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凹凸

マグネシウム

二松学舎大学


この物語は、フィクションです。自転車の飲酒運転描写がありますが飲酒運転は法律で禁止されています。
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 目 次

抹消

酒とカフェイン

嘘と友情

抹消

「俺もついにこっち側か」
「やっと見つけた」
小雨の降るシャッター街を傘を差さずターゲットを追う。
「もうここまでか」
裏道に逃げたやつを行き止まりに追い詰める。
「もう逃げられないぞ。コード番号20230524。お前にはここで死んでもらう」
「無駄な事だよ。それにお前殺すの初めてでしょ。手は、震えているし、今のおまえじゃあこの距離でも外すよ」
「黙れ。俺がお前を消す」
「あまいねぇ~君はこの世界のことを何も理解してない」
「何が言いたい」
「お前は、自分が殺すそっち側だと思っているでしょ。でも実際はお前も殺されるこっち側でもあんだよ」
「何が言いたい」
「お前もいつか殺されるかもしれないってことだよ。現に今お前の前にいるのだって元は殺すそっち側だし。それに殺したところで意味ないだろ。俺らは、儚い存在でありながら簡単に消えられる存在じゃなくなったんだから」
「それでもお前を殺す」
「殺して何になる。エゴが満たされるのか」
「お前がいた事実をこの世界から抹消する」
「それに意味があるのか? 俺らは、この世界からは簡単に切り離せない。つまり俺を殺したってここに変化は起きないんだよ。ほら向かいの道路で殺されてるやつたくさんいるだろ。でもやつらも消えきることは、ほぼない。俺が排除対象から保護の対象になるかもしれないのに。こんなおかしな世界でわざわざ殺すやる意味ある?」
「意味は勝手についてくる。お前が消えれば変化が起こる」
「じゃあ変化が起きればいいのか。それが正しいかもわからないのに」
「正しい、正しくないは関係ない」
「なら殺しやっててみろ。殺したところでこの世界に深く染み付いた俺を消しきることはできない」2
「例え一時的でもいい。ここから邪魔者を排除する」
「なら覚悟を決めろ。殺されるこっち側になる覚悟を」
「あんたのおかげで覚悟できたよ」
「お前もわかっただろ。この世界は、常に殺し合うことで保たれていることを。『タラレバ』これが俺らをここに呪い殺しあう原因だ。つまり殺しが消えることはない」
「あぁ。だから覚悟ができた。今なら引き金を引ける」
拳銃の引き金を引き奴を撃った。


 記憶というものは、儚くも強い。僕は、過去の過ちに囚われ前を向けなかった。記憶は、呪いと同じなのかもしれない。僕は後悔した記憶を僕の中で殺した。この選択は間違いかもしれないがそれでもいい。今を前へ進むためだ。

「さよなら、過去の僕」


「殺せた……こちらコード番号20240805。後悔の記憶ターゲットを抹消した」
「……了解。奴が再び必要になったらこちらで対処する。ご苦労だった」


「見つけたぞ」
「……俺もついにこっち側か」

〈了〉

酒とカフェイン

 車を動かすにはガソリンが、スマホには充電が、花には水が必要だ。僕の体は、アルコールとカフェインでできている。別にそれだけでできている訳ではない。あくまで比喩だ。だが今の体を支えているのはこの二つであるのは事実である。世間の推しと呼ばれる存在と同じようなものかもしれない。
 朝起きてコーヒーを体内に流し入れ、カフェインを摂取する。こうでもしないと瞼をあげ続けることができない。一昔前なら「気合いだ」のような根性論で動けた体は、今は錆びついて動かなくなってしまったのかもしれない。繰り返されるつまらない毎日にカフェインという刺激を与えることで社会(戦場)で戦っているのかもしれない。
 周りに振り回されやっとの思いで帰宅する頃には、夏だというのに肌寒くビル明かりが光っているぐらいだ。ボロボロな体を引きずり近くのコンビニに入り、安い度数の高い缶チューハイを疲れた体に流し込む。こんなことしたって疲れが取れるわけでも無いが自分へのちょっとした一日の労いだ。大して酒が回っていない体を動かし、飲み会終わりの学生やイチャつくカップルを横目に電車に揺られ最寄り駅へ。この頃には、酒の感覚も抜けてしまい、またコンビニで酒を買う。おんぼろな自転車にまたがり明かりのない小さな家に帰る。冷蔵庫から賞味期限の切れた安い豆腐をつまみに酒を流し込む。適当に深夜番組を流しながらまた新しい缶のプルタブをあげる。 
 耳に鳴り響く嫌になるほど聞いた、アラーム音で重い瞼を開ける。机に散らばった空き缶を見ながらインスタントのコーヒーを入れる。キッチンの角に置いたコーヒーミルと高級ワインを見て後悔する。世間で配属ガチャと呼ばれるものではずれを引いたものの黙って仕事を続けてやっとの思いで昨年希望部署へ配属になった。同僚たちが出世祝いにコーヒーと酒が好きな自分のためにくれたものだ。残念ながらもらってから一度も手をつけていない。昔のようにコーヒーを味わう事やお酒を楽しく呑むことができなくなってしまった。重い体を動かすためにコーヒーでカフェインを入れ、疲れた体に酒を流すことで感覚を麻痺させる。こんな日々から抜け出せたら昔のようにできるのかと、思いながら今日もまたコーヒーを飲む。

