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時は連邦統一期一七九年、恒星『ホド』を中心とした恒星系。
此れは、宇宙の遥か遠く。恒星系の端から始まった、静かなる物語である。
「さて、防空プラットフォームに配属された訓練兵諸君。おはよう。俺は、此れから君たちの訓練教官となるレギュータスだ。よろしく頼む。」
恒星系の最外縁に存在する、惑星軌道上に建造された防空プラットフォーム。
この日、其処に四人の兵士が配属された。
一人は、複数回の動乱で名だたる戦果を残してきた熟練兵。残りの三人は、基礎訓練を終えたばかりの訓練兵たち。配属とは名ばかりの実地訓練。それほど、ここ最近の情勢は安定していた。
「君たちがこれから行うのは、初めての空間飛行訓練だ。今までの訓練と違って、これからのミスは死を意味する。浮かれる気持ちは解るが、心して臨むように。」
「「「了解!!」」」
「よし、いい返事だ諸君。まずはこのような作戦室で、作戦の説明を受け、乗機を言い渡される。大きい部隊なら編成も伝えられるだろう。」
「今回は違うのですか?」
「あぁ。小部隊であれば、編成は確定しているからな。作戦内容と乗機の確認のみとなる。」
「了解です。」
「今回は君たち三人、全員この基地にある訓練機体だ。出撃地点は此の周りだな。作戦目標は、全員の訓練完了と帰投とする。それでは諸君、出撃用意。」
「「「はっ!!」」」
三人は威勢よく、駐機されている乗機へと走り出した。
訓練学校時代と変わらぬ、一糸乱れぬ動きを以って。
コックピットに乗り込み、ベルトロックをかけ、素早く離陸確認を行う。
「右フラップ、スタビライザー、スラスターを確認せよ。」
命令通りに、確認を行う。
「左フラップ、スタビライザー、スラスターを確認せよ。」
此方も命令通りだ。異常は見られず、正常に稼働する。
「兵装システムチェック。HUDヘルメットとの同期に異常はないな?」
ヘルメット内の仮想ディスプレイに表示される情報、電子兵装の残段、エネルギー量など、多くの情報がわかりやすくまとめられている。異常は見られない。
「オールグリーン、了解。機関銃を確認しろ。」
機関銃の安全装置を解除する。すぐに電子系が動き出し、射撃可能状態に移った。
「問題なさそうだな。ミサイルは大丈夫か?」
ミサイルシステムに切り替える。すると、特徴的な探知音が鳴りだした。映画などでよく聞く音だが、自分で聞いていると何とも不気味な気分になってしまう。
「ミサイルシステムの起動確認。最後に予備兵装とフレア、チャフの確認をしろ。」
フレア、チャフ。ミサイルがこちらに向かってきた際に用いる最後の砦。此れがなければもっと多くの航宙機乗りが撃墜され、幾人ものエースが居なくなっていただろう。
「問題なし。兵装及び全システムの確認完了。エレベーター、フラップ、計器、すべて問題なし。全員、心の準備はいいな?」
教官の方を向き、皆がそれぞれ問題ないことを示す。
「ふっ、了解だ。それでは、一番機から離陸せよ。」
「了解!一番機、出ます!」
その言葉と共にエンジンを最大迄吹かす。加速は素早く、且つ無駄なく行われた。
一番機、搭乗員はホルン。報告の素早さ、正確さと記憶力に定評がある。
「二番機、離昇。」
離昇許可のライトを確認し二番機も加速していった。
二番機、搭乗員はグレン。モットーは「命令を必ずこなす事」。卓越した能力は見られないが、失敗した例もない。
「三番機、行ってきます」
二番機に続いて三番機も闇の中へ。
三番機の乗員は、リベット。きっちりした二人と相反する性格ながらも、成績は優秀。不思議な人材。
そんな新兵三人はついに、宇宙の闇の中で訓練を開始する。
