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俺たちが埋もれさせない

石橋采樹

二松学舎大学



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 目 次

俺たちが埋もれさせない


石橋采樹
隠れた名作たち
隠れた名作漫画
隠れた名作アニメ
まとめ
出典

俺たちが埋もれさせない

石橋采樹

隠れた名作たち

 世の中には、数多くの人に愛され、読み継がれる名作が存在する。絵画、彫刻、演劇、小説、映画、そして漫画やアニメ。様々なジャンルにメジャーな名作がある一方で、名作に負けない力を備えていながら、人々に認知されていない隠れた名作も存在している。広く知られていないのでは、メジャー作に劣るのでは? と疑問を持つ者もいるだろう。しかし、認知度と魅力が必ず比例するなど、単純な話ではない。作品に宿った力は、知る人の人数で変わることなどないのだから。本稿では、世間に認知されていないが、無二の面白さを持つ作品、人生を変え得る作品を漫画とアニメに絞って紹介していく。

隠れた名作漫画

『スケルトンダブル』
作者コンドウ十画 ジャンプ+連載漫画

「新宿駅東口前交差点で── 一人の男が死んだ 奇怪な死だった」(作品紹介文より)



 物語は主人公荒川ヨドミの父が、新宿駅で突如空中に浮遊し、死亡するという怪死事件から始まる。そして、自身の父を殺したという透明な頭蓋骨・山本タクトに出会ったことをキッカケに、政府の特別組織〝透明人間対策室すけるとんたいさくしつ〟とともに、透明人間の犯罪組織〝ギュゲスの会〟との戦いに身を投じていく。
 ジャンプ漫画の王道である友情、努力、勝利を取り入れつつ、現代にマッチした感性や世界観に仕上げている点が、この作品の特徴だろう。主人公・荒川ヨドミの行動理念や精神性が一貫していることが、この作品の魅力である。作品内のセリフから引用する。

「食卓に 誰も座らない椅子があります」(荒川ヨドミ)
「父の席です」
「俺はその席を埋めるものが欲しい」
「諦められません 何なんですか透明人間って」
「もう決めちゃったんです 引き下がるぐらいなら あなたとだって俺は闘る」



 荒川には、主に三つの側面が存在する。ギュゲスの会を倒すという正義の味方としての側面、透明人間の公表及び被害者の支援を目指す被害者遺族としての側面、失った日常を取り戻したいという小市民としての側面。これらの側面が、明確でありつつ損なわれずに並立されている。多くの漫画は、敵を倒す=問題の解決という、少々短絡的な物語になりがちな一方で、『スケルトンダブル』は社会的な影響まで考慮し、超常的な力と向き合う姿勢をとっている。立ちはだかる敵も独創的だ。認知症を患う老人のタクシードライバー、ただ純粋に人を傷つけることが生きがいの気弱な女性、政府の目をかいくぐり各地で暗躍するドレッドヘアーにサングラスの男など、見た目も性格も個性的なキャラクターばかりだ。
 本作における特殊能力、透明人間には5つの能力があり、透明人間同士にしか視認できない不可視化、上半身と下半身をねじ切られても短時間で元通りに治る回復能力、筋繊維を生み出し操る驚異的な身体能力、人骨に似た外骨格を生み出し操る能力、それぞれ個別の特殊能力を宿す血液ユニークブラッド通称UB。例として、数人のキャラクターのUBを挙げていく。鎧畑ショウコのUB物体を浮遊させ飛ばす能力〝物体浮遊ポルターガイスト〟、山本タクトのUB切り開く能力〝シーオブリーズ〟、ラモンのUBねじ切る能力〝捩れ牙スピンバイツ〟、カマラのUB血と物体の位置を入れ替える能力〝物質転送テレポート〟など、他にもUBの能力は存在する。では、主人公のUB能力がいったい何なのか。それは最終回で明かされる。
 本作は全5巻39話で完結しており、非常に読みやすいため、ぜひ読んでほしい。

