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突然だが、あなたは実際の死神を見たことがあるだろうか?
こんな質問をされたとき、あなたは一体どんなふうに感じただろうか。「一体何を言っているんだお前は」と思った人の方が大多数だろう。
絶対そう、うん。実際、多くの人がそう答えたし。
ほとんどの人は、きっと絵画やイラストの死神は見たことあるだろう。世の中で死神を取り扱った作品のまぁ多いことよ。ゲーム、アニメ、マンガ……数えだしたらキリがないからやめる。フィクションで死神を見た人は多いだろう。でも……実物の死神を見たことはあるかい?
「はい」と答える人はきっと少数派だ。というかいない。(頼む、いないでほしい。じゃないとまたあの方に呼び出される羽目になるから。)実際の死神なんて見たことがない。だから、最初の質問の答えは「いいえ」と答える人がほとんどだ。
え? お前は実物を見たことがあるのかって? うん、あるよ。あるんだ、俺は。「何をデタラメなことを」って思うかもしれないね。でも、俺はうそをついていないよ。死神を見たこともあるし、会ったこともある。なんなら話したこともある。ふざけたことを言うなだって? 本当だってば。
──だって、俺も死神だから。
20XX年の冬。三日月が夜空に浮かび煌々と輝いているある日の夜。とある都市のこの時期はクリスマスムード一色だった。人々が家族や友達、大切な人とクリスマスを楽しもうと様々な店で買い物をしていた。そんなにぎやかな空気が流れる中、一人の男が物憂げな表情で町を見つめていた。いや、正確には空に浮いていた。男は黒いフードを目深に被り、二メートルは余裕で超える大鎌を背負っていた。そしてあぐらをかきながらため息をついた。男の姿に気づく者は誰一人としていない。
「……時間だ」
男は、一言そうつぶやくと姿を消した。
男はとある病院の一室へと向かった。白を基調とした、小さな病室だった。七人も入ろうとするとかなり狭いと感じる広さだ。四階の窓から見えるのはクリスマスムードに染まった風景で、イルミネーションの光があちこちに輝いている。病室の中央には大きなベッドがあり、一人の年配の女性が横たわっていた。周囲にはベッドを囲むように、六人の人物が立っていた。一人は、白衣を着て女性の容態を診ていた。あとの五人は心配そうに年配の女性を見つめたり、目に涙を浮かべたりしていた。おそらく、女性の家族だろう。今夜、一人の女性が天寿をまっとうし旅立とうとしていた。
男は、安らかな顔をして眠る女性の頭上に浮かんでいた。そして右手をかざした。すると女性の体から淡い光を放った球体が出てきた。女性の魂だ。男はスッと目を細めた。光の球体は、幾万もの柔らかい光の線で女性の体と結びついている。この線を切らなければ、魂を女性の体から切り離すことができない。男は背中に背負った大鎌を取り出すと、両手で大鎌の柄をつかんで構えた。この魂は、天寿をまっとうした。一つの役目を終えた魂は、返るべき場所に向かいまた生まれ変わるのだ。そのためにも、役目を果たさなければならない。男は目をつむった。
「……ッ」
男は大鎌を構えるも、振り下ろすことができなかった。両手がブルブルと震える。早くしないと魂が体に戻ってしまう。魂には、返るときがすべて決まっている。それを守らなければ、徐々に世界の均衡が崩れてしまう。秩序を守るためにも、この光の線を断ち切らなければいけない。男は、自分に言い聞かせながら大鎌を握る手に力を込めた。しかし、その腕が動くことはなかった。やがて、光の線が徐々に消え、魂が女性の体に戻っていこうとした。男がマズいと思った瞬間だった。
「ったく、しっかりしてくれよ」
突然、別の男の声が聞こえた。男は、突然現れた人物を見て目を丸くした。