「さて、新兵諸君。連邦航宙宇宙軍の戦闘は基本分散して行われる。君たちの操縦スキルを見せてもらえるかな?」
教官の一言に従って、三機は三方向へ綺麗に散開する。そして、スラスターを用いた高速旋回、バレルロールを行い、三機編隊へとすぐさま戻る。
「素晴らしい。正確な基本機動だな。誰も曲芸飛行などに挑戦しようとしなかったのは上出来だな。」
「『為すべきを為し、空間を統べる。』ですよね?」
「連邦宇宙海軍航宙隊のスローガン。忘れませんよ。教官。」
「ふっ、ホルン、グレン。いい心がけだ。では、次はシールドを上げてみろ」
シールド。此の宇宙拡大世紀に於いて非常に大切な装備の一つ。銃弾や、高速で飛翔する隕石からも守ってくれるそれが非常に重要なことは言うまでもない。
「訓練機にもシールドジェネレーターって装備されてるんです??」
「もちろんだリベット。その機体は君たちが軍に入隊する前からの現役機体だからな。君たちより先輩だぞ?」
「なら、女性の様に丁重に扱わなければなりませんね。」
「さて、雑談は此処迄だ。稀にシールドを無敵バリアと勘違いする馬鹿……いや、極めつけの愚か者がいるが、実態はもちろん違う。ホルン、弱点を答えてみろ。」
「シールドの中継器は継続的に負荷がかかると自動的にシールドがダウンします。」
「よろしい。その通りだ。あくまで凌ぐ為の装備と忘れるな。基本は当たらないような戦いを心がけろ。」
「当たるような事態が起こらない方がいいですが……。」
「リベットの言うことも尤もではあるが、戦いは突然起こるものだからな。平和の確約など、誰もできはしない。」
「そう、ですね。」
「さて、本日の訓練の最後だ。諸君、周辺宙域に標的デコイが敷設されている。誘導弾、機銃弾、どちらを用いても構わない。破壊せよ。」
「「「了解」」」
三機はすぐさまに散開。訓練とは言え、綿密な連携と正確な射撃を以って五分と経たず全デコイを破壊。彼らが訓練で優秀と言われていた所以を見せつけた。
「レーダーに標的、確認できず。」
「此方にもありません。」
「目視、問題ないですね。」
「確認を怠らない姿勢。素晴らしいな。では、全機、帰投せよ。着陸失敗で墜落なんてポカをしてくれるなよ。」
「「「了解!!!」」」
訓練を終えた三機は、期待通りに無事に着陸する。手早く機体のチェックを終えた彼らは一路、司令室へと向かった。司令室への入室許可を得て、気密隔壁を開けばそこには満足そうな表情のレギュータスが座っている。
「ホルン、グレン、リベット。本日の訓練は終了だ。諸君らの実力は評判通りだったようだな。このままいけば予定通りに実戦部隊への配備となるだろう。このまま励め。」
「はっ!ありがとうございます!」
「教官、訓練はこのまま予定通りの進行ですか?」
「あぁ、特に遅れもないからな。着実に行くぞ。」
「了解しました。」
「それでは諸君、解散!」
「「「失礼します!!」」」
「っと、待った。すまない諸君、伝達事項を忘れていた。」
「と、言いますと?」
「本日付で第五番惑星より、第六航宙遊撃隊が本基地に合流する。」
「第六航宙遊撃隊……・・・ですか。ホルン、知ってるか?」
「いや、聞いたことがない。」
「二人すら知らないとなると、新設の部隊でしょうか?」
「その通りだ。部隊編成を記憶しているとは、勉強熱心だな。」
約三百年前、『慣性航行システム』の誕生という技術ブレイクスルーを迎えた後、この恒星系は同星系に存在するいくつもの惑星に植民を繰り返し、いくつもの組織が生まれた。いつしか、いくつもの惑星を束ねる星間連邦が樹立。
