かれてはいけない…。
いつも通りにしつつ、
他の役職者へ極力迷惑かけないようにしなければいけない…。
この為、今日は直近の現場応援で溜まりに溜まった書類を全て終わらせ、後工程に回すと決めていた。
19*00を過ぎたころ、黒下課長が夜勤開始時の見廻りを終え、事務所へ戻ってきた。
そして事務所で書類を処理している俺を見て、こう言った。
黒下課長:『なんだ、まだ居たのか?』
俺 :『はい、書類が溜まってしまって…。今日中に、ある程度終わらせたくて残業してます。』
黒下課長:『そうか、あまり遅くなるなよ。俺、帰るからな。』
俺 :『はい、お疲れ様でした。』
黒下課長:『それから、カード頼むねん♥️』
俺 :『………はい。』
そう言って、黒下課長は悪戯っぽく笑みを浮かべ帰っていった。


Chapter 32
〜準備〜
俺は改めて確信した。
黒下課長は本気でORIXカードを欲しがっていて、確実に俺に催促している…。
先日来日した実の姉さんに良い格好、つまり日本で成功した姿、お金を沢山稼いで(※実際は横領、恐喝して巻き上げた汚いお金)大勢の日本人をアゴで使い、皆がひれ伏してるとこを見せたいのだろう…。
今夜しかない!これ以上、課長にタカられるのは御免だ…。
そのために準備するんだ!。
相当数 溜まっていた書類を処理し、他の役職者にかかる迷惑が最小限となるようにした。
そんな時、思い出した。
俺:〜おっと忘れるとこだった…現場に貸し出している俺名義の携帯。このまま逃亡したら、ずっと使われ続けてしまう、回収せねば!!〜
俺は、急ぎ現場へ行き、担当役職者へ俺:「メンテナンスです」
と嘘を言い、数ヵ月前に契約させられた携帯電話を回収した。
毎月の携帯代は約1万円。
危うく これからも払わされ続けるとこだった。
もちろん、現場の担当者はこれから起こることを知らない。
俺:〜申し訳ない、俺のだから返してね…。ごめんよ〜
心の中で謝った。
そんなこんなで事務所に戻ろうと時計を見れば23*30。
俺:〜さぁ、早く家に帰って夜逃げの準備をしなければ…〜
と考えを巡らせドアを開けると、
そこには日本人役職者 騎士塚(きしづか)組長が居た。
騎士塚組長:『なんだお前、遅いな今日は?』
俺 :『……はい。』
騎士塚組長は今週夜勤シフトで、現場を見廻った後、ひと息つくため事務所に来たのだった。



Chapter 33
〜告白〜
騎士塚組長と会ってしまった。
予定外だ‥(汗)俺は 
俺:〜クソッ…!!(⁠-⁠_⁠-⁠;⁠)〜
と心の中で呟く。
ここで少し、騎士塚組長について書きたいと思う。
この騎士塚組長という人は、本筋でいけば課長に昇格するくらいの御方。
年齢は黒下さんより1つ下、身長170くらい、体重80ほどの肥満体。
黒下課長をひとまわり小型にした様な方で、高校を卒業して直ぐに結婚、
お子さんは2人。
持ち家もあり、七海興業一本の叩き上げ、もちろん生粋の日本人だ。
早くに班長へ昇格し経験も人脈も豊富、そのため親会社に顔が利いた。
七海興業は親会社内に於いて構内請負いという形で作業させてもらっており、常に親会社の方々と一緒に居るので、顔が利く事は非常に大事な事。
上司からの指示は必ず完遂する監督者で剛腕、上役から見れば仕事がデキる組長なのだ。
では、これらが揃っているのに、
なぜ?課長にならいのか…それは、
騎士塚さんはYES,NO.ハッキリさせるタイプだ‥という事。
騎士塚さんはプライドが非常に高く、性格は短気、利己的なところも多分にある人物。
簡単に言うと"クセが強い"。
その様な立ち回りをするので味方もいるが敵も多かった。
人との接し方としてYES,NO.好き嫌いが明確な為、嫌いになれば辞めるまで徹底的に潰すやり方をする。
そこが黒下課長とは大きく違うところであり、実際、黒下課長も過去、俺にこう言った事があった。
黒下:『騎士塚には気をつけろ、あいつは怖いぞ…。』
生かさず殺さず、小さな事でも自分のプラスになるならば利用する黒下課長とは真逆…上役から見れば、
部下を育てる○=黒下(自分に少しでもプラスなら生かす)
部下を潰す ✕ =騎士塚 (好き嫌い明確)
そんな、風に見られていたのだろう。
黒下課長はそのことを自分のアピールポイントとして良く理解していた。
だから俺をもカバン持ちにしたのだ。
これに加え黒下課長は、自分を上に引っ張りあげて貰うために、金に困っている勅使河原課長の金銭欲求をサポートする『タイムカード』体制を構築し、互いに秘密を共有しあって一心同体の蜜月関係を築いたんだと考えれた。
結果、いつの間にか黒下課長の方が頭ひとつ抜きに出てしまった…という流れ。
そんな騎士塚組長とバッタリ会ってしまった。
だが俺は、こんな気持ちにもなる。
俺:〜騎士塚さんに全てを話そう…。〜
なぜそんな風に思ったか‥と言うと、散々嫌みを言われ続けたからだ。
※Chapter24より参照↓
騎士塚組長:『おまえは会社に居なくても、いつも居ることになってるなぁ…。ニヤニヤ』
なんて、ずーううっと言われ続けていたから。
早速行動に移す。
俺:『あの‥騎士塚さん、ちょっとお話 いいですか?』
騎士塚組長:「あんっ?」
騎士塚組長は怪訝そうな顔で俺を見たのだった。


Chapter 34
〜騎士塚さんへ〜
俺は騎士塚組長へ話した。
全て話した。
今まで黒下課長の指示でしてきた事、されてきた事。
そして現在、クレジットカードを要求されていることを。
騎士塚さんは少し悲しい顔をしながら、
騎士塚:「勅使河原さんに今から電話で相談してやろうか?なんとかしてくれって。俺が言ってやるぞ…?。」 
が、俺は、もちろん断った。
勅使河原課長と黒下課長は、蜜月の関係なのだから言っても何も解決しな------------い!!
第二工場伝統のタイムカード水増し打ちは、結局、困窮する勅使河原課長に金を廻すため、黒下課長が考案し ずっとやってきた事。
黒下課長は、勅使河原課長を援助することで他の日本人役職者を排除し、自分(黒下)を上に引っ張ってもらう…そういう絵図を書いたのではないだろうか…。
きっとそうだ、間違いない、だから言わなくていい…。
只、俺は明日から居なくなる。
~あいつ、なんで失踪したの?~となった時、騎士塚さんには真実を知っておいてもらおう‥。
騎士塚さんは
騎士塚:「解った…」
と言い、
騎士塚:「明日から大変な事になるなぁ…。」
と呟いた。
それは黒下課長が慌てふためき、現場はもとより、会社、親会社を巻き込んでひっくり返ったようなバタバタ!!になるのを意味するから‥。
俺は少し、
ほんの少〜〜〜し だが嬉しかった。それは、散々嫌みを言われた騎士塚組長に本当の事を伝えれたからだった‥
(゚∀゚)。


Chapter 35
〜白み始めた空〜
俺は事務所にある自分の机中をスッカラカンにし、深夜自宅に戻った。
もう出社できない不安を少し感じつつ…。
すると、予想外に母親が起きてきた。
母:『遅かったね…お疲れ様』
俺:『只今‥、ごめん!起こしたね…』
母:『いいよ、ご飯は?』
俺:『いらない。それより…逃げるよ…』
母:『?!…。なんで???』
俺は今まで職場であったこと。
黒下課長にされたこと、今、現在されていることを全て話した。
母は驚いて呆然としている。
母に説明してるうち、興奮しだして声が大きくなったのを『何事か?!』と気付いた親父が二階から降りてきた。
俺は母に説明したことを親父にも改めて話した。
すると親父は
親父:『なにもお前が全て背負って辞める必要ないじゃないか…?。』
と言った。俺は
俺:「辞める辞めないの問題ではなく、今はとにかく逃げるから!」
と伝えた。
そして東の空が白みはじめたころ、幼馴染みを頼りに車を北へ走らせた‥。


Chapter 36
〜ひっくりカエル〜
後に聞いた話では、黒下課長は職場内にある親会社の事務所へ行って
黒下:『俺はこれから日本人を信用せんっぞッ!!!!(絶叫)』
と叫び、相当取り乱したらしい。
そりゃそうだろうと思う。
わはははは…(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)。
俺はその頃、幼馴染みをのとこを訪ねていた。
その幼馴染とは小学校からの付き合いで馬が合う。
持ち帰り専門の寿司屋を、雇われ店長として経営しており、七海興業からは70キロほど離れた場所で商売し、店は店舗兼住居をかねていた。
隠れ家としてはもってこい👍
お願いして匿ってもらった。
ひと息付き、母親に連絡すると黒下が自宅まで来た…と話があった。
もちろん事情を知っている母親は
母親:『息子は居ませんっ!!!』
と言い、追い返してくれたそうだ。
しばらくして、君沢部長も家を訪ねてきて、名刺を置いていったそうだ。
その名刺裏には『とにかく連絡よこせ』と書いてあった。


Chapter 37
〜不安〜
幼馴染みのとこに転がり込んで2日が経った。
幼馴染みは全く疎まず、むしろ話し相手が出来たと喜んでくれ、俺も久しぶりにリラックスしている。
会社では蜂の巣を突っついた様な騒ぎだろうに…。
ざまあみろっ!!!という気持ちと、
これからどうなるんだろう?という気持ちが交互に波の様に絶え間なくやってくる‥。
俺はこれからどうなるのか‥?
職探しをしなければいけないが、何の職につけばいいのか…頭も良くないし、資格も何もない。
仮に就職できたとしても、またイチから全てを覚えなければならない。
ああああああぁ…(⁠ ⁠≧⁠Д⁠≦⁠)。
あともう1つ、近々結婚する予定で話が進んでいた交際相手"きよみ"の存在だ。
電話で
俺:「逃げなければいけなくなった…」と伝えたところ、
きよみ:「ただ幸せになりたいだけなのに…」
と泣かれてしまった。
あぁぁぁ、ど、どうなるの俺…(⁠ᗒ⁠ᗩ⁠ᗕ⁠)。


Chapter 38
〜口封じ〜
俺が現場から逃げ出して3日が経った。
だいぶ気持ちも落ち着いたし、"きよみ"の事が気になる。
母からは、たびたび会社から電話があると聞いていた。
やはり、戻って君沢部長に俺の口から直接話をしなければいけない…そう思った。
俺は幼馴染みに礼を言い、地元に戻ることにした。
ここで気掛かりなことがある。
それは…以前、法華津さんの指導法が悪かった時、怒った作業者が「コロス!」と言い、帰ってしまった事件があった事だ。
その時、黒下課長は俺をボディーガードに付け、万が一、本当に襲って来たときには「殺せ!」と指示を出した。※Chapter23参照
今回の場合、俺に詳細を暴露されては全てを失う黒下課長…。
最悪、業務上横領で刑務所行きにもなりかねない。
だから俺が全てを喋る前に抹殺する様、用意周到に奴の外人部隊が待ち構えているのではないか…?
そう考えた。
足が震え、脇汗をかく…。
取り敢えず、夜中、こんな時間に?というときに戻ることを計画し、実家到着予定時間は深夜1:00に決めた。


Chapter 39
〜草むらの中〜
予定通り深夜1:00に実家へ着いた。
周りを月明かりが照らす中、俺は愛車の中から息を潜めて周囲を伺う。
家の駐車場には、親父とお袋の車が停められているので、俺の大きい四駆は裏山の中腹にある空き地、そこに停める事とした。
街灯も、ひと気も、何もない、草ボーボーの静かな場所。
それは、いかにも茂みの中から手に手に凶器を持った外人達がっ!
いわゆる黒下の暗殺部隊がっ!!
俺が車外に出るのを待ち構える格好の場所!!!…の様に見えた…。
出れない、怖くて車外に出れない…。
耳を済ましても虫の声しか聞こえないが…。
居るのか?居ないのか??
そんな葛藤が30分程つづいた。
俺は腹をくくり、すぐに動ける様に靴紐を結び直して
俺:エイっ!!!!ヤーっ!!!!!!
で外に出た。
自分の心臓がバクバクいってるのが耳元で聞こえた。


Chapter 40
〜回想〜
俺は黒下課長のカバン持ちになってからの事を思い出していた、走馬灯の様に‥。
《回想:1 》
~タイムカードの水増し空打ち…相当やらされたなぁ。いったいどのくらい会社に損害を与えたのだろう?勅使河原課長と黒下課長に流れた金は総額幾らだ??俺がやらされる前からも計算すると、どんだけになるんだよ…。大体 俺は会社にどの様に評価されていたんだ?いつも残業ばっかやって休みの日も会社に来てる事になってるタイムカード見て、本社は何も思わなかったのかなぁ?社内で噂もあったのに、なんで会社は調べなかったんだ…?わざとか??アホなのか???
ははは、七海興業は絵に描いた様なブラック企業だな。~
《回想:2 》
~その裏金で黒下課長は相当 私腹を肥やしたなぁ…。宴会に懇親会、役職者会などなど 全てのイベント開催費、携帯代、煙草代、神棚の榊代、コーヒー代、何から何まで俺の財布は黒下課長の財布にされてたなぁ…。
家を買えたのも結局空打ちのお陰だぞ、ありゃぁ‥。~
《回想:3 》
~そうそう、二十年ぶりの母国凱旋帰国とか言って、仕事中、国際空港まで俺の車で送ってった事もあったっけ…。何が凱旋だよ、「あんたは強制帰国だ、もう日本に戻ってきちゃ駄目だよ」って腹の中で思ったなぁ‥ははは。搭乗直前に空港内の本屋に寄ってTOYOTA自動車社長の自伝を買っていたのは、「流石!」と思ったけど。~
《回想:4》
~あと領事館にもカバン持ちで業務中に連れていかれた事あったなぁ‥。
黒下:「俺は日本国籍を取るっ!」
なんて言って、なんだか沢山の書類を持たされ平日の昼間、仕事中に行ったなぁ…。あれから、話は進み実際に日本人になったんだろか…?こんな悪人、日本人にしちゃだめだよ国は…絶対に~
《回想:5》
~用心棒に、子供の世話、保証人に、運転手…ははは、ほんと仕事よりプライベートの世話の方が多かったなぁ…。~
《回想:6》
~日本人が考えつかない様な事、そこまでやらない様な事を平気でやってくれたよ…実写版ジャイアンだね黒下課長は。…そんで今夜、俺を殺れば全犯罪コンプリートってか…。~
そんなことを思い出していた…。


Chapter 41
〜君沢さんへ〜
俺は自宅に戻れた。
草むらの中にも自宅廻りにも黒下暗殺部隊は居なかった。
ホント良かった、オレ‥生きてる…。
全く寝てないが、さっきの恐怖が嘘の様に気持ちはスッキリしている。
今日は名刺を置いていってくれた君沢部長へ全て話そうと決めていた。
初めての会社で初めての職場、配属当初から面倒みてくれた君沢部長‥。
昔、現場で溶接の火花を浴び片眼を失明したと聞いた君沢部長。
免許が無いので、職場の催しが終わると俺が家まで送った君沢部長。
車からの降り際には、
君沢部長:『これ…タクシー代…』
と言って諭吉1枚置いていく粋な上司。
高い肉を食べたことないと言えば高級しゃぶしゃぶを食べに連れていってくれ、これでもか!とおかわりさせてくれた君沢部長。
俺が役者になる!と言って退社しようとしたら
君沢部長:「学生時代、俺も映画エキストラのバイトをしたけど、そんなに甘いもんじゃないぞ!」
と諭してくれた君沢部長。
第二工場へ転属となったとき、
『頑張れ!』と手書きのメッセージをくれた優しい上司。
俺:〜全てを話そう〜
そう決めたんだ君沢部長に‥。


Chapter 42
〜ガラス張りの部屋〜
ちょうど朝の8*30、俺は会社に電話した。
応対した事務員に君沢部長へ繋いでもらう。
君沢部長:『おう!!大丈夫かお前‥?』
懐かしい声、受話器越しに思わず涙ぐむ俺‥続けて、
君沢部長:『取り敢えず会社に来て全部話せ‥‥な‥‥?。』
そう、君沢部長は俺に言った。
俺は指示通り、会社に向かった。
恥ずかしい様な怖い様な‥変な感覚…。
事務所に入り、ガラス張りの別室で待機させられる。
暫くして君沢部長が満面の笑みで入ってきた。
俺は安心のためか、何かわからないが溢れてくる涙を堪え第二工場であったこと、されてきたこと、経験した事を全て話した。
君沢部長は優しい笑顔のまま、時折、
黙ってウンウン‥と頷き、聞いてくれた。


Chapter 43
〜君沢裁き〜
君沢部長:「それは勅使河原の仕業だな!手慣れてる、出来上がってる!!黒下と言うより勅使河原だな!!!。」
君沢部長はそう言った。俺は、

俺:「そうかもしれませんが、勅使河原課長に直接指示されたことは一度もありません‥。あくまでも、黒下課長から指示されていました。」
そう答えた、実際にそうだったから。
だが俺も腹の中では
俺:〜部長の言う通りだろうな‥〜
と思っている。
暫く考え、君沢さんは俺に
君沢部長:「とりあえず、お前は暫く休め。大変だったろう…?。自宅待機という形でこちらから連絡するまで しばらく休め、なっ。」
と言った。
この"自宅待機"というのは、病気や怪我、その他、何らかの事情ある時、給料の6割を会社が保証しながら、出社しなくてよい制度だ。
俺の場合、問題が大きいので時間がほしいのもあるのだろう…。
どちらにせよ君沢部長は、俺にとって最良の対応をしてくれる筈なので指示に従い明日から休むことにする。
深く頭を下げ会社を後にした。
俺はこの後90日間休むことになった。


Chapter 44
〜心機一転〜
君沢部長に全てを話し、自宅待機になってから90日が過ぎた。
その間、毎日、彼女の"きよみ"宅近辺まで出向き、パチンコ。
パチンコ、パチンコ、パチンコの毎日だった。
やることもなく、不安を打ち消すように学生時代さながらパチンコに明け暮れた…。
結果は勿論…激負け!!…ははははは(汗)。
俺:〜早く仕事をしないと…金がやばい!〜
と思っていた丁度その頃、君沢部長から連絡が入る。
君沢部長:「あした事務所に来い。」
とのこと。
翌日、俺は指示通り本社事務所へ出向いた。
すると、意外にも初めての職場、そう、あのウグイス鳴く小さな工場に戻ることになったのだった。
俺:~なんで?今更あんなとこで何やるの?~
と思っていると、これから君沢部長肝入りの"管理推進室"というのを立ち上げるとのことだった。
俺は心機一転、そこで働く事になるらしい‥。
この"管理推進室"とは、今回の様な不祥事を今後現場が犯さない様、日々、決められたことを本当に実施しているかパトロールする部署らしい…と言っても立ち上げたばかりの部署、俺を含め総勢4名らしいのだが‥。
俺:〜警察みたいなもん??うーん…わからん〜
なんとなく七海興業に期間社員で入社し、なんとなく社員になり、なんとなく彼女と結婚の話しになるまできた。
パチンコにはまって専門学校をクビになった俺が‥いろんな事を七海興業で経験した。
今回も辞めるつもりだったのが、縁あって、まだ七海興業のお世話になる。
これから君沢さんの肝入りの部署で頑張らなければ!と心に誓った俺だった。


Chapter 45
〜管理推進室〜
あの内部告発以来、俺はウグイス鳴く工場に戻ってきた。
あの頃と比べ、かなり変わってしまった元職場。
現在はドアの結束作業(※Chapter5 参照)も一切しておらず、主に倉庫として使われているようだ。
あのグウタラ前野兄弟も、気が強そうなお婆ちゃんも、外国人作業者もいなくなっていた。
ただ、事務所におばさん事務員が留守を預かる様に居るだけだった。
俺:「お久し振りです、ご無沙汰してます。この度、戻って参りました。ニコっ(⁠´⁠ ⁠.⁠ ⁠.̫⁠ ⁠.⁠ ⁠`⁠)」
こう言うと、おばさん事務員は
事務員:「おかえり、よく戻って来てくれたね。大変だったね‥。」
と言ってくれた。
恐らく、何で戻ってきたかは知っているだろうに気を遣っている様子、優しいオバサン(゚∀゚)
今日からここで、『管理推進室』なる部署が立ち上がる。
それは君沢部長、肝入りの部署。
ここで推進室のメンバーを紹介する。

課長に牧野(マキノ)さん。
七海興業の稼ぎ頭である3つの工場のひとつ、第一工場の課長だった方。(※第二工場は黒下。第三工場は勅使河原が課長を務める)最近、健康診断で2万人に1人の難病が発覚、現場をリタイヤし、このウグイス鳴く工場で療養中だった‥が、本日から立ち上げられた"管理推進室"の責任者に君沢部長より任命された。

2人目に茨(バラ)さん。
勤続ウン十年の大ベテラン、君沢部長、牧野課長とは旧知の中。組長まで務めたが年齢と能力不足を理由に降格させられ、流れ流れて本日より推進室へ移籍した。

三人目に前村(マエムラ)さん。
↑茨さん同様、現場の組長まで務めた方。数ヵ月前、重度のうつ病が発覚し現場を離脱、病院で投薬とカウンセリングを受けながら職場復帰を目指し牧野課長同様、療養中だった。今回、管理推進室が立ち上がり、牧野課長が責任者になったので そのままメンバー入りした。
そして4人目に俺…。
健康上や能力、様々な理由により
現場を出た‥簡単に言えば"訳あり"者達の集まりである。
唯一共通しているのは君沢部長と良好な関係を築いていた者‥ということ。
言葉は悪いが寄せ集め臭がプンプンする連中。
はたして巧くまわるのだろうか…。
いつも通り、俺は不安になった。


Chapter 46
〜呪文の様に〜
管理とは…『全てのモノを"ゼロ"から見る観点で現状を把握し、明日に向かってより良くすること』(意)→管理とは…思い込みや噂、今までの慣例で物事を見るではなく、まっさらの状態で見て現状を把握し、未来に向け より良くなる様、行動するしなければいけない。
七海興業は構内請負い業であって人材派遣ではない。
構内請負いと人材派遣の違いは、人をいれるだけが派遣、人をいれるが管理もするが請負い。
七海興業はこの管理部分で余計にお金をもらっているから、役職者(管理監督者)が存在できる。
その為に管理をしっかりしなければいけない、七海興業のウリは管理だ!!
こう教わった。
そして『全てのモノを…』この格言を呪文の様に毎日唱えさせられ、何度も何度も言わされ、覚えさせられた。
管理推進室の基本だからだ。
推進室はここから始まった。


Chapter 47
〜手探りの中〜
まったくの手探り状態の管理推進活動。
茨さん、前村さん、俺、が現場巡回した後は、牧野課長のPHSへ苦情の電話が入る。
忙しく作業しているところに現場をドロップアウトした連中が、作業標準書類を元に"じーッ"と確認照合するのだから気分が良い訳ない。
邪魔だ!
目障りだ!!
奴らのせいで作業が遅れた!!!
不良がでた!!!!
など、文句は枚挙に厭わない‥。
俺も前村さんも茨さんも、自分が現場に対し監視役的な事を出来る人間ではない‥とわかっているが、それが仕事となった今、思い込みや慣例で判断するのではなく、頭まっさらの状態で標準書と実作業を照合し結果を報告しなければいけない。
推進室立ち上げ前まで、心静かに療養していた難病治療中の牧野課長、重度の鬱病を患ってる前村さん、穏やかな日々を奪われてしまったから心中堪らないだろう‥。
特に牧野課長は、君沢部長肝いりの部署発足でプレッシャーもあるだろうし、訳あり3人(茨さん、前村さん、俺)の面倒も見なければいけないのだから…。
このストレスが病気に影響しないことを祈るばかりだった。
この時期、俺は付き合っていた"きよみ"と結婚した。
もちろん、結婚式には君沢部長、牧野課長に出席してもらい、会社役員の"イチトシ"さんにも出席して頂いて‥。
その時、君沢部長は俺の両親に、
君沢部長:『会社のウリとなる重要な部署で働いて頂いてますのでご安心ください!』
と言ってくれた。
例の黒下事件で不信感を抱いていた親父とお袋も安心した様子だった。


Chapter 48
〜狐と狸と君沢さん〜
俺が逃亡し、自宅待機、その後、会社に復帰して数ヶ月が経った。
相変わらす、あの時の事を思い出すと呼吸が荒くなる。
その後の黒下と勅使河原はどうなったか…?と言うと
何もかわらず以前の職場で以前の地位(課長)のまま…。
ははははは、俗に言う"お咎め無し"だった。
勅使河原は、君沢さんに問い詰められても最後まで認めなかったと噂で聞いた。
黒下は全てを認め、直ぐに君沢部長に謝罪、第二工場の重要書類を全て本社事務所の一階書庫に保管するようになった。
これは閉鎖的だった第二工場の仕組みを変え『俺は何も隠してません!どうぞ見てください!!』という姿勢を表しているのだろう‥。
君沢部長の指示なのか、黒下流のパフォーマンスなのか…?そこまではわからない‥が‥意外だった…。
警察に逮捕されてもおかしくない事件だろうに解雇?懲戒免職??にしない。
対外的に公にはしたくないのだろう。
まぁいい、君沢部長が決めたのだから‥。
俺はまだ心にキズがあるようで
俺:「黒下課長には会いたくない、第二工場には行けない。」
と牧野課長に言う。
牧野課長は
牧野:「行かなくていいよ。」
と言ってくれた。
第三工場の勅使河原の元へは
直接指示を受けたことはなかったので気にせずに行ける。
会っても普通に話せる。
そんな中‥ある時、勅使河原からこう言われた。
勅使:『おい、お前(俺に対して)。今回は大変な目にあったな。あいつ(黒下)酷いことしやがるな!全く…。ところで、俺(勅使河原自身) の事、君沢部長に何か言ったのか?』
俺 :『??!!いえ、君沢部長にも同様に聞かれましたが、直接、勅使河原さんから指示受けたことは無かったので‥。はい、その様に言いました…。』
勅使:『だよなぁ。俺はお前にタイムカードの事とか指示した事ないもんなぁ。』
俺:『はい、それは事実なんで…。』
勅使:『悪いけど、君沢や、役員の"イチトシ"さんが俺がやったと思ってるみたいだから、違う!って改めて強く言ってくれないか?』
俺:『?!…。はい、わかりました。しかし、今日の今、その様に言ったら、(あいつ勅使河原課長に言わされてる)って勘繰られるので、タイミングを見て改めて言います。』
勅使:『おうっ!頼むな!!』
こう言われた。
勅使河原もアノいっけん以来、君沢部長に睨まれ居心地が相当悪いらしい‥。
このまま出世の芽を潰されては堪らないと、俺に言ってきたのだ。
俺は俺で今後の現場巡回を踏まえ、うまくやらなければいけないので仕方なかった‥。
君沢部長の仕事の進め方は
〜事が起こらなければ動かない〜
〜今が良ければ極力そのまま〜
~動かざる事山の如し~
こんな印象を受けたのだった‥。


Chapter 49
〜前村さん〜
最近、前村さんの様子がおかしい。
おかしいのは以前からだが、いままで以上におかしい‥。
牧野課長に聞くと
牧野課長:「典型的な鬱の症状だよ」
と言う。
課長は管理推進室が発足する前から前村さんを面倒見ているので変化が分かるのだろう。
続けて牧野課長に質問する。
俺:『なんで前村さんはうつ病になったのですか?』
すると課長が教えてくれた。
牧野課長:『以前は、現場でバリバリのやり手組長だったが、新機種立ち上げのとき、小さいミスをして、それをライバルの日系人組長にオオゴトにされてしまって鬱になったんだよ‥。』
とのことだった。
奥さん、子供2人、新築の一軒家あるなかでのうつ病発症‥。
家族は困り果て、会社に懇願、君沢部長がすでに出社療養中だった牧野課長に預けるという形をとったらしい。
鬱の症状とすると、昼夜の区別がつかなくなり、出社したとしても寝てるだけの時もある‥。
これは睡眠薬の影響なのだそうだ。
そんな様子を課長は一冊のファイルにまとめていた。
会社としてこの様な対応をしています‥と履歴に残しているのだった。


Chapter 50
〜海を見に‥‥‥〜
そんなとき前村さんが朝、出社しなかった。
奥さんへ問い合わせると
前村夫人:〜朝、いつも通り家を出いきましたよ。〜
とのこと。
でも職場には来ていない、嫌な予感がする…。
すると、その日の夕方、前村さんは自宅近くの山中で亡くなっているのが見つかった。
出社した直後、会社へは行かず海を見に行き、その足でホームセンターで練炭を買い、会社が貸し出しているリース車の内で自殺を図ったのだった。
まだ小学生のお子さん2人と奥さんを残して…。
牧野課長は悲しみを堪えて、動揺している奥さんに代わり、通夜、葬式の段取りに忙しく動いている。
そして、前村さんが乗って最後を迎えたリース車を、牧野課長が運転して回収してきた。
俺:〜牧野さん、スゲー人だ。(⁠@⁠_⁠@⁠;⁠)〜
鬱ってな何なの?
そんなに死にたくなるのか?
なんでそんなになってしまったのか?
働かなきゃいけないっ!て言ってたのに…。
この時、俺は鬱病の怖さを知った。


Chapter 51
〜見てはイケナイ〜
前村さんの葬儀が行われた。
理由が理由だけに、ひっそりと慎ましく行われた。
お骨になった前村さんに対し、牧野課長は小学生の2人の息子さん達に
牧野課長:『お父さん、小さくなってしまったね…』
と言った。
息子さん達は小さくうなずき、俺たちは前村家を後にした。
数日後の天気が良い朝、運動不足解消の為に自転車で通勤していたとき、前村さん宅前を通った。
すると見慣れない高級車が駐車されているのに気付いた。
前村家の自家用車ではなく、奥さんの車でもない。
道路から見えた家の中には、髭を蓄えたダンディーな中年紳士が居た。
見覚えがある姿…思い出した!!
以前、パチンコ屋で前村さんの奥さんを偶然見かけた時、その隣に座っていた男…!!!親しそうに話していたのを思い出した!!!。
うつ病の一番いけないのはプレッシャーをかけること。
生前、前村さんは眠そうな目をして俺に
故:前村さん:『働かなければ行けない…俺は‥。』
と言っていた事があった。
前村さんは…、もしかして…、奥さんにせっつかれていたのでは?
もしかして奥さん、前村さんが邪魔だった…??
俺は見ては行けないものを見たような気がした。


Chapter 52
〜バスの運ちゃん〜
前村さんの死から、やっと、いつもの日々が戻り始めた頃、君沢部長が新たな指示を出してきた。
それは、俺と茨さん2人に
君沢部長:「大型自動車免許を取得してこい」
というものだった。
七海興業では、業者に依頼し作業者を大型バスで寮やアパートまで送り迎えしている。
その費用はザックリ月に約1000万円!年間にすると1億越え!!の送迎費用が出ていってるらしい…。
このため、自社のマイクロバスを使い、数ヶ所運行することで固定費の見直しを図ることが狙いとの事だった。
免許取得費用は会社持ちで、就業中に自動車学校に通って良いとのこと。
資格がない俺にとって"渡りに船"の話。
俺は喜んで学校に通い2週間で取得した。
これにより、一日の終わりはマイクロバスの運転手となって作業者を送る事が常となった。
まだコレといって活躍する場面がない我々(管理推進メンバー)にとって、少しでも利益を出す事、ありとあらゆることを推進する、"何でも屋"であることを自覚した。
そんな俺と茨さんに、君沢さんは『運送手当』の名目で月3万円給料につけてくれるようになった。


Chapter 53
〜縁起を担ぐ〜
ウグイス鳴く、小さく静かな工場2階で立ち上がった管理推進室、現場の巡回と終業時の作業者送りが軌道に乗った頃、君沢部長から
君沢部長:「本社事務所一階へ移転せよ!」
との指令がきた。
牧野課長は
牧野課長:「この静かな環境が良いのに…。」
と落胆していたが、
君沢さんからなので仕方ない…。
続けて、
君沢部長:「必要なものは、購入依頼せよ。机も椅子も新品に変えよ!」
との指示。
消しゴムから書類ファイルから承認印からetc…あらゆる購入依頼を書いた。この時、俺は心が踊ったのを覚えている。
例えるなら、野球の2軍から1軍への昇格、パチンコのノーマルから確変絵柄への昇格?!そんな感じだろうか。
同時に本社事務所の1階は食堂、そこにパーテーションで囲いをつけた。
本社1階なので君沢部長も来やすくなる‥ということは頻繁に指示がくる様になる‥と言う事。
君沢部長としては、推進室にもっと権限を与える狙いと、最近の良くない流れを払拭する意味もあったのかもしれない。
君沢部長は縁起を担ぐ人なのだ。
その後、推進室業務の2本柱「現場の巡回と送迎応援」から、予想通り、ありとあらゆる業務が舞い込んで来るようになる。