「……セヴェル」
セヴェルと呼ばれた人物は、素早く大鎌で女性の魂をかりとった。すると、女性の魂はセヴェルの手の上に落ち着いた。
「行くぞ、ネクロザート。……あの方がお呼びだ」
男──ネクロザートは一つため息をつくと、ベッドで眠る女性を見下ろした。女性は安らかな顔で眠っていた。周囲にいた女性の家族たちは女性の上に覆いかぶさり泣き崩れていた。ネクロザートは何ともいえない気持ちになり、急いでその場を立ち去った。
──涙を流しながらもこちらを見つめる黒髪の若い女性がいたことに気づかずに。
ネクロザートはげんなりとしていた。セヴェルに連れて行かれた場所は、あらゆる魂が集まる「黄泉の世界」の中央に位置する宮殿だった。そこの「謁見の間」と呼ばれる場所には、全ての死神たちを束ねて統括する「黄泉の女神」がいた。ネクロザートはその女神──自身の母親から二時間ほど説教されていたのだ。
「よう、やっと終わったのか」
謁見の間を出て黒色と金色を基調とする宮殿の廊下を歩いていると、廊下の白い柱の陰にもたれかかるようにして立つ人物が声をかけてきた。
「セヴェル」
「カンカンに怒っていただろ? 母上」
「まぁ、そうだな」
「宮殿に到着してから二時間くらい経っているからな。……まぁ、お疲れ」
「説教つっても、後半一時間くらいは俺じゃなくていろんなことへの愚痴を聞かされたよ。ただの八つ当たりだろ、あれ」
「そうか。俺、お前のもとに行く前、宮殿にいたんだ。そしたら、急に母上に呼び出されたんだ。お前があまりにも躊躇していたから業を煮やしてさ。近くにいた俺を呼びつけて行って来いって命じたんだ」
「そっか」
「お前さぁ……いい加減に覚悟決めろよ。このままだとお前……本当にヤバいぞ」
セヴェルは声を潜めてネクロザートの肩に手を置いた。ネクロザートはまたため息をついた。
ネクロザートは黄泉の女神と人間の男性とのあいだに生まれたため、完全な死神ではなかった。そして、死神としては致命的となるものを抱えていた。魂を一度も刈り取ったことがないのだ。本来、死神の役目は生をまっとうした魂を刈り取り、また新たな命へとつなげる橋渡しのようなものだ。そのため魂を刈り取ったことがないなど論外なのだ。
「他の連中も、陰で毎日のようにお前を追放するべきだと母さんに訴えている。今はお前が黄泉の世界の裏方のサポートの仕事をすべて引き受けてくれているから、母さんはお前も黄泉の世界に欠かせない存在だと考えて訴えをはねのけている。だけど、いつまで続くかは分からない」
実際、魂を刈り取る場面以外では、ネクロザートの仕事ぶりは恐ろしく速いものだった。黄泉の世界の魂の管理のサポートや事務作業、あらゆる仕事のサポートが的確であった。そのため、黄泉の女神はネクロザートから神の力を奪うことをしなかったのだ。
「母上は、良くも悪くも公平性を重んじる。例え我が子だろうと関係ない。今は、まぁお前の能力を評価して他の死神と同等に接しているが……」
「セヴェル……」
セヴェルはネクロザートの異父兄だった。黄泉の女神とその側近の死神の男性とのあいだに生まれたれっきとした死神だ。父親は異なるも、セヴェルにとってネクロザートは初めてできた弟だった。そのため、何かと異父弟のことを気にかけていたのだ。
「お前もそろそろ腹をくくれよ。ネクロザート」
そう言うとセヴェルは後ろ手に手を振って立ち去った。後に残されたネクロザートは、天井を仰いだ。