だが、植民から始まった拡大故にいくつもの内乱が生まれ、そしていつしか、連邦主導で平和のための宇宙艦隊が多く生まれていた。幾度かの戦乱や探査中の事故、革命などで編成と改組を繰り返し現在の形に落ち着く。
「よければ、その部隊についてお聞きしても?」
「あぁ。構わない。今度、第七艦隊が第二艦隊と入れ替わりで超長距離の探査航海に出るのは知っているだろう?」
「はい。異星人との接触を目的とした大規模探査航海ですよね。」
「なんでも超長距離の電波通信のようなものを探知したとか?」
「その通り。その第七艦隊の空母に精鋭として搭乗する部隊が第六航宙遊撃隊になる。新規編成の部隊故、実戦に先立ち連携訓練をするそうだぞ。」
「なるほど、ありがとうございます。」
「部隊には第二次内惑星動乱の若きエース、フィオや最強のバディと名高いレベラが編成されている。話せるのは今の内だぞ。」
「ありがとうございます。彼らの強さを盗めるだけ、盗んで見せます。」
「ふっ、期待しているぞ。」
若き三人が楽しそうに言葉を交わしながら部屋を出ていく。
彼らが戦場に出る日が来ない方が良いのだが……。そうなったとき、彼らが三人変わらず笑っていられるように、墜とされぬように鍛えるのが教官たる、彼の仕事だった。
ふと、改めて決心を固めている時、司令執務室のドアがたたかれる。
「第六航宙遊撃隊、着任挨拶に参りました」
「入れ!」
「「失礼します」」
「隊長のフィオです。本日付けで、第六航宙遊撃隊、第十二番惑星外縁防空プラットフォームに着任しました。」
「同、副隊長のレベラです。よろしくお願いします。」
にこやかに敬礼を見せる二人に、椅子から立ち上がって敬礼を返す。
そして、握手。
「ようこそ、最外縁のプラットフォームへ。基地司令官のレギュータスだ。第二次内惑星動乱の英雄の二人にお目見え出来て光栄だね。」
「うれしいことをおっしゃる。ですが、大佐こそ伝説のエースとして名を馳せているじゃないですか。」
「そうですよ。第一次内惑星動乱からの伝説的戦闘機乗りでしょう?」
「そうでもない。何より自分だけの戦果でもないからな。君たちの様に。」
小隊長のフィオは、五年前に勃発した『第二次内惑星動乱』に初陣を飾り、その勢いのまま三機撃墜、装甲戦闘車四両破壊の大戦果を挙げ、最年少エースと呼ばれている。
その後ろを飾る副隊長、レベラもまた、フィオと共にバディ機として第二次内惑星動乱の戦場を駆け抜け、一機撃墜、対空戦車一両破壊と、フィオに比べて華やかな戦果ではないもののフィオの華々しい活躍を陰から支える立役者。
戦乱から五年経った今となっても現役最強コンビとの話は絶えず、本編成完了次第、第七艦隊の最新鋭航宙母艦の乗員となることが決定している。
「ふふ、恐縮です。そういえば、この基地には訓練兵が配備されているとか?」
「あぁ、俺の教え子たちだな。ぜひ、いろいろ教えてやってくれ。」
「了解です。ここを発つ前に一人前にしてしまいましょう。」
「頼もしい限りだが、君たちに教え子を取られてしまわないようにしなければな。」
「あら、司令にはかないませんよ。」
「いうじゃないか。そういえば、他の部隊メンバーはどうした?」
「二人とも疲労がたまっていそうだったので先に食堂です。呼び立てましょうか?」
「いやいい、疲れてまで上官と話すものじゃないさ。」
「ははっ、司令官ははっきりものをいうお人だ。」
「では、小官たちも皆と共に食事をしてまいります。」
「あぁ、訓練についてはまた話そう。」
「はい、それでは」
二人もまた、食堂へと向かっていった。
第二次内惑星動乱。アレの勃発要因を考えれば、この連邦の亀裂はもはや最高潮に達している。もう僚機、部下を死なせるわけにはいかない。命は代わりが効かないのだから。