Chapter 54
〜俺のルーティーン〜
現場を廻ると相変わらずグズグズ嫌みを言われる。
「何のために廻ってる?」とか
「何を嗅ぎ回ってる??」とか
「お前らが現場を指導できる身分なのか???」など‥。
巡回先の担当課長が機嫌悪いときは更に酷い。
現場課長:「そんなことやっても意味無いから仕事手伝ってけ!ホレっ!不良出さずに、ライン止めずに作業してみろ!!」
と挑発される時もしばしば‥。
つらい‥。
正直、すごくツラい‥。
怒りで手が震え、ストレスが半端ない…。
推進室を受け入れるかどうかは、巡回先担当課長の方針次第なのだ。
推進室を目の敵にする課もあれば、協力的な課もある。
第一工場=○協力的
(元、牧野課長が責任者だったとこ)
第二工場=✕俺、行けない
(黒下が課長)
第三工場=△場合による
(勅使河原が責任者、本社には良く見られたいので課内の場所、人によりけり)てな具合。
あまり酷ければ、牧野課長に言うが改善は難しい。
牧野課長も推進室のあるべき姿が分からないからだ。
だから自ずと自分で考える‥。
俺のやり方としては、常にニコニコ、愛想良く挨拶し、忖度ありのコミュニケーション重視で廻る。
もともとは人見知りの無責任、口だけ、わがまま性格な俺だが、推進室に居る限り それは通用しない。
だから自分自身を改善しなければいけないと感じていた。
では、どうやって?具体例をあげると《現場の文句》
「お前らはいいよな、遅く出社しても給料、俺らと変わらないから」
という文句に対して、
《俺流の対策》
「現場の昼勤業務が始まる6:30には、工場近くに待機する。」
これを対策とした。
これには、朝5:30に家を出て、事務所の駐車場で7:00過ぎまで待機、わざと現場課長が朝、本社事務所に立ち寄る時間近く、会えそうな場所に控えて、偶然を装い挨拶する。
すると「なんだ、お前 早いな…。」となり、現場巡回時に言われなくなるという算段‥。
これは、ルーティーンとしてずっと続けた。
おかげで早起きが習慣となり、貴重な朝を有効に使える様になった。
さらに、朝が充実したお陰で、一日が巧く回る様になった。


Chapter 55
〜先輩との再会〜
午前中→現場巡回
昼食後→巡回報告書のまとめ
夕方 →作業者送迎
なんとなく1日の流れが出来た。
本社事務所の雰囲気、各課の特徴を踏まえ、巡回法、手順も出来上がった。
生産で例えるなら、試作から量産に移行した感じ。
心にも少しずつ余裕が生まれ始めた。
そんな帰宅時、あるものに目が止まる。
「空手道場リニューアルオープン 生徒募集」
俺は七海興業に入社して間もなく空手の道場に入門していた過去がある。
当時、一緒に働いていた数少ない日本人に「近くに有名な空手道場が出来たよ、一緒に行ってみない?」と誘われ、体はデカイが気が弱い自分が嫌いだった俺は、二つ返事で了解。
彼と彼の兄と三人で入門した。
その後、誘ってくれた同僚と兄は厳しい練習についていけず直ぐ辞めてしまったが、中学時代、柔道を三年間やって初段も持っていた俺は、柔道と合い通ずるものがあると感じ そのまま定着した。
空手の試合にも出るようになり、初級の部では優勝する程に上達。
茶帯となったところで、黒下の第二工場へ移籍となり、交替勤務にも就いたため、足が遠のいていたのだった。
その当時は、近隣の公民館を借りて運営していたが、まさかの常設道場としてリフレッシュオープン!!
近づくと車が停まっていた。
恐る恐るドアを開ける、人がいた。
懐かしい!先輩だ!!
先輩:「おー!久しぶりだね。」
そう言って快く迎えてくれた先輩。
昔話に花が咲き大歓迎してくれた。
経緯としては道場生が増えたので、師範に懇願し常設としてオープンし直したらしい。
続けて先輩は言ってくれた。
先輩:「鍵を渡すから、仕事帰りでも寄ればいいよ。好きな時に来て、好きなだけ練習すればいいよ(笑)」
翌日から俺は、毎日、終業後に道場へ寄ってサンドバックを叩く様になった。
現場巡回時の蔑まされた鬱憤が、どんどん抜けていくのがわかる。
家に帰るときにはリフレッシュし、オンオフが明確となって、いつもイライラしていた俺は影を潜め、嫁との関係も良好になっていったのだった。


Chapter 56
〜お嬢さん〜
ある程度の規模になると、会社は、障害のある人を雇わなければいけないらしい。
障害の程度、具体的な数字まではわからないが、七海興業もその対象となっている様だ。
あるとき、君沢部長が推進室に来て俺の運転で連れていって欲しい所があると言った。
俺は社用車を準備し、君沢さんを乗せ指示される場所へ向かった。
車内では君沢さんは一言も喋らない。なんとなく話してはいけない雰囲気を感じ取り、俺も黙って運転する。
七海興業から15分ほど走った所、ある民家前に停まるよう言われた。
車を邪魔にならない様に寄せ、車外に降りた。
そして、その民家の呼び鈴を君沢部長が鳴らす。
訳が分からない俺は君沢部長の後ろで控えている。
心の中で
俺:~なんだ?何でココに来たんだ部長は??~
と呟く。
すると、呼び鈴に応じ玄関が開いた。
そこには、おとなしそうな中年夫婦が立っており、君沢部長が丁寧に挨拶し中に招かれた。
俺も後に続く…。
八畳ほどの小綺麗な和室に通され、先程の中年夫婦、旦那さんらしき方と君沢部長が対面となり話し出す。
俺は隣へ座らせてもらい、二人の話しに耳を傾けた。
君沢部長:「この度は大変申し訳ありませんでした…。」
旦那:「いえ、こちらこそ、お忙しい中、来ていただいて…。」
そんなやり取りのあと、大体の内容が理解できた。
その家には障害のある女の子がいる。まだ18になったばかりのお嬢さん。
少しだけ知恵遅れの娘さんらしい‥。
この娘さん、先日、七海興業に入社したのだが、同僚の男二人に金を騙しとられた上、身体を"もて遊ばれている"という話しだった。
それを知った父親が会社に相談し君沢さんが謝罪に来たのだった。
‥‥俺はギョッとした。
俺:~何て場所に来ちまったんだ…。~
同時に
俺:~部長は何て仕事までしてるんだ~って。
部長に説明している旦那さんの後ろ、奥さんらしき人はとても悲しそうな顔をしている。
そりゃそうだろうてっ!
自分の娘がそんな目に遭っていれば…。とても切ない…。
エライとこに連れてこられてしまった…。
そう思った。


Chapter 57
〜お嬢さん: 続き〜
旦那さんと君沢部長は、暫く話した後
〜では…〜と目で合図して立ち上がった。
君沢部長が俺に目配せし、車を出せと指示を出した。
俺は旦那さんと君沢部長を乗せて走り出した。
ものの五分も走らないうちに、ある民家の前で停まれと指示を出された。
平屋の一軒家。
呼び鈴を鳴らし佇む二人。 
玄関が開いた。
すると、日本人ではなく、東南アジア系?年の頃30代後半?の女性がそこには立っていた。
その女性に促され中に入る我々。
奥の和室へ通された。
どうやら寝室として使っている様だが、そこには既に人が居た。
体格の良い三十代後半くらいのガラの悪い男が酒を煽っている。
こちらに気付くと
ガラの悪い男:「なんじゃ、コラ!!」
と君沢部長と旦那さんを威嚇してきた。
そこへ、先程、応対してくれた女性が
東南アジア女性:「アナタ、ホント、イイカゲンニシテ!メイワクバカリカテ!!」
と叫ぶ。
…どうやらガラ悪男の奥さんらしい‥。
ガラの悪い男:「うるせー!この野郎(奥さんに対して)!!」
と東南アジア女性に飛びかかる。
男を咄嗟に取り押さえ「まあまあ…」となだめる俺…。
男を座らせ、君沢部長を間にいれ、旦那さん(お嬢さんの父親)VS酔っ払いガラ悪男との話し合いが始まった。
旦那:「…で、うちの娘とヤったの??…。」
ガラ悪男:「おうっ!ヤったわボケ!なんか文句あるんか!!」
…俺はまたガラ悪男が暴れるんじゃないかとヒヤヒヤし、話の中身が全然入ってこなかった。
奥を見ると先程のフィリピン人らしき奥さんが座り込んで泣いている…。
地獄だ…。
なんでこんなことまで…。
部長、なんて仕事してんの…?。
暫くすると話が済んだ様で、共犯者の所へ改めて場所移動‥。
ガラ悪男のツレらしく、もちろん二人とも七海興業の従業員。
こちらの男は大人しくて助かった、夜なのにサングラスをかけたままだったが、君沢部長にひたすら謝っていた…。
予定していた事が全てが終わった様で、部長に促され会社に戻る。
帰路の車内で
俺:「部長…大変な事してるんですね…これも仕事なんですか?」
と質問した。
すると君沢さんは、
君沢部長:「事務所ってのはウンコ掃除が仕事よ…。汚かろうが何だろうが、全てやるんだよ…。」
そう言った。
数日後、あの悪い二人は七海興業を退社し、被害に遭ったお嬢さんはそのまま働くことになっていた。
どういう話でケリが着いたのか判らないが、君沢部長は警察沙汰にはしなかった。
事務所の誰も知らない、牧野課長すら知らない出来事だった。
勅使河原、黒下の件に続き
悪い奴はずーっと悪い。
俺は悟った。

※余談
数週間後の帰宅時、人通りが少ない路地を車で通ったとき、俺は、ある場面を目にする。それは、仕事帰りのアノお嬢さんが、例の退社したガラ悪二人組に自転車を停められ何か脅されている様な場面だった…。俺は走りながら直ぐに警察に電話し匿名で「18歳位の女性がガラの悪い二人組に絡まれています、助けてやってください」と電話した。そして翌日、君沢部長に昨日目にしたことを報告すると部長は小さく頷いた。


Chapter 58
〜社長とイチトシさん〜
七海興業の社長は60を過ぎ、ほとんど事務所に居ない。
来ても、1時間程、ガラス張りの社長室にドカンっと座って煙草をくゆらし、神棚を掃除して帰っていく。
いつも綺麗な格好をし、お洒落な高い車に乗って、いかにも金を持ってる社長!という感じ。
小柄なのに、大きく響く声を肚から出し、ゴルフをやれば皆が驚く程 飛ばすそうだ。
父親である先代が始めた事業を継いだ後、縁あって今の親会社会長に気に入られ、一気に業務拡大!現在の七海興業にした。
そんな社長だが未婚、もちろん子供は居ない。
この為、七海興業は後継者不在となる。
それに危機感を抱いた社長のお姉さんが自分の息子を数年前に入社させた。
それが"イチトシ"さんだった。
イチトシさんは高校卒業後、東京の大学へ進学、卒業後は海外に行きそのまま就職したのだが、今回、母親に呼び戻され七海興業に入社したと聞いた。社長同様、小柄だがお洒落で毛並みが良く、俺とは全く違う。
いわゆるエリートと誰が見てもひと目で分かる容姿。
俺と同じなのは歳だけ、タメなのだ。
入社当初から次期社長と言うことで、勅使河原、黒下が接触を図ろうとしていたと聞いたことがある。
そんなイチトシさんと事務所の休憩所でバッタリ会った。
俺 : 「おはようございますm(_ _)m」
イチ:「おはよう👍」
いつも通り、綺麗な格好で爽やかだ。さすが海外帰りのデキる男は違う。
イチ:「そうそう、僕は何も知らないから。」
俺 :「‥はい???」
イチ:「第二工場での件、ボクは何も知らないから。」
俺 :「えっ?…。はぁ…。」
そう言い、煙草を吸い終えると行ってしまったイチトシさん。
俺: ~なんであんなことを言ったのだろう?〜
としばらく考えた。
〜分析中〜
あの第2工場タイムカード空打ち事件 、
俺(イチトシさん)は何も知らないし、何もしないよ。関わりたくないよ、関わらないよ。君沢部長に一任しているからね…。
という風に解釈した。
なぜそんなことをワザワザ言ったのかは分からない。
これがイチトシさんとの初めての会話だった気がする。


Chapter 59
〜僕らは捜査官〜
管理推進室は、七海興業本社事務所1階の食堂にパーティションで仕切って部屋を作り運営している。
この食堂は休憩所としても使われているため、休憩がてら いろんな人が訪ねてくる。
今日はすぐ上、2階の人事課、日系人組長が訪ねてきた。
そして俺に対してこう言った。
日系人組長:「コンヤ(今夜)、アイテマス(空いてます)?」
俺 :「はいっ??」
最近現場で作業者の退職が多いのに、代わりの作業者が入らない。
この為、一時的に役職者が作業工程に入り、ラインを止めない様 対応する現象が起きている。
これは七海興業のいつものヤリ方なのだが、作業者さえ入れば日常の事なので問題ないのに、長期に渡るとそう言う訳にはいかなくなる。
役職者は、事務仕事に現場対応、部下の教育などやらなければイケないことは沢山有るため、そこに工程作業も入ると当然、皆、疲弊してくる。
時間外労働をハンパなくやることになる為、給料は爆上げとなるが体はボロボロ、そりゃ昼夜ズーッと寝ずに仕事するわけだから‥そんな中、こんな噂が人事課に入ったらしい。
《噂》
〜第三工場の日系班長が麻薬をやっている〜
俺: !!?? !!!!(⁠╬⁠☉⁠д⁠⊙⁠)⁠⊰⁠⊹ฺ
確かに、その対象となる班長はいつも居る、昼も夜もいつもだ。
仕事が出来る班長なのだが、どう考えてもおかしい…ということらしい。
この為、彼が住む寮を調べたいとのことだった。
人を集めるので協力してくれとの事で、俺は同行することになった。
19*00事務所出発に決まる。
ははは…僕らは麻薬捜査官!ってか…(汗)。


Chapter 60
〜僕らは捜査官:続き〜
七海興業の寮に着く。
巷では"現代の九龍城"と呼ばれている所(笑)…。
警察では"日系人が関わる事件があったら七海に行け!"といわれてるほどの場所(笑笑)‥。
そんな寮に着く。
結局、俺と人事組長とその部下の班長、合計三人での捜査となった。
捜査と言っても素人衆の寮の巡回にすぎない。
また、やる方もヤラれる方も気分が良いものではない。
すれ違う寮生は、
寮生:~コンナジカンニ、ジムショノヤツラガ、ナンデイル??~
と言わんばかりに怪訝そうな顔で見てくる。
余談だが、日系人はファミリー意識が強いらしい。
何かあると助け合い精神で集団となり、ツレがヤバければ何をしてでも助ける…的な過激な行動に出るそうだ。
日本人もそうかもしれないが、そこまで過激ではないと思う。
だから今回も、開けてはいけない"パンドラの箱"的なヤバイものが見つかれば…ああぁぁぁぁ…どうしよう…。
そんなことを思いつつ、一階フロアから見ていく。
特に建物裏、非常階段など物陰を中心に。
足元に使用後のブツが落ちてないか?扱っている所をタイムリーに見つけれないか??と目を光らせる。
もちろん、食堂も大浴場も調べる。
すると共同トイレの個室を開けたとき、壁に焼け焦げた後があった。
これは先日入社した新人がストレスで燃やした所らしい…。
同行の日系班長が教えてくれた。
俺:~なんということを…一歩間違えば火事に…。~
2時間ほど隅々見て回ったが、怪しい者もブツも無かった。
正直ホッとした。
七海興業は何が起こっても不思議ではない会社。
出入りが激しい会社と言うのは、どこもそうなのか?
沢山の人がいれば それだけ問題も多い、特に外人が多い場所はそうなのだろう。


Chapter 61
〜チノアメガフル〜
最近になって俺と茨さんの午後からの業務である作業者送迎(マイクロバスの運転)対応をしなくてよくなった。
それは"ジルマール"という日系人がこの業務をやるようになったからだ。
つまり、代わりの人材が確保できたから。
この"ジルマール"なる男、その特徴ある風体から"七海興業のボブサップ"との異名をとる巨漢。
ワガママな性格から現場で
「使えない」
「問題ばかり起こす駄目な奴」
と追い出され、君沢部長預りとなった男。
本来なら外国人契約社員なので、契約時期が来たら退社になるのが通常の流れなのだが、ジルマールはとても愛嬌があり、日本語も少し‥しか話せないのに自分で大型免許を何度も落ちながらも受験→合格し、運転手になりたいっ!と部長に売り込んだ行動力あふれる男。
この行動力が君沢部長に認められ運転手に抜擢されたのだった。
これにより、俺と茨さんは"非常時のみ"の運転手となり、通常時はバス停での案内係のみ…となった。
部長のご厚意でつけていただいてる
"手当て"はそのままで、送迎業務に拘束される時間は短くなる。
それは、「一層、現場巡回に力を入れろ」…という部長からのメッセージだと受け取った。
そんなある日、俺は、いつもの通り親会社正門近く、七海興業のマイクロバスの傍らで作業者を出迎えていた。
俺:「お疲れ!、ご苦労様!!」
現場の大変さを知っている俺は、心から
俺:~1日お疲れ様!凄いよお前ら!ありがとね!明日も頑張ってよ!~
という気持ちで作業者を出迎え、声掛けをする。
もちろん運転手であるジルマールにも
俺:「お疲れ!今日も事故無い様に作業者、アパートまで送ってね。」
と声を掛ける。
ジルマールは、
ジル:「ダイジョウブ、ダイジョウブ ハハハハッ」
ってな会話がいつものやり取り。
すると突然!ジルマールの顔色が変わり、一点を凝視したまま固まってる。
俺:〜何?〜
と俺もそちらを見た、丁度正門の方にあたる方向。
すると、そこには私服姿の男、日系人らしき5人組が居た。
そいつらは、不精髭を生やし腕や足にはタトューが入っていて、いかにも反社!…といった感じ(怖)。
本来なら、親会社敷地内には一般人は一切入れないのだが、威圧感ある姿と迫力に工場入り口で睨みを効かす日本人守衛係も危険を察知し建屋内から覗いているだけ…。
すると反社風の外国人5人組は、帰宅する人の流れに反してズケズケと構内に入ってきて七海興業社員に声を掛けだした。
これは異様な光景…。
俺は〜これでは送迎業務に支障がでる〜と思い、奴ら5人組に近づこうとした。
すると、
ジル:「ダメ!ダメ!!ダメ!!!」
と慌ててジルマールは俺を制した。
俺は、
俺:~なんで?行かなきゃ、バスに乗り遅れちゃうよ!作業者が!~
と思い、ジルマールに質問しようとした。するとジルマールは
ジル:「ヤバイ、ヤバイ!!コワイ、コワイ!」
とビビりまくっている…。
只事ではない…。
そしてジルマールは
ジル:「コンヤ、チノアメガフル…((( ;゚Д゚)))」
と、言った。



Chapter 62
〜チノアメガフル : 続き〜
ジル:「アイツラ、コロシヤ、コワイコワイ((( ;゚Д゚)))」
震えながら呟くジルマール…。
かなり動揺している。
こいつがビビるとは相当だ‥。
身長180センチ体重100キロ超えの肥満系巨漢。
黒人の血が入ってるので、先に述べた通り社内では"ボブサップ"と呼ばれている。
現場で弾かれた訳はとにかく扱いづらい。
配属先で喧嘩ばかりし、流れ流れて部長預りに‥。
なぜ退社にならないのか?
それは誰も分からない七海興業の七不思議といわれる程の男…。
そんな奴がビビりまくってる。
俺:〜わかった。じゃあ、奴らには近づかない。乗り遅れそうな作業者を、こちらから迎えに行こう〜
俺は社用車を使い第二工場方面まで走らせた。
すると若い日系人が、とても焦っている。そして "乗せてくれ" とジェスチャーしてきた。
俺は彼を後部座席に乗せ、バス停へ戻ることにした。
道中、彼は車内で身を伏せ、外から目立たない様にしている。
しばらく走りバス停に着くと
若い日系人:「アリガト!アリガト!!」と涙目で俺に礼を言い、そそくさと送迎車両へ乗り込んで行った‥。
その頃、気が済んだのか?反社風5人組は親会社敷地外へ出て、薄暗くなった田舎道を爆音響かせ、いかにもなVIPカーで走り去って行った‥。
しばらくすると、けたたましい音と共にパトカーが来た。
建屋内で様子を伺っていた親会社守衛係が呼んだのだ。
その後、警察は七海興業本社事務所に来て、事の経緯を君沢部長に確認していった。
翌日、俺は人事組長から今回の騒動の詳細を聞く。
どうやら日系窃盗団が車上荒らしをしていて、その内輪で密告者が出たため殺し屋を雇い裏切り者を探しに来た…という顛末だった。
そーか…。まったく物騒だ。
うーん…。ん???
俺がバス停まで送った あの若者、彼はもしかして??
その後、彼がどうなったかは知らない。
『日系人殺される』なんていうニュースはTVでやってなかったので、恐らく大丈夫だったのだろう…。
その日の夕方、バス停に行くと、
何事もなかったようにいつもの光景、いつものジルマールが居た。
ジル:「ダイジョウブ、ダイジョウブ ハハハハ」
俺:(笑)



Chapter 63
〜フィリピンの魔力〜
今日は現場の笹山課長が推進室を訪ねて来た。
笹山課長は、野球大好きな方で体育会系の方。
七海興業が今よりもずっと小規模だった頃からの古参社員。
口が悪く、早口で相手を捲し立てる為、"マシンガン笹山"などと一部では言われている(笑)。
クセはあるが漢気(おとこぎ)があり、俺は個人的に好きな課長だ。
プライベートでは、フィリピン人女性を遅くに奥さんとして貰い、産まれた水泳好きの娘さんの為に、毎日終業後、 遠方のプールへ送り迎えするほどの子煩悩。
結果、娘さんは、水泳の"ある"部門の日本代表候補になるほど上達しているらしい。
そんな課長が推進室に来た。
しかし、いつもの活動的な笹山課長とは違い様子がおかしい…。
理由は部下の一人である日本人組長が行方不明‥とのことで、それを君沢部長に報告した後、推進室に寄ったのだった。
俺:~またか…~
と思った。
なぜなら、先日亡くなった前村さん(※Chapter50参照)は鬱病 発症時、笹山課長の元で働いていたからだ。
同僚の日系人組長にちょっとした不具合を大事(おおごと)にされ、鬱になった‥と聞いた。
今回、居なくなった日本人組長は幸い"鬱"ではないらしいが…。 
では、なぜ?
どこへ??
翌日、行方不明だった日本人組長が近隣の山で発見される。
七海興業のリース車内での練炭自殺だった。
俺:〜まただ…。また起きた!前村さんと一緒の死に方!!〜
警察の調べで、入れ込んでいたフィリピン人女性絡みの自殺との事。
最近、この七海興業がある田舎町ではフィリピンパブがあちこちに出来ていた。
店先の駐車スペースには、七海興業のリース車がよく停まっているのを見掛けた。
世の中でも、だいぶ流行っていたが七海興業内でも大いに嵌まっている者がいるのは耳にしていた。
亡くなった組長は、奥さんと数年前に離婚、成人した息子さんと一緒に七海興業が契約しているマンションで暮らしていたのに早まったことを…。
今回も牧野課長がリース車を回収し、君沢部長指示で葬儀の準備に走り回る。
葬儀後、笹山課長は牧野課長に
笹山課長:「おれ、あいつが自殺したとは思えないんだよ。なぜかは分からないけど、女に振られたぐらいで死ぬかなぁ…あいつが。殺されたんじゃないかなぁ…。」
と言った。
牧野課長は、
牧野課長:「あんまり考えない方がいいよ。考えても仕方ないよ‥‥。」
と言った。
そんなにフィリピン人が良いのか?
何が魅力なんだろう…?。
それにしても、よく人が亡くなる会社だ…それが七海興業なんだな…。


Chapter 64
〜動かざること山の如し〜
七海興業本社事務所二階は七海興業の中枢となっている。
以前(Chapter58参照)にも言ったが、そこにはガラス張りの社長室があって日によって、時間さえ合えば、ふんぞり返って煙草を燻らす名物社長が見れる。
牧野課長いわく、
牧野課長:「あれはわざとやってるんだぞ」
と言う。
社長のパフォーマンスだと言うのだ。なぜ?と聞くと
牧野課長:「会社のトップがバタバタしてたら"この会社、大丈夫だろうか…?"と思うだろう?そうさせない為に、堂々と、ふんぞり返って、座っているんだ。そうすれば "あぁ、社長があんなに堂々してるからウチの会社は大丈夫だ" となるんだよ。社長はそう言う人だ。」
と教えてくれた。
俺:~なるほどなぁ~
と思った。
そして、そのガラス張り社長室の目の前に君沢部長が鎮座する。
これにも意味があると牧野課長が言う。
社長が何か聞きたい時や話があるとき、実質、現場の全責任を負っている君沢部長が目の前に居れば、いつでも呼べる=社長が安心するから…だそうな。
俺:~ははは、親会社より自社の社長を神様みたいに崇める会社だな ここは…。~
とも思った。
さて、その部長職について七海興業にはもう一人の部長が居る。
それは不動(フドウ)部長という方だ。
不動部長は"工数"という数値を専門で管理担当する仕事をしている。
"工数"とは親会社から指示された全ての作業を時間に換算した数値を指す。
この工数に対し、生産した台数等を掛け合わせてお金に換算、この金額を親会社側に請求して七海興業は成り立っているのだ。
各課の担当課長が自課、流動製品の工数を把握しているのは当然だが、最も正しい数値を把握しているのが、親会社の工数決定部署と太いパイプがある不動部長なのだ。
これには君沢部長も手が出せないくらい細かく厄介らしい…。
さて、不動部長、君沢部長とは犬猿の仲と言われている。
確かに、話をしてるのを俺は入社以来ほとんど!見たことがない。
牧野課長曰く、いつからかそんな関係になったそうだ。
現在、現場に指示を出すのは全て君沢部長。
そのため不動部長は完全な"お飾り"部長‥、それが社内での共通認識なのだ。
だから現場の課長も"部長"という自分より上の肩書きを持っていながら何も出来ない、何もしない不動部長に対して敬うとかは一切ない。
どちらかというと馬鹿にしている。
そりゃ悪い奴が多い七海興業ではそうなるわな…。
〜動かざる事 山の如し〜
自分でそうしたのか、廻りがそうさせたのか…?。
山(やま)の不動(ふどう)
それが不動部長なのだ。


Chapter 65
〜浜梨さん〜
不動部長は一匹狼‥!というより味方が居ない。
部長という肩書きがあるのに権限が無いため本人も全くやる気を感じさせない立ち廻りをする。
俺:「不動部長、すいません、ココ(書面指差し)、教えていただけますか?」
不動部長:「ん~、俺は関係無いから知らないよぉ~。自分でやりなぁ~。」
俺:「……。」
こんな感じ、だから嫌われている。
正直、俺も好きでない。
そんな不動部長のもとに、先日、中途採用された日本人男性が配属された。
通常、入社した者は殆ど生産現場に配属されるのに、本社事務所へ直配属となるのは異例中の異例!
皆、いちようにいぶかしげる。
その御方は"浜梨さん"と言う方だった。
俺よりも年上、ここ、七海興業から程近くに実家があり地元の高校卒業後、大学に進学し、ある部品メーカーに就職したが、運悪くその会社が倒産してしまい、家から程近い"七海興業"に中途応募したとの事だった。
浜梨さんを初めて見た時の印象はズバリ!"デキる人"。
イチトシさん同様、毛並みが違う。
俺を含め、七海興業に昔から居る奴らとは全然ちがう。
ニコやかで爽やか、清潔感があって、言うことが知的だが相手への気遣いも感じさせ、イヤミが無い人。
俺:〜うーん、デキる‥〜。
その浜梨さんが、不動部長のもとに配属された理由を牧野課長が教えてくれた。
牧野課長:「不動部長の仕事内容が全く見えないから、そこを透明化するために入れたんじゃないか?」
との事。
このままでは会社の利益に直結する"工数"に関して誰も手が出せない。
それではイカンっ!と大卒のデキる男、つまり浜梨さんを入社させたのだった。
最近、この浜梨さんと仲良くなる機会があった。
浜梨さんは超がつく程の釣り好き、正真正銘の釣りバカ。
その為、仕事終わりに近所の野池へブラックバスを釣りに行く事になった。そしたら俺は何も釣れないのに浜梨さんはガンガン釣る!
道具も良ければ腕も良い!!
俺:「スゲーっすね浜梨さん!(⁠•⁠ ⁠▽⁠ ⁠•⁠;⁠)」
浜梨:「いやいや、たまたまですよ(゚∀゚)」
うーん、デキル男は違う!
それで一気に打ち解ける様になった。
俺も、浜梨さんが年上で聞き上手ということもあって過去、七海興業であったこと、自身の事など包み隠さず話した。
その後、浜梨さんとは部署を越えて 様々な業務を一緒にするようになる。


Chapter 66
〜どこぞのVIP〜
今日も終業前にバス停案内人になる。夜勤の出社の出迎えをし、そのまま昼勤の退社対応にまわる。
いつもの事だ。
しかし今日は違った。
なにやら海外のVIPが親会社の生産ラインを見学に来ているとの情報。
この為、時間によっては一時的に正門付近が通行禁止?になるかも…との事。
俺:〜うーん、誰が来るのだろう??〜
暫くして、場内奥の方から車列が来るのが見えた。
俺: ~あれだ!きっとそうだ!!~
そう思っていると、五台の黒塗りハイヤー風の車列が颯爽と走ってきた。
車窓からSPらしき者たちが身をノリ出し"いかにも!"っといった風に廻りを警戒、警護しながら走り去っていく。
あっと言う間の出来事。
俺:~おぉぉぉぉ!!テレビで観たやつや…~
と感嘆の俺。
俺:~誰が乗っていたのだろう?~
警護もさほど多くなく、あっと言う間の出来事だったから
俺〜:大した人物ではないんだろうな‥〜と思った。
翌朝、地元テレビのニュースで誰だったのか‥が判明した。
それはミャンマー国の首相だったのだ。
当日、首相が来ることが公になってしまうと悪さ(テロ等)する奴らが現れては行けないので、誰が来るかは、ごく一部の者しか知らされていなかったし報道規制もしていたらしい。
ちなみに、車列は五台のみだったが、物陰には機動隊員が多数、バスに乗車し護衛待機し、空ではヘリが巡回していたそうだ(驚)。
そりゃそうだわな、納得!
こんな時に以前の日系殺し屋5人組が来なくて良かったね‥((笑))
と思った。


Chapter 67
〜押忍っ!〜
今日も仕事帰りに誰も居ない道場へ寄る。
会社の近くにあるので寄りやすいし、道場の脇が通勤経路になってるから、車で駐車場へ"ドンッ"で駐車、直ぐに練習出来る。
会社を出て、ものの5分でトレーニング開始だ。
だが、気を付けなければいけないこともある。
それは七海興業の連中に見つかる事。
作業者に見られるのはいいが、役職者だと、より面倒…。
〜あの野郎、仕事終わりに動ける程
体力ありやがる…楽な仕事しやがって〜と思われるから。
いわゆる嫉妬。
実際、現場巡回時、ある課長にその様に言われた事があったのだ。
俺:~どういう考え方してんの?~
と思うが、そんな奴らが親方してる会社が七海興業。
だから俺は防衛策として道場の明かりはつけずに練習することにしている。
外の街灯の差し込む光だけで練習するのだ。
練習メニューとして、まずは、
1:ウェイトトレーニング(胸、脚 10分)
2:縄跳び(2分×5本)
3:柔軟(股割りべったり 5分)
4:サンドバッグ(3分×4本)
5:シャドー(3分×4本)
6:補強(腕立て、腹筋、背筋 10分 )
7:柔軟(クールダウン 5分)
この様にこなす。
以前、試合に出る時、凄く強い先輩が教えてくれた練習方法を自分なりにアレンジしてやる。
家では家族が待っているため長居は無用、嫁さんに内緒のストレス発散。
~1時間で終える!~
と決めて精一杯やる。
集中してやるから内容は濃い。
外の薄明かりの中、悔しかったこと、辛かったこと、怒れたことを思いだし、その感情をパンチ、蹴りに込めて、おもいっきりサンドバックへ叩き込む。
疲れて、息苦しくて、頭が真っ白になるとストレスが消えていく…。
内(心身)からに鍛えられていく身体…。
これによって心の中の空白が埋められていく感覚がある。
それは黒下のいっ件で無くなった自信が少しずつ復活していく感覚。
俺にとっては大切な時間。
空手の先輩:〜いつでも来ていいよ。〜と言ってくれた先輩に感謝だった。