セヴェルと別れたあと、ネクロザートは黄泉の世界の空を飛んでいた。そして一人静かにセヴェルの言葉を思い出していた。他の死神たちの自分を見つめる目は氷のように冷たい。今は他の死神たちの仕事の半分をサポートしているからこそ、まだ神の力を奪われずに済んでいる。しかし、もし神の力を奪われてしまったら? おそらく半分人間である自分はやがて消滅してしまうだろう。消滅しないためには魂を刈り取る必要がある。しかし、ネクロザートにはできなかった。なぜか分からないがどうしてもできないのだ。そしてその度に自己嫌悪に陥っていた。いっそのこと人間になったらいいのではないのか? そんなことを考えながらぶらぶらと黄昏時のような美しい空を飛んでいた。
そのとき、他の死神の怒号が聞こえてきた。ネクロザートは声のするほうを見た。そこでは三柱の死神たちが一人の女性を追いかけていた。
「いたぞーっ! 逃がすなーっ!」
「待て! 止まれ!」
「すばしっこい人間め!」
ネクロザートはセヴェル以外の死神とは必要最低限のとき以外は極力関わらないようにしていた。しかしどうしても気になったため、密かに彼らのあとを追った。
彼らは一人の若い女性を崖のほうに追い詰めていた。女性の背後には黄泉の海が広がっている。ネクロザートは岩陰から様子をうかがっていた。そして女性の姿を見た瞬間、雷神の雷に打たれたかのような衝撃を受けた。女性は人の形をしていたのだ。本来、この黄泉の世界に来るのは寿命をまっとうした魂のみである。そのため光を放った球体以外の姿をしているものは、死神以外いるはずがないのだ。しかし、女性は球体ではなく現世で生きていた姿のまま怯えていた。
「こいつ、まさか現世の者か?」
「まさか! 現世で生きている者がこの世界に入れるわけがない!」
「では、この者も魂なのか? どちらにしろ魂を刈り取ってしまおう」
そう言うと、三柱の死神たちは大鎌を構え女性に襲いかかった。
「イヤアアア」
女性は驚いて後ずさりをした。そのとき崖の先端が崩れ落ち、女性は真っ逆さまに崖の下へと落ちていった。
「……逃がしたか」
「まあ、いいさ。どのみち、全ての魂はこの世界にやってくるんだ」
「ああ。最期を黄泉の世界で迎えるとはな……」
三柱の死神たちはそれぞれ好き勝手なことを話しながら、立ち去っていった。
女性は崖から落ちたときに意識を失っていた。次に目を覚ましたときは謎の男に抱きかかえられていた。
「……ッ」
「……目覚めたか?」
女性を横抱きにして抱きかかえていたのはネクロザートだった。女性が崖から落ちた瞬間、三柱の死神たちの死角をついて、女性を助けに向かったのだ。
「は、離して……くだ……あ……」
「今は無理だな。海の上だから。向こうに行ったら降ろしてやるよ」
そう言うとネクロザートは、三柱の死神たちが向かった方向と真逆の方向へと飛んで行った。
ネクロザートは廃墟と化した時計塔へと向かった。そして、時計塔にある小さなバルコニーにたどり着くと女性をそっと降ろした。
「あ……あの……」
「……お前、生きているのか?」
「え?」
ネクロザートは女性の方に手をかざした。そして、顔をわずかにしかめた。女性の魂はまばゆい光を放っていた。この光はまぎれもなく生きている者の証だった。
「生きているんだな」
「は……はい……私は……生きています」
「なぜ、こんな場所にいる? ここは、死後の世界。俗にいうあの世と呼ばれる場所だぞ」
「それが……私にも分からなくて……。気がついたらここに来ていて。それで、あの死神様たちに見つかって追いかけられていたんです」
「そうか……」
ネクロザートは黄泉の世界の裏方の仕事全般を引き受けていたため、黄泉の世界に関しては他の死神たちよりも詳しかった。記録の内容を思い出してみるも生きた者が黄泉の世界に迷い込んだ前例はない。
「あの……」
「何だ?」
「あなたですよね?おばあちゃんの魂の近くにいたのは」
その瞬間、ネクロザートは冷水を浴びたような気分になった。
ネクロザートは表情を崩さなかった。しかし、焦っていた。人間に死神の姿を見ることはできない。できるはずがなかった。それに常に人に姿を見られないように行動していたため、姿を見られていたことにショックを受けていた。
