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「絵を描く」という言葉を聞いて、あなたはどのような光景を思い浮かべますか?
画用紙と鉛筆。キャンバスと筆。中には壁面にスプレーを使って直接描く、ストリートアートのようなモノを思い浮かべた方もいるかもしれません。
多種多様な画法の中で、PCやタッチペン、タブレットを使って作成する、いわゆる「デジタルイラスト」を思い浮かべた方はどれほどいるでしょうか。
2026年現在。マーケティング、エンタメ、教育等々。社会に大きく関わっている「絵」というものの大半はデジタルイラストになっています。しかしそこで、
「じゃあデジタルイラストを描いてみよう!」とはなりにくいのが、デジタルという存在の「とっつきにくさ」です。
先述したようにアナログであれば、紙と鉛筆さえあればすぐにでも描き始めることが出来ます。しかしデジタルイラストには、PCのスペックをはじめとして、ペイントソフト、レイヤー、解像度、保存形式──と、聞き慣れない言葉がいくつも並びます。
そのうえ、情報を得ようとSNSや動画サイトを開けばプロ顔負けの、それどころか現役プロの美麗なイラストまでもが次々と流れてくる時代です。
「こんなの描けない」
「用語がわからない」
「機材が高そう」
描く前からやる気が出ないというのも当然かもしれません。
ですが実際のところ、デジタルイラストのハードルはそこまで高くありません。むしろ現代では、紙に描く以上に身近な表現方法になっていると言っても過言ではないでしょう。スマートフォン一台でも描ける時代ですし、無料で使える高性能なソフトも数多く存在しています。それどころか、画面の拡大縮小、失敗した部分のやり直しなど、デジタル特有の便利機能は、アナログより初心者向きとも言えます。
では、実際にデジタルイラストはどのように描いていくのでしょうか。
この本では、これからデジタルイラストを描き始めたい人に向けて、
・必要な道具
・ソフトの使い方
・基本的な描き方
これらを共有していこうと思います。
デジタルイラストの最初の障害ともいえるのが、描き始めるまでの設備を整える大変さです。
便利な周辺機器や、外部ツールはたくさんありますが、今回は「必須」「できれば用意したい」「あると便利」の三つに分けて紹介します。
・ハードウェア(PC、タブレット、スマートフォン)
・お絵描きソフト(最初は無料で十分)
・板タブレット、もしくは液晶タブレット
・タッチペン
(それぞれの恩恵は小さいですが、積もり積もって大きな助けになります。今回、説明は省きますが、長くイラストを描いていこうと思う方は是非お調べください)
・左手デバイス
・自分の体に合ったデスク、椅子
・その他、便利アイテム
まず必要なものがデジタルイラストの根幹ともいえるハードウェアです。
それぞれの特徴として、
メリット
・画面が大きく、作業しやすい。長時間の作業向き
・ノートパソコンであれば、外出時にも制作できる
・多種多様なお絵かきソフトが使える
・本格的な制作環境を整えやすい
デメリット
・初期費用が大きい
・タッチ対応ノートパソコンでない限り、対応タブレット(液タブ・板タブ)が必須
メリット
・どこでも描ける
・外部ツール(液タブ・板タブ)がなくても一台で完結する
デメリット
・画面が小さい、細部の描写はPCに劣る
・有料のお絵かきソフトの場合、PC版しか買い切り版がないことがある(サブスクのみ)
メリット
・無料ソフトを用いれば、追加費用がほぼ発生しない
・タブレットよりも、さらに持ち運びがしやすい。立ちながらでも描写可能
・指先をペン代わりに使えるので、タッチペンがなくても(一応)描ける
デメリット
・とにかく描きづらい
タッチペンを利用すれば多少はマシにはなるが、それでも不便さは否めない
・画面が小さすぎて、腰や目が痛くなる
以上がそれぞれのハードウェアの特徴です。
『結局何が正解なの?』という疑問に対しては『人それぞれ』という陳腐な回答しか提示できないのですが、誤解を恐れずに言えば、スマートフォン以外を用いたいところです。
せっかくデジタルイラスト制作に興味を持ってくださった方々のやる気を削ぐようで大変申し訳ないのですが、基本的に一つの作品を仕上げるには、ある程度まとまった時間が必要です。