第十二番惑星外縁防空プラットフォーム。この恒星系の全域にまで広がった非常に広大な連邦の最外縁。元より辺りに広がるのは虚空のみ。静かなる宇宙の闇が口を開けているばかりである。
だが、その中でもひときわ明るく、「静」というものとは対極に位置する風景がそこにあった。
そう、食堂である。
軍隊に於いて将兵の士気を最も左右するものは、食事だ。それが、閉鎖空間でなければ物理的に行動不可能な宇宙軍であればそれはより重要となる。故に、最外縁に存在する総員百名程度のプラットフォームでも食事は十分なものが提供される。
「ホルン、君、ここにきてから唐揚げを食べているけど飽きないのかい?」
「飽きるも何もあるものか。ここの唐揚げは一級品だぞ? リベット。一つ食べてみるといい。」
「本星の方でも話題になっているんだ なんでも此処の唐揚げは全プラットフォームでも一、二を争う出来らしい。」
「むぐ……。ほんほら。うまひ。」
「このプラットフォームに配属の料理長が用いる酵母と調味料の配合は門外不出だそうだ。あまりに話題だから本部が諜報科を秘かに送り込んだそうだが、行方が知れぬという噂もある。」
「それは噂の域を出んだろうホルン。というか、唐揚げのことになると途端に饒舌になるよな君は」
笑い声が食堂に響く。時刻は連邦標準時で十八時ごろ。二十代前半、まだ若き彼らは雑談をしながらもかなりの量の食事を胃に納めていく。
そんな彼らに声をかけるものが居た。
「俺たちも隣にいいかい?」
「どうぞ……? って。」
言い淀んだリベットの視線の先、階級章を見て気が付いた三人が立って敬礼をしようとしたところで軽く制された。
「君たちと同じ、宇宙を飛ぶ部隊なんだ。そうかしこまらないでくれ。」
「驚かせたようで悪かったな。俺はメセス。んで、こいつが」
「モスカートだ。しばらく一緒によろしくね。」
モスカートが柔和に笑いかける。
その笑みで緊張が解けたのか、はたまた若き彼らの性格か、五人は食事をしながら雑談を交わす。モスカートやメセスの戦果の話、搭乗機体の特長や弱点。ホルンたちからは、教官としてのレギュータスや、これからの訓練の話。
出会って初めてではあったが、彼らは旧知の仲の様に話を弾ませていた。
少し経った後、フィオやレベラも合流し、三人はまるで憧れのアイドルに会ったように目を輝かせ、話を膨らませる。食事がいつもよりちょっと減るのが遅かったのは気のせいか。
「ふふ、ロケットポッドを用いた地上攻撃のコツはね……。」
「コツは……?」
「ズバリ、敵兵器のサイズを覚えることだ。」
「サイズ、です?」
「うん、ロケットポッドは機体の外側につけられるだろう?」
「そうですね、オーソリティ型の攻撃機なら翼端です。」
「よく覚えているね。外側にある都合上、まっすぐ飛ばしてしまうと、狙ったところに飛ばなくなってしまう。だから連邦は二百メートルを照準距離として、その距離で直撃するように調整しているんだ。だから二百メートル先から見た目標のサイズを覚えておけば、迷うことなく引き金を引ける。」
「なるほど!」
座学、くだらない冗談、戦場で初めて知ったことなど、さながら親戚の集まりのような流れが続いていた。言葉にするならそれこそ、和気藹々という奴だろう。
しかし、その流れを赤色灯がぶった切った。
【総員、第一種戦闘配置! 対空要員は防空指揮所へ、航宙要員は速やかにスクランブル! 繰り返す! 総員、第一種戦闘配置! これは演習ではない!】
「行くぞ、レベラ。モスカートとメセスもだ。まさか実戦からとは思わなんだ。」
「さぁ、行きましょう。」
「「了解」」
実戦を経験した彼らは素早く、フィオとレベラを先頭として、ヘルメットを片手に走って行ってしまった。
あまりに突然の事態にぽかんとしていたホルンとグレン、リベットはハッとしたように顔を見合わせる。