『かくも素敵なヌミノーゼ』
作者遥川潤 ジャンプ+読み切り漫画

 双子の姉キーラ、妹のアルバ、素敵な乙女マディミのホラーミステリー作品。本作は、美しい西洋世界観と不穏な空気感を両立させており、重厚感のある読書体験を読者へ与える。その中で可愛らしいデフォルメや、特徴的なコマ割り、ジャンプスケアの要素を含んだホラー描写など、表現豊かにストーリーを進めており、絵やセリフを目で追うことがまったく苦でない。ミステリーやホラーといったジャンルの作品は、初見が大きなインパクトを与えるものだが、本作はその常識を覆している。
 本作には、絶対に一度では理解することができない仕組みが施されている。一体誰の視点で話が進んでいるのか、あの描写は何を意味しているのか、繰り返し読むことで新たな発見を得られる。ジャンプ+のコメント欄は、二、三回ほど読了してから見ることをお勧めするが、読者それぞれの考察や作者を賞賛するコメントに溢れている。その一方で、一部では分かりづらいといった意見も見られるため、人を選ぶ作品であることも否定できない。
 タイトルに用いられているヌミノーゼ(Das Numinose)とは、ドイツの神学者ルドルフ・オットーが定義した〝聖なるものへの畏怖の感情〟である(※1)。素敵な乙女マディミは、「私の妖精」と呼んでいたアルバと彼女の姉キーラに、一体どのような感情を抱いていたのだろうか。
 作者である遥川潤のジャンプ本誌の連載作品『カエデガミ』、読み切り作品『ファントム イン・ザ・ドール』や『死体と、1スーにもならない』などもオススメなので、そちらも合わせて読んでみてほしい。

隠れた名作アニメ

『ワンダーエッグ・プライオリティ』
制作CloverWorks テレビアニメ
2021年1月~3月 にて放送放送

 原案および脚本を『聖者の行進』や『家なき子』を手がけた野島伸司が務めたオリジナルアニメ作品。
 本作を簡単に表すのであれば、激鬱青春プリキュアだろう。野島伸司特有の人間の暗部や暴力性を詰め込んだ露悪的な表現が多分に含まれているが、CloverWorksの美麗な作画によって覆い隠されている。だが、視聴を続ければ理解することができる。美しさの内に潜むことで、おぞましさは一層、度しがたい者に変貌するのだと。
 少女だから、同じ少女の悲しみを理解して立ち向かう。もういない彼女のため、取り戻したい彼女のため、同じ望みを持つ彼女のため。自殺を悔いる少女たちのために用意された〝エッグ世界〟で、〝ワンダーエッグ〟という卵から孵る自殺した少女たちを守ることで、大切な人を生き返らせることに繋がる。主人公の大戸アイは親友の長瀬小糸を生き返らせるため、エッグ世界で自殺少女たちのトラウマと戦う。各エピソードで少女たちの多種多様な自殺の動機が明かされる。イジメ、痴漢、後追い、パワハラ、セクハラ、好奇心、レイプ、カルト宗教等々。少女が自死を選択するには、十分すぎるほどの悲劇がいくつも描かれている。この点は、特にこの作品の賛否の分かれる部分だろう。プライオリティ(Priority)=優先事項、本作はタイトル通り、優先順位がテーマに設定されている。戦いと日常の二軸を過ごす内に、少しずつ大切なものが変化していく。更に、元より確証の無い救済方法にすがりながら、本当に死んだ人間は生き返るのか、敵は何なのか、不確かな情報に惑いながらも、少女たちは戦う。
 本作は14歳の少女たちの視点から、不安定な情動、社会からの抑圧、日常の転がる小さな挫折から、日常に隠れる大きな絶望まで描いた唯一無二の怪作と言える。放送のタイミングやサブスク配信の規模などが違っていれば、もっと多くの人に視聴される作品となっただろう。
 個人的には、同時期に『転スラ』や『無職転生』があったことと、広報の拙さが痛手だったと思っている。作画に関しては、誰がどう見ても良いと言うクオリティのため、作画至上主義のアニメ好きにはぜひ視聴してもらいたい。