「私は……これから一体どうしたら……」
「……この時計塔にいろ。外に出れば、他の死神たちに見つかる可能性がある」
「あ、あのっ」
「何だ?」
「貴方と一緒にいてもいいですか?」
「は?」
「なぜか分かりませんが…あなたを放っとくことができなくて……」
「…………好きにしろ」
それからネクロザートは、この若い女性と過ごすようになった。現世に向かうとき以外はできるだけ時計塔で過ごすようになった。女性は基本的に時計塔の中にある空き部屋で過ごしていた。女性は当初黄泉の世界に来てしまったショックとこの先への不安から部屋の隅で震えていることが多かった。しかし、ネクロザートのどこか気だるげな雰囲気や他の死神たちと異なる様子を見て次第に警戒心が薄れ落ち着きを取り戻していった。黒く長い髪に宝石のような青い瞳の女性の名前は美月といった。前に訪れた都市にある大学に通う大学三年生だそうだ。そして、あの病院で永遠の眠りについた年配の女性の孫だった。
ある日、美月が部屋の窓から外をぼんやりと眺めていると後ろから声が聞こえてきた。
「俺はずいぶん長いこと生きているが……死神をそんなに見つめている人間なんて初めて見たぞ」
部屋の扉に背中を預けてもたれかかったまま、ネクロザートはそうつぶやいた。
「なぜかしらね。あなた……どこかで見たことがあるの。おばあちゃんが亡くなる前にもどこかで……」
「そうか……俺は知らんがな」
そう言ってネクロザートは時計塔の階段を下りて行った。女性は、彼のどこか気だるげな雰囲気に惹かれていた。そして他の死神たちとどこか異なる様子を見て次第に警戒心が薄れていった。
「私……小さい頃からファンタジー小説とか読むのが好きだったんです。……黄泉の世界とかはおとぎ話の中の空想の話だと思っていたのに、まさか本当に来ることになるなんて……信じられない」
「……あんた、俺のことが怖くないのか?」
「え?」
「人間たちは、多くの者が死神は死や終わりをもたらす不吉な存在として捉えている。そんな奴が近くにいれば普通は逃げていくものじゃないのか?」
「……怖くないと言えば、嘘になります。ですが……それ以上に目を奪われてしまうのです」
「は?」
「あなたが、私と同じ目をしているから」
「目?」
「寂しそうな目」
ネクロザートは、人間の血を半分受け継いでいるとはいえ、数百年は生きていた。その間、数えきれないほどの人間を見てきた。そんな中で寂しそうと言われたことは初めてだった。
「私……今まで誰にも言えなかったんですけど……霊とかが見えるんです。そして、いつもその霊たちを連れて行こうとする黒いフードを被った存在もたくさん見てきました。霊たちはみんな悲しそうな眼をして死神に連れて行かれました。そんな霊たちを死神たちは冷たい目で見つめていました。でも……あなただけは違った。悲しい目で……それでも慈しむような眼で見つめている死神はあなただけでした。その時……初めて死神は誰に対しても平等に接する神なんだって感じたんです」
その瞬間、ネクロザートは電撃を受けたような心地になった。
ネクロザートは女性の優しい雰囲気に、そしてその人の本性を見つめようとする姿勢に次第に惹かれていった。しかし、あるときついに自身の母親に女性を匿っていることが露見してしまった。黄泉の女神は怒り狂い、他の死神たちに女性とネクロザートの拘束を命じた。二人は初めて出会った崖のところまで来ていた。
「やれやれ。まさかここに戻ってくることになるとはな」
「ええ。……ねぇ」
「何?」
「今までずっと黙っていたけど……あなた、私の初恋の人なのよ」
「は?」
「あなたが私の初恋の……死神様。あなたの全ての命を平等に愛する姿にいつしか惹かれたの」