Chapter 68
〜祈り‥〜
今日、推進室に日本人班長がきた。
本来ならば、現場の班長が一人で来る場所ではないのだが
現場班長「牧野課長と話がしたい」と言い、夜勤が始まる前、推進室に寄ったのだった。
訪ねてきたのは第二工場の班長。
そう、あの黒下の部下にあたる‥。
地元出身、高校卒業後に新卒として七海興業に入った子。
数年前に結婚し、お子さんも1人いる。
真面目で物腰柔らかく、後輩の面倒見も良いという印象。
その彼が突然1人で訪室した。
俺は~ヤバイんじゃないか?~と思った。
なぜなら先にも述べた通り、第二工場は黒下の現場だ。
もし、この訪室が奴の耳に入れば只では済まないだろう。
黒下は今、疑心暗鬼になっているはず…。
マズイ…しかし逆を返せばそれでも聞いてほしい事がある…という事なのだろう…。
翌日、牧野課長に昨日の件を聞いた。すると黒下に何かされた訳ではなく「七海興業に未来を見いだせない、このまま七海興業に居てもいいのか?」と悩んでいた‥とのことだった。
牧野課長は彼の話を聞いて、
「いま、自分がやるべきことを精一杯やりなさい」と諭し、現場へ帰したようだ。
そして君沢部長に事の経緯を報告したらしい。
俺も第二工場に居たからわかる。
人を人と思わず、一匹二匹…と数える職場で、相手の弱味を見つけ「如何に嵌めるか」に目を光らし、己の欲望のみに邁進する奴が昇格していく所。
そういう環境だから自分も同じ価値観で立ち回らなければ潰されてしまう。
そんな会社に未来はあるのか?
そんな自分でいいのか?と思う。
自分が生まれ育った地元、日本の会社なのに日本人の上司ではない。
作業者も外人ばかり、ここは外国か???
彼もこう思ったのか…。
せめて、他課移籍などの措置があればいいのだが…。
数週間後、彼は辞めていった。
また日本人が減った。
なにが正しいのか判らないが
退社後の彼が「あの時、意を決して辞めて良かった。俺の選択は間違ってなかった」と思える様、祈るばかりだ…。


Chapter 69
〜人の上に立つ‥という事〜
俺の上司、牧野課長は七海興業では数少ない"人の上に立つ器"がある方だと思う。
まず見た目→
身長は180㌢程あり、身なりも常に綺麗で管理監督者らしい。
次に特徴→
お酒が大好きで、お茶目なところもある。宴会の席では率先して盛り上げ役に回り、人を楽しませることができる人。
そして性格→
感性豊かで、書を嗜むことがあり、日本人が持つ"粋"を愛している。
これはお父さんが板前で職人気質だったため、そのようになった様だ。
最後に仕事の進め方→
上司である君沢部長とは"ツーと言えばカー"の間柄で、言わずとも部長の真意を汲み取り動ける方。
だから部長からの信頼も厚い。
これは中間管理職ではとても大切なこと。
この為、七海興業で一番の稼ぎ頭、第一工場を任されていたのだと思う。
しかし、残念ながら突然の難病発症後、第一線から退き療養の身となってしまった。
これにより給料も"ガクンっ"と減ったが、ちゃんと身の丈にあった生活レベルへ落とし、質素倹約が出来る方。
これは見栄や虚像を張ることに必死の黒下や勅使河原とは大違い‥。
最近では、体調に合わせウォーキングやランニングをこなし、常に自分を磨こうと資格取得にも余念がない。
未来の七海興業を見越し、百均で買ってきた英語ヒヤリングテープを聞いてみたり、よりレべルの高い監督者になるため、第一種衛生管理者の資格取得に向け日々勉強している。
普段は多くを語らず、あまり自分からは動く方ではないが、いざというときには自己犠牲の精神で立ち回ることができるのが牧野課長だ。
先日こういう事があった。
始業前、休憩所で雑談してると外で大きな音が…!!
窓から見てみると、バイクと車の接触事故発生!
バイクの男性は路上に倒れて動かず、車両の女性はオロオロするばかり。
それを見た俺は、牧野課長に
俺:「課長…‥‥」と言いかけた…が、
すでに課長は外へ飛び出し、被災者の救護と道路の整理をしていた。
圧巻だった‥(驚)。
俺はオロオロするばかり。
課長に「救急車を呼べ!」と指示されても(あれ?119?110??どっちだっけ?)などあたふたする始末…。
この時、(あぁ、人間はこういう咄嗟のときに本性が出るんだな。牧野課長は本当に出来る人なんだな)と思った。
俺は七海興業の課長に良い印象は持ってない。
粗暴で人間的にレベルが低く、私利私欲に走る外道が多いと思っている。
しかし牧野課長は違う。
今後、この人から学ぶ事は多いと思う。
こんな上役になれたらいいなと思った。
そんな日だった。



Chapter 70
〜ユーキャン DO : IT〜
今日は久々にパチンコで勝った。
パチンコで身を持ち崩し、学校クビになったにも関わらず行ってしまったパチンコで勝つ!
罪悪感半分、幸福感半分…いや幸福感満点かな(*´∀`)
しかし!今までの俺とは違う!!
何か自分に役立つ事に投資したいと強く思う。
これも牧野課長という上司の影響か…。
いろいろ思い巡らせると、最近テレビで良くみる「ユーキャン」を思い出した。
早速ネットで調べると様々な資格取得に向けたジャンルがあるではないか!
その中には牧野課長が取得を目指す「第一種 衛生管理者」もあった。
牧野課長は参考書を片手にノートへ何やら書いていたが
俺:~俺は効率化を図りユーキャンや!!~
と意気込み、早速申し込んだ。
数日後、段ボールが届く。
価格は¥35.000円、パチンコの勝った分は全て無くなった。
安くは無いが、自分もゆくゆくは牧野課長の様な管理者になる!課長の様に自分を磨くんだ!!とプレゼントをもらった子供の様に目を輝かせて開けてみた。
すると冊子が5冊とDVD一枚、CD一枚入っていた。
パラパラとめくると、
『衛生管理者を事業場に選任する義務は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に課せられています…』と書かれている。
俺:〜ふーん…。〜
進め方としては冊子のブロック毎にテストを行い、ユーキャン本部へ送付、それをずーうぅうっと続ける様だ。
それがユーキャン式資格取得方法。
俺:〜はーん……。〜
では、早速やってみよう。
がっ!!!
目が眩む…脇汗をかく…難しい言葉で書いてあり「読もう!」という気が一気に削がれる行政関係特有の文章…。
せめてもの救いはポンチ絵や例え話などが入っており、見やすくはなっている‥が…はたしてこれを数ヶ月続けれるのだろうか…俺は‥‥‥‥‥。
数日後、部屋の片隅に置かれたままの段ボールがあった。
俺は駄目人間‥。
…ははは。
毎日勉強してる牧野課長は「すげーや…」と思った。


Chapter 71
〜巡り→メグル〜
仕事帰り、ほぼ毎日、空手道場に寄って1時間ほど自主トレするのか常となった。
以前より動けるようになったし、弛んだ身体も絞まってきた。
この自主トレと平行し、週二回の稽古にもなるべく参加し、先輩や後輩と汗をかくようになった。
初心にかえって懐かしい顔ぶれと一緒に稽古に励む…これは前にも言ったが、黒下の一件以来ボロボロになった俺の心=精神を少しずつ癒してくれてる感じがした。
薄皮を貼っていくが如く、少しずつ少しずつ治っていく、とても大切な時間となっている。
そんな中、ひとつ心に引っ掛かることがある。
それは道場生に小学校高学年の「黒下の息子」が居ることだった。
俺が逃亡した後も、今まで通り稽古に通わせているらしい…。
それは、ちょっと考えられない…(驚)。
「自分がパワハラ、モラハラをして精神に異常をきたした部下(俺)が通う直接打撃制空手道場に、素知らぬ顔して大事な息子をそのまま行かせれるか‥‥‥?!」
俺だったら絶対に出来ない。
いや、皆、そうだろう??
じゃないの???!!
自分(黒下)の事を怒り、恨み、避けているだろう男(俺)に大切な息子を‥。
空手の稽古と称して殴る蹴るの暴行を受けるのでは…??。
とか心配しないの?!どういう神経してるんだ…奴(黒下)は。
俺:〜恐るべし黒下…〜
と思わざるおえない。
実際、俺が数年振りに復帰した理由を道場責任者から聞いた後輩からこんなことを言われた。

後輩: 『先輩(俺の事)、大変でしたね。』
俺:『うん、まあね…。』
後輩:『あいつですか?その息子。』
俺: 『うん、そうだよ。』
後輩:『やっちゃえばいいじゃないすか?俺がやりましょうか?』
俺: 『!?やるなよ‥!、あいつは関係ないから‥!絶対やるなよ!!』
後輩: 『…ははは…。』
復讐というか何というか…。
俺は黒下の息子に対して〜親父の代わりにお前を!〜的な考えは全くなかった。
それに黒下の息子は良い奴、小さいときから面倒見た可愛い奴。
素直で親分肌な一面もあり、とても"よゐこ"なのだから。
「俺は黒下とは違う!仕事は仕事、プライベートはプライベートとして区別する!奴みたいに公私混同はしない!!!」と以前のまま、黒下の息子と一緒に稽古に励んだ。
~後日談~
数年後、この息子は七海興業に入社、勅使河原が居る第三工場に配属され役職者となった。
俺:〜何もしなくて良かったね。業(ごう)は巡りめぐって自分に返ってくるのは本当の様だな、ははははは(笑)。〜
そう思った。


Chapter 72
〜部長からの指示〜
今日も道場に寄ろうとイソイソ帰り支度をしていると、君沢部長が二階から降りてきた。
一階には更衣室があり、そこには冷蔵庫があって、各々、家から待ってきたお茶やジュースを冷やしている。
部長も家から持ってきた飲み物を入れており、時折、降りてきては口を湿らせ、外の喫煙所で一服してから二階へ戻るのが常。
このときもそうだった。
居るのは俺と君沢部長のみ
俺 :「お先に失礼します。」
部長:「お疲れー。」
俺 :(ペコリ)←会釈
部長:「お前はイチトシの右腕になれ‥。」
俺 :「…はい??。」
部長:「これから、お前は"イチトシ"の右腕となり立ち回るんだ、いいな…。」
俺 :「…はい…。」
部長:「俺は金庫番でいいんだから、イチトシの時代になったとき、お前が右腕となって一生懸命やるんだ。俺はそのとき相談役になればいい、わかるな?」
俺:「…はい、わかりました。」
それは口数少ない君沢部長からの指示。
これからの七海興業内で俺が目指すべき立ち位置を指示するものだった。
それから暫くしてイチトシさんは推進室長という立場となり、一階にあった推進室は二階フロアーへ移転となった。


Chapter 73
〜イチトシさんと君沢さん〜
事務所2階に移転した推進室。
今までは一階食堂隅っこにパーテイションで区切られた掘っ立て小屋みたいなとこだったのに、とうとう七海興業のメインフロアーに移転。
野球で言えばトライアウトからの一軍昇格といったとこだろうか。
推進室長には次期社長となる"イチトシさん"が就任する。
これは〜管理推進室を使って七海興業を把握し、自分の時代に向けて経験を積ませよう〜とする君沢部長の希望と期待の現れと思った。
ここで君沢部長とイチトシさんの関係を話したい。
実は部長とイチトシさんは血縁関係のない親子となる。
それは部長がイチトシさんのお母さんと再婚したからだ。
このため、君沢部長は社長一族となり経営者側に入った。
細かい経緯はわからないが、勅使河原や黒下の様な悪い奴が課長を張る七海興業で、奴らより、頭ひとつ抜け出し、そいつらをまとめる側になるには容易ではなかったと思う。
そして、何の経験も人脈もない"イチトシさん"を立派な社長に育てるべく、君沢部長は日々、知恵を巡らせている訳だ。
俺も今一度、帯を締め直し、気合いを入れなければいけない。
それは先日、更衣室で部長から言われた『イチトシの右腕に…』とならなければいけないからだ。
そんな中、とてもやりずらそうにしてる方が居る…それは牧野課長だ。
なぜなら、一階の掘っ立て小屋時代に出来た英語ヒヤリングや衛生管理者の勉強が、二階に移ることによってできなくなってしまったからだ。
これからの席は、自分のすぐ左隣に"イチトシさん"。
その右手奥には君沢部長。
その後ろには社長室もある。
そんな中で、就業中の自分磨き(勉強)は難しいだろう‥。
また、今までの上司が気心の知れた君沢部長から"イチトシさん"になった事も牧野課長にとって大いに大変だと思う。
課長は常々言っていた。
牧野課長:「いいか、全ては現状把握から始まるんだぞ。」
って。
つまり、自分の新しい上司"イチトシさん"の現状把握をしなければいけない現実がある。
モノの現状把握より人の現状把握は大変だ。
牧野課長の病気、悪化するんじゃないか…と俺は心配になった。


Chapter 74
〜七海興業の肝〜
七海興業のメインフロアーに移転となって、誰が何の仕事をしているか、事務所の仕事の流れが分かるようになった。
その流れ‥とは、こんな具合だ。
七海興業の事務所は、自分達、推進室を除いて総務、人事、管理の3部署に分かれている。
これら3つを総括するのが君沢部長。(※管理は名目上、不動部長が長となっている。)
そして、作業者の入社:退社が3部署の業務発生のきっかけとなっている。
具体的に言えば
《総務》→行政上の入退社管理と作業服の支給。
《人事》→アパート、寮への入室等 管理と日々の作業者から有る要望対応(病院など)。
《管理》→作業者が働いた時間と、作った製品の数を工数で管理。
こんな具合だ。
つまり作業者の入社:退社が七海興業の利益にも直結している肝となるのだ。
更に、この作業者の人数、これはどの様に決まるのかと言うと、親会社の毎月の生産予定数から儲けが出る人数を各課長が算出し、それを基準に作為的に月毎に人の増減をさせている。
人が多ければ余裕が生まれるが人件費ばかり掛かってしまい儲けは出ない。
逆に少なすぎる人数を設定すると、儲けは出るが、管理監督者も作業に入らなければ廻らない混乱状態となり、親会社にも迷惑をかける事になる。
この絶妙の人数設定を各課長が決め、"作業者要員帳"という書類で君沢部長へ報告、その人数を基に、足りなければ配属⇔多ければ退社時に補充しない…というアクションを起こしているのだ。
この、辞めた作業者の補充に対して
1:どこの課に
2:いつ
3:何人配属する
か‥を決めているのが、君沢部長、ただ一人なのだ。
そしてこの後、君沢部長の指示通り、
俺はこの重要な業務をやらせて頂く事となる。
君沢部長の後継者、イチトシさんの右腕になるために。


Chapter:75
〜幽霊が24体〜
イチトシさんから
〜その書類を見れば現場の状況が一目で判り 1:どこの課に 2:いつ 3:何人配属すればいいか判明する書類を作ってくれ〜
‥‥‥と指示があった。
これには現場を全く知らない"イチトシさん"でも、その帳票を見れば作業者が何人足りなくて、どんな状況で現場を廻したか分かる様にしたい‥という真意があった。
つまり、机上で現場が把握できる夢の書類が欲しいという事だ。
君沢部長が言っていた『お前はイチトシの右腕に…』を胸に、良い帳票を作るぞ!と決意する俺。
まず、とっかかりの書類 "作業者要員帳 "を理解することから俺は始めることにした。
この書類、君沢部長の横、鍵付きの棚に保管されており、なかなか厳重に管理されている。
それを部長に "エヘエヘ(笑)" 愛想笑いの会釈をしながら取り出し、目に届くところで開いてみた。(※例えていうなら寝ている番犬を起こさない様にコッソリ横切る感じ)
すると、全課2つずつ色違いのファイルがある。
俺:〜なぜ2冊あるのか?〜
俺は、この疑問をコッソリ、牧野課長に質問してみた。が、
モゴモゴ…言って、何言ってるかわからない。
俺: ~?…。~
疑問を抱いたまま確認していくと、君沢部長の出身母体である課に及んでは、全く知らない、会ったこともない、見たことない人が24名存在していることがわかった。
俺:〜?!…幽霊。〜
ここで俺は第二工場に居るとき
勅使河原と黒下が話していたことを思い出した。
黒下:「あー、また作業者辞めた。人が全然足らん。このままだと、また班長が現場に入ってしまう。早く配属しろや!クソ事務所め!!」
勅使河原:「ほんとだな、君沢のとこに居る幽霊でも来てくれれば助かるのにな(笑)」
黒下:「全くだ(笑)」
その理由が今、わかった。
この24名は君沢部長の金庫となっていたのだ。
なんでもアリの七海興業、経費で計上しにくいモノを処理するときに、この24名分の人件費が使われている…架空の人員、それがこの24名!
こ、こ、これは厄介なモノに手を付けてしまった(汗)
見てはいけないものを(汗汗)…。
後に、2つのファイルの存在については偽装用と実際用と言うことがわかった。
偽装用とは法令遵守した形に表記してあるバージョン。
実際用とは実態なのだが、法令に反した形に表記してあるバージョン。
この法令に反する形とは、七海興業に入社してくるのは"七海の作業者"として入ってくる者だけではなく、実際は、派遣会社から来ている者も居る‥。
この状態を "二重派遣" と言い、公になっては会社として困る=法に反しているので派遣社員も七海興業社名に偽装したモノが必要となる‥訳だ。
これが、表に出せない"実際用"と偽装したモノの意。
ちなみに偽装用は"税務署用"とも呼ばれていた。
俺:〜ホントに人の 入社:退社 が肝(キモ)だね七海興業は‥。はははは、見せれないねコレは。間違いなく確信犯だ、やってる事…税務署用って…。〜
そう思った。


Chapter 76
〜魔法の書類〜
さて、イチトシさんのためにも、スンゴイ帳票作るぞ!と息巻く俺。
前話で言った通り、七海興業は親会社の生産数に応じて 作業者の人数を月毎に増減させ利益を出し 運営している。
この作業者数は、各課長から君沢部長に書面で報告され、その数を基準にして人員の退社:配属を事務所で行っている。
俺は 現場課長が作る
"A3の横サイズ用紙1枚/月毎" 提出の"作業者要員帳"を改良し、一般的で扱いやすい大きさ
"A4の縦サイズ:1枚/毎日 " 提出
とし、そこへ作業者の勤怠(休み、遅刻、早退など)を直接書き込める機能を付けた"現場状況 把握書"なるものを作ることにした。
何度も試作作成→イチトシさんへ提出→改善指摘返却→修正再提出を繰り返し、イチトシさんが見易く、かつ現場の状況がわかる帳票に仕上げた。
それを君沢さんにも承認していただき、部長からの指示で各課へ"毎日内容入力し俺宛にメールで送信"するよう流れを作った。
翌日から各課より送られてきた"現場状況 把握書"をプリントアウトし内容を精査、午前中の内にイチトシさんへ提出する事となる。
ご満悦のイチトシさん。
俺:〜…良かった気に入ってくれて。〜
その後、俺の業務に、この"現場状況 把握書の作成、管理"が加わり、人の増減、状況の把握というとても重要な任務が加わることになった。


Chapter 77
〜ダップ(脱糞)んだ!〜
前話で作った"現場状況 把握書"を使い、どこの課で何人、作業者が足りないか把握、帳票から各課の状況を読み取り、危機的な場所へ優先的に入社した期間社員を送り込める様になった。
ちなみに以前にも話したが (※Chapter28参照) 七海興業では盆、正月、ゴールデンウィーク等の大型連休後に作業者の大量退社がある。
これは長い休みが続き、給料が少なくなるので出稼ぎ期間作業者が辞めてしまうからなのだ。
今期も、いつもの如く退社が相次ぎ、どこも火の車状態になった‥。
管理監督者は昼勤務、夜勤務、関係なく対応に追われ疲れきっていた。
事務所としては若くて、力があり、健康的な人材を早急に配属したいのだが、現場は混乱状態真っ只中…。
新人へのフォローができない無法地帯となっているため、入った作業者が入れても入れても辞めてしまう悪循環となっていた。
これにより、必要数より多め多めに配属することを心掛け、数で火を消していく手法をとるのだが、結果「質より量」つまり、年齢、経験関係無しで手足がついてる奴なら誰でもOKと配属する様になる。
こうなると、予想もつかない様々な問題が事務所へ報告されてくるものだ。
例を挙げよう。
こんなことがあった。
ある新人期間作業者が、面接した牧野課長の名を語り、寮近くの中古車屋で車を借りて、そのまま逃亡してしまった…とか、ある新人作業者は、既に七海は退社し派遣会社もクビになってしまった為、七海興業事務所へ「いま、文無しで駅にいるから金貸せよ…」と脅迫まがいの電話をしてきた…とか。
ある新人作業者は、稼働中の生産ラインで脱糞しラインを停めてしまった…とか。
こんな状態まで至ると完全に末期状態、いよいよ、事務所も現場の火消し応援に回らなければいけなくなる。
その事務所からの人選となれば勿論、何でも屋の推進室が矢面に立つことになる。
ある程度経験もあり、行かせても安心な奴…ということで俺と茨さんが現場へ送り込まれた。
しかも今回は第二工場へ応援指示となった。
そうだ、黒下のとこだ…(汗)。
仕事なので嫌とは言えず、俺は指示に従ったのだった。


Chapter 78
〜ゴメン、ゴメーン〜
俺は、事務所業務が始まる8*00に出社‥ではなく、常に現場が稼働する時間に合わせて出社していたので6*30には問題なく現場へ出れた。(Chapter54参照)
それより、何より、嫌なのは第二工場応援と言うこと‥。
ホント、嫌でしょうがない…。
嫌で嫌で…くそっ!と腹のなかで叫び続ける。
場内を歩けば当時の顔見知りが
「おっ、戻ってきたのか」と声をかけてくる。
なぜ俺が第二工場から居なくなったのか現場では公になっていないので皆、気さくに声をかけてくれる。
それはそれで有難いのだが…やはり黒下の職場というのが嫌…。
また逃げ出そうという気に………だがこの時、不思議な感覚が自分の中にあることに気づく。
あれほど嫌な経験をし、応援も嫌でしょうがないのに、一方で落ち着いている自分も居る。
相反する気持ちが混在する不思議な感覚…。
俺: ~なんだ?あっ、そうか、これは空手のお陰だ。空手のお陰で平常心なんだ。~
いつの間にか、毎日の自主トレと稽古によって俺の心は薄皮で治癒されていたのだった。
そんな時、黒下が俺のとこに様子を見に来た。
黒下:〜あの事は過去の事、もう気にしてませんよ〜
と言わんばかりの満面の笑顔で近寄って来て、何やら俺に対してご機嫌伺いをしてきたが、俺は適当に話を合わせる様にした。
その応答具合に少し意外そうな顔を見せた黒下だが、奴(黒下)も今は余裕無い状態。

直ぐ別のエリア対応に走って行った。
あの宿敵、黒下と話せた!
普通に喋れた!!
俺自身の変化に自分が一番驚いた!!!スゲーっ!
さて感傷にひたってる場合ではない、直ぐ業務に戻る。
もうすぐ朝礼が始まる。
以前、班長としてやっていたエリアの異常処置応援を指示通りこなさなければイケない。
稼働中に欠品となったらラインを停めてしまう為、担当エリアの部品在庫確認からスタートする。
狭い作業場を隅々廻り、部品箱の向きを揃え、在庫を確認をする。
すると、ある部品の上に白いビニール袋が置いてあった。
俺: ~なんだろう?~
と思い、手にとるとズッシリ重い。
俺: ~イヤな予感がするなぁ…(汗)~
と感じつつ、中を見てみると黒光りするアレが出てきた。
俺: 〜ぴ、ぴすとるぅ!!!!(⁠;⁠ŏ⁠﹏⁠ŏ⁠)…〜
そう、それは拳銃。
俺は息を呑んだ‥。
なんでもアリ、なんでもゴザレの七海興業…とうとう拳銃が出てきた‥。
俺:〜どうしよう?ゴミ箱に捨てる??いや、そんなことしたら見つかったとき俺の指紋が出て さぁ大変…。牧野課長へ報告??いや、直ぐには課長も来れない。どうしよう…もうすぐ朝礼始まるし…ああぁぁぁぁ!!!〜
オタオタしてると「ゴメン、ゴメーン」と陽気な日系人作業者が声をかけてきた。
日系:「アー、コレ、プレゼント、オモチャ。コドモ、コドモ!」
俺:「‥……‥………。わっはっはっ!そうか、プレゼントか子供の!こんなとこ置いとくなよー わはははは。」
日系:「ゴメン、ゴメーン(笑)」
真偽は定かでは無いが、子供へのプレゼントのモデルガンだったらしい。
夕方、殺し屋が堂々と来るような会社だからね、ナンでもあるから七海興業、見ない方がいいモノもあるよー。
さぁ、今日も1日頑張ろう
わっはっはっはっ…。
そんな1日だった。


Chapter 79
〜真円のズレ〜
第二工場応援、君沢部長が作業者を多め多めに配属してくれたお陰で、比較的早く俺は事務所に戻ることが出来た。
ホッとした‥やれやれだ。
まずは居ない間の現状把握から‥と、溜まった書類をパラパラ見ていく。
第二工場は多少落ち着いたが、他の課はどこも人が足りなくてヒーヒー言ってる。
俺:〜やばいなぁ、また応援あるかもしれないなぁ‥。〜
とイヤな気持ちになる。
そんな中、不穏な噂を耳にした…。
先日、七海興業が新規事業として立ち上げた仕事、その完成品で不具合が出ており 大きな問題になりそうだ…とのこと。
その新規事業とは"小型エンジン"を組み上げる仕事なのだが、詳細について俺はよく知らなかった。
この為、何事も現状把握から…とさっそく俺はその課に行き、状況確認することにした。
俺:~書類、全然頭に入らないから丁度いいや‥(笑)~
と思いつつ。
さて、現場に着いた。
担当する課は規模が小さく年配の方が多い。
責任者の課長は口うるさい印象の初井(はつい)という御方。
その部下の浜田(はまだ)組長は相反して無口。
以下、物腰柔らかい冷野(ひやの)班長と、もう1人の班長が続く。
役職者4名、作業者15名の小さな職場。
ここで作りはじめたエンジンは、もともと別の下請け会社がやっていたが、訳あってソコが手を引き、七海興業が引き継ぐことになったとの事。
立ち上げ当初、問題なく生産していたが、最近になってある事が発覚‥。
それは、この小型エンジンの中心部分 "クランク" と呼ばれる部品の軸(中心)がズレていて、真円となってない‥と言う不具合だった。
このズレは図面の許容範囲から微妙に外れており、親会社の方でOK?or NG?か判断中との事だった。
俺: ~うーん、初期流動時の不良品。NGならエンジンの市場クレームか…。もう既に結構な台数作ってるみたいだな…。後は親会社の判断待ちか…。~
現場をひと廻りして、"現場状況 把握書"と照合、事務所へ戻ることにした。
その日の夕方、俺が帰ろうと一階のロッカールーム支度していると、君沢部長に呼び止められ、こう言われた。
部長:「すまん、アメリカ行ってくれ‥」
俺:「‥???はい?」
部長:「すまん、アメリカ…。」
俺:「?!!!」
全く予期せぬアメリカ出張を言い渡されたのだった。


Chapter 80
〜逃げるのかっ!!〜
七海興業が新規事業として始めた"小型エンジン"の組み立て。
中心部分のクランク軸ズレによる不具合が発生、これに対して親会社は‥
NG!!!
の判断を下した。
これによるアメリカ出張決定‥。
しかしなぜ、アメリカなのか…?
実はこの小型エンジン、アメリカのスノーモービルの会社へ提供してるエンジンだったのだ。
冬に需要が高まる事から生産台数にムラはある。
出来上がった完成品は、船便で定期的に送り、その送り先がアメリカ…。
正直、過去、七海興業が絡んだ市場クレーム不良は様々あった。
俺は現場対応時、近くのモータープール(完成車を保管する場所)には度々行ったし、宮城県にも鹿児島県にも手直し出張に行った事はある。
特に人が足りなくてバタバタする時期には出やすい。
それでも全て国内で終わっていたのに、まさかの海外不良修正とは…。
七海興業の歴史上、最も大規模な不具合対応になる…。
俺:〜そりゃ君沢部長も経験無いから慌てるよ…。〜
俺は最近、空手が自分にとって大切なものということを再認識したため、より一層、練習に力を入れていた。
そして、数週間後に全国規模の大きな大会にエントリーしていた中での出張指示‥。
俺は指示を受けた後、部長にこう言った。
俺:「すいません部長、俺、実は空手の大会にエントリーしてまして、アメリカ出張の件、ちょっと考えさせて下さい。」
部長:「…わかった。」
意外とすんなり了承…。
だが、俺は悶々としていた。
たしかに大会には既にエントリーしている。
後輩、先輩、道場生の皆、応援してくれている。
顔写真入りの大会パンフレットまで出来上がって配布されている。
そんな中
俺:〜すいません、仕事で出張になったので棄権します テヘっ〜
とは言えんっ…。
あぁぁぁああ、でもなぁ…。
どうしたら……。
俺:~ホントにいいのか?こんな一大事の時に仕事を後回しにして…~
俺はその日、ルーティーンの道場へも行かず実家に立ち寄った。
親父に相談したかったからだ。
そして、事の経緯を説明する。
すると、
親父:「そりゃ、おまえアメリカ行くだろ。空手じゃ飯は喰えん、当たり前の事だ。アホか…」
俺:「!!!」
目が覚めた、さすが親父。
そりゃそうだ、空手じゃ飯は喰えん!アメリカ行ってりゃ〜野郎、怖くなって試合直前に仕事言い訳に逃げやがった!〜って悪口も聞こえてこない!よし!!行くぞ出張👍
直ぐ様、実家から七海興業事務所へ電話する。
今回の問題対応真っ只中の君沢部長が出た。
俺:「部長、先程は失礼しました。俺、アメリカ行きます!」
部長:「…いいよ、お前、空手の試合あるんだろ?」
俺:「いいえ、棄権します。だから行かせてください!」
部長:「……わかった。頼む…。」
その時、電話口で部長が泣いてるように聞こえた。
俺は少しだけ恩返しが出来たような気持ちになった。


Chapter 81
〜病気にならなければ良いっ!〜
急ピッチでアメリカ渡航の人員が選抜された。
今回のアメリカ出張、行くのは現場から初井(はつい)課長、浜田(はまだ)組長、冷野(ひやの)班長の役職者3名と作業者3名の6名。
事務所から俺、茨さん 2名の合計8名。
親会社からは役職者のみの10名と、七海興業へ移管する前にこの製品を作っていた下請け会社から指導役で1名。
他、親会社本社の設計部門から多数…と、少なくても20名以上、かなり大規模なアメリカ手直し出張となる。
七海興業が出した不良品と言うことで、つらい渡航となる様相…さらに問題が…。
今回の七海興業側8名の中で、俺が一番若く、尚且つ海外経験者(新婚旅行でオーストラリアへ行った)と言うことで、君沢部長も牧野課長も俺への"頼む色"が強い…。
部長:「全員の滞在費や食費はお前の給料振り込み口座に300万、事前に入れるから。」
と言われ、通帳を差し出すことになった。
俺にそんだけ頼む‥と言う割りには、向こうで病気になった時の為の"海外健康保険?"的なモノ、事前に加入したのに、なぜか俺の名前だけ別人に…(汗)(⁠٥⁠↼⁠_⁠↼⁠)。
俺:「部長! だ、大丈夫なんですか?別人ですよコレ!これじゃあ俺、病院行けないじゃないすかっ!!!。」
部長:「…大丈夫だ、病気にならなければ良いんだから‥(ニヤリ)。」
俺:「…はい、分かりました。病気にならない様、気を付けます…。」
部長の混乱ぶりが伺える…。
苦笑いの俺…。
この時おれは閃いた、七海興業入社前にアメリカで就職していた"イチトシ推進室長"を思い出す。
イチトシさんなら、アメリカ的なルールも分かるだろうし、英語も喋れる!イチトシさんしか居ないっ!!
そう思い、部長に提案する
俺:「イチトシ推進室長も一緒に同行願えませんか?」
が、大事な次期社長に火中の栗を拾わせることは出来ない‥と呆気なくボツに…。
俺:〜ほ、本当に大丈夫なのか!!?…俺が七海の責任者みたいになってんじゃん!〜
翌日から渡航となる。


Chapter 82
〜新幹線にて〜
翌朝、嫁に駅まで送ってもらう。
昨年生まれた愛娘共しばしの別れ。
精一杯‥抱き締める。
嫁は1枚の家族写真と『事故無く、気を付けて帰ってきてね』と書かれた手紙を手渡してくれた。
俺:~あぁぁぁ、良い奴だ、愛しい家族
、行きたくないよぉ…。~
後ろ髪引かれる思いで、待ち合わせ場所の発着ホームへ。
程なく、七海興業8名全員揃い、会社から配布された切符を握りしめ新幹線に乗った。
ここから成田空港まで向かい、そこからアメリカへ飛ぶ予定。
朝早かったとはいえ、新幹線内では意外と和やかな雰囲気。
悲壮感は一切なく、皆、冗談を言い合ってリラックスしていた。
中には久々に新幹線に乗る者も居て、ちょっとした旅行気分。
二時間ほど揺られ、もうすぐ東京到着となる。
ここから成田エクスプレスに乗り換えという時、初井課長が
初井:「トイレに行ってくる」
と言い席を立った。
この後、あっちへこっちへ‥初めての飛行機搭乗に向け、慌ただしくなるので事前に済ましとこうと思ったのだろう。
暫くすると用を済ました課長が戻ってきた。
が、先程とは一変した表情…。
俺:「んっ?どうしたんすか?課長」
初井課長:「…ションベンしてたらさぁ‥電車が揺れてバランス崩しそうになったから手を壁に着いたんだ…」
俺:「…はい。」
初井課長:「そしたら、手を着いた衝撃でメガネ叩いて割っちゃったんだよー!!どうすりゃいい?なぁ?どうすりゃ!(⁠@⁠_⁠@⁠;⁠)」
俺:「…………。」
この人はこうなったらもうダメ…。
解決するまでギャーギャー言い続ける。
それを知っている浜田組長、冷野班長はソッポ向いてる。
初井課長:「なぁ!どうすりゃいいんだよ!これじゃアメリカで仕事どこじゃないぞ!おいっ!どうすりゃ…」
なんでこのタイミングでメガネを…?。
そしてこの混乱ぶり…こんな奴が課長、終わった…。
これは序章に過ぎなかった…。