『ID:INVADED イド・インヴェイデッド』
制作NAZ テレビアニメ
2020年1月~3月 にて放送放送

 小説家の舞城王太郎がシリーズ構成、脚本を務めており、作家の個性が色濃く出た作品。本作はミステリーにも関わらず、動機や犯行方法などが現実にはありえないものばかり。しかし、その異常性、荒唐無稽が、殺人犯や異常者の精神の歪さを表現し、その歪さを〝イド〟という殺人犯の思念および殺意が形となった世界で映像として出力している。
 連続殺人鬼を特定するための組織〝蔵〟、殺人犯の深層心理が形となった世界〝イド〟、その中に入るための装置〝ミズハノメ〟、イドで死んでいる少女〝カエルちゃん〟、その謎を解き明かす存在、名探偵。SFとミステリーの絶妙なマッチが本作の異色な空気感を創り出している。

「カエルちゃん…!」(酒井戸)
「俺はこの子は知らないが、名前だけは分かる。この子はカエル。そして、この子の名前を思い出したことで、俺は自分のことも理解する。」
「俺の名は、酒井戸…ん?下の名前が思い出せないが、まあどうでもいい」
「大事なのは俺が名探偵であること。そして、俺はこの子、カエルちゃんの死の謎を解かねばならないということだ。」



 イドの中で名探偵・酒井戸になる男、鳴瓢秋人は、元警察官であり自殺を促す教唆犯として蔵によって収監されている。カエルちゃんを死んだ娘に重ねており、自ら望んでイドの中へ入り込んでいる。彼は、殺人鬼を憎みながら自らも殺人犯になっている。作中では、明言されていないが、鳴瓢はイドに入ることで犯人を追い詰める純粋な名探偵になりたがっているのではないか、私はこれが名探偵の新たな在り方なのではないかと、本作を視聴して思った。
 被害者の頭にドリルで穴を空ける殺人鬼〝穴空き〟富久田保津、彼のイドでは 人も物も全てがバラバラだが繋がっている世界。異常なのは見た目だけでなく、殺した相手を家族として一つの家に住まわせていたり、富久田本人は整っているように認知していたり、常人には理解できず、考え付くことも困難な設定がなされている。ただ猟奇的なものであれば、考え付かないこともないが、正常でない思考回路を想像するというのは、並大抵の作家性では成し得ない。他にも、殺人鬼〝花火師〟、殺人鬼〝墓堀り〟、殺人鬼〝対マン〟、殺人鬼〝顔削ぎ〟、殺人鬼〝舌抜き〟、殺人鬼〝股裂き〟、殺人鬼〝腕捥ぎ〟、〝連続殺人鬼メイカー〟ジョン・ウォーカーなど、異常な殺人犯の見本市かのように、強烈な個性を持つ犯人が数多く登場する。
 思念によって作られるイドにおいて、世界の在り方すらも疑うことができる名探偵。犯人を探すのではなく、どうやって被害者が死んだのかを解き明かす名探偵。本作をSF作品として見るか、ミステリー作品として見るか、それは人によって異なるが、一番の優れた点は新しい名探偵のモデルとなっていることだと、私は感じている。

まとめ

 メジャーな名作として世間に周知されてほしいわけではない。ただ、知る機会に恵まれなかった人たちへ、あなたの想像すらしなかった物語や人生を変えるほどの出会いをもたらしてくれるかもしれない、隠れた名作を知るきっかけになればいいと思って本稿を執筆した。自分だけが、その作品の魅力を理解していれば満たされる、そんな気持ちを一度でいいから味わってみてほしい。きっと、今までの人生には無かった豊かさが手に入るはずだ。

出典

(※1)『10+1』DATABASE ルードルフ・オットー 『聖なるもの──神的なものの観念における非合理的なもの、 および合理的なものとそれとの関係について』 | 森田團
https://db.10plus1.jp/backnumber/article/articleid/1235/

俺たちが埋もれさせない

2026年7月24日 発行 初版

著  者:石橋采樹
発  行:二松学舎大学

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石橋采樹

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