ネクロザートは初めて自分のことを……誇りに思った。
〈了〉
この作品はフィクションです。実在する人物・団体などとは関係ありません。
これは、僕が死ぬ半年程前。四月十日
「比奈、聡、今からそっちに行くよ」
僕は、友達のいないただの高校二年生。クラスでは、いじめられ、家では、自由が無く、暴言、暴力は、当たり前。生きていく理由を失った。僕の唯一の生きがいは、親友の比奈と聡と過ごす事。しかしそれがつい先日途切れた。聡と比奈は、三人で乗ったバスの事故で他界した。奇跡的に生きていたのは、つり革に捕まっていた僕だけだった。僕は、今日、学校の屋上から飛び降りて自殺する。
「さよなら」
と僕は、誰もいない屋上で小さく言い、柵を超え飛び降りた。
「起きろ」
俺は、誰かに呼ばれている? 天国にでも来たのかなぁ? 俺は、のんきにそう思った。目をゆっくり開けてみた。そこには、小柄な女子生徒と僕と同じ位の男子生徒がいた。僕は、驚いた。なぜ生きているのか? 辺りをみると神様のいたずらか、偶然か、お大掃除で使われた、雑巾などの入ったごみ袋の上に落ちたため生きていたようだ。
「何そこで寝てるのですか?」
女子に言われて急いで言い訳を考えた。しかし、言葉が出てこなかったから、その場から逃げた。
しかし、世の中は、うまくいかない。後ろから男子生徒が追いかけて来た。僕は、彼に追いつかれ捕まってしまった。
「金なんてもってないから離せ」
「はい?」
彼が急に手を放した。僕は、バランスを崩し転んだ。
「何か勘違いしていません?」
よくみると二人は、校章の色が自分の青とは違い、緑色だった。
「もしかして一年生?」
僕が聞くと
「はい。そうですけど」
男子生徒が言った。
「それより、何であんな所で寝ていたんですか?」
女子生徒が聞いてきた。
僕は、諦めて二人に全て打ち明けた。親友が死んでしまった事、自殺しようとしたこと。そして死んだ親友が唯一の友人である事も。それを聞いた二人は、返す言葉を一瞬失った。が、すぐ男子生徒が
「ふざけるな」
僕を怒鳴りつけてきた。僕は、驚いた。
「綺麗事並べて現実から逃げようとしてるだけじゃねぇか」
「そうかもね」
「いい加減にしろ」
彼が僕の頬を殴った。
「お前に何がわかる」
僕も殴った。
互いに二発ずつ殴った。
「ストーップ」
彼女が止めに入った。
その時、僕の記憶がうっすらよみがえった。
「わはは」
思わず笑ってしまった。きっと二人には、変に思われただろう。
「何笑っているんですか?」
二人に聞かれた。
「降参」
と手を挙げその場から去ろうとした。その足は、フラフラだった。きっと骨折は、していると思った。
「保健室行きましょう。その足、折れていると思うので。それから二度とこんな自殺なんかしないでください」
女子生徒が心配するが
「保健室行ったって治療できるわけ無いだろ。わかったから自殺はしないから」
僕は、めんどくさそうに質問に答え、拒否した。二人と別れる時僕は、二人にある質問をした。
「二人に質問。もし僕が死んだらどうなる?」
「そんな変な質問しないでください。自殺しないってさっき約束したんですから」
「いい加減ふざけた事いってるんじゃね」
「わ、悪い」
男子生徒は、キレぎみに、女子生徒は、不安そうに言ってきた。
二人と別れた後僕は、一応病院に行った。案の定、足を骨折していた。次の日僕は、松葉杖を持ちながら登校した。
「前は、助けてくれる人がいたが今は、いないからな」
昔、怪我した時、聡と比奈に助けられた事を思い出すがすぐ現実に連れ戻されてしまった。それもそのはず、背後から昨日出会った後輩に話しかけられたからだ。松葉杖を持っているためか屋上から飛び降りた事を知っているからかわからないが骨折していると察したようだ。まぁそのお陰か移動の手助けは、してくれた。放課後になぜか二人に呼び出され行ってみると彼女がこんな事を言ってきた。