〈了〉

嘘と友情

 これは、僕が死ぬ半年程前。四月十日
「比奈、聡、今からそっちに行くよ」
 僕は、友達のいないただの高校二年生。クラスでは、いじめられ、家では、自由が無く、暴言、暴力は、当たり前。生きていく理由を失った。僕の唯一の生きがいは、親友の比奈と聡と過ごす事。しかしそれがつい先日途切れた。聡と比奈は、三人で乗ったバスの事故で他界した。奇跡的に生きていたのは、つり革に捕まっていた僕だけだった。僕は、今日、学校の屋上から飛び降りて自殺する。
「さよなら」
と僕は、誰もいない屋上で小さく言い、柵を超え飛び降りた。


「起きろ」
 俺は、誰かに呼ばれている? 天国にでも来たのかなぁ? 俺は、のんきにそう思った。目をゆっくり開けてみた。そこには、小柄な女子生徒と僕と同じ位の男子生徒がいた。僕は、驚いた。なぜ生きているのか? 辺りをみると神様のいたずらか、偶然か、お大掃除で使われた、雑巾などの入ったごみ袋の上に落ちたため生きていたようだ。
「何そこで寝てるのですか?」
 女子に言われて急いで言い訳を考えた。しかし、言葉が出てこなかったから、その場から逃げた。
 しかし、世の中は、うまくいかない。後ろから男子生徒が追いかけて来た。僕は、彼に追いつかれ捕まってしまった。
「金なんてもってないから離せ」
「はい?」
 彼が急に手を放した。僕は、バランスを崩し転んだ。
「何か勘違いしていません?」
 よくみると二人は、校章の色が自分の青とは違い、緑色だった。

「もしかして一年生?」
 僕が聞くと
「はい。そうですけど」
 男子生徒が言った。
「それより、何であんな所で寝ていたんですか?」
 女子生徒が聞いてきた。
 僕は、諦めて二人に全て打ち明けた。親友が死んでしまった事、自殺しようとしたこと。そして死んだ親友が唯一の友人である事も。それを聞いた二人は、返す言葉を一瞬失った。が、すぐ男子生徒が
「ふざけるな」
 僕を怒鳴りつけてきた。僕は、驚いた。
「綺麗事並べて現実から逃げようとしてるだけじゃねぇか」
「そうかもね」
「いい加減にしろ」
 彼が僕の頬を殴った。
「お前に何がわかる」
 僕も殴った。
 互いに二発ずつ殴った。
「ストーップ」
 彼女が止めに入った。
 その時、僕の記憶がうっすらよみがえった。
「わはは」
 思わず笑ってしまった。きっと二人には、変に思われただろう。
「何笑っているんですか?」
 二人に聞かれた。
「降参」
 と手を挙げその場から去ろうとした。その足は、フラフラだった。きっと骨折は、していると思った。
「保健室行きましょう。その足、折れていると思うので。それから二度とこんな自殺なんかしないでください」
 女子生徒が心配するが
「保健室行ったって治療できるわけ無いだろ。わかったから自殺はしないから」
 僕は、めんどくさそうに質問に答え、拒否した。二人と別れる時僕は、二人にある質問をした。
「二人に質問。もし僕が死んだらどうなる?」
「そんな変な質問しないでください。自殺しないってさっき約束したんですから」
「いい加減ふざけた事いってるんじゃね」
「わ、悪い」
 男子生徒は、キレぎみに、女子生徒は、不安そうに言ってきた。