長時間、小さなスマートフォンの画面を注視し続け、指先に繊細な動きを強いることはあまり現実的ではありません。
もちろんスマートフォンが秀でている点もあります。思いついたアイデアを描き止めたり、簡単なラフ(後述)をいつ、どこでも作成できるという利点はPC・タブレットではかないません。
実際にスマートフォンで描いてみて、まったくストレスを感じない方は、もちろんそのまま描き続けていただいて全く問題ないです。実際にスマートフォン・指描きのみで素晴らしいイラストを描きあげている方もたくさんいます。
しかしながら、やはりPC・タブレットをメインに据えて、スマートフォンは補助として利用するのが良いと感じます。
次に板タブレット・液晶タブレットです。(以下、板タブ・液タブ)
これらはデジタルイラストを制作するうえでは、主役に近い道具ではありますが、ハードウェアのタブレットやタッチ対応ノートパソコン等、直接線を引くことが出来る機器を用いる際は無理に購入する必要はありません。逆にPCでデジタルイラストを制作する際には必ず購入しましょう。
液タブと板タブはどちらもPCで絵を描くための入力機器ですが、見た目から値段、使い方まで大きく違います。
液タブは「画面に直接描けるディスプレイ付き入力装置」です。紙に描く感覚に近く、表示された絵の上を直接ペンでなぞれます。絵を仕事にしている方の多くは、この液タブを用いることが多いですが、高価でなかなか手を出しづらいです。
板タブは「手の動きをPCに伝える入力装置」です。タブレット面にペンで描くと、線がモニター上に表示されます。ペンを動かしたところではなく、モニター(PC画面)に線が表れるので、慣れないうちはなかなか苦戦することでしょう。
しかしながら、利点も存在します。それは、モニターに自身の手が干渉しないことです。イラストは全体とのバランスが重要なので、描画部分のみを見ることが出来るのは、大きなメリットと言えるでしょう。
小さく・軽く・安い、使いやすさの三拍子がそろった板タブは初心者にお勧めです。
PCでデジタルイラストを始める方は導入してみると良いでしょう。
(対応するタッチペンも!)
私の環境は、
①スマホ指書き
②タッチ対応ノートパソコン、タッチペン直描き
③ノートパソコンと板タブ
というふうに変化してきました。その中でも②から③への移行時は、あまりの快適さに感動し、すっかりお絵描きにハマってしまいました。
板タブ、かなり快適なので個人的にはおすすめです。初心者モデルは五千円ほどで手に入ります。綺麗な線が描けず悩んでいる方は、一度試してみるのも良いかもしれません。
お絵描きソフトの選び方ですが、基本的には無料のソフトで十分です。有料ソフトでは、大きくできることが増えるわけではなく『痒いところに手が届く』といったような便利機能が追加されていることが多いです。
もちろん、プロの現場でも使われている高性能な有料ソフトは存在します。しかし、それらの真価を発揮できるのは、ある程度描き慣れてからです。
まずは無料のお絵かきソフトで自分に合うものを探してみましょう。
有名どころは、
・アイビスペイント
・メディバンペイント
これら二つでしょうか。スマートフォン、タブレット、PC、どのハードウェアでもインストールできますので、ぜひ導入してみてください。
前項では、各種道具の特徴を学び、デジタルイラストを制作する環境を把握されたかと思います。それでは、さっそくお絵かきソフトを起動し、実際の画面を見ながら確認していきましょう。
こちらの画像はPC版MediBang Paint Proの基本画面です。(多くのお絵かきソフトが似た構造を持っていますので、無理にメディバンを使わなくても大丈夫です。ただ、どうしてもソフトごとに特有の機能もございますので、詳しくは公式サイトをご参照ください)
たくさんのツールや見慣れないワードに混乱されているでしょうが、安心してください。極端な話、
・ペン
・消しゴム
・レイヤー
・戻る(左上「フィルタ」の下)
これらさえ理解していればイラストは描けます。
それ以外も、多くのアイコンはその機能を端的に表しており、使っているうちに慣れてくるでしょう。(例:左のバケツアイコンは塗りつぶしを表す)