「三人で交換日記をしましょう」
僕は、彼女の発言に驚いた。彼女の隣にいた彼も驚いた様子なため、彼女が一人で考えたんだと思った。
「なんでそんな事をするんだよ」
彼が言った。僕も理由が気になっていたから彼の質問には、感謝している。
「それはですね三人の仲を良くするためと、また先輩が自殺するような事が無いように。という訳で今日から始めまーす」
「ちょっと待って。君は、いきなり何を言ってるの?」
僕は、状況を理解できず彼女に質問をした。
「そのまんまです。交換日記をするだけです。あと、君呼び、止めてください。私の名前は、三咲です。鈴木三咲です」
「俺は、加藤卓也です。ついでに聞きますが先輩の名前は、何ですか?」
「……西野さとし。これが僕の名前だよ」
「西野先輩ですね」
「覚えとくよ」
「タメ口で良いよ。先輩もつけないで良いよ」
「では、遠慮なく。さとし」
「よろしく。三咲さん、卓也君」
二人と僕は、握手をした。さん付けと君付けを止めろと言われたが生涯二人を呼び捨てにすることは、無かった。僕と卓也君の手には、殴り会ったときの傷があった。
僕は、家に帰って自室にこもり渡された交換日記とにらめっこをしていた。
書く内容がなかった僕は、
「いつも通りの一日だった」
とわかるかわからないか位の小さな文字の一文を書いて閉じた。
次の日、僕は、卓也君に日記を渡して帰った
それから交換日記は、一日も忘れる事なく続き始めてから五ヶ月程たった。僕は、大抵「いつも通りの一日だった」とか「変わらない日」とか書いていた。二人は、部活の事など楽しそうな内容が書いてあった。僕の学校生活とは、かけ離れてる生活に思えた。そんなある日の三咲さんの日記に「秋休みにどこか行きませんか?」と書いてあった。僕は、長期休みも遊ぶような友達もいないから暇なため誘いに乗った。
それと同時に僕は、あることを決心した。
十月上旬。二人との約束の前日。僕は、用事を済ませ、町を一人で歩いてる時に道路に飛び出しトラックに跳ねられ死んだ。後頭部強打と多量出血でほぼ即死だったらしい。僕は、やはり自ら命を絶ったらしい。たまたま、死ぬ所を卓也君には、見られたようだ。生きていたら何をされただろうか。前みたいに拳数発では、すまないだろう。トラックの運転手は、僕がいきなり飛び出して来たという証言と、僕が自殺未遂をしてたことから僕の自殺ということで罪は軽くなったらしい。次の日、三咲さんにも僕の死が告げられた。僕の死後の二人を僕は、地獄か天国か、三途の川か場所はわからないが見ることが出来た。二人は、泣いてくれていた。僕は、自分の死で泣いてくれる人がいたということに気づかされた。もし僕みたいに自殺をしようとする人がいるなら言ってあげたい。誰かは、自分の死で泣いてくれるという事を。
この話しには、まだ続きがあった。
不思議な人に出会った。これは、俺と幼なじみの三咲が見つけた、自殺をした奴のお話。
あいつに出会ったのは、入学してすぐの事だった。掃除中、俺と三咲は、屋上から人が落ちるのを見た。落ちるというか落ちたの方が正しいかもしれない。三咲と俺は、落ちた方向に向かって見るとごみ袋の上に伸びている奴がいた。三咲が奴に話しかけると、親友を失いそのまま親友を追いかけようとした一つ上の先輩らしい。俺は、あいつの自分勝手な解釈に腹が立ち、あいつの頬を一発殴った。勿論俺も殴りかえされた。当たり前だ。先輩を殴ったのだから。そのまま俺は、あいつと殴りあった。三咲が止めに入るまで殴った。お互いの拳や顔には、今でも消えない傷がついた。しかし先輩は、もう自殺は、しないと言った。次の日の朝、松葉杖を持ったあいつを見かけた。