「俺たちも航宙要員だよな?」
「そう……だ。訓練隊とはいえレギュータス教官の率いる小隊だ!」
「行こうか!」
少しの逡巡から彼らも走り出す。
これは、彼らにとって、いや、このプラットフォームにとって最も苛烈な戦闘の幕開けに過ぎなかった。
駐機場でメカニックが手早く出撃準備を整える間、ここに配属されたばかりの七人の航宙兵とレギュータスは併設された会議室でモニターを見ていた。
「さて、諸君。実戦だ。第六航宙遊撃隊は二式空間戦闘機、第三十二訓練小隊は……。」
言い淀む。訓練兵とは言えこの作戦室に来てしまったのならば、命令を出さぬわけにもいかない。彼らがもっと未熟で此処に来なければよかったのだが……。などと、教官としては在り得ないことを考えてしまう。だが、最早追い返せない。
「第三十二訓練小隊は、一式空間戦闘機に搭乗。両航宙隊は本基地の防空任務に当たれ。」
「大佐。質問をいいでしょうか。」
「フィオ少佐か、構わない。」
「敵の規模は判明していますか。」
「あぁ。軽戦闘機十七機、偵察機三機の二十機編隊と判明している。」
「その規模って、第十一惑星の防空プラットフォームに配備されていた第八防空隊じゃないですか?」
「ホルン! 迂闊に味方が裏切ったみたいなことを……!」
リベットがホルンをたしなめようとした時、レギュータスが其れを制した。
「リベット。ホルンが正しい可能性が高いんだ。理由は不明だが連邦の機体に搭乗した、近隣航宙隊と思しき部隊がこちらに攻めてきている。現状、確定した情報は我々は今、此処を防衛しなければならないという事だけ。」
「了解です。」
「他に何かあるか。」
皆が考え込むような表情をしているものの、口を開く者はいない。
「いないようだな。兎にも角にも此処が無くなっては原因究明とも言っていられない。メカニックも整備を終えたらしい。諸君、絶対に帰還せよ。此れが絶対命令だ。」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
七人は作戦室を飛び出し、指定された機体へ搭乗する。
訓練時の様に丁寧な出撃チェックではなく、必要最低限を手早く終わらせゴーサインを送る。
第六航宙遊撃隊が素早く出撃し、其処に続いて第三十二訓練小隊も戦場へと飛び出した。
青い閃光、赤い閃光、火花、爆発、誘導弾が放つ赤い軌跡。目の前に広がるのは恐ろしくも美しい戦場の光景だった。それだけの事態が起こっていながらも耳に入ってくるのは機体の振動だけ。それが、宇宙という空間だった。
「レベラ、俺について来い。メセスはモスカートに続け。」
「「了解!」」
「訓練小隊はどこかにいる偵察機を探し出せ!任せたぞ!」
「「「了解!」」」
実戦を経ていた彼らの行動は迅速だった。二機編隊へと即座に編成を再編し、訓練小隊に明確な命令を与えていた。
防空砲火へと飛び込んだ四機は、回避軌道を取る敵機を正確に追い込み、撃墜していく。しかし、ふと、敵の無線が混線した。
〝 くそっ!!!此処で死ぬか資源の不足で死ぬかじゃないか!!〟
〝 俺らは、俺らは悪くない……。宣戦布告なんてしたあいつらが……〟
フィオは、操縦の手を緩めず、その情報を司令室へ即座に送信する。
基地を襲撃した十七機のうち八機は、フィオたちが出撃してからものの七分足らずで撃墜されていた。
「何故、何故撤退しない。」
「命令を受けての襲撃ではないのかもしれません。」
「何?」
第六航宙遊撃隊が疑念を浮かべる中、第三十二訓練小隊は偵察機を発見する。
「グレン。方位一七三、あの機影は……。」
「ホルン、こちらでも確認した。おそらくは偵察機だ。」