Chapter 83
〜ヨッシャ!わしが行くっ!!〜
取り乱してる初井課長、成田空港内でメガネ屋を見つけ無理言って猛スピードで作ってもらうことができ、何とか搭乗に間に合った。
やれやれだ……(⁠ー⁠_⁠ー⁠゛⁠)。
そして親会社の方々とも落ち合い、皆で同じ飛行機に乗った。
親会社は全員ビジネスクラス、七海興業はエコノミー‥明確な格差!。
これから12時間のフライト、目的地である"アメリカの冷蔵庫"と異名をとる州へ向かう。
窓から暗闇の空を見て家族を思い出す。
無事に帰ってこれるのだろうか…?
いつ帰国出来るのだろうか‥?
そんなことを考えると寂しく切なくなった。
少しウツラウツラしていると、気がつけばいつの間にか広大な大陸の上を飛んでいた。
俺:~おぉ、とうとうアメリカに来たか…。~
無事に第一目的地到着。
七海興業にとって初めての入国審査となる。
これから一人ずつ審査官の前に立ち、何しに来たかを説明しなければいけないのだが、全員ビビって動こうとしない。
そりゃそうだ…と俺が先陣を切って向かおうとすると作業者の中で一番の年長者、朝木(アサキ)さんが「よっしゃ!わしが行く!」とスタスタ行ってしまった。
俺は驚き、(なんて男らしいんだ、初井課長とは大違い)と感心、様子を見ることにした。
ひとしきり、審査官に英語で質問された後、朝木さんはこちらを振り返り、朝木:「やっぱ、わからんなぁ…(笑)」と照れ笑い。
そのまま首根っこ捕まれて別室へ連れていかれてしまった…。
皆:~おおぉぉぉ…朝木さん…。~
その後は、俺が通訳の役目をして
「仕事で来た。この後の人達も皆、一緒」と片言で伝え無事通過。
更に30分後には朝木さんも解放され 全員なんとか第一関門突破となった。
その後、国内線に乗り換え更に一時間半かけて最終目的地の小さな空港に着いた。
季節は11月はじめ。
肌寒い、既に雪がチラホラ舞っている夕暮れ時だった。


Chapter 84
〜HEY. BOY‥〜
親会社の責任者が空港でレンタカーを借り、何人かで分乗、現場近くの予約したホテルへ向かう。
予定では明日、早朝から早速手直しを行わなければならない。
その為には早く、ホテルで風呂に入りゆっくり休みたい。
皆、そう思っているだろう。
誰も何も話さず、ジッっと前を見たままだ。
車はひたすら真っ直ぐな道を走る。
回りは真っ暗なのでぜんぜん状況はわからないが、広大な土地に居ることは理解できた。
俺:〜とんでもないとこに来たな…〜
心の中で呟いた。
二時間ほど経つと遠くに町の明かりが見えた。
今夜の宿泊先の町らしい。
そこには、外観は白く、それを誇張する様にライトアップされた凄く綺麗なホテルが佇んでいた。
俺:~こりゃ良いとこだ!~
皆、疲れが吹っ飛んだ様にテンションがあがる。
賑やかになったアジア人20数名まとめてロビーに押し掛け、受付を済ませていると何やらザワつきはじめた。
なんと、人数に対し部屋数が足りないらしい。
結局、3名だけ溢れてしまうとのこと。
俺:〜はぁ?!っ💢(⁠ʘ⁠言⁠ʘ⁠╬⁠)〜
結果、今回の手直し渡航の元凶を作った七海興業から3名溢れることになり、俺と朝木さんと冷野班長が別の近くの宿泊先へ向かうことになった。
俺:〜なんで初井課長は俺が行くって言わないの?責任者が率先して行くのが当然じゃないのか?(怒)〜
と心の中で怒鳴る。
でも仕方ない…そういう駄目な課長だから…。
諦めて指示に従った。
三人の宿泊先は最初のホテルから10分ほど車で走ったところ。
いざ行ってみて、俺は愕然とした…。
さっきのホテルとは大違い。
日本で言うなら地元人は決して泊まらないだろうボロボロ場末のホテル…。
3人共 絶句‥。
仕方なしに部屋へ入れば、壁は薄い、お湯の出も悪い、トイレの水も流れにくい、暖房も効かない…。
泣きそうなのを我慢し、固いベッドの薄い布団にくるまり目をつぶると、深夜、地元の酔っぱらいが
酔っぱらい:「Heyboy‥HAHAHAHAHA‥‥!!」

と俺の部屋のドアをガンガン叩き騒いだ(驚)。
俺:〜や、やめてくれぇぇぇ〜
見たことないアジア人が居ると知って、からかってるのだろうか?
俺:~うぅぅうううぅ……(泣)。~
寝たか寝てないか判らない状態で朝となり、仕事の時間となってしまった。
辛く長い夜だった。


Chapter 85
〜辛い、ツライ‥〜
翌朝4*30、親会社の方が迎えに来た。俺同様、ほとんど寝れなかった冷野班長、朝木さん。
こういう辛い目を共有すると仲が深まると言うのは本当だ。
以前は殆ど話したことはなかったのに今は"戦友"の様な意識が芽生え、一気に距離が縮まった気がする。
互いに目で合図し
〜今日からだ、頑張ろうな〜
と励まし合う。
その後、前夜のホテル(皆の宿泊先)へ行き、全員揃ったところで現場となる工場へ向かう。
しばらく走り、町の郊外、小学校の体育館程ある大きさの使ってない空き工場に着いた。
ここを親会社が一時的に借り、仮設の生産ラインを設けて、手直ししているのだ。
そこへ、既に日本から輸出された七海興業生産の完成品を運び込み、今一度分解して中心の部品を真円にし直すという流れ。
本来なら設備を使っての作業をするのだが、仮設ラインと言うことで全て人海戦術で手直していく事となる。
地元のアメリカ人も一時的に雇い、総勢30人規模の作業となった。
作業に入ると、慣れない場所な上にチームとして初めての作業。
神経は使うし、設備は無いし、体は相当しんどい…。
時差ボケと昨晩の過酷な環境による眠気にも襲われ、俺は何とか‥流れを止めない様に必死に指示された作業をこなした。
夕方になって親会社責任者から
責任者:〜今日はこれで終わり〜
の号令がでた。
こんなに待ち遠しかった号令はなかった。
辛い、ツラい 、アメリカ初日だった。


Chapter 86
〜革命的考案〜
3日後、七海興業全員、別のホテルに移るということで、ここでやっと俺たち3人(冷野班長、朝木さん、俺)はモーテルから脱出、皆と同じホテルに泊まれることになった。
そして全員集合したところで、ホテルの隣、歩いていけるレストランで英語だらけのメニュー表から皆の要望を聞き、片言でウエイトレスに注文、食事会をして労をねぎらった。
衣食住、なんとか三つ揃ったのが丁度この頃。
少しずつだが皆、環境に慣れてきた様に思える。
するとより良い生活をしたいが為に、様々な要望が影の責任者→俺に向けられた。
例えばマクドナルド。
俺はコレは厄介だと思った。
上記でも述べたホテル隣のレストランであれば、注文さえすれば後は店側が全てやってくれる。
が、ファーストフードはそうはいかない。
注文後に自分で動かなければいけなし、食事後も自分で片付けなければいけない。
そのルールが万国共通とは限らない為、大変じゃないか?と俺は睨んでいた。
だが、皆の"食の欲求"は止まらない。
俺1人ならば行かないけど、メンバーはそんなの知ったことではない。
俺が何とかしてくれると思っている…。
仕方なしに行ってみれば案の定、日本の「smile ¥0」など全く通用しない現実が待っていた‥。
カウンターの女子高生らしきお姉ちゃんは眉ひとつ動かさず、ガムを食べながら商品をテーブルに放った。
俺:「………」
"郷に入れば郷に従え"、ここのやり方に合わせるしかなかない。
諦めよう、勉強になった…。
その帰り道、車を持たない七海興業一団が固まってハイウェイ脇をモソモソ歩いていると、通りすがりの車から
現地人:「○△♂☆◣▦-»:☆*HA.!??!!!!」
何言ってるか判らない、恐らく暴言を吐かれゴミが飛んできた。
俺:〜…こりゃ、夜、出歩くのは危険だな‥。〜
そういう経験もした。
そう、ここは銃を持てる国だ。
ウォルマート(日本のイオン的なところ)には猟銃売場がある場所なのだ。
この土地自体、他所者(よそもの)を受け入れ難い風土という印象を受けた。
アジア人が圧倒的に少なく、異物扱いされているため気を付けなければいけない事を悟る。
そんなド!アウェイの中でも、俺が発見した一番のモノはカップラーメンだった。
安全に気を配りつつ、1人でウォルマートを散策、そこでエースコックのカップ麺を発見。
味はレモンライムフレーバーか、ビーフフレーバーしか無かったが、コレに同じく見付けた"ソイソース(醤油)"を二、三滴垂らすと醤油ラーメンになることを発見!
更に、各部屋に備え付けのコーヒーメーカーでお湯を沸かす方法を見つけ出し、皆、部屋でカップ麺が食べれる様になった。
これには皆、大いに喜んでくれた。
また、日本の家族に安否連絡をしたいとの事で国際電話を部屋から掛ける方法を実験 。
カップ麺同様、ウォルマートでテレカ的なものを発見し、部屋の備え付け電話から国際電話の掛け方を見つけ出し伝授した。
他にもピザの購入通訳と指導。
フードコートでの購入通訳と指導。
ATMでのドル紙幣引き出しなど、皆の要望にはなるべく答える様にし、俺はやったことないことに果敢に挑戦した。
皆の生活は格段に向上し、仕事もはかどり、休日は自室でつまみとビール‥でリラックスできる様になっていった。


Chapter 87
〜パパー、パパー〜
作業にも慣れ手際もかなり良くなり、思った以上に仕事が進む。
すると親会社から人員整理の話が上がった。
ようは、少しずつ帰国させていくと言う話。
まず、親会社から煙たがられている初井課長に白羽の矢がたつ。
本来なら七海興業の責任者だから最後まで残らなければいけないのに、「お前は役立たずだ!」と、これ見よがしに帰され(本人は大喜び)、次に茨さん、浜田組長、冷野班長…結果的に俺以外、段階的に全員帰されてしまった。
振り帰れば俺だけ…。
責任者じゃないのに、七海興業では俺だけ居残り…。
責任者の初井課長は真っ先に帰されたのに俺だけが残るなんて…。
俺:~ううぅぅぅぅ…(泣)~
日本では、きよみ(嫁)も娘も待っているのに‥。
昨日の国際電話では
嫁:「もう、駄目かもしれない…」
と弱音を吐いてきた。
俺:「い、いったい何があった!?」
と言うと受話器越しに
娘:「パパ、パパー…うわーん…(泣)」
と泣く幼い娘…。
気が狂いそうになる。
俺はおもむろに荷物の入ったスーツケースを天井まで何度も何度も持ち上げ、更に、クタクタになる様、自重トレーニングをして体を痛めつけた。
何かせずにはいられない、が、何ともならないジレンマ…。
ツラい…!
話し相手も居ないし、カップ麺も、砂糖だらけのパンも、バナナもナッツも、エビもジャガイモも食べたく無い!
俺は、俺は日本に帰りたいんだ!!!
そんな時、自然と俺は声を圧し殺して自重トレーニングに続き、正拳突き、前蹴り、まわし蹴り etc…と空手の稽古をやりだした。
空手は禅と通ずるのだろうか?
不思議と心が穏やかになるし、諦め?まぁ、なるようにしかならん…という気持ちにもなる。
平常を保つ事ができた。
もうアメリカに来て1ヶ月が経とうとしていた。


Chapter 88
〜コテコテの醤油うどん〜
俺は、残った親会社側3名にどんな仕打ちをこれから受けるのか…と戦々恐々としていた。
だが、以外にも残務処理に残った親会社三名は俺に優しかった。
「あそこのピザは旨い」だの、「○○の肉は柔らかくて口に合う」だの、
自分達が通っている地元の美味しいお店に連れていってくれると言う。
俺:~なんで?俺をイジめないの??~
俺は思いきって聞いてみた。
すると、思った通り初井課長のことが大嫌いだったとの事だった。
俺:~うーん、あの人はいったいなぜ?七海興業の課長になれたんだ?~
更に裏話で、俺を含めた七海興業メンバーがどこへも行けず部屋に閉じ籠っているころ、初井課長は追加応援で後から渡米してきた親会社の旧友と夜な夜な自分だけ、カジノへ繰り出していた事を知った。
俺:~!!!!あ…の…野郎…(怒)~
人に頼むだけ頼んで、部下放ったらかしで自分だけお楽しみかいっ!なんて自分勝手な奴!!俺も益々、初井課長が嫌いになった。
俺:~最低の責任者だなっ、あんな課長には俺は絶対にならん!!~
と心に決める。
同時に親会社3名にも思った、
俺:~こ、こいつら(親会社、残務処理の残り3名)、俺達(七海興業)が日々困窮し、ウォルマートしか行けない中、車であっちこっち出掛けて旨いもん喰って、充実したアメリカ生活していたんだな(怒) …~
とても腹が立つ‥。
しかし"長いものには巻かれろ"だ。
滞在中に気温はどんどん下がり、川は凍て付きマイナス18度のダイヤモンドダスト舞う白銀の世界となっている。
今後、独り歩いて外に行くのは厳しい…と、ありがたく連れていってもらうことにした。
アメリカに来て初めての文明人らしい生活、少し観光気分になった。
翌日、一台の車に四人で乗り込み、お世話になった現地の方々へのお礼参りをして廻った。
更に数日後、無事帰国日が決まり
来た道を戻り、アメリカを経つ直前の空港、barで4名だけの "サヨナラAmerica食事会" を開く。
ピザをたらふく食べ、酒を呑み、親会社、下請け、関係なく労をねぎらった。
この時、日本に着いたら真っ先に何食べたい?の問いに、皆(4名)の答えは共通 "品川駅構内の立ち食いうどん" に決まった!
ワクワクしたまま搭乗し、あっという間の12時間後、1ヶ月ぶりの日本に到着。
全員で決めていた最初の日本食、品川駅構内の"立ち食いうどん"に寄ったが、まさかの「本日の営業は終わり」表示でガッカリ…。
結局駅弁を買って新幹線内で食べる事になった。
その後、最寄りの駅で各々降り、解散となっていく中、俺が降りる駅は一番遠かった為 ここでも最後の1人に。
1ヶ月前に乗り込んだ懐かしい駅に着いたときには既に22*00を廻っていた。
俺はタクシーでアパートへ向かう。
嫁は元気か?娘はどうだ??
色んな気持ちが沸き上がる。
見覚えがある風景が愛おしく思え、
俺:~無事帰ってこれた…よかったなぁ~
ひとり噛み締めた。
その日は丁度、俺の誕生日だった。


Chapter 89
〜喉のホトケさん〜
アメリカから戻った。
向こうのマイナス18度が嘘のように暖かく過ごしやすい日本。
俺:〜やっぱいいなぁ(*´∀`)。〜
事務所に1ヶ月ぶりの出社。
少し誇らしく、例えるなら戦地から無事帰還した兵士の様な気分だろうか?…胸を張ってタイムカードを打つ。
久々に会う同僚、皆、「ご苦労様でした」と労をねぎらってくれた。
「まだ時差ボケもあるだろう」と牧野課長の計らいで通常業務には戻らず、アメリカで使ったカードの支払い確認をする。
それから支給された300万の残金返却、銀行に行きお金を引き出して部長へ渡した。
つぎに牧野課長から渡米中の七海興業の話を伺う。
皆が手直しで渡米してる間、牧野課長、イチトシ推進室長、君沢部長は問題の現場にかかりっきりだったとの事。
責任者の初井課長に代わって、不具合の発生防止と再流出防止に努めていたらしい。
凄く大変だったろう…、問題が起きてる場所を放棄し部長指示とはいえ、他人に任せる初井課長は本当に役職者失格だと思った。
そんな中、君沢部長からまた、現場の応援依頼が入った。
俺:「…!?!」
作業者が足りない事と、現地手直し経験者が入った方が現場も締まるとのことで、俺は今回の問題発生場所に入り、ライン作業をすることになる。
この時、俺の後工程には浜田組長が居た。
前にも述べた様に浜田組長は無口、上司の初井課長とは真反対の御方。
しばらく作業していると、俺の右足ふくらはぎに違和感が…。気のせいか?と思ったら また‥。
それは浜田組長が俺の足をコツンコツン蹴っていたのだった。
俺:〜…なに???〜
それは組長からの「もっと早く作業しろ」の合図だった。
口で言わず、蹴っての催促…。
俺は〜空手で蹴られるならばともかく、なぜに??〜と不快感を露にした。
すると、また、蹴ってきたのだった。
俺は咄嗟に組長の喉仏めがけ掴みかかり、そのまま休憩所へ連れて行った。勿論、口答えすれば指先に力を加え締め上げるつもりだったが、組長は驚きと喉を制された事で声が出ない…。
俺:「…コノヤローいい加減にしろよ…。大人しくしてるからって舐めてんじゃねえ…お前はいつもそういう態度だな(怒)…。」
と俺は耳元で囁いた。
これは普段の作業者に対する態度、アメリカでの振る舞いに対して不満に思っていた事が、自然と口にでてしまっての事。
そして休憩所の長椅子に座らせ"こんこん"と説教した。
組長は普段大人しい俺がまさかの態度をとったので「…すまなかった…」と素直に謝ってくれた。
そこへ騒ぎを聞きつけた初井課長が来たから再燃、俺は課長も隣に座らせ「お前の教育が悪いからこんな人材になるんだ、そして、こんな現場にもなる!」と二人まとめて叱りつけてやった。
その日の終業後、平静を取り戻した俺は牧野課長と君沢部長に事の顛末を報告した。
二人は苦笑い。
後日、やりすぎたと俺は謝罪に行くことになる。


Chapter 90
〜平身低頭〜
翌日、昨日の事を謝りに浜田組長、初井課長のとこへ行く。
ちとやり過ぎた…。
牧野課長も君沢部長も俺が怒った事に対し咎めはしなかったが、やっぱりやり過ぎたと自分で思う。
作業者が居る前で、弁解の余地を与えず迫力だけで圧しきった。
これは二人の顔を潰した形になる。
空手のお陰で "叩くときは叩く"という風になっているのか…?黒下のカバン持ち時代からは考えられない、自分自身の変化にも気付く。
どちらにせよ謝りにいく。
二人は現場の事務所に居た。
どんな事を言われても仕方ない"平身低頭"心から
俺:「昨日は失礼な事をしてしまい、申し訳ありませんでした…。」
深々と頭を下げる俺…。すると、
浜田と初井:「いや、俺たちも悪かった…」
大人な二人。
初井課長も浜田組長も許してくれた。
その後の御二人の現場対応状況を見ると、作業者にも失礼な態度はとらなくなったし、大きな不良も出なくなった。
俺は、指摘したことに対してしっかり対応してくれたと恩義を感じ、その後からは他の課長以上に気を遣い、俺自身が御二人に失礼無いよう努めたのだった。


Chapter91
〜牧野課長とイチトシさん〜
今日から通常業務に戻る。
"現場状況 把握書"を用いて、どこの課が何人足りなくて、どういう状況かを把握、実際に現場へ行き照合する。
そこから入社希望者の配属先を決定するのだが、この頃から牧野課長と、イチトシ推進室長の関係に違和感を抱くようになる。
なんというか、課長の態度がおかしい…。
イチトシさんも難しい顔をしている。
俺:~なんで?~
終業後、帰り支度中の課長を一階更衣室で捕まえ聞いてみた。
すると、今回のアメリカに行くほどの大きな不良が発生した中で、初井課長不在の現場をイチトシさんが責任者として対応していた。
その対応具合が上役(責任者)にはあるまじき立ち廻りで、結果、牧野課長が悪い…的な扱いにされたらしい。
課長とすると、あくまでもイチトシ推進室長が上司で、全てにおいて最終決定権がある為、明確で適切な指示を出さなければいけないのに、結果的に巧くいかず、牧野課長の采配ミスという形にされたとのこと‥、俗に言う"人のせいにした"だ。
そりゃ、牧野課長も怒れるだろう‥。
常々、牧野課長は
牧野課長:「上の者は下の者の尻拭いが仕事。責任とれない上司はいらない」
と俺に教えてくれていたのだから。
また、現場を巡回中にこんな噂も聞いた。
結婚し、子供も出来たイチトシさんだが、夫婦関係が巧くいかず離婚しただの…してないだの…。
私生活は一切表に出していない人だけに真偽のほどは定かではないが、プライベートがうまくいかずイライラしての八つ当たりか?とも思う‥。
後日、それが確信に変わる。
"現場状況 把握書"を元に、どこの課に何人配属しなければいけないか?を俺は決め、承認を貰う為に牧野課長→イチトシ推進室長、二人の席へ行ったところ、牧野課長はイチトシさんの顔色を伺い明確な指示を出さなかった。
イチトシさんは、
イチトシ:「なんでこの課に配属するの?」
と、あーでもない、こーでもない言うだけで一向に結論を出さない。
結果、二人は明確な指示と承認を出せなかったので、痺れを切らし、後ろに控えていた君沢部長が決めてしまった‥。俺は、
俺:~なんなんだ?二人とも~
と思った。
その時、ふと、イチトシさんの手元を見ると指先がガサガサに!!
それは子供がよくやるストレスでの指噛みの跡だった。
俺:〜ほんとうだ…これは普通じゃない‥〜
このころから牧野課長とイチトシさんの関係が明確にギクシャクしはじめる。


Chapter92
〜選挙要員〜
会社とすると"イチトシさん"に経験を積ませ、立派な社長になってほしいのだと思う。
君沢部長も俺にそう言ってたし、そりゃそうだろうと思う。
しかし、部下の牧野課長を巧く使えないのであれば、それは問題だと思う。
そんなとき、イチトシ推進室長から直接 俺に指示が来た。
それは選挙運動の応援についてだ。
この選挙運動とは、親会社が応援する人物が出馬するとき、下請け協力会社に"協力"の要請をする。
すると下請け各社、選挙要員として数名、活動の支援に行くのが暗黙の了解となっていた。
具体事例として以前こんなことがあった。
七海興業から程近くにある部品工場に、当時の某大臣が立候補者の応援に来た。
その時は七海興業事務所全員乗り込んだマイクロバスで駆けつけ、盛大な拍手で出迎えた。
そのぐらい、親会社が関係する選挙については盛り上げなければいけない。
この時も次期選挙に向け、下請け5社が集まらなくてはならないことになった。
この場合、いつもならイチトシさんが行くのだが、その日は都合が悪く、代わりに俺が行くよう指示があった。
俺はイチトシ次期社長の代理ということで、真っさらで下ろしたての作業着を事務員に出してもらい、恥ずかしくない様 取り繕った。
そして集まりの場所へ行った。
既に各社の偉い方、皆さん揃っている。
俺:「大変申し訳ありません、本日 イチトシは別件で不在の為 自分が代わりに伺いました。」
と普段使わない様な言葉で御挨拶。
すると別会社上役風の方が
上役風:「なんだ…今日はボッチャン居ないのか…。ふんっ!」
との事。
俺はこの言葉を聞いて察した。
俺:(イチトシさん、他社の上役から軽く見られている‥舐められてる‥。)
確かに背も低く、ポッと出のパッと出。
実績も無いし人脈もない、そりゃそうだ。
更に別の選挙応援時、会社の2トン車でイチトシさんと2人、選挙詰所の後片付けをしなければいけなくなった。
いざ行くと他社の若い子に、
男:「おーぃ、イチっ!こっちの荷物片付けてっ!」
イチトシ:「はーい」
俺はギョッとした。
ここでも軽く見られてると察する。
七海興業内とは全然違う…。
俺のイチトシ推進室長に対する見方が、また少し変わった。


Chapter93
〜タスケテクダサイ〜
ある日の昼休み、事務所一階食堂で昼飯食べた後、そのまま浜梨さんと雑談していた。
すると、一台の社用車が入ってきた。
車からは人事の日系人班長:春吉(ハルヨシ)さんと、同じく日系で元寮長の八千代(ヤチヨ)さん、そして1人の作業者が両名に抱えられ降りてきた。
この作業者は七海興業が請けもつ主力工場の1つ、老舗の"第一工場"から連れてこられた者らしい。
俺:〜ん?なんかおかしいな?体調不良か?〜
と思っていると、その二人に抱えられ降りてきた作業者は、太陽の方を向いて般若心経の冊子を大声で読みながら
作業者:「タスケテクダサイ!タスケテクダサイ!!(泣)(⁠ᗒ⁠ᗩ⁠ᗕ⁠)」
と激しく泣いている…。
昼食中の皆、呆然…。
皆:~なっなんだ?~!!
どうも作業者が狂ってしまった様だった…。
実は七海興業では良くある話。
以前の前村さんの鬱もある種そうだし、他の日系人班長も狂ってしまい身内が連れ戻しに来た事がある。
更に、もっと過去には5階建ての寮から飛び降りてしまった者も居るらしい。
今回のも、かなりキテる…。
すると俺に応援要請が入る。
〜これから彼を病院に連れていくので、八千代さん一人だけではちょっと手こずるから同行宜しく〜との事。
俺:〜だろうね、了解…。〜
俺は後部座席に乗り込み左側へ、作業者真ん中、元寮長:八千代さんが右側に座り、春吉さんの運転で連れていくことになった。
走り出した社用車、車内での彼は涙を流し、ブツブツ訳のわからない事を呟いている。
真面目そうな子なので、七海興業独特の弱肉強食的風潮にやられてしまったのだろう‥。
無理もない、二十歳そこそこで訪日し、日本語も殆どわからない中、頼る相手もおらず理不尽に毎日攻め立てられ、寮と職場の往復だけでは…。
俺も先日の渡米で 痛いほど判っていた。
俺:〜可愛そうに…。〜
そして、向かうのは普通の病院ではない。
そこはガチの精神病院だ。
会社から30分程走り、山合いの細い道を入って行くと、ひっそり、目的の病院が建っていた。
俺:〜こんなとこに病院があるなんて…。知らんかったぞ…。(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠!〜
と思った。


Chapter94
〜玉:袋:切:内:出〜
外観は全然病院ぽくない。
保育園?幼稚園??の様な平屋の白壁の建屋。
自動ドアの付いた入り口から入り、春吉さんが受付をしに行った。
その間、後部座席で八千代さんと対象の作業者をガッチリホールド中。
作業者は時折泣き出し、訳のわからない事を言っているが比較的大人しい…。
八千代さんと目で合図し 春吉さんが戻るのを待つ。
暫くし、OKが出たので2人で病院内へ連れていこうとした。
すると、突然、作業者が暴れだしたヽ⁠(⁠(⁠◎⁠д⁠◎⁠)⁠)⁠ゝ。
八千代さんは母国語で落ち着くよう言っている様だが、作業者は全く聞かず更に暴れる。
俺は咄嗟に柔道の体落としで地面にねじ伏せ、押さえ込んだ。
作業者は身動きを制され大人しくなる。
八千代さんもホッとした様子。
俺は医師を呼んでくるよう八千代さんに依頼した。
すると八千代さんが、
八千代:「ウワッ!?ナンダコレッ!!」
どうしたの?と顔を後ろに向けると、作業者の股間が真っ赤に染まっている!!
俺:「えっ…??!!!」
それは作業者自ら、自分の玉袋を裂いたからだった。
その出血で下半身血まみれに…。
~ど、ど、ど、どうやって??、刃物でも持ってたの???~
俺、八千代:「ヒャー!!!」
現場は騒然…!!(⁠╬⁠⁽⁠⁽⁠ ⁠⁰⁠ ⁠⁾⁠⁾⁠ ⁠Д⁠ ⁠⁽⁠⁽⁠ ⁠⁰⁠ ⁠⁾⁠⁾⁠)
すぐ先生が診てくれたが、精神科のため専門外、応急処置しかできないとのことで他の病院に移送されることに…。
だが、受け入れ先がなかなか決まらず、自分で切り裂き、玉が飛び出した股間を大人用オムツで止血し応急処置、長椅子に寝かせ待機する‥。
でも、いつまでたっても進展せず、すっかり夜に…。
俺は牧野課長に電話した。
俺:「すいません、課長。トラブルありまして、まだ、時間かかりそうなんですが、交代要員なんとかなりませんか?」
と伝える。すると、
課長:「すまん、どうにもならん。
そのまま同行していてくれ‥。」
とのこと。
その後、この作業者は手術の為に市民病院に入院出来た。
が、決まったのは日付が変わる頃だった。
その為、春吉さんも八千代さんも、みんなクタクタ…。
ほんとに参った…長い1日だった…。
それから数時間後の早朝6*00、嫁のきよみが産気づき、待望の長男が産まれたのだった。


Chapter95
〜悪党は悪党〜
悪夢のキンタマ事件から数日経った。あの作業者は手術を受け無事、精神病院に入院したとの事。
定期的に春吉班長が面会に行き、帰国出来るタイミングを見計らっているらしい。
さて、俺の方は現場を廻りつつ各課の現状把握に努めている。
やはり、全ては今を正確に知ることから…"現場状況 把握書"との照合を続ける。
そんな中、第三工場に足を運ぶ。
そう、あの勅使河原の課だ。
第二工場の黒下との極悪二人組は今だ七海興業の稼ぎ頭である3工場の内、2つを担当したままだ…。
納得行くはずもないが、君沢さんが決めた事なので仕方ない‥。
俺は以前の事をなるべく考えない様に巡回する。
しかし、今は以前より比較的巡回しやすい。
それは先日から第二工場より、騎士塚組長が移籍したからだった。
"騎士塚組長"とは、俺が黒下から逃げ出す晩、全てを打ち明けた組長。(※Chapter34参照) あの後、黒下に見事に潰され勅使河原の元へ移ったのだった。
騎士塚組長:「久しぶりだな、どうだ?元気か??」
俺:「組長、お疲れ様です。お陰さまで、なんとかやってます。」
騎士塚組長:「そうか、そりゃよかった。」
この騎士塚組長からこの第三工場の現状を聞く。
相変わらず勅使河原の悪業が酷いらしい。
≪悪業1≫
業務中に携帯で出会い系サイトをやり、無料(タダ)で遊びたい為、部下に自分がやってるサイトを紹介、無理やり入会させ、紹介で得たポイントを使い新たに女性を見つける。そしてその女性と仕事中に待ち合わせをし、そのままホテルで逢瀬を楽しむ…。
≪悪業2≫
月に一回、役職者の飲み会を開催させ、自分は一切支払わず会費を高めに設定。お金を余らせる様に幹事に指示を出し、残った会費は全て自分のポケットマネー化させる。
≪悪業3≫
賞与が支給されたタイミングで
「作業者が日頃から頑張ってくれている御礼をしよう」と言い、独自の半年後のイベントを企画。三万円ほど役職者から徴収し実際は自身のポケットマネー化させる。
≪悪業4≫
会社から支給された作業で使う手袋を、事務員に管理→販売させているが、その売上は課の備品を買うと言いつつ、自身のおやつ代に横領してしまう。
≪悪業5≫
上記の悪態に気付き、指摘非難した者は退社へと追い込まれる。

などなど‥。
更に酷いのが、ここの女性事務員に対するパワハラとモラハラらしい。
以前にも述べたが、勅使河原は直ぐ女性を好きになってしまう傾向がある。(Chapter20参照) 何とか格好良いとこを見せようと立ち振る舞うが、相手が全く興味を示さないと、反転、パワハラに走るのだ。
その陰湿さはなかなかのもの(怖)。
例えば、事務員の隣で事務員の嫌みを聞こえる様に言い精神的プレッシャーをかける。
例えば、整理整頓の実施確認と称し、彼女の机中を不在時に勝手に漁りプライベート情報を盗もうとする。
気狂いなのか?盗人なのか??(怒)。発展途上国のスリ集団みたい、そんな奴が課長…トップって…(⁠ʘ⁠ᗩ⁠ʘ⁠’⁠)。
しかもこれが初めてではない。
新しい女性事務員が入る度に毎回やるのだ。
これをやられ、事務員が辞めていく度に君沢部長は
君沢部長:「なぜ、お前のとこはすぐ事務員やめるんだ?」
と勅使河原を本社へ呼び出す。
この時、指導、注意されるのだろうが明確な罰も何も無いため結局そのままに‥。
今回の事務員はセクハラ、パワハラの全てを君沢部長に話した結果、この事を公にしないという約束をとりつけ、半年間の有給休暇を獲得して退職したと聞いた。
つまり、会社は彼女を金で黙らせた…と言うことなのだ。
何度も言うが悪党はどこまでいっても悪党だ…。
部長も何故?こんな奴らを課長に据えておくのか??ホント、疑問に思う…。
上役の多くが職長権限を乱用し悪事を働く会社…それが七海興業。
俺はそんな奴には絶対にならん!!
そう誓った。