さて、今挙げた四つの必須ツールの内、一つだけ馴染みのないワードがありましたよね。
デジタルイラスト制作で、避けては通れない大きな壁がこの「レイヤー」です。しかし、このレイヤーを使いこなせるようになれば、あなたのデジタルイラスト制作はとても快適なものとなるでしょう。
レイヤーとは、一言でいえば一冊のスケッチブックです。
何枚も重なっていて、パラパラとめくることができ、一枚一枚に描き込むことが出来る。
しかし、実際のスケッチブックとは大きく異なる点があります。
「透明」であることです。
『……え? それだけ?』と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
正確には、何も描いていない部分は完全に透明で、下の絵がそのまま見える状態になっています。
実際にイラストで説明します。今回は簡単なリンゴを描いてみます。
まずはレイヤー1にリンゴの形を大まかに描いていきます。
このようにイメージを大まかに描きこむことを「ラフ」といいます。デジタルイラスト制作の工程は人それぞれですが、一つの例として、
①ラフ
②下書き
③線画
④下塗り
⑤陰影、光
⑥仕上げ
という感じです。人によってはさらに工程が増えたり、逆に減ったりと様々です。
今回は②を飛ばして、いきなり③の「線画」の作業に移ります。線画とは文字通り、線だけの絵のことを言います。描いたラフをもとに、その上からなぞって線画を描いていきます。
ここで役に立つのがレイヤーです。
「線画」のレイヤーを新しく作り、ラフレイヤーの上から綺麗な線をなぞっていきます。下にあるラフは消す必要がありません。レイヤーは透明で、それぞれ別のページのように扱うことができるからです。
つまり、こういうことが起こります。
・ラフはラフとして残る
・線画は線画として上に乗る
・あとでラフだけ非表示にできる
この時、ラフレイヤーの不透明度を下げることで、線画がわかりやすくなります。
この「後から消せる」「重ねられる」という性質が、デジタルイラストの大きな強みです。
線画が完成したら、次は下塗りです。ここで重要な点が、「線画レイヤーを一番上にする」ということです。
これは一見ただの操作のように見えますが、デジタルイラストの作業効率を大きく左右します。なぜかというと、線画が常に一番上にあることで、「線が色に埋もれない」状態を保てるからです。
レイヤーで色を塗っていくとします。このとき線画が下にあると、せっかく描いた線が色に隠れてしまい、輪郭がぼやけて見えてしまいます。
しかし線画を上に置いておけば、どれだけ大胆に色を塗っても線だけは常にくっきりと残ります。もちろんレイヤー自体が分かれていれば、線画からはみ出しても全く問題ありません。消しゴムで簡単に修正できます。
最後に影と光を入れていきましょう。今回はペンを「エアブラシ」に変えて使ってみます。
また、下塗りレイヤーの真上に新規レイヤーを作成して、ここで新たに「クリッピング」を活用します。「クリッピング」とは真下のレイヤーに描写された部分だけに塗り重ねることが出来る機能です。
クリッピングありとなしで比べるとわかりやすいと思います。
これでひとまず「リンゴ」の完成です。
お疲れさまでした!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。拙いながらも、私自身がデジタルイラストを始めた頃の経験を詰め込んだつもりです。
イラストの技術や専門知識には極力触れず、『創作環境を整え、まず描いてみる』をコンセプトに据えて執筆しました。やや駆け足になってしまいましたが、無事に最初の一枚は完成しましたでしょうか?
クオリティに関わらず、自身の作品を仕上げたあなたは、立派な創作者の一人です。自信を持って創作を楽しんでください。最初は思い通りに描けなくても問題ありません。一枚描くごとに、少しずつ線は安定し、表現できるものも増えていきます。
何事も初めて挑戦する際には、大きな壁に阻まれることでしょう。その壁に対して、本文がほんの数センチでも踏み台として役に立つことがあれば幸いです。
2026年7月24日 発行 初版
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