「光学的に捉えた。連邦の偵察機で間違いない。どうする。」
「できれば鹵獲したいよな?」
「リベットの言うことも尤もだが、難しいぞ。ホルン、偵察機のシールド特性って覚えてるか?」
「あの型の偵察機のシールドは中継器の遮断上限が若干低い代わりにシールドの全力展開時間が長い。」
「さすがホルンだな。グレン、射撃は得意だったな。」
「あぁ。リベット、何か手を思いついたのか?」
「勿論。ホルンと僕で、誘導弾を同時に直撃させてシールドを割る。その隙を逃さず、グレン、君があの機体のエンジンを上方から撃ち抜いてくれ。」
「なるほど……。わかった。やってみよう。」
「絶対に成功させるから任せろ。」
グレンのその声に混ざった少しの震えに気が付いた者はいなかった。その声を聴く彼等もまた、同じ感情を抱えていたためである。
ミサイルのシーカーを起動する。ピッピッという特徴的な音が短くなり、数秒後、ピーという長い音へと変わった。
「ホルン、行くぞ。」
「了解」
寸分の狂いもなく、誘導弾は宇宙の闇へと放たれた。偵察機は回避軌道に入れど、チャフやフレアは展開しない。誘導弾による連撃を警戒するためだ。第一弾でシールドを破砕し、二弾で機体を破壊する。偵察機撃墜の常套手段である。
誘導弾は同時にシールドに着弾。彼らの目的通り、シールドは耐久上限を超えて一時的にダウンする。二発目に備えていた偵察機の搭乗員たちは鼻で笑った。ミサイルの誘導音はしなかったからだ。二発目は放たれていない。それはつまり、シールドが再展開できることを意味している。だが、
「油断、慢心、其は総ての敵である。」
一式空間戦闘機に搭載された七・七ミリ機銃弾は正確にエンジンだけを破壊。燃料タンクには引火せず、慣性システムによって機体はその場に緊急停止。偵察機はまな板に載せられた魚になってしまった。
「グレン! さすがだ!」
「いい作戦だったぞリベット」
「ホルンの正確さに助けられた。」
三人は再度編隊を組んで誉めあう。それが彼らの良いところであり、
「さ、命令を遂行しよう。後二機捕まえてしまおう。」
「了解。やろうか。」
此れもまた、彼らの軍人として素晴らしいところであった。
一機には事前にチャフ、フレアを展開され、作戦が失敗に終わったものの、三機の綿密な連携によって逃走叶わず宇宙デブリとなり、もう一機は彼らに捕捉されるや否や降伏した。
ホルン、グレン、リベット。彼らが、歴史に一つ傷跡を残した最初は、恒星系の辺境で起きた小規模戦闘からであった。
偵察機の撃墜、拿捕により、ついにフィオ率いる第六航宙遊撃隊の位置把握が不可能になった襲撃者たちはあっけなく宇宙の藻屑となる。
此れにて、プラットフォームへの襲撃は終わりを迎えた。二倍以上の敵機に襲撃されながらも、全機帰還という華々しい戦果は彼らの士気を大いに高める。
しかし、捕虜となった兵士らの言葉は、プラットフォームに激震を走らせた。
「宣戦布告だぁ!?!?」
プラットフォームのお祝いムードはレギュータスの怒号が全館に響いたことにより困惑へと変わった。捕虜のいうことを纏めるとこうなる。突然、本国から微弱な電波で開戦の通信が届いた直後、通信衛星が破壊され、それ以上の状況把握が不可能になった。補給は明後日。すでに物資の少なかった防衛航宙隊は、誰が敵かもわからないここ数日を生き残るにも物資の簒奪が不可欠だったという。
「…………状況は理解した。いまだ敵は不明なんだな。」
「あぁ……。なぁ大佐。俺たちも此処で働かせてくれないか……。死にたくなかっただけなんだ……。」
「その感情は理解できるし、言いたいこともわかる。俺としてはそれを認めてやりたいところだが、今働けば君たちは針の筵になるだろう。だからしばらく営倉にいてくれ。」