Chapter96
〜会長監査の日〜
今日は年に一度の会長監査の日。
この会長監査とは、親会社の会長が自社の主となる工場に実際に赴き、重役達と工場内を歩いて見て回る、そして生産の無理、無駄、ムラの3つを指摘して、より利益がでる会社へしていくという年一回の恒例行事だ。
廻られる現場としては非常に嫌な行事。
もしこの時、指摘を受けたら何がなんでも言われた通りに対応しなければいけない。
出来なければ、担当責任者の降格や転勤など何らかのペナルティがあるらしい恐ろしい行事‥。
これには七海興業も例外ではない。
親会社から構内請け負いとして工場内の一部生産エリアを任されているので、同等の扱いを受けることになる。
この為、七海興業の社長もこの日ばかりは工場に出向き、親会社の会長に同行する事となっている。
そこには君沢部長、イチトシ推進室長、牧野課長、不動部長、浜梨さんも同行する。
(※以下、社長を除く上記6名を七海興業幹部衆とします)
そして当日になった。
その日、午前中は七海興業エリア、指摘を受けることもなく無事終わり、一旦、七海興業幹部衆 、皆、事務所に昼食を食べに戻ってきた。
社長も君沢部長もホッと一息。
午後の監査再開に向け再び支度をし始めたとき、俺は部長から呼び出された。
君沢部長:「イチトシが見当たらない…電話をかけても出ない。もう行かなければいけないのに…探してくれ‥。」
とのこと。
俺はただならぬ事が起こっている様な感じがした。
君沢さんの傍らには社長が相当イライラしている様子で待っている。
部長も早く探してくれと目で合図してくる。
俺は事務所の一階食堂、喫煙場所、駐車場、トイレ、二階…などを探し廻ったがイチトシ推進室長の姿は無い。
俺:〜まずいぞ!早く見つけ出さないと…〜
と事務所三階に上がったところ何やら大きな声が…。
俺:〜なんの声??〜
音がする部屋を覗いてみた。
そこは会議室なのだが、不動部長とイチトシさんが言い争っていた。
イチトシ:「……%¥%$π#√って言ってたじゃないかっ!!!(怒)」
不動部長:「ふんっ?俺は知らない!(怒)」
お互い顔を真っ赤にし言い争っている…俺は(これはイカン…)と思い、
俺:「イチトシ室長!社長と君沢部長がお待ちです!午後の監査が始まりますのでお急ぎください!!」
と大きな声で言い、君沢部長の元へ駆け出した。
先程よりイライラして待っている二人。
俺は部長に駆け寄り、耳元でそっと、
俺:〜三階で不動部長と揉めておりました。理由は解りません。もう降りてくると思います〜
と伝えた。
すると部長は呆れた顔で「ふんっ!」と咳払いをし、社長に状況を伝えに行った。
最近のイチトシさんはおかしい…。
牧野課長ともそうだし、不動部長とも揉めて…。
一体どうしたんだ?と思った。
それから数ヵ月後、不動部長は定年後の契約延長はせず、七海興業にさっさと見切りをつけ退社していった…。
また独り日本人が辞めていった。
しかも超幹部、金庫番の部長がだ…。
いや、辞めさせられたのか…?
日本人がどんどん辞めていく会社、日本に居ながら日本じゃない様な会社、それが七海興業…。
このままでいいのか??
俺は変えたい、世間に誇れる会社に。
そう思った。


Chapter97
〜白い布に包まれた箱〜
俺はいつも樋畑(ヒバタ)さんという方と昼ご飯を食べている。
この樋畑さんは総務(先日退社した不動部長が一応の責任者だった)に所属していて、連絡車の管理や、アパートの管理など、全て担当している何でも屋の方。
今日、この樋畑さんから応援要請があった。
内容は、七海興業のアパートの一室に、既に退社した高齢夫婦が居るのだが、全く連絡取れず、尚且つ、近所で姿を見た者が居ない日が続いている。
今日、室内の確認をしたいから一緒に来てくれ‥とのことだった。
樋畑さん自身、先日、アパートドア前まで訪問したが、人の気配を全く感じ無かった為、躊躇し引き返したとの事だった。
これは嫌な仕事だ…、もし、部屋で○体でも見つけ様なら…(⁠@⁠_⁠@⁠)(汗)
七海興業なので実際ありえると思う。
要請があれば仕方ない。
牧野課長に許可をもらい同行することにした。
移動の車内で樋畑さんに詳細を聞いてみた。
この行方不明の方は以前、君沢部長がまだ現場の課長だった頃の部下らしい。
定年後も数年、契約社員として働き、後に勇退となったが子供がおらず、病気がちな奥さんと二人 、君沢部長のご厚意で そのまま七海興業のアパートに住まわせてもらっていたようだった。
それが最近連絡もとれず行方が判らなくなっている。
部長は何も言わないが、心配している事だろう…自分の部下だったんだから…。
さて、アパートに着いた。
七海興業事務所から車で10分ほどの二階建てアパート。
築年数は数十年だろうか?
外観もかなり古い。
目的の部屋は1階。
まず、俺は玄関ドアに付いてる郵便受けから中の様子を伺った。
人の気配は樋畑さんが言っていた通り無い。
次に室内の匂いを鼻を押し当て嗅いでみた。
‥‥匂いも無い…。
どうやら最悪の事態は無さそうだ…。
ということで、樋畑さんが持ってる合鍵を使って玄関を開けた。
すると…中に入ってギョッとする…!
居間はゴミだらけの埃まみれ…。
挙げ句の果てに床の畳は腐って抜け落ちかけていた。
俺と樋畑さん:〜………(⁠‘⁠◉⁠⌓⁠◉⁠’⁠)(絶句)〜
気を取り直し、室内を物色する。
冷蔵庫を、開けると乳製品が入っている、賞味期限は1ヶ月前…。
隣の部屋に行くと"日めくりカレンダー"があり、1ヶ月前の状態。
ここから判断するに、どうやら、ひと月ほど前から消息を断った様だ。
その時、ある物が目に入り、二人で固まった。
それは机の上に置いてある"白い布にくるまれた箱"だった。
俺と樋畑さんはそれが何かすぐに解った。
それは骨壺…。
隣に小さな遺影写真。
どうやら奥様?が亡くなった様子。
俺:「‥奥さん亡くなったんですかね。荼毘にふせたあと、独りになったのでそれを悲観して…?」
それ以上は言わなかった。
一度事務所に戻り、樋畑さんが君沢部長に報告した。
部長は「ふんふん…」と頷き、なにやら指示を出した様子。
結果、七海興業側で故人を無縁仏として供養してもらうことになった。
供養代の50万を樋畑さんが持って、俺は白い布にくるまれた箱を抱えて、近くの寺に行くことになった。
そして部長の指示通り、和尚に御願いしたところ快く引き受けてくれた。
道中、寺の参道を壺を抱え歩いていると、七海興業の取引先の会社社長婦人とバッタリ会う。
すると…
婦人:「あらっ…身内の方が亡くなったの?大変ねぇ日本まで来て。気を落としちゃ駄目よ…。」
と慰められた。
どうやら俺は日系人で壺の身内の者と間違われた様だ。
そりゃ、そう見えるよね、何も知らず黙ってれば日系人に見えるよね。
俺達は軽く会釈して会社に戻った。
帰り道、寂しい気持ちになった…。
あれからも、部長の部下だった方は見付かっていない‥。


Chapter98
〜小さな金正恩〜
七海興業が親会社から任されている工場には第一工場(禊課長)、第二工場(黒下課長)、第三工場(勅使河原課長)がある。
この3ケ所が七海興業の売上を大きく左右する主力工場、つまり稼ぎ頭なのだが、それ以外でも担当するエリア=課はいくつかある。
先日アメリカまで行った初井課長のとこや、前村さんが以前在籍して居た課、さらに樹脂系の部品を扱っている専門の課もあり、その樹脂工場を担当している課長で頬杖(ホオヅエ)さんという方がいる。
この担当課長、実はとても癖が強いらしい。
噂では、
「独裁政治を貫く"小さな金正恩"」
「自分に歯向かうものは全て抹殺(退社させる)」
と聞いたことがある。
つまり、系統で言えば黒下、勅使河原系と言うコトか…。
俺:「七海興業にはカスみたいな管理監督者ばかりだな‥全く…。」
と改めて思う。
そこの課は、小さく在籍人員が少ない為、社内ではあまり目立たない。
そして長らく後継者(組長)不在の時期が続いている課でもある。
なぜ組長不在なのか?と言えば
頬杖課長直下の組長は皆、事如く潰され退社しているから‥らしいのだ。
辞めていく組長たちは一応に「あそこは酷い」や「頬杖課長は糞」と口を揃え辞めていく。
そんな中、探りを入れるべく、管理は行き届いてるのか?と俺や茨さんが巡回し現場を確認するが、頬杖課長は常に話しやすく、良い対応をしてくれた。
どちらが本当なのか…?
良い人?悪い人??
正直わからない‥。
そんな中、新しい日本人が入社した。それは頬杖課長の息子、実際の身内が入ったのだ。
つまり頬杖課長が後継者として実の息子を呼び入れたという形となる。
この事は誰が見ても明白‥。
俺:〜よく、君沢部長も許可したな…〜
と思う。
みえみえのコネ入社。
弱みでも握られてるのか?君沢部長…。
その後、案の定、息子は直ぐに班長に昇格し、組長代行となった。
そんな時この樹脂工場で、とうとうパワハラで内部告発があり親会社にも話が廻っていると言う情報が入った。
つまり頬杖課長の悪事が発覚したと言うコト‥。
細かい事までは判らないが、親会社から七海興業事務所へ直接、苦情が入り、会社としても放っておけなくなった為、君沢部長は頬杖課長を呼び出した。
事情聴取すると、以外にも、頬杖課長はアッサリ全てを認め、自主退社を申し出たらしい。
それに伴い、息子も同じく退社する事となる。
これには君沢部長と頬杖課長との間で、何か裏取引があったかどうかは判らない。
が、この課はとうとう課長まで不在となってしまった…。
そんな中、部長指示で牧野課長が火消しの為、その課へ足しげく通い、親会社へ迷惑がかからない様に暫定対応し始めた。
もともとは大きな課を担当していた牧野課長なので、小さなところは屁でもなかった様子。
また、息苦しいイチトシ推進室長が居る七海本社事務所よりは良いらしく、生き生きしていた。
だが、これが俺にとって後々大きな災いになっていくのであった。


Chapter99
〜同行依頼〜
今日、禊(みそぎ)課長が担当する第一工場の優秀な日系リリーフマンが突然辞めた。
「国に居る家族の事情で急遽帰らなくてはならなくなった…。」と言って、その日の内に飛行機に乗って帰国してしまった。
ここで、リリーフマンについて説明する。
七海興業の現場役職者は、上から課長→組長→班長という職があり、その下にリリーフマンという異常処置者がいる。
彼らは能力が高い作業者から抜擢され、次期班長候補として働くのだが、この急遽帰国した子も現場では仕事が出来ると評判の優秀なリリーフマンだった。
そんな彼が突然退社とはなぜ?
だいたい辞める1ヶ月前には上司や現場へ事前に知らせ、自分が居なくなっても現場が困らない様に準備期間をつくるものだが、即日帰国なんて…??。
よっぽど家族が大変な目にあっているんだろう…と俺は思っていた。
翌日、本当の帰国理由が判る。
朝、スーツ姿の男性二人が七海興業事務所を訪ねてきた。
事務員が君沢部長へ繋ぐと応接室に入っていった。
それを見た俺は、
俺:〜何かあったな…〜
と直ぐに察した。
案の定、君沢部長から俺に呼び出しが掛かる。
部長:「悪い、この方達(スーツ姿の2人)と一緒に行ってくれるか?」
俺:「わかりました、どちらへ?」
部長:「七海興業の○○アパート」
このスーツ姿の男たち、実は刑事だったのだ。
そして、先日帰国した、あのリリーフマンが容疑者としてあがっていて、共犯者とおぼしき作業者の家宅捜索に同行して欲しいとの事だった。
ちなみに容疑内容は"殺人"…⊙⁠.⁠☉。
それはニュースとなってテレビで朝から放送されていた事件‥。
ニュース:「えー、この山林に背中を滅多刺しにされた外国人○○さんが遺棄されていました…。」
俺はギョッとした。
七海興業、さすがに殺人はまだ無かったが、とうとう…ギョギョギョ‥!!!。
会社内外に衝撃が走る‥。


Chapter100
〜風呂場のルミノール〜
それは容疑者の友人が住んでいたアパートへの同行依頼。
どうやら、出国するときに空港まで送っていったらしく、警察はこの人物が共犯かどうかの家宅捜索をしたい様だ。
この家宅捜索というもの、警察のみでは実行できないらしく、第三者の誰かが帯同していなけれはいけない事になっており、俺がその役をやることになったのだ。
先にアパート着き、駐車場で待機していると、県警の鑑識課が数台の車輌でやって来た。
彼らは手際よく"2手(ふたて)"に別れ、室内の荷物を外へ出していく班と、室内の指紋採取を行う班とで作業し始めた。
俺は初めて見る光景に好奇心をくすぐられ、いろいろ聞きたくなった。
室外班の方ではアパートの駐車場にブルーシートを敷き、部屋から持ってきた物を綺麗に並べている。
その中には住人の保温式の弁当箱まであった。
これの蓋を開け中身を確認し、同じ様に綺麗に並べる。
そしてシートいっぱいに様々な品物が揃うと小さな黒板に調査詳細を記入し、一般的な一眼レフカメラで階段の上からパチリッと撮影した。
俺:「なんでデジカメじゃないんですか?この御時世に‥」
鑑識:「それは、デジカメだと加工できてしまうので不正が無い様、一般的なカメラを使うんですよ。」
以外にも、俺のたわいもない質問にも快く答えてくれる鑑識課の方。
一方、室内では刑事モノのテレビ番組で良く見る指紋採取が続いている。
ポンポンポンポン…耳掻きの後ろ、大きな綿みたいなヤツでTVやゲーム機などの家電を中心にやっている。
やられた家電たちは真っ白になっていた。
俺:〜すげー、TVで観た通りだ〜
その時、風呂場に呼ばれた。
鑑識:「今からルミノール反応の確認をします。この試薬が○色になったら血液反応が出た事になりますので。よく見ていてください」
俺:「はい、わかりました。」
排水溝付近を綿棒で擦り、試薬につけ蓋をする。
それをシャカシャカ振ると…見事に○色に変化した…。
俺:「○色に変わりましたよ!(驚)
‥ってことは血液反応が出たって事ですよね?もしかしてここで…??」
鑑識:「はい、確かに反応がでました。しかし風呂場は髭を剃ったり、身体を擦ったりするんで、出血による血液反応は出易いんですよ。」
そう答える鑑識。
俺は、(恐らく、捜査項目的なモノがあって、この風呂場のルミノール検査もやらなければいけない項目の1つになってるんだろうな…)と思った。
夜も大分更けてきた。
既に23*00を過ぎていて、作業も終盤を迎える。
部屋のベットに腰掛け、見守っていた俺。
外は既に真っ暗で、撮影班も作業が終わった様で室内班に合流、全員でこれから後片付けをするという。
真っ白になった指紋採取済の家電を元の位置に戻し、1つ1つ綺麗に拭いていくのだ。
これはTVでは放送されない部分、(ちゃんと後片付けするんだ…。)
俺は驚いた。
その後、駐車場に一同集まり、鑑識の代表者から
代表:「これは、私達から貴方(俺)への御礼です、遅くまでお付き合い頂きありがとうございました。」
と菓子折りを渡された。
俺:〜そうだったの?菓子折りくれるんだ。これもTVでやらないよね〜
と感心した。
翌日、通常通り出社し牧野課長、君沢部長に報告。
その日のうちに頂いた菓子折りは事務所内で配られた。
《追伸》
※この共犯者と思われた作業者は友人として空港まで送っただけという結果になりシロでした。しかし、帰国した容疑者は未だに逮捕されていない。なぜならこの作業者の母国と日本は容疑者引き渡し協定が無い為らしい。いまでも県警のホームページには殺人の指名手配犯として掲載されている。


Chapter101
〜QC ※Quality Control〜
七海興業では毎年5月に、ある社内イベントがある。
それは"QC社内選抜"というもの。
ここで言う"QC"とは「Quality Control」の略で、日本語訳では"品質管理"を指している。
やり方としては、従業員が5~6名程のグループを作り、業務時間外で自身が関係する業務で起こる問題を、チームメンバーと一緒になって解決していく活動を指す。
この活動には幾つかルールがあって、大前提とし
"1:経営者側の人物は参加せず推奨側に廻ること"
"1:参加する者は役職に関係無く活動すること"
"1:普段口数少ない人に発言の機会を与えること"
などがある。
このQC活動、TOYOTAを始め大きな自動車会社ではどこも実施推奨しており、親会社も無論、年一回、下請けを巻き込んで大々的に発表会を実施し、世界大会まで開催するイベントとなっているのだ。
その大会予選に向け、下請け各社は前哨戦とし社内選抜大会をやるのが通例。
そのQC活動をより円滑に進めるためのスキルを身に付けようと、今日から1泊2日で親会社主催の研修へ行くことになった。
また、今回の研修、各下請け会社より2名出席ということから浜梨さん(※Chapter65参照) にも同行してもらうことを俺は提案、会社側も浜梨さんも快く引き受けてくれた(⁠・⁠∀⁠・⁠)。
浜梨さんには、俺が運転する社用車 助手席に乗ってもらい研修会場へ向かった。
道中の車内では話が弾む。
浜梨さんとは、あれからも何度か一緒に釣りに行き、仕事上、工数について教えてもらったりし、良い関係を築いていた。
俺の中では近い将来、俺が君沢部長の様になって、浜梨さんが不動部長の様になるイメージ。
それは車の両輪の様な感じ。
一緒に七海興業を運営していくだろう未来予想。
だから、今回の研修は更に仲を深める為の絶好の機会と捉えていた。
さて、車を走らせて20分ほどで目的の旅館に着く。
ここを親会社が貸し切り、元工場長クラスの偉い方が講師となって、
「QCは素晴らしい、是非御社でも進めてくれ、さすれば親会社も良くなる!」と熱く語るのだ。
夜は夜で飲みニケーション。
「この仲間意識が大切なので忘れるな!」と熱弁されてた。
翌日は他社の方々と混成グループを作り、擬似的サークル活動を行い報告までした。
そして自社社長まで閲覧される"研修受講報告書"を書いて終了。
これにより、今回得た知識を自社で普及させ、よりQCを推進させる事が社命となった。
数日後、俺と浜梨さんは本社事務所でこの教えを忠実に守る為に活動に入る。
なにせ社長まで承知している社命だから"やらざるおえない"。
やるからには、七海興業のモデルとなる様、基本に乗っ取った忠実なQC活動に徹する。
昼休みに自腹でコーヒーとお菓子を用意、楽しい雰囲気を作った中で掃除のおばちゃんから、女性事務員にまで積極的発言権を与え、要望が上がれば、俺の出来ることなら速やかに対応し信頼関係を築く。
そこでQCの知識を教え、実践し効果金額として出せる過程を体感させた。
こうすればQCに興味をもってもらえる様になるし、コミュニケーションもしやすくなる。
殺伐とした事務所も情報共有が行われ、働きやすい環境となり皆が生き生きしてきた。
この活動計画、実施状況、結果報告をその都度、君沢部長、イチトシさんへ報告し、地道に、確実にQCの教えを守って進めていった。
これには、近い将来の次期社長体制→イチトシ新体制へ向けた地盤作りと考え、俺と浜梨さんがイチトシさんから受けた指示を今後、事務所内でスムーズに回る様にする狙いもあった。
結果、翌年には今まで
社員A:「私はそこまでやらない」
とか
社員B:「なんでそんなことやらなければいけないの?」
とか
社員C:「恥ずかしい」「無理」「出来ない」
と言っていた者たちは
〜私がリーダーやりますよ。〜
と自発的な行動をする様になり、
社内選抜大会では発表者を勤めるまでに成長してくれた。
間違いなく、俺と山梨さんの活動は実を結び 研修で教えられた通り、宣言した通りの結果を得られる様になっていった。
そう、QCは結果を追い求めるだけでなく、過程を大切にし、結果、人材育成をする最も良いやり方なのだ。
人は宝、人罪(じんざい)→人財(じんざい)に変える事が究極目標と教わった事を実行できたのだった。


Chapter102
〜嘘〜
だがQCには裏がある。
俺は気付いていた最初から‥。
あれは絵に描いた餅、机上の空論、皆、知ってる。
社内選抜大会は、もはや盛大な嘘つき大会。
役職者が一瞬でやった問題解決を、さも作業者が自ら、チームを作って時間をかけて解決した…風に演出、その感動の"ウソ報告書"を部長、イチトシさんは「良くやった!」と拍手し、賞状を与え、賞与査定に反映させる。
これは言わないだけで周知の事実‥。
無論、俺も浜梨さんも知っていた。
だが、こんな嘘だらけのやり方はもうヤメだ!俺は本当の事を、真実を、推し進める!クリーンでやりがいある、地域に誇れる会社にするんだ!!
推進室立ち上げ当初、アホほど言わされた"管理とは…『全てのモノを"ゼロ"から見る観点で現状を把握し、明日に向かってより良くすること』" (※Chapter46参照)
コレを社内に推進するのは今なんだ!
さすれば悪い奴が昇格し、未だに課のトップで居れる時代も終わる!
イチトシ新社長体制になったら、パワハラ、モラハラ、嘘は許さず、地域に誇れる会社、自分の子供を是非入れたい!大人にしてやってくれ!!と思われる会社にするんだ!!!
と‥。
その効果が現れ始めたのだ、やっと…。
君沢部長もこの状況を望み、俺にやらせているのだろう。
なぜなら計画も、経過も、結果も逐一報告し、考えにズレがあってはいけないと擦り合わせも随時行いながら進めてきた。
俺にしか出来ない!現場で酷い目にあった俺だから改革出来る!会社も望んでる!事務所は見本!これを現場の悪党どもに解らせてやる!!と意気込んでいた。
すると、イチトシ推進室長がおかしなことを言い出した。
イチ:「チームを解体し、自身が頭になってQC活動をやり直すから‥。」
って。
俺:〜えっ?(⁠ʘ⁠ᗩ⁠ʘ⁠’⁠)ちょっと待ってくれ…、ここまでの環境とメンバーへの指導をしてきて、やっっぁあっと形になった矢先にソレ?おいおい、止めてくれ…。〜
無論、浜梨さんも同じ意見。
QC活動は、大前提として経営者側の人間が活動に直接参加するのは御法度‥となっている。
自主的活動ではなく、業務になってしまうから駄目!ってある。
なんでそんなことになるのか?
QC解ってる??
と思った。
この為、浜梨さんと二人で君沢部長に直談判した…が、結果は駄目…。
結果、イチトシ体制での活動が始まることに…。
俺は既にやる気を失くしていた。
それは教わった真のQCではないから…。
それからは案の定、イチトシ推進室長は何も行動に起こさない…いや起こせない。
なんせQCを知らない、活動したことないんだから。
指示したのは一度だけ「チーム名を決めろ」だって。
いやいや、形なんてどうでもいいんだ、実際に行動に起こすことが大切なんだよ!言う通り決めたら決めたで「なぜそのチーム名にした?」ってしつこく聞いてソコから先へ進まない。
俺:〜どちて坊やかっお前はっ!ಠ⁠_⁠ಠ
俺:〜屁理屈ばかり言って…。明日に向かってより良くする行動しないの??〜
俺と浜梨さんで部長に再び掛け合う。
俺&浜梨:「このままでは社内選抜、事務所は発表できません!部長からイチトシさんへ活動する様、言ってください!」
しかし、部長は何もしない…。
結果、その年の事務所は発表出来なかった。
そりゃそうだ活動してないんだから。
これにより、事務員達のやる気は失せてしまい、「結局ダメじゃん…」となる。
俺はイチトシ推進室長に不信感を持つようになった。
それを牧野課長も判っていた様子。
エンジンの不具合対応の責任を擦り付けられた過去があるから。(※Chapter91参照)
本音と建前、真実と偽り。
これが七海興業はアリ過ぎる。
しいてはこの体質、経営者のヤリ方で現場にそのまま波及してるだけなのか…?。
いや、そうであって欲しくない。
俺は願っている…違うって。
なんて思い始めていた。



Chapter103
〜まじない〜
今日もいつも通り出社する。
自主的に6*30には会社近くまで来て車内待機、7*00頃に事務所に出社する。
その後、パソコンを開き、現場から送信されてくる"現場状況 把握書"に目を通し、事務所の始業8*00までには何かあれば動ける様にしておく。
俺のルーティーンだ。
しかし、事務所で俺より早く出社している方が居る、それは牧野課長。
課長は、御自身が七海興業の稼ぎ頭、第一工場の元責任者をやっていた事もあるし、現在、課長不在の樹脂工場(先日、担当課長 頬杖さんが退社した為)の対応が有るため、早く出社しているのである。
そんな牧野課長は常々、
牧野課長:「朝が一番大事。朝、グウタラしてると1日台無しにする。だから余裕を持って出社する。」
と言っていて、俺もそれを見習って早く出社しているのと、以前にも述べたが、現場にグズグズ言わせない為もある。
俺:「課長、おはようございます。」
牧野課長:「おう、おはよう」
挨拶を交わす。
すると課長が自分の左隣にある"イチトシ推進室長"の机の角を擦り始めた。
俺:「課長、何してるんですか?」
牧野課長:「‥まじないだよ」
俺:「えっ?まじないすか?」
課長はそう言って現場に行ってしまった。俺は (何のまじないだろう?) と思った。
それから数日後、社内の集まりがあり、夜、宴の席となった。
牧野課長はお酒を嗜み上機嫌になっていた。
俺は思いきって先日の"イチトシ推進室長"の机の角コスリ"を質問してみた。
俺:「課長、この前、イチトシさんの机を触って "まじない" っておっしゃってましたけど、何のおまじないなんですか?」
丁度よい具合に酔いが回った課長。
牧野課長:「んっ?あれか…。あれはな "死" って机に書いてるんだ。」
俺:「えっ?…ホントすか…?(⁠⑉⁠⊙⁠ȏ⁠⊙⁠)」
牧野課長:「あぁ、ほんとだよ。毎日、奴が居ないうちに朝、書いてるよ」
俺:「……そうすか。」
このころ、牧野課長とイチトシ推進室長の関係は悪化の一途を辿っていた。課長が何かすれば、それに対し室長はグズグズ言い、やらなければやらないでグズグズ言う…。
ことある毎に会議室に入り、時には言い合ってる声も聞こえ、君沢部長が間に入って嗜める姿もあった。
俺:〜課長、酒の量も増えたって言ってたし…。〜
俺は牧野課長の事を尊敬しており、管理のイロハを教えてもらって、実際に実行しているところも間近で見ている。
牧野課長は有言実行の人。
まだまだ教わることは沢山ある。
どうか…どうか、巧くやっていただきたい…と心から願った。
が、それから暫くして牧野課長の移籍が言い渡された。


Chapter104
〜喝ぁぁぁあつっだぁ!!!〜
牧野課長が居なくなってしまった。
俺の上司は、直(ちょく)でイチトシ推進室長となってしまった。
あのQCの一件以来、不信感を抱き始めていた中での、尊敬する牧野課長の移籍…。
落胆し、尚且つ警戒している。
あの温和な牧野課長が"呪いのまじない"をするまで追い詰められ、樹脂工場へと追い出されたんだから…。
最初はイチトシさん=帰国子女、大卒、エリート、次期社長、とキラキラした印象だったが、最近は 仕事しない、出来ない、プライド高い、外面良いが人脈も人徳もない、気に入らなければ潰す、他社から舐められている…と見方が変わった。
俺の中のイチトシ株は下がる一方だ…。はっきり言って期待外れで見損なった。
が、君沢部長から『お前は将来、いちとしの右腕になれ』と言われているので仕方ない。
仕事と割り切り、より一層 自分を磨き、仕事=管理が出来る人材(人財)にならなければイケないと思っていた。
そんな俺、昼休みに事務所三階の窓際で10分程昼寝をするのがルーティーンとなっている。
この窓際には長椅子があり、昼寝には絶好の場所なのだ。
この長椅子の脇には社内で"開かずの間"と呼ばれる第2応接室がある。ここには高そうな装飾品が多数あり、普段、鍵が掛かっている為、誰も入れない様になっている。
ある日の午前中 室長はずっと不在だった。
車はあるのに、ずっと居なかった。
書類は机上に溜まりっ放しで、事務員も「どこ行ったの室長は?」なんて言い始めていた。

イチトシさんの認め印がなければ、進めれない案件もあったので、事務所内の仕事も止まっていたのだ。
そんな中、室長と会ってしまった。
"開かず間"から出てくるところを昼休み、バッタリ会ってしまったのだ。
イチトシさんも、ちょっと驚いた表情をしたが、俺を無視し、寝癖がついた頭で足早に非常階段から出ていった。人目に触れたくないのだろう…。
俺:〜開かずの間で寝てたのか…(呆)〜
いろんな事情があるとは思うが、部下に見付かっては不味いだろ…。
少しは場所と時間を考えろよ…と思った。
それからは度々、"車はあるのに席には居ない"状態が多くなる。
恐らく、またあの部屋に籠っているのだろう…。
いつしか事務所の皆の知るところとなってしまった。
俺は自分の上司であり、次期社長がそんな事していていいのか?もっと親会社に出向き、現場を見て、役職者と語らい、人脈を作り、明日に向かってより良くする行動をしなければいけないんじゃないか?と強く思っていた。
アホみたいに何度も何度も"管理とは…「全てのモノをゼロから見る観点で現状を把握し、明日に向かってより良くする事」"なんて言わせてきたんだからアンタがっ!。口だけじゃ駄目!!
アンタが出来てないよ!あんたが!!喝ぁあっ!!!」
強く強く言いたかった…。


Chapter105
〜選任さる‥〜
今日もイチトシ推進室長は席に居ない。
でも車はある…。
ということは三階の第2応接室に閉じ籠り、「ぐーすか」鼻提灯ぶら下げて寝てるのだろう‥。
この頃、事務所の"安全衛生委員"というものが任期切れ間近となり、新たに専任しなければいけない事となっていた。
この選任を行ってるのがイチトシ推進室長と安全事務局の前野(兄)。
この前野(兄)、以前、俺が居たウグイス鳴く工場で『仕事をやらない』で有名だった人物(※Chapter4、5参照)。
俺が第2工場に移籍になった後、いつの間にか七海興業全体の安全に関する本部、安全事務局としてやっていたのだった。
この前野(兄)に対する現場の評価はやはり駄目。
遅い、的外れ、センスない等 良い話は聞かない。
さすが生粋の怠け者、事務所内での評判も勿論同じ…良い話は聞かない。
俺がパソコンで"現場状況 把握書"を確認していると斜め前に陣取る前野(兄)が目に入るのだが、相変わらずウグイス鳴く工場の時と同じで居眠りこきながらグウたら仕事してる。
俺:〜こんな奴が会社の安全事務局責任者?はぁ??そりゃ、現場に馬鹿にされるわ…(呆)〜
さて、この安全衛生委員なるもの、正直、誰もやりたくない。
前野(兄)に偉そうに指示されるのも嫌だし、自分の今の業務に丸々、安全衛生委員分の仕事が増えるから。
この前のQCの件もある…。
ある種、選任されたら"ババ抜き"のババを引いた的な感じなのだ。
更に、基本的に2年やらなければいけない長期の業務となる為、余計イヤなのだ。
現在、候補者は浜梨さん、茨さん、俺の3名。
人事の春吉班長は、現場の日系人の世話がマジ忙しいので候補に上がらなかった、これは致し方ない。
さらに分析すれば、浜梨さんは不動部長退社後、管理を独りで回しているので厳しいだろう。
茨さんは高齢だし他人を面倒見る様な人物ではないので嫌がるだろう。
やはり俺しかいない…。
~あいつ(俺)にババ引かせとけ~
こんな具合に押し付けられるんじゃないかな?こりゃ俺、選ばれるな…と思っていた。
だけど、考え様によっては良い事もある。
管理監督者として仕事を進める上で守らなければいけない大切な三大優先順位『1:安全 2:品質 3:生産性』の一番大切な"安全"部分をよりスキルアップできるからだ。
今後の自分自身の為にも知っておいた方が良いだろう‥とも思っていた。
だから一応、心の準備はしていた。
数日後‥‥‥‥→→→やはり選ばれた‥。
俺は先日のQC活動の件があったので
会社を変えたい!良くしたい!!という気持ちから
俺:「僕にやらせるならば、精一杯やらせてくださいよ。」
とイチトシ推進室長、前野(兄)、さらには君沢部長にまで釘を指した。
手始めにその一週間後、事務所で行ってなかった"指差呼称入り朝礼"を現場同様に開始した。
俺は、指示がなければ動かなかった事務所内を、従業員自ら考え、コミュニケーションが活発な職場へと改革し、会社の利益向上に貢献する体制づくり、現場から遅い、出来ない、現場で使えない奴らの集まりと言った声に、逆らえる様 職場を変えていきたい!
と考えていた。
それは君沢部長から言われた
君沢部長:『お前はいちとしの右腕になれ…』
に答える為でもあり、俺自身、牧野課長の様な管理監督者になるため、自分が将来働き易い職場にしていく為でもあった。
しかし、これも歯車は噛み合わなかった…。