 二人と別れた後僕は、一応病院に行った。案の定、足を骨折していた。次の日僕は、松葉杖を持ちながら登校した。
「前は、助けてくれる人がいたが今は、いないからな」
 昔、怪我した時、聡と比奈に助けられた事を思い出すがすぐ現実に連れ戻されてしまった。それもそのはず、背後から昨日出会った後輩に話しかけられたからだ。松葉杖を持っているためか屋上から飛び降りた事を知っているからかわからないが骨折していると察したようだ。まぁそのお陰か移動の手助けは、してくれた。放課後になぜか二人に呼び出され行ってみると彼女がこんな事を言ってきた。
「三人で交換日記をしましょう」
 僕は、彼女の発言に驚いた。彼女の隣にいた彼も驚いた様子なため、彼女が一人で考えたんだと思った。
「なんでそんな事をするんだよ」
 彼が言った。僕も理由が気になっていたから彼の質問には、感謝している。
「それはですね三人の仲を良くするためと、また先輩が自殺するような事が無いように。という訳で今日から始めまーす」
「ちょっと待って。君は、いきなり何を言ってるの?」
 僕は、状況を理解できず彼女に質問をした。
「そのまんまです。交換日記をするだけです。あと、君呼び、止めてください。私の名前は、三咲です。鈴木三咲です」
「俺は、加藤卓也です。ついでに聞きますが先輩の名前は、何ですか?」
「……西野さとし。これが僕の名前だよ」
「西野先輩ですね」
「覚えとくよ」
「タメ口で良いよ。先輩もつけないで良いよ」
「では、遠慮なく。さとし」
「よろしく。三咲さん、卓也君」
 二人と僕は、握手をした。さん付けと君付けを止めろと言われたが生涯二人を呼び捨てにすることは、無かった。僕と卓也君の手には、殴り会ったときの傷があった。
 僕は、家に帰って自室にこもり渡された交換日記とにらめっこをしていた。
 書く内容がなかった僕は、
「いつも通りの一日だった」
 とわかるかわからないか位の小さな文字の一文を書いて閉じた。
 次の日、僕は、卓也君に日記を渡して帰った
それから交換日記は、一日も忘れる事なく続き始めてから五ヶ月程たった。僕は、大抵「いつも通りの一日だった」とか「変わらない日」とか書いていた。二人は、部活の事など楽しそうな内容が書いてあった。僕の学校生活とは、かけ離れてる生活に思えた。そんなある日の三咲さんの日記に「秋休みにどこか行きませんか?」と書いてあった。僕は、長期休みも遊ぶような友達もいないから暇なため誘いに乗った。
 それと同時に僕は、あることを決心した。

 十月上旬。二人との約束の前日。僕は、用事を済ませ、町を一人で歩いてる時に道路に飛び出しトラックに跳ねられ死んだ。後頭部強打と多量出血でほぼ即死だったらしい。僕は、やはり自ら命を絶ったらしい。たまたま、死ぬ所を卓也君には、見られたようだ。生きていたら何をされただろうか。前みたいに拳数発では、すまないだろう。トラックの運転手は、僕がいきなり飛び出して来たという証言と、僕が自殺未遂をしてたことから僕の自殺ということで罪は軽くなったらしい。次の日、三咲さんにも僕の死が告げられた。僕の死後の二人を僕は、地獄か天国か、三途の川か場所はわからないが見ることが出来た。二人は、泣いてくれていた。僕は、自分の死で泣いてくれる人がいたということに気づかされた。もし僕みたいに自殺をしようとする人がいるなら言ってあげたい。誰かは、自分の死で泣いてくれるという事を。
 この話しには、まだ続きがあった。


 不思議な人に出会った。これは、俺と幼なじみの三咲が見つけた、自殺をした奴のお話。
 あいつに出会ったのは、入学してすぐの事だった。掃除中、俺と三咲は、屋上から人が落ちるのを見た。落ちるというか落ちたの方が正しいかもしれない。三咲と俺は、落ちた方向に向かって見るとごみ袋の上に伸びている奴がいた。三咲が奴に話しかけると、親友を失いそのまま親友を追いかけようとした一つ上の先輩らしい。俺は、あいつの自分勝手な解釈に腹が立ち、あいつの頬を一発殴った。勿論俺も殴りかえされた。当たり前だ。先輩を殴ったのだから。そのまま俺は、あいつと殴りあった。三咲が止めに入るまで殴った。お互いの拳や顔には、今でも消えない傷がついた。しかし先輩は、もう自殺は、しないと言った。次の日の朝、松葉杖を持ったあいつを見かけた。助けるつもりなど無かったが俺は、三咲と一緒に助けていた。あいつの怪我を知っているのは、俺と三咲とあいつだけだからかもしれない。その日の放課後、三咲に連れていかれたと思えば、あいつと三人で交換日記をすると言い出した。俺は、三咲の考えが理解できなかったが勝手に始まった。初日は、あいつからだった。次の日、日記をもらって中を見るといつも通りの一日だった。この一文しか書いて無かった。俺も適当に日記を書いて閉じた。こんな事を気づけば五ヶ月も続けていた。そんなある日三咲が秋休みにどこか行かないかと聞いてきた。俺は、部活休めるしと軽い気持ちで乗った。秋休みの、三人での遊ぶ前日、部活の帰りにあいつを見かけた。するといきなり道路に飛び出しやがった。あいつは、そのまま死んだ。俺は、次の日三咲と共にあいつが死んだ交差点に花束を持って行った。気がつくと俺は、泣いていた。隣の三咲も泣いていた。俺は、泣いてる理由がわからなかった。あいつに嘘をつかれたからか。それともシンプルに悲しんでるのか。俺は、わからなかった。