「…………わかった。あんたの言うとおりにするよ。」
「助かる。」
レギュータスは考える。我々もここで待機すべきなのだろうか。それで状況は変わるのだろうか。否、変わらないだろう。このままではいずれ彼等と同じことをせざるを得なくなる。幸い、彼らの保有していた中型輸送艦であれば、このプラットフォームは牽引可能であることも判明している。なれば……。覚悟を決め、マイクを入れる。
「諸君。第十二番惑星外縁防空プラットフォーム司令官、レギュータスだ。本星が、何者かに宣戦布告され現在連絡が取れない状況にある。此れより先、情報も補給も見込めなくなったわけだ。我々は此れより、輸送艦の牽引を用いて現宙域を離脱。情報収集、並びに本星援護の可能性を探る事を目的とし、移動を開始する。総員、緊急マニュアルに従い、職務を果たせ。第六航宙遊撃隊、第三十二訓練小隊は速やかに司令室まで来てくれ。以上だ。諸君らの働きに期待する。」
息を吐く。此れで最早後戻りはできない。決心を固めていると、部屋の扉をノックされる。
「第六航宙遊撃隊です。」
「第三十二訓練小隊です。」
「入れ。」
彼らの眼は困惑に染まっている。事実、そうなるしかないだろう。司令官ですら事態を飲み込むので精一杯なのだ。
「諸君……。」
「司令官、どういうことですか。」
「ホルン……!」
グレンの止める手が若干弱かったのは、これが彼らの総意であることを示していた。
「諸君らに先ほど伝えた通りの事態だ。本星は何者かに宣戦布告され、我々は正体不明な敵と戦闘をする羽目になった。」
「なぜわざわざ戦闘をするような真似を……! 此処に留まるという選択はなかったのですか!」
「ない。第十二番惑星、第十一番惑星は現在のところ開発がされていない。このまま現宙域に留まったとしても、いつかここを発たねばならなくなるのだ。」
「ですが、戦闘が早期に終結する可能性も……」
「しない可能性もあるだろう。現在、当プラットフォームにはそれなりの備蓄と余裕がある。だが一週間、二週間後、余裕がなくなってから動いてみろ。最早何をしてでも生きていかなければならない事態になっている可能性の方が高い。それが略奪でも。」
「それは……。」
「諸君らの気持ちは痛いほどわかるつもりだ。だが、どうかついてきてはくれまいか。此のプラットフォームにいる百数十名の為にも。」
「了解しました。第六航宙遊撃隊はレギュータス大佐の決定を支持します。」
たった一瞬の目くばせとうなずきで、彼らは意思を固めた。
第三十二訓練小隊の彼らも、疑念と困惑に包まれた目からやがて覚悟を決めた目に変わる。
お互いに目を合わせ、しっかりとうなずく。
「俺たち三人も、ついていきます。」
「助かる。諸君たちが頼りなのだ。」
「また英雄になってしまいますね。」
モスカートの軽い声が彼らの緊張をほどいた。
「英雄が三人増えるかもしれませんよ?」
リベットも乗っかって、軽い笑いが部屋を包む。それだけで彼らはまとまれた。それほどに、先ほどの食事と、戦闘で信頼が芽生えていた。
「先程の君たちの働きと連携を見て、少し考えていたのだが、今ので確信した。軍令にある。非常事態の場合、司令官の任にあるものは所属部隊を自由に統率する権利を得る、と。故に、この権限を以って、第三十二訓練小隊を解体、第六航宙遊撃隊に統合することとしたいのだが、いいか?」
「俺たちは構いませんが……」
「教官……。それはつまり。」
「第三十二訓練小隊の諸君……。ここからは実戦部隊だ。死ぬなよ。」
「「「了解!!」」」
≪第一章 完≫
―了―
2026年7月24日 発行 初版
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