Chapter106
〜拳のカサブタ〜
イチトシ推進室長に呼ばれる。
俺が安全衛生委員として率先垂範してやった事に対し「あーでもない、こーでもない」言ってくる。
俺が「やるなら精一杯やるからね」と釘を指した‥にも関わらず「あーでもない、こーでもない」言ってくる。
朝礼に対しては「なんであんなこと連絡するんだ?」とか「なんでアレを言わなかった?」とか…。
俺は、(本来、朝礼って事務所をまとめていかなければいけない貴方がやることなんじゃないの?。それをやってなかったから、俺がより良くする為に導入したんだよ。後だしジャンケンじゃないんだからグズグズ言うな!)
と思っていて"糠に釘"‥。
ヤツの言う事は全く心には響かない。
更にこうも思う、
(ああ、牧野課長もこうやって潰されたのか…)指摘に対して、取り敢えず俺は
「ハイ、わかりました‥。鼻ホジホジ‥」
と言うが、腹の中では全くの逆。
(言うだけじゃダメ、口だけ番長じゃ誰もついてこない!やってみせ、言って聞かせて誉めてやらねば人は育たず…山本五十六だよ、知ってる?)
と半分馬鹿にする様にもなっていた。
俺:〜内弁慶のボンボンの言うことは誰も聞かないよ!寝てるだけじゃ何も進まんぞ!いい加減に気付け…アホ。〜
とも思う。
俺はこの頃から、イチトシさんのことを"チビ将軍"と呼ぶ様になっていた。
背が小さくて、権力を振りかざす者。それは、まさに北の将軍様そっくり。俺:〜一体、この人はQCの社内審査員までやっているが、何を審査してるんだろう?〜
俺:〜QCを知らないのであれば、頭を下げ教えを請うのが普通ではないか?しっかり勉強し、まず、自分自身が成長しろよ!!〜
と思う。
そんな中、日に日にチビ将軍(イチトシ推進室長)の指先は荒れ、拳に瘡蓋(かさぶた)も出来る様になっていった…。
この頃、七海興業が担当させてもらっている主力工場の1つ、老舗の"第一工場"を親会社が老朽化により閉鎖する事を発表した。


Chapter107
〜禊(みそぎ)の去就〜
親会社より、七海興業が担当させてもらっている主力工場の1つ、老舗の"第一工場"が閉鎖となった。
俺は、その工場で働いている役職者がどうなるのか、特に担当者であり責任者の禊(みそぎ)課長がどうなるのか‥興味津々だった。
この禊課長には様々な逸話があり、実際の人物像も混ぜて説明する。
≪人物像≫
*身長170㌢ 体重90㌔ ほどある肥満
*糖尿病あり
*勅使河原、牧野課長と同じ年
*一卵性双生児の弟が居る
*実家は農家
*奥さんは看護師
*金に困っていない
*プライドが高い
≪逸話≫
*若い頃、現社長と揉め、一度会社を辞めている。
*辞め方に怒った社長が反社会勢力を雇って報復に出たらしい
*↑寸前のところで本人は気付き、難を逃れたが、ツレはやられたらしい。
*再入社している。
*再入社時の面談で『まずは服脱いで背中見せなさい』とおばあちゃん部長に言われた。
*双子なので常に誰かそばに居ないと不安な性分。
*お金があるので無茶はしない
*お金があるので自身のプライドと体裁を優先する
*自身は動かず他人にやらせる手法をとる
*チビ将軍が七海興業に入社するとき、君沢部長から『禊には気を付けろ』といわれたらしい
*ある組長言わく、『一番怖いのは禊さん。勅使河原でも黒下でも無い、禊課長だ。』と言っていた

こんな具合だ。
だからチビ将軍(イチトシ推進室長)も君沢部長も気を遣っている様だし、勅使河原も黒下も禊課長には従う。
本来、これだけ睨みを効かせれる人物なら、課長をまとめる職=部長職についてもいいものだが、過去に社長へ対し謀反(むほん)=反乱を起こしている事や、トップに立つと責任をとらなければいけないので、そこには行きたがらない。
お金がある為、身体を動かさなくて、収入もあり、虚勢を張れる今のポジションが気に入っている。
この人の職場が無くなった今後、どう立ち回るのか?
このままいけば、事務所の空いている牧野課長が居たポジションではなかろうか?
俺とチビ将軍の間に入る?
これ↑は俺にとってはプラスだと考える。
どうなるか…?
幸い俺は、毎年第一工場の忘年会に呼んでもらってる。
この忘年会、禊課長が目をかけてる選ばれた人間(禊課長のお気に入り)しか参加出来ないイベント。
事務所では俺と浜梨さんだけ出席している。
この席で出た禊課長は会社への愚痴、禊課長:「ボンボンで、何も知らない、出来ない、しようとしない、イチトシ推進室長が社長になったら七海興業は終わる、このままではでは駄目だ。」
と言っていた。
だから、そんなチビ将軍に睨みを効かせ、教育し、俺を守ってくれる事だろうと考えた。
そうなればQCで言う『指示待ちではなく、従業員一人一人が自身で考え、会社の利益に貢献できる人財』がいる職場に変える事が出来る!いいぞっ!!と思っていた。


Chapter108
〜怪しい車〜
ある朝、元寮長の八千代(ヤチヨ)さんが、俺にこう言ってきた。
八千代:「アパート、ヤクザイル、コワイ((゚□゚;))」
俺:「はっ?何て??八千代さん」
八千代:「アパート二、ヤクザミハッテル、コワイコワイ((゚□゚;))」
俺:「ヤクザ??…」
俺は人事の班長である春吉(ハルヨシ)さんに確認してみた。
すると七海興業が、あるアパートの一室を物置として使っているのだが、そのアパートの周辺に黒塗りのワンボックスが最近、常に張り付いていて監視している様だ‥という事らしい。
そして、そのアパートへ近づくと仲間だろうか?別の車が追いかけてきて、とても怖いらしい‥。
あれは七海興業に勤めてる日系人が悪さをして、そいつを探しに来たヤクザだ…との見解‥。
俺:「本当にそんな事あるの??(汗)」
にわかに信じ難い…。
だが、この件は既に春吉班長から君沢部長へ報告済みで、部長からも「デジカメで怪しい車を撮影し、警察に提出せよ」と指示を受けたとの事だった。
この為、一緒に来て欲しいと言うコト‥。
今まで様々なトラブル応援をしているので、俺は、今回も協力することにした。
早速、春吉班長と2人で行ってみることにする。
事務所から10分ほど車で走ったところにある古い二階建てアパート。
全部で8部屋あるのだが、丸々一棟、七海興業が借りており、ここの1階1室を倉庫として使っている。
車で辺りを走ると、春吉さんが言った。
春吉:「あれだよ‥。※指差し」
俺:「?!!」
指さす方を見ると、確かに黒のワンボックスが不自然に駐車されている。
近隣都市ナンバーで、フルスモークの為、中の状況は全く伺い知れない。
だがエンジンかけたままの状態なので居るのだろう‥。
俺:〜うーん…、確かに不自然だ。〜
そのまま横を素通りし、倉庫である一室へ入る。
俺:「ほんとだね、確かに不自然に停まってるね‥。」
すると春吉さんはカーテンを少しずらし(あちらを見ろ)と言う。
覗くと、アパートから200メートルほど離れた畑の中に営業車らしきステーションワゴンが駐車されていた。
先程のワンボックスと違い、ガラスは透明で、車内には誰も乗ってない様だ。
春吉:「あれも仲間の車だよ‥。」
俺:「えっ?あれも??」
春吉さんはうなずき、デジカメでカシャカシャ撮影し始めた。
俺:〜うーん‥‥‥。〜
本当だった‥。
確かに不自然に駐車してるし、こちらのアパートを見張ってるようにも見える…。
俺はこう提案した。
俺:「春吉さん、あの畑の営業車っぽい方はガラスにスモーク貼ってないみたいだから、帰りがけに横を通って車内覗いて見ようよ。」
春吉:「そうだね誰も乗ってないみたいだし、そうしよう。」
俺達は怪しい車の脇を通って、会社に戻ることにした。


Chapter109
〜車内には〜
さも倉庫に用事があって来たんですよー…といった具合に何食わぬ顔で部屋から出て社用車に乗り込む。
そして、畑に駐車している車の脇を通ってみた。
スピードを落とし、至近距離から車内を覗いてみると…
〜!!!!ヽ⁠(⁠(⁠◎⁠д⁠◎⁠)⁠)⁠ゝ〜
車内に居たのだ!しかも2人!!
運転席と助手席に座り、シートを目いっぱい倒して隠れていた!!!
見えなかっただけで実際には居た!
その2人と目がバッチリ会ってしまう!
お互い無言のまま、すれ違う!
俺:「春吉さん、居たじゃん2人!!目が会ったよ!こっち見てた2人共!」
春吉:「ほんとだね…コワイよ。なんなのアイツら………あっ!!!」
俺:「??!何?」
いつの間にか別の車が後ろにピッタリついてる…。
ナンバーを見ると先程の黒いワンボックスと白いステーションワゴンと同じ近隣都市ナンバー!
俺:「ヤバい、ケツにつけられた!あいつら3台居たんだ!!」
春吉:「ヤバいヤバい!!」
春吉さんはアクセルを踏みスピードUP!なんとか巻こうとするが、猛然と追いかけてくる!!!
細い路地を曲がってもついてくる!これは危ない!!そこで、
俺:「春吉さん!そこのコンビニに入って!!なんかあったら警察に連絡して貰えばいいし、人も居るから派手な事は出来ないでしょ!入って!!」
春吉:「わかった!!」
そして急ハンドル、コンビニ駐車場に逃げ込んだ。
俺はミラーで後方を確認し何かあったらすぐに動ける様にした。
すると、追いかけてきた車はそのまま直進し猛スピードで走り去っていった…。
俺:「」……ふぅ…よかった。行ったみたいだね(汗)。」
春吉:「恐かったね…(汗)」
その後、事務所に戻り春吉さんから君沢部長に撮影した写真を見せ、今回の顛末を報告した。
翌日、そいつらが何者か‥正体か判る…。
  

Chapter110
〜ひと睨み〜
朝、ひと仕事終え、八千代さんや
春吉さんと1階食堂で休憩していると数台の車が事務所に入ってきた。
俺 :〜?ん、お客さんかな?〜
そう思って見ていたら
俺:〜!!!!!!!!( ; ロ)゚ ゚〜
なんと、昨日、畑の中ですれ違った車の中でシートを倒して隠れていた2人と、その仲間とおぼしき数名が事務所に乗り込んで来たのだ!
俺:〜あぁぁぁ((( ;゚Д゚)))…〜
とうとう奴ら事務所に乗り込んで来やがった!これはエライ事になるぞ…((( ;゚Д゚)))
奴らはこちらに気付き、「なんだコラっ(怒)」と言わんばかりに、ひと睨みしたあと階段を上がっていった…。
春吉さんと俺は血の気が引きながらも、奴らが上がって行った暫く後に、2階に戻ってみた。
すると…奴らは応接室に通され、部長と何やら話している。(◯◯という作業者を出せ!)って脅迫してるのだろうと思っていた…‥‥‥。すると、
実は、そいつらは厚生労働省:麻薬取締捜査官:御一行だったのだ!(; ゚ ロ゚)
あのナンバーの近隣都市で悪さをした日系人を捕まえ取り調べをしたところ、「七海興業が倉庫として使っている例のアパートで麻薬の取引をする‥」という情報を得た為、極秘裏に、出入りしている人物全てを調べていたとの事だった。
な、な、な、なーんだ!そうか!それなら納得!七海興業はなんでもあるからね!よかった血の雨が降らなくて!
わはははははは…((((*≧艸≦)ププッ)
って‥、"極秘裏に捜査"って言うけど
バレバレでしたよ…。
もうちょっと巧くやれよ麻取(マトリ)さんよー…(呆)
こんな事もありました。


Chapter111
〜秘密兵器〜
事務所の安全衛生委員に就いて、やっと満期を迎える‥長かった…、ホント嫌だった。
チビ将軍(イチトシ推進室長)が、やればやったでグズグズ言うし、やらなきゃやらないでグズグズ言うし、ホント辛かった…。
でも今週で終われる。
さぁ、最後の仕事、PDCAサイクルの結果の確認と、そこからの更なる問題点の改善行動だ‥ということで、その日、俺はある行動を起こそうと思っていた。
それは事務所の安全衛生委員をする上で、役職者なのに具体的行動を起こさない、依頼したことをやろうともしない茨(バラ)さんへの指導だった。
データを見ても顕著、提出書類が格段に少ない。
同じ推進室のメンバーだが、臆病で引っ込み思案な性格なのか…一向に動こうとしない茨さん、何度か
俺:「お願いしますよ、茨さん!」
と言ったのに、全く変わらない上に
一般の事務員からも
事務員:「なんで茨さんはやらないの?」と言われる始末。
事務員:「役職者の茨さんがやらないなら、一般職の私はやらない!」
なんて言われたら、只でさえQC潰されたのに 唯一の希望さえ失くなってしまう。
だから俺は今日、茨さんに強く言う決意をしていた。
ただ、本当は言いたくない…。
年上だし、大ベテラン…。
しかし言わなければ他に示しがつかない!だから言うんだ!!……とても憂鬱だった。
更に茨さんは、コトあるごとにチビ将軍と一緒にタバコを吸っている、きっとウマが合うのだろう…。
俺が言い出したらきっと黙っていないだろうなチビ将軍は…とも思っていた。
その為、俺はある秘密兵器を前日から用意していた。
それはチビ将軍のすぐカッとなる性格と、すぐ人を見下した悪い言い方をする特性を利用したボイスレコーダーだった。
胸に潜ませ、茨さんを呼び出す。
俺 :「茨さん、ちょっといいですか?」
茨 :「んっ??」
そのまま、事務所内で皆に見える様に、判る様に、間接的だが「やらなければ俺に言われるよっ!」と言う姿勢を見せつけるために、会議室ではなく、同じフロアーの客人用簡易テーブルへ呼び出し問い正しはじめた。
俺:「茨さん!俺、お願いしましたよね?なんでやってくれないんです??」
茨:「えっと…うーん…」
俺:「それで役職者って言えるんですか?いいんですか?」
段々ヒートUPしてくる俺…。
すると案の定、チビ将軍が動く。
俺の傍へ来て、上着の襟元を掴んで「ちょっと来い!」と会議室へ連れて行こうとした。
俺は咄嗟に手が出そうになったが、こうなるだろう…と予想していた部分もあるので、大人しい素振で、指示に従い会議室に入った。
そしてチビ将軍と向かい合って座った瞬間!
イチトシ:「お前はぁ!!!!◯✕□▦◊◣♂☆!!!!ಠ⁠益⁠ಠ」
‥怒鳴ってきた。
めちゃ怒ってる…💢😠💢
だが、俺は冷静に
俺:「やるなら一生懸命やらせて貰うと宣言した上での行動ですよ。役職者なのにやらないのは困ると指導していた所です、なぜ止めるんですか?」
と受け流す。
あくまでも冷静に…。
なぜなら俺のポケットには秘密兵器の録音ボタンを押したレコーダーが入っているのだから。
俺:〜言うだけ言えよ、バカがっ〜
という姿勢で終始ギャーギャー言うのを聞く。
チビ将軍の手法はよく判っていた。
弱い者には断然強く出て小馬鹿にするタイプ。
牧野課長もやられたし、数か月前には事務員とも口論となり、退社へと追い込んだ過去がある。
1人はポルトガル語が話せる有能な日本人女性。
もう1人は只の掃除のオバサンだ。
なんで次期社長ともあろう御方が掃除のオバサンと喧嘩する必要があるのか???!
全くの疑問だ…呆れる。
俺は2人とQCをやったり、親会社の秋祭りを一緒に運営したり、よく動いてくれた方達だったので非常に残念だった。
もちろん話をし、
俺:「短気を起こしちゃ駄目ですよ、皆、寂しがるし俺も辞められると仕事が廻らなくなり困ります。お願いです、残ってください‥(礼)。」
と引き留めたが、2人は同じことを言って辞めていった…。
退社した2人:「あんな人間(イチトシ推進室長)が次期社長なら七海興業は潰れるよ!」って…。
だから、俺は余計に奴(チビ将軍)のトップとしての自覚が無い態度に腹を立てていた。
そして腹の中で(もっと言えアホ)と思い、蔑んだ目で真っ直ぐ奴を見ていた。
まだ口論は続く…。



Chapter112
〜決定的な溝〜
イチトシ:「俺がそこまでやれって言ったか?!なぁ!言ったか?!」
俺 :「俺にやらせるなら、精一杯やりますよ!って言いましたよね最初に。」
イチトシ:「はあっ?そこまでやれって言ってないだろ!!」
俺:「貴方はいつも"後出しジャンケン"ですね、事が起こってから行動しても遅いんです。事が起こる前に行動:是正してこそ管理でしょ?先手管理しろっ、先手管理しろってアホみたいに皆に言っておいて、御自身の行動、全てが後手じゃないですか!!そんなんで、これから社長に成る御方がいいんですか???」
イチトシ:「はあっ?」
俺:「逆に質問します。貴方は将来、七海興業の社長になる方です。自分の時代になったとき、どういう会社にしたいと思っているんですか?答えてください!どうお考えなんですか??」
イチトシ:「そ、それは……。……後世に伝えていく…(;-Д-)」
俺:「はぁ?後世に伝える??なんすかそれ?伝説か何かですか??あなたは勇者なんですか???(笑)」
イチトシ:「……そんなに僕の言うことが聞けないなら、自分の好きな事ができる様にすればいい…」
俺: 〜ははーん…俺に辞めろって言いたいんだな。もう少し押せば言うぞコイツ〜
俺:「それはどういう意味ですか?」
※もちろん録音中
イチトシ:「…自分で考えろ…」
俺:「わかりません、教えてください。どういう意味ですか?」
イチトシ:「自分で考えろっ!!」
バタンっ!
そしてイチトシ推進室長は会議室を出ていってしまった。
結局、俺が言わせたかった「お前はクビだ!」とは言わなかった。
俺:〜そこだけは立派だな…ふんっ!〜
俺はその後、録音した音声を聞き返した、経緯は全て録れている。
その後の現場巡回時に「お前は仕事してない」だの「仕事してない室長に指導してみろっ」と罵った課長どもに聞かせてやった。
俺:「俺は奴に言ったぞ!!!」
ってね。
もちろん、牧野課長にも…。
俺はやっている。
明日に向かって会社がより良くなる様にやっている!
自分の身を犠牲にしても、上の奴だろうが言ってやる!!
黒下!勅使河原!!お前らも俺が上に立ったら100倍返しだ!
一生懸命、正直にやってる者が正当に評価され、自分の子供を七海興業に入社させたい!一人前にしてくださいっ!て言われる様な立派な会社にするんだ、七海興業を!!!と強く思った。
この頃、俺は嫁と義母の押しに負け、建て売り住宅を購入することになる。35年ローンのシロモノだった。


Chapter113
〜扱い辛い?〜
俺はいつの間にか扱いづらくなっていたかも知れない‥。
君沢部長に『いちとしの右腕になれ』と言われたが、少しやり過ぎたのかもしれない…。
しかし間違った事はしていない。
リーダーたるもの、皆に明確に行く道を示し、自分が犠牲になろうとも正しく、見本に成る様にしていかなければならない。
指示待ちではなく明日に向かってより良くする…そう教わったし、そう思っている。
会社で行かされたQCの講習会。
わざわざ早朝から二時間かけて山奥の親会社がやってる研修センターで缶詰めになり勉強させられた。
会社としては『そういう人材になって欲しい』から行かせるのだろうし、俺は七海興業を地域に誇れる、自分の息子を入れたい!と思える立派な会社に変えるんだ!だからやりきるんだ!と強く思っていた。
そんなとき、閉鎖された第一工場の役職者の行き先が決定した。
ほとんどが第二工場(黒下課長)と第三工場(勅使河原課長)のとこに振り分けられた。
そして、禊課長は…というと課長職のまま事務所に移籍決定!牧野課長の穴を埋める形で収まった。
俺が望んでいた通りだった。
だが、ひとつ誤算が…(;-Д-)
それは組長1人、自分のテコとして事務所に連れ入れたのだ。
俺:〜……むむむ…(-_-;)?〜
禊課長は俺をテコに使うのではなく第1 工場での部下、本堂(ホンドウ)組長という方を連れて事務所に移籍した。
これは読めなかった…。
いま、事務所の組長職は…
管理=浜梨さん
推進室=茨さん、俺
そこへ本堂組長も推進室に所属となると、多い様な気が…。
俺はこの頃から朝の出社後、資格取得の勉強をするようにした。
毎朝 約30分、朝礼までの時間にインターネットで過去問をやる、取りあえず第一種衛生管理者を。
その様にした…。



Chapter114
〜ニンゲンシカク〜
俺は一抹の不安を感じていた。
それは、禊課長が本堂組長を連れて事務所に入ったから。
俺が居れば禊課長をサポートするのになぜ?うーん、チビ将軍ともやりあったし…まぁ、改革するのに仲間は多い方がいい👍
数は力!そうだ多い方がいい!
こんな時は自身のスキルアップを図り、一騎当千となる為の準備をすべき!!と考えた。
そこで俺は過去に取り損ねた"第一種衛生管理者"再取得を目指し、再び勉強を始める事とした。(※Chapter70参照)
この頃、既に牧野課長は衛生管理者に合格しており、推進室時代の課長の勉強方法を見て俺も真似してみた。
やり方は、とにかく過去問を毎日毎朝やる事が大事!というもの。
最初は点数が低いが、やり続けると傾向が判ってくるし、問題自体を覚えてしまう。
それを繰り返すことで合格ラインまで持っていくという手法。
これがバッチリハマり一発で合格となった。
俺:~高い金払ったユーキャンは何だったんだ…。~
次に何が出来るか?と考え、会社で取らしてもらった大型免許(※Chapter52参照)を軸に、嫁さんにお願いし、大型特殊と牽引免許を同時に取得した。
更に、一度受験して不合格となっていた危険物乙四種を衛生管理者同様、インターネットで過去問を毎日やり、再受験→合格!
更に更に、大型免許、牽引を軸に危険物=タンクローリーに乗れると考え、これからは天然ガスも…と思い高圧ガス移動監視者も取得した。
なんの為?と言われれば何の為…?┐⁠(⁠ ⁠∵⁠ ⁠)⁠┌だが、有るものを軸に取れる資格は取りまくった。
そして牧野課長の教え『常に自分を磨け』を貫いた。
俺は尊敬され、若い者の目標になる様な素晴らしい管理監督者になる!
一騎当千の社員になる!!
そう決めた。


Chapter115
〜本堂組長〜
禊課長は双子で誰か必ず傍につかせる…と牧野課長に聞いていた通り、一番従順で、指示された事は何でもやる職人気質な本堂(ホンドウ)組長を連れて事務所に入った。
本堂組長は身長165㌢くらい、体重55㌔ほどの志村けんの変なオジサン似の御方。
仕事では、とても苦労した方だ。
過去に一度、勅使河原の部下となり第3工場で働いていたが、勅使河原の拝金主義に同調しなかった為、現場で虐げられ、嫌な仕事ばかりされられ苦渋を嘗めさせられていた。
それを助け、自分の課へ移籍させたのが禊課長。
本堂組長はコレを大変恩義に感じ、課長の親衛隊みたいになった御方。
現場でも、親会社でも、事務所でも、どこへ行っても人当たり良く、本堂組長の事を悪く言う者は居ない。
もともと東北の方だが、七海興業がまだ小さかった時に、同じエリアの別の派遣会社で働いていたところ、その会社が倒産‥性格の良さを買われ、そのまま七海興業に拾われた御方。
その時、職場の親会社従業員だった女性と結婚し、養子に入ったと聞いた。
タマタマだが、俺が買った建て売り物件から程近くに持ち家で暮らしているらしい。
家が近くになったということもあり、俺は親近感を抱いていた。
さて、チビ将軍とは、あの一件以降これといって変化はなく穏やかな日が続いている。
そんな中、禊課長に
禊:「悪いけど、本堂に現場状況把握書の事、教えてやってくれないか?」
と言われた。
俺は(そりゃ事務所に移籍となったけど毎日やることが無く困るだろう)と作り方からルールまで全てをしっかり教えた。
"誰でも見易くて、判りやすい帳票"をテーマに立ち上げた書類だから、本堂組長も直ぐに理解してくれた。
素晴らしい帳票で良かった。


Chapter116
〜部長の眼帯〜
今日は本堂組長に報告書の見方と処理方法を教えようと思い段取りしていた。
すると、見たこと無いスーツ姿の男女数名が階段を上がってきて、何やら事務員に伝えている。
俺:〜なんだ?また警察か??またウチの作業者が悪さしたのか???〜
と思っていると、案の定、応接室に通され君沢部長が対応している。
そして部長は、引き出しの中から慌ただしく書類を取り出し、応接室を出たり入ったりしていた。
俺:〜んっ?警察じゃないのか??ちょっといつもと違うぞ…〜
すると部長が応接室のドアを少し開け、俺を呼んだ。
部長:「すまん、"現場状況把握書"持って、この方達に説明してくれるか?」
と言ってきた。
俺:「はい。(なんだ?なんだ?)」
その頃、七海興業関係の会社、全てに一斉に同じグループの男女が入っていた。それは…国税局!!!
七海興業は脱税容疑で捜査をされていたのだ!詳細はこうだ。
前にも書いたが、七海興業に於いて君沢部長が使用している作業者数を把握する帳票:作業者要員帳に実際には存在しない24名の従業員が居た。
(※俺が部長から同業務を教えてもらった時の事。 Chapter75参照)
この存在していない24名の給料を、以前、君沢部長が課長だった頃に担当していた職場に入っていた派遣会社(反社会的勢力の色が強い会社)に流し、自分の指示に従わせていた…と噂で聞いた事がある。
これは君沢さんが部長になってからも続いていて、ある日、この派遣会社での不可解な経理を国税が嗅ぎ付け調査、それを辿っていったところ、七海興業に繋がり今日 一斉捜査となった…らしい。
俺はビビった…((( ;゚Д゚)))
国税局員から、いろいろ質問されたがどこまで本当の事を言って良いのか判らない…、かと言って嘘を伝えてもいいのか???
突然の一斉強襲の為、何も準備できず(そりゃ向こうはプロだから当たり前)君沢部長はじめ、皆、顔が引きつっている。
要員に関する書類、俺の現場状況把握書も含めゴッソリ持ち去り国税局は帰っていった…。
いやぁ、とうとう国税局まで…。
ホントになんでもありだね七海興業…。
翌日、君沢部長は片目に眼帯をして出社した。
ある人は(脱税をしていた君沢部長に激怒した社長がぶん殴ったからだ)とまことしやかに噂する…。
君沢部長は何も言わず、いつも通り席に座り、平然と仕事している…。
ホントにすげー人だ…と感心した。

 
Chapter117
〜部長からの指示〜
禊課長と、本堂組長が事務所にだいぶ慣れた頃、俺は君沢部長に呼ばれた。
部長:「ちょっといいか?」
俺:「はい?」
あの一件依頼、チビ将軍は俺と目も合わそうとしないし、何も言わなくなった。
とても仕事がやり易くなり、あるべき会社像に向かってのびのび行動していた俺。
只、ちょっと空気がかわったなとは感じていた…。
そのタイミングでの呼び出し…。
会議室に入る。
君沢部長と久しぶりに相対して座る。
そして着席したところ、開口一番、君沢さんは
部長 :「もう一度現場でヒト花咲かせてこい‥。」
俺:「えっ?」
部長:「まだ若い。もう一度現場に戻ってヒト花咲かせてこい…なっ。」
俺は全てを悟った。
俺は事務所で不要とされた。
次期社長であるチビ将軍に逆らって、恥をかかせたからか?やれっ!て言っておきながらやり過ぎたから、お前はもう邪魔だってか??
俺は頭が真っ白になったが、君沢部長も言葉を選んで言ってくれているのが判る。
そして、どこかでこうなるだろう…とも予想していた部分もある。
俺は泣きも喚きもしない…。
部長のお陰で今まで居れたから、良くして頂いたから…、貴方の指示に従います…。
俺:「わかりました…。」
部長:「そうか、頑張ってくれ!」
俺は必死に平静を装ったが、事務所の皆には気付かれていたかも知れない。そのまま会議室を出て通常業務に戻ったが、なかなか書類は手につかなかった…。

 
Chapter118
〜移籍再び〜
俺の新しい職場は溶接課となった。
最近、親会社が七海興業に新たに任せるエリアがあるらしい…という噂があったが、まさかソコに俺が行くとは…。
作業者は全部で20名ほどの寄せ集め集団で構成される。
俗に言う"箸にも棒にもかからない"使えない人材が各課から出され、俺もその1人に含まれた‥と言うわけだ。
俺の役職は解かれ一般作業者からの再スタート…。
俺:〜ははは( ゚∀゚) チビ将軍に逆らうとこうなるって見せしめか…?〜
ここは小さい職場なので、同じ溶接課の笹山課長が責任者兼任となった。
早速、課長が俺に言ってきた。
笹山課長:「大丈夫か…?」
全てを知ってる顔、既に七海興業中で噂になってる。
~チビ将軍に逆らって一般にまで降格させられたうえに、現場に放り出された奴が居る…~
って‥。
俺:「ははは、大丈夫ですよ(笑)」
笹山課長:「……そうか。」
笹山課長は、何も言わないが、全てを察してくれている様子。
推進室時代は口うるさくて厄介な人だったが、本当は優しいんだなと感じた。
この移籍に伴い、俺の生活は大きく変わる。
まず給料、今までは組長待遇だったのに、これからはヒラ社員、もちろん下がる。
そして出社時間、一週間交替の昼夜勤務が始まり、駐車場が事務所と違い職場からは凄く遠くなるので更に早く出社しなければならなくなるうえに、家を購入し引っ越した為こちらでも相当、遠くなってしまった。
更に更に、経験無い溶接作業…。
全てが不安だが、寄せ集められた他の者たちもきっと同じだろう…。
俺はちっぽけなプライドだけで、平静を装っていた。
俺:〜チビ将軍の仕打ちなんぞ屁でもねえぜ!〜って。


Chapter119
〜喰らわせたるっ!〜
そんな寄せ集め集団による新しい職場の立ち上げ、様々なやらなければいけないことがある。
親会社としても、七海興業にしっかり指導したという実績が欲しいらしく、今日は安全に関するミーティングをQC形式でやると言ってきた。
司会は親会社の品質担当組長。
品質組長:「えー、◯◯であるから、◯◯に注意し、安全第一で…」
七海興業の皆、ポカーンと口を開け聞いている。
そんな人材の寄せ集めなのだ、ここは。
これを見た同席している親会社の安全担当組長が、
安全組長:「みなさん、質問あれば是非して下さいね。(ニヤニヤ ಡ⁠ ͜⁠ ⁠ʖ⁠ ⁠ಡ )役職は関係ありません。その品質組長をギャフンと言わせて下さいよ!そのくらい厳しい質問してくださいね、さぁ、遠慮しないで!」
馬鹿にした様に煽ってきた。
だから一般職の俺は手を上げ質問してやった。
俺:「では質問します。最近、三菱自動車で酷いクレーム隠しがありました。三菱自動車といえばISO(※9000番台は品質、14000番台は環境の事を言っている、持っているとヨーロッパなどで効力を発揮する国際規格)を取得していますが、実際は酷い偽装工作をし問題が起こりました。これはニュースでも、連日取り上げられ大きな社会問題にもなっています。そんな中、親会社様は三菱同様にISOを取得していますが、同じく"絵に描いた餅"にならぬ様にどのように対応しようとお考えですか?品質担当組長という立場から意見を聞かせてください。」
俺は親会社が三菱同様、裏でデタラメやってるのを知っていたので敢えて聞いてやった。
もし当たり障り無いことを言えば、より突っ込んで聞くし、本当の事を言えば品質組長自身のクビが飛ぶ!だから聞いてやった。
品質組長:「そ、それは……えっと…(;´゚д゚)ゞ(汗)」
俺 :「はい、もう結構です」
案の定、この回答…。
まさか、一般作業者からそんな質問を受けるとは想定していなかったのだろう…。
俺:(ボケが!!下請けの一般職だからって舐めんなよ!)
七海興業の皆、よくぞ言ってくれた!と喜んでいた。