「西野さとしっていう生徒はいなかったよ」俺が聞いたら先生にそう言われた。
 俺らが知っているあいつ、西野さとしという人間が存在しない事を知る。先生に頼みあいつの墓参りするため墓地の住所を聞いた。「先輩の墓地の住所を教えてください」と三咲が聞いてくれた。渡された住所を頼りに墓地に行ってみたが西野の墓はあるが西野さとしの名が彫られた墓は、どこにも無かった。西野家の墓誌の没年が一番新しいもので、半年程前だった。俺と三咲は、周りから夢でも見ていたんだよと言われた。しかし俺の手には、殴りあった時の傷がまだあるし、交換日記には、あいつの書いた汚い字の記録がある。俺と三咲は、交換日記を一ページずつ確認した。そこには、ちゃんとあいつの独特な癖字で書いた記録があった。確認しているとあいつの日記には、小さく「俺が死んだらどうなる?」と書いてあった。これは、初めて会った日の最後に言った言葉だ。あいつは、生きる意味かなんかを俺らに聞いていたようだ。
 あいつの事を調べ出してから一週間たった。あいつのことは、特にわからなかった。そんな日に俺と三咲に手紙が来ていた。差出人は、なんとあいつからだった。開けて見ると


 今まで嘘ついていてごめん。二人の事をまだ信じきれて無かったから嘘ついたけどもう二人の事は、信じられるから本当の事を言うよ。西野さとしという人間は、この世に存在しない。僕の本当の名前は、山田悠と言う。信じきれなかったから偽名を名乗ってたんだごめん。本当の事を言うと初めて会った日の帰りに僕は、一人で泣いた。前言った親友との思い出がよみがえって二人のいない現実を突きつけられて辛くて涙を流した。
生きていたなら僕の親友の
西野比奈と川崎聡に会わせたかったな。
嘘ついていて本当にごめん。


 長々とあいつの癖字でかかれた手紙であいつの事を初めて知る

 事件から半年が経った。俺も三咲も進級し、二年生になった。後にわかったことだがあいつは、子供をかばって跳ねられたらしい。学校には、小さな墓石が立てられそこには、西野比奈、川崎聡、それと山田悠と名前が彫られていた。
 俺と三咲は、墓石を見てここに二度と新たに名前が彫られて欲しく無いと思った。それは、俺らみたいに悲しい思いを他の人がしないで欲しいのとあの三人の邪魔をしないで欲しいからだ。
 もしこの世に生きる場所が二つあったとしたら西野さとしという人間は、俺らとの仮の姿で山田悠という人間が本当の場所だと思う。 




〈了〉

あとがき

 作品を読んで下さりありがとうございます。誠に勝手ながらこちらに作品の解説を書かせていただきます。
 最初の作品「抹消」は、記憶の抹消をテーマに書きました。トラウマや後悔など記憶から消したいものは皆さんお持ちのはず。しかし後悔が後々役にたったりすることがあります。自分のなかで記憶を消したとしても何らかの出来事で思い出すことがある。また、記憶を消したことが後の後悔につながるようなことがあり負の連鎖のような作品を書きたく、最後に殺す側が殺される側になる描写を入れました。コード番号には記憶の年月日が割り振られています。
 「酒とカフェイン」では、私の日々をもとにつくりました。自分の中の昔に戻りたいという思いとそれができない現実を表せていたら幸いです。
 「嘘と友情」は私が昔おふざけでメモ帳アプリに書いていた作品です。書いた時の記憶は曖昧ですが多分テーマは「死と不完全な友情」的なものだと思います。下の名前が聡で同じなところは、わかりやすかったかもしれませんが墓誌の一番新しいのが半年前なのも偽名の伏線になっています。
 この作品が読者の人生のどこかに良い影響を与えられたら本望です。
 ご愛読ありがとうございます。

凹凸

2026年7月24日 発行 初版

著  者:マグネシウム
発  行:二松学舎大学

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