助けるつもりなど無かったが俺は、三咲と一緒に助けていた。あいつの怪我を知っているのは、俺と三咲とあいつだけだからかもしれない。その日の放課後、三咲に連れていかれたと思えば、あいつと三人で交換日記をすると言い出した。俺は、三咲の考えが理解できなかったが勝手に始まった。初日は、あいつからだった。次の日、日記をもらって中を見るといつも通りの一日だった。この一文しか書いて無かった。俺も適当に日記を書いて閉じた。こんな事を気づけば五ヶ月も続けていた。そんなある日三咲が秋休みにどこか行かないかと聞いてきた。俺は、部活休めるしと軽い気持ちで乗った。秋休みの、三人での遊ぶ前日、部活の帰りにあいつを見かけた。するといきなり道路に飛び出しやがった。あいつは、そのまま死んだ。俺は、次の日三咲と共にあいつが死んだ交差点に花束を持って行った。気がつくと俺は、泣いていた。隣の三咲も泣いていた。俺は、泣いてる理由がわからなかった。あいつに嘘をつかれたからか。それともシンプルに悲しんでるのか。俺は、わからなかった。
「西野さとしっていう生徒はいなかったよ」俺が聞いたら先生にそう言われた。
俺らが知っているあいつ、西野さとしという人間が存在しない事を知る。先生に頼みあいつの墓参りするため墓地の住所を聞いた。「先輩の墓地の住所を教えてください」と三咲が聞いてくれた。渡された住所を頼りに墓地に行ってみたが西野の墓はあるが西野さとしの名が彫られた墓は、どこにも無かった。西野家の墓誌の没年が一番新しいもので、半年程前だった。俺と三咲は、周りから夢でも見ていたんだよと言われた。しかし俺の手には、殴りあった時の傷がまだあるし、交換日記には、あいつの書いた汚い字の記録がある。俺と三咲は、交換日記を一ページずつ確認した。そこには、ちゃんとあいつの独特な癖字で書いた記録があった。確認しているとあいつの日記には、小さく「俺が死んだらどうなる?」と書いてあった。これは、初めて会った日の最後に言った言葉だ。あいつは、生きる意味かなんかを俺らに聞いていたようだ。
あいつの事を調べ出してから一週間たった。あいつのことは、特にわからなかった。そんな日に俺と三咲に手紙が来ていた。差出人は、なんとあいつからだった。開けて見ると
今まで嘘ついていてごめん。二人の事をまだ信じきれて無かったから嘘ついたけどもう二人の事は、信じられるから本当の事を言うよ。西野さとしという人間は、この世に存在しない。僕の本当の名前は、山田悠と言う。信じきれなかったから偽名を名乗ってたんだごめん。本当の事を言うと初めて会った日の帰りに僕は、一人で泣いた。前言った親友との思い出がよみがえって二人のいない現実を突きつけられて辛くて涙を流した。
生きていたなら僕の親友の
西野比奈と川崎聡に会わせたかったな。
嘘ついていて本当にごめん。
長々とあいつの癖字でかかれた手紙であいつの事を初めて知る
事件から半年が経った。俺も三咲も進級し、二年生になった。後にわかったことだがあいつは、子供をかばって跳ねられたらしい。学校には、小さな墓石が立てられそこには、西野比奈、川崎聡、それと山田悠と名前が彫られていた。
俺と三咲は、墓石を見てここに二度と新たに名前が彫られて欲しく無いと思った。それは、俺らみたいに悲しい思いを他の人がしないで欲しいのとあの三人の邪魔をしないで欲しいからだ。
もしこの世に生きる場所が二つあったとしたら西野さとしという人間は、俺らとの仮の姿で山田悠という人間が本当の場所だと思う。
〈了〉
2026年7月31日 発行 初版
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大学で平安文学について学んでいます。趣味で小説を読んだり、書いたりすることが好きです。