Chapter120
〜眠気との闘い〜
俺は班長候補のリリーフマンとして再スタートすることになった。
が、結果は判っている‥役職者には間違いなく戻れない。
なぜなら、チビ将軍が七海興業の実質的頂点にいる以上、絶対に阻止するからだ。(※社長はこの頃ほとんど出社しなくなっていた。)
まぁ、考えても仕方ない。
取りあえず立ち上げの混乱期だけでも落ち着かせないと格好つかない。
とにかくやるだけだ、家族を守るためにも。
だが、現実は本当に厳しい…。
特に昼勤時の出社はとてつもなく辛い…。
家を買ったのが拍車をかける。
嫁さんの実家近くで、職場から更に遠くなったからだ…。
≪昼勤務時の流れ≫
am3*45 起床
am4*30 自宅出
~自動車専用道路を100キロで爆走~
am5*15 職場駐車場着
am5*30 徒歩にて職場着
am5*35 職場設備立ち上げ
am6*10 ラジオ体操実施
am6*20 朝礼参加
am6*30 ライン稼働 開始
~ひたすら現場を駆け回る~
pm5*00 終業
pm5*00 自己業務対応
pm6*00 頃  職場出
pm6*30 駐車場発
~酷い渋滞の中、自動車専用道路を居眠りに耐え自宅へ向かう~
pm8*00頃 自宅着

俺の家は七海興業内でも一番と言っていいほど遠くなってしまった。
帰宅の道中コンビニ駐車場に車を停め、仮眠を取ってから帰る事も度々となった。
明らかに疲弊していく俺…。
俺:(このままでは、いつか大事故するなぁ‥)
そう感じていた。


Chapter121
〜部長からの手紙〜
溶接課に移籍して5ヶ月が経った。
立ち上げ時の混乱も落ち着き、何とか災害も、大きな不良も無くここまできた。
この間、俺の母方おじいちゃんが亡くなったり、正式に班長が決まったり(勿論、俺では無い)様々な事があった。
そして俺は決意していた。
俺:~退社する、もう辞めるんだ…これ以上、七海興業にいても仕方ない…。〜
あのチビ将軍が正式に社長になったら、どの道この会社は潰れるだろう。
ならば今のうち、まだ俺自身に伸びしろがあるうちに新たな会社でやった方がいい…。
さまざまな資格も取った。
第一種衛生管理者、牽引免許、大型特殊免許、危険物乙四種、高圧ガス移動監視者…。
俺には武器がある、大丈夫だ、きっと。
そして笹山課長に言った。
俺:「課長、おれ、辞めます。」
笹山課長:「?!。…そうか。牧野(以前の俺の尊敬する上司。チビ将軍と揉め、事務所から移籍になった先の樹脂工場で課長として現在も活躍中。※Chapter103参照)のとこに移ったらどうだ?俺が言ってやるぞ‥。」
俺:「いえ、結構です。奴(チビ将軍)が居る以上、この会社に未来は無いし、ずっと奴のケツを舐めるつもりは無いです。」
笹山課長:「…そうか、わかった。」
笹山課長は判っていたようだ、俺がいつか辞めるつもりだと。
そりゃ、推進室時代にいろいろ言われたけど、最後はやるだけの事やって奴とのバトル内容(録音したレコーダー)も聞いてもらった…。
いやぁ、期間工から始まって長く居たなあ…。
少し感傷的になる。
その翌日だった。
君沢部長から一通の封筒が届いたのだった‥。


Chapter122
〜青天の霹靂〜
君沢部長からの1通の封筒が、職場の俺のロッカーに届く。
俺はそれを見ただけて涙が溢れていた…。
そう、アレを思いだしたから。
入社直後のウグイス鳴く工場時代、グウタラ嘘つき前野(弟)に怒れ『辞める!』と君沢さんに言った結果、第2工場へ移籍となった時の事を‥。
その時、君沢さんから1通の封筒を渡され、中には『頑張れ』とだけ書かれた手紙が…。
俺はそれを思い出し、自然と涙が溢れていた。※Chapter7参照
俺:〜君沢部長…まだ、俺の事を…〜
涙を堪えて、出てくる嗚咽を圧し殺し、封筒を開けた。
すると そこには…
~離職票~
俺:〜はっ?………(; ゚ ロ゚)。〜
そうか、そういう事か。
やっぱ辞めるしか無いな。
よし!辞めよう!!
うん、そうだ!!!!
その時、今までの君沢部長の言葉と行動、頭のなかで全て繋がる。
君沢部長は血縁無い社長一族で一族の中では一番弱い立場。

息子(チビ将軍)を溺愛してる君沢部長の嫁さん(社長の実姉)には絶対服従。

チビ将軍が次期社長確定。
そのお母さんが君沢部長の奥さん

イチトシを立派な社長にしなさいっ!て言われてる。

勅使河原が裏で黒下を操っているという君沢部長の見解だったが、勅使河原は今も課長のままで一切罰は与えられていない。

課長時代から、勅使河原の事が苦手だった君沢部長は、奴の大きな弱みを握り、従順な部下にしたかった。
タイムカード空打ち横領事件で弱みを握れたので、しっかり現場で利益を出してさえいれば不問とする。

黒下が職権乱用し逮捕されてもおかしくない悪さをしたのに今も何の懲罰も無く課長職のまま居る

君沢部長が故意にやらせていた。
黒下と密約を交わし、勅使河原の弱みを敢えて作らせていた。計画が完了した今、黒下の罪は当然不問。

禊課長と牧野課長を入れ替え、本堂組長も事務所に入れた。本堂組長は俺の業務を引き継いでいる。

チビ将軍と反りが合わない牧野課長と俺を事務所から追い出したい。
牧野課長のポストは現場に穴が出来たので移籍させ丁度OK。

牧野課長の穴は禊課長が埋めることで、他の課長に睨みが効かせれるのでチビ将軍を守れると考えた。

俺の代わりは、行き場所に困っていた禊課長の部下、本堂組長も事務所に入れさせてあげる事で、ひと癖ある禊課長に恩を売る形にする。さすれば昔、現社長に謀反を起こした様にはならない。

再三『もう要らない!』と言っているのに、ずっと運行手当てとして3万円、俺の給料に付け続けた※Chapter52参照

君沢部長は俺の性格を熟知しており
俺に恩を売っておく。

俺に毎月三万円支給しつづけれは、退社しても社内の様々な出来事(タイムカード事件、殺人、麻薬、喧嘩、脱税)を口外しないだろうと読んでいる。



あっ、あぁぁ?!!(⁠‘⁠◉⁠⌓⁠◉⁠’⁠)
全ては君沢部長の掌の上?
全ては計画通り??
一番の悪党って実は………???。


Chapter123
〜最後のカマシ〜
真の黒幕は君沢部長だった…?のか???。
数日後、俺は残っていた有給を全て消化し退社することにした。
その間にも、事務所の日系人事務員がチビ将軍に理不尽な言い掛かりをつけられ退社に追い込まれたと聞いた。
俺: (また、あいつ1人潰しやがった…。)そして、彼から『訴えようと思うんだけど、協力してくれないか?』と電話があった。だが、俺はもう七海興業とは関わりたくないので断った。
あぁ…七海興業在籍、期間工時代も含め25年、本当に様々な事があった。
どちらかと言うと悪いことが多かったが、子供から大人へと人間的に成長させてもらった。
最後の日、お袋に会社まで送って貰い作業服を返却しに行った。
すると1階の外、喫煙所で君沢部長が1人、タバコをふかしていた。
俺は背後からそっと近づいた。
俺:「部長、お疲れ様です…………。
‥‥長い間お世話になりました‥‥。
"お前はいちとしの右腕に…"って指示されたのに…すいません、俺、守れなくて…(泣)」
文句のひとつでも言ってやろうと思ったのに、自然と↑こんな言葉が出た。
声が詰まり、涙が溢れる…。
やはり部長には感謝の気持ちが勝ってしまった。
君沢部長:「もう、泣くな。これから大変だけど、がんばらにゃいかんぞ、な…。さぁ、涙を拭いて2階で挨拶してこい…。」
俺:「は…はい…。」
そう言って部長は俺の肩をポンッと叩いて2階に上がって行った。
俺は慌てて涙を拭き、ひと呼吸、ふた呼吸して平静を取り戻した。
ちなみに七海興業の事務所では、退社時、すべての同僚の席を巡り『お世話になりました』と声を掛け、一言二言、話をするのが通例となっている。
恐らく、皆もこれから俺が来るだろうと言うことで準備し待っているだろう‥‥‥。
だが!俺はやらない ᕙ⁠(⁠☉⁠ਊ⁠☉⁠)⁠ᕗ。!!
特にチビ将軍には絶対にやらない!!
君沢部長にはもう済ました!
だから他の社員にもやらない!
‥そう決めていた。
俺は2階に上がり、事務員に渡すものを渡し、玄関の大扉の前に立って廻れ右をした。
事務所の皆、君沢部長も含め
皆:(えっ?何??)
という具合に注目した。
俺はまっすぐ、前を向いて、背筋をピンと伸ばし、そう、静かな事務所に似つかわしくない大きな声で

俺:『長い間お世話になりました!失礼しまっす!!』

と言って会釈。
クルッと向きを変え、お袋が待つ車に向かった。
その時、皆の顔をチラッと見たら
狐に摘ままれた様な顔で(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
チビ将軍なんか、俺を睨みつけていたなあ(⁠☆⁠▽⁠☆⁠)
禊課長と本堂組長は俺に会いづらかったのか、現場に行って事務所にいなかったなぁ。
わはははははは(((*≧艸≦)ププッ、
最後にカマしてやったぜ!
さらばだ!七海興業!!

口数少ない、腹の据わった、頭のキレる、悪い奴が結局は一番成功する。
チカラ無き正義は無力、俺はチカラが無かった。
本音と建前、理想と現実…。
これからは、他の会社で答え合わせをしようと思う。
そして、俺もこれからは悪いニンゲンにっ!
なれるかなぁ……。ᕙ⁠(⁠ ͡⁠°⁠ ͜⁠ʖ⁠ ͡⁠°⁠)⁠ᕗ
七海興業は今現在も、昔のままで運営している。


Chapter124
〜屋上駐車場にて〜
カーッ!カッーッ!!
突然の絶叫に
"何事かっ?!"と我にかえる。
俺は隣町の某商業施設、屋上駐車場に居た。
ここ数日の心労から疲れきってしまい、親から借りた車の運転席を少し倒して横になっていたら、いつの間にか寝てしまっていたのだった‥。
ふと絶叫が聞こえた方向、フロントガラスを隔てた頭上を見上げると、丁度、数本の電線がある。
そこに停まった数羽のカラスが、俺の方を恨めしそうに視ていた。
カラス:「ハヤクシロヨ、バカヤロォ‥
オレタチモ ヒマジャナインダゾ ボケ‥」
俺:「‥‥‥」
あぁぁ‥全てが灰色に見える‥。
それは、寝起きのせいでも疲れ目のせいでも無い。
今の俺の心持ちが、世界をその様に見せているのだろう‥。
意気揚々と七海興業を辞めて数日が経っていた。
万全の準備をし、新しい未来に向かって歩き出そうと考えていたが、現実はそうはいかなかった‥。
高校からの仲で、お互い家庭が出来てからも何かとツルんでいた“幹泰(ミキヤス)”。
奴は地元密着型、東証へも上場している優良企業に勤めている。
この会社には運送部門もあり、福利厚生が格段の厚遇となっていた。
俺の近況を知った幹泰(ミキヤス)は、人事部責任者に直接掛け合ってくれ、業務終了後に個別面接をしてくれる段取りを取り付けてくれた。
これは異例、まさにデキレース。
俺は間違いなくここでお世話になると思っていた‥そう!新しい職場になる!!とばかり思っていた。
だが、‥ま·さ·か·の不合格‥(⁠‘⁠◉⁠⌓⁠◉⁠’⁠)。
理由は、俺の運転違反履歴。
面接時に提出した履歴書と運送部門に必須となる運転証明書。
この証明書に数年前のスピード違反による免停が記載されていたのだ。
それが社内規定でNGとなったらしい。
俺:〜"くぅぅぅう‥"(悔)〜
思い返せば年に一度の親会社主催である秋祭り業務を終え、七海興業から家に帰るときだった。
俺:〜疲れた!早く帰りたい!!!〜
この一心で自動車専用道路を爆走した結果、オービスに捕まって一発免停!罰金10万払ったんだった‥。
そう‥七海興業時代の置き土産‥。
その後、運転証明書の提出を求められない会社で、福利厚生がしっかりしている大手運送会社に面接へ行けば、非常に好感触ながら合否には暫く日数がかかるとの返答‥。
この直ぐに仕事が決まらない空白期間に不安を抱いた嫁が
嫁:「とにかく出ていって(⁠ノ⁠ಠ⁠益⁠ಠ⁠)⁠ノ」
と激怒し、俺は家を追い出されるハメになった…。
俺:〜ああ…、コイツら(頭上のカラス)待ってるんだな‥俺が死ぬのを‥〜
そんな風に思えた。
早く仕事を見つけなければいけないが、悪い時には不運が続くもの‥。
どうにも歯車が噛み合っていかない‥。
あぁぁあ、これもチビ将軍の呪いか?と嘆く‥。
個室ビデオに2日、マンガ喫茶に2日、事情を知った親が「とにかく家で休め‥」と言ってくれ、身を寄せて2日‥今は家を追い出されてから計6日が経っていた。
そんな日の夕暮れ
全てが灰色に見えた屋上だった。


Chapter125
〜マットの芋虫〜
俺は暗くなり始めた商業施設の屋上駐車場から、近くのマンガ喫茶へ移動することにした。
それは、今夜の寝床と、すぐ働ける運送会社を検索するためだ。
疲れて‥疲れ果てて心が折れそうだが、とにかく見つけるしかない‥。
俺は暖かいオニオンスープをひと口、ふた口飲みながら
《検索ワード》
①自宅から近くて
②給料が良くて
③未経験者優遇で
④すぐ働かせてくれる‥
そんな運送会社をしらみ潰しに検索した。
そんな中、ある運送会社のホームページに目が留まる。
とても見易く作られており、俺の要望に全て合致している。
具体的には、
①→所在地は自宅から2キロくらい
②→給与は七海時代とほぼ同じ額
③→未経験者歓迎と記載
④→すぐ働かせてくれる???

④だけ分からなかったが "初心者でもイチから丁寧に指導、県内初のデジタルタコグラフ導入‥" と表記あるので俺の様な初心者でも安心して働ける会社なんじゃないか‥?
代表挨拶の社長らしき人物も、俺のイメージしてる屈強な運送会社社長とは違い、柔和で親しみやすそうだし‥。
俺:〜この会社にアポとってみよう!〜
その日はもう遅かった為、翌日に廻し、期待に胸膨らませ、小さな個室の硬いマットで芋虫みたく丸まって眠りについた。
《翌朝8*30》
‥プルルルる‥
‥プルルルるる‥ガチャ、
女性事務員:「はい、協議陸運(キョウギリクウン)です!」
2コールで出る迅速さ。
そして優しそうな女性の声に少し安心する。
俺:「あの、ホームページを見た者なんですが、今、社員募集していますでしょうか?」
女性:「少々おまちください‥」
俺: 「はい‥」
暫く待つと、Dandyな声の男性に代わった。
Dandy: 「はい、お電話代わりました。社長の粕田(カスタ)です」
俺:〜社長だ!ホームページで挨拶してた人だ!!”〜
ひと呼吸おき、
俺:「あの、御社のホームページ見た者なんですけど、今、社員募集してますでしょうか?」
社長:「はい、募集してますよ。」
との返答!
なんなら今から面接してくれると言う。
俺:「本当ですか!?ありがとうござます、直ぐに向かいますっ!」
粕田社長「はい、お待ちしております。」
やたーっ!!
うまく行けば自宅に戻れるっう!!
俺は心躍った。


Chapter126
〜プレハブの建屋〜
そこは自宅から2キロ程の小さな会社。
テニスコート4面分程の敷地に、青いトラックが数台歯抜けの様に並んでいる。
駐車枠に乗用車とトラックが点在しているところを見ると、既に出掛けているトラックが多い様だ。
敷地の角には、平屋タイプのプレハブが建っている。
そこに“協議陸運”と書かれた縦看板を掲げていた。
事務所として使っている様だ。
これを見て俺は、ホームページで公開されていた会社の印象より随分簡素な感じを受ける。
俺:〜まぁ、ネット上では立派に見せるよね‥〜
と自分を納得させる。
建屋の前に停められた他県ナンバーのプリウスの横に、親から借りてる車を停め簡素なドアに手を掛けた。
ひと呼吸おき、丁寧にノブを引く
"ガチャ"
俺:「失礼します、先程お電話した者です、面接をして頂きたく伺いました。」
中は想像通り広くはない。
机が4つ、こちら入口の方を向いて配置され奥に男性が二人、手前に女性が二人座っていた。
そのうちの年の頃三十代後半?くらいの女性一人が俺の声に反応し、
女性:「こちらへどうぞ。」
と中に招き入れてくれ、プレハブ事務所内の右側へ進む様に促してきた。
そこには通路があり、奥には1つの空間、手前にはもう1つ空間があることがわかった。
手前の空間は6畳程。
2脚ずつの椅子に挟まれ長テーブルが設置されている。
どうやら会議室として使っている様だ。
暫く待つと少し髪の毛が薄い、にこやかな男性が入ってきた。
男性: 「どうも、社長の粕田(カスタ)です。」
俺:「はじめまして、お電話した者です。突然、面接して頂くことになり申し訳ありません、宜しくお願い致します。」
あの電話の方、ホームページで挨拶していた代表だった。
とても感じが良い。
威張る感じもなく、清潔感もあり、にこにこ朗らかに会社の概要を説明してくれた。


Chapter127
〜同い年の社長〜
〜同い年の社長〜

ニコ、ニコ、ニコ(•‿•)‥
笑みを絶やさず、清潔感のある男性。
前側の頭皮が少し後退しているが、スーツを“ビシッ”と着こなし、デキル男に見える。
社長:「はじめまして、社長の粕田(カスタ)です」
いやぁ、爽やかだ(喜)。
履歴書を見ながら、俺を気遣う素振りを出しつつ、自分の素性を踏まえて会社概要を話をしてくれた。
この会社、"協議陸運(キョウギリクウン)"はS賀県と、首都隣県の2つに支店を持ち、ここが本社になるそうだ。
本社と支店の事務員、従業員全てを合わせても50名に満たない小さな運送会社との事。
ちなみに社長は俺と同い年。
腹の中で "またか‥" と思う。
俺:〜ちび将軍も同い年だったな‥ハハハ〜
社長は金庫番の母親と、隣の県から毎朝高速道を使って2時間かけ出社しているそうだ。
俺:〜なるほど、それで他県ナンバーのプリウスがあったのか‥あれは社長の車だったんだ〜
社長の実弟が配車係で専務職をしているとのこと。
父親から継いだこの会社を、自分の代で より大きく立派な会社へしようと日夜励んでいるそうだ。
会社のイメージカラー"青色"、トラックも同色に統一されている。
荷台がフラット(平ボディ)な車種をメインに4トンと10トンを6:4の比率で所有し、運搬物は工業系をメインに依頼あれば基本、全国どこへでも何でも運ぶとの事。
初心者でも安全に、安心して、就業できること。
この会社をもっと大きくしたい!という気持ちを熱心に話してくれた。
ここなら自宅から近いし、未経験の俺でも安心して働けそうだ!と感じた。
明日からでも直ぐに働かしてほしい事を伝えると粕田社長は快く「いいよ」と言ってくれた。
俺:〜やたー!!!(⁠^⁠∇⁠^⁠)⁠ノ⁠♪〜
これで自宅に戻れる!俺は内心ホッとした。
だがここでもう1つ、確認しなければいけないことがあった。
それは、子供と嫁の保険証を早急に発行してもらう事が可能か?という事だ。
転職にあたり最初の3ヶ月、見習い期間中は社会保険に入れない場合があるのを知っていたので、直ぐに作ってくれるか確認しなければいけない。
すると、
社長:「いいですよ、直ぐに作ります。」
とおっしゃった。
助かった!!
本当に良い会社だ!!
俺はこれで自宅に戻れる!
心踊った。


Chapter128
〜久しぶりの我が家〜
俺は7日ぶりに自宅へ戻ることにした。
さて‥嫁はどんな顔して迎えてくれるのだろう‥(⁠٥⁠↼⁠_⁠↼⁠)。
子供たちは良いとして‥やはり嫁だ‥。
やっぱり"出ていけ!"なのか‥?
すんなり受け入れてくれるのか??
なんとも不安だ‥。
思えば、俺を追い出すのも無理はないとも思う‥、結婚して下の息子が産まれて間もなく
嫁「実家近くに家が欲しいっ!」
と言いだした。
俺「七海興業なんて悪い奴らばっかりで、将来どうなるか分からんから家なんて買えないよ!」
と断った。
が、子供が出来れば家を欲しがるのも一般的だ‥‥とも思う。
向こうの親の後押しもあって、渋々、嫁さんの実家近くの建売を内見、一週間後には契約まで話が進んでいた。
これにより、七海興業への通勤は社内随一の遠距離となった。
この負担に対する交換条件として
約束:"自治会や家の事は一切やらない。俺は仕事に専念する"
という了解を取り付けた。
これにより、休みの日にはパチンコに行き、会社の付き合いには大手を振って参加し、ツレに呼ばれれば一人で出掛け、やりたいようにやらせてもらった。
そんな中、アッサリ退社してきたのだからそりゃ怒れただろう‥‥‥とも思う‥。
だが俺にも言い分はある‥。
黒下に様々なパワハラを受け、名古屋の友人のとこへ逃げたとき(Chapter37参照)会社を辞めるかどうか?となったら、当時、結婚を意識していたとはいえ、彼氏彼女の関係だった"きよみ"(後の嫁)は、
きよみ:「辞めないほうがいいよ…。」
と言って俺をこの業界に留めた。
その後も、七海興業の杜撰な体質に
俺: 「いつ辞めるかわからないヨ…。」
と言えば、
嫁: 「いつでもどうぞ。」
と言っていた。
その宣言通り辞めてきたのに
"出てけっ!!"とは何事か‥とも思う。
そんな複雑な胸の内、一度実家に戻り親に借りていた車を返して「新たな就職先が決まり、早速明日から仕事に入る」事を報告した。
心配していた両親も安心した様で、足がない俺を気遣い、自宅まで送ってくれた。
到着したのは昼過ぎ。
送ってくれたオフクロに礼を言い、
俺はしばらくぶりに我が家の広い風呂でゆっくり湯に浸かった。
そして冷蔵庫にあった残り物で腹を満たし、嫁と子供が帰ってくるのを待ったのだった。


Chapter129
〜極限は無味無臭〜
それから数時間後、外を夕闇が覆い始めた頃、子供が学校から戻ってきた。
〜ガチャッ!〜(ドアの開く音)
俺:「おかえりっ!」
長男:「おとうさんっ?!帰ってきたんだね。おかえりっ。」
優しい息子、労をねぎらってくれる。
更に暫らくして
〜ガチャッ!〜(ドアの開く音)
俺:「おかえりっ!!」
長女:「?!おとうさん‥おかえりなさい。」
かわいい娘、礼儀正しい。
流石!空手を少しの間やっただけある。
俺:〜あぁぁ、これが日常だな。ここが良いなぁ〜
そう思った。
更に暫らくして、車が自宅の駐車場に停められる音がした。
大ボス登場‥‥‥‥嫁である‥。
昨年から自宅より車で20分程走ったところにある保育園で、保母さんとして働きだしていたのだ。
〜ガチャッ!〜(ドアの開く音)
俺: 「おかえりっ!!!」
俺は子供たちを迎えた時より更に大きな声で言った。
嫁:「‥‥‥ただいま‥。」
とても複雑な顔をしている。
その顔を見ただけでは心中を察することは出来ない。
このため、俺は間髪入れず
俺:「仕事決めてきたよ。明日から出社するから。」
とだけ伝えた。すると嫁は
「‥‥はい。」
と返答。
俺は受け入れてくれたと判断し、逃げる様に二階の自室へ上がっていった。
心臓はバクバク、
俺:〜このあと何事も無くいてくれっ!〜
と祈る様な思いでいた。
その後一週間ぶりに家族で食卓を囲んたが、食べた晩御飯は全く味がせず、無味無臭だった‥。
"人間は極度の緊張でそうなるんだなぁ"と感じた。


Chapter130
〜サーカスの熊の如く〜
今日は新しい会社に初めて出社する日。
俺は会社といえば七海興業しか知らない。
19歳で期間工として就職してから25年、40半ばで転職し、今日からプレハブ事務所の小さな運送会社に勤務する事となる。
なんだか感慨深い‥。
会社までは2キロくらいの距離。
俺は自分の車が無いため、趣味で持ってるビックスクーターで通勤しようと思っていた。
が、入社初日に"ブォンブォン"爆音たてて行くわけには行かないと、娘が小学生時代に乗っていた自転車で出社することにした。
しかしこの自転車、圧倒的に小さい。
そう、バランスが非常に悪いのだ‥。
例えるなら、サーカスの熊がヨチヨチ自転車を漕ぐ芸の如く、サイズが俺とは全然マッチしていない。
とっても格好悪くブザマ‥。
だけどそんなこと言ってられない。
新しい会社で、便所の場所も分からない一番下っ端から頭を下げ、皆さんに何から何まで教えてもらわなければいけないからだ。
そのためにはプライドなんかあっては駄目っ!と自分に言い聞かせ、あえて恥ずかしい事をするんだ!とココロの中で叫んだ。
俺:〜‥‥だけど‥やっぱ恥ずかしいよね‥(笑)。〜
だから、多少遠回りになるが、ひと気の少ない畑の田舎道をそそくさと走った。
こんな非常にダサい出社初日だが、なんとか就職でき自宅に戻れた事に感謝し、久々に感じる風の感触と暖かい日差し、七海興業時代には感じ得なかった事に少しだけ嬉しくなる。
俺:〜あぁ、今日から新しい一歩だ〜
胸が高鳴った。


Chapter131
〜9つ下の同期〜
小さな娘の自転車を漕いで15分、プレハブ事務所に到着した。
俺:「おはようございます、本日から宜しくお願いします!」
大きな声で、新人らしく挨拶し事務所へ入る。
これには七海興業時代にやった、新卒者教育の事を思い出したからだった。
高校卒業したての、挨拶もマトモに出来ない新卒者を現場へ配属する前に、俺がスパルタで教え、使える人材へ改革したときを思い出していた。
だから自分も歳に似合わないかもしれないが、大きな声で元気よく
俺:「失礼しまっす!!!!」
とやる。
まさか、自分もやることになるとは‥"因果応報、自分にも還ってくるんだね"と
心の中で呟く。
さて、俺の" 年甲斐"ない大きな挨拶に一瞬"ギョッ"とした事務員、社長、その弟である専務、更には二人の母親である金庫番婆さん。
俺は、隣の"点呼室"と呼ばれるとこへ通された。
手始めに今日は新入社員教育をやるとの事。
俺:〜新人に対しては安全:品質:生産性について導入教育をやるのは、どこもいっしょなんだな。〜
などと思いを巡らせていると
そこには既に先客が居た。
俺はすぐさま、
俺:「はじめまして、今日から働くことになりました。宜しくお願いします」
すると、その方は振り返り、
先客:「はじめまして、僕もつい先日入社した不破田(フワタ)といいます。宜しく(ペコリ)」
と言ってくれた。
メガネをかけて、物腰の柔らかい優しそうな青年。
年齢を聞くと俺より9つ下だという。
隣町の陶器工場に高校卒業して直ぐ勤めだしたが、上司と反りが合わず1年遊べるだけの貯金をした後退社し、運送業に飛び込んだとの事だった。
お互い初心者同士、すぐさま意気投合したのだった。


Chapter132
〜新人教育〜
不破田(フワタ)さんと二人で新入社員教育を受ける事になる。
まずは教本冊子を見て、大まかな概要を黙読し、その後、ビデオによる安全教育を受けた。
ここらへんは七海興業と同じ、小さい会社なのに法令に則ってやっていると感じた。
俺は一応、第一種衛生管理者資格を持っているので、従業員が50名に満たない場合は努力義務で良いのだが、面接時に粕田社長が
社長:「小さい会社だが法令に則ってしっかりやりたい。嘘付けばバレるし、嘘つけるほど賢く無いから本当の事をやる。」
と言っていたことを思い出した。
つぎに
"点呼(てんこ)"という重要な事について社長が教えてくれた。
この点呼とは
トラックで各地へ配達する前に、出社したらまず行われる事。
直ぐにトラックに乗ってGO!ではなく、まずはアルコールチェックと体調の確認。
トラックを運転するにあたり、身体にアルコールが残った状態での業務は当たり前だが絶対NGで、機械によるその確認と、運転手の体調確認を運行管理者と呼ばれる人物が責任持って対面で確認して、OKとなったら初めて業務にとり掛かれるのだ。
これら一連の確認を“点呼”と言う。
昨今、飲酒運転による悲惨な事故や、運転中のドライバーの体調不良による事故もある為、ここをしっかり確認し履歴に残すらしい。
この点呼が、終わったあと運転手は自分の担当車両へ行き、タイヤの空気圧やランプ類の点灯具合、更にはエンジンの稼働具合などを点検し、書面に毎日結果を記載して履歴に残す。
どこの職場も同じ、全ては安全第一なのだ。


Chapter133
〜業竹(ごうたけ)さん〜
今日は新人教育2日目で最終日となる。
教育者が社長から、主任と呼ばれる"業竹(ごうたけ)"さんに代わった。
業竹さんは、俺より若いのに"この業界20年"の大ベテラン。
社長や専務、金庫番の母親‥つまり創業家一族からの信頼も厚く、事務所の鍵開け閉めから、異常処置など 一手に任されている優秀な方らしい。
身体は小さいがすばしっこい感じでフットワークも軽く、短髪にメガネ 常にニコニコして物腰も柔らかい。
俺:「宜しくお願いします。」
と言うと、
業竹:「は〜い、宜しくね。」
とにこやかに返してくれた。
社長:「では業竹さん、同乗教育宜しく!」
俺は近くの鉄工場へ業竹さんと一緒に資材を運ぶことになった。
俺が4トン平ボディ車の運転席に乗り込み、ニコニコ笑顔の業竹さんが助手席に座る。
見送る社長へ会釈し会社を出た。
すると間もなく"シュッ!"と横から音がした。
俺は音のした方を向いた。
そこには足をインパネに投げ出し、煙草に火を付け大きく煙を吐く業竹さんが居た。
俺〜‥??!!!(⁠☉⁠。⁠☉⁠)⁠!〜
俺は見てはいけないモノを見たような気がした。
あのニコニコ業竹さんはどこへやら、そこには醜悪な顔をした主任がいた。
俺:〜これが本当の姿か‥〜
どこにでも糞みたいな奴は居るもの‥
俺:〜ハハハ‥ここにも居たね。(汗)〜
そう思った。


Chapter134
〜月夜の出社〜
裏表の激しい業竹(ごうたけ)主任の新人教育も終わり、いよいよ実践配車となった。
さて、この協議陸運、利益が出る依頼であれば"日本全国どこへでも何でも運ぶ"というのが基本姿勢らしい。
そして「依頼物を朝8*00から8*30までに届ける」と言うのが暗黙のルールとなっているそうだ。
さすれば、会社から遠ければ自ずと出社時間は早くなる訳だが、荷物を運ぶにあたり"早く安全に運ぶ"には有料道路(高速道路)を使う事が必須となる。
その有料道路を利用するにあたり、以下の社内規定があった。
《有料道路、利用社内規定》
1:有料道路利用料金は深夜料金が基本
2:運転手への払い戻し制度は無い
3:A→会社指示型(会社指示、許可がなければ利用不可)
 B→個人管理型(個人の判断で自由に乗り降り利用可)
※会社許可を超えた高速料金は運転手自己負担となる
※節約貯蓄した規定高速料金は毎月末リセットされる
右も左も分からない新人は基本、Aの会社指示型でスタートし、慣れてきた頃にBの個人自己管理型へ変わる事も出来るらしい。
俺は勿論、Aの会社指示となり毎回、配車担当の専務から
「○○IC〜○○ICまで高速利用OK」
の許可をもらい走ることになった。
携帯で目的地を入力し、それが何処なのか確認。
地図上に出る到着予想時間から逆算して毎日、毎朝、毎夜、色んな時間での出社となった。
七海興業時代は確かに早い時間の出社だったが、協議陸運の不定の出社はそれはそれで辛い‥。
全く予定がたたず、日々向かう場所も違うので睡眠時間も起床時間もバラバラ。
嫁と子供が寝静まった後、
俺:「‥これが運送業界の現実か‥」
と三日月の夜空を見上げ、疲れの取れない身体にむち打ち、寝不足で赤くなった目を擦りながら、小さな自転車で真夜中、会社に向かうのだった。


Chapter135
〜ドキュメントNHK〜
協議陸運では帰り荷が無ければ帰れない。
これは戻りの燃料代を捻出するために運送業としては仕方ない事らしい。
ただ、毎回行き先が違うため、帰り荷の積み込みも全く知らない場所となる。
専務:「○○て言う人に電話して。番号は090-×××-××××‥。」
こんな具合に専務から指示され、荷卸が終わったら指示された通り連絡する。
すると応答した○○という人が
○○:「携帯∶080-∆∆∆-∆∆∆∆ ○○さんに連絡して」
と言う。
そんな伝言ゲームみたいな事を数回繰り返すと、やっと"大ボス"ならぬ、荷主に辿り着けるのだ。
こんなこと、2回も3回もやれば全く知らない縁もゆかりも無い場所へ行くことになる。
俺は不思議だった。
俺:〜どういうシステムになってんの?これで安全と品質と確保できるの?〜
‥数日後、荷待ち中にYou Tubeで見たNHKドキュメントでそれが解った。
運送業界には"水屋(ミズヤ)"という仲介業者が居て、帰り荷に困った運送会社がその水屋にアポを取る。
すると、その希望にあった積荷運搬を廻してくれるそうだ。
この水屋と呼ばれる仲介屋は、運送料の一部をピンハネし仕事を廻すだけの業者。
こいつらが複数居て、人伝いに仕事が廻ってくる。
間に人が入れば入るほど、運送料は安くなるが、空荷で帰るよりは燃料代だけでも出ればありがたい‥という仕組みらしい。
このNHKのドキュメンタリーではピンハネされた結果、薄給となった運転手が会社から無茶な業務を指示され睡眠不足が常態化、赤信号の停車中に取材班へ、
運転手:「青になったら起こして‥」
と言い、仮眠を取る過酷な状況が映し出されていた。
俺は言葉を失い、これが運送業界なのだと思い知らされた。
俺も同じ様に日々疲弊していく‥。


Chapter136
〜悩める昼食〜
働いて1ヶ月は収入が無い。
七海興業時代は嫁さんから毎月小遣い3万円貰いやり繰りしていたが、今回の転職でそうもいかなくなる。
トラックで配達に行けば、コーヒーも飲むし、昼飯も食べる。
これが地味に俺の財布を薄くする。
今後の事を考えると無駄遣いは厳禁!配達先でランチとかその土地の名物を‥‥などもっての他!
嫁さんに頭を下げオニギリ2つ、毎日作ってもらう事にする。
これなら走ってる最中に食べれるし、コンパクトでとっても良い。
どうしようもなく汁物が食べたくなった時だけ、コンビニでカップ味噌汁やインスタントラーメンを買う事にする‥もちろん値段を見て、一番安いやつを‥。
でも、コレが唯一の贅沢。
そんな時、ふと思った。
俺「あぁ…簡単にド底辺になったな俺」
人間、墜ちるのは早い‥そう感じた。


Chapter137
〜届かぬ保険証〜
転職して2ヶ月が経った。
深夜だろうが、早朝だろうが、配達先に朝8*00から8*30までに到着ルールがあるため、出社の時間が毎日バラバラとなり、七海興業に勤めてた時より子供とは会えなくなった。
更に入社時、社長に確認した
"保険証は直ぐに貰える"
というのも未だ守られていない。
なんなら全く兆しが無い。
その為、ついに嫁がイラつきだした。
嫁:「本当に申請してるの?!いつ届くの??!!(怒)」
顔を合わせるたびに言ってくる。
俺は眠くて"ボーっ"とするなか

俺:「また確認するから、もう少し待ってくれ、すまん‥。」
と言うしかない。
だが、そういう時に限って子供は病気になるもの‥。
当然、保険証が無いため全て実費となる。
今までの当たり前だった事が、そうではない事に絶望し、どうしようもない無力感に襲われる。
数日後、とうとう嫁が痺れを切らし、協議陸運へ直接確認の電話を入れたと本人から聞いた。
俺:「えっ?‥‥‥‥。」
その翌日、金庫番である社長の母親から俺はイヤミを言われることになる。
社長母:「昨日ねぇ、あなたんとこの奥さんがねぇ‥%≮≯‰∂∀∅∇∈∉‥‥」
イヤミの後半、俺は脳内完全シャットダウンし聞かない様にした。
俺:〜面接の時あんたの息子(社長)が、直ぐくれるって言ったんだ‥、うるせぇぞババア‥。〜
心の中で呟く。
同期入社の不破田さんに確認してみた。
すると彼も「保険証、貰っていないよ」と言っていた。彼は独り身なので無くても良いと諦めていたが、妻子持ちの俺はそうは行かない。
最終的に保険証は3ヶ月後に発行された。
それは試用期間の事をさしていたのだった。
粕田社長の言っていたことは結果的に嘘だった‥‥。


Chapter138
〜遅れて咲くサクラ〜
協議陸運に入社し1ヶ月、はじめて給料が支給された。
支給額は手取りで22万、数千円。
まぁ、土日休みの仕事でいきなりこの額もらえるのは良い方だと思う。
今後は今以上にバリバリ働いて4tから10t車に乗り換え、給料も大幅アップを目指せば良い事、嫁にもそう伝える。
さて、この頃、面接を受けていた運送会社の結果連絡が全て来た。
以下の通りだ。
①給食を運搬するなどを主としていた自宅近くの運送会社。 結果→合格
だが丁重にお断りした。
理由として3ヶ月の試用期間内は保険証発行しないとなっていたから。
②自宅からは若干離れているがトレーラーなど港湾で様々な物を運んでいる大手運送会社。 結果→合格
ここは俺の資格とキャリアを見て管理者として働いてもらうと言ってくれたが、俺は運転手になりたかったし、バイク通勤を認めていなくて、自転車では通勤出来ない距離だったのでこちらも丁重にお断りした。
③全国区展開していて、数年前には大女優を使いテレビCMを放送していた大手運送会社。  結果→合格
自宅から自転車で行ける距離だし、賞与もしっかり出る。
なんなら退職金もしっかり有り理想的だったが‥実際に働ける迄に研修から2ヶ月後になるとのことで残念ながらお断りすることになった。
※直ぐに働かないと家にいれてもらえなかったからね‥。
他にも、牽引免許と危険物乙四種を活かしてタンクローリーの運転手になろうと、自分が住む街に唯一ある会社に電話したが、現在は社員募集してないとのことでNG‥。
結局タイミング合わず、すぐに働けた協議陸運に入社した。
果してこの選択、良かったのだろうか‥。
うーん‥果して‥。


Chapter139
〜初めての賞与〜
働いて5ヶ月がたった。
仕事はだいぶ慣れたが、四六時中眠い。
俺:〜トラックの運転手なんてそんなもんだ〜
と自分に言い聞かせ、なんとか日々廻している。
そんな折、はじめての賞与が支給された。
明細が入った封筒が配布され"夏季賞与"と書いてある。
すぐ開けるのはいやらしいので、自分のトラックに戻って早速、中を覗いてみた。すると‥
俺:〜‥‥‥??!!〜
絶句‥。(⁠╬⁠⁽⁠⁽⁠ ⁠⁰⁠ ⁠⁾⁠⁾⁠ ⁠Д⁠ ⁠⁽⁠⁽⁠ ⁠⁰⁠ ⁠⁾⁠⁾⁠)
確かに働いて数ヶ月、1年目のド新人ですけど‥支給額は恐安の手取り¥28.000円‥。
俺:〜はぁ‥????〜
七海興業時代はざっくり100万ずつ、年2回貰っていたのにコノ有り様‥。
正直、年末調整かと思った‥‥。
協議陸運に勤めて十数年の方に
俺:「賞与ってどんなもんすか?」
なんて聞いたら、その方でさえ10万程と言っていた。
運送業は安いとは聞いていたが、これ程とは… 。
情けないやら、恥ずかしいやら‥複雑な気持ちになる‥。
自宅に戻り恐る恐る明細を嫁に渡すと、呆れて口が塞がらない様子。
次第に苦虫を噛み潰した様な顔に変わっていった。
七海興業でパワハラ、モラハラに抵触しながら非人間的な生活をした方が良かったのか…?完全に打ちのめされた俺。
間違いなく俺は‥‥‥墜ちた‥‥。


Chapter140
〜忘年会〜
転職した最初の年末、自分なりに今年を振り返ってみた。やはり大きく収入が下がった事が大事件だった。
給与は20万ちょいで七海興業時代から比べて毎月10万ほど少ない。
賞与は驚愕の約40分/1下落‥。
これらひっくるめると年収は半分以下‥いや下手すれば3分/1か‥?。
更に出社時間は不定で常に寝不足。
良かった事といえば
〜悪い奴らと一緒に仕事しなくなった〜 ぐらいか‥。
大幅に下がった年収を取り戻すべく、将来、仮に4t車から10t車へレベルアップしたとしても、月30万以上貰ってるのが3人だけの協議陸運‥。
こりゃ駄目だ‥。
いや、いかりや長介風に
「ダメだこりゃ~」か‥щ⁠(⁠゜⁠ロ⁠゜⁠щ⁠)。
この頃には嫁さんも
嫁:「他の会社考えたら‥?」
と言い出していた。
俺は完全に転職失敗してしまった‥。
俺:〜あぁ、これから巻き返すにはどうすりゃいい?〜
と自問自答する日々‥。
そんなとき、新たに所属した空手団体の忘年会があり、初めて参加することにした。
参加する道場生には運送業に携わっている者も多数居る様子。
たまたま隣に座ったのは飽和(ほうわ)さんと言う2つ年上の方。
4つある道場の中で、俺とは違うとこに所属しているのであまり接点は無かったが、数回、出稽古でいらっしゃった時に練習をしたことはある、その程度の仲‥。
乾杯して暫くし、だいぶ場も和んできたところで、この飽和さんも運送業に携わっていることを知った。
しかも家業で経営しているとのこと。
俺は協議陸運の酷い有り様を聞いてもらった。すると、
飽和さん:「酷い会社だね、ウチは高速料金の戻りもあるし、飯代もでるよ」
俺:「マジすかっ?!、じゃあ僕を雇ってくれません?」
飽和さん:「いいよ👍」
俺:「!!!まじすかっ?(驚)」
決まるときにはこんなもの。
話はトントン拍子に進み、新たな会社の目処が立ってしまった。
空手の仲間なら気心も知れてるし、悪い奴も居ないはず。
日を改めて面接してもらえることになった。


Chapter141
〜飽和物産〜
今日は空手の仲間でる飽和(ホウワ)家の運送会社へ面接に来た。
眠っていたビッグスクーターで来た。
自宅からは車で20分程にあり、自転車ではチト厳しい距離だが、嫁が俺用に中古の軽自動車を現在さがしてくれており、何とか足の目処はつきそう。
まず飽和さんが会社の概要を説明してくれた、業務内容は以下の通り。
①運搬物→花専門
②従業員→30名程
③営業所→2箇所
   本社∶ココ & 埼玉営業所
④家内工業
  長男→社長 
  次男→専務(←空手の仲間)
  三男→埼玉営業所長
⑤入社1年目は地場廻りのみの月給制
(見習い期間 給料は手取り15万円程)
⑥2年目から市場へ配達の歩合制となる
  ※高速料金払い戻し制度あり
  ※食事代支給あり
⑦退職金制度あり
次に社長との顔合わせだ。
ニコニコした非常に優しそうな、お笑い芸人の"ほっしゃん"に似た社長。
社長:「この会社は毎20日〆になるので
働くのは来月21日からになるよ。」
と説明してくれた。
デキレースだから既に入社は決まってる。
俺:「分かりました、宜しくお願いします。」
と言い、こちらからも1つだけお願いした。
俺:「保険証、直ぐに作っていただけますか?」
すると社長は「了解👍」と言ってくれた。
安心した。


Chapter142
〜風呂洗い〜
俺は協議陸運を退社することにした。
在籍10ヶ月、運送業の実態を垣間見た。
そして制服と菓子折りを持って挨拶に行った。
社長:「はい‥次、頑張ってね。」
専務(‥‥無言)
社長の母親(‥無視)
業竹主任:「‥‥‥君はトラックの運転手には向いてないよ(笑)」
ニコニコ顔で言われた(⁠ب⁠_⁠ب⁠)。
俺:〜クソッ!!今に見とけ、俺には家庭がある。こんな会社じゃ養えないんだよ家族を!早く七海興業時代の様に金を稼がなければいけないんだ!ボケっ〜
と心の中で叫ぶ。←負け犬の遠吠え
やはり、パッと行ってドンっ!!
では良い会社へは行けないって事か‥また1つ勉強になった。
新たな職場、飽和物産は空手の仲間のコネ入社となる。(又、空手に救われたな‥)
芸は身を助けることを痛感する。
さぁ、ここから仕切り直し、明日から‥!と行きたいとこ‥だが飽和物産社長から
飽和社長:「給料締め日の関係で働くのは21日からね」
と言われている為、それまでの1ヶ月間どうするか考えなければ行けない。
俺はこの空白の1ヶ月を埋めるために、携帯のアルバイト情報で調べた、
〜スーパー銭湯閉店後の風呂洗い〜
をすることにした。
このバイトなら、深夜なので嫁さんの車も空いてるし時給も良い。
また、飽和物産で働きだしての1年目、給料が15万円と安い見習い期間も、眠いのさえ我慢すれば補える!と考え働くことにした。
嫁にこれを伝えると
嫁:「無理をしなくていいよ、暫く休みなよ。」
と言ってくれた。が、
それに甘える訳にはいかない。
年収激下がりの今、なんとか下落を止め、上に這い上がらなければいけない。
俺:「ありがとう、でもバイトするから‥。」
そう伝えた。
嫁は最近、自治会の役回りが忙しいらしく、今夜もコピーを取るために近くのコンビニへ出掛けて行った。
俺:〜すまぬ‥俺が不快ないばかりに‥〜
明日から深夜01:30〜4:30までのバイトが始まるのであった‥。


Chapter143
〜転転職の前夜〜
今日は20日で今は夜の22*00。
子供たちは眠りに落ち、俺は明日21日からの飽和物産初出勤に緊張し、深夜のバイトまでの時間、アレヤコレヤと思案していた。
風呂洗い労働にもすっかり慣れ、
このまま1年目の地場(会社の近辺のみ)仕事をこなす間、給料安くても深夜バイトと合算すれば何とか形になる算段もついた。
車もボロボロの中古軽自動車だが、嫁が段取りつけてくれ先日納車された。
これからは雨の日、風の日でも通勤には困らない。
迷惑かけた分、早く収入を戻さないと‥などと考えていると部屋をノックする音が‥ ガチャ(部屋の戸を開ける音)
嫁:「ちょっといい??」
俺:「えっ、うん、いいよ どうした?」
嫁:(サッ)←紙を差し出す音
俺:〜?〜
嫁:「‥限界です。これ協議書。ここに印押して。それで、来月末までに家から出ていってください。」
俺:「はっ?‥」
衝撃だった(⁠‘⁠◉⁠⌓⁠◉⁠’⁠)。


Chapter144
〜頭まっちろ〜
頭は真っ白だ‥。
明日から新たな仕事が始まるというのに‥。
何も考えれないくらいの衝撃‥。
来月までに出てけぇ?
はぁ??
なぜ???
いろんな事が頭を駆け巡る。
だが、先ずは仕事≒収入の確保だよな‥。
でないと生活出来ないし、飽和さんに迷惑かけてしまう。
そんな事が頭を駆け巡った。
混乱する中、嫁さんが渡してきた協議書に目を通す。「甲」だの「乙」だの難しい言葉が並んでる。
内容は
①自宅と家財、財産は全て放棄する事
②親権も放棄する事
③養育費毎月5万支払う事
④書類の手続きには協力する事
簡単に言えば、この様な記載があった。
俺:〜そうか!毎夜コピーに出掛けていたのは自治会なんかじゃない、この協議書を専門家に作って貰いに行ってたのか‥狙ったな、このタイミングを。〜
気づく俺‥しかし後の祭り‥。
更に、一緒に渡された離婚届に目を通すと、義理の両親の記名と印が既に記載してあった。
俺:「‥‥‥。」
それを見た時、俺はもう何も言うつもりは無くなった‥。
俺:「そうか、お前の一族は俺を切ったんだな‥。判った、じゃあコレだけ付け加えろ‥」
以下を追記する様に指示した。
◇離婚後、相手の知人、友人、両親、親族等に手紙、電話、会う事などを一切禁ず。
◇子供が会いたいと言ったら速やかに会わせる事。
↑せめてもの抵抗だった。


Chapter145
〜フワフワ初出社〜
深夜の風呂洗いを終え、眠れないまま社長に指示された通り8*00に飽和物産へ初出社した。
自宅から20分程で到着。
昨晩の出来事で今だ何も考えられないフワフワした状態で事務所の扉を開ける。
俺:「‥おはようごさいます‥」
すると空手仲間である飽和さん(専務職)が丁度、目の前に座っておりパソコンを眺めていた。
飽和先輩:「おはよう!今日からだね」
すかさず俺は、
俺:「はい。宜しくお願いします。あの先輩、お話が‥」
飽和先輩:「ん?」
昨晩の出来事を話す。
飽和さんは「えっ?!!⊙⁠.⁠☉」と言ったきり絶句していた。
そりゃそうだと思う、ははははは‥。
俺は〜嫁と子供を扶養から抜いて下さい‥〜
とお願いした。


Chapter146
〜独りで乗り切る〜
あの晩から俺の生活は一変する。
新しく就職した"飽和物産"では右も左も全く分からない状態で、覚えることばかり‥心も身体も余裕はない。
そんな中、2ヶ月後の花業界は5月の母の日を迎えることになるらしい。
この母の日をピークに、1年で一番忙しい時期になると説明を受けていた。
さすれば一刻も早く、あらゆる事を覚え、独り立ちしなければ空手仲間であり専務職の飽和さん はじめ、会社の方々に迷惑をかけてしまう事となる。さすれば、1日1日を大切にしなければいけない‥。
仕事が終わり帰宅した後、深夜に風呂洗いのバイトへ行く。
はっきり言って何のためにバイトしてるのか分からなくなってしまったが、シフトは組まれているし、始めてまだ1ヶ月しか経っていないので辞めればコチラも迷惑をかけてしまう‥。
結果、まだ辞めれない‥。
その2つの合間をぬって、自身の荷物をまとめ引っ越しの準備、更には新居探しをし、来月末までに自宅から出ていかなければいけない‥。
嫁は"俺が実家に帰れば済む事"とタカを括ってるようだが、そうは行かない事情がある。
まずは、オフクロへの説明。
息子が突然「離婚しました、来月までに自宅から出て行けと言われました‥。」なんて言ったら、そりゃ慌てふためき両家を巻き込んだ大事になるだろう。
しかし、そんなことに時間と労力を割く事は出来ない。
なぜなら上記の通り、やる事だらけだから。
俺は、嫁がそのドタバタを狙い離婚を切り出したんだろうと確信していた。だから尚更、おいそれと実家には帰りたくなかった‥男の意地なのだ。
あともう1つ帰れない理由がある。
それは、ひとつ上の兄貴が少し前に離婚し、鬱を患って既に実家へ戻っていた事。
なんなら親父も精神を病んで数年前から自室に引きこもっているカオス状態の実家。
そんな中、次男坊も出戻ったとなれば、御近所からは「最近、あの家のバカ兄弟が戻ってきてる。親父さんは部屋に閉じこもってるし何なのかしらね‥」などと噂がたち、オフクロへ一層、心労をかけてしまうだろう‥。
だから戻れない‥。
俺は肚をくくった。
なんとしてもこの局面を独りで乗り切る事を。


Chapter147
〜優しい息子よ〜
毎日が辛い‥。
やる事だらけだし、自宅に戻ってもそこはもはや自宅では無い‥。
嫁とは家族では無く赤の他人に戻った。
何の為に生きてるのか、何の為に仕事に行くのか全く判らない‥。
そんな中、下の小学3年になる息子が、深夜の風呂洗いのバイトへ行くまでの時間、毎晩の様に俺の部屋へ来てくれる様になった。
率直に「なぜ?」と息子に聞く。
すると息子は元嫁から
息子:「お父さんは来月から居なくなります‥って言われているからだよ‥」
と言った。
子供なりに考え、父と一緒に居れる残り少ない日々を惜しんでくれてるのだろう。
俺:「ごめん、お父さんが不甲斐ないばかりに‥」
息子:「いいよ(笑)」
俺:「‥‥‥。(泪)」
よゐこに育ったものだ‥。
俺はこの貴重な時間に、疲れからつい居眠りしてしまった。
すると息子は俺の横で、俺が目を覚ますまでゲームをしながら側に居てくれた。
子は鎹(かすがい)
夫婦は所詮他人
日常は一瞬で壊れる
俺は心に刻み込んだ。


Chapter148
〜宝探しの如き〜
飽和物産での仕事も、深夜の風呂洗いも、引っ越しの支度も必死にこなし、実家には何とかバレずに日々廻している。
身体は睡眠不足から疲弊しきっていて悲鳴をあげている。
そんな中でも元嫁が挑発するかの様に
元嫁:「早く出てってよ‥‥ಠ⁠ᴥ⁠ಠ」
と、言ってくる。
元嫁:「もし居るなら家賃払ってね♥」
とまで言ってくる。
俺:〜女はそんなに変われるものなのか?〜
と思い、怒れて、呆れて、仕方なかった。が、
そんな事に使う体力、気力、時間は無い。
俺は言い争う事は避け、言われるがままに金(家賃)を渡した。
俺:〜早く新しい住まいをさがさないと‥。〜
だが、なかなか良い物件は無い。
正業となる飽和物産からほど近くて、駐車場があり、見習い期間の手取り15万で、やりくり出来る位の物件。
離婚協議書に書かれた養育費5万を引けば実質10万で全て賄わなければいけない‥‥となると、相当安くなければ‥。この辺の家賃相場は5万。となると残り5万で電気、ガス、水道、ガソリン、携帯代etcとなれば、安ければ安いほど良い‥それは正に宝探しの様相だ。
そんな中、俺の近況を知った幹泰(ミキヤス)がTELをくれ、
幹泰:「一緒に物件探してやるよ」
と言ってくれた。



Chapter149
〜はーいと言う元気な子〜
幹泰(みきやす)が一緒に物件探しをしてくれる事となった。
彼は住宅営業マンなので、独自のルートで様々な物件情報を仕入れて来てくれた。
が、どれも高め‥。
いや、確かに相場からしたら安いが
今後1年間、手取り15万円から養育費を引いた残金10万で、やり繰りすることを考えると少しでも安いとこを‥と考える。
そんな中、とうとう見付けた!
家賃    ¥20,000円
駐車場   ¥ 4,860円
共益費   ¥ 2,160円
――――――――――――――
計    ¥27,020円/月 税込
幹泰に伝え、2人ですぐ内見した。
今後の運転手生活を考えれば寝れればOK!
結果、俺はこの部屋に住むことにした。
それから数日、元嫁から言い渡された期日一杯の3月30日夜に長女と息子を連れこのアパートに来た。
その時には既に、大半の荷物は運び込んでいた。
部屋に二人を招き入れ狭い部屋の真ん中で向かい合って座る。
そして二人にこう伝えた。
俺:「お父さんは、明日からこの部屋で独りで暮らします。お父さんに会いたくなったら何時でも連絡ください。そして、いつでも遊びに来てください。迎えに行きます。」
二人は子供らしく
"は~い"と返答してくれた。
俺の結婚生活は終わった。


Chapter150
〜二階のジジイ〜
今日からこの激安物件が俺の家になる。
1階なので、一応直2階の住人にだけは挨拶を‥と饅頭2つ入った菓子を持って挨拶に行った。
このアパートにインターホン的なモノは無く、拳ノックでドアをコンコン☆
俺:「すいません、1階に引っ越してきた者ですが‥。」
ガチャ←ドアが開く音
そこには上下ステテコの身の丈150センチ位?背中が曲がり坊主頭の年の頃60過ぎの爺さんが居た。
爺さん:「どうも、わざわざすいません、こちらこそ宜しく。」
俺:「宜しくお願いします ニコっ。」
実はこの時、俺は警戒していた。
内見時、案内してくれた不動産業者に
俺の部屋、以前どんな方が住んでいたか聞いたとき
業者:「二十代半ばの女性が住んでいましたが、2階の住人とトラブルになり半年で退室しました。」
と聞いていたからだ。
俺:〜こんなヨボヨボの爺さんとトラブル?〜
少し不思議に思った。
てっきりイケイケの若いやつ、もしくは反社的な感じの奴だと思っていたら、只の腰の曲がった爺さん‥。
ちょっと拍子抜けした。
すると、普段話す相手が居ないのが寂しいんだろう、爺さんは身の上話をペラペラ喋りだした。
爺さんの詳細は以下の通り
名前→栗沢
年齢→60過ぎ
家族→一人暮らし
出身→関西
仕事→無職
収入→生活保護受給中
居住年数→4年
俺:〜ふん、ふん、そうですか‥〜
と聞くだけ聞いて、適当にキリをつけ失礼した。
俺は今メンタルをやられていて、少しそっとしておいてほしい。
あんたの事など興味ないし、お互い構わない様にしようと心の中で呟く‥。
しかし、そうはいかなかった。


Chapter151
〜ドン★ドン★ドドドンっ★〜
俺がシャワーを浴びていて肘が壁に当たる。
すると2階から「ドンっ!」
俺が部屋でテレビのリモコンを落とす、すると2階から「ドドンっ!!」
俺が電子レンジで温めものをチン☆する、すると2階から「ドドドンっ!!!」
俺:〜‥‥‥(⁠٥⁠↼⁠_⁠↼⁠)。〜
それは決まって午後になると起こる。
午前中は至って平和。
しかし昼過ぎになると2階から威嚇されるのだ。
その理由は推測するに "酒" だ。
爺さん、酒を昼過ぎから煽るからだ。
無職で四六時中、部屋に居て話し相手も居ない。
暇だから昼を過ぎると酒を呑みはじめる。
すると気が大きくなって、ちょっとの事で階下を威嚇する‥みたい‥。
俺:〜なるほど、これが前の住人が退去した理由か‥〜
ある日には窓を開け、自室から道行く外の何者かに暴言を吐いていた。
ある日には1階まで降りてきて携帯電話片手に何者かに対し
爺さん:「わし誰や思てんねん!来るなら来いや!やったるぞ!!コラっ!!」
ヨボヨボ歩きながら怒鳴っていた。
俺:(⁠ー⁠_⁠ー⁠゛⁠)
実は俺の部屋だけ覗き穴が玄関ドアに付いている。
最初は気が付かなかったが付いてる。
他の部屋には無いのに俺の部屋だけ‥。
コレが非常に便利!恐らく前の女性住人が様々なトラブルが起こるため、自主的に付けたんだろう‥と、このとき判った。
問題は午後だけではない。
爺さんには毎朝のルーティーンがある。
まだ皆が寝静まっている早朝5*30に玄関を大きく開けっ広げ、掃除機をかけながら何者かに対し
爺さん:「おはよう!!今から仕事?頑張ってよ!!」
と言ってやがる。
俺:〜いや、お前が頑張れよ‥生活保護なんか貰って呑んだくれやがって‥〜 
ある時、俺が部屋でシットリ塞ぎ込んでいると玄関をトントン☆する音が
爺さん:「すいませーん、2階の栗沢でぇ-す。すいませーん、すいませーん!」
俺が堪らす応答すると、糖尿病患者用の弁当を毎日宅配してもらってるのだが、今日は食べたくないから良かったら貰ってくれとの事。
俺は全力で拒否したかったが、またドンドンやられては堪らないので渋々受け取り、翌日、空の弁当箱と"御礼&あまり構わないでくれ適度な距離があるから‥"と書いた手紙を置いた。
すると翌日、再び玄関をトントン☆する音が‥。
ウンザリしながら開けてみれば
爺さん:「そんなつもりじゃない、そんなつもりでは‥(恐らく手紙の内容に対しての返答)」
と赤ら顔で言ってくる‥。
そしてその後はドンドン、ドドンっと階下を威嚇してくる。
俺は犯罪者の潜伏生活の如く、音を立てない様に神経を使う羽目になってしまった。


Chapter152
〜三船(ミフネ)なる男〜
ある日の夕方、2階の爺さんに気を遣いながら静かにテレビを見ていると誰かが玄関をコココン☆ 
俺は(また爺さんか?)とウンザリしながらも玄関を開けると、そこには身長185㌢くらいで年の頃20代?のガッチリした体型の若者が立っていた。
俺:〜?????!〜
すると若者は、
若者:「2階の〇〇号室に住む、三船(ミフネ)と言います。部屋の給湯器が壊れて、管理会社に連絡してるんですけど、直るまでにまだ数日かかるらしく風呂に入れません。
申し訳ないですが、シャワー貸していただけませんか?」
と言ってきた。
俺は優しく断ったが、相手は泣きそうな顔で「お願いします!!」と懇願してきた。
俺は2階の爺さんに次ぐ、新たな敵を作りたくなかったので仕方なく貸すことにした。
部屋に入る三船(ミフネ)。
三船:〜あざーっす、失礼します!〜
と体育会系らしい挨拶をし、彼は服を脱ぎながら身の上話をし始めた。
ここからそう遠くない工場に最近勤め始め、会社がこのアパートの2階、複数の部屋を寮として借り上げている為、数日前から住み始めたとの事だった。
風呂場に入りシャワーの音がしだした。
俺:「俺と同じくらいの居住歴だね‥。」
と返答し、テレビのリモコンを取ろうと左を向いて右に振り返ると、三船は既に風呂から上がっていた。
俺:「えっ!!(⁠⊙⁠_⁠◎⁠)早すぎない?ちゃんと入ったの?!!」
と言うと、
三船:「汗だけ流せれば大丈夫っす!」
と言う。
俺:〜そんなもんか?〜
と不思議がってると、
三船:「この辺に銭湯ってあります?」
と言うので
俺:「車で20分くらいのとこへいけばあるよ‥」
と説明した。
すると三船は
三船:「申し訳ないですけど、明日、そこへ送ってくれないですか?」
と言う。
俺は丁寧にお断りした。
すると 
三船:「いや、シャワー貸してくれただけでとても助かりました。ありがとうございました!」
と握手を求めて来た。
俺は握手に応じ、彼は満足気に部屋を後にした。
俺:〜変わった奴だな‥今どき知らん人の風呂借りに来る?貸す俺も俺だけど‥〜
などと思った。
俺:〜安い場所には頭がオカシイ、変な奴が集まりやすいんだろうな‥〜
と自分を納得させた。
だが、一応、念の為、翌日、アパートの管理会社に
"どこぞの会社が、寮として借り上げてる給湯器が壊れた2階の部屋に住む三船"について確認したところ‥
《アパート管理会社》
①給湯器が壊れたという連絡は無い。
②どこぞの会社に寮として複数室貸し出してなどいない。
③三船(ミフネ)なる人物は居ない。
と言われた‥。
俺:〜えっ?じゃあアイツは誰?何??(汗)〜
背筋がゾっとした(⁠*⁠﹏⁠*⁠;⁠)。


Chapter153
〜頼むぜ…会長〜
ある日の夕方、2階の爺さんに気を遣い、居るはずもない三船(ミフネ)なる男にビクビクしながら部屋で静かにテレビを観ていると、誰かが玄関をコココン☆と叩く。
俺は(また爺さん?また三船‥??)
と思いながらも玄関を開けた。
すると、そこには身長150センチくらいで年の頃70代?ほどの見すぼらしい格好した年寄りが立っていた。
俺:〜?!今度は誰‥?(⁠@⁠_⁠@⁠;⁠)〜
すると、この年寄りは
年寄:「この地区の町内会長です。町内会費を集めています。6千円お願いします。」
と言った。
俺はその姿から
俺:〜みすぼらしい、小汚い町内会長も居たもんだ‥〜
と思いながらも、財布の中身を思い返す、確か¥3000円くらいしか入ってない。
俺:「ごめん、いま¥6000円も無いんだ。」
と言うと"あるだけでも良い"と言う。
俺:(そんなんで良いの?)
と思いながらも、これ以上やりとりしたくない、関わりたくないと思い、有り金の¥3000円全てを渡した。
すると、町内会長は少し驚いた様な顔をして、領収書も渡さずに何度も何度も頭を下げ、ボロボロの後ろ姿を引き摺りながら夕闇に消えていった。
翌日‥
気になって先日の三船同様、管理会社に確認の電話をした。
俺:「町内会長なる人が昨晩、会費を集めに来たが、毎月払ってる共益費とは別なの?」
すると管理会社は、
管理会社:「そんな制度は無いし聞いた事無い(⁠─⁠.⁠─⁠|⁠|⁠)」
との返答。
‥えっ?じゃあアイツは誰?何??(汗)
金玉がキュッとした‥。
その数カ月後、アパート駐車場で2回ボヤ騒ぎが有り、ニュースで放送されることになる。
何という治安の悪さ、ここはスラム街か??
ちょ、町内会長‥町の!アパートの!
治安を護ってくれ!!頼むっ!!!!
心から願った。













パワハラ:モラハラ:何でもござれ!

2026年2月3日 発行 初版

著  者:404號
発  行:四零四映像舎出版

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四零四映像舎

2025年 個人事業主として旗揚げ!ですけど、収益化出来ていないトラック運転手です。転職→離婚、書類送検、民事訴訟などなど、結構な濃い人生を歩みつつ、TikTokでの動画投稿、特許取得、など目指し多方面で積極的活動中。 今回は、離婚のきっかけとなった25年勤めた会社で実際に経験した事を書籍化したく登